(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140799
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】冷却装置及び冷却方法
(51)【国際特許分類】
B21D 7/16 20060101AFI20230928BHJP
B21D 7/04 20060101ALI20230928BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20230928BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20230928BHJP
C21D 1/667 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B21D7/16
B21D7/04
C21D9/08 B
C21D9/08 D
C21D1/00 123B
C21D1/667
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046821
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】富澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】植松 一夫
【テーマコード(参考)】
4E063
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
4E063AA06
4E063BC11
4E063CA04
4E063DA04
4E063FA08
4E063KA04
4E063KA05
4E063MA04
4E063MA18
4K034AA01
4K034AA10
4K034AA11
4K034AA13
4K034BA03
4K034DA02
4K034DA05
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034FA05
4K034FB03
4K034FB07
4K034FB09
4K042AA06
4K042AA09
4K042BA01
4K042BA03
4K042BA13
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC02
4K042DD02
4K042DD04
4K042DE02
4K042DF01
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】通常曲げ加工またはせん断曲げ加工を行う際に、中空素材との干渉を避けながら効果的な冷却が行える冷却装置及び冷却方法の提供を課題とする。
【解決手段】この冷却装置は、送り装置と、加熱コイルと、中空素材Pmに冷却水を噴射する複数のノズル孔を有する冷却装置と、せん断力付与装置とを備える中空屈曲部品の製造装置に用いられる。この冷却装置では、第3の位置で中空素材Pmの長手方向に直交する断面において、各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面に対して、傾斜するように交差している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の中空素材をその長手方向に沿って第1の位置で支持しながら送る送り機構と、
前記第1の位置よりも下流の第2の位置で前記中空素材を加熱する加熱コイルと、
前記第2の位置よりも下流の第3の位置で前記中空素材に冷却媒体を噴射する複数のノズル孔を有する冷却装置と、
前記中空素材を、前記第3の位置よりも下流の第4の位置で把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記中空素材に屈曲部を形成する屈曲加工部と、
を備える中空屈曲部品の製造装置に用いられる、前記冷却装置であって、
前記第3の位置で前記長手方向に直交する断面において、前記各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線が、前記中空素材の外周面に対して傾斜するように交差している
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜するように交差している
ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜するように交差している
ことを特徴とする請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記曲げ内側面が、前記中空素材の一対の外側面のうちの一方であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、前記噴射中心線が斜め下方に向かって交差している;
ことを特徴とする請求項2または3に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記曲げ内側面が、前記中空素材の上面であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記上面に対し、前記噴射中心線が斜めに交差している;
ことを特徴とする請求項2または3に記載の冷却装置。
【請求項6】
金属製の中空素材をその長手方向に沿って第1の位置で支持しながら送る送り工程と、
前記第1の位置よりも下流の第2の位置で前記中空素材を加熱する加熱工程と、
前記第2の位置よりも下流の第3の位置で前記中空素材に向かって複数のノズル孔から冷却媒体を噴射する冷却工程と、
前記第3の位置よりも下流の第4の位置で前記中空素材を把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記中空素材に屈曲部を形成する曲げ工程と、
を有する中空屈曲部品の製造方法における前記冷却工程で用いられる冷却方法であって、
前記第3の位置で前記長手方向に直交する断面において、前記各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線が、前記中空素材の外周面に対し傾斜して交差するように、前記冷却媒体を噴射する
ことを特徴とする冷却方法。
【請求項7】
前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜して交差するように、前記冷却媒体を噴射する
ことを特徴とする請求項6に記載の冷却方法。
【請求項8】
せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、前記噴射中心線を傾斜して交差させるように、前記冷却媒体を噴射する
ことを特徴とする請求項7に記載の冷却方法。
【請求項9】
前記曲げ内側面が、前記中空素材の一対の外側面のうちの一方であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、前記噴射中心線を斜め下方に向かって交差させるように、前記冷却媒体を噴射する;
ことを特徴とする請求項7または8に記載の冷却方法。
【請求項10】
前記曲げ内側面が、前記中空素材の上面であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記上面に対し、前記噴射中心線を斜めに交差させるように、前記冷却媒体を噴射する;
ことを特徴とする請求項7または8に記載の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空素材をせん断曲げ加工あるいは通常曲げ加工する際に中空素材を冷却するための冷却装置及び冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車や各種機械等に用いられる、中空の屈曲した形状を有する金属製の強度部材、補強部材または構造部材には、軽量かつ高強度であること等が求められる。従来、この種の中空屈曲部品は、例えば、冷間の曲げ加工、プレス加工品の溶接、厚板の打ち抜き、さらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法では、製造される中空屈曲部品の軽量化および高強度化に限界があり、その実現は容易なことではなかった。
【0003】
このような現状に鑑み、本発明者らは、先に特許文献1により熱間曲げ加工装置に係る発明を開示した。
図11は、特許文献1における発明の一実施例を示したもので、この熱間曲げ加工装置100の概略構成を模式的に示す説明図である。
図11に示すように、この熱間曲げ加工装置100では、支持手段101(一対の支持手段101a,101b)によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管(以下、中空素材Pm)を上流側から下流側へ向けて矢印F方向へ図示しない送り装置により送りながら、支持手段101a,101bの下流位置で曲げ加工を行って、鋼製の中空屈曲部品Ppを製造する。すなわち、支持手段101a,101bの下流位置で高周波加熱コイル102によって中空素材Pmを部分的に焼入れ可能な温度域に急速加熱するとともに、高周波加熱コイル102の下流に配置された水冷装置103により中空素材Pmを急冷する。そして、中空素材Pmの先端を把持手段104(一対の把持手段104a,104b)により把持し、把持手段104の位置を三次元方向(場合によっては二次元方向)に変更して中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを付与することにより、中空素材Pmに曲げ加工を行う。この熱間曲げ加工装置100によれば、高い作業効率で高強度の中空屈曲部品Ppを製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/024741号
【特許文献2】特開昭55-8473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記熱間曲げ加工装置100では水冷装置103により中空素材Pmを冷却しているが、曲げ加工に伴って変形する中空素材Pmとの干渉を避けながらも効果的な冷却を可能とすることは容易ではなかった。特に、せん断曲げ加工を行う場合は、通常曲げ加工を行う場合に比べて曲げ半径が小さい屈曲部を形成するため、せん断曲げ加工中の中空素材Pmが冷却手段と干渉しやすい。
例えば管材を冷却する装置としては、特許文献2に鋼管焼入用冷却装置が開示されている(
図12参照)。しかし、この装置においても、曲げ加工時の干渉問題は避けられない。そもそも同装置は、直管焼き入れへの適用を前提とするものであり、なおかつ管端からの冷却水浸入を課題としている。つまり、同装置は管端での冷却不具合に着目したものであるため、鋼管の長手方向途中位置に熱間曲げ加工や熱間せん断曲げ加工を加える装置への適用が考慮されていない。そのため、この装置を例えば特許文献1の上記熱間曲げ加工装置100に適用しても、噴射ノズルを備える噴射体が管軸方向に長く大型であるため、管材が少しでも曲がると直ちに干渉を起こしてしまう。よって、同装置を適用しようとすると、肝心のせん断曲げ加工だけではなく通常曲げ加工すら行えない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、通常曲げ加工またはせん断曲げ加工を行う際に、中空素材との干渉を避けながら効果的な冷却が行える冷却装置及び冷却方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用している。
(1)本発明の一態様に係る冷却装置は、
金属製の中空素材をその長手方向に沿って第1の位置で支持しながら送る送り機構と、
前記第1の位置よりも下流の第2の位置で前記中空素材を加熱する加熱コイルと、
前記第2の位置よりも下流の第3の位置で前記中空素材に冷却媒体を噴射する複数のノズル孔を有する冷却装置と、
前記中空素材を、前記第3の位置よりも下流の第4の位置で把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記中空素材に屈曲部を形成する屈曲加工部と、
を備える中空屈曲部品の製造装置に用いられる、前記冷却装置であって、
前記第3の位置で前記長手方向に直交する断面において、前記各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線が、前記中空素材の外周面に対して傾斜するように交差している。
【0008】
