(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140624
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、3Dプリンタ用フィラメントおよび3Dプリント造形物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20230928BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230928BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230928BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20230928BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230928BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20230928BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230928BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y70/00
B29C64/118
C08L23/10
C08L23/08
C08L23/14
C08K7/06
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046551
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸子 千明
(72)【発明者】
【氏名】塩出 浩久
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 翼
(72)【発明者】
【氏名】岩田 利生
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和俊
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA04E
4F213AA09
4F213AA11
4F213AA11E
4F213AA11J
4F213AB25
4F213AC02
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL22
4F213WL96
4J002BB052
4J002BB121
4J002BB142
4J002BB151
4J002BB152
4J002BB171
4J002BB191
4J002BB211
4J002BP022
4J002DA016
4J002FA046
4J002FB266
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】フィラメントの巻き性等の成形性を損なうことのない、また、力学的強度に優れた造形物の製造が可能であり、3Dプリンタによる造形物の造形性も損なうことのない、炭素繊維含有量が高い3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】炭素繊維を15~45質量%、および樹脂成分を55~85質量%含み、前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを含み、前記樹脂成分中のポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとの合計の含有量が、80~100質量%の範囲であり、前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを、質量比50/50~90/10の比率で含む、3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を15~45質量%、および樹脂成分を55~85質量%含む3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物であって、
前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを含み、
前記樹脂成分中のポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとの合計の含有量が、80~100質量%の範囲であり、
前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを、質量比50/50~90/10の比率で含む、
3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレンが、ホモポリプロピレンおよびランダムポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記オレフィン系エラストマーが、エチレン系エラストマーまたはプロピレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1または2に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレンの一部または全部が、無水カルボン酸で変性されたポリプロピレンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物を含む、3Dプリンタ用フィラメント。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、または請求項5に記載の3Dプリンタ用フィラメントから製造される、3Dプリント造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、3Dプリンタ用フィラメントおよび3Dプリント造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる材料や成形品に対して、強度や剛性、耐衝撃性、耐熱性等の機械特性を向上させる目的で、該熱可塑性樹脂に各種強化繊維を分散させた繊維強化樹脂組成物を用いる方法は、一般に知られており、様々な用途に用いられている。中でも、炭素繊維強化樹脂組成物は、低比重であるにもかかわらず優れた強度、剛性等の機械特性を発現することが評価され、工業的に重要な材料として注目されている。
【0003】
前記熱可塑性樹脂の成形方法の一つとして、複雑な形状の造形が可能な3Dプリンタが用いた熱溶解積層法が知られている。該熱溶解積層法に用いられる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリ乳酸(PLA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ナイロン、ポリプロピレンが用いられる。中でも、ポリプロピレンは、価格、加工性能、耐熱性能、安全性等の多角的な面で工業的に有用であるため、3Dプリンタ用材料としての利用のため研究が進められている。
【0004】
一方で、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた材料は、力学性能が悪く、収縮率が大きく、特に複雑な形状の造形が要求される3Dプリント時に、厳重な歪み変形が発生しやすく、製品寸法精度が低いなどの欠陥がある。そのため、3Dプリンタに用いうる炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物の要望がある。例えば、ポリプロピレンと炭素繊維とを含む、3Dプリントに用いる炭素繊維強化ポリプロピレン複合材料が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第109679207号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強度、剛性等の機械特性を向上させるためには、炭素繊維が熱可塑性樹脂に対して比較的多く含まれることが好ましいものの、特許文献1では炭素繊維の含有量が多いポリプロピレン組成物(例えば、炭素繊維含有量15wt%)を用いると、力学的強度には優れるが、得られるフィラメントがコイルに巻くには堅い、3Dプリント物は欠陥がある等の不具合が生じることが報告されている。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、フィラメントの巻き性等の成形性を損なうことのない、また、力学的強度に優れた造形物の製造が可能であり、3Dプリンタによる造形物の造形性も損なうことのない、炭素繊維含有量が高い3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討を行った結果、炭素繊維を比較的高い含有量で用いる場合に、所定量のポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを含む特定の樹脂成分を使用することで、前記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の事項を含む。
