(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140491
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20230928BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046354
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 智
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 行博
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA02
4F055CA15
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055FA15
4F055GA08
4F055HA03
4F055HA11
4F055HA22
(57)【要約】
【課題】 表面品位が均一で、タッチ感が良好であり、さらに、耐摩耗性にも優れた人工皮革およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、水分散型高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記の極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下であり、前記の極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成しており、人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真において、該走査型電子顕微鏡写真の観察範囲を8区画に等分した際の各区画内に存在する繊維断面の個数の変動係数が50%以下である、人工皮革。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、親水性基を有する高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下であり、前記極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成しており、人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真において、該走査型電子顕微鏡写真の観察範囲を8区画に等分した際の各区画内に存在する繊維断面の個数の変動係数が50%以下である、人工皮革。
【請求項2】
極細繊維発生型繊維からなる不織布を含む繊維質基材を、該繊維質基材の含水率が5質量%以上300%以下となるように水を含ませ、さらに、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の溶液もしくは水分散液を、単位面積・単位時間あたり25L/(m2・min)以上85L/(m2・min)以下の流量で前記繊維質基材の少なくとも一方の表面に対し噴射することで含浸させる、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項3】
前記水を含ませる際の水が60℃以上100℃以下である、請求項2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項4】
前記噴射が、前記前駆体の溶液もしくは水分散液の液中で行うものである、請求項2または3に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項5】
前記噴射が、前記繊維質基材の両方の表面に対し噴射するものである、請求項2~4のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなる人工皮革は、優れた耐久性や染色のしやすさなど、天然皮革にない優れた特徴を有している。とりわけ、極細繊維からなる繊維質基材を用いた人工皮革は、表面品位およびタッチ感に優れているため、衣料や雑貨および自動車内装材用途等に年々広がっている。
【0003】
このような人工皮革を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが一般的に採用されている。この場合、ポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられるが、一般的に有機溶剤は環境への有害性が高いことから、人工皮革の製造に際しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤系のポリウレタンに代えて、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるような方法で水分散型ポリウレタンを付与する場合、繊維質基材を水分散型ポリウレタンの前駆体の水分散液中に含浸し、その後、該前駆体を凝固させて水分散型ポリウレタンが付与された人工皮革を得る方法が取られる。しかしながら、含浸後の水分散型ポリウレタンの分布は、含浸前の繊維質基材自体の密度分布に依存しやすいため、不均一になりやすく、表面品位およびタッチ感が低下するという課題がある。また、ポリウレタンの分布が不均一になることで、ポリウレタンの付着していない繊維が存在することになり、結果として、人工皮革の耐摩耗性が低下する。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、表面品位が均一で、タッチ感が良好であり、さらに、耐摩耗性にも優れた人工皮革およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、特定の繊維質基材に水分散型高分子弾性体前駆体の溶液などを含浸させる前に、予め繊維質基材に含水させておくことで、繊維同士の間に水分が入り込んで繊維の分散性が向上し、続けて水分散型高分子弾性体前駆体を含浸させることで、水分散型ポリウレタンの分布を均一にすることができ、均一な表面品位と良好なタッチ感ならびに良好な耐摩耗性を有する人工皮革が得られることが判明した。
【0009】
すなわち、本発明は前記課題を解決せんとするものであって、本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、親水性基を有する高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記の極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下であり、前記の極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成しており、人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真において、該走査型電子顕微鏡写真の観察範囲を8区画に等分した際の各区画内に存在する繊維断面の個数の変動係数が50%以下である。
【0010】
また、本発明の人工皮革の製造方法は、好ましくは、極細繊維発生型繊維からなる不織布を含む繊維質基材を、該繊維質基材の含水率が5質量%以上300%以下となるように水を含ませ、さらに、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の溶液もしくは水分散液を、単位面積・単位時間あたり25L/m2・min以上85L/m2・min以下の流量で前記の繊維質基材の少なくとも一方の表面に対し噴射することで含浸させる。
【0011】
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の水を含ませる際の水が60℃以上100℃以下である。
【0012】
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の噴射が、前記の前駆体の溶液もしくは水分散液の液中で行うものである。
【0013】
