(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140782
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法
(51)【国際特許分類】
F17C 6/00 20060101AFI20230928BHJP
B65D 90/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F17C6/00
B65D90/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046798
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】下田 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨永 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】三橋 麻子
(72)【発明者】
【氏名】池島 章司
(72)【発明者】
【氏名】持田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 翔
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆博
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA04
3E170AA08
3E170AA09
3E170AB29
3E170CA01
3E170CA10
3E170VA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB15
3E172AB20
3E172BA06
3E172BD02
3E172DA05
3E172DA90
3E172EA03
3E172EA22
3E172EA23
(57)【要約】
【課題】液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制する。
【解決手段】液化ガスを貯蔵するための、内槽(3)および外槽(5)を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法が、内槽内空間(7)に、冷却用液化ガス(CH)を導入することと、内外槽間空間(9)に、温度調整装置(31)を介して、所定温度以上である調整温度範囲に調整された温度調整ガス(TG)を供給することとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法であって、
内槽内空間に、冷却用液化ガスを導入することと、
内外槽間空間に、温度調整装置を介して、所定温度以上である調整温度範囲に調整された温度調整ガスを供給することと、
を含む、
液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法。
【請求項2】
請求項1に記載のクールダウン方法において、
前記温度調整ガスを供給することが、前記内槽内空間で発生した気化ガスを前記温度調整装置に導入し、前記温度調整ガスとして前記内外槽間空間に供給することを含む、
クールダウン方法。
【請求項3】
請求項2に記載のクールダウン方法において、
前記気化ガスの温度が前記所定温度以下である場合に、前記気化ガスを前記温度調整ガスとして前記内外槽間空間に供給する、
クールダウン方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のクールダウン方法において、
前記内外槽間空間に偏向板を設け、前記偏向板に向けて前記温度調整ガスを噴射することを含む、
クールダウン方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化ガス、例えば極低温の液化水素を貯蔵するタンクとして、内槽および外槽を備える二重殻タンクを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、低温の液化ガスをタンクに貯蔵する場合、常温のタンクに一度に多量の貯蔵対象の液化ガスを充填することによってタンクを急激に冷却することを回避するため、貯蔵対象の液化ガスを充填する前に、予めタンクを比較的低速で冷却すること(以下、「クールダウン」という。)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液化ガス用二重殻タンクのような多重防熱構造のタンクの場合、高い断熱性を有することから、内槽のみを冷却するのみではタンク全体の冷却に長時間を要し、かつ多量の冷却用の液化ガスを要することになる。したがって、クールダウンに要するコストが増大する。
【0006】
本開示の目的は、上記の課題を解決するために、液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示に係る液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法は、
