(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140477
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】グラフト共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 263/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C08F263/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046332
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】副島 敬正
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA38
4J026AA49
4J026AA76
4J026BA05
4J026BA27
4J026BA31
4J026BA32
4J026BB04
4J026DA02
4J026DA12
4J026DB02
4J026DB12
4J026FA03
4J026FA08
4J026GA01
(57)【要約】
【課題】流動性に優れたアクリル系繊維を作製するのに適したグラフト共重合体を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含む枝ポリマー(B)とを含み、枝ポリマー(B)は、第1の末端と第2の末端とを有し、第2の末端で幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体であって、枝ポリマー(B)は、第2の末端を含み、かつ、枝ポリマー(B)中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の70モル%以上を含み、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の含有量が、前記枝ポリマー(B)中の全構成単位に対し、3モル%以上30モル%以下である、グラフト共重合体を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル(a1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)に由来する構成単位を含むアクリル系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、
アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位を含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、
前記枝ポリマー(B)は、第1の末端と第2の末端とを有し、前記第2の末端で前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体であって、
前記枝ポリマー(B)は、前記第2の末端を含み、かつ、前記枝ポリマー(B)中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、前記アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の70モル%以上を含み、
前記アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の含有量が、前記枝ポリマー(B)中の全構成単位に対し、3モル%以上30モル%以下である、グラフト共重合体。
【請求項2】
前記その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)が、酢酸ビニルである、請求項1のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
前記その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、スチレン系モノマー、ニトリル基含有ビニルモノマー、及びアミド基含有ビニルモノマーからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
前記枝ポリマー(B)の数平均分子量が、1000以上50000以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂を幹ポリマーとするグラフト共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルとハロゲン化ビニル等とを共重合したアクリル系樹脂で構成されるアクリル系繊維は、人工毛髪、難燃性素材、及びパイル布帛等のさまざまな製品に用いられてきた。従来から、アクリル系樹脂は、軟化温度よりも分解開始温度が低く、溶融加工すると分解してしまうため、湿式紡糸法で繊維化されてきた。しかし、湿式紡糸法の場合、排水負荷が高く、溶剤の回収コストが高い。
【0003】
そこで、特許文献1では、アクリロニトリルと、その他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合したアクリル樹脂を、エチレン性不飽和モノマーからなるマクロモノマーでグラフトしたグラフト共重合体を用いることにより、溶融紡糸法によりアクリル系繊維を作製できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクリル系繊維が溶融紡糸法で作成できるようになったことから、溶融紡糸法には、湿式紡糸法等の従来の加工方法との機能的な差別化が求められており、また、アクリル系樹脂には、さまざまな溶融加工法への適応が求められている。例えば、機能の差別化を図ったり、加工適用可能性を広げたりするために、流動性に優れたアクリル系繊維が求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、流動性に優れたアクリル系繊維を作製するのに適したグラフト共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グラフト共重合体において、枝ポリマーの構成原料となるマクロモノマー中の特定の領域に、アクリロニトリルに由来する構成単位を所定量導入することにより、流動性向上といった従来のグラフト共重合体には見られなかった特性を付与できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の一態様は、アクリロニトリル(a1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)に由来する構成単位を含むアクリル系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、
アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位を含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、
上記枝ポリマー(B)は、第1の末端と第2の末端とを有し、上記第2の末端で上記幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体であって、
前記枝ポリマー(B)は、前記第2の末端を含み、かつ、前記枝ポリマー(B)中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、前記アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の70モル%以上を含み、
