(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140750
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】管内移動ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B25J5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046747
(22)【出願日】2022-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第39回日本ロボット学会学術講演会 講演論文集(令和3年8月31日発行) RSJ2021AC1H4-07にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文臣
(72)【発明者】
【氏名】多加谷 一輝
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS20
3C707CS08
3C707CS09
3C707CY13
3C707HS11
3C707LV22
3C707WA18
3C707WA25
(57)【要約】
【課題】配管において、曲管が連続するように設けられたり、長距離の間に複数設けられたりした場合であっても進行可能な自走式ロボットを提供する。
【解決手段】筒状に形成され、流体の供給により管径方向に膨張して管内壁を把持し、流体の供給により管径方向に収縮して管内壁の把持状態を開放する膨縮ユニットにより構成される把持部と、筒状に形成され、流体の供給により管軸方向に伸長し、流体の排出により管軸方向に収縮する伸縮ユニットにより構成される推進力発生部と、を交互に備え、推進力発生部の伸縮と、把持部の膨縮とを所定の順序で実行させることにより、曲管部を含む管内を移動可能とされた移動体を備えた管内移動ロボットであって、推進力発生部は、曲管部の内側内壁に沿って移動した仮定したときの内側経路と、曲管部の外側内壁に沿って移動した仮定したときの外側経路との経路長差よりも伸縮ユニットの伸縮量が長く設定された構成とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、流体の供給により管径方向に膨張して管内壁を把持し、流体の供給により管径方向に収縮して管内壁の把持状態を開放する膨縮ユニットにより構成される把持部と、
筒状に形成され、流体の供給により管軸方向に伸長し、流体の排出により管軸方向に収縮する伸縮ユニットにより構成される推進力発生部と、を交互に備え、
推進力発生部の伸縮と、把持部の膨縮とを所定の順序で実行させることにより、曲管部を含む管内を移動可能とされた移動体を備えた管内移動ロボットであって、
前記推進力発生部は、前記曲管部の内側内壁に沿って移動した仮定したときの内側経路と、前記曲管部の外側内壁に沿って移動した仮定したときの外側経路との経路長差よりも前記伸縮ユニットの伸縮量が長く設定されたことを特徴とする管内移動ロボット。
【請求項2】
筒状に形成され、流体の供給により管径方向に膨張して管内壁を把持し、流体の供給により管径方向に収縮して管内壁の把持状態を開放する膨縮ユニットにより構成される把持部と、
筒状に形成され、流体の供給により管軸方向に伸長し、流体の排出により管軸方向に収縮する伸縮ユニットにより構成される推進力発生部と、を交互に備え、
推進力発生部の伸縮と、把持部の膨縮とを所定の順序で実行させることにより、曲管部を含む管内を移動可能とされた移動体を備えた管内移動ロボットであって、
前記伸縮ユニットは、前記管内において伸縮が許容され、該管の中心線に該伸縮ユニットの中心線が最も近づく外径寸法とされたことを特徴とする管内移動ロボット。
【請求項3】
前記伸縮ユニットは、外周に摩擦低減部材を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の管内移動ロボット。
【請求項4】
前記伸縮ユニットは、管内壁に向けて突出し、該伸縮ユニットの中心線を管の中心線側に位置させるための支持手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の管内移動ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管内移動ロボットに関し、特に、蠕動運動を模した動作により管内を移動する管内移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配管などの管内を移動するロボットの一つとして、例えば、特許文献1に示すような流体圧により駆動する自走ロボットが提案されている。
特許文献1に示す自走ロボットでは、走行面に対する摩擦状態を可変とし、可撓性を有するひも状の拘束手段により互いの距離が拘束された一対の摩擦部と、走行面に対する摩擦状態を可変とし、拘束手段に沿って一対の摩擦部の間を移動可能に設けられた中間摩擦部と、一対の摩擦部の間における前記中間摩擦部の位置を移動させる駆動部とを有するように構成されている。摩擦部及び中間摩擦部は、空気を供給することで径方向に膨張し、走行面と摩擦を生じさせるように構成される。駆動部は、中間摩擦部と各摩擦部の間のそれぞれに設けられ空気の供給により軸方向に伸長し、排出により収縮するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の自走ロボットによれば、以下の行程を経ることで、走行ユニットが配管内を進行する。行程1:進行方向後方の摩擦部を膨張させた後に、進行方向後方の駆動部を伸長させることにより中間摩擦部を前方に移動させる。行程2:中間摩擦部を膨張させるとともに、後方の摩擦部及び後方の駆動部を収縮させる。行程3:中間摩擦部の膨張状態及び前方の摩擦部の収縮状態を維持したまま、前方の駆動部を伸長させて前方の摩擦部を前方に押し出して移動させることにより、前方の摩擦部と拘束手段で連結された収縮状態にある後方の摩擦部を前方に移動させる。行程4:中間摩擦部の膨張状態及び前方の駆動部の伸長状態を維持したまま、前方の摩擦部を膨張させる。行程5:前方の摩擦部の膨張状態及び前方の駆動部の伸長状態を維持したまま、中間摩擦部を収縮させるとともに後方の摩擦部を膨張させる。行程6:前方の摩擦部及び後方の摩擦部の膨張状態を維持したまま、前方の駆動部を収縮させるとともに、後方の駆動部を伸長させて、中間摩擦部を前方に移動させる。行程7:後方の駆動部の伸長状態及び後方の摩擦部の膨張状態を維持したまま、前方の摩擦部を収縮させる。このような行程1~行程7を経る中において、前方の摩擦部及び後方の摩擦部を拘束手段によって連結ことで、前方の駆動部を伸長させたときに、後方の摩擦部を前方に移動させるとともに、後方の駆動部をより収縮させることが可能となり、走行ユニットが前進するための大きな推進力を得るように構成されている。