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法であって、
内槽内空間に、冷却用液化ガスを導入することと、
内外槽間空間に、温度調整装置を介して、所定温度以上である調整温度範囲に調整された温度調整ガスを供給することと、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法によれば、液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法が適用される液化ガス貯蔵タンクの概略構成を示す断面図である。
【
図2A】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法の開始前の初期状態を示す模式図である。
【
図2B】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法における内槽冷却中の状態を示す模式図である。
【
図2C】本開示の一実施形態の一変形例に係るクールダウン方法における内槽冷却中の状態を示す模式図である。
【
図2D】本開示の一実施形態の他の変形例に係るクールダウン方法における内槽冷却中の状態を示す模式図である。
【
図2E】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法の終了した状態を示す模式図である。
【
図3】
図1の液化ガス貯蔵ガスタンクの一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に本開示の一実施形態に係るクールダウン方法が適用される液化ガス貯蔵タンク(以下、単に「貯蔵タンク」という。)1を示す。この貯蔵タンク1は、液化ガスを貯蔵するためのタンクであり、内槽3および外槽5を備える二重殻タンクとして構成されている。なお、本明細書において、「クールダウン」とは、貯蔵対象である液化ガスを貯蔵タンク1に充填する前に、貯蔵タンク1を冷却することを意味する。
【0011】
以下に説明する本実施形態においては、貯蔵対象である液化ガスとして極低温(約-250℃)の液化水素を例として説明する。もっとも、液化ガスは他の種類のガス、例えば、液化石油ガス(LPG、約-45℃)、液化エチレンガス(LEG、約-100℃)、液化天然ガス(LNG、約-160℃)、液化ヘリウム(LHe、約-270℃)などであってよい。
【0012】
貯蔵タンク1は、例えば液化水素運搬船のような船舶に設置される。もっとも、貯蔵タンク1が設置される液化水素貯蔵設備は、液化水素を貯蔵することが可能な構造、機能を有する設備であればこの例に限定されない。貯蔵タンク1が設置される液化水素貯蔵設備は、例えば、液化水素を推進用燃料として使用する船舶であってもよく、船舶以外の地上の液化水素貯蔵設備や、液化水素を利用するプラントであってよい。
【0013】
貯蔵タンク1は、内槽3および外槽5を有する二重殻タンクとして構成されている。具体的には、内槽3は、その内側に貯蔵対象である液化水素の貯蔵空間(以下、「内槽内空間7」と呼ぶ。)を形成する内槽殻と、内槽殻の外周面を覆う内槽防熱層とを有する。外槽5は、内槽3との間に断熱層である内外槽間空間9を形成する外槽殻と、外槽殻の外周面を覆う外槽防熱層とを有する。なお、内槽3および外槽5の防熱層を設置する箇所はこの例に限定されず任意であり、例えば防熱層を外槽殻の内周面を覆うように設置してもよい。また、内槽3および外槽5の防熱層の一方または両方を省略してもよい。この貯蔵タンク1は、断熱層である内外槽間空間9に低温の水素ガスを封入した状態で定常運用される。
【0014】
本実施形態では、内槽内空間7と内外槽間空間9とを連通させる連通路11が設けられている。連通路11は開閉可能に構成されている。図示の例では、具体的には、内槽内空間7で生じた液化水素の気化ガス(以下、単に「気化ガス」と呼ぶ。)G1を貯蔵タンク1の外部へ排出する気化ガス排出通路13と、貯蔵タンク1の外部に設けられた水素ガス源(図示せず)からの水素ガス(以下、「外部水素ガス」と呼ぶ。)G2を内外槽間空間9に導入する水素ガス導入通路15と、貯蔵タンク1の外部において気化ガス排出通路13と水素ガス導入通路15とを接続する接続通路17とが設けられている。これら気化ガス排出通路13、接続通路17および水素ガス導入通路15によって連通路11が形成されている。また、連通路11に開閉弁19が設けられており、この開閉弁19によって連通路11が開閉可能に構成されている。この例では、水素ガス導入通路15における接続通路17との接続点の下流側の部分に開閉弁19が設けられているが、開閉弁19の位置および個数はこの例に限定されない。また、開閉弁19は、手動で開閉可能な弁のほか、設定された差圧に応じて自動的に開閉する弁であってもよい。
【0015】
なお、内槽内空間7と内外槽間空間9との間の連通路11の具体的な構成、および連通路11を開閉可能とする具体的な構成は、この例に限定されない。また、上記「水素ガス源」は、水素ガスの供給源となり得るものであればどのような構成であってもよく、典型的には水素ガスを貯蔵したタンクであるが、例えば液化水素を貯蔵したタンクと気化器を組み合わせたものであってもよい。
