(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140485
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】添着活性炭及びその製造方法、並びに添着活性炭の製造設備
(51)【国際特許分類】
C01B 32/33 20170101AFI20230928BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230928BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230928BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C01B32/33
B01J20/20 D
B01J20/30
B01J20/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046345
(22)【出願日】2022-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亮
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4G066AA05B
4G066AA35D
4G066BA24
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA33
4G066CA47
4G066DA02
4G066FA02
4G066FA11
4G066FA18
4G066FA37
4G146AA06
4G146AA15
4G146AB01
4G146AC05B
4G146AC08B
4G146AC28B
4G146AD32
4G146BA25
4G146BC03
4G146BC41
4G146BD02
4G146CA13
(57)【要約】
【課題】水銀(Hg
0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭の製造方法を提供すること。
【解決手段】炭材を賦活処理して得られた活性炭10に、二原子分子のハロゲン化合物20の水溶液を噴霧して、活性炭10にハロゲン化合物20を添着させる工程を有し、炭材は石炭を含んでおり、活性炭10の炭素含有量が70質量%以上である、添着活性炭の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭材を賦活処理して得られた活性炭に、二原子分子のハロゲン化合物の水溶液を噴霧して、前記活性炭に前記ハロゲン化合物を添着させる工程を有し、
前記炭材は石炭を含んでおり、前記活性炭の炭素含有量が70質量%以上である、添着活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記炭材の炭素含有量が70質量%以上である、請求項1に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記炭材は、瀝青炭及び無煙炭からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、請求項1又は2に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記活性炭に対する前記ハロゲン化合物の添着割合が1.5~5質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項5】
前記添着活性炭の比表面積が600~1100m2/gである、請求項1~4のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項6】
前記活性炭における細孔径が1nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をA、細孔径が1nm超且つ2nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をBとしたとき、下記式(1)及び(2)を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
A≧3cm3/g/nm (1)
B/A≧0.2 (2)
【請求項7】
前記水溶液における前記ハロゲン化合物の濃度が、40~120g/100mLである、請求項1~6のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化合物が臭化ナトリウムを含有し、
前記水溶液における前記臭化ナトリウムの濃度が30~42質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項9】
前記活性炭を攪拌する攪拌装置と前記水溶液を噴霧するノズルとを用い、前記攪拌装置で前記活性炭を攪拌しながら、前記ノズルから前記水溶液を前記活性炭に噴霧して、前記添着活性炭を得る、請求項1~8のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
【請求項10】
活性炭と前記活性炭に添着された臭化ナトリウムとを含み、
前記活性炭は、石炭の賦活処理物であって炭素含有量が70質量%以上であり、
前記活性炭に対する、前記臭化ナトリウムの比率が1.5~5質量%である、添着活性炭。
【請求項11】
石炭由来の活性炭の堆積層を攪拌する攪拌装置と、
炭素含有量が70質量%以上である前記活性炭を前記攪拌装置に導入する導入部と、
前記堆積層の上方から前記堆積層に向けて二原子分子のハロゲン化合物の水溶液を噴霧するノズルと、
前記ハロゲン化合物が添着された添着活性炭を前記攪拌装置から導出する導出部と、を備える、添着活性炭の製造設備。
【請求項12】
