(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140745
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】カテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20230928BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20230928BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20230928BHJP
A61P 1/02 20060101ALN20230928BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20230928BHJP
A61P 3/06 20060101ALN20230928BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20230928BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20230928BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230928BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20230928BHJP
A61P 31/16 20060101ALN20230928BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20230928BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K31/353
A23L33/125
A61P1/02
A61P1/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/04
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046739
(22)【出願日】2022-03-23
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(71)【出願人】
【識別番号】514287742
【氏名又は名称】学校法人東京家政学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海野 知紀
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】荒木 義晴
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 隼
(72)【発明者】
【氏名】常深 秀人
(72)【発明者】
【氏名】麻生 賢太
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD31
4B018ME06
4B018ME11
4B018ME14
4C076BB01
4C076CC11
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD67
4C076DD67N
4C076FF34
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA11
4C086ZA45
4C086ZA67
4C086ZA68
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC20
4C086ZC21
4C086ZC33
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】カテキン類を経口摂取した際に、体循環液中に到達する割合、すなわち、生物学的利用率を高めることができる、新たなカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物を提供する。
【解決手段】発酵性炭水化物を有効成分として含有する、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵性炭水化物を有効成分として含有する、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項2】
発酵性炭水化物がフラクトオリゴ糖である、請求項1に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項3】
カテキン類がエピガロカテキンガレートである、請求項1又は2に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項4】
カテキン類の自動酸化を抑制する作用を併せ持つ、請求項1~3の何れか1項に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項5】
管腔を低pH状態に保持する作用を併せ持つ、請求項1~4の何れか1項に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項6】
乳酸産生量を高める作用を併せ持つ、請求項1~5の何れか1項に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項7】
乳酸産生菌を活性化させる作用を併せ持つ、請求項1~6の何れか1項に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項8】
