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特開2023-14068アルカリ煮熟工程を用いたトウモロコシ由来アルコール飲料の製造方法、食用および/または工業用の蒸留アルコール製造のために、アルカリ煮熟の残留物を処理-利用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014068
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】アルカリ煮熟工程を用いたトウモロコシ由来アルコール飲料の製造方法、食用および/または工業用の蒸留アルコール製造のために、アルカリ煮熟の残留物を処理-利用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/021 20190101AFI20230119BHJP
【FI】
C12G3/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114380
(22)【出願日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】MX/A/2021/008620
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(71)【出願人】
【識別番号】522288186
【氏名又は名称】カーサ ルンブレ エセ.ア.ペ.イ デ セ.ウベ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100189474
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 修
(72)【発明者】
【氏名】イワン サルダナ オヤルザバル
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115AG02
(57)【要約】
【課題】酸化力が強く、官能特性を発現しやすいスピリッツ、苦味が強い、または官能強度や奥深さに欠ける製品、樽での熟成、あるいは食用に適した状態にするために風味付け等その後の調整工程が必要な製品の解決、及び、ネハヨーテ廃液を利用・処理して、廃棄物から利用および/または摂取できる産物の生成。
【解決手段】アルカリ煮熟を用いてアルコール飲料を製造する方法で、カカワシントル・コーンの穀粒、類似するその他粉質系トウモロコシまたは他の穀物を煮熟する環境のpHを上げることを基本とし、ここで説明する方法によって得られる製品を既存のアルコール飲料と区別する、風味、香りおよび官能特性を生成させることにより、異なる提案を提供するものである。アルカリ煮熟の残留物から得られるネハヨーテを回収・処理することで、食用および/または工業用のアルコールを製造する方法であり、食品分野のアルカリ煮熟のあらゆる残留物に適用できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
様々な穀物にニシュタマリゼーション、すなわち、アルカリ煮熟を施す工程を用いてアルコール飲料を製造する方法で、以下のプロセスからなる。- 水を沸騰させる。- 調理鍋に11~12.50の範囲でpHを上げる化合物を加え、アルカリ溶液を作る。- トウモロコシまたは他の穀物を調理なべに入れる。- トウモロコシを約30分間煮る。- トウモロコシをそのまま12時間ほど静置する。- トウモロコシまたは穀物を合計約3時間きれいな水ですすぎ、アルカリ溶液の残りをできる限り除去する。- 3時間かけてトウモロコシを水切りする。- できれば、トウモロコシを脱水-焙煎する。- トウモロコシを粉砕し粉末にする。- 加水分解酵素および/またはモルトを用いて、粉にしたトウモロコシを加水分解する。- 高濃度のアルコール環境に耐える酵母を用いて、加水分解したウォートを発酵させる。- 発酵したウォートを蒸留する。- この一次蒸留液に精留を施す(二次蒸留)。
【請求項2】
