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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140301
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230927BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/00
C08L57/00
C08L51/04
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033181
(22)【出願日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022045578
(32)【優先日】2022-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 晃司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC03X
4J002BC03X
4J002BC04X
4J002BN063
4J002BN123
4J002BN143
4J002BN14X
4J002BN163
4J002BP013
4J002CG00W
4J002CG01W
4J002CG02W
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】比誘電率及び誘電正接が共に低く、耐熱性、耐衝撃性及び靱性、剛性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ポリスチレン系樹脂(B)を30~150質量部、およびエラストマー(C)を3~60質量部含み、260℃、1216sec-1におけるポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度比(ηA/ηB)が4.5~12.5の範囲にあることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ポリスチレン系樹脂(B)を30~150質量部、およびエラストマー(C)を3~60質量部含み、260℃、1216sec-1におけるポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度比(ηA/ηB)が4.5~12.5の範囲にあることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
エラストマー(C)が、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート共重合体、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート/スチレン共重合体、およびスチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体から選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
周波数5.8GHzでの誘電正接が0.0040以下である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂組成物のポリスチレン系樹脂(B)とエラストマー(C)の含有量の比[(B)/(C)]が9以下である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の含有量を含有しないか、含有する場合はその含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、10質量部以下である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、比誘電率及び誘電正接が共に低く、耐熱性、耐衝撃性及び靱性、剛性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータなどの電子機器では使用する信号の高速化及び大容量化が進行している。また、上記した電子機器の他に、自動車や交通システム関連、あるいは室内の近距離通信分野でも高周波無線信号を扱うシステムの実用化が進んでいる。
【0003】
そして、GHzレベルの高周波信号を用いた情報通信分野では高速化の伸びが著しく、国内では2020年3月に第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始され、その次の世代となる第6世代移動通信システム(6G)ではより高い周波数帯域の使用が検討されている。
このような大容量・高速化に対応するため、使用する通信機器やレーダー機器の部品には、低比誘電率及び低誘電正接の材料が求められる。
【0004】
本出願人は、特許文献1にて、熱可塑性樹脂とアルミナ(B)とを含む樹脂組成物が、比誘電率と誘電正接も低く、ミリ波透過性に優れたミリ波レーダー用カバーを提供することを提案した。しかし、アルミナは誘電率の絶対値が高い材料であり、特許文献1のポリカーボネート樹脂を含有する実施例2には比誘電率は3.7、誘電正接は0.0093であることが示されている。
電磁波の透過損失を小さくするためには、材料に発生する誘電損失の大きさが、材料の比誘電率の平方根と誘電正接の積に比例するため、比誘電率と誘電正接がともに小さい材料が求められるが、上記のような比誘電率と誘電正接では大容量・高速化対応の材料としては十分とはいい難い。
【0005】
さらに、本出願人は、特許文献2にて、特定のビスフェノール単位のポリカーボネート樹脂が低誘電正接であることを見出し、これを汎用のポリカーボネート樹脂にブレンドすることにより、比誘電率と誘電正接をともに低減させたポリカーボネート樹脂材料のミリ波レーダー用カバーを提案した。このポリカーボネート樹脂材料は有効な材料であるが、価格が高くなるために用途が限定されるという問題がある。
【0006】
誘電特性の良い樹脂として、ポリスチレンを配合することが考えられるが、ポリスチレンは汎用のポリカーボネート樹脂とは相溶性が悪く、また耐熱性が悪く、さらに耐衝撃性が悪いという欠点がある。
【0007】
また、アンテナ用の基材やカバー等は、剛性を十分に保持するため、また、屋外設置において風圧に十分に耐えうるために高い剛性や耐衝撃性に優れることも要求され、さらに、高温下でも機能が損なわれないためにも耐熱性に優れることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-102512号公報
【特許文献2】特開2019-195137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は、低コストで、低比誘電率で低誘電正接であり、耐熱性、剛性及び耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
汎用のポリカーボネート樹脂にポリスチレン系樹脂を配合すると、低誘電正接にはなるが耐衝撃性が大きく低下する。そこでエラストマーを添加すると耐衝撃性は向上するが、添加しすぎると強度、剛性、耐熱性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度の差を小さくして、両者の溶融粘度比を特定の範囲にすることにより両者の相溶性が向上し、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0011】