乳酸産生菌がLactobacillus属又はCollinsella属である、請求項7に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物。
【請求項9】
カテキン類と発酵性炭水化物を含有する組成物。
【請求項10】
カテキン類の含有量100質量部に対し、発酵性炭水化物の含有量が333~1667質量部である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
発酵性炭水化物がフラクトオリゴ糖である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
カテキン類がエピガロカテキンガレートである、請求項9~11の何れか1項に記載の組成物。
【請求項13】
発酵性炭水化物を経口摂取することを特徴とする、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上方法。
【請求項14】
発酵性炭水化物がフラクトオリゴ糖である、請求項13に記載のカテキン類のバイオアベイラビリティ向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキン類を経口摂取した際に体循環液中に到達する割合、すなわち、カテキン類の生物学的利用率を高めることができる、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物及びその有効成分を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶に含まれる茶カテキン類には、コレステロ-ル上昇抑制作用、抗腫瘍作用、下痢症ウイルス感染阻害作用、う蝕予防作用、インフルエンザウイルス感染予防作用、マイコプラズマ感染予防作用、α-アミラ-ゼ活性阻害作用、血糖上昇抑制作用、大腸癌予防作用、胃炎、胃または十二指腸潰瘍防止作用、抗動脈硬化作用、活性酸素発生抑制作用、ガストリン分泌抑制作用など、様々な薬理作用が報告されている。
最近では、緑茶の摂取が、心血管疾患を含む多くの慢性疾患のリスクを低下させる作用があることが認識されている。このような作用は、主に緑茶に含まれるカテキン類、中でもエピガロカテキンガレート (「EGCG」とも称する)が、血液中の活性酸素種を除去する作用によるものであると推定される。
【0003】
しかし、カテキン類、特にEGCGは、生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)が低いことが知られている。例えば、ヒトがEGCG50mgを経口摂取しても、摂取後の最高血漿中濃度はわずか0.12μmol/Lとも推定されている。これは他のポリフェノールに比べると比較的低い数値である。
そのため、従来から、カテキン類の生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)を改善するいくつかのアプローチが提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、高濃度で非重合体カテキン類を含有する容器詰紅茶飲料中の非重合体カテキン類中のエピ体カテキン類比率を制御することにより、同一の非重合体カテキン類濃度でありながら飲用した時の非重合体カテキン類の血液中への移行量を更に増加できることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、セリン、アスパラギン酸、リンゴ酸、カプリン酸、ラウリン酸、及びグレープフルーツ果汁からなる群から選ばれた少なくとも1種が、ポリフェノール類化合物の吸収を促進する作用があることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、べにふうきエキスがポリフェノール類化合物の吸収を促進する作用があることが開示されており、べにふうきの抽出物をカテキン類と同時に摂取することでカテキン類の吸収性および体内滞留時間が高まる旨が開示されている。
【0007】
特許文献4には、コハク酸、システイン、アスパラギン、イソロイシン、及びピニトールからなる群から選ばれた少なくとも1種が、ポリフェノール類化合物の吸収を促進する作用があることが開示されている。
【0008】
特許文献5には、ヘスペレチン、ライム抽出物、及びレモン抽出物が、カテキン類の吸収を促進することが開示されている。
【0009】
特許文献6には、ホウキギ抽出物、シカカイ抽出物、セイヨウウマノミツバ抽出物、ツキヌキサイコ抽出物、及びチャ種子抽出物が、ポリフェノールの吸収を促進することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-333989公報
【特許文献2】特開2009-247282号公報
【特許文献3】特開2010-11751号公報
【特許文献4】特開 2011-79770号公報
【特許文献5】特開2016-216440号公報
【特許文献6】特開2017-109991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カテキン類を経口摂取した際に、該カテキン類が体循環液中に到達する割合、すなわち、カテキン類の生物学的利用率を高めることができる、新たなカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物及び組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、発酵性炭水化物を有効成分として含有する、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物を提案する。
本発明はまた、カテキン類と発酵性炭水化物を含有する組成物を提案する。
