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特開2023-140689印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140689
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/06 20060101AFI20230928BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B41N1/06
B41M1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046657
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】麿 整
(72)【発明者】
【氏名】梶山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】舩山 耕生
(72)【発明者】
【氏名】小松 敬
【テーマコード(参考)】
2H113
2H114
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113AA02
2H113BA03
2H113BB22
2H113BB32
2H113CA17
2H113EA06
2H114AA03
2H114DA73
2H114EA02
(57)【要約】
【課題】印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整でき、且つ印刷パターンの表面粗さを抑えられる印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】印刷用凹版11は、セル13における印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する印刷方向土手間距離の比率をW開口率と規定し、セル13における印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する直交方向土手間距離と直交方向土手幅との和の比率をピッチL/W比と規定した場合に、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たす。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷方向に伸びる印刷方向土手と、前記印刷方向に直交する直交方向土手とによって区画された複数のセルを備え、
前記印刷方向土手には、隣り合う前記セル同士を前記直交方向に連通させる第1の切欠部が設けられ、
前記直交方向土手には、隣り合う前記セル同士を前記印刷方向に連通させる第2の切欠部が設けられ、
前記セルにおける印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する前記印刷方向土手間距離の比率をW開口率と規定し、
前記セルにおける前記印刷方向土手間距離と前記印刷方向土手幅との和に対する直交方向土手間距離と直交方向土手幅との和の比率をピッチL/W比と規定した場合に、
70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たす印刷用凹版。
【請求項2】
前記印刷方向に隣り合う前記第1の切欠部同士では、前記セルに対する前記印刷方向の位置が略同一となっている一方で、前記直交方向に隣り合う前記第1の切欠部同士は、前記セルに対する前記印刷方向の位置が異なっており、
前記印刷方向に隣り合う前記第2の切欠部同士では、前記セルに対する前記直交方向の位置が異なっている一方で、前記直交方向に隣り合う前記第2の切欠部同士は、前記セルに対する前記直交方向の位置が略同一となっている請求項1記載の印刷用凹版。
【請求項3】
前記複数のセルは、前記直交方向の中央側に位置する中央側セルと、前記直交方向の側端に位置する側端セルと、を有し、
前記側端セルの印刷方向土手幅は、前記中央側セルの印刷方向土手幅よりも大きくなっており、
前記側端セルの開口面積は、前記中央側セルの開口面積よりも小さくなっている請求項1又は2記載の印刷用凹版。
【請求項4】
