(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140722
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】溶融成形装置および振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20230928BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20230928BHJP
C03B 19/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C03B20/00 E
H03H3/02 A
C03B20/00 G
C03B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046704
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
【テーマコード(参考)】
4G014
5J108
【Fターム(参考)】
4G014AH00
5J108KK01
5J108MM08
(57)【要約】
【課題】振動子の溶融成形装置を提供する。
【解決手段】溶融成形装置は、平坦な上面と、上面に垂直な中心軸を中心として上面の一部に形成されている穴部と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形装置は、中心軸の上方に配置されており、穴部と対向して配置されているバーナ先端部を有しており、バーナ先端部から穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナを備える。溶融成形装置は、上面と平行な平面方向において、火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な上面と、前記上面に垂直な中心軸を中心として前記上面の一部に形成されている穴部と、を備える溶融成形型と、
前記中心軸の上方に配置されており、前記穴部と対向して配置されているバーナ先端部を有しており、前記バーナ先端部から前記穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、
前記上面と平行な平面方向において、前記火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部と、
を備える、溶融成形装置。
【請求項2】
前記火炎位置制御部は、前記バーナ先端部と前記上面との距離を略一定に維持しながら、前記平面方向における前記バーナ先端部の位置を移動可能に制御する、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項3】
前記火炎位置制御部は、前記中心軸を中心とした回転対称に配置されている3つ以上の電極を、前記火炎の周囲に備えており、
前記火炎位置制御部は、3つ以上の前記電極の間に発生する電界によって、前記平面方向における前記火炎の位置を移動可能に制御する、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項4】
前記火炎位置制御部は、3つ以上の前記電極の各々に、第1極性の電圧と、前記第1極性とは反対の第2極性の電圧と、の何れかを印加することが可能に構成されており、
前記火炎位置制御部は、前記第1極性の電圧が印加される電極を変更可能に制御する、請求項3に記載の溶融成形装置。
【請求項5】
前記火炎位置制御部は、前記平面方向における前記火炎の位置を、前記中心軸を中心とした回転対称な軌跡で移動させることが可能に構成されている、請求項2~4の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【請求項6】
前記火炎位置制御部は、前記中心軸に対して線対称に配置された電極対を、前記火炎の周囲に複数備えており、
前記火炎位置制御部は、複数の前記電極対の各々に、第1極性の電圧または前記第1極性とは反対の第2極性の電圧の何れかを印加することが可能に構成されている、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項7】
前記火炎位置制御部は、前記第1極性の電圧が印加される前記電極対を変更可能に制御する、請求項6に記載の溶融成形装置。
【請求項8】
前記溶融成形型の温度を測定する温度センサであって、前記穴部の周囲に前記中心軸を中心とした回転対称に配置されている3か所以上の測定点の温度を測定可能に構成されている前記温度センサをさらに備え、
前記火炎位置制御部は、3か所以上の前記測定点の間の測定温度の温度差が小さくなるように、前記火炎の前記平面方向における位置を制御することが可能に構成されている、請求項1~7の何れか1項に記載の溶融成形装置。
【請求項9】
平坦な上面と、前記上面に垂直な中心軸を中心として前記上面の一部に形成されている穴部と、を備える溶融成形型と、
前記中心軸の上方に配置されており、前記穴部と対向して配置されているバーナ先端部を有しており、前記バーナ先端部から前記穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、
前記上面と平行な平面方向において、前記火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部と、
を備える溶融成形装置を用いた振動子の製造方法であって、
前記上面に、前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記バーナ先端部から火炎を発生させる工程と、
