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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014061
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】浸透深さの調整方法及び外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20230119BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20230119BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 31/706 20060101ALN20230119BHJP
   A61K 31/728 20060101ALN20230119BHJP
   A61K 47/10 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
A61K47/44
A61K8/92
A61Q19/00
A61K9/107
A61P17/00
A61K47/46
A61K8/06
A61K31/706
A61K31/728
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113490
(22)【出願日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2021116352
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502087116
【氏名又は名称】株式会社ツツミプランニング
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】河北 龍志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文人
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD02
4C076DD07
4C076DD12
4C076DD16
4C076EE51
4C076FF16
4C076FF34
4C083AA122
4C083AC852
4C083AD332
4C083BB01
4C083BB11
4C083CC02
4C083DD31
4C083EE12
4C083EE13
4C086EA20
4C086MA22
4C086MA63
4C086NA11
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】浸透深さを調整可能な供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法を提供する。
【解決手段】乳化構造体内に保持させた所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性を調整して前記浸透深さを調整することとした。また、前記HLBの調整は、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子を混合し、同混合物の見かけ上のHLBを調整することで行うものであり、前記油の極性の調整は、極性がそれぞれ異なる2種以上の油を混合し、同混合油の見かけ上の極性を調整することにも特徴を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化構造体内に保持させた所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、
前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性を調整して前記浸透深さを調整することを特徴とする浸透深さの調整方法。
【請求項2】
前記HLBの調整は、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子を混合し、同混合物の見かけ上のHLBを調整することで行うものであり、
前記油の極性の調整は、極性がそれぞれ異なる2種以上の油を混合し、同混合油の見かけ上の極性を調整することで行うことを特徴とする請求項1に記載の浸透深さの調整方法。
【請求項3】
乳化構造体内中に保持された所定の供給成分の皮膚における供給可能深さと、前記供給成分に設定された皮膚における所定の供給目標深さとを略一致してなる前記供給成分の浸透深さが調整された外用組成物であって、
前記供給可能深さは、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性に応じた深さであることを特徴とする外用組成物。
【請求項4】
前記両親媒性分子のHLBは、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子からなる混合物の見かけ上のHLBであり、
前記油の極性は、極性がそれぞれ異なる2種以上の混合油の見かけ上の極性であることを特徴とする請求項3に記載の外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に供給する成分の浸透深さの調整方法及び供給する成分の浸透深さが調整された外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬の有効成分であったり、化粧料の有効成分や機能成分のように、皮膚以下の体内の位置にまで浸透させつつ供給して機能を発揮させることを目的とする成分(以下、供給成分ともいう。)を皮膚を介して体内に浸透させる外用組成物が広く用いられている。
