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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014024
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】歯車を潤滑するための機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20230119BHJP
【FI】
F16H57/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022111725
(22)【出願日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】21185795.8
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク・ハガーマン
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・ヘドマン
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ウィクストロム
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB12
3J063AC01
3J063BA01
3J063BA11
3J063BB48
3J063XD03
3J063XD43
3J063XD44
3J063XD72
3J063XF14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、歯車装置内の歯車を潤滑するための機構を提供する。
【解決手段】歯車(503)が配置されたシャフト(501)を備える、機構に関する。中心部分(512)を有する係合リング(502)がシャフト(501)の周りに配置される。係合リング(502)は、歯車(503)の端面(527)と距離を隔てて向き合って潤滑剤を歯車に案内するための間隙(533)を生成する表面(526)を備える。潤滑剤用の少なくとも1つの第1のダクト(531)が設けられ、このダクトは、間隙(533)への少なくとも1つの開口を有する。構成要素は、歯車の肩部(530)の外周面に取り付けられた内周面を有する環状部分(528)を備え、歯車(503)の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するために、軸方向不連続部(534)が肩部(530)と構成要素の環状部分との間に設けられる。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車装置内の歯車(503,603,703,803)を潤滑するための機構であって、
-前記歯車(503,603,703,803)が配置されたシャフト(501,601,701,801)と、
-前記シャフト(501,601,701,801)の周りに配置された構成要素(502,602,702,802)であって、前記歯車(503,603,703,803)の端面(527,627,727,827)と距離を隔てて向き合って前記歯車に潤滑剤を案内しかつ分配するための間隙(533,633,733,833)を生成する表面(526,626,726,826)を備える、構成要素(502,602,702,802)と、
-加圧された潤滑剤を供給するための少なくとも1つの第1のダクト(531,532,525,631,632,625,731,732,725,831,832,825)であって、潤滑されるべき前記歯車(503,603,703,803)に隣接する前記間隙(533,633,733,833)への少なくとも1つの開口を有する、少なくとも1つの第1のダクト(531,532,525,631,632,625,731,732,725,831,832,825)と、
を備え、
前記構成要素は、前記歯車の肩部(530,630,730,830)の外周面に取り付けられた内周面を有する環状部分(528,628,728,828)を備え、
前記環状部分は、前記歯車のピッチ円よりも小さい内径を有し、軸方向不連続部(534,634,734、834)が前記肩部(530,630,730,830)と前記構成要素の前記環状部分との間に設けられ、前記軸方向不連続部は、前記歯車(503,603,703,803)の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する、
機構。
【請求項2】
前記構成要素(502,602,702,802)は、遊星歯車装置内の係合リングである、請求項1に記載の機構。
【請求項3】
前記構成要素(502,602,702,802)の前記環状中心部分は、前記歯車(503,603,703,803)の前記肩部(530,630,730,830)に圧入される、請求項1又は2に記載の機構。
【請求項4】
前記歯車(503,603,703,803)は、遊星歯車装置内の太陽歯車である、請求項1-3のいずれか1つに記載の機構。
【請求項5】
前記肩部(530,630,730,830)は、前記歯車(503,603,703,803)の歯底円よりも大きい直径を有する、請求項1-4のいずれか1つに記載の機構。
【請求項6】
前記軸方向不連続部(534,634,734、834)は、前記歯車(503,603,703,803)の各歯車歯間の歯底の軸方向延長部である、請求項1-5のいずれか1つに記載の機構。
【請求項7】
前記肩部(530,730,830)は、その内周面(535,735,835)に沿って軸方向不連続部(534,734,834)を有し、前記軸方向不連続部は、前記歯車(503,703,803)の前記歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部(534,734,834)を形成する、請求項1-6のいずれか1つに記載の機構。
