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特開2023-140718溶融成形装置およびガラス振動子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140718
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】溶融成形装置およびガラス振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/035 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C03B23/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046698
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015AA01
4G015AA13
4G015AB02
4G015AB10
(57)【要約】
【課題】ガラス振動子の溶融成形装置を提供する。
【解決手段】溶融成形装置は、平坦な上面と、上面の一部に形成されている穴部と、穴部の周囲を取り囲むように上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形型は、上面に穴部を覆うように板状の被加工材料を配置することが可能に構成されている。溶融成形装置は、穴部を加熱することが可能な加熱手段を備える。溶融成形装置は、穴部に負圧を発生させることが可能な穴部負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、成形型通気孔に負圧を発生させることが可能な成形型通気孔負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、加熱手段、穴部負圧発生手段および成形型通気孔負圧発生手段を制御可能な制御部を備える。制御部は、加熱手段による穴部の加熱が開始される前に、成形型通気孔負圧発生手段によって成形型通気孔に負圧を発生させることが可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な上面と、前記上面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の周囲を取り囲むように前記上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型であって、前記上面に前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置することが可能に構成されている前記溶融成形型と、
前記穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段と、
前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段と、
前記成形型通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている成形型通気孔負圧発生手段と、
前記加熱手段、前記穴部負圧発生手段および前記成形型通気孔負圧発生手段を制御可能に構成されている制御部と、
を備える溶融成形装置であって、
前記制御部は、前記加熱手段による前記穴部の加熱が開始される前に、前記成形型通気孔負圧発生手段によって前記成形型通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている、溶融成形装置。
【請求項2】
平坦な上面と前記上面の一部に形成されている穴部とを備える溶融成形型であって、前記上面に前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置することが可能に構成されている前記溶融成形型と、
表面にプレート通気孔が形成されており、前記溶融成形型の下面に接触しているプレートと、
前記穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段と、
前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段と、
前記プレート通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されているプレート通気孔負圧発生手段と、
前記加熱手段、前記穴部負圧発生手段および前記プレート通気孔負圧発生手段を制御可能に構成されている制御部と、
を備える溶融成形装置であって、
前記制御部は、前記加熱手段による前記穴部の加熱が開始される前に、前記プレート通気孔負圧発生手段によって前記プレート通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている、溶融成形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記加熱手段による前記穴部の加熱が開始された後に、前記穴部負圧発生手段によって前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている、請求項1または2に記載の溶融成形装置。
【請求項4】
前記溶融成形装置は、前記溶融成形型の温度を計測可能に構成されている温度計をさらに備えており、
前記制御部は、前記温度計で計測される温度が予め定められた所定温度まで上昇したことを検知して、前記穴部負圧発生手段によって前記穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている、請求項1~3の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【請求項5】
