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特開2023-140552光学特性計測装置および光学特性計測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140552
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】光学特性計測装置および光学特性計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20230928BHJP
   G01J 11/00 20060101ALI20230928BHJP
   G01M 11/02 20060101ALI20230928BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20230928BHJP
   G01J 3/453 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N21/17 610
G01J11/00
G01M11/02 K
G01N21/41 Z
G01J3/453
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046443
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 永斉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
(72)【発明者】
【氏名】重松 恭平
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓
【テーマコード(参考)】
2G020
2G059
2G065
【Fターム(参考)】
2G020CB05
2G020CB42
2G020CC02
2G020CC25
2G020CC26
2G020CC29
2G020CC32
2G020CD22
2G020CD37
2G059AA02
2G059AA10
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH01
2G059JJ05
2G059JJ19
2G059KK01
2G059MM09
2G059MM10
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA01
2G065BB15
2G065BB25
2G065BC33
2G065BC35
(57)【要約】
【課題】二種類以上の光学特性の計測を、一つの装置を用いて行うことを可能にする。
【解決手段】パルス形成部3は、パルス光PLを生成するとともに、計測される光学特性の種類に応じてパルス光PLの時間波形を変更可能である。波形計測部5は、計測対象物Bに照射されたのち計測対象物Bから出力されたパルス光PLの時間波形を計測する。光学系4は、パルス光PLを構成する一の波長成分に対する減衰率がパルス光PLを構成する別の波長成分に対する減衰率よりも大きい減光部41を有する。光学系4は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態と、該光路上に減光部41が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能とされている。解析部6は、波形計測部5において計測された時間波形に基づいて、計測対象物Bの光学特性を求める。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物の光学特性を計測する装置であって、
パルス光を生成するとともに、計測される前記光学特性の種類に応じて前記パルス光の時間波形を変更可能であるパルス形成部と、
前記計測対象物に照射されたのち前記計測対象物から出力された前記パルス光の時間波形を計測する波形計測部と、
前記パルス光を構成する一の波長成分に対する減衰率が前記パルス光を構成する別の波長成分に対する減衰率よりも大きい減光部を有する光学系であって、前記計測対象物から出力される前記パルス光の光路上に前記減光部が配置される第1の状態と、前記光路上に前記減光部が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能な前記光学系と、
前記時間波形に基づいて、前記計測対象物の光学特性を求める解析部と、
を備える、光学特性計測装置。
【請求項2】
前記光学系において、前記減光部が前記パルス光の光軸と交差する方向に移動可能である、請求項1に記載の光学特性計測装置。
【請求項3】
前記光学系は、前記パルス光のための2つの光路を相互に切り替えるための構成を有し、
前記減光部は、前記2つの光路のうちいずれかの光路上に配置される、請求項1に記載の光学特性計測装置。
【請求項4】
前記計測される光学特性の種類には、光照射に起因する前記計測対象物内部の時間応答と、前記計測対象物の波長分散量とが含まれ、
前記光学系は、前記時間応答の計測時には前記第1の状態とされ、前記波長分散量の計測時には前記第2の状態とされる、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項5】
前記パルス形成部は、前記時間応答の計測時に、前記パルス光として、ポンプ光の波長を含む第1パルス光、プローブ光の波長を含む第2パルス光、並びに、前記ポンプ光の波長及び前記プローブ光の波長を含む第3パルス光を共通の光軸上に生成し、
前記減光部の前記ポンプ光に対する減衰率が前記減光部の前記プローブ光に対する減衰率よりも大きく、
前記波形計測部は、前記減光部を通過した前記第1パルス光の時間波形である第1時間波形、前記減光部を通過した前記第2パルス光の時間波形である第2時間波形、及び、前記減光部を通過した前記第3パルス光の時間波形である第3時間波形を計測し、
前記解析部は、前記第1時間波形、前記第2時間波形、及び前記第3時間波形に基づいて前記計測対象物の時間応答を求める、請求項4に記載の光学特性計測装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記第3時間波形と前記第1時間波形との差分と、前記第2時間波形との比較に基づいて前記計測対象物の時間応答を求める、請求項5に記載の光学特性計測装置。
【請求項7】
前記パルス形成部において、前記第3パルス光に含まれる前記ポンプ光の波長の成分の強度ピークと前記プローブ光の波長の成分の強度ピークとの時間間隔が可変である、請求項5または6に記載の光学特性計測装置。
【請求項8】
前記パルス形成部において、前記第3パルス光に含まれる前記ポンプ光の波長の成分のパルス幅と前記プローブ光の波長の成分のパルス幅との比が可変である、請求項5~7のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項9】
前記第3パルス光に含まれる前記ポンプ光の波長の成分のパルス幅は、前記第3パルス光に含まれる前記プローブ光の波長の成分のパルス幅よりも小さい、請求項5~8のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項10】
前記パルス形成部は、前記波長分散量の計測時に、前記パルス光として、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数のパルスを含む光パルス列を形成し、
前記波形計測部は、前記計測対象物を通過した前記光パルス列の時間波形を計測し、
前記解析部は、前記光パルス列の時間波形の特徴量に基づいて前記計測対象物の波長分散量を推定する、請求項4~9のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項11】
前記パルス形成部は、入力光の位相変調と強度変調のうち少なくともいずれか一方を行うことにより前記パルス光を生成する空間光変調器を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項12】
前記波形計測部は、前記計測対象物と前記光学系との間又は前記光学系の後段に配置され、前記パルス光を相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する相関光学系を有し、
前記解析部は、相関光に変換された前記パルス光に基づいて前記計測対象物の光学特性を求める、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項13】
前記波形計測部は、前記計測対象物と前記光学系との間又は前記光学系の後段に配置され、前記パルス光の時間幅を伸張させる光学部品を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項14】
前記減光部は、前記一の波長成分の波長を遮断帯域内に含み、前記別の波長成分の波長を透過帯域内に含む波長フィルタを有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学特性計測装置。
【請求項15】
計測対象物にパルス光を照射して前記計測対象物の光学特性を計測する方法であって、
前記計測対象物から出力される前記パルス光の光路上に、前記パルス光を構成する一の波長成分に対する減衰率が前記パルス光を構成する別の波長成分に対する減衰率よりも大きい減光部が配置される第1の状態と、前記光路上に前記減光部が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能な光学系においていずれかの状態を選択するステップと、
前記パルス光の時間波形を変更可能であるパルス形成部を用いて、計測される前記光学特性の種類に応じた時間波形を有する前記パルス光を前記計測対象物に照射するステップと、
前記光学系を通過した前記パルス光の時間波形を計測するステップと、
前記時間波形に基づいて、前記計測対象物の光学特性を求めるステップと、
を含む、光学特性計測方法。
【請求項16】
前記計測される光学特性の種類には、光照射に起因する前記計測対象物内部の時間応答と、前記計測対象物の波長分散量とが含まれ、
前記状態を選択するステップでは、前記時間応答の計測時には前記第1の状態を選択し、前記波長分散量の計測時には前記第2の状態を選択する、請求項15に記載の光学特性計測方法。
【請求項17】
前記時間応答の計測時には、前記照射するステップ及び前記計測するステップを交互に繰り返し、
一の前記照射するステップでは、ポンプ光の波長を含む前記パルス光である第1パルス光を所定の光軸に沿って前記計測対象物に照射し、該照射するステップに続く前記計測するステップでは、前記計測対象物から出力されたのち前記減光部を通過した前記第1パルス光の時間波形である第1時間波形を計測し、
別の前記照射するステップでは、プローブ光の波長を含む前記パルス光である第2パルス光を前記所定の光軸に沿って前記計測対象物に照射し、該照射するステップに続く前記計測するステップでは、前記計測対象物から出力されたのち前記減光部を通過した前記第2パルス光の時間波形である第2時間波形を計測し、
更に別の前記照射するステップでは、前記ポンプ光の波長及び前記プローブ光の波長を含む前記パルス光である第3パルス光を前記所定の光軸に沿って前記計測対象物に照射し、該照射するステップに続く前記計測するステップでは、前記計測対象物から出力されたのち前記減光部を通過した前記第3パルス光の時間波形である第3時間波形を計測し、
前記計測対象物の光学特性を求めるステップでは、前記第1時間波形、前記第2時間波形、及び前記第3時間波形に基づいて前記計測対象物の時間応答を求める、請求項16に記載の光学特性計測方法。
【請求項18】
前記光学特性を求めるステップでは、前記第3時間波形と前記第1時間波形との差分と、前記第2時間波形との比較に基づいて前記計測対象物の時間応答を求める、請求項17に記載の光学特性計測方法。
【請求項19】
前記第3パルス光に含まれる前記ポンプ光の波長の成分のパルス幅を、前記第3パルス光に含まれる前記プローブ光の波長の成分のパルス幅よりも小さくする、請求項17または18に記載の光学特性計測方法。
【請求項20】
前記第1時間波形及び前記第2時間波形を計測したのちに前記第3時間波形を計測する、請求項17~19のいずれか1項に記載の光学特性計測方法。
【請求項21】
前記波長分散量の計測時には、
前記照射するステップにおいて、前記パルス光として、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数のパルスを含む光パルス列を前記計測対象物に照射し、
前記計測するステップにおいて、前記計測対象物を通過した前記光パルス列の時間波形を計測し、
前記光学特性を求めるステップにおいて、前記光パルス列の時間波形の特徴量に基づいて前記計測対象物の波長分散量を推定する、請求項16に記載の光学特性計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学特性計測装置および光学特性計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、分散測定装置に関する技術を開示する。この分散測定装置は、パルス形成部と、相関光学系と、光検出部と、演算部と、を備える。パルス形成部は、測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成する。相関光学系は、パルス形成部から出力された光パルス列を受け、該光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する。光検出部は、相関光の時間波形を検出する。演算部は、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する。
【0003】
非特許文献1は、時間分解分光計測を開示する。この文献に記載された方法では、試料を励起するポンプ光と、試料の特性変化を検出するプローブ光との時間差を変化させることにより、試料の時間応答を評価する。非特許文献2は、中心波長が互いに異なる複数の光パルスを用いる時間分解計測方法を開示する。この文献に記載された方法では、光パラメトリック増幅器(Optical parametric amplifier;OPA)を用いて波長変換を行うことにより、波長が互いに異なる複数の光パルスを発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-169946号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jahan M. Dawlaty et al., "Measurement of ultrafast carrierdynamics in epitaxial graphene", Applied Physics Letters, 92, 042116(2008)
【非特許文献2】Masataka Kobayashi et al., "Fast-frame single-shot pump-probespectroscopy with chirped-fiber Bragg gratings", Optics Letters, Volume44, Issue 1, pp. 163-166 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
計測対象物にパルス光を照射して計測対象物の光学特性を計測する際には、計測される光学特性の種類に応じて異なる装置が用いられる。例えば、互いに波長が異なるポンプ光及びプローブ光を計測対象物に照射し、ポンプ光の照射に起因する計測対象物内部の特性変化を、計測対象物から出力されるプローブ光の時間変化に基づいて評価する装置(時間応答計測装置)が知られている。また、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列を計測対象物に照射し、計測対象物を通過した光パルス列の時間波形の特徴量(例えばパルス間隔)に基づいて、計測対象物の波長分散量を推定する装置が知られている(例えば特許文献1を参照)。従って、二種類以上の光学特性を計測したい場合、各光学特性の種類に応じた二つ以上の装置を用意する必要がある。
【0007】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、二種類以上の光学特性の計測、例えば、時間応答計測及び波長分散計測を、一つの装置を用いて行うことができる光学特性計測装置および光学特性計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示による光学特性計測装置は、計測対象物の光学特性を計測する装置であって、パルス形成部と、波形計測部と、光学系と、解析部と、を備える。パルス形成部は、パルス光を生成するとともに、計測される光学特性の種類に応じてパルス光の時間波形を変更可能である。波形計測部は、計測対象物に照射されたのち計測対象物から出力されたパルス光の時間波形を計測する。光学系は、パルス光を構成する一の波長成分に対する減衰率がパルス光を構成する別の波長成分に対する減衰率よりも大きい減光部を有する。光学系は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置される第1の状態と、該光路上に減光部が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能である。解析部は、時間波形に基づいて、計測対象物の光学特性を求める。
【0009】
本開示による光学特性計測方法は、計測対象物にパルス光を照射して計測対象物の光学特性を計測する方法であって、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に、パルス光を構成する一の波長成分に対する減衰率がパルス光を構成する別の波長成分に対する減衰率よりも大きい減光部が配置される第1の状態と、光路上に減光部が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能な光学系においていずれかの状態を選択するステップと、パルス光の時間波形を変更可能であるパルス形成部を用いて、計測される光学特性の種類に応じた時間波形を有するパルス光を計測対象物に照射するステップと、光学系を通過したパルス光の時間波形を計測するステップと、時間波形に基づいて、計測対象物の光学特性を求めるステップと、を含む。
【0010】
これらの装置および方法では、パルス光の時間波形を変更可能であるパルス形成部を用いて、計測される光学特性の種類に応じて時間波形を設定することができる。また、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置される第1の状態と、光路上に減光部が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能な光学系を用いて、光路上の減光部の有無を設定できる。パルス光を構成する一の波長成分に対する減光部の減衰率は、パルス光を構成する別の波長成分に対する減光部の減衰率よりも大きい。従って、パルス光を構成する一の波長成分を、計測対象物通過後に減光することが求められる光学特性の計測(例えば時間応答計測)と、計測対象物通過後に減光しないことが求められる光学特性の計測(例えば波長分散計測)とを、一つの装置を用いて行うことができる。よって、二種類以上の光学特性の計測、例えば、時間応答計測及び波長分散計測を、一つの装置を用いて行うことができる。