本発明はさらにまた、発酵性炭水化物を経口摂取することを特徴とする、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上方法を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提案するカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物は、従来開示されていたものとは異なる組成であり、カテキン類を経口摂取した際に、該カテキン類が体循環液中に到達する割合を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ラット経口摂取試験において、食餌にEGCG及びフラクトオリゴ糖(FOS)を添加した際の、フラクトオリゴ糖(FOS)の添加割合と、EGCGの血漿濃度との関係を示した棒グラフであり、グループ内の各点は個々のラットの値を示し、棒グラフの値は平均値±SDを示し、****はEGCG単独群と比較してp<0.0001であることを示す。
【
図2】ラット経口摂取試験において、食餌にEGCG及びフラクトオリゴ糖(FOS)を添加した際の、フラクトオリゴ糖(FOS)の添加割合と、盲腸のパラメータとの関係を示した図であり、(a)は糞便内容物のpH値との関係を示し、(b)は1匹あたりの盲腸内容物中の乳酸値との関係を示し、(c)は、盲腸内容物中のSCFA濃度(Short-chain fatty level)を示し、棒グラフの数値は平均値±SDを示し、グループ内の各点は個々のラットの値を表し、横線はその平均値を表す。棒グラフの値は平均値±SDを示す。また、EGCG単独投与群と比較して、*はp<0.05を示し,**はp<0.01を示し,****はp<0.0001を示す。
【
図3】ラット経口摂取試験において、メタゲノムシークエンスで測定した給餌2週目に採取した糞の微生物組成を示す図であり、(a)は属名レベルでの分類群の存在量を表す棒グラフであり、(b)は主要な属の比率を示し、(c)はアルファダイバーシティ(シャノンインデックス)の平均値を示す。また、EGCG単独投与群と比較して、*はp<0.05を示し,**はp<0.01を示し,****はp<0.0001を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物>
本発明の実施形態の一例に係るカテキン類のバイオアベイラビリティ向上組成物(「本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物」と称する)は、発酵性炭水化物を有効成分として含有するものである。
【0017】
発酵性炭水化物を経口摂取することにより、経口摂取したカテキン類が体循環液中に到達する割合、すなわち、当該カテキン類のバイオアベイラビリティを高めることができる。例えば、カテキン類を経口摂取する前に、或いは、同時に、或いは、後に、発酵性炭水化物若しくは本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物を経口摂取すると、当該カテキン類のバイオアベイラビリティを高めることができる。
また、本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物は、上記作用と共に、カテキン類の自動酸化を抑制する作用、管腔を低pH状態に保持する作用、乳酸産生量を高める作用、及び、乳酸産生菌を活性化させる作用のうちの何れか又は二種以上を併せ持つものである。
【0018】
(カテキン類)
本発明において、バイオアベイラビリティ向上の対象となる「カテキン類」は、(-)カテキン(C)、(-)カテキンガレート(CG)、(-)ガロカテキン(GC)、(-)ガロカテキンガレート(GCG)、(-)エピカテキン(EC)、(-)エピカテキンガレート(ECG)、(-)エピガロカテキン(EGC)、(-)エピガロカテキンガレート(EGCG)からなる群から選ばれる一種、又は二種以上の組み合わせからなる混合物である。
【0019】
上記カテキン類の中でも、「エピガロカテキンガレート(EGCG)」が最も好適である。すなわち、本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物のカテキン類の主成分はEGCGであるのが好ましい。
この際、「主成分」とは、カテキン類のうち最も質量割合の高い成分を意味し、例えば有効成分の40質量%以上、中でも50質量%以上、その中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上、その中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を占める場合が想定される。ど
【0020】
EGCGとは、緑茶に含まれるカテキン類の中でも最も含有割合の高いカテキンであり、エピガロカテキンと、没食子酸とのエステルである。
なお、エピガロカテキンガレートは、エピガロカテキンガレートの薬学的に許容可能な塩であってもよい。例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属とエピガロカテキンガレートとの塩、エピガロカテキンガレートのアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などを挙げることができる。
また、エピガロカテキンガレートは、生体内においてエピガロカテキンガレートを放出するプロドラッグであってもよい。
【0021】
(発酵性炭水化物)
