(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140235
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ニンニク品種識別用プライマー対、ニンニク品種識別用プライマーセット、特定マーカー、ならびにそれにより識別されるDNA配列、たっこ1号識別方法、たっこ1号認定ニンニク、たっこ1号非認定ニンニク、ニンニク、ニンニク加工品、たっこ1号等識別方法、および、たっこ1号等認定ニンニク
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230927BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALI20230927BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230927BHJP
A01H 6/04 20180101ALI20230927BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230927BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6895 Z ZNA
C12Q1/686 Z
A01H6/04
A23L19/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046157
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】518093776
【氏名又は名称】田子町
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】石川 隆二
【テーマコード(参考)】
2B030
4B016
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB02
2B030AD20
4B016LG09
4B016LP13
4B063QA12
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4B063QA17
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4B063QQ09
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4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QR78
4B063QS25
(57)【要約】
【課題】 遺伝子工学的手法を用いて、たっこ1号やその選抜親である福地ホワイトをそれ以外の品種と識別する技術、さらには、たっこ1号とその選抜親である福地ホワイトを識別する技術を提供すること。
【解決手段】 本発明は次世代シークエンス情報の取得、単純塩基配列の想定、perlプログラムによる大量データの抽出、多型情報の周辺配列を利用するクローン間の比較、という研究過程を経て完成したものである。その基本は、ニンニクの品種識別用のプライマーであって、ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対からなることを特徴とするニンニク品種識別用プライマー対である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニクの品種識別用のプライマーであって、ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対からなることを特徴とする、ニンニク品種識別用プライマー対。
【請求項2】
配列表の配列番号1のF(Forward)プライマーおよび配列番号2のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、請求項1に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
【請求項3】
配列表の配列番号3のF(Forward)プライマーおよび配列番号4のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、請求項1に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
【請求項4】
配列表の配列番号5のF(Forward)プライマーおよび配列番号6のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、請求項1に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
【請求項5】
一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載のニンニク品種識別用プライマー対。
【請求項6】
請求項2、3、4に記載のプライマー対の一または二以上の組合せからなることを特徴とする、ニンニク品種識別用プライマーセット。
【請求項7】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載のプライマーを利用してニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域をPCR増幅させたことを特徴とする、特定マーカー。
【請求項8】
一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することを特徴とする、請求項7に記載の特定マーカー。
【請求項9】
