(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140412
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ボルト・ナット用マーキング用具
(51)【国際特許分類】
B25H 7/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B25H7/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046235
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】安江 明哲
(57)【要約】
【課題】マークの途切れを抑制し、直線状に連続した鮮明なマークを付すことが可能なボルト・ナット用マーキング用具を提供すること。
【解決手段】マーキング対象物である締結したボルト4・ナット5・ワッシャー6に被せられて、その先端から基端方向に向け移動自在としたマーキングホルダー2と、マーキングホルダー2に対してボルト4の軸方向と略直交する方向にのみ変位可能に取り付けられたマーキング用ローラ3とを備えたボルト・ナット用マーキング用具1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結したボルト・ナット・ワッシャーに被せられて、その先端から基端方向に向け移動自在としたマーキングホルダーと、
前記マーキングホルダーに対して前記ボルトの軸方向と略直交する方向にのみ変位可能に取り付けられたマーキング用ローラとを備えたボルト・ナット用マーキング用具。
【請求項2】
前記マーキング用ローラが、前記マーキングホルダーに設けられたローラ保持部材に保持されて取り付けられている請求項1に記載のボルト・ナット用マーキング用具。
【請求項3】
前記マーキング用ローラの支軸が、前記ボルトの軸方向と略直交する方向に延びる水平溝に係合し前記水平溝内を自在に摺動する請求項1または2に記載のボルト・ナット用マーキング用具。
【請求項4】
前記マーキング用ローラを前記ボルトの軸部に近付く方向へ付勢する弾性体を備えている請求項1乃至3のいずれかに記載のボルト・ナット用マーキング用具。
【請求項5】
前記マーキングホルダーの下方に、前記締結したボルト・ナット・ワッシャーに被せられるガイド用スライダーが設けられており、前記マーキングホルダーは前記ガイド用スライダーに対して前記ボルトの軸方向にスライド自在である請求項1乃至4のいずれかに記載のボルト・ナット用マーキング用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等の被締結部材をボルト、ナット及びワッシャーを用いて接合する際に、一次締めの後にボルト、ナット、ワッシャー及び被締結部材にマークを施すために使用するボルト・ナット用マーキング用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨工事において鋼材等の被締結部材をボルト、ナット及びワッシャーで接合する場合、これらの締結部材の締め付けは、一次締め、マーキング、本締めの順序で行われる。具体的には、まず所定のトルク値でナットを回転させて一次締めを行い、一次締めがなされたボルト、ナット、ワッシャー及び被締結部材(以下「マーキング対象物」と総称する。)に対して一連の線状のマークを施す。続いて本締めを行い、一次締めの際にマーキング対象物に施した線状のマークの位置ずれ角度を検査することにより、ボルト、ナットの供回りや軸回りの有無を判定することができる。
【0003】
マーキングは、一般的にペン等を用いて手作業で施されることが多いが、多数のマーキング対象物に対して一つずつ手書きする作業は負担が大きい。また、高所等の危険箇所や無理な姿勢を強いられる箇所等においては、手書きでは的確なマーキングや作業者の安全確保が困難である。そこで、ボルト等に対してマーキングを行うことができるボルト・ナット用マーキング用具が提案されている。
【0004】
特許文献1及び2には、マーキングホルダーに対して回動自在に軸支されたローラアームを備え、このローラアームの端部にマーキング用ローラが軸支されたボルト・ナット用マーキング用具が記載されている。しかし、これらのボルト・ナット用マーキング用具では、マーキング用ローラがナットの天面やワッシャーの天面などボルトの軸方向に略直交する面に押し付けられると、ローラアームが回動してマーキング用ローラが前記天面から離れる方向に動いてしまう。このため、ボルトとナットの境目やワッシャーと被締結部材の境目など、部材同士の境界部分である略直角の角部にマーキング用ローラが接触することができず、マークが途切れてしまい、直線状に連続した鮮明なマーキングができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5953877号公報
