(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014030
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】床版の切断方法、床版取替え工法及びせん断補強構造
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20230119BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230119BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D22/00 A
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112251
(22)【出願日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021117759
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丈達 康太
(72)【発明者】
【氏名】大場 誠道
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡一郎
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG39
2D059GG41
(57)【要約】
【課題】既設床版と主桁とを交通を開放しつつ分離し、床版更新工事時に伴う工事交通規制時間の更なる短縮化を図る。
【解決手段】橋梁のコンクリート床版と主桁とを接合部で切断分離する、床版の切断方法であって、前記接合部に設定した切断区間と橋軸方向に隣接してせん断補強構造を設ける補強工程と、前記切断区間に前記主桁と略平行な切断面を形成する切断面形成工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁のコンクリート床版と主桁とを接合部で切断分離する、床版の切断方法であって、
前記接合部に設定した切断区間と橋軸方向に隣接してせん断補強構造を設ける補強工程と、
前記切断区間に前記主桁と略平行な切断面を形成する切断面形成工程と、
を備えることを特徴とする床版の切断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の床版の切断方法において、
前記接合部に施工範囲を設定し、該施工範囲を区割りして前記切断区間を複数設定する工程と、
前記切断区間に対して実施予定の、前記切断面形成工程と切断分離された前記コンクリート床版を取替える取替え工程とを含む作業手順を、前記施工範囲内の取替え作業計画として策定する工程と、
前記取替え作業計画を反映した安全性解析を実施する工程と、
を有する計画工程を備えることを特徴とする床版の切断方法。
【請求項3】
橋梁の主桁に設置されたコンクリート床版を取替える床版取替え工法であって、
請求項1に記載の床版の切断方法により、前記コンクリート床版と前記主桁とを前記接合部で切断分離する切断工程と、
前記コンクリート床版を撤去し、新たな床版に取替える取替え工程と、
を備えることを特徴とする床版取替え工法。
【請求項4】
橋梁の主桁に設置されたコンクリート床版を取替える床版取替え工法であって、
請求項2に記載の床版の切断方法により、前記コンクリート床版と前記主桁とを前記接合部で切断分離する切断工程と、
前記コンクリート床版を撤去し、新たな床版に取替える取替え工程と、を備え、
前記切断工程と前記取替え工程とを、前記取替え作業計画に基づいて実施することを特徴とする床版取替え工法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の床版取替え工法において、
前記切断工程で切断分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを着脱自在な合成治具を用いて再合成する再合成工程を備え、
前記取替え工程で、前記コンクリート床版とともに前記合成治具を撤去することを特徴とする床版取替え工法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の床版の切断方法で用いるせん断補強構造であって、
前記切断区間と隣接する位置に、前記コンクリート床版と前記主桁とに跨って設置される補強部材を備えることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項7】
請求項6に記載のせん断補強構造において、
前記補強部材が、前記接合部の側面に固着されるシート材であることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項8】
請求項6に記載のせん断補強構造において、
前記補強部材が、前記接合部に内包されるボルト材を備えることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項9】
請求項6に記載のせん断補強構造において、
前記補強部材が、前記接合部の側面に設置され、切断分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを再合成することの可能な合成治具を備えることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項10】
請求項6に記載のせん断補強構造において、
前記補強部材が、前記主桁に設置される機械接合用鋼板と、
該機械接合用鋼板を貫通し前記接合部に内包されるボルト材と、
を備えることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項11】
請求項6に記載のせん断補強構造において、
前記補強部材が、前記接合部の側面に貼着される貼着用鋼板を備えることを特徴とするせん断補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版と主桁との接合部を切断分離する床版の切断方法、床版の切断方法を用いた床版取替え工法、及び床版の切断方法で用いる接合部のせん断補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の床版更新工事は、劣化した既設床版を耐久性の高い新たな床版へ取替える作業であり、この作業中には交通を遮断せざるを得ない。このため、一般車両の通行止めや種々の通行規制等の工事交通規制を伴うが、既存交通にできる限り影響を与えないよう、工事交通規制の時間を最小にする必要がある。