上記アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の含有量が、上記枝ポリマー(B)中の全構成単位に対し、3モル%以上30モル%以下である、グラフト共重合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流動性に優れたグラフト共重合体を提供することができる。本発明に係るグラフト共重合体を用いて、流動性に優れたアクリル系繊維を好適に作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のグラフト共重合体をグラフト共重合体(ω)という場合がある。以下、このグラフト共重合体について、説明する。
【0011】
<グラフト共重合体(ω)>
グラフト共重合体(ω)は、アクリロニトリル(a1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)に由来する構成単位を含むアクリル系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、
アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位を含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含む。
【0012】
(枝ポリマー(B))
枝ポリマー(B)は、第1の末端と第2の末端とを有し、上記第2の末端で上記幹ポリマー(A)にグラフトしている。上記第1の末端は、枝ポリマー(B)の中で、上記幹ポリマー(A)から最も遠い位置に存在する自由端である。
枝ポリマー(B)は、上記第2の末端を含む基端領域と、該基端領域以外の領域(以下、「非基端領域」ともいう。)とからなる。
枝ポリマー(B)は、前記第2の末端を含み、かつ、前記枝ポリマー(B)中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、前記アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の70モル%以上を含む。本明細書では、このような構造を、「ωブロック型構造」と称する。
【0013】
枝ポリマー(B)は、高流動性の観点から、上記基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更により好ましくは95モル%以上を含む。枝ポリマー(B)は、上記基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する全構成単位の100モル%以下、99モル%以下、98モル%以下、又は97モル%以下を含んでよい。
【0014】
上記基端領域中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の割合は、高流動性の観点から、基端領域中の全構成単位の数に対し、好ましくは10%以上100%以下であり、より好ましくは15%以上100%以下である。上記基端領域中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の割合が100%未満の場合、上記基端領域中には、上記その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位が含まれる。
上記基端領域中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位の比(b1/b2)は、好ましくは10/90以上100/0以下であり、より好ましくは15/85以上100/0以下である。
【0015】
上記非基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含んでいない態様としては、上記その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位のみからなり、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を全く含まない態様が好ましいが、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を少量含む態様も含まれる。すなわち、上記非基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含んでいないとは、上記非基端領域中に、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を実質的に含んでいないことを意味する。具体的には、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含んでいてもよいが、アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含む場合は、非基端領域中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の割合は、非基端領域中の全構成単位の数に対し、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
非基端領域中にアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位を含む場合、非基端領域中のその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位の割合は、非基端領域中の全構成単位の数に対し、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上である。
【0016】
ωブロック型構造を有する枝ポリマー(B)の構成原料であるその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)としては、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、スチレン系モノマー、ニトリル基含有ビニルモノマー、及びアミド基含有ビニルモノマーからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、炭素原子数が1以上18以下の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸脂肪族炭化水素エステル、(メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステル、(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステルが挙げられる。
【0018】
炭素原子数が1以上18以下の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸脂肪族炭化水素エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。
【0019】
また、前述した(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、エステル部分にヘテロ原子を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを用いてもよい。ヘテロ原子としては、特に限定されず、例えば、酸素(O)、フッ素(F)、窒素(N)等が挙げられる。上記エステル部分にヘテロ原子を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、及び(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。