前記側端セルの直交方向土手幅は、前記側端セルの印刷方向土手幅よりも小さくなっている請求項3記載の印刷用凹版。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の印刷用凹版を用いて内部電極層又は段差吸収層を形成する工程を含む積層型電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の印刷用凹版として、例えば特許文献1に記載のグラビア印刷スクリーンがある。この従来の印刷用凹版では、印刷ペーストの流れの傾向を制御するため、印刷パターンを構成するセルを区画している畝目が1箇所または数箇所で切断されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭39-16402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷用凹版においては、被印刷物に形成される印刷パターンの表面粗さを小さくできる技術が望まれている。しかしながら、上述した従来の印刷用凹版では、畝目の一部が切断されているものの、畝目が切断されている箇所と畝目に囲まれている箇所とで印刷ペーストの流れやすさの差異が大きいと考えられる。したがって、セル内に充填される印刷ペーストに厚みのばらつきが生じ易く、表面粗さが小さい印刷パターンを得るには不十分であった。
【0005】
また、実際の印刷の場面では、目的や用途に応じて、被印刷物に対して様々な厚さを有する印刷パターンの形成が想定され得る。印刷パターンの厚さを調整するにあたっては、印刷ペーストの物性を変更することが考えられる。しかしながら、印刷ペーストの物性を都度変更するのは煩雑であり、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整できる技術も望まれている。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整でき、且つ印刷パターンの表面粗さを抑えられる印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る印刷用凹版は、印刷方向に伸びる印刷方向土手と、印刷方向に直交する直交方向土手とによって区画された複数のセルを備え、印刷方向土手には、隣り合うセル同士を直交方向に連通させる第1の切欠部が設けられ、直交方向土手には、隣り合うセル同士を印刷方向に連通させる第2の切欠部が設けられ、セルにおける印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する印刷方向土手間距離の比率をW開口率と規定し、セルにおける印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する直交方向土手間距離と直交方向土手幅との和の比率をピッチL/W比と規定した場合に、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たす。
【0008】
この印刷用凹版では、W開口率を変更することで、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整できる。W開口率を70%以上とすることで、セルに対する印刷方向土手の面積が過剰とならず、印刷ペーストの十分な流動によって印刷方向土手による非転写部分が十分に埋められる。W開口率を90%以下とすることで、直交方向への印刷ペーストの流動性が保たれ、印刷方向土手と直交方向土手との直交部分による非転写部分が十分に埋められる。また、この印刷用凹版では、ピッチL/W比を0.65以上とすることで、直交方向土手間距離が十分に保たれ、非転写部分が埋め込まれるまでの印刷ペーストの流動性を維持できる。ピッチL/W比を1.3以下とすることで、印刷方向における印刷ペーストの流動性を確保でき、印刷方向土手と直交方向土手との直交部分による非転写部分を速やかに埋めることができる。以上により、この印刷用凹版では、形成される印刷パターンの表面粗さを抑えられる。
【0009】
印刷方向に隣り合う第1の切欠部同士では、セルに対する印刷方向の位置が略同一となっている一方で、直交方向に隣り合う第1の切欠部同士は、セルに対する印刷方向の位置が異なっており、印刷方向に隣り合う第2の切欠部同士では、セルに対する直交方向の位置が異なっている一方で、直交方向に隣り合う第2の切欠部同士は、セルに対する直交方向の位置が略同一となっていてもよい。
【0010】