前記穴部は、前記上面に垂直な軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えており、
前記穴部は、前記軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱を備えており、
前記温度計は、前記支柱の温度を測定可能に構成されている、請求項4に記載の溶融成形装置。
【請求項6】
前記溶融成形装置は、前記溶融成形型の温度を調整可能に構成されているヒートシンクをさらに備える、請求項1~5の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、燃料ガスおよび酸素ガスを用いて火炎を生成する装置であり、
前記加熱手段は、前記燃料ガスおよび前記酸素ガスを予め混合する予混合室を備えている、請求項1~6の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【請求項8】
平坦な上面と、前記上面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の周囲を取り囲むように前記上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法であって、
前記溶融成形型の前記上面に、前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記成形型通気孔に負圧を発生させる成形型通気孔負圧発生工程と、
前記成形型通気孔負圧発生工程の後に、前記被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程と、
前記穴部に負圧を発生させる穴部負圧発生工程と、
を備える、ガラス振動子の製造方法。
【請求項9】
平坦な上面と、前記上面の一部に形成されている穴部と、前記穴部の周囲を取り囲むように前記上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法であって、
表面にプレート通気孔が形成されているプレートの上面に、前記溶融成形型を配置する工程と、
前記プレート通気孔に負圧を発生させるプレート通気孔負圧発生工程と、
前記溶融成形型の前記上面に、前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程と、
前記穴部に負圧を発生させる穴部負圧発生工程と、
を備える、ガラス振動子の製造方法。
【請求項10】
前記穴部負圧発生工程は、前記加熱工程による加熱の開始後に、前記穴部に負圧を発生させる、請求項8または9に記載のガラス振動子の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス振動子の製造方法は、温度計を用いて前記被加工材料の温度に対応する前記溶融成形型の温度を測定する温度測定工程をさらに備えており、
前記穴部負圧発生工程は、前記溶融成形型の温度が予め定められた温度まで上昇したことが検知された後に、前記穴部に負圧を発生させる、請求項8~10の少なくとも1項に記載のガラス振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガラス振動子の溶融成形装置およびガラス振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカ製振動子を用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的には、表面に穴部が形成されている溶融成形型に、穴部を塞ぐように被加工材料(例:石英板、溶融シリカ板、ガラス板)を配置する。穴部の内部を減圧しながら、被加工材料の上面をバーナの火炎で加熱する。穴部の内部に入り込むように被加工材料を溶融変形させることで、半球形状の振動子を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱された被加工材料(ガラス、シリカ、石英)の熱は、被加工材料と溶融成形型の表面との接触面を介して溶融成形型へ排熱される。しかし、被加工材料と溶融成形型との接触が不十分であったり、均一に接触していない場合には、被加工材料から溶融成形型へ至る排熱経路に、熱伝達の変動や不均一性が発生してしまう場合がある。その結果、溶融変形後の振動子の半球形状が非対称となってしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する溶融成形装置は、平坦な上面と、上面の一部に形成されている穴部と、穴部の周囲を取り囲むように上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形型は、上面に穴部を覆うように板状の被加工材料を配置することが可能に構成されている。溶融成形装置は、穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段を備える。溶融成形装置は、穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、成形型通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている成形型通気孔負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、加熱手段、穴部負圧発生手段および成形型通気孔負圧発生手段を制御可能に構成されている制御部を備える。制御部は、加熱手段による穴部の加熱が開始される前に、成形型通気孔負圧発生手段によって成形型通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている。