【0020】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩が挙げられる。
【0021】
ニトリル基含有ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル以外のモノマーであって、例えば、メタクリロニトリルが挙げられる。
【0022】
アミド基含有ビニル系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、及びメタクリルアミドが挙げられる。
【0023】
枝ポリマー(B)の構成単位の数は、高流動性の観点から、好ましくは10個以上400個以下であり、より好ましくは15個以上150個以下である。
【0024】
枝ポリマー(B)中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位の含有量は、枝ポリマー(B)中の全構成単位に対し、高流動性の観点から、3モル%以上30モル%以下であり、好ましくは4モル%以上20モル%以下であり、より好ましくは4.5モル%以上15モル%以下である。
枝ポリマー(B)中のアクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位のモル含有量の比(b1/b2)は、好ましくは0.1/99.9以上20/80以下であり、より好ましくは1/99以上15/85以下である。
【0025】
枝ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、高流動性の観点から、好ましくは1000以上50000以下であり、より好ましくは2000以上20000以下である。枝ポリマー(B)は、分子量分布が狭い観点から、質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1以上1.5以下であることが好ましい。
【0026】
(幹ポリマー(A))
幹ポリマー(A)は、前述したように、アクリロニトリル(a1)に由来する構成単位及びその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)に由来する構成単位を含むアクリル系樹脂からなる。
【0027】
幹ポリマー(A)の構成原料であるその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)としては、酢酸ビニルが好ましい。
【0028】
上記アクリロニトリル(a1)に由来する構成単位の含有量は、高流動性の観点から、グラフト共重合体(ω)の全体に対し、好ましくは15質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。上記その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)に由来する構成単位の含有量は、高流動性の観点から、グラフト共重合体(ω)の全体に対し、好ましくは15質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。上記枝ポリマー(B)の含有量は、高流動性の観点から、グラフト共重合体(ω)の全体に対し、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0029】
グラフト共重合体(ω)の質量平均分子量(Mw)は、高流動性の観点から、好ましくは10000以上300000以下であり、より好ましくは20000以上150000以下である。
【0030】
<グラフト共重合体の製造方法>
グラフト共重合体(ω)は、例えば、幹ポリマー(A)を構成するアクリル系樹脂を調製するための上記アクリロニトリル(a1)及び上記その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)、並びに、上記枝ポリマー(B)を構成するマクロモノマーを共重合させることによって製造することができる。
【0031】
マクロモノマーとは、重合体の末端に反応性官能基を有するオリゴマー分子を意味する。上記枝ポリマー(B)を構成するマクロモノマーは、上記アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及び上記その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位を含む共重合体の末端に、反応性官能基として、例えば、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、及び下記一般式(1)で表される重合性の炭素-炭素二重結合を有する基からなる群から選ばれる重合性の炭素-炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個有することが好ましい。該マクロモノマーは通常ラジカル重合によって製造することができる。特に、上記アクリロニトリル(a1)や上記その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)との反応性が良好なことから、上記マクロモノマーにおいて、反応性官能基は下記一般式(1)で表される重合性の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。
【0032】
CH2=C(R)-C(O)O- (1)
一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1以上20以下の有機基を表す。Rの具体例としては、例えば、好ましくは-H、-CH3、-CH2CH3、-(CH2)nCH3(nは2以上19以下の整数を表す)、-C6H5、-CH2OH、及び-CNからなる群から選ばれる基であり、より好ましくは-H、及び-CH3からなる群から選ばれる基である。
【0033】
上記マクロモノマーの主鎖である、上記アクリロニトリル(b1)に由来する構成単位及び上記その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)に由来する構成単位を含む共重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物等を使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端等の制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0034】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0035】
「制御ラジカル重合法」は、更に、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応等を起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0036】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0037】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリング等による停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1~1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0038】