【0011】
上記の装置の光学系において、減光部がパルス光の光軸と交差する方向に移動可能であってもよい。或いは、光学系は、パルス光のための2つの光路を相互に切り替えるための構成を有し、減光部は、2つの光路のうちいずれかの光路上に配置されてもよい。これらのうちいずれかの構成を光学系が有することによって、光路上に減光部が配置される第1の状態と、光路上に減光部が配置されない第2の状態とを容易に切り替えることができる。
【0012】
上記の装置において、計測される光学特性の種類には、光照射に起因する計測対象物内部の時間応答と、計測対象物の波長分散量とが含まれ、光学系は、時間応答の計測時には第1の状態とされ、波長分散量の計測時には第2の状態とされてもよい。同様に、上記の方法において、計測される光学特性の種類には、光照射に起因する計測対象物内部の時間応答と、計測対象物の波長分散量とが含まれ、状態を選択するステップでは、時間応答の計測時には第1の状態を選択し、波長分散量の計測時には第2の状態を選択してもよい。時間応答の計測時には、波長が互いに異なるポンプ光及びプローブ光を計測対象物に照射したのち、ポンプ光を除去してプローブ光のみを計測することが望まれる。この場合、ポンプ光は一の波長成分に相当し、プローブ光は別の波長成分に相当する。また、波長分散量の計測時には、波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列を計測対象物に照射し、計測対象物を通過した光パルス列の時間波形を、各波長成分の光強度比を維持しつつ検出することが望まれる。光学系及び状態を選択するステップにおいて、時間応答の計測時には第1の状態が選択され、波長分散量の計測時には第2の状態が選択されることにより、時間応答計測及び波長分散計測を好適に行うことができる。
【0013】
上記の装置において、パルス形成部は、時間応答の計測時に、パルス光として、ポンプ光の波長を含む第1パルス光、プローブ光の波長を含む第2パルス光、並びに、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長を含む第3パルス光を共通の光軸上に生成してもよい。減光部のポンプ光に対する減衰率は、減光部のプローブ光に対する減衰率より大きくてもよい。波形計測部は、減光部を通過した第1パルス光の時間波形である第1時間波形、減光部を通過した第2パルス光の時間波形である第2時間波形、及び、減光部を通過した第3パルス光の時間波形である第3時間波形を計測してもよい。解析部は、第1時間波形、第2時間波形、及び第3時間波形に基づいて計測対象物の時間応答を求めてもよい。
【0014】
上記の方法において、時間応答の計測時には、照射するステップ及び計測するステップを交互に繰り返し、一の照射するステップでは、ポンプ光の波長を含むパルス光である第1パルス光を所定の光軸に沿って計測対象物に照射し、該照射するステップに続く計測するステップでは、計測対象物から出力されたのち減光部を通過した第1パルス光の時間波形である第1時間波形を計測し、別の照射するステップでは、プローブ光の波長を含むパルス光である第2パルス光を所定の光軸に沿って計測対象物に照射し、該照射するステップに続く計測するステップでは、計測対象物から出力されたのち減光部を通過した第2パルス光の時間波形である第2時間波形を計測し、更に別の照射するステップでは、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長を含むパルス光である第3パルス光を所定の光軸に沿って計測対象物に照射し、該照射するステップに続く計測するステップでは、計測対象物から出力されたのち減光部を通過した第3パルス光の時間波形である第3時間波形を計測し、計測対象物の光学特性を求めるステップでは、第1時間波形、第2時間波形、及び第3時間波形に基づいて計測対象物の時間応答を求めてもよい。
【0015】
ポンプ光及びプローブ光の各光軸を互いに傾斜させずに一致させ、その一致した光軸上に配置された計測対象物にポンプ光及びプローブ光を照射する場合、プローブ光はポンプ光が重畳した光として検出される。ポンプ光の照射に起因する計測対象物内部の時間応答をプローブ光によって計測するためには、検出結果からポンプ光の影響を排除することが望まれる。そこで、計測対象物を通過したポンプ光及びプローブ光のうちポンプ光のみを除去することが考えられる。しかしながら、通常、ポンプ光の光強度はプローブ光の光強度よりも格段に大きいので、プローブ光に対して無視できる程度にまでポンプ光を除去することは困難である。一例では、ポンプ光の光強度はプローブ光の光強度のおよそ100倍である。従って、例えば減衰率99%の波長フィルタを用いてポンプ光のみを減衰したとしても、プローブ光の光強度とほぼ同程度の光強度のポンプ光が残存する。
【0016】
そこで、上記の装置及び方法では、ポンプ光の波長を含む第1パルス光、プローブ光の波長を含む第2パルス光、並びに、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長を含む第3パルス光を共通の光軸上に生成する。そして、これらの第1パルス光、第2パルス光、及び第3パルス光が光軸上の計測対象物に照射されたのち、減光部がポンプ光の波長の光強度を減衰する。従って、減光部を通過した第1パルス光の時間波形である第1時間波形には、減衰されたポンプ光の時間波形のみが含まれる。また、減光部を通過した第2パルス光の時間波形である第2時間波形には、ポンプ光を照射しないときのプローブ光の時間波形のみが含まれる。また、減光部を通過した第3パルス光の時間波形である第3時間波形には、ポンプ光を照射したときのプローブ光の時間波形と、減衰されたポンプ光の時間波形とを重畳した時間波形が含まれる。これらの時間波形に基づいて、計算によりポンプ光の影響を排除しつつ、ポンプ光の照射に起因する計測対象物内部の時間応答をプローブ光の時間波形から求めることができる。
【0017】
上記の装置において、解析部は、第3時間波形と第1時間波形との差分と、第2時間波形との比較に基づいて計測対象物の時間応答を求めてもよい。同様に、上記の方法において、光学特性を求めるステップでは、第3時間波形と第1時間波形との差分と、第2時間波形との比較に基づいて計測対象物の時間応答を求めてもよい。第3時間波形と第1時間波形との差分を算出することにより、ポンプ光の影響を排除しつつ、ポンプ光が照射されたときのプローブ光の時間波形を得ることができる。そして、この差分と、ポンプ光が照射されないときのプローブ光の時間波形である第2時間波形とを比較することにより、計測対象物内部の時間応答をより正確に求めることができる。
【0018】
上記の装置のパルス形成部において、第3パルス光に含まれるポンプ光の波長の成分の強度ピークとプローブ光の波長の成分の強度ピークとの時間間隔が可変であってもよい。この場合、第3パルス光に含まれるポンプ光とプローブ光との時間間隔を、計測対象物の種類又は性質に応じて適切に設定することが容易にできる。
【0019】
上記の装置のパルス形成部において、第3パルス光に含まれるポンプ光の波長の成分のパルス幅とプローブ光の波長の成分のパルス幅との比が可変であってもよい。この場合、第3パルス光に含まれるポンプ光のパルス幅とプローブ光のパルス幅との比を、計測対象物の種類又は性質に応じて適切に設定することが容易にできる。
【0020】
上記の装置において、第3パルス光に含まれるポンプ光の波長の成分のパルス幅は、第3パルス光に含まれるプローブ光の波長の成分のパルス幅より小さくてもよい。同様に、上記の方法において、第3パルス光に含まれるポンプ光の波長の成分のパルス幅を、第3パルス光に含まれるプローブ光の波長の成分のパルス幅より小さくしてもよい。この場合、例えばポンプ光の幅と同程度の幅を有するプローブ光とポンプ光との時間差を変化させながらプローブ光を複数回検出する方式と比較して、計測作業を更に簡易化できる。
【0021】
上記の方法において、第1時間波形及び第2時間波形を計測したのちに第3時間波形を計測してもよい。第3パルス光の光強度は、第1パルス光及び第2パルス光の各光強度よりも大きい。計測対象物によっては、大きな光強度を有する光を照射することによって不可逆な特性変化を生じる場合がある。そのような場合、第3時間波形の計測を、第1時間波形の計測及び第2時間波形の計測の少なくとも一方より先に行うと、その後に計測された第1時間波形及び/又は第2時間波形が正確性を欠く虞がある。第3時間波形の計測を第1時間波形の計測及び第2時間波形の計測より後に行うことによって、そのような虞を軽減できる。
【0022】
上記の装置において、パルス形成部は、波長分散量の計測時に、パルス光として、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数のパルスを含む光パルス列を形成してもよい。波形計測部は、計測対象物を通過した光パルス列の時間波形を計測してもよい。解析部は、光パルス列の時間波形の特徴量に基づいて計測対象物の波長分散量を推定してもよい。同様に、上記の方法における波長分散量の計測時には、照射するステップにおいて、パルス光として、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数のパルスを含む光パルス列を計測対象物に照射し、計測するステップにおいて、計測対象物を通過した光パルス列の時間波形を計測し、光学特性を求めるステップにおいて、光パルス列の時間波形の特徴量に基づいて計測対象物の波長分散量を推定してもよい。例えばこれらの装置及び方法により、計測対象物の波長分散量を好適に計測することができる。
【0023】
上記の装置において、パルス形成部は、入力光の位相変調と強度変調のうち少なくともいずれか一方を行うことによりパルス光を生成する空間光変調器を有してもよい。この場合、空間光変調器に表示される変調パターンを変更するだけでパルス光の時間波形を変更できるので、計測される光学特性の種類に応じた時間波形を有するパルス光を容易に生成することができる。
【0024】
上記の装置において、波形計測部は、計測対象物と光学系との間又は光学系の後段に配置され、パルス光を相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する相関光学系を有してもよい。解析部は、相関光に変換されたパルス光に基づいて計測対象物の光学特性を求めてもよい。或いは、波形計測部は、計測対象物と光学系との間又は光学系の後段に配置され、パルス光の時間幅を伸張させる光学部品を有してもよい。これらの場合、パルス光の時間幅が例えばフェムト秒オーダーまたはピコ秒オーダーであっても、その時間波形を精度良く測定できる。故に、計測対象物の光学特性を精度良く計測することができる。
【0025】
上記の装置及び方法において、減光部は、一の波長成分の波長を遮断帯域内に含み、別の波長成分の波長を透過帯域内に含む波長フィルタを有してもよい。この場合、簡易な構成によって一の波長成分の光強度を減衰することができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示による光学特性計測装置および光学特性計測方法によれば、二種類以上の光学特性の計測、例えば、時間応答計測及び波長分散計測を、一つの装置を用いて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光学特性計測装置の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、パルス形成部の構成例を示す図である。
図3図3は、空間光変調器の変調面を示す図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、光学系の例を概略的に示す図である。図4(a)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置される第1の状態を示す。図4(b)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置されない第2の状態を示す。
図5図5(a)及び図5(b)は、光学系の別の例を概略的に示す図である。図5(a)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置される第1の状態を示す。図5(b)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置されない第2の状態を示す。
図6図6(a)及び図6(b)は、光学系の更に別の例を概略的に示す図である。図6(a)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置される第1の状態を示す。図6(b)は、計測対象物から出力されるパルス光の光路上に減光部が配置されない第2の状態を示す。
図7図7は、相関光学系の構成例を示す図である。
図8図8は、入射したパルス光を、自己相関を含む相関光に変換するための相関光学系を概略的に示す図である。
図9図9は、パルス光を、相互相関を含む相関光に変換するための相関光学系を概略的に示す図である。
図10図10は、パルス光を、相互相関を含む相関光に変換するための相関光学系を概略的に示す図である。
図11図11は、解析部及び制御部のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
図12図12は、一実施形態に係る光学特性計測方法を示すフローチャートである。
図13図13は、空間光変調器の変調パターンを演算する変調パターン算出装置の構成を示す図である。
図14図14は、位相スペクトル設計部及び強度スペクトル設計部の内部構成を示すブロック図である。
図15図15は、反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。
図16図16は、位相スペクトル設計部における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
図17図17は、強度スペクトル設計部における強度スペクトル関数の計算手順を示す図である。
図18図18は、ターゲット生成部におけるターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
図19図19は、強度スペクトル関数を算出する手順の一例を示す図である。
図20図20の(a)部および(b)部は、スペクトログラムを示す図である。
図21図21は、ターゲット生成部におけるターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
図22図22の(a)部は、第1パルス光の時間波形を模式的に示す。図22の(b)部は、第2パルス光の時間波形を模式的に示す。
図23図23は、第3パルス光の時間波形及びスペクトル波形を説明するための図である。図23の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図23の(b)部は、第3パルス光に含まれる2つの成分パルスの時間波形を表している。図23の(c)部は、2つの成分パルスを合成したスペクトル波形、すなわち第3パルス光のスペクトル波形を表している。
図24図24は、第3の位相パターンによって初期パルス光に与えられるスペクトル波形の例を模式的に示す。
図25図25の(a)部は、ポンプ光が計測対象物に照射されないときの、計測対象物を通過したプローブ光の時間波形の例を模式的に示すグラフである。図25の(b)部は、ポンプ光が計測対象物に照射されたときの、計測対象物を通過したプローブ光の時間波形の例を模式的に示すグラフである。図25の(c)部は、図25の(b)部に示された時間波形から図25の(a)部に示された時間波形を差し引いたグラフである。
図26図26は、減光部を通過した第1パルス光の時間波形である第1時間波形、減光部を通過した第2パルス光の時間波形である第2時間波形、及び、減光部を通過した第3パルス光の時間波形である第3時間波形の各一例を重ね合わせて示すグラフである。
図27図27は、第1時間波形、第3時間波形から第2時間波形を差し引いた時間波形である時間波形、及び、時間波形から第1時間波形を差し引いた時間波形である時間波形を示すグラフである。
図28図28は、本実施形態の時間応答計測方法を示すフローチャートである。
図29図29の(a)部は、第3パルス光の成分パルスが、0次光からなるパルス光と重なっている場合を示している。図29の(b)部は、第3パルス光を、0次光からなるパルス光の後に生成する場合を示している。
図30図30は、第3時間波形から第2時間波形及び第1時間波形を差し引いた時間波形である時間波形の一例を示すグラフであって、第1パルス光、第2パルス光および第3パルス光が0次パルス光と時間的に重なっている場合を示す。
図31図31は、第3時間波形から第2時間波形及び第1時間波形を差し引いた時間波形である時間波形の一例を示すグラフであって、第1パルス光、第2パルス光および第3パルス光が0次パルス光の1.5ps後に生成された場合を示す。
図32図32は、波長分散計測装置として用いられるときの光学特性計測装置の動作を示す図である。
図33図33は、帯域制御したマルチパルスの例を示す図である。図33の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図33の(b)部は、光パルス列の時間波形を表している。図33の(c)部は、3つの光パルスを合成したスペクトルを表している。
図34図34は、比較例として、帯域制御されていないマルチパルスの例を示す図である。図34の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図34の(b)部は、光パルス列の時間波形を表している。図34の(c)部は、3つの光パルスを合成したスペクトルを表している。
図35図35の(a)部は、光パルス列を生成するために、空間光変調器によって初期パルス光に与えられるスペクトル波形の具体例を示す。図35の(b)部は、図35の(a)部に示されるスペクトル波形によって生成される光パルス列の時間強度波形を示すグラフである。
図36図36の(a)部および(b)部は、光パルス列の相関光の特徴量を概念的に説明するための図である。図36の(a)部は、光パルス列が計測対象物を通過しない場合の相関光の時間波形の例を示す。図36の(b)部は、光パルス列が計測対象物を通過した場合の相関光の時間波形の例を示す。
図37図37は、一実施形態に係る波長分散計測方法を示すフローチャートである。
図38図38は、プローブ光のパルス幅と、計測対象物の時間応答波形の時間幅との関係を示すグラフである。
図39図39は、図38に含まれる幾つかのプロットの基になった時間波形を示すグラフである。
図40図40(a)及び図40(b)は、プローブ光のチャープ量をそれぞれ-5000fs及び-2500fsとした場合における、第3パルス光の時間波形から第1パルス光及び第2パルス光の時間波形を差し引いた時間波形を示すグラフである。
図41図41(a)及び図41(b)は、プローブ光のチャープ量をそれぞれ0fs及び2500fsとした場合における、第3パルス光の時間波形から第1パルス光及び第2パルス光の時間波形を差し引いた時間波形を示すグラフである。
図42図42(a)及び図42(b)は、プローブ光のチャープ量をそれぞれ5000fs及び10000fsとした場合における、第3パルス光の時間波形から第1パルス光及び第2パルス光の時間波形を差し引いた時間波形を示すグラフである。