前記穴部に負圧を発生させている状態で前記火炎位置制御部によって前記火炎の位置を移動させながら、前記被加工材料を前記火炎で加熱する加熱工程と、
を備える、振動子の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、前記バーナ先端部と前記上面との距離を略一定に維持しながら、前記平面方向における前記バーナ先端部の位置を移動させる、請求項9に記載の振動子の製造方法。
【請求項11】
前記火炎位置制御部は、前記中心軸を中心とした回転対称に配置されている3つ以上の電極を、前記火炎の周囲に備えており、
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、3つ以上の前記電極の間に発生する電界によって、前記平面方向における前記火炎の位置を移動させる、請求項9に記載の振動子の製造方法。
【請求項12】
前記火炎位置制御部は、3つ以上の前記電極の各々に、第1極性の電圧と、前記第1極性とは反対の第2極性の電圧と、の何れかを印加することが可能に構成されており、
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、前記第1極性の電圧が印加される電極を変更する、請求項11に記載の振動子の製造方法。
【請求項13】
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、前記平面方向における前記火炎の位置を、前記中心軸を中心とした回転対称な軌跡で移動させる、請求項9~12の何れか1項に記載の振動子の製造方法。
【請求項14】
前記火炎位置制御部は、前記中心軸に対して線対称に配置された電極対を、前記火炎の周囲に複数備えており、
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、複数の前記電極対の各々に、第1極性の電圧または前記第1極性とは反対の第2極性の電圧の何れかを印加する、請求項9に記載の振動子の製造方法。
【請求項15】
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、前記第1極性の電圧が印加される前記電極対を変更する、請求項14に記載の振動子の製造方法。
【請求項16】
前記溶融成形装置は、前記溶融成形型の温度を測定する温度センサであって、前記穴部の周囲に前記中心軸を中心とした回転対称に配置されている3か所以上の測定点の温度を測定可能に構成されている前記温度センサをさらに備えており、
前記加熱工程において、前記火炎位置制御部は、3か所以上の前記測定点の間の測定温度の温度差が小さくなるように、前記火炎の前記平面方向における位置を制御する、請求項9~15の何れか1項に記載の振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、振動子の溶融成形装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカを振動子に用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的には、上面の一部に穴部が形成されている溶融成形型を準備する。穴部は、成形型の上面に垂直な中心軸を中心として、上面の一部に形成されている。穴部を塞ぐように被加工材料(例:石英板)を配置し、被加工材料の下面を減圧し、被加工材料の上面をバーナで加熱する。穴部の内部に入り込むように被加工材料を溶融変形させることで、半球形状の振動子を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
穴部の中心軸に対して高い対称性を備えた振動子を作製するためには、穴部の中心軸に対して同心円状の温度分布で入熱する必要がある。しかし火炎の温度分布は、中心軸に対して非対称性を有するため、高い対称性を備えた振動子を作製することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する溶融成形装置は、平坦な上面と、上面に垂直な中心軸を中心として上面の一部に形成されている穴部と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形装置は、中心軸の上方に配置されており、穴部と対向して配置されているバーナ先端部を有しており、バーナ先端部から穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナを備える。溶融成形装置は、上面と平行な平面方向において、火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部を備える。
【0006】
上記構成では、上面と平行な平面方向において、火炎の位置を移動させることができる。これにより、火炎温度分布の中心軸に対する非対称性を改善することができる。中心軸に対して同心円状の温度分布で入熱することができるため、高い対称性を備えた振動子を作製することが可能となる。
【0007】
火炎位置制御部は、バーナ先端部と上面との距離を略一定に維持しながら、平面方向におけるバーナ先端部の位置を移動可能に制御してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
火炎位置制御部は、中心軸を中心とした回転対称に配置されている3つ以上の電極を、火炎の周囲に備えていてもよい。火炎位置制御部は、3つ以上の電極の間に発生する電界によって、平面方向における火炎の位置を移動可能に制御してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