従って、「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、より好ましい重合法である。
【0039】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有する上記マクロモノマーの製造方法としては更に好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0040】
上記マクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、更に制御の容易さ等からリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0041】
グラフト共重合体(ω)用のマクロモノマーを原子移動ラジカル重合法により製造する場合、例えば、その他のエチレン性不飽和モノマー(b2)の単独重合体を作製し、次いで、上記単独重合体の末端に、アクリロニトリル(b1)、又はアクリロニトリル(b1)とその他のエチレン性不飽和モノマー(b2)とを反応させ、最後に、得られた重合体の末端に、反応性官能基を導入することにより製造することができる。
【0042】
グラフト共重合体(ω)の製造方法としては、重合の簡便さ及び重合発熱の緩和の観点から、溶液重合が好ましい。
【0043】
<アクリル系樹脂組成物>
本発明の1以上の実施形態において、グラフト共重合体(ω)からなるアクリル系樹脂に、該アクリル系樹脂と相溶性を有する可塑剤を配合してアクリル系樹脂組成物として用いることができる。
【0044】
可塑剤としては、アクリル系樹脂と相溶性を有し、かつ、沸点が200℃以上の有機化合物であればよく、特に限定されない。例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジブチルスルホン、ジフェニルスルホン、ビニルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルフェニルスルホンメチルビニルスルホン、3-メチルスルホラン等のスルホン系化合物;ジプロピルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジイソプロピルスルホキシド、メチルフェニルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジイソブチルスルホキシド、ジ-p-トリルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド及びベンジルスルホキシド等のスルホキシド系化合物;乳酸ラクチド等のラクチド類;ピロリドン、N-ビニルピロリドン、ε-カプロラクタム及びN-メチルカプロラクタム等のラクタム類;γ-ブチロラクトン、γ-ヘキサラクトン、γ-ヘプタラクトン、γ-オクタラクトン、ε-カプロラクトン及びε-オクタラクトン等のラクトン類を用いることができる。また、可塑剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
可塑剤は、繊維が該可塑剤の融点よりも高い温度で保持されたときに、液体となって繊維表面に滲み出てくる場合があるため、繊維の外観や触感を低下させ、その後室温(25±5℃)に戻った際に固体となって繊維間が膠着する問題が発生し易くなる。特に海外輸送時には船内コンテナで60℃まで室内温度の上がる場合があり、繊維加工時には短時間ではあるものの90℃となることもあることから、前記アクリル系樹脂向け可塑剤の融点は60℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上である。例えば、ジメチルスルホン、乳酸ラクチド及びε-カプロラクタムからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、ジメチルスルホン及び乳酸ラクチドからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましい。
【0046】
アクリル系樹脂組成物は、溶融加工性の観点から、上記アクリル系樹脂100質量部に対して、上記可塑剤を0.1質量部以上50質量部以下含むことが好ましい。可塑剤の配合量が50質量部以下であると、溶融加工性が良好であるとともに、溶融混練時の樹脂粘度が向上するため混練効率が向上する傾向となる。
【0047】
アクリル系樹脂組成物は、更に、熱安定性のため、安定剤を含んでもよい。安定剤としては、熱安定性を付与するものであればよく、特に限定されない。安定剤は、溶融加工性を向上しつつ、着色を抑制し、透明性を確保する観点から、エポキシ系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、錫系熱安定剤、Ca-Zn系熱安定剤、及びβ-ジケトン系熱安定剤からなる群から選択される少なくとも1種以上の安定剤であることが好ましい。安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0048】
アクリル系樹脂組成物は、アクリル系樹脂100質量部に対して、安定剤を0.1質量部以上30質量部以下含むことが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上20質量部以下含み、更に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下含む。0.1質量部以上であると、着色抑制効果が良好である。また、30質量部以下であると、着色抑制効果が良好であるとともに、透明性を確保でき、かつアクリル系樹脂成形体の力学特性の低下が軽微となる。
【0049】
アクリル系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、アクリル系樹脂と加工機との摩擦、剪断による発熱の低減、流動性及び離型性の向上の観点から、滑剤を含んでもよい。滑剤としては、例えば、ステアリン酸モノグリセライド、及びステアリルステアレート等の脂肪酸エステル系滑剤、流動パラフィン、パラフィンワックス、及び合成ポリエチレンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリルアルコール等の高級アルコール系滑剤、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、及びエルカ酸アミド等の脂肪族アミド系滑剤、メチレンビスステアリン酸アミド、及びエチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド系滑剤、ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸系滑剤等を用いることができる。これらは一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。滑剤の添加量は、アクリル系樹脂100質量部に対して、10質量部以下にすればよい。
【0050】
アクリル系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、モダクリル加工助剤等の加工助剤を含んでもよい。アクリル系樹脂組成物で繊維を構成する場合は、曳糸性を高める観点から、加工助剤として、(メタ)アクリレート系重合体及び/又はスチレン・アクリロニトリル共重合体を含むことが好ましい。(メタ)アクリレート系重合体としては、(メタ)アクリレートと、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル等の共重合成分との共重合体を用いることができる。また、(メタ)アクリレート系重合体としては、市販のもの、例えば、カネカ製の「カネエースPA20」、「カネエースPA101」等を用いることができる。加工助剤の添加量は、アクリル系樹脂100質量部に対して、10質量部以下にすることができる。