前記攪拌装置内の前記堆積層を平面視したときに、前記堆積層の表面の面積全体に対する、前記ノズルからの前記水溶液の噴霧面積の比率が40~120%となるように、前記ノズルから前記水溶液を噴霧する、請求項11に記載の添着活性炭の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、添着活性炭及びその製造方法、並びに添着活性炭の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の設備で発生する排ガスには、水銀及びダイオキシン等の有害成分が含まれる場合がある。このような有害成分の吸着材として活性炭が用いられる。通常の活性炭では、100℃を超える高温中では水銀(Hg0)を殆ど吸着できないため、添着活性炭を用いる必要がある。添着活性炭としては、ハロゲン化合物、金属化合物及び硫黄等を添着したものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-102653号公報
【特許文献2】特開2020-199425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水銀(Hg0)の吸着力を高めるため、活性炭に添着される化合物としては種々のものが検討されている。本開示は、水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭及びその製造方法を提供する。また、水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭の製造設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一つの側面において、炭材を賦活処理して得られた活性炭に、二原子分子のハロゲン化合物の水溶液を噴霧して、活性炭にハロゲン化合物を添着させる工程を有し、炭材は石炭を含んでおり、活性炭の炭素含有量が70質量%以上である、添着活性炭の製造方法を提供する。
【0006】
上記製造方法では、活性炭に添着する化合物として二原子分子のハロゲン化合物を用いている。このような二原子分子のハロゲン化合物は、分子サイズが小さいため、活性炭のミクロ孔内に侵入しやすい。ここで、活性炭は、石炭由来であり且つ炭素含有量が高いため、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)を有している。このため、水銀(Hg0)以外の有害物質を十分に吸着することができる。また、上記活性炭は、十分に小さいミクロ孔とともに、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)も有している。このため、水溶液中の上記ハロゲン化合物が大きめのミクロ孔を通って円滑に侵入し、活性炭の粒子の内部に保持される。ハロゲン元素が活性炭の粒子の表面に保持されると、ロンドン分散力(誘起双極作用)を十分に発揮できないが、上記製造方法では、ハロゲン元素が活性炭の内部に保持される。このため、ハロゲン元素によるロンドン分散力を十分に発揮することができる。したがって、上記製造方法で得られる水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる。
【0007】
上記製造方法において、炭材の炭素含有量は70質量%以上であってよい。このような炭材は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)の両方を適度に有している。このため、このような炭材を用いて得られる添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能と、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高い水準で両立することができる。
【0008】
上記製造方法において、炭材は、瀝青炭及び無煙炭からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。このような炭材は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)の両方を適度に有している。このため、このような炭材を用いて得られる添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能と、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高い水準で両立することができる。
【0009】
上記製造方法では、活性炭に対するハロゲン化合物の添着割合が1.5~5質量%であってよい。このような添着活性炭は、水銀(Hg0)の吸着性能に一層優れる。
【0010】
上記製造方法で製造する添着活性炭の比表面積は600~1100m2/gであってよい。このような添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能にも十分に優れる。
【0011】
上記製造方法の活性炭における細孔径が1nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をA、細孔径が1nm超且つ2nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をBとしたとき、下記式(1)及び(2)を満たしてよい。
A≧3cm3/g/nm (1)
B/A≧0.2 (2)
【0012】
このような活性炭は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)を、十分に良好なバランスで有する。このため、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能を十分に高いレベルに維持できるとともに、ハロゲン元素によるロンドン分散力が十分に発揮され、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高くすることができる。
【0013】
水溶液におけるハロゲン化合物の濃度は、40~120g/100mLであってよい。このような水溶液は、適度な濃度を有することから、水溶液中のハロゲン化合物を、活性炭のミクロ孔の内部に適度に分散させて添着することができる。このため、十分に高い水銀(Hg0)の吸着性能を有する添着活性炭を安定的に製造することができる。
【0014】
