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特開2023-140768試料測定装置、試料測定システム及び人工授精装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140768
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】試料測定装置、試料測定システム及び人工授精装置
(51)【国際特許分類】
   G01Q 30/14 20100101AFI20230928BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230928BHJP
   G01R 33/20 20060101ALI20230928BHJP
   G01R 33/26 20060101ALI20230928BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20230928BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20230928BHJP
   G01Q 60/52 20100101ALI20230928BHJP
   G01Q 80/00 20100101ALI20230928BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230928BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230928BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01Q30/14
G01N21/64 E
G01R33/20
G01R33/26
G01R33/02 R
G01N24/00 G
G01Q60/52
G01Q80/00 121
C12M1/00 A
C12M1/34 A
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046774
(22)【出願日】2022-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度文部科学省 科学技術試験研究委託事業「量子計測・センシング技術研究開発」のうち「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高口 雅成
(72)【発明者】
【氏名】中山 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 龍治
(72)【発明者】
【氏名】神長 輝一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 智史
【テーマコード(参考)】
2G017
2G043
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD69
2G043AA03
2G043BA17
2G043CA04
2G043DA06
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043LA03
4B029AA01
4B029AA07
4B029AA25
4B029BB11
4B029FA15
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】外部刺激を与える機構を設置可能にして、細胞の外部刺激に対する構造的、電磁気的な変化をNVセンタで高感度に計測可能にする。
【解決手段】試料に外部刺激を与えることにより試料の状態を変化させる環境制御機構を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素-空孔対を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、試料の状態を測定する試料測定装置であって、
前記試料に外部刺激を与えることにより前記試料の状態を変化させる環境制御機構を有することを特徴とする試料測定装置。
【請求項2】
前記環境制御機構は、
溶液中に浮遊した前記試料と前記探針の相対位置関係を決め、前記試料が前記溶液中で動かないように固定する試料吸引管を有することを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項3】
前記環境制御機構は、
前記試料に挿入されるように設置され、前記試料に物質を注入する注入管を有することを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項4】
前記環境制御機構は、
溶液中に浮遊した前記試料と前記探針の相対位置関係を決め、前記試料が前記溶液中で動かないように固定する試料吸引管と、
前記試料に挿入されるように設置され、前記試料に物質を注入する注入管と、を有し、
前記試料吸引管と前記注入管は、
前記窒素-空孔対に対して、所定の角度で相対するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項5】
前記試料を保持する試料台を有し、
前記環境制御機構は、
前記試料台の内部に配置され、前記試料の温度調整を行うヒータと、
前記試料台の内部に配置され、溶液が流れる流路と、
前記流路を流れる前記溶液の流量を制御するポンプと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項6】