【請求項8】
前記構成要素の前記環状部分(628)は、前記歯車(603)の前記歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するためにその内周面に沿って軸方向不連続部(634)を備える、請求項1-7のいずれか1つに記載の機構。
【請求項9】
前記肩部(730,830)の前記外周面(735,835)は、前記潤滑される歯車(703,803)の前記歯(740,840)に隣接するアンダーカット(742,842)を備える、請求項1-8のいずれか1つに記載の機構。
【請求項10】
前記歯車(803)の前記歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する前記軸方向不連続部(834)の外側部分(850)の幅は、前記構成要素(802)の方向に増大している、請求項1-9のいずれか1つに記載の機構。
【請求項11】
前記歯車(803)の前記歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する前記軸方向不連続部(834)の外側部分(850)の深さは、前記構成要素(802)の方向に増大している、請求項1-10のいずれか1つに記載の機構。
【請求項12】
請求項1に記載の潤滑機構を有する変速装置を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速歯車装置内の歯車を潤滑するための機構であって、加圧された潤滑剤を送達することが意図された少なくとも1つのダクトであって、潤滑されるべき歯車に隣接して位置する出口孔を有する、少なくとも1つのダクトを備える、機構に関する。
【背景技術】
【0002】
変速装置の歯車の歯を当該歯車の比較的近くに配置されたノズルを通して油を噴射することによって潤滑することが知られている。これによって、歯車の歯は、ノズルを通過するたびに、順次潤滑される。重負荷を受ける変速装置、例えば、車両用歯車ボックス内の遊星歯車装置は、比較的多量の潤滑剤を必要とする。にもかかわらず、多くの場合、潤滑は、このようなノズルによって断続的に行われる。更に、潤滑剤の噴射の働きによって歯車歯を効果的に潤滑し、同時に該歯車歯を十分に冷却することは、困難である。これは、遊星変速装置内の太陽歯車にとって、特に大きな問題になる可能性がある。
【0003】
このような潤滑システムの代替案が、特許文献1に記載されている。この場合、遊星歯車装置は、太陽歯車の歯の輪郭と実質的に一致する内側スプラインを備えるリング歯車の形態にある構成要素を備える。スプラインの先端は、太陽歯車の互いに隣接する歯の間の歯底部分の手前で終端する。これによって、加圧された潤滑剤は、主シャフトの中心供給ダクトからリング歯車の内側スプラインに向かって半径方向外側に流れ、そこから遊星歯車装置の太陽歯車及び遊星歯車の噛合い歯に向かって流れることが可能になる。
【0004】
この機構の問題点は、このような構成要素の作製が比較的複雑であり、それ故、費用と時間が掛かることにある。また、この構成要素の取付け及び潤滑剤を供給するダクトの密封が比較的複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第1,633,990B1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、重負荷を受ける歯車の潤滑及び冷却に関する前述の課題を解消する歯車を潤滑するための改良された機構を提供すること、及び製造の費用効果がより高くかつ組立がより容易な機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、添付の請求項に記載される機構によって解消される。
【0008】
以下の記載において、「車両」という用語は、請求項に記載の潤滑機構が設けられた変速装置を備えることができる任意の形式の陸上車両、航空機、又は船舶を指すことが意図されている。
【0009】
請求項に記載の機構は、概して、歯車装置に適している。この請求項に記載の機構は、協働する歯車間の一組の噛合い歯を潤滑及び冷却するために潤滑剤を連続的に流すことを必要とする歯車装置を備える変速装置に関連して用いられることが意図されている。この種の潤滑機構は、重負荷を受ける変速装置に特に適している。このような変速装置の典型的な例は、国際特許出願公開第2011/069526A1号に記載される遊星歯車装置を備える歯車ボックスである。遊星歯車ボックスの作動は、この文献に詳細に記載されている。なお、この文献は、参照することによってここに含まれるものとする。以下、このような遊星歯車装置を参照して、この機構が適用され得るいくつかの例について説明する。しかしながら、この機構の用途は、遊星歯車装置に制限されるものではない。
【0010】
第1の態様によれば、本発明は、歯車装置内の歯車を潤滑するための機構に関する。この機構は、
-歯車が配置されたシャフトと、
-シャフトの周りに配された構成要素であって、歯車の端面と距離を隔てて向き合って潤滑剤を歯車に案内しかつ分配するための間隙を生成する表面を備える、構成要素と、
-加圧された潤滑剤を供給するための少なくとも1つの第1のダクトであって、潤滑されるべき歯車に隣接する間隙への少なくとも1つの開口を有する、少なくとも1つの第1のダクトと、
を備える。
【0011】
構成要素は、歯車の肩部の外周面に取り付けられた内周面を有する中心環状部分を備え、環状部分は、歯車のピッチ円よりも小さい内径を有する。更に、軸方向不連続部が肩部と構成要素の環状部分との間に設けられ、この軸方向不連続部は、歯車の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する。