配列表の配列番号7と8、9と10、10と11、11と12、もしくは13と14に係る各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとしてPCR増幅を行うことで同一のDNA配列を有することを特徴とする、請求項7、8のいずれかに記載の特定マーカーにより識別されるDNA配列。
【請求項10】
ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマーから増幅されるマーカーを使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認することでたっこ1号か否かの識別を行うことを特徴とする、ニンニク品種たっこ1号識別方法。
【請求項11】
請求項2、3、4のいずれかに記載のプライマーを用いることを特徴とする、請求項10に記載のニンニク品種たっこ1号識別方法。
【請求項12】
請求項10、11のいずれかに記載の識別方法により品種たっこ1号と認定された、たっこ1号認定ニンニク。
【請求項13】
「品種たっこ1号認定済み」の旨の表示がなされていることを特徴とする、請求項12に記載のたっこ1号認定ニンニク。
【請求項14】
請求項10、11のいずれかに記載の識別方法により品種たっこ1号ではないと認定された、たっこ1号非認定ニンニク。
【請求項15】
請求項12、13、14のいずれかに記載のニンニクであって、「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、ニンニク。
【請求項16】
請求項12、13、14のいずれかに記載のニンニクを原料とすることを特徴とする、ニンニク加工品。
【請求項17】
「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、請求項16に記載のニンニク加工品。
【請求項18】
配列表の配列番号15と16、17と18、19と20、21と22、もしくは23と24に係る各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとしてPCR増幅を行うことで同一のDNA配列を有し、
一般名称の福地ホワイト・その由来の保存系統である黒石A・その体細胞クローンである品種たっこ1号のいずれか(以下「たっこ1号等」という)と、それ以外のニンニクとを識別することを特徴とする、特定マーカー遺伝子により識別される遺伝子。
【請求項19】
請求項18に係る特定マーカー遺伝子を使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認することで前記識別を行うことを特徴とする、たっこ1号等識別方法。
【請求項20】
請求項19に記載の識別方法によりたっこ1号等と認定された、たっこ1号等認定ニンニク。
【請求項21】
「たっこ1号等認定済み」の旨の表示がなされていることを特徴とする、請求項20に記載のたっこ1号認定ニンニク。
【請求項22】
請求項19に記載の識別方法によりたっこ1号等ではないと認定された、たっこ1号非認定ニンニク。
【請求項23】
請求項20、21、22のいずれかに記載のニンニクであって、「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、ニンニク。
【請求項24】
請求項20、21、22のいずれかに記載のニンニクを原料とすることを特徴とする、ニンニク加工品。
【請求項25】
「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、請求項24に記載のニンニク加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニンニク品種識別用プライマー対、ニンニク品種識別用プライマー対のセット、特定マーカー、ならびにそれにより識別されるDNA配列、たっこ1号識別方法、たっこ1号認定ニンニク、たっこ1号非認定ニンニク、ニンニク、ニンニク加工品、たっこ1号等識別方法、および、たっこ1号等認定ニンニクに係り、特に、ニンニク品種たっこ1号を他の品種から識別したり、体細胞により選抜されたたっこ1号をもとの品種から識別したりすることのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農林水産物の産地偽装や、優良種苗の産地外流出・国外流出の問題が多数発生している状況下、特産品・名産品を保護するための遺伝子工学的手法を用いた産地・品種識別技術の確立は重要である。地域ブランドニンニク「たっこにんにく」(登録商標、地域団体商標)の産地でもある青森県三戸郡田子町の名は、ニンニク生産地として国内外での著名性を獲得しており、それだけに、産地偽装や優良種苗流出を防止する有効な対策として、商標制度のみならず技術的な側面からの保護をも図ることが大いに望まれている。
【0003】
出願人田子町は、平成22年からニンニク新品種育種の研究に取り組み、平成29年には、6片種ニンニク・福地ホワイト(一般名称)からの選抜による新品種「たっこ1号」の種苗登録(農林水産省)を得、また翌平成30年にはその愛称である「美六姫」(登録商標)の商標登録を得た。たっこ1号は、従来田子町内で生産されてきた6片種ニンニク・福地ホワイトと同等の白さを持つ6片種の系統であるが、一粒(1片)が大きくなりやすいという好ましい特性を備えたニンニクである。
【0004】