図43図43は、本開示の第2変形例に係る光学特性計測装置の構成を示す図である。
図44図44は、本開示の第3変形例に係る波形計測部の構成を模式的に示す図である。
図45図45は、本開示の第4変形例に係る波形計測部の構成を模式的に示す図である。
図46図46は、本開示の第6変形例に係る光学特性計測装置の構成を模式的に示す図である。
図47図47は、計測対象物の時間応答を計測するための、比較例としての装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本開示による光学特性計測装置および光学特性計測方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。なお、本開示において、時間波形とは、特に説明が無い限り、光強度に関する時間波形を意味する。
【0029】
図1は、本開示の一実施形態に係る光学特性計測装置1Aの構成を概略的に示す図である。この光学特性計測装置1Aは、計測対象物Bの複数の光学特性を単一の装置にて計測することができる。複数の光学特性には、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答と、計測対象物Bの波長分散量との双方が含まれる。光学特性計測装置1Aは、パルスレーザ光源2、パルス形成部3、光学系4、波形計測部5、及び解析部6を備えている。
【0030】
パルス形成部3の光入力端3aは、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、パルスレーザ光源2と光学的に結合されている。パルス形成部3の光出力端3bは、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、計測対象物Bと光学的に結合される。更に、計測対象物Bは、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、波形計測部5と光学的に結合される。光学系4は、計測対象物Bと波形計測部5との間の光路上に配置される。解析部6は、波形計測部5と電気的に接続されている。
【0031】
パルスレーザ光源2は、コヒーレントな初期パルス光Paを出力する。パルスレーザ光源2は、例えばフェムト秒レーザであり、一実施例ではLD直接励起型Yb:YAGパルスレーザといった固体レーザ光源である。初期パルス光Paの時間波形は例えばガウス関数状である。初期パルス光Paの半値全幅(FWHM)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では100fsである。この初期パルス光Paは、或る程度の帯域幅を有する光パルスであって、連続する複数の波長成分を含む。一実施例では、初期パルス光Paの帯域幅は10nmであり、初期パルス光Paの中心波長は1030nmである。
【0032】
パルス形成部3は、初期パルス光Paからパルス光PLを生成する。パルス光PLは、計測される光学特性の種類に応じた時間波形を有する。また、パルス光PLは、計測される光学特性の種類に応じたパルス本数、スペクトルを更に有してもよい。パルス形成部3では、計測される光学特性の種類に応じて、パルス光PLの時間波形が変更可能である。また、パルス形成部3は、計測される光学特性の種類に応じて、パルス光PLのパルス本数及びスペクトルを更に変更可能としてもよい。なお、パルス光のスペクトルとは、パルス光の位相スペクトル、パルス光の強度スペクトル、或いはパルス光の位相スペクトル及び強度スペクトルの両方を含む。
【0033】
図2は、パルス形成部3の構成例を示す図である。パルス形成部3は、回折格子12、レンズ13、空間光変調器(SLM)14、レンズ15、及び回折格子16を有する。回折格子12は、分光素子であり、パルスレーザ光源2と光学的に結合されている。SLM14は、レンズ13を介して回折格子12と光学的に結合されている。回折格子12は、初期パルス光Paに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子12に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。初期パルス光Paは、回折格子12に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光Pbは、レンズ13によって波長成分毎に集光され、SLM14の変調面に結像される。レンズ13は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0034】
SLM14は、初期パルス光Paをパルス光PLに変換するために、波長毎の位相ずれを初期パルス光Paに与える。具体的には、SLM14は、位相ずれを初期パルス光Paに与えてパルス光PLを生成するために、制御部18から制御信号を受ける。SLM14は、制御部18から出力された制御信号を受けることにより位相パターンを提示する。制御部18は、例えばコンピュータによって構成され得る。SLM14は、提示された位相パターンを用いて光Pbの位相変調と強度変調の少なくともいずれか一方を行う。また、SLM14は、提示された位相パターンを用いて光Pbの位相変調と強度変調とを同時に行ってもよい。このように、SLM14は、回折格子12から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす。SLM14は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM14はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図面には透過型のSLM14が示されているが、SLM14は反射型であってもよい。
【0035】
図3は、SLM14の変調面17を示す図である。変調面17には、複数の変調領域17aが或る方向AAに沿って並んでおり、各変調領域17aは方向AAと交差する方向ABに延びている。方向AAは、回折格子12による分光方向である。この変調面17はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域17aのそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM14は、各変調領域17aにおいて、入射した各波長成分の位相及び強度を他の波長成分から独立して変調する。SLM14が位相変調型である場合、強度変調は、変調面17に提示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0036】
SLM14によって変調された変調光Pcの各波長成分は、レンズ15によって回折格子16上の一点に集められる。このときのレンズ15は、変調光Pcを集光する集光光学系として機能する。レンズ15は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子16は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ15及び回折格子16により、変調光Pcの複数の波長成分は互いに集光・合波されて、パルス光PLとなる。
【0037】
制御部18は、計測される光学特性の種類に応じたパルス本数、スペクトル及び時間波形のうち少なくとも1つを有するパルス光PLを生成するために、複数の位相パターンを予め記憶している。制御部18は、これらの位相パターンをSLM14へ選択的に出力する。
【0038】
再び図1を参照する。計測対象物Bは、パルス形成部3から出力されるパルス光PLの光軸上に配置される。パルス形成部3から出力されたパルス光PLは、計測対象物Bに照射される。計測対象物Bからは、計測対象物Bを透過したパルス光PLが出力される。或いは、計測対象物Bにおいて反射または散乱したパルス光PLが計測対象物Bから出力されてもよい。パルス光PLの時間波形は、計測対象物Bの光学特性に応じて変化する。
【0039】
光学系4は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に配置される。光学系4は、減光部41を有する。パルス光PLを構成する一の波長成分に対する減光部41の減衰率は、パルス光PLを構成する別の波長成分に対する減光部41の減衰率よりも大きい。一例では、減光部41は波長フィルタを有する。波長フィルタは、パルス光PLを構成する一の波長成分の波長を遮断帯域内に含み、パルス光PLを構成する別の波長成分の波長を透過帯域内に含む。波長フィルタは、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、及びローパスフィルタのいずれであってもよい。本実施形態において、パルス光PLを構成する一の波長成分は、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答を計測する際に計測対象物Bに照射されるポンプ光である。パルス光PLを構成する別の波長成分は、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答を計測する際に計測対象物Bに照射されるプローブ光である。
【0040】
光学系4は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態と、その光路上に減光部41が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能に構成されている。光学系4は、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答を計測するときには第1の状態とされ、計測対象物Bの波長分散量を計測するときには第2の状態とされる。
【0041】
図4(a)及び図4(b)は、光学系4の例として、光学系4Aを概略的に示す図である。光学系4Aでは、減光部41が、図示しないアクチュエータによって支持されることにより、パルス光PLの光軸と交差する方向(例えばパルス光PLの光軸と直交する方向)に移動可能とされている(図中の矢印AC)。該方向におけるアクチュエータの位置は、例えば制御部18によって制御される。図4(a)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態を示す。図4(b)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない第2の状態を示す。第2の状態では、パルス光PLは減光部41の側方を通過する。
【0042】
図5(a)及び図5(b)は、光学系4の別の例として、光学系4Bを概略的に示す図である。光学系4Bは、減光部41に加えて、パルス光PLのための2つの光路を相互に切り替えるための構成を有する。減光部41は、2つの光路のうちいずれかの光路上に配置される。具体的には、光学系4Bは、一対の固定ミラー43a,43bと、一対の可動ミラー44a,44bとを有する。可動ミラー44a,44bは、光学系4Bに入射する際のパルス光PLの光軸に沿って並んで配置されている。可動ミラー44a,44bは、図示しないアクチュエータによって支持されることにより移動可能とされている(図中の矢印AD,AE)。固定ミラー43aは、可動ミラー44aと減光部41とを光学的に結合する。固定ミラー43bは、減光部41と可動ミラー44bとを光学的に結合する。
【0043】
図5(a)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態を示す。第1の状態では、可動ミラー44a,44bがパルス光PLの光軸上に配置される。パルス光PLは、光学系4Bに入力され、可動ミラー44a及び固定ミラー43aにより順次反射されて減光部41に達し、減光部41を通過した後、固定ミラー43bおよび可動ミラー44bにより順次反射されて、光学系4Bから出力される。また、図5(b)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない第2の状態を示す。第2の状態では、可動ミラー44a,44bはパルス光PLの光軸上に配置されず、パルス光PLは、可動ミラー44a,44bに当たることなく光学系4Bからそのまま出力される。
【0044】
なお、この例では減光部41が固定ミラー43a,43bを含む一方の光路上に配置されているが、減光部41は、図5(a)に示される状態における可動ミラー44aと可動ミラー44bとの間の光路、すなわち固定ミラー43a,43bを含まない他方の光路上に配置されてもよい。その場合、図5(a)に示される可動ミラー44a,44bの位置が第2の状態を形成し、図5(b)に示される可動ミラー44a,44bの位置が第1の状態を形成する。
【0045】
図6(a)及び図6(b)は、光学系4の更に別の例として、光学系4Cを概略的に示す図である。光学系4Cもまた、減光部41に加えて、パルス光PLのための2つの光路を相互に切り替えるための構成を有する。減光部41は、2つの光路のうちいずれかの光路上に配置される。具体的には、光学系4Cは、一対のハーフミラー45a,45bと、一対の固定ミラー46a,46bと、光吸収材47と、を有する。光学系4Cに入力されたパルス光PLは、まずハーフミラー45aに達し、ハーフミラー45aによって二分岐される。ハーフミラー45aの一方の面は、固定ミラー46aによって減光部41と光学的に結合されている。ハーフミラー45aの他方の面は、ハーフミラー45bの一方の面と光学的に結合されている。ハーフミラー45bの他方の面は、固定ミラー46bによって減光部41と光学的に結合されている。光吸収材47は、図示しないアクチュエータによって支持されることにより移動可能とされている(図中の矢印AF)。
【0046】
図6(a)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態を示す。第1の状態では、光吸収材47がハーフミラー45aとハーフミラー45bとの間の光路(減光部41を通過しない光路)上に配置される。このとき、ハーフミラー45aによって分岐されたパルス光PLの一部は、固定ミラー46aにより反射されて減光部41に達し、減光部41を通過した後、固定ミラー46bおよびハーフミラー45bにより順次反射されて、光学系4Cから出力される。ハーフミラー45aによって分岐されたパルス光PLの残部は、光吸収材47に入射して消滅する。図6(b)は、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない第2の状態を示す。第2の状態では、光吸収材47が、ハーフミラー45aと減光部41との間、および減光部41とハーフミラー45bとの間のいずれかの光路上に配置される。このとき、ハーフミラー45aによって分岐されたパルス光PLの一部は、光吸収材47に入射して消滅する。ハーフミラー45aによって分岐されたパルス光PLの残部は、減光部41が設けられていないハーフミラー45aとハーフミラー45bとの間の光路を通過して、光学系4Cから出力される。なお、光学系4Cにおいては、光吸収材47に代えて、光反射材または光拡散材を用いてもよい。
【0047】
再び図1を参照する。波形計測部5は、光学系4を通過したパルス光PLの時間波形を計測する。本実施形態の波形計測部5は、相関光学系50と、光検出器51とを有する。
【0048】
相関光学系50は、光学系4と光学的に結合されており、光学系4を通過したパルス光PLを受ける。相関光学系50は、パルス光PLを、相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する。相関光に変換されたパルス光PLは、相関光学系50から出力される。
【0049】
図7は、相関光学系50の構成例を示す図である。相関光学系50は、レンズ52a、光学素子53及びレンズ52bを含んで構成され得る。レンズ52aは、光学系4と光学素子53との間の光路上に設けられ、光学系4を通過したパルス光PLを光学素子53に集光する。光学素子53は、例えば二次高調波(SHG)を発生する非線形光学結晶、及び蛍光体の少なくとも一方を含む発光体である。非線形光学結晶としては、例えばKTP(KTiOPO4)結晶、LBO(LiB35)結晶、BBO(β-BaB24)結晶等が挙げられる。蛍光体としては、例えばクマリン、スチルベン、ローダミン等が挙げられる。光学素子53は、パルス光PLを入力し、パルス光PLを、相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する。レンズ52bは、相関光に変換されて光学素子53から出力されたパルス光PLを平行化または集光する。なお、パルス光PLは、時間波形をより精度良く検出するために相関光に変換される。
【0050】
ここで、相関光学系50の構成例について詳細に説明する。図8は、相関光学系50の構成例として、入射したパルス光PLを、自己相関を含む相関光に変換するための相関光学系50Aを概略的に示す図である。相関光学系50Aは、パルス光PLを二分岐する光分岐部品として、ビームスプリッタ54を有する。ビームスプリッタ54は、光学系4と光学的に結合されており、光学系4から入力したパルス光PLの一部を透過し、残部を反射する。ビームスプリッタ54の分岐比は例えば1:1である。ビームスプリッタ54により分岐された一方のパルス光PLuは、複数のミラー55を含む光路50cを通ってレンズ52aに達する。ビームスプリッタ54により分岐された他方のパルス光PLvは、複数のミラー56を含む光路50dを通ってレンズ52aに達する。光路50cの光学長と光路50dの光学長とは互いに異なる。従って、複数のミラー55及び複数のミラー56は、ビームスプリッタ54において分岐された一方のパルス光PLuと、他方のパルス光PLvとに対して時間差を与える遅延光学系を構成する。更に、複数のミラー56の少なくとも一部は移動ステージ57上に搭載されており、光路50dの光学長は可変となっている。故に、この構成では、パルス光PLuとパルス光PLvとの時間差を可変とすることができる。
【0051】
この例では、光学素子53は非線形光学結晶を含む。レンズ52aは、パルス光PLu,PLvのそれぞれを光学素子53に向けて集光するとともに、光学素子53においてパルス光PLu,PLvの光軸を所定の角度でもって互いに交差させる。これにより、非線形光学結晶である光学素子53では、パルス光PLu,PLvの交点を起点として二次高調波が生じる。この二次高調波は、相関光であって、パルス光PLの自己相関を含む。相関光は、レンズ52bにて平行化または集光された後、光検出器51に入力される。
【0052】
図9は、相関光学系50の別の構成例として、パルス光PLを、相互相関を含む相関光に変換するための相関光学系50Bを概略的に示す図である。相関光学系50Bでは、パルス光PLが光路50eを通ってレンズ52aに達すると共に、参照用パルス光Prが光路50fを通ってレンズ52aに達する。光路50fは、複数のミラー58を含み、U字状に屈曲している。更に、複数のミラー58の少なくとも一部は移動ステージ59上に搭載されており、光路50fの光学長は可変となっている。故に、この構成では、パルス光PLと参照用パルス光Prとの時間差(レンズ52aに到達するタイミング差)を可変とすることができる。
【0053】
