(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140783
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法およびウォームアップ方法
(51)【国際特許分類】
F17C 5/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
F17C5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046799
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】下田 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨永 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】三橋 麻子
(72)【発明者】
【氏名】持田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】池島 章司
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 翔
(72)【発明者】
【氏名】今井 達也
(72)【発明者】
【氏名】加野 大地
(72)【発明者】
【氏名】猪原 正義
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆博
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB15
3E172BA06
3E172BB06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD01
3E172BD05
3E172CA10
3E172DA05
3E172EA03
3E172EA12
3E172EA13
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA32
3E172EA48
3E172JA08
3E172KA02
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】
【課題】液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンにおいて応力の発生を抑制しながら時間を短縮し、コストを抑制する。
【解決手段】液化ガスを貯蔵するための、内槽(3)および外槽(5)を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法が、内槽内空間(7)に、冷却用液化ガス(CH)を導入することと、前記内槽(3)の温度と、前記外槽(5)の温度とをそれぞれ測定することと、前記内槽(3)の温度と前記外槽(5)の温度との温度差に基づいて、前記内槽(3)の温度変化速度および前記外槽(5)の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持することとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法であって、
内槽内空間に、冷却用液化ガスを導入することと、
前記内槽の温度と、前記外槽の温度とをそれぞれ測定することと、
前記内槽の温度と前記外槽の温度との温度差に基づいて、前記内槽の温度変化速度および前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持することと、
を含む、
液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法。
【請求項2】
請求項1に記載のクールダウン方法において、
前記内槽の温度変化速度および前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することが、
前記内槽内空間への前記冷却用液化ガスの導入速度を調整することを含む
クールダウン方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクールダウン方法において、
前記内槽の温度変化速度および前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することが、
内外槽間空間への冷却ガス供給速度を調整することを含む、
クールダウン方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のクールダウン方法において、
前記内槽の温度と前記外槽の温度とをそれぞれ測定することが、