上記ハロゲン化合物が臭化ナトリウムを含有し、上記水溶液における臭化ナトリウムの濃度が30~42質量%であってよい。このような水溶液は、常温においても臭化ナトリウムが析出せず安定的に溶解することができる。このような水溶液を用いれば、臭素を活性炭のミクロ孔の内部に適度に分散させて添着させることができる。このような添着活性炭は、一層高い水銀(Hg0)の吸着性能を有する。
【0015】
上記製造方法では、活性炭を攪拌する攪拌装置と上記水溶液を噴霧するノズルとを用い、攪拌装置で活性炭を攪拌しながら、ノズルから上記水溶液を活性炭に噴霧して、添着活性炭を得てもよい。これによって、ハロゲン化合物が高い均一性で活性炭に添着する。したがって、水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭を簡便に量産することができる。
【0016】
本開示は、一つの側面において、活性炭と当該活性炭に添着された臭化ナトリウムとを含み、活性炭は、石炭の賦活処理物であって炭素含有量が70質量%以上であり、活性炭に対する、臭化ナトリウムの比率が1.5~5質量%である、添着活性炭を提供する。
【0017】
このような添着活性炭は、石炭の賦活処理物であって炭素含有量が70質量%以上の活性炭を含む。このような活性炭は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)の両方を適度に有している。このため、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能を維持することができる。また、活性炭の内部に臭素を安定的に保持することができる。このため、十分にロンドン分散力が発揮され、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高くすることができる。
【0018】
本開示は、一つの側面において、石炭由来の活性炭の堆積層を攪拌する攪拌装置と、炭素含有量が70質量%以上である活性炭を攪拌装置に導入する導入部と、堆積層の上方から堆積層に向けて二原子分子のハロゲン化合物の水溶液を噴霧するノズルと、ハロゲン化合物が添着された添着活性炭を攪拌装置から導出する導出部と、を備える、添着活性炭の製造設備を提供する。
【0019】
上記製造設備では、石炭由来で炭素含有量が70質量%以上である活性炭と二原子分子のハロゲン化合物を用いている。二原子分子のハロゲン化合物は、分子サイズが小さいため、活性炭のミクロ孔内に侵入しやすい。活性炭は、石炭由来であり且つ炭素含有量が高いため、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)を有している。このため、水銀(Hg0)以外の有害物質を十分に吸着することができる。また、上記活性炭は、十分に小さいミクロ孔とともに、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)も有している。このため、ノズルから噴霧された水溶液中の上記ハロゲン化合物が大きめのミクロ孔を通って円滑に侵入し、活性炭の粒子の内部に保持される。ハロゲン元素が活性炭の粒子の表面に保持されると、ロンドン分散力(誘起双極作用)を十分に発揮できないが、上記製造設備では、ハロゲン元素が活性炭の内部に保持された添着活性炭が導出部から導出される。このような添着活性炭は、ハロゲン元素によるロンドン分散力を十分に発揮することができる。したがって、上記製造設備では、水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭を製造することができる。
【0020】
上記攪拌装置内の堆積層を平面視したときに、堆積層の表面の面積全体に対する、ノズルからの上記水溶液の噴霧面積の比率が40~120%となるように、ノズルから上記水溶液を噴霧してよい。これによって、活性炭に高い均一性でハロゲン化合物を添着することができる。
【発明の効果】
【0021】
水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭及びその製造方法を提供することができる。水銀(Hg0)の吸着性能に十分に優れる添着活性炭の製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】添着活性炭の表面近傍における断面の一例を模式的に示す図である。
【
図2】添着活性炭の製造方法に用いる製造装置の一例を示す図である。(A)は、装置を側方から見たときの図であり、(B)は(A)のIIb-IIb線で切断したときの内部を上方から見たときの図である。
【
図3】実施例1の活性炭の成分分析の結果を示す図である。
【
図4】比較例1の添着活性炭の成分分析の結果を示す図である。
【
図5】実施例1、及び比較例1,2で用いた活性炭の微分細孔容積[dVp/d(dp)]の分布を示す図である。
【
図6】実施例10で用いた製造装置を示す図である。(A)は、装置を側方から見たときの図であり、(B)は(A)のVIb-VIb線で切断したときの装置内部を上方から見たときの図である。
【
図7】実施例11で用いた製造装置を示す図である。(A)は、装置を側方から見たときの図であり、(B)は(A)のVIIb-VIIb線で切断したときの装置内部を上方から見たときの図である。
【
図8】実施例12で用いた製造装置を示す図である。(A)は、装置を側方から見たときの図であり、(B)は(A)のVIIIb-VIIIb線で切断したときの装置内部を上方から見たときの図である。
【
図9】(A)及び(B)は、比較例の添着活性炭の表面近傍における断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
一実施形態に係る添着活性炭の製造方法は、炭材を賦活処理して得られた活性炭に、二原子分子のハロゲン化合物の水溶液を噴霧して、活性炭にハロゲン化合物を添着させる工程を有する。
【0025】
成分分析によって測定される炭材の炭素含有量は、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってもよい。このように炭素含有量が高い炭材を賦活処理して得られる活性炭は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)の両方を適度に有している。このため、このような炭材を用いて得られる添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能と、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高い水準で両立することができる。