一方で、走行ユニットは、配管に連続して曲管が設けられている場合や、複数箇所の曲管が設けられた配管内を奥へと進行することにより、3つの摩擦部及び2つの駆動部に流体を給排するためのチューブと配管、特に曲管部分における摩擦が大きくなり曲管の通過に時間を要したり、或いはそれ以上進行できなくなる虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、配管において、曲管が連続して設けられていたり、長距離の移動の間に曲管が複数箇所設けられていたりする場合であっても走行ユニットの進行を可能とする管内移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための管内移動ロボットの構成として、筒状に形成され、流体の供給により管径方向に膨張して管内壁を把持し、流体の供給により管径方向に収縮して管内壁の把持状態を開放する膨縮ユニットにより構成される把持部と、筒状に形成され、流体の供給により管軸方向に伸長し、流体の排出により管軸方向に収縮する伸縮ユニットにより構成される推進力発生部と、を交互に備え、推進力発生部の伸縮と、把持部の膨縮とを所定の順序で実行させることにより、曲管部を含む管内を移動可能とされた移動体を備えた管内移動ロボットであって、推進力発生部は、曲管部の内側内壁に沿って移動した仮定したときの内側経路と、曲管部の外側内壁に沿って移動した仮定したときの外側経路との経路長差よりも伸縮ユニットの伸縮量が長く設定したり、前記伸縮ユニットが、管内壁に向けて突出し、該伸縮ユニットの中心線を管の中心線側に位置させるための支持手段を備える構成とした。
本構成によれば、伸縮ユニットが曲管部分を通過するときに、管の中心線に近づく経路を通過することができ、例えば、移動対象の管に曲管が連続するように設けられていたり、長距離の間に複数設けられている場合であっても、曲管部分との間に生じる摩擦が小さくして、安定した長距離の移動を可能とすることができる。
また、伸縮ユニットは、外周に摩擦低減部材を備える構成としたり、径方向に放射状に突出する突出部を備える構成としたりすることにより、管内壁との摩擦を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】膨縮ユニットの軸方向断面図及び動作図である。
【
図3】伸縮ユニットの軸方向断面図及び動作図である。
【
図5】走行部により得られる推進力(牽引力)の発生メカニズムを示す図である。
【
図6】走行部が管に設けられた曲管部を通過するときの模式図である。
【
図9】伸縮ユニットが曲管部を通過するときの模式図である。
【
図10】支持手段を備えた伸縮ユニットが曲管部を通過するときの模式図である。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、各図に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る管内移動ロボット1の一実施形態を示す概略構成図である。
管内移動ロボット1は、概略、移動体としての走行部10と、走行部10の動作を制御する制御手段としての制御部100とを備える。
【0010】
図1に示すように、走行部10は、管z内に設けられ、管zの内壁を走行面として管z内を移動する実質的なロボットとして機能する。
走行部10は、管径方向に膨張することにより管zの内壁面との間に摩擦力を生じさせ、管zの内壁を把持する把持部2と、管軸方向に伸縮することにより推進力を生じさせる推進力発生部5とを備える。把持部2及び推進力発生部5は、例えば、
図1に示すように、交互に設けられる。本実施形態では、走行部10は、把持部2が推進力発生部5の間に配置されるように、2つの把持部2と、3つの推進力発生部5とを直列に連結されたものとして説明する。
【0011】
把持部2は、後述の膨縮ユニット20により構成され、推進力発生部5は、後述の伸縮ユニット50により構成される。本実施形態では、各把持部2が1つの膨縮ユニット20により構成され、各推進力発生部5が1つの伸縮ユニット50により構成されるものとして説明する。
【0012】
なお、各把持部2を構成する膨縮ユニット20の数量や、各推進力発生部5を構成する伸縮ユニット50の数量はこれに限定されない。また、把持部2や推進力発生部5は、各配置位置において、膨縮ユニット20や伸縮ユニット50の数量が同じである必要はなく、走行部10における配置位置に応じて膨縮ユニット20や伸縮ユニット50の数量が異なっていても良い。
【0013】
図2(a)は、膨縮ユニット20の構成を示す軸方向断面図である。膨縮ユニット20は、内筒22と、外筒24と、端部部材26;26とを備える。膨縮ユニット20は、二重管をなすように内筒22の外周に外筒24が配置され、内筒22の外周と外筒24の内周との間に、閉空間の流体室S20を形成すべく、端部部材26;26が設けられる。
【0014】
内筒22は、気密性を有する素材で構成され、軸方向に伸縮が可能であり、外周からの圧力に対して半径方向にはほとんど拡縮が見られない特性を有する筒体として形成される。本実施形態では、内筒22は、軸方向への伸縮を許容し、半径方向に拡縮のない円筒状の蛇腹を用いた。
【0015】
外筒24は、弾性体より形成される円筒状の筒本体と、当該筒本体の内部に密に内挿された複数の繊維とから構成される所謂軸方向繊維強化型人工筋肉からなる。筒本体の材質としては、シリコーンゴム等の合成ゴム、或いは天然ラテックスゴム等の天然ゴム等の気密性及び伸縮性を有する弾性素材が好適である。
【0016】
繊維は、例えば、外筒24を形成する筒本体の軸線に沿うように、例えば、筒本体の一端側から他端側まで連続して延長するように筒本体内に内挿される。繊維の内挿される形態は、例えば、層状に複数積層して内挿しても良く、積層せずに単層であっても良い。なお、繊維が筒本体の軸方向に沿うように延長するとは、軸方向に対して多少の傾斜(交差)を許容する。また、前述の一端側から他端側まで連続するとは、一本の繊維が外筒24の一端側から他端側に到達する状態や、外筒の軸方向長さよりも短い複数の繊維を、軸方向に重複するように分布させて一端側から他端側まで到達するものであっても良い。
【0017】
