(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140227
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20230927BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20230927BHJP
G06Q 10/087 20230101ALI20230927BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
G06Q10/04
G06Q10/08 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046147
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515303481
【氏名又は名称】金子 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】美嶋 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 真弥
(72)【発明者】
【氏名】相良 俊介
(72)【発明者】
【氏名】池上 照子
(72)【発明者】
【氏名】安富祖 瞬
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049AA06
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】ユーザ所有製品毎の使用履歴を用いて、将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示することができるプログラム等を提供する。
【解決手段】ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する交換時期推定手段と、ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する在庫確保指示手段としてコンピュータを機能させる。また、在庫確保が指示された保守部品毎に、在庫数を増分する在庫数計数手段として更に機能させる。更に、ユーザ所有製品毎に、地域が対応付けられており、在庫数計数手段は、地域毎に、当該保守部品の在庫数を増分する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示するようにコンピュータを機能させる在庫管理用のプログラムであって、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する交換時期推定手段と、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する在庫確保指示手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
在庫確保が指示された保守部品毎に、在庫数を増分する在庫数計数手段と
してコンピュータを更に機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
ユーザ所有製品毎に、地域が対応付けられており、
在庫数計数手段は、地域毎に、当該保守部品の在庫数を増分する
ようにコンピュータを更に機能させることを特徴とする請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
保守部品毎に、発注先サーバが対応付けられており、
在庫確保が指示された保守部品に対応する発注先サーバへ、発注情報を送信する発注情報送信手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
交換時期推定手段は、
訓練段階として、既設部品毎に、複数のユーザ所有製品から収集された過去の使用履歴と、保守部品への交換時期とを対応付けた教師データを用いて、回帰分析に基づく相関係数を予め学習し、
推定段階として、対象となるユーザ所有製品の使用履歴から、当該相関係数を用いて、当該既設部品における交換時期を推定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
交換時期推定手段は、ハザードレートに基づく生存分析用の機械学習エンジンである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
ユーザ所有製品は、自動車であり、
使用履歴は、当該自動車から収集されたCAN(Controller Area Network)に基づく車両情報である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項8】
使用履歴には、少なくとも走行距離を含む
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示する在庫管理用の管理装置であって、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する交換時期推定手段と、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する在庫確保指示手段と
