(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140738
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】壁面移動車
(51)【国際特許分類】
B62D 57/02 20060101AFI20230928BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B62D57/02 L
B60B19/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046730
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 晴彦
(57)【要約】
【課題】搭載物が車輪から前方にはみ出していても、安定した走行を行うことが可能な壁面移動車を提供する。
【解決手段】接触する面に吸着可能であり、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替え可能な第1車輪及び第2車輪が車体に取り付けられている。走行モータが、第1車輪及び第2車輪を回転させる。制御部が、第1車輪及び第2車輪のそれぞれを、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替えるとともに、回転を制御する。制御部は、第1面を第2車輪から第1車輪に向かう方向に走行する第1走行モードと、第2車輪が第1面に接触した状態で、第1車輪を吸着解除状態に設定し、第2車輪を吸着状態に設定し、第1車輪が第1面から浮き上がった状態で、第1面から立ち上がる第2面に第1車輪が接触するまで第2車輪を回転させて走行する第2走行モードとを実現させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に取り付けられ、接触する面に吸着可能であり、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替え可能な第1車輪及び第2車輪と、
前記第1車輪及び前記第2車輪を回転させる走行モータと、
前記第1車輪及び前記第2車輪のそれぞれを、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替えるとともに、前記第1車輪及び前記第2車輪の回転を制御する制御部と
を備え、
前記第1車輪及び前記第2車輪は、前記第1車輪及び前記第2車輪を回転させたときに前記車体が移動する方向である走行方向に間隔を置いて取り付けられており、
前記制御部は、
第1面を前記第2車輪から前記第1車輪に向かう方向に走行する第1走行モードと、
前記第2車輪が前記第1面に接触した状態で、前記第1車輪を吸着解除状態に設定し、前記第2車輪を吸着状態に設定し、前記第1車輪が前記第1面から浮き上がった状態で、前記第1面から立ち上がる第2面に前記第1車輪が接触するまで前記第2車輪を回転させて走行する第2走行モードと
を実現させる壁面移動車。
【請求項2】
前記車体は、前記第2車輪から前記第1車輪に向かう方向に、前記第1車輪より突出した第1先端部を有し、
前記制御部は、前記第1先端部が前記第2面に接触した状態で、前記第2走行モードを実現させる請求項1に記載の壁面移動車。
【請求項3】
前記車体は、前記第1先端部に設けられた第1補助輪を有する請求項2に記載の壁面移動車。
【請求項4】
前記制御部は、さらに、
前記第1車輪が前記第2面に接触し、前記第2車輪が前記第1面に接触した状態で、前記第1車輪を吸着状態に設定し、前記第1車輪を回転させて走行する第3走行モードを実現させる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の壁面移動車。
【請求項5】
前記車体は、前記第1車輪から前記第2車輪に向かう方向に、前記第2車輪より突出した第2先端部を有し、
前記制御部は、さらに、
前記第2先端部が前記第1面に接触し、前記第1車輪が前記第2面に接触した状態で、前記第1車輪を吸着状態に設定し、前記第2車輪を吸着解除状態に設定し、前記第2車輪が前記第1面から浮き上がった状態で前記第1車輪を回転させて走行する第4走行モードを実現させる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の壁面移動車。
【請求項6】
前記車体は、前記第2先端部に設けられた第2補助輪を有する請求項5に記載の壁面移動車。
【請求項7】
前記制御部は、さらに、
前記第1車輪及び前記第2車輪が前記第2面に接触した状態で、前記第1車輪及び前記第2車輪を共に吸着状態に設定し、前記第1車輪及び前記第2車輪を回転させて走行する壁面走行モードを実現させる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の壁面移動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触する面に吸着する車輪を備えた壁面移動車に関する。
【背景技術】
【0002】
造船や大型クレーン等の製造現場において、曲面形状を含む大型の鉄鋼部材表面に磁気吸着されて走行し、溶接、塗装、外観検査等の作業を行う壁面移動車が知られている。下記の特許文献1に、磁気吸着車輪を備えた壁面移動車が開示されている。特許文献1に開示された壁面移動車は、球面形状を有する球殻車輪と、球殻車輪の中に配置された永久磁石とを含む。永久磁石は、球殻車輪の中で揺動可能に支持されている。磁石駆動部が永久磁石を回転駆動させることにより、磁気吸着力を発生させる方向を制御することができる。
【0003】
例えば、壁面移動車が水平な床面から、ほぼ垂直に立ち上がった壁面に移動する際に、前輪が壁面に接触すると、前輪の永久磁石を壁面に向け、前輪を壁面に吸着させる。この状態で前輪を駆動することにより、前輪が壁面を上る。後輪が壁面に近づくと、後輪の永久磁石を壁面に向け、後輪を壁面に吸着させる。前輪及び後輪の両方が壁面に吸着された状態で、壁面移動車が壁面を上る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸着車輪を備えた壁面移動車は、運搬すべき物や、壁面上で種々の作業を行うための作業ツールを搭載している。壁面移動車に搭載される作業ツールの例として、外観検査用のカメラ等の種々のセンサ、溶接トーチ、ガスやエアプラズマによる切断機、グラインダ等の研磨ツール、塗装スプレーガン、その他に汎用的に作業を行うための小型ロボットアーム等が挙げられる。このような搭載物の大きさはまちまちであり、前輪より前方に搭載物がはみ出す場合がある。搭載物が前輪より前方にはみ出すと、床面から壁面に移動する場合、前輪が壁面に接触する前に搭載物が壁面に接触してしまう。前輪が壁面に接触できないため、従来の構造の壁面移動車では、床面から壁面に移動することができない。
【0006】