【0026】
炭素含有量が70質量%以上の炭材は石炭であってよく、例えば、瀝青炭及び無煙炭が挙げられる。したがって、炭材は、瀝青炭及び無煙炭からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭材を用いてもよい。
【0027】
炭材の賦活処理は、通常のガス賦活処理によって行ってよい。例えば、炭材を、600~1000℃の温度、又は750~900℃の温度で、水蒸気、二酸化炭素、空気、酸素、燃焼ガス、又はこれらの混合ガスの存在下、炭材を加熱すればよい。これによって、炭材に細孔を形成し、石炭由来の多孔質の活性炭を得ることができる。
【0028】
活性炭のBET比表面積は、水銀(Hg0)以外の有害物質(ダイオキシン等)の吸着性能を十分に高くする観点から、600m2/g以上であってよく、800cm2/g以上であってよく、900m2/g以上であってよい。活性炭のBET比表面積は、1100m2/g以下であってよく、1050m2/g以下であってよく、1000m2/g以下であってもよい。これによって、ハロゲン化合物が侵入しすい程度のサイズを有するミクロ孔(大きめのミクロ孔)を十分に確保して、添着の際のハロゲン化合物のミクロ孔(十分に小さいミクロ孔)への侵入を促進することができる。活性炭のBET比表面積の一例は、600~1100m2/g以下である。
【0029】
活性炭における細孔径が1nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をA、細孔径が1nm超且つ2nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値をBとしたとき、下記式(1)及び(2)を満たしてよい。
A≧3cm3/g/nm (1)
B/A≧0.2 (2)
【0030】
このような活性炭を用いることによって、添着活性炭の水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高くすることができる。同様の観点から、Aは3.3cm3/g/nm以上であってよく、B/Aは0.24以上であってもよい。活性炭の表面積を十分に大きくする観点から、Aは5cm3/g/nm以下であってよい。同様の観点からB/Aは0.5以下であってもよい。
【0031】
成分分析によって測定される活性炭の炭素含有量は、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってもよい。このように炭素含有量が高い活性炭は、十分に小さいミクロ孔(細孔径:1nm以下)と、大きめのミクロ孔(細孔径:1~2nm)の両方を適度に有している。このため、このような活性炭を用いて得られる添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質の吸着性能と、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高い水準で両立することができる。
【0032】
二原子分子のハロゲン化合物は、構成元素としてハロゲン元素とアルカリ金属元素とを有する。ハロゲン化合物は、例えば、NaBr、KBr、NaCl及びKClからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。ロンドン分散力を十分に大きくする観点から、ハロゲン化合物は臭化物を含んでよい。これらのハロゲン化合物は、活性炭の大きめのミクロ孔に円滑に侵入し、活性炭の内部に保持される。ハロゲン元素は、活性炭の内部においてロンドン分散力を十分に発揮することができる。これによって、水銀(Hg0)が細孔内に吸着されやすくなり、水銀(Hg0)の吸着性能を十分に高くすることができる。
【0033】
このようにして得られる添着活性炭は、例えば、
図1に示すような内部構造を有すると考えられる。
図1の添着活性炭12は、活性炭10と、活性炭に添着された二原子分子のハロゲン化合物20とを含む。活性炭10の表面近傍には、細孔40が形成されている。細孔40は、十分に小さいミクロ孔40Aと、これよりも大きいミクロ孔40Bとを含む。水銀(Hg
0)の吸着には、このように小さいミクロ孔40Aが必要である。一方、水銀(Hg
0)以外の有害物質は、小さいミクロ孔40A及び大きいミクロ孔40Bのどちらにも吸着され得る。
【0034】
ハロゲン化合物を添着させる工程では、大きいミクロ孔40Bからハロゲン化合物20が円滑に侵入し、細孔40内に保持される。細孔40内に保持されたハロゲン化合物20のロンドン分散力は、
図1に示される広い領域22に及んでいる。このため、領域22に含まれるミクロ孔40Aの内壁に水銀(Hg
0)30が吸着される。一方、ダイオキシン等の水銀(Hg
0)以外の有害物質は、ミクロ孔40A及びミクロ孔40Bの両方に吸着される。
【0035】
一方、原子数が3個以上の分子であるハロゲン化合物の場合、
図9(A)に示されるように、ハロゲン化合物120のサイズが大きいため、活性炭110の細孔140内に侵入することができず、活性炭110の表面に添着する。この場合、活性炭110の内部においてロンドン分散力が及ぶ領域122が小さくなってしまう。このため、水銀(Hg
0)30を吸着できる細孔140の割合が小さくなる。したがって、
図9(A)のような添着活性炭では、水銀(Hg
0)130を十分に吸着できない。
【0036】
また、十分に小さいミクロ孔が少ない活性炭の場合、
図9(B)に示されるように、ハロゲン化合物は、大きいミクロ孔から活性炭111の内部に侵入し、ロンドン分散力を比較的広い領域122に及ぼす。しかしながら、領域122に含まれる、十分に小さいミクロ孔が少ないため、水銀(Hg
0)130を十分に吸着することができない。
【0037】
また、大きいミクロ孔を有さず、十分に小さいミクロ孔のみを有する活性炭の場合、ハロゲン化合物のサイズが十分に小さいミクロ孔よりも小さい場合であっても十分な吸着能力を発揮することができない。これに対し、