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の噴射が、前記の繊維質基材の両方の表面に対し噴射するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、均一な表面品位と良好なタッチ感ならびに良好な耐摩耗性を有する人工皮革が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、親水性基を有する高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記の極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下であり、前記の極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成しており、人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真において、該走査型電子顕微鏡写真の観察範囲を8区画に等分した際の各区画内に存在する繊維断面の個数の変動係数が50%以下である。以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0016】
[極細繊維]
本発明の人工皮革において、前記の極細繊維に用いることができる樹脂としては、優れた耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐光性の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などが挙げられる。ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、例えば、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得ることができる。
【0017】
前記のポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0018】
前記のポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0019】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、共重合ポリアミド等を用いることができる。
【0020】
極細繊維に用いられる樹脂には、種々の目的に応じて、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有することができる。
【0021】
また、極細繊維に用いられる樹脂がバイオマス資源由来の成分を含有することが好ましい。
【0022】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合のバイオマス資源由来の成分としては、その構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいし、ジオールとしてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいが、環境負荷低減の観点からは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールの両方にバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
【0023】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合のバイオマス資源由来の成分としては、バイオマス資源由来の原料を経済的に有利に得られることや繊維の物性の点から、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11が好ましく用いられる。
【0024】
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などが挙げられる。
【0025】
極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10.0μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径が10.0μm以下、好ましくは7.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下であることによって、人工皮革をより柔軟なものとすることができる。また、立毛の品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色を行う場合に染色後の発色性に優れた人工皮革とすることができる。また、バフィングによる起毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0026】
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)人工皮革を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm2))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0027】
[繊維質基材]
本発明で用いられる繊維質基材は、前記の極細繊維からなる不織布を含む。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0028】
前記の繊維質基材の具体的な形態としては、前記の極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、人工皮革の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を形成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を形成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0029】
前記の不織布は、一定の繊維長を有する極細繊維からなる不織布である。このようにすることで、人工皮革の風合いや品位をより向上させることができる。
【0030】
具体的には、前記の極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下の範囲である。平均繊維長が25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、極細繊維が十分に絡合されて、より耐摩耗性に優れた人工皮革となる。また、平均繊維長が90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下であることにより、より風合いや品位に優れた人工皮革となる。
【0031】
本発明において、極細繊維の平均繊維長は、以下の方法で算出される。すなわち、人工皮革の任意の3箇所にハサミで切れ込みを入れ、手で破れ目を作る。それぞれの破れ目のうちハサミを通していない部分の断面から、ピンセットを用いて極細繊維10本ずつ抜き出して繊維長を測定し、測定した30本分の繊維長の数平均(mm)を小数点以下第1位で四捨五入して、極細繊維の平均繊維長とする。
【0032】
本発明において、繊維質基材として不織布を用いる場合、強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、0.3μm以上10.0μm以下であることがより好ましい。
【0033】
前記織物や編物を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルや、6-ナイロンや66-ナイロンなどのポリアミド等の合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0034】
[高分子弾性体]
本発明の人工皮革は、親水性基を有する高分子弾性体を構成要素として含む。このようにすることで、耐溶剤性に優れる人工皮革を得ることができる。なお、本発明において、「親水性基を有する高分子弾性体」とは、高分子弾性体の主鎖または側鎖に活性水素を有する親水性基を有する高分子弾性体のことを指し、ここでいう「親水性基」とは、水に対する親和性が高い官能基のことを指す。親水性基の具体例としては、例えば、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基などが挙げられる。
【0035】
本発明の人工皮革において、親水性基を有する高分子弾性体として用いられる高分子弾性体としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂やそれらの共重合体などが挙げられる。それらの中でも風合いの面から、ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0036】