本発明の目的は、搭載物が車輪から前方にはみ出していても、安定した走行を行うことが可能な壁面移動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
車体と、
前記車体に取り付けられ、接触する面に吸着可能であり、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替え可能な第1車輪及び第2車輪と、
前記第1車輪及び前記第2車輪を回転させる走行モータと、
前記第1車輪及び前記第2車輪のそれぞれを、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替えるとともに、前記第1車輪及び前記第2車輪の回転を制御する制御部と
を備え、
前記第1車輪及び前記第2車輪は、前記第1車輪及び前記第2車輪を回転させたときに前記車体が移動する方向である走行方向に間隔を置いて取り付けられており、
前記制御部は、
第1面を前記第2車輪から前記第1車輪に向かう方向に走行する第1走行モードと、
前記第2車輪が前記第1面に接触した状態で、前記第1車輪を吸着解除状態に設定し、前記第2車輪を吸着状態に設定し、前記第1車輪が前記第1面から浮き上がった状態で、前記第1面から立ち上がる第2面に前記第1車輪が接触するまで前記第2車輪を回転させて走行する第2走行モードと
を実現させる壁面移動車が提供される。
【発明の効果】
【0008】
第2走行モードにおいて、第1車輪を吸着解除状態に設定することにより、第1車輪が第1面から浮き上がることができる。この状態で第2車輪を回転させて、第1車輪が第2面に接触するまで走行することにより、第1面から第2面に移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施例による壁面移動車の側面図である。
【
図2】
図2は、一実施例による壁面移動車の正面図である。
【
図3】
図3は、第1走行モードで走行しているときの壁面移動車及び壁面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図4】
図4は、第1走行モードから第2走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図5】
図5は、第2走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図6】
図6は、第3走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図7】
図7は、第3走行モードから壁面走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図8】
図8は、壁面走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図9】
図9は、比較例による壁面移動車の側面図である。
【
図10】
図10は、壁面移動車が第1面の上を第2面に向かって移動し、補助輪が第2面に接触した状態を示す概略側面図である。
【
図11】
図11は第1車輪が第1面から浮き上がった状態を示す概略側面図である。
【
図14】
図14は、他の実施例による壁面移動車の側面図である。
【
図15】
図15は、
図14に示した壁面移動車が第1走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図16】
図16は、
図14に示した壁面移動車が第3走行モードから第4走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図17】
図17は、
図14に示した壁面移動車が第4走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図18】
図18は、
図14に示した壁面移動車が第4走行モードから壁面走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す側面図である。
【
図19】
図19A及び
図19Bは、
図14に示した壁面移動車の第1車輪、第2車輪、補助輪、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図20】
図20は、さらに他の実施例による壁面移動車の側面図である。
【
図21】
図21は、
図20に示した実施例による壁面移動車が第1面上を第2面に向かって走行し、補助輪が第2面に接触した状態を示す概略側面図である。
【
図22】
図22は、
図20に示した実施例による壁面移動車の第1車輪が第1面から浮き上がった状態を示す概略側面図である。
【
図23】
図23は、さらに他の実施例による壁面移動車の側面図である。
【
図24】
図24は、
図23に示した実施例による壁面移動車が第1面から第2面に移動する途中段階の状態を示す概略側面図である。
【
図25】
図25は、第1面と第2面とのなす角度が鋭角である場合、すなわち第2面が第1面の上にオーバーハングしている場合の、
図23に示した実施例による壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図26】
図26は、第1面と第2面とのなす角度が鋭角である場合、すなわち第2面が第1面の上にオーバーハングしている場合の、
図23に示した実施例による壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図27】
図27は、第1面と第2面とのなす角度が鋭角である場合、すなわち第2面が第1面の上にオーバーハングしている場合の、
図23に示した実施例による壁面移動車、第1面、及び第2面の位置関係を示す概略側面図である。
【
図28】
図28は、さらに他の実施例による壁面移動車の斜視図である。
【
図30】
図30は、凹状の壁面の上を走行しているときの壁面移動車の正面図である。
【
図31】
図31は、凸状の第1面から凹状の第2面が立ち上がっている壁面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図9を参照して、一実施例による壁面移動車について説明する。
図1及び
図2は、本実施例による壁面移動車の側面図及び正面図である。本実施例による壁面移動車は、車体20、車体20に取り付けられた2つの第1車輪40A、及び2つの第2車輪40Bを含む。2つの第1車輪40Aと2つの第2車輪40Bとは、第1車輪40A及び第2車輪40Bを回転させたときの走行方向(
図1において横方向)に間隔を隔てて取り付けられている。本明細書において、第2車輪40Bに対して第1車輪40Aが位置する方を「前方」といい、その反対の方を「後方」という場合がある。2つの第1車輪40Aは、走行方向に関して同じ位置に取り付けられており、2つの第2車輪40Bも、走行方向に関して同じ位置に取り付けられている。
【0011】