図1の添着活性炭12における活性炭10は、十分に小さいミクロ孔40Aと、これよりも大きいミクロ孔40Bが良好なバランスで形成されている。このように十分に小さいミクロ孔40Aとこれよりも大きいミクロ孔40Bがバランスよく形成されていることが吸着能力の発揮に有効である。さらに、
図1の添着活性炭12では、活性炭10の内部に二原子分子のハロゲン化合物20が保持されている。これらの相乗作用によって、
図1の添着活性炭12は、
図9の添着活性炭及び大きいミクロ孔を有しない添着活性炭よりも、水銀(Hg
0)30と水銀以外の有害物質を十分に吸着することができる。
【0038】
活性炭10へのハロゲン化合物20の添着は、ハロゲン化合物20の水溶液を噴霧することによって行う。水溶液におけるハロゲン化合物20の濃度は、40g/100mL以上であってよく、50g/100mL以上であってよく、60g/100mL以上であってもよい。ここでいう「100mL」は、溶媒である水の量である。このような濃度を有する水溶液であれば、噴霧したときに固形分が析出することが抑制され、活性炭10の細孔40内に十分に侵入することができる。水溶液におけるハロゲン化合物20の濃度は、120g/100mL以下であってよい。水溶液に含まれるハロゲン化合物20の濃度が高くなり過ぎると、活性炭10に添着した際に、ハロゲン化合物20の濃い領域が生じ、ハロゲン元素とともに活性炭10内に侵入したアルカリ金属が、水銀(Hg0)30の吸着を妨げる場合がある。水溶液におけるハロゲン化合物20の濃度の一例は、40~120g/100mLである。
【0039】
ハロゲン化合物20がNaBr(臭化ナトリウム)を含有する場合、水溶液におけるNaBrの含有量は30~42質量%であってよい。これによって、NaBrの析出を抑制しながら、活性炭10の細孔40内に適量のNaBrを添着することができる。水溶液におけるNaBrの含有量が低くなり過ぎると、NaBrの添着量が減少すること、及び、水の吸着量が増えて、有害物質を吸着し難くなる傾向にある。水溶液におけるNaBrの含有量が高くなり過ぎると、NaBrが析出・結晶化して活性炭10の細孔40内に侵入し難くなる傾向にある。
【0040】
添着活性炭12において、活性炭10に対するハロゲン化合物20の添着割合は、1.5質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、2.5質量%以上であってもよい。これによって、活性炭10の細孔40に十分にハロゲン化合物20を添着させることができる。活性炭10に対するハロゲン化合物20の添着割合は、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってもよい。添着割合が高くなり過ぎると、
図1の領域22が重なり合いやすくなり、ハロゲン元素のロンドン分散力を有効に活用し難くなる。また、ハロゲン化合物20に含まれるアルカリ金属が水銀(Hg
0)30の吸着を妨げる作用が顕在化する可能性もある。活性炭10に対するハロゲン化合物20の添着割合の一例は、1.5~5質量%である。
【0041】
添着活性炭12のBET比表面積は、600m2/g以上であってよく、700m2/g以上であってよく、800m2/g以上であってよい。これによって、水銀(Hg0)30及び水銀(Hg0)以外の有害物質を十分に吸着することができる。添着活性炭12のBET比表面積は、1100m2/g以下であってよく、1000m2/g以下であってもよい。これによって、ミクロ孔40Bを十分に確保して、ハロゲン化合物20の侵入を促進することができる。
【0042】
活性炭へのハロゲン化合物20の添着は、
図2(A)及び
図2(B)に示す攪拌装置(リボンブレンダ)を備える製造設備を用いて行ってもよい。この製造設備は、活性炭の堆積層を攪拌する攪拌装置50と、攪拌装置50に活性炭を導入する導入部52と、攪拌装置50で得られた添着活性炭を攪拌装置50から導出する導出部54と、を備える。攪拌装置50は、導入された活性炭の堆積層11を攪拌するリボン型の攪拌羽根72と、攪拌羽根72を回転駆動するモータ70とを備える。攪拌装置50の上壁には、ハロゲン化合物の水溶液をスプレー状に噴霧するノズル60が設けられている。ノズル60には、ポンプ62からハロゲン化合物の水溶液が供給される。この製造設備であれば、攪拌羽根72で活性炭を攪拌しながら、ノズル60から攪拌装置50内の活性炭の堆積層11に向けてハロゲン化合物の水溶液を噴霧することができる。
【0043】
ノズル60から噴霧される水溶液の液滴径は100~300μmであってよい。液滴径が小さくなり過ぎると、水溶液が浮遊して攪拌装置50の内壁面に付着し、添着にムラが生じやすく傾向にある。液滴径が大きくなり過ぎても、添着にムラが生じやすく傾向にある。
【0044】
図2(B)には、攪拌装置50内における活性炭の堆積層11を平面視したときの堆積層11の表面が示されており、当該表面に、各ノズル60からの噴霧液が直接落下するエリア64を示している。堆積層11の表面の面積全体に対する、複数のエリア64の合計面積(噴霧面積)の比率は、40~120%であってよく、50~100%であってもよい。これによって、活性炭に十分に均一にハロゲン化合物を添着することができる。なお、複数のエリア64が重なり合う部分は重複してカウントされるため、上記面積比率が100%を超える場合もある。なお、ノズル60の本数は特に限定されない。また、添着は、
図2に示されるような攪拌装置を用いずに行ってもよい。
【0045】
一実施形態に係る添着活性炭は、活性炭と活性炭に添着された二原子分子のハロゲン化合物を含む。ハロゲン化合物は、例えば、NaBr、KBr、NaCl及びKClからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。活性炭の炭素含有量は、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってもよい。活性炭は、石炭の賦活処理物である。賦活処理の条件は上述したとおりである。石炭は、例えば、瀝青炭及び無煙炭からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。