トウモロコシの水切り後、約15分間熱風で予備乾燥する工程を追加的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トウモロコシの予備乾燥の後、脱水-焙煎のステップを追加的に含む、請求項1に記載の方法。このステップは、以下のプロセスからなる。-トウモロコシを85~100℃の範囲で約1時間焙煎する。-100℃を超える温度(100~115℃)で焙煎を続ける。
【請求項4】
加水分解酵素(好ましくは、αアミラーゼ、細胞外酵素およびコーンモルトの添加)により、澱粉の液化およびα-D-(1,4)グリコシド結合の加水分解をそれぞれ促す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
煮熟したトウモロコシの洗浄段階で得られるネハヨーテの回収・処理から、食用および/または工業用のアルコールを製造する方法で、以下のプロセスからなる。- pHを約6に調整するために酸性溶液を加える。- 予備調整したネハヨーテにニシュタマリゼーションを施したトウモロコシの粉末を加える。- 加水分解酵素を用いてネハヨーテを加水分解し、ウォートを得る。- ウォートを発酵させる。- ウォートを蒸溜する。
【請求項6】
pHを下げる化合物が無機酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
加水分解酵素により、澱粉の液化およびα-D-(1,4)グリコシド結合の加水分解をそれぞれ促す、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウモロコシ等の穀物をベースとした発酵蒸留酒を製造するにあたり、加水分解・発酵・蒸留という一連のプロセスの前にアルカリ煮熟工程を用いる革新的な方法に関するものである。
【0002】
「ニシュタマリゼーション(原語Nixtamalizacion)」という処理において、扱われる材料、特にトウモロコシに重要な物理化学的変化が生じ、官能特性に良い影響を与えると指摘されているが、その変化の度合いは、1.煮熟時間、2.煮熟温度、3.圧力、4.浸漬時間、5.アルカリ化を促す化合物(定義と伝統により、最も使用されているのは石灰または炉灰だが、他の化合物も用いられる)、6.使用する原料(カカワシントル・コーン、他の穀物に類似するその他粉質系トウモロコシ)等の処理条件によって異なる。
【0003】
特に、スピリッツの製造方法について、既存のものとは異なる革新的な方法を述べる。この方法によって、穀物、特にカカワシントル・コーンや類似するその他粉質系トウモロコシに、アルカリ処理を施してもたらされる特別な風味、香り、官能特性が生成されることになるが、他の穀物を使用する可能性も排除されるわけではない。
【0004】
さらに、有機物を多く含むアルカリ煮熟の残留物(トウモロコシのニシュタマリゼーションの場合、ネハヨーテ(原語Nejayote)と呼ばれる)の処理-利用方法についても述べる。
【背景技術】
【0005】
ニシュタマリゼーションとは、トルティージャ、マサ、タマレスなどの食品を製造するためにトウモロコシを加工する工程で歴史的に用いられてきたプロセスであり、トウモロコシ穀粒をアルカリ溶液、通常は水酸化カルシウムに入れて煮熟するものである。(Castillo V.K.C., et al., 2009, Archivos Latinoamericanos de Nutricion, 59(4), 425-432 カスティージョ V.K.C, 他、2009年、ラテンアメリカ栄養資料、59(4), 425-432)
【0006】
ニシュタマリゼーションのプロセスは一般に、トウモロコシ(もしくは他の穀物)を100°C弱の熱湯に15分~60分間、1:3の割合(トウモロコシ:水)で水酸化カルシウムを加えてアルカリ溶液を調製して浸すことから始まる。混合物をアルカリ溶液中で12時間から19時間静置し、その後、アルカリ煮熟の残滓を取り除くために十分な量のきれいな水で洗浄すると、果皮のない、独特の風味を持つ柔らかい穀粒(ニシュタマル化コーンまたはニシュタマル)とネハヨーテとして知られる水溶液が得られる(Trejo et al., 1982 トレッホ他、1982年)。なお、このようなプロセスに用いる用具・装置によって、作業条件が異なる場合がある。