上記(1)に記載の冷却装置によれば、噴射中心線が傾斜しているノズル孔から噴射された冷却媒体は、中空素材の外周面に対して斜めに吹き付けられる。ここで、このノズル孔を第1噴射孔とし、第1噴射孔よりも外周面に対する吹き付け位置が下流側であるノズル孔を第2噴射孔とし、そして第3の位置で長手方向に直交する断面において見た場合を説明する。本態様では、第1噴射孔の噴射中心線が、中空素材の外周面に対して傾斜するように交差している。すなわち、この傾斜の角度をφとした場合、角度φを90度よりも小さくして第1噴射孔の噴射中心線を外周面に近付けて寝かせている。これにより、第1噴射孔から噴射される冷却媒体は、第2噴射孔から噴射される冷却媒体やさらにはその下流に対して他の噴射孔から吹き付けられる他の冷却媒体との干渉を回避できる。このように冷却媒体間の干渉を回避できるので、第1噴射孔から噴出された冷却媒体が送り方向の上流側へ逆流し難くなる。よって、今度は第3の位置において中空素材の中心軸線を含む断面で見た場合、中空素材の外周面に対して第1噴射孔の噴射中心線がなす角度θを大きくとり、噴射中心線を従来のように寝かせることなく立たせることができる。このように角度θを大きくとることで、第1噴射孔の位置を中空素材の外周面から遠ざけて配置しても、第1噴射孔から噴射する冷却媒体の吹き付け位置を、送り方向において上流側に移動させて被加熱部に近付けられる。その結果、被加熱部の送り方向に沿った寸法を短くして屈曲部における皺の発生を防止できると共に、冷却装置が中空素材と干渉することも防止できる。
【0009】
(2)上記(1)に記載の冷却装置において、
前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜するように交差していてもよい。
上記(2)に記載の冷却装置の場合、曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、中空素材の略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、従来構造であれば、曲げ内側面は冷却装置との干渉を起こしやすい。しかし、本冷却装置では、上述した理由により、曲げ内側面とノズル孔との間におけるクリアランスを従来構造のものよりも大きく確保出来るので、これらの間における干渉を確実に避けることができる。
【0010】
(3)上記(2)に記載の冷却装置において、
せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜するように交差していてもよい。
上記(3)に記載の冷却装置の場合、せん断曲げ加工により形成された曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、中空素材の略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、せん断曲げ加工の場合は通常曲げ加工の場合よりも急角度で中空素材が屈曲されるため、ノズル孔との干渉が生じやすい。しかし、本冷却装置では、上述した理由により、せん断曲げ加工であっても、曲げ内側面と冷却装置との間における干渉を確実に避けることができる。
【0011】
(4)上記(2)又は上記(3)に記載の冷却装置において、以下のようにしてもよい:
前記曲げ内側面が、前記中空素材の一対の外側面のうちの一方であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、前記噴射中心線が斜め下方に向かって交差している。
上記(4)に記載の冷却装置の場合、曲げ内側面である外側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、外側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して下方に向かって排出される。このときの冷却媒体は、重力によって下向きの力を受けるので、より確実に排出される。
【0012】
(5)上記(2)又は上記(3)に記載の冷却装置において、以下のようにしてもよい:
前記曲げ内側面が、前記中空素材の上面であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記上面に対し、前記噴射中心線が斜めに交差している。
上記(5)に記載の冷却装置の場合、曲げ内側面である上面に対して吹き付けられた冷却媒体は、上面に当たってこれを冷却した後、直ちに上面の側方に離脱してから重力により下方に向かって排出される。よって、この形態においても、冷却媒体をより確実に排出できる。
【0013】
(6)本発明の一態様に係る冷却方法は、
金属製の中空素材をその長手方向に沿って第1の位置で支持しながら送る送り工程と、
前記第1の位置よりも下流の第2の位置で前記中空素材を加熱する加熱工程と、
前記第2の位置よりも下流の第3の位置で前記中空素材に向かって複数のノズル孔から冷却媒体を噴射する冷却工程と、
前記第3の位置よりも下流の第4の位置で前記中空素材を把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記中空素材に屈曲部を形成する曲げ工程と、
を有する中空屈曲部品の製造方法における前記冷却工程で用いられる冷却方法であって、
前記第3の位置で前記長手方向に直交する断面において、前記各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線が、前記中空素材の外周面に対し傾斜して交差するように、前記冷却媒体を噴射する。
【0014】
上記(6)に記載の冷却方法によれば、噴射中心線が傾斜しているノズル孔から噴射された冷却媒体は、中空素材の外周面に対して斜めに吹き付けられる。ここで、このノズル孔を第1噴射孔とし、第1噴射孔よりも外周面に対する吹き付け位置が下流側であるノズル孔を第2噴射孔とし、そして第3の位置で長手方向に直交する断面において見た場合を説明する。本態様では、第1噴射孔の噴射中心線が、中空素材の外周面に対して傾斜するように交差している。すなわち、この傾斜の角度をφとした場合、角度φを90度よりも小さくして第1噴射孔の噴射中心線を外周面に近付けて寝かせている。これにより、第1噴射孔から噴射される冷却媒体は、第2噴射孔から噴射される冷却媒体やさらにはその下流に対して他の噴射孔から吹き付けられる他の冷却媒体との干渉を回避できる。このように冷却媒体間の干渉を回避できるので、第1噴射孔から噴出された冷却媒体が送り方向の上流側へ逆流し難くなる。よって、今度は第3の位置において中空素材の中心軸線を含む断面で見た場合、中空素材の外周面に対して第1噴射孔の噴射中心線がなす角度θを大きくとり、噴射中心線を従来のように寝かせることなく立たせることができる。このように角度θを大きくとることで、第1噴射孔の位置を中空素材の外周面から遠ざけて配置しても、第1噴射孔から噴射する冷却媒体の吹き付け位置を、送り方向において上流側に移動させて被加熱部に近付けられる。その結果、被加熱部の送り方向に沿った寸法を短くして屈曲部における皺の発生を防止できると共に、冷却装置が中空素材と干渉することも防止できる。
【0015】
(7)上記(6)に記載の冷却方法において、