[1] 炭素繊維を15~45質量%、および樹脂成分を55~85質量%含む3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物であって、
前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを含み、
前記樹脂成分中のポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとの合計の含有量が、80~100質量%の範囲であり、
前記樹脂成分中に、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを、質量比50/50~90/10の比率で含む、
3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
[2] 前記ポリプロピレンが、ホモポリプロピレンおよびランダムポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[1]に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
[3] 前記オレフィン系エラストマーが、エチレン系エラストマーまたはプロピレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]または[2]に記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
[4] 前記ポリプロピレンの一部または全部が、無水カルボン酸で変性されたポリプロピレンである、[1]~[3]のいずれかに記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物を含む、3Dプリンタ用フィラメント。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、または[5]に記載の3Dプリンタ用フィラメントから製造される、3Dプリント造形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物を用いることで、炭素繊維の含有量が前記樹脂成分に対して比較的高いものの、前記プロピレン樹脂組成物を含む3Dプリンタ用フィラメントを、スプール巻き性等の物性を損なうことなく作製できる。さらに、前記プロピレン樹脂組成物またはフィラメントを含む3Dプリント造形物は、その成形性に優れ、また、炭素繊維の含有量の多さから成形後の力学的強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物]
本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物には、炭素繊維、およびポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとを有する樹脂成分が含まれる。
【0012】
<炭素繊維>
本発明に用いる炭素繊維としては、公知の種々の炭素繊維を使用することができる。具体例としては、ポリアクリルニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、リサイクル材を含んでも構わない。
【0013】
前記炭素繊維の繊維径は、好ましくは3~30μm、より好ましくは4~10μmである。繊維径の上記範囲の下限値は、繊維の破損防止や繊維束の生産性の点で意義がある。例えば、ペレットを連続製造する場合は、繊維径を適度に太くすれば束ねる繊維の本数が多くならず、繊維束をつなぐ煩雑な手間が不要となり、生産性が向上する。一方、上記範囲の上限値は、ペレット長が決まっている場合に繊維のアスペクト比の低下を抑えて、補強効果を維持する点で意義がある。
【0014】
前記炭素繊維のアスペクト比は、好ましくは5~500である。この下限値は強度低下を抑制する点で意義があり、上限値は成形性の点で意義がある。炭素繊維のアスペクト比は、平均繊維径と平均繊維長から、(平均繊維長)÷(平均繊維径)の式によって求められる。
【0015】
前記炭素繊維の繊維密度は、好ましくは1.00~10g/cm3、より好ましくは1.50~5.0g/cm3である。また、繊維1kmあたりのグラム数であるTEX数は、好ましくは300~3000g/1000m、より好ましくは500~2000g/1000mである。これらの値が上記範囲内であると、低比重であるにもかかわらず優れた強度、剛性等の機械特性を発現するという、上述したような炭素繊維特有の効果を奏する傾向にある。
【0016】
前記炭素繊維は、機械的強度を高める観点から、引張強度が好ましくは2500~6000MPa、より好ましくは3500~6000MPa、特に好ましくは4000~6000MPaである。
【0017】
また、前記炭素繊維は長繊維でもよく、短繊維でもよく、チョップドファイバーであってもよい。長繊維の原料としては、連続状繊維束が使用でき、これはトウとして市販されている。通常、その平均繊維径は3~30μm、フィラメント集束本数は500~80,000本である。好ましくは、平均繊維径は4~10μm、集束本数は12,000~50,000本である。チョップドストランドの長さは通常1~20mm、繊維の径は通常3~30μm、好ましくは4~10μmである。
【0018】
また、前記炭素繊維は、集束剤(サイジング剤)を用いて束ねられた炭素繊維束であることが好ましい。具体的には、多数本の炭素繊維を集束剤で一体に束ねられた状態で使用することが好ましい。炭素繊維束を構成する集束剤は、機械的強度を高める観点から、ウレタン系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン、ナイロン系エマルジョンが好ましい。より好ましくはウレタン系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン等のエマルジョン系接着剤であり、特に機械的強度をより向上させる観点から、エポキシ系エマルジョンが最も好ましい。炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数は特に制限されるものではないが、例えば6000~48000本にすることができる。
【0019】
前記炭素繊維の表面は、酸化エッチングや被覆等で表面処理を行ったものが好ましい。酸化エッチング処理としては、例えば、空気酸化処理、酸素処理、酸化性ガスによる処理、オゾンによる処理、コロナ処理、火炎処理、(大気圧)プラズマ処理、酸化性液体(硝酸、次亜塩素酸アルカリ金属塩の水溶液、重クロム酸カリウム-硫酸、過マンガン酸カリウム-硫酸)が挙げられる。炭素繊維を被覆する物質としては、例えば、炭素、炭化珪素、二酸化珪素、珪素、プラズマモノマー、フェロセン、三塩化鉄等が挙げられる。また、要に応じてウレタン系、オレフィン系、アクリル系、ナイロン系、ブタジエン系及びエポキシ系等の収束剤を使用しても良い。
【0020】
本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物は、前記炭素繊維を15~45質量%、および樹脂成分を55~85質量%含む。好ましくは、前記炭素繊維を17~40質量%、および樹脂成分を60~83質量%含み、さらに好ましくは、前記炭素繊維を19~35質量%、および樹脂成分を65~81質量%含む。前記範囲で炭素繊維および樹脂成分を含むことで、十分な巻き性を有したフィラメントを作製でき、力学的強度に優れた造形物を、その造形性を損なわず作製することが可能である。
【0021】