火炎位置制御部は、3つ以上の電極の各々に、第1極性の電圧と、第1極性とは反対の第2極性の電圧と、の何れかを印加することが可能に構成されていてもよい。火炎位置制御部は、第1極性の電圧が印加される電極を変更可能に制御してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
火炎位置制御部は、平面方向における火炎の位置を、中心軸を中心とした回転対称な軌跡で移動させることが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
火炎位置制御部は、中心軸に対して線対称に配置された電極対を、火炎の周囲に複数備えていてもよい。火炎位置制御部は、複数の電極対の各々に、第1極性の電圧または第1極性とは反対の第2極性の電圧の何れかを印加することが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
火炎位置制御部は、第1極性の電圧が印加される電極対を変更可能に制御してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
溶融成形型の温度を測定する温度センサであって、穴部の周囲に中心軸を中心とした回転対称に配置されている3か所以上の測定点の温度を測定可能に構成されている温度センサをさらに備えていてもよい。火炎位置制御部は、3か所以上の測定点の間の測定温度の温度差が小さくなるように、火炎の平面方向における位置を制御することが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
本明細書が開示する振動子の製造方法の一実施形態は、平坦な上面と、上面に垂直な中心軸を中心として上面の一部に形成されている穴部と、を備える溶融成形型と、中心軸の上方に配置されており、穴部と対向して配置されているバーナ先端部を有しており、バーナ先端部から穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、上面と平行な平面方向において、火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部と、を備える溶融成形装置を用いた振動子の製造方法である。振動子の製造方法は、上面に、穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。振動子の製造方法は、バーナ先端部から火炎を発生させる工程を備える。振動子の製造方法は、穴部に負圧を発生させている状態で火炎位置制御部によって火炎の位置を移動させながら、被加工材料を火炎で加熱する加熱工程を備える。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の溶融成形装置1の断面概略図である。
【
図3】振動子の製造工程を説明するフロー図である。
【
図4】バーナ中心軸BAの移動軌跡TR1の一例を示す図である。
【
図6】実施例2の溶融成形装置201の断面側面図である。
【
図7】実施例2の溶融成形装置201の断面上面図である。
【
図10】実施例2の第1変形例を示す断面側面図である。
【
図11】実施例2の第2変形例を示す断面側面図である。
【
図12】実施例2の第3変形例を示す断面側面図である。
【
図13】実施例3の溶融成形装置301の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0016】
(溶融成形装置1の構成)
図1に、溶融成形装置1の断面概略図を示す。
図2に、溶融成形装置1の上面図を示す。
図1は、
図2のI-I線における断面図に対応している。なお
図2では、バーナ50、可動機構53および電動ステージ45の記載を省略している。
【0017】
電動ステージ45は、xy方向(水平方向)に移動可能に構成されている。電動ステージ45は、平坦な載置面45sを備えている。載置面45s上には、ヒートシンク40およびプレート10を介して、成形型20が載置されている。
【0018】
ヒートシンク40は、電動ステージ45と成形型20との間に配置されている。ヒートシンク40は、プレート10の下面10rと接触している。ヒートシンク40の内部には、循環配管41が配置されている。循環配管41は、チラー設備42に接続されている。循環配管41には、チラー設備42によって恒温化(例:35℃)された熱媒が循環している。これによりヒートシンク40は、工程中に一定の温度を保ち続けることができる。
【0019】
プレート10は、ヒートシンク40上に配置されている。プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は、成形型20を冷却する機能を備えている。プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1が形成されている。第1連絡孔10c1は、貫通孔20eに対応した位置に配置されており、貫通孔20eと接続している。第1連絡孔10c1は、第1連絡路10p1を介して負圧発生手段81に接続されている。負圧発生手段81は、穴部20hに負圧を発生させることが可能な手段である。負圧発生手段81は、例えば真空ポンプであってもよい。
【0020】