前記内槽の代表温度を検知可能な所定の箇所の温度を測定すること
前記外槽の代表温度を検知可能な所定の箇所の温度を測定すること
を含む、
クールダウン方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のクールダウン方法において、
前記内槽の温度と前記外槽の温度とをそれぞれ測定することが、
前記内槽における他の部材との接続箇所の温度を測定することと、
前記外槽における他の部材との接続箇所の温度を測定することと、
を含む
クールダウン方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のクールダウン方法において、
前記内槽の温度と前記外槽の温度とをそれぞれ測定することが、
前記内槽内空間の温度を測定することと、
内外槽間空間の温度を測定することと、
を含む
クールダウン方法。
【請求項7】
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを排出した後に加熱する方法であって、
内槽内空間に、第1加熱用ガスを導入することと、
前記内槽の温度と、前記外槽の温度とをそれぞれ測定することと、
前記内槽の温度と前記外槽の温度との温度差に基づいて、前記内槽の温度変化速度およ
び前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持することと、
を含む、
液化ガス貯蔵タンクのウォームアップ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法およびウォームアップ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化ガス、例えば極低温の液化水素を貯蔵するタンクとして、内槽および外槽を備える二重殻タンクを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、低温の液化ガスをタンクに貯蔵する場合、常温のタンクに一度に多量の貯蔵対象の液化ガスを充填することによってタンクを急激に冷却することを回避するため、貯蔵対象の液化ガスを充填する前に、予めタンクを比較的低速で冷却すること(以下、「クールダウン」という。)が行われている。また、メンテナンス等のためタンクを空にする必要がある場合には、貯蔵対象の液化ガスを排出した後タンクを加熱すること(以下、「ウォームアップ」という。)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液化ガス用二重殻タンクのような多重防熱構造のタンクの場合、高い断熱性を有することから、上述したように比較的低速でタンクを冷却した場合でも、タンクの場所によって大きな温度差が生じ、その結果大きな応力が生じる可能性がある。これを回避するため、従来の二重殻タンクのクールダウンにおいては、さらに低速に冷却するなどの対応が必要となり、タンク全体の冷却に長時間を要し、かつ多量の冷却用の液化ガスを要することになる。したがって、クールダウンに要するコストが増大する。多重防熱構造タンクのウォームアップについても、同様の課題が存在する。
【0006】
本開示の目的は、上記の課題を解決するために、液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンおよびウォームアップにおいて応力の発生を抑制しながら時間を短縮し、コストを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示に係る液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法は、
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを充填する前に冷却する方法であって、
内槽内空間に、冷却用液化ガスを導入することと、
前記内槽の温度と、前記外槽の温度とをそれぞれ測定することと、
前記内槽の温度と前記外槽の温度との温度差に基づいて、前記内槽の温度変化速度および前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持することと、
を含む。
【0008】
本開示に係る液化ガス貯蔵タンクのウォームアップ方法は、
液化ガスを貯蔵するための、内槽および外槽を備えるタンクを、貯蔵対象である前記液化ガスを排出した後に加熱する方法であって、
内槽内空間に、第1加熱用ガスを導入することと、
内外槽間空間へ第2加熱用ガスを強制的に供給すること
前記内槽の温度と、前記外槽の温度とをそれぞれ測定することと、