前記範囲の炭素繊維含有量は、従来の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物に比べ、樹脂成分に対する割合が高い。上述した通り、単に炭素繊維の含有量が多いだけでは、造形物の力学的強度の向上は期待できるが、前段階の材料であるフィラメントの物性や、造形時に不具合が生じるなど課題を残しており、前記範囲の炭素繊維含有量では、従来技術においてその課題の解決には至っていない。本発明では、特定の樹脂成分を用いることで、前記課題を克服している。以下、前記樹脂成分について詳しく説明する。
【0022】
<樹脂成分>
本発明に用いられる樹脂成分は、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーを所定の割合で含むことを特徴とする。
【0023】
前記樹脂成分中の、前記ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとの合計の含有量は、80~100質量%の範囲であり、好ましくは85~100質量%、より好ましくは90~100質量%、さらに好ましくは94~100質量%である。
また、前記ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとの質量比は、50/50~90/10の比率であり、好ましくは60/40~90/10、より好ましくは70/30~87/13、さらに好ましくは75/25~85/15である。前記ポリプロピレンとオレフィン系エラストマーとが前記範囲で樹脂成分に含まれると、上述した効果を奏する。
【0024】
〔ポリプロピレン〕
前記ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、およびプロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。好ましい態様としては、ホモポリプロピレンを少なくとも一種含む態様であり、さらに好ましい態様としては、ホモポリプロピレンのみを少なくとも一種含む態様、またはホモポリプロピレンを少なくとも一種含み、ランダムポリプロピレンを少なくとも一種含む態様である。
【0025】
前記プロピレンと共重合させるα-オレフィンとしては、炭素原子数2または炭素原子数4~20のα-オレフィンであることが好ましい。炭素原子数2または炭素原子数4~20のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。前記α-オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0026】
前記ポリプロピレンとして、プロピレンと炭素原子数2または炭素原子数4~20のα-オレフィンとのランダムポリプロピレンを用いる場合、前記ポリプロピレンは、プロピレンから導かれる構成単位を70モル%以上99モル%以下、好ましくは80モル%以上99モル%以下、さらに好ましくは90モル%以上99モル%以下含有し、α-オレフィンから導かれる構造単位をモル%以上30モル%以下、好ましくは1モル%以上20モル%以下、さらに好ましくは1モル%以上10モル%以下含有する(但し、プロピレンから導かれる構成単位とα-オレフィンから導かれる構成単位との合計は100モル%である。)。ここで、「プロピレンから導かれる構成単位」とは、具体的には-CH2-CH(-CH3)-で表される構成単位である。
【0027】
前記ポリプロピレンは、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)で測定される融点(Tm)が、好ましくは130
℃以上、より好ましくは140℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下である。なお、前記ポリプロピレンの融点(Tm)は、JIS K7121に準拠して下記の方法により測定される値である。
【0028】
約5mgのポリプロピレンを、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計(DSC220C型)の測定用アルミニウムパン中に室温で密封し、室温から10℃/分の速度で260℃まで加熱する。ポリプロピレンを完全融解させるために、260℃で5分間保持し、次いで、10℃/分の速度で-50℃まで冷却する。この冷却過程でピークが観測される温度を結晶化温度(Tc)とする。-50℃で5分間保持した後、10℃/分の速度で260℃まで2度目の加熱を行ない、この2度目の加熱でピークが観測される温度を重合体の融点(Tm)とする。なお、複数のピークが検出される場合には、最も高温側で検出されるピークを採用する。
【0029】
前記ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して230℃、2.16kg荷重の条件で測定され、好ましくは0.1g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上、さらに好ましくは1.5g/10min以上、好ましくは500g/10min以下、より好ましくは400g/10min以下、さらに好ましくは300g/10min以下である。MFRが下限値より小さいと、成形時の樹脂流動性が悪く、炭素繊維細部まで樹脂が含浸されない可能性がある。また、MFRが上限値より大きいと、成形品に十分な機械強度が発現しない場合がある。
【0030】
前記ポリプロピレンは、JIS K7161に準拠し測定した引張弾性率が、好ましくは200MPa以上5,000MPa以下の範囲にある。この引張弾性率は、より好ましくは300MPa以上3,000MPa以下の範囲にあり、さらに好ましくは500MPa以上2,000MPa以下の範囲にある。また、JIS K7161に準拠し測定した引張破壊応力が、好ましくは10MPa以上50MPa以下の範囲にある。引張弾性率および引張破壊応力が、上記範囲にあることで、フィラメントの物性や、造形時のバランスに優れる。
【0031】
本発明において、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン又はブロックポリプロピレンは、公知のオレフィン重合用触媒の存在下に、共重合を行って調製することができる。オレフィン重合用触媒としては、具体的には、例えば、固体状チタン触媒成分と有機金属化合物触媒成分とを含む所謂チーグラーナッタ触媒や、メタロセン触媒を用いることができる。
【0032】
また、前記ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン又はブロックポリプロピレンは、市販品の使用も可能であり、例えば、プライムポリマー社製のJ13B、J105G、J106G、J106MG、J107G、J137G、J108M、F113G、F-300SP、F-704NP等のホモポリプロピレン、プライムポリマー社製のJ-2021GRP、J-3021GRP、F-724NPC、F-730NV、F-744NO、F227D、F219DA、F329RA等のランダムポリプロピレン、プライムポリマー社製のJ704UG、J705UG、J715M、J707G、J707EG、J708UG、J709QG、J739E、J-452HP、J466HP、J762HP、J-750HP、J-3051HP等のブロックポリプロピレンが挙げられる。前記ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン又はブロックポリプロピレンは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0033】
ここで本発明において、前記ポリプロピレンとして、その一部または全部が、無水カルボン酸で変性されているポリプロピレンを用いることが好ましい。より好ましくは、一部が無水カルボン酸で変性されているポリプロピレンである。前記無水カルボン酸変性ポリプロピレンが樹脂成分に含まれることで、前記成分と炭素繊維との界面接着性を向上させ、得られる造形物の強度向上に寄与する。
【0034】
前記無水カルボン酸変性ポリプロピレンは、前記ポリプロピレンを、無水カルボン酸から選ばれる少なくとも一種で変性して得られる。変性するポリプロピレンは、1種または2種以上用いることができる。
【0035】