【0012】
この機構が適用可能な歯車装置の非制限的な例として、車両用の変速装置、特に重負荷変速装置、及び船舶用の変速装置、特に変速装置を有する船内動力ユニットを備える船舶用の変速装置が挙げられる。
【0013】
歯車装置内の歯車を潤滑するための機構は、一般的に、加圧された潤滑剤の供給源に接続される。適切なポンプのような圧力源によって、潤滑剤を直接又は高圧タンクを介して機構に供給することができる。潤滑剤は、パイプの形態にある個別のダクトによって又は変速装置内の回転シャフト又はシャフト内のダクトを用いることによって、所望の位置に導かれる。加圧された潤滑剤を供給するためのこのような手段は、当業界において周知であり、更に詳細に説明しないこととする。
【0014】
一例によれば、歯車装置は、車両用変速装置内の遊星歯車装置であり、中心環状部分を備える構成要素は、遊星歯車装置の係合リングである。構成要素の環状部分は、好ましくは、必ずしも必要ではないが、歯車の肩部に圧入される。この例の歯車は、遊星歯車装置内の太陽歯車である。
【0015】
更なる例によれば、肩部は、歯車の歯底円よりも大きい直径を有する。これは、太陽歯車の端部分における歯を互いに隣接する歯間の歯底区域の一部が残るまで機械加工することによって達成することができる。これによって、軸方向不連続部又は凹部が、各歯車歯間の歯底の軸方向延長部によって形成される。軸方向不連続部又は凹部は、肩部の周面の長さに沿って軸方向に延びることとなる。この軸方向不連続部は、太陽歯車の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する凹部を形成する。
【0016】
更なる例によれば、肩部は、歯車の歯底円と等しいか又はそれよりも大きい直径を有する。この例では、太陽歯車の肩部の端部分における歯は、互いに隣接する歯間の歯底区域の一部が残るまで部分的に機械加工するか又は歯のどの部分も残らなくなるまで完全に機械加工されるとよい。肩部に嵌合される構成要素の環状部分は、その内周面に沿って軸方向不連続部を備える。太陽歯車の歯が完全に機械加工される場合、環状部分の軸方向不連続部が歯車の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する。太陽歯車の歯が互いに隣接する歯間の歯底区域の一部が残るように機械加工される場合、肩部及び環状部分の両方における軸方向不連続部が潤滑剤を案内しかつ分配するための組合せ凹部を形成する。
【0017】
更なる例によれば、肩部の外周面は、潤滑される歯車の歯に隣接するアンダーカットを備えてもよい。アンダーカットは、潤滑されるべき太陽歯車の歯に隣接する肩部に機械加工された周方向のアンダーカット又は溝である。アンダーカットは、応力緩和をもたらし、肩部と太陽歯車の歯との移行部に生じる亀裂のおそれをなくすことができる。また、アンダーカットは、リング歯車の環状部分を太陽歯車の歯の端によって形成された半径面にぴったりと重ねて取り付けることを容易にする。
【0018】
更なる例によれば、歯車の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配するための凹部を形成する軸方向不連続部の外側部分の深さは、構成要素の方向に増大している。深さの増大は、各軸方向不連続部の外端を機械加工し、該軸方向不連続部の外端に肩部の自由端に向かって半径方向内方に傾く傾斜面を設けることによって達成される。この構成によって、軸方向不連続部の外側部分の断面積が増大し、その結果、加圧された潤滑剤が供給される軸方向不連続部の開口の面積が増大する。開口の面積が増大すると、軸方向不連続部内への潤滑剤の流量が増大する。流量の増大は、潤滑剤が機械加工されていない軸方向不連続部の部分に達した時に潤滑剤の流速が増大するという効果をもたらす。
【0019】
更なる例によれば、歯車の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する凹部を形成する軸方向不連続部の外側部分の幅は、構成要素の方向に増大している。この幅の増大は、各軸方向不連続部の外端を機械加工し、該軸方向不連続部の外端に肩部の自由端に向かって外方に拡がる一対の互いに向き合う傾斜した側面を設けることによって達成される。前述の例において説明したように、この構成によって、軸方向不連続部の外側部分の外側部分の断面積が増大し、その結果、加圧された潤滑剤が供給される軸方向不連続部の開口の面積が増大する。開口の面積が増大すると、軸方向不連続部内への潤滑剤の流量が増大する。流量の増大は、潤滑剤が機械加工されていない軸方向不連続部の部分に達した時に潤滑剤の流速が増大するという効果をもたらす。
【0020】
更なる例によれば、軸方向不連続部の外側部分の幅及び深さの両方が、構成要素の方向に増大している。前述の例の組合せは、軸方向不連続部内への潤滑剤の流量の更なる増大及び歯車歯に到達する潤滑剤の流速の増大に貢献する。
【0021】
第2の態様によれば、本発明は、前述の潤滑機構を有する変速装置を備える車両に関する。
【0022】
前述の機構の1つの利点は、構成要素の部分の機械加工を著しく少なくし、その結果、リング構成要素及び太陽歯車の製造ステップの数を少なくし、かつ複雑な製造ステップを簡素化することにある。一例によれば、リング構成要素に対して太陽歯車の肩部に圧入可能な環状部分を簡単に設けることができる。スプライン加工することなくかつ潤滑ダクトに必要なシールの数を少なくして、リング歯車を作製することができる。太陽歯車に必要とされるのは、リング構成要素の環状部分に嵌合するための適切な寸法を有する肩部をもたらすために、その一端を機械加工することのみである。
【0023】
更なる利点は、軸方向不連続部の構成を歯車ボックスの種々の実施形態に対して修正することができることにある。ある形式の歯車ボックスが、例えば、遊星歯車装置に対して潤滑剤の量の増大を必要とする場合、太陽歯車の肩部における軸方向不連続部の入口部分を拡大した断面積をもたらすように修正することができる。