【0007】
ネハヨーテとは、トウモロコシのニシュタマリゼーションつまりアルカリ煮熟工程から出る廃液のことで、アルカリ煮熟の残留水とトウモロコシ穀粒の洗浄水からなる。ネハヨーテは、自然に悪影響を与える物理化学的特徴を持っており、例えば、高pH(pH=12)、高い化学的・生物学的酸素要求量、果皮、胚乳、ヘミセルロース、炭水化物、セルロース、タンパク質および黄色着色の原因となるカロテノイドなどからなる高濃度の溶存有機物などが挙げられる(Gutierrez-Uribe et al., 2010, Ramirez-Romero et al., 2013 グティエレス‐ウリベ他、2010年、ラミレス‐ロメロ他、2013年)。現在、ニシュタマリゼーションの残留物は全てが正しく廃棄されているわけではなく、そのまま下水道に排出されて環境に悪影響を及ぼしているため、その処理は重要である。例えば、このような残留物は化学的酸素要求量が高く、また、酸化する有機物や無機物が多く含まれるため、高濃度のCO2が発生し、温室効果様のガス発生に影響する。一方、下水道に直接排出されると、水が有機物で汚染され処理が困難になる。
【0008】
アルコール発酵、蒸留、スピリッツ製造の前処理としてトウモロコシのニシュタマリゼーションを使用した証拠や記録はないが、ネハヨーテに関してその処理と環境負荷低減のための研究が行われている。
【0009】
例えば、メキシコ特許No.MX/a/2017/016584「ネハヨーテの不溶性画分からバイオエタノール、細胞バイオマスおよびその他代謝物を生成するためのプロセス」には、バイオエタノールを得るために、単独でまたはろ過によって得た他のネハヨーテ画分と混ぜ合わせて、ネハヨーテの不溶性画分から細胞バイオマス、バイオエタノールおよびその他代謝物を得ることについての記述があり、培地の酸性化、加水分解、連続または同時発酵という工程を考察している。この発明の述べるネハヨーテ活用に係る工程は、まず培地をpH7に酸性化し、70℃/15分で加熱して澱粉の加水分解を行い、その後、溶液の温度とpHを下げ、酵素複合体を添加して加水分解を完了し、最後に酵母K.marxianusを接種するもので、接種は加水分解後または同時に行うことができる。発酵生成物として得られるエタノールはアルコール含有量2~8%で、加えて使用するネハヨーテの割合に応じて1.75~3.5mg/mLのバイオマスおよび約4g/Lのその他代謝物も得られる。しかし、この特許は、エタノールを食用または工業用に使用することについては記載も示唆もしていない。
【0010】
メキシコ特許No.MX/a/2017/013218「ノパルから硬質繊維および表皮を得るためのプロセス」は、ノパルから2つの抽出物を得るプロセスを開示している。これは、成体ノパルの葉から果肉を分離した後にアルカリ嫌気性発酵をさせるもので、蓋付きの容器内で7~8日間、植物材料をネハヨーテに漬け込むことによって発酵が進む。ノパルから抽出された硬質繊維は、殺菌すれば不溶性食物繊維(食品産業や食品サプリメントにおける添加物)として、また一般的に、様々な建設分野の強化材の複合材料、紙おむつ部品、消化促進剤のマトリックス、例えば廃水中の汚染物質の除去材または工業用フィルター等に使用される。
【0011】
一方、メキシコ特許No.YU/E/2003/000055「トウモロコシのニシュタマリゼーションの廃液(ネハヨーテ)を使用して微生物アミラーゼを得るためのプロセス」には、トウモロコシのニシュタマリゼーション工程より生ずる廃液を糸状菌Aspergilius awamori 2B361の選抜株によって発酵させたものを主要原料として、沈殿培養で微生物アミラーゼを調製するプロセスが記載されている。このプロセスは、ニシュタマリゼーションの廃液(ネハヨーテ)を栄養培地とする撹拌タンク内で非連続処理によって微生物アミラーゼの単一培養を行うものである。廃液は、5~50%(w/v)のニシュタマリゼーションが施されたトウモロコシ固形分と1~10%(w/v)のCa2+(トウモロコシのニシュタマリゼーション工程で使用された水酸化カルシウムに由来)を含有し、酸性pHを示す。