前記無水カルボン酸の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6 -ジカルボン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。これらの中でも、無水マレイン酸、無水イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸がより好ましく、無水マレイン酸がさらに好ましい。前記無水カルボン酸は、1種または2種以上用いることができる。
【0036】
上記変性の方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ポリプロピレンに無水カルボン酸をグラフトさせる方法が挙げられる。具体的には、グラフト主鎖となるポリプロピレンに、ラジカル重合開始剤の存在下、無水カルボン酸をグラフトさせる。
【0037】
グラフト方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、溶液法、溶融混練法が挙げられる。例えば、ポリプロピレンを溶媒に懸濁させ、あるいは溶解させて、通常、80~200℃の温度で、無水カルボン酸およびラジカル重合開始剤を添加混合してグラフト重合させる方法;ポリプロピレンの融点以上、例えば、180~300℃の温度で溶融混練下に無水カルボン酸およびラジカル重合開始剤を接触させる方法が挙げられる。
【0038】
溶液法で用いられる上記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;トリクロロエチレン、パークロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素系溶媒; エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒が挙げられる。溶媒は1種または2種以上用いることができる。
【0039】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシフェニルアセテート、t-ブチルパーオキシ-s-オクテート、t-ブチルパーオキシピバレート、クミルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシエチルアセテートが挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、アゾイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートが挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種または2種以上用いることができる。
【0040】
無水カルボン酸変性ポリプロピレンは、例えば、オレフィンと無水カルボン酸とを共重合することによっても得ることができる。オレフィンとしては、上述のポリプロピレンを形成する場合のオレフィンを用いることができる。上記共重合の方法としては、例えば、従来公知のラジカル共重合法を用いることができる。
【0041】
無水カルボン酸変性ポリプロピレン中の無水カルボン酸由来の構造の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下である。上記含有量は、例えばマレイン酸変性ポリプロピレンである場合は、当該樹脂の赤外吸収(IR)スペクトルを測定し、1670~1810cm-1のピーク面積に基づき別途作成した検量線から決定することができる。マレイン酸以外の無水カルボン酸を用いる場合も、上記含有量は赤外吸収分光法等により決定することができる。
【0042】
無水カルボン酸変性ポリプロピレンのポリプロピレン換算重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のより特定される。Mwは、好ましくは2000以上200,000以下であり、より好ましくは4.000以上180,000以下であり、さらに好ましくは6,000以上160,000以下である。また、Mnは、好ましくは500以上50,000以下であり、より好ましくは1,000以上45,000以下であり、さらに好ましくは1,500以上40,000以下である。また、前記Mw/Mnは、好ましくは1.0~8.0、より好ましくは1.0~5.0である。
【0043】
〔オレフィン系エラストマー〕
本発明に用いられる樹脂成分は、オレフィン系エラストマーを必須成分として含む。本発明で用いられるオレフィン系エラストマーは、構成モノマーとなるオレフィンの種類に特に限定はなく、オレフィン系エラストマーとして一般に用いられているものであってもよい。
【0044】
前記オレフィン系エラストマーは、エチレン系エラストマー、およびプロピレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの中でも、オレフィン系エラストマーとしてプロピレン系エラストマーを少なくとも一種含むことは、好ましい一態様である。
【0045】
本発明において、オレフィン系エラストマーとして用いうる例示的なオレフィン系エラストマーの第1の態様は、エチレンおよびプロピレンからなる群から選ばれる1つ以上と、それ以外のオレフィンとの共重合体である。なお、本発明において、エチレンを選択した共重合体をエチレン系エラストマー、プロピレンを選択した共重合体をプロピレン系エラストマーという。
【0046】
本発明の1つの例示的な態様において、オレフィン系エラストマーは、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選ばれる1つからなる第1の共重合体部分と、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン、ポリイソブチレン、及びα-オレフィンからなる群より選ばれる1つからなる第2の共重合体部分との共重合体である。
【0047】
このような共重合体の例として、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選ばれる1つからなる第1の共重合体部分と、ポリα-オレフィンからなる第2の共重合体部分との共重合体が挙げられる。前記第1の共重合体部分と前記第2の共重合体部分との共重合の形態は、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよい。
【0048】
また、本発明のもう1つの例示的な態様において、オレフィン系エラストマーは、エチレンおよびプロピレンからなる群より選ばれる1つ以上と、α-オレフィン(ただし、エチレンおよびプロピレンを除く。)とからなるランダム共重合体が挙げられる。
前記α-オレフィンとは、分子鎖の片末端に二重結合を有するオレフィンのことであり、その好適な例として、1-ブテンおよび1-オクテンなどが挙げられる。
【0049】
例えば硬質部となるポリプロピレン等の結晶性の高いポリマーを形成するポリオレフィンブロックと、軟質部となる非晶性を示すモノマー共重合体とのブロック共重合体が挙げられ、具体的には、オレフィン(結晶性)・エチレン・ブチレン・オレフィンブロック共重合体、ポリプロピレン・ポリオレフィン(非晶性)・ポリプロピレンブロック共重合体等を例示することができる。具体例としては、JSR株式会社製の商品名「DYNARON(ダイナロン)(登録商標)」、三井化学株式会社製の商品名「タフマー(登録商標)」、「ノティオ(登録商標)」、ダウケミカル株式会社製の商品名「ENGAGETM」、「VERSIFYTM」、エクソンモービルケミカル株式会社製の商品名「VistamaxxTM」として市販されているものが挙げられる。
【0050】
本発明においてオレフィン系エラストマーとして用いうるオレフィン系エラストマーの第2の態様は、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選ばれる1つと、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、水素添加スチレンブタジエンからなる群より選ばれる1つとのブレンド物である。このとき、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体は、部分的もしくは完全に架橋されていてもよい。
【0051】
具体例としては、三井化学製から商品名「ミラストマー(登録商標)」、住友化学製から商品名「エスポレックス(登録商標)」、三菱化学製から商品名「サーモラン(登録商標)」、「ゼラス(登録商標)」、エクソンモービルケミカル株式会社から商品名「Santoplene(登録商標)」などが挙げられる。