【0046】
活性炭に対するハロゲン化合物(例えば、臭化ナトリウム)の比率は1.5~5質量%であってよい。活性炭に対するハロゲン化合物20の添着割合は、1.5質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、2.5質量%以上であってもよい。活性炭に対するハロゲン化合物20の添着割合は、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってもよい。添着活性炭は、上述の製造方法によって製造されてよい。したがって、上述の添着活性炭の製造方法における説明内容は、本実施形態の添着活性炭にも適用される。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例0048】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<活性炭の準備>
炭材として、無煙炭と瀝青炭に由来する粉末状の炭材を準備した。この炭材の炭素含有量は、表1に示すとおりであった。この炭材のガス賦活処理を行って活性炭を調製した。ガス賦活処理は、水蒸気を含むガスを用いて、炭材を加熱することによって行った。
【0050】
<活性炭の評価>
上述の手順で得られた活性炭の成分分析を行って炭素含有量を求めた。分析装置及び分析方法の詳細は以下のとおりである。
分析方法:電子顕微鏡付きX線分析
使用機器:走査型電子顕微鏡 JSM-6390型(日本電子株式会社製)
対象元素:B~U
補正方法:ZAF法
【0051】
成分分析の結果は
図3に示すとおりであった。また、活性炭のBET比表面積を、比表面積/細孔分析測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:BELSORP mini II)を用いて測定した。測定方法は、N
2吸着法によって行った。これらの結果は、表1に示すとおりであった。この活性炭の水銀吸着性能を以下の手順で評価した。
【0052】
添着活性炭(0.05g)を、カラムクロマト管(内径:30mm,長さ:30cm)の内部に充填した(充填高さ:15cm)。カラムクロマト管にヒータを巻き付けて、カラムクロマト管の内部を180~220℃に加熱した。水銀蒸気発生器を用いて空気に水銀蒸気を混入させて水銀濃度500μg/m3の供給ガスを調製した。この供給ガスを220℃に加熱して上述のカラムクロマト管に供給してガス処理を行った。カラムクロマト管から排出される排ガス中の水銀(Hg0)濃度を水銀測定装置(日本インスツルメンツ株式会社製、製品名:EMP-2)を用いて測定した。ガス処理と排ガス中の水銀(Hg0)の濃度測定を約3時間継続して行った。供給ガス中の水銀(Hg0)の濃度の平均値と排ガスに含まれていた水銀(Hg0)の濃度の平均値の差から、以下の式によって水銀(Hg0)の除去率を算出した。結果は表1に示すとおりであった。
【0053】
水銀(Hg0)の除去率(%)=(供給ガス中の水銀濃度-排ガス中の水銀濃度)/供給ガス中の水銀濃度
【0054】
<添着活性炭の製造>
臭化ナトリウム(NaBr)を水に溶解させて水溶液を得た。水溶液中のNaBr濃度は41質量%とした。ポリ容器に、約20gの活性炭を入れた後、この活性炭に対して上記水溶液を噴霧器で噴霧した。活性炭に対する添着割合が3.5質量%となるように、活性炭に対する水溶液の噴霧量を設定した。このようにして、活性炭に臭化ナトリウムを添着して添着活性炭を得た。水溶液を噴霧した後、ポリ容器をよく振ってNaBrを活性炭に十分に添着させた。
【0055】
<添着活性炭の評価>
添着後、添着活性炭を十分に乾燥させた。その後、上述の「活性炭の評価」と同じ方法で、BET比表面積及び水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。また、臭化物分析(自動燃焼-イオンクロマトグラフ法)によって、活性炭に対するNaBrの添着割合を求めた。その結果は表1に示すとおりであった。
【0056】
(比較例1)
炭材として亜炭(褐炭)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして添着活性炭を製造した。この亜炭の炭素含有量は70質量%を大きく下回っていた。そして、実施例1と同じ方法でそれぞれの評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
図4には、添着活性炭の成分分析の結果を示した。
【0057】
(比較例2)
炭材として市販の椰子殻炭を用いたこと以外は、実施例1と同様にして活性炭及び添着活性炭を製造した。そして、実施例1と同じ方法でそれぞれの評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0058】
【0059】
表1に示すとおり、実施例1の添着活性炭は、比表面積が十分に高いことから、水銀(Hg0)以外の有害物質(ダイオキシン等)の吸着性能に優れる。また、水銀(Hg0)の吸着量にも十分に優れることが確認された。一方、比較例1,2の添着活性炭の水銀(Hg0)の除去率は実施例1よりも低かった。比較例1の添着活性炭は比表面積が小さいため、これが水銀(Hg0)の吸着量が低いことの要因であると考えられる。このような添着活性炭は、水銀(Hg0)以外の有害物質(ダイオキシン等)の吸着性能も低いと考えられる。比較例2の添着活性炭の比表面積は、実施例1の添着活性炭の比表面積よりも大きかった。それにもかかわらず、比較例2の添着活性炭の水銀(Hg0)の除去率は実施例1よりも低かった。この原因を以下に検討した。
【0060】
実施例1、及び比較例1,2で用いた炭材(無煙炭、亜炭、バイオマス炭)の細孔径分布を測定し、細孔径(d
p)ごとの微分細孔容積[dVp/d(dp)]を求めた。測定には、比表面積/細孔分析測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:BELSORP mini II)を用いた。結果は、表2及び