親水性基を有するポリウレタン樹脂としては、数平均分子量が好ましくは500以上5000以下の高分子ポリオールと、有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる樹脂が好ましく用いられる。また、ポリウレタン水分散液の安定性を高めるために、後述する親水性基含有活性水素成分を併用することが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。以下に高分子弾性体として、親水性基を有するポリウレタン樹脂を用いた場合について説明する。
【0037】
(1)親水性基を有するポリウレタン樹脂の各反応成分
まず、親水性基を有するポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0038】
(1-1)高分子ポリオール
本発明に用いることができる高分子ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0039】
ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリン、およびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、および、前記モノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0040】
ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオール等を挙げることができる。
【0041】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0042】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸等からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0043】
ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0044】
ポリカーボネートポリオールの製造原料のポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料で挙げたポリオールを用いることができる。ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等を用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0045】
本発明の人工皮革において、前記の親水性基を有する高分子弾性体がポリエーテルジオールを構成成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において、「構成成分として含有する」とは、高分子弾性体を構成するモノマー成分、オリゴマー成分として含有することをいう。ポリエーテルジオールは、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れるポリウレタンが得られやすくなる。
【0046】
(1-2)有機ジイソシアネート
本発明に用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0047】
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0048】
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0049】
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0050】
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0051】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは、脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0052】
(1-3)鎖伸長剤
本発明に用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0053】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0054】
(2)親水性基を有するポリウレタン樹脂の添加剤
後述する理由により、親水性基を有するポリウレタンを含む溶液や水分散液中に、1価陽イオン含有無機塩を添加することが好ましい。またその他にも、必要により酸化チタンなどの着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や酸化防止剤[4,4-ブチリデンービス(3-メチル-6-1-ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなど]などの各種安定剤、無機充填剤(炭酸カルシウムなど)などを含有させることができる。
【0055】
(3)ポリウレタンに親水性基を含有させる成分
本発明で用いられる親水性基を有するポリウレタンにおいて、ポリウレタンに親水性基を含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素成分が挙げられる。親水性基含有活性水素成分としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
【0056】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250~9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0057】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0058】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0059】
前記親水性基含有活性水素成分は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
【0060】
ポリウレタン分子内に用いられる親水性基含有活性水素成分は、親水性基を有するポリウレタン樹脂の機械的強度および分散安定性の観点から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸およびこれらの中和塩を用いることが好ましい。
【0061】
本発明で用いられる親水性基を有する高分子弾性体は、人工皮革中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくは人工皮革の少なくとも片面に立毛を有する観点から、繊維質基材の内部に存在していることが好ましい態様である。
【0062】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維質基材と、前記の親水性基を有する高分子弾性体と、を構成要素として含み、さらに、人工皮革表面に対して垂直に切断した断面において、観察範囲を8等分した際に各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数が50%以下であることが重要である。極細繊維断面の個数の変動係数が50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下であることで、繊維の分散の均一性が高く、均一な表面品位と良好なタッチ感を達成可能である。
【0063】
本発明でいう、観察範囲を8等分した際に各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数は、以下の方法で算出される。すなわち、
(1)人工皮革を厚み方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)により、観察する。なお、観察範囲の条件としては、以下の(a)~(c)を満たすものとする。
(a)観察範囲に存在する、観察面手前を向いた極細繊維断面の個数が全体で500個以上であること。
(b)シート表面に立毛処理をしている場合は、立毛部を観察範囲に含まないこと。
(c)不織布の内部に織物や編物が挿入されている場合は、織物や編物を構成する繊維の断面を観察範囲に含まないこと。
(2)観察範囲に対し、縦2等分、横4等分となるように直線を引き、観察範囲を8等分する。
(3)各区画内に存在する、観察面手前を向いた極細繊維断面の個数をカウントする。極細繊維断面が複数の区画にまたがる場合は、極細繊維の断面積が最も多く含まれる区画に存在するとしてカウントする。
(4)8つの区画それぞれについて、極細繊維の断面積の個数を求め、以下の式1に従い変動係数を算出する