前記内槽の温度と前記外槽の温度との温度差に基づいて、前記内槽の温度変化速度および前記外槽の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持することと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る液化ガス貯蔵タンクのクールダウン方法およびウォームアップ方法によれば、液化ガス貯蔵用の多重防熱構造タンクのクールダウンおよびウォームアップにおいて応力の発生を抑制しながら時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法が適用される液化ガス貯蔵タンクの概略構成を示す断面図である。
【
図2A】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法の開始前の初期状態を示す模式図である。
【
図2B】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法における内槽冷却中の状態を示す模式図である。
【
図2C】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法における温度差調整を行っている状態を示す模式図である。
【
図2D】本開示の一実施形態に係るクールダウン方法の終了した状態を示す模式図である。
【
図3A】本開示の一実施形態に係るウォームアップ方法の開始時の状態を示す模式図である。
【
図3B】本開示の一実施形態に係るウォームアップ方法における温度差調整を行っている状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に本開示の一実施形態に係るクールダウン方法およびウォームアップ方法が適用される液化ガス貯蔵タンク(以下、単に「貯蔵タンク」という。)1を示す。この貯蔵タンク1は、液化ガスを貯蔵するためのタンクであり、内槽3および外槽5を備える二重殻タンクとして構成されている。なお、本明細書において、「クールダウン」とは、貯蔵対象である液化ガスを貯蔵タンク1に充填する前に、貯蔵タンク1を冷却することを意味する。また、本明細書において、「ウォームアップ」とは、貯蔵対象である前記液化ガスを排出した後に、その後のメンテナンス等に備えて、低温の貯蔵タンク1を加熱することを意味する。
【0012】
以下に説明する本実施形態においては、貯蔵対象である液化ガスとして極低温(約-250℃)の液化水素を例として説明する。もっとも、液化ガスは他の種類のガス、例えば、液化石油ガス(LPG、約-45℃)、液化エチレンガス(LEG、約-100℃)、液化天然ガス(LNG、約-160℃)、液化ヘリウム(LHe、約-270℃)などであってよい。
【0013】
貯蔵タンク1は、例えば液化水素運搬船のような船舶に設置される。もっとも、貯蔵タンク1が設置される液化水素貯蔵設備は、液化水素を貯蔵することが可能な構造、機能を有する設備であればこの例に限定されない。貯蔵タンク1が設置される液化水素貯蔵設備は、例えば、液化水素を推進用燃料として使用する船舶であってもよく、船舶以外の地上の液化水素貯蔵設備や、液化水素を利用するプラントであってよい。
【0014】
貯蔵タンク1は、内槽3および外槽5を有する二重殻タンクとして構成されている。具体的には、内槽3は、その内側に貯蔵対象である液化水素の貯蔵空間(以下、「内槽内空間7」と呼ぶ。)を形成する内槽殻と、内槽殻の外周面を覆う内槽防熱層とを有する。外槽5は、内槽3との間に断熱層である内外槽間空間9を形成する外槽殻と、外槽殻の外周面を覆う外槽防熱層とを有する。なお、内槽3および外槽5の防熱層を設置する箇所はこの例に限定されず任意であり、例えば防熱層を外槽殻の内周面を覆うように設置してもよい。また、内槽3および外槽5の防熱層の一方または両方を省略してもよい。この貯蔵タンク1は、断熱層である内外槽間空間9に低温の水素ガスを封入した状態で定常運用される。
【0015】
本実施形態では、内槽内空間7と内外槽間空間9とを連通させる連通路11が設けられている。連通路11は開閉可能に構成されている。図示の例では、具体的には、内槽内空間7で生じた液化水素の気化ガス(以下、単に「気化ガス」と呼ぶ。)G1を貯蔵タンク1の外部へ排出する気化ガス排出通路13と、貯蔵タンク1の外部に設けられた水素ガス源(図示せず)からの水素ガス(以下、「外部水素ガス」と呼ぶ。)G2を内外槽間空間9に導入する水素ガス導入通路15と、貯蔵タンク1の外部において気化ガス排出通路13と水素ガス導入通路15とを接続する接続通路17とが設けられている。これら気化ガス排出通路13、接続通路17および水素ガス導入通路15によって連通路11が形成されている。また、連通路11に開閉弁19が設けられており、この開閉弁19によって連通路11が開閉可能に構成されている。この例では、水素ガス導入通路15における接続通路17との接続点の下流側の部分に開閉弁19が設けられているが、開閉弁19の位置および個数はこの例に限定されない。また、開閉弁19は、手動で開閉可能な弁のほか、設定された差圧に応じて自動的に開閉する弁であってもよい。