前記試料を保持する試料台を有し、
前記環境制御機構は、
前記試料台の上方に形成されたスペースに配置されることを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項7】
少なくとも、前記窒素-空孔対を励起するレーザ光源、検出器及び第1のレンズを有し、
前記レーザ光源、前記検出器及び前記第1のレンズは、
前記試料台の下方に配置されることを特徴とする請求項6に記載の試料測定装置。
【請求項8】
マイクロ波機構を更に有し、
前記マイクロ波機構は、
前記試料台の下方に配置されることを特徴とする請求項7に記載の試料測定装置。
【請求項9】
前記試料台は、
前記レーザ光源から出力されるレーザ光を透過する素材で構成され、
前記レーザ光は前記試料台の底面から前記試料に照射されることを特徴とする請求項6に記載の試料測定装置。
【請求項10】
前記試料で励起された蛍光は、
前記試料台の底面から下方に放射され、前記検出器で計測されることを特徴とする請求項7に記載の試料測定装置。
【請求項11】
前記マイクロ波機構は、
溶液中に挿入されないように配置されることを特徴とする請求項8に記載の試料測定装置。
【請求項12】
前記試料台の上方には、
光源、第2のレンズ及びカメラが配置され、
前記光源から放射された照明光は、前記第2のレンズを介して前記試料に照射され、
前記試料で発生した蛍光は、前記カメラで撮像されることを特徴とする請求項6に記載の試料測定装置。
【請求項13】
前記探針は、
軸方向の長さが20um以上であることを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項14】
前記探針は、
軸垂直半径が1um以下であることを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項15】
前記探針は、
先端から100nmの位置での軸垂直半径が、該探針の先端から1umの位置での軸垂直半径の二分の一以下であることを特徴とする請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項16】
請求項1に記載の前記試料測定装置から出力される測定信号を解析し、解析結果を表示する制御機構を有することを特徴とする試料測定システム。
【請求項17】
窒素-空孔対を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、細胞の反応を測定する人工授精装置であって、
前記細胞に外部刺激を与えることにより前記細胞の状態を変化させる環境制御機構を有することを特徴とする人工授精装置。
【請求項18】
前記環境制御機構は、
溶液中に浮遊した前記細胞と前記探針の相対位置関係を決め、前記細胞が前記溶液中で動かないように固定する試料吸引管と、
前記細胞に挿入されるように設置され、前記細胞に物質を注入する注入管と、を有し、
前記試料吸引管と前記注入管は、
前記窒素-空孔対に対して、所定の角度で相対するように配置されていることを特徴とする請求項17に記載の人工授精装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料測定装置、試料測定システム及び人工授精装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療や生体機能を応用したエレクトロニクス向け新材料の研究開発が盛んになるにつれ、生体材料機能の可視化が課題である。すなわち細胞の場合における分化・誘導の過程モニタ、イオンチャネルやオルガネラ間の信号伝搬を定量的に計測する技術が必要となる。
【0003】
ここで示される過程や機能は計測量としては電場、磁場、温度、pH、イオン流、反応に伴う発光などの様々な物理量として捉えられるべきものである。こうした中、例えば特定のたんぱく質に付随しやすい蛍光色素を標識として用い、反応過程を追跡する技術、もしくは細胞内の特定小器官を遠心分離技術などで抽出し、遺伝子解析により反応過程を追跡する技術が広く行われているが、空間分解能が光の波長で規定されるサブマイクロメートルレベルであったり、細胞を破壊してしまうなど侵襲度が高いという問題があった。
【0004】
こうした中、近年、NVセンタ(窒素-空孔対)を有するダイヤモンド材料が微小電磁場、温度に感度が高く、センサとしての大きさが原子レベルであることから高空間分解能を有し、さらに素材がカーボン材であることから生体適合性にも優れていることからこのような生体機能計測に注目を集めている。
【0005】
NVセンターを用いた計測技術として、(1)NVセンターを含むナノ粒子を用いる方法と、(2)NVセンターを含むダイヤモンドプローブを用いた走査プローブ顕微鏡の方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、(1)のNVセンターを含んだナノ粒子を用いた計測では、ナノ粒子が存在する箇所の周辺のみ測定可能であり、位置制御性は高くない。また、ナノ粒子が凝集している場合はその分は空間分解能が劣化するという課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2015-529328号公報(特許第6117926号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(2)のNVセンタを含んだプローブによる走査プローブ顕微鏡法では、高空間分解能が期待でき、磁場、電場など試料に対して非接触で測定できる物理量については問題ない。