【0003】
ところが、新たな床版に取替える作業では、既設床版を既設桁から撤去しなければならず、撤去作業には多大な作業時間を要する。なかでも、床版と鋼げたとの挙動を一体化することで合理化を図った合成桁のずれ止め周りのコンクリートの撤去には、非合成構造に比べて時間がかかっていた。
【0004】
そこで発明者らは、工事交通規制時間を最小にするべく、工事交通規制の開始とともに撤去のための既設床版の切断を開始できるように、床版下に切断装置をすべて配置する工法(特許文献1)と、切断した床版をもとの鋼げたと再合成化して交通を開放できる工法(特許文献2)を提案し、特許出願した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-021227号公報
【特許文献2】特開2021-025288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2によれば、工事交通規制時間帯の短期化を図りつつ床版更新工事を実施できる。しかし、例えば都市部等の重交通路や長大トンネルに挟まれた山間部等で床版更新工事を実施する場合、周辺地域の交通環境に及ぼす影響は甚大である。このため、より一層工事交通規制時間帯に配慮した床版更新工事の実現が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、一般車両の交通を開放しつつコンクリート床版と主桁とを切断分離し、床版更新工事時に伴う工事交通規制時間の更なる短縮化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の床版の切断方法は、橋梁のコンクリート床版と主桁とを接合部で切断分離する床版の切断方法であって、前記接合部に設定した切断区間と橋軸方向に隣接してせん断補強構造を設ける補強工程と、前記切断区間に前記主桁と略平行な切断面を形成する切断面形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の床版の切断方法によれば、切断区間に隣接する接合部にせん断補強構造を設置することにより、切断区間で切断面形成工程を実施することにより不足する略水平方向のせん断力に見合った補強を行うことができる。これにより、走行荷重の制限や走行帯の規制を行わずに一般車両を通行させた状態で、切断面形成工程を実施でき、床版更新工事に伴う工事交通規制時間の短縮化を図り、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0010】
本発明の床版の切断方法は、前記接合部に施工範囲を設定し、該施工範囲を区割りして前記切断区間を複数設定する工程と、前記切断区間に対して実施予定の、前記切断面形成工程と切断分離された前記コンクリート床版を取替える取替え工程とを含む作業手順を、前記施工範囲の取替え作業計画として策定する工程と、前記取替え作業計画を反映した安全性解析を実施する工程と、を有する計画工程を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の床版の切断方法によれば、施工中の安全性解析を実施する。これにより、施工範囲内の複数の切断区間をいずれの順序で作業着手する場合であっても、取替え作業計画を反映した信頼性の高い解析結果に基づいて、施工中の安全対策の必要性を検証できる。したがって、安全対策が不要と判断した場合には補強工程を省略することができ、安全かつ効率よく切断面形成工程を実施することが可能となる。
【0012】
本発明の床版取替え工法は、橋梁の主桁に設置されたコンクリート床版を取替える床版取替え工法であって、本発明の床版の切断方法により、前記コンクリート床版と前記主桁とを前記接合部で切断分離する切断工程と、前記コンクリート床版を撤去し、新たな床版に取替える取替え工程と、を備えることを特徴とする。また、前記切断工程と前記取替え工程とを、前記取替え作業計画に基づいて実施することを特徴とする。
【0013】
本発明の床版取替え工法によれば、切断工程の期間中に一般車両の交通開放期間を確保できることから、床版取替え工法において工事交通規制が必要となる工程がコンクリート床版の取替え工程のみとなる。これにより、作業工程の自由度が高まり施工性を向上することが可能となる。
【0014】
本発明の床版取替え工法は、前記切断工程で切断分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを着脱自在な合成治具を用いて再合成する再合成工程を備え、前記取替え工程で、前記コンクリート床版とともに前記合成治具を撤去することを特徴とする。
【0015】
本発明の床版取替え工法によれば、切断分離された前記コンクリート床版と前記主桁を合成治具を用いて再合成するから、切断工程の終了後も引き続き、一般車両の通行を開放できる。これにより、工事交通規制を実施できる時間帯に制約がある場合にも、これに併せてコンクリート床版の取替え工程に着手する時期を調整することができ、床版更新工事全体の作業効率を向上させることが可能となる。
【0016】
本発明のせん断補強構造は、本発明の床版の切断方法で用いるせん断補強構造であって、前記切断区間と隣接する位置に、前記コンクリート床版と前記主桁とに跨って設置される補強部材を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明のせん断補強構造は、前記補強部材が、前記接合部の側面に固着されるシート材であることを特徴とする。
【0018】
本発明のせん断補強構造は、前記補強部材が、前記接合部に内包されるボルト材であることを特徴とする。
【0019】