【0003】
このような外用組成物は、供給成分を局所的に低侵襲で経皮的に浸透させることができるため有用である。
【0004】
また、供給成分を皮膚を介して供給するにあたり、その供給成分の皮膚への浸透のしやすさや皮膚表面から体内方向への到達深さは、供給成分によって異なることが知られている。
【0005】
そこで、皮膚に浸透しにくい供給成分をより効率的に浸透可能としたり、深くまで到達しにくい供給成分をより深部にまで到達させるべく、供給成分を油中水エマルションやベシクル、リポソームの如き乳化物の内部に収容し保持させるよう構成する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-308380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、供給成分を乳化物の内部に保持させた上述の手法は、経皮浸透の観点において、未だ検討すべき課題が残されていた。すなわち、乳化物の浸透深さ、換言すれば乳化物内に保持させた供給成分の浸透深さについてコントロールする手段については、これまでに提案されていない。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法を提供する。また本発明では、供給成分の浸透深さが調整された外用組成物についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る浸透深さの調整方法では、(1)乳化構造体内に保持させた所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性を調整して前記浸透深さを調整することとした。
【0010】
また、本発明に係る浸透深さの調整方法では、(2)前記HLBの調整は、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子を混合し、同混合物の見かけ上のHLBを調整することで行うものであり、前記油の極性の調整は、極性がそれぞれ異なる2種以上の油を混合し、同混合油の見かけ上の極性を調整することで行うことにも特徴を有する。
【0011】
また、本発明に係る外用組成物では、(3)乳化構造体内に保持された所定の供給成分の皮膚における供給可能深さと、前記供給成分に設定された皮膚における所定の供給目標深さとを略一致してなる前記供給成分の浸透深さが調整された外用組成物であって、前記供給可能深さは、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性に応じた深さであることとした。
【0012】
また、本発明に係る外用組成物では、(4)前記両親媒性分子のHLBは、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子からなる混合物の見かけ上のHLBであり、前記油の極性は、極性がそれぞれ異なる2種以上の混合油の見かけ上の極性であることにも特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る浸透深さの調整方法によれば、乳化構造体内に保持させた所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性を調整して前記浸透深さを調整することとしたため、供給成分の皮膚中における到達深さを変化させることができる。
【0014】
また、前記HLBの調整は、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子を混合し、同混合物の見かけ上のHLBを調整することで行うものであり、前記油の極性の調整は、極性がそれぞれ異なる2種以上の油を混合し、同混合油の見かけ上の極性を調整することで行うこととすれば、HLBや極性のより細やかな調整が可能となり、浸透深さの微調整を行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る外用組成物によれば、乳化構造体内に保持された所定の供給成分の皮膚における供給可能深さと、前記供給成分に設定された皮膚における所定の供給目標深さとを略一致してなる前記供給成分の浸透深さが調整された外用組成物であって、前記供給可能深さは、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性に応じた深さであることとしたため、所定の供給成分を所望する深さにまで至らせることのできる外用組成物を提供することができる。
【0016】
また、前記両親媒性分子のHLBは、HLBがそれぞれ異なる2種以上の両親媒性分子からなる混合物の見かけ上のHLBであり、前記油の極性は、極性がそれぞれ異なる2種以上の混合油の見かけ上の極性であることとすれば、HLBや極性のより細やかな調整が可能となり、供給可能深さと供給目標深さとをより堅実に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】浸透深さ確認試験(1)の結果を示す説明図である。
図2】浸透深さ確認試験(1)の結果を示す説明図である。
図3】浸透深さ確認試験(2)の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、乳化構造体内に保持された所定の供給成分の皮膚中での浸透深さの調整方法を提供するものである。ここで乳化構造体は、換言するならば両親媒性分子の会合構造を備えた構造体(会合構造体)であると言える。本実施形態に係る発明において浸透深さの調整対象となる供給成分は、本実施形態に係る外用組成物を例にすれば、同組成物中に含まれる両親媒性分子により構成された会合構造体の内部に保持される。
