(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140481
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】衛生陶器
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C04B41/86 R
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046341
(22)【出願日】2022-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】笠原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 知貴
(72)【発明者】
【氏名】新崎 朝規
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亜希
(57)【要約】
【課題】同様の釉薬を用いた場合に、美観に影響を与えない素地を用いた衛生陶器を提供すること。
【解決手段】陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であることを特徴とする衛生陶器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項2】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項3】
記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であることを特徴とする請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項4】
前記素地の第1の部分及び第2の部分における、L*a*b*表色系で表したL値が70以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記釉薬層の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが2以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の衛生陶器。
【請求項6】
前記素地材料にステインを含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の衛生陶器。
【請求項7】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することを特徴とする製造方法。
【請求項8】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であることを確認する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することを特徴とする製造方法。
【請求項10】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であることを確認する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釉薬層への素地の色の影響を抑え、美観への素地の色の影響を抑えることができる衛生陶器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器において、素地の色の影響を抑えるために上層釉薬と素地の色の色差を調整する技術が知られている(特開2019-52062号公報)。
この技術では、素地の色合いが変化すると釉薬と素地の色差が生じてしまうため、様々な素地に対応した釉薬を用意する必要がある。また、素地と釉薬の色差を制御しただけでは、釉薬が同じ色品番であっても品番間の色差が生じる可能性もある。ここで、同じ色品番とは、釉薬層により着色された衛生陶器の外観の色をいい、衛生陶器の販売時に記載される同一の色名や、色を示す番号などの分類を指す。また、使用者から見て同一の色として認識されているものも含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、同様の釉薬を用いた場合に、美観に影響を与えない素地を用いた衛生陶器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の衛生陶器は、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなり、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であることを特徴とするものである。また、別の態様として、本発明の衛生陶器は、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなり、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の衛生陶器においては、素地の色合いを所定の色合いに制御することで、釉薬層への素地の色の影響を抑えることができ、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】表2に示された陶器素地のΔEと、表5に示された釉薬のΔEとの関係を示すグラフである。
【
図2】表2に示された陶器素地のΔLの絶対値と、表5に示された釉薬のΔEとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の衛生陶器の素地には、以下に例示するものを使用することができるが、本発明において素地はこれらに限定されるものではない。
(1)素地は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2:50~75wt%、Al2O3:17~40wt%、K2O+Na2O:1~10wt%を含む。ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2:50~80wt%、Al2O3:10~40wt%、K2O+Na2O:4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ0~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、α-アルミナを含まない素地材料(例えば、熔化質素地)であってよい。素地材料におけるSiO2/Al2O3比が1より大きいことが好ましい。
(2)焼成時の全体の化学組成として、素地を構成する主成分の組成は、SiO2:45~70重量%、Al2O3:25~50重量%である。前記素地中には、さらにアルカリ金属酸化物及びCaO、MgO、BaO、BeOからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物が併せて6重量%以下含有されている。前記素地中におけるアルカリ金属酸化物量は2重量%以下である。アルカリ金属酸化物のうちの必須成分としてNa2Oを、任意成分としてK2Oを含有し、かつNa2OとK2Oとの合計量に対してNa2Oが20重量%以上である。さらに素地の色を調整するステインを添加してもよい。
