IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人福岡大学の特許一覧

特開2023-140343ゼオライト含有ニトロセルロース組成物
<>
  • 特開-ゼオライト含有ニトロセルロース組成物 図1
  • 特開-ゼオライト含有ニトロセルロース組成物 図2
  • 特開-ゼオライト含有ニトロセルロース組成物 図3
  • 特開-ゼオライト含有ニトロセルロース組成物 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140343
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ゼオライト含有ニトロセルロース組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/08 20060101AFI20230927BHJP
   C06B 25/20 20060101ALI20230927BHJP
   C09K 23/56 20220101ALI20230927BHJP
   C01B 39/14 20060101ALI20230927BHJP
   C01B 39/22 20060101ALI20230927BHJP
   C01B 39/24 20060101ALI20230927BHJP
   C01B 39/28 20060101ALI20230927BHJP
   C01B 39/38 20060101ALI20230927BHJP
   C01B 39/44 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08B5/08
C06B25/20
C09K23/56
C01B39/14
C01B39/22
C01B39/24
C01B39/28
C01B39/38
C01B39/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045667
(22)【出願日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022045886
(32)【優先日】2022-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】古川 桂佑
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝美
(72)【発明者】
【氏名】東 英子
【テーマコード(参考)】
4C090
4D077
4G073
【Fターム(参考)】
4C090AA07
4C090AA08
4C090BA27
4C090BB53
4C090BD18
4C090BD19
4C090BD21
4C090CA47
4C090DA40
4D077AB20
4D077AC05
4D077BA07
4D077BA20
4D077DA02X
4D077DD65X
4D077DE26X
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA11
4G073BA48
4G073BA63
4G073BA69
4G073BD21
4G073CZ02
4G073CZ04
4G073CZ05
4G073CZ08
4G073CZ13
4G073CZ15
4G073GA01
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA13
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】高い熱安定性とNOx発生抑制効果を示すゼオライトを安定剤として含有するニトロセルロース(NC)組成物、及び該NC組成物を含有する無煙火薬の提供。
【解決手段】平均粒径が1μm以上30μm以下であるゼオライトを、安定剤として、ニトロセルロース(NC)組成物の重量に対して0.01重量%以上6重量%未満で含有するNC組成物、及び該NC組成物を含有する無煙火薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1μm以上30μm以下であるゼオライトを、安定剤として、ニトロセルロース(NC)組成物の重量に対して0.01重量%以上6重量%未満で含有するNC組成物。
【請求項2】
平均細孔径が9Å以下である、請求項1に記載のNC組成物。
【請求項3】
BET比表面積が10m/g以上700m/g以下である、請求項1又は2に記載のNC組成物。
【請求項4】
NCを、前記NC組成物に対して20重量%以上99.9重量%以下で含有する、請求項1又は2に記載のNC組成物。
【請求項5】
前記ゼオライトは、ZSM-5形、ベータ形、フェリエライト形、A形、X形、及びY形からなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、請求項1又は2に記載のNC組成物。
【請求項6】
前記ゼオライトは、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、銅イオン、及び水素イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカウンターイオンを有するか、又はテンプレートである、請求項1又は2に記載のNC組成物。
【請求項7】
記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項8】
前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンは銅イオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項9】