を有することを特徴とする管理装置。
【請求項10】
ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示する管理装置の在庫管理方法であって、
管理装置は、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する第1のステップと、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する第2のステップと
を実行することを特徴とする在庫管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業で保有すべき保守部品の在庫確保の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製品メーカのような企業は、販売済みのユーザ所有製品に対する保守部品について、過去の経験から最適な在庫量を確保している。例えば自動車のような製品の場合、多数の部品から構成され、部品毎に故障頻度や寿命が異なる。また、部品交換を促進することは、単純に製品の買い替えを促進して廃棄することなく、地球温暖化に配慮することにもつながる。そのために、製品メーカは、保守部品の在庫を確保し、即座に部品交換に応じる必要がある。一般に、保守部品の在庫数は、同じような状況が推移するであろうこととして、前年の在庫量を前提に決定されている。
【0003】
他の観点として、企業における財務的な経営指標として、「流動比率」や「当座比率」「総資産利益率」がある。
「流動比率」は、企業の短期的な(例えば1年)支払い能力を見る指標である。流動比率が100%を超えている状態は、1年以内に支払い期限が到来する負債額に対して十分な資産があり、短期的な支払い能力に問題がないことを表す。
流動比率=流動資産/流動負債
「当座比率」は、棚卸資産の換金性が低いことを前提に、保守的に見積もった短期的な支払い能力を表す。
当座比率=当座資産/流動資産
当座資産=流動資産-棚卸資産
【0004】
「総資産利益率」は、バランスシート(貸借対照表)上で、経営管理の効率性を表す。
総資産利益率=当期利益/総資産
即ち、部品の在庫量に基づく棚卸資産が多くなるほど、総資産を拡大させ、総資産利益率が悪化することにつながる。
【0005】
企業は、顧客からの保守部品の注文に即座に応えるためには、大量の在庫を抱えることが必要となる。一方で、在庫が多いということは、総資産利益率及び当座比率のような財務指標を悪化させる。そのために、企業の経営者は、適切な在庫量の保有に努める必要がある。
【0006】
近年、世界状況が急激に変化する局面(例えばCOVID19やガソリン高騰)が多くなってきている。例えば自動車の需要の観点からは、自宅に籠る人が急増し、自動車の利用が急減し、保守部品の交換も減少し、在庫数が高止まりすることが考えられる。逆に、自動車の利用が増えて、保守部品の交換も増加し、在庫が無くなることもあり得る。また、そのような世界状況から回復すれば、需要は旺盛となり、顧客の要求に応えられなくなってくる。即ち、自動車に限らず様々な製品についても、多様な外因によって、その保守部品の在庫が前年と同様であってもよいか否かは不明となる。
【0007】
他の観点から、企業は、他の取引企業とつながって、「サプライチェーン」を構築する。例えば他の企業から保守部品を購入している場合もある。そのような保守部品の供給元の企業の経営悪化は、仕入れ企業にも悪影響を及ぼす。企業は、単独で財務内容が良くても、取引先企業に何らかの悪いイベント(例えば倒産など)が発生すると、サプライチェーン間で伝播する。これを「連鎖倒産」と称し、企業としては、例えば棚卸資産が少ないような、良い経営状態の企業と取引をしたいと考える。即ち、価格のみを重視して財務内容の悪い企業と取引するよりも、経営状態を良好に維持したいと考える(例えば非特許文献1参照))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Masato HisakadoTakuya Kaneko、「A Response Function of Merton Model and Kinetic Ising Model」、[online]、[令和4年3月5日検索]、インターネット<URL:https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-981-15-4498-9_5>
【非特許文献2】「オッズ比とハザード比」、[online]、[令和4年3月5日検索]、インターネット<URL:https://translator-patner.com/2019/05/16/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%82%BA%E6%AF%94%E3%81%A8%E3%83%8F%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%89%E6%AF%94%EF%BC%9A%E4%BC%BC%E3%81%A6%E5%85%A8%E3%81%8F%E9%9D%9E%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%83%BC%E3%81%9D/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