第1車輪40Aは、回転体41A、揺動磁石42A、及び車軸43Aを含む。回転体41Aは車軸43Aを回転中心として回転し、揺動磁石42Aは、車軸43Aを揺動中心として、回転体41Aの回転とは独立して揺動する。走行モータ45Aが回転体41Aに回転力を与える。本明細書において、第1車輪40Aの回転体41Aを回転させることを、「第1車輪40Aを回転させる」といい、第2車輪40Bの回転体41Bを回転させることを「第2車輪40Bを回転させる」という場合がある。
【0012】
揺動磁石姿勢制御モータ46Aが、揺動磁石42Aの姿勢を制御する。すなわち、揺動磁石姿勢制御モータ46Aは、揺動磁石42Aを揺動させ、目標の位置に静止させる。また、揺動磁石42Aを揺動自由な状態にすることができる。
【0013】
第1車輪40A(
図2)は、車体20の左右に配置されている。揺動磁石42Aは、それぞれ回転体41Aのそれぞれと車体20の本体21との間に配置されている。揺動磁石42Aの揺動中心軸は、第1車輪40Aの回転中心軸に一致する。揺動中心軸から揺動磁石42Aの先端までの長さは、回転体41Aの半径より短い。なお、回転体41Aの内部を空洞にし、回転体41Aの内部に揺動磁石42Aを配置してもよい。その他に、車体20を中心として回転体41Aのそれぞれの外側に揺動磁石42Aを配置してもよい。
【0014】
第2車輪40B(
図1)も、第1車輪40Aと同様の構造を有する。すなわち、第2車輪40Bは、回転体41B、揺動磁石42B、及び車軸43Bを含む。走行モータ45Bが第2車輪40Bの回転体41Bに回転力を与える。揺動磁石姿勢制御モータ46Bが、第2車輪40Bの揺動磁石42Bを揺動させ、目標の位置に静止させる。また、揺動磁石42Bを揺動自由な状態にすることができる。
【0015】
第1車輪40A及び第2車輪40Bを鉄鋼等の磁性材料からなる壁面70に接触させて、揺動磁石42Aを揺動自由の状態にすると、揺動磁石42Aと壁面70との間に作用する磁気力により、揺動磁石42Aが壁面70の方向を向いた姿勢で安定する。このとき、磁気力によって第1車輪40Aが壁面70に吸着される。揺動磁石42Aを揺動させて、揺動磁石42Aが車体20の方向を向く姿勢で揺動磁石42Aを静止させると、揺動磁石42Aと壁面70との間の磁気力が弱まり、第1車輪40Aが壁面70に吸着された状態が解除される。このように、揺動磁石42Aの姿勢を制御することにより、壁面70への第1車輪40Aの吸着力を変化させることができる。
【0016】
第2車輪40Bについても同様に、壁面70への第2車輪40Bの吸着力を変化させることができる。第1車輪40A及び第2車輪のそれぞれが壁面70に吸着されている状態を、「吸着状態」といい、吸着が解除されている状態を、「吸着解除状態」ということとする。
【0017】
車体20に制御部50が搭載されている。制御部50は、走行モータ45A、45Bを制御することにより、回転体41A、41Bを所望の方向に回転させる。さらに、制御部50は、揺動磁石姿勢制御モータ46A、46Bを制御することにより、第1車輪40A及び第2車輪40Bのそれぞれの状態を、吸着状態と吸着解除状態との間で切り替える。
【0018】
車体20は、本体21、突出部22A、及び補助輪23Aを含む。突出部22Aは、本体21から前方に向かって突出している。補助輪23Aは突出部22Aの先端に回転可能に取り付けられている。補助輪23Aは受動輪であり、モータ等で能動的に回転駆動されることはなく、受動的に回転する。補助輪23Aの回転中心軸は、第1車輪40Aの回転中心軸と平行である。また、補助輪23Aは、第1車輪40Aよりも前方に向かって突出した位置に取り付けられている。補助輪23Aは、壁面移動車の最も前方の側に位置する先端部ということができる。
【0019】
突出部22Aに、接触センサ24Aが取り付けられている。接触センサ24Aは、補助輪23Aが障害物に接触したことを検知する。接触センサ24Aの検知結果が制御部50に入力される。制御部50は、接触センサ24Aの検知結果に基づいて、回転体41A、41Bの回転の制御、第1車輪40A及び第2車輪40Bの吸着の状態の切換制御を行う。
【0020】
本実施例による壁面移動車は、複数の走行モード、具体的には第1走行モード、第2走行モード、第3走行モード、及び壁面走行モードのいずれかで走行することができる。以下、
図3~
図7を参照して、これらの走行モードについて説明する。
【0021】
図3は、第1走行モードで走行しているときの壁面移動車及び壁面の位置関係を示す概略側面図である。ほぼ水平な第1面71からほぼ垂直に第2面72が立ち上がっている。壁面移動車は、前方を第2面72に向け、第1走行モードで第2面72に向かって走行している。
【0022】
第1走行モードでは、第1車輪40A及び第2車輪40Bは、吸着状態であってもよいし、吸着解除状態であってもよい。制御部50は、走行モータ45A、45Bを制御して第1車輪40Aの回転体41A及び第2車輪40Bの回転体41Bを、矢印の方向に回転させる。これにより、壁面移動車は第1面71の上を走行する。以後、第1車輪40Aの回転体41Aを回転させることを、単に「第1車輪40Aを回転させる」という場合がある。第2車輪40Bについても同様である。
【0023】
図4は、第1走行モードから第2走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。壁面移動車が第2面72に向かって走行すると、補助輪23Aが第2面72に接触する。補助輪23Aが第2面72に接触すると接触センサ24Aが接触を検知し、制御部50が接触センサ24Aからの検知情報を取得する。
【0024】
制御部50は、補助輪23Aが第2面72に接触したことを検知すると、壁面移動車の走行モードを第1走行モードから第2走行モードに切り替える。具体的には、第1車輪40Aを吸着解除状態に設定し、第2車輪40Bを吸着状態に設定する。例えば、第1車輪40Aの揺動磁石42Aの姿勢を変化させて車体20の方に向ける。これにより、第1面71への第1車輪40Aの吸着力が弱まり、ほぼ0になる。さらに、第1車輪40Aへの回転力の印加を停止させ、第2車輪40Bに回転力を与える。
【0025】
図5は、第2走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す概略側面図である。補助輪23Aが第2面72に接触した状態で、第2車輪40Bを吸着状態に設定して回転させ、第1車輪40Aを吸着解除状態に設定することにより、車体20に第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる向き(
図5において反時計回り)のモーメントが加わる。これにより、補助輪23Aが第2面72に沿って上方に移動し、第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる。第2車輪40Bを吸着状態に設定して矢印の方向に回転させることにより、補助輪23Aが第2面72に沿って上方に移動する。
【0026】