本発明のせん断補強構造は、前記接合部の側面に設置され、切断分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを再合成することの可能な合成治具を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のせん断補強構造は、前記補強部材が、前記主桁に設置される機械接合用鋼板と、該機械接合用鋼板を貫通し前記接合部に内包されるボルト材と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明のせん断補強構造は、前記補強部材が、前記接合部の側面に貼着される貼着用鋼板を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明のせん断補強構造によれば、補強部材を切断区間と隣接する位置にコンクリート床版と主桁とに跨って設置する簡略な構成で、切断区間で切断面形成工程を実施することにより不足する略水平方向のせん断力に見合った補強が可能となる。また、補強部材に、シート材やボルト材などの市場に流通する一般的な材料を採用すれば、専用部材を別途製作する手間を省略することが可能となる。
【0023】
さらに、補強部材に合成治具を採用すれば、接続部の切断工程が終了したのち使用済みの合成治具を、切断分離されたコンクリート床版と主桁とを合成する再合成工程で再利用することができる。これにより、床版取替え工法に用いる部材点数を削減することができ、工費削減に寄与することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コンクリート床版と主桁との接合部にせん断補強構造を設けることにより、一般車両の交通を開放しつつコンクリート床版と主桁とを切断分離できるため、床版更新工事時に伴う工事交通規制時間の更なる短縮化を図り、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態における床版の切断方法を含む床版取替え工法の手順を示す図である(橋軸直交方向)。
【
図2】本発明の実施の形態における床版の切断方法を含む床版取替え工法の手順を示す図である(橋軸方向)。
【
図3】本発明の実施の形態における床版の切断方法を含む床版取替え工法のフローを示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるせん断補強構造を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるせん断補強構造の他の事例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における床版取替え工法で実施する施工ステップを示す図である(ケース1の事例)。
【
図7】本発明の実施の形態における床版取替え工法で実施する施工ステップを示す図である(ケース1の他の事例)。
【
図8】本発明の実施の形態における床版取替え工法で実施する施工ステップを示す図である(ケース2-1の事例)。
【
図9】本発明の実施の形態における床版取替え工法で実施する施工ステップを示す図である(ケース2-2の事例)。
【
図10】本発明の実施の形態における床版取替え工法で実施する施工ステップを示す図である(ケース3の事例)。
【
図11】本発明の実施の形態における取替え作業計画の概略示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態におけるせん断補強構造の他の事例(機械接合用鋼板を利用したあと施工アンカー)を示す図である。
【
図13】本発明の実施の形態におけるせん断補強構造の他の事例(貼着用鋼板)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、道路橋の床版更新工事において、作業工程の一つであるコンクリート床版と主桁とを切断分離する作業を、交通開放しながら実施することにより、床版更新工事の期間中に実施する工事交通規制時間の短縮化を図ろうとするものである。
【0027】
以下に、複数径間にそれぞれ独立して主桁が架けられた単純桁形式であって、3体のI型鋼よりなる主桁を有する合成I桁橋を事例に挙げ、本発明の床版の切断方法、床版取替え工法、及びせん断補強構造について、
図1~
図11を参照しつつその詳細を説明する。
【0028】
橋梁200は、
図1(a)で示すように、鋼製の主桁201と主桁201上に設置されたコンクリート床版202とを有し、コンクリート床版202の下面には主桁201との接合部となるハンチ部204が形成されている。また、橋軸直交方向に隣り合う主桁201間に複数の対傾構203と横げた205が、
図2(a)で示すように橋軸方向に間隔を有して設けられている。
【0029】
上記のコンクリート床版202と鋼製の主桁201が一体となった合成構造の橋梁200において、床版取替え工法による床版更新工事の大まかな手順は、次のとおりである。
【0030】
≪≪床版の切断方法を取り入れた床版取替え工法の大まかな流れ≫≫
床版取替え工法は
図3のフローで示すように、切断工程、再合成工程、及び取替え工程を備え、切断工程に床版の切断方法を採用している。
【0031】
≪≪切断工程≫≫
≪床版の切断方法:計画工程≫
まず、コンクリート床版202を取替える施工範囲Aを設定し、この施工範囲Aを区割りして切断区間Bを複数設定する。本実施の形態では、施工範囲Aとして
図1(a)及び
図2(a)で示すように、橋軸直交方向を3分割したうちの左端部分に設定し、橋軸方向を支点207間のうちの一部分に設定した。
【0032】
また、施工範囲Aを橋軸方向に対傾構203及び横げた205の位置で区割りし、4つの切断区間Bを設定した。こののち、後述する取替え作業計画を策定するとともに安全性解析を実施する。本実施の形態では、4つの切断区間Bを一つの取替えグループに設定し、このグループ内で一斉に取替え工程を実施する取替え作業計画を策定した場合を事例に挙げる。
【0033】
≪床版の切断方法:補強工程及び切断面形成工程≫
任意に選択した切断区間Bについて安全対策の必要性を検証し、必要と判断した場合には、
図4(a)で示すように切断区間Bに隣接したハンチ部204に、補強範囲Dを設定する。補強範囲Dにせん断補強構造300を設置する作業は、一般車両の通行を開放したままの状態で実施する。
【0034】
こののち、
図2(b)で示すように、選択した切断区間Bのハンチ部204に主桁201と平行な切断面204aを主桁201の上面に沿って形成し、コンクリート床版202と主桁201とを切断分離する。なお、安全対策を不要と判断した場合には、せん断補強構造300を設置する工程を省略し、ハンチ部204に切断面204aを形成する。
【0035】
≪≪再合成工程≫≫
続いて、交通開放を継続しながら
図1(c)及び