製品に搭載された既設部品は、使用期間のみならず、使用煩雑度によっても、その寿命が異なる。例えば自動車部品の場合、走行距離のみならず、ドライバの運転操作や使用環境によってその部品の寿命は大きく異なる。また、自動車の点検時に、既設部品の交換時期を目視的に認識するしかなく、保守部品の在庫の参考情報として活用することもなかった。
【0010】
これに対し、本願の発明者らは、ユーザ所有製品毎の使用履歴から、その製品の既設部品の寿命を推定することができないか、と考えた。また、既設部品の寿命を推定できれば、保守部品を必要とする時期も推定でき、予め在庫を確保しておくことができるのではないか、と考えた。
【0011】
そこで、本発明は、ユーザ所有製品毎の使用履歴を用いて、将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示することができる管理装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示するようにコンピュータを機能させる在庫管理用のプログラムであって、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する交換時期推定手段と、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する在庫確保指示手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0013】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
在庫確保が指示された保守部品毎に、在庫数を増分する在庫数計数手段と
してコンピュータを更に機能させることも好ましい。
【0014】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ユーザ所有製品毎に、地域が対応付けられており、
在庫数計数手段は、地域毎に、当該保守部品の在庫数を増分する
ようにコンピュータを更に機能させることも好ましい。
【0015】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
保守部品毎に、発注先サーバが対応付けられており、
在庫確保が指示された保守部品に対応する発注先サーバへ、発注情報を送信する発注情報送信手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0016】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
交換時期推定手段は、
訓練段階として、既設部品毎に、複数のユーザ所有製品から収集された過去の使用履歴と、保守部品への交換時期とを対応付けた教師データを用いて、回帰分析に基づく相関係数を予め学習し、
推定段階として、対象となるユーザ所有製品の使用履歴から、当該相関係数を用いて、当該既設部品における交換時期を推定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0017】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
交換時期推定手段は、ハザードレートに基づく生存分析用の機械学習エンジンである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0018】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ユーザ所有製品は、自動車であり、
使用履歴は、当該自動車から収集されたCAN(Controller Area Network)に基づく車両情報である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0019】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
使用履歴には、少なくとも走行距離を含む
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0020】
本発明によれば、ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示する在庫管理用の管理装置であって、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する交換時期推定手段と、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する在庫確保指示手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示する管理装置の在庫管理方法であって、