ステインとしては、例えば、Fe-Cr系の黒顔料、Fe-Zr系の茶顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料等を添加する。
(3)素地材料は、(1)の素地材料及び(4)の素地材料を混合して所望の組成とすることができる。例えば、焼成時の全体の化学組成、ガラス相、結晶相、ガラス相を構成する主成分の化学組成、結晶相を構成する主成分の鉱物組成について、それぞれを、上述した(1)の素地材料の各値と、(4)の素地材料の各値との間の範囲内の値に自在に制御することが可能である。
(4)素地は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2:20~45wt%、Al2O3:50~75wt%、K2O+Na2O:1~10wt%を含む。ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2:50~80wt%、Al2O3:10~40wt%、K2O+Na2O:4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ10~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。素地材料におけるAl2O3/SiO2比が1より大きいことが好ましい。さらに素地の色を調整するステインを添加してもよい。
【0009】
(1)及び(2)の素地材料は、原料として陶石を用いて作製されることが好ましい。陶石を構成する石英、セリサイト、カオリンなどの鉱物は、素地材料の成形体に着肉性を付与し、また成形体の主骨格となる。着肉性の向上は生産性を向上させる。陶石として、セリサイト陶石、カオリン陶石などを用いることができる。
また、(1)及び(2)の素地材料は、主として石系原料を用いて作製されることが好ましい。石系原料としては、陶石、長石、ドロマイトなどが挙げられる。長石、ドロマイトは素地材料の焼成体に焼締りを付与する。また、ドロマイトは焼成温度を下げることができるため、エネルギー費が低減され陶器製品を経済的に生産することができ、工業的生産(量産)にも適している。
長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、灰長石の様な長石質鉱物やネフェライト、及び天然ガラス、フリットなどが挙げられる。これらの原料は各種の長石質原料やネフェリンサイアナイト、コーニッシューストーン、さば、ガラス質火山岩、及び各種陶石中に豊富に含まれており、粘土質原料中にも含まれている。これらの長石類としては特にアルカリ成分としてK2O及びNa2Oを豊富に含むものが好ましい。長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、及びネフェライトが好ましい。また、素地原料中の石英の量をなるべく減らしたい場合には、その組成中に石英を実質的に全く含んでいないネフェリンサイアナイトを用いるのが好ましい。これらの長石類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存していてもよい。
粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイト、メタハロイサイト、ディッカイト、パイロフィライトなどの粘土質鉱物、セリサイト、イライトなどの粘土状雲母などが挙げられる。これらの鉱物は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ボールクレー、チャイナクレーなどの粘土質原料や各種陶石中に豊富に含まれており、長石質原料中にも含まれている。これらの粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイトが特に成形時の可塑性を向上させるのに優れており、セリサイトは素地の焼成温度を低下させることに効果が大きい。これらの粘土類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存していてもよい。
(1)及び(2)の素地材料には、α-アルミナが含まれていてもよい。例えば、α-アルミナとして別途粉砕したものを上記した素地原料に添加し、これらを粉砕混合して素地材料とすることができる。
【0010】
(1)及び(2)の素地材料は、原料を粉砕混合して作製する。(1)及び(2)の素地原料は石系原料を主成分として含むため、これら原料を粉砕混合することで所望の平均粒子径を有する素地材料を得ることができる。(1)及び(2)の素地材料の平均粒子径は、3μm~15μmであることが好ましく、5μm~12μmであることがより好ましい。特に、(1)及び(2)の素地原料が陶石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、平均粒子径を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。素地材料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、Malvern社製マスターサイザー3000や、日機装(株)製マイクロトラックMT-3000など)で測定することができ、累積体積50%の粒径(D50)として示すことができる。
【0011】
(1)及び(2)の素地原料の粉砕混合方法としては、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミルなどを用いた公知の方法を使用することができる。また、粉砕後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。分級の方法としては、振動篩、音波篩、各種スクリーナー、遠心分離機などを用いた公知の方法を使用することができる。
【0012】
(4)の素地材料は、原料として珪石及びα―アルミナを用いて作製されることが好ましい。珪石を構成する石英及びα―アルミナは、(4)の素地材料の成形体の主骨格となるため、低変形と強度が期待できる。
(4)の素地材料は、主として粉体原料を用いて作製されることが好ましい。粉体原料としては、珪石、α―アルミナ、長石、チャイナクレー、ボールクレーなどの粉体が挙げられる。長石の粉体は(4)の素地材料の焼成体に焼締りを付与する。なお、長石類については、先に説明したとおりである。
(4)の素地材料を作製するための原料は、珪石(粉体)、α―アルミナ(粉体)、粘土(粉体)および長石(粉体)を主成分として含むことが好ましい。なお、粘土類については、先に説明したとおりである。
【0013】
(4)の素地材料は、上記した原料を攪拌混合して作製することが好ましい。(4)の素地原料は粉体原料を主成分として含むため、これら粉体原料が所望の平均粒子径を有している場合は攪拌混合するだけで素地材料を得ることができる。攪拌混合方法は各原料の粒径分布を独立してコントロールできるため、最も簡便な方法である。粉体原料が所望の平均粒子径を有していない場合は、ボールミルなどを用いた原料の粉砕工程を設けるなど適宜調整すればよい。(4)の素地材料の平均粒子径は、1μm~13μmであることが好ましく、3μm~10μmであることがより好ましい。特に、第2の素地原料が珪石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、平均粒子径を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。