【0009】
しかし、特許文献1においては、細胞に対する外部刺激を与える機構がないことから、細胞変化、すなわち受精前後、薬剤刺激前後、神経発火信号投入前後といったダイナミクスを評価することはできない。
【0010】
また、特許文献1に示された装置構成、すなわち、探針を試料上で走査する際、探針側からNVセンタを励起するレーザ光を照射する構成の場合、レーザ光を収束するレンズの特性上、レンズと試料間のスペースが通常は数mm程度しか確保できず、上記外部刺激を与える機構を設置することが難しいという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、外部刺激を与える機構を設置可能にして、細胞の外部刺激に対する構造的、電磁気的な変化をNVセンタで高感度に計測可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の試料測定装置は、窒素-空孔対を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、試料の状態を測定する試料測定装置であって、前記試料の近傍に設置された環境制御機構を有し、前記環境制御機構は、前記試料に外部刺激を与えることにより前記試料の状態を変化させることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様の人工授精装置は、窒素-空孔対を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、細胞の反応を測定する人工授精装置であって、前記試料の近傍に設置された環境制御機構を有し、前記環境制御機構は、前記細胞に外部刺激を与えることにより前記細胞の状態を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、外部刺激を与える機構を設置可能にして、細胞の外部刺激に対する構造的、電磁気的な変化をNVセンタで高感度に計測可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】NVセンタを有するダイヤモンドの結晶構造を示す図である。
図1B】光検出磁気共鳴スペクトルを示す図である。
図1C】電子エネルギーの状態を示す図である。
図2】実施例1におけるNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた正立型プローバ装置の基本構成を示す正面図である。
図3】実施例1におけるNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた正立型プローバ装置の基本構成を示す側面図である。
図4】実施例2におけるNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた倒立型プローバ装置の基本構成を示す正面図である。
図5】実施例3における収束イオンビームとマイクロサンプリング法によるプローバ装置用プローブの作製過程を示す図である。
図6】実施例1におけるNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置の基本構成を示す上面図である。
図7】実施例1におけるNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた回転台を有するプローバ装置の基本構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
最初に、図1A図1B図1Cを参照して、本発明の前提となる一般的な技術について説明する。
【0018】
まず、NVセンタを有するダイヤモンドのユニットセル構造を図1Aに示す。
【0019】
通常、窒素(N)を含有したダイヤモンド基板に電子線照射等により空孔(V)を一定量導入する。この後に高温アニールすることで窒素(N)と空孔(V)が〈111〉方向に隣接する位置に再配列し、エネルギー的に安定化する。ダイヤモンド中に形成されたこの発光中心はその原子構造からNVセンタと呼ばれている。
【0020】
こうした結晶は図1Cに示した特徴のある電子エネルギー状態を取ることになる。NV対は通常電子を1個捕獲して-1価のNVとなり、電子がスピン三重項状態を形成する。なにもしない状態で532nm波長の緑色光を照射すると、m=0の状態から励起された電子はより長波長(550~800nm程度)の赤い蛍光を発することで元のm=0の状態に緩和する。一方、この結晶に2.87 GHz近傍のマイクロ波を照射すると電子スピン共鳴により電子をm=0の状態からm=±1の状態へ励起することができる。m=±1の状態に上記の532nm波長の緑色光を照射すると、電子の一部は無放射遷移を経由してm=0の状態に緩和する。
【0021】
この場合、赤色蛍光はその分が減少することになる。m=±1の状態は無磁場下では縮退しているが、磁場がある場合はゼーマン分裂を起こし2準位に分裂する。この特徴を生かし、電子をm=0の状態からm=±1の状態へ励起するマイクロ波の波長を掃引することで電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)により共鳴準位を正確に計測することが可能となる。ゼーマン分裂幅はNVセンタの感じる磁場に比例しており、上記の2準位幅から磁場を計測することができる。
【0022】