成形型20は、プレート10の表面10s上に配置されている。成形型20は、石英板30を溶融変形させて半球形状の振動子を成形するための型である。成形型20の材料はグラファイトとした。本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成形型20は、下面20r、上面20s、穴部20h、支柱20p、貫通孔20e、を備える。下面20rおよび上面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。上面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心として円筒状にくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱である。底面20bには、下面20rに貫通している複数の貫通孔20eが形成されている。貫通孔20eは第1連絡孔10c1に連通している。
【0021】
成形型20の上面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、振動子を形成するための被加工材料である。石英板30は、溶融シリカ製とした。石英板30の厚さは、例えば100μm以下である。本実施例では石英板30は正方形であるが、円形や正六角形であってもよい。
【0022】
バーナ50は、中心軸CAの上方に配置されている。バーナ50は、予混合室50c、チューブ50t、バーナ先端部50s、を備えている。予混合室50cには、ガス流量調整器52から、燃料ガスG1(例:プロパン)および酸素ガスG2が供給される。ガス流量調整器52は、不図示のマスフローコントローラを備えており、燃料ガスG1および酸素ガスG2の流量の制御および監視が可能である。チューブ50tは、予混合室50cから下方側へ延びている。チューブ50tは、上下方向に延びるバーナ中心軸BAを有する、円筒形状の部材である。チューブ50tの下端には、穴部20hと対向するバーナ先端部50sが配置されている。バーナ先端部50sから穴部20hに向けて火炎を発生させることにより、石英板30を加熱することができる。
【0023】
バーナ50は、可動機構53に固定されている。可動機構53は、上下方向(±z方向)、および、上面20sに平行なxy平面方向に移動可能な機構である。可動機構53は、バーナ先端部50sを、中心軸CAに沿って上下に移動させることができる。また可動機構53は、バーナ先端部50sと上面20sとの距離を略一定に維持しながら、2次元のxy平面内でバーナ先端部50sの位置を移動させることができる。
【0024】
制御部70は、電動ステージ45、可動機構53、ガス流量調整器52、負圧発生手段81に接続されている。制御部70は、これらの機器から各種情報を取得するとともに、これらの機器を制御する。制御部70は、例えば例えばPCであってもよい。
【0025】
(振動子の製造工程)
図3のフロー図を用いて、振動子の製造工程を説明する。ステップS10において、チラー設備42から循環配管41に熱媒を常時循環させることで、ヒートシンク40を恒温状態にする。またプレート10の表面10sに、成形型20を設置する。
【0026】
ステップS20において、成形型20の上面20sに石英板30を配置する。このとき、中心軸CAと石英板30の中心とが一致するように位置決めする。制御部70からの信号により負圧発生手段81は、第1連絡孔10c1の真空引きを行う。これにより、貫通孔20eを介して穴部20hも真空引きされ、石英板30が成形型20の上面20sに吸着固定される。これにより、
図1および
図2に示す状態となる。
【0027】
ステップS30において、制御部70は、バーナ50に着火する。着火は、バーナ先端部50sが石英板30の表面から十分に離れている退避位置において行われる。
【0028】
ステップS40において制御部70は、可動機構53を制御することにより、バーナ先端部50sの位置を、2次元のxy平面内で移動させる。移動軌跡は、中心軸CAを中心とした回転対称な軌跡であり、一筆書きの軌跡である。なお、軌跡を一周する周期は、石英板30の溶融変形に必要な加工時間に比して、十分に短いことが好ましい。例えば加工時間が10~20秒程度である場合には、軌跡を一周する周期は、数秒以下であることが好ましい。これにより、中心軸CAに対して同心円状の温度分布で入熱することが可能となる。
【0029】
移動軌跡の軌道は様々であって良い。バーナ50の温度分布の非対称性に合わせて、軌跡の軌道を選択してもよい。例えば、円、トロコイド曲線、多角形やn芒星などのベクタースキャン、ラスタースキャン、などの軌道であってよい。軌道を適宜選択することにより、温度分布の対称性を改善する効果が得られる。
図4に、バーナ先端部50sにおけるバーナ中心軸BAの移動軌跡TR1の一例を示す。
図4の移動軌跡TR1は、内トロコイド曲線の一種である。
【0030】
ステップS50において制御部70は、可動機構53を制御することによりバーナ50を下降させて、バーナ先端部50sと石英板30との距離を小さくする。これにより、火炎による石英板30の加熱工程が開始される。
【0031】
下降を開始するタイミング、および、バーナ先端部50sと石英板30との距離は、様々な態様で制御することが可能である。例えば、ステップS30でバーナ50に着火してから予め設定した時間が経過することに応じて下降を開始し、バーナ先端部50sと石英板30とが予め定めた距離まで近づくことによって下降を停止してもよい。また例えば、不図示の放射温度計で支柱20pの温度を計測し、温度フィードバック制御により、下降タイミングやバーナ先端部50sと石英板30との距離を決定してもよい。
【0032】
石英板30には、大気圧と穴部20h内の負圧との差圧による分布荷重が印加されている。よって、石英板30が軟化温度まで加熱されることに応じて、穴部20hに入り込むように石英板30を溶融変形させることができる。ステップS60において、石英板30の溶融変形が完了したと判断されると(S60:YES)、ステップS70へ進む。加工終点の検出方法は様々であって良い。例えば、ステップS50でバーナ50を下降させてから、予め定められた加工時間が経過することに応じて、加工終点を検出してもよい。