【0014】
(4)の素地原料の攪拌混合方法としては、公知の方法を使用することができ、例えばアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)を用いて攪拌混合することができる。また、攪拌後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。
【0015】
本発明の衛生陶器の素地は、第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下である。衛生陶器において、その表面の色が一定以上異なると色ムラがあると感じてしまう。本発明者らは、素地の第1の部分と第2の部分におけるL*a*b*表色系で表したΔEが12を超えると急激に衛生陶器表面における色差ΔEが大きくなり、色ムラがあると感じるようになることを見出した。前記ΔEは、好ましくは11.5以下であり、より好ましくは11以下である。また、前記素地の第1の部分及び第2の部分における、L*a*b*表色系で表したL*値がそれぞれ70以上であることが好ましい。このL*値が70以上であることにより、色ムラが感じにくくなる。前記L値は、より好ましくは75以上であり、さらに好ましくは80以上である。
また、別の態様として、本発明の衛生陶器の素地は、第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔL(第1の部分と第2の部分におけるL*の差)の絶対値が10以下である。本発明者らは、また素地の第1の部分と第2の部分におけるL*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10を超える場合にも急激に衛生陶器表面における色差ΔEが大きくなり、色ムラがあると感じるようになることを見出した。前記ΔLの絶対値は、より好ましくは9以下であり、さらに好ましくは8以下である。
本発明の衛生陶器は、好ましくは第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であり、かつΔLの絶対値が10以下である。
なお、衛生陶器の素地の色は、分光測色計(CM-3700A、コニカミノルタ)により求められる。例えば、観察光源測色用標準イルミナントD65(若しくは測色用標準イルミナントA、又はイルミナントF6)、測定回数3回、視野角10°、測定径25.4mmとし、平坦な面をセットして正反射光を除去したSCE方式によりL*、a*、b*を測定する。
分光測色計の構成は以下のとおりであるが、これに限定されるものではなく、設置された衛生陶器などを測定する際には、ハンディタイプの分光測色計CM-600d(コニカミノルタ製)などを使用してもよい。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:測色用標準イルミナントD65(若しくは測色用標準イルミナントA、又はイルミナントF6)
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0016】
本発明の衛生陶器の釉薬層には、以下に例示するものを使用することができるが、本発明において釉薬層はこれらに限定されるものではない。
釉薬層として、陶器素地表面に形成された着色性の第一の釉薬層と、さらにその上に形成された透明性の第二の釉薬層とからなる釉薬層や、着色性の第一の釉薬層のみの釉薬層などを使用することができる。
着色性の第一の釉薬層を形成するための釉薬には、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に顔料及び/又は乳濁剤を添加したものが使用できる。第一の釉薬の固形分の基本的組成は、SiO2:52~80重量部、Al2O3:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:3~11重量部、K2O:1~5重量部、Na2O:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。第一の釉薬中には、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。
顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
透明性の第二の釉薬層を形成するための釉薬には、上記第一の釉薬層を形成するための釉薬中に含有される顔料及び/又は乳濁剤以外の全金属成分に対するSi成分の重量比及びAl成分の重量比よりも、釉薬中に含有される全金属成分に対するSi成分の重量比及びAl成分の重量比の大きな非晶質釉薬、或いはこの非晶質釉薬に、(a)微粒化された珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物、及び/又は(b)珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物を加えたものが使用できる。
着色性の第一の釉薬は、ボールミルなどで混合し、必要に応じて粉砕することによって調製してもよい。また、顔料及び/又は乳濁剤が添加されている市販品の着色性釉薬を使用してもよい。
透明性の第二の釉薬は、例えば、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物と、非晶質釉薬とを、両者の合計和に対する非晶質釉薬の割合が望ましくは50~99重量%、より望ましくは60~90%になるように混合し、これをボールミルなどで混合し、必要に応じて粉砕して調製してもよい。
【0017】
着色性の第一の釉薬層を陶器素地成形体の表面に被覆し、さらに透明性の第二の釉薬を少なくともその一部分に施釉することにより、釉薬層を形成する。ここで着色性の第一の釉薬層の少なくとも一部分とは、例えば大便器におけるボウル面、トラップ部、リム裏などの汚れやすい一部分への適用、および大便器等の全体への適用の双方をさす。また適用方法は、スプレーコート、フローコート、印刷等の周知の方法が利用できる。
その後、800~1300℃の温度で焼成することにより、成形素地が焼結するとともに、2つの釉薬層が固着し衛生陶器となる。
着色性の第一の釉薬層のみを用いる場合は、着色性の第一の釉薬層を陶器素地成形体の表面に被覆した後、800~1300℃の温度で焼成する。
【0018】
衛生陶器の色は、分光測色計(CM-3700A、コニカミノルタ)により求められる。例えば、観察光源D65(A、F6)、測定回数3回、視野角10°、測定径25.4mmとし、平坦な面にセットして正反射光を除去したSCE方式によりL*、a*、b*を測定する。ここで、衛生陶器の色は、表面に釉薬が施された衛生陶器の、第1の部分と第2の部分におけるL*a*b*表色系で表したΔEが2以下であることが好ましい。このΔEが2以下であることにより、色ムラが感じにくくなる。前記ΔEは、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1以下である。