すなわち、NVセンタに磁場が印加されている場合は図1Cの右の共鳴スペクトルが得られ、2つのピークのエネルギー差(ここでは周波数の差)から印加磁場を算出することができる。例えば室温でNVセンタに1gauss(0.1mT)の磁場が印加した場合、ピーク間隔は2.8MHz程度離れることが知られている。このスペクトルは一般に光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)スペクトルと呼ばれている。
【0023】
このODMRスペクトルはNVセンタ位置に温度変化がある場合はさらにエネルギー(周波数)シフトが起こることが知られており、図1Bに示したように、室温300Kでは-75kHz/K、500Kでは-140kHz/Kのシフト量が得られる。従って、このシフト量からNVセンタの置かれている温度が計測でき、その精度は10mK以下であるとされている。
【0024】
NVセンタを応用した計測技術は、そのセンシング部分は図1Aに示されるように原子レベルの大きさであることから、原子レベルの空間分解能を有する可能性がある。しかしながら光を用いた検出であることから発光点は光の波長、すなわち数100nm程度に広がってしまう。このため、試料の電磁場、温度をNVセンタで計測する際の高空間分解能化として以下の2つの方針、すなわち(1)NVセンタを含むナノ粒子を用いる方法と、(2)NVセンタを含むダイヤモンドプローブを用いた走査プローブ顕微鏡の方法がある。
【0025】
(1)のNVセンタを含むナノ粒子を用いる方法については、NVセンタを含むカーボンナノ粒子が既に市販されており、これを測定対象である試料内に包含させる方法である。これに532nmの緑色レーザ光とマイクロ波を照射することで図1B図1Cに示した赤色蛍光を検出する。空間分解能はナノ粒子が置かれた位置が正確に認識できている場合にはナノ粒子サイズが得られる。ここで、上記した緑色レーザ光は、波長が520nm以上、540nm以下であれば最適な励起光であるといえる。なお、この一方で、照射に用いるレーザ光としては、例えば波長が561nmの黄緑色のレーザ光を適用することも可能である。
【0026】
次に、(2)のNVセンタを含むダイヤモンドプローブを用いた走査プローブ顕微鏡の装置構成の概要について説明する。ここでは、一般の走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)をベースに装置構成について述べる。
【0027】
すなわち、除振機能を有する光学定盤上の試料ステージ上に試料が設置されており、それを上からNVセンタを含むダイヤモンドプローブで走査している。試料近傍には試料に印加するためのマイクロ波用アンテナが設置される。
【0028】
他方、電子を励起する532nm波長の緑色レーザ光からの発光がアライメントされ、透明性基材を透過してプローブに照射されている。この途中で緑色レーザ光はAOM(Acousto-Optic Modulator)を通過する。AOMとは結晶中に圧電素子による振動で定常波を作り、これを回折格子として利用するものである。結晶中に印加する振動周波数により回折格子の格子幅を制御することができるため、回折格子を通して曲がる光の角度を自由に変化させることができる。ここで、上述したAOMに代えて、EOM(Electro-Optic Modulator)などの他のモジュレータ(変調器)を適用することも可能である。
【0029】
プローブ先端にはNVセンタがあり、ここからの赤色蛍光が入射レーザ光と逆の光路を通り、ハーフミラーを経由してアバランシェフォトダイオード検出器(APD検出器)で検知される。緑色レーザ光はビーム強度と形状を整えるためにビームプロファイラに、赤色蛍光はその発光特性を把握するために分光器に導かれる。
【0030】
マイクロ波用パワーアンプとAPD検出器は制御系装置に、プローブ顕微鏡はSPMコントローラに接続され、この両者も通信で接続されており、マイクロ波や試料ステージ制御などのタイムシーケンスを制御できる仕組みである。これらは検出器への迷光の入射を避けるために暗室の中に設置される。
【0031】
電磁場計測法としては数10nm程度の高空間分解能計測が期待されている。NVセンタを含むダイヤモンドプローブは、透明性基材共々、ダイヤモンドで構成されている。
【0032】
(1)のNVセンタを含んだナノ粒子を用いた計測では、ナノ粒子が存在する箇所の周辺のみ測定可能であり、位置制御性は高くない。またナノ粒子が凝集している場合はその分は空間分解能が劣化するという課題を有する。さらにナノ粒子は細胞内に導入した場合、評価計測後に粒子を外部に排出させることが極めて困難であることから、これで良否を選別された細胞を人工授精や再生医療に利用することが難しいという問題がある。
【0033】
また、(2)のNVセンタを含んだプローブによる走査プローブ顕微鏡法では、高空間分解能が期待でき、磁場、電場など試料に対して非接触で測定できる物理量については問題ない。
【0034】
このように、一般のNVセンタを含有するダイヤモンド探針を用いた顕微鏡システムでは、NVダイヤモンド探針を試料に接触させて高分解能な電磁場観察が可能であったが、試料の環境制御する機構がなく、薬剤や受精時の試料の状態変化を評価できなかった。
【0035】
また、高感度な蛍光検出を行うために集光率の高いレンズを試料に近接させる必要があったことから、試料周りのスペースが狭く、環境制御する機構を設置することが困難であった。
【0036】
このように、細胞に対する外部刺激を与える機構がないことから、細胞変化、すなわち受精前後、薬剤刺激前後、神経発火信号投入前後といったダイナミクスを評価することはできない。