繊維の素材は、軸方向への伸縮変化の小さい素材が好適である。例えば、繊維には、例えば、アラミド繊維、炭素(カーボン)繊維、ガラス繊維、ナイロン、ポリアミド系繊維やポリオレフィン系繊維、金属繊維等の被伸長性を有するものを適宜選択して用いることができる。
【0018】
また、繊維には、適当なプライマー処理、又は、表面酸化処理を行うことで、筒本体への接着性を十分に向上させると良く、好ましくは、筒本体を構成するゴムとの接着性に応じて選択すると良い。
【0019】
また、繊維の形態は、フィラメント、ヤーン(スパン・ヤーン及びフィラメント・ヤーン)、ストランド等のいずれの形態でも用いることができ、さらに、撚りをかけずに収束させた無撚繊維、これらの繊維を複数本撚って作成した繊維を用いることも可能である。繊維の種類にもよるが、二種類以上の素材の異なる繊維や形態の異なる繊維を組み合わせても良い。
【0020】
筒本体を構成する素材は、後述する流体室S20への圧縮空気の給排によってその形状が変化し得る材質であれば如何なる材質であっても良い。また、筒本体の厚さや繊維の配置については、外筒24の空気排出時の伸長する力等を考慮して決めれば良い。
【0021】
端部部材26;26は、内筒22及び外筒24の両端部に取り付けられる。端部部材26;26は、概略円筒状の筒体としてそれぞれ構成される。各端部部材26;26の一端側の内周には内筒22を取り付けるための内筒固定部28が設けられ、外周には外筒24を取り付けるための外筒固定部30が設けられている。
【0022】
端部部材26;26は、内筒22及び外筒24に取り付けられたときに、内筒22及び外筒24が同軸に配置され、内筒22の外周と外筒24の内周との間に閉空間(流体室S20)を形成するように構成される。
【0023】
内筒固定部28には、内筒22の端部が挿入され、内筒22の外周と気密状態を維持するように固定される。内筒固定部28における内筒22の固定は、例えば、内筒22に螺旋状の蛇腹を用いる場合には、この螺旋に対応してねじ込み可能な溝を内筒固定部28として形成し、内筒22の外周が端部部材26に密着するようにすると良い。
【0024】
なお、内筒固定部28の形状については、これに限定されず、内筒22の外周の形状に応じて適宜好適な形状に応じて形成しても良い。また、本実施形態では、内筒固定部28は、内筒22の外周を密着させるように形成するものとしたが、内筒22の内周が密着するように端部部材26に形成しても良い。また、内筒固定部28は、内筒22の形状に対応させて固定することに限定されず、接着や止め輪などの固定手段を用いて端部部材26に密着させて脱落不能に固定するようにしても良い。
【0025】
外筒固定部30には、外筒24の端部が挿入され、外筒の内周と気密状態を維持するように固定される。外筒24の外筒固定部30への固定は、例えば、非伸縮のひも状の固定部材32を固定手段として外筒24の外周側から巻き付け、端部部材26に締め付けるようにすれば良い。この場合、
図2に示すように、端部部材26に円周方向に沿って一周分窪む溝34を形成しておくことで、固定部材32のずれ、即ち、外筒24の端部部材26からの脱落を防止することができる。
【0026】
各端部部材26において内筒固定部28の形成された端部とは逆側の端部には、軸方向に突出するおねじ部36が設けられる。おねじ部36は、端部から軸方向外側に向けて所定長さ形成され、膨縮ユニット20を伸縮ユニット50に連結するときの連結機構として機能する。
【0027】
また、一方の端部部材26には、流体室S20への空気の給排を可能にするための孔38が設けられている。孔38は、一端が端部部材26の外側の端面に開口し、他端が外筒固定部30に設けられた溝34よりも内側に開口するように形成され、流体室S20に連通している。端面側に開口する孔38の一部は、後述のチューブ118A;118Bが挿入可能に形成され、他部よりも大径に形成されている。
【0028】
そして、膨縮ユニット20は、孔38を介して流体室S20に空気が供給されると、外筒24に内挿された繊維が軸方向への伸長を規制するため、
図2(b)に示すように、外筒24が半径方向に膨張しつつ軸方向に収縮する。膨縮ユニット20は、内筒22は、この外筒24の軸方向への収縮に伴なって内筒22が従属的に軸方向に収縮する。
【0029】
したがって、膨縮ユニット20は、外筒24を管zの内径以上に半径方向外向きに膨張させることで管zを把持させることができる。なお、以下の説明において、膨縮ユニット20が膨張して管zを把持した状態を単に膨張又は膨張状態等という。
【0030】
また、膨縮ユニット20は、把持状態から流体室S20に供給された空気を孔38を介して排出することにより、外筒24の弾性及び内筒22の弾性による復元力が作用し、
図2(c)に示すように、半径方向に収縮しつつ軸方向に伸長して元の状態に戻る。なお、以下の説明において、膨縮ユニット20が収縮した状態を単に収縮又は収縮状態という。つまり、膨縮ユニット20は、流体室S20への空気の供給、又は、流体室S20からの排出により、軸方向に伸縮するとともに半径方向に膨縮するアクチュエータとして動作する。
【0031】
図3(a)は、伸縮ユニット50の構成を示す軸方向断面図である。
伸縮ユニット50は、内筒52と、外筒54と、端部部材56;56とを備える。伸縮ユニット50は、二重管をなすように内筒52の外周に外筒54が配置され、内筒52の外周と外筒54の内周との間に、閉空間の流体室S50を形成すべく、端部部材56;56が設けられる。
【0032】
伸縮ユニット50は、外観視において円筒状に形成され、流体室S50に空気を供給することで軸方向に伸長し、排出することで軸方向に収縮するように構成される。伸縮ユニット50は、空気の給排による軸方向に伸縮に伴い、実質的に半径方向に膨縮しない(非膨張となる)ように半径方向への膨縮が小さい構成とされる。
【0033】
内筒52及び外筒54は、例えば、それぞれコイルばね58;62と、被覆体60:64とで構成されている。
コイルばね58;62には、それぞれ引っ張りばねが用いられる。外筒54を形成するコイルばね62は、内筒52を形成するコイルばね58の外径寸法よりも大径である。内筒52の外周には被覆体60が、外筒54の外周には被覆体64がそれぞれ設けられる。
【0034】
被覆体60;64は、コイルばね58;62の外周に沿って囲繞するように設けられている。被覆体60;64は、気密性及び可撓性を有する非伸縮性の素材を筒状にして構成される。被覆体60;64は、コイルばね58;62の伸縮動作を妨げないように、コイルばね58;62の自然長の長さよりも長く形成されている。被覆体60;64には、例えば、ビニールやアルミ箔等を筒状に形成したものを利用することができる。