【0051】
アクリル系樹脂組成物は、溶融状態で用いる、すなわち溶融物として用いることができる。上記熱アクリル系樹脂組成物を溶融混練することで、溶融物を得ることができる。溶融混練の方法は、特に限定されず、樹脂組成物を溶融混練する一般的な方法を用いることができる。
【0052】
上記で得られたアクリル系樹脂組成物を、所定の形状に加工することで成形体を得ることができる。成形方法は、特に限定されず、押出成形法、射出成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、プレス成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、回転成形法、スラッシュ成形法、ディップ成形法、キャスト成形法等が挙げられる。成形体としては、フィルム、プレート、繊維、押出成形体、射出成形体等が挙げられる。前記成形体は、発泡体でもよく、多孔質でもよい。本発明において、「フィルム」とは、厚みが200μm以下の薄膜状で、かつ柔軟性を有するものをいい、「プレート」とは、厚みが200μmを超える薄膜状もしくは板状のもので、かつ柔軟性のないものをいう。
【0053】
アクリル系樹脂組成物からアクリル系繊維を構成することができる。具体的には、上記アクリル系樹脂組成物(例えば、溶融混練後のペレット状のアクリル系樹脂組成物)を溶融紡糸することで、アクリル系繊維を得ることができる。まず、上記アクリル系樹脂組成物を溶融紡糸して繊維状の未延伸糸にする。具体的には、押出機、例えば、一軸押出機、異方向二軸押出機、コニカル二軸押出機にて溶融混練したアクリル系樹脂組成物の溶融混練物(ペレット状のアクリル系樹脂組成物)を、押出機にて紡糸ノズルから吐出し、加熱筒を通過させてアクリル系樹脂組成物の繊維化物を引取機で引取可能な温度以上に昇温した後、空冷、風冷等の手段でガラス転移点以下の温度に冷却しながら、引き取ることで未延伸糸を形成する。押出機は、例えば、120℃以上200℃以下の温度範囲で運転することが好ましい。引取速度/吐出速度の比は、特に限定されないが、例えば、1倍以上100倍以下の範囲となる速度比で引き取ることが好ましく、紡糸安定性の観点から5倍以上50倍以下の範囲であることがより好ましい。紡糸ノズルの口径は、特に限定されないが、例えば、0.05mm以上2mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1mm以下であることがより好ましい。紡糸ノズルからの吐出物がメルトフラクチャーを発現しないノズル温度以上で押し出すことが好ましい。紡糸ノズルの温度は、160℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。加熱筒の温度は、200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。冷却温度は、空冷で-196℃以上40℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以上30℃以下であり、水冷で5℃以上60℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上40℃以下である。
【0054】
上記で得られた未延伸糸に、公知の方法で延伸処理、及び必要に応じて熱緩和処理を施こすことができる。例えば、人工毛髪として用いる場合は、単繊維繊度が2dtex以上100dtex以下の繊維にすることが好ましい。延伸処理条件としては延伸処理温度70℃以上150℃以下の乾熱雰囲気下で、延伸倍率は1.1倍以上6倍以下程度にすることが好ましく、1.5倍以上4.5倍以下程度であることが更に好ましい。延伸処理を施した繊維に熱緩和処理を施して、好ましくは1%以上50%以下の緩和率で、より好ましくは5%以上40%以下の緩和率で繊維を緩和処理することにより、熱収縮率を低下させることができる。また繊維表面の凹凸を整えて、人毛に類似したサラサラ触感とするためにも熱緩和処理が好ましい。また、未延伸糸又は延伸糸を水洗することで、繊度のコントロールを行なうことも可能である。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0056】
まず、各種測定方法及び評価方法を説明する。
(1)質量平均分子量及び数平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製の「HLC-8320GPC」)を用いて測定・算出した。
(2)貯蔵弾性率G’
動的粘弾性装置(TA Instruments社製の「ARES-G2」)を用いて、各実施例及び比較例で得られたグラフト共重合体について、60℃及び120℃で、角周波数1rad/sでの貯蔵弾性率G’を測定した。測定条件は以下のとおりである。
・モード:ねじりモード
・プレート径:8mmφ
・歪み:0.01%(25℃)
(3)ガラス転移温度
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製の「DSC-6100」)を用いて、各実施例及び比較例で得られたグラフト共重合体について、-80℃から160℃まで20℃/minで昇温した後に、再度-80℃まで20℃/minにて降温し、熱履歴を排除した上で、もう一度-80℃から160℃へ10℃/minで昇温することにより測定した。
【0057】
[マクロモノマーの作製]
(製造例1)
反応容器に、アクリル酸2-メトキシエチル80質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2-ブロモ酪酸エチル3.43質量部、及びトリエチルアミン0.18質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0197質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0203質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。更に、アスコルビン酸0.031質量部及びトリエチルアミン0.036質量部をメタノール3.0質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から120分後、反応容器内のモノマー消費率が80%(全モノマー消費率64%)に達した時に、アクリロニトリル2.1質量部、アクリル酸2―メトキシエチル17.9質量部を60分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から390分後、反応容器内のモノマー消費率が95%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリマー1を得た。
【0058】
フラスコに、片末端Br基ポリマー1を100質量部仕込み、ジメチルアセトアミド100質量部で希釈し、そこへ、アクリル酸カリウム3.9質量部を加えて、70℃で3時間加熱攪拌を行った。その後、反応混合物よりジメチルアセトアミドを留去し、反応混合物をトルエンに溶解させ、活性アルミナカラムを通したのち、トルエンを留去することにより、アクリロニトリルに由来する構成単位がアクリロイル基末端側に多く含まれる片末端アクリロイル基マクロモノマー1を得た。得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー1の数平均分子量は6000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。なお、片末端アクリロイル基マクロモノマー1は、アクリロイル基末端を含み、かつ、片末端アクリロイル基マクロモノマー1中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、アクリロニトリルに由来する全構成単位の100モル%を含む。