【0037】
すなわち、探針を試料上で走査する際、探針側からNVセンタを励起するレーザ光を照射する構成の場合、レーザ光を収束するレンズの特性上、レンズと試料間のスペースが通常は数mm程度しか確保できず、上に述べた外部刺激を与える機構を設置することが難しいという課題があった。
【0038】
本発明は、外部刺激を与える機構を設置可能にして、細胞の外部刺激に対する構造的、電磁気的な変化をNVセンタで高感度に計測可能にすることにある。
【0039】
そこで、本発明では、試料の状態を変化させる環境制御機構を試料近傍に設置した。またNVセンタを励起するレーザ光やマイクロ波に関する機構と、探針や環境制御機構を試料台に対してお互いに反対面に設置することで試料室周りのスペースを確保し、より応用範囲の広い環境制御機構を設置可能とした。
【0040】
以下、図面を用いて、本発明の実施例について説明する。本発明の実施例は、細胞をはじめとする液中ソフトマテリアルの電磁場、温度、pH値、組成、スピン情報を高空間分解能で計測するプロービング装置に関する。
【実施例0041】
図2図3図6図7を参照して、本発明の実施例1の試料測定装置について説明する。実施例1の試料測定装置は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置である。
【0042】
ここで、図2は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた正立型プローバ装置の基本構成を示す正面図である。図3は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた正立型プローバ装置の基本構成を示す側面図である。図6は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置の基本構成を示す上面図である。図7は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いた回転台を有するプローバ装置の基本構成を示す上面図である。
【0043】
図2に、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置の基本構成を示す。この構成は、試料に対し、探針とレーザ光が同じ面から接近していることから正立型と呼ぶ。
【0044】
この装置構成においては、試料1は試料台3上の培養液2中に設置されている。これから述べる装置全体は、高空間分解能な計測を実現するため、除振台4上に全て組まれており、部材の振動が極力発生しないようになっている。先端にNVセンタ11が形成されているダイヤモンド探針10は、ガラスや金属を素材とした探針台9上に固定されており、これらはピエゾ素子7上の水晶振動子8上に固定されている。
【0045】
これらはプローブ顕微鏡制御機構25で位置制御され、試料1に触針する。尚、ここではダイヤモンドを素材としたが、シリコンカーバイドを素材とした欠陥を発光点とした同様の量子センサ材料も注目されており、用途に応じてこれらの材料の探針に置き換えて使うことが可能である。
【0046】
ダイヤモンドのNVセンタ11を用いた計測においては波長532nmの緑色系のレーザ光で蛍光が励起される。レーザ光源12から放射されたレーザ光13はミラー14とレンズ5により試料1上に照射される。試料1からは図1に示した通り、赤色系のNV蛍光15が放射されるため、レンズ5で集光され、ミラー14を介して検出器16、もしくはCCDカメラ17に集光される。
【0047】
前者では蛍光量を電流もしくは蛍光パルス数として検出し、後者では試料1面上の蛍光像を撮像する。ここでレンズ5とレーザ光の位置関係をアライメントするためにピエゾ素子やモータ等によるレンズ用微動機構19が用いられる。レーザ光は次に述べるマイクロ波とタイミングをあわせたタイムシーケンスにより様々な量子計測プロトコルを実現する。
【0048】
このため、時間分解能を高く短時間パルスを形成するために、レーザ光源12と試料1の間に音響光学変調器21、すなわちAOM(Acousto-Optic Modulator)と呼ばれる装置が広く用いられている。また、レーザ光強度などはレーザ制御機構27で調整される。検出器16とCCDカメラ17の動作制御や信号処置にはそれぞれ検出器制御機構22、CCDカメラ制御機構23が用いられる。
【0049】
次に、もう一つの照射要素であるマイクロ波について説明する。これも図1にて述べた通り、試料には2.87GHz前後のマイクロ波を、周波数を走査しながら照射する必要がある。さらに、試料1の数10umの距離にマイクロ波発生源を近づけることが高感度計測に重要であることから、試料に近接できるマイクロ波アンテナ18を設置する。マイクロ波アンテナ18はマイクロ波制御機構29により周波数、強度、タイミングなどが制御される。
【0050】
試料台3とダイヤモンド探針10の相対位置関係は、試料台用微動機構20によって制御される。この試料台用微動機構20は、試料台3の図中に示したx,y,z方向に粗動・微動できる機構であり、試料台用微動機構用制御機構26で制御される駆動源は、電導モータやピエゾ素子を併用して形成される。
【0051】
NVセンタ11の電子スピンを制御するためには安定した外部磁場印加が必要であり、ここでは空芯のヘルムホルツコイル31が試料1をはさむように対で設置され、ヘルムホルツコイル制御機構24で発生する磁場強度やタイミングが制御される。以上のシステム全体はシステム制御PC30にて制御される。