【0035】
端部部材56;56は、内筒52及び外筒54の両端部に取り付けられる。端部部材56;56は、概略円筒状の筒体としてそれぞれ構成される。各端部部材56;56の一端側には、内筒52を取り付けるための内筒固定部66が設けられ、外周には外筒54を取り付けるための外筒固定部68が設けられている。
【0036】
端部部材56;56は、内筒52及び外筒54に取り付けられたときに、内筒52及び外筒54が同軸に配置され、内筒52の外周と外筒54の内周との間に閉空間(流体室S50)を形成するように構成される。
【0037】
内筒固定部66は、例えば、内筒52を構成するコイルばね58がねじ込み可能に形成され、コイルばね58が端部部材56から脱落不能に取り付けられる。また、コイルばね58が内筒固定部66にねじ込み固定された状態において、コイルばね58の外周を囲繞する被覆体60ごと内筒固定部66に対して非伸縮性のひも状の括り部材で締め付けることで内筒固定部66に対して気密状態を維持するように密着される。
【0038】
外筒固定部68は、例えば、外筒54を構成するコイルばね62がねじ込み可能に形成され、コイルばね62が端部部材56から脱落不能に取り付けられる。また、コイルばね62が内筒固定部68にねじ込み固定された状態において、コイルばね62の外周を囲繞する被覆体64が内筒固定部68に対して非伸縮性のひも状の括り部材で締め付けることで外筒固定部68に対して気密状態を維持するように密着される。
【0039】
各端部部材56において内筒固定部66の形成された逆側の端部には、内周にめねじ部70が設けられる。めねじ部70は、膨縮ユニット20の端部部材26に形成されたおねじ部36が螺入可能に、端面から軸方向に所定長さ形成される。このめねじ部70は、膨縮ユニット20を伸縮ユニット50に連結するときの連結機構として機能する。
【0040】
また、一方の端部部材56には、流体室S50への空気の給排を可能にするための孔72が設けられている。孔72は、一端がめねじ部70よりも内側の内周面に開口し、他端が外筒固定部68よりも内側に開口するように形成されている。内周面に開口する孔72には、後述のチューブ119A~119Cを挿入するためのジョイント74が取り付けられる。
【0041】
伸縮ユニット50は、孔72を介して流体室S50に空気が供給されると、
図3(b)に示すように、内筒52及び外筒54を形成するコイルばね58;62の付勢力に対抗しながら軸方向に伸長する。また、流体室S50に供給された空気が孔72を介して排出されると、
図3(c)に示すように、内筒52及び外筒54を形成するコイルばね58;62の復元力により軸方向に収縮する。つまり、伸縮ユニット50は、流体室S50への空気の供給、又は、流体室S50からの排出により、軸方向にのみ伸縮するアクチュエータとして動作する。
【0042】
上記構成の膨縮ユニット20及び伸縮ユニット50は、
図1に示すように、進行方向側から伸縮ユニット50、膨縮ユニット20が交互に連結される。この連結により、走行部10には、連結された複数の伸縮ユニット50の内筒52及び複数の膨縮ユニット20の内筒22により一続きに連通する一つの中空空間が形成可能とされる。
【0043】
この中空空間には、複数の伸縮ユニット50の動作を相互に作用させるための2本の拘束手段T1;T2と、膨縮ユニット20及び伸縮ユニット50に空気を給排するための複数のチューブ118A~118C,119A;119B等が延長可能とされる。また、走行部10の先頭に内視鏡として取り付けられた図外のカメラから延長する配線が、中空空間内を貫通してチューブ118A~118C,119A;119Bとともに延長される。
【0044】
なお、以下の説明では、連結された伸縮ユニット50及び膨縮ユニット20を特定するために、伸縮ユニット50については先頭側から伸縮ユニット50A,50B,50C等として示し、膨縮ユニット20については先頭側から膨縮ユニット20A,20B等として示す。また、伸縮ユニット50(A~C)の端部部材56;56、膨縮ユニット20(A~C)の端部部材26;26については進行方向を基準として、前方端部部材56や前方端部部材26、後方端部部材56や後方端部部材26等という。
【0045】
拘束手段T1;T2は、それぞれ可撓性を有する非伸縮性のひも状部材で構成される。拘束手段T1;T2は、可撓性及び非伸縮性のものであり、所定の引張強度が得られるものであれば、金属製、化繊等に関わらず素材は限定されない。
【0046】
拘束手段T1は、膨縮ユニット20Aを挟んで連結された伸縮ユニット50Aと、伸縮ユニット50Bとが連動して動作するように取り付けられる。また、拘束手段T2は、膨縮ユニット20Bを挟んで連結された伸縮ユニット50Bと、伸縮ユニット50Cとが連動して動作するように取り付けられる。
【0047】
本実施形態では、
図1,
図4に示すように、拘束手段T1は、一端を伸縮ユニット50Aの前方端部部材56に固定し、他端を伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に固定するものとした。また、拘束手段T2は、一端を伸縮ユニット50Bの前方端部部材56に固定し、他端を伸縮ユニット50Cの後方端部部材56に固定するものとした。
【0048】
即ち、拘束手段T1は、伸縮ユニット50Aの前側の端部から伸縮ユニット50Bの後側の端部までの距離を一定に拘束するように設けられ、拘束手段T2は、伸縮ユニット50Bの前側の端部から伸縮ユニット50Cの後側の端部までの距離を一定に拘束するように設けられる。
【0049】
なお、拘束手段T1の他端が固定される位置は、伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に限定されない。伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に固定されたものと見なせる位置であれば、例えば、伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に連結される膨縮ユニット20Bの前方端部部材26若しくは後方端部部材26、或いは、膨縮ユニット20Bの後方端部部材26に連結される伸縮ユニット50Cの前方端部部材56であっても良い。
【0050】
また、拘束手段T2の一端が固定される位置は、伸縮ユニット50Bの前方端部部材56に限定されない。伸縮ユニット50Bの前方端部部材56に固定されたものと見なせる位置であれば、例えば、伸縮ユニット50Bの前方端部部材56に連結される膨縮ユニット20Aの前方端部部材26若しくは後方端部部材26、或いは、膨縮ユニット20Aの前方端部部材26に連結される伸縮ユニット50Aの後方端部部材56であっても良い。