管理装置は、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録した使用履歴データベースを用いて、
ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する第1のステップと、
ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の管理装置、プログラム及び方法によれば、ユーザ所有製品毎の使用履歴を用いて、将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明における管理装置の機能構成図である。
【
図4】本発明における交換時期推定部の説明図である。
【
図5】本発明の在庫確保指示部における在庫確保を指示する時期を表す説明図である。説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
【0026】
図1によれば、自動車には、車両情報を時系列に蓄積する車両情報データベースが搭載されている。車両情報データベースは、使用履歴としての車両情報を、通信装置によって広域無線通信網を介して、管理装置1へ送信する。一般に、インターネットに常時接続された自動車は、ICT(Information and Communication Technology)機能を有する「コネクテッドカー」と称される。
【0027】
車両情報としては、例えば以下のような情報が、自動車IDに紐付けて、管理装置1へ送信される。
・使用履歴(車両情報)
日時刻->速度、アクセル操作情報、ハンドル操作情報、ブレーキ操作情報
車両情報は、自動車というユーザ所有製品に対する使用履歴とみなす。
【0028】
図2は、本発明における管理装置の機能構成図である。
【0029】
管理装置1は、ユーザ所有製品に対する将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示するものである。
図2によれば、管理装置1は、使用履歴データベース10と、交換時期推定部11と、在庫確保指示部12と、在庫数計数部13と、発注情報送信部14とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、管理方法としても理解できる。
【0030】
[使用履歴データベース10]
使用履歴データベース10は、ユーザ所有製品毎に、使用履歴を記録したものである。
【0031】
【0032】
図3によれば、使用履歴データベース10は、自動車ID(IDentifier、識別子)毎に、例えば以下のような使用履歴(車両情報)が対応付けられている。
・日時刻
・走行距離
・アクセル操作情報
・ハンドル操作情報
・ブレーキ操作情報
・・・・・・・・・
使用履歴は、例えば自動車から収集されたCAN(Controller Area Network)に基づく車両情報である。自動車の場合、使用履歴としては、少なくとも走行距離を含む。
【0033】
自動車の既設部品を想定した場合、例えばブレーキパットやディスクは摩耗度合いに応じて交換しなければならない。このような部品の摩耗度合いは、走行距離のみならず、ドライバの運転操作にも依存する。同じ走行距離であっても、ドライバの運転操作が急停止や急発進を繰り返す場合、その摩耗度合いは大きくなる。勿論、ブレーキパッドに限らず、タイヤやライト、バッテリー等も同様である。
【0034】
コネクテッドカーの場合、自動車の使用履歴は、一般にその自動車のドライバに対する情報提供を目的としたものである。これに対し、本発明によれば、自動車の使用履歴を、その製品メーカの保守部品の在庫管理に役立てようとするものである。
【0035】
[交換時期推定部11]
交換時期推定部11は、ユーザ所有製品毎に、使用履歴から、既設部品の劣化に伴う保守部品の交換時期を推定する。
【0036】
図4は、本発明における交換時期推定部の説明図である。
【0037】
交換時期推定部11は、統計的な教師有りの機械学習エンジンであってもよい。
(訓練段階)機械学習エンジンは、既設部品毎に、複数のユーザ所有製品から収集された過去の使用履歴と、保守部品への交換時期とを対応付けた教師データを用いて、回帰分析に基づく相関係数を予め学習する。
説明変数:使用履歴
目的変数:交換時期
【0038】
交換時期推定部11の機械学習エンジンについて、内部パラメータとして学習する相関係数は、ハザードレートに基づく生存分析用のものであってもよい。その場合、現時刻からの経過時間に対する、使用履歴に対するハザードレート(0.0~1.0)を相関係数として学習する。ここで、ハザードレートが所定閾値以下となった際に、交換時期として判定する。ハザードレートの詳細については、後述する。
【0039】
(推定段階)対象となるユーザ所有製品の使用履歴から、当該相関係数を用いて、当該既設部品における交換時期を推定する。
これによって、ユーザ所有製品における既設部品に対して、その使用履歴から、交換時期を推定することができる。
【0040】
[在庫確保指示部12]