【0016】
なお、内槽内空間7と内外槽間空間9との間の連通路11の具体的な構成、および連通路11を開閉可能とする具体的な構成は、この例に限定されない。また、上記「水素ガス源」は、水素ガスの供給源となり得るものであればどのような構成であってもよく、典型的には水素ガスを貯蔵したタンクであるが、例えば液化水素を貯蔵したタンクと気化器を組み合わせたものであってもよい。
【0017】
さらに、本実施形態では、連通路11に、圧縮機や送風機といった、後述する冷却用ガスを強制的に内外槽間空間9に送給する装置(以下、単に「ガス送給装置」と呼ぶ。)31が設けられている。ガス送給装置31は、例えばターボ式または容積式の圧縮機、ブロワ、ファンといったガスに圧力をかけることによりガスを移動させる装置である。図示の例では接続通路17にガス送給装置31が設けられている。また、連通路11上、例えば水素ガス導入通路15上に冷却装置33が設けられている。冷却装置33は、例えば、ガス温度を検知する温度センサ、圧縮式冷凍機や吸収式冷凍機といった冷却源、これらを制御する制御回路等を備える。もっとも、冷却装置35は、上記以外の構成の装置、例えば熱交換器であってもよい。また、ガス送給装置31,冷却装置33は、後述するクールダウン方法およびウォームアップ方法の実施の態様に応じて必要なもののみが設けられていてよい。
【0018】
また、本実施形態では、内槽3の温度を検知する内槽温度検知装置21、内槽内空間7の圧力を監視する内槽内空間圧力検知装置23、内外槽間空間9の温度を検知する内外槽間空間温度検知装置25、および内外槽間空間9の圧力を検知する内外槽間空間圧力検知装置27を備えている。これらの検知装置は、検知対象の物理量(温度、圧力)を検知するセンサ素子、取得した検出量に対して信号変換処理、演算処理等必要な処理を行う各種回路、これらの処理に必要な情報を格納するためのメモリ、電池等の電源素子または外部から電源供給を受けるための電源回路、出力信号を有線または無線で外部へ送信するため
の送信回路等を備えている。なお、このような温度検知装置,圧力検知装置として、上記以外の部分を計測する装置、例えば内槽温度検知装置や外槽温度検知装置が設けられていてもよい。また、これらの温度検知装置,圧力検知装置は、後述するクールダウン方法およびウォームアップ方法の実施の態様に応じて必要なもののみが設けられていてよい。
【0019】
このように構成された貯蔵タンク1のクールダウン方法について、以下に詳細に説明する。
【0020】
本実施形態では、
図2Aに示すクールダウンを開始する時点での初期状態の貯蔵タンク1において、連通路11の開閉弁19を開いた状態とされており、内槽内空間7および内外槽間空間9には、いずれも、例えば常温,大気圧(0kPaG)の水素ガスが存在している。もっとも、初期状態の水素ガスの温度,圧力は常温,大気圧に限定されない。この状態から、
図2Bに示すように、内槽内空間7に冷却用の液化水素(以下、単に「冷却用水素」と呼ぶ。)CHを導入する。この例では、噴霧器29を用いて、内槽内空間7に、冷却用水素CHを噴霧する。
【0021】
この状態で冷却用水素CHの噴霧を続けることにより、内槽3の温度が低下する。内槽3の温度が低下することにより、内外槽間空間9の温度も低下する。また、内槽内空間7においては、冷却用水素CHが気化した気化ガスG1が発生して圧力が上昇する一方、内外槽間空間9においては温度低下によって圧力が低下する。上記のように連通路11が開かれているので、内槽内空間7で発生した気化ガスG1は、両空間7,9の圧力差によって、連通路11を介して内外槽間空間9に流入する。
【0022】
なお、連通路11を開状態としながら内槽3を冷却している間、両空間の圧力差が所定の範囲を超えた場合には、圧力差を調整する装置を用いて両空間の圧力差が所定の範囲内に収まるように調整してもよい。例えば、内外槽間空間9の圧力が過度に低い場合には、水素ガス送給装置31を用いて内槽内空間7の気化ガスG1を内外槽間空間9に供給してもよい。気化ガスG1の強制的な供給に代えて、または追加して、水素ガス導入通路15から外部水素ガスG2を内外槽間空間9に供給してもよい。以下の説明では、このように内外槽間空間9を冷却するために強制的に供給されるガスを総称して「冷却ガスCG」と呼ぶ。
【0023】