本発明において「発酵性炭水化物」とは、発酵を起こす炭水化物の意味であり、具体的には、フラクトオリゴ糖以外に、例えばブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖などや、規格基準型の特定保健用食品として使用されている食物繊維,オリゴ糖、難消化性デキストリンなどを挙げることができる。これらは一種であってもよいし、また、これらのうちの2種類以上の組み合わせであってもよい。
中でも、カテキン類のバイオアベイラビリティ向上の観点から、フラクトオリゴ糖が好ましい。
【0022】
フラクトオリゴ糖は、イヌリン型フルクタンであり、上部腸管での消化酵素に抵抗性のβ結合を有することが知られている。
フラクトオリゴ糖は、難消化性炭水化物であり、未消化のフラクトオリゴ糖は最終的に下部腸管に到達し、そこで、乳酸および短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid:「SCFA」とも称する)の産生基質となり、腸管内腔を酸性側に傾け、消化管内のpHを低下させる。腸管内のpHを低いレベルに維持することは、EGCGを自動酸化から保護するのに役立つと考えられる。
【0023】
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物は、カテキン類とは別に、単独で経口摂取することが可能である。例えば、カテキン類を経口摂取する前に本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物を経口摂取してもよいし、カテキン類を経口摂取するのと同時に本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物を経口摂取してもよいし、また、カテキン類を経口摂取した後に本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物を経口摂取してもよい。
【0024】
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物は、経口摂取したカテキン類100質量部に対して有効成分を333~1667質量部の割合で経口摂取するのが好ましく、中でも1000質量部以上の割合で経口摂取するのがさらに好ましい。
【0025】
他方、本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物は、カテキン類と共に経口摂取することも可能である。
例えば、後述するカテキン類と発酵性炭水化物を含有する組成物として、経口摂取することも可能である。
【0026】
(その他の成分)
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物は、必要に応じて、発酵性炭水化物以外に他の成分を含有することができる。
【0027】
(必要摂取量及び含有量)
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物において、有効成分である発酵性炭水化物、例えばフラクトオリゴ糖の濃度は0.1~100質量%であるのが好ましく、中でも1質量%以上、中でも10質量%以上、その中でも50質量%以上、その中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上、その中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上であるのが好ましい。
【0028】
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物において、有効成分の摂取量又は投与量は、用途に応じて適宜調整するのが好ましい。目安としては、1回1mg~10000mg、中でも1回5mg以上或いは1000mg以下、その中でも1回10mg以上或いは500mg以下を想定することができる。
摂取回数又は投与回数は、特に限定されない。目安としては、1日1~3回を想定することができ、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。
【0029】
(安全性)
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物の安全性に関しては、有効成分である発酵性炭水化物は、長年に渡って人類が経口摂取している成分であるから、安全性は食経験の観点から保証されていると言える。
【0030】
<本組成物>
本組成物は、カテキン類と発酵性炭水化物を含有する組成物である。
カテキン類と発酵性炭水化物を含有する本組成物を経口摂取すれば、当該カテキン類のバイオアベイラビリティを高めることができる。
また、本組成物は、上記作用と共に、カテキン類の自動酸化を抑制する作用、管腔を低pH状態に保持する作用、乳酸産生量を高める作用、及び、乳酸産生菌を活性化させる作用のうちの何れか又は二種以上を併せ持つものである。
【0031】
本組成物における発酵性炭水化物は上述のとおりである。
本組成物において、発酵性炭水化物の含有量は、カテキン類の含有量100質量部に対して333~1667質量部であるのが好ましく、中でも1000質量部以上であるのがさらに好ましい。
【0032】
本組成物におけるカテキン類は、C、CG、GC、GCG、EC、ECG、EGC又はEGCGの純品であってもよいし、また、これらのうちの2種類以上の混合物であってもよいし、また、カテキン類を含む組成物であってもよい。
カテキン類を含む組成物としては、例えば、緑茶の抽出物やその精製物などを挙げることができる。具体的な一例としては、緑茶を熱水抽出処理して得た抽出物を、水と低・高濃度アルコールを使って吸着カラムにて分離し乾燥させ、茶ポリフェノール濃度を約85~99.5%に調製してなる緑茶抽出物を例示することができる。例えば、「テアフラン90S(商品名;伊藤園社製)」などは好ましい例である。このテアフラン90Sは、カテキン類の総量に対するエステル型カテキン類の量が50~90質量%であり、EGCGの量がカテキン総量の40~90質量%であり、カフェイン含有量が同じくカテキン総量に対して0~2質量%である。