【0024】
以下、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。これらの概略図は、単なる例示のために用いられ、本発明の範囲をどのようにも制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】潤滑機構を備える変速装置を有する車両を概略的に示す図である。
図2】潤滑機構を備える歯車ボックスの概略図である。
図3A】遊星歯車装置の略断面図である。
図3B図3Aの遊星歯車装置の略断面図である。
図4A】低レンジモードにある遊星歯車装置の略断面図である。
図4B】高レンジモードにある遊星歯車装置の略断面図である。
図5A】歯車装置を潤滑するための第1の機構の略断面図である。
図5B図5Aに示される機構の部分断面図である。
図6A】歯車装置を潤滑するための第2の機構の略断面図である。
図6B図6Aに示される機構の部分断面図である。
図7A】歯車装置を潤滑するための第1の代替機構の断面図である。
図7B図7Aに示される機構の部分断面図である。
図8A】歯車装置を潤滑するための第2の代替機構の断面図である。
図8B図8Aに示される機構の部分断面図である。
図8C図8Bに示される機構の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明による潤滑機構を備える変速装置を有する車両101の概略図を示す。車両101は、車両の駆動シャフト(図示せず)にトルクを伝達するために、歯車ボックス103を有する変速装置、例えば、自動化マニュアル変速機(AMT)に接続された内燃エンジン(ICE)102を備える。潤滑機構は、歯車ボックス103内の歯車装置内の少なくとも1つの歯車を潤滑するように構成される。ICE102は、ICE102からのエンジン冷却液及びオイルを冷却するためにラジエーター装置104に接続されている。歯車ボックス103は、ドライバーによって又は電子制御ユニット(ECU)105を介して自動的に制御される。ECU105は、例えば、ドライバーによって要求されるエンジン始動中に変速装置を独立して制御するための制御アルゴリズムを備える。変速歯車ボックスは、エンジン102と一対の被駆動輪106との間の歯車比を選択するように制御される。
【0027】
図2は、本発明による潤滑機構を備える歯車ボックス200の概略図を示す。図2に示される歯車ボックスは、クラッチ201と、スプリッター区域202と、主区域203と、遊星歯車装置205を有するレンジ区域204と、を備える多段複合スプリッター/レンジ変速装置である。このような歯車ボックスの操作は、当業界において周知であり、ここでは更に詳細に説明しないこととする。後続のいくつかの例は、遊星歯車装置205内の少なくとも1つの歯車を潤滑するように構成された潤滑機構に関するものである。歯車ボックス200は、歯車ボックスの種々の区域の回転シャフトを支持する横断壁207,208を備える歯車ボックス外側ケーシング206によって密閉されている。
【0028】
図3Aは、図2に示される歯車ボックス200のレンジ区域204における遊星歯車装置300の略断面を示す。遊星歯車装置300は、図2に示される主区域203からの出力シャフトである入力シャフト又は主シャフト301を備える。係合リング302及び太陽歯車303は、軸方向スプライン又は同様の適切な固定手段によって主シャフ ト301の端部に共回転可能に固定される。係合リング302の中心部分312は、例えば、圧入によって太陽歯車303に直接接続される。太陽歯車303は、遊星キャリア306によって支持された個別の遊星歯車軸305を中心として回転可能な遊星歯車304に駆動可能に接続された中心歯車である。遊星キャリア306は、歯車ボックス出力シャフト307に固定されてもよいし、又は図3Aに示されるように歯車ボックス出力シャフト307の一部であってもよい。主シャフト301及び歯車ボックス出力シャフト307は、共通軸Xを中心として回転するように配置される。遊星歯車装置300は、遊星歯車304に駆動可能に接続された外側リング歯車308を更に備える。外側リング歯車308は、その内周の周りに歯を備え、低レンジ動作モード又は高レンジ動作モード(図4A,4B参照)をもたらすために、遊星歯車装置300の軸方向に変位可能である。遊星歯車装置300は、図2に示される歯車ボックスケーシング206の一端においてケーシング309によって密閉されている。歯車ボックス出力シャフト307は、遊星歯車装置300を取り囲むケーシング309に対して軸受310によって支持される。
【0029】
図3Bは、図3Aの主シャフト302の軸Xと直交する線に沿った断面A-Aを示す。図3Bは、それぞれの遊星歯車軸305を中心として回転可能な4つの遊星歯車304と駆動可能に接触する中心太陽歯車303を示す。この図は、4つの遊星歯車304の各々に駆動可能に接続された外側リング歯車308を更に示す。
【0030】
図4A,4Bは、図3Aに関して述べたのと同じ形式の遊星歯車装置400の略断面を示す。遊星歯車装置400は、図2に示される主区域203から延びる主シャフト401を備える。係合リング402及び太陽歯車403が、主シャフト140の端部に共回転可能に固定される。係合リング402の中心部分412は、例えば、圧入によって太陽歯車403に直接接続される。太陽歯車403は、歯車ボックス出力シャフト407の一部である遊星キャリア406によって支持された個別の遊星歯車軸405を中心として回転可能な遊星歯車404に駆動可能に接続される。主シャフト401及び歯車ボックス出力シャフト407は、共通軸Xを中心として回転するように配置される。遊星歯車装置404は、遊星歯車404に駆動可能に接続された外側リング歯車408を更に備える。外側リング歯車408は、その内周の周りに歯を備え、遊星歯車装置400の軸方向に変位可能である。遊星歯車装置400は、図2に示される歯車ボックスケーシング206の一端においてケーシング409によって密閉されている。歯車ボックス出力シャフト407は、遊星歯車装置400を取り囲むケーシング409に対して軸受410によって支持される。