図2(c)で示すように、切断面形成工程を実施したのちの切断区間Bに合成化構造100を形成する。切断区間Bのハンチ部204に形成された合成化構造100により、コンクリート床版202と主桁201とが再合成されるため、一般車両の交通は開放したままの状態を継続することができる。
【0036】
こののち、交通開放したままの状態を維持しながら、
図2(a)で示す4つの切断区間B各々に対して順次、上記の手順で補強工程、切断面形成工程、及び再合成工程を実施する。これにより、4つの切断区間Bよりなる取替えグループは、取替え工程を実施可能な状態となる。
【0037】
≪≪取替え工程≫≫
そこで、工事交通規制を行って一般車両の通行を規制し、
図1(d)で示すように合成化構造100及び切断分離したコンクリート床版202を撤去する。撤去後の主桁201上に新たな床版を設置するが、
図2(d)で示すように、新設床版206を新たな床版として設置する場合には、コンクリート床版202を撤去した後の主桁201上面に必要な下地処理を施しておく。なお、新たな床版は、例えば仮設床版であってもよい。
【0038】
上記のとおり、床版取替え工法において再合成工程を実施すると、施工範囲Aで設定した4つの切断区間B各々に対して、先行してコンクリート床版202と主桁201とを切断分離する作業を連続して実施したのち、工事交通規制が必要となるコンクリート床版202の取替え工程を、4つの切断区間Bに対して一斉に実施することができ、床版更新工事全体の作業効率を向上させることが可能となる。
【0039】
また、工事交通規制を実施できる時間帯に制約がある場合には、
図2(c)で示すように、合成化構造100を設けた状態で一般車両の交通開放を継続し、コンクリート床版202の取替え工程に着手する時期を調整することも可能である。
【0040】
ところで、ハンチ部204に切断面204aを形成する切断面形成工程では、
図1(b)及び
図2(b)で示すように、頭部付きスタッド2011を、切断する作業が伴う。頭部付きスタッド2011は、主桁201の上部フランジに設けられてハンチ部204に埋設された状態にあり、コンクリート床版202の略水平方向(主に橋軸方向)のずれ止めとして機能する部材である。ずれ止めには他にも馬蹄形ジベル(図示せず)などがあり、これにも適用できる。
【0041】
このような頭部付きスタッド2011を切断するとせん断力が不足し、一般車両の走行時にコンクリート床版202と主桁201との間に略水平方向の位置ずれが生じて、安全性を損ねる可能性がある。このため、切断面形成工程に先立って、
図2(b)で示すような、せん断補強構造300を設置する補強工程を実施している。なお、コンクリート床版202から主桁201への圧縮力はコンクリート床版202の下面と主桁201の上面とが接しているため、その支圧により受け持たれる。
【0042】
≪≪せん断補強構造≫≫
せん断補強構造300は、
図4(a)で示すように、切断分離工程を実施する前の切断区間Bに隣接する位置に設けられた補強範囲Dに設置され、
図4(b)(c)で示すように、少なくとも補強部材301を備える。補強部材301は、ハンチ部204に対してコンクリート床版202と主桁201とに跨るようにして、配置されている。
【0043】
補強部材301として採用する材料は少なくとも、切断区間Bに位置する頭部付きスタッド2011が切断されることにより不足する略水平方向のせん断力に見合った補強を行うことができれば、いずれの構成を採用してもよい。一般に合成桁は、支点207に近いほどせん断力が大きくなり、ずれ止めも数多く配置されている。このため、端部に近い場所を切断すると、せん断補強量が増える。また、水平切断の距離が増えるほど、せん断補強量が増える。一般に、せん断補強量は、切断しようとする切断区間Bに隣接する箇所が大きくなる。
【0044】
上記の構成を有するせん断補強構造300により、一般車両を通行させた状態で切断区間Bにある既設の頭部付きスタッド2011を切断しても、コンクリート床版202と主桁201との間に、略水平方向の位置ずれが生じるといった不具合を解消できる。したがって、走行荷重の制限や走行帯の規制を行わずに一般車両を通行させた状態で切断面形成工程を実施でき、床版更新工事に伴う工事交通規制時間の短縮化を図り、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0045】
せん断補強構造300を構成する補強部材301として、例えば、
図4(b)(c)では炭素繊維シート302を採用し、主桁201のウェブを挟んでハンチ部204の両側面に固着している。その固着方法はいずれでもよく、補強範囲Dに対して一様に固着してもよいし、断続的に固着するなどしてもよい。炭素繊維シート302は、隣接する切断区間Bで切断面形成工程が終了したのち、撤去してもよいしそのまま放置してもよい。放置した場合には、
図2(b)で示すように、炭素繊維シート302が放置された切断区間Bに対して切断面形成工程が実施された際、ハンチ部204とともに切断すればよい。
【0046】
また、
図5(a)では、補強部材301としてあと施工アンカーを採用する場合を事例に挙げている。具体的には、ハンチ部204からコンクリート床版202に至る下穴204bと主桁201の上フランジに設けた通し孔(図示せず)とに、アンカーボルト303を挿通し、このアンカーボルト303を下穴204bに充填された接着剤304に埋込み固着させている。アンカーボルト303は、主桁201のウェブを挟んだ両側に対をなして設けるとともに、補強範囲Dに対して橋軸方向に離間間隔を設けて複数を設置している。
【0047】
このようなあと施工アンカーの種類は、市場で取引されている一般的ないずれのものも採用可能であるが、使用した後に抜き取り可能な機能を有するものが、好適である。抜き取り可能な機能は、例えば
図5(b)で示すように、アンカーボルト303における下穴204bへの埋込み部に特殊コーティング305を施すとともに、接着剤304にアクリル樹脂を採用することで実現される。
【0048】
こうすると、切断区間Bで切断面形成工程が終了したのちに、アンカーボルト303を迅速に撤去できる。また、撤去後の下穴204bを、再合成工程で合成化構造100を設けるために用いる合成治具306の設置時に利用することができ、作業の省力化を図ることができる。
【0049】
また、