【0051】
拘束手段T1;T2を端部部材26や端部部材56に固定する方法は、特に限定されず、拘束手段T1;T2に張力が加わったときに固定状態が維持されるものであれば良い。
【0052】
拘束手段T1;T2の長さは、伸縮ユニット50A~50Cに設定された軸方向への伸縮量Stに基づいて設定すると良い。具体的には、拘束手段T1の長さは、伸縮ユニット50Aの伸縮動作が膨縮ユニット20Aを挟んで連結された伸縮ユニット50Bに作用するように設定され、拘束手段T2の長さは、伸縮ユニット50Bの動作が膨縮ユニット20Bを挟んで連結された伸縮ユニット50Cに作用するように設定される。
【0053】
拘束手段T1;T2は、例えば、伸縮ユニット50Bの伸縮動作に応じて伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Cが連動するように長さを設定することができる。例えば、
図4(b)に示すように伸縮ユニット50Bが最も伸長したときに、伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Cが最も収縮し、
図4(c)に示すように伸縮ユニット50Bが最も収縮したときに、伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Cが最も伸長する関係を維持するように、拘束手段T1,T2の長さを設定すると良い。
【0054】
制御部100は、膨縮ユニット20A;20Bの膨張・収縮、及び伸縮ユニット50A~50Cの伸長・収縮を制御する。制御部100は、例えば、
図1に示すように構成することができる。
制御部100は、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cに圧縮空気を供給するための空気供給装置110と、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cから圧縮空気を排出するための空気排出装置120と、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cへの圧縮空気の供給や排出を制御する給排制御装置130と、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cに供給される圧縮空気や、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cから排出される圧縮空気が流通するチューブ118A;118B及びチューブ119A~119C等を備える。
【0055】
空気供給装置110は、例えば、圧縮空気を生成するコンプレッサー、コンプレッサーにより生成された圧縮空気を所定の圧力に調整するレギュレータ等により構成することができる。
空気排出装置120は、例えば、真空ポンプ等の減圧手段を用いることができる。
【0056】
給排制御装置130は、例えば、空気供給装置110から膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cへの圧縮空気の供給と、空気排出装置120によって膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cからの圧縮空気の排出とを可能にするバルブと、バルブの動作を制御するコントローラーとで構成することができる。
【0057】
バルブは、例えば、電気的な信号に基づいて流路の開閉が可能な電磁弁を用いることができる。バルブは、膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50C毎に、圧縮空気の供給用及び圧縮空気の排出用として一対設けられる。
【0058】
チューブ118A;118B及びチューブ119A~119Cは、それぞれ一端が膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50Cと接続され、他端が分岐管を介して膨縮ユニット20A;20Bや伸縮ユニット50A~50C毎に設けられた供給用のバルブと排出用のバルブとに接続される。
例えば、チューブ118Aが膨縮ユニット20A、チューブ118Bが膨縮ユニット20B、チューブ119Aが伸縮ユニット50A、チューブ119Bが伸縮ユニット50B、チューブ119Cが伸縮ユニット50Cに対応する。
【0059】
コントローラーは、演算処理手段としてのCPU、記憶手段としてのRAM、ROM、入出力ポート等の入出力手段などのハードウェアを備えるコンピュータであって、ROMに記憶させたプログラムをCPUで演算処理することでプログラムに書かれた信号を、出力ポートから膨縮ユニット20A;20B及び伸縮ユニット50A~50Cに対応して設けられた各バルブに所定の順序で信号を出力することにより、管z内において走行部10を進行させるための駆動を制御する。コントローラーは、膨縮ユニット20A;20B及び伸縮ユニット50A~50Cに対応して設けられた各バルブに所定の順序で信号を出力し、膨縮ユニット20A;20B及び伸縮ユニット50A~50Cが所定の順序で膨張や収縮、膨張状態の維持、収縮状態の維持、或いは、伸長や収縮、伸長状態の維持、収縮状態の維持等を制御する。
【0060】
ここでいう所定の順序とは、膨縮ユニット20A;20B及び伸縮ユニット50A~50Cが、波動を伝播するように、換言すれば、蠕動運動を模した動作をすることにより、走行部10が管z内を前進や後進を可能とすることを言う。また、コントローラーによる制御は、前進や後進に限らず、停止動作を含むようにしても良い。
【0061】
なお、前述の制御部100の構成は一例であって、走行部10が前進、後進、停止等の動作の制御を可能とされるものであれば前述の構成に限定されない。
【0062】
図4は、走行部10の推進動作を示す図である。なお、同図では、管zは省略してある。
図4(a)は、管z内に配置された走行部10が走行を開始する前の待機状態を示している。同図に示すように、例えば、走行部10は、膨縮ユニット20A;20Bが膨張状態とされ、伸縮ユニット50Bが伸長し、伸縮ユニット50A;50Cが収縮した状態とされる。つまり、本工程では、膨張した膨縮ユニット20A;20Bが管zの内壁を把持することにより、管zに走行部10が不動とされる。
次に、
図4(b)に示すように、膨縮ユニット20Aの膨張状態、伸縮ユニット50A;50Cの収縮状態及び伸縮ユニット50Bの伸長状態を維持したまま、後方の膨縮ユニット20Bを収縮させる。