【0031】
図4Aは、低レンジ動作モードにある遊星歯車装置400を示す。低レンジモードでは、リング歯車408は、矢印Aによって示されるように第1の位置に変位される。第1の位置では、リング歯車408は、ケーシング409に接続され、回転しないように固定される。歯車ボックスの主区域(図2参照)からの入力トルクによって、主シャフト401及びその太陽歯車403が回転し、これによって、遊星歯車404が回転しないリング歯車408に対して回転する。続いて、遊星歯車404を支持する遊星歯車軸405が太陽歯車403を中心として回転し、これによって、遊星キャリア406及び歯車ボックス出力シャフト407が回転する。この動作モードは、主シャフト401から歯車ボックス出力シャフト407への減速をもたらす。
【0032】
図4Bは、高レンジ動作モードにある遊星歯車装置400を示す。高レンジモードでは、リング歯車408は、矢印Bによって示される第2の位置に変位される。第2の位置では、リング歯車408の内歯は、係合リングの歯付き外周(図示せず)に接続され、主シャフト401と共に回転することが可能になる。歯車ボックスの主区域(図2参照)からの入力トルクによって、主シャフト401が回転し、これによって、係合リング402及び遊星歯車404が回転する。遊星歯車404が係合リング402及びリング歯車408によって遊星キャリア406に対して回転しないように阻止されるので、主シャフト401、遊星キャリア406、及び歯車ボックス出力シャフト407の間に直接駆動接続がもたらされる。この動作モードによって、主シャフト401及び歯車ボックス出力シャフト407は、同一速度で回転することとなる。
【0033】
図5Aは、前述した形式の遊星歯車装置内の歯車装置、例えば、太陽歯車503及び一組の協働する遊星歯車504を潤滑するのに適する機構の第1の例の略断面を示す。図5Aにおいて、遊星歯車504は、遊星キャリア(図示せず、図3Aの「306」参照)に支持されたシャフト505に取り付けられる。図5Aの機構は、主シャフト501を備える。太陽歯車503は、主シャフト501及び太陽歯車503のそれぞれの協働スプライン521によって、主シャフト510に共回転可能に固定される。太陽歯車503は、主シャフト501のねじ山付き端部分523に取り付けられた保持ナット522によって、主シャフト501の所定の軸方向位置に固定される。係合リング502が、太陽歯車503の反対側に配置される。係合リング502の中心部分512は、主シャフト501及び中心部分512のそれぞれの協働スプライン525によって、主シャフト501に共回転可能に固定される。係合リング502の位置及び機能は、前述の図4A,4Bに関連して述べた通りである。係合リング502の中心部分512は、主シャフト501に設けられた段付き部分(図示せず)によって主シャフト501の所定の軸方向位置に配置可能である。中心部分512は、主シャフト501の周りに配置され、太陽歯車503の端面527と距離を隔てて向き合う半径面526を備える。中心部分512は、内周面529を有する環状部分528を更に備える。環状部分528は、太陽歯車503の肩部530の外周面535に向かって延びている。中心部分512の環状部分528は、太陽歯車503のピッチ円よりも小さい内径を有する。中心部分512の環状部分528は、圧入によって太陽歯車503の肩部530の適所に固定される。
【0034】
主シャフト501は、加圧された潤滑剤を供給するための中心ダクト531を備え、中心ダクト531は、歯車装置用の潤滑剤の源に接続されている。主シャフト501は、いくつかの半径方向ダクト532を更に備える。半径方向ダクト532は、各々、太陽歯車503の近くに位置する領域において主シャフト501の外周に開口を有する。具体的には、半径方向ダクト532は、中心部分512及び太陽歯車503のそれぞれの互いに向き合う半径面526,527間の間隙533に開いている。間隙533は、潤滑剤を半径方向ダクト532から太陽歯車503及び遊星歯車504の噛合い歯540,541に向かって半径方向外方に案内しかつ分配するために配置される。対向面526,527は、明瞭にするために、図5Aでは半径面として示される。本発明の範囲内において、代替的な対向面、例えば、凹状、凸状、又は円錐状の対向面が用いられてもよい。同様に、主シャフト501を貫通する半径方向ダクト532は、本発明の範囲内において、どのような適切な角度を有するように構成されてもよい。
【0035】
代替的に、加圧された潤滑剤は、適切な源から供給され、主シャフト501及び中心部分512のそれぞれのスプラインを通して間隙533に供給されてもよい。潤滑剤の流れは、破線矢印B’によって示される。
【0036】
中心部分512及び太陽歯車503の対向する半径面526,527間の間隙533から潤滑剤を噛合い歯に向かって案内するために、軸方向不連続部534が、太陽歯車503の肩部530と中心部分512の環状部分528との間に設けられる。図5Aに示される例では、軸方向不連続部534は、肩部530の周面に沿って配置される。これらの軸方向不連続部534は、太陽歯車503の歯540の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する軸方向凹部を形成する。軸方向不連続部534は、肩部530を作製する時に太陽歯車503の一部を歯車歯540の外側部分の軸方向区域を除去するように機械加工することによって形成される。太陽歯車503は、所望の流量の潤滑剤を歯車歯に供給するのに十分な断面積を有する軸方向不連続部534をもたらすために、歯間の歯底の一部を残して所定の直径に機械加工されるとよい。図5Bは、図5Aに示される間隙533の部分断面B-Bを示す。なお、この図では、図5Aの参照番号が用いられている。図5Bは、軸方向不連続部534がいかに各対の歯車歯間の歯底の軸方向延長部の形態にある凹部を構成するかを示している。