分光測色計の構成は以下のとおりであるが、これに限定されるものではなく、設置された衛生陶器などを測定する際には、ハンディタイプの分光測色計CM-600d(コニカミノルタ製)などを使用してもよい。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:D65(A、F6)
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0019】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、釉薬層への素地の色の影響を抑え、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えた衛生陶器は、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することによって製造することができる。
また、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、釉薬層への素地の色の影響を抑え、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えた衛生陶器は、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔEが12以下であることを確認する工程を含むことによって製造することができる。
また、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、釉薬層への素地の色の影響を抑え、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えた衛生陶器は、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することによって製造することができる。
また、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、釉薬層への素地の色の影響を抑え、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えた衛生陶器は、前記素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔLの絶対値が10以下であることを確認する工程を含むことによって製造することができる。
ここで、釉薬層への素地の色の影響を抑え、同様の釉薬を用いた場合に、美観への素地の色の影響を抑えた衛生陶器とは、同一製品における複数の異なる場所において、色ムラが抑えられた(感じられない)衛生陶器、及び複数の製品間において、色ムラが抑えられた(感じられない)複数の衛生陶器群の両方を含むものである。
同じ色品番の衛生陶器として、製造する際に基準となる素地として、需要の大きい水洗大便器に使用される素地(例えば、素地A)を第1の部分とし、水洗大便器と同じ空間に設置する可能性のある洗面器に使用される素地(例えば、素地B)を第2の部分とする。第1の部分および第2の部分の素地の色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出する。第1の部分と第2の部分のΔEが12以下および/またはΔLの絶対値が10以下になるように第2の部分の素地にステインを添加する(添加量を調整する)あるいは組成の中のFe2O3の割合を調整するなどして色合いを調整し、第2の部分の素地を調整する。
水洗大便器のような大型の衛生陶器において、製品全体の色合いを施釉前に確認するために同一の素地の部分を第1の部分とし、別の部分を第2の部分とし、色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、ΔEが12以下および/またはΔLの絶対値が10以下であるかを確認する。ΔEが12以下および/またはΔLの絶対値が10以下でなければ、施釉したとしても色合いが悪くなるため、製造不良として除外し、ΔEが12以下および/またはΔLの絶対値が10以下であれば合格品として次の工程(施釉工程)に進めることで、施釉前に品質を確認することができる。
【実施例0020】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(素地A)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を約48重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約35重量%、主焼結助剤である長石を約15重量%、およびドロマイトを約2重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が58%、50%平均粒径(D50)が8.0μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0022】
(素地B)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石等を約54重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約42重量%、焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が70%、50%平均粒径(D50)が5.5μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
成形体を、40℃で24時間乾燥した後、電気炉で1000℃まで4時間、1200℃まで2時間で昇温し、1200℃で1時間保持後、自然冷却するヒートカーブにより焼成した。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0023】
(素地C)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を約48重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約35重量%、主焼結助剤である長石を約15重量%、およびドロマイトを約2重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が58%、50%平均粒径(D50)が8.0μm程度になるまで湿式粉砕し、第1の素地材料を得た。
原料として、骨格形成材料である珪石およびα-アルミナを約64重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約32重量%、および焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)に入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた攪拌混合の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が75%、50%平均粒径(D50)が5.0μm程度になる第2の素地材料を得た。