ニンニクの産地や品種の識別技術に関しては従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、ニンニク産地の簡便な識別方法として、感染しているリークイエローストライプウイルスの遺伝子の地理的変異に基づいて行う方法が記載されており、特に、地理的変異を調べる領域が5’非翻訳領域とこれに隣接するP1蛋白質コード領域を少なくとも含むことや、地理的変異が塩基配列の欠失の有無であること等といった特徴が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-43976号公報「ニンニク産地識別方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した新規育成品種たっこ1号について、他の産地との識別、あるいは他の品種との識別を行える技術が求められている。そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる状況を踏まえ、遺伝子工学的手法を用いて、たっこ1号やその選抜親である福地ホワイトをそれ以外の品種と識別する技術、さらには、たっこ1号とその選抜親である福地ホワイトを識別する技術を提供することである。
【0007】
なお、基本的にはクローンは同一DNAを持つとされるが、クローンであるところのたっこ1号を福地ホワイトから識別するということは、オリジナル細胞から得られた新しい品種たっこ1号が、DNAとして異なることを証明することになる。このことの証明も、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、次世代ゲノムシークエンスのDNA情報を利用して、たっこ1号や福地ホワイト由来の保存系統である黒石Aを、それ以外の品種と識別できること、さらにはたっこ1号と黒石Aを識別できることを見出した。次世代シークエンスのみでは多型が検出できないが、必要とする部分配列をもとに大量データから基本配列を抽出し、クローン同士で比較することによって効率的に多型情報を取得することができた。そして、かかる検討に基づき本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 ニンニクの品種識別用のプライマーであって、ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対からなることを特徴とする、ニンニク品種識別用プライマー対。
〔2〕 配列表の配列番号1のF(Forward)プライマーおよび配列番号2のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、〔1〕に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
〔3〕 配列表の配列番号3のF(Forward)プライマーおよび配列番号4のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、〔1〕に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
〔4〕 配列表の配列番号5のF(Forward)プライマーおよび配列番号6のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対であることを特徴とする、〔1〕に記載のニンニク品種識別用プライマー対。
〔5〕 一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のニンニク品種識別用プライマー対。
【0010】
〔6〕 〔2〕、〔3〕、〔4〕に記載のプライマー対の一または二以上の組合せからなることを特徴とする、ニンニク品種識別用プライマーセット。
〔7〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のプライマーを利用してニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域をPCR増幅させたことを特徴とする、特定マーカーDNA配列。
〔8〕 一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することを特徴とする、〔7〕に記載の特定マーカー。
〔9〕 配列表の配列番号7と8、9と10、10と11、11と12、もしくは13と14に係る各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとしてPCR増幅を行うことで同一のDNA配列を有することを特徴とする、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の特定マーカーにより識別されるDNA配列。
〔10〕 ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマーから増幅されるマーカーを使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認することでたっこ1号か否かの識別を行うことを特徴とする、ニンニク品種たっこ1号識別方法。
【0011】
〔11〕 〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のプライマーを用いることを特徴とする、〔10〕に記載のニンニク品種たっこ1号識別方法。
〔12〕 〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の識別方法により品種たっこ1号と認定された、たっこ1号認定ニンニク。
〔13〕 「品種たっこ1号認定済み」の旨の表示がなされていることを特徴とする、〔12〕に記載のたっこ1号認定ニンニク。
〔14〕 〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の識別方法により品種たっこ1号ではないと認定された、たっこ1号非認定ニンニク。