【特許文献2】特許第6056995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、マークの途切れを抑制し、直線状に連続した鮮明なマークを付すことが可能なボルト・ナット用マーキング用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、マーキング対象物である締結したボルト・ナット・ワッシャーに被せられて、これら締結部材の先端から基端方向に向け移動自在としたマーキングホルダーと、前記マーキングホルダーに対して前記ボルトの軸方向と略直交する方向にのみ変位可能に取り付けられたマーキング用ローラとを備えたボルト・ナット用マーキング用具とする。
【0008】
また、前記マーキング用ローラが、前記マーキングホルダーに設けられたローラ保持部材に保持されて取り付けられている構成とすることが好ましい。
【0009】
また、前記マーキング用ローラの支軸が、前記ボルトの軸方向と略直交する方向に延びる水平溝に係合し前記水平溝内を自在に摺動する構成とすることが好ましく、前記マーキング用ローラを前記ボルトの軸部に近付く方向へ付勢する弾性体を備えた構成とすることがさらに好ましい。
【0010】
また、前記マーキングホルダーの下方に、前記締結したボルト・ナット・ワッシャーに被せられるガイド用スライダーが設けられており、前記マーキングホルダーは前記ガイド用スライダーに対して前記ボルトの軸方向にスライド自在である構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、マークの途切れを抑制し、直線状に連続した鮮明なマークを付すことが可能なボルト・ナット用マーキング用具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態のボルト・ナット用マーキング用具の正面図である。
【
図2】実施形態のボルト・ナット用マーキング用具の中央縦断面図である。なお、マーキング対象である一次締めされたボルトに装着された状態を示す。
【
図3】
図1の要部拡大図である。なお、マーキング用ローラ及びローラ保持部材を示している。
【
図4】
図3に示すマーキング用ローラ及びローラ保持部材の底面図である。
【
図5】
図2に示すボルト・ナット用マーキング用具を被締結部材に近付く方向へ押し下げ、マーキング用ローラがナット等の天面に接触した状態を示す断面図である。
【
図6】
図5に示すボルト・ナット用マーキング用具をさらに押し下げ、マーキング用ローラがボルト・ナット等の部材同士の境界である角部に押し付けられた状態を示す断面図である。
【
図7】
図6について、支軸にかかる合力を示す説明図である。なお、断面のハッチングは省略している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に発明を実施するための形態を示す。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のボルト・ナット用マーキング用具1は、全体が略円筒形状のマーキングホルダー2と、マーキングホルダー2の内側において回転可能に軸支されたマーキング用ローラ3とを備えている。
【0014】
ボルト・ナット用マーキング用具1は、
図2に示されるように、ボルト4、ナット5及びワッシャー6などの締結部材と、これら締結部材によって締結された鋼材などの被締結部材7(71、72)のうち締結部材側に位置する被締結部材71とに対して、その表面に直線状のマークを付すために用いられる。
【0015】
マーキングホルダー2は、マーキング対象物である締結されたボルト4・ナット5・ワッシャー6に被せられて、これら締結部材の先端から基端方向に向けて移動操作されるものである。
図1及び
図2に示されるように、実施形態のマーキングホルダー2は、図中下側の面が開口し、前記締結部材に被せることが可能な大きさで形成された中空の胴部21と、胴部21と一体に形成され、その内部にマーキング用ローラ3の取付機構の少なくとも一部を収容可能な断面略コ字状の凸部22とを備えている。