なお、上述のように内外槽間空間9に冷却ガスCGを強制的に供給する場合は、内外槽間空間9から冷却ガスCGを排出する排出通路(図示せず)を設けて、内外槽間空間9の圧力が過度に上昇することを防止してもよい。
【0024】
また、本実施形態では、クールダウンの開始時、つまり冷却用水素CHの噴霧の開始時から連通路11を開状態にする例について説明したが、連通路11を開くタイミングはこれに限定されない。すなわち、連通路11を閉じた状態で冷却用水素CHの噴霧を開始し、内外槽間空間9の圧力が所定値以下となった場合など、必要に応じて連通路11を開いて気化ガスG1を供給してもよい。
【0025】
このようにして行われるクールダウンの過程で、内槽3と外槽5の温度差が大きくなりすぎ、構成部材の熱収縮量の差が過大になり大きな応力が発生する場合がある。これを回避するため、本実施形態では、内槽3の温度と、外槽5の温度とをそれぞれ測定し、内槽3の温度と外槽5の温度との温度差(以下、単に「温度差」という。)に基づいて、内槽3の温度変化速度および外槽5の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持する。ここでの、「内槽3の温度」,「外槽5の温度」には、各槽に接する内方空間の温度、すなわち内槽3については内槽内空間7の温度、外槽5については内外槽間空間9の温度を含む。また、ここでの、温度差の「所定値」は、例えば、
貯蔵タンク1の通常運用開始時の温度差を基準として設定され、例えば通常運用開始時の温度差よりも大きい値、例えば150K程度である。もっとも、当該「所定値」はこの値に限定されない。
【0026】
内槽3の温度変化速度を調整する方法として、本実施形態では、内槽3への冷却用水素CHの導入速度を調整する。具体的には、内槽3への冷却用水素CHの導入速度を低下させることにより内槽3の冷却速度を低下させる。なお、ここでの、「導入速度を低下させる」には、導入を停止することを含む。また、外槽5の温度変化速度を調整する方法として、本実施形態では、内外槽間空間9への冷却ガスCGの供給速度を調整する。具体的には、内外槽間空間9への気化ガスG1および/または外部水素ガスG2の温度を冷却装置33によって低下させ、かつガス送給装置31を用いて冷却ガスCGの供給速度を上昇させることにより、外槽5の冷却速度を上昇させる。内槽3の冷却速度の低下と外槽5の冷却速度の上昇は、いずれか一方のみを実施してもよく、両方を組み合わせて実施してもよい。一例として、
図2Cに、内槽3への冷却用水素CHの噴霧を停止し、かつ内外槽間空間9への冷却ガスCGの供給速度を上昇させた状態を示す。
【0027】
なお、内槽3への冷却用水素CHの導入速度の調整は、上記の例に限定されず、例えば内槽3の冷却が不十分な場合に導入速度を上昇させることも含む。同様に、内外槽間空間9への冷却ガスCGの供給速度の調整は、上記の例に限定されず、例えば外槽5を冷却しすぎた場合に供給速度を低下させることも含む。内槽3の温度変化速度および外槽5の温度変化速度の少なくとも一方を調整する方法は、上述した例に限定されない。例えば、内槽内空間7に内槽温度よりも高温の水素ガスを供給してもよい。
【0028】
また、温度差制御を高精度に行うため、内槽3および外槽5において、各々の温度を測定する箇所として、例えば、内槽3の代表温度を検知可能な所定の箇所、および外槽5の代表温度を検知可能な所定の箇所を選択する。ここでの「代表温度」とは、内槽3および外槽5の各々の全体の温度分布からみて内槽3,外槽5各々の温度を最も適切に代表すると考えられる温度を意味する。「代表温度」の例として、内槽3および外槽5の各々の全体の温度分布の平均値が挙げられる。
【0029】
内槽3および外槽5において各々の温度を測定する箇所の他の例として、内槽3における他の部材との接続箇所および外槽5における他の部材との接続箇所が挙げられる。具体的には、温度測定を行う他の部材との接続箇所の例として、貯蔵タンク1を船体に対して支持する筒状の支持部材であるスカートとの接続箇所や、貯蔵タンク1内の中央部に上下方向に突設されるパイプ状のタワーとの接続箇所が挙げられる。他の部材との接続箇所の温度を測定し、温度差を調整することによって、内槽3,外槽5と他の部材との接続状態を効果的に維持することができる。
【0030】
内槽3および外槽5において各々の温度を測定する箇所のさらなる他の例として、各槽3,5に接する内方空間、すなわち内槽3についての内槽内空間7、外槽5についての内外槽間空間9が挙げられる。この構成によれば、貯蔵タンク1の定常運転に使用される温度測定箇所を利用できるので、測定装置等の追加が不要となる。
【0031】
なお、内槽3および外槽5において各々の温度を測定する箇所の組合せは、上記で説明した例に限定されない。すなわち、例えば、内槽3については他の部材との接続箇所の温度を測定し、外槽5については内外槽間空間9の温度を測定してもよい。