この構成によれば、隣り合う第1の切欠部同士を結ぶようにセル間の直交方向の印刷ペースト流動経路が波状に形成され、隣り合う第2の切欠部同士を結ぶようにセル間の印刷方向の印刷ペースト流動経路が波状に形成される。また、隣り合う直交方向の印刷ペースト流動経路の位相が略同一となり、隣り合う印刷方向の印刷ペースト流動経路の位相が略同一となる。これにより、セル内での印刷ペーストの流れが均一化され、セル内に充填される印刷ペーストの厚さのばらつきが抑えれらる。したがって、形成される印刷パターンの表面粗さを一層抑えることができる。
【0011】
複数のセルは、直交方向の中央側に位置する中央側セルと、直交方向の側端に位置する側端セルと、を有し、側端セルの印刷方向土手幅は、中央側セルの印刷方向土手幅よりも大きくなっており、側端セルの開口面積は、中央側セルの開口面積よりも小さくなっていてもよい。
【0012】
側端セルの印刷方向土手幅を中央側セルの印刷方向土手幅よりも大きくし、側端セルの開口面積を中央側セルの開口面積よりも小さくすることで、転写時の側端セルでの印刷ペーストの糸引きを抑制できる。これにより、中央側での印刷パターンの厚さに比べて側端での印刷パターンの厚さが大きくなる、いわゆるサドル現象の発生を抑制できる。
【0013】
側端セルの直交方向土手幅は、側端セルの印刷方向土手幅よりも小さくなっていてもよい。側端セルの直交方向土手幅を抑えることで、側端セルによる印刷方向のペースト付着量に差が生じることを抑制できる。この結果、側端での印刷パターンの厚さのばらつきを抑えることが可能となる。また、側端での印刷パターンの直進性の向上も図られる。
【0014】
本開示の一側面に係る積層型電子部品の製造方法は、上記印刷用凹版を用いて内部電極層又は段差吸収層を形成する工程を含む。
【0015】
この積層型電子部品の製造方法では、上記印刷用凹版を用いることで、印刷ペーストの物性を変更することなく、形成される内部電極層又は段差吸収層の厚さを調整できる。また、形成される内部電極層又は段差吸収層の表面粗さを抑えられる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整でき、且つ印刷パターンの表面粗さを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係る印刷用凹版を適用したグラビアロールを示す模式的な斜視図である。
図2】本開示の一実施形態に係る印刷用凹版を示す平面図である。
図3図2に示した印刷用凹版の中央側セルを示す要部拡大平面図である。
図4図2に示した印刷用凹版の側端セルを示す要部拡大平面図である。
図5】印刷パターンの厚さ及び表面粗さに関する評価試験結果を示す図である。
図6】W開口率と印刷パターンの厚さとの関係を示すグラフである。
図7】L開口率と印刷パターンの厚さとの関係を示すグラフである。
図8】W開口率と印刷パターンの表面粗さとの関係を示すグラフである。
図9】ピッチL/W比と印刷パターンの表面粗さとの関係を示すグラフである。
図10】印刷パターンに生じるサドル現象の一例を示す模式的な図である。
図11】側端セルのW土手幅及びL土手幅とサドル高さとの関係を示すグラフである。
図12】印刷パターンのサドル高さ及び側端直進性に関する評価試験結果を示す図である。
図13】側端直進性の評価指標を示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る印刷用凹版及び積層型電子部品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態に係る印刷用凹版を適用したグラビアロールを示す模式的な斜視図である。同図に示すグラビアロール1は、例えば積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の製造工程で用いられる装置である。グラビアロール1は、当該製造工程において、積層型電子部品の素体を構成するセラミックグリーンシートに内部電極層のパターンを転写するために用いられる。
【0020】
内部電極層のパターンの転写には、印刷用凹版11が用いられる。印刷用凹版11を用いてグラビアロール1で印刷を行う場合、まず、印刷ペーストが充填されたタンク内に印刷用凹版11をセットしたグラビアロール1を浸漬する。これにより、印刷用凹版11の全体に印刷ペーストを付着させる。次に、グラビアロール1を回転させ、タンクから引き上げられた印刷用凹版11にドクターブレード2を左右に揺動させながら接触させる。これにより、印刷用凹版11に付着した余分な印刷ペーストが掻き取られ、各セル13(図2等参照)に適量の印刷ペーストが充填される。