発酵後に得られる酵素製剤は、硫酸アンモニウムで徐々に沈殿させて部分的に精製し、最終的に凍結乾燥処理を経て結晶化される。ただし、この特許では、アミラーゼの調製にのみ着目しているため、どのプロセスにおいてもエタノールの生成に関する請求項の記載はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、カカワシントル・コーンや類似するその他粉質系トウモロコシ、その他様々な品種および他の穀物を使用する可能性も含め、そのアルカリ煮熟を用いたスピリッツの製造、食用および/または工業用の蒸留アルコール製造のためにアルカリ煮熟の残留物を処理-利用することに直接的に関わるものである。
【0013】
この発明では、以下の項目を考察している。
カカワシントル・コーンのアルカリ煮熟、すなわち「ニシュタマリゼーション」(他の穀物または類似するその他粉質系トウモロコシの「ニシュタマリゼーション」を除外しない)。これは、トウモロコシまたは使用する穀物に独特でより強い官能構造を付与するプロセスで、ニシュタマリゼーションは高pH(pH=12±0.5)の溶液中で行われるという理解のもと、培地のpHを上げる水酸化カルシウム(Ca(OH)2)または他の化合物を用いる。
【0014】
アルカリ煮熟後、穀粒を粉砕する前に行うトウモロコシの脱水-焙煎。これは、水分を除去する追加の熱処理で、処理の強度に応じて穀粒の官能特性を変化させることができ、処理後の穀粒を直ちに加工しなくてもよくなる。
【0015】
食用もしくは工業用に適したアルコール製造のために、ネハヨーテすなわちアルカリ煮熟の残留物を処理-利用すること。このプロセスでは、始めにアルカリ煮熟の廃液を回収し、その後、トウモロコシ(予めニシュタマリゼーションを施して乾燥・焙煎したトウモロコシ。粉砕に用いる方法は本発明では限定しない)の粉末、加水分解酵素を加え、発酵・蒸留用のウォートを調製する。
【0016】
前述の項目1および2の後には、粉砕、ウォートの調製、加水分解酵素とモルトによる糖と澱粉の加水分解、アルコール発酵、蒸留、樽熟成(樽での熟成は任意であり、発明において限定するものではない)という工程が続く。このプロセスの最終産物は、トウモロコシの風味と香りが際立つ独特なアルコール飲料である。
【0017】
工程の中でアルカリ煮熟(ニシュタマリゼーション)が施されていないトウモロコシ穀粒を発酵させて製造される従来の製品とは異なり、本発明は、トウモロコシ穀粒(または他の穀物)から調製したスピリッツの官能特性を差別化し、その風味を高めようとするものである。
【0018】
本発明の範囲において、以下の弱点の解決を目指す。
酸化力が強く、官能特性を発現しやすいスピリッツ。
苦味が強い、または官能強度や奥深さに欠ける製品。
樽での熟成、あるいは食用に適した状態にするために風味付け(原語Avocamiento)等その後の調整工程が必要な製品。
【0019】
一方で、ネハヨーテの廃水処理工程とは異なり、本発明の範囲では、ネハヨーテ廃液を利用・処理して、廃棄物から利用および/または摂取できる産物の生成を目指す。これによって、ニシュタマルを扱う産業あるいは穀物をアルカリ溶液で煮熟する食品産業から出る廃棄物が与える環境負荷の低減を目的とする。
【0020】
本発明をより理解するために、以下に添付の図とともにその説明を供するが、これは例示であって限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、伝統的な方法によるウイスキー製造のフローチャートである。
図2図2は、本発明によるアルコール飲料の製造に用いられる方法のフローチャートである。なお、脱水-焙煎工程は本発明を限定するものではないため除外した。
図3図3は、トウモロコシ穀粒の脱水-焙煎工程を考慮した実施形態で本発明によるアルコール飲料の製造方法を示したフローチャートである。同工程は限定的なものではないが、最終産物を本質的に改善する。
図4図4は、本発明が考察する項目を含むフローチャートで、トウモロコシ穀粒のアルカリ煮熟、焙煎工程、アルカリ煮熟の残留物(ネハヨーテ)の処理-利用、蒸留残渣の使用に対応するものである。