【0052】
図3には本正立型装置の側面図を示す。
図3に示すように、実施例1では、試料環境制御機構が配置されている点が特徴である。
【0053】
まず、図1に示すように、試料1は培養液2中に浮遊した図となっているため、これだけでは試料1とダイヤモンド探針10の相対位置関係は決まらない。これについては、試料吸引管40で試料1が培養液2中で動かないように固定されていることで解決される。試料吸引管40をモータやピエゾ素子で形成される試料吸引管位置・圧力制御機構42で位置制御する。
【0054】
次に例えば細胞の固定には、試料吸引管40をわずかに陰圧にするのが有効であり、細胞の吸引・固定・放出のための試料吸引管40内の圧力調整にも試料吸引管制御機構43で制御された試料吸引管位置・圧力制御機構42を用いる。
【0055】
次に、試料1に挿入される形態で注入管41が設置される。人工授精の過程評価では精子、遺伝子編集の効果評価では例えばCRISPR-Cas9のような遺伝子薬剤、創薬研究における薬剤効果評価では薬液、神経細胞の発火機構や細胞の動作評価ではカルシウムやカリウムなどのイオン溶液が細胞内外の目的のオルガネラに注入される。これには先端径がマイクロメータレベルのガラスピペット形状の部材が想定される。目的の細胞に注入管41を接近・挿入させるためにモータやピエゾ素子で形成される注入管位置制御機構44を用いる。ここでの注入薬剤の量を制御するためにも注入管制御機構45が用いられる。
【0056】
バイオ系試料は環境温度により非常に敏感に状態変化してしまうものが多い。このため、環境制御機構として、試料1の温度調整や培養液2の流量制御が重要となる。ここでは、試料台3内にヒータ調整機構47で温度調整されたヒータ46を埋設する構成とした。
【0057】
また、試料台3中には流路48が設けられ、流量制御機構50で制御されたポンプ49にて培養液2がフローする構成とした。本図に示された各種の制御機構はシステム制御PC30にて制御される。
【0058】
図6には、図2で示したNVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置の上面図を示す。この図では特に、除振台4からレンズ5下面までの高さに設置された各種部材を描画しており、それぞれの機構の配置関係が示される。
【0059】
試料1に対して多くの機構が接近することから、相互の機構は干渉しない配置とすることが必要である。すなわち、図6においては、試料1を中心に、ダイヤモンド探針10が右方から、マイクロ波アンテナ18は相対する左方から試料1に接近する構成である。
【0060】
特に、マイクロ波アンテナ18はダイヤモンド探針10内に存在するNVセンタ11に数10ミクロンの距離に接近させることが効率よいマイクロ波照射に必須であることから、ダイヤモンド探針10の開放側から接近させることが有効である。
【0061】
一方、試料1は培養液2中にあることから、高精度な測定には試料1を試料吸引管40で固定しながら注入管41で精子や薬剤を細胞内外に投与しつつ、ダイヤモンド探針10で測定することが有効である。
【0062】
注入管41やダイヤモンド探針10は試料1内に挿入する場合は特に力を及ぼすことから、試料吸引管40はそれらに相対した位置に設置することが安定な試料1の固定に有効である。
【0063】
図6ではことから試料吸引管40と注入管41が相対するそれぞれ上下方向から試料1に接近する構造である。同様に、流路48とポンプ49の系統もこれらの機構と干渉しない配置とする必要がある。
【0064】
図6においては、流路48が点線で表示されているように、ダイヤモンド探針10、水晶振動子8、ピエゾ素子7の下側で同一方向である右側に流路48を引き出す構成図を示した。流路48については試料台3内で方向転換させ、例えば本図における試料台3の下辺方向から取り出す形態なども考えられる。
【0065】
図7には、試料1に近接させる各機構の相対角度関係を変化させられるように、各機構を回転台76に乗せた実施例を示す。
【0066】
この図における回転台76は、独立した二重の回転ステージ構造となっており、これは除振台4上に試料台3を囲む形で設置される。この図の例においては、内周の回転ステージ上には、試料吸引管40を支える側部構造体6と、マイクロ波アンテナ18を支える側部構造体6が載せられている。外周の回転ステージ上には、注入管41を支える側部構造体6が載せられている。ダイヤモンド探針10を支える側部構造体6は、除振台4上に載せられている。
【0067】
内外周回転ステージの角度の組合せにより、各機構の相対角度関係は自由に設定できる。特に、ダイヤモンド探針10が試料1に対して強い力で挿入させる必要がある場合は、試料吸引管40での吸引は強いものでなければならず、この場合は双方が試料1をはさんで向かい合う配置になることが有効である。このことから、回転台76により、例えば、試料吸引管40を左方から、マイクロ波アンテナ18を下方から、注入管41を上方から接近できる配置に変更することができる。
【0068】
回転台76は、図7のように二重構造でなくてもよく、また1周に渡る回転ストロークを持たせず、例えば半周以下にする構造にすることも可能である。また、側部構造体6を一方向に移動させる機能とし、使わない機構としてそれぞれの機構を使用しない際に退避させる構造とすることもできる。
【0069】