この例においても、光学素子53は非線形光学結晶を含む。レンズ52aは、パルス光PL及び参照用パルス光Prを光学素子53に向けて集光するとともに、光学素子53においてパルス光PLの光軸と参照用パルス光Prの光軸とを所定の角度でもって互いに交差させる。これにより、非線形光学結晶である光学素子53では、パルス光PL及び参照用パルス光Prの交点を起点として二次高調波が生じる。この二次高調波は、相関光であって、パルス光PLの相互相関を含む。この相関光はレンズ52bにて平行化または集光された後、光検出器51に入力される。
【0054】
図10は、相関光学系50の更に別の構成例として、パルス光PLを、相互相関を含む相関光に変換するための相関光学系50Cを概略的に示す図である。この例において、パルス形成部3のSLM14は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器である。これに対し、パルス形成部3に入力される初期パルス光Paの偏向面は、SLM14が変調作用を有する偏光方向に対して傾斜しており、初期パルス光Paは、第1の偏光方向の偏光成分(図中の矢印Dp1)と、第1の偏光方向に対して直交する第2の偏光方向の偏光成分(図中の記号Dp)とを含む。また、初期パルス光Paの偏波は、上記の偏波(傾斜した直線偏光)に限られず、楕円偏光でも良い。
【0055】
初期パルス光Paのうち第1の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調され、パルス光PLとしてパルス形成部3から出力される。一方、初期パルス光Paのうち第2の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調されずに、そのままパルス形成部3から出力される。この変調されなかった偏光成分は、参照用パルス光Prとして、パルス光PLと同軸でもって相関光学系50Cに提供される。相関光学系50Cは、パルス光PLと参照用パルス光Prとから、パルス光PLの相互相関を含む相関光を生成する。この構成例では、SLM14においてパルス光PLに遅延を与え、且つその遅延時間を可変とすることにより(図中の矢印E)、パルス光PLと参照用パルス光Prとの時間差(レンズ52aに到達するタイミング差)を可変とすることができ、相関光学系50Cにおいてパルス光PLの相互相関を含む相関光を好適に生成することができる。
【0056】
図8図10に示されるように、相関光学系50は、パルス光PLを、パルス光PL自身又は他のパルス光と空間的及び時間的に重ね合わせる光学系である。具体的には、一方のパルス光を時間的に掃引することで、パルス光PLの時間波形形状に準じた相関波形が検出される。ここで、一般に、パルス光の掃引は、駆動ステージ等を用いて空間的に光路長を変化させることにより実施されるので、ステージの移動量が相関波形の時間遅延量に対応する。このとき、ステージ移動量に対する時間遅延量は極めて小さい。したがって、相関光学系50を採用することにより、光検出器51においてフェムト秒オーダーに達する高い時間分解スケールでもってパルス形状が観察されるので、パルス光PLの時間波形がより精度良く検出される。
【0057】
再び図1を参照する。光検出器51は、相関光に変換されて相関光学系50から出力されたパルス光PLを受ける。光検出器51は、このパルス光PLの時間波形を検出する。光検出器51は、例えばフォトダイオードなどの光検出器(フォトディテクタ)を含んで構成されている。光検出器51は、パルス光PLの強度を電気信号に変換することにより、パルス光PLの時間波形を検出する。検出結果である電気信号は、解析部6に提供される。
【0058】
解析部6は、光検出器51と電気的に接続されている。解析部6は、相関光に変換されたパルス光PLの時間波形に基づいて、計測対象物Bの光学特性を求める。図11は、解析部6及び制御部18のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。図11に示されるように、解析部6及び制御部18は、物理的には、プロセッサ(CPU)61、ROM62及びRAM63等の主記憶装置、キーボード、マウス及びタッチスクリーン等の入力デバイス64、ディスプレイ(タッチスクリーン含む)等の出力デバイス65、他の装置との間でデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール66、ハードディスク等の補助記憶装置67などを含む、通常のコンピュータとして構成され得る。
【0059】
制御部18の補助記憶装置67は、パルス光PLを生成するための複数の位相変調パターンに関する複数のデータを格納している。プロセッサ61は、これらのデータのうち一つを必要に応じて読み出し、該データに基づいて、SLM14に呈示される位相変調パターンを制御する。
【0060】
また、解析部6の補助記憶装置67は、相関光に変換されたパルス光PLの時間波形に基づいて、計測対象物Bの光学特性を求めるためのプログラムを格納している。言い換えると、計測対象物Bの光学特性を求めるためのプログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、解析部6として動作させる。プロセッサ61は、このプログラムを実行することにより、計測対象物Bの光学特性を求める。計測対象物Bの光学特性を求めるためのプログラムを格納する記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。求められた計測対象物Bの光学特性に関する情報は、出力デバイス65に出力されるか、又は通信モジュール66を介して外部装置へ出力される。
【0061】
本実施形態の光学特性計測方法について説明する。図12は、本実施形態の光学特性計測方法を示すフローチャートである。この光学特性計測方法は、例えば上述した光学特性計測装置1Aを用いて好適に実施される。
【0062】
まず、光学系4において、第1の状態(計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される状態)と、第2の状態(計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない状態)とのうちいずれかの状態を選択する(ステップST1)。次に、パルス形成部3を用いて、計測される光学特性の種類に応じたパルス本数、スペクトル及び時間波形のうち少なくとも1つを有するパルス光PLを計測対象物Bに照射する(ステップST2)。ステップST2では、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調の少なくともいずれか一方を行うSLM14を用いてパルス光PLを生成する。また、ステップST2では、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調とを同時に行うSLM14を用いてパルス光PLを生成してもよい。計測される光学特性の種類には、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答と、計測対象物Bの波長分散量とが含まれる。ステップST1では、時間応答の計測時には第1の状態を選択し、波長分散量の計測時には第2の状態を選択する。続いて、計測対象物Bから出力されたのち光学系4を通過したパルス光PLの時間波形を計測する(ステップST3)。ステップST2およびステップST3は、計測される光学特性の種類に応じて、パルス光PLのパルス本数、スペクトル及び時間波形のうち少なくとも一つを変更しながら必要なだけ繰り返されてもよい(ステップST4,ST5)。その後、計測された時間波形に基づいて、計測対象物Bの光学特性を求める(ステップST6)。
【0063】
ここで、図2に示されたパルス形成部3のSLM14における、パルス光PLを生成するための位相変調について詳細に説明する。レンズ15よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子16よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調は、時間領域における時間強度波形に影響する。従って、パルス形成部3からの出力光は、SLM14の変調パターンに応じた、初期パルス光Paとは異なる様々な時間強度波形を有することができる。
【0064】
図13は、SLM14の変調パターンを演算する変調パターン算出装置20の構成を示す図である。変調パターン算出装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ;スマートフォン、タブレット端末などのスマートデバイス;あるいはクラウドサーバなどのプロセッサを有するコンピュータである。図2に示された制御部18が変調パターン算出装置20を兼ねてもよい。変調パターン算出装置20は、パルス形成部3の出力光の時間強度波形を所望の波形に近づけるための位相変調パターンを算出し、該位相変調パターンを制御部18に提供する。変調パターンは、SLM14を制御するためのデータであり、複素振幅分布の強度あるいは位相分布の強度のテーブルを含むデータである。変調パターンは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms:CGH)である。
【0065】
本実施形態の変調パターン算出装置20は、所望の波形を得る為の位相スペクトルを出力光に与える位相変調用の位相パターンと、所望の波形を得る為の強度スペクトルを出力光に与える強度変調用の位相パターンとを含む位相パターンを制御部18に記憶させる。そのために、変調パターン算出装置20は、図13に示すように、任意波形入力部21と、位相スペクトル設計部22と、強度スペクトル設計部23と、変調パターン生成部24とを有する。すなわち、変調パターン算出装置20に設けられたコンピュータのプロセッサは、任意波形入力部21の機能と、位相スペクトル設計部22の機能と、強度スペクトル設計部23の機能と、変調パターン生成部24の機能とを実現する。それぞれの機能は、同じプロセッサにより実現されてもよいし、異なるプロセッサにより実現されてもよい。
【0066】
コンピュータのプロセッサは、変調パターン算出プログラムによって、上記の各機能を実現することができる。故に、変調パターン算出プログラムは、コンピュータのプロセッサを、変調パターン算出装置20における任意波形入力部21、位相スペクトル設計部22、強度スペクトル設計部23、及び変調パターン生成部24として動作させる。変調パターン算出プログラムは、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。
【0067】
任意波形入力部21は、操作者からの所望の時間強度波形の入力を受け付ける。操作者は、パルス光PLの所望のパルス本数、スペクトル及び時間波形(以下、所望のパルス本数等という)に関する情報を任意波形入力部21に入力する。所望のパルス本数等は、計測される光学特性の種類に応じて操作者により決定される。所望のパルス本数等に関する情報は、任意波形入力部21から位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23に与えられる。位相スペクトル設計部22は、与えられた所望のパルス本数等の実現に適した、パルス形成部3の出力光の位相スペクトルを算出する。強度スペクトル設計部23は、与えられた所望のパルス本数等の実現に適した、パルス形成部3の出力光の強度スペクトルを算出する。変調パターン生成部24は、位相スペクトル設計部22において求められた位相スペクトルと、強度スペクトル設計部23において求められた強度スペクトルとをパルス形成部3の出力光に与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する。
【0068】
図14は、位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23の内部構成を示すブロック図である。図14に示されるように、位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23は、フーリエ変換部25、関数置換部26、波形関数修正部27、逆フーリエ変換部28、及びターゲット生成部29を有する。ターゲット生成部29は、フーリエ変換部29a及びスペクトログラム修正部29bを含む。これらの各構成要素の機能については、後に詳述する。
【0069】
ここで、所望の時間強度波形は時間領域の関数として表され、位相スペクトルは周波数領域の関数として表される。従って、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトルは、例えば、所望の時間強度波形に基づく反復フーリエ変換によって得られる。図15は、反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、これらの強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Ψn(ω)を含む周波数領域の波形関数(a)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数1】

添え字nは、第n回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、位相スペクトル関数Ψn(ω)として上述した初期の位相スペクトル関数Ψ0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0070】
続いて、上記関数(a)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A1)。これにより、時間強度波形関数bn(t)及び時間位相波形関数Θn(t)を含む時間領域の波形関数(b)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数2】

続いて、上記関数(b)に含まれる時間強度波形関数bn(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数3】

【数4】

続いて、上記関数(d)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A2)。これにより、強度スペクトル関数Bn(ω)及び位相スペクトル関数Ψn(ω)を含む周波数領域の波形関数(e)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数5】
【0071】
続いて、上記関数(e)に含まれる強度スペクトル関数Bn(ω)を拘束するため、初期の強度スペクトル関数A0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7))。
【数6】

以降、上記の処理(2)~(7)を複数回繰り返し行うことにより、波形関数中の位相スペクトル関数Ψn(ω)が表す位相スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトル形状に近づけることができる。最終的に得られる位相スペクトル関数ΨIFTA(ω)が、所望の時間強度波形を得るための変調パターンの基になる。
【0072】
しかしながら、上述したような反復フーリエ法では、時間強度波形を制御することはできるが、時間強度波形を構成する周波数成分(スペクトル)を制御することはできないという問題がある。そこで、本実施形態の変調パターン算出装置20は、以下に説明する算出方法を用いて、変調パターンの基になる位相スペクトル関数及び強度スペクトル関数を算出する。図16は、位相スペクトル設計部22における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Φ0(ω)を用意する(図中の処理番号(11))。一例では、これらの強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Φ0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Φ0(ω)を含む周波数領域の第1波形関数(g)を用意する(処理番号(12))。但し、iは虚数である。
【数7】
【0073】
続いて、位相スペクトル設計部22のフーリエ変換部25は、上記関数(g)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A3)。これにより、時間強度波形関数a0(t)及び時間位相波形関数φ0(t)を含む時間領域の第2波形関数(h)が得られる(図中の処理番号(13))。
【数8】
【0074】
続いて、位相スペクトル設計部22の関数置換部26は、次の数式(i)に示されるように、時間強度波形関数b0(t)に、任意波形入力部21において入力された所望の波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)を代入する(図中の処理番号(14))。
【数9】
【0075】
続いて、位相スペクトル設計部22の関数置換部26は、次の数式(j)に示されるように、時間強度波形関数a0(t)を時間強度波形関数b0(t)で置き換える。すなわち、上記関数(h)に含まれる時間強度波形関数a0(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)に置き換える(図中の処理番号(15))。
【数10】
【0076】
続いて、位相スペクトル設計部22の波形関数修正部27は、置き換え後の第2波形関数(j)のスペクトログラムが、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムに近づくように第2波形関数を修正する。まず、置き換え後の第2波形関数(j)に対して時間-周波数変換を施すことにより、第2波形関数(j)をスペクトログラムSG0,k(ω,t)に変換する(図中の処理番号(15a))。添え字kは、第k回目の変換処理を表す。
【0077】
ここで、時間-周波数変換とは、時間波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(スペクトル強度)からなる3次元情報に変換することをいう。本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、スペクトル強度)を「スペクトログラム」と定義する。
【0078】
時間-周波数変換としては、例えば、短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)やウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、モルレーウェーブレット変換)などがある。
【0079】
所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)をターゲット生成部29から読み出す。このターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分)と概ね同値であり、処理番号(15b)のターゲットスペクトログラム関数において生成される。
【0080】