図5図5は、精留された(ホワイト)スピリッツの試料、すなわち本特許出願に基づいて調製したものの二次蒸留から得た蒸留液に関して、トウモロコシ由来の蒸留酒(ホワイトウイスキー)と比較して評価した様々な属性を示すレーダーチャートである。
図6図6は、本特許出願による二次蒸留から得た精留(ホワイト)スピリッツの試料に対して、トウモロコシ由来の蒸留酒であるホワイト「ウイスキー」の試料を用いて評価した属性のヒストグラムである。
図7図7は、本特許出願に基づいて調製した熟成ウイスキーの試料に関して、市販ウイスキーの試料を用いて評価した様々な官能的属性を示すレーダーチャートである。
図8図8は、本特許出願に記載の手順に基づいて調製した熟成ウイスキーの試料に関して、市販ウイスキーの試料を用いて評価した属性のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ウイスキーの製造は、何世紀にもわたって適応してきた既知の技術であり、大麦、小麦、ライ麦、トウモロコシなど、様々な発酵可能な原料を使用することで改良が加えられてきた。発酵後、ウォートを蒸留して多様な種類の木樽で熟成させることで、官能的な違いが生み出される。
【0023】
図1によると、伝統的なウイスキーの製造工程は、モルティング(製麦)、粉砕、発酵、蒸留の各段階からなり、その詳細は以下の通りである。
モルティング:モルティングは、穀物を発芽させて、いわゆる「モルト」を作る断続的な工程である。この工程は、酵素を活性化させるために穀粒を水に浸すことから始まり、その後、3~5日かけて発芽が始まる「休止」プロセスを経て、最後に酵素の働きを止めるために穀粒を乾燥させる。
粉砕:穀粒を細かい粉末にする工程で、これを水と混ぜてウォートを作る。
発酵:発酵は、ウォートに含まれる糖分をアルコールに変化させる酵母を添加する工程である。
蒸留:蒸留とは、水、アルコール、その他香気成分の混合物を熱源にさらし、各成分(水、アルコールおよび特徴的な風味を与えるエステル、有機酸、揮発成分などのその他成分)に分離する工程である。一次蒸留は、ウォッシュ(原語:mosto muerto/モスト・ムエルト)の蒸留に相当し、有機固形分との混合物からアルコール、水、有機酸、香気成分などを分離するものである。一方、二次蒸留(精留)では、アルコール、水、有機酸、エステルなどを分離し、蒸留酒に特徴的な風味を与える。
【0024】
本発明の範囲によれば、図2図3を考慮に入れ、特許請求される発明の方法は、トウモロコシのアルカリ煮熟、脱水-焙煎、粉砕、加水分解、発酵、蒸留、精留および熟成の各段階からなる。これら段階の詳細を以下に示す。
【0025】
トウモロコシのアルカリ煮熟(ニシュタマリゼーション):カカワシントル・コーンやその他粉質系トウモロコシを受け入れ、香り、不純物(不良トウモロコシ穀粒の割合)、穀粒の水分など、様々な内部品質パラメータを考慮して評価する。続いて、水、pHを11~12.5の範囲に上げる化合物(KOH、NaOHなどが挙げられるが、Ca(OH)2が好ましい)を加えた煮熟槽にトウモロコシを入れ、約30分間煮て、そのまま約12~18時間静置する。浸漬時間が経過した後、アルカリ溶液の残りが全て除去されるまできれいな水ですすぐ(洗浄2~3時間)。洗浄水とアルカリ煮熟の廃液は、本書の請求項に記載するように、その後の処理-利用のために回収される。最後に、約2~3時間かけてトウモロコシの水切りがなされる。
【0026】
脱水-焙煎:前述したように、本発明では、脱水-焙煎工程を好ましい実施形態とするが、これに限定されない。トウモロコシ穀粒の焙煎を始める前に、15~60分間、100℃未満(好ましくは85~90℃)の熱風で予備乾燥を行う。その後、視覚と官能による管理プロセスにより温度を上昇させる。脱水-焙煎が所定の視覚・官能パラメータの範囲内にあれば、工程を続行し後述する規格を満たすまで100℃以上(好ましくは100~115℃)に温度を上げる。
【0027】
この方法は、以下のパラメータを満たしていなければならない。
【表1】
粉砕:焙煎工程が終わると、穀粒の粉砕が始まる。この工程によって細かい粉末にしたものを50℃の水を入れたタンクに加え、液中に分散させる。