【0021】
印刷用凹版11の各セル13に印刷ペーストを充填した後、グラビアロール1と圧胴とによってセラミックグリーンシートを挟み、所定の圧力を加えながらグラビアロール1と圧胴とを回転させる。これにより、印刷用凹版11の印刷ペーストが所定のパターンでセラミックグリーンシート上に転写される。転写の際、各セル13を構成する土手に対応する部分には印刷ペーストが直接付着しないが、時間の経過とともに周囲の印刷ペーストによって非転写部分が徐々に埋められ、最終的に略長方形状をなす内部電極層のパターンがセラミックグリーンシート上に形成される。
【0022】
印刷用凹版11は、内部電極層に限られず、段差吸収層の形成に用いることもできる。段差吸収層は、内部電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層する際に、内部電極層の厚さ分のシート間の段差を埋めるために用いられる層である。段差吸収層は、例えば内部電極層と同等の厚さで内部電極層の周囲に印刷される。印刷用凹版11は、グラビア印刷以外の印刷方式にも適用可能である。印刷用凹版11は、ディスプレイなどの他の電子機器の回路や電極の形成に用いることもできる。
【0023】
以下、印刷用凹版11の構成について詳細に説明する。
【0024】
図2は、本開示の一実施形態に係る印刷用凹版を示す平面図である。同図に示すように、印刷用凹版11は、例えば印刷方向(グラビアロール1の周方向に対応する方向)を長辺とし、印刷方向に直交する直交方向(グラビアロール1の軸方向に対応する方向)を短辺とする長方形状をなしている。印刷用凹版11の一面側には、印刷すべき図形パターン12が設けられている。
【0025】
図形パターン12は、例えば略正方形状をなす複数のセル13によって構成されている。これらのセル13は、印刷用凹版11の一面側に格子状に配列されている。図形パターン12は、直交方向の中央側に位置する中央側セル13Aと、直交方向の側端に位置する側端セル13Bとを有している。中央側セル13A及び側端セル13Bは、いずれも土手で囲われた矩形状の開口14を有している。印刷の際、開口14のそれぞれに上述した印刷ペーストが充填される。
【0026】
中央側セル13Aは、図3に示すように、印刷方向に伸びる一対の印刷方向土手15,15と、直交方向に伸びる一対の直交方向土手16,16とによって区画されている。中央側セル13Aでは、印刷方向土手15のそれぞれに対し、隣り合うセル13,13同士を直交方向に連通させる第1の切欠部21,21が設けられている。第1の切欠部21,21は、セル13の隅部に対応する位置に形成されている。印刷方向に隣り合うセル13,13では、セル13の同一の隅部に対応して第1の切欠部21,21が形成されている。直交方向に隣り合うセル13,13では、セル13の対角線上にある隅部のそれぞれに対応して第1の切欠部21,21が形成されている。
【0027】
中央側セル13Aでは、図3に示すように、直交方向土手16のそれぞれに対し、隣り合うセル13,13同士を印刷方向に連通させる第2の切欠部22,22が設けられている。第2の切欠部22,22は、セル13の隅部に対応する位置に形成されている。直交方向に隣り合うセル13,13では、セル13の同一の隅部に対応して第2の切欠部22,22が形成されている。印刷方向に隣り合うセル13,13では、セル13の対角線上にある隅部のそれぞれに対応して第2の切欠部22,22が形成されている。
【0028】
第1の切欠部21により、印刷用凹版11には、隣り合う第1の切欠部21,21を結ぶようにして、セル13,13間を直交方向に伸びる波状の印刷ペースト流動経路P1が形成されている。印刷方向に隣り合う印刷ペースト流動経路P1,P1間の位相は、互いに略同一となっている。第2の切欠部22により、印刷用凹版11には、隣り合う第2の切欠部22,22を結ぶようにして、セル13,13間を印刷方向に伸びる波状の印刷ペースト流動経路P2が形成されている。直交方向に隣り合う印刷ペースト流動経路P2,P2間の位相は、互いに略同一となっている。
【0029】