図5(c)では、補強部材301として、合成治具306を採用する場合を事例に挙げている。合成治具306は、
図1(c)及び
図2(c)で示すような合成化構造100を形成する際に用いる部材である。詳細は、特開2021-25288に譲るが、主桁201のウェブを挟んだ両側のハンチ部204下面を整形した状態で設置されるもので、合成治具306は、この整形面と主桁201の上フランジの下面とに当接する平面を有する。
【0050】
このような構成の合成治具306は、ハンチ部204に設けた整形面と主桁201の上フランジの下面の両者に当接させたのち、ボルト等の締結具307で締結すればよい。合成治具306は、主桁201のウェブを挟んだ両側に対をなして設置され、これにより、せん断補強構造300が形成される。これら合成治具306は、補強範囲D内の1か所に設けてもよいし、橋軸方向に離間間隔を設けて複数配置してもよい。また、その構造は、合成化構造100に使用可能であれば、いずれの形状のものも採用することが可能である。
【0051】
こうすると、切断区間Bで切断面形成工程が終了したのちに、合成治具306を撤去し、再合成工程で再利用を図ることができるため、床版取替え工法で必要となる部材点数を大幅に削減することでき、工費削減に寄与することも可能となる。
【0052】
上記のせん断補強構造300は、橋梁200の安全性解析を実施することなく、切断面形成工程を実施する前のすべての切断区間B各々に隣接して設置してもよいが、主桁201における切断区間Bの位置など、施工時の諸条件によっては必ずしも設ける必要がない場合もある。このため、安全性解析の結果に基づいて、せん断補強構造300の必要性を切断区間Bごとに検証するとよい。
【0053】
≪≪安全性解析≫≫
安全性解析は、床版更新工事中の各施工段階における安全性を確認するべく実施する構造解析(例えば、3次元FEM解析等)である。したがって、橋梁200の構造や形式など様々な施工条件とともに、施工範囲Aにおいて床版取り替え工法を実施するにあたり策定する取替え作業計画を反映させる。
【0054】
≪≪取替え作業計画≫≫
取替え作業計画は、前述したように施工範囲A及び切断区間Bを設定したのち、施工範囲A内のすべての切断区間Bでコンクリート床版202の取替え工程を終了するまでに実施する作業を、ステップ化したものである。
【0055】
例えば、
図6ではstep1~16、
図7ではstep1~13、
図8ではstep1~19、
図9ではstep1~12、
図10ではstep1~26、の各施工ステップを経て、すべての切断区間Bでコンクリート床版202の床版取替え工程を終了させ、施工範囲A内を新設床版206に取替える計画を示している。これらをみるとわかるように、各ステップごとで、切断面形成工程を実施する位置やその距離、コンクリート床版202の残置状況や新設床版206の更新状況が異なる。
【0056】
したがって、施工範囲Aについて取替え作業計画を策定したのち、各施工ステップごとの安全性解析を実施する。これにより、いずれの取替え作業計画に基づいて床版更新工事を実施する場合であっても、この取替え作業計画を反映した精度の高い解析結果を、施工関係者に提供することが可能となる。したがって、解析結果に基づいて安全対策の必要性を検討し、安全対策が不要と判断した場合には補強工程を省略すればよい。
【0057】
上記の取替え作業計画は、工事交通規制が必要となるコンクリート床版202の取替え工程を、施工範囲A内に複数存在する切断区間Bに対してどのようなタイミングで実施するかにより、大きく3つのケースに分類できる。
図11で示すように、施工範囲Aを区割りし6つの切断区間Bと2つの端部区間BEとを設定した場合を事例に挙げて、3つのケースを説明する。
【0058】
なお、
図11では施工範囲Aに、主桁201の支点207近傍を含む場合を事例に挙げ、この支点207に隣接する所定範囲を、端部区間BEとして設定している。一般に、橋梁200の事例として挙げた合成桁橋では、支点207に近いほどせん断力が大きくなるため、主桁201の中間部と比較して頭部付きスタッド2011が増設されている場合が多い。このため、この頭部付きスタッド2011が増設され範囲を別途、端部区間BEとして設定している。
【0059】
ケース1は、施工範囲A内のすべての切断区間Bを1つの取替えグループCに設定し、コンクリート床版202の取替え工程をすべての切断区間Bで一斉に行う計画である。
図6及び
図7はともにケース1の一例である。
【0060】
ケース2は、施工範囲A内で連続する複数の切断区間Bを複数の取替えグループC1、C2、C3・・に設定し、この取替えグループC1、C2、C3・・ごとに取替え工程を実施する計画である。例えば、ケース2-1は、施工範囲A内の切断区間Bを2つにグループ分けし、取替え工程を取替えグループC1,C2ごとに1回づつ合計2回行う計画であり、
図8がこの計画の一例である。
【0061】
ケース2-2は、施工範囲A内の切断区間Bを3つにグループ分けし、取替え工程を取替えグループC1,C2,C3ごとに1回づつ合計3回行う計画であり、
図9がこの計画の一例である。そして、ケース3は、取替えグループを設定せず、施工範囲A内の切断区間Bごとに取替え工程を行う計画であり、
図10がこの計画の一例である。
【0062】
具体的には、ケース1の事例である
図6では、主桁201の最左端に位置する切断区間Bから順次、補強工程、切断面形成工程、再合成工程を実施したのち(step2~13)、両側の端部区間BEに対して切断面形成工程を実施する(step14)。こののち、一斉にコンクリート床版202の取替え工程を実施する(step15~16)。
【0063】
ケース1の他の事例である
図7では、先行して主桁201の中央に位置する切断区間Bに対して、切断面形成工程、再合成工程を実施する(step2~4)。次に、主桁201の左側及び右側に位置する切断区間Bに対して順次、補強工程、切断面形成工程、再合成工程を実施する(step4~10)。そして、両側の端部区間BEに対して切断面形成工程を実施したのち(step11)、一斉にコンクリート床版202の取替え工程を実施する(step12~13)。
【0064】
また、ケース2-1の事例である
図8では、先行して主桁201の左側に位置する取替えグループC1で、補強工程から取替え工程までを実施したのち(step2~11)、主桁201の右側に位置する取替えグループC2で、補強工程から取替え工程までを実施する(step11~19)。