加水分解:粉砕工程で細かい粉末が得られたら、50℃の水を入れたタンクに加え、液中に分散させる。粉末が均一に分散したら、加水分解酵素が最適に機能するように、塩酸(この実施形態では好ましいが、これに限定されない)でpHを6に調整する(加水分解酵素とモルティングしたトウモロコシを加えることによって加水分解が行われる)。本発明の範囲においては、加水分解酵素として、α-アミラーゼ、耐熱性酵素、アミログルコシダーゼを挙げることができる。
発酵:発酵は、高アルコール濃度に耐えられる酵母を加えて行う。発酵には、約72~96時間かかる。
蒸留:発酵工程が完了すると、銅製の蒸留器(好ましいが、これに限定されない)にウォッシュを注ぎ一次蒸留が行われる。蒸留液は、一定して官能評価が施され、ヘッドやテールを分離した蒸留液を精留工程(二次蒸留)にかける。
樽熟成:二次蒸留から得られるアルコールを官能的に評価し、合格すると熟成のために樽に入れられる(好ましいが、これに限定されない)。
【0028】
図4は、本発明で考察する項目のみを示したもので、トウモロコシのアルカリ煮熟、脱水-焙煎(以上、前述のとおり)ならびに廃液(ネハヨーテ)の処理-利用からなる。以下、分かりやすくするために、処理-利用工程について説明する。
【0029】
廃液(ネハヨーテ)の処理:
1.アルカリ煮熟(ニシュタマリゼーション)の残留物を回収する。
2.ネハヨーテを酸性化する。
3.ネハヨーテに、ニシュタマリゼーションを施したトウモロコシの粉末を加える。
4.処理済みのネハヨーテを加水分解する。(ウォート)
5.ウォートを発酵する。
6.ウォートを蒸留する。
【0030】
本特許申請によれば、トウモロコシは、アルカリ溶液内での煮熟と浸漬(ニシュタマリゼーション)が施されて物理化学的特性が変化し、洗浄および可溶混合物の除去を経て、α-D-1,4グリコシド結合の切断を生じる酵素とモルトを添加することで発酵性の糖に加水分解され、その後アルコール発酵工程に供される。
【0031】
このプロセスで起こる物理化学的変化は、トウモロコシベースのスピリッツの官能的・感覚的特性に良い影響を与え、より清麗かつ表情豊かで特異な蒸留酒を提供することができる。まず、ペクチン、ヘミセルロース、不溶性繊維を除去することで、モルトや他の酵素による加水分解工程が効率的に行われ、その段階における分散と糊化のプロセスが促される。カルシウムとリンは、発酵中の酵母の栄養分として機能する。油脂を減らすことで、できあがるスピリッツに苦味成分や雑味が発生するのを抑える。アルカリ煮熟中の原料の会合によって生成された香気成分が、その後の発酵過程において、処理済み穀物が有する様々な特性により発現することで、より甘く軽く優れた官能特性を持つ産物が得られる。
【0032】
前述したように、本特許出願の範囲では、穀物の煮熟の基本として、pHを上げる任意の化合物を使用することができる。これは、アルカリ処理であることを念頭に置くなら、いかなる基礎化合物でも支障なくアルカリ煮熟を実現する一助となりうるという理解の下、トウモロコシまたは穀物ならびにアルカリ化をもたらす化合物の性質に応じて煮熟時間、煮熟温度、圧力などに差異があることを考慮したうえで、上述の通り任意の化合物を使用することができるということである。
【0033】
この意味で、請求項に記載する発明は、トウモロコシ(または他の穀物)の発酵から生じるスピリッツの製造に使用することができ、官能特性を改善し、原料として使用されるトウモロコシの処理に寄与する。特許請求する発明の範囲において、「アルコール飲料」とは、範囲を限定することなくあらゆるスピリッツを意味するが、好ましくは、あらゆる種類の「ウイスキー」とする。
【0034】
請求項の発明における第2の実施形態として、本特許出願ではさらに、ネハヨーテ(アルカリ煮熟の廃液で、塩基性pH、高い化学的・生物学的酸素要求量を示し、使用原料のその他残留成分も含む)を回収および処理-利用することで、食用および/または工業用のアルコールを製造する方法について説明している。ネハヨーテは、環境に最も影響を与える廃棄物の1つであるため、この情報を考慮すると、これを食用または工業用のアルコール製造に利用することは、この研究において大きな重要性を持つ。