次に、
図4(c)に示すように、膨縮ユニット20Aの膨張状態及び膨縮ユニット20Bの収縮状態を維持したまま、伸縮ユニット50Bを収縮させるとともに伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Cを伸長させる。
この行程では、膨縮ユニット20Aが膨張状態にあるため、拘束手段T1を介して伸縮ユニット50Aに接続された伸縮ユニット50Bは、伸縮ユニット50Aの伸長に伴い膨縮ユニット20Aに押し付けられるように収縮する。加えて、拘束手段T2を介して伸縮ユニット50Cに接続された伸縮ユニット50Bは、伸縮ユニット50Cの伸長に伴い、さらに膨縮ユニット20Aに押し付けられるように収縮することになる。これにより、走行部10の伸縮ユニット50Cの後方端部部材56には、進行方向への牽引力が得られる。
次に、
図4(d)に示すように、膨縮ユニット20Aの膨張状態、伸縮ユニット50A;50Cの伸長状態及び伸縮ユニット50の収縮状態を維持したまま、膨縮ユニット20Bを膨張させて管zを把持させる。
次に、
図4(e)に示すように、膨縮ユニット20Bの膨張状態、伸縮ユニット50A;50Cの伸長状態及び伸縮ユニット50の収縮状態を維持したまま、膨縮ユニット20Aを収縮させて管zの把持を開放させる。
次に、
図4(f)に示すように、膨縮ユニット20Bの膨張状態及び膨縮ユニット20Aの収縮状態を維持したまま、伸縮ユニット50Bを伸長させるとともに、伸縮ユニット50A;50Cを収縮させる。これにより、走行部10が進行方向前方に大きく前進する。
そして、上記
図4(a)~(f)に示す行程を繰り返すことで、走行部10は管z内を移動することができる。なお、走行部10は、
図4(a)から(f)に至る行程の順序を逆向きとすることにより後進させることができる。
【0063】
図5は、走行部10により得られる推進力(牽引力)の発生メカニズムを示す図である。
図5(a)は、膨縮ユニット20Aが膨張状態、膨縮ユニット20Bが収縮状態にあるとともに、伸縮ユニット50A~50Cが自然状態を示している。自然状態とは、圧縮空気が供給されておらず、流体室S50が大気圧状態にあることを言う。また、
図5(b)は、膨縮ユニット20Aを膨張状態、膨縮ユニット20Bを収縮状態、伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Bに圧縮空気を供給して伸長させるとともに伸縮ユニット50Bから空気を排出して収縮させたときを示し、牽引力を発生している状態を示している。
図5(b)は、走行部10の動作を示した
図4(c)に対応する。
【0064】
なお、
図5では、拘束手段T1の他端が固定された位置を、伸縮ユニット50Bの後方端部部材56から膨縮ユニット20Bの中央に、拘束手段T2の一端が固定された位置を、伸縮ユニット50Bの前方端部部材56からは膨縮ユニット20Aの中央に前述の説明からずらして示しているが、拘束手段T1の他端が固定された伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に作用する力は、この後方端部部材56に連結される膨縮ユニット20Bの前方端部部材26や後方端部部材26、或いは、この後方端部部材26に連結される伸縮ユニット50Cの前方端部部材56のいずれにおいても同じと見なすことができるので、拘束手段T1が膨縮ユニット20Bの軸方向長さの中央に固定されているものとして示した。また、伸縮ユニット50Bの拘束手段T2の一端が固定される前方端部部材56についても同様に考えることができるので、拘束手段T2が膨縮ユニット20Aの軸方向長さの中央に固定されているものとして示した。
【0065】
以下、本実施形態に係る走行部10における牽引力の発生メカニズムについて説明する。
本実施形態に係る走行部10により得られる牽引力は、拘束手段T1により動作が拘束される2つの伸縮ユニット50A;50B及びこれらを連結する1つの膨縮ユニット20Aと、拘束手段T2により動作が拘束される2つの伸縮ユニット50B;50C及びこれらを連結する1つの膨縮ユニット20Bと、を基本構成とする2組のユニット群の協働によって得られる。そこで、
図5(b)に示す走行部10の動作を、拘束手段T1により拘束される伸縮ユニット50A;50Bの動作と、拘束手段T2により拘束される伸縮ユニット50B;50Cの動作の2つに分けて説明する。
【0066】
まず、拘束手段T1により拘束される伸縮ユニット50A;50Bの動作について考える。
膨縮ユニット20Aが膨張状態であることから、拘束手段T1の一端が固定された伸縮ユニット50Aの前方端部部材56は、供給された圧縮空気の圧力によって進行方向前方に押し出され、進行方向への能動的な力が作用する。この力は、拘束手段T1の他端が固定された伸縮ユニット50Bの後方端部部材56を進行方向に牽引し、後方端部部材56に進行方向への受動的な力を作用させる。つまり、伸縮ユニット50Aの前方端部部材56の進行方向への移動が、拘束手段T1を介して伸縮ユニット50Bの後方端部部材56に伝達されることにより、各端部部材56;56のそれぞれに進行方向に向かう力として得られる。
【0067】
また、拘束手段T1の他端が固定された伸縮ユニット50Bの後方端部部材56は、空気の排出によって進行方向前方へと吸引され、進行方向への能動的な力が作用する。つまり、伸縮ユニット50Bの後方端部部材56には、空気の排出による収縮動作による進行方向への能動的な力に加え、拘束手段T1の牽引による進行方向への受動的な力も作用する。
ここで、伸縮ユニット50Aの伸長により生じる力をFa、伸縮ユニット50Bの収縮により生じる力をFsとすれば、拘束手段T1の他端が固定された伸縮ユニット50Bの後方端部部材56には、力Fsに力Faを加えた進行方向に向いた力Ftra1が得られることになる。
【0068】
次に、拘束手段T2により拘束される伸縮ユニット50B;50Cの動作の動作について考える。
拘束手段T2の一端が固定された伸縮ユニット50Bの前方端部部材56は、膨縮ユニット20Aが膨張状態であることから、管zに固定された状態にある。つまり、伸縮ユニット50Cへの圧縮空気の供給による伸長動作おいて、伸縮ユニット50Cの後方端部部材56の移動は、拘束手段T2に拘束される。このため、伸縮ユニット50Cの伸長は、供給された圧縮空気の圧力によって前方端部部材56を進行方向前方に押し出すことになり、前方端部部材56に進行方向への能動的な力を作用させる。この力は、収縮状態の膨縮ユニット20Bを介して伸縮ユニット50Bを受動的に進行方向に押す力となる。ここで、伸縮ユニット50Cの伸長に要した空気の圧力を、伸縮ユニット50Aの伸長に要した空気の圧力と同じとした場合、伸縮ユニット50Cの伸長により生じる力は、伸縮ユニット50Aの伸長により生じた能動的な力faと同じである。