1.ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ポリスチレン系樹脂(B)を30~150質量部、およびエラストマー(C)を3~60質量部含み、260℃、1216sec-1におけるポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度比(ηA/ηB)が4.5~12.5の範囲にあることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2.エラストマー(C)が、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート共重合体、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート/スチレン共重合体、およびスチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体から選ばれる1種または2種以上である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.周波数5.8GHzでの誘電正接が0.0040以下である上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.ポリカーボネート樹脂組成物のポリスチレン系樹脂(B)とエラストマー(C)の含有量の比[(B)/(C)]が9以下である上記1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の含有量を含有しないか、含有する場合はその含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、10質量部以下である上記1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
6.上記1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、低コストでありながら、耐衝撃性、靱性、剛性及び耐熱性に優れ、比誘電率と誘電正接が共に低く、電磁波の透過減衰量が小さいので、5Gや6Gのような高周波帯域にも対応可能な電子電気機器部品、特にアンテナ基材やアンテナカバー等として好適に使用でき、電磁波の信頼性を十分に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ポリスチレン系樹脂(B)を30~150質量部、およびエラストマー(C)を3~60質量部含み、260℃、1216sec-1におけるポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度比(ηA/ηB)が4.5~12.5の範囲にあることを特徴とする。
【0015】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に使用するポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分等につき、詳細に説明する。
【0016】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0017】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。中でも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ちレゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0019】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ちビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(即ちビスフェノールAP)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
【0020】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0021】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0022】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ちビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0023】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0025】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0026】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量Mvは、通常10000以上、好ましくは14000以上、より好ましくは16000以上であり、また、通常40000以下、好ましくは30000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより、樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂は、高分子量のポリカーボネート樹脂、例えば好ましくは粘度平均分子量Mvが、50000~95000のポリカーボネート樹脂を含有することも好ましい。高分子量ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、より好ましくは55000以上であり、さらに好ましくは60000以上、中でも61000以上、特には62000以上が好ましく、また、より好ましくは90000以下、さらに好ましくは85000以下、中でも80000以下、とりわけ75000以下、特には70000以下が好ましい。
【0029】
高分子量ポリカーボネート樹脂を含む場合は、ポリカーボネート樹脂中、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。なお、上限は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0030】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量Mvは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、
η=1.23×10-4Mv0.83 から算出される値を意味する。
また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0031】
【数1】
【0032】
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常2000ppm以下、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。これにより本発明の樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、本発明の樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0033】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量Mvは、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