本実施形態では、第2の切欠部22の直交方向の幅K2は、第1の切欠部21の印刷方向の幅K1よりも大きくなっている。これにより、印刷方向に伸びる印刷ペースト流動経路P2における印刷ペーストの流動性は、直交方向に伸びる印刷ペースト流動経路P1における印刷ペーストの流動性よりも大きくなっている。第1の切欠部21の印刷方向の幅K1と、第2の切欠部22の直交方向の幅K2との比は、特に制限はないが、例えば1:1.5~1:8となっている。
【0030】
側端セル13Bは、図4に示すように、印刷方向に伸びる一つの印刷方向土手15と、直交方向に伸びる一対の直交方向土手16,16とによって区画されている。印刷方向土手15は、直交方向に一つ隣の中央側セル13Aを区画する印刷方向土手15と共通の土手であり、側端セル13Bの中央側セル13A側に位置している。側端セル13Bの側端側には、印刷方向土手15が配置されておらず、当該外端側は、開放された状態となっている。
【0031】
続いて、上述した中央側セル13A及び側端セル13Bの構成について更に詳細に説明する。
【0032】
中央側セル13Aにおいて、図3に示すように、W開口幅W1、W土手幅W2、L開口幅L1、L土手幅L2をそれぞれ規定する。W開口幅W1は、セル13を構成する一対の印刷方向土手15,15間の距離(印刷方向土手間距離)であり、一方の印刷方向土手15の開口14側の縁から他方の印刷方向土手15の開口14側の縁までの距離である。W土手幅W2は、印刷方向土手15における直交方向の幅(印刷方向土手幅)である。
【0033】
L開口幅L1は、セル13を構成する一対の直交方向土手16,16間の距離(直交方向土手間距離)であり、一方の直交方向土手16の開口14側の縁から他方の直交方向土手16の開口14側の縁までの距離である。L土手幅L2は、直交方向土手16における印刷方向の幅(直交方向土手幅)である。本実施形態では、L土手幅L2は、W土手幅W2と等しくなっている。
【0034】
中央側セル13Aにおいて、W開口率及びL開口率をそれぞれ以下のように規定する。W開口率は、セル13における印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する印刷方向土手間距離の比率である。L開口率は、セル13における直交方向土手間距離と直交方向土手幅との和に対する直交方向土手間距離の比率である。このようにW開口率及びL開口率を規定した場合、印刷用凹版11では、70%≦W開口率≦90%を満たしている。
W開口率(%)=100×(W開口幅W1/(W開口幅W1+W土手幅W2))
L開口率(%)=100×(L開口幅L1/(L開口幅L1+L土手幅L2))
【0035】
中央側セル13Aにおいて、ピッチL/W比を以下のように規定する。ピッチL/W比は、セル13における印刷方向土手間距離と印刷方向土手幅との和に対する直交方向土手間距離と直交方向土手幅との和の比率である。このようにピッチL/W比を規定した場合、印刷用凹版11では、0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たしている。
ピッチL/W比=(L開口幅L1+L土手幅L2)/(W開口幅W1+W土手幅W2)
【0036】
側端セル13Bにおいて、図4に示すように、印刷方向土手15における直交方向の幅(印刷方向土手幅)をW土手幅W3と規定し、直交方向土手16における印刷方向の幅(直交方向土手幅)をL土手幅L3と規定する。この場合、印刷用凹版11では、W土手幅W3>W土手幅W2を満たしている。本実施形態では、側端セル13Bの印刷方向土手15は、側端セル13Bの開口14側に幅広となっている。
【0037】
このため、側端セル13Bにおいて印刷方向土手15から直交方向に突出する直交方向土手16の突出長さF2は、中央側セル13Aにおいて、印刷方向土手15から直交方向に突出する直交方向土手16の突出長さF1(図3参照)よりも短くなっている。突出長さF2が突出長さF1よりも短いことで、側端セル13Bの開口面積S2は、中央側セル13Aの開口面積S1よりも小さくなっている。
【0038】
また、側端セル13Bでは、L土手幅L3<W土手幅W3を満たしている。すなわち、側端セル13Bの直交方向土手幅は、側端セル13Bの印刷方向土手幅よりも小さくなっている。本実施形態では、L土手幅L3は、L土手幅L2と等しくなっている。上述したように、L土手幅L2は、W土手幅W2と等しくなっている。したがって、本実施形態では、W土手幅W3>L土手幅L3=L土手幅L2=W土手幅W2となっている。
【0039】