【0033】
ステップS70において制御部70は、可動機構53を制御し、バーナ50を上昇させる。そして退避位置まで移動することに応じて、上昇を停止する。また火炎を消火する。ステップS80において制御部70は、可動機構53を制御することにより、バーナ先端部50sのxy平面内での移動を停止する。
【0034】
ステップS90において制御部70は、冷却の完了を待機する。冷却が完了すると、制御部70は、負圧発生手段81を停止する。これにより穴部20hが大気開放される。ステップS100において、溶融成形された石英板30を成形型20から取り外す。石英板30の外周の未成形領域をCMP法やレーザーカット法などによって除去することで、振動子が完成する。
【0035】
(課題)
穴部20hの中心軸CAに対して高い対称性を備えた振動子を作製するためには、中心軸CAに対して同心円状の温度分布でバーナ50から入熱する必要がある。しかし火炎の温度分布は、中心軸CAに対して非対称性を有するため、高い対称性を備えた振動子を作製することが困難である。
【0036】
そこで従来、石英板30を吸着させた成形型20を中心軸CA周りに回転させ、火炎の温度分布の非対称性を抑制する技術があった。しかしこの従来技術では、成形型20下に設置されるプレート10ごと回転させる必要がある。プレート10は排熱の制御性や均一性を高めるために熱容量を大きくする必要があり、大重量である。従って、回転機構が大型化するなどの問題があった。また穴部20hを減圧しながら回転させる必要があるため、回転摺動部の気密性を高める必要がある。従って、装置全体が高額になるという問題があった。また従来技術では、加工中に、回転による遠心力が石英板30に印加される。そして、成形型20の劣化や加工中の石英板30の溶融破壊によるリークなどによって、穴部20hの負圧による石英板30の吸着力が低下すると、石英板30が外れて飛散するおそれがあるため、問題であった。
【0037】
また火炎の温度分布の非対称性を改善するために、バーナ50をバーナ中心軸BA周りに回転させるという手法も考えられる。しかし、バーナ50には燃料ガスG1の配管が接続されているため、配管が外れたりガス漏れが発生したりする危険性があり、問題である。また、バーナ50をバーナ中心軸BA周りに±180度の繰り返し回転させる(脈動させる)という手法も考えられる。しかし、回転の反転時に回転速度の加減速を伴うため、火炎温度分布の均一性を高めることが困難であり、問題である。
【0038】
(効果)
実施例1の溶融成形装置1では、バーナ先端部50sの位置を、中心軸CAを中心とした回転対称な軌跡で、xy平面内で移動させることができる。これにより、中心軸CAに対して同心円状の温度分布で、均熱帯の広い入熱を実現することができる。高い対称性を備えた振動子を作製することが可能となる。
【0039】
本実施例の溶融成形装置1では、プレート10を回転させることなく、火炎の温度分布の対称性を高めることができる。よって、装置の大型化や高額化を抑制することが可能となる。また、石英板30の吸着力が低下した場合においても、石英板30が飛散してしまうことがない。
【0040】
本実施例の溶融成形装置1では、バーナ50をバーナ中心軸BA周りに回転させることなく、火炎の温度分布の対称性を高めることができる。よって、配管が外れたりガス漏れが発生したりする危険性を抑制することが可能となる。
【0041】
(実施例1の変形例)
xy平面内でバーナ先端部50sの位置を移動させる機構は、可動機構53に限られず、様々な機構であってよい。例えば
図5の斜視図に示すように、バーナ50の上部に、360°回転可能な回動支持点50rを備えてもよい。そして不図示の機構によって、バーナ中心軸BAを、回動支持点50rを中心に振ってもよい。これにより、すりこぎ運動と呼ばれる動作によって、バーナ先端部50sの位置を移動させることができる。
【0042】
なお、すりこぎ運動させるエリアは狭くてよいため、中心軸CAに対するバーナ中心軸BAの傾斜角は10°以下と小さくすることができる。従って、バーナ50が傾斜することによる、バーナ先端部50sと石英板30との距離の変動は無視できる程度に小さいため、入熱の均一性においては問題ない。
電極261~264は、火炎FLが発生する領域の周囲を取り囲むように、不図示の保持機構によって配置されている。電極261~264は、中心軸CAを中心とした回転対称に配置されている。電極261および263と、電極262および264とによって、中心軸CAに対して線対称に配置された電極対が形成されている。電極261~264の各々は、制御部70に接続されている。制御部70は、電極261~264の各々に、マイナス電圧およびプラス電圧の何れかを印加することが可能に構成されている。
バーナ50を機械的に駆動する構成では、駆動する部材の慣性モーメントが大きい場合に、駆動周波数を高くすることが困難である。一方、実施例2の電界駆動では、慣性モーメントの問題がないため、駆動周波数を自由に設定することが可能となる。
なお、成形型20への電圧印加の態様は様々であって良い。例えば、直流のマイナス電圧を印加してもよい。これにより、火炎FLの先端部を広げた状態で維持することが可能になる。また例えば、交流電圧を印加してもよい。これにより、火炎FLの先端部を広げたり狭めたりするように、周期的に変動させることが可能となる。
火炎FLはプラズマなので、通常の空気より絶縁耐圧が低い。そのため火炎FLを介して電極間で放電が発生し、電界強度が低下してしまう場合がある。そこで内面261iおよび263iに絶縁体を配置することにより、電極間での放電を抑制できるため、電界強度の低下を防止することが可能となる。