ポリカーボネート樹脂は、バージン樹脂だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)、あるいは、ポリカーボネート樹脂を化学的に分解して原料にまで戻したものから製造したポリカーボネート樹脂(いわゆるケミカルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよく、バージン樹脂とリサイクル樹脂の両方を含有することも好ましく、リサイクルポリカーボネート樹脂からなることでもよい。リサイクルポリカーボネート樹脂を含む場合、ポリカーボネート樹脂中のリサイクルポリカーボネート樹脂の割合は40%以上、50%以上、60%以上、80%以上が好ましく、リサイクルポリカーボネート樹脂が100%であることも好ましい。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A)は、260℃、1216cm-1での溶融粘度(ηA)が100~2000Pa・sの範囲にあることが好ましく、ポリスチレン系樹脂(B)との粘度差を近づけて、両者の溶融粘度比(ηA/ηB)を4.5~12.5とし、且つ靱性を保持するためには、より好ましくは400Pa・s以上、中でも500Pa・s以上、特に600Pa・s以上であることが好ましい。また、より好ましくは1500Pa・s以下、中でも1250Pa・s以下、特に1000Pa・s以下であることが好ましい。
【0036】
[ポリスチレン系樹脂(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂(B)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、30~150質量部を含有する。
【0037】
ポリスチレン系樹脂としては、好ましくはスチレンの単独重合体であり、あるいは他の芳香族ビニルモノマー、例えばα-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等を例えば、50質量%未満の範囲で共重合したものであってもよい。
【0038】
また、ポリスチレン系樹脂は、ゴム強化ポリスチレン樹脂であってもよい。ゴム強化ポリスチレン樹脂としては、好ましくはブタジエン系ゴム成分を共重合またはブレンドしたものであり、ブタジエン系ゴム成分の量は、通常1質量%以上50質量%未満であり、好ましくは3~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。ゴム強化ポリスチレン樹脂としては、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が特に好ましい。
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体、ハイインパクトポリスチレンまたはこれらの混合物が特に好ましい。
【0039】
ポリスチレン系樹脂(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、30~150質量部であるが、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、中でも60質量部以上、特に70質量部以上が好ましく、好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは110質量部以下、より好ましくは100質量部以下、中でも95質量部以下、特に90質量部以下が好ましい。
【0040】
ただし、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等のアクリロニトリルを含む共重合体は、誘電正接を高める傾向があるため、含有しない方が好ましく、含有する場合でもその量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは7質量部以下、中でも5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下、1質量部以下が好ましい。
【0041】
ポリスチレン系樹脂(B)の260℃、1216cm-1での溶融粘度(ηB)が30~300Pa・sの範囲にあることが好ましく、より好ましくは40Pa・s以上、中でも50Pa・s以上、特に60Pa・s以上であることが好ましい。また、より好ましくは250Pa・s以下、中でも200Pa・s以下、特に150Pa・s以下であることが好ましい。
【0042】
本発明においては、260℃,1216sec-1におけるポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度ηAと、ポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度ηBとの溶融粘度比(ηA/ηB)が4.5~12.5の範囲にある。ポリカーボネート樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)の溶融粘度の差を小さくして、溶融粘度比をこのような範囲とすることで、両者の相溶性が向上し、耐衝撃性を向上させることができる。
ηA/ηBは、好ましくは6.0以上であり、より好ましくは7.0以上、中でも8.0以上、特に9.0以上が好ましく、好ましくは12.0以下であり、より好ましくは11.5以下、中でも11.0以下、特に10.5以下が好ましい。
【0043】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリスチレン系樹脂(B)の260℃、1216sec-1における溶融粘度は、ISO 11443に準拠し、キャピラリーレオメーターを用いることで測定される値である。具体的には、キャピラリー径1mm、キャピラリー長10mmのオリフィスを用い、260℃に加熱した内径9.55mmの炉体に対し、ピストンスピード100mm/minの速度でピストンを押し込んだ際の応力から、溶融粘度が算出可能である。
【0044】
[エラストマー(C)]
エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分をグラフト共重合した共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0045】
上記ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下のものが好ましく、更には-30℃以下のものが好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴムあるいはその水添物、ブタジエン-アクリル複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-αオレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴムなどを挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴムその水添物、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
ゴム成分が、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、あるいはオルガノポリシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴムのものは、誘電正接が上昇しやすいので好ましくない。
【0046】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましく、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を好ましく挙げることができる。
【0047】
エラストマーは、コア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。中でもポリブタジエン含有ゴム、エチレン/ブチレンゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が好ましく、特にブタジエン系ゴムをコアとするコア/シェル型エラストマーが好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸成分は、10質量%以上含有するものが好ましい。