【0033】
(形態)
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物及び本組成物は、例えば、経口投与剤としての医薬品、医薬部外品、栄養補助食品(サプリメント)、飲食物などとして提供することができる。
この際、形態としては、例えば液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態を挙げることができる。
【0034】
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物及び本組成物は、医薬品、医薬部外品、栄養補助食品に通常用いられている添加剤、例えば賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを含有することが可能である。また、例えばでん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどの無毒性の添加剤を配合することも可能である。
なお、医薬部外品として調製する場合には、例えば瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0035】
本カテキン類バイオアベイラビリティ向上組成物及び本組成物を、飲食物として提供する場合、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品,いわゆる健康食品(機能性食品、健康補助食品)、清涼飲料水などとして提供することができる。但し、これらに限定するものではない。
この際、カテキン類が有する薬理作用を有する旨の表示を付した飲食物とすることも可能である。
【0036】
飲食物として好ましい形態は、例えば飴、ゼリー、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、冷菓、焼き菓子等を挙げることができる。好ましくは、果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料(緑茶飲料を含む)、コーヒー飲料、スポーツドリンク等の容器詰飲料である。
【0037】
<語句の説明>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0038】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
下記実施例において「%」は、特に言及しなければ「質量%」を示す。
【0039】
<動物試験>
飼料中のフラクトオリゴ糖の添加が動物モデルにおけるEGCGの胃腸管での安定化に寄与し、結果的にEGCGの血漿濃度に影響するかどうかを検討した。
【0040】
(原料)
下記実施例及び比較例には、次の原料を使用した。
・EGCGの高純度抽出物(EGCG濃度94質量%以上、DSMニュートリション・ジャパン株式会社製「Teavigo」)
・フラクトオリゴ糖(1-kestose39.7%,nystose51.5%,1F-βfructofuranosyl-nystose4.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
・Helix pomatia由来のβ-グルクロニダーゼおよびアワビ内臓由来のスルファターゼ(シグマ・アルドリッチ社製)
【0041】
(動物と食餌)
Wistar系雄性ラット(4週齢)25匹を、12時間の照明サイクルで自動制御された室内において、22℃のステンレスケージ内で2日間順応させた。馴化期間中、ラットにはAIN93G配合飼料を与えた。
その後、25匹を4つのグループに分け、飼料100%に対してEGCGを0.3%添加した「0.3%EGCG飼料」、飼料100%に対して0.3%のEGCG及び1%のフラクトオリゴ糖を添加した「0.3%EGCG+1%フラクトオリゴ糖飼料」、飼料100%に対して0.3%のEGCG及び3%のフラクトオリゴ糖を添加した「0.3%EGCG+3%フラクトオリゴ糖飼料」、飼料100%に対して0.3%のEGCG及び5%のフラクトオリゴ糖を添加した「0.3%EGCG+5%フラクトオリゴ糖飼料」を、実験食としてそれぞれ与えた(表S1)。それぞれの実験食と水道水を2週間自由に摂取させた。糞は1週間ごとに回収した。
実験最終日に,高濃度の二酸化炭素を吸入させてラットを人道的に殺し,直ちに腹腔静脈から血液を採取した。2,000×gで10分間遠心分離して血漿を得た後、プラスチックチューブに10mgのL-アスコルビン酸を入れて-40℃で保存した。盲腸を摘出し、盲腸内容物も採取し、使用するまで-40℃で保存した。
【0042】
(血漿中のEGCGの分析)
血漿中のEGCG濃度の分析を次のように行った。
解凍した血漿0.1mLに、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)0.9mL、β-グルクロニダーゼ溶液10μLおよびスルファターゼ溶液10μLを加えて混合し,37℃で45分間インキュベートした。内部標準物質として20μMの没食子酸エチル溶液10μLを加えた後、反応混合物をポリマー系固相抽出カートリッジ(Strata-X,粒径33μm,Phenomenex,Inc.,CA)に直接供した。カートリッジは,水1mL、0.1%(v/v)リン酸を含む70%(v/v)水性ジメチルホルムアミド(DMF)1mL、水1mLで事前に洗浄しておいた。カートリッジを水1mL、20%(v/v)メタノール1mLで洗浄した後、0.1%(v/v)リン酸を含む70%(v/v)DMF0.7mLでEGCGを溶出させた。