【0065】
ケース2-2の事例である
図9では、先行して主桁201の中央に位置する取替えグループC1で、切断面形成工程から取替え工程までを実施したのち(step2~6)、主桁201の左側及び右側に位置する取替えグループC2、C3で並行して、補強工程から取替え工程までを実施する(step6~12)。
【0066】
そして、ケース3の事例である
図10では、主桁201の最左端に位置する切断区間Bで補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を実施したのち、端部区間と併せて取替え工程を実施する(step2~6)。こののち、残りの切断区間Bに対して順次、補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を繰り返す(step6~22)。そして、主桁201の最右端に位置する切断区間Bで、切断面形成工程及び再合成工程を実施したのち、端部区間BEと併せて取替え工程を実施する(step23~26)。
【0067】
なお、例えば、
図7のstep2~3や
図9のstep2~3のように、主桁201中央の切断区間Bで切断面形成工程を先行して実施する場合、せん断補強構造を設けていない。これは、合成桁は一般に支点207に近いほどせん断力が大きい。つまり、支点207間の中間部ではせん断力が小さいことから、施工ステップに補強工程を含んでいない。また、
図6のstep12や
図7のstep8のように、主桁201の端部区間BEに隣接する切断区間Bで切断面形成工程を実施する場合も、せん断補強構造を設けていない。これは、前述したように端部区間BEは、切断区間Bと比較して頭部付きスタッド2011が増設されていることによる。しかし、安全性解析を実施したのちに安全対策が必要であると判断した場合には、補強工程を追加すればよい。
【0068】
≪≪床版の切断方法を取り入れた床版取替え工法の詳細な流れ≫≫
上述した安全性解析を実施して各施工ステップの安全対策(せん断補強構造300の設置)について必要性を検討したうえで、床版取替え工法を実施する場合の手順を、取替え作業計画のケース2-1に相当する
図8を事例に挙げ、
図3のフローに沿って説明する。
【0069】
≪≪切断工程≫≫
≪床版の切断方法:計画工程≫
図8のstep1で示すように、施工範囲Aを支点207間全体に設定するとともに、施工範囲Aを対傾構203及び横げた205の位置で区割りし、合計6つの切断区間B1~B6を設ける。また、施工範囲Aの両端は支点207に隣接するため、この範囲を端部区間BE1、BE2として設定する。そのうえで、取替え施工計画を策定する。
【0070】
取替え施工計画の詳細は、次のとおりである。切断区間B1~B6及び端部区間BE1、BE2を横げた205を挟んで2つの取替えグループC1、C2にグループ分けする。先行して取替えグループC1で作業着手し取替え工程を終了したのち、後行して取替えグループC2で作業着手する。つまり、施工範囲A内で工事交通規制を伴う取替え工程を2回実施する。
【0071】
取替えグループC1内は、step2~11で示すように、主桁201の最左端に位置する切断区間B1から順次、補強工程、切断面形成工程及び再合成工程までを終了させたのち、端部区間BE1の切断面形成工程を実施する。こののち、端部区間BE1から切断区間B3まで一斉に取替え工程を実施する。
【0072】
取替えグループC2内は、step11~19で示すように、主桁201の中央に位置する切断区間B4から順次、補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を終了させたのち、端部区間BE2の切断面形成工程を実施する。こののち、切断区間B4から端部区間BE2まで一斉に取替え工程を実施する。
【0073】
上記の取替え施工計画を反映した安全性解析を各施工ステップごとに実施し、解析結果に基づいて安全対策の必要性を検証する。本実施の形態では、切断区間B6で切断面形成工程を実施するStep15において、安全対策は不要と判断した。
【0074】
≪≪取替えグループC1≫≫
≪切断工程:補強工程及び切断面形成工程≫
まず、一般車両の交通を開放した状態で、取替えグループC1内の切断区間B1に隣接して、せん断補強構造300を設置する(step2)。せん断補強構造300は、
図4及び
図5で例示したいずれの補強部材301を採用してもよい。
【0075】
次に、一般車両の通行を開放したまま、切断区間B1に対して切断面形成工程を実施する(step3)。なお、作業中は
図2(b)で示すように、コンクリート床版202からの圧縮力を主桁201に伝えるための詰め物401(例えば、キャンバー等)を、必要に応じて設置してもよい。
【0076】
≪≪再合成工程≫≫
こののち、一般車両の交通を開放したまま切断区間B1において、再合成化工程を実施する(step4)。合成化構造100には、例えば、
図5(c)で示したせん断補強構造300を構成する補強部材301として利用することの可能な合成治具306を採用すると良い。これら合成治具306を含む合成化構造100の詳細及びその手順は、特開2021-25288に譲る。
【0077】
一般車両の交通開放を継続しつつ、上記の補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を順次、取替えグループC1に含まれる切断区間B2及びB3各々で繰り返し実施する(step5~8)。これにより、切断区間B1、B2及びB3は取替え工程を併せて実施可能な状態となる。
【0078】
≪≪取替え工程≫≫
取替えグループC1は端部区間BE1を含むから、一般車両の交通規制を行って、端部区間BE1に対して切断面形成工程を実施する(step9)。こののち、取替えグループC1内で一斉に取替え工程を実施する(step10~11)。このとき、
図2(d)で示したように、新設床版206と残置されているコンクリート床版202との間には、荷重伝達用治具402を設置するとよい。
【0079】
荷重伝達用治具402は、残置されているコンクリート床版202と新設床版206との間で圧縮力(せん断力は伝達してもしなくともよい)を伝達可能な治具であれば、いずれを採用してもよい。なお、せん断力や軸力を伝達する機構が必要な場合には、別途これらを設けると良い。
【0080】