【0016】
本実施形態では、連通路11に、内外槽間空間9に供給されるガスの温度を調整する温度調整装置31が設けられている。また、図示の例では、連通路11における温度調整装置31の下流に、圧縮機といった、ガスを強制的に内外槽間空間9に送給する装置(以下、単に「ガス送給装置」と呼ぶ。)33が設けられている。ガス送給装置33は、例えばターボ式または容積式の圧縮機、ブロワ、ファンといったガスに圧力をかけることによりガスを移動させる装置である。図示の例では、接続通路17に温度調整装置31およびガス送給装置33が設けられている。なお、この例では温度調整装置31はガス送給装置33の上流側に設置されているが、温度調整装置31の配置はこの例に限定されず、例えば温度調整装置31はガス送給装置33の下流側に設置されてもよく、上流側と下流側の両方に設置されてもよい。
【0017】
また、本実施形態では、内槽3の温度を検知する内槽温度検知装置21、内槽内空間7の圧力を監視する内槽内空間圧力検知装置23、内外槽間空間9の温度を検知する内外槽間空間温度検知装置25、および内外槽間空間9の圧力を検知する内外槽間空間圧力検知装置27を備えている。これらの検知装置は、検知対象の物理量(温度、圧力)を検知するセンサ素子、取得した検出量に対して信号変換処理、演算処理等必要な処理を行う各種回路、これらの処理に必要な情報を格納するためのメモリ、電池等の電源素子または外部から電源供給を受けるための電源回路、出力信号を有線または無線で外部へ送信するための送信回路等を備えている。なお、このような温度検知装置,圧力検知装置として、上記以外の部分を計測する装置、例えば内槽温度検知装置や外槽温度検知装置が設けられていてもよい。また、これらの温度検知装置,圧力検知装置は、後述するクールダウン方法の実施の態様に応じて必要なもののみが設けられていてよい。
【0018】
このように構成された貯蔵タンク1のクールダウン方法について、以下に詳細に説明する。
【0019】
本実施形態では、
図2Aに示すクールダウンを開始する時点での初期状態の貯蔵タンク1において、連通路11の開閉弁19を開いた状態とされており、内槽内空間7および内外槽間空間9には、いずれも、例えば常温,大気圧(0kPaG)の水素ガスが存在している。もっとも、初期状態の水素ガスの温度,圧力は常温,大気圧に限定されない。この状態から、
図2Bに示すように、内槽内空間7に冷却用の液化水素(以下、単に「冷却用水素」と呼ぶ。)CHを導入する。この例では、噴霧器29を用いて、内槽内空間7に、冷却用水素CHを噴霧する。
【0020】
この状態で冷却用水素CHの噴霧を続けることにより、内槽3の温度が低下する。内槽3の温度が低下することにより、内外槽間空間9の温度も低下する。また、内槽内空間7においては、冷却用水素CHが気化した気化ガスG1が発生して圧力が上昇する一方、内外槽間空間9においては温度低下によって圧力が低下する。上記のように連通路11が開かれているので、内槽内空間7で発生した気化ガスG1は、両空間7,9の圧力差によって、連通路11を介して内外槽間空間9に流入する。
【0021】
このようにクールダウンが進行する途中で、水素の気化ガスG1は約20K程度の極低温となる場合があるので、極低温の気化ガスG1が内外槽間空間9を形成する内槽3,外槽5を局所的に急速に冷却することを避けることが好ましい。また、定常運用時における外槽5の設定温度は内槽3の設定温度よりも高いことに伴い、外槽5の設計温度は内槽3の設計温度よりも高いので、クールダウンの間も外槽5の温度が設計温度よりも低くならないようにすることが好ましい。そこで、本実施形態では、冷却用ガスCHの導入を開始した後、内外槽間空間9に、温度調整装置31を介して、所定温度以上である調整温度範囲に調整された温度調整ガスTGを供給する。具体的には、気化ガスG1を、温度調整装置31を介して温度調整ガスTGとして内外槽間空間9に供給する。
【0022】
より具体的には、本実施形態では、気化ガスG1の温度が所定温度以下である場合に、気化ガスG1を温度調整ガスTGとして内外槽間空間9に供給する。具体的には、気化ガスG1を温度調整装置31によって所定温度以上の温度となるように加熱する。他方、気化ガスG1の温度が所定温度を超える場合には、気化ガスG1を直接内外槽間空間9に供給する。例えば、内槽3の冷却が進んでいない段階では、気化ガスG1が比較的高温であるので、気化ガスG1を直接内外槽間空間9に供給し、内槽3の冷却が進行した段階では、気化ガスG1の温度が低下してくるので、気化ガスG1を温度調整装置31によって加熱する。
【0023】
ここでの「気化ガスを直接内外槽間空間に供給する」とは、気化ガスG1に強制的な温度調整を施すことなく内外槽間空間9に供給することを意味する。すなわち、例えば温度調整装置31の温度調整機能をオフにした状態で気化ガスG1を温度調整装置31を通過させてもよいし、
