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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140792
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046811
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 滋
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義則
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AC01
3J030AC10
3J030BA01
3J030BB07
3J030CA10
(57)【要約】
【課題】歯車の噛み合い摺動部における摩擦を低減させて耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】歯面12の滑り方向に対して垂直な方向へ向かって延びる複数の溝13が歯面12の筋状凹凸加工領域14に並べて設けられており、筋状凹凸加工領域14の算術平均粗さは、0.01μm以上0.4μm以下の範囲内である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯面の滑り方向に対して垂直な方向へ向かって延びる複数の溝が前記歯面の筋状凹凸加工領域に並べて設けられており、
前記筋状凹凸加工領域の算術平均粗さは、0.01μm以上0.4μm以下の範囲内であることを特徴とする歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車であって、
前記筋状凹凸加工領域は、前記歯面の歯先から歯丈の半分の位置まで設けられていることを特徴とする歯車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯車であって、
前記複数の溝は、歯幅の全幅に亘って直線状に設けられていることを特徴とする歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面間の噛み合いで転がり滑りのある歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯車対を構成する2つの歯車の歯面同士が接触する接触面の歯先側に、歯幅方向へ延びる直線状の溝を設けた歯車が開示されている。
【0003】
特許文献2には、歯車対の一方の歯車の歯面が、他方の歯車と噛み合う際に他方の歯車の歯面と接触する噛合領域と、他方の歯車と噛み合う際にも他方の歯車とは接触しない非噛合領域とを含み、歯面の非噛合領域に、歯車対の噛み合い進行方向と交差する方向に延びる溝を設けた歯車構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-92697号公報
【特許文献2】特開2019-56409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一対の歯車対における駆動歯車からトルクを被駆動歯車へ伝達する際には、駆動歯車の歯元と被駆動歯車の歯先による転がり滑りと、駆動歯車の歯面と被駆動歯車の歯面のピッチ円上での転がりと、駆動歯車の歯先と被駆動歯車の歯元による転がり滑りが、順次連続して生じる。歯面間で噛み合って摺動する噛み合い摺動部の摩擦が大きくなると、摩擦損失による動力伝達効率の低下や歯車の焼き付きが生じる可能性があり、歯車の耐摩耗性も低下する可能性がある。
【0006】
特許文献1で開示された歯車の発明は、歯面間の摺動の際に、溝に溜まった潤滑油を摺動面へ供給して摺動面の摩擦を低減することを目的としている。しかし、歯面同士が接触する接触面の歯先側に溝を設けても、接触面の溝が設けられていない部分同士が接触して摺動する際に潤滑油を系外へ流出させるため、狙い通りに歯車の噛み合い摺動部に油膜形成できるのか疑問があり、溝の最適化について更に検討の余地がある。
【0007】
特許文献2で開示された歯車構造の発明は、非噛合領域に溝を設けることによって、溝で堰き止めた潤滑油を噛合領域へ供給して噛合領域に油膜を形成して噛合領域の摩擦を低減することを目的としている。しかし、非噛合領域に設けられた溝から、狭く閉ざされた二面間が接触する噛合領域へ潤滑油が流入するとは考え難い。また、非噛合領域は開放系であるため、摺動に伴い系外に押し出された潤滑油は溝に堰き止められず、油圧も発生しないため、系外へ流出すると考えられる。そのため、非噛合領域に設けた溝が噛合領域の油膜形成に寄与するとは考え難い。
【0008】
そこで、本発明は、歯車の噛み合い摺動部における摩擦を低減させて耐摩耗性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る歯車は、歯面の滑り方向に対して垂直な方向へ向かって延びる複数の溝が前記歯面の筋状凹凸加工領域に並べて設けられており、前記筋状凹凸加工領域の算術平均粗さは、0.01μm以上0.4μm以下の範囲内であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る歯車の一態様において、前記筋状凹凸加工領域は、前記歯面の歯先から歯丈の半分の位置まで設けられていてもよい。
