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特開2023-140677斜面崩壊箇所の抽出システム、斜面崩壊箇所の抽出方法、及び斜面崩壊箇所の抽出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140677
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】斜面崩壊箇所の抽出システム、斜面崩壊箇所の抽出方法、及び斜面崩壊箇所の抽出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20230928BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20230928BHJP
   G01C 11/04 20060101ALI20230928BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G06T7/00 300D
E02D17/20 106
G01C11/04
G09B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046639
(22)【出願日】2022-03-23
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598022646
【氏名又は名称】一般財団法人 リモート・センシング技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】398040642
【氏名又は名称】ジェイアール東海コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真基
(72)【発明者】
【氏名】大木 基裕
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】新海 英昌
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 秀麿
(72)【発明者】
【氏名】五百旗頭 弘憲
(72)【発明者】
【氏名】古田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】平松 真宙
(72)【発明者】
【氏名】地主 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】木全 一馬
【テーマコード(参考)】
2C032
2D044
5L096
【Fターム(参考)】
2C032HC38
2C032HD30
2D044EA07
5L096HA08
5L096JA03
5L096JA11
(57)【要約】
【課題】抽出精度を高めつつ、低コストで斜面の崩壊箇所を抽出できる斜面崩壊箇所の抽出システムを提供する。
【解決手段】本開示は、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得するように構成された取得部と、崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する検出処理と、可視光画像における低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する抽出処理と、を実行するように構成された抽出部と、を備える斜面崩壊箇所の抽出システムである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、前記崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得するように構成された取得部と、
前記崩壊抽出領域の中から、前記植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する検出処理と、前記可視光画像における前記低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する抽出処理と、を実行するように構成された抽出部と、
を備える、斜面崩壊箇所の抽出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の斜面崩壊箇所の抽出システムであって、
前記抽出部は、前記抽出処理において、前記可視光画像の前記判定対象領域に対するパターンマッチングの前に、前記植生指数マップの前記判定対象領域において斜面の崩壊方向を推定するように構成される、斜面崩壊箇所の抽出システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の斜面崩壊箇所の抽出システムであって、
前記抽出部は、前記検出処理において、前記植生指数マップにおける植生指数の分布に基づいて前記閾値を設定するように構成される、斜面崩壊箇所の抽出システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の斜面崩壊箇所の抽出システムであって、
過去の前記抽出処理の結果を履歴データとして記録するように構成された記録部をさらに備え、
前記抽出部は、前記抽出処理において、過去に斜面の崩壊箇所として抽出された領域のうち、斜面の崩壊箇所ではないことが前記履歴データに記録されている箇所を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外するように構成される、斜面崩壊箇所の抽出システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の斜面崩壊箇所の抽出システムであって、
前記抽出部は、前記抽出処理において、数値標高モデルから得られる地表の傾斜角度が一定値未満の領域を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外するように構成される、斜面崩壊箇所の抽出システム。