上記の手順で取替えグループC1内の取替え工程が終了したのち、一般車両の通行を開放する。なお、step9で示すように端部区間BE1は、一般車両の通行を規制して実施する取替え工程と併せて行うことにより、取替えグループC1内で実施する工事交通規制を1回に留めている。
【0081】
≪≪取替えグループC2≫≫
≪≪切断工程:補強工程及び切断面形成工程≫≫
取替えグループC1内の施工が終了したのち、一般車両の通行を開放したままの状態で、切断区間B4、B5に対して上記と同様の手順で順次、補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を繰り返し実施する(step11~15)。次に、安全対策が不要と判断した切断区間B6に対して補強工程を省略し、切断面形成工程及び再合成工程を実施する(step15~16)。これにより、切断区間B4、B5及びB6は取替え工程を併せて実施可能な状態となる。
【0082】
≪≪取替え工程≫≫
取替えグループC2は端部区間BE2を含むから、一般車両の交通規制を行って、端部区間BE2に対して切断面形成工程を実施する(step17)。こののち、取替えグループC2内で一斉に取替え工程を実施する(step18~19)。
【0083】
上記の手順により、施工範囲A内の床版更新工事が終了するため、一般車両の通行を開放する。なお、step17で示すように端部区間BE2は、一般車両の通行を規制して実施する取替え工程と併せて行うことにより、取替えグループC2内で実施する工事交通規制を1回に留めている。
【0084】
上述する床版取替え工法によれば、切断工程で床版の切断方法を採用することにより、切断工程の期間中に一般車両の交通開放期間を確保できる。したがって、床版取替え工法において工事交通規制が必要となる工程が、コンクリート床版202の取替え工程のみとなる。これにより、作業工程の自由度が高まり施工性を向上することが可能となる。
【0085】
本発明の床版の切断方法、床版取替え工法及びせん断補強構造は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、本実施の形態では
図1(a)及び
図2(a)で示すような合成I桁橋を、橋梁200の事例に挙げた。しかし、これに限定されるものではなく、コンクリート床版202と鋼製の主桁201とが接合部を介して接合されている橋梁200であれば、例えば箱桁や非合成形式の橋梁、連続桁橋等、いずれの構造及び形式であっても採用可能である。
【0087】
また、
図1(a)で示すように施工範囲Aとして、橋軸直交方向に主桁201を1体のみ含む範囲を設定したが、これに限定するものではなく、主桁201を複数含んでもよい。この場合には、補強工程、切断面形成工程及び再合成工程を、1体の主桁201ごとに順次実施してもよいし複数の主桁201で並行して実施してもよい。
【0088】
さらに、床版の切断方法で実施する安全性解析は、上述したように施工途中の安全性を確認するために実施する解析である。したがって、床版更新工事の終了後の安全性解析は別途実施する。解析の結果、安全対策が必要との判断に至った場合は、床版の切断方法を実施する前に、前処理工程として主桁201の必要箇所に補強構造を設ける。
【0089】
なお、主桁201に対して設ける補強構造は、従来より床版更新工事等で実施されている補強構造の中から適宜好適なものを選定し、採用すればよい。また、施工終了後の安全性解析に用いる手法も、一般に実施されている構造解析(例えば、3次元FEM解析等)を適宜採用すればよい。
【0090】
また、本実施の形態では、切断区間Bに対して再合成化工程を実施する場合を事例に挙げた。しかし、例えば
図10で示すような、施工範囲A内の切断区間B各々で個別にコンクリート床版202の取替え工程を実施する場合、再合成化工程を省略してもよい。
【0091】
加えて、本実施の形態では安全対策が必要な場合、切断区間Bで切断面形成工程を実施する直前に補強工程を実施し、せん断補強構造300を設置した。しかし、せん断補強構造300を設置することによる効果を得られれば、補強工程をいずれの段階で実施してもよい。例えば、施工範囲A内の安全対策が必要な切断区間Bのすべてに対して事前に補強工程を実施し、せん断補強構造300を設置しておくなどしてもよい。
【0092】
また、せん断補強構造300を構成する補強部材301は、
図4及び
図5を参照して説明した炭素繊維シート302や合成治具306などの他にも、様々な部材を採用することができる。以下に、補強部材301として、機械接合用鋼板310を利用したあと施工アンカーを採用する場合、及び貼着用鋼板312を採用する場合をそれぞれ事例に挙げ、その詳細を説明する。
【0093】
図12(a)は、補強部材301として、機械接合用鋼板310を利用してハンチ部204に内包されるよう設けられるあと施工アンカーを採用する場合を示している。機械接合用鋼板310は、
図12(b)で示すように、複数の孔加工がなされた平面視矩形形状の厚肉鋼板であり、アンカーボルト309が挿通する挿通孔3101と、スタッドボルト308が挿通する挿通孔3102が、それぞれ形成されている。
【0094】
スタッドボルト308は、いずれのボルト材を採用してもよく、好ましくは、
図5(c)を参照して説明した合成治具306を再合成工程で用いる際、これを固定する固定具として再利用することの可能なボルト材である。このスタッドボルト308を介して、機械接合用鋼板310は、
図12(a)で示すように、主桁201の上フランジ下面側に、上フランジから一部が突出するようにして設けられている。そして、この上フランジから突出した部分に、アンカーボルト309が挿通する挿通孔3101が配置される。
【0095】
挿通孔3101は、
図12(a)で示すように、アンカーボルト309を貫通させた際に、このアンカーボルト309が主桁201の上フランジコバ面(垂直面)に干渉することなく、また、ハンチ部204からコンクリート床版202に至る下穴204bと干渉しない範囲に設けられている。なお、下穴204bは、
図5(c)を参照して説明した合成治具306を、再合成工程で設置する際に使用するアンカーボルトを固着するための孔である。
【0096】
このような挿通孔3101に挿通されるアンカーボルト309は、