前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンは水素イオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項10】
前記ゼオライトの結晶形はベータ形であり、かつ、カウンターイオンは水素イオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項11】
前記ゼオライトの結晶形はベータ形であり、かつ、前記ゼオライトはテンプレートである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項12】
前記ゼオライトの結晶形はフェリエライト形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項13】
前記ゼオライトの結晶形はY形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項14】
前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンはナトリウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項15】
前記ゼオライトの結晶形はY形であり、かつ、カウンターイオンは銅イオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項16】
前記ゼオライトの結晶形はA形であり、かつ、カウンターイオンはカルシウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項17】
前記ゼオライトの結晶形はX形であり、かつ、カウンターイオンはナトリウムイオンである、請求項6に記載のNC組成物。
【請求項18】
請求項1又は2に記載のNC組成物を含む無煙火薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト含有ニトロセルロース(NC)組成物に関する。より詳しくは、本発明は、安定剤としてゼオライトを含有するNC組成物、及び該NC組成物を含有する無煙火薬に関する。
【背景技術】
【0002】
NCは、以下の構造式:
【化1】
を有し、室温においてもONO部分が自然分解することが知られており、また、分解により生じた窒素酸化物(NO、NO、以下、纏めてNOxともいう。)は、NCの分解反応の触媒として作用するため、NОx発生量が少ない初期に比べ、NОx発生量が次第に増えてくる中期以降は分解反応が加速度的に進行し、反応熱を蓄積することで自然発火に至ることがある。
【0003】
一般的に無煙火薬をはじめとする火薬製品には発生したNOxを捕捉するための安定剤が含まれており、以下の構造式:
【化2】
で表されるアカルダイトII(AK II)(登録商標、cas13114-72-2、一般名3-メチル-1,1-ジフェニル尿素)、以下の構造式:
【化3】
で表されるジフェニルアミン(DPA)などの物質が利用されている。これらの物質は、ニトロ(ソ)化により、発生したNOxを捕捉するものである。
【0004】
しかしながら、これらの安定剤は、発がん性、生殖毒性など人体に対する有害性や環境面での水生生物に対する強い毒性が指摘されており、使用を避けるべきものとされる。
【0005】
以下の特許文献1には、NC又は無煙火薬(ガス発生剤)への気体吸着材の例として、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、活性白土、活性炭、アセチレンブラック等の多孔質で表面積の大きい物質が記載されている。但し、以下の特許文献1で、ガス発生剤中の水分を吸着することで、火薬成分の加水分解を抑制し、安定化に寄与すると記載されており、例えば、ゼオライトの直径(平均粒径)は0.3nm、0.4nm、0.5nm、0.6nm、1.0nmであり、最も好ましいのは1.0nmであることが記載されている。また、特許文献1では、気体吸着材は、ガス発生剤の重量に対して6重量%以上30重量%以下で必要であることが明示されている。
【0006】
また、他方、特許文献2には、ガス発生剤は、水分の存在下で高温にさらされると熱分解すること、また、ガス発生剤の耐熱性を上げるためにゼオライトを用いることが記載されている。
【0007】
しかながら、特許文献1と2のいずれにおいても、気体吸着材の添加は水分の捕捉を目的としたものであり、NCの安定化に対して、ゼオライトの結晶形、平均粒径、平均細孔径、カウンターイオンが及ぼす効果については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-156738号公報
【特許文献2】特許第6422628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、NCの安定化に対し、より高いNOx発生抑制効果と熱安定性を示し、かつ、人体への安全性の高く、環境への負荷が小さいゼオライトを安定剤として含有するNC組成物、及び該NC組成物を含有する無煙火薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、ゼオライトの結晶形、平均粒径、平均細孔径、カウンターイオン等を特定範囲とすることにより、前記課題が解決できることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]平均粒径が1μm以上30μm以下であるゼオライトを、安定剤として、ニトロセルロース(NC)組成物の重量に対して0.01重量%以上6重量%未満で含有するNC組成物。