【0052】
また、本発明においてオレフィン系エラストマーは、未変性のオレフィン系エラストマーであってもよく、あるいは、オレフィン系エラストマーを酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基で変性されてなる変性オレフィン系エラストマーあってもよい。
【0053】
前記オレフィン系エラストマーは、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)が観察されないか、50~162℃の範囲にある。この要件を満たすことで、加熱時の変形を抑えることができる。ここで、オレフィン系エラストマーについて「融点(Tm)が観測されない」とは、示差走査熱量(DSC)で測定される融解熱量(ΔH)(単位:J/g)が実質的に計測されないことをいう。融解熱量(ΔH)が実質的に計測されないとは、示差走査熱量計(DSC)測定においてピークが観測されないか、あるいは観測された融解熱量が1J/g以下であることである。オレフィン系エラストマーの融点(Tm)は、JIS K7121に準拠して、上記ポリプロピレンの融点(Tm)の測定と同様の手法により測定される値である。
【0054】
ここで、本発明の1つの好適な態様である、プロピレン系エラストマーを用いた場合、本発明で用いられるオレフィン系エラストマーは、プロピレンから導かれる構成単位を50モル%以上90モル%未満含有していることが好ましい。
また、本発明のもう1つの好適な態様である、エチレン系エラストマーを用いた場合、本発明で用いられるエチレン系エラストマーは、エチレンから導かれる構成単位を50モル%以上90モル%未満含有していることが好ましい。ここで、「エチレンから導かれる構成単位」とは、具体的には-CH2-CH2-で表される構成単位である。
【0055】
前記オレフィン系エラストマーは、ASTM D638に準拠し測定した引張弾性率が、好ましくは1MPa以上500MPa以下の範囲にある。この引張弾性率は、より好ましくは1MPa以上200MPa未満の範囲にあり、さらに好ましくは1MPa以上100MPa以下の範囲にあり、さらに好ましくは1MPa以上50MPa以下の範囲にあり、とりわけ好ましくは1MPa以上40MPa以下の範囲にある。
また、前記オレフィン系エラストマーは、ASTM D638に準拠し測定した引張破壊呼びひずみが、好ましくは1000%を超える。引張弾性率が上記範囲にあることで、得られるフィラメントが適度な柔軟性を備えられる。また、プリンタ出口でのフィラメント折損を抑制することが可能となる。
【0056】
〔ポリアミド〕
また、本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物に含まれる樹脂成分には、ポリプロピレンおよびオレフィン系エラストマーと、炭素繊維との界面接着性を向上させるために、さらにポリアミドが含まれていてもよい。
【0057】
前記ポリアミドとして、例えば、アミノ酸ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸との溶融重縮合反応により得られる溶融成形可能な重合体を使用できる。具体的には、以下のポリアミドが挙げられる。
【0058】
(1)炭素原子数4~12の有機ジカルボン酸と炭素原子数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアジパミド[6,6ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアゼラミド[6,9ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンセバカミド[6,10ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンドデカノアミド[6,12ナイロン]、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとの重縮合物である半芳香族ポリアミド(PA6T、PA9T、PA10T、PA11T)、ビス-p-アミノシクロヘキシルメタンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカン。有機ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、フェニレンジオキシジ酢酸、オキシジ安息香酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が挙げられる。有機ジアミンの具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナンジアミン、オクタンジアミン、デカンジアミン、ウンデカジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミン。
【0059】
(2)ω-アミノ酸の重縮合物、例えばω-アミノウンデカン酸の重縮合物であるポリウンデカンアミド[11ナイロン]。
【0060】
(3)ラクタムの開環重合物、例えばε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド[6ナイロン]、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物ポリラウリックラクタム[12ナイロン]。
【0061】
(4)アジピン酸とイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから製造されるポリアミド。
【0062】
また、上記ポリアミドの市販品の具体例としては、宇部興産製の3012U、3014U、3024U、3024NUX、1013B、1013NW8、1013NW9、1013IU50、1018I、1022B、1030B、NAP1400F等、東レ製のCM1007、CM1017、CM1017XL2、CM1017XL3、CM1017-K、CM1026、CM3007、CM3001-N、CM3006、CM3301L、EMS製のLV-2H、LV-3H、LV-5H、LV-3AH、LKN-5H、LC-3H、L20EC、XE3925等が挙げられる。前記ポリアミドは1種単独で用いてもよいし、また2種以上混合して用いてもよい。
【0063】
前記ポリアミドは溶融時の流動性に優れる性状を備えることが、炭素繊維強化樹脂組成物の成形体の強度の視点から好ましい。前記観点から、ポリアミドのASTM D1238に準拠して190℃、2.16kg荷重の条件で測定され、好ましくは5g/10min以上、より好ましくは10g/10min以上、さらに好ましくは12g/10min以上であり、通常、500g/10min以下である。
【0064】
また、前記樹脂成分にポリアミド含まれる場合、その含有量は、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0065】
<その他の成分>
本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、用途に応じて様々な添加剤、例えば、分散剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤(増核剤等)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤;顔料、染料等の着色剤;カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、アゾ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー等の粒子状充填剤;ワラストナイト等の短繊維状充填剤;チタン酸カリウム等のウィスカー;が添加されていても良い。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0066】
<3Dプリンタ用フィラメント>
本発明の3Dプリンタ用プロピレン系樹脂組成物を含む3Dプリンタ用フィラメントは、樹脂組成物内の高い炭素含有量であっても、押出安定性、寸法安定性、スプール巻き性等の成形性に優れる。