在庫確保指示部12は、ユーザ所有製品毎に、推定された交換時期よりも所定期間前を経過した既設部品について、当該既設部品に対応する保守部品の在庫確保を指示する。これによって、自動的に、在庫確保の必要性を知ることができる。
【0041】
図5は、本発明の在庫確保指示部における在庫確保を指示する時期を表す説明図である。
【0042】
図5によれば、前述した交換時期推定部11によって推定された交換時期から、所定期間前を算出する。この所定期間は、「在庫確保に要する時間」であって、例えば保守部品を製造したり、又は、外部企業へ発注して納品するまでの時間となる。即ち、交換時期から所定期間前に、在庫確保の指示がなされる。
【0043】
図5(a)によれば、交換時期推定部11のハザードレートの進行がなだらかであるので、交換時期まで比較的時間がある。交換時期から所定時間前となる時点で、在庫確保が指示される。
図5(b)によれば、交換時期推定部11のハザードレートの進行が急となっており、交換時期まで時間がない。交換時期から所定時間前となる時点も直ぐに達し、在庫確保が指示される。
【0044】
[在庫数計数部13]
在庫数計数部13は、在庫確保が指示された保守部品毎に、在庫数を増分する。これによって、在庫数をカウントする。
また、ユーザ所有製品毎に、地域が対応付けられていてもよい。例えば自動車であれば、登録地域であってもよい。そして、在庫数計数部13は、地域毎に、当該保守部品の在庫数を増分する。
これによって、地域毎の倉庫に、ユーザ所有製品毎の保守部品を在庫として確保しておくことができる。
【0045】
[発注情報送信部14]
保守部品毎に、発注先サーバが対応付けられているとする。発注先サーバは、例えばサプライチェーンの他社サーバであってもよい。
発注情報送信部14は、在庫確保が指示された保守部品に対応する発注先サーバへ、発注情報を送信する。
【0046】
本発明によれば、ユーザ所有製品における使用履歴から、その既設部品の交換時期を推定し、その交換時期に達する以前に、企業でその保守部品を在庫として確保しておくことができる。これによって、企業としては需要のある保守部品のみを棚卸資産として確保することができ、財務状況を良好に維持することができる。また、サプライチェーン間で、保守部品の在庫確保の情報を共有することができる。更に、地域毎に、最適な在庫量を計数することができ、保守部品を供給するまでのリードタイムを短縮化することができる。
【0047】
<ハザードレートに基づく既設部品の生存分析について>
ユーザ所有製品の使用履歴に応じて、部品交換が必要となる状況を示す数値として「λ(ラムダ、ハザードレート)」を推定する。
λが大きいほど、既設部品の寿命が短く、交換までの時間が短い
λが小さいほど、既設部品の寿命が長く、交換までの時間が長い
λとは、ある時間まで既設部品は故障していないが、ある瞬間に故障する可能性を示す数値である。その結果を、保守部品の在庫管理に適用する。
【0048】
既設部品の寿命は、以下の2つの要因によって特徴付けられる。
(要因1)使用時間
(要因2)使用煩雑度
要因1としては、製品の使用開始時期から計測した経過時間である。例えば自動車の場合、走行距離となる。一般に、走行距離が長い自動車ほど、その既設部品を交換する時期が近くなる。
要因2としては、同じ使用期間であっても、使用煩雑度が高いほど、その既設部品を交換する時期が近くなる。例えば自動車の場合、運転操作が丁寧であるほど、既設部品(例えばブレーキパッドやアクセル部品、ステアリング部品)の寿命は長くなる。
即ち、使用時間及び使用煩雑度はそれぞれ、以下のような関係となる。
既設部品の使用時間が長いほど、λも大きくなり、
使用時間が短いほど、λも小さくなる。
既設部品の使用煩雑度が丁寧であるほど、λも大きくなり、
使用煩雑度が煩雑であるほど、λも小さくなる。
【0049】
通常、製品の既設部品毎に、大凡の寿命が計算されている。本発明によれば、膨大なユーザ所有製品の使用履歴のビッグデータから、λを推定しておく。λに応じて、在庫確保しておくべき保守部品の数も算出することができる。
【0050】
N台の自動車における任意の既設部品におけるλは、多数のユーザ所有製品における過去の使用履歴から算出されたものである。λは、例えば1ヶ月以内に故障する可能性を示したものとする。この場合、以下のように算出される。
#Parts:今月必要な保守部品の在庫数
#Parts=Σλ(i) i:自動車番号
#Parts_next_month:来月必要な保守部品の在庫数
#Parts_next_month=Σ{1-λ(i)}×λ(i)
【0051】
例えば自動車における走行距離及び運転操作に対する、任意の既設部品のλに注目して考える。
ある既設部品の交換の必要性が、自動車の使用時間(走行距離)と使用煩雑度(運転操作)に比例して増加する。このとき、教師データとしては、自動車の使用時間(走行距離)が、同じ2つのグループを用意する。
(グループA)任意の既設部品を交換した
(グループB)任意の部品を交換していない
グループAに属する自動車の使用履歴は、Data(A)としてまとめる。
グループBに属する自動車の使用履歴は、Data(B)としてまとめる。
これによって、交換時期推定部11の機械学習エンジンは、これら2つの使用履歴の差を内部パラメータの相関係数としてλを学習する。