【0019】
またここで会合構造体は、皮膚中へ供給すべき所定の供給成分を含むものであり、特徴的には、両親媒性分子の会合構造を備え、その会合構造内部に供給成分が保持された構造を有している。
【0020】
ここで両親媒性分子は特に限定されるものではなく、例えば、分子内に親水部と疎水部(親油部)とを備える界面活性効果を備えた分子であり、好ましくは、広く界面活性剤として用いられている両親媒性成分を利用することができる。
【0021】
このような両親媒性成分としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤や、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、物アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸石鹸等の陰イオン系界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤、塩化ベンザルコニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等の陽イオン系界面活性剤などを用いることができる。
【0022】
また付言すれば、界面活性剤はエステル型、エーテル型、エステル・エーテル型の界面活性剤を使用することができる。中でも、エーテル型の場合、ポリオキシエチレン(またはPOE)アルキルエーテルや、ポリオキシエチレン(またはPOE)アルキルフェニルエーテル、その他のエーテル型を使用することができる。
【0023】
会合構造体が備える両親媒性分子の会合構造は、上述の如き両親媒性分子が複数分子集合することで形成される構造であり、例えば、O/W(W/O)エマルションやベシクル、逆ベシクル、バイレイヤーシート、ラメラ液晶の如き両親媒性分子の会合構造と介することができる。
【0024】
また、会合構造体が備える会合構造は、親水部会合構造に限られるものではなく、疎水部会合構造であっても良い。
【0025】
親水部会合構造にて外側へ向けて配向された疎水部と親和する油や、疎水部(親油部)会合構造内に収容される油は特に限定されるものではなく、例えば大豆油、ヒマシ油、オリーブ油、サフラワー油、ホホバ油等の植物油や、牛脂や魚油等の動物油のような生物由来の油のほか、流動パラフィンやスクワラン等の炭化水素、リノール酸やリノレン酸等の脂肪酸類、ヘキサンやトルエン等の有機溶媒、シリコーン油やフッ素系油等の合成油、鉱物系油剤等を使用することができる。特に、両親媒性分子としてグリセリン脂肪酸エステル系の界面活性剤を用いる場合には、植物油や脂肪酸類の油等を使用するのが好ましいが、他の油や両親媒性分子を併用することで流動パラフィンやスクワランを用いることもできる。
【0026】
供給成分は、会合構造内に保持される。一般に、親水部会合構造であれば親水傾向の強い物質が会合構造内に保持され、疎水部会合構造であれば親水傾向の弱い(疎水傾向の強い)物質が会合構造内に保持されることとなるが、親水寄りや疎水寄りの物質であっても、逆の会合構造内に保持される場合もあり得る。
【0027】
供給成分は、皮膚や体内のより深い位置にまで浸透させつつ供給して機能を発揮させることを目的とする成分であれば特に限定されるものではない。薬の有効成分であったり、化粧料や食品、サプリメントなどの有効成分や機能成分となる成分を利用することができる。なお、本明細書における外用組成物は、薬であっても良いし、化粧料であっても良いが、更に、いずれにも該当しないものについても、通常の使用態様として外用されるものであれば特に除外されない。但し、出願人が本願を権利化するにあたり、外用組成物を所定の物に限定することも妨げない。
【0028】
供給成分の浸透対象となる皮膚は、ヒトの皮膚であっても良いし、非ヒト動物の皮膚であっても良く、更には、細胞培養によって得られた皮膚や所定の樹脂等によって模造された皮膚であっても良い。但し、出願人が本願の権利化にあたり、いずれかに限定することも妨げない。
【0029】
そして、本発明に係る供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法の特徴として、両親媒性分子のHLB又は前記会合構造を構成する両親媒性分子群の疎水部配向側に存する油の極性を調整して前記浸透深さを調整することが挙げられる。
【0030】
付言すれば、本実施形態に係る調整方法によれば、両親媒性分子の会合構造を備えた会合構造体を含む外用組成物における前記会合構造内に保持された所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、前記両親媒性分子のHLB又は前記会合構造を構成する両親媒性分子群の疎水部配向側に存する油の極性を調整して前記浸透深さを調整することで、供給成分の皮膚中における到達深さを変化させるようにしている。
【0031】
また、本実施形態に係る外用組成物によれば、両親媒性分子の会合構造を備えた会合構造体における前記会合構造内に保持された所定の供給成分の皮膚における供給可能深さと、前記供給成分に設定された皮膚における所定の供給目標深さとを略一致してなる前記供給成分の浸透深さが調整された外用組成物であって、前記供給可能深さは、前記両親媒性分子のHLB又は前記会合構造を構成する両親媒性分子群の疎水部配向側に存する油の極性に応じた深さであることとすることで、所定の供給成分を所望する深さにまで至らせることのできる外用組成物を実現している。
【0032】
両親媒性分子のHLBの調整に関し、ここでHLBとは、水や油への界面活性剤の親和性の程度を表す値であり、親水親油バランス(Hydrophilic-Lipophilic Balance)を意味している。なお、本明細書においてHLBは、グリフィンの式より算出した値をいう。