【0048】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート共重合体(MB)、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート/スチレン共重合体(MBS)、およびスチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体(SEBS)等が好ましく挙げられ、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート共重合体(MB)、ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート/スチレン共重合体(MBS)、およびスチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体(SEBS)がより好ましい。
【0049】
エラストマー(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3~60質量部である。このような量で含有することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性、剛性及び耐熱性、さらに比誘電率と誘電正接をバランスよく良好なものとすることができる。エラストマー(C)の含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7.5質量部以上、中でも10質量部以上、特に15質量部以上が好ましく、55質量部以下、より好ましくは50質量部以下、中でも45質量部以下、40質量部以下、35質量部以下、30質量部以下、特に25質量部以下が好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂組成物のポリスチレン系樹脂(B)とエラストマー(C)の含有量比(ポリスチレン系樹脂(B)の含有量/エラストマー(C)の含有量)が9以下であると、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ値が高くなるため好ましい。
【0050】
[安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤(熱安定剤)やフェノール系安定剤(酸化防止剤)が好ましい。
【0051】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0052】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0053】
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0054】
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0055】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0056】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることで、フェノール系安定剤としての効果を十分得ることができる。また、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値以下にすることにより、効果が頭打ちになることなく経済的である。
【0057】
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0058】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0059】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0060】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0061】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0063】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0064】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0065】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0066】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0067】
[添加剤等]
ポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、充填材、強化材(炭素繊維、ガラス繊維)、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤、またポリカーボネート樹脂(A)、ポリスチレン系樹脂(B)以外の他の樹脂を含有することができる。これらの添加剤あるいは他の樹脂は一種または二種以上を配合してもよい。
なお、上記したポリカーボネート樹脂(A)及びポリスチレン系樹脂(B)以外の他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらには20質量部以下、10質量部以下、特には5質量部以下とすることが好ましい。
【0068】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、各必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0069】
上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットは、各種の成形法で成形し、成形品が製造できる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
成形品を製造する方法は、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられ、また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
これらの中でも、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などの射出成形法が好ましい。
【0070】
更に、前記成形品の表面には、ハードコート層を設けてもよい。ハードコート層を形成するためのハードコート剤としては、公知の材料を適宜使用することができ、例えば、シリコーン系、アクリル系、シラザン系、ウレタン系などの種々のハードコート剤を使用することができる。接着性や耐候性を向上させるために、ハードコート剤を塗布する前にプライマー層を設ける2コートタイプのハードコート剤であってもよい。ハードコート剤のコーティング方法としては、特に制限はないが、スプレーコート、ディップコート、フローコート、スピンコート、バーコート、カーテンコート、ダイコート、グラビアコート、ロールコート、ブレードコート及びエアーナイフコート等のいずれの塗工方法によって塗布することもできる。
ハードコート層の厚みは、好ましくは1~50μm、より好ましくは5~30μmである。
【0071】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、誘電正接が小さく、周波数5.8GHzでの誘電正接が好ましくは0.0040以下であり、より好ましくは0.0038以下、さらに好ましくは0.0036以下、特に好ましくは0.0034以下である。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比誘電率も小さく、比誘電率は好ましくは2.8以下であり、より好ましくは2.7以下、更に好ましくは2.6以下である。