以上の構成を有する印刷用凹版11では、W開口率を変更することで、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整できる。W開口率を70%以上とすることで、セル13に対する印刷方向土手15の面積が過剰とならず、印刷ペーストの十分な流動によって印刷方向土手15による非転写部分が十分に埋められる。W開口率を90%以下とすることで、直交方向への印刷ペーストの流動性が保たれ、印刷方向土手15と直交方向土手16との直交部分による非転写部分が十分に埋められる。
【0040】
また、印刷用凹版11では、ピッチL/W比を0.65以上とすることで、直交方向土手間距離が十分に保たれ、非転写部分が埋め込まれるまでの印刷ペーストの流動性を維持できる。ピッチL/W比を1.3以下とすることで、印刷方向における印刷ペーストの流動性を確保でき、印刷方向土手と直交方向土手との直交部分による非転写部分を速やかに埋めることができる。以上により、印刷用凹版11では、形成される印刷パターンの表面粗さを抑えられる。
【0041】
印刷用凹版11では、印刷方向に隣り合う第1の切欠部21,21同士は、セル13に対する印刷方向の位置が略同一となっている一方で、直交方向に隣り合う第1の切欠部21,21同士は、セル13に対する印刷方向の位置が異なっている。また、印刷用凹版11では、印刷方向に隣り合う第2の切欠部22,22同士は、セル13に対する直交方向の位置が異なっている一方で、直交方向に隣り合う第2の切欠部22,22同士は、セル13に対する直交方向の位置が略同一となっている。
【0042】
この構成によれば、隣り合う第1の切欠部21,21同士を結ぶようにセル13,13間の直交方向の印刷ペースト流動経路P1が波状に形成され、隣り合う第2の切欠部22,22同士を結ぶようにセル13,13間の印刷方向の印刷ペースト流動経路P2が波状に形成される。また、隣り合う直交方向の印刷ペースト流動経路P1,P1の位相が略同一となり、隣り合う印刷方向の印刷ペースト流動経路P2,P2の位相が略同一となる。これにより、セル13内での印刷ペーストの流れが均一化され、セル13内に充填される印刷ペーストの厚さのばらつきが抑えられる。したがって、形成される印刷パターンの表面粗さを一層抑えることができる。
【0043】
印刷用凹版11では、複数のセル13は、直交方向の中央側に位置する中央側セル13Aと、直交方向の側端に位置する側端セル13Bとを有している。側端セル13Bの印刷方向土手幅は、中央側セル13Aの印刷方向土手幅よりも大きくなっており、側端セル13Bの開口面積S2は、中央側セル13Aの開口面積S1よりも小さくなっている。
【0044】
このように、側端セル13Bの印刷方向土手幅を中央側セル13Aの印刷方向土手幅よりも大きくし、側端セル13Bの開口面積を中央側セル13Aの開口面積よりも小さくすることで、転写時の側端セルでの印刷ペーストの糸引きを抑制できる。これにより、中央側での印刷パターンの厚さに比べて側端での印刷パターンの厚さが大きくなる、いわゆるサドル現象(後述する)の発生を抑制できる。
【0045】
印刷用凹版11では、側端セル13Bの直交方向土手幅は、側端セル13Bの印刷方向土手幅よりも小さくなっている。側端セル13Bの直交方向土手幅を抑えることで、側端セル13Bによる印刷方向のペースト付着量に差が生じることを抑制できる。この結果、側端での印刷パターンの厚さのばらつきを抑えることが可能となる。また、側端での印刷パターンの直進性の向上も図られる。
【0046】
また、本実施形態の積層型電子部品の製造方法では、上記印刷用凹版11を用いることで、印刷ペーストの物性を変更することなく、形成される内部電極層又は段差吸収層の厚さを調整できる。また、形成される内部電極層又は段差吸収層の表面粗さを抑えられる。
【0047】
以下、本開示の実施例について説明する。本実施例では、まず、図5に示すように、W開口率及びピッチL/W比と印刷パターンの厚さ及び表面粗さとの関係について評価試験を行った。この評価試験では、W開口率及びピッチL/W比が異なる複数の印刷用凹版のサンプルを作製した。印刷ペーストには、積層型電子部品の内部電極層の形成に用いられる電極ペーストを用い、当該電極ペーストをセラミックグリーンシートに転写した際の印刷パターンの厚さと表面粗さをそれぞれ測定した。印刷パターンの表面粗さは、マクロRa(一定の二次元領域における算術平均粗さ)を指標とした。
【0048】