【0069】
したがって、伸縮ユニット50A及び伸縮ユニット50Cの伸長による力2×Faに、伸縮ユニット50Bの収縮による力Fsを加えた力Ftracの作用する伸縮ユニット50Bの後方端部部材56を、膨縮ユニット20A;20B及び伸縮ユニット50A~50Cに空気を給排するためのチューブ118A;118B及びチューブ119A~119Cを牽引するための力の作用点として利用することにより、大きな牽引力が得られ、走行部10の移動距離が長距離であっても安定して推進させることができる。
【0070】
ところで、管zは、
図1に示すような直管だけでなく曲管を設けて配管されることが一般的である。曲管には、例えば、30°や45°、90°等の規格化されたものが用いられている。それら曲管は、走行部10が管zを進行する場合の障害となりやすく、特に角度が大きい程その影響は大きい。
【0071】
例えば、走行部10が、90°の曲管を通過する場合、2つの膨縮ユニット20A;20Bの間に位置する伸縮ユニット50Bの伸縮動作に影響を与える。以下の説明では、伸縮ユニット50Bが90°の曲管を通過するときを例にして曲管の影響について説明する。
【0072】
図6は、走行部10が上記推進動作によって管zに設けられた曲管部Mを通過するときの様子を示す図である。
図6(a),(b)に示すように、伸縮ユニット50Bは、曲管部Mを通過する際に、伸縮することによって曲管部Mの内側内壁側や外側内壁側に交互に移動を繰り返しながら進行する。
【0073】
例えば、
図6(a)に示す伸縮ユニット50Bの状態は、
図4(c)の行程に示すように、膨縮ユニット20Aが曲管部Mの進行方向前方の直管部に固定され、収縮することにより生じる。伸縮ユニット50Bの収縮は、膨張ユニットや伸縮ユニット等に空気を給排するためのチューブ(118A;118B;119A~119C)や、例えば走行部10の先端に取り付けられた図外のカメラユニット等の配線を管z内に引き込むための牽引力となる。
一方で、伸縮ユニット50Bには、チューブや配線の管壁との間に生じる摩擦やチューブや配線そのもの自重が伸縮ユニット50Bの収縮に負荷となり、伸縮ユニット50Bを曲管部Mの内側内壁側へと引き寄せる。
【0074】
また、
図6(b)に示す伸縮ユニット50Bの状態は、
図4(f)の行程に示すように、膨縮ユニット20Bが進行方向曲管部Mの後方の直管部に固定され、伸縮ユニット50Bが伸長することにより生じる。伸縮ユニット50Bの伸長は、膨縮ユニット20Bよりも前方のユニット(50A;20A;50B)を曲管部Mに押し込む力として作用する。この押し込む力は、膨縮ユニット20Bよりも前方のユニット(50A;20A;50B)を曲管部Mの外側内壁側へと押し付ける。
【0075】
このような曲管部Mにおける伸縮ユニット50Bの振る舞いは、曲管部Mにおける走行部10の進行の障害となりやすい。特に、進行対象とされる管zの長さが長く、そこに複数の曲管部Mが設けられていたり、曲管部Mが連続して設けられているような場合等にはその影響が大きいとされる。
【0076】
走行部10が曲管部Mを含む管z内を効率良く進行するには、可能な限り管zの中央部分を進行することが好ましい。つまり、曲管部Mに対する伸縮ユニット50Bの影響を小さくするには、曲管部Mの中心線Czに近づくように伸縮ユニット50Bを構成すれば良いと考えられる。
【0077】
したがって、伸縮ユニット50Bが曲管部Mを通過するときに、曲管部Mの中心線Czに近づくようにするには、曲管部Mにおける伸縮ユニット50Bの前述の振る舞いにおいて、伸縮ユニット50Bが伸縮したときの振れ幅が小さくなるように、伸縮ユニット50Bを構成すれば良い。
【0078】
伸縮ユニット50Bの曲管部Mにおける外側内壁側や内側内壁側への振れは伸縮動作によることから、伸縮時の振れ幅は、管zに対する伸縮ユニット50Bの外径や軸方向の長さ、伸縮ユニット50Bの伸縮量等と相関がある。そこで、伸縮ユニット50Bが曲管部Mを外側内壁側や内側内壁側に振れながら通過することに着目して伸縮ユニット50Bの構成について検討した。
【0079】
図7(a)は、
図6(a)に示すように伸縮ユニット50Bが曲管部Mの内側内壁に接触し、その内側内壁に沿って進行したと仮定したときの移動軌跡を示す模式図、
図7(b)は、
図6(b)に示すように伸縮ユニット50Bが曲管部Mの外側内壁に接触し、その外側内壁に沿って進行したと仮定したときの移動軌跡を示す模式図である。ここで、
図7(a),(b)におけるA1;A2は、曲管部Mの範囲、Dは管zの内径、dは伸縮ユニット50の外径、Oは曲管部Mにおける外側内壁及び内側内壁の曲率中心である。また、
図7(a)に示すr1は内側内壁の曲率半径、C
inは伸縮ユニット50Bが内側内壁に沿って移動したと仮定したときの伸縮ユニット50Bの中心線C
50の軌跡である。
図7(b)に示すr2は内側内壁の曲率半径、C
outは伸縮ユニット50が外側内壁に沿って移動したと仮定したときの伸縮ユニット50Bの中心線C
50の軌跡である。
なお、以下の説明では、軌跡C
inを内側経路、軌跡C
outを外側経路という。
【0080】
図7(a)に示すように、曲管部M内における内側経路C
inの経路長さL
inは、曲管部Mの内側内壁の曲率半径r1に伸縮ユニット50Bの半径(外径d/2)を加えた長さを半径とする円弧として算出することができる。
即ち、
L
in=2π(r1+(d/2))((π/2)/2π)
=(π/2)(r1+(d/2))・・・式(1)
により得られる。
【0081】
また、
図7(b)に示すように、曲管部M内における外側経路C
outの経路長さL
outは、曲管部Mの外側内壁の曲率半径r2から伸縮ユニット50Bの半径(外径d/2)を減じた長さを半径とする円弧として算出することができる。
即ち、
L
out=2π(r2-(d/2))((π/2)/2π)
=(π/2)(r2-(d/2))・・・式(2)
により得られる。
【0082】
したがって、r2=r1+Dであることを考慮すれば、外側経路Coutと内側経路Cinとの経路長差Ldiffは、
Ldiff=Lout-Lin=(π/2)(D-d)・・・式(3)
となる。
【0083】
前述したように、外側経路Coutと内側経路Cinとの振れ幅は、伸縮ユニット50Bの伸縮動作に起因する。一方で、式(3)によれば、外側経路Coutと内側経路Cinとの経路長差Ldiffは、管zの内径Dに対する伸縮ユニット50Bの外径dの寸法に依存する。