次に、位相スペクトル設計部22の波形関数修正部27は、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)とのパターンマッチングを行い、類似度(どの程度一致しているか)を調べる。本実施形態では、類似度を表す指標として、評価値を算出する。そして、続く処理番号(15c)では、得られた評価値が、所定の終了条件を満たすか否かの判定を行う。条件を満たせば処理番号(16)へ進み、満たさなければ処理番号(15d)へ進む。処理番号(15d)では、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)を任意の時間位相波形関数φ0,k(t)に変更する。時間位相波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、上述した処理番号(15a)~(15d)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される。
【0081】
その後、位相スペクトル設計部22の逆フーリエ変換部28は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(k)を生成する(処理番号(16))。
【数11】

この第3波形関数(k)に含まれる位相スペクトル関数Φ0,k(ω)が、最終的に得られる所望の位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)となる。この位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)が、変調パターン生成部24に提供される。
【0082】
図17は、強度スペクトル設計部23における強度スペクトル関数の計算手順を示す図である。処理番号(11)から処理番号(15c)までは、上述した位相スペクトル設計部22におけるスペクトル位相の計算手順と同様なので説明を省略する。強度スペクトル設計部23の波形関数修正部27は、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)との類似度を示す評価値が所定の終了条件を満たさない場合、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)は初期値で拘束しつつ、時間強度波形関数b0(t)を任意の時間強度波形関数b0,k(t)に変更する(処理番号(15e))。時間強度波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、処理番号(15a)~(15c)及び(15e)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される。
【0083】
その後、強度スペクトル設計部23の逆フーリエ変換部28は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(m)を生成する(処理番号(16))。
【数12】
【0084】
続いて、処理番号(17)では、強度スペクトル設計部23のフィルタ処理部が、第3波形関数(m)に含まれる強度スペクトル関数B0,k(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数B0,k(ω)に係数αを乗じた強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。全ての波長域において、強度スペクトル関数αB0,k(ω)が入力光のスペクトル強度を超えないようにするためである。一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(本実施形態では初期の強度スペクトル関数A0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(n)に示されるように、強度スペクトル関数αB0,k(ω)が強度スペクトル関数A0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数ATWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数A0(ω)の値が取り入れられる。強度スペクトル関数αB0,k(ω)が強度スペクトル関数A0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数ATWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数αB0,k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(17))。
【数13】

この強度スペクトル関数ATWC-TFD(ω)が、最終的に得られる所望のスペクトル強度として変調パターン生成部24に提供される。
【0085】
変調パターン生成部24は、位相スペクトル設計部22において算出された位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)により示されるスペクトル位相と、強度スペクトル設計部23において算出された強度スペクトル関数ATWC-TFD(ω)により示されるスペクトル強度とを出力光に与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する。
【0086】
図18は、ターゲット生成部29におけるターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)の生成手順の一例を示す図である。ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形を示す。時間波形とは、時間強度波形と、それを構成する周波数成分(波長帯域成分)である。したがって、ターゲットスペクトログラムの作成は、周波数成分(波長帯域成分)を制御するために極めて重要な工程である。図21に示されるように、ターゲット生成部29は、まずスペクトル波形(初期の強度スペクトル関数A0(ω)及び初期の位相スペクトル関数Φ0(ω))、並びに所望の時間強度波形関数Target0(t)を入力する。加えて、ターゲット生成部29は、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を入力する(処理番号(21))。
【0087】
次に、ターゲット生成部29は、例えば図15に示される反復フーリエ変換法を用いて、時間強度波形関数Target0(t)を実現するための位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)を算出する(処理番号(22))。
【0088】
続いて、ターゲット生成部29は、先に得られた位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)を利用した反復フーリエ変換法により、時間強度波形関数Target0(t)を実現するための強度スペクトル関数AIFTA(ω)を算出する(処理番号(23))。図19は、強度スペクトル関数AIFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【0089】
図19を参照して、まず、初期の強度スペクトル関数Ak=0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)を用意する(図中の処理番号(31))。次に、強度スペクトル関数Ak(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)を含む周波数領域の波形関数(o)を用意する(図中の処理番号(32))。
【数14】

添え字kは、第k回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、強度スペクトル関数Ak(ω)として上記の初期強度スペクトル関数Ak=0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0090】
続いて、上記関数(o)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A5)。これにより、時間強度波形関数bk(t)を含む周波数領域の波形関数(p)が得られる(図中の処理番号(33))。
【数15】
【0091】
続いて、上記関数(p)に含まれる時間強度波形関数bk(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)に置き換える(図中の処理番号(34)、(35))。
【数16】

【数17】
【0092】
続いて、上記関数(r)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A6)。これにより、強度スペクトル関数Ck(ω)及び位相スペクトル関数Ψk(ω)を含む周波数領域の波形関数(s)が得られる(図中の処理番号(36))。
【数18】

続いて、上記関数(s)に含まれる位相スペクトル関数Ψk(ω)を拘束するため、初期の位相スペクトル関数Ψ0(ω)に置き換える(図中の処理番号(37a))。
【数19】
【0093】
加えて、逆フーリエ変換後の周波数領域における強度スペクトル関数Ck(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数Ck(ω)により表される強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(例えば初期の強度スペクトル関数Ak=0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(u)に示されるように、強度スペクトル関数Ck(ω)が強度スペクトル関数Ak=0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数Ak(ω)の値として強度スペクトル関数Ak=0(ω)の値が取り入れられる。強度スペクトル関数Ck(ω)が強度スペクトル関数Ak=0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数Ak(ω)の値として強度スペクトル関数Ck(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(37b))。
【数20】

上記関数(s)に含まれる強度スペクトル関数Ck(ω)を、上記数式(u)によるフィルタ処理後の強度スペクトル関数Ak(ω)に置き換える。
【0094】
以降、上記の処理(32)~(37b)を繰り返し行うことにより、波形関数中の強度スペクトル関数Ak(ω)が表す強度スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する強度スペクトル形状に近づけることができる。最終的に、強度スペクトル関数AIFTA(ω)が得られる。
【0095】
再び図18を参照する。以上に説明した処理番号(22)、(23)における位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)及び強度スペクトル関数AIFTA(ω)の算出によって、これらの関数を含む周波数領域の第3波形関数(v)が得られる(処理番号(24))。
【数21】

ターゲット生成部29のフーリエ変換部29aは、上の波形関数(v)をフーリエ変換する。これにより、時間領域の第4波形関数(w)が得られる(処理番号(25))。
【数22】
【0096】
ターゲット生成部29のスペクトログラム修正部29bは、時間-周波数変換により第4波形関数(w)をスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に変換する(処理番号(26))。そして、処理番号(27)では、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を基にスペクトログラムSGIFTA(ω,t)を修正することにより、ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を生成する。例えば、2次元データにより構成されるスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に現れる特徴的パターンを部分的に切り出し、時間関数p0(t)を基に当該部分の周波数成分の操作を行う。以下、その具体例について詳細に説明する。
【0097】
例えば、所望の時間強度波形関数Target0(t)として時間間隔が2ピコ秒であるトリプルパルスを設定した場合について考える。このとき、スペクトログラムSGIFTA(ω,t)は、図20(a)に示されるような結果となる。図20(a)において横軸は時間(単位:フェムト秒)を示し、縦軸は波長(単位:nm)を示す。スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。このスペクトログラムSGIFTA(ω,t)において、トリプルパルスは2ピコ秒間隔で時間軸上に分かれたドメインD1、D2、及びD3として現れる。ドメインD1、D2、及びD3の中心(ピーク)波長は800nmである。
【0098】
仮に出力光の時間強度波形のみを制御したい(単にトリプルパルスを得たい)場合には、これらのドメインD1、D2、及びD3を操作する必要はない。しかし、各パルスの周波数(波長)帯域を制御したい場合には、これらのドメインD1、D2、及びD3の操作が必要となる。すなわち、図20(b)に示されるように、波長軸(縦軸)に沿った方向に各ドメインD1、D2、及びD3を互いに独立して移動させることは、それぞれのパルスの構成周波数(波長帯域)を変更することを意味する。このような各パルスの構成周波数(波長帯域)の変更は、時間関数p0(t)を基に行われる。
【0099】
例えば、ドメインD2のピーク波長を800nmで据え置き、ドメインD1及びD3のピーク波長がそれぞれ-2nm、+2nmだけ平行移動するように時間関数p0(t)を記述するとき、スペクトログラムSGIFTA(ω,t)は、図20(b)に示されるターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に変化する。例えばスペクトログラムにこのような処理を施すことによって、時間強度波形の形状を変えずに、各パルスの構成周波数(波長帯域)が任意に制御されたターゲットスペクトログラムを作成することができる。
[時間応答計測]
【0100】
本実施形態の光学特性計測装置1Aを用いた、計測対象物Bの時間応答計測について説明する。図21は、時間応答計測装置として用いられるときの光学特性計測装置1Aの動作を示す図である。時間応答計測においては、光学系4が第1の状態、すなわち計測対象物Bから出力されたパルス光PLの光路上に減光部41が配置される状態に設定される。そして、パルス形成部3は、初期パルス光Paから、パルス光PLとしての第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3を、計測対象物Bに至る共通の光軸上に生成する。パルス形成部3は、これら第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3を、互いに時間間隔をあけて、個別に任意のタイミングで出力することができる。第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3の出力順も任意である。一例では、第1パルス光PL1及び第2パルス光PL2が出力されたのちに第3パルス光PL3が出力される。
【0101】
図22の(a)部は、第1パルス光PL1の時間波形を模式的に示す。第1パルス光PL1の波長帯域は、ポンプ光の波長を含む。ポンプ光の波長は、初期パルス光Paを構成する複数の波長成分に含まれる。ポンプ光の波長は、例えば770nm~820nmの範囲内である。第1パルス光PL1は、ポンプ光の波長の光のみから成ってもよい。第1パルス光PL1の時間波形は例えばガウス関数状である。
【0102】
図22の(b)部は、第2パルス光PL2の時間波形を模式的に示す。第2パルス光PL2の波長帯域は、プローブ光の波長を含む。プローブ光の波長は、初期パルス光Paに含まれる複数の波長成分のうちポンプ光の波長よりも長い波長成分に含まれる。また、プローブ光の波長は、初期パルス光Paに含まれる複数の波長成分のうち長波長側の波長成分に含まれる。プローブ光の波長は、例えば820nm~840nmの範囲内である。第2パルス光PL2は、プローブ光の波長の光のみから成ってもよい。第2パルス光PL2の波長帯域の一部は、第1パルス光PL1の波長帯域の一部と重なってもよい。第2パルス光PL2の時間波形は例えばガウス関数状である。第2パルス光PL2のピーク強度T2は、第1パルス光PL1のピーク強度T1よりも小さい。例えば、第2パルス光PL2のピーク強度T2は、第1パルス光PL1のピーク強度T1の10分の1以下である。また、第2パルス光PL2の半値全幅であるパルス幅W2は、第1パルス光PL1の半値全幅であるパルス幅W1よりも大きい。例えば、第2パルス光PL2のパルス幅W2は、第1パルス光PL1のパルス幅W1の1倍以上100倍以下である。
【0103】
図23は、第3パルス光PL3の時間波形及びスペクトル波形を説明するための図である。図23の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図23の(b)部は、第3パルス光PL3に含まれる成分パルスP3及び成分パルスP4の時間波形を表している。図23の(c)部は、成分パルスP3及び成分パルスP4を合成したスペクトル波形、すなわち第3パルス光PL3のスペクトル波形を表している。
【0104】
第3パルス光PL3のスペクトルは、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長の双方を含む。第3パルス光PL3に含まれるポンプ光の波長成分は、成分パルスP3を形成する。一例では、成分パルスP3のピーク強度T3、パルス幅W3及び波長成分は、第1パルス光PL1のピーク強度T1、パルス幅W1及び波長成分とそれぞれ同じである。第3パルス光PL3に含まれるプローブ光の波長成分は、成分パルスP4を形成する。一例では、成分パルスP4のピーク強度T4、パルス幅W4及び波長成分は、第2パルス光PL2のピーク強度T2、パルス幅W2及び波長成分とそれぞれ同じである。第3パルス光PL3に含まれるポンプ光の波長の成分すなわち成分パルスP3のパルス幅W3は、第3パルス光PL3に含まれるプローブ光の波長の成分すなわち成分パルスP4のパルス幅W4よりも小さい。第3パルス光PL3は、成分パルスP3に成分パルスP4が重畳されたものである。好適には、第3パルス光PL3は、成分パルスP3及び成分パルスP4を除く他の成分を含まない。
【0105】
図23の(c)部に示されるように、成分パルスP3及びP4を合成したスペクトルは単一のピークを有するが、図23の(a)部を参照すると、成分パルスP3及びP4の中心波長は互いにずれている。図23の(c)部に示される単一のピークは、ほぼ初期パルス光Paのスペクトルに相当する。成分パルスP3及びP4のピーク波長間隔は、初期パルス光Paのスペクトル帯域幅によって定まり、一例では、初期パルス光Paのスペクトル帯域幅の半値全幅の概ね2倍の範囲内である。
【0106】
パルス形成部3では、第3パルス光PL3に含まれるポンプ光の波長の成分(成分パルスP3)の強度ピークと、プローブ光の波長の成分(成分パルスP4)の強度ピークとの時間間隔D1は可変である。この時間間隔は、計測対象物Bの種類又は特性に応じて適宜変更され得る。時間間隔D1はゼロであってもよい。また、パルス形成部3では、第3パルス光PL3に含まれるポンプ光の波長の成分(成分パルスP3)のパルス幅W3と、プローブ光の波長の成分(成分パルスP4)のパルス幅W4との比(W3/W4)は可変である。この比(W3/W4)は、計測対象物Bの種類又は特性に応じて適宜変更され得る。この場合、第1パルス光PL1のパルス幅W1と、第2パルス光PL2のパルス幅W2との比(W1/W2)も比(W3/W4)に合わせて変更される。