【0037】
図6Aは、前述の形式の遊星歯車装置内の歯車装置、例えば、太陽歯車603及び一組の協働する遊星歯車604を潤滑するのに適する機構の第2の例の断面を示す。図6Aにおいて、遊星歯車604は、遊星キャリア(図示せず、図3Aの「306」参照)に支持されたシャフト605に取り付けられる。図6Aの機構は、主シャフト601を備える。太陽歯車603が、主シャフト601及び太陽歯車603のそれぞれの協働するスプライン621によって、共回転可能に主シャフト601に固定される。太陽歯車603は、主シャフト601のネジ山付き端部分623に取り付けられた保持ナット622によって、主シャフト601の所定の軸方向位置に固定される。係合リング602が、太陽歯車603の反対側に配置される。係合リング602の中心部分612は、主シャフト601及び中心部分612のそれぞれの協働スプライン625によって、主シャフト601に共回転可能に固定される。係合リング602の中心部分612は、主シャフト601に設けられた段付き部分(図示せず)によって主シャフト601の所定の軸方向位置に配置可能である。中心部分612は、主シャフト601の周りに配置され、太陽歯車603の端面627と距離を隔てて向き合う半径面626を備える。中心部分612は、内周面629を有する環状部分628を更に備える。環状部分628は、太陽歯車603の肩部630の外周面635に向かって延びている。中心部分612の環状部分628は、太陽歯車603のピッチ円よりも小さい内径を有する。中心部分612の環状部分628は、圧入によって太陽歯車603の肩部630の適所に固定される。
【0038】
主シャフト601は、加圧された潤滑剤を供給するための中心ダクト631を備え、中心ダクト631は、歯車装置用の潤滑剤の源に接続されている。主シャフト601は、いくつかの半径方向ダクト632を更に備える。半径方向ダクト632は、各々、太陽歯車603の近くに位置する領域において主シャフト601の外周に半径方向開口を有する。具体的には、半径方向ダクト632は、中心部分612及び太陽歯車603のそれぞれの互いに向き合う半径面626,627間の間隙633に開いている。間隙633は、潤滑剤を半径方向ダクト632から太陽歯車603及び遊星歯車604の噛合い歯640,641に向かって半径方向外方に案内しかつ分配するために配置される。対向面626,627は、明瞭にするために、図6Aでは半径面として示される。本発明の範囲内において、代替的な対向面、例えば、凹状、凸状、又は円錐状の対向面が用いられてもよい。同様に、主シャフト601を貫通する半径方向ダクト632は、本発明の範囲内において、どのような適切な角度を有するように構成されてもよい。
【0039】
代替的に、加圧された潤滑剤は、適切な源から供給され、主シャフト601及び中心部分612のそれぞれのスプラインを通って間隙633に供給されてもよい。潤滑剤の流れは、破線矢印B’によって示される。
【0040】
中心部分612及び太陽歯車603の対向する半径面626,627間の間隙633から潤滑剤を噛合い歯に向かって案内するために、軸方向不連続部634が、太陽歯車603の肩部630と中心部分612の環状部分628との間に設けられる。図6Aに示される例では、軸方向不連続部634は、環状部分628の内周面に沿って配置される。これらの軸方向不連続部634は、太陽歯車603の歯640の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する軸方向凹部を形成する。軸方向不連続部634は、環状部分628の内周面内に多数の軸方向長孔又は凹部を機械加工することによって形成することができる。全ての歯に潤滑剤を均等に分配するために、軸方向長孔の数は、好ましくは、太陽歯車の歯底の数と等しくされるとよい。環状部分628の半径方向厚み及び軸方向不連続部634の幅及び/又は深さに対して適切な寸法を選択することによって、軸方向不連続部634の断面積を潤滑の要求に応じて変更することができる。また、太陽歯車603の一部が、肩部630を作製する時に歯車歯640の外側部分の軸方向区域を除去するように機械加工される。具体的には、太陽歯車603は、その歯を完全に除去するか又は歯間に歯底の一部を残すように、所定の直径に機械加工されるとよい。歯車歯への潤滑剤が軸方向不連続部634から直接互いに隣接する歯間の歯底に流れるのを確実にするために、肩部の直径は、好ましくは、太陽歯車の歯底直径と等しくなるように選択されるとよい。図6Bは、図6Aに示される間隙633の部分断面C-Cを示す。なお、この図では、図6Aの参照番号が用いられている。図6Bは、軸方向不連続部634がいかに環状部分628の内周面629に軸方向凹部の形態にある凹部を構成するかを示している。軸方向凹部は、中心部分612及び太陽歯車603を組み立てる時に各対の歯車歯640間の歯底に対応しなければならない。
【0041】