(各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数)=(各区画内に存在する極細繊維断面の個数の標本標準偏差)/(各区画内に存在する極細繊維断面の個数の平均値) ・・・(式1)。
【0064】
本発明において、人工皮革は、前記極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成している。繊維束を形成する極細繊維が5本以上、好ましくは8本以上、さらに好ましくは10本以上であることで、極細繊維発生型繊維を絡合に適した繊維径とすることができる。また、繊維束を形成する極細繊維が200本以下、好ましくは130本以下、さらに好ましくは100本以下であることで、極細繊維同士の分散性を向上させることができ、良好なタッチ感を有する人工皮革を得ることができる。なお、本発明において「繊維束」とは、同一の方向を向いていると見なせる複数の極細繊維の集合体のことである。また、本発明において極細繊維が同一方向を向いていると見なせるとは、極細繊維の断面が実質的に同一の形状をしていると見なせる状態のことである。例えば、人工皮革の断面において、同一の円形(扁平率が0の楕円)の断面を有する極細繊維が10本近傍に集合しているのであれば、その集合は、極細繊維が10本で形成される繊維束であるということができる。
【0065】
本発明でいう、繊維束を形成する極細繊維の本数は、以下の方法で算出される。すなわち、人工皮革を厚み方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)により、観察範囲に存在する、観察面手前を向いた極細繊維断面の個数が全体で200個以上となるように倍率1200~1700倍で10枚撮影する。そして、10枚の画像それぞれについて、1つの「繊維束」とみなせるものを形成する極細繊維の本数を全てカウントし、繊維束1つあたりの平均値(本)を小数点以下第1位で四捨五入して、繊維束を形成する極細繊維の本数とする。
【0066】
本発明の人工皮革は、前記の親水性基を有する型高分子弾性体を10質量%以上50%以下含有することが好ましい。製造工程内での張力による破断や実使用における毛羽落ち等を抑制できる観点から15質量%以上含有していることがより好ましく、20質量%以上含有していることがさらに好ましい。また、親水性基を有する型高分子弾性体の含有率を50質量%以下、好ましくは45質量以下%、より好ましくは40質量%以下とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ良好な立毛品位を得ることができる。
【0067】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、20000回の回数を摩耗した後の人工皮革の質量減が10mg以下であることが好ましく、8mg以下であることがより好ましく、6mg以下であることがさらに好ましい。質量減が10mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0068】
[人工皮革の製造方法]
次に、本発明の人工皮革の好ましい製造方法について述べる。
【0069】
本発明において、極細繊維を得る手段としては、直接紡糸や極細繊維発現型繊維を用いることができる。中でも、極細繊維発現型繊維を用いる場合には、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合し不織布とした後に、繊維の極細化を行うことによって、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0070】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は2または3成分)の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いることが、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0071】
海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は3成分)を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維直径の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0072】
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0073】
海成分の溶解除去は、後述するとおり、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与後に行うことが好ましい態様である。
【0074】
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分:島成分=10:90~80:20の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、海成分の質量割合が80質量以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。海成分と島成分の質量割合は、より好ましくは、海成分:島成分=20:80~70:30の範囲である。
【0075】
また、繊維絡合体は不織布の形態をとることが好ましく、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、繊維質基材の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の繊維質基材の表面に高い緻密感を得ることができるため好ましい。
【0076】
繊維絡合体として短繊維不織布を用いる場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0077】
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより短繊維不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0078】
さらに、得られた短繊維不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させてもよい。短繊維不織布と織物の絡合一体化には、短繊維不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の短繊維不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって短繊維不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0079】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の複合繊維(極細繊維発現型繊維)からなる短繊維不織布の見掛け密度は、0.15g/cm3以上0.45g/cm3以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm3以上とすることにより、繊維質基材が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm3以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0080】
このようにして得られた不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0081】
本発明の人工皮革の製造方法では、後述の、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体を付与することを行う前に、前記の繊維質基材を、該繊維質基材の含水率が5質量%以上300%以下となるように水を含ませることが好ましい。繊維質基材の含水率が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であることで、繊維質基材の細部まで水分が入り込み繊維がよく分散した状態となる。この状態にした後に、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体を含浸させることで、繊維質基材が含有する水分と前駆体の溶液もしくは水分散液とが置換されることにより、繊維質基材の細部まで前駆体が十分に入り込むことができ、その結果、前駆体が凝固した後の繊維の分散性が向上し、均一な表面品位と良好なタッチ感を有する人工皮革を得ることが可能となる。一方、含水率を300質量%以下、好ましくは250質量%以下、より好ましくは230質量%以下とすることで、繊維質基材が含有する水分と前駆体の溶液もしくは水分散液との置換をより効率的に行えるとともに、加工中の前駆体の溶液もしくは水分散液の濃度低下を低減することが可能である。