【0033】
選択される両親媒性分子のHLBの値の範囲は特に限定されるものではないが、前述した減水化物の油中分散構造を構築する際の値としては、例えば大凡0~8の範囲とすることができる。
【0034】
また、会合構造は1種の両親媒性分子にて構築しても良いが、2種以上を用いて構築することも可能である。複数の両親媒性分子を使用する場合は、各両親媒性分子が有するHLBやその使用比率から混合状態におけるHLBを算出し、これを目安として使用することができる。複数の両親媒性分子を用いれば、1種の両親媒性分子を使用する場合と比較して、HLBの細かな調整を行いやすいというメリットがある。例えば、減水化物の油中分散構造を構築すべく、見かけ上のHLB値が8以下の会合構造とする場合、HLB値が8以下の単一の両親媒性分子、より具体的には疎水性のノニオン界面活性剤等によって構築することも可能であるが、HLB値が8以上の両親媒性分子、一例として親水性のノニオン界面活性剤を使用しつつ、別の両親媒性分子によって見かけ上のHLB値を8以下とすることも可能である。
【0035】
また、会合構造を構成する両親媒性分子群の疎水部配向側に存する油の極性を調整することで、肌への浸透度合いを調整することも可能である。この油の極性の調整も先述の両親媒性分子と同様に、様々な極性の油の中から所定の極性を有する1種の油を選択することで調整してもよく、また、2種以上を用いて調整することも可能である。2種以上の油を使用すれば、混合油としての見かけ上の極性の度合いを容易に調整することができ、これにより浸透深さの微調整を図ることが可能となる。
【0036】
以下、本実施形態に係る浸透深さの調整方法や外用組成物について、試験結果等を参照しながら説明する。
【0037】
〔1.浸透深さ確認試験(1)〕
(1-1.外用組成物の調製)
まず、試験に供すべく、本実施形態に係る外用組成物を使用する油の違いや両親媒性分子の違いにより4種調製した。
200mlのビーカーに0.2gのニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)と、99.8gの精製水とを混合し、スターラーにより撹拌することで0.2wt%のNMN水溶液の調製を行った。
【0038】
次に得られたNMN水溶液100gに対して90gのオリーブ油又はオレンジラフィー油と10gの両親媒性分子を加え、ホモジナイザーにて十分に乳化を行い200gのNMN乳化液を得た。ここで両親媒性分子は、単剤でHLBが3.2のものと、配合により見かけ上のHLBを3.96としたものの2種を使用した。配合による見かけ上の3.96のHLBは、HLBが3.2である4重量部の両親媒性分子と、HLBが7.0である1重量部の両親媒性分子との混合により実現されたものである。以下、油としてオリーブ油を使用し両親媒性分子に単剤でHLBが3.2のものを使用して調製したNMN乳化液を「外用組成物Q1」と称し、同様にオリーブ油と両親媒性分子の配合により見かけ上のHLBを3.96としたものを使用して調製したNMN乳化液を「外用組成物Q2」と称し、油としてオレンジラフィー油を使用し両親媒性分子に単剤でHLBが3.2のものを使用して調製したNMN乳化液を「外用組成物Q3」と称し、オレンジラフィー油と両親媒性分子の配合により見かけ上のHLBを3.96としたものを使用して調製したNMN乳化液を「外用組成物Q4」と称する。
【0039】
(1-2.角層テープストリッピング法による経皮浸透深度定量試験)
上述の如く製造した外用組成物Q1~Q4について、両親媒性分子のHLBの違いや油の極性の違いによる供給成分のヒト皮膚における浸透深さを確認するため、外用組成物Q1~Q4をそれぞれヒト皮膚へ塗布し、角層テープストリッピング法により採取した角層より供給成分の定量試験を行った。
【0040】
具体的には、前腕内側部分2cm×2cmの領域に100μLの外用組成物Q1~Q4をそれぞれ塗布し、1時間後に塗布した部分を清拭した後、角層チェッカー(株式会社日本アッシュ)を用いて20回テープストリッピングすることにより角層を剥離、採取した。
【0041】
得られた角質チェッカーは1~10回目までを表皮に近い(浅い)角層表面として、11~20回目までを表皮から遠い(深い)角層深部として各々を1つにまとめた。角層が付着した角質チェッカーは、メタノールを用いて供給成分を抽出し、乾固した後、分析用試料としてメタノールへ再溶解した。
【0042】
分析はODSカラムを使用した高速液体クロマトグラフィーにより、溶離液に0.1%トリフルオロ酢酸水溶液とメタノールを使用したグラジエント法で、波長254 nmの吸光度を測定した。予め濃度既知である供給成分の測定を行い、得られた検量線から供給成分の角層内への浸透量を算出した。
【0043】
図1は角層全体でのNMN(供給成分)の検出量を示すグラフであり、図2は角層浅部及び深部におけるNMNの検出量を示すグラフである。
【0044】
図1に示すように、まず外用組成物Q1と外用組成物Q2とを比較検討すると、HLB値を大きくする程単位時間あたりの浸透量を多くなっており、単位時間あたりの浸透深さも大きくなることが予想された。またその逆に、HLB値を小さくする程単位時間あたりの浸透量が小さくなることから、単位時間あたりの深さも小さくすることが可能であることが予想された。これらのことから、HLB値の調整により、浸透深さの調整を行うことができることが示された。
【0045】