【請求項6】
地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、前記崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得する工程と、
前記崩壊抽出領域の中から、前記植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する工程と、
前記可視光画像における前記低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する工程と、
を備える、斜面崩壊箇所の抽出方法。
【請求項7】
地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、前記崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得することと、
前記崩壊抽出領域の中から、前記植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出することと、
前記可視光画像における前記低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出することと、
をコンピュータに実行させる、斜面崩壊箇所の抽出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、斜面崩壊箇所の抽出システム、斜面崩壊箇所の抽出方法、及び斜面崩壊箇所の抽出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路への土石流の流入に対する事前対処として、植生指数を用いて崩壊可能性のある斜面を抽出する技術が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-221886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の技術は、崩壊が発生した斜面の抽出は対象としていない。そのため、斜面の崩壊箇所を抽出するには、上空から地表の可視光画像を撮影した上で、熟練者が目視にて判断する必要がある。このような対応では、多大な労力及びコストが必要となる。
【0005】
一方、地表におけるマイクロ波の反射を人工衛星で捉えたデータを用いて崩壊箇所を抽出することもできるが、小規模な崩壊は抽出が困難である。また、地表における太陽光の反射を高解像度で捉えた光学画像を用いて崩壊箇所を抽出することもできるが、光学画像自体のコスト、及び画像処理のコストがそれぞれ多大となる。
【0006】
本開示の一局面は、抽出精度を高めつつ、低コストで斜面の崩壊箇所を抽出できる斜面崩壊箇所の抽出システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得するように構成された取得部と、崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する検出処理と、可視光画像における低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する抽出処理と、を実行するように構成された抽出部と、を備える斜面崩壊箇所の抽出システムである。
【0008】
このような構成によれば、熟練者の目視に頼ることなく、斜面崩壊箇所を抽出することができる。また、判定対象領域を絞った上で画像解析を行うので、崩壊箇所の抽出漏れを抑制しつつ、画像解析の演算量を低減できる。そのため、抽出精度を高めつつ、低コストで斜面の崩壊箇所を抽出できる。
【0009】
本開示の一態様では、抽出部は、抽出処理において、可視光画像の判定対象領域に対するパターンマッチングの前に、植生指数マップの判定対象領域において斜面の崩壊方向を推定するように構成されてもよい。このような構成によれば、可視光画像におけるパターンマッチングにおいて、回転にかかる演算量を低減できる。
【0010】
本開示の一態様では、抽出部は、検出処理において、植生指数マップにおける植生指数の分布に基づいて閾値を設定するように構成されてもよい。このような構成によれば、季節による植生指数の変化、特殊な地形等の外乱を考慮して判定対象領域を適切に設定することができる。そのため、演算量の低減及び抽出精度の向上が促進される。
【0011】
本開示の一態様は、過去の抽出処理の結果を履歴データとして記録するように構成された記録部をさらに備えてもよい。抽出部は、抽出処理において、過去に斜面の崩壊箇所として抽出された領域のうち、斜面の崩壊箇所ではないことが履歴データに記録されている箇所を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外するように構成されてもよい。このような構成によれば、過去に誤って抽出した領域が再び抽出されることを抑制できる。そのため、崩壊箇所の抽出精度が高められる。
【0012】
本開示の一態様では、抽出部は、抽出処理において、数値標高モデルから得られる地表の傾斜角度が一定値未満の領域を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外するように構成されてもよい。このような構成によれば、傾斜が緩やかな地表において、誤判定に基づいた崩壊が抽出されることを抑制できる。そのため、崩壊箇所の抽出精度が高められる。
【0013】
本開示の別の態様は、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得する工程と、崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する工程と、可視光画像における低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する工程と、を備える斜面崩壊箇所の抽出方法である。