前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜して交差するように、前記冷却媒体を噴射してもよい。
上記(7)に記載の冷却方法の場合、曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、中空素材の略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、従来構造であれば、曲げ内側面はノズル孔との干渉を起こしやすい。しかし、本冷却装置では、上述した理由により、曲げ内側面とノズル孔との間におけるクリアランスを従来構造のものよりも大きく確保出来るので、これらの間における干渉を確実に避けることができる。
【0016】
(8)上記(7)に記載の冷却方法において、
せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、前記噴射中心線を傾斜して交差させるように、前記冷却媒体を噴射してもよい。
上記(8)に記載の冷却方法の場合、せん断曲げ加工により形成された曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、中空素材の略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、せん断曲げ加工の場合は通常曲げ加工の場合よりも急角度で中空素材が屈曲されるため、ノズル孔との干渉が生じやすい。しかし、本冷却装置では、上述した理由により、せん断曲げ加工であっても、曲げ内側面とノズル孔との間における干渉を確実に避けることができる。
【0017】
(9)上記(7)又は上記(8)に記載の冷却方法において、以下のようにしてもよい:
前記曲げ内側面が、前記中空素材の一対の外側面のうちの一方であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、前記噴射中心線を斜め下方に向かって交差させるように、前記冷却媒体を噴射する。
上記(9)に記載の冷却方法の場合、曲げ内側面である外側面に対して吹き付けられた冷却媒体は、外側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して下方に向かって排出される。このときの冷却媒体は、重力によって下向きの力を受けるので、より確実に排出される。
【0018】
(10)上記(7)又は上記(8)に記載の冷却方法において、以下のようにしてもよい:
前記曲げ内側面が、前記中空素材の上面であり;
前記中空素材を前記第3の位置において前記断面で見て、前記上面に対し、前記噴射中心線を斜めに交差させるように、前記冷却媒体を噴射する。
上記(10)に記載の冷却方法の場合、曲げ内側面である上面に対して吹き付けられた冷却媒体は、上面に当たってこれを冷却した後、直ちに上面の側方に離脱してから重力により下方に向かって排出される。よって、この形態においても、冷却媒体をより確実に排出できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記各態様に係る冷却装置及び冷却方法によれば、通常曲げ加工またはせん断曲げ加工を行う際に、中空素材との干渉を避けながら効果的な冷却が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷却装置を備えた製造装置の平面図である。
【
図2】(a)は、同製造装置の要部を示す図であって、
図1のA部の縦断面図である。(b)は、同製造装置に備わる前記冷却装置を示す図であって、
図2(a)のB-B矢視図である。
【
図3】(a)は、同冷却装置を示す図であって、
図2(b)のC部拡大図である。(b)は、同冷却装置を示す図であって、
図3(a)のD-D矢視図である。
【
図4】同冷却装置に備わる1つのノズル孔より噴射される冷却水の向きを説明する斜視図である。
【
図5】(a)は、同冷却装置を示す図であって、
図3(a)のE部拡大図である。(b)は、同冷却装置を示す図であって、
図3(b)のF部拡大図である。
【
図6】(a)~(g)は、それぞれ、
図2(a)のB-B矢視で見た場合における冷却水の噴射パターンを説明する図である。これらのうち、(a)~(e)が発明例であり、(f)及び(g)が比較のための比較例を示す。
【
図7】
図1に示した冷却装置の変形例を示す図であって、
図1のA部に対応する部分の拡大平面図である。(a)が直管焼き入れを行っている状態を示し、(b)がせん断曲げ加工を行っている状態を示す。
【
図8】参考技術に係る冷却装置の一例を示す図である。これらのうち、(a)が
図1のA部に対応する図であり、(b)が
図8(a)のG-G矢視図である。
【
図9】
図8(a),(b)に示した参考技術に係る冷却装置を示す図である。これらのうち、(a)が
図8(a)のG-G矢視図であり、(b)が
図8(a)のH部拡大図であり、(c)が
図9(b)のI部拡大図である。
【
図10】(a)~(e)は実施例を説明するための図であって、
図2(a)のB-B矢視図に対応する図である。
【
図11】従来の冷却装置を備えた熱間曲げ加工装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る冷却装置及び冷却方法を、図面を参照しながら以下に説明する。同冷却装置は、
図1に示す中空屈曲部品の製造装置10に適用される。以降の説明では、まず
図1を用いて製造装置10を説明し、続いて
図2~
図5を用いて冷却装置の詳細を説明し、さらに
図6,7を用いて冷却装置の変形例を説明する。そして、理解を深めるために
図8,9を用いて従来の冷却装置の問題を先に説明した後に、再び本実施形態の冷却装置の技術的効果について纏める。そして最後に、技術的効果を検証した各実施例を、
図10及び表1~表4を参照しながら説明する。
【0022】
[中空屈曲部品の製造装置]
図1に示す製造装置10は、矩形の横断面形状を有する中空の鋼製角管を被加工材(以下、中空素材Pm)とし、これにせん断曲げ加工を加えることで中空屈曲部品Ppを製造する。中空素材Pmは、その長手方向に垂直な断面が中空矩形の閉断面形状を有する鋼製の長尺な角管である。なお、本実施形態の加工対象である中空素材Pmは、角管に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、さらには各種異形の断面形状を有する管であってもよい。矩形断面を持つ中空素材Pmは、その断面形状が正方形、長方形の何れであってもよい。さらには、中空素材Pmとしてその断面形状が矩形以外の多角形管あるいは任意の曲面形状を持つ管であってもよい。中空素材Pmは、鋼管以外の金属管であってもよい。また、本実施形態では、冷却装置及び冷却方法をせん断曲げ加工する場合を例示して以下に説明するが、通常の曲げ加工をする場合に適用してもよい。