第1の素地材料および第2の素地材料を50:50の混合比で混合し、陶器素地材料を得た。混合は攪拌混合を用いて行った。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0024】
(素地D)
原料として、骨格形成材料である珪石およびα-アルミナを約64重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約32重量%、および焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)に入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた攪拌混合の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が75%、50%平均粒径(D50)が5.0μm程度になる陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0025】
(素地E)
ステインを含まないことを除いて、素地Dと同様に焼成体を得た。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0026】
【0027】
(色の測定)
各陶器素地の色を、分光測色計(CM-3700A、コニカミノルタ)を用いて測定した。まず、測定前に校正板を用いて白色校正を行った。その後、目視でも明らかな傷や汚れを避けて、それぞれ素地について、1つの焼成体の任意の1箇所を第1の部分とし、別の焼成体の任意の1箇所を第2の部分として色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出した。なお、1つの焼成体の任意の2箇所を第1の部分と第2の部分として測定することもできる。第1の部分と第2の部分は、使用者の視野に入りやすい部分を設定することが望ましく、水洗大便器であれば、上面の部位や前側面、洗面器であれば上面の部位や前側面などとすることができる。素地Aを第1の部分とし、素地B~Eを第2の部分とし、これらの値に基づいてΔEおよびΔLの絶対値を求めた。得られたL*、a*、b*、ΔEおよびΔLの絶対値を表2に示す。なお、素地A~Eをそれぞれ4枚作成し、4枚の平均値を各素地の値として示す。
なお、使用した分光測色計の構成は以下のとおりである。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:D65(A、F6)
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0028】
【0029】
(釉薬)
表3の組成からなる釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬Aを得た。釉薬Aの色は、Fe-Zr系の茶顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料を組み合わせて調整することで、焼成後の釉薬層の色が、ホワイト、アイボリー、ピンク、グレーの4色になるよう調整した。釉薬層の色は、ここで上げた色以外の色でも良く、釉薬層の形成に影響しない顔料などを適宜調整することができる。
【表3】
【0030】
天然鉱物粒子の混合物からなる原料と、非晶質釉薬とを、両者の合計和に対する非晶質釉薬の割合が50~99重量%になるように調製した釉薬原料(表4の組成からなるもの)2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器性ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の透明性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が67%、50%平均粒径(D50)が5.8μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬Bを得た。
【表4】
【0031】
(衛生陶器)
各陶器素地に、下層として上記の釉薬Aをスプレーコーティング法により塗布し、更にその上に上層として釉薬Bをスプレーコーティング法により塗布した後、1100~1200℃で焼成することにより衛生陶器を得た。得られた衛生陶器について、陶器素地と同様に、釉薬層が形成された部分の色の測定を行い、L*、a*、b*、ΔEおよびΔLの絶対値を求めた。得られたL*、a*、b*、ΔEおよびΔLの絶対値を表5に示す。ΔE及びΔLの絶対値は、素地Aの釉薬層を第1の部分とし、素地B~Eの釉薬層を第2の部分とした。なお、施釉した素地A~Eをそれぞれ4枚作成し、4枚の平均値を各衛生陶器の値として示している。
図1は、表2に示された素地のΔEと、釉薬のΔEとの関係を示すグラフである。
図1のグラフから、素地のΔEが12以下である衛生陶器では、釉薬のΔEが2以下に抑えられており、色ムラが感じにくくなっていることが分かる。
図2は、表2に示された素地のΔLの絶対値と、釉薬のΔEとの関係を示すグラフである。
図2のグラフから、素地のΔLの絶対値が10以下である衛生陶器では、釉薬のΔEが2以下に抑えられており、色ムラが感じにくくなっていることが分かる。
【表5】
【0032】
トイレ空間には、水洗大便器と洗面器などの衛生陶器が設置されている。同一の空間に設置された衛生陶器は、同じ色品番の釉薬が施されており、色合いを合わせて設置している。
第1の組み合わせとして、素地Aの水洗大便器と素地Dの洗面器を同一空間に設置した。素地Aの水洗大便器のリム部を第1の部分とし、素地Dの洗面器のボウル面を第2の部分とし、素地部分と釉薬部分の色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、素地のΔEとΔLの絶対値を算出した。第1の組み合わせの素地のΔEは、11.29であり、ΔLの絶対値は、8.93であった。釉薬のΔEは、1.14であった。
第2の組み合わせとして、素地Aの水洗大便器と素地Eの洗面器を同一空間に設置した。素地Aの水洗大便器のリム部を第1の部分とし、素地Eの洗面器のボウル面を第2の部分とし、色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、素地のΔEとΔLの絶対値を算出した。第2の組み合わせの素地のΔEは、13.20であり、ΔLの絶対値は、12.67であった。釉薬のΔEは、4.41であった。
第1の組み合わせのように第1の部位と第2の部位の素地のΔEを12以下及び/又はΔLの絶対値を10以下調整することで、釉薬のΔEを2以下に抑えることができるため、同一空間に設置された衛生陶器の色合いを合わせることができ、トイレ空間の美観を安定させることができた。
第2の組み合わせのように第1の部位と第2の部位の素地のΔEを12以下になるよう調整しなかった場合は、釉薬のΔEが2以上となり同一空間に設置された衛生陶器の色合いに違和感を与えた。