【0084】
これを踏まえて、伸縮ユニット50Bが、できるだけ曲管部Mの中心線Cz寄りの経路をとるようにするには、例えば、2つの方策が考えられる。
【0085】
1つ目は、伸縮ユニット50Bが、伸縮しつつ曲管部Mを通過するときに外側経路Coutや内側経路Cinとは異なる経路で通過するように構成することが考えられる。
例えば、伸縮ユニット50Bの伸縮量Stが、式(3)で算出される経路長差Ldiffよりも、長くなるように構成することが考えられる。
即ち、伸縮ユニット50Bの伸長量を式(3)によって得られる経路長差Ldiffよりも長くすることにより、伸縮ユニット50Bが伸長したときに、曲管部Mにおいて外側経路Coutの曲率半径r2よりも曲率の大きな弧の経路で進行させることができる。経路差が小さくなるということは、曲管部Mの中心線に近づくことを意味し、曲管部Mの内側内壁や外側内壁との摩擦を小さくすることができ、曲管部Mの通過が容易とされる。
【0086】
2つ目は、伸縮ユニット50Bの外径dが、管zの内径Dに近づくように伸縮ユニット50Bを構成することが考えられる。例えば、式(3)によれば、伸縮ユニット50Bの外径dが管zの内径Dであれば経路長差Ldiffはゼロとなる。即ち、伸縮ユニット50Bが通過するときの経路が、管zの中心線Czに一致することを意味する。
【0087】
一方で、
図3に示すように、伸縮ユニット50Bの外筒54の外径dを管zの内径Dとしてしまうと、伸縮ユニット50Bが伸縮するときに管zの内壁と摩擦を生じるか、伸縮しないことが考えられる。
【0088】
そこで、伸縮ユニット50Bの伸縮動作が可能となるように、伸縮ユニット50Bの外径dが管zの内径Dに近く、伸縮ユニット50Bの外径dを管zの内径Dよりも小さく設定すれば良い。即ち、伸縮ユニット50Bの外径dは、曲管部Mを含む管z内において伸縮が許容され、該管の中心線Czに該伸縮ユニット50Bの中心線C50が最も近づく外径寸法とすると良い。
【0089】
このように伸縮ユニット50Bの外径dを設定する場合、外筒54を摩擦抵抗の小さい部材で構成するか、外筒54の外周面と管zの内壁との摩擦抵抗を低減可能な摩擦低減部材を外筒54の外周に設けると良い。
【0090】
図8は、伸縮ユニット50Bの他の形態を示す図である。
図9は、支持手段90の一例を示す図である。
また、伸縮ユニット50Bは、
図8に示すように、外周に、管zから離間させる支持手段90を設けるようにしても良い。即ち、伸縮ユニット50Bが、管zの内壁に向けて突出し、該伸縮ユニット50Bの中心線C
50を管の中心線側に位置させるための支持手段90を備えるように構成しても良い。
これにより、伸縮ユニット50Bの外筒54の外径を大きくすることなく、伸縮ユニット50Bの外径dを大きくすることができる。この場合、支持手段90を含む部分が伸縮ユニット50Bの外径dとしてみなされる。
【0091】
図9(a)に示すように、支持手段90は、可撓性を有する帯状の台座91に複数の繊維93を植設したブラシよりに構成される。複数の繊維93は、帯状の台座91の一面側において台座91の延長方向に沿って植設することで繊維群を構成する。
【0092】
支持手段90は、例えば、
図8に示すように、伸縮ユニット50Bの前方端部部材56及び後方端部部材56の外周や、外筒54の軸方向の中間部の外周に図外の固定手段により、円周方向に沿って巻きつけるように環状にして固定することができる。
【0093】
これにより、繊維93は、伸縮ユニット50Bの外周において放射状に延長し、伸縮ユニット50Bを曲管部Mの内壁から離間可能とされる。
【0094】
繊維93の素材には、例えば、ナイロン繊維などのように腰のある弾性を有するものが好ましい。より好ましくは、繊維93は、伸縮ユニット50Bが管zの内壁に接触しない(非接触とする)剛性を有するように、太さや素材を選べば良い。
【0095】
繊維93の長さは、例えば、繊維93の素材に応じて選択すれば良い。例えば、繊維93の長さは、管zの内壁に先端が摺接するようにしたり、一部が摺接するようにしても良い。好ましくは、伸縮ユニット50Bの伸縮に伴う経路が曲管部Mの中心線により近づくように設定すると良い。
【0096】
図10は、支持手段90が設けられた伸縮ユニット50Bが曲管部Mを通過するときの模式図である。
図10に示すように、曲管部Mが支持手段90を備えることにより、伸縮ユニット50Bが曲管部Mの中心線Cz寄りを進行することになり曲管部Mをスムーズに通過できるようになる。
【0097】
なお、支持手段90は、前述の繊維群に限定されず、伸縮ユニットが管z内を移動するときに、管zの内壁に摺接したときの摩擦が小さく、曲管部Mを通過時に伸縮ユニット50Bが管zの内壁に接触しないように支持可能な剛性を有するものであれば良い。
【0098】
また、支持手段90は、伸縮ユニット50Bの外周において円周方向に全周にわたり環状に設けられている必要はなく、伸縮ユニット50Bが曲管部Mに接触しないように円周方向に部分的に設けるようにしても良い。
【0099】
したがって、伸縮ユニット50Bの外径dを曲管部Mを含む管zの内径Dに近づけたり、式(3)により算出される経路長差Ldiffよりも伸縮ユニット50Bの伸縮量Stを長く構成することにより、伸縮ユニット50Bが曲管部Mをスムーズに通過できるようになる。これにより、移動対象の管zに曲管部Mが連続したり、長距離の移動において曲管部Mが複数設けられている場合であっても進行することができる。
【0100】
なお、支持手段90は、伸縮ユニット50A;50Bにも設けるようにしても良い。
【0101】
また、走行部10において、拘束手段T1;T2は必須ではないが、把持部を挟んで設けられる推進力発生部の伸縮の関係をより効果的にすることを考慮すれば拘束手段を備える構成とすると良い。
【0102】
また、上記実施形態では、走行部10は、先頭と最後尾が推進力発生部となるように推進力発生部と把持部とを交互に連結する構成としたが、これに限定されない。例えば、走行部10は、先頭と最後尾が把持部となるように把持部と推進力発生部とを交互に連結する構成としても良い。即ち、推進力発生部及び把持部の連結の形態は適宜変更すれば良い。
【0103】
また、蠕動運動を模した推進が可能であれば、走行部10を構成する推進力発生部及び把持部の数量や順序は、適宜変更しても良い。
【符号の説明】
【0104】
1 管内移動ロボット、2 把持部、5 推進力発生部、
10 走行部、20 膨縮ユニット、50 伸縮ユニット、
90 支持手段、T1;T2 拘束手段、z 管。