図5に示すとおりであった。これらの結果から、細孔径が1nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値(A)と、細孔径が1nm超且つ2nm以下である微分細孔容積[dVp/d(dp)]の積算値(B)と、これらの比(B/A)を求めた。これらの結果は表2に示すとおりであった。表2中、B/Aの数値は無次元数である。
【0061】
【0062】
表2及び
図5に示すとおり、比較例2の炭材は、実施例1の炭材よりも、細孔径が1nm以下の細孔の割合が大きいものの細孔径が1~2nmの細孔の割合が小さいことが確認された。このことから、椰子殻炭を用いて製造された活性炭の場合、添着したハロゲン化合物は活性炭の粒子の内部に十分に侵入できず、活性炭の表面に添着されているハロゲン化合物の割合が高くなっていると推察される。このため、水銀(Hg
0)を吸着できる細孔が限られており、水銀(Hg
0)の除去率(%)を測定では、早期に破過していた。一方、実施例1で用いた無煙炭と瀝青炭に由来する炭材の場合、細孔径が1nm以下の細孔と、細孔径が1~2nmの細孔をバランスよく含んでいる。これによって、ハロゲン化合物は活性炭の粒子の内部に十分に侵入することができるとともに、ロンドン分散力によって水銀(Hg
0)を吸着する細孔が十分に存在していると推察される。
【0063】
次に、ハロゲン化合物の水溶液の濃度の影響を調べるため、実施例2~4を行った。
【0064】
(実施例2~4)
水溶液中のNaBr濃度を表3に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして添着活性炭を製造した。いずれも、活性炭に対するNaBrの添着割合が3.5質量%となるように水溶液の量を設定した。実施例1と同じ方法で、各実施例で得られた添着活性炭のNaBrの添着割合、及び水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。結果は表3に示すとおりであった。なお、表3には比較のため実施例1の結果も併せて示した。
【0065】
【0066】
実施例1~3の結果から、水溶液におけるNaBrの濃度が高い方が添着割合が水銀(Hg0)の吸着量が大きくなることが確認された。これは、活性炭の細孔表面における水分子の吸着量が減ることと、NaBrが細孔から活性炭の粒子内に効率よく侵入することによるもの推察される。NaBrの常温(20℃)における溶解度は73.3g/100mLであり、この時のNaBr濃度は、42.3質量%である。実施例4では、20℃でNaBrの一部が溶解しなかったので、水溶液を約50℃に加熱して溶解させて噴霧した。ただし、実施例4の水銀(Hg0)の吸着量は実施例1よりも低かった。これは、NaBrが活性炭に添着する際に析出・結晶化し、活性炭の細孔内に侵入し難くなったことが要因と推察される。実施例4では、NaBrの添着割合が、目標としていた3.5質量%を大きく超えていた。これは、成分分析の際に、NaBrが結晶化している部分をサンプリングしたことが要因と考えられる。
【0067】
次に、ハロゲン化合物の添着割合の影響を調べるため、実施例5,6を行った。
【0068】
(実施例5,6)
活性炭に噴霧するNaBrの量を変更して、活性炭に対するNaBrの添着量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして添着活性炭を調整した。実施例5,6では、噴霧前の後の質量差と水溶液の濃度からNaBrの添着割合を算出した。
【0069】
実施例1と同じ方法で、実施例5,6で得られた添着活性炭の水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。結果は表4に示すとおりであった。なお、表4には比較のため実施例3の結果も併せて示した。
【0070】
【0071】
実施例3,5,6の結果から、NaBrの添着割合が高過ぎると、水銀(Hg0)の吸着量が減少することが確認された。この要因としては、活性炭の細孔内にハロゲン元素が密集し過ぎると、水銀(Hg0)が細孔内に侵入し難くなることが考えられる。また、水銀(Hg0)の吸着を阻害するNaが増加したことも要因として考えられる。表4の結果から、活性炭に対するNaBrの比率(添着割合)は、1.5~5質量%程度が好ましいと考えられる。
【0072】
次に、添着活性炭の粒径の影響を調べるため、実施例7~9を行った。
【0073】
(実施例7,8)
噴霧するNaBrの量を変更して、活性炭に対するNaBrの添着割合を変更したこと以外は、実施例5,6と同様にして、実施例7,8の添着活性炭を調整した。実施例7,8では、噴霧前の後の質量差と水溶液の濃度からNaBrの添着割合を算出した。活性炭に対するNaBrの添着割合は、それぞれ、3.5質量%及び5.0質量%であった。これらの添着活性炭のBET比表面積はいずれも1100m2/gであり、かさ比重はいずれも480kg/m3であった。これらをペレット状に成形して、粒径が4mmの粒状の添着活性炭を得た。
【0074】
このようにして得られた粒状の添着活性炭の水銀(Hg0)の除去率を、実施例1と同様にして測定した。ただし、測定は、カラムクロマト管(内径:30mm,長さ:30cm)における添着活性炭の充填高さと、カラムクロマト管への供給ガスにおける水銀濃度を、表5に示すとおりに変更して行った。結果は表5に示すとおりであった。
【0075】
【0076】
ペレット状に成形した添着活性炭も、粉末状の添着活性炭と同様に水銀を十分に吸着できることが確認された。次に、添着する化合物の種類による影響を調査した。
【0077】
(実施例9)
<添着活性炭の製造>
塩化ナトリウム(NaCl)を水に溶解させて水溶液を得た。水溶液中のNaCl濃度は25.3質量%とした。ポリ容器に、約20gの活性炭を入れた後、この活性炭に対して上記水溶液を噴霧器で噴霧した。活性炭に対するNaClの添着割合が4.4質量%となるように、活性炭に対する水溶液の噴霧量を設定した。活性炭に水溶液を噴霧した後、ポリ容器をよく振ってNaClを活性炭に十分に添着させた。このようにして、活性炭に塩化ナトリウムが添着された添着活性炭を得た。
【0078】
<添着活性炭の評価>