【0035】
なお、ここで言及し強調すべきこととして、本発明の範囲において、このニシュタマリゼーションの残留物を処理-利用する手順は、アルカリ煮熟工程(ニシュタマリゼーション)が行われる食品産業のあらゆる分野に適用可能であり、Ca(OH)2(消石灰)以外の化合物を用いたアルカリ煮熟の場合の処理-利用にも適用できる。
【0036】
ネハヨーテとアルカリ煮熟の残留物を処理して得られるアルコール蒸留液は、他のプロセスを経て得られるものとは異なる官能特性を有すると考えられ、あらゆる用途に利用することができる。
【実施例0037】
実施例1:
以下に、カカワシントル・コーンの穀粒を用いて行った本発明の実施例を挙げる。
【0038】
まず、原料500Kgに対し全部で1000Lの水を入れた調理鍋にトウモロコシを入れる。次に、消石灰(Ca(OH)2)を原料100Kgに対して1.15Kgの割合で加え、トウモロコシ穀粒を約30分から90分煮る(使用する機器の特性や制限事項をはじめ、加工場が立地する標高によっても時間は変わることがある)。煮熟時間が経過したら、そのまま約12時間浸漬した後、煮熟した穀粒の官能評価を行うものとし、合格したら穀粒の洗浄工程に進む。
【0039】
煮熟した穀粒を、きれいな水を入れた洗浄機に入れ、残ったアルカリ成分を除去する。洗浄工程が終了したら、煮熟したトウモロコシ穀粒を水切り槽に集め、約3時間かけて残りの水を切り、煮熟・洗浄した穀粒の官能評価(外観、におい、堅さ、味)を行う。
【0040】
その後、官能・品質基準を満たした穀粒を予備乾燥槽に入れて、熱風を用いて約15分間乾燥する。煮熟済みの穀粒(300kg)を計量して焙煎機のドラムに投入し、ワームスクリューを用いて焙煎機にセットし、焙煎と屑片除去の工程を開始し、温度85~100℃、吸引100%で約1時間続ける。前述した脱水-焙煎パラメータに基づいて官能評価(目視管理)を行い、適格と判断されれば100~115℃で焙煎し(2サイクル目の焙煎に相当)官能評価を行う。これに基づいて穀粒の脱水-焙煎が終了したかどうかを判断し、終了ならば冷却台に載せる。
【0041】
脱水-焙煎したトウモロコシは、アルコール飲料の製造工程(粉砕、加水分解、発酵、2回の蒸留)に使用するまで袋詰めで保管する。
【0042】
ネハヨーテとして知られるアルカリ煮熟工程の残留物については、あらかじめpHを4.5~6.0の範囲(サプライヤーの提供データによると、使用する酵素によって、この範囲が異なる場合がある)に調整した上で、加水分解酵素を用いて加水分解処理を施す。酵素の作用を最適化して高レベルの加水分解物を得るためにカカワシントル・コーンの粉末を加え、酵素が作用しネハヨーテが加水分解されるまで放置する。加水分解の後、高濃度のエタノールで発酵が可能な酵母を使用して発酵させ、最後にウォッシュを蒸留して、食用および/または工業用のアルコールを得る。
【0043】
実施例2:
以下に、市販のホワイトウイスキー4試料と比較した、「アバソロ・ウイスキー」と称する、アルコール飲料を二次蒸留した蒸留液(熟成前)の官能評価データ、ならびに「アバソロ・ウイスキー」と熟成ウイスキー4試料の比較による官能評価データを提供する。
【0044】
同様に、「アバソロ・ウイスキー」の二次蒸留から得た蒸留液と熟成を施した製品の官能的属性の違いを、市場の様々な試料と比較して定量化する。
【0045】
「アバソロ・ウイスキー」は、カカワシントル・コーンのニシュタマリゼーションと焙煎の工程により、スピリッツというカテゴリーにおいて変革を起こし、ある種独特な官能的特性を際立たせていることから、このカテゴリーでは唯一無二のアルコール飲料といえる。同様に、熟成前の「アバソロ・ウイスキー」の二次蒸留から得た蒸留液は、樽での円熟・熟成工程を施さない他のスピリッツとも異なる。
【0046】
この評価を行うにあたり、総意により、「アバソロ・ウイスキー」が有する様々な官能的属性を定義した。この特性に関し、市場の試料においても評価する。対象資料は、それぞれトウモロコシを原料とした、ホワイトスピリッツとバーボン樽で熟成したスピリッツである。