[2]平均細孔径が9Å以下である、前記[1]に記載のNC組成物。
[3]BET比表面積が10m/g以上700m/g以下である、前記[1]又は[2]に記載のNC組成物。
[4]NCを、前記NC組成物に対して20重量%以上99.9重量%以下で含有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載のNC組成物。
[5]前記ゼオライトは、ZSM-5形、ベータ形、フェリエライト形、A形、X形、及びY形からなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載のNC組成物。
[6]前記ゼオライトは、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、銅イオン、及び水素イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカウンターイオンを有するか、又はテンプレートである、前記[1]~[5]のいずれかに記載のNC組成物。
[7]前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[8]前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンは銅イオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[9]前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンは水素イオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[10]前記ゼオライトの結晶形はベータ形であり、かつ、カウンターイオンは水素イオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[11]前記ゼオライトの結晶形はベータ形であり、かつ、前記ゼオライトはテンプレートである、前記[6]に記載のNC組成物。
[12]前記ゼオライトの結晶形はフェリエライト形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[13]前記ゼオライトの結晶形はY形であり、かつ、カウンターイオンはアンモニウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[14]前記ゼオライトの結晶形はZSM-5形であり、かつ、カウンターイオンはナトリウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[15]前記ゼオライトの結晶形はY形であり、かつ、カウンターイオンは銅イオンである、前記尾[6]に記載のNC組成物。
[16]前記ゼオライトの結晶形はA形であり、かつ、カウンターイオンはカルシウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[17]前記ゼオライトの結晶形はX形であり、かつ、カウンターイオンはナトリウムイオンである、前記[6]に記載のNC組成物。
[18]前記[1]~[17]のいずれかに記載のNC組成物を含む無煙火薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るNC組成物は、従来技術の、NC又は無煙火薬(ガス発生剤)への気体吸着材に比較して、格別顕著なより高い安定化効果を示し、かつ、人体や環境に対する有害性物質を排除することで安全性も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱流速型反応熱量計(SETARAM社製C80)による各種添加剤(安定剤)を添加したNCの熱分解挙動測定結果を示すグラフである。
図2】各種添加剤(安定剤)を添加したNCの100℃におけるNOx発生総量を示すグラフである。
図3】各種添加剤(安定剤)を添加したNCの134.5℃におけるNOx発生総量を示すグラフである。
図4】NOx発生量測定装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、平均粒径が1μm以上30μm以下であるゼオライトを、安定剤として、NC組成物の重量に対して0.01重量%以上6重量%未満で含有するNC組成物である。
【0015】
[平均粒径]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトの平均粒径は、1μm以上150μm以下であり、好ましくは1μm以上30μm以下であり、より好ましくは2μm以上10μm以下であり。
比表面積は平均粒径が小さくなるほど大きくなるため、NOxの捕捉に効果が高いと期待される。他方、平均粒径が小さすぎると、NC組成物の製造時に粉塵リスクを生じる可能性が高くなる。そのため、平均粒径は、1μm以上150μm以下であることが好ましい。
【0016】
[平均細孔径]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトの平均細孔径は、好ましくは9Å以下であり、より好ましくは2Å以上、さらに好ましくは4.8Å以上である。平均細孔径は、NOxガスの分子径に近い上記範囲であると、NOxの捕捉にとってより有効と考えられる。
【0017】