第2走行モードでは、第2車輪40Bが吸着状態に設定されているため、第1面71に対する車体20の傾斜角が変化しても、第2車輪40Bの揺動磁石42Bは、磁気力によって常に第1面71の方を向いている。このため、第2車輪40Bが第1面71に吸着した状態が維持される。また、第1車輪40Aが吸着解除状態に設定されているため、第1車輪40Aは容易に第1面71から浮き上がる。
【0027】
図6は、第3走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す概略側面図である。壁面移動車が第2走行モードでの走行を継続すると、第1車輪40Aの回転体41Aが第2面72に接触し、補助輪23Aが第2面72から離れる。接触センサ24Aによって、補助輪23Aが第2面72から離れたことが検知される。
【0028】
制御部50は、接触センサ24Aからの情報により、補助輪23Aが第2面72から離れたことを検知すると、第1車輪40Aを吸着状態に設定し、矢印で示した前進方向に回転させる。第1車輪40Aの揺動磁石42Aは、第2面72の方を向くように揺動し、第2面72への第1車輪40Aの吸着力が強まる。これにより、第1車輪40Aは第2面72の上を走行し、第2車輪40Bは第1面71の上を走行する。このため、第1面71に対する車体20の傾斜角が大きくなる。
【0029】
図7は、第3走行モードから壁面走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。壁面移動車が第3走行モードでの走行を継続すると、第2車輪40Bの回転体41Bが第2面72に接触する。第3走行モードでは、第2車輪40Bが第1面71に吸着された状態である。この吸着力は、壁面移動車が第2面72に沿った上方への移動を妨げる向きに作用する。
【0030】
また、第2車輪40Bの回転力は、第2車輪40Bを第1面71の上を走行する向きに作用し、第2面72に沿って上方に移動する向きには作用しない。このため、第2車輪40Bの回転体41Bに回転力を与えても、回転体41Bと第1面71との間の摩擦力によって回転体41Bはほとんど回転しない。例えば、第2車輪40Bの回転体41Bに与える回転力と、回転体41Bの回転速度との関係から、回転体41Bが第2面72に接触したことを検知することができる。
【0031】
制御部50は、第2車輪40Bの回転体41Bが第2面72に接触したことを検知すると、第2車輪40Bを吸着解除状態に設定し、回転力の印加を停止させる。これにより、第1面71に対する第2車輪40Bの吸着力が弱まり、ほぼ0になる。壁面移動車は、第1車輪40Aの回転によって第2面72を上方に向かって移動し、第2車輪40Bの回転体41Bが第1面71から浮き上がる。例えば、第1面71からの第2車輪40Bの浮き上がりは、第2車輪40Bを吸着解除状態に設定した時点からの第1車輪40Aの回転体41Aの回転角から推定することができる。
【0032】
なお、制御部50は、第2車輪40Bの回転体41Bが第2面72に接触したことを検知すると、第2車輪40Bが第2面72に対して吸着状態になるように、揺動磁石42Bを第2面72に向けるように揺動させてもよい。
【0033】
図8は、壁面走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す概略側面図である。制御部50は、第2車輪40Bの回転体41Bが第1面71から離れたと判定すると、第2車輪40Bを吸着状態に設定し、前進方向に回転させる。第2車輪40Bの揺動磁石42Bは、その磁気力によって第2面72の方を向き、第2車輪40Bが第2面72に吸着される。
【0034】
第1車輪40A及び第2車輪40Bが共に第2面72に吸着された状態で、回転体41A及び41Bを前進方向に回転させることにより、壁面移動車が第2面72の上を上方に向かって移動する。ほぼ水平な第1面71の上を走行する第1走行モード(
図3)では、第1車輪40A及び第2車輪40Bは吸着状態に設定されていてもよいし、吸着解除状態に設定されていてもよい。例えば、第1面71がコンクリートやアスファルト等の非磁性材料で形成されている場合には、揺動磁石42Bと第1面71との間の吸着力が生じない。この場合、壁面移動車の自重によって第1車輪40A及び第2車輪40Bと第1面71との間に走行のための牽引力が生じる。壁面移動車がほぼ垂直な第2面72の上を走行する壁面走行モードでは、第1車輪40A及び第2車輪40Bの両方が、吸着状態に設定される。
【0035】
次に、
図9に示した比較例と比較しながら、本実施例の優れた効果について説明する。
図9は、比較例による壁面移動車の側面図である。比較例では、車体20に突出部22A及び補助輪23Aが設けられていない。搭載物75が、第1車輪40Aよりも前方に突出している。壁面移動車が第1面71の上を第2面72に向かって走行すると、第1車輪40Aが第2面72に接触する前に、搭載物75が第2面72に接触する。
【0036】
この状態で第1車輪40Aを吸着解除状態に設定し、第2車輪40Bを吸着状態に設定し、第2車輪40Bに回転力を与えると、第1車輪40Aが第1面71かた浮き上がる向きのモーメントが発生する。ところが、搭載物75と第2面72との間の摩擦力が、このモーメントを打ち消す向きに作用する。搭載物75と第2面72との間に発生する最大摩擦力によるモーメントが、第1車輪40Aを第1面71から浮き上がらせるモーメントより大きい場合には、第1車輪40Aが第1面71から浮き上がらない。このため、壁面移動車は、第1面71から第2面72に移動することができない。
【0037】
これに対して本実施例では、
図4に示すように、搭載物75が第2面72に接触する前に、補助輪23Aが第2面72に接触する。補助輪23Aと第2面72との間の転がり摩擦力は、搭載物75と第2面72との間の最大摩擦力より小さい。このため、補助輪23Aが第2面72に接触した状態で第2車輪40Bを前進方向に回転させることにより、第1車輪40Aを第1面71から浮き上がらせることができる。この状態で、第1車輪40Aが第2面72に接触するまで第2走行モード(
図5)で走行することができる。
【0038】
その後は、第3走行モード及び壁面走行モードで走行することにより、壁面移動車は、第1面71から第2面72に移動し、第2面72の上を走行することができる。
【0039】
次に、
図10及び
図11を参照して、補助輪23Aの第1面71からの好ましい高さについて説明する。
図10は、壁面移動車が第1面71の上を第2面72に向かって走行し、補助輪23Aが第2面72に接触した状態を示す概略側面図である。第1面71が水平面に対して平行であり、第2面72が第1面71から直角に立ち上がっている。
【0040】
壁面移動車が第2面72を上昇するためには、
図10に示した状態で第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる方向のモーメント(