前記3Dプリンタ用フィラメント前記プロピレン系樹脂組成物を溶融紡糸し、さらに延伸することにより製造される。溶融紡糸には、公知の溶融紡糸方法を採用することができる。また、延伸についても同様である。
【0067】
本発明の3Dプリンタ造形用フィラメントの製造方法としては、例えば、前記プロピレン系樹脂組成物を、単軸押出機もしくは二軸押出機のダイス孔より溶融ストランドを押出成形し、冷却水槽に導きストランド得る押出工程と、ストランドを延伸する延伸工程と、延伸したフィラメントを巻き取る巻取工程とを含む方法を挙げることができる。
【0068】
押出は、プロピレン系樹脂組成物の融点(Tm)~融点(Tm)+130℃の範囲の温度で行い、ダイスから吐出された溶融ストランドを水槽中に浸漬させて冷却する。その水温は、目的とするフィラメントの直径にもよるが、好ましくは5~60℃、より好ましくは7~50℃、さらに好ましくは10~40℃の範囲である。水温が高いと、ストランドの冷却不足が生じ、軟らかいまま次の延伸行程へ導入されるため、引取ロール(延伸ロール)での巻き取り不良を引き起こす場合がある。
【0069】
本発明における延伸とは、フィラメントを材料の融点以下の温度で機械的に引き伸ばし、引張方向と平行に分子鎖を配向させる操作をいう。この操作により引張強さは著しく向上し、靱性を増す。延伸工程の後、延伸温度以上に再加熱すると元の寸法に収縮しようとする性質が表れるため、寸法や強度の安定性をはかるために、延伸温度よりやや低い温度で熱処理(熱固定、ヒートセット)を行うことがある。
【0070】
本発明では、押出工程で得られたストランドを、特定の温度に加熱して延伸を行う。延伸は、入口側の引取ロールと出口側の引取ロールとの速度比(延伸倍率)によって行い、このときの延伸倍率は好ましくは2~15倍である。延伸時の加熱方法は、温水槽、オーブン、熱ロール等のいずれを用いてもよく何ら制限はないが、より均一に加熱延伸するには温水槽がより好ましい。
【0071】
温水槽を用いた延伸としては、水温調節可能な長さと深さを有する水槽と、その前後に引取ロールを配置することにより実現可能である。オーブンを用いた延伸としては、電気式ヒーター(赤外線ヒーター)を熱源として引取方向に配置して温度調節を行う長さ数mのオーブンと、その前後に引取ロールを配置することにより実現可能である。また、熱ロールを用いた延伸としては、水配管、油配管、および、内部に配置された電気ヒーターなどにより温度調節された複数の引取ロールを設置し、ロールの回転速度を調節することにより実現可能である。
【0072】
延伸時の温度条件としては、温水槽、オーブン、熱ロール等いずれの装置及び方法を選択してもほぼ同じであり、延伸前のフィラメントの表面温度がオレフィン系エラストマー組成物のガラス転移温度(Tg)~融点(Tm)の範囲が好ましく、Tg~Tm-30℃の範囲がより好ましく、Tg~Tm-60℃の範囲がさらに好ましい。表面温度がTgに満たない場合は、延伸切れが起こったり、2倍以上の延伸が不可能となったりする場合がある。逆にTmを越える場合は、延伸による強度発現の効果が少なくなる。
【0073】
延伸倍率は、通常2~15倍、好ましくは3~12倍、より好ましくは4~10倍である。延伸倍率が2倍に満たない場合は、延伸操作による強度発現が不充分となる場合がある。逆に、15倍を超える延伸倍率では、延伸切れを起こしやすくなったり、ボイドを生じて白化したり、フィラメントが縦割れやすくなるなどのトラブルが発生する場合がある。
【0074】
2~15倍の延伸を行う方法としては、1段で行う方法の他に、これらを適宜組み合わせて、2段、3段~多段の構成とし、各段で小倍率の延伸を行い、全体の延伸倍率を2~15倍とする方法でもよい。
【0075】
多段の延伸を行う場合には、例えば、1段目で1.1~10倍、2段目で1.5~12倍というように、順次延伸倍率を変化させ、全体的な延伸倍率が2~15倍となるようにし、同時に加熱温度条件は上記温度範囲において、1段目を一番低く、段数を増す毎に順次温度を高くする方法が好ましい。
【0076】
本発明では、延伸したフィラメントを更に熱処理(熱固定)し、高温下での物性変化(例えば、収縮)を抑制することができる。オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物のガラス転移温度(Tg)~融点(Tm)の間の温度で熱処理する方法としては、好ましくは20~140℃、より好ましくは30~120℃に設定した加熱槽に導き、熱処理(熱固定)を行った後、冷却槽にて冷却する方法が挙げられる。熱処理には、延伸操作の場合と同様に、水槽、オーブン、熱ロール等いずれの方法を用いてもよく何ら制限はない。また、冷却には、水冷、空冷いずれの方法でも良く、何ら制限はない。
最後に、延伸したフィラメントを巻取機により専用のカートリッジ、ボビン及びコーン
状で巻き取り、フィラメントの巻物を得ることができる。
【0077】
本発明の3Dプリンタ造形用フィラメントの直径は、熱溶解積層方式の設計仕様や造形に使用するシステム能力などにも依るが、通常は1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは1.6mm以上である。一方で上限は4.0mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは3.0mm以下である。
【0078】
本発明の3Dプリンタ造形用フィラメントの真円度は、0.93以上、好ましくは0. 95以上であり、上限は1.0である。なお、本発明における真円度は、後述する実施例に記載の方法により測定されるものである。
上記のような直径および真円度を有するフィラメントは、造形性に優れているため、外観や表面性状等に優れた造形品を安定して製造することができる。
【0079】
<3Dプリント造形物>
本発明の3Dプリント造形物は、本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、または前記プロピレン樹脂組成物を含む3Dプリンタ用フィラメントを用いて、3Dプリンタで造形されたものである。前記樹脂組成物またはフィラメントを用いることにより、造形性を損なうことなく、高強度の造形物を製造することができる。
【0080】
[3Dプリント造形物の製造方法]
本発明の3Dプリント造形物は、3Dプリンタを用いて、熱溶解積層法という公知の方法で造形される。該製造方法は、具体的には、前記樹脂組成物またはフィラメントを溶融する工程と、得られた溶融体を3Dプリント造形物製造装置のノズルから押し出し3Dプリント造形物を造形する工程を有する。
【0081】
(溶融工程)
本発明における溶融工程は、本発明の3Dプリンタ用プロピレン樹脂組成物、または本発明の3Dプリンタ用フィラメントである3Dプリント造形用材料を溶融する。前記3Dプリント造形用材料を溶融する加熱手段は、特に制限されず、公知の加熱手段が適用できる。溶融工程では、例えば電気ヒーター等の加熱手段を備えた3Dプリント造形物製造装置を用いることが好ましい。
【0082】
3Dプリント造形用材料を溶融する温度は、特に制限されず、熱可塑性樹脂の性質に応じて適宜設定すればよい。3Dプリント造形用材料を溶融する温度は、例えば、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度(Tg)のいずれか高い温度を基準として、+10~150℃の温度としてもよい。
【0083】
溶融工程では、例えば、3Dプリント造形用材料を溶融し、かつ混練してもよい。3Dプリント造形用材料が溶融及び混練されたことにより、3Dプリント造形用材料はより均一に混ざる傾向にある。そのため、得られた3Dプリント造形物の材料のムラが生じることが抑制され易い。その結果、3Dプリント造形物の変形がより抑制される傾向にある。
【0084】
(造形工程)
本開示における造形工程は、溶融工程で溶融された3Dプリント造形用材料をノズルから押し出し、3Dプリント造形物を造形する。造形工程では、例えば、溶融された3Dプリント造形用材料を3Dプリント造形物製造装置のノズルから押し出し、複数の2Dデータをもとに、2D層を基板の上に順次積層することにより、3Dプリント造形物を造形することができる。複数の2Dデータは、スライサーソフトウェアによって、造形される3Dプリント造形物の3Dの座標データが輪切りにされて、生成される。
【0085】