【0059】
(製造例2)
反応容器に、アクリル酸2-メトキシエチル80質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2-ブロモ酪酸エチル3.54質量部、及びトリエチルアミン0.18質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0203質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0209質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。更に、アスコルビン酸0.799質量部及びトリエチルアミン0.918質量部をメタノール14.3質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から120分後、反応容器内のモノマー消費率が87%(全モノマー消費率70%)に達した時に、アクリロニトリル4.3質量部、アクリル酸2―メトキシエチル15.7質量部を60分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から390分後、反応容器内のモノマー消費率が95%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリマー2を得た。
【0060】
得られた片末端Br基ポリマー2は、製造例1と同様にして、片末端アクリロイル基に変換し、得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー2の数平均分子量は6000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。なお、片末端アクリロイル基マクロモノマー2は、アクリロイル基末端を含み、かつ、片末端アクリロイル基マクロモノマー2中の全構成単位の数の半数の構成単位を含む基端領域中に、アクリロニトリルに由来する全構成単位の100モル%を含む。
【0061】
(製造例3)
反応容器に、アクリル酸2-メトキシエチル40質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2-ブロモ酪酸エチル3.33質量部、及びトリエチルアミン0.18質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0191質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0197質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。更に、アスコルビン酸0.015質量部及びトリエチルアミン0.017質量部をメタノール3.0質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から60分後、反応容器内のモノマー消費率が37%(全モノマー消費率15%)に達した時に、アクリル酸2―メトキシエチル60質量部を60分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から310分後、反応容器内のモノマー消費率が95%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリマー3を得た。
【0062】
得られた片末端Br基ポリマー3は、製造例1と同様にして、片末端アクリロイル基に変換し、アクリロニトリルに由来する構成単位が含まれない片末端アクリロイル基マクロモノマー3を得た。得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー3の数平均分子量は6000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。
【0063】
[グラフト共重合体の作製]
(実施例1)
重合反応器内に、酢酸ビニル66.5質量部、アクリロニトリル6.7質量部、製造例1で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー1を5質量部、ジメチルアセトアミド40質量部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルロニトリル)1.35質量部を仕込んだ後、15分間窒素雰囲気下で攪拌した。その後、重合反応器を70℃に上昇させて重合を開始した。昇温開始から30分後、アクリロニトリル26.8部を7時間一定の速度で連続的に添加した。アクリロニトリルの滴下終了から30分後(昇温開始から8時間後)まで溶液重合を行った。得られた重合物を、熱風乾燥機にて50℃で3時間乾燥し、更に真空乾燥機にて120℃で12時間乾燥して、グラフト共重合体1を得た。得られたグラフト共重合体1は、酢酸ビニルに由来する構成単位が58.6質量%、アクリロニトリルに由来する構成単位が35.4質量%、片末端マクロモノマーに由来する構成単位が6.0質量%で、質量平均分子量は約29000であった。
【0064】
(実施例2)
製造例1で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー1に代えて製造例2で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体2を得た。得られたグラフト共重合体2は、酢酸ビニルに由来する構成単位が58.7質量%、アクリロニトリルに由来する構成単位が35.5質量%、片末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.7質量%で、質量平均分子量は約26000であった。
【0065】
(比較例1)
製造例1で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー1に代えて製造例3で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー3を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体3を得た。得られたグラフト共重合体3は、酢酸ビニルに由来する構成単位が59.3質量%、アクリロニトリルに由来する構成単位が35.2質量%、片末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.6質量%で、質量平均分子量は約30000であった。
【0066】
実施例1、2、及び比較例1で得られたグラフト共重合体の貯蔵弾性率を上述したとおりに評価し、その結果を下記表1に示した。なお、表1に記載された「AN」は、アクリロニトリルを意味する。
【0067】
【0068】
表1の結果から、枝ポリマーにアクリロニトリルを導入していない比較例1のグラフト共重合体と比較して、幹ポリマーから近い領域にアクリロニトリルを導入した実施例1及び2のグラフト共重合体では、120℃での貯蔵弾性率が低下し、流動性が高くなることが分かった。
これらの実験結果から、枝ポリマーにアクリロニトリルをブロック的に導入することで、その部位に応じて、流動性向上といった異なる特性を付与することが可能となった。