図10におい反時計回りのモーメント)が、壁面移動車に作用しなければならない。壁面移動車の重心をGCと標記し、以下のように各パラメータを定義する。なお、重心GCから第1車輪40Aの接地点及び第2車輪40Bの接地点までの進行方向の距離が等しいという条件が満たされると仮定する。壁面移動車は、前進及び後退を区別することなく走行可能であり、一般的にこの条件がほぼ満たされる。
【0041】
N
A:第1車輪40Aが第1面71から受ける垂直抗力
N
B:第2車輪40Bが第1面71から受ける垂直抗力
N
W:補助輪23Aが第2面72から受ける垂直抗力
F
A:第1車輪40Aの駆動力
F
B:第2車輪40Bの駆動力
F
mag:第2車輪40Bの揺動磁石42B(
図1)による吸着力
M:壁面移動車と搭載物75との合計の質量
g:重力加速度
d:重心GCから第1車輪40Aの接地点及び第2車輪40Bの接地点までの進行方向の距離
L:重心GCから補助輪23Aの接地点までの走行方向の距離
h:第1車輪40A及び第2車輪40Bが第1面71に接しているときの第1面71から補助輪23Aまでの高さ
【0042】
第1車輪40Aの揺動磁石42A(
図1)による吸着力は、壁面移動車に対して時計回りのモーメントを発生させるため、壁面移動車を反時計回りに回転させるためには、第1車輪40Aを吸着解除状態に設定することが好ましい。走行方向及び鉛直方向の力のつり合いから、以下の式が成立する。
【数1】
【0043】
第2車輪40Bの接地点を回転中心としたモーメントが以下の式を満たせば、壁面移動車は反時計回りに回転する。
【数2】
【0044】
式(1)と式(2)とから、以下の式が得られる。ここで、N
W>0という仮定をおいている。
【数3】
すなわち、補助輪23Aが第1面71より高い位置にあれば、
図10の状態で壁面移動車は反時計回りに回転する。
【0045】
図11は第1車輪40Aが第1面71から浮き上がった状態を示す概略側面図である。壁面移動車の傾斜角をθと標記する。壁面移動車が第2面72を上るためには、第1車輪40Aが第1面71から浮き上がった状態でも、壁面移動車に反時計回りのモーメントが作用しなければならない。
【0046】
第1車輪40Aが第1面71から浮き上がると、第1車輪40Aに作用する垂直抗力N
A、及び第1車輪40Aが発生する駆動力F
Aがともに0になる。第2車輪40Bの接触点を回転中心としたとき、重力が時計回りのモーメントを発生させ、補助輪23Aに作用する垂直抗力N
Wが反時計回りのモーメントを発生させる。壁面移動車に反時計回りのモーメントを発生させるためには、以下の式が満たされればよい。
【数4】
【0047】
第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる瞬間にも、反時計回りのモーメントが作用していなければならないため、式(4)は、θ=0でも成り立たなければならない。式(4)においてθ=0とすると、以下の条件が得られる。
【数5】
【0048】
傾斜角θが0°から90°まで増加すると、式(4)の左辺は単調に増加し、右辺は単調に減少するため、式(5)が満たされれば、式(4)も満たされる。したがって、第2車輪40Bの駆動力FB、壁面移動車と搭載物75との合計の質量M、及び距離dが決まっている場合、式(5)が満たされるように補助輪23Aの高さhを決定するとよい。
【0049】
次に、
図12を参照して、
図1~
図8に示した実施例の変形例について説明する。
図12は、本変形例による壁面移動車の側面図である。本変形例による壁面移動車は、
図1に示した実施例の揺動磁石42A、42Bに代えて、電磁石44A、44Bを有し、揺動磁石姿勢制御モータ46A、46Bに代えて、電磁石駆動回路47A、47Bを有する。
【0050】
電磁石44A、44Bは、それぞれ第1車輪40Aの回転体41A及び第2車輪40Bの回転体41Bの外周面よりやや内側に、全周に亘って配置されている。電磁石駆動回路47A、47Bは、それぞれ制御部50からの指令により電磁石44A、44Bに電流を流す。電磁石44Aに電流を流すと電磁石44Aが磁気力を発生し、第1車輪40Aが吸着状態に設定される。電磁石44Aに流す電流を停止すると電磁石44Aの磁気力が消滅し、第1車輪40Aが吸着解除状態に設定される。同様に、電磁石44Bに流す電流のオンオフを切り替えることにより、第2車輪40Bの吸着状態と吸着解除状態とを切り替えることができる。
【0051】
次に、
図13を参照して、
図1~
図8に示した実施例の他の変形例について説明する。
図13は、本変形例による壁面移動車の側面図である。
図1に示した実施例では、突出部22Aの先端に補助輪23Aが取り付けられている。これに対して本変形例では、突出部22Aの先端に補助輪23Aが取り付けられておらず、その代わりに突出部22Aの先端部がスキー板の先端のように上方に向かって反っている。
【0052】
突出部22Aの先端が第2面72に接触すると、突出部22Aの先端部が弾性変形する。突出部22Aの先端部が弾性変形すると、突出部22Aの先端が第2面72上を移動し、両者の間に動摩擦力が作用するようになる。動摩擦力は静止摩擦力より小さいため、第2面72に対して突出部22Aの先端が滑りやすくなる。このため、第2車輪40Bの回転により車体20に発生するモーメントを打ち消す方向に作用するモーメントが小さくなり、第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる方向に車体20が傾斜する。
【0053】
本変形例のように、突出部22Aの先端に補助輪23Aを取り付ける構成に代えて、突出部22Aの先端を上方に向かって反らせてもよい。
【0054】
次に、
図1~
図8に示した実施例のさらに他の種々の変形例について説明する。
補助輪23Aが第1車輪40Aより前方に突出する距離を調整できるようにするとよい。例えば、突出部22Aにスライダ等を用いて突出部22Aを伸縮可能にするとよい。車体に搭載する搭載物75の大きさに応じて、補助輪23Aが搭載物75より前方に位置するように突出部22Aを伸縮させるとよい。突出部22Aの伸縮は、手動で行うようにしてもよいし、電動で行うようにしてもよい。
【0055】
図1~
図8に示した実施例では、第2走行モード(
図5)で走行している期間、第1車輪40Aを吸着解除状態に設定しているが、第1面71からの第1車輪40Aの浮き上がり高さが、ある一定の高さを超えた後、第1車輪40Aを吸着状態に設定してもよい。第1車輪40Aが第1面71から、実質的に磁気力が作用しない程度まで遠ざかると、第1車輪40Aを吸着状態に設定しても、第1面71には吸着されなくなる。第1車輪40Aが第2面72に近づくと、第1車輪40Aの揺動磁石42Aが、その磁気力によって第2面72の方を向き、第2面72に吸着される。
【0056】
図1~
図8に示した実施例では、壁面移動車が、ほぼ水平な第1面71からほぼ垂直な第2面72に移動する例について説明したが、第1面71が必ずしもほぼ水平である必要はない。例えば、