【0011】
本発明に係る歯車の一態様において、前記複数の溝は、歯幅の全幅に亘って直線状に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、歯車の噛み合い摺動部における摩擦を低減させて耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の歯車を噛み合わせて歯車対を構成した状態を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態の歯車の斜視図である。
図3】本実施形態の歯車の歯の側面を示す図である。
図4】本実施形態の歯車の歯面を示す図である。
図5】摩擦係数の低減に有効な面性状の評価試験に用いた試験機の概略図である。
図6】評価試験に用いた試験片Aの外周面を示す図である。
図7】評価試験に用いた試験片Bの外周面を示す図である。
図8】評価試験に用いた試験片Cの外周面を示す図である。
図9】評価試験に用いた試験片Dの外周面を示す図である。
図10】試験片A~Dの摩擦係数の測定結果を示す図である。
図11】試験片A~Dの相手材摩耗深さの測定結果を示す図である
図12】算術平均粗さが摩擦係数に及ぼす影響の計算に用いた設定値の一覧を示す表である。
図13】滑り速度を毎秒0.5mで摩擦係数を計算した結果を示す図である。
図14】滑り速度を毎秒1mで摩擦係数を計算した結果を示す図である。
図15】滑り速度を毎秒2mで摩擦係数を計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、2つの歯車10を噛み合わせて歯車対を構成した状態を示す側面図である。歯車10は、例えば、自動車用の駆動系ユニットに用いられる。当該歯車対では、下側の歯車10を反時計回りに回転させる駆動歯車10aとして用いて、上側の歯車10を時計回りに回転させる被駆動歯車10bとして用いる。領域A1では、駆動歯車10aの歯元と被駆動歯車10bの歯先による転がり滑りが生じる。領域A2では、駆動歯車10aの歯面12と被駆動歯車10bの歯面12のピッチ円上での転がりが生じる。領域A3では、駆動歯車10aの歯先と被駆動歯車10bの歯元による転がり滑りが生じる。歯先による転がり滑り、ピッチ円上での転がり、歯元による転がり滑りは順次連続して生じる。
【0015】
図2は、歯車10の斜視図である。図2に示すように、歯車10は、歯1を備える平歯車である。図3は、歯1の側面11を示す図である。図4は、歯1の歯面12を示す図である。
【0016】
歯車10には、歯面12の歯先から歯丈の半分の位置までの範囲に筋状凹凸加工領域14が設けられる。筋状凹凸加工領域14には、歯幅方向へ向かって直線状に延びる複数本の溝13が歯先から歯元へ向かって並べて設けられる。すなわち、領域A1で生じる転がり滑りにおける歯面12の滑り方向、及び、領域A3で生じる転がり滑りにおける歯面12の滑り方向に対して垂直な方向へ延びるように溝13が設けられる。溝13は、歯幅の全幅に亘って設けられることが好適である。また、溝13は、三角形の断面形状を有する。ただし、溝13は、例えば四角形や半円など三角形以外の断面形状であってもよい。溝13が設けられた筋状凹凸加工領域14の算術平均粗さは、0.01μm以上0.4μm以下の範囲内とすることが好適である。
【0017】
図1の駆動歯車10aと被駆動歯車10bの歯車対の噛み合わせで、歯面12においてピッチ円上からの歯丈方向の歯先または歯元に近づくほど、転がりよりも滑りの割合が多くなるため、歯先近傍および歯元近傍では転がり滑りの摩擦損失が大きく、焼き付き及び摩耗が生じ易い。滑りの割合が多い噛み合わせは、図1の領域A1及び領域A3の歯先近傍と歯元近傍であるため、少なくとも歯先近傍である筋状凹凸加工領域14に溝13を設けることによって、摩擦損失の低減、焼き付き及び摩耗の抑制を効果的にすることができる。
【0018】
摩擦係数の低減に有効な面性状について、ブロックオンリング試験機(型式:LFW-1)を用いて評価試験を行った。図5は、評価試験に用いた試験機20の概略構成を示す図である。図5に示すように、浸炭材で構成されたリング試験片21の上に、SCM420製の浸炭材で構成されたブロック試験片22を載せて、ブロック試験片22の上から荷重をかけた状態で、リング試験片21を回転させて評価試験を実施した。評価試験では、リング試験片21の下部が潤滑油23に浸かった状態とした。リング試験片21を回転させることによって、リング試験片21の外周面に付いた潤滑油23がリング試験片21と一緒に回ってリング試験片21とブロック試験片22との摺動面へ潤滑油23が供給された。潤滑油23には、ハイブリッド車両のトランスアクスルに用いられている市販のATF(トヨタ純正オートフルードWS)を用いた。試験時における油温は80℃とした。
【0019】