図12(c)で示すように、一端側が、ハンチ部204に設けた下穴204cに挿入されて固着される。下穴204cは、コンクリート床版202に至る深さまで設けられており、アンカーボルト309は、これに対応する長さを有している。
【0097】
また、アンカーボルト309の他端側は、機械接合用鋼板310に、いわゆるボルト接合の態様で固定される。このため、アンカーボルト309と挿通孔3101との間に隙間が生じることの無いよう、皿加工ワッシャ311を介装させている。これにより、両者間の隙間に起因して生じる可能性の略水平方向のガタツキを防止している。
【0098】
上記の、アンカーボルト309とスタッドボルト308、及び機械接合用鋼板310の組み合わせは、
図12(a)で示すように、主桁201のウェブを挟んだ両側に対をなして設ける。また、
図4(a)で示すような、補強範囲Dに対して橋軸方向に離間間隔を設けて複数を設置する。これにより、切断分離工程を実施する前の切断区間Bに隣接する位置に、せん断補強構造300が形成される。
【0099】
なお、本実施の形態では
図12(b)及び(c)で示すように、アンカーボルト309を機械接合用鋼板310に対して2本設ける場合を例示している。しかし、
図4(a)及び(b)で示すような切断区間Bに位置する頭部付きスタッド2011が切断されることにより不足する、略水平方向のせん断力に見合った補強が可能であれば、その本数はいずれでもよい。例えば、アンカーボルト309の本数を増大すれば、アンカー径は細くすることも可能である。
【0100】
また、アンカーボルト309の種類は、あと施工アンカーに利用されるいずれの種類のものでも採用可能で、例えば、
図5(b)を参照して説明したような、使用した後に抜き取り可能な機能を有するものが好適である。さらに、機械接合用鋼板310も、アンカーボルト309とスタッドボルト308とのせん断力を確保できる板厚が確保されていれば、その形状や大きさはいずれでもよい。
【0101】
図13(a)は、補強部材301として、ハンチ部204の側面に貼着される貼着用鋼板312を採用する場合を示している。貼着用鋼板312は、薄肉鋼板を折り曲げ加工したものであり、主桁201の上フランジ下面側とハンチ部204の側面の両者に、連続して沿うよう形成されている。また、
図13(b)で示すように、平面視で矩形形状に形成されているとともに複数の孔加工がされて、アンカーボルト314が挿通する挿通孔3121と、スタッドボルト308が挿通する挿通孔3122が、それぞれ形成されている。
【0102】
スタッドボルト308は、いずれのボルト材を採用してもよく、好ましくは、
図5(c)を参照して説明した合成治具306を再合成工程で用いる際、これを固定する固定具として再利用することの可能なボルト材である。このスタッドボルト308を介して、貼着用鋼板312は、
図13(a)で示すように、主桁201の上フランジ下面側に設置されている。
【0103】
そして、貼着用鋼板312において、この上フランジから突出しハンチ部204の側面に沿う範囲に、接着剤313が塗布されているとともに、アンカーボルト314が挿通する挿通孔3121が配置される。これにより貼着用鋼板312は、ハンチ部204の側面に、接着剤313とアンカーボルト314を介して固定される。
【0104】
上記の、貼着用鋼板312と接着剤313、スタッドボルト308、及びアンカーボルト314の組み合わせは、主桁201のウェブを挟んだ両側に対をなして設ける。また、
図4(a)で示すような、補強範囲Dに対して橋軸方向に離間間隔を設けて複数を設置する。これにより、切断分離工程を実施する前の切断区間Bに隣接する位置に、せん断補強構造300が形成される。
【0105】
なお、アンカーボルト314は、接着剤313が接着効果を発現するまでの間、貼着用鋼板312のハンチ部204に対する仮固定と、接着剤硬化後の貼着用鋼板312の剥がれ防止効果を期待している。このため、接着剤313によっては、省略可能である。また、アンカーボルト314を採用する場合にその種類は、あと施工アンカーに利用されるいずれの種類のものでも採用できるが、
図5(b)を参照して説明したような、使用した後に抜き取り可能な機能を有するものが好適である。
【0106】
さらに、接着剤313は、コンクリート造のハンチ部204の側面及び貼着用鋼板312の両者とのなじみが良い材料であって、
図4(a)及び(b)で示すような切断区間Bに位置する頭部付きスタッド2011が切断されることにより不足する、略水平方向のせん断力に見合った補強が可能であれば、何ら限定されるものではない。したがって、あらかじめ貼着用鋼板312に塗布するものであってもよいし、両面テープ式などもあってもよい。
【0107】
もしくは、スタッドボルト308とアンカーボルト314を利用して、貼着用鋼板312をハンチ部204の側面に固定したのち、両者の間に注入する注入式の接着剤313なども採用できる。さらに、貼着用鋼板312において、ハンチ部204の側面に沿う範囲は、ブラスト加工もしくは塗装するなどの下地処理及び清掃を施すなどしてもよい。こうすると、下地処理と接着剤313との間で、付着強度を予め調整することも可能となる。
【0108】
上記の貼着用鋼板312を採用した補強部材301は、その設置位置が、再合成工程で合成治具306を設置する予定位置と干渉しない場合には、そのまま放置してもよい。放置した場合には、貼着用鋼板312が放置された切断区間Bに対して切断面形成工程が実施された際、ハンチ部204とともに切断すればよい。
【符号の説明】
【0109】
100 合成化構造
200 橋梁
201 主桁
2011 頭部付きスタッド
202 コンクリート床版
203 対傾構
204 ハンチ部(接合部)
204a 切断面
204b 下穴
204c 下穴
205 横げた
206 新設床版(新たな床版)
207 支点(支承)
300 せん断補強構造
301 補強部材
302 炭素繊維シート(シート材)
303 アンカーボルト(ボルト材)
304 接着剤
305 特殊コーティング
306 合成治具
307 締結具
308 スタッドボルト
309 アンカーボルト
310 機械接合用鋼板
3101 挿通孔(アンカーボルト用)
3102 挿通孔(スタッドボルト用)
311 皿加工ワッシャ
312 貼着用鋼板
3121 挿通孔
3122 挿通孔
313 接着剤
314 アンカーボルト
401 詰め物
402 荷重伝達用治具
A 施工範囲
B 切断区間
BE 端部区間
C 取替えグループ
D 補強範囲