図1~
図8に示した実施例による壁面移動車は、水平面に対してほぼ垂直な第1面71を下方に向かって走行し、ほぼ水平な第2面72に移動することも可能である。
【0057】
第1面71が水平面に対してほぼ垂直な壁面であり、第2面72が重力方向を向く天井である場合、補助輪23Aに永久磁石を用いることにより、壁面移動車は第1面71から第2面72に乗り移ることができる。
図5に示した第2走行モードのとき、補助輪23Aが第2面72に磁気力で吸着されることにより、壁面移動車の落下が回避される。第1車輪40Aが第2面72に接触し吸着状態になった後、第1車輪40Aと第2車輪40Bとの牽引力によって生ずる
図5における反時計回りのモーメントが、補助輪23Aの吸着力によって生ずる時計回りのモーメントを上回れば、補助輪23Aが第2面72から離脱し、壁面移動車は第3走行モード(
図6)に移行できる。
【0058】
図1~
図8に示した実施例では、制御部50が自律的に第1車輪40A及び第2車輪40Bの回転の制御、第1車輪40A及び第2車輪40Bの吸着状態と吸着解除状態との切り替えの制御を行う。その他の例として、作業者が遠隔から操作することにより、第1車輪40A及び第2車輪40Bの回転、第1車輪40A及び第2車輪40Bの吸着状態と吸着解除状態との切り替えを指令するようにしてもよい。
【0059】
次に、
図14~
図19Bを参照して他の実施例による壁面移動車について説明する。以下、
図1~
図8を参照して説明した実施例による壁面移動車と共通の構成については説明を省略する。
【0060】
図14は、本実施例による壁面移動車の側面図である。
図1に示した実施例では、車体20が、本体21から前方に向かって突出する突出部22Aを含んでいる。本実施例では、車体20は、さらに、本体21から後方に向かって突出する突出部22B、及び突出部22Bの先端に取り付けられた補助輪23Bを含んでいる。補助輪23Bは第2車輪40Bより後方まで突出している。さらに、補助輪23Bは、搭載物75の後方側の先端より後方まで突出している。補助輪23Bが障害物に接触したことを、接触センサ24Bが検知する。
【0061】
図1~
図8に示した実施例による壁面移動車は、第1走行モード、第2走行モード、第3走行モード、及び壁面走行モードのいずれかで走行することができる。これに対して本実施例による壁面移動車は、さらに第4走行モードで走行することができる。以下、
図15~
図18を参照して、これらの走行モードについて説明する。
【0062】
図15は、第1走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。
図3に示した実施例による壁面移動車の第1走行モードと同様に、制御部50が第1車輪40A及び第2車輪40Bを回転させて第1面71の上を走行する。本実施例による壁面移動車の第2走行モード、第3走行モードにおいても、制御部50は、
図5及び
図6に示した実施例による壁面移動車の第2走行モード、第3走行モードと同様の制御を行う。
【0063】
図16は、第3走行モードから第4走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。第1車輪40Aを第2面72に吸着させ、第2車輪40Bを第1面71に吸着させた状態で第3走行モードによる走行を継続すると、後方の補助輪23Bが第1面71に接触する。制御部50は、接触センサ24Bの検出結果から、後方の補助輪23Bが第1面71に接触したことを検知すると、第2車輪40Bを吸着解除状態に設定する。具体的には、第2車輪40Bの揺動磁石42Bを車体20の本体21の方に向ける。
【0064】
図17は、第4走行モードで走行しているときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。第4走行モードでは、第1車輪40Aを第2面72に吸着させ、第2車輪40Bを吸着解除状態に設定し、第1車輪40Aを回転させる。これにより、第1車輪40Aが第2面72の上を上方に向かって走行し、後方の補助輪23Bが、第1面71の上を転がり、第2面72に向かって移動する。第2車輪40Bは第1面71から浮き上がる。第4走行モードでは、第1車輪40Aと後方の補助輪23Bとで車体20が支持される。
【0065】
図18は、第4走行モードから壁面走行モードに切り替わるときの壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す側面図である。第2車輪40Bが第2面72に接触すると、制御部50は第2車輪40Bを吸着状態に設定する。これにより、第2車輪40Bの揺動磁石42Bが第2面72の方を向き、第2車輪40Bが第2面72に吸着される。
【0066】
壁面走行モードでは、
図8に示した実施例と同様に、第1車輪40A及び第2車輪40Bが、共に第2面72に吸着されて回転することにより、壁面移動車が第2面72を上方に向かって走行する。
【0067】
次に、
図19A及び
図19Bを参照して、第1車輪40A、第2車輪40B、補助輪23A、23Bの好ましい位置関係について説明する。
図19A及び
図19Bは、第1車輪40A、第2車輪40B、補助輪23A、23B、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す概略側面図である。
【0068】
図19Aに示すように、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動するとき、第1車輪40Aが第2面72に接触する前に、後方の補助輪23Bが第1面71に接触すると、壁面移動車の駆動力を第1面71及び第2面72のいずれにも伝えられなくなってしまう。このため、壁面移動車は第2面72を上ることができない。壁面移動車が第1面71から第2面72に移動し、第2面72上を上方に向かって走行できるようにするためには、2つの補助輪23A、23Bの両方が同時に第1面71及び第2面72に接する状態が生じないようにすることが好ましい。
【0069】
図19Bに示すように、第1車輪40A及び前方の補助輪23Aが同時に第2面72に接している状態のとき、第2車輪40Bが第1面71に接し、後方の補助輪23Bが第1面71から浮き上がった状態であることが好ましい。さらに、
図19Bにおいて破線で示すように、第2車輪40B及び後方の補助輪23Bが同時に第1面71Aに接しているとき、第1車輪40Aが第2面72Aに接し、前方の補助輪23Aが第2面72Aから浮き上がった状態であることが好ましい。
【0070】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
図16に示した第3走行モードから第4走行モードに移行するときに、後方に突出した突出部22Aが設けられていない場合は、第2車輪40Bが第2面72に接触する前に、搭載物75の後方に突出した部分が第1面71に接触する場合がある。搭載物75と第1面71との間に発生する摩擦力は、第1車輪40Aの回転による第1車輪40Aの走行を阻害する方向に働く。