〔15〕 〔12〕、〔13〕、〔14〕のいずれかに記載のニンニクであって、「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、ニンニク。
〔16〕 〔12〕、〔13〕、〔14〕のいずれかに記載のニンニクを原料とすることを特徴とする、ニンニク加工品。
〔17〕 「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、〔16〕に記載のニンニク加工品。
【0012】
〔18〕 配列表の配列番号15と16、17と18、19と20、21と22、もしくは23と24に係る各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとしてPCR増幅を行うことで同一のDNA配列を有し、
一般名称の福地ホワイト・その由来の保存系統である黒石A・その体細胞クローンである品種たっこ1号のいずれか(以下「たっこ1号等」という)と、それ以外のニンニクとを識別することを特徴とする、特定マーカーにより識別されるDNA配列。
〔19〕 〔18〕に係る特定マーカー遺伝子を使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認することで前記識別を行うことを特徴とする、たっこ1号等識別方法。
【0013】
〔20〕 〔19〕に記載の識別方法によりたっこ1号等と認定された、たっこ1号等認定ニンニク。
〔21〕 「たっこ1号等認定済み」の旨の表示がなされていることを特徴とする、〔20〕に記載のたっこ1号認定ニンニク。
〔22〕 〔19〕に記載の識別方法によりたっこ1号等ではないと認定された、たっこ1号非認定ニンニク。
〔23〕 〔20〕、〔21〕、〔22〕のいずれかに記載のニンニクであって、「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、ニンニク。
〔24〕 〔20〕、〔21〕、〔22〕のいずれかに記載のニンニクを原料とすることを特徴とする、ニンニク加工品。
〔25〕 「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされていることを特徴とする、〔24〕に記載のニンニク加工品。
【発明の効果】
【0014】
本発明のニンニク品種識別用プライマー対、ニンニク品種識別用プライマーセット、特定マーカー、ならびにそれにより識別されるDNA配列、たっこ1号識別方法、および、たっこ1号等識別方法は上述のように構成されるため、これらによれば、たっこ1号やその選抜親である福地ホワイトをそれ以外の品種と識別する技術、さらには、たっこ1号とその選抜親である福地ホワイトを識別することができる。次世代シークエンスのみでは多型が検出できず、従来はたっこ1号と福地ホワイトの識別はできなかったのだが、本発明によってそれが可能となった。
【0015】
かかる本発明ニンニク品種識別用プライマー対、たっこ1号識別方法等により、たっこ1号認定ニンニク、たっこ1号等認定ニンニク、たっこ1号非認定ニンニク、およびこれらのニンニク加工品を特定することができ、産地の自治体・生産者・加工業者等のたっこニンニク提供者側は、自身の事業を安心して実施することができ、事業の安定性・信頼度を高め、保持することができる。一方、取引相手や最終消費者などのニンニク被提供者側も、安心してたっこ1号を選択し、購入、利用することができる。
【0016】
なお、クローンは基本的には同一であり、DNAの違いは生じ得ず、したがって、同一DNAを持つが故にクローン同士は識別されないというのが遺伝学の一般の概念である。しかし、本発明によってクローンであるたっこ1号を福地ホワイトから識別できること、つまりオリジナル細胞から得られた新しい品種たっこ1号が福地ホワイトとはDNAとして異なることが、成果として得られた。クローンは基本的には同一であり、DNAの違いは生じ得ないものというのが遺伝学の一般の概念である。しかし体細胞突然変異は、自然突然変異で生じることが希に起こる。本発明では、その変異を生じた箇所の一部を単離、特定できたわけであり、上記両ニンニクがDNAとしては異なることが証明された。本発明を敷衍すれば、体細胞クローン間で顕著に異なる変異を有する系統間においては、本発明と同等の手法によって、これまで識別され得ないとされてきたクローン同士を識別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例において、葉緑体マーカーによる他の在来種との識別が可能であることを示す図である。
【
図2】実施例において、フローサイトメーターによりニンニク各品種とイネのゲノムサイズの相違を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。実施例でも後述するが本発明は、次世代シークエンス情報の取得、単純塩基配列の想定、perlプログラムによる大量データの抽出、多型情報の周辺配列を利用するクローン間の比較、という研究過程を経て完成したものである。その基本は、ニンニクの品種識別用のプライマーであって、ニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対からなることを特徴とするニンニク品種識別用プライマー対である。
【0019】
具体的には、下記に示した3組のいずれかのプライマー対を本発明のニンニク品種識別用プライマー対として用いることができる。
配列表の配列番号1のFプライマーおよび配列番号2のRプライマー
(識別プライマー1f、識別プライマー1r)
これらにより、2bpの違いを両者に見いだすことが可能である。田子1号は黒石1号に比較して2bp短い産物をPCR反応により生み出す。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0020】