実施例1~8のそれぞれは、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たしている。実施例1~4では、L開口幅(直交方向土手間距離)及びL土手幅(直交方向土手幅)を一定とし、W開口幅(印刷方向土手間距離)及びW土手幅(印刷方向土手幅)を調整することで、W開口率及びピッチL/W比を上記範囲内で変えている。実施例5~8では、W開口幅(印刷方向土手間距離)、W土手幅(印刷方向土手幅)、L土手幅(直交方向土手幅)を一定とし、L開口幅(直交方向土手間距離)を調整することで、ピッチL/W比のみを上記範囲内で変えている。実施例1~8における各パラメータの具体的な数値は、図5に示すとおりである。
【0049】
比較例1は、0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たしているが、W開口率<70%となっている。比較例2は、0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たしているが、W開口率>90%となっている。比較例3は、70%≦W開口率≦90%を満たしているが、ピッチL/W比<0.65となっている。比較例4は、70%≦W開口率≦90%を満たしているが、ピッチL/W比>1.3となっている。比較例1~4における各パラメータの具体的な数値は、図5に示すとおりである。
【0050】
図5に示すように、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たす実施例1~8では、印刷パターンの表面粗さを示すマクロRaがいずれも10nm未満であった。一方、70%≦W開口率≦90%及び0.65≦ピッチL/W比≦1.3の一方を満たさない比較例1~4では、印刷パターンの表面粗さを示すマクロRaが15nm~50nmであった。この結果から、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たすことで、印刷パターンの表面粗さが抑えられることを確認できた。
【0051】
図6は、W開口率と印刷パターンの厚さとの関係を示すグラフである。図6では、横軸にW開口率[%]、縦軸に印刷パターンの厚さ[μm]を示し、図5に示した実施例1~8及び比較例1~4のW開口率と印刷パターンの厚さとをそれぞれプロットしている。図6の結果から、W開口率が65%~95%の範囲において、W開口率の増加に伴って印刷パターンの厚さが0.3μm~0.6μmの範囲で線形に増加していることが分かる。この結果から、W開口率を変更することで、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整できることが確認できた。
【0052】
図7は、L開口率と印刷パターンの厚さとの関係を示すグラフである。図7では、横軸にL開口率[%]、縦軸に印刷パターンの厚さ[μm]を示し、図5に示した実施例1~8及び比較例1~4のL開口率と印刷パターンの厚さとをそれぞれプロットしている。図7の結果から、L開口率が70%~95%の範囲において、L開口率が増加した場合でも印刷パターンの厚さは0.5μm~0.6μmの範囲でほぼ一定となっていることが分かる。このことから、L開口率の変更は、印刷パターンの厚さには寄与しないことが確認できた。
【0053】
図8は、W開口率と印刷パターンの表面粗さとの関係を示すグラフである。図8では、横軸にW開口率[%]、縦軸に印刷パターンのマクロRa[nm]を示し、図5に示した実施例1~8及び比較例1~4のW開口率と印刷パターンのマクロRaとをそれぞれプロットしている。図8の結果から、W開口率が70%以上90%以下の範囲では、印刷パターンのマクロRaが10nm以下に抑えられている。一方、W開口率が70%未満及び90%を超える場合では、印刷パターンのマクロRaが30nm~50nmとなっている。
【0054】
図9は、ピッチL/W比と印刷パターンの表面粗さとの関係を示すグラフである。図9では、横軸にピッチL/W比、縦軸に印刷パターンのマクロRa[nm]を示し、図5に示した実施例1~8及び比較例1~4のピッチL/W比と印刷パターンのマクロRaとをそれぞれプロットしている。図9の結果から、ピッチL/W比が0.65以上1.3以下の範囲では、印刷パターンのマクロRaが10nm以下に抑えられている。一方、ピッチL/W比が0.5未満及び1.3を超える場合では、印刷パターンのマクロRaが15nm~30nmとなっている。
【0055】