図2Cに示すように、連通路11に温度調整装置31を迂回するバイパス通路35および流路切替装置37を設けて、気化ガスG1がバイパス通路35を通るようにしてもよい。なお、同図の例では、バイパス通路35は温度調整装置31およびガス送給装置33を迂回するように設けられているが、バイパス通路35は温度調整装置31を迂回し、ガス送給装置33を通過するように設けられてもよい。
【0024】
温度調整ガスTGの内外槽間空間9への供給は、ガス送給装置33によって強制的に行ってもよい。その場合、内外槽間空間9に強制的に供給された温度調整ガスTGは、例えば、排出通路39を介して貯蔵タンク1の外部へ排出される。排出通路39は、例えば、内外槽間空間9における底部付近に入口を有し、内外槽間空間9内を通って、内外槽間空間9の上部、例えば頂部付近に位置する出口から貯蔵タンク1の外部へ冷却用ガスCGを排出する。排出通路39には、排出用のガス圧縮機や排気ポンプが適宜設置されていてもよい。
【0025】
内外槽間空間9には、貯蔵タンク1の圧力が許容範囲を超えないようにするための、上限側、下限側の安全弁が設けられていてもよい。また、制御装置によってガス送給装置33,排出通路39,開閉弁19等を制御することにより、圧力に応じて内外槽間空間9へのガス供給および内外槽間空間9からの排気を制御してもよい。
【0026】
気化ガスG1の供給に代えて、または追加して、水素ガス導入通路15から外部水素ガスG2を内外槽間空間9に温度調整ガスTGとして供給してもよい。この場合には、
図2Dに変形例として示すように、温度調整装置31を水素ガス導入通路15上に設けると共に、温度調整装置31を使用しない場合のためのバイパス通路15aを設けてもよい。また、外部水素ガスG2を内外槽間空間9に温度調整ガスTGとして供給する場合、温度調整ガスTGの供給は、内槽内空間7への冷却用水素CHの導入を開始する前から行ってもよい。
【0027】
本実施形態では、上記「所定温度」は、貯蔵タンク1の定常運用時における内外槽間空間9の設定温度(例えば110K)である。また、上記「調整温度範囲」は、内外槽間空間9の冷却を妨げない範囲に設定され、例えば110K以上120K以下である。温度調整を行う基準となる気化ガスG1の温度としては、連通路11を流れる気化ガスG1の温度を直接測定した値を用いてしてもよく、内槽3の温度を測定した値を用いてもよい。
【0028】
なお、内外槽間空間9に導入される気化ガスG1および/または外部水素ガスG2の温度が十分低くない場合、クールダウンの過程で内槽と外槽の温度差が大きくなりすぎ、構成部材の熱収縮量の差が過大になる場合がある。これを回避するため、温度調整装置31を用いた温度調整ガスTGの温度調整と温度調整ガスTGの流量調整により、外槽5の冷却速度を調整して、内槽3と外槽5の温度差が所定値以下となるように制御しながらクールダウンを行ってもよい。内槽3と外槽5の温度差の所定値は、例えば、貯蔵タンクの通常運用開始時の温度差として設定されている値である。
【0029】
本実施形態で使用する温度調整装置31は、液化ガスの温度を調整する機能を有していればいかなる装置であってもよい。例えば、温度調整装置31は、ガス温度を検知する温度センサ、電気駆動式のヒータ、このヒータをオン・オフするスイッチ、これらを制御する制御回路を備える。もっとも、温度調整装置31は、上記以外の構成の装置、例えば熱交換器や温度の異なるガスを混合させることにより温度を調整する装置であってよい。
【0030】
なお、本実施形態では、クールダウンの開始時、つまり冷却用水素CHの噴霧の開始時から連通路11を開状態にする例について説明したが、連通路を開くタイミングはこれに限定されない。すなわち、連通路11を閉じた状態で冷却用水素CHの噴霧を開始し、内外槽間空間9の圧力が所定値以下となった場合など、必要に応じて連通路11を開いて気化ガスG1を供給し、その際に気化ガスG1を温度調整ガスTGとして内外槽間空間9に供給してもよい。
【0031】
このように、内槽3を冷却用水素CHで冷却しながら、温度調整された温度調整ガスTGを内外槽間空間9に供給することにより、内槽3および外槽5を局所的に急速に冷却すること、および外槽5の温度が設計温度より低くなることを回避しながら、内外槽間空間9および外槽5の冷却が促進される。したがって、単に内槽3のみを冷却する場合に比べて貯蔵タンク1全体のクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【0032】
その後、
図2Eに示すように、内槽3の温度および内外槽間空間9の温度がそれぞれ目標温度まで低下した時点で、連通路11が開状態であればこれを閉状態にするとともに、冷却用水素CHの噴霧を停止してクールダウンを終了する。
【0033】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、内外槽間空間9に導入された温度調整ガスTGを偏向させる偏向板41が設けられている。具体的には、