3Dプリント造形物製造装置は、材料押出方式の3Dプリント造形物製造装置を用いることができる。材料押出方式の3次元造形物製造装置は、特に制限はなく、公知の装置又は公知の装置構成を適用することができる。3Dプリント造形物製造装置としては、例えば、シリンダーと、ノズルと、加熱手段と、を備えた装置であってもよい。シリンダーには、3Dプリント造形用材料が供給される。ノズルは、シリンダーの3Dプリント造形用材料の吐出方向下流側の部位に設けられる。ノズルは、3Dプリント造形用材料を吐出する。加熱手段は、シリンダーに設けられる。加熱手段は、3Dプリント造形用材料を加熱し溶融する。
【0086】
3Dプリント造形物製造装置は、加熱溶融された3Dプリント造形用材料をノズルから押し出し、ノズルから押し出された3Dプリント造形用材料を積層造形する。これにより、3Dプリント造形物が造形される。
【0087】
シリンダーは、その内部にスクリューを有していてもよい。スクリューは、3Dプリント造形材料を混練する。
3Dプリント造形物製造装置は、テーブル装置をさらに備えていてもよい。テーブル装置は、ノズルに対向して配置される。テーブル装置上には、ノズルから押し出される溶融状態の3Dプリント造形用材料が積層される。
【0088】
3Dプリント造形物製造装置は、制御手段をさらに備えていてもよい。制御手段は、基板及びノズルの空間座標、並びに、ノズルから押し出される3Dプリント造形用材料の量を制御する。制御手段は、ノズルから押し出される溶融状態の3Dプリント造形用材料の吐出を制御し、かつ、ノズル及び/又はテーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御することが好ましい。
【0089】
(他の工程)
本発明における3Dプリント造形物の製造方法は、例えば、加工工程をさらに有してもよい。加工工程では、造形工程で造形された3Dプリント造形物を加工処理する。
【0090】
[3Dプリント造形物の物性]
本発明の3Dプリント造形物は、力学的強度に優れる。具体的には、例えば、以下の物性により3Dプリント造形物の強度特性について評価することができる。本明細書では、後述の実施例に記載の射出成形体を作製し、その強度特性について評価した。
【0091】
(引張弾性率、引張破断応力、引張破壊ひずみ)
前記3Dプリント造形物は、JIS K7161に準拠し測定した引張弾性率が、好ましくは1.0~40GPaの範囲にあり、より好ましくは3.0~30GPaの範囲にあり、さらに好ましくは5.0~20GPaの範囲にある。また、JIS K7161に準拠し測定した引張破断強度が、好ましくは1.0~200MPaの範囲にあり、より好ましくは5.0~200MPaの範囲にあり、さらに好ましくは10~200MPaの範囲にある。さらに、上記引張試験時に求められる引張破壊ひずみは、好ましくは1.0~20%の範囲にあり、より好ましくは2.0~20%の範囲にあり、さらに好ましくは3.0~10%の範囲にある。
【0092】
(シャルピー衝撃強度)
前記3Dプリント造形物は、JIS K7111-1/1eAに準拠し測定したシャルピー衝撃強度が、好ましくは5~50kJ/m2の範囲にあり、より好ましくは7~40kJ/m2の範囲にあり、さらに好ましくは9~30kJ/m2の範囲にある。
【実施例0093】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0094】
[使用装置]
<コンパウンド造粒装置>
実施例および比較例において3Dプリンタ用樹脂組成物を製造した際のコンパウンド造粒装置および製造条件は以下のとおりである。
装置:同方向回転二軸押出機 HK-25D(株式会社パーカーコーポレーション製)
スクリュー径:25mm
スクリュープロセス長(L/D):41
バレル設定温度(ノズル先端の温度をC8として、ホッパー側に向かうにつれてC7~C2と段階的に温度を設定し、ホッパー直下の温度をC1とする):
C8/C7/C6/C5/C4/C3/C2/C1
=200/200/200/200/200/210/210/80℃
ノズル径:3mm×2穴
スクリュー回転数:150rpm
冷却方法:水冷(10~15℃)
事前乾燥:なし
【0095】
<射出成形装置>
3Dプリンタ用樹脂組成物を含む成形体の物性評価のため、実施例および比較例において射出成形体を製造した際の装置および製造条件は以下のとおりである。
装置:射出成形機 J100 ADS 180U(日本製鋼所製)
バレル設定温度(ノズル先端の温度をNH2、NH1として、ホッパー側に向かうにつれてH4~H1と段階的に温度を設定し、ホッパー直下の温度をHPとする):
NH2/NH1/H4/H3/H2/H1/HP
=250/250/250/250/250/250/60℃
保圧時間:15秒
射出速度:50mm/秒
冷却時間:30秒
保圧:15~50MPa
型温度:3mm×2穴
スクリュー回転数:50min-1
背圧:2MPa
【0096】
<3Dプリント造形物製造装置>
3Dプリンタ用樹脂組成物を含む3Dプリント造形物の造形性評価のため、実施例および比較例において3Dプリント造形物を製造した際の装置および製造条件は以下のとおりである。
装置:3Dプリンタ Raise3D Pro2 Plus(Raise3D社製)
ノズル径:0.8mm
ノズル温度:220℃
ステージ温度:40℃
積層ピッチ:0.4mm
【0097】
[評価]
実施例および比較例において、用いた各種材料の物性の測定方法、ならびに製造したフィラメント、射出成形体および造形物の評価方法は下記のとおりである。
【0098】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)>
無水カルボン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、GPCにより、以下の条件で測定した。
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)
検出器:RI-71S
カラム:GPCKF804L(Φ8.0mm×300mm)×3本(昭和電工(株)製)
測定温度:40℃
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流速:1.0ml/min
【0099】
<引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊呼びひずみ(材料)>
ポリプロピレンの引張試験はJIS K7161に準拠し、オレフィン系エラストマーの引張試験はASTM D638に準拠し、ポリアミドの引張試験はISO527に準拠し、以下の条件で測定した。
装置:引張試験機 オートグラフAG-500C(島津製作所社製)
試験速度:300mm/min
チャック間距離:100mm
標線間距離:50mm
垂直応力(単位:N)と垂直ひずみ(単位:%)との関係を示したグラフ(Stress-Streinカーブ)を作成して、引張弾性率および引張破壊応力(単位:MPa)、ならびに引張破壊呼びひずみ(単位:%)を求めた。測定は5回行い、その平均値とした。
【0100】
<引張弾性率、引張破断強度、引張破壊ひずみ(射出成形体)>
射出成形体の引張試験はJIS K7161に準拠し、以下の条件で測定した。
装置:引張試験機 AG-20kNXDPlus(島津製作所製)
試験速度:5mm/min
チャック間距離:115mm
標線間距離:50mm
垂直応力(単位:N)と垂直ひずみ(単位:%)との関係を示したグラフ(Stress-Streinカーブ)を作成して、引張弾性率(単位:GPa)および引張破断強度(単位:MPa)、ならびに引張破壊ひずみ(単位:%)を求めた。測定は5回行い、その平均値とした。
【0101】
<シャルピー衝撃強度>
射出成形体のシャルピー衝撃試験は、JIS K7111-1/1eAに準拠し、実施した。切出した射出成形体の試験片(試験片サイズ=10mm×80mm×4mm、ノッチ加工=機械加工)について、23℃におけるシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を求めた。
【0102】
<押出安定性、寸法安定性、スプール巻き性>
3Dプリンタ用フィラメントの各種物性は、下記に従い評価した。
(押出安定性)
○:フィラメント作製時にフィラメント化が可能である
×:フィラメント作製時にフィラメント化ができない
(寸法安定性)
○:狙い直径(1.75mm)の±0.15mmの公差に収まる直径である
×:狙い直径の±0.15mmの公差に収まる直径でない
(スプール巻き性)