【0023】
図1に示すように、この製造装置10は、送り装置(送り機構)11と、支持装置(支持手段)12と、加熱装置13と、冷却装置14と、せん断力付与装置15と、制御装置16とを備える。
(1)送り装置11
送り装置11は、
図1に示すように、支持装置12により支持された中空素材Pmを、所定の送り速度でその長手方向(矢印Fに沿った紙面左手方向)へ送る。送り装置11は、電動サーボシリンダーを用いたタイプが例示されるが、特定型式のものに限らず、ボールネジを用いたタイプやタイミングベルトやチェーンを用いたタイプ等も採用できる。
中空素材Pmは、支持装置12が設置された部分が第1の位置Aを通過した後、送り装置11によってさらに矢印F方向へ送られる。
【0024】
(2)支持装置12
支持装置12は、複数組(
図1の例では2組)のロール12a,12bを備える。一組のロール12aは、これらの間に中空素材Pmを挟み込んで支持する。同様に、一組のロール12bも、これらの間に中空素材Pmを挟み込んで支持する。一組のロール12bの下流位置に他の一組のロール12aが隣接配置されている。これらロール12a,12bにより、中空素材Pmは第1の位置Aにおいて支持される。
なお、支持装置12としては、中空素材Pmをその送り方向Fに沿って送れるように支持できればよく、その他の構成の支持装置を採用してもよい。例えば、支持装置12を、ロール12a,12bを備えずに摺動支持する構成としてもよい。
支持装置12は、図示されない搭載台上に固定配置されている。しかし、この態様に限定されるものではなく、例えば、支持装置12を産業用ロボットのエンドエフェクター(図示略)によって支持してもよい。
また、ロール12a,12bを回動させることにより、中空素材Pmを送る送り機能を支持装置12に持たせ、そして送り装置11を省略してもよい。この場合、中空素材Pmをその長手方向に移動せしめる送り機構と、中空素材Pmを支持する支持手段とを、支持装置12が兼ねることになる。
【0025】
(3)加熱装置13
加熱装置13は、第1の位置Aより、中空素材Pmの送り方向Fの下流にある第2の位置Bで加熱を行うように配置されている。加熱装置13は、支持装置12を経て送られてくる中空素材Pmの長手方向の一部分における横断面の全周を加熱する。加熱装置13として誘導加熱装置を用いる。この誘導加熱装置は、中空素材Pmを高周波誘導加熱する加熱コイル13aを有する。
加熱装置13の加熱コイル13aは、中空素材Pmの外表面から所定の間隔を空けて、中空素材Pmの長手方向の一部における横断面の全周囲を囲むように配置される。中空素材Pmは、その被加熱部Hにおいて、加熱装置13により部分的に急速加熱される。被加熱部Hにおける最高到達温度の位置は、加熱コイル13aの下流側端面の位置よりも若干下流側にあり、後述する冷却装置14からの冷却水のかけ方等の諸条件により、多少、上流側または下流側に移動する。そのため、被加熱部Hにおける最高到達温度の位置に対応する基準位置として、加熱コイル13aの最下流端位置P1を用いる。この最下流端位置P1は、加熱コイル13aの外形を中心軸線CLに沿って見たときの、送り方向Fにおける最も下流側の位置である。
加熱装置13の設置手段(不図示)は、加熱コイル13aを第2の位置Bにおいて傾斜角度調整自在に配置可能としてもよい。すなわち、加熱装置13の前記設置手段は、加熱コイル13aを、中空素材Pmの送り方向Fに対して設定した角度に傾斜させる回転手段(不図示)を備えてもよい。
【0026】
加熱装置13の加熱コイル13aの断面形状は、中空素材Pmが丸管である場合、円形状であることが好ましい。具体的には、中空素材Pmの長手方向に沿った中心軸線CLに沿って対向視したときの加熱コイル13aの形状が、中空素材Pmの外周面に対して均一のクリアランスを有する同心円形状となることが好ましい。一方、中空素材Pmが矩形を含む異形断面形状である場合、中空素材Pmの中心軸線CLに沿って対向視したときの加熱コイル13aの形状が、中空素材Pmの外周面に対して加熱に適したクリアランスを有する形状であることが好ましい。なお、中心軸線CLは、支持装置12の位置における中空素材Pmの中心軸線である。
【0027】
加熱装置13の設置手段としては、例えば周知慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、他の設置手段も採用できる。単腕ロボットあるいはアームとモータなどを有する既成の装置も採用可能である。
【0028】
(4)冷却装置14
本実施形態の冷却装置14は、各ノズル孔から噴射される冷却水の噴射方向が特に特徴的となっており、その詳細については
図2以降を参照しながら後述する。その前に、冷却装置14の概略構成を先に説明しておく。
この冷却装置14は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第2の位置Bよりも下流にある第3の位置Cで中空素材Pmを冷却する。冷却装置14は、中空素材Pmのうち、第2の位置Bで加熱された部分の下流側に位置する部分を急速に冷却する。この冷却により、中空素材Pmにおいて、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間が、高温であって変形抵抗が大幅に低下した変形域となる。
【0029】
中空素材Pmにおいて加熱装置13により加熱された被加熱部Hのうち、その下流側に位置する部分は、冷却装置14から噴射された冷却水により急速に冷却される。この冷却により、中空素材Pmの屈曲部または全部の強度を、例えば1500MPa以上の引張強度に高めることも可能である。
【0030】
冷却装置14の設置手段は、冷却装置14を第3の位置Cに配置できる手段であればよく、特定の設置手段に限定されない。本実施形態の製造装置10により高い寸法精度を有する中空屈曲部材Ppを製造するためには、第2の位置B及び第3の位置C間の距離をできる限り短く設定することによって、加熱装置13により加熱する被加熱部Hと、冷却装置14により冷却する被冷却部との間の領域をできるだけ小さく設定することが望ましい。このためには、冷却水噴射ノズル14aを加熱コイル13aに近接配置することが望ましい。よって、冷却水噴射ノズル14aを加熱コイル13aの直後の位置に配置することが望ましい。さらには、加熱装置13の設置手段に対し、冷却装置14を固定してもよい。この場合、冷却水噴射ノズル14aと加熱コイル13aとの相対位置関係を保ったまま、これら冷却水噴射ノズル14a及び加熱コイル13aの双方を同じ傾斜角度で傾斜させることも可能になる。