【0052】
内部パラメータとしては、例えば以下のようなロジスティック回帰に基づくものであってもよい。M個のデータとM+1個のパラメータβとの積で計算されるスコアが、以下のように算出される。
Score(i)=β(0)+β(1)Data(i,1)+β(2)Data(i,2)+β(3)Data(i,3)+
・・・・・+β(M)Data(i,M)
i:自動車番号
Data(i,-):自動車iの特徴量
特徴量は、簡単化のために例えば有力な順序に並んでおり、最適な特徴量の数はM個であるとったものと想定する。
【0053】
このとき、Score(i)を用いて、確率形式に整理する。
Prob(i)=1/{1+exp(-Score(i))}
Prob(i)は、同一の使用時間(走行距離)であっても既設部品の交換が必要となるような使用煩雑度(運転操作)を示す値である。
【0054】
確率Prob(i)が高いほど、既設部品の交換を必要とする、即ち、使用煩雑度が高い(運転操作が煩雑)と考える。一方で、確率Prob(i)が低いほど、既設部品の交換を不要とする、即ち、使用煩雑度が低い(運転操作が丁寧)であると考える。
尚、ここでは、自動車の使用煩雑度として、運転操作が煩雑/丁寧という表現をしたが、実際に既設部品の交換に与える影響があるか否かは、機械学習エンジンの訓練に基づく内部パラメータに基づくものである。
【0055】
前述したように、同一の走行時間(走行距離)であっても、グループAの自動車N台と、グループBの自動車M台とがあるとする。そして、それらのデータが番号順に並んでいるとき、最適な特徴量の組み合わせは、以下のように最尤法によって探索していく。
Π=Prob(1)×・・・×Prob(N)×(1-Prob(N+1))×(1-Prob(N+2))×
・・・×(1-Prob(N+M))
即ち、積であるΠを最大とするデータの組み合わせを探索する。
Best Data Set=Argmax Π
【0056】
このデータの組み合わせは、走行時間(走行距離)Kを設定して最適化したものであるが、走行時間Kの選択は重要である。
例えばK=3kmと極端に短い距離で最適化しようとすると、わずか3kmしか走行していなければ、全ての自動車で既設部品の交換はされていないはずである。そのために、最適な特徴量の抽出は不可能でとなる。
逆に、K=300,000kmと極端に長い距離で最適化しようとすると、全ての自動車で交換すべきであろうから、同様に特徴量を抽出することはできない。
勿論、走行時間Kを、既設部品毎に異なる設定としてもよい。Kを、50,000km、100,000kmと複数設定して、運転に関する特徴量の最適化を実施することも好ましい。
【0057】
また、任意の自動車について、既設部品を保守部品に交換した場合、その時点で一旦、使用時間(走行距離)リセット(ゼロ)して計測した距離を、係数Lとする。ある基準に対して、それよりも製品の使用時間(距離)が短い場合から長い場合へと、係数Lを3つに分割するものであってもよい。
使用時間が短い場合 :L=50%
使用時間が中程度の場合:L=100%
使用時間が長い場合 :L=150%
自動車(i)について係数L(i)とするとき、自動車(i)のハザードレートλ(i)は、次のように得られる。係数L(i)も、学習データから得られる最適な係数を用いる。
λ(i)=Prob(i)×L(i)
これによって、使用煩雑度と前回の部品交換から計測した走行時間とから、既設部品の交換の可能性を示すハザードレートを算出する。
【0058】
更に、自動車の位置情報も用いて、最適な部品の配置を考える。
エリアAで近々に必要となる部品の個数を計算する。自動車(i)の位置情報をp(i)とする。関数1(x)は、xがtrueの場合に1を出力し、falseの場合に0を出力する。このとき、エリアAで近々に必要となる部品の個数は、以下のように算出される。
エリアBで必要な部品の個数=Σλ(i)×1(p(i)∈A)
同様に、エリアBで必要な部品の個数は、以下のように算出する。
エリアBで必要な部品の個数=Σλ(i)×1(p(i)∈B)
また、エリアAで来月必要な部品の個数は、以下のように算出される。
エリアAで来月必要な部品の個数=Σ(1-λ(i))×λ(i)×1(p(i)∈A)
これによって、エリア毎に、保守部品を計画的に在庫管理しておくことができる。
【0059】
このように、保守部品を適量在庫することは棚卸資産を抑制すると共に、必要な時期や地域も得られることから、リードタイムが短縮化される。これは、サービス水準の向上と、ロジスティクス的な配送に無駄がなく、環境にも配慮できる。
【0060】
<使用履歴に基づく既設部品の劣化について>
自動車の部品として、ブレーキパッドを想定する。任意のリセット時点(新品のブレーキパッドが装着された時点)からの走行距離がXkmであるとする。また、ブレーキパッドの厚みはYmmであるとする。このとき、自動車の走行距離Xkmとブレーキパッドの厚みYmmとの間には相関性があり、Y=f(X)と推定できる。尚、自動車から走行距離Xkmは取得可能であるとする。
簡単に一次関数で推定する場合には、以下のようになる。勿論、非線形なものであってもよい。