また外用組成物Q1と外用組成物Q3とを比較検討すると、極性を高くする程単位時間あたりの浸透量を多くなっており、単位時間あたりの浸透深さも大きくなることが予想された。またその逆に、極性を低くする程単位時間あたりの浸透量が小さくなることから、単位時間あたりの深さも小さくすることが可能であることが予想された。これらのことから、極性の調整により、浸透深さの調整を行うことができることが示された。
【0046】
また、外用組成物Q1~外用組成物Q4を全体的に比較すると、HLB値と極性との両方に関し、HLB値を大きくし、極性を高くするよう調整を行うことで、外用組成物Q4の結果に示されるように、単位時間あたりの浸透量を多くなっており、単位時間あたりの浸透深さも大きくなることが予想された。
【0047】
また図2に示すように深さの違いに着目しつつ検討すると、角層浅部では、角層全体での結果と同様に、外用組成物Q1と外用組成物Q2とを比較検討すると、HLB値を大きくする程単位時間あたりの浸透量を多くなっており、単位時間あたりの浸透深さも大きくなることが予想された。またその逆に、HLB値を小さくする程単位時間あたりの浸透量が小さくなることから、単位時間あたりの深さも小さくすることが可能であることが予想された。これらのことから、HLB値の調整により、浸透深さの調整を行うことができることが示された。
【0048】
また極性についても同様であり、外用組成物Q1と外用組成物Q3とを比較検討すると、極性を高くする程単位時間あたりの浸透量を多くなっており、単位時間あたりの浸透深さも大きくなることが予想された。またその逆に、極性を低くする程単位時間あたりの浸透量が小さくなることから、単位時間あたりの深さも小さくすることが可能であることが予想された。これらのことから、極性の調整により、浸透深さの調整を行うことができることが示された。
【0049】
しかし、外用組成物Q1~外用組成物Q4を全体的に比較すると分かるように、外用組成物Q2や外用組成物Q3と外用組成物Q4とでは、あまり顕著な違いは見られなかった。
【0050】
この点、図2(b)に示す角層深部に着目すると、外用組成物Q4は外用組成物Q2や外用組成物Q3と比較して、より多くのNMNが到達していることが示された。
【0051】
このことから、HLB値と極性との両方を大きくするよう調整を行うことで、単位時間あたりの浸透深さをより深い位置に調整できることが示された。
【0052】
〔2.浸透深さ確認試験(2)〕
次に、先述の〔1.浸透深さ確認試験(1)〕で行った試験よりも更に深い位置への皮膚浸透を確認するため、ヒトの角層に類似した構造を有するブタを用いた皮膚浸透部位の検証を行った。
【0053】
被検体はメスのSPFブタを用い、検体塗布前に耳後部の毛を実験用カミソリでそり落とし、2cm×2cmを被験部位とした。
【0054】
被験部位には先述の(1-1.外用組成物の調製)にて調製した外用組成物Q1又は外用組成物Q2と同様の調製法に従い、供給成分を加水分解ヒアルロン酸とした外用組成物Q5又は外用組成物Q6を100μL塗布した。
【0055】
塗布8時間後に、バイオプシー針により生検を回収し不要な脂肪組織などを除去しトリミングを行った。そして、パラフィン包埋を行った後、ミクロトームで組織切片を作製した。得られた組織切片はヘマトキシン・エオジン(HE)染色した。一連の操作は全て公知の方法により実施した。その結果を図3に示す。
【0056】
図3(a)は本実施形態に係る外用組成物を塗布していないサンプルにおける検鏡像であり、図3(b)は外用組成物Q5を塗布したサンプルにおける検鏡像、図3(c)は外用組成物Q6を塗布したサンプルにおける検鏡像を示している。図3(a)及び図3(b)から分かるように、HLB値が相対的に小さい外用組成物Q5は塗布後において供給成分である加水分解ヒアルロン酸が図3(b)中において破線で示すように表層部分近傍に多く存在することが示された。
【0057】
一方、図3(b)と図3(c)から分かるように、HLB値が相対的に大きい外用組成物Q6は加水分解ヒアルロン酸が深部まで拡散し、図3(c)中において破線で示すようにやや色合いが濃く加水分解ヒアルロン酸の存在が認められる箇所があるものの全体的に図3(a)に近い状態となっていることが示された。
【0058】
これらのことから、HLB値の調整により、所定時間あたりの浸透深さの調整を行うことができることが示された。
【0059】
なお、本実施例において図3(c)における加水分解ヒアルロン酸の存在がやや判別しにくいのはHE染色に由来するものであり、例えばトルイジンブルー(TB)染色により供給成分の分布をより鮮明に識別することも可能である。
【0060】
また、蛍光標識化されたヒアルロン酸を用いて検証を行ったところ、同様の結果が得られている。
【0061】
上述してきたように、本実施形態に係る調整方法によれば、乳化構造体内に保持させた所定の供給成分の皮膚における浸透深さの調整方法であって、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性を調整して前記浸透深さを調整することとしたため、供給成分の皮膚中における到達深さを変化させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る外用組成物によれば、乳化構造体内に保持された所定の供給成分の皮膚における供給可能深さと、前記供給成分に設定された皮膚における所定の供給目標深さとを略一致してなる前記供給成分の浸透深さが調整された外用組成物であって、前記供給可能深さは、前記乳化構造体を構成する両親媒性分子のHLB又は前記乳化構造体の分散媒である油の極性に応じた深さであることとしたため、所定の供給成分を所望する深さにまで至らせることのできる外用組成物を提供することができる。
【0063】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1
図2
図3