【0071】
これに対して本実施例では、
図16に示したように、補助輪23Bが第1面71に接触するため、搭載物75は第1面に接触しない。第1面71と補助輪23Bとの間に発生する摩擦力は転がり摩擦による力であり、十分小さいため、第1車輪40Aの走行を妨げない。このため、搭載物75の後方の先端が第2車輪40Bより突出している場合であっても、壁面移動車は第1面71から第2面72に移動することができる。
【0072】
さらに、本実施例では、壁面移動車が、第1面71の上を第2面72に向かって後方に走行する場合でも、第1面71から第2面72に移動することが可能である。
【0073】
次に、
図20~
図22を参照して、さらに他の実施例による壁面移動車について説明する。以下、
図1~
図8を参照して説明した実施例による壁面移動車と共通の構成については説明を省略する。
【0074】
図20は、本実施例による壁面移動車の側面図である。
図1~
図8を参照して説明した実施例による壁面移動車の補助輪23Aは、壁面との摩擦力によって受動的に回転するのみである。これに対して本実施例では、補助輪モータ49Aが補助輪23Aを回転させる。このように、補助輪23Aが能動的に回転する。
【0075】
図21は、本実施例による壁面移動車が第1面71上を第2面72に向かって走行し、補助輪23Aが第2面72に接触した状態を示す概略側面図である。本実施例では、
図10に示した力の他に、補助輪23Aを回転駆動することにより、壁面移動車に駆動力F
Cが作用する。この駆動力F
Cにより、壁面移動車に反時計回りのモーメントが発生する。
【0076】
図22は、本実施例による壁面移動車の第1車輪40Aが第1面71から浮き上がった状態を示す概略側面図である。本実施例では、
図11に示した力の他に、補助輪23Aを回転駆動することにより、壁面移動車に駆動力F
Cが作用する。この駆動力F
Cにより、壁面移動車を反時計回りに回転させるモーメントが発生する。式(4)の左辺に、駆動力F
Cによるモーメントが追加されるため、壁面移動車が第2面72を上るために補助輪23Aの位置に課される条件が緩和される。
【0077】
次に、
図20~
図22に示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、補助輪23Aを能動的に回転させることにより、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動しやすくなる。
【0078】
次に、
図23~
図27を参照して、さらに他の実施例による壁面移動車について説明する。以下、
図14~
図18を参照して説明した実施例による壁面移動車と共通の構成については説明を省略する。
【0079】
図23は、本実施例による壁面移動車の側面図である。
図14~
図18に示した実施例では、補助輪23A、23Bが受動的に回転するが、本実施例では、
図20に示した実施例と同様に、能動的に回転する。例えば、補助輪モータ49A、49Bが、それぞれ補助輪23A、23Bに回転力を与える。
【0080】
図24は、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動する途中段階の状態を示す概略側面図である。前方の補助輪23Aが第2面72に接し、後方の補助輪23Bが第1面71に接しており、第1車輪40A及び第2車輪40Bのいずれも、第1面71及び第2面72から浮き上がっている。この状態では、補助輪23A、23Bの少なくとも一方を回転駆動することにより、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動することができる。
【0081】
次に、
図23及び
図24に示した実施例の優れた効果について説明する。
図14~
図18に示した実施例において突出部22A、22Bを長くしすぎると、
図19Aに示したように第1車輪40A及び第2車輪40Bの駆動力が第2面72及び第1面71に伝達されず、壁面移動車は第1面71から第2面72に移動することができない。これに対して本実施例では、
図24に示したように、突出部22A、22Bを長くしても、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動することができる。このため、搭載可能な搭載物75の大きさの上限が緩和される。
【0082】
さらに、
図25~
図27を参照して、
図23及び
図24に示した実施例の他の優れた効果について説明する。
図25~
図27は、第1面71と第2面72とのなす角度が鋭角である場合、すなわち第2面72が第1面71の上にオーバーハングしている場合の、壁面移動車、第1面71、及び第2面72の位置関係を示す概略側面図である。
【0083】
図25に示すように、壁面移動車が第1面71の上を第2面72に向かって走行し、前方の補助輪23Aが第2面72に接触する。第1車輪40Aは吸着解除状態に設定する。第2車輪40Bの接地点を回転中心としたとき、重力Mgが壁面移動車に時計回りのモーメントを発生させ、補助輪23Aの駆動力F
Cが反時計回りのモーメントを発生させる。補助輪23Aに作用する垂直抗力N
Wは、補助輪23Aと第2面72との接触点と、第2車輪40Bの接地点との位置関係によって、時計回りのモーメントを発生させる場合もあるし、反時計回りのモーメントを発生させる場合もある。これらのモーメントの合成モーメントが反時計回りである場合、壁面移動車の第1車輪40Aが第1面71から浮き上がる。
【0084】
図26に示すように、第1車輪40Aが第2面72に接触した状態で第1車輪40Aを吸着状態に設定すると、吸着力F
magAが発生する。第1車輪40Aで駆動力F
Aを発生させると、第1車輪40Aは第2面72を上方に向かって移動する。後方の補助輪23Bが第1面71から離れると、第1車輪40Aの接地点を回転中心としたモーメントは、重力Mgのみになる。重力Mgは、壁面移動車を反時計回りに回転させるモーメントを発生するため、第2車輪40Bが第2面72に近づく。
【0085】
図27に示すように、第2車輪40Bが第2面72に接触すると、第2車輪40Bを吸着状態に設定する。これにより、吸着力F
magBが発生する。その後は、第1車輪40Aの駆動力F
Aと第2車輪40Bの駆動力F
Bとによって、壁面移動車が第2面72の上を上方に向かって走行する。
【0086】
このように、本実施例では、第2面72が第1面71の上にオーバーハングしてる場合でも、壁面移動車が第1面71から第2面72に移動することができる。
【0087】
次に、
図28~
図31を参照して、さらに他の実施例による壁面移動車について説明する。以下、
図1~
図8を参照して説明した実施例による壁面移動車と共通の構成については説明を省略する。
【0088】
図28及び
図29は、それぞれ本実施例による壁面移動車の斜視図及び正面図である。本実施例による壁面移動車は、