誘電正接および比誘電率の具体的な測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0072】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は耐熱性に優れ、その指標となる荷重たわみ温度が、好ましくは86℃超であり、より好ましくは90℃超であり、さらにより好ましくは92℃以上である。荷重たわみ温度の測定はISO75-2に準拠して行い、その具体的な方法は実施例に記載する通りである。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は耐衝撃性に優れ、シャルピー衝撃強度が、ノッチなしでNB(ノンブレーク)、ノッチ付きで10kJ/m以上であることが好ましい。シャルピー衝撃強度の測定はISO179-1,2に準拠して行い、その具体的な方法は実施例に記載する通りである。
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は剛性に優れ、曲げ弾性率が2000MPa以上、曲げ強度が67MPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率と曲げ強度の測定はISO178に準拠して行い、その具体的な方法は実施例に記載する通りである。
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は靭性に優れ、引張破壊呼び歪みが20%以上であることが好ましい。引張破壊呼び歪みの測定はISO527に準拠して行い、その具体的な方法は実施例に記載する通りである。
【0073】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、特に周波数1GHz以上の電磁波を使用する電子電気機器部品に好適に用いられる。本発明のポリカーボネート樹脂組成物からな電子電気機器部品は、周波数1GHz以上の広い範囲の帯域に利用可能である。5Gの無線通信規格の「NR」の52.6GHzまでの周波数帯、今後の5G evolutionで利用が検討されている90GHz程度まで、あるいは6Gに向けての90G~300GHzといったサブテラヘルツ波にも適応可能である。もちろん、既存の低周波帯や、6Gローバンド/ミッドバンドの10~20GHzというような帯域にも好適である。
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品が利用可能な電子電気機器部品には、電子電気機器の筐体、回路基板、半導体層間絶縁膜、アンテナ部品(基板、アンテナカバー、レーダーカバー)、高周波同軸ケーブルの絶縁材料抵抗器、スイッチ、コンデンサ、フォトセンサ等のベース部品、ICソケットやコネクタ、自動車、自転車、オートバイ、トラック、鉄道車両、ヘリコプター、航空機等の輸送機器、ブルドーザー、油圧ショベル、クレーン等の建設機械、商船、特殊用途船、漁船、艦艇等の船舶、トラクター、収穫機等の農業機械、スマートフォン、タブレット、ウェアラブルデバイス、コンピュータ、テレビジョン受像機、VRゴーグル、カメラ、スピーカー、ドローン、ロボット、センサー、医療機器、分析機器等の部品を挙げることができ、特にアンテナの基板やアンテナカバー、レーダーカバーとして特に好適である。
アンテナカバー、レーダー用カバーは、電磁波を送信もしくは受信するアンテナモジュールを格納または保護するハウジング、アンテナカバー(レドーム)等であり、さらにはレーダーモジュールから送受信される電磁波の経路上に設置される部材などを含む。
【実施例0075】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原料は以下の表1の通りである。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例1~19、比較例1~4)
[ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1に記載した各成分を、以下の表2-4に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、二軸押出機(東芝機械株式会社製、TEM26SX)を用いて、シリンダー温度260℃で溶融混練し、ストランドカットによりポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0078】
<比誘電率、誘電正接>
上述の方法で得られたペレットを、100℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(ファナック社ROBOSHOT S-2000i 150B)を用いて、100mm×150mm×厚みが約2mmの成形品を得た。上記方法によって得られた平板状試験片から100mm×1mm×2mmの平板状試験片を切削により得た後、KEYSIGHT社製、ネットワークアナライザおよび関東電子応用開発社製、空洞共振器を用いて、摂動法により周波数5.8GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0079】
<曲げ弾性率、曲げ強度>
上述の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業社製のNEX80III型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を成形した。得られた試験片を用い、室温(23℃)条件下でISO-178規格に基づき、曲げ試験を行い、曲げ弾性率(単位:MPa)、曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
【0080】
<シャルピー衝撃強度>
上述の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業社製のNEX80III型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO179-1、2に基づく3mm厚の耐衝撃性試験片を作製した。得られた試験片を用い、23℃の温度環境下において、ノッチ無し、及びノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
【0081】
<荷重たわみ温度>
上述の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業社製のNEX80III型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を成形した。得られた試験片を用い、東洋精機社製6A-2型HDT測定装置を用いて、ISO75-2に準拠し、高荷重(1.80MPa)の条件で荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
【0082】
<引張破壊呼び歪み(単位:%)>
上述の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業社製のNEX80III型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を成形した。
得られた試験片を用い、ISO527規格に準拠して、引張破壊呼び歪(単位:%)を測定した。
以上の評価結果を以下の表2~4に示す。なお、表中、実nは実施例nを、比nは比較例nを表す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
上記結果から明らかな通り、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、機械物性(耐衝撃性、靭性、剛性、耐熱性等)に優れ、電気特性(比誘電率、誘電正接)にも優れる。これに対し、比較例の場合は、機械物性と電気特性を両立する結果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、比誘電率及び誘電正接が共に低く、透過減衰量が低減され、耐熱性、耐衝撃性及び剛性に優れるので、電磁波を使用する各種の電子電気機器部品に広く好適に利用できる。