0.45μmのシリンジフィルター(TORAST disk,Shimadzu GLC,Ltd.)で濾過した後、得られた濾液10μLを、電気化学検出器(Coulochem III,ESA,Inc.,MA)を備えたHPLCシステムに注入した。分析カラム(Capcell Pak 3C18type AQ,長さ150mm×内径4.6mm,株式会社資生堂)は、毎分0.8mLの流速で、0.5mMエチレンジアミン-N,N,N',N'-四酢酸(EDTA)/アセトニトリル(85/15,v/v)を含む50mMリン酸二水素ナトリウム(リン酸でpH3.5に調整)の溶媒で溶出した。
カラムの温度は40℃に保った。分析セルの印加電圧は、電極1が-200mV、電極2が+200mV、ガードセルが+250mVとした。
【0043】
(糞便及び盲腸内容物中のEGCGの分析)
凍結乾燥した糞をグラインダーミルで粉砕し、得られた粉末状の糞50mgをマイクロチューブに入れ、0.1%(v/v)リン酸を含む50%(v/v)アセトニトリル1mLと混合した。チューブにステンレスビーズを入れた後、ビーズビーター(セルデストロイヤーPS1000、バイオメディカルサイエンス社)で3分間攪拌してEGCGを抽出し、抽出液を10mLフラスコに回収した。この抽出操作を3回繰り返した。
シリンジフィルターで濾過した後、濾液をHPLCシステムに注入した。Unison UK-C18カラム(長さ100mm×内径4.6mm,Imtakt Co.,Kyoto,Japan)を用いて0.1%(v/v)のリン酸を含む15%(v/v)のアセトニトリルによってEGCGを分離し,230nmにセットした紫外部検出器で検出した。
他方、盲腸内容物中の測定では,0.1%(v/v)のリン酸を含む0.2mLのアセトニトリルに、5倍に希釈した糞便消化物(0.2mL)を加え,2000×gで5分間遠心分離した後、得られた上澄み液をろ過し、HPLCシステムに注入した。
【0044】
(盲腸内容物のpH、乳酸およびSCFAの分析)
解凍した盲腸内容物のpH値は、ポータブルpHメーターを用いて直接測定した。
盲腸内容物中の乳酸およびSCFAを測定するために、盲腸内容物の一部を蒸留水で5倍に希釈した。サンプル中の乳酸濃度は,市販のキット(Lactate Assay Kit-WST,Dojindo Laboratories)を用いて測定した。試料中のSCFA(酢酸,プロピオン酸,酪酸)濃度は、市販のキット(YMC Co.Ltd.,Kyoto,Japan)を用いて、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochlorideの存在下で、2-nitrophenylhydrazine hydrochlorideで誘導体化した後、HPLCで測定した。
【0045】
(微生物の分析)
製造元のプロトコルに従い、糞便DNA分離・精製キット(Norgen Biotec Co.,ON,Canada)を用いて、細菌DNAを抽出した。その後、トリス-EDTA緩衝液(pH8.5)で希釈して、DNA(5ng/μL)を調製した。
16Sメタゲノムシークエンスライブラリープロトコル(イルミナ株式会社、東京、日本)に基づいて、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅して、アンプリコンライブラリーを調製した。1回目のPCR(PCR1)では、マスターミックスは2.5μLのDNAテンプレート、5μLのフォワードプライマー(1μm),5μLのリバースプライマー(1μm)、12.5のKAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(Kapa Biosystems,Wil/minngtonmA),および滅菌したPCR用の水で構成され,最終容量は25μLとした。
PCR産物は、AMPure XP磁気ビーズベースの精製技術(Beckman Coulter)を用いてクリーンアップした。2回目のPCR(PCR2)反応は、PCR1産物5μL、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)25μL、フォワードおよびリバースデュアルインデキシングプライマー(Nextera XT index Kit v2 Set A,Illu/minna K.K.,Tokyo,Japan)各5μL、およびPCR用の滅菌水5μLで構成された。
サンプルは、AMPureビーズ(Beckman Coulter)を用いて再度精製し,Agilent Bioanalyzerで実行して品質を確認した後,シーケンスを行った。
PCR2産物は、Qubit Fluorometer付きQubit dsDNA HS Assay Kitを用いて定量し、5ng/μLの濃度でプールした。
サンプルプールを0.2M水酸化ナトリウムで変性させた後、MiSeq Reagent Kit v3を用いて、Illu/minna MiSeqシーケンシングシステムで600サイクルのシーケンシングを行った。
バイオインフォマティクスによる配列解析は、イルミナ社が提供する16S rRNAフローラ解析パイプライン(16S Metagenomics version 1.1.0)を用いて行った。簡単に言うと、FASTQファイルをインポートすることで、ペアエンド配列を簡単に組み立てることができた。配列の品質をチェックし、合格した配列を運用上の分類単位にクラスター化した。このワークフローのアルゴリズムは、Wang Q.et al.に記載されているRibosamal Database Project Classifierを使用した。