配列番号3のFプライマーおよび配列番号4のRプライマー
(識別プライマー2f、識別プライマー2r)
これらにより、19bpの違いを両者に見いだすことが可能である。田子1号は黒石1号に比較して19bp短い産物をPCR反応により生み出す。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0021】
配列番号5のFプライマーおよび配列番号6のRプライマー
(識別プライマー3f、識別プライマー3r)
これらにより、2bpの違いを両者に見いだすことが可能である。田子1号は黒石1号に比較して2bp短い産物をPCR反応により生み出す産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0022】
これらのプライマー対は、一般名称の福地ホワイトならびにその由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することができる。また、これらのプライマー対の一組、または二組以上の組合せからなるニンニク品種識別用プライマー対のセット、さらに、上記プライマーを利用してニンニク品種たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域をPCR増幅させてなる特定マーカーも、本発明の範囲内である。この特定マーカーは、福地ホワイトやその由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とを識別することができる。
【0023】
また、下記各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとしてPCR増幅を行うことで、同一のDNA配列を有することを特徴とする、上述の特定マーカーにより識別されるDNA配列もまた、本発明の範囲内である。
【0024】
配列番号7と8
(同定プライマー1f、同定プライマー1r)
これらにより、両品種は同じく101bpの産物をPCRにて増幅させることが可能である。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0025】
配列番号9と10
(同定プライマー2f、同定プライマー2r)
これらにより、両品種は同じく79bpの産物をPCRにて増幅させることが可能である。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
なお、配列番号10と11に示すプライマー対でも、配列番号9、10に示すプライマー対と同様の効果が得られる。
【0026】
配列番号11と12
(同定プライマー3f、同定プライマー3r)
これらにより、両品種は同じく127bpの産物をPCRにて増幅させることが可能である。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0027】
配列番号13と14
(同定プライマー4f、同定プライマー4)
これらにより、両品種は同じく101bpの産物をPCRにて増幅させることが可能である。産物はDNA電気泳動にて識別可能である。また、次世代シークエンサーによる全ゲノム解読により得られるリード検索でも識別可能である。
【0028】
本発明ニンニク品種たっこ1号識別方法は、たっこ1号のゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマーから増幅されるマーカーを使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認する、という各過程を経ることによって、たっこ1号か否かの識別を行うものである。具体的には、上述した配列表配列番号1、2に係るプライマー対、配列番号3、4に係るプライマー対、または配列番号5、6に係るプライマー対、のいずれかに記載のプライマーを用いて、かかるニンニク品種たっこ1号識別を行うことができる。
【0029】
なお、以上述べたニンニク品種たっこ1号識別方法により品種たっこ1号と認定されたたっこ1号認定ニンニク、それにさらに「品種たっこ1号認定済み」の旨の表示がなされているニンニクも、本発明の範囲内である。一方、以上述べた識別方法によって、品種たっこ1号ではないと認定されたニンニク、すなわち「たっこ1号非認定ニンニク」も本発明の範囲内である。これは、本発明ニンニク品種たっこ1号識別方法を使用する主対象が、たっこ1号であることに疑義の存在するニンニクであることに鑑みての認定である。
【0030】
すなわち、本識別方法によって「たっこ1号非認定ニンニク」とされたニンニクはたっこ1号を詐称している可能性が高く、かかるニンニクについて特許発明の範囲内、独占排他権の範囲内であることを示すことによって、権利侵害を追求する、あるいは予防する意図である。なおまた、同様の趣旨、あるいはこれを補強する意味合いで、これらのニンニクであってかつ「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされているニンニクも、本発明の範囲内とする。
【0031】
また、以上述べた「たっこ1号認定ニンニク」、「たっこ1号非認定ニンニク」、さらにそれらに上記いずれかの表示が付されたもの、そのいずれかを原料とするニンニク加工品や、それに「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)、またはこれらのいずれかに類似する表示がなされているニンニク加工品もまた、本発明の範囲内である。
【0032】