【0016】
マーキング用ローラ3は、マーキング対象物に対して回転しながら接触することにより略直線状のマークを付着させることができるものである。実施形態のマーキング用ローラ3は、マーキング用インキを含浸させることが可能なフェルト製の印字体であって、回転中心となる支軸31を備えている。マーキング用ローラ3に含浸させるインキは、屋外でのマーキングが可能なインキであれば特に限定されない。なお、マーキング用ローラ3にインキを供給するインキ吸蔵体を設ける構成とすることも可能であるが、実施形態のインキ含浸式のほうがボルト・ナット用マーキング用具1の小型化に寄与する。また、実施形態のボルト・ナット用マーキング用具1には2個のマーキング用ローラ3(3A、3B)が設けられているが、1個または3個以上のマーキング用ローラ3を設ける構成とすることもできる。
【0017】
図2に示されるように、実施形態の凸部22の内側には、マーキング用ローラ3を保持するローラ保持部材23が設けられている。なお、マーキング用ローラ3は、実施形態のようにローラ保持部材23に保持される構成に限定されず、マーキングホルダー2に直接取り付けられる構成であってもよい。実施形態のローラ保持部材23は、
図3及び
図4に示されるように、正面視略L字状の一対の壁部24を備え、対向する壁部24、24の間にマーキング用ローラ3(3A、3B)が配置されている。
【0018】
壁部24には、支軸31を係合させることが可能な水平溝25が設けられている。実施形態の水平溝25は、マーキングホルダー2に組付けられたときにボルト4の軸方向と略直交する方向に延びる長孔である。水平溝25に係合した支軸31(31A、31B)は、水平溝25内をその長手方向に沿って自在に摺動することができる。これにより、マーキング用ローラ3を、マーキングホルダー2の内側に収容されたボルト4の軸方向と略直交する方向にのみ変位可能に軸支することができる。
【0019】
なお、実施形態では、壁部24、24にそれぞれ水平溝25(25A、25B)が形成され、水平溝25Aと水平溝25Bとは互いに上下及び左右の中心がずれるように配置されている。これにより、
図3における上側のマーキング用ローラ3Aは相対的にマーキングホルダー2の中心に近い位置に配置され、
図3における下側のマーキング用ローラ3Bはマーキング用ローラ3Aより外側の位置に配置される。
【0020】
このような構成とすれば、マーキング対象物の略上半分に対してはマーキング用ローラ3Aによってマークを付し、マーキング対象物の略下半分に対してはマーキング用ローラ3Bによってマークを付すことができるので、ボルト・ナット用マーキング用具1のストローク距離が短くて済み、マーキングホルダー2の長手方向のサイズを小さくすることができる。
【0021】
また、
図2及び
図4に示されるように、実施形態のローラ保持部材23には、マーキング用ローラ3をボルト4の軸部41に近付く方向へ付勢する弾性体である板バネ26が設けられている。実施形態では、1つのマーキング用ローラ3に対して2つの板バネ26が設けられ、これらの板バネ26が支軸31をマーキングホルダー2の内側に向けて押圧している。これにより、マーキング用ローラ3がマーキング対象物に対して密着する方向に付勢される。
【0022】
また、ボルト・ナット用マーキング用具1には、マーキング対象物のうち締結されたボルト4・ナット5・ワッシャー6に被せることが可能な大きさで形成された内筒であるガイド用スライダー8を設けることが好ましい。実施形態のガイド用スライダー8は、
図1及び
図2に示されるように、マーキングホルダー2の下方に設けられ、互いに図中上下方向にスライド自在となっている。マーキングホルダー2の天面とガイド用スライダー8の天面との間には、復帰用の圧縮コイルバネ81が設けられている。
【0023】
なお、実施形態のガイド用スライダー8は、マーキングホルダー2の胴部21の内面に沿うように嵌合して互いに上下にスライド自在となっている。したがって、マーキング用ローラ3は当然にガイド用スライダー8の内側に位置することとなる。そこで、実施形態のガイド用スライダー8にはローラ保持部材23が通過可能な大きさのスリット82が形成され、これによりマーキングホルダー2がスライド移動する際にもマーキング用ローラ3がガイド用スライダー8と干渉しない構成となっている。
【0024】
このようなガイド用スライダー8が設けられたボルト・ナット用マーキング用具1であれば、ボルト4に被せるときの位置決めが正確かつ容易にできる。また、ガイド用スライダー8は圧縮コイルバネ81によって付勢されているので、マーキング操作の後には自動的に初期位置に戻ることができ、連続捺印性に優れる。