このように、実施例1は、窒素-空孔対(NVセンタ11)を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、試料1の状態を測定する試料測定装置において、試料1の近傍に環境制御機構を設置した。前記環境制御機構は、試料1に外部刺激を与えることにより試料1の状態を変化させる。
【0070】
また、実施例1は、窒素-空孔対(NVセンタ11)を含むダイヤモンド又はシリコンカーバイドからなる探針を用いて、細胞の反応を測定する人工授精装置において、試料1の近傍に環境制御機構を設置した。前記環境制御機構は、細胞に外部刺激を与えることにより細胞の状態を変化させる。
【0071】
前記環境制御機構は、溶液(培養液2)中に浮遊した試料1と探針の相対位置関係を決め、試料1が溶液中で動かないように固定する試料吸引管40を有する。
【0072】
また、前記環境制御機構は、試料1に挿入されるように設置され、試料に物質を注入する注入管41を有する。
【0073】
また、前記環境制御機構は、溶液中に浮遊した試料1と探針の相対位置関係を決め試料1が溶液中で動かないように固定する試料吸引管40と、試料に挿入されるように設置され前記試料に物質を注入する注入管41とを有する。ここで、試料吸引管40と注入管41は、前記窒素-空孔対に対して、所定の角度で相対するように配置されている。
【0074】
また、前記環境制御機構は、試料台3の内部に配置され前記試料の温度調整を行うヒータ46と、試料台3の内部に配置され前記溶液の流量制御を行う流路48とを有する。
【0075】
実施例1によれば、細胞生育環境を一定になるようにすると共に、培養液の劣化を低減し、より長時間の安定した、動物体内の環境に近づけた評価計測が可能となる。
【実施例0076】
図4を参照して、本発明の実施例2の試料測定装置について説明する。実施例2の試料測定装置は、NVセンタを有するダイヤモンドをプローブに用いたプローバ装置である。
【0077】
図4に基本構成の正面図を示す。この構成は、試料に対し、探針とレーザ光がお互いに反対の面から接近していることから倒立型と呼ぶこととする。
【0078】
図4に示すように、試料1は試料台3内の培養液2中に設置されている。ダイヤモンド探針10は、ガラスや金属を素材とした探針台9上に固定されており、これらはx,y,z方向の位置制御のほか、探針軸長方向の線形運動を有した探針位置制御機構62で位置制御される。これは試料1に対してダイヤモンド探針10を直線的に挿入できることから、ダイヤモンド探針10を折れずに挿入しやすいという特長がある。
【0079】
本実施例2では、マイクロ波アンテナ18とレーザ光源12は試料台3の下方に設置され、ダイヤモンド探針10とは試料1を介して反対面から試料1に接近していることが特長である。これにより、ダイヤモンド探針10側のレンズ5とのスペースがフリーとなり、図に記載されていない側面図上に設置される試料吸引管40、注入管41、ヒータ46、流路48などの試料環境制御機構(図3参照)の設置が容易となると共に、試料台3を大きなものにすることができる。すなわち、レーザ光源12からのレーザ光13は試料台3の底面から試料1に照射される。このため、試料台3が石英ガラスシャーレなどのレーザ光を効率よく透過する素材で作製される。
【0080】
試料1で励起されたNV蛍光は再び試料台1底面から下方に放射され、同じく下方に設置された検出器16で計測される。従って、レンズ5が試料下方に設置される。本実施例2ではマイクロ波アンテナ18も試料台3の底面下に設置される。
【0081】
マイクロ波アンテナ18と試料1の間隔は通常数10um程度が求められることから、試料台3の底面は薄い石英ガラス板などであるものとする。尚、NVダイヤモンドの計測で用いられる2.87GHz周辺のマイクロ波は液中での吸収が大きいことから、マイクロ波アンテナ18を培養液中に挿入しない本方式には大きなメリットがある。
【0082】
本実施例2では、試料1上面から広い視野で観察初期に視野探しなどの粗い観察に用いる撮像系を付加した。すなわち、LEDなどの光源60から放射された照明光61をレンズ5で試料1に照射する。試料1で発生した蛍光64はCCDカメラ17で撮像される。
【0083】
ここでは、実施例1で示したCCDカメラ17とは異なる撮像を考える。すなわち、光源60にはレーザより安価なLED光源を用いており、実施例1と同様に緑色光を照明した場合はNVダイヤモンドのみが赤色の蛍光像を形成するが、光源を青色光にすることでNVダイヤモンドは発光せず、細胞などの有機物が緑色光に発光する。また、白色光を照明することで通常の明視野像と呼ばれる光学顕微鏡像を得ることができる。
【0084】
このように、試料1への照射光をレーザ光と別系統で持たせることで、試料構造や組成に適した視野特定観察を持たせることが可能となる。これにより、NVダイヤモンドの位置特定精度を高め、細胞構造の同定精度を高めた評価が実現する。これは装置構成を倒立型にすることで生まれたスペースを有効活用した効果である。
【0085】
尚、倒立型は試料1の上下から光を照射する構造であることから、光学的に透明な生体試料や有機系試料の場合には特に有効である。一方、金属材料や半導体試料など光の透過率が低い試料の評価には適さず、こうした試料1では実施例1の構成が有効となる。
【実施例0086】
図5を参照して、本発明の実施例3について説明する。
実施例3では、・プローバに適した探針の加工の一実施例として、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)加工装置(以下、FIB)を用いたマイクロサンプリング法について図5を用いて説明する。