以下説明する発明は、一般名称の福地ホワイト・その由来の保存系統である黒石A・その体細胞クローンである品種たっこ1号のいずれか(たっこ1号等)と、それ以外のニンニクとを識別する技術に係る。下記に示す、配列表の配列番号15と16、17と18、19と20、21と22、もしくは23と24に係る各塩基配列の組合せのすべて、もしくはいずれかの塩基配列の組合せをプライマーとして、PCR増幅を行うことにより、同一のDNA配列を有し、福地ホワイト・その保存系統黒石A・その体細胞クローンたっこ1号のいずれか(たっこ1号等)と、それ以外のニンニクとを識別することを特徴とする、特定マーカーにより識別されるDNA配列である。
【0033】
配列番号15、16 cpINDEL2
これらは、一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とが同じであることを証明するためのプライマーである。
【0034】
配列番号17、18 cpINDEL5
これらは、一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とが同じであることを証明するためのプライマーである。
【0035】
配列番号19、20 cpINDEL16
これらは、一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とが同じであることを証明するためのプライマーである。
【0036】
配列番号21、22 cpINDEL17
これらは、一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とが同じであることを証明するためのプライマーである。
【0037】
配列番号23、24 cpINDEL18
これらは、一般名称の福地ホワイト、その由来の保存系統である黒石Aなどと、その体細胞クローンである品種たっこ1号とが同じであることを証明するためのプライマーである。
【0038】
すなわち、以上示したいずれかの特定マーカーを使用し、対象ニンニクDNAのPCRによる増幅を行い、その増幅産物の多型を確認することで前記識別を行うたっこ1号等識別方法である。本発明の最終目的は、福地ホワイトとたっこ1号を識別することであり、それは、配列番号1~14で示したプライマー等に係る本発明によって達することができる。一方、福地ホワイトとたっこ1号との識別がされない方法ではあるが、多品種ニンニクのゲノムと識別できることは有意義である。後述する実施例では、これを第一段階の発明とし、それを踏まえて最終目的へと進んだ経緯を説明する。
【0039】
なお、上記配列番号15~24に係るプライマーを用いた識別方法によりたっこ1号等と認定されたたっこ1号等認定ニンニク、それに「たっこ1号等認定済み」の旨の表示がなされているニンニク、さらには当該識別方法によりたっこ1号等ではないと認定された「たっこ1号非認定ニンニク」もまた、本発明の範囲内である。また、これらに「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)またはこれらのいずれかに類似する表示がなされているニンニク、それらを原料とするニンニク加工品、さらに「美六姫」(登録商標)表示、「たっこ1号」(品種登録)またはこれらのいずれかに類似する表示がなされているニンニク加工品も本発明の範囲内である。その趣旨は、上述の「たっこ1号認定ニンニク」等における趣旨と同様である。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。なお、本発明完成に至った研究経過の概説をもって実施例に替える。
+ + + + + + + + + + + +
〔1 テーマ〕
青森県産のニンニクには、約50年前に導入された在来種福地ホワイトがある。その・新たな純系選抜であって、葉幅が広く大粒である特性を有する新品種・たっこ1号が開発された。このたっこ1号と、その選抜親である福地ホワイトとを識別することは可能か。これが、本研究のテーマである。
【0041】
〔2 研究の方針〕
次世代ゲノムシークエンスのDNA情報の利用を基本とする。しかし、次世代シークエンスのみでは多型が検出できないため、たっこ1号と福地ホワイトの識別は、従来できていない。そこで、体細胞選抜から得られたクローンにおけるDNA識別技術確立のため、次のようなスキームを立てた。
次世代シークエンス情報の取得
単純塩基配列を想定してperlプログラムで大量データの抽出
多型情報の周辺配列を利用してクローン間で比較
【0042】
つまり、次世代シークエンスのみでは多型が検出できないが、必要とする部分配列をもとに大量データから基本配列を抽出し、クローン(たっこ1号と福地ホワイト)同士で比較することにより、効率的な多型情報取得を図る、という方針である。
【0043】
〔3 研究の方法〕
〔3-1 次世代シークエンス情報の取得〕
DNA抽出し、次世代シークエンスの情報を150bpペアエンドとして必要量取得する(実際には業者委託。委託先は(株)マクロジェン。)
詳細は次の通りである。
1)使用したシークエンサー
Illumina社製 Hi-seqX Ten
2)DNA抽出
QIAGEN社製 DNeasy Plant Mini KitにてDNA抽出
3)取得データ量
Illumina Hi-seqXtenにて150bp pair end配列をデータ量として270億塩基配列以上、リード数として1.8億以上取得。
4)比較
同配列からプライマー配列をもとにデータ検索して、両品種を比較する。
5)その他
その他の処理等については常法による。
【0044】
〔3-2 単純塩基配列の抽出〕
単純塩基配列を想定して、GAGAGAGAGAなど複数の配列をもとに検索して隣接配列をプログラムで抽出する。
【0045】
〔3-3 大量データの抽出〕