【0082】
この場合、上記の水を含ませる際の水が60℃以上100℃以下であることが好ましい。前記の水が60℃以上100℃以下であることによって、繊維質基材の不織布が収縮されて、高密度化すると同時に、水を含ませることで、不織布のより内部まで水分が入り込みやすくなり、繊維の分散性がより向上する。
【0083】
また、繊維質基材へ水を含ませた後、前駆体を含浸させる前に、ニップロールや乾燥機、吸引装置、送風機、真空脱水装置等によって繊維質基材の含水率が5質量%を下回らない範囲で、低下させても良い。繊維質基材に水を含ませた後、含水率を低下させることで、前述の通り、繊維質基材が含有する水分と前駆体の溶液や水分散液との置換をより効率的に行えるとともに、加工中の前駆体の溶液や水分散液の濃度低下を低減することが可能である。
【0084】
本発明の人工皮革の製造方法では、繊維質基材に親水性基を有する高分子弾性体の前駆体を含浸させる。繊維質基材として不織布を用いる場合においては、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与は、極細繊維発現型繊維からなる不織布でも、極細繊維化された不織布でもどちらに対しても行うことができる。ここで、本発明に係る「親水性基を有する高分子弾性体の前駆体」とは、後述する凝固や固化などの手段によって親水性基を有する高分子弾性体となる前駆体(以下、単に「前駆体」と略記することがある)のことを言う。例えば、人工皮革の構成要素として含まれる親水性基を有する高分子弾性体として、親水性基を有するポリウレタン樹脂が用いられる場合には、親水性基を有するポリウレタン樹脂の各反応成分、すなわち、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤、そして、親水性基を含有させる成分などの混合物が親水性基を有する高分子弾性体の前駆体である。
【0085】
そして、繊維質基材に前駆体を付与する際には、この前駆体の特性に合わせて、溶液を用いてもよいし、水分散液を用いてもよい。
【0086】
前駆体を含浸させる時に、この前駆体の水分散液中でのニップや、攪拌による液流の発生、噴射によるシートへの前駆体の水分散液の吹き付けなどを行うことも好ましい。本発明の人工皮革の製造方法では、前駆体を付与する時に繊維質基材が水分を含むため、シートを前駆体の水分散液に浸漬するのみでは、前駆体が含浸しにくくなることがある。そのため、上記の方法をとることによって、繊維質基材へ前駆体をより含浸させやすくさせることが可能である。
【0087】
特に、本発明の人工皮革の製造方法においては、前記の前駆体を含浸させる際、該前駆体の溶液もしくは水分散液を、単位面積・単位時間あたり25L/(m2・min)以上85L/(m2・min)以下の流量で前記の繊維質基材の少なくとも一方の表面に対し噴射することが好ましい。さらには、この噴射を繊維質基材の両方の表面に対し噴射することも、より好ましい。このようにすることで、人工皮革の厚さ方向において、親水性基を有する高分子弾性体の含有量に偏りが出ないようにすることができる。この流量を好ましくは25L/(m2・min)以上、より好ましくは35L/(m2・min)以上、さらに好ましくは40L/(m2・min)以上の流量で噴射することで、繊維質基材が含有する水分と前駆体の溶液もしくは水分散液との置換が効率よく行われ、繊維質基材への前駆体をより含浸させやすくすることができる。また、流量を好ましくは85L/(m2・min)以下、より好ましくは75L/(m2・min)以下、さらに好ましくは70L/(m2・min)以下とすることで、加工時のシートのバタつきや蛇行を抑制し、加工性の悪化を防ぐことが可能である。
【0088】
前記の前駆体の溶液もしくは水分散液の噴射は、前駆体の溶液もしくは水分散液中で行ってもよいし、空気中で行ってもよい。
【0089】
前記の前駆体の溶液もしくは水分散液の濃度(前駆体の溶液もしくは水分散液に対する前駆体の含有量)は、前駆体の溶液もしくは水分散液の貯蔵安定性の観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0090】
また、本発明に用いる前駆体の溶液もしくは水分散液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、前記の前駆体、溶媒の水の他に水溶性の有機溶剤を、前駆体の溶液や水分散液に対して40質量%以下含有していてもよい。製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることがより好ましい。
【0091】
さらに、本発明の人工皮革の製造方法では、前駆体の水分散液中に1価陽イオン含有無機塩を含有することも好ましい。1価陽イオン含有無機塩を含有することで、前駆体の溶液もしくは水分散液に感熱凝固性を付与することが出来る。本発明において、感熱凝固性とは、前駆体の溶液もしくは水分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達すると前駆体の溶液もしくは水分散液の流動性が減少し、前駆体が凝固して親水性基を有する高分子弾性体が得られる性質のことを言う。
【0092】
前記の前駆体が感熱凝固性を有していることで、前記の前駆体が水分の蒸発とともにシート表面に移行する現象、すなわち、マイグレーションの発生を抑制できる。さらに、水分の蒸発とともに極細繊維の周囲に前駆体が偏在しない状態で凝固が進行するため、得られる人工皮革においては、親水性基を有する高分子弾性体が繊維周囲を覆ってしまうことが抑制され、繊維の動きが強く拘束されるような構造になりにくくなる。これらによって、人工皮革の風合いをより柔軟なものとすることができる。
【0093】
前記の前駆体の溶液もしくは水分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。前駆体の溶液もしくは水分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時に製造装置内部への親水性基を有する高分子弾性体の付着等を抑制することができるため、感熱温度を60℃以上であることがより好ましい。繊維質基材の表層への前駆体のマイグレーション現象を抑制することができ、さらに繊維質基材からの水分蒸発前に前駆体の凝固が進行することで、溶剤系の高分子弾性体の前駆体を湿式凝固させて高分子弾性体が得られる場合に類似した構造、すなわち高分子弾性体が強く極細繊維を拘束しない構造を形成することができる。そして、より柔軟で反発感を有する人工皮革を得ることができるため、感熱凝固温度を70℃以下であることがより好ましい。
【0094】
本発明では、感熱凝固剤として用いる無機塩において、1価陽イオン含有無機塩を用いることが好ましい。前記の1価陽イオン含有無機塩は、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである。従来の手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきたが、これらの無機塩は少量の添加によっても溶液もしくは水分散液の安定性に大きく影響するため、前駆体の種類によっては、その添加量調整による感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、前記の溶液もしくは水分散液の調整時や貯蔵時におけるゲル化の懸念など課題があった。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、前記の溶液もしくは水分散液の安定性への影響が小さく、添加量を調整することで前記の溶液もしくは水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することが出来る。
【0095】
本発明の人工皮革の製造方法において、前駆体を含浸させた後の凝固は、熱水中で前駆体を凝固させて親水性基を有する高分子弾性体を得る熱水凝固法、酸により前駆体を凝固させて親水性基を有する高分子弾性体を得る酸凝固法なども用いることができるが、100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行って前駆体を凝固させて親水性基を有する高分子弾性体を得る乾熱凝固法を用いることが好ましい。この乾熱凝固法は、前駆体を含浸したシートを熱風乾燥機等で加熱処理するという非常に簡易な手法であり、親水性基を有する高分子弾性体の脱落の懸念がなく、加工性に優れる手法である。