【0031】
冷却装置14の設置手段を、前記加熱装置13の設置手段とは別に備えてもよい。この場合、冷却装置14の設置手段(不図示)は、冷却水噴射ノズル14aを第3の位置Cにおいて傾斜角度調整自在に配置できる。すなわち、冷却装置14の前記設置手段は、冷却装置14を、中空素材Pmの送り方向Fに対して設定した角度に傾斜させることができる。
冷却装置14の設置手段としては、慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、他の設置手段も採用できる。単腕ロボットあるいはアームとモータなどの回転手段等を有する既成の装置も採用可能である。
また、
図1に示す冷却水噴射ノズル14aを一次冷却装置とし、さらにその下流側に二時冷却装置を装備してもよい。中空素材Pmの送り速度が低速である場合や中空素材Pmの質量が小さな場合には、二次冷却装置を備えずに一次冷却装置のみで冷却を行うようにしてもよい。
【0032】
(5)せん断力付与装置15
せん断力付与装置15は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流に配置される。せん断力付与装置15は、中空素材Pmの長手方向の途中位置を把持し、この把持位置を二次元方向または三次元方向に移動させる。具体的には、せん断力付与装置15における中空素材Pmの把持位置を、中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。これにより、せん断力付与装置15は、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域の少なくとも一部に、せん断力を与えて中空素材Pmにせん断曲げ加工を行う。
【0033】
図1に示すように、せん断力付与装置15は、アーム15Aと、図示されない基台とを有する。
アーム15Aは、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dにおいて中空素材Pmを把持する把持手段15a,15bと、把持手段15a,15bを支持してその位置を二次元方向または三次元方向に移動させる腕部15cとを有する。腕部15cは、前記基台により支持されている。把持手段15a,15bは、互いに接近することによってその間に中空素材Pmを把持する。一方、把持手段15a,15bは、互いに離間することによって中空素材Pmの把持を解除する。
【0034】
中空素材Pmの長手方向の一部における横断面は、加熱装置13により加熱されて変形抵抗が大幅に低下する。このため、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dにおいて一対の把持手段15a,15bの位置を二次元方向または三次元方向に移動させることによって、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域にせん断力を与えることができる。
中空素材Pmにせん断力が作用することにより、その長手方向途中位置が
図1に示されるように屈曲する。本実施形態では、特許文献1により開示された発明のように中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを与えるのではなく、せん断力を与えている。このため、曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいはそれ以下の極めて小さい曲げ半径の屈曲部位を持つ中空屈曲部品を製造することができる。
【0035】
(6)制御装置16
制御装置16は、上述した送り装置11、支持装置12、加熱装置13、冷却装置14、せん断力付与装置15の各種動作を制御する。なお、支持装置12として動作制御を要しない摺動タイプなどを用いる場合には、制御対象から支持装置12が除外される。
制御装置16は、送り装置11に指示を与えることで、中空素材Pmの送り量及び送り速度を制御する。一方、送り装置11を省略して送り機能を支持装置12に持たせる場合には、制御装置16から支持装置12に指示を与えることで、ロール12a,12bの回転量及び回転速度を制御する。これにより、中空素材Pmの送り量及び送り速度が制御される。
制御装置16は、加熱コイル13aに流す電源出力を制御することで、被加熱部Hの温度を制御する。制御装置16は、必要に応じて、加熱コイル13aを中空素材Pmに対して傾斜させるように制御してもよい。
制御装置16は、冷却水噴射ノズル14aに供給する冷却水の供給圧あるいは供給流量を制御することで、被冷却部の温度を制御する。制御装置16は、必要に応じて、冷却水噴射ノズル14aを中空素材Pmに対して傾斜させるように制御してもよい。
制御装置16は、腕部15cを制御することで、把持手段15a,15bの位置及び傾きを制御する。また、制御装置16は、把持手段15a,15bの開閉動作(把持状態及び把持解除状態)を制御する。
以上は、制御装置16の一例であり、同一の中空屈曲部品Ppを大量生産する場合には、前記制御量をあらかじめ決められたパターンに設定しておくことも可能である。
【0036】
[冷却装置の詳細]
図2~
図5を参照しながら、冷却装置14の詳細を以下に説明する。なお、以降の説明で、中空素材Pmを
図2(b)の断面図で見た場合の紙面左右方向を幅方向、紙面上下方向を高さ方向と呼ぶ場合がある。また、幅方向について、第3の位置D3で中空素材Pmの送り方向Fに沿って上流側から下流側を見たときの左向きを左方向、右向きを右方向と呼ぶ場合がある。
冷却装置14の冷却水噴射ノズル14aは、
図2(a),(b)に示すように、正面視で正方形の四角枠形状をなしている。冷却水噴射ノズル14aは、
図2(b)に示す正面視での外径寸法(幅寸法、高さ寸法)に比べて、
図2(a)に示す縦断面視での幅寸法(送り方向Fに沿った寸法)が小さくなっている。
冷却水噴射ノズル14aには、中空素材Pmが同軸に挿通する内部空間が形成されている。このこの内部空間は、互いに対向する左内壁14a1及び右内壁14a2と、互いに対向する上内壁14a3及び下内壁14a4とによって区画された四角形状を有する。左内壁14a1、右内壁14a2、上内壁14a3、下内壁14a4のそれぞれには、複数本のノズル孔が形成されている。
【0037】
すなわち、上内壁14a3においては、