【0014】
本開示の別の態様は、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得することと、崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出することと、可視光画像における低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出することと、をコンピュータに実行させる斜面崩壊箇所の抽出プログラムである。
【0015】
これらのような構成によれば、抽出精度を高めつつ、低コストで斜面の崩壊箇所を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態における斜面崩壊箇所の抽出システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2図2Aは、崩壊抽出領域の可視光画像の一例であり、図2Bは、崩壊抽出領域の植生指数マップの一例である。
図3図3Aは、夏季の植生指数マップの一例であり、図3Bは、冬季の植生指数マップの一例である。
図4図4Aは、夏季の植生指数の分布の一例を示すグラフであり、図4Bは、冬季の植生指数の分布の一例を示すグラフである。
図5図5は、植生指数マップにおける崩壊方向の推定手順を示す模式図である。
図6図6Aは、パターンテンプレートの一例であり、図6Bは、崩壊抽出領域の可視光画像の一例であり、図6Cは、斜面の崩壊箇所の抽出結果の一例である。
図7図7Aは、抽出した崩壊箇所と特定箇所との対比手順の一例を示す模式図であり、図7Bは、傾斜角度マップの一例である。
図8図8は、実施形態における斜面の崩壊箇所の抽出方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.斜面崩壊箇所の抽出システム]
図1に示す斜面崩壊箇所の抽出システム1(以下、単に「抽出システム1」ともいう。)は、地表における斜面の崩壊箇所を自動抽出する。抽出システム1は、情報処理装置10と、撮像装置20とを備える。
【0018】
<情報処理装置>
情報処理装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリ等の記録媒体と、キーボード、ディスプレイ等の入出力装置とを有するコンピュータによって構成される。
【0019】
情報処理装置10を構成するコンピュータは、記録媒体に記録された斜面崩壊箇所の抽出プログラムによって、可視光画像及び植生指数マップを取得することと、低指数領域を検出することと、斜面の崩壊箇所を抽出することとを実行する。情報処理装置10は、取得部11と、抽出部12と、出力部13と、記録部14とを有する。
【0020】
(取得部)
取得部11は、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得するように構成されている。
【0021】
取得部11は、撮像装置20が撮像した地表の画像データに基づいて、可視光画像及び植生指数マップを生成する。撮像装置20が撮像した画像データは、例えばインターネット等のネットワークを介して取得部11に送信される。
【0022】
撮像装置20は、人工衛星に設けられたカメラ又はセンサである。このようなカメラを用いることで、真上から地表を調査することができる。ただし、撮像装置20として、航空機、ドローン等の飛行体に搭載されたカメラを用いてもよい。
【0023】
取得部11は、撮像装置20から送られる画像データに含まれる赤色波長データと、緑色波長データと、青色波長データとの合成により、図2Aに示すような可視光画像を生成する。また、取得部11は、撮像装置20から送られる画像データに含まれる赤色波長データと近赤外域波長データとの合成により、図2Bに示すような植生指数マップを生成する。
【0024】
可視光画像に用いられる赤色波長データと、植生指数マップに用いられる赤色波長データとは同じデータである。つまり、取得部11は、含まれる地表領域が一致する可視光画像及び植生指数マップの組み合わせを生成する。
【0025】
植生指数マップは、地表における植生の状況(例えば、植物の量、活性度等)を表す植生指数の分布を示す地図である。図2Bの植生指数マップでは、植生指数が大きい箇所ほど明るく、白色に近い。また、植生指数が小さい箇所ほど暗く、黒色に近い。各地点(つまり各画素)の植生指数の大小は、植生指数マップ上の明暗によって判定される。
【0026】
図2Bの例では、中央の黒い領域は、植生指数が他の領域に比べて低い。したがって、図2Bの植生指数マップに対応する図2Aの可視光画像における中央の白い領域は、植物が少ない領域と判断される。
【0027】
本実施形態において、植生指数マップを構成する植生指数は、NDVI(正規化植生指標:Normalized Difference Vegetation Index)である。ただし、植生指数として、GNDVI(Green Normalized Difference Vegetation Index)が用いられてもよい。GNDVIを使用する場合は、植生指数マップの作成時に、赤色波長データに替えて、緑色波長データが使用される。
【0028】
(抽出部)
抽出部12は、取得部11が生成した可視光画像及び植生指数マップを用いて、斜面の崩壊箇所を抽出するように構成されている。抽出部12は、検出処理と、抽出処理とを実行する。
【0029】
検出処理では、抽出部12は、可視光画像及び植生指数マップに含まれる崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する。図2Bの例では、中央の黒い領域が低指数領域として検出される。低指数領域は、植物の量が少なく、斜面が崩壊している可能性があると予測される領域である。