以下の実施例で使用したゼオライトは東ソー社製のものを使用しており、平均細孔径は東ソー社の公称値を参照している。但し、本実施形態に使用するゼオライトは東ソー社製のゼオライトに限定されるものではない。尚、加熱溶融等による形状変化がない限り、添加したゼオライトの平均細孔径は、NC組成物から取り出したゼオライトのものと同じである。
【0018】
[BET比表面積]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトのBET比表面積は、好ましくは10m/g以上700m/g以下であり、より好ましくは260m/g以上である。
実施例で使用したゼオライトは東ソー社製のものを使用しており、BET比表面積も、東ソー社の公称値を参照している。但し、本実施形態に使用するゼオライトは東ソー社製のゼオライトに限定されるものではない。尚、加熱溶融等による形状変化がない限り、添加したゼオライトのBET比表面積は、NC組成物から取り出したゼオライトのものと同じである。
一般に、高いBET比表面積を有する物質は、表面が、しわしわ(皺皺)/多孔質で比表面積が大きい物質であるため、NOxを始めとする気体の吸着効果が期待されるが、NC組成物の安定化において、ゼオライトが実際にNOxの吸着効果を有するか、いかなる範囲の細孔径、BET比表面積、カウンターイオンが有効であるかについては従来知られておらず、不明であった。
【0019】
[SiO/Al比]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトのSiO/Al比(物質量比、mol/mol)に制限はないが、2~40であることができ、好ましくは18~40である。実施例で使用したゼオライトは東ソー社製のゼオライトのSiO/Al比はこの範囲であったが、これに限定されるものではない。
一般に、SiO/Al比が低いほどガス吸着量が増加するため、NOxを始めとする気体の吸着効果が期待されるが、NC組成物のNOx抑制においてSiO/Al比が低いほど、ゼオライトが実際にNOxの吸着効果を有することは従来知られておらず、不明であった。SiO/Al比が2~23の範囲であると、NOxの捕捉にとってより有効と考えられる。
【0020】
[NC組成物]
NC組成物は、マルチベース無煙火薬、トリプルベース無煙火薬、ダブルベース無煙火薬であることができるが、好ましくは、NCを主成分とするシングルベース無煙火薬である。
一般に、トリプルベース無煙火薬、マルチベース無煙火薬、ダブルベース無煙火薬、シングルベース無煙火薬の順にNCの含有量が多くなる。NCを含有するトリプルベース無煙火薬では、NCの含有量は前記NC組成物に対して10重量%~40重量%であることが好ましく、マルチベース及びダブルベース無煙火薬では30重量%~90重量%であることが好ましい。シングルベース無煙火薬では、NCの含有量は、前記NC組成物に対して70重量%~99.9重量%であることが好ましく、より好ましくは80重量%~98重量%ある。本実施形態のNC組成物では、NCの含有量は、NC組成物に対して20重量%以上99.9重量%以下であることができる。
【0021】
[ゼオライト含有量]
本実施形態のNC組成物では、ゼオライトの含有量は、NC組成物の重量に対して0.01重量%以上6重量%未満であることが好ましく、1重量%以上3重量%以下がより好ましい。
【0022】
[ゼオライトの結晶形]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトの結晶形は、ZSM-5形、ベータ形、フェリエライト形、Y形、A形、及びX形からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。ゼオライトの結晶形に制限はなく、モルデナイト形、L形、MCM-22形などの他の結晶形であっても構わない。また、その他以下の参考URLに示す結晶形のものを用いてもよい。参考URL: http://www.iza-structure.org/databases/
【0023】
[カウンターイオン]
本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトは、アンモニウムイオン、銅イオン、水素イオン、ナトリウムイオン、及びカルシウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカウンターイオン有するか、又はテンプレートであることができる。
実施例で使用したゼオライトは東ソー社製のものであり、カウンターイオンとして、アンモニウムイオン、銅イオン、水素イオン、ナトリウムイオン、及びカルシウムイオンを有するもの、もしくはテンプレートのゼオライトであった。カウンターイオンとしては、好ましくはアンモニウムイオン、銅イオンであるが、本実施形態のNC組成物に安定剤として含有されるゼオライトとして、その他カリウム、リチウム等のあらゆる陽イオンを含有するものを使用しても構わない。また、ゼオライトは東ソー社製に限定されるものではない。
【0024】
本発明の他の実施形態は、前記NC組成物を含有する無煙火薬である。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではなく、例えば、NC組成物を製造する方法として、溶剤圧伸法、無溶剤圧延法、無溶剤圧伸法、スラリーキャスト法、グレインキャスト法、ベースグレインスラリー法などを適用することができ、NCとその他成分、添加物の単純な撹拌による混合で製造してもよい。また、NC組成物の製造においては、NCとゼオライトは、混合に依らず、NC又はNC組成物の表面にゼオライトを塗布してもよい。