【0107】
制御部18(図2を参照)は、第1パルス光PL1を生成するための第1の位相パターンと、第2パルス光PL2を生成するための第2の位相パターンと、第3パルス光PL3を生成するための第3の位相パターンと、を予め記憶している。制御部18は、第1の位相パターン、第2の位相パターン、又は第3の位相パターンをSLM14へ選択的に出力する。
【0108】
図24は、第3の位相パターンによって初期パルス光Paに与えられるスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)の例を模式的に示す。図24において、横軸は波長を示し、縦軸はスペクトル強度及びスペクトル位相の各値を示す。但し、図24は、プローブ光の波長がポンプ光の波長よりも大きい場合の例である。図24に示されるスペクトル波形において、スペクトル位相G11の波長特性は、或る波長λよりも小さい帯域において一定である部分G11aと、波長λよりも大きい帯域において下に凸の曲線状である部分G11bとを含んでいる。部分G11bは、位相φ(λ)を用いて以下の式によって表される。
φ(λ)=φ(ω(λ)-ω/2
但し、φは定数である。ω(λ)及びωは角周波数であって、ω(λ)=2πc/λ、ω=2πc/λ(cは光速)である。部分G11bが極小値となる波長λは、波長λよりも大きい。また、波長λは、スペクトル強度のピーク波長λよりも大きい。部分G11aは、第3パルス光PL3のうちのポンプ光の波長の成分である成分パルスP3を形成し、部分G11bは、第3パルス光PL3のうちのプローブ光の波長の成分である成分パルスP4を形成する。このように、スペクトル位相G11において、成分パルスP3を形成する部分と、成分パルスP4を形成する部分との境界は不連続となる。
【0109】
計測対象物Bは、パルス形成部3から出力される第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3の光軸上に配置される。パルス形成部3から出力された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3は、計測対象物Bに照射される。計測対象物Bからは、計測対象物Bを透過した第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3が出力される。或いは、計測対象物Bにおいて反射または散乱した第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3が計測対象物Bから出力されてもよい。計測対象物Bは、ポンプ光により活性化され、その光学特性が変化する。従って、ポンプ光が同時に照射されないときのプローブ光の時間波形、すなわち第2パルス光PL2の時間波形と比較して、ポンプ光が同時に照射されたときのプローブ光の時間波形、すなわち第3パルス光PL3の成分パルスP4の時間波形は、成分パルスP3の照射直後において大きく変化する。
【0110】
図25の(a)部は、ポンプ光が計測対象物Bに照射されないときの、計測対象物Bを通過したプローブ光の時間波形の例を模式的に示すグラフである。図25の(b)部は、ポンプ光が時刻tにおいて計測対象物Bに照射されたときの、計測対象物Bを通過したプローブ光の時間波形の例を模式的に示すグラフである。なお、図25の(b)部には、図25の(a)部に示されたグラフが一点鎖線で示されている。この例では、ポンプ光が照射される時刻tにおいて計測対象物Bの光学特性が変化すると、プローブ光の波長に対する計測対象物Bの光透過率が急激に低下している。その後、計測対象物Bの光透過率は時間をかけて元に戻る。図25の(b)部に示された時間波形から図7の(a)部に示された時間波形を差し引けば、図25の(c)部に示されるように、ポンプ光の照射に対する計測対象物Bの時間応答を求めることができる。
【0111】
減光部41は、計測対象物Bから出力された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3を通過させる。このとき、減光部41は、第2パルス光PL2及び第3パルス光PL3に含まれるプローブ光の波長の成分、典型的には第2パルス光PL2及び成分パルスP4を、ほぼ減衰することなく透過させる。そして、減光部41は、第1パルス光PL1及び第3パルス光PL3に含まれるポンプ光の波長の成分、典型的には第1パルス光PL1及び成分パルスP3を減衰する。言い換えると、減光部41におけるポンプ光の波長に対する減衰率は、減光部41におけるプローブ光の波長に対する減衰率よりも大きい。減光部41が波長フィルタを有する場合、波長フィルタは、ポンプ光の波長を遮断帯域内に含み、プローブ光の波長を透過帯域内に含む。ポンプ光の波長に対する波長フィルタの透過率は例えば0%~50%の範囲内である。プローブ光の波長に対する波長フィルタの透過率は例えば50%~99%の範囲内である。
【0112】
図26は、減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1、減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2、及び、減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3の各一例を重ね合わせて示すグラフである。図26において、横軸は時間(ピコ秒(ps))を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。第1時間波形TW1は、減光部41によって減衰されたポンプ光の時間波形のみを含む。第3時間波形TW3は、減光部41によって減衰されたポンプ光の時間波形と、ポンプ光を照射した時のプローブ光の時間波形とを重畳した波形を含む。従って、第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分を算出するなどの補正処理を行うことにより、ポンプ光の影響を排除しつつ、ポンプ光が照射された時のプローブ光の時間波形を得ることができる。また、第2時間波形TW2は、ポンプ光が照射されないときのプローブ光の時間波形のみを含む。従って、第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分と、第2時間波形TW2とを比較することにより、ポンプ光が照射されたときのプローブ光の時間波形と、ポンプ光が照射されないときのプローブ光の時間波形とを比較して、計測対象物B内部の時間応答を求めることができる。上記の原理に基づく計測対象物B内部の時間応答の評価は、後述する解析部6によって行われる。
【0113】
第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分と、第2時間波形TW2との比較には、例えばこれらの差の評価、又はこれらの比の評価など様々な方法を用いることができる。また、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3に基づく上記の演算の順序は任意である。図27は、第1時間波形TW1、第3時間波形TW3から第2時間波形TW2を差し引いた時間波形である時間波形TW4、及び、時間波形TW4から第1時間波形TW1を差し引いた時間波形である時間波形TW5を示すグラフである。図27において、横軸は時間(ps)を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。例えば図27に示されるように、まず第3時間波形TW3と第2時間波形TW2との差分を算出し、次いでその差分と第1時間波形TW1との差分を算出してもよい。
【0114】
相関光学系50は、減光部41を通過した第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、および第3パルス光PL3を受ける。相関光学系50は、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、および第3パルス光PL3を、相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する。相関光に変換された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、および第3パルス光PL3は、相関光学系50から出力され、光検出器51によって検出される。
【0115】
解析部6の補助記憶装置67(図11を参照)は、相関光にそれぞれ変換された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3の各時間波形に基づいて、計測対象物Bの時間応答を求めるためのプログラムを格納している。解析部6は、相関光にそれぞれ変換された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3の各時間波形に基づいて、計測対象物Bの時間応答を求める。相関光にそれぞれ変換された第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3の各時間波形は、減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1、減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2、及び、減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3とそれぞれ相関を有する。従って、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3に基づいて計測対象物B内部の時間応答を求める前述した原理は、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3が相関光に変換された場合にもそのまま適用できる。
【0116】
ここで、本実施形態の時間応答計測方法について説明する。図28は、本実施形態の時間応答計測方法を示すフローチャートである。この時間応答計測方法は、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答を計測する方法であって、例えば上述した光学特性計測装置1Aを用いて好適に実施される。
【0117】
まず、光学系4において、第1の状態(計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される状態)を選択する(ステップST11)。このステップST11は、図12に示されるステップST1に相当する。次に、図12に示されるステップST2およびST3を繰り返す。具体的には、ステップST12として、第1パルス光PL1を所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1を計測する。次に、ステップST13として、第2パルス光PL2を上記所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2を計測する。続いて、ステップST14として、第3パルス光PL3を上記所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3を計測する。なお、ステップST12~ST14において、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2および第3時間波形TW3として、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3の各相関光の時間波形を計測してもよい。
【0118】
これらのステップST12~ST14の順序は任意であり、ステップST13を最初に行ってもよく、ステップST14を最初に行ってもよい。但し、第3パルス光PL3の光強度は、第1パルス光PL1及び第2パルス光PL2の各光強度よりも大きい。計測対象物Bによっては、大きな光強度を有する光を照射することによって不可逆な特性変化を生じる場合がある。そのような場合、ステップST14を、ステップST12及びステップST13の少なくとも一方より先に行うと、その後に計測された第1時間波形TW1及び/又は第2時間波形TW2が正確性を欠く虞がある。ステップST14をステップST12及びステップST13より後に行うことによって、そのような虞を軽減できる。
【0119】
その後、ステップST15として、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3に基づいて計測対象物Bの時間応答を求める。このステップST15では、前述した原理に基づき、第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分と、第2時間波形TW2との比較に基づいて計測対象物Bの時間応答を求めてもよい。このステップST15は、図12に示されるステップST6に相当する。
【0120】
SLM14によって第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3を生成する際の留意点について述べる。SLM14からは、位相変調により生じる1次光、-1次光などに加えて、変調されない0次光が出力される。0次光は、1次光および-1次光と異なり、所望の時間波形の形成には寄与しない。従って、0次光からなるパルス光P0が第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3と時間的に重なると、0次光がポンプ光及び/又はプローブ光と同時に検出されてしまう。例えば図29(a)は、第3パルス光PL3の成分パルスP3が、0次光からなるパルス光P0と重なっている場合を示している。このような場合、ポンプ光及び/又はプローブ光の光強度を正確に検出することができない。
【0121】
そこで、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3を、0次光からなるパルス光P0から時間的にずらして生成するとよい。例えば図29(b)は、第3パルス光PL3を、パルス光P0の後に生成する場合を示している。第1パルス光PL1及び第2パルス光PL2それぞれの強度ピークと、パルス光P0の強度ピークとの時間間隔は、例えば第1パルス光PL1及び第2パルス光PL2のパルス幅W1,W2それぞれの1倍以上100倍以下である。同様に、第3パルス光PL3の強度ピーク(典型的には成分パルスP3の強度ピークを意味する)と、パルス光P0の強度ピークとの時間間隔D2は、例えば第3パルス光PL3のパルス幅(典型的には成分パルスP4のパルス幅W4を意味する)の2倍以上100倍以下である。一実施例では、時間間隔D2は-1.5psである。
【0122】
図30及び図31は、第3時間波形TW3から第2時間波形TW2及び第1時間波形TW1を差し引いた時間波形である時間波形TW5の一例を示すグラフである。図30は、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3がパルス光P0と時間的に重なっている場合を示す。図31は、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3がパルス光P0の1.5ps後に生成された場合を示す。図30に示されるように、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3がパルス光P0と時間的に重なっている場合には、時間波形TW5からパルス光P0の成分を分離することは難しい。これに対し、図31に示されるように、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3がパルス光P0から十分に遅れて生成された場合には、時間波形TW5からパルス光P0の成分を分離することは容易である。
【0123】
第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3は、パルス光P0の前に生成されてもよく、パルス光P0の後に生成されてもよい。但し、計測対象物Bの時間応答はポンプ光が照射された後長く続くため、パルス光P0が第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3の前に生じる(すなわち、第1パルス光PL1、第2パルス光PL2および第3パルス光PL3がパルス光P0の後に生成される)ことが好ましい。
[波長分散量計測]
【0124】
本実施形態の光学特性計測装置1Aを用いた、計測対象物Bの波長分散量の計測について説明する。図32は、波長分散計測装置として用いられるときの光学特性計測装置1Aの動作を示す図である。波長分散量の計測においては、光学系4が第2の状態、すなわち計測対象物Bから出力されたパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない状態に設定される。そして、パルス形成部3は、初期パルス光Paから、パルス光PLとして光パルス列PL4を形成する。光パルス列PL4は、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる光パルスPLa,PLbおよびPLcを含む。光パルス列PL4は、初期パルス光Paを構成するスペクトルを複数の波長帯域に分け、それぞれの波長帯域を用いて生成したシングルパルス群である。なお、複数の波長帯域の境界では、互いに重なり合う部分があってもよい。以下の説明では、光パルス列PL4を「帯域制御したマルチパルス」と称することがある。
【0125】
図33は、帯域制御したマルチパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPLa,PLbおよびPLcを含む光パルス列PL4が示されている。図33(a)は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図33(b)は、光パルス列PL4の時間波形を表している。各光パルスPLa,PLbおよびPLcの時間波形は例えばガウス関数状である。図33(a)及び図33(b)に示すように、光パルスPLa,PLbおよびPLcのピーク同士は時間的に互いに離れており、光パルスPLa,PLbおよびPLcの伝搬タイミングは互いにずれている。言い換えると、光パルスPLa,PLbおよびPLcは、互いに時間差を有している。光パルスPLa,PLbおよびPLcの中心波長は互いに異なる。光パルスPLa,PLbおよびPLcの時間間隔(ピーク間隔)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では2000fsである。また、光パルスPLa,PLbおよびPLcのFWHMは、例えば、10fs~5000fsの範囲内であり、一例では300fsである。
【0126】