【0030】
ここで、図3A及び図3Bに示すように、植生指数は、季節によって変化する。図3Aは、ある領域の夏季の植生指数マップであり、図3Bは、図3Aと同じ領域の冬季の植生指数マップである。図から明らかなように、冬季は、夏季に比べてマップが全体的に暗い。つまり、冬季は、夏季に比べて植生指数が全体的に低くなる。
【0031】
また、撮像装置20の撮像タイミングによっては、太陽の位置及び雲の存在の影響を受けて、植生指数マップの明暗が変化する可能性が有る。さらに、図3Aに示す池P等の特殊な地形や、建築物の存在によって植生指数に異常値が含まれ得る。
【0032】
したがって、低指数領域を検出する閾値を固定値とすると、上述した外乱の影響により、低指数領域が適切に検出されないおそれがある。その結果、計算量の増大、崩壊箇所の誤抽出、崩壊箇所の抽出漏れ等が発生するおそれがある。
【0033】
そこで、抽出部12は、検出処理において、植生指数マップにおける植生指数の分布に基づいて閾値を設定する。以下、抽出部12による閾値の設定方法について具体的に説明する。
【0034】
まず、抽出部12は、図4Aに示すように、植生指数の分布図を作成する。図4Aの横軸は植生指数、縦軸は画素数(つまり頻度)である。なお、図4Aは、ある領域の夏季の植生指数の分布を示している。
【0035】
抽出部12は、この分布図から、分布全体の上位3%を切断除外すると共に、最頻値Mから距離D以上離れている下位の領域を切断除外した切断正規分布TNDを取得する。距離Dは、最頻値Mから上位3%までの横軸方向の距離である。つまり、切断正規分布TNDの幅は、最頻値Mから上位3%までの距離を2倍したものである。なお、分布全体の上位3%は、異常値に相当する。
【0036】
次に、抽出部12は、切断正規分布TNDの平均値A1と、切断正規分布TNDの標準偏差σに定数αを乗じた調整値C1=α×σとを算出する。抽出部12は、平均値A1から調整値C1を減じることで、閾値T1(=A1-C1)を求める。定数αは、経験則から帰納的に設定される正の数であり、例えば1.5である。
【0037】
図4Bは、夏季よりも全体的に植生指数が低い冬季の植生指数の分布図である。抽出部12は、図4Bの分布図においても、図4Aと同様に、切断正規分布TNDの平均値A2及び調整値C2から、閾値T2(=A2-C2)を求める。
【0038】
図4Bの冬季用の閾値T2は、図4Aの夏季用の閾値T1よりも小さい。そのため、例えば夏季において低指数領域と判断されていない箇所(つまり植物が存在する領域)が、冬季に植物の量又は活性度が小さくなった場合に低指数領域(つまり植物が存在しない領域)として判断されることが避けられる。
【0039】
続けて、抽出部12は、抽出処理において、後述する可視光画像の判定対象領域に対するパターンマッチングの前に、植生指数マップの判定対象領域において斜面の崩壊方向を推定する。
【0040】
判定対象領域は、可視光画像及び植生指数マップに含まれる崩壊抽出領域のうち、低指数領域とその周辺を含む領域である。判定対象領域は、崩壊抽出領域の複数の個所に設定される。
【0041】
抽出部12は、図5に示すように、植生指数マップの判定対象領域JAの中から、低指数領域LAを検出する。抽出部12は、検出した低指数領域LAにおいて、植生指数が上述の閾値よりも小さい低指数画素の数を上下方向及び左右方向それぞれにおいてカウントする。
【0042】
図5では、判定対象領域JAの右側に左右方向の(つまり各行における)低指数画素の数が示され、判定対象領域JAの下側に上下方向の(つまり各列における)低指数画素の数が示されている。
【0043】
図5の例では、各行における低指数画素の数が中央付近で急増している。また、各列における低指数画素の数が右に向かって緩やかに増加している。この結果から、抽出部12は、崩壊の向きが図5に矢印で示す方向であると推測する。
【0044】
具体的には、抽出部12は、低指数領域LA内の各画素について勾配強度(つまり低指数画素の画素値の変化割合)及び勾配方向(つまり低指数画素値の画素値の変化方向)を計算し、勾配ヒストグラムを作成する。抽出部12は、作成した勾配ヒストグラムのピークをその低指数領域LAの崩壊の向き(つまり代表的な方向)とする。
【0045】
崩壊の向きの推測後、抽出部12は、可視光画像における判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する。具体的には、抽出部12は、予め記録されている複数の崩壊箇所のテンプレートパターンを、回転及び拡縮をしつつ判定対象領域に重ね合わせることで、崩壊箇所を抽出する。
【0046】
図6Aは、崩壊箇所のテンプレートパターンの一例である。崩壊箇所のパターンには、崩壊部分の形状に加えて、崩壊の向きの情報が含まれている。抽出部12は、図6Bに示す可視光画像に含まれる複数の判定対象領域それぞれに対し、テンプレートパターンの当てはめを行う。
【0047】
テンプレートパターンの当てはめに際し、抽出部12は、判定対象領域それぞれにおいて、植生指数マップ上で推測した崩壊の向きと一致するようにテンプレートパターンを回転させる。抽出部12は、図6Cに示すように、テンプレートパターンが一致した領域を斜面の崩壊箇所(図6Cにおける四角形で囲まれた領域)として抽出する。
【0048】
抽出部12は、抽出処理において、過去に斜面の崩壊箇所として抽出された領域のうち、斜面の崩壊箇所ではないことが記録部14の履歴データに記録されている特定箇所を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外する。記録部14の履歴データには、抽出部12が抽出した崩壊箇所に対する人(つまり作業者)による目視判断の結果、実際に崩壊箇所であったか否かの記録が含まれている。つまり、抽出部12は、判定対象領域のうち、過去に崩壊箇所として抽出部12が誤検出した領域を抽出結果から除外する。