【0096】
本発明の人工皮革の製造方法において、乾熱凝固法における加熱温度は100℃以上180℃以下が好ましく、より好ましくは、120℃以上160℃以下である。加熱温度を100℃以上とすることで、前駆体を速やかに凝固させて親水性基を有する高分子弾性体とし、自重によって人工皮革の下面への親水性基を有する高分子弾性体が偏在してしまうことを抑えることが出来る。さらに、本発明において、親水性基を有するポリウレタン樹脂を用いる場合などでは架橋剤を用いることがあるが、そのようなときに上記温度とすることで、架橋反応を十分に促進させ、物性を向上させることが出来る。また、加熱温度を180℃以下とすることで、前駆体、あるいは、親水性基を有する高分子弾性体の熱劣化を抑制することが出来る。
【0097】
極細繊維発現型繊維として海島型複合繊維を用いる場合の繊維極細化処理(脱海処理)は、例えば、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0098】
極細繊維発現工程では、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
【0099】
極細繊維発現工程後において、アルカリ処理後に十分な洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程を経ることで人工皮革に付着したアルカリや1価陽イオン含有無機塩をシートに残存させることなく、加工でき、生産設備への影響を与えず加工できる。洗浄液は環境面や安全性を考慮すると水を用いることが好ましい。
【0100】
乾燥温度は、温度が低すぎると乾燥時間が長時間必要となり、温度が高すぎるとポリウレタンの熱分解が促進されるため、80℃以上200℃以下の温度で乾燥することが好ましく、より好ましくは120℃以上190℃以下でありさらに好ましくは150℃以上180℃以下である。
【0101】
本発明では、人工皮革の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0102】
また、本発明のひとつの態様において、起毛処理の前に、人工皮革に滑剤としてシリコーン等を付与してもよい。滑剤を付与することにより、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となるため好ましい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与してもよい。帯電防止剤の付与により、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるため好ましい態様である。
【0103】
人工皮革は染色することができる。この染色処理としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができ、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、未起毛人工皮革または人工皮革の染色と同時に揉み効果を与えて未起毛人工皮革または人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0104】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、高分子弾性体の劣化を防ぐことができる。
【0105】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0106】
染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0107】
本発明では、染色工程の前後に問わず、製造効率の観点から、厚み方向に半裁することも好ましい態様である。
【0108】
さらに、本発明のひとつの態様において、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【実施例0109】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0110】
[評価方法]
(1)観察範囲を8等分した際に各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数(%)
人工皮革を厚み方向に切断した断面について、株式会社キーエンス製の走査型電子顕微鏡(SEM)「VHX-D500/D510」を用い、前記の観察範囲の条件を満たすようにして、倍率500倍で撮影し、前記の方法によって、観察範囲を8等分した際に各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数を測定、算出した。以降、観察範囲を8等分した際に各区画内に存在する極細繊維断面の個数の変動係数のことを、表1~4も含めて、単に、「極細繊維断面の個数の変動係数」と略記することがある。
【0111】
(2)極細繊維の平均繊維長(mm)
前記の方法に従って、人工皮革の任意の3箇所から、それぞれピンセットを用いて極細繊維10本ずつ抜き出して繊維長を測定し、測定した30本分の繊維長の数平均を算出した。
【0112】
(3)繊維束を形成する極細繊維の本数(本)
人工皮革を厚み方向に切断した断面について、株式会社キーエンス製の走査型電子顕微鏡(SEM)「VHX-D500/D510」を用い、前記の観察範囲の条件を満たすようにして、倍率1500倍で10枚撮影し、10枚の画像それぞれについて繊維束を形成する極細繊維の本数を測定し、平均値を算出した。
【0113】
(4)表面品位
対象者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革の表面品位とした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の表面品位とすることとした。本発明において良好なレベルは、「AまたはB」である。
・A:非常に均一な表面品位である。
・B:均一な表面品位である。
・C:不均一な表面品位である。
・D:非常に不均一な表面品位である。
【0114】
(5)タッチ
対象者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革のタッチとした。評価した人数が最も多いレベルが同数となった場合は、なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の表面品位とすることとした。本発明において良好なレベルは、「AまたはB」である。
・A:繊維の分散状態が良く非常に良好なタッチである。
・B:繊維の分散状態がやや良く良好なタッチである。
・C:繊維の分散状態がやや悪く不良なタッチである。
・D:繊維の分散状態が悪く非常に不良なタッチである。
【0115】
(6)耐摩耗性
JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5E法(マーチンデール法)」に準じて測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を「家具、カーペット用など」の12.0kPaとし、20000回の回数を摩耗した後のシート状物の質量減を評価し、9mg以下を合格とした。なお、この耐摩耗試験の結果について、表1~4では単に「摩耗減量」と表記した。
【0116】
[実施例1]
(不織布)
海成分として5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が700g/m2で、厚みが3.0mmの不織布を得た。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の水に、含水率が40%となるように水を含ませた。具体的には、前記の水中に2分間浸漬させて収縮させたのち、真空脱水装置によって含水率を低下させることで行った。
【0117】
(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)