図2(b)に示すように、複数のノズル孔が幅方向に沿って並んでおり、列を形成している。各ノズル孔は、上内壁14a3の幅方向における中央部に形成されている。そして、
図2(a)に示すように、中心軸線CLを含む縦断面で見た場合、送り方向Fに沿ってノズル孔の列が複数並んでいる。よって、上内壁14a3をその下方より対向視した場合、中空素材Pmの幅方向及び送り方向Fのそれぞれに沿って複数のノズル孔が互いに等間隔を置いて形成されている。
同様に、下内壁14a4においても、
図2(b)に示すように、複数のノズル孔が幅方向に沿って並んでおり、列を形成している。各ノズル孔は、下内壁14a4の幅方向における中央部に形成されている。そして、
図2(a)に示すように、中心軸線CLを含む縦断面で見た場合、送り方向Fに沿ってノズル孔の列が複数並んでいる。よって、下内壁14a4をその上方より対向視した場合、中空素材Pmの幅方向及び送り方向Fのそれぞれに沿って複数のノズル孔が互いに等間隔を置いて形成されている。
【0038】
また、左内壁14a1においては、
図2(b)に示すように、複数のノズル孔が高さ方向に沿って並んでおり、列を形成している。各ノズル孔は、左内壁14a1の高さ方向における上部に形成されている。そして、左内壁14a1を対向視した場合、送り方向Fに沿ってノズル孔の列が複数並んでいる。すなわち、左内壁14a1を対向視した場合、高さ方向及び送り方向Fのそれぞれに沿って複数のノズル孔が互いに等間隔を置いて形成されている。
同様に、右内壁14a2においても、
図2(b)に示すように、複数のノズル孔が高さ方向に沿って並んでおり、列を形成している。各ノズル孔は、右内壁14a2の高さ方向における上部に形成されている。そして、右内壁14a2を対向視した場合、送り方向Fに沿ってノズル孔の列が複数並んでいる。すなわち、右内壁14a2を対向視した場合、高さ方向及び送り方向Fのそれぞれに沿って複数のノズル孔が互いに等間隔を置いて形成されている。
【0039】
上記各ノズル孔は、それぞれから噴射される冷却水の中心線である噴射中心線cが中空素材Pmの外周面に対して交差するように形成されている。ここで、「交差」とは、外周面に対して噴射中心線cが所定の角度(0度超の角度)を持って交わることを意味するものであり、外周面に対して噴射中心線cが0度(接線方向)で接する場合を除く。
第3の位置Dで長手方向に直交する断面である
図3(a)で見た場合、右内壁14a2に形成された全てのノズル孔の噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面のうちの右側面に対して下方向きに傾斜するように交差している。ここで、各噴射中心線cが中空素材Pmの左側面に対してなす角度をφとした場合、この角度φは90度未満であり、20度~85度の範囲内から適宜選択可能である。よって、右内壁14a2の各ノズル孔から噴射された冷却水は、中空素材Pmの右側面に対してその上方から下方斜めに進む角度φで吹き付けられる。
【0040】
一方、中空素材Pmを平断面視した場合は
図3(b)のようになり、上記各ノズル孔は、それぞれから噴射される冷却水の噴射中心線cが中空素材Pmの外周面に対して交差するように形成されている。すなわち、右内壁14a2に形成された全てのノズル孔の噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面のうちの右側面に対して若干下方向きに傾斜するように交差している。ここで、各噴射中心線cが中空素材Pmの左側面に対してなす角度をθとした場合、この角度θは90度以下であり、45度~90度の範囲内から適宜選択可能である。よって、右内壁14a2の各ノズル孔から噴射された冷却水は、中空素材Pmの右側面に対してその上流側から下流側に斜めに進む角度θで吹き付けられる。
【0041】
前記角度φと前記角度θの関係について、
図4を用いて説明する。
図4は、右内壁14a2にある一つのノズル孔hから中空素材Pmの右側面に吹き付けられる冷却水の噴射中心線cを示す斜視図である。そして、XY平面が中空素材Pmの右側面を意味し、XZ平面が送り方向Fに直交する断面(あるいは中空素材Pmの長手方向に直交する断面)を意味し、YZ平面が水平面(あるいはXZ平面及びXZ平面の両方に直交する面)を意味する。点Oは、ノズル孔hから中空素材Pmの右側面に対して垂直に下ろした交点を示す。
【0042】
この
図4に示すように、噴射中心線cをXZ平面に投影した線がX軸に対してなす角度が、前記角度φである。また、噴射中心線cをYZ平面に投影した線がY軸に対してなす角度が、前記角度θである。
一方、従来構造の冷却装置から冷却水を噴射する場合の噴射中心線を、符号ccを用いて示す。従来の噴射中心線ccは、本実施形態のノズル孔hよりも近い位置から中空素材Pmの右側面に吹き付けられる冷却水の中心線である。この噴射中心線ccは、X軸方向に傾斜しておらず、その吹き付け位置がY軸上でかつ本実施形態の噴射中心線cよりも下流側に位置している。そして、噴射中心線ccがY軸となす角度θcは、本実施形態の角度θよりも小さくなっている。逆に言うと、本実施形態の噴射中心線cは、そのYZ平面への投影線がY軸となす角度θが、従来の角度θcよりも大きくなっている。すなわち、従来の噴射中心線ccは、冷却水の逆流防止を目的として角度θcを意図的に小さく設定しているため、XY平面に対して寝かせるように近付けた状態になっている。これに対し、本実施形態の噴射中心線cは、角度θを大きく設定しているため、XY平面に対して起こした状態になっている。
【0043】
一方、XZ平面への投影線で見た場合、本実施形態の噴射中心線cは、従来の噴射中心線ccよりもX方向に吹き付け先を設定している分、角度φを意図的に小さくすることでXY平面に対して寝かせるように近付けた状態になっている。その結果、本実施形態の噴射中心線cは、従来の噴射中心線ccと略同じ長さを保ちながらもノズル孔hの位置をXY平面から離すことが可能となっている。つまり、従来のノズル孔hcの位置よりも中空素材Pmの右側面から離れた位置にノズル孔hを遠ざけることができ、その結果として冷却水噴射ノズル14aの右内壁14a2を中空素材Pmの右側面から遠ざけることが可能になっている。このように右内壁14a2から遠ざけることで、例えば中空素材Pmの右側面を凹面とする屈曲部を形成する場合に、右内壁14a2が中空素材Pmの右側面と干渉しにくくなる。また、右内壁14a2を中空素材Pmの右側面から遠ざけることで、右内壁14a2が中空素材Pmの右側面から受ける放射熱を低減することもできる。よって、冷却水噴射ノズル14aの健全性を高く維持し続けることもできる。