【0049】
抽出部12が抽出した崩壊箇所が履歴データに記録されている特定箇所と同じか否かの判定は、例えば以下の手順で行われる。図7Aに示すように、抽出部12は、特定箇所を崩壊箇所として抽出した際にテンプレートパターンの回転及び拡大が行われた範囲に外接する四角形を第1枠F1として履歴データから読み出し、可視光画像に重ねる。
【0050】
さらに、抽出部12は、今回抽出した崩壊箇所の抽出時にテンプレートパターンの回転及び拡大が行われた範囲に外接する四角形を第2枠F2として可視光画像に重ねる。第1枠F1の重心G1が第2枠F2の内側に存在し、かつ、第2枠F2の重心G2が第1枠F1の内側に存在する場合、抽出部12は、抽出部12が抽出した崩壊箇所が履歴データに記録されている特定箇所と同じであると判定する。
【0051】
さらに、抽出部12は、抽出処理において、数値標高モデルから得られる地表の傾斜角度が一定値未満の領域を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外する。数値標高モデルは、地表を一定のメッシュ(例えば5m)で分割した各セルの標高データで構成される。
【0052】
抽出部12は、数値標高モデルの隣接するセルの標高の差から、図7Bに示す傾斜角度マップを作成する。図7Bの傾斜角度マップでは、セルの色が濃いところほど傾斜角が大きい。
【0053】
抽出部12は、傾斜角度が一定値未満である除外領域が抽出された崩壊箇所に含まれる場合は、この崩壊箇所を抽出結果から除外する。除外領域を判定する傾斜角度の閾値としては、例えば30°である。つまり、抽出部12は、傾斜角度が30°未満の領域を除外領域とする。
【0054】
(出力部)
出力部13は、抽出部12の抽出結果を出力するように構成されている。出力部13は、抽出結果を表示するディスプレイであってもよい。また、出力部13は、抽出結果を、情報処理装置10の外部の記録媒体、制御機器、コンピュータ、端末等に送信する送信機であってもよい。
【0055】
出力部13から出力された抽出結果に含まれる斜面の崩壊箇所に対し、作業者が実際に目視にて崩壊の有無を確認する。
【0056】
(記録部)
記録部14は、過去の抽出部12による抽出処理の結果、及び作業者による目視の結果を履歴データとして記録するように構成されている。
【0057】
[1-2.斜面崩壊箇所の抽出方法]
図8に示す斜面崩壊箇所の抽出方法は、取得工程S10と、検出工程S20と、抽出工程S30と、出力工程S40とを備える。本実施形態の斜面崩壊箇所の抽出方法は、例えば図1の斜面崩壊箇所の抽出システム1を用いて行うことができる。
【0058】
<取得工程>
本工程では、地表における崩壊抽出領域の可視光画像と、崩壊抽出領域における植生指数の分布を示す植生指数マップとを取得する。
【0059】
<検出工程>
本工程では、崩壊抽出領域の中から、植生指数マップにおいて植生指数が閾値よりも小さい低指数領域を検出する。
【0060】
<抽出工程>
本工程では、可視光画像における低指数領域を含む判定対象領域に対するパターンマッチングにより、斜面の崩壊箇所を抽出する。
【0061】
<出力工程>
本工程では、抽出された斜面の崩壊箇所を出力する。出力結果は、目視を行う作業者に供される。
【0062】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)熟練者の目視に頼ることなく、斜面崩壊箇所を抽出することができる。また、判定対象領域を絞った上で画像解析を行うので、崩壊箇所の抽出漏れを抑制しつつ、画像解析の演算量を低減できる。そのため、抽出精度を高めつつ、低コストで斜面の崩壊箇所を抽出できる。
【0063】
(1b)植生指数マップにおいて斜面の崩壊方向を推定することで、可視光画像におけるパターンマッチングにおいて、回転にかかる演算量を低減できる。
【0064】
(1c)低指数領域を検出するための閾値を植生指数の分布に基づいて設定することで、季節による植生指数の変化、特殊な地形等の外乱を考慮して判定対象領域を適切に設定することができる。そのため、演算量の低減及び抽出精度の向上が促進される。
【0065】
(1d)斜面の崩壊箇所ではないことが履歴データに記録されている箇所を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外することで、過去に誤って抽出した領域が再び抽出されることを抑制できる。そのため、崩壊箇所の抽出精度が高められる。
【0066】
(1e)数値標高モデルから得られる地表の傾斜角度が一定値未満の領域を斜面の崩壊箇所の抽出結果から除外することで、傾斜が緩やかな地表において、誤判定に基づいた崩壊が抽出されることを抑制できる。そのため、崩壊箇所の抽出精度が高められる。
【0067】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0068】
(2a)上記実施形態の斜面崩壊箇所の抽出システム及び抽出方法において、植生指数マップにおける斜面の崩壊方向の推定は、必須ではない。したがって、斜面の崩壊方向の推定を行わずに、可視光画像におけるパターンマッチングを行ってもよい。
【0069】
(2b)上記実施形態の斜面崩壊箇所の抽出システム及び抽出方法において、低指数領域を検出するための閾値は、必ずしも植生指数の分布に基づいて設定されなくてもよい。この閾値は、植生指数の分布以外の情報に基づいて設定されてもよい。
【0070】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0071】
1…斜面崩壊箇所の抽出システム、10…情報処理装置、11…取得部、
12…抽出部、13…出力部、14…記録部、20…撮像装置。
図1
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図8