前駆体(高分子ポリオールとして、数平均分子量(Mn)が2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、有機ジイソシアネートとしてMDI、鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、ポリウレタンに親水性機を含有させる成分として2,2-ジメチロールプロピオン酸を使用し、これらを混合したもの)、感熱凝固剤としての硫酸ナトリウム、カルボジイミド系架橋剤、および水を混合することで、水分散液全体の質量に対し、前駆体が11質量%、感熱凝固剤が5質量%、カルボジイミド系架橋剤が0.6質量%となる、前駆体を含む水分散液を調製した。そして、前記の含水率40%の不織布をこの水分散液に浸漬させ、かつ、水分散液中にて不織布の両面に向かって、単位面積・単位時間あたり55L/(m2・min)の流量で水分散液の噴射を行った。次いで120℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、シート状物としたときにシート状物100質量%中に親水性基を有する高分子弾性体が28質量%となるように親水性基を有する高分子弾性体が付与された、厚みが2.10mmの高分子弾性体付与不織布を得た。
【0118】
(極細繊維発現処理)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して5分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去(脱海)することで、極細繊維を発現させた。その後、不織布に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水に浸漬して30分間洗浄し、160℃の乾燥機で30分間乾燥させ、極細繊維と親水性基を有する高分子弾性体とからなるシートを得た。
【0119】
(染色・仕上げ)
得られた脱海後のシートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.75mmの表面が起毛されたシートを得た。
【0120】
得られたシートを、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行い、次いで乾燥機で乾燥を行うことで人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、表面品位は均一で、タッチ感が良好な表層であり、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は30%であり、繊維束を形成する極細繊維の本数は23本であった。また、摩耗減量は7.3mgであった。
【0121】
[実施例2]
実施例1の(不織布)において、海島型複合繊維の島数を36島/1フィラメントとしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表1に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は50%であった。また、得られた人工皮革は、均一な表面品位と良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は2.1μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は28%、繊維束を形成する極細繊維の本数は23本、摩耗減量は8.6mgであった。
【0122】
[実施例3]
実施例1の(不織布)において、水中に2分間浸漬させて収縮させた後、真空脱水装置によって含水率を低下させていたところを、真空脱水装置によって含水率を低下させないようにしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表1に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は200%であった。また、得られた人工皮革は、均一な表面品位と良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は25%、繊維束を形成する極細繊維の本数は14本、摩耗減量は7.6mgであった。
【0123】
[実施例4]
実施例1の(不織布)において、不織布の目付が700g/m2、厚みが3.0mmであったところを、不織布の目付を670g/m2、厚みを2.5mmと変更したこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表1に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は70%であった。また、得られた人工皮革は、均一な表面品位と良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は40%、繊維束を形成する極細繊維の本数は20本、摩耗減量は6.9mgであった。
【0124】
[実施例5]
実施例1の(不織布)において、水を含ませる際の水の温度が98℃であったところを、25℃としたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表2に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は100%であった。また、得られた人工皮革は、実施例1に比べてやや劣るものの、均一な表面品位と良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は33%、繊維束を形成する極細繊維の本数は18本、摩耗減量は8.8mgであった。
【0125】
[実施例6]
実施例1の(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)において、不織布を水分散液に浸漬させ、水分散液中にて不織布の両面に向かって水分散液の噴射を行っていたところ、不織布を水分散液に浸漬させず、空気中にて不織布の両面に向かっての水分散液の噴射を行うこととしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表2に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は40%であった。得られた人工皮革は、表面品位の均一性が実施例1の人工皮革と比べればやや劣るものの、良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は40%、繊維束を形成する極細繊維の本数は12本、摩耗減量は8.2mgであった。
【0126】
[実施例7]
実施例1の(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)において、水分散液中にて不織布の両面に向かって水分散液の噴射を行っていたところ、不織布の一方の面のみに対して行うこととした以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表2に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は40%であった。得られた人工皮革は、実施例1に比べてやや劣るものの、均一な表面品位と良好なタッチを有しており、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は46%、繊維束を形成する極細繊維の本数は22本、摩耗減量は7.5mgであった。なお、表面品位、タッチ、摩耗減量の評価に関しては、水分散液を噴射した面のある側の人工皮革について実施した。
【0127】
【0128】
【0129】
[比較例1]
実施例1の(不織布)において、不織布を98℃の温度の水中に2分間浸漬させて収縮させた後、真空脱水装置によって含水率を低下させ、含水率が40%となるように水を含ませていたところを、不織布を98℃の温度の水中に2分間浸漬させて収縮させた後、100℃の温度で5分間乾燥させて含水率を低下させ、前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率が0%となるようにしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表3に示す。また、得られた人工皮革は、立毛の疎密が不均一な表面品位であり、タッチも不良であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は65%、繊維束を形成する極細繊維の本数は21本、摩耗減量は10.2mgであった。
【0130】
[比較例2]
実施例1の(不織布)において、不織布を98℃の温度の水中に2分間浸漬させて収縮させた後、真空脱水装置によって含水率を低下させ、含水率が40%となるように水を含ませていたところを、不織布を水中に浸漬させず、かつ、含水率を低下させることもせず、前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率が0%となるようにしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表3に示す。また、得られた人工皮革は、立毛の疎密が不均一な表面品位であり、タッチも不良であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は77%、繊維束を形成する極細繊維の本数は19本、摩耗減量は13.8mgであった。