【0006】
成形型通気孔負圧発生手段により被加工材料が溶融成形型の上面に十分に吸着固定された後に、加熱手段によって被加工材料を加熱することができる。被加工材料と溶融成形型の上面とが均一かつ十分に接触している状態で入熱できるため、被加工材料から溶融成形型へ至る排熱経路に、熱伝達の変動や不均一性が発生することを抑制できる。温度分布を穴部に対して高い対称性にすることができるため、高い対称性を有する振動子を作製することが可能となる。
【0007】
本明細書が開示する溶融成形装置は、平坦な上面と上面の一部に形成されている穴部とを備える溶融成形型を備える。溶融成形型は、上面に穴部を覆うように板状の被加工材料を配置することが可能に構成されている。溶融成形装置は、表面にプレート通気孔が形成されており、溶融成形型の下面に接触しているプレートを備える。溶融成形装置は、穴部を加熱することが可能に構成されている加熱手段を備える。溶融成形装置は、穴部に負圧を発生させることが可能に構成されている穴部負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、プレート通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されているプレート通気孔負圧発生手段を備える。溶融成形装置は、加熱手段、穴部負圧発生手段およびプレート通気孔負圧発生手段を制御可能に構成されている制御部を備える。制御部は、加熱手段による穴部の加熱が開始される前に、プレート通気孔負圧発生手段によってプレート通気孔に負圧を発生させることが可能に構成されている。
【0008】
プレート通気孔負圧発生手段により溶融成形型がプレートの表面に十分に吸着固定された後に、加熱手段によって被加工材料を加熱することができる。溶融成形型とプレート表面とが均一かつ十分に接触している状態で入熱できるため、被加工材料から溶融成形型を介してプレートへ至る排熱経路に、熱伝達の変動や不均一性が発生することを抑制できる。温度分布を穴部に対して高い対称性にすることができるため、高い対称性を有する振動子を作製することが可能となる。
【0009】
制御部は、加熱手段による穴部の加熱が開始された後に、穴部負圧発生手段によって穴部に負圧を発生させることが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
溶融成形装置は、溶融成形型の温度を計測可能に構成されている温度計をさらに備えていてもよい。制御部は、温度計で計測される温度が予め定められた所定温度まで上昇したことを検知して、穴部負圧発生手段によって穴部に負圧を発生させることが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
穴部は、上面に垂直な軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えていてもよい。穴部は、軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱を備えていてもよい。温度計は、支柱の温度を測定可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
溶融成形装置は、溶融成形型の温度を調整可能に構成されているヒートシンクをさらに備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
加熱手段は、燃料ガスおよび酸素ガスを用いて火炎を生成する装置であってもよい。加熱手段は、燃料ガスおよび酸素ガスを予め混合する予混合室を備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
本明細書が開示する成型方法の一実施形態は、平坦な上面と、上面の一部に形成されている穴部と、穴部の周囲を取り囲むように上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法である。製造方法は、溶融成形型の上面に、穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。製造方法は、成形型通気孔に負圧を発生させる成形型通気孔負圧発生工程を備える。製造方法は、成形型通気孔負圧発生工程の後に、被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程を備える。製造方法は、穴部に負圧を発生させる穴部負圧発生工程を備える。効果の詳細は実施例で説明する。
【0015】
本明細書が開示する成型方法の一実施形態は、平坦な上面と、上面の一部に形成されている穴部と、穴部の周囲を取り囲むように上面に形成されている成形型通気孔と、を備える溶融成形型を用いたガラス振動子の製造方法である。製造方法は、表面にプレート通気孔が形成されているプレートの上面に、溶融成形型を配置する工程を備える。製造方法は、プレート通気孔に負圧を発生させるプレート通気孔負圧発生工程を備える。製造方法は、溶融成形型の上面に、穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。製造方法は、被加工材料の上面を加熱手段で加熱する加熱工程を備える。製造方法は、穴部に負圧を発生させる穴部負圧発生工程を備える。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
穴部負圧発生工程は、加熱工程による加熱の開始後に、穴部に負圧を発生させてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0017】