図1~
図8を参照して説明した実施例による壁面移動車と同様に、車体20、2つの第1車輪40A、及び2つの第2車輪40Bを備えている。車体20は、本体21、突出部22A、及び補助輪23Aを含む。本体21に、例えば、溶接、塗装、外観検査等の作業を行うための作業用アタッチメント(図示せず)を固定するための固定部(図示せず)が搭載される。
【0089】
突出部22Aが突出した前方から本体21を見て、2つのロッカーリンク30がそれぞれ本体の右側及び左側に、シャフト31を介して取り付けられている。一方の第1車輪40Aと一方の第2車輪40Bとが、1つのロッカーリンク30を介して車体20の本体21に取り付けられ、他方の第1車輪40A及び他方の第2車輪40Bが、他のロッカーリンク30を介して本体21に取り付けられている。
【0090】
ロッカーリンク30は、それぞれシャフト31を回転中心軸として、車体20に対して回転可能である。ロッカーリンク30のそれぞれは、側面視して、略逆V字形の形状を有しており、中央部30C、2つの前方部30A、及び2つの後方部30Bとで構成される。2つの前方部30Aは、中央部30Cから前方に向かって斜め下向きに延び、2つの後方部30Bは、中央部30Cから後方に向かって斜め下向きに延びる。
【0091】
2つの前方部30Aの間に第1車輪40Aの回転体41Aが車軸43Aにより回転可能に支持されている。第2車輪40Bの回転体41Bは、2つの後方部30Bの間に車軸(図示せず)により回転可能に支持されている。第1車輪40Aの回転体41A及び第2車輪40Bの回転体41Bは、球殻状の形状を有しており、内部に空洞を有する。回転体41Aの内部に、揺動磁石42Aが、車軸43Aと同軸に配置された支軸48Aにより支持されている。揺動磁石42Aは、支軸48Aを回転させることにより、回転体41Aの回転中心軸を揺動中心として揺動する。
【0092】
さらに、揺動磁石42Aは、支軸48Aに対して正面から見て左右方向にも揺動可能である。揺動磁石42Aの左右方向の揺動は、受動的に行われる。例えば、揺動磁石42Aに磁性材料が近づくと、揺動磁石42Aの先端が磁性材料の方を向くように、左右方向に揺動する。
【0093】
2本のシャフト31は、同軸に配置されている。2本のシャフト31のそれぞれの外側の端部が、ロッカーリンク30の中央部30Cに固定されている。2本のシャフト31は、それぞれ車体20に対して回転可能に支持されている。また、2本のシャフト31は、本体21内でディファレンシャルギア(図示せず)を介して相互に接続されている。ディファレンシャルギアは、2本のシャフト31の回転の差動に基づいて、本体21の前後方向の傾斜角を規定する。例えば、一方のロッカーリンク30に対して他方のロッカーリンク30が前後方向に傾斜すると、本体21は、ロッカーリンク30の傾斜角の半分の角度だけ前後方向に傾斜する。
【0094】
次に、
図28及び
図29に示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、2つのロッカーリンク30を個別に回転(揺動)させることができる。このため、壁面移動車が走行する面が曲面や凹凸を有する場合であっても、2つの第1車輪40A及び2つの第2車輪40Bを走行面に接触させることができる。
【0095】
2つの第1車輪40A及び2つの第2車輪40Bの合計4つの車輪のすべてが、曲面や凹凸を有する走行面に接触する状態を実現するためには、必ずしも本体21を設ける必要はない。例えば、2つのロッカーリンク30が互いに揺動可能なように、2つのロッカーリンク30を1本のシャフトで直接接続してもよい。この場合、突出部22A及び補助輪23Aは、2つのロッカーリンク30のいずれか一方、または両方に設ければよい。
【0096】
また、本体21の前後方向の傾斜角(ピッチ角)は、2つのロッカーリンク30の前後方向の傾斜角の中間の大きさになる、これにより、本体21の前後方向の傾斜角の変動が、2つのロッカーリンク30の前後方向の傾斜角の変動より小さくなる。このため、凹凸の変化が激しい走行面を走行する場合であっても、本体21のピッチングの振れ角を抑制することができる。
【0097】
次に、
図30及び
図31を参照して、本実施例の他の優れた効果について説明する。
図30は、凹状の壁面70の上を走行しているときの壁面移動車の正面図である。壁面70は、壁面移動車を正面から見て中央が窪んだ形状を有する。第1車輪40Aの回転体41A及び第2車輪40Bの回転体41B(
図28)が球殻状であるため、壁面70が湾曲している場合でも、壁面70と回転体41A、41Bとの接触箇所において、両者がほぼ平行になる。このため、壁面70に対して回転体41A、41Bを安定して接触させることができる。
【0098】
さらに、揺動磁石42Aが、正面から見て左右方向にも揺動可能であるため、揺動磁石42Aが、その磁気力により、回転体41Aと壁面70との接触箇所を向くように、揺動磁石42Aの姿勢が変化する。このため、壁面70に対する第1車輪40Aの吸着力を大きくすることができる。第2車輪40B(
図28)においても同様である。
【0099】
また、壁面移動車を正面からみて、壁面70が凸状の形状を有する場合でも同様に、回転体41A、41Bが安定して壁面70に接触し、吸着力を大きくすることができる。
【0100】
図31は、凸状の第1面71から凹状の第2面72が立ち上がっている壁面を示す斜視図である。本実施例による壁面移動車は、湾曲した走行面の上を安定して走行することができ、かつ大きな吸着力を得ることができるため、
図31に示したような凸状の第1面71から凹状の第2面72に移動することができる。逆に、第1面71が凹状に湾曲しており、第2面72が凸状に湾曲している場合であっても、第1面71から第2面72に移動することができる。
【0101】
本実施例による壁面移動車は、建築現場の鉄鋼製の構造物に対する種々の加工、検査等に用いることができる。その他に、建造中またはメンテナンス中の船舶の船体に対する種々の加工や検査、大型容器、大型クレーン等の鉄鋼構造物に対する種々の加工や検査等に用いることができる。
【0102】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0103】
20 車体
21 本体
22A、22B 突出部
23A、23B 補助輪(先端部)
24A、24B 接触センサ
30 ロッカーリンク
30A ロッカーリンクの前方部
30B ロッカーリンクの後方部
30C ロッカーリンクの中央部
31 シャフト
40A 第1車輪
40B 第2車輪
41A、41B 回転体
42A、42B 揺動磁石
43A、43B 車軸
44A、44B 電磁石
45A、45B 走行モータ
46A,46B 揺動磁石姿勢制御モータ
47A、47B 電磁石駆動回路
48A 支軸
49A、49B 補助輪モータ
50 制御部
70 床面
71、71A 第1面
72、72A 第2面
75 搭載物