以下の実施例、比較例において調製した試料について、その調製に用いた各種添加物の物性等を以下の表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表中、ゼオライト(a)~(m)は、東ソー社製の市販品であり、製品名は以下の通りである。ゼオライト(a):ハイシリカゼオライト HSZ-840HOA(粉末)、ゼオライト(b):ハイシリカゼオライト HSZ-840NHA(粉末)、ゼオライト(c):ハイシリカゼオライトHSZ-940HOA(粉末)、ゼオライト(d):ハイシリカゼオライトHSZ-940 NHA(粉末)、ゼオライト(e):ハイシリカゼオライトHSZ-840CUA1(粉末)、ゼオライト(f):ハイシリカゼオライトHSZ-700 NHA(粉末)、ゼオライト(g):ハイシリカゼオライトHSZ-371 NHA(粉末)ゼオライト(h):ハイシリカゼオライト Na-MFI(40)(粉末)、ゼオライト(i):ハイシリカゼオライト HSZ-820NHA(粉末)、ゼオライト(j):ハイシリカゼオライト HSZ-341NHA(粉末)、ゼオライト(k):ハイシリカゼオライト HT-03(粉末)、ゼオライト(l):ゼオラムA-5 100#(粉末)、ゼオライト(m):ゼオラムF-9 100#(粉末)。
【0028】
[実施例1~14、比較例1、2]
NC(旭化成社製、窒素量12.6重量%)に対し、各種添加物を、NC組成物の重量に対して2重量%となるように添加・混合又は溶剤圧伸法により、NC組成物(実施例1~14)を得た。得られたNC組成物について、以下に述べるように、熱流速型反応熱量計(SETARAM社製C80)によるNCの熱分解挙動測定、及びNCのNOx発生量測定を実施した。比較例1として、NC単独の粉末を用いた。比較例2は、NC単独の無煙火薬である。
【0029】
[熱流速型反応熱量計(SETARAM社製C80)によるNCの熱分解挙動測定]
C80装置を用い、以下の条件下で各種試料の発熱分解挙動を測定した。
(実験条件)
試料量:30mg
試料容器:4.0mL密閉容器
所蔵温度:134.5℃
酸素雰囲気密閉
【0030】
134.5℃等温貯蔵下における発熱挙動の結果を、図1に示す。
図1の結果を以下の表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
ゼオライト(a)~(m)を添加したNC組成物(実施例1~13)はいずれも、NC単独(比較例1)よりも誘導期が延長された。また、ゼオライト(b)、及び(d)~(g)は、NC単独(比較例1)と比較して、4.05倍~5.45倍に誘導期が延長され、ゼオライト(h)~(m)は、2.05倍~2.6倍に誘導期が延長された。
【0033】
ゼオライト(b)を添加した無煙火薬(実施例14)は、NC単独の無煙火薬(比較例2)よりも誘導期が延長された。
【0034】
水100mLにゼオライトを0.3mg添加し、室温19.5~20℃の温度で12時間以上放置した後のpHを、ゼオライト(a)~(g)について測定したところ、ゼオライト(b)、(d)~(g)のpHは5を超えており、ゼオライト(a)、(c)はpHが4以下であった。このことから、pHが5を超えると誘導期が長くなる傾向が確認された。
【0035】
[NOx発生量測定]
図4に示す装置を用いて、試料から発生するNОx発生量を、以下の実験条件下で測定した。
(実験条件)
【0036】
【表3】
試料容器:ガラス容器 空気流量:0.1mL/min
ガス捕集:20min間隔
【0037】
100℃でのNOx発生総量を図2に示す。
100℃でのNОx発生総量(27h)は以下の表4に示すとおりであった。
【0038】
【表4】
【0039】
表4中、*1は、100mL/minの空気流通下、100℃にて27時間試料を加熱し、発生するNOx発生量を検知管(GASTEC社製11L)により測定し、試料1gあたりの発生NOx容量[L/g(NC)]に換算した値を示す。
【0040】
134.5℃でのNOx発生総量を図3に示す。
134.5℃でのNОx発生総量(6h)は以下の表5に示すとおりであった。
【0041】
【表5】
【0042】
表5中、*1は、100mL/minの空気流通下、134.5℃にて6時間試料を加熱し、発生するNOx発生量を検知管(GASTEC社製11L)により測定し、試料1gあたりの発生NOx容量[L/g(NC)]に換算した値を示す。
【0043】
ゼオライト(a)~(m)を添加したNC組成物(実施例1~13)はいずれも、NC単独(比較例1)よりもNOx発生量が低減していた。
図3及び表5に示すNOx発生量の抑制の結果は、[熱流速型反応熱量計(SETARAM社製C80)によるNCの熱分解挙動測定]に示す熱安定性の結果と相関がなく、両者には異なる機構が作用しているものと推定される。
また、図3及び表5に示す134.5℃のNOx発生総量における結果と比較して、NOx発生量の低減率が小さくなっており、温度領域によって効果が異なることが示唆される。
【0044】
ゼオライト(b)を添加した無煙火薬(実施例14)は、NC単独の無煙火薬(比較例2)よりもNOx発生量が大幅に低減していた。これは、無煙火薬に調製することで密度が高まり,NCから発生したNOxとゼオライトの接触率が向上したことに起因すると推察した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るNC組成物は、特定のゼオライトを安定剤として含有することで、格別顕著なより高い安定化効果を示し、かつ、人体への有害性および、環境への負荷を回避することができる。よって、本発明に係るNC組成物は、例えば、無煙火薬の保管において、より安全性が高いものなるため、火薬類の分野において好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4