【0025】
次に、実施形態において、マーキング対象物にマークを施す際のボルト・ナット用マーキング用具1の挙動について説明する。まず、
図2に示されるように、実施形態のボルト・ナット用マーキング用具1を、一次締めされた締結部材であるボルト4・ナット5・ワッシャー6に被せ、ガイド用スライダー8の下端を被締結部材71の表面に当接させる。この状態では、図中上側のマーキング用ローラ3A及び図中下側のマーキング用ローラ3Bはいずれもマーキング対象物から離間している。
【0026】
次に、マーキングホルダー2を被締結部材71に近付く方向へ押圧し、ボルト4の先端から基端方向に向けて移動させる。そうすると、マーキング用ローラ3Aがボルト4の軸部41に接し、マーキング用ローラ3Bがナット5の天面51と外側面52との境目となる上端縁部に接する。
【0027】
さらにマーキングホルダー2を押圧すると、マーキング用ローラ3がマーキング対象物の表面に接触しながらボルト4の基端側へ移動し、その軌跡にマークが付される。その後、
図5に示されるように、マーキング用ローラ3Aがナット5の天面51に当接し、マーキング用ローラ3Bがワッシャー6の天面61及び被締結部材71の表面に当接した状態となる。
【0028】
さらに、
図6に示されるように、マーキングホルダー2の下端が被締結部材71に当接するまでマーキングホルダー2を押圧すると、図中上側からの押圧力を受けたマーキング用ローラ3Aはナット5の天面51に押し付けられ、マーキング用ローラ3Bはワッシャー6の天面61及び被締結部材71の表面に押し付けられる。
【0029】
このとき、マーキング用ローラ3には、図中下向きに押される力のほかに、マーキング対象物から受ける図中上向きの応力がかかるところ、実施形態では支軸31と水平溝25との係合によりマーキング用ローラ3の図中上下方向への移動が規制されているので、マーキング用ローラ3が図中上方向へ逃げることが抑制される。これにより、マーキング用ローラ3が圧縮されてマーキング対象物の凹凸形状に沿って変形する。
【0030】
これにより、ボルト4とナット5の境目やワッシャー6と被締結部材71の境目など、部材同士の境界部分である略直角の角部S(S1、S2、S3)に対してマーキング用ローラ3が密着し、マークの途切れが抑制されて直線状に連続した鮮明なマークを付すことができる。また、例えば
図6に示すナット5とワッシャー6の境目の角部S2のように、ナット5やマーキング用ローラ3のサイズによってはマーキング用ローラ3が角部Sに密着しない場合も考えられるが、この場合であってもマーキング用ローラ3の圧縮変形により含浸されたインキが吐出されることにより、マークの途切れを抑制することが可能である。
【0031】
また、支軸31をボルト4の中心軸に近付く方向へ付勢する弾性体である板バネ26が設けられていると、マーキング用ローラ3が角部S(S1、S3)にさらに押し付けられる効果が得られる。具体的には、
図7に示されるように、支軸31に対して図中下向きに押圧される力Pと板バネ26による付勢力Fとがかかるので、その合力Rによってマーキング用ローラ3が角部S(S1、S3)に押し付けられることになる。これにより、さらに鮮明なマーキングが可能なボルト・ナット用マーキング用具1とすることができる。
【0032】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、実施形態ではナット5の外側面52の平面部及び角部のいずれにおいても任意の位置にマークを付すことができるような構成となっているが、特定の位置にマークを付すようにマーキング用ローラ3の位置をガイドする位置決め部材を設けることも可能である。
【0033】
また、ローラ保持部材23を備えないボルト・ナット用マーキング用具1の場合は、
マーキングホルダー2に水平溝25及び/または板バネ26が設けられた構成とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ボルト・ナット用マーキング用具
2 マーキングホルダー
21 胴部
22 凸部
23 ローラ保持部材
24 壁部
25 水平溝
26 板バネ
3 マーキング用ローラ
31 支軸
4 ボルト
41 軸部
5 ナット
51 天面
52 外側面
6 ワッシャー
61 天面
7 被締結部材
8 ガイド用スライダー
81 復帰用バネ
82 スリット