ガラス振動子の製造方法は、温度計を用いて被加工材料の温度に対応する溶融成形型の温度を測定する温度測定工程をさらに備えていてもよい。穴部負圧発生工程は、溶融成形型の温度が予め定められた温度まで上昇したことが検知された後に、穴部に負圧を発生させてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1の溶融成形装置1の断面概略図である。
図2】実施例1の溶融成形装置1の上面図である。
図3】成形型20の斜視図である。
図4】実施例1のガラス振動子の製造工程を説明するフロー図である。
図5】溶融変形後の石英板30の断面を示す概略図である。
図6】BRG160の上面図および断面図である。
図7】実施例2の溶融成形装置201の断面図である。
図8】実施例2の溶融成形装置201の上面図である。
図9】実施例2のガラス振動子の製造工程を説明するフロー図である。
図10】変形例の吸着溝20tを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
図1に、溶融成形装置1の断面概略図を示す。図2に、溶融成形装置1の上面図を示す。図1は、図2のI-I線における断面図に対応している。なお図2では、バーナ50、放射温度計60、電動ステージ45の記載を省略している。溶融成形装置1は、プレート10、成形型20、石英板30、ヒートシンク40、電動ステージ45、バーナ50、放射温度計60、制御部70、穴部負圧発生手段81、成形型通気孔負圧発生手段82、を主に備える。
【0020】
図3に、成形型20の斜視図を示す。成形型20は、石英板30を溶融変形させて半球形状の振動子を成形するための型である。成形型20の材料をグラファイトとした。本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成形型20は、下面20r、上面20s、穴部20h、支柱20p、貫通孔20e、通気孔20v、を備える。下面20rおよび上面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。上面20sは、下面20rと平行である。上面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱である。底面20bには、下面20rに貫通している複数の貫通孔20eが形成されている。貫通孔20eは第1連絡孔10c1に連通している。
【0021】
通気孔20vは、穴部20hの周囲を取り囲むように上面20sに形成されている。通気孔20vは、下面20rに貫通している。通気孔20vは、中心軸CAに対して回転対称に8個配置されている。通気孔20vは、成形型通気孔の一例である。
【0022】
プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は、成形型20を冷却する機能を備えている。プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1、第2連絡孔10c2、が形成されている。第1連絡孔10c1は、貫通孔20eに対応した位置に配置されており、貫通孔20eと接続されている。第1連絡孔10c1は、第1連絡路10p1を介して穴部負圧発生手段81に接続されている。穴部負圧発生手段81は、穴部20hに負圧を発生させることが可能な手段である。第2連絡孔10c2は、通気孔20vに対応した位置に配置されており、通気孔20vと接続されている。第2連絡孔10c2は、第2連絡路10p2を介して成形型通気孔負圧発生手段82に接続されている。成形型通気孔負圧発生手段82は、通気孔20vに負圧を発生させることが可能な手段である。
【0023】
穴部負圧発生手段81および成形型通気孔負圧発生手段82は、互いに独立動作が可能であるとともに、石英板30の加工中に常時動作が可能である。穴部負圧発生手段81および成形型通気孔負圧発生手段82は、例えば真空ポンプであってもよい。
【0024】
ヒートシンク40は、プレート10の下面10rと接触している。ヒートシンク40の内部には、循環配管41が配置されている。循環配管41は、チラー設備42に接続されている。循環配管41には、チラー設備42によって恒温化された冷媒が循環している。これによりヒートシンク40は、工程中に一定の温度を保ち続ける。石英板30の加工中における、成形型20からプレート10への放熱性能の変動を抑制することができる。すなわちヒートシンク40は、プレート10を介して成形型20の温度を調整することが可能に構成されている。結果、振動子の加工再現性を高めることが可能となる。
【0025】
電動ステージ45上には、ヒートシンク40、プレート10、成形型20が載置されている。電動ステージ45は、x,y方向(水平方向)に移動可能に構成されている。
【0026】
成形型20の上面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、振動子を形成するための被加工材料である。石英板30の厚さは、例えば100μm以下である。本実施例では石英板30は円形であるが、正方形や正六角形や正八角形であってもよい。
【0027】
バーナ50は、火炎により石英板30を加熱する手段である。バーナ50は、上下方向(±z方向)に移動する可動機構53に固定されている。これによりバーナ50は、中心軸CAに沿って上下に移動可能である。バーナ50は、予混合室50cを備えている。予混合室50cには、ガス供給設備51からガス流量調整器52を介して、燃料ガスG1および酸素ガスG2が供給される。予混合室50cによって燃料ガスG1および酸素ガスG2を予め混合した上で燃焼させることができるため、安定した火炎を発生させることが可能となる。
【0028】