図33(c)は、光パルスPLa,PLbおよびPLcを合成したスペクトルを表している。図33(c)に示すように光パルスPLa,PLbおよびPLcを合成したスペクトルは単一のピークを有するが、図33(a)を参照すると光パルスPLa,PLbおよびPLcの中心波長は互いにずれている。図33(c)に示す単一のピークは、ほぼ初期パルス光Paのスペクトルに相当する。隣り合う光パルスPLa,PLb(又はPLb,PLc)のピーク波長間隔は、初期パルス光Paのスペクトル帯域幅によって定まり、概ね半値全幅の2倍の範囲内である。一例では、初期パルス光Paのスペクトル帯域幅が10nmの場合、ピーク波長間隔は5nmである。具体例として、初期パルス光Paの中心波長が1030nmである場合、光パルスPLa,PLbおよびPLcのピーク波長はそれぞれ1025nm、1030nm、及び1035nmであることができる。
【0127】
図34は、比較例として、帯域制御されていないマルチパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPLd,PLeおよびPLfを含む光パルス列PL5が示されている。図34(a)は、図33(a)と同様に、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図34(b)は、光パルス列PL5の時間波形を表している。図34(c)は、光パルスPLd,PLeおよびPLfを合成したスペクトルを表している。図34(a)~(c)に示すように、光パルスPLd,PLeおよびPLfのピーク同士は時間的に互いに離れているが、光パルスPLd,PLeおよびPLfの中心波長は互いに一致している。計測対象物Bの波長分散量を計測する場合、パルス形成部3は、このような光パルス列PL5ではなく、図33に示されたような、中心波長が互いに異なる光パルス列PL4を生成する。
【0128】
図35(a)は、光パルス列PL4を生成するために、SLM14によって初期パルス光Paに与えられるスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)の具体例を示す。図35(a)において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はスペクトル強度(任意単位)及びスペクトル位相(rad)を示す。図35(b)は、図35(a)に示されるスペクトル波形によって生成される光パルス列PL4の時間強度波形を示すグラフである。図35(b)において、横軸は時間(fs)を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。光パルスPLa,PLbおよびPLcの中心波長は、それぞれ1025nm、1030nm、及び1035nmである。
【0129】
計測対象物Bは、パルス形成部3から出力される光パルス列PL4の光軸上に配置される。パルス形成部3から出力された光パルス列PL4は、計測対象物Bに照射される。計測対象物Bからは、計測対象物Bを透過した光パルス列PL4が出力される。
【0130】
計測対象物Bは、例えば、光学ファイバあるいは光導波路等の導光部材である。光学ファイバとしては、例えば、シングルモードファイバ、マルチモードファイバ、希土類添加ファイバ、フォトニック結晶ファイバ、分散シフトファイバ、又はダブルクラッドファイバが挙げられる。光導波路としては、例えば、SiN又はInPなどの半導体微小導波路が挙げられる。或いは、計測対象物Bは、例えば半導体又は誘電体光学結晶であってもよい。その場合、計測対象物Bは、ダイヤモンド、SiO、LiNbO、LiTaO,PLZT、Si、Ge、フラーレン、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、GaN、GaAs、磁性体、有機材料、又は高分子材料等であってもよい。
【0131】
光学系4を通過した光パルス列PL4は、相関光学系50に入力される。相関光学系50は、光パルス列PL4を、相互相関又は自己相関を含む相関光に変換する。相関光に変換された光パルス列PL4は、相関光学系50から出力される。
【0132】
図36(a)および図36(b)は、光パルス列PL4の相関光の特徴量を概念的に説明するための図である。図36(a)は、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過しない場合の相関光の時間波形の例を示す。図36(b)は、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過した場合の相関光の時間波形の例を示す。なお、これらの例は、計測対象物Bに照射される光パルス列PL4が、図33(b)に示された3つの光パルスPLa,PLbおよびPLcを含む場合を示している。この場合、相関光は、光パルスPLa,PLbおよびPLcにそれぞれ対応する3つの光パルスPCa,PCbおよびPCcを含んで構成される。ここで、光パルスPCa,PCbおよびPCcのピーク強度をぞれぞれPEa,PEbおよびPEcとし、光パルスPCa,PCbおよびPCcの半値全幅(FWHM)をぞれぞれWa,WbおよびWcとし、光パルスPCa,PCbのピーク時間間隔(パルス間隔)をGa,bとし、光パルスPCb,PCcのピーク時間間隔をGb,cとする。
【0133】
図36(a)に示すように、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過しない場合、相関光の時間波形は、パルス形成部3から出力された直後の光パルス列PL4の時間波形とほぼ同一となる。この例では、ピーク強度についてはPEbがPEa及びPEcよりも大きく、PEaとPEbとがほぼ等しい。また、半値全幅についてはWaとWbとWcとが互いにほぼ等しい。ピーク時間間隔についてはGa,bとGb,cとがほぼ等しい。これに対し、図36(b)に示すように、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過する場合、計測対象物Bの波長分散によって、相関光の時間波形は、光パルス列PL4の時間波形から大きく変化する。この例では、光パルスPCa,PCbおよびPCcのピーク強度PEa,PEbおよびPEcが図36(a)と比較して大きく低下しており、且つ、光パルスPCa,PCbおよびPCcの半値全幅Wa,WbおよびWcが図36(a)と比較して顕著に拡大している。更に、ピーク時間間隔Ga,b図36(a)と比較して格段に長くなっている。
【0134】
このように、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過すると、相関光の時間波形の特徴量(ピーク強度PEa,PEbおよびPEc、半値全幅Wa,WbおよびWc、ピーク時間間隔Ga,b,Gb,c)が、光パルス列PL4が計測対象物Bを通過しない場合と比較して大きく変化する。そして、その変化量は、計測対象物Bの波長分散量に依存する。従って、相関光の時間波形の特徴量の変化を観察することにより、計測対象物Bの波長分散量を精度良く且つ容易に知ることができる。但し、パルスレーザ光源2の既知の波長分散量を用いて計測対象物Bの波長分散量を補正してもよい。
【0135】
図37は、本実施形態の波長分散計測方法を示すフローチャートである。この波長分散計測方法は、計測対象物Bの波長分散量を計測する方法であって、例えば上述した光学特性計測装置1Aを用いて好適に実施される。
【0136】
まず、光学系4において、第2の状態(計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置されない状態)を選択する(ステップST21)。このステップST21は、図12に示されるステップST1に相当する。次に、パルス光PLとして、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスPLa,PLbおよびPLcを含む光パルス列PL4をパルス形成部3において生成し、この光パルス列PL4を計測対象物Bに照射する(ステップST22)。このステップST2は、図12に示されるステップST2に相当する。続いて、計測対象物Bを通過した光パルス列PL4の時間波形を波形計測部5において計測する(ステップST23)。ステップST23では、相関光学系50を用いて光パルス列PL4の相関光を生成することによって、光パルス列PL4の時間波形を計測してもよい。続いて、解析部6において、光パルス列PL4の時間波形の特徴量に基づいて、計測対象物Bの波長分散量を推定する(ステップST24)。
【0137】
以上に説明した本実施形態による光学特性計測装置1A及び光学特性計測方法によって得られる効果について説明する。本実施形態による光学特性計測装置1A及び光学特性計測方法では、パルス光PLのパルス本数、スペクトル及び時間波形を変更可能であるパルス形成部3を用いて、計測される光学特性の種類に応じてパルス本数、スペクトル及び時間波形を設定することができる。また、計測対象物Bから出力されるパルス光PLの光路上に減光部41が配置される第1の状態と、該光路上に減光部41が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能な光学系4を用いて、光路上の減光部41の有無を設定できる。パルス光PLを構成する一の波長成分に対する減光部41の減衰率は、パルス光PLを構成する別の波長成分に対する減光部41の減衰率よりも大きい。従って、パルス光PLを構成する一の波長成分を、計測対象物Bを通過した後に減光することが求められる光学特性の計測(例えば時間応答計測)と、計測対象物Bを通過した後に減光しないことが求められる光学特性の計測(例えば波長分散計測)とを、一つの装置を用いて行うことができる。よって、二種類以上の光学特性の計測、例えば、時間応答計測及び波長分散計測を、一つの装置を用いて行うことができる。
【0138】
図4に示されたように、光学系4において、減光部41はパルス光PLの光軸と交差する方向に移動可能であってもよい。或いは、図5および図6に示されたように、光学系4は、パルス光PLのための2つの光路を相互に切り替えるための構成を有し、減光部41は、2つの光路のうちいずれかの光路上に配置されてもよい。これらのうちいずれかの構成を光学系4が有することによって、光路上に減光部41が配置される第1の状態と、光路上に減光部41が配置されない第2の状態とを容易に切り替えることができる。
【0139】
本実施形態のように、計測される光学特性の種類には、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答と、計測対象物Bの波長分散量とが含まれ、光学系4は、時間応答の計測時には第1の状態とされ、波長分散量の計測時には第2の状態とされてもよい。時間応答の計測時には、波長が互いに異なるポンプ光及びプローブ光を計測対象物Bに照射したのち、ポンプ光を除去してプローブ光のみを計測することが望まれる。この場合、ポンプ光は上記一の波長成分に相当し、プローブ光は上記別の波長成分に相当する。また、波長分散量の計測時には、波長が互いに異なる複数の光パルスPLa,PLbおよびPLcを含む光パルス列PL4を計測対象物Bに照射し、計測対象物Bを通過した光パルス列PL4の時間波形を、各波長成分の光強度比を維持しつつ検出することが望まれる。光学系4において、時間応答の計測時には第1の状態が選択され、波長分散量の計測時には第2の状態が選択されることにより、時間応答計測及び波長分散計測を好適に行うことができる。
【0140】
本実施形態のように、パルス形成部3は、波長分散量の計測時に、パルス光PLとして、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数のパルスPLa,PLbおよびPLcを含む光パルス列PL4を形成してもよい。波形計測部5は、計測対象物Bを通過した光パルス列PL4の時間波形を計測してもよい。解析部6は、光パルス列PL4の時間波形の特徴量に基づいて、計測対象物Bの波長分散量を推定してもよい。これにより、計測対象物Bの波長分散量を好適に計測することができる。
【0141】
本実施形態のように、パルス形成部3は、時間応答の計測時に、パルス光PLとして、ポンプ光の波長を含む第1パルス光PL1、プローブ光の波長を含む第2パルス光PL2、並びに、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長の双方を含む第3パルス光PL3を共通の光軸上に生成してもよい。減光部41のポンプ光に対する減衰率は、減光部41のプローブ光に対する減衰率より大きくてもよい。波形計測部5は、減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1、減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2、及び、減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3を計測してもよい。解析部6は、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3に基づいて計測対象物Bの時間応答を求めてもよい。
【0142】
本実施形態のように、時間応答の計測時には、図12に示されるステップST2及びステップST3を交互に繰り返してもよい。そして、一の繰り返しに相当するステップST12では、ポンプ光の波長を含むパルス光PLである第1パルス光PL1を所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し(ステップST2)、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1を計測してもよい(ステップST3)。また、別の繰り返しに相当するステップST13では、プローブ光の波長を含むパルス光PLである第2パルス光PL2を所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し(ステップST2)、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2を計測してもよい(ステップST3)。また、更に別の繰り返しに相当するステップST14では、プローブ光の波長を含むパルス光PLである第3パルス光PL3を所定の光軸に沿って計測対象物Bに照射し(ステップST2)、計測対象物Bから出力されたのち減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3を計測してもよい(ステップST3)。そして、計測対象物Bの光学特性を求めるステップST6に相当するステップST15において、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3に基づいて計測対象物Bの時間応答を求めてもよい。
【0143】
図47は、計測対象物102の時間応答を計測するための、比較例としての装置100の構成を示す模式図である。図47に示される装置100では、計測対象物102を通過する際のポンプ光Lpumpの光軸が、プローブ光Lprobeの光軸に対して傾斜している。この場合、計測対象物102の内部において、ポンプ光Lpumpの照射位置とプローブ光Lprobeの照射位置とを一致させるために、これらの照射位置をマイクロメートルオーダーで調整する必要がある。したがって、空間的及び時間的な光学調整の精度が求められ、作業が極めて煩雑となる。
【0144】
この問題を解決するために、ポンプ光及びプローブ光の各光軸を互いに傾斜させずに一致させ、その一致した光軸上に配置された計測対象物にポンプ光及びプローブ光を照射することが考えられる。これにより、ポンプ光の照射位置とプローブ光の照射位置とを一致させるための作業をする必要がないので、計測作業を簡易化できる。しかし、その場合、プローブ光はポンプ光が重畳した光として検出される。従って、ポンプ光の照射に起因する計測対象物内部の時間応答をプローブ光によって計測するためには、検出結果からポンプ光の影響を排除することが望まれる。そこで、計測対象物を通過したポンプ光及びプローブ光のうちポンプ光のみを除去することが考えられる。しかしながら、通常、ポンプ光の光強度はプローブ光の光強度よりも格段に大きい。従って、例えば波長フィルタを用いてポンプ光のみを減衰したとしても、プローブ光の光強度に対して無視できない光強度のポンプ光が残存する。
【0145】
本実施形態の光学特性計測装置1A及び光学特性計測方法では、ポンプ光の波長を含む第1パルス光PL1、プローブ光の波長を含む第2パルス光PL2、並びに、ポンプ光の波長及びプローブ光の波長を含む第3パルス光PL3を共通の光軸上に生成する。そして、これらの第1パルス光PL1、第2パルス光PL2、及び第3パルス光PL3が光軸上の計測対象物Bに照射されたのち、減光部41がポンプ光の波長の光強度を減衰する。この場合、減光部41を通過した第1パルス光PL1の時間波形である第1時間波形TW1には、減衰されたポンプ光の時間波形のみが含まれる。また、減光部41を通過した第2パルス光PL2の時間波形である第2時間波形TW2には、ポンプ光を照射しないときのプローブ光の時間波形のみが含まれる。また、減光部41を通過した第3パルス光PL3の時間波形である第3時間波形TW3には、ポンプ光を照射したときのプローブ光の時間波形と、減衰されたポンプ光の時間波形とを重畳した時間波形が含まれる。これらの時間波形に基づいて、計算によりポンプ光の影響を排除しつつ、ポンプ光の照射に起因する計測対象物B内部の時間応答をプローブ光の時間波形から求めることができる。
【0146】
加えて、本実施形態の光学特性計測装置1Aによれば、次のような作用効果を奏することもできる。仮に、計測対象物Bを通過する際のポンプ光の光軸が、プローブ光の光軸に対して傾斜している場合、特性変化が生じる計測対象物B内部の領域は、ポンプ光の光軸とプローブ光の光軸とが互いに交差する領域に限られ、その領域は極めて小さい。よって、当該領域における特性変化がプローブ光に与える影響も小さい。これに対し、本実施形態の光学特性計測装置1Aでは、計測対象物Bを通過する際のポンプ光の光軸と、プローブ光の光軸とが互いに一致している。従って、特性変化が生じる計測対象物B内部の領域とプローブ光の照射領域とが重なる領域は、プローブ光の光軸に沿って延在することとなり、ポンプ光の光軸とプローブ光の光軸とが交差する場合の領域と比較して、その体積が大きくなる。よって、当該領域における特性変化がプローブ光に与える影響も大きくなるので、計測対象物B内部の時間応答をより精度良く求めることができる。
【0147】
本実施形態のように、解析部6及びステップST15において、第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分と、第2時間波形TW2との比較に基づいて計測対象物Bの時間応答を求めてもよい。第3時間波形TW3と第1時間波形TW1との差分を算出することにより、ポンプ光の影響を排除しつつ、ポンプ光が照射されたときのプローブ光の時間波形を得ることができる。そして、この差分と、第2時間波形TW2とを比較することにより、ポンプ光が照射されたときのプローブ光の時間波形と、ポンプ光が照射されないときのプローブ光の時間波形とを比較して、計測対象物B内部の時間応答をより正確に求めることができる。
【0148】