分類学上のランクは、参照データベース(greengenes version13_5)のBLASTによって割り当てられ、同定された種のリードカウントに基づいてシャノンインデックスが計算された。
【0046】
(統計解析)
データは平均値±SDで示した。0.05未満のP値を有意とした。
すべての統計解析は、GraphPad Prism version7(GraphPad Software,San Diego,CA)を用いて行った。
データの正規性は,Shapiro-Wilk検定で確認した。EGCG+フラクトオリゴ糖投与群とEGCG単独投与群を比較するために、Dunnett検定またはDunn検定により、群間の差の有意性を判定した。
【0047】
<結果>
(EGCGの血漿濃度)
血漿中のEGCGは、β-グルクロニダーゼおよびスルファターゼで脱抱合した後に測定した。0.3%EGCG飼料(EGCG単独)を与えたラットのEGCGの平均血漿濃度は0.21±0.05μMであった(
図1)。フラクトオリゴ糖を添加することで、用量依存的にEGCGの血漿濃度を高める効果が得られた。5%(w/w)のフラクトオリゴ糖を食餌に添加すると、血漿中のEGCG濃度が0.65±0.12μMと有意に上昇した(p<0.0001)。
【0048】
(盲腸内容物および糞便中のEGCGレベル)
盲腸内容物におけるEGCGの量は、フラクトオリゴ糖(FOS)を食餌に投与することにより、用量依存的に有意に上昇した(表1)。EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)飼料を与えたラットの盲腸消化管中のEGCG濃度は、EGCG単独飼料群に比べて有意に上昇した(p<0.0001)。
1匹当たりのラット盲腸内容物中のEGCG量は、EGCG濃度(盲腸内容物1g当たりのEGCG量(μmol/g)に個々の盲腸内容物の湿重量を乗じて算出した。その結果、糞便内容物の量に応じて、糞便中のEGCG量が劇的に増加することがわかった。
EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)群の2週間累積採取した糞の平均乾燥重量は、EGCG単独食群に比べて有意に増加した(p<0.05)(表1)。
盲腸消化物量の増加とは対照的に、1%および3%のフラクトオリゴ糖(FOS)を食餌に添加しても顕著な増加は見られなかったが、EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)食を摂取したラットの糞中に排泄されたEGCGの累積量は、EGCG単独食に比べて有意に増加した(p<0.0001)(表1)。
糞中に未変化体で排泄されるEGCGの量と食餌から摂取したEGCGの量の比として計算されるEGCGの糞中排泄率は、EGCG単独飼料では平均3.86%と推定されたが、EGCG+5%フラクトオリゴ糖飼料では21.83%と有意に増加した。
【0049】
(盲腸内容物のpH、乳酸およびSCFAレベル)
すべてのフラクトオリゴ糖投与群の盲腸内容物のpHは、EGCG単独投与群に比べて有意に低下し、1%、3%、5%のフラクトオリゴ糖(FOS)投与群では、それぞれp値が0.01未満、0.0001未満、0.0001未満となった(
図2(a))。逆に、フラクトオリゴ糖を食餌に添加すると、用量依存的に盲腸の乳酸値が上昇した(
図2(b))。
EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)群の盲腸内容物は、EGCG単独群と比較して、ラット1匹あたりの乳酸量が約10倍に増加した(p<0.0001)。
一方、フラクトオリゴ糖による食餌療法は、SCFAの盲腸内容物レベルとほとんど関係がなかった。酢酸、プロピオン酸、酪酸の糞便中の濃度には、各群間で統計的に有意な差はなかった(
図2(c))。
【0050】
(糞便の微生物叢の組成)
ラットの糞便の微生物組成は、Illumina MiSeqを用いた16S rRNA遺伝子のアンプリコンシークエンスにより決定した。属レベルでは、グループ間の糞便微生物叢の分類学的組成の違いを
図3(a)に表示した。上位20属のうち、EGCG単独投与群ではLactobacillusが最も多く含まれていた。
フラクトオリゴ糖を添加すると、Lactobacillusの相対的な存在量が増加する傾向が見られた。Collinsellaは、フラクトオリゴ糖の投与により劇的に増加し、EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)群では全存在量の約40%を占めた。
EGCG+5%フラクトオリゴ糖(FOS)群では、Lactobacillus、Collinsella、Bacteroidesの3属のみで全体の90%を占めていた(
図3(b))。
各個人の糞便マイクロバイオームの多様性を計算すると、EGCGのみの場合と比較して、フラクトオリゴ糖の添加により有意に減少した。また、フラクトオリゴ糖の添加濃度に反比例して、シャノン指数の低下が観察された(
図3(c))。
【0051】
【0052】
<考察>
カテキン類、中でもEGCGは、バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が低いことが知られている。カテキン類、例えばEGCGのバイオアベイラビリティが低い要因として、例えば、EGCGは自動酸化を受けて重合すること、金属イオンや乳タンパク質との相互作用により不活性化すること、肝臓の酵素によるメチル化とグルクロン酸および硫酸との抱合を受けること、腸内細菌によるフェノール酸へ分解されることなどを挙げることができる。実際、自動酸化によってEGCGの二量体となったテアシネンシンAの腸管吸収率は、EGCGの10分の1と推定されている。その意味で、消化管内でのEGCGの自動酸化を防ぐことは、EGCGのバイオアベイラビリティ向上の要因であると推定できる。自動酸化がpHの高い状態で起こることを考えると、管腔内のpHを下げることで、EGCGをある程度安定させることができると考えられる。