放射温度計60の焦点を支柱20pに当てることによって、放射温度計60は、支柱20pの温度を非接触で測定できる。支柱20pの温度は、加工中の石英板30の温度に応じた温度を示す。放射温度計60の測定点である焦点を透明な石英板30に合わせることは非常に難しいため、支柱20pの温度を測定することにより、間接的に石英板30の温度を測定することが可能である。
【0029】
制御部70は、穴部負圧発生手段81~プレート通気孔負圧発生手段83、可動機構53、ガス流量調整器52、放射温度計60に接続されており、これらの機器から各種情報を取得するとともに、これらの機器を制御する。制御部70は、例えば例えばPCであってもよい。
【0030】
(ガラス振動子の製造工程)
図4のフロー図を用いて、ガラス振動子の製造工程を説明する。ステップS10において、プレート10の表面10sに、成形型20を設置する。またチラー設備42から循環配管41に冷媒を常時循環させることで、ヒートシンク40を恒温状態にする。
【0031】
ステップS30において、成形型20の上面20sに石英板30を配置する。このとき、中心軸CAと石英板30の中心とが一致するように位置決めする。ステップS40において、成形型通気孔負圧発生手段82によって、第2連絡孔10c2を介して通気孔20vに負圧を発生させる。石英板30を上面20sに吸着固定させることができる。これにより、図1に示す状態となる。
【0032】
ステップS50において、制御部70は、放射温度計60による支柱20pの温度の測定を開始する。ステップS60において、制御部70は、バーナ50に着火する。具体的には、ガス供給設備51から提供される燃料ガスG1および酸素ガスG2の流量を、ガス流量調整器52によって制御する。そして火炎が安定するまで待機する。ステップS70において制御部70は、可動機構53を制御することで、バーナ50を所定の位置に下降させて、石英板30に火炎をあてる。これにより、火炎による石英板30の加熱が開始される。
【0033】
ステップS80において、制御部70は、支柱20pの温度が予め定められた所定温度まで上昇したか否かを判断する。本実施例では、穴部20h上の石英板30が軟化温度に到達した場合における支柱20pの温度を、所定温度としている。これにより、石英板30が軟化温度まで加熱されたことを検出することができる。支柱20pの温度が所定温度まで上昇したことを検知して(S80:YES)、ステップS90へ進む。
【0034】
ステップS90において、制御部70は、穴部負圧発生手段81を動作させる。これにより、第1連絡孔10c1および貫通孔20eを介して、穴部20hに負圧が発生する。ステップS100において、火炎からの入熱、および、穴部20hに発生した負圧と大気圧との差圧による分布荷重によって、穴部20hに入り込むように石英板30を溶融変形させることができる。これにより、図5に示すように、石英板30を所望の形状に溶融変形させることができる。なお図5では、プレート10、成形型20およびバーナ50のみを示している。
【0035】
ステップS110において制御部70は、加工終点を検出することに応じて、バーナ50を上昇させて消火する。加工終点の検出方法は様々であってよい。例えば、支柱20pの温度が、加工終点を示す温度まで上昇したことを検出してもよい。また例えば、所定時間の経過を検出してもよい。ステップS120において制御部70は、穴部負圧発生手段81、成形型通気孔負圧発生手段82の順序で停止する。ステップS130において、溶融成形された石英板30を成形型20から取り外す。石英板30の外周の未成形領域UR(図5参照)をCMP法などによって除去することで、ガラス振動子が完成する。
【0036】
ステップS140において、Bird-bath Resonator Gyroscope (BRG)を組み立てる。図6(A)に、BRG160の上面図を示す。また図6(B)に、図6(A)のB-B線における断面図を示す。BRG160は、振動子131、ガラス基板161、シリコン電極162、を備える。振動子131は、アンカー131aおよびリム131rを備えている。アンカー131aは、ガラス基板161の固定部161fに固定されている。シリコン電極162は、リム131rの周囲を取り囲むように配置されている。
【0037】
BRG160の動作を説明する。振動子131とシリコン電極162との間に所望の周波数で電圧を印加し、振動子131を共振駆動させる。この状態でBRG160にz軸周りの回転が作用すると、振動モードが変化する。その変化に伴う振動子131とシリコン電極162の間の静電容量を計測することにより、角速度を高精度に検出することができる。
【0038】
(効果)
本明細書の技術では、支柱20pの温度が予め定められた所定温度(軟化温度)まで上昇したと判断されることに応じて(ステップS80)、穴部負圧発生手段81によって穴部20hに負圧を発生させることができる(ステップS90)。これにより、バーナ50により石英板30の全体が均一な温度になった後に、石英板30に差圧分布荷重を印加することができる。従って、穴部20h上の石英板30の何れの場所においても、同時に溶融変形を開始させることができる。よって、中心軸CAに対して高い対称性形状を有する振動子を、高い再現性で加工することができる。本技術で製造された高対称性形状を有する振動子は、振動ロスの少ない高いQ値を有する。よって本高Q振動子を用いることによって、高精度のジャイロセンサを作製することが可能となる。
【0039】
成形型通気孔負圧発生手段82によって通気孔20vに負圧を発生させることで、石英板30を成形型20の上面20sに吸着固定させることができる(ステップS40)。石英板30と上面20sとの間に存在する微小空隙(空気層)を減少させることができるため、石英板30から成形型20への熱伝達を向上させることができるとともに、場所依存性を低減させることができる。成形型通気孔負圧発生手段82は、火炎工程中(ステップS70~S100)において、常時動作する。そのため、本火炎工程中における、石英板30から成形型20を介してプレート10へ至る排熱経路の熱伝達の変動および不均一性を抑制することができる。石英板30の温度分布を、中心軸CAに対して高い対称性を保った温度分布にすることができるため、高い対称性形状を有する振動子を作製することが可能となる。