○:フィラメントの一般的な販売形状であるスプール(内径寸法100mm×外径寸法200mm)、または前記スプールより大きな内径寸法、外形寸法を有するスプールに巻き付け可能である
×:前記スプールに巻き付けできない
【0103】
<造形性>
3Dプリント造形物の造形性は、下記に従い評価した。
○:船模型(60mm×31mm×高さ48mm)に造形が可能である
×:前記船模型に造形ができない
【0104】
[使用材料]
実施例および比較例において、用いた各種材料の詳細は下記のとおりである。
<炭素繊維>
・炭素繊維、エポキシ製サイジング剤塗布品(東レ製)
<ホモポリプロピレン(h-PP)>
・J13B(プライムポリマー製、MFR(2.16kg荷重、230℃):220g/10分、引張破壊応力:35MPa、引張弾性率:1,800MPa)
・F113G(プライムポリマー製、MFR(2.16kg荷重、230℃):3.0g/10分、引張破壊応力:35MPa、引張弾性率:1,600MPa)
<ランダムポリプロピレン(r-PP)>
・F227D(プライムポリマー製、MFR(2.16kg荷重、230℃):6.7g/10分、引張破壊応力:24MPa、引張弾性率:800MPa)
<無水カルボン酸変性ポリプロピレン>
・マレイン酸変性ポリプロピレン(MAH-PP)(無水マレイン酸含量:3.0質量%、ポリプロピレン換算分子量Mw=37,800、Mn=17,400、Mw/Mn=2.18)
<ポリアミド(PA)>
・3012U(宇部興産製、MFR(2.16kg荷重、190℃):17g/10分、引張破壊応力:47MPa)
<オレフィン系エラストマー>
・タフマー(登録商標)PN-0040(三井化学製プロピレン系エラストマー、引張弾性率:37MPa、引張破壊呼びひずみ:>1000%)
・タフマー(登録商標)PN-2060(三井化学製プロピレン系エラストマー、引張弾性率:22MPa、引張破壊呼びひずみ:>1000%)
・タフマー(登録商標)DF610(三井化学製エチレン系エラストマー、引張弾性率:5MPa、引張破壊呼びひずみ:>1000%)
<ポリアミド(PA)>
・3012U(宇部興産製、MFR(2.16kg荷重、190℃):17g/10分、引張破壊応力:47MPa)
<炭素繊維含有ポリプロピレン樹脂>
・FL900PP CF(Braskem社製 炭素繊維含有率14質量%、ランダムポリプロピレン使用)
【0105】
[製造例1]
上述した炭素繊維、ホモポリプロピレン(J13B)、マレイン酸変性ポリプロピレン、およびポリアミドを、質量比40:46:8.0:6.0となるように、引き抜き法により、ペレット長9mmの、炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)を作製した。
【0106】
[製造例2]
上述した炭素繊維、ホモポリプロピレン(J13B)、マレイン酸変性ポリプロピレン、質量比40:52:8.0となるように、引き抜き法により、ペレット長9mmの、炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-2)を作製した。
【0107】
[実施例1]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ホモポリプロピレン(F113G)、およびオレフィン系エラストマー(PN-0040)を、質量比50:35:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0108】
(2)射出成形体の作製
(1)で得られたポリプロピレン樹脂組成物から、上述した射出成形装置を用いて、成形体の物性評価用の試験片を作製した。得られた試験片の各種物性の評価を、上記の方法に従い実施した。結果を表1に示す。
【0109】
(3)3Dプリンタ用フィラメントの作製
(1)で得られたポリプロピレン樹脂組成物から、直径1.75mmの、3Dプリンタ用フィラメントを作製した。得られた3Dプリンタ用フィラメントの各種物性の評価を、上記の方法に従い実施した。結果を表1に示す。
【0110】
(4)3Dプリント造形物の作製
(3)で得られた3Dプリンタ用フィラメントから、上述した3Dプリント造形物製造装置を用いて、船模型(60mm×31mm×高さ48mm)の造形物を作製した。3Dプリンタにおける造形評価を、上記の方法に従い実施した。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例2]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ランダムポリプロピレン(F227D)、およびオレフィン系エラストマー(DF610)を、質量比50:35:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0112】
[実施例3]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-2)、ホモポリプロピレン(F113G)、およびオレフィン系エラストマー(PN-2060)を、質量比50:35:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0113】
[実施例4]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-2)、ランダムポリプロピレン(F227D)、およびオレフィン系エラストマー(DF610)を、質量比50:35:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0114】
[実施例5]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ホモポリプロピレン(F113G)、およびオレフィン系エラストマー(PN-2060)を、質量比62.5:22.5:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0115】
[実施例6]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ランダムポリプロピレン(F227D)、およびオレフィン系エラストマー(DF610)を、質量比62.5:22.5:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0116】
[実施例7]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ホモポリプロピレン(F113G)、およびオレフィン系エラストマー(PN-2060)を、質量比75:10:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0117】
[実施例8]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ランダムポリプロピレン(F227D)、およびオレフィン系エラストマー(DF610)を、質量比75:10:15となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0118】
[比較例1]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ホモポリプロピレン(F113G)を、質量比50:50となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0119】
[比較例2]
(1)ポリプロピレン樹脂組成物の作製
炭素長繊維強化ポリプロピレンペレット(LFT-1)、ランダムポリプロピレン(F227D)を、質量比50:50となるように混合し、上述したコンパウンド造粒装置を用いて、上記記載の条件で溶融混練、造粒し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
(2)~(4)
実施例1と同様に製造して、射出成形体、3Dプリンタ用フィラメント、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0120】
[比較例3]
(4)3Dプリント造形物の作製
ポリプロピレン樹脂組成物として、炭素繊維含有ポリプロピレン樹脂(FL900PP CF)を用いて、実施例1と同様に製造して、3Dプリント造形物を得た。得られた成形品の各種物性は表1に示した。
【0121】