【0087】
尚、本加工法自体は一般的なFIBマイクロサンプリング法の例であり、詳細は文献(例えば、T. Ishitani, H. Tsuboi, T. Yaguchi and H. Koike, J. Electron Microsc 43 (1994) pp. 322-326)を参照されたい。
【0088】
まず、基板のうち後々ダイヤモンド探針にする領域をマイクロサンプル領域70として設定し、その周辺をイオンビームで溝加工すると共に、マイクロサンプル領域70にマイクロプローブ71を接触させる。次にFIB装置内で有機タングステンガスもしくはフェナントレンガスを流し、マイクロプローブ71先端にイオンビームもしくは電子線を照射することで有機タングステンガスもしくはフェナントレンガスを固体化し、接着剤とすることでマイクロサンプル領域70とマイクロプローブ71を固定する(図5(a))。
【0089】
次に、マイクロプローブ71でマイクロサンプル領域70を摘出し、基材72に移動する(図5(b))。このあと、基材72とマイクロサンプル領域70の接触部に再度有機タングステンガスもしくはフェナントレンガスを流してイオンビームを照射することで、接着層74を形成して両者を固定する。続いてFIBでマイクロサンプル領域70の余分な試料部分を切除したあと、基材72とマイクロサンプル73の固定を強化し、本固定とする(図5(c))。
【0090】
こうして、基材72に固定された粗加工されたマイクロサンプル73に対し、図5(d)に示された種々の方向からのFIB加工により目的の形状、例えば1um径以下、長さ20um以上のニードル型のダイヤモンド探針75を形成する。
【0091】
実際にダイヤモンド基板から作製したダイヤモンド探針75の先端部の電子顕微鏡写真を図5(f)、(g)に示す。図5(f)写真では、基材としてニードル形状のタングステンを用い、先端のみNVダイヤモンド領域であるダイヤモンド探針が示されている。ここでは、探針径は1um程度、探針長は25um程度である。
【0092】
図5(d)で示したFIB加工において、先端をナイフエッジ形状になるように加工した。図4中のダイヤモンド探針10にこの形状オン探針を用いることで、細胞内へ小さい抵抗でダイヤモンド探針10を挿入できるようになった。
【0093】
さらに、この探針を図5(d)で示したFIB加工においてより細くなるように加工することで、図5(g)に示された通り、探針径が200nm以下に加工できることを確認した。尚、上記ではダイヤモンド探針と記載したが、シリコンカーバイド等の同様の発光センタを有する量子センシング材料への適用も同様に可能であることは言うまでもない。
【0094】
このように、実施例3では、探針は、軸方向の長さが20um以上である。
また、前記探針は、軸垂直半径が1um以下である。
また、前記探針は、先端から100nmの位置での軸垂直半径が、該探針の先端から1umの位置での軸垂直半径の二分の一以下である。
【0095】
上記実施例は、窒素-空孔対を含むダイヤモンドもしくはシリコン点欠陥を有するシリコンカーバイドを素材とした探針と、マイクロ波印加機構、レーザ光源、光検出器、試料環境制御機構を有する。
【0096】
また、液体試料を保持できる試料台を有し、レーザ光源とマイクロ波印加機構を制御すると共に、光検出器からの信号を解析し、その結果を表示する制御機構から構成される顕微鏡装置において、試料台内の試料を固定・位置制御する機構と、該試料に挿入し、細胞内に物質を注入もしくは吸引できる物質制御機構を有する。
【0097】
また、試料台の開放面側に、該探針、該試料を固定・位置制御する機構と、物質制御機構を配置し、試料台の底面側から試料にレーザ光を照射し、得られた蛍光を底面側から検出する。試料環境制御機構は、試料温度制御機構、試料台内の溶媒の流量や添加剤を制御する機構である。
【0098】
上記実施例によれば、外部刺激を与える機構を設置可能にして、細胞の外部刺激に対する構造的、電磁気的な変化をNVセンタで高感度に計測可能にする。
【0099】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0100】
1:試料
2:培養液
3:試料台
4:除振台
5:レンズ
6:側部構造体
7:ピエゾ素子
8:水晶振動子
9:探針台
10:ダイヤモンド探針
11:NVセンタ
12:レーザ光源
13:レーザ光
14:ミラー
15:NV蛍光
16:検出器
17:CCDカメラ
18:マイクロ波アンテナ
19:レンズ用微動機構
20:試料台用微動機構
21:音響光学変調器
22:検出器制御機構
23:CCDカメラ制御機構
24:ヘルムホルツコイル制御機構
25:プローブ顕微鏡制御機構
26:試料台用微動機構用制御機構
27:レーザ制御機構
28:レンズ用微動機構用制御機構
29:マイクロ波制御機構
30:システム制御PC
31:ヘルムホルツコイル
40:試料吸引管
41:注入管
42:試料吸引管位置・圧力制御機構
43:試料吸引管制御機構
44:注入管位置制御機構
45:注入管制御機構
46:ヒータ
47:ヒータ調整機構
48:流路
49:ポンプ
50:流量制御機構
60:光源
61:照明光
62:探針位置制御機構
63:探針制御機構
64:蛍光
70:マイクロサンプル領域
71:マイクロプローブ
72:基材
73:マイクロサンプル
74:接着層
75:ダイヤモンド探針
76:回転台
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7