【0053】
本試験では、ラットにおけるEGCGの腸管吸収率を高めるために、管腔内のpHを低下させることができる食品因子の複合効果を調べた。
発酵性炭水化物が管腔内pHを酸性化することに着目し、EGCGの血漿中濃度を高める候補としてフラクトオリゴ糖を選んだ。フラクトオリゴ糖は、宿主の腸内環境に有益な影響を与えるプレバイオティクスとしてよく知られている。ラットでは、フラクトオリゴ糖の摂取により、微生物による乳酸やSCFAの産生が促進され、管腔内pH値が低下したことが明らかにされている。本試験では、フラクトオリゴ糖を投与したラットにおいて、用量依存的にpH値が低下することを明らかにし,腸内細菌によるフラクトオリゴ糖の発酵的利用と乳酸の産生が、管腔腔のpH値を下げることに非常に寄与したと考えられる。
【0054】
また、糞便中の微生物組成を分析した結果、フラクトオリゴ糖とEGCGを併用した処理では、Lactobacillus属とCollinsella属の存在量が増加することが分かった。この2つの属は、乳酸を産生すると考えられている。両属の細菌による乳酸生成量の増加が、ラットの盲腸消化管のpH値の低下と関連していることが理解できる。また、フラクトオリゴ糖は乳酸だけでなく、SCFAにも発酵変換することが知られている。しかし、本試験では、フラクトオリゴ糖の添加量にかかわらず、SCFAの総量(酢酸、プロピオン酸、酪酸の合計)に有意な差は見られなかった。これは、EGCGが微生物のSCFA産生に関与しているためと推定される。
【0055】
フラクトオリゴ糖の添加は、用量依存的に糞便微生物叢のα-多様性を減少させた。これは、フラクトオリゴ糖を利用する能力の高い細菌種が優先的に増殖したためと考えられる。特にCollinsellaとLactobacillusの存在感が爆発的に高まったことで、腸内の他の微生物群集が減少した。15%(w/w)のフラクトオリゴ糖を12週間摂取させても、ラットのα-diversity indexは減少しないという過去の知見を考慮すると、EGCGとフラクトオリゴ糖の同時摂取がα-diversityの大幅な減少を引き起こした可能性がある。
【0056】
また、本試験では、フラクトオリゴ糖を食餌に添加すると、盲腸内容物中のEGCG量が増加することも明らかにした。これは、食餌性フラクトオリゴ糖がEGCGの消化管内での自動酸化を防ぎ、より多くのEGCGがそのまま盲腸に到達できたことを意味していると考えられる。微生物がフラクトオリゴ糖から乳酸を生成して管腔内を酸性化することが、EGCGの安定性に役立っている可能性がある。このようなフラクトオリゴ糖のpH低下作用は、大腸だけでなく小腸でも認められている。マウスでは、下部小腸の微生物群は、主にLactobacillaceae科が占めている。このことから、細菌が発酵利用したフラクトオリゴ糖の一部は、EGCGの腸管吸収の活性部位である小腸にも生息していたと推測される。EGCGの腸内量はEGCGの血漿濃度と高い相関があることから、酸性化でEGCGが安定化し、腸管吸収が高まることは十分に考えられる。
【0057】
本試験では、酸性化した腸内環境下でEGCGの安定性を高めることが、バイオアベイラビリティを向上させる要因であることが分かった。上記試験では、管腔内のpH値を下げる効果のある物質の例としてフラクトオリゴ糖を用いたが、他の発酵性炭水化物が同様の機能を果たすと考えることができる。
EGCGの上皮細胞への取り込みは、受動的な拡散によるものと考えられていたが、近年,回腸上皮細胞の表面にEGCGの腸管吸収を担う特定のトランスポーターが活発に発現していることが判明した。EGCGを回腸上皮細胞に送達することは、EGCGの血漿中濃度を高めることで期待される有益な健康効果の理解を深めるために有用であると考えられる。
【0058】
以下は、上記考察の総括である。
カテキン類の中でも、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)は、生理的pHで自動酸化を受けるため、腸ではほとんど吸収されない可能性がある。フラクトオリゴ糖(フラクトオリゴ糖)は腸内細菌により発酵され、主に乳酸に変換される。この研究は、食餌フラクトオリゴ糖が自己酸化を防止することにより、ラットにおけるEGCGの血漿濃度を増加させるのに役立つかどうかを明らかにするために行なわれた。ラットは、0.3%(w/w)のEGCG食、またはさらに1%、3%または5%(w/w)のフラクトオリゴ糖を加えたEGCG食のいずれかの割り当てられた食餌を2週間摂取した。その結果、EGCGの血漿中濃度は、EGCG単独群では0.21±0.05μMであり、EGCG+5%フラクトオリゴ糖群では0.65±0.12μMと有意に高かった。フラクトオリゴ糖処理は、盲腸内容物中の乳酸レベルを用量依存的に増加させ、盲腸内容物のpHを低下させ、LactobacillusとCollinsellaの存在量を変化させた。フラクトオリゴ糖含有飼料を給餌したラットの盲腸内容物中のEGCG濃度は比較的高いレベルを維持したことから、フラクトオリゴ糖はEGCGを自己酸化から保護することに寄与した可能性が高い。結論として、フラクトオリゴ糖は腸管の内腔のpHを低下させ、EGCGをある程度損なわず、その結果、EGCGを腸から血液循環に取り込むことを可能にしたと考えられる。
なお、上記試験はEGCGを対象としているが、他のカテキン類もEGCGと同様のpH安定性であることが知られているから、他のカテキン類についてもEGCGと同様の効果が得られるものと推察される。