【0032】
また、これらの温度測定に用いる装置は、例えば、上述したような温度検知装置であってもよく、個別の温度検知素子で検知した温度の差を出力する差温計であってもよい。
【0033】
このように、内槽3を冷却用水素CHで冷却しながら、必要に応じて水素ガスを内外槽間空間9に供給することにより、内外槽間空間9および外槽5の冷却が促進されるので、単に内槽3のみを冷却する場合に比べて貯蔵タンク1全体のクールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。さらに、内槽3と外槽5の温度差を所定値以下に維持することにより、構成部材の熱収縮量差を抑制することができる。
【0034】
その後、
図2Dに示すように、内槽3の温度および内外槽間空間9の温度がそれぞれ目標温度まで低下した時点で、連通路11が開状態であればこれを閉状態にするとともに、冷却用水素CHの噴霧を停止してクールダウンを終了する。
【0035】
本実施形態では、クールダウンを冷却用の液化水素を用いて行う例について説明したが、クールダウンは液化水素以外の液化ガスを用いて行ってもよい。例えば、内槽3内に空気が存在する状態から、液化窒素を導入した後、さらに窒素を水素で置換するというように、段階的にクールダウンを進めてもよい。
【0036】
本実施形態に係るクールダウンは、典型的には、例えば、貯蔵タンク1の建造後、貯蔵タンク1が設置される船舶のような液化ガス貯蔵設備の建造後、または、当該設備や貯蔵タンク1のメンテナンスのために貯蔵タンク1をウォームアップした後に再度積荷を実施する前に行われる。もっとも、本実施形態に係るクールダウン方法は、貯蔵タンク1が船舶に設置される場合において、貯蔵タンク1内の液化ガスを揚荷した後の空荷航海(バラスト航海)する際にも適用することができる。すなわち、バラスト航海においては内槽3の温度が徐々に上昇する場合があり、その場合に上記クールダウン方法を適用することができる。なお、バラスト航海中の貯蔵タンク1のクールダウンにおいては、例えば、揚荷せずにクールダウン用として内槽3内に残した液化ガスを用いて、内槽3内に設置されたポンプ等の送給装置によって液化ガスをタンク上部まで移送してクールダウンを行う。貯蔵タンク1が複数設置される場合には、他の貯蔵タンク1からクールダウン用の液化ガスや気化ガスの供給を受けてもよい。
【0037】
次に、本実施形態に係る、貯蔵タンク1のウォームアップ方法について、以下に詳細に説明する。
【0038】
本実施形態では、貯蔵タンク1から液化水素が排出され、
図3Aに示すウォームアップを開始する時点での初期状態の貯蔵タンク1において、連通路11の開閉弁19を閉じた状態とされている。内槽内空間7には、例えば、大気圧よりも若干高圧、例えば5kPaG下で凝固点である20K程度の温度の水素ガスが存在している。内外槽間空間9には、定常運用状態である、例えば、大気圧よりも若干低圧である-10kPaG下で110K程度の温度の水素ガスが存在している。もっとも、初期状態の水素ガスの温度および圧力の値は上記の例に限定されない。この状態から、同図に示すように、噴霧器29を用いて、内槽内空間7に、加熱用の水素ガス(以下、「第1加熱用ガス」と呼ぶ。)HG1を供給する。噴霧器29ではなく、内槽3に接続される他のライン、例えば、液化ガスを貯蔵タンク1に供給するために設けられているラインを用いて第1加熱用ガスを供給してもよい。
【0039】
このようにして行われるウォームアップの過程で、内槽3と外槽5の温度差が大きくなりすぎ、構成部材の熱収縮量の差が過大になる場合がある。本実施形態では、これを回避するため、内槽3の温度と、外槽5の温度とをそれぞれ測定し、内槽3の温度と外槽5の温度との温度差(以下、単に「温度差」という。)に基づいて、内槽3の温度変化速度および外槽5の温度変化速度の少なくとも一方を調整することにより温度差を所定値以下に維持する。ここでの、温度差の「所定値」は、例えば、貯蔵タンク1の通常運用終了時の温度差を基準として設定され、例えば通常運用開始時の温度差よりも大きい値、例えば1
50K程度である。もっとも、当該「所定値」はこの値に限定されない。
【0040】
温度差を所定値以下に維持する方法として、本実施形態では、
図3Bに示すように、内外槽間空間9にも加熱用ガス(以下、「第2加熱用ガス」という。)HG2を供給することにより、外槽5の昇温速度を上昇させる。内外槽間空間9への第2加熱用ガスHG2の供給は、例えば、専用の加熱用ガス供給路41を介して行われる。もっとも、内外槽間空間9への第2加熱用ガスHG2の供給は、例えば水素ガス導入通路15を介して、冷却装置33をバイパスして、行ってもよい。温度差を所定値以下に維持するため、内槽内空間7への第1加熱用ガスの供給速度および内外槽間空間9への第2加熱用ガスHG2の供給速度の少なくともいずれか一方を調整する。