図6図8、及び図9の結果を合わせると、印刷用凹版において、70%≦W開口率≦90%を満たし、且つ0.65≦ピッチL/W比≦1.3を満たすことで、印刷ペーストの物性を変更することなく印刷パターンの厚さを調整でき、且つ印刷パターンの表面粗さを抑えられると結論付けられる。
【0056】
本実施例では、次に、側端セルのW土手幅及びL土手幅とサドル高さとの関係について評価試験を行った。上述したように、サドル現象とは、転写時の側端セルでの印刷ペーストの糸引きに起因し、図10に示すように、中央側での印刷パターンの厚さに比べて側端での印刷パターンの厚さが大きくなる現象である。ここでは、図10に示すように、中央側での印刷パターンの高さH1に対する側端での印刷パターンの厚さのピーク高さH2の高さの差をサドル高さとして評価を行った。
【0057】
図11は、側端セルのW土手幅及びL土手幅とサドル高さとの関係を示すグラフである。ここでは、側端セルのW土手幅及びL土手幅を中央側セルのW土手幅及びL土手幅と等しくしたサンプルAを基準とし、サンプルBでは、側端セルのW土手幅及びL土手幅を中央側セルのW土手幅及びL土手幅よりもそれぞれ3μmずつ幅広とした。また、サンプルCでは、側端セルのW土手幅及びL土手幅を中央側セルのW土手幅及びL土手幅よりもそれぞれ6μmずつ幅広とした。
【0058】
図11に示すように、基準であるサンプルAと比較して、側端セルのW土手幅及びL土手幅を幅広としたサンプルBでは、サドル高さが0.015μm程度低減した。側端セルのW土手幅及びL土手幅を更に幅広としたサンプルCでは、サドル高さが0.055μm程度低減した。この結果から、側端セルのW土手幅及びL土手幅を中央側セルのW土手幅及びL土手幅に対して幅広にするほど、サドル高さの低減効果が高まる傾向があることが確認できた。
【0059】
図12は、印刷パターンのサドル高さ及び側端直進性に関する評価試験結果を示す図である。側端直進性は、図13に示すように、転写後の印刷パターンにおける側端の凹凸の程度を示す指標である。ここでは、側端における直交方向の最大突出位置と最小突出位置との差Dの値を側端直進性の評価に用いた。差Dが大きい程側端直進性が低いことを示し、差Dが小さい程側端直進性が高いことを示している。また、ここでは、開口面積に準じたパラメータとして面開口率を用いている。面開口率は、印刷方向土手及び直交方向土手を含めたセルの全体の面積に対する開口の面積の割合である。面開口率は、W開口率とL開口率との積に一致する。
【0060】
実施例9~11では、いずれも側端セルの印刷方向土手幅が中央側セルの印刷方向土手幅よりも大きくなっている。実施例11では、側端セルの直交方向土手幅と側端セルの印刷方向土手幅とが等しくなっているが、実施例9,10では、側端セルの直交方向土手幅が側端セルの印刷方向土手幅よりも小さくなっている。また、実施例9~11では、いずれも側端セルの開口面積が中央側セルの開口面積よりも小さくなっている。一方、比較例5では、側端セルの印刷方向土手幅が中央側セルの印刷方向土手幅と等しくなっている。また、比較例5では、側端セルの直交方向土手幅と側端セルの印刷方向土手幅とが等しくなっている。比較例5では、側端セルの開口面積と中央側セルの開口面積とが等しくなっている。
【0061】
図12に示すように、比較例5では、サドル高さが80nm、側端部直進性が12μmであった。これに対し、実施例9~11では、サドル高さが30nm以下に低減した。このことから、側端セルの印刷方向土手幅を中央側セルの印刷方向土手幅よりも大きくし、側端セルの開口面積を中央側セルの開口面積よりも小さくすることがサドル現象の発生に寄与することが確認できた。また、実施例9,10では、側端部直進性が7~8μmに低減した。したがって、側端セルの直交方向土手幅を側端セルの印刷方向土手幅よりも小さくすることが側端直進性の向上に寄与することも確認できた。
【符号の説明】
【0062】
11…印刷用凹版、13…セル、13A…中央側セル、13B…側端セル、15…印刷方向土手、16…直交方向土手、21…第1の切欠部、22…第2の切欠部、W1…W開口幅(印刷方向土手間距離)、W2,W3…W土手幅(印刷方向土手幅)、L1…L開口幅(直交方向土手間距離)、L2,L3…L土手幅(直交方向土手幅)、S1…中央側セルの開口面積、S2…側端セルの開口面積。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13