図3に示すように、偏向板41は、内外槽間空間9における温度調整ガスTGの供給口43に対向する位置に、温度調整ガスTGの流出方向にほぼ直交するように配置されている。偏向板41は、内槽3の外周面または外槽5の内周面に突設された支持部材(図示せず)を介して、内槽3の外周面または外槽5の内周面から離間した状態で支持されている。供給口43から流出した温度調整ガスTGは、偏向板41に衝突して、偏向板41の表面に沿った各方向に分散された後に内外槽間空間9内に拡散する。このように、偏向板41を設けることにより、供給口43から流出した温度調整ガスTGが、貯蔵タンク1を構成する内槽3または外槽5の一部分に集中して衝突し、当該部分が局所的に冷却されることが防止される。内外槽間空間9への供給口43の数は図示した1個に限定されず、複数であってもよい。供給口43の数が複数の場合、偏向板41は、複数の供給口43のすべての供給口43またはその一部の供給口43に対してそれぞれ設けられていてもよい。また、偏向板41の形状は、供給口43から流出した温度調整ガスTGを分散させることができる形状であればよく、例示した平板状に限定されない。もっとも、偏向板41は省略してもよい。また、偏向板41に吹き付けられるガスは、冷却用ガスCGに限定されず、内外槽間空間9に導入されるいかなる温度のガスであってもよい。
【0034】
本実施形態では、クールダウンを冷却用の液化水素を用いて行う例について説明したが、クールダウンは液化水素以外の液化ガスを用いて行ってもよい。例えば、内槽3内に空気が存在する状態から、液化窒素を導入した後、さらに窒素を水素で置換するというように、段階的にクールダウンを進めてもよい。
【0035】
なお、
図1には、貯蔵タンク1の一例として、船体とは独立に形成される独立型の二重殻タンクを示したが、本実施形態に係るクールダウン方法は、この例に限定されず、いかなるタイプの貯蔵タンクにも適用することができる。例えば、本実施形態に係るクールダウン方法は、船体と一体に形成されるタイプの貯蔵タンクにも適用することができる。また、貯蔵タンクの多重構造は、三重構造以上であってよく、そのような多重構造の内槽内空間と他の任意の槽間空間とに本実施形態に係るクールダウン方法を適用することができる。
【0036】
本実施形態に係るクールダウンは、典型的には、例えば、貯蔵タンク1の建造後、貯蔵タンク1が設置される船舶のような液化ガス貯蔵設備の建造後、または、当該設備や貯蔵タンク1のメンテナンスのために貯蔵タンク1をウォームアップした後に再度積荷を実施する前に行われる。もっとも、本実施形態に係るクールダウン方法は、貯蔵タンク1が船舶に設置される場合において、貯蔵タンク1内の液化ガスを揚荷した後の空荷航海(バラスト航海)する際にも適用することができる。すなわち、バラスト航海においては内槽3の温度が徐々に上昇する場合があり、その場合に上記クールダウン方法を適用することができる。なお、バラスト航海中の貯蔵タンク1のクールダウンにおいては、例えば、揚荷せずにクールダウン用として内槽3内に残した液化ガスを用いて、内槽3内に設置されたポンプ等の送給装置によって液化ガスをタンク上部まで移送してクールダウンを行う。貯蔵タンク1が複数設置される場合には、他の貯蔵タンク1からクールダウン用の液化ガスや気化ガスの供給を受けてもよい。
【0037】
以上説明した本実施形態に係るクールダウン方法によれば、内槽3を冷却用水素CHで冷却しながら、温度調整された温度調整ガスTGを内外槽間空間9に供給することにより、内槽3および外槽5を局所的に急速に冷却すること、および外槽5の温度が設計温度より低くなることを回避しながら、内外槽間空間9および外槽5の冷却が促進される。したがって、単に内槽3のみを冷却する場合に比べて貯蔵タンク1全体のクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【0038】
本実施形態に係るクールダウン方法において、前記内槽内空間で発生した気化ガスを前記温度調整装置31に導入し、前記温度調整ガスTGとして前記内外槽間空間9に供給してもよい。これにより、簡易な構造で、かつ冷却用液化ガスを活用して低コストで内外槽間空間9に温度調整ガスTGを供給することができる。
【0039】
本実施形態に係るクールダウン方法において、気化ガスG1の温度が前記所定温度以下である場合に、気化ガスG1を温度調整ガスTGとして内外槽間空間9に供給してもよい。これにより、内槽3および外槽5が、例えば設計上の設定温度に対して過度に冷却されることが防止される。
【0040】
本実施形態に係るクールダウン方法において、前記内外槽間空間9に偏向板を設け、前記偏向板に向けて前記温度調整ガスTGを噴射してもよい。この構成によれば、温度調整ガスTGが貯蔵タンク1を構成する内槽3または外槽5の一部分に集中して衝突し、当該部分が局所的に冷却されることが防止される。
【0041】
以上のとおり、図面を参照しながら本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本開示の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 液化ガス貯蔵タンク
3 内槽
5 外槽
7 内槽内空間
9 内外槽間空間
11 連通路
29 噴霧器
31 温度調整装置
41 偏向板
CH 冷却用液化ガス
G1 気化ガス
G2 外部水素ガス
TG 温度調整ガス