図7Aは、前述の形式の遊星歯車装置内の歯車装置、例えば、太陽歯車703及び一組の協働する遊星歯車704を潤滑するのに適する潤滑機構の断面を示す。図7Aにおいて、遊星歯車704は、遊星キャリア(図示せず、図3Aの「306」参照)に支持されたシャフト705に取り付けられる。図7Aの機構は、主シャフト701を備える。太陽歯車703が、主シャフト701及び太陽歯車703のそれぞれの協働するスプライン721によって、主シャフト701に共回転可能に固定される。太陽歯車703は、主シャフト701のネジ山付き端部分723に取り付けられた保持ナット722によって、主シャフト701の所定の軸方向位置に固定される。係合リング702が、太陽歯車703の反対側に配置される。係合リング702の中心部分712は、主シャフト701及び中心部分712のそれぞれの協働するスプライン725によって、主シャフト701に共回転可能に固定される。係合リング702の位置及び機能は、前述の図4A,4Bに関して述べた通りである。係合リング702の中心部分712は、主シャフト701に設けられた段付き部分(図示せず)によって主シャフト701の所定の軸方向位置に配置される。中心部分712は、主シャフト701の周りに配置され、太陽歯車703の端面727と距離を隔てて向き合う半径面726を備える。中心部分712は、内周面729を有する環状部分728を更に備える。環状部分728は、太陽歯車703の肩部730の外周面735に向かって延びている。中心部分712の環状部分728は、太陽歯車703のピッチ円よりも小さい内径を有する。中心部分712の環状部分728は、圧入によって太陽歯車703の肩部730の適所に固定される。
【0042】
主シャフト701は、加圧された潤滑剤を供給するための中心ダクト731を備え、中心ダクト731は、歯車装置用の潤滑剤の源に接続されている。主シャフト701は、いくつかの半径方向ダクト732を更に備える。半径方向ダクト732は、各々、太陽歯車703の近くに位置する領域において主シャフト701の外周に半径方向開口を有する。具体的には、半径方向ダクト732は、中心部分712及び太陽歯車703のそれぞれの互いに向き合う半径面726,727間の間隙733に開いている。間隙733は、潤滑剤を半径方向ダクト732から太陽歯車703及び遊星歯車704の噛合い歯740,741に向かって半径方向外方に案内しかつ分配するために配置される。対向面726,727は、明瞭にするために、図7Aでは半径面として示される。本発明の範囲内において、代替的な対向面、例えば、凹状、凸状、又は円錐状の対向面が用いられてもよい。同様に、主シャフト701を貫通する半径方向ダクト732は、本発明の範囲内において、どのような適切な角度を有するように構成されてもよい。
【0043】
代替的に、加圧された潤滑剤は、適切な源から供給され、主シャフト701及び中心部分712のそれぞれのスプラインを通って間隙733に供給されてもよい。潤滑剤の流れは、破線矢印B’によって示される。
【0044】
中心部分712及び太陽歯車703の対向する半径面726,727間の間隙733から潤滑剤を噛合い歯に向かって案内するために、軸方向不連続部734が、太陽歯車の肩730と中心部分712の環状部分728とに間に設けられる。図7Aに示される例では、軸方向不連続部734は、肩部730の周面に沿って配置される。軸方向不連続部734は、太陽歯車703の歯740の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する軸方向凹部を形成する。軸方向不連続部734は、肩部730を作製する時に太陽歯車703の一部を歯車歯740の外側部分の軸方向区域を除去するように機械加工することによって形成される。太陽歯車703は、所望の流量の潤滑剤を歯車歯に供給するのに十分な断面積を有する軸方向不連続部734をもたらすために、歯間の歯底の一部を残すように所定の直径に機械加工されるとよい。
【0045】
図7Bは、図7Aに示される円領域Dの拡大図である。なお、この図では、図7Aの参照番号が用いられている。図7Bは、中心部分712から延びる環状部分728の内周面729と接触する太陽歯車703の肩部730の外周面735を示す。図7Bは、潤滑されるべき太陽歯車740の歯に隣接して肩部730に機械加工された周方向アンダーカット742を示す。アンダーカット742は、応力緩和をもたらし、肩部と太陽歯車の歯との間の移行部に形成される亀裂のおそれを排除する。また、アンダーカット742は、環状部分728を太陽歯車703の歯740の端によって形成された半径面にぴったりと重ねて取り付けることを容易にする。
【0046】
図7A,7Bは、図5A,5Bの例に関連して述べた形式の肩部における軸方向不連続部を示している。しかしながら、図7Bに示されるアンダーカットは、図6A,6Bに示される例に記載される肩部に用いられてもよい。
【0047】
図8Aは、前述した形式の遊星歯車装置内の歯車装置、例えば、太陽歯車803及び一組の協働する遊星歯車804を潤滑するのに適する潤滑機構の断面を示す。図8Aにおいて、遊星歯車804は、遊星キャリア(図示せず、図3Aの「306」参照)に支持されたシャフト805に取り付けられる。図8Aの機構は、主シャフト801を備える。太陽歯車803は、主シャフト801及び太陽歯車803のそれぞれの協働するスプライン821によって、主シャフト801に共回転可能に固定される。太陽歯車803は、主シャフト801のネジ山付き端部分823に取り付けられた保持ナット822によって、主シャフト801の所定の軸方向位置に固定される。係合リング802が、太陽歯車803の反対側に配置される。係合リング802の中心部分812は、主シャフト801及び中心部分812のそれぞれの協働スプライン825によって、主シャフト801に共回転可能に固定される。係合リング802の位置及び機能は、前述の図4A,4Bに関連して述べた通りである。係合リング802の中心部分812は、主シャフト801に設けられた段付き部分(図示せず)によって主シャフト801の所定の軸方向位置に配置可能である。中心部分812は、主シャフト801の周りに配置され、太陽歯車の端面827と距離を隔てて向き合う半径面826を備える。中心部分812は、内周面829を有する環状部分828を更に備える。環状部分828は、太陽歯車803の肩部830の外周面835に向かって延びている。中心部分812の環状部分828は、太陽歯車803のピッチ円よりも小さい内径を有する。中心部分812の環状部分828は、圧入によって太陽歯車803の肩部830の適所に固定される。