【0047】
手法
10種類の官能的属性を定義した(表1)。
【表2】
【0048】
官能評価は、有資格審査員が行い、各属性の強度を10段階の嗜好尺度を用いて評価点をつけた(表2)。
【表3】
【0049】
アバソロ・ウイスキーの二次蒸留から得たスピリッツ(熟成前)と比較するため、市販のホワイトスピリッツ4試料(表3)を選定した。
アバソロ・ウイスキーと比較して評価するため、市販の熟成ウイスキー4試料(表3)を選定した。
【表4】
【0050】
本調査で得た各属性に関する感じ方をレーダーチャートとヒストグラムで示す。
データ処理には、信頼水準95%、有意水準5%として統計的分散分析(ANOVA)を実施する。
結果および分析
二次蒸留から得た(ホワイト)スピリッツ
信頼できる統計母集団を得るために、合計6人の審査員が参加して分析を3回繰り返し、二次蒸留から得たスピリッツ1試料あたり合計18回の分析を行い、全ての評価について統計データを取得した。表4に、分析を行った各試料について評価したそれぞれの属性に関する反復の平均値を示す。
【表5】
【0051】
図5から、精留スピリッツ(アバソロ)が、トウモロコシ、ニシュタマリゼーションを施したトウモロコシ、焙煎したトウモロコシという属性において高い強度を示す一方で、その他の属性の強度は試料間で非常に接近していることが分かる。図6で、上に述べた結果を確認できる。
最後に、二次蒸留から得たスピリッツ(ホワイト)について、実施したANOVAの情報を表5で確認する。
表5から、集めたデータについて、F値はF値の臨界値より大きいので、試料間に差があることが分かる。
【表6】
【0052】
熟成ウイスキー試料については、信頼できる統計母集団を得るために、合計6人の審査員が分析を3回繰り返し、熟成ウイスキー1試料あたり合計18回の分析を行った。表6に、分析した熟成ウイスキー各試料について評価したそれぞれの属性に関する反復の平均値を示す。
【表7】
【0053】
図7から、アバソロ・ウイスキーが、トウモロコシ、ニシュタマリゼーションを施したトウモロコシ、焙煎したトウモロコシという属性において高い強度を示していることが分かる。一方で、木材、スパイシー、バニラ、カラメルといった他の属性については、熟成させたアバソロの方が他の試料よりも強度がやや低い。図8で、上に述べた結果を確認できる。
最後に、熟成ウイスキーについて、調査した試料のANOVAの情報を表7で確認する。
表7から、集めたデータについて、F値はF値の臨界値より大きいので、試料間に差があることが分かる。
【表8】
【0054】
結論
アバソロの二次蒸留から得たスピリッツ(ホワイト)は、トウモロコシ、ニシュタマリゼーションを施したトウモロコシ、焙煎したトウモロコシという属性において、調査した他の試料と明らかな違いがある(図5および図6)一方で、その他の属性においては同じような強度である。
【0055】
アバソロ・ウイスキーは、トウモロコシ、ニシュタマリゼーションを施したトウモロコシ、焙煎したトウモロコシという属性において、調査した他の試料と明らかな違いがある(図7および図8)。また、その他の属性についても違いがあり、木材、スパイシー、苦味が少なく、コクも浅い。
【0056】
この点に関し、前提として、試料が等しいという仮説をHo、試料が異なるという仮説をHaとすると、ANOVA分析に基づき、F値がその臨界値より小さければ、仮説Hoは採用され(試料間に差がない)、F値がその臨界値より大きければ、仮説Hoは棄却される(試料間に差がある)ことが分かる。したがって、信頼水準95%、有意水準5%に基づき、二次蒸留から得たスピリッツは分析した他の試料と異なり、また、アバソロ・ウイスキーは評価した他の熟成ウイスキーとは異なると結論付けられる。
【0057】
本発明では、その好ましい実施形態について説明したが、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明に多様な変更および修正が施されうることは、当業者にとっては明白であろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8