リング試験片21の回転による外周面の滑り速度は0.9m/sであった。試験開始から5分間は摺動面になじみを付けるためにブロック試験片22の上から444Nの荷重を加えた状態で摺動させた。5分経過後、目的荷重の1177Nへ荷重を増加した状態で25分間摺動させて、摩擦係数およびブロック試験片22の摩耗深さの測定を行った。ヘルツの最大圧力で算出すると、1177Nの荷重をブロック試験片22の上から加えた状態での最高面圧は約0.6GPaであった。
【0020】
図6図9に示すように、リング試験片21として4種類の試験片A~Dを用いて測定結果を比較した。試験片Aでは、図6に示すように、摺動方向に垂直な方向に延びる溝13をリング試験片21の外周面に設けた。試験片Bでは、図7に示すように、摺動方向に対して45度の角度で延びる溝13をリング試験片21の外周面に設けた。試験片Cでは、図8に示すように、摺動方向に平行な方向に延びる溝13をリング試験片21の外周面に設けた。試験片Dは、図9に示すように、ショットブラストにより梨地加工された凹凸をリング試験片21の外周面に設けた。
【0021】
図10は、試験片A~Dに対する摩擦係数の測定結果を示す。試験片B~Dと比較して、試験片Aの摩擦係数が特に低くなった。試験片Aの摩擦係数は、試験片Cの摩擦係数の2分の1以下であった。
【0022】
図11は、試験片A~Dについてブロック試験片22の摩耗深さを測定した結果を示す。試験片Aを用いて測定した摩耗深さが最小となった。試験片Aを用いて測定した摩耗深さは、試験片Cを用いて測定した摩耗深さの10分の1以下であった。
【0023】
試験片Aの摩擦係数が低くなった理由及びブロック試験片22の摩耗深さが最小となった理由は、リング試験片21とブロック試験片22との摺動方向に垂直な方向に延びる溝13を設けたことにより、摺動面において潤滑油23が堰き止めされて油圧が発生し、厚い油膜が形成されたためであると考えられる。
【0024】
以上のように、歯面12の歯先近傍の筋状凹凸加工領域14に歯面12の滑り方向に対して垂直な方向に延びる複数の溝13を設けることによって歯面間の摩擦の低減や耐摩耗性の向上が可能である。
【0025】
更に、計算モデルを用いて、歯車10の歯面12の滑り方向に対する溝13の方向と筋状凹凸加工領域14の算術平均粗さが摩擦係数に及ぼす影響を調べた。計算モデルは、既知の油膜圧力解析(Patir-Cheng平均流モデル)と固体接触解析(粗さと油膜の厚さの比に基づく松本の方程式)を適用した。油膜圧力をp(x、y)、接触領域をS、油膜合力をFoとすると、Patir-Cheng平均流モデルにより、以下の式1が成り立つ。
【0026】
【数1】
【0027】
接触する2面の最大高さ粗さをそれぞれRz1、Rz2として、最小油膜厚さをho、油膜厚さと表面粗さの比をD、接触域での固体接触部分の割合をα、付加荷重をF、接触合力をFcとすると、粗さと油膜の厚さの比に基づく松本の方程式により、以下の式2、式3および式4が成り立つ。
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
【数4】
【0031】
付加荷重Fは、以下の式5で計算することができる。2面間の摩擦係数は、潤滑油の粘度と境界摩擦係数から粘性摩擦力と境界摩擦力を計算し、それらの和を付加荷重Fで除して求めた。
【0032】
【数5】
【0033】
図12は、算術平均粗さが摩擦係数に及ぼす影響の計算において噛み合い中の歯面の状態を模擬した計算条件の設定値の一覧を示す。歯車の噛み合い摩擦(伝達損失)の低減が課題となる低~中負荷を想定し、最大面圧は0.44~0.98GPa、滑り速度は最大2m/sとした。最大面圧0.98GPaで、滑り速度を0.5m/s、1m/sおよび2m/sにおける平行溝加工面と直交溝加工面の算術平均粗さRqと摩擦係数の関係について計算した。なお、平行溝加工面とは、図8に示したように、滑り方向と平行な方向に延びる溝を並べた加工面である。直交溝加工面とは、図6に示したように、滑り方向に垂直な方向に延びる複数の溝を並べた加工面である。
【0034】
図13は、最大面圧が0.98GPaで、滑り速度を0.5m/sとした条件で計算した結果を示す。図14は、最大面圧が0.98GPaで、滑り速度を1m/sとした条件で計算した結果を示す。図15は、最大面圧が0.98GPaで、滑り速度を2m/sとした条件で計算した結果を示す。図13図15に示すように、最大面圧0.98GPaにおいて、滑り速度が0.5m/s、1m/sおよび2m/sのいずれの条件でも、直交溝加工面の算術平均粗さを0.01μm以上0.4μm以下の範囲とすることによって平行溝加工面と比較して摩擦係数を低くすることができることが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 歯、10 歯車、10a 駆動歯車、10b 被駆動歯車、11 側面、12 歯面、13 溝、14 筋状凹凸加工領域、20 試験機、21 リング試験片、22 ブロック試験片、23 潤滑油。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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