【0048】
主シャフト801は、加圧された潤滑剤を供給するための中心ダクト831を備え、中心ダクト831は、歯車装置用の潤滑剤の源に接続されている。主シャフト801は、いくつかの半径方向ダクト832を更に備える。半径方向ダクト832は、各々、太陽歯車803の近くに位置する領域において主シャフト801の外周に半径方向開口を有する。具体的には、半径方向ダクト832は、中心部分812及び太陽歯車803のそれぞれの互いに向き合う半径面826,827間の間隙833に開いている。間隙833は、潤滑剤を半径方向ダクト832から太陽歯車803及び遊星歯車804の噛合い歯840,841に半径方向外方に案内しかつ分配するために配置される。対向面826,827は、明瞭にするために、図8Aでは半径面として示される。本発明の範囲内において、代替的な対向面、例えば、凹状、凸状、又は円錐状の対向面が用いられてもよい。同様に、主シャフト801を貫通する半径方向ダクト832は、本発明の範囲内において、どのような適切な角度を有するように構成されてもよい。
【0049】
代替的に、加圧された潤滑剤は、適切な源から供給され、主シャフト801及び中心部分812のそれぞれのスプラインを通して間隙833に供給されてもよい。潤滑剤の流れは、破線矢印B’によって示される。
【0050】
中心部分812及び太陽歯車803の対向する半径面826,827間の間隙833から潤滑剤を噛合い歯に向かって案内するために、軸方向不連続部834が、太陽歯車803の肩部830と中心部分812の環状部分828との間に設けられる。図8Aに示される例では、軸方向不連続部834は、肩部830の周面に沿って配置される。これらの軸方向不連続部834は、太陽歯車803の歯840の歯底に潤滑剤を案内しかつ分配する軸方向凹部を形成する。軸方向不連続部5834は、肩部830を作製する時に太陽歯車803の一部を歯車歯840の外側部分の軸方向区域を除去するように機械加工することによって形成される。太陽歯車803は、所望の流量の潤滑剤を歯車歯に供給するのに十分な断面領域を有する軸方向不連続部834をもたらすために、歯間の歯底の一部を残して所定の直径に機械加工されるとよい。
【0051】
図8Bは、図8Aに示される円領域Eの拡大図である。なお、この図では、図8Aの参照番号が用いられている。図8Bは、中心部分812から延びる環状部分828の内周面829と接触する太陽歯車803の肩部830の外周面835を示す。図8Bは、潤滑剤を太陽歯車803の互いに隣接する2つの歯840間の歯底843の1つに案内しかつ分配するための凹部を形成する軸方向不連続部834の1つを示す。この例における軸方向不連続部834は、肩部830の外周面835内への互いに隣接する歯間の歯底843の延長部を形成している。
【0052】
図8Bは、肩部830の自由端に隣接する軸方向不連続部834の外側部分850の深さが、中心部分812の方向に増大することを示す。深さの増大は、各軸方向不連続部の外端を機械加工し、該軸方向不連続部の外端に傾斜面851を設けることによって達成される。傾斜面851は、中心部分812及び太陽歯車803の対向する半径面826,827間の間隙833の方向において半径方向内方に傾斜している。この構成によって、軸方向不連続部834の外側部分850の断面積が増大し、軸方向不連続部834の開口の面積が増大する。開口の面積の増大によって、軸方向不連続部834内への潤滑剤の流量が増大することとなる。
【0053】
図8Cは、図8Bの潤滑ダクトの拡大部分の部分断面F-Fを示す。図8Cは、肩部830の自由端に隣接する軸方向不連続部834の外側部分850の幅が中心部分812の方向に増大することを示す。この幅の増大は、各軸方向不連続部の外端を機械加工し、該軸方向不連続部の外端に1対の互いに向き合う傾斜面852を設けることによって達成される。1対の傾斜面852は、中心部分812及び太陽歯車803の対向する半径面826,827間の間隙833の方向において外方に拡がっている。この構成によって、軸方向不連続部834の外側部分850の断面積が更に増大し、軸方向不連続部834の開口の面積が更に増大する。開口の面積の増大によって、軸方向不連続部834内への潤滑剤の流量が増大することとなる。
【0054】
図8B,8Cに示される例は、深さ及び幅の両方が増大する外側部分850を有する軸方向不連続部834を示している。勿論、軸方向不連続部834内への潤滑剤の必要とされる流量に依存して、幅又は深さのいずれか1つを個別に増大させることによって、外側部分850の断面積を拡大させることも可能である。
【0055】
図8A-8Cは、図5A,5Bの例に関連して述べた形式の肩部における軸方向不連続部を示している。しかしながら、図8B,8Cに示される軸方向不連続部834の外側部分の拡大は、図6A,6Bに示される例に記載される肩に用いられてもよく、特に肩部がその外面に歯底の一部を残すように機械加工される例において用いられてもよい。
【0056】
本発明は、前述の実施形態に制限されると見なされるべきではなく、むしろ、多くの更なる変更及び修正が以下の特許請求項の範囲内において考えられる。例えば、前述の例は、太陽歯車及び一組の遊星歯車の噛合い歯の潤滑に向けられている。しかしながら、本発明は、概して、第1の歯車が潤滑のための中心ダクトを有するシャフトに取り付けられるような協働する歯車にも適用可能である。潤滑剤を第1の歯車の歯底に直接供給するために、環状突起を有する中心体を備える追加的な構成要素が、前述したのと同じように第1の歯車の肩部に取り付けられてもよい。従って、本発明は、遊星歯車装置に制限されるものではない。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
【外国語明細書】