【0131】
[比較例3]
実施例1の(不織布)において、海島型複合繊維の島数を4島/1フィラメントとしたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表3に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は50%であった。また、得られた人工皮革は、立毛同士の間隔が広く、緻密感の少ないという表面品位であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は33%、繊維束を形成する極細繊維の本数は3本、摩耗減量は8.6mgであった。
【0132】
[比較例4]
実施例1の(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)において、水分散液中にて不織布の両面に向かって、単位面積・単位時間あたり55L/(m2・min)の流量で水分散液の噴射を行っていたところ、その流量を単位面積・単位時間あたり20L/(m2・min)としたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表3に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は40%であった。また、得られた人工皮革は、立毛の疎密が不均一な表面品位であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は62%、繊維束を形成する極細繊維の本数は9本、摩耗減量は9.5mgであった。
【0133】
[比較例5]
実施例1の(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)において、不織布を水分散液に浸漬させ、かつ、水分散液中にて不織布の両面に向かって水分散液の噴射を行っていたところ、水分散液の噴射を行わず、不織布を水分散液に浸漬させるのみとしたこと以外は同様にして人工皮革を製造した。結果を表4に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は40%であった。また、得られた人工皮革は、立毛の疎密が不均一な表面品位であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は70%、繊維束を形成する極細繊維の本数は8本、摩耗減量は9.6mgであった。
【0134】
[比較例6]
実施例1の(不織布)において、海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとしていたところ、20mmにカットするように変えたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表4に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は40%であった。また、得られた人工皮革は、立毛同士の間隔が広く、緻密感が少ないという表面品位であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は20mm、極細繊維断面の個数の変動係数は31%、繊維束を形成する極細繊維の本数は25本、摩耗減量は13.5mgであった。
【0135】
[比較例7]
実施例1の(不織布)において、海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとしていたところ、150mmにカットするように変えたこと以外は、同様にして人工皮革を製造した。結果を表4に示す。前駆体の水分散液を含浸させる前の不織布の含水率は70%であった。また、得られた人工皮革は、立毛長が長く、かつ、ボサついた表面品位であり、加えて、タッチも不良であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は150mm、極細繊維断面の個数の変動係数は44%、繊維束を形成する極細繊維の本数は28本、摩耗減量は8.2mgであった。
【0136】
[比較例8]
(不織布)
実施例1の(不織布)において、目付が700g/m2で、厚みが3.0mmの不織布を得たのち、得られた不織布を、98℃の温度の水中に2分間浸漬させて収縮させ、真空脱水装置によって含水率が40%となるように水を含ませていたところ、以下の工程を行うように変更した。
【0137】
すなわち、まず、実施例1の(不織布)において、目付が700g/m2で、厚みが3.0mmの不織布を得たのち、得られた不織布を98℃の水中に2分間浸漬させて収縮させた。この後、そのまま、濃度が12質量%となるように調製した、鹸化度98%、重合度450のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度140℃の熱風で10分間加熱乾燥後、160℃の温度で5分間加熱処理を行い、不織布の質量に対するPVA質量が25質量%となるようにしたPVA付シートを得た。得られたPVA付シートを、60℃の温度に加熱した濃度80g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海部を除去したPVA付シートを得た。
【0138】
(親水性基を有する高分子弾性体の前駆体の付与)
実施例1と同様に、前駆体を含む水分散液を調製し、上記のようにして得られたPVA付シートをこの水分散液に浸漬させ、かつ、水分散液中にて不織布の両面に向かって、単位面積・単位時間あたり55L/(m2・min)の流量で水分散液の噴射を行った。次いで120℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、シートを得た。そして、得られたシートを、95℃に加熱した水中に10分浸漬し、付与したPVAを除去することで、シート状物としたときにシート状物100質量%中に親水性基を有する高分子弾性体が28質量%となるように親水性基を有する高分子弾性体が付与された、厚みが2.10mmの高分子弾性体付与不織布を得た。
【0139】
(染色・仕上げ)
実施例1の(染色・仕上げ)と同様にして人工皮革を製造した。結果を表4に示す。得られた人工皮革は、立毛の疎密が不均一な表面品位となり、かつ、タッチも不良であった。そして、得られた人工皮革の極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の平均繊維長は51mm、極細繊維断面の個数の変動係数は82%、繊維束を形成する極細繊維の本数は22本、摩耗減量は11.1mgであった。
【0140】
【0141】
【0142】
実施例1~7の人工皮革は、親水性基を有する高分子弾性体の前駆体を含む水分散液に浸漬させる前の不織布の含水率を5%以上300%以下としたことで、極細繊維と高分子弾性体とが均一に分布し、均一な表面品位と良好なタッチを有する人工皮革を得ることができた。中でも、実施例4の人工皮革は、さらに、より密度の高い不織布を用いることで、特に耐摩耗性に優れた人工皮革を得ることができた。
【0143】
一方、比較例1、2の人工皮革は、前記の水分散液に浸漬させる前の不織布に水を含ませないようにしたため、極細繊維および高分子弾性体の分布が不均一になり、立毛の疎密が不均一な表面品位であり、タッチも不良な人工皮革となった。
【0144】
また、比較例3の人工皮革は、繊維束を形成する極細繊維の本数を少なくしたことで、立毛同士の間隔が広く、緻密感が少ないという表面品位である人工皮革となった。
【0145】
そして、比較例4、5の人工皮革は、高分子弾性体含浸時に不織布に噴射する高分子弾性体の流量が不足したことで、高分子弾性体が人工皮革の内部まで付与されず、立毛の疎密が不均一な表面品位である人工皮革となった。
【0146】
加えて、比較例6の人工皮革は、極細繊維の繊維長を短いことで、立毛同士の間隔が広く、緻密感が少ないという表面品位である人工皮革となった。
【0147】
さらに、比較例7の人工皮革は、極細繊維の繊維長を長くすることで、立毛長が長く、かつ、ボサついた表面品位であり、加えて、タッチも不良である人工皮革となった。
【0148】
最後に、比較例8の人工皮革は、前記の水分散液に浸漬させる前にPVAの付与を行ったことで、高分子弾性体の分布が不均一となり、立毛の疎密が不均一な表面品位であり、かつ、タッチも不良である人工皮革となった。