【実施例0040】
図7に、実施例2の溶融成形装置201の断面図を示す。図8に、溶融成形装置201の上面図を示す。図7は、図8のVII-VII線における断面図に対応している。実施例1の成形装置1と共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例2に特有の部位については、200番台の符号を付すことで区別する。
【0041】
プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1、通気孔210v、吸着溝210t、が形成されている。図8の点線に示すように、プレート10の表面10sには、2重のリング形状の吸着溝210tが形成されている。吸着溝210tには、通気孔210vが連通している。通気孔210vは、第3連絡路210p3を介してプレート通気孔負圧発生手段283に接続されている。プレート通気孔負圧発生手段283は、通気孔210vおよび吸着溝210tに負圧を発生させることが可能な手段である。なお通気孔210vは、プレート通気孔の一例である。
【0042】
また実施例2の溶融成形装置201は、実施例1の溶融成形装置1に比して、成形型通気孔負圧発生手段82、第2連絡路10p2、第2連絡孔10c2、通気孔20v、を備えていない。
【0043】
(ガラス振動子の製造工程)
図9のフロー図を用いて、実施例2に係るガラス振動子の製造工程を説明する。なお、実施例1のフロー図(図4)と共通するステップには同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例2に特有のステップについては、ステップ番号の末尾に「a」の符号を付すことで区別する。
【0044】
ステップS20aにおいて、プレート通気孔負圧発生手段283によって、プレート10の通気孔210vを介して吸着溝210tに負圧を発生させる。これにより、成形型20をプレート10に吸着固定させることができる。また実施例1のステップS40は実施しない。ステップS120aにおいて制御部70は、穴部負圧発生手段81、プレート通気孔負圧発生手段283の順序で停止する。
【0045】
(効果)
プレート通気孔負圧発生手段283によって吸着溝210tに負圧を発生させることで、成形型20をプレート10に吸着固定させることができる(ステップS20a)。成形型20とプレート10の表面10sとの間に存在する微小空隙(空気層)を減少させることができるため、成形型20からプレート10への熱伝達を向上させることができるとともに、場所依存性を低減させることができる。成形型20の温度分布を、中心軸CAに対して高い対称性を保った温度分布にすることができるため、高い対称性形状を有する振動子を成形することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
(変形例)
成形型20の上面20sに形成されている通気孔20vの形状、配置位置、配置数は特に限定されず、様々な態様であってよい。図10の変形例に示すように、上面20sには、穴部20hの外周を取り囲んでいるリング形状の吸着溝20tが形成されていてもよい。吸着溝20tには、通気孔20vが連通している。成形型通気孔負圧発生手段82によって吸着溝20tに負圧を発生させることで、石英板30を上面20sに吸着固定させることができる(ステップS40)。
【0048】
プレート10の表面10sに形成されている通気孔210vおよび吸着溝210tの形状や数は様々であってよい。例えば吸着溝210tを備えていなくてもよい。
【0049】
溶融成形装置1の構成は様々であってよい。例えば、放射温度計60を備えていなくてもよい。この場合、加熱開始から所定時間が経過したことに応じて、穴部負圧発生手段81を動作させ、穴部20hに負圧を発生させればよい。
【0050】
実施例1の溶融成形装置1と実施例2の溶融成形装置201とを組み合わせてもよい。これにより、石英板30を成形型20の上面20sに吸着固定するとともに、成形型20をプレート10に吸着固定することができる。
【0051】
図4および図9のフローは一例であり、ステップの順番は様々であってよい。例えば、穴部20hに負圧を発生させるステップ(S90)の順番は、図4および図9のステップS30~S80の間の何れの位置であってもよい。
【0052】
温度測定は、非接触式、接触式を問わない。放射温度計60の配置位置や測定位置は限定されない。放射温度計60の測定部位は、支柱20pに限られず、様々な部位を測定してもよい。
【0053】
振動子の材料は、石英板30に限られない。石英にナトリウム等を混ぜたボロシリケートガラスや、その他のガラス材でもよい。
【0054】
成形型20に、多数個の穴部20hがあってもよい。電動ステージ45をx,y方向に駆動させて位置決めし、1個の場合と同様にバーナ50を可動機構53でz方向に移動させて石英板30を溶融成形する。
【0055】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0056】
1:溶融成形装置 10:プレート 20:成形型 20h:穴部 20p:支柱 30:石英板 50:バーナ 60:放射温度計 70:制御部 81:穴部負圧発生手段 82:成形型通気孔負圧発生手段 283:プレート通気孔負圧発生手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10