Y=aX+b
パラメータa及びbは、XとYの間の相関係数ρと、Xの平均m(X)及びYの平均m(Y)と、Xの標準偏差σ(X)及びYの標準偏差σ(Y)とを用いて、以下のように表される。
a=ρ・σ(Y)/σ(X)
b=m(Y)-a・m(X)
【0061】
ブレーキパッドは、厚みがKmm(例えば3mm)より薄い場合に、交換時期と判定されるとする。Kは、交換が必要となる厚みよりも余裕をもって設定するこことが好ましい。
ここで、走行距離Xの自動車に対する保守部品の在庫数として、必要なブレーキパットの個数を、以下のように表現する。
Z=min{1, K/Y}
関数min{a,b}は、aとbを比較して小さい方の数値を出力する。
If a<b then min{a,b}=a
Otherwise min{a,b}=b
十分な厚みのブレーキパッドの場合は、Yが厚いため、Zは小さい値となる。YがKを下回るとZ=1となる。KとYの比率に係数を掛け合わせて調整してもよい。
【0062】
ここで、自動車(i)の走行距離をX(i)とするとき、そのブレーキパッドの厚みは、Y(i)=f(X(i))である。また、自動車(i)のために企業が在庫確保すべきブレーキの個数は、Z(i)とする。
【0063】
走行距離を取得した全ての自動車(N台)について、保守部品として在庫すべきブレーキパッドの個数は、以下のようになる。
Σi=1
N Z(i)=Σi=1
Nmin{1, K/Y(i)}
これによれば、走行履歴が急激に変化していても、必要な在庫量を推定することができる。
【0064】
次に、走行距離に時間を加える。時点tの走行距離をX(i,t)と表す。過去の時間と走行距離との関係から、将来時点の走行距離が推定できるとする。例えば、ブレーキパットの厚みと走行距離との関係性を、以下のように推定することができる。
X(i,T):将来時点Tにおける予想走行距離
また、在庫量を表す2つの関数を用意する。
f1(Y)=1, if Y<K otherwise 0
f2(Y)=K/Y,if Y>K otherwise 0
関数f1(Y)は、ブレーキパッドの厚みがある基準値(閾値)を下回っている状態で1を出力するので、企業はその総和の在庫量Z1を算出する。
Z1=Σi=1f1(Y(i))
関数f2(Y)についても、以下のように在庫量Z2を算出する。
Z2=Σi=1
Nf2(Y(i))
【0065】
前述のとおり、将来時点Tの走行距離X(i,T)として、例えば今月(TJ: January)にあって、翌月(TF: February) に必要な在庫量は、以下のように算出することができる。
Z1=Σi=1
Nf1(f(X(i,TF)))-Σi=1
Nf1(f(X(i,TJ)))
即ち、将来時点Tで必要な在庫量も推定することができる。これよって、走行距離の予測値と共に、年間の在庫計画も算出することが可能となる。また、ブレーキパッドの厚みと走行距離の関係性を示す式は、車検などで得られるデータとすり合わせて精緻化すればよい。
【0066】
前述した実施形態によれば、連結決算の対象企業内部で用意すべき在庫量としてもよい。連結対象企業内部であれば、リードタイムは極めて短い。次に、連結対象外の企業も優良な財務であることを求めたい。なぜなら、取引先の財務状態も自らの財務状態に連鎖倒産などを通じて影響を与え得るからである。
【0067】
連結対象外又は関連会社が保有すべき在庫量は、関数f2を用いて、以下のように算出することができる。
Σi=1
Nf2(f(X(i)))
また、前述と同様に将来の在庫量についても、以下のように算出することができる。
Z2=Σi=1
Nf2(f(X(i,TF)))-Σi=1
Nf2(f(X(i,TJ)))
TJ:今月1月(January)、TF:来月2月(February)
【0068】
更に、地域別の在庫の配置についても、任意のエリア(Area)におけるブレーキパッドの適切な在庫量は、自動車(i)の位置情報をp(i)ととすると、以下のように算出することができる。
Z1=Σi=1
Nf1(Y(i))×1{p(i)∈Area}
また、任意のエリア(Area)における将来の在庫量も、以下のように算出することができる。
Z1=Σi=1
Nf1(f(X(i,TF)))×1{p(i)∈Area}-Σi=1
Nf1(f(X(i,TJ)))
【0069】
以上、詳細に説明したように、本発明の管理装置、プログラム及び方法によれば、ユーザ所有製品毎の使用履歴を用いて、将来的な保守のために、企業で保有すべき保守部品の在庫確保を指示することができる。
【0070】
尚、これにより、例えば「企業で保有すべき保守部品の在庫量を抑制することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標12(SDGs)の「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することが可能となる。
【0071】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0072】
1 管理装置
10 使用履歴データベース
11 交換時期推定部
12 在庫確保指示部
13 在庫数計数部
14 発注情報送信部