【0041】
ウォームアップにおいて内槽3および外槽5の各々の温度を測定する箇所は、上述したクールダウンの場合と同様である。すなわち、例えば、各槽3,5の代表温度を検知可能な所定の箇所、各槽3,5の他の部材との接続箇所、各槽3,5に接する内方空間である内槽内空間7,内外槽間空間9の温度を測定することができる。
【0042】
なお、内外槽間空間9への第2加熱用ガスHG2の供給は、内槽3の温度が所定値以上まで上昇した後に行うことが好ましい。ここでの内槽3温度の「所定値」は、内外槽間空間9において水素ガス凝縮の可能性がない温度を意味する。
【0043】
このように、内槽3を第1加熱用ガスHG1で加熱しながら、第2加熱用ガスHG2を内外槽間空間9に供給することにより、内外槽間空間9および外槽5の温度上昇も促進されるので、単に内槽3のみを加熱する場合に比べて貯蔵タンク1全体のウォームアップに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。さらに、内槽3と外槽5の温度差を所定値以下に維持することにより、構成部材の熱収縮量差を抑制することができる。
【0044】
なお、
図1には、貯蔵タンク1の一例として、船体とは独立に形成される独立型の二重殻タンクを示したが、本実施形態に係るクールダウン方法およびウォームアップ方法は、この例に限定されず、いかなるタイプの貯蔵タンクにも適用することができる。例えば、本実施形態に係るクールダウン方法およびウォームアップ方法は、船体と一体に形成されるタイプの貯蔵タンクにも適用することができる。また、貯蔵タンクの多重構造は、三重構造以上であってよく、そのような多重構造の内槽内空間と他の任意の槽間空間とに本実施形態に係るクールダウン方法およびウォームアップ方法を適用することができる。
【0045】
以上説明した本実施形態に係るクールダウン方法によれば、
図2Bに示すように、内槽3を冷却用水素CHで冷却しながら、冷却ガスCGを内外槽間空間9に供給することなどによって内槽3と外槽5の温度差を所定値以下に維持することにより、構成部材間で生じる熱収縮量差に起因する応力の発生を抑制するとともに、クールダウンに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【0046】
本実施形態に係るクールダウン方法において、内槽3の温度変化速度の調整を、内槽3への冷却用液化水素CHの噴霧速度を低下させることにより行ってもよい。また、外槽5の温度変化速度の調整を、内外槽間空間9への冷却ガス供給速度を上昇させることにより行ってもよい。この構成によれば、簡易な構造で温度差の調整を行うことができる。
【0047】
本実施形態に係るクールダウン方法において、内槽3の温度および外槽5の温度の測定は、内槽3および外槽5の各代表温度を検知可能な所定の箇所の温度を測定することにより行ってもよい。この構成によれば、高精度に温度差の調整を行うことができる。
【0048】
本実施形態に係るクールダウン方法において、内槽3の温度および外槽5の温度の測定
は、内槽3および外槽5における他の部材との各接続箇所の温度を測定することによって行ってもよい。この構成によれば、温度差の調整によって、内槽3,外槽5と他の部材との接続状態を効果的に維持することができる。
【0049】
本実施形態に係るクールダウン方法において、内槽3の温度および外槽5の温度の測定は、内槽内空間7および内外槽間空間9の温度を測定することによって行ってもよい。この構成によれば、貯蔵タンク1の定常運転に使用される温度測定箇所を利用できるので、測定装置等の追加が不要となる。
【0050】
本実施形態に係るウォームアップ方法によれば、内槽3を第1加熱用ガスHG1で加熱しながら、第2加熱用ガスHG2を内外槽間空間9に供給することなどによって内槽3と外槽5の温度差を所定値以下に維持することにより、構成部材の熱収縮量差を抑制するとともに、ウォームアップに要する時間を短縮し、コストを抑制することができる。
【0051】
以上のとおり、図面を参照しながら本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本開示の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 液化ガス貯蔵タンク
3 内槽
5 外槽
7 内槽内空間
9 内外槽間空間
11 連通路
29 噴霧器
33 冷却装置
CG 冷却ガス
CH 冷却用液化ガス
G1 気化ガス
G2 外部水素ガス
HG1 第1加熱用ガス
HG2 第2加熱用ガス