添着活性炭を十分に乾燥させた後、実施例1と同様の方法で水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。ただし、測定は、カラムクロマト管(内径:30mm,長さ:30cm)への供給ガスにおける水銀濃度を、表6に示すとおりに変更して行った。結果は表6に示すとおりであった。実施例1の添着活性炭も、実施例9の添着活性炭と同じ条件で水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。結果は表6に示すとおりであった。
【0079】
【0080】
表6に示すとおり、添着物がNaClでも水銀の吸着に十分に優れることが確認された。供給ガス中の水銀濃度が高くなると、NaClよりもNaBrの方がより優位となることが確認された。
【0081】
次に、NaBrの添着をリボンブレンダとノズルを備える製造設備を用いて行い、量産化の検討を行った。
【0082】
(実施例10)
<添着活性炭の製造>
図6(A)及び
図6(B)に示すような製造設備の攪拌装置50(リボンブレンダ)に実施例1と同じ手順で作製した活性炭を500kg入れた。この活性炭を攪拌しながらノズル60Aから、実施例1と同じNaBrの水溶液を活性炭に20分間かけて噴霧した。液滴径は、300~600μmであった。4つのノズル60Aから噴霧されるNaBr水溶液の総量は、活性炭に対するNaBrの添着割合が3.5質量%となる量とした。
【0083】
図6(B)は、
図6(A)のVIb-VIb線で切断して、攪拌装置50の内部を上方から見たときの図である。この
図6(B)には、攪拌装置50内の添着活性炭の堆積層11を平面視したときの、堆積層11の表面のうち各ノズル60Aからの噴霧液が直接落下するエリア64を示している。4つのエリア64の合計面積(噴霧面積)と、堆積層11の表面の面積全体に対する、エリア64の合計面積の比率(面積比率)を算出した。これらの結果は表7に示すとおりであった。このように、堆積層11の表面の一部に、ノズル60Aからの水溶液が直接落下するように水溶液を噴霧しながら攪拌羽根72で活性炭を攪拌した。このようにして、添着活性炭を製造した。
【0084】
<添着活性炭の評価>
添着活性炭を十分に乾燥させた後、実施例1と同様の方法で水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。ただし、測定は、カラムクロマト管(内径:30mm,長さ:30cm)への供給ガスにおける水銀濃度を、表8に示すとおりに変更して行った。結果は表8に示すとおりであった。なお、実施例1の添着活性炭も、実施例10の添着活性炭と同じ条件で水銀(Hg0)の除去率(%)を測定した。結果は表8に示すとおりであった。
【0085】
(実施例11)
図7(A)及び
図7(B)に示すような攪拌装置50(リボンブレンダ)及びノズル60Bを備える製造設備を用いたこと以外は、実施例10と同様にして添着活性炭を製造し、評価を行った。この製造設備のノズル60Bは、ノズル60Aよりも広角に噴霧する形式のものであったため、ノズルの本数は2本とした。液滴径は、100~300μmであった。
【0086】
図7(B)は、
図7(A)のVIIb-VIIb線で切断して、攪拌装置50の内部を上方から見たときの図である。この
図7(B)には、攪拌装置50内の添着活性炭の堆積層11を平面視したときの、堆積層11の表面と、当該表面のうち各ノズル60Bからの噴霧液が直接落下するエリア64を示している。2つのエリア64の合計面積(噴霧面積)と、堆積層11の表面の面積全体に対する、エリア64の合計面積の比率(面積比率)を算出した。これらの結果は表7に示すとおりであった。2つのノズル60Bから噴霧されるNaBr水溶液の総量は、活性炭に対するNaBrの添着割合が3.5質量%となる量とした。水銀(Hg
0)の除去率(%)を測定結果は表8に示すとおりであった。
【0087】
(実施例12)
図8(A)及び
図8(B)に示すような攪拌装置50(リボンブレンダ)及びノズル60Bを備える製造設備を用いたこと以外は、実施例11と同様にして添着活性炭を製造し、評価を行った。この攪拌装置50の上面には、実施例11で用いたノズル60Bを4本設置した。したがって、液滴径は、100~300μmであった。
【0088】
図8(B)は、
図8(A)のVIIIb-VIIIb線で切断して、攪拌装置50の内部を上方から見たときの図である。この
図8(B)には、攪拌装置50内の添着活性炭の堆積層11を平面視したときの、堆積層11の表面と、当該表面のうち各ノズル60Bからの噴霧液が直接落下するエリア64とを示している。4つのエリア64の合計面積(噴霧面積)と、堆積層11の表面の面積全体に対する、エリア64の合計面積の比率(面積比率)を算出した。なお、エリア64同士が一部重なっているが、重なり部分の補正は特に行わず、各エリア64の面積を4倍して、合計面積(噴霧面積)を算出した。これらの結果は表7に示すとおりであった。4つのノズル60Bから噴霧されるNaBr水溶液の総量は、活性炭に対するNaBrの添着割合が3.5質量%となる量とした。水銀(Hg
0)の除去率(%)を測定結果は表8に示すとおりであった。
【0089】
【0090】
【0091】
表7及び表8に示すとおり、噴霧面積を大きくすることによって、水銀吸着性能に優れる添着活性炭が得られることが確認された。これは、吸着に寄与するハロゲン元素の分布の均一性が向上するためと考えられる。
10,110,111…活性炭、11…堆積層、12…添着活性炭、20…ハロゲン化合物、22…領域、40…細孔、40A,40B…ミクロ孔、50…攪拌装置、52…導入部、54…導出部、60,60A,60B…ノズル、62…ポンプ、64…エリア、70…モータ、72…攪拌羽根、120…ハロゲン化合物、122…領域、140…細孔。
前記活性炭を攪拌する攪拌装置と前記水溶液を噴霧するノズルとを用い、前記攪拌装置で前記活性炭を攪拌しながら、前記ノズルから前記水溶液を前記活性炭に噴霧して、前記添着活性炭を得る、請求項1~7のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。
前記活性炭を攪拌する攪拌装置と前記水溶液を噴霧するノズルとを用い、前記攪拌装置で前記活性炭を攪拌しながら、前記ノズルから前記水溶液を前記活性炭に噴霧して、前記添着活性炭を得る、請求項1~7のいずれか一項に記載の添着活性炭の製造方法。