perlプログラムで大量データを抽出する。具体的には;
if (/$keyseq1/){
print $previous_line;
print "\t";
print $`;
print "\t5F";
print "\n";
print $';
print "\n";
のようにして隣接配列を取得する。
【0046】
〔3-4 大量データの抽出〕
多型情報の周辺配列を利用して、クローン(たっこ1号と福地ホワイト)間で比較する。Excelにて配列をソートし、基本配列(DNAマーカー、SSRマーカー)としての利用可否の観点から同一の配列を検出する。
【0047】
〔3-5 供試品種〕
本研究で供試したニンニク品種は次の通りである。
青森県外の系統(富良野在来、壱州早生、石川、喜界系、安代)
青森県内の系統(黒石A、木造、八戸、指久保、弘前)
いずれも、地方独立行政法人青森県産業技術センター野菜研究所保存の系統である。この他、スペイン産、中国産の各ニンニクも用いた。
なお以下の説明は、福地ホワイト由来の保存系統である黒石Aを主とする。
【0048】
〔4 葉緑体マーカーによるたっこ1号等と他の在来種との比較〕
葉緑体マーカーによるたっこ1号等と他の在来種の識別可能性について検討した。
図1に示す通り、葉緑体マーカーによる他の在来種との識別が可能であることが確認された。すなわち、たっこ1号および黒石Aは、スペイン在来種や中国在来種とはことなるパターンを示しており、たっこ1号等は他の在来種から識別可能である。なお、
図1に示した各マーカーは、上述の配列表配列番号15~24の通りである。
【0049】
〔5 核配列に基づくたっこ1号と黒石Aの識別可能性の検討〕
以上の通り、葉緑体マーカーにより、たっこ1号等と多品種の識別が可能であることは確認できた。これは一つの有意義な成果である。しかし、次世代シークエンサーでのゲノム取得によって、たっこ1号と黒石Aの各葉緑体ゲノムを解読したところ、両者は完全に一致したため、葉緑体マーカーによる両者の識別は不可能であることが判明した。そこで、両者識別の可能性を検討するため、核ゲノムに対象を変えた。
【0050】
すなわち、核ゲノムにおける反復配列(SSR)を特定し、これを基にしてDNAマーカー(SSRマーカー)を構築し、それによって核配列からの識別可能性有無を検討することとした。そのためには、まずゲノムサイズを確定する必要がある。そこで、フローサイトメーターを用い、ゲノムサイズが既知であるイネとの比較でニンニク核配列のゲノムサイズ規模を把握することとした。
【0051】
〔6 たっこ1号等のゲノムサイズの確定〕
図2は、フローサイトメーターによりニンニク各品種とイネのゲノムサイズの相違を示すグラフである。測定に供したイネおよびニンニクは次の通りである。
ニンニク:たっこ1号、黒石A、石川(在来種)
イネ:日本晴
測定の結果、それぞれのゲノムサイズは次の通りであった。
【0052】
たっこ1号 :12753Mb すなわち 12.7Gb
黒石A :12744Mb すなわち 12.7Gb
石川 :12396Mb すなわち 12.3Gb
イネ(日本晴): 373Mb
(引用:Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0)
つまりたっこ1号等は、イネと比較してその34.2倍程度の規模のゲノムサイズを有することが判明した。大規模なゲノムのため、DNA増幅用の条件設定にやや難しさがあるが、ここまで得た20Gbのデータを元に、多型マーカー開発を試みることとした。
【0053】
なお、ゲノムサイズがたっこ1号、黒石A両品種間で同一であったことから、たっこ1号が黒石Aなど従来の福地ホワイトと比較して大玉になるという特性は、ゲノムサイズの変化つまり倍数化によるものではないということが、本研究により立証された。
【0054】
〔7 多型マーカー開発〕
得られた20Gbのデータを元に、多型マーカー開発を試みた。標的反復配列を元にして、黒石Aとたっこ1号を比較検討した結果、配列表配列番号1~14で既に示した通り、多型マーカーを開発することができた。これらのマーカーを用いることにより、たっこ1号と黒石Aとを識別することが可能である。
【0055】
〔8 結果と考察〕
研究の結果、品種たっこ1号と品種黒石Aの間には識別可能なDNA領域があり、これらを識別可能であるという成果が得られた。大量の配列を得、その複数のDNAリードからの検索を行えたことによって困難は解決され、20Gbゲノムデータからの多型マーカー開発に至ることができた。
【0056】
なお、実際のDNA検査においては、DNA抽出に際しての不純物混入の可能性があること、およびゲノムサイズが大きいことにより増幅が必ずしも容易ではないことが留意点である。しかしながらこれらは、本研究成果(本発明)がもたらす効果や意義、実用性・有用性を減じるものではない。
【0057】
既に述べた通り、クローンは基本的には同一であり、DNAの違いは生じ得ないというのが遺伝学の一般の概念である。しかし、体細胞突然変異は自然突然変異で生じることが希に起こる。本研究では、たっこ1号と黒石Aにおいて、その変異を生じた箇所の一部を単離したことになる。つまり両者は、DNAとしては異なるということである。
本発明によれば、たっこ1号やその選抜親である福地ホワイトをそれ以外の品種と識別すること、さらにはたっこ1号とその選抜親である福地ホワイトを識別することができる。つまり、得られた多型から新品種たっこ1号の囲い込みを行うことができ、他者が出願人らの意思に反して本品種を栽培・販売等実施した場合には、その事実を確認することができる。したがって、ニンニク栽培・加工等の分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。