本実施形態のように、パルス形成部3は、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調の少なくともいずれか一方を行うことによりパルス光PLを生成するSLM14を有してもよい。同様に、ステップST2では、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調の少なくともいずれか一方を行うSLM14を用いてパルス光PLを生成してもよい。また、パルス形成部3は、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調とを同時に行うことによりパルス光PLを生成するSLM14を有してもよい。同様に、ステップST2では、入力された初期パルス光Paの位相変調と強度変調とを同時に行うSLM14を用いてパルス光PLを生成してもよい。これらの場合、SLM14に表示される変調パターンを変更するだけで種々のパルス光PLを選択的に生成できる。従って、パルス形成部3において生成されるパルス光PLを、計測される光学特性の種類に応じて容易に変更することができる。
【0149】
本実施形態のように、波形計測部5は、相関光学系50を有してもよい。相関光学系50は、光学系4の後段に配置され、パルス光PLの相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する。そして、解析部6は、この相関光に基づいて計測対象物Bの時間応答を求めてもよい。この場合、パルス光PLの時間幅が例えばフェムト秒オーダーまたはピコ秒オーダーであっても、その時間波形を精度良く計測できる。故に、計測対象物B内部の特性変化を精度良く計測することができる。
【0150】
本実施形態のように、減光部41は、ポンプ光の波長を遮断帯域内に含み、プローブ光の波長を透過帯域内に含む波長フィルタを有してもよい。この場合、簡易な構成によってポンプ光の波長の光強度を減衰することができる。
【0151】
本実施形態のように、パルス形成部3において、成分パルスP3の強度ピークと成分パルスP4の強度ピークとの時間間隔D1が可変であってもよい。この場合、成分パルスP3と成分パルスP4との時間間隔D1を、計測対象物Bの種類又は性質に応じて適切に設定することが容易にできる。
【0152】
本実施形態のように、パルス形成部3において、成分パルスP3のパルス幅W3と成分パルスP4のパルス幅W4との比(W3/W4)が可変であってもよい。この場合、第3パルス光PL3に含まれるポンプ光のパルス幅とプローブ光のパルス幅との比を、計測対象物Bの種類又は性質に応じて適切に設定することが容易にできる。
【0153】
本実施形態のように、成分パルスP3のパルス幅W3は、成分パルスP4のパルス幅W4よりも小さくてもよい。例えば、パルス幅W3と同程度のパルス幅W4を有する成分パルスP4と、成分パルスP3との時間差を変化させながら第3パルス光PL3の検出を複数回行う方式も考えられる。本実施形態によれば、このような方式と異なり、第3パルス光PL3を一回だけ検出すれば計測が完了する。従って、第3パルス光PL3の照射回数及び検出回数が少なくて済むので、計測作業を更に簡易化できる。
【0154】
ここで、プローブ光のパルス幅、すなわち第2パルス光PL2のパルス幅W2および成分パルスP4のパルス幅W4の決定方法の例について説明する。図38は、パルス幅W2,W4と、時間波形TW5に含まれる計測対象物Bの時間応答波形の時間幅Δtとの関係を示すグラフである。図38において、横軸はパルス幅W2,W4(ps)を示し、縦軸は時間幅Δt(ps)を示す。図38は、計測対象物Bとして厚さ1mmのZnTe結晶を用いた実験結果である。図39は、図38に含まれる幾つかのプロットの基になった時間波形TW5を示すグラフである。図39において、横軸は時間(ps)を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。図39において、線G31は、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量を15000fsとした結果である。線G32は、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量を20000fsとした結果である。線G33は、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量を40000fsとした結果である。線G34は、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量を60000fsとした結果である。なお、チャープ量が大きいほどパルス幅は大きくなる。
【0155】
図38を参照すると、プローブ光のパルス幅W2,W4が大きくなるほど、計測対象物Bの時間応答波形の時間幅Δtは概ね増大している。しかしながら、プローブ光のパルス幅W2,W4が400fs以上600fs以下である範囲内においては、時間幅Δtがほぼ一定値となっている。すなわち、この範囲内においては、時間波形TW5がほぼ変化しないといえる。この範囲内における時間幅Δtは200fsであった。このことから、プローブ光のパルス幅W2,W4を計測対象物Bの時間応答幅の2倍以上3倍以下の範囲内に決定することにより、計測対象物Bの時間応答をより精度良く計測することができる。
[第1変形例]
【0156】
上記実施形態の光学特性計測装置1Aは、計測対象物Bの時間応答の計測の際に、プローブ光のパルス幅W2,W4を調整することによって、計測対象物Bの3次の非線形係数χ(3)を併せて計測してもよい。
【0157】
図40(a)、図40(b)、図41(a)、図41(b)、図42(a)、及び図42(b)は、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量をそれぞれ-5000fs、-2500fs、0fs、2500fs、5000fs、及び10000fsとした場合における、時間波形TW5を示すグラフである。これらの図において、横軸は時間(ps)を示し、縦軸は光強度(任意単位)を示す。これらの図を参照すると、第2パルス光PL2及び成分パルスP4のチャープ量の変化、すなわちプローブ光のパルス幅W2,W4の変化に応じて、計測対象物Bの時間応答波形の位相が変化することがわかる。このような現象は、プローブ光のパルス幅W2,W4が比較的小さい(例えば400fs以下)ときに顕著に生じる。
【0158】
計測対象物Bにポンプ光が照射されると、その照射領域において計測対象物Bの屈折率が変化する。これにより、計測対象物Bを通過したプローブ光の時間波形が歪む。このような現象は、相互位相変調(XPM:cross-phase modulation)と呼ばれる。そして、XPMの大きさは、計測対象物Bの3次の非線形係数χ(3)に依存する。計測対象物Bの時間応答波形の位相の変化は、このXPMに因ると考えられる。従って、時間波形TW5に含まれる計測対象物Bの時間応答波形の位相の変化を検出することによって、計測対象物Bの3次の非線形係数χ(3)を計測することが可能である。なお、時間波形TW5に基づく計測対象物Bの3次の非線形係数χ(3)の演算は、解析部6において行われてもよい。また、3次の非線形係数χ(3)の演算元となる情報は、時間波形TW5に限られず、第1時間波形TW1、第2時間波形TW2、及び第3時間波形TW3から導き出される種々の情報であってよい。
[第2変形例]
【0159】
図43は、本開示の第2変形例に係る光学特性計測装置1Bの構成を示す図である。光学特性計測装置1Bでは、相関光学系50の配置が上記実施形態の光学特性計測装置1Aと異なる。すなわち、光学特性計測装置1Bでは、相関光学系50が、計測対象物Bと光学系40との間の光路上に配置されている。この場合、相関光学系50は、計測対象物Bから出力されたパルス光PLを受けて、減光前のパルス光PLの相関光を生成する。
【0160】
パルス光PLの相関光は、光学系40に達する。光学系40は、相関光学系50から出力されたパルス光PLの相関光を通過させる。光学系40は、減光部48を有する。パルス光PLを構成する一の波長成分(例えばポンプ光の相関光)に対する減光部48の減衰率は、パルス光PLを構成する別の波長成分(例えばプローブ光の相関光)に対する減光部48の減衰率よりも大きい。
【0161】
光学系40は、相関光学系50から出力されるパルス光PLの光路上に減光部48が配置される第1の状態と、その光路上に減光部48が配置されない第2の状態とを相互に切り替え可能に構成されている。光学系40は、光照射に起因する計測対象物B内部の時間応答を計測するときには第1の状態とされ、計測対象物Bの波長分散量を計測するときには第2の状態とされる。なお、上述した点を除く光学系40および減光部48の構成は、上記実施形態と同じである。
【0162】
計測対象物B内部の時間応答を計測する際、減光部48は、第2パルス光PL2及び第3パルス光PL3の各相関光に含まれる、プローブ光に起因する波長成分、典型的には第2パルス光PL2及び成分パルスP4の各相関光を、ほぼ減衰することなく透過させる。そして、減光部48は、第1パルス光PL1及び第3パルス光PL3の各相関光に含まれる、ポンプ光に起因する波長成分、典型的には第1パルス光PL1及び成分パルスP3の各相関光を減衰する。
[第3変形例]
【0163】
図44は、本開示の第3変形例に係る波形計測部5Aの構成を模式的に示す図である。上記実施形態の光学特性計測装置1Aは、波形計測部5に代えて波形計測部5Aを備えてもよい。波形計測部5Aは、相関光学系50に代わる光学部品として、長尺光ファイバ502を有する。長尺光ファイバ502は、その長さが十分に長い(例えば長さ数kmの)光ファイバである。長尺光ファイバ502は光学系4の後段に配置され、長尺光ファイバ502の一端は、レンズ501を介して光学系4と光学的に結合されている。長尺光ファイバ502の他端は、光検出器51と光学的に結合されている。
【0164】
光学系4を通過したパルス光PLは、長尺光ファイバ502に入射する。長尺光ファイバ502は、長尺光ファイバ502の内部を伝搬するパルス光PLの時間幅を伸張させる。長尺光ファイバ502は、例えば、フェムト秒オーダーのパルス幅をナノ秒オーダーに伸張させる。時間幅が伸張したパルス光PLの各時間波形は、光検出器51によって検出される。長尺光ファイバ502の長さ及び屈折率は既知であるので、解析部6は、検出された各時間波形から、時間幅を伸張する前のパルス光PLの時間波形を算出して、その時間波形に基づき計測対象物Bの時間応答を計測する。なお、第2変形例に係る波形計測部5Bが、相関光学系50に代わる光学部品として、長尺光ファイバ502を有してもよい。すなわち、長尺光ファイバ502は、計測対象物Bと光学系4との間の光路上に配置されてもよい。
【0165】
本変形例のように、波形計測部5Aは、計測対象物Bと光学系4との間又は光学系4の後段に配置されてパルス光PLの時間幅を伸張させる光学部品(長尺光ファイバ502)を有してもよい。この場合、パルス光PLの時間幅が例えばフェムト秒オーダーまたはピコ秒オーダーであっても、これらの時間波形を精度良く測定できる。故に、計測対象物Bの光学特性を精度良く計測することができる。
【0166】
また、本変形例によれば、パルス光PLをそれらの時間幅を拡げて検出するので、相関光学系のような複雑な光学系を必要としない。また、相関光学系を用いる場合にはパルス光PLと参照パルス光との時間差を複数設定しながら検出を行う必要があるが、本変形例によればより少ない検出回数によってパルス光PLの時間波形を取得することができる。従って、計測作業をより簡易化できる。
[第4変形例]
【0167】
図45は、本開示の第4変形例に係る波形計測部5Bの構成を模式的に示す図である。パルス光PLの時間幅を伸張させるための光学部品は長尺光ファイバ502に限られない。例えば、図45に示されるように、長尺光ファイバ502に代えて(又は長尺光ファイバ502とともに)チャープドファイバブラッググレーティング(CFBG)504を配置してもよい。CFBG504は、光ファイバに回折格子パターンが描写されたものである。一例では、CFBG504は光サーキュレータ503とともに光学系4と光検出器51との間に配置される。光サーキュレータ503の第1ポートは光学系4と光学的に結合され、第1ポートには計測対象物Bおよび光学系4を通過したパルス光PLが入力される。光サーキュレータ503の第2ポートはCFBG504と光学的に結合される。光サーキュレータ503の第1ポートに入力されたパルス光PLは、光サーキュレータ503の第2ポートから出力されてCFBG504に入力される。CFBG504は、上述した長尺光ファイバ502と同様に、パルス光PLの時間幅を(例えばナノ秒オーダーに)伸張させる。時間幅が伸張したパルス光PLは、再び光サーキュレータ503の第2ポートに入力される。光サーキュレータ503の第3ポートは光検出器51と光学的に結合されており、時間幅が伸張したパルス光PLは、第3ポートから出力されて光検出器51に入力される。なお、光サーキュレータ503の第1ポートが計測対象物Bと光学的に結合され、第3ポートが光学系4と光学的に結合されてもよい。
【0168】
本変形例の構成によれば、上述した第3変形例と同じ効果を奏することができる。加えて、CFBG504は長尺光ファイバ502よりも格段に小さいので、光学特性計測装置の小型化が可能になる。また、長尺光ファイバ502と比較して伝搬ロスを小さくすることができる。
[第5変形例]
【0169】
上記実施形態の波形計測部5は、相関光学系50に代わる光学系として、スペクトル干渉光学系を有してもよい。スペクトル干渉光学系は、パルス光PLを2つに分岐し、分岐された2つのパルス光PL同士を干渉させることにより、干渉縞を生成する。そして、この干渉縞を、分光器を用いて計測する。この場合、パルス光PLの時間幅が例えばフェムト秒オーダーまたはピコ秒オーダーであっても、これらの時間波形を精度良く測定できる。故に、計測対象物Bの光学特性を精度良く計測することができる。
[第6変形例]
【0170】
図46は、本開示の第6変形例に係る光学特性計測装置1Cの構成を模式的に示す図である。光学特性計測装置1Cは、相関光学系50に代えてデュアルコム分光技術を利用している点で、上記実施形態に係る光学特性計測装置1Aと異なる。すなわち、本変形例に係る光学特性計測装置1Cは、上記実施形態の波形計測部5に代えて波形計測部5Cを備え、また、上記実施形態のパルスレーザ光源2に代えて、第1のパルスレーザ光源2Aと、第2のパルスレーザ光源2Bとを備える。
【0171】
第1のパルスレーザ光源2A及び第2のパルスレーザ光源2Bは、いずれもパルス周期およびオフセット周波数が安定化された光周波数コム光源であり、等しい周波数間隔で並んだモード群(コムモード群)からなるフェムト秒光パルスを周期的に出力する。第1のパルスレーザ光源2Aと第2のパルスレーザ光源2Bとは、互いに位相が同期されており、フェムト秒光パルスを出力する周期がわずかに異なる。第1のパルスレーザ光源2Aは、初期パルス光Paを出力し、第2のパルスレーザ光源2Bは、参照用パルス光Prを出力する。第1のパルスレーザ光源2Aから出力された初期パルス光Paは、パルス形成部3によってパルス光PLに変換される。パルス光PLは計測対象物B及び光学系4を通過したのち、波形計測部5Cに入力される。
【0172】
一方、第2のパルスレーザ光源2Bから出力された参照用パルス光Prは、パルス形成部3、計測対象物B及び光学系4を経ることなく波形計測部5Cに直接入力される。このとき、パルス光PLは、参照用パルス光Prと干渉して干渉光に変換される。波形計測部5Cは光検出器505を有している。光検出器505は、パルス光PLの干渉光を検出する。この干渉光は、パルス光PLの相互相関を含む相関光である。従って、第2のパルスレーザ光源2Bと、パルス光PLを波形計測部5Cへ導く光学系と、参照用パルス光Prを波形計測部5Cへ導く光学系とは、相関光学系を構成する。
【0173】
ここで、第1のパルスレーザ光源2A及び第2のパルスレーザ光源2Bは、いずれもフェムト秒光パルスを周期的に出力し、かつその周期がわずかに異なる。従って、パルス光PLが光検出器505に入力されるタイミングと、参照用パルス光Prが光検出器505に入力されるタイミングとの間に差が生じ、かつその差は時間とともに変化する。したがって、光検出器505は、相関光の強度を表す電気信号を、パルス光PLに対する参照用パルス光Prの時間遅延を変化させながら、順次出力する。これによって、パルス光PLの時間波形を異なるタイミングでサンプリングした光信号に相当する電気信号を順次取得することができる。波形計測部5Cは、このようにして順次取得した電気信号を処理することにより、パルス光PLの時間波形を計測する。
【0174】
図9に示された相関光学系50Bでは、パルス光PLの時間波形をサンプリングするために、移動ステージ59に搭載されたミラー58を移動させて、参照用パルス光Prの光路長(つまり、時間遅延)を変化させる必要がある。ミラー58の移動量及び移動速度には限界があるので、時間応答計測のダイナミックレンジ及び時間応答計測に要する時間にも限界がある。
【0175】
これに対して、本変形例に係る光学特性計測装置1Cにおいては、移動反射鏡を使用しないので、図9に示された相関光学系50Bを備える光学特性計測装置1Aに比べて、時間応答計測のダイナミックレンジを拡大することができ、時間応答計測に要する時間を短縮することができる。
【0176】
本開示による光学特性計測装置及び光学特性計測方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0177】
1A,1B,1C…光学特性計測装置、2,2A,2B…パルスレーザ光源、3…パルス形成部、3a…光入力端、3b…光出力端、4,4A,4B,4C,40…光学系、5,5A,5B,5C…波形計測部、6…解析部、12…回折格子、13…レンズ、14…空間光変調器(SLM)、15…レンズ、16…回折格子、17…変調面、17a…変調領域、18…制御部、20…変調パターン算出装置、21…任意波形入力部、22…位相スペクトル設計部、23…強度スペクトル設計部、24…変調パターン生成部、25…フーリエ変換部、26…関数置換部、27…波形関数修正部、28…逆フーリエ変換部、29…ターゲット生成部、29a…フーリエ変換部、29b…スペクトログラム修正部、41,48…減光部、43a,43b…固定ミラー、44a,44b…可動ミラー、45a,45b…ハーフミラー、46a,46b…固定ミラー、47…光吸収材、50,50A,50B,50C…相関光学系、50c,50d,50e,50f…光路、51…光検出器、52a,52b…レンズ、53…光学素子、54…ビームスプリッタ、55,56,58…ミラー、57,59…移動ステージ、61…プロセッサ(CPU)、62…ROM、64…入力デバイス、65…出力デバイス、66…通信モジュール、67…補助記憶装置、100…装置、102…計測対象物、501…レンズ、502…長尺光ファイバ、503…光サーキュレータ、504…チャープドファイバブラッググレーティング(CFBG)、505…光検出器、AA,AB…方向、B…計測対象物、D1,D2…時間間隔、Lprobe…プローブ光、Lpump…ポンプ光、P0…(0次)パルス光、P3,P4…成分パルス、Pa…初期パルス光、Pb…光、Pc…変調光、PCa,PCb,PCc…光パルス、PEa,PEb…ピーク強度、PL…パルス光、PL1…第1パルス光、PL2…第2パルス光、PL3…第3パルス光、PL4,PL5…光パルス列、PLa,PLb,PLc,PLd,PLe,PLf…光パルス、Pr…参照用パルス光、PLu,PLv…パルス光、T1,T2,T3,T4…ピーク強度、TW1,TW2,TW3,TW4,TW5…時間波形、W1,W2,W3,W4…パルス幅、Wa,Wb…半値全幅。
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