【0044】
また、本実施形態の噴射中心線cは従来の噴射中心線ccと比べて長さが殆ど変わらないため、中空素材Pmの右側面に対する冷却水の吹き付け力も同等にすることができる。よって、中空素材Pmとの干渉を避けながらも同等の冷却能力を確保している。
さらに言うと、右内壁14a2における変形域のY軸に沿った最上流端位置をhuとした場合、本実施形態の噴射中心線cは、従来の噴射中心線ccと比べて吹き付け先をY軸方向において最上流端位置huに近付けることができる。よって、変形域のY軸方向に沿った寸法を短くできるため、右内壁14a2に凹状の屈曲部を形成する際の皺の発生を抑制することが可能としている。よって、加工皺の少ない高品質な中空屈曲部品Ppを製造することができる。
【0045】
前記角度φと前記角度θの関係について、
図5を用いてさらに説明する。
図5(a)は、
図3(a)のE部拡大図である。また、
図5(b)は、
図3(b)のF部拡大図である。
図5(a)において、互いに上下方向に隣り合うノズル孔のうち、相対的に高い位置にあるノズル孔から噴射される冷却水の噴射中心線を符号ch、相対的に低い位置にあるノズル孔から噴射される冷却水の噴射中心線を符号clとする。
図5(a)の視線で見た場合、噴射中心線chに沿って噴射されて中空素材Pmの右側面を冷却しながら流れ落ちていく冷却水に対し、その隣の噴射中心線clに沿って噴射されて中空素材Pmの右側面に向かう冷却水の行く手を遮っているように見えるが、実際は遮ってはいない。すなわち、噴射中心線chの冷却水は、中空素材Pmの右側面において紙面手前側に向かって流れ落ちていくため、その奥側を流れる噴射中心線clの冷却水と干渉することがない。
【0046】
さらに、
図5(b)において、送り方向Fに沿って互いに隣り合うノズル孔のうち、相対的に上流側の位置にあるノズル孔から噴射される冷却水の噴射中心線を符号cu、相対的に下流側の位置にあるノズル孔から噴射される冷却水の噴射中心線を符号cdとする。
図5(b)の視線で見た場合、噴射中心線cu,cdの双方とも角度θが大きいため、送り方向Fに向かう力成分が小さく、やはり、噴射中心線cuに沿って流れる冷却水と噴射中心線cdに沿って流れる冷却水とが互いに干渉し合うことがない。
以上説明のように、冷却水噴射ノズル14aでは、右内壁14a2の各ノズル孔から流れる冷却水同士が互いに干渉して冷却効率を下げる虞を抑制可能としている。なお、以上の説明は右内壁14a2について説明したものであるが、左内壁14a1についても同様の作用効果が得られる。すなわち、左内壁14a1の各ノズル孔は、
図2(b)に示すように冷却水の噴射方向が右内壁14a2に対して左右対称ではあるものの、それらの構成、作用、そして効果については右内壁14a2の各ノズル孔と同様であるため、
図2~
図5に関するそれらの重複説明を省略する。
【0047】
また、本実施形態では
図1の平面図に示したように水平方向にせん断曲げ加工して屈曲部を形成する形態としたため、冷却水噴射ノズル14aと干渉に関する問題が生じやすい左内壁14a1及び右内壁14a2について、第3の位置Dで前記長手方向に直交する断面において、各噴射中心線cを中空素材Pmの外周面に対して傾斜するように交差させる構成としている。一方、中空素材Pmは上下方向にせん断曲げ加工しないため、干渉の可能性が低い上内壁14a3、下内壁14a4については、
図2(b)に示すように従来構造のノズル孔を採用してもよい。
【0048】
[冷却装置の変形例]
中空素材Pmをその長手方向に垂直な断面で見て、例えばその四方から冷却水を吹き付ける場合、
図6(a)~(d)に示す構成が考えられる。
まず、
図6(a)では、左内壁14a1及び右内壁14a2の各ノズルから噴射する冷却水の向きを、
図2(b)とは逆である下から上に向かって斜めに向けている。この形態においても、中空素材Pmの右側面及び左側面に対して各噴射中心線cが斜めに交差するように冷却水を噴射している。一方、
図2(b)の形態と同様に、上内壁14a3、下内壁14a4については従来構造のノズル孔を採用している。
続く
図6(b)は、
図2(b)と同じ構成である。すなわち、左内壁14a1及び右内壁14a2の各ノズルから噴射する冷却水の向きを、上から下に向かって斜めに向けている。これにより、中空素材Pmの右側面及び左側面に対して各噴射中心線cが斜めに交差するように冷却水を噴射している。一方、上内壁14a3及び下内壁14a4については、従来構造のノズル孔を採用している。
【0049】
続く
図6(c)では、左内壁14a1の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを下から上向きとする一方、右内壁14a2の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを上から下向きとしている。すなわち、左内壁14a1及び右内壁14a2間で冷却水の噴射方向を上下逆にしている。さらに、上内壁14a3の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを紙面右から紙面左向きとする一方、下内壁14a4の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを紙面左から紙面右向きとしている。よって、中空素材Pmの外周面の全面において紙面左回りに冷却水が吹き付けられている。その結果、
図6(c)では、中空素材Pmの全外周面に対して各噴射中心線cが斜めに交差するように冷却水を噴射している。
【0050】
続く
図6(d)は、左内壁14a1及び右内壁14a2の各ノズルから噴射する冷却水の向きを、
図6(b)と同様に上から下に向かって斜めに向けている。これにより、中空素材Pmの右側面及び左側面に対して各噴射中心線cが斜めに交差するように冷却水を噴射している。一方、上内壁14a3及び下内壁14a4については、
図6(c)と同様に、上内壁14a3の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを紙面右から紙面左向きとする一方、下内壁14a4の各ノズル孔から噴射する冷却水の向きを紙面左から紙面右向きとしている。これにより、中空素材Pmの上面及び下面に対して各噴射中心線cが斜めに交差するように冷却水を噴射している。
【0051】
なお、
図6(a)~(d)においては、矩形断面を持つ中空素材Pmをせん断曲げ加工する場合について説明したが、この形態のみに限らず、
図6(e)に示すように円形断面を持つ中空素材Pmに対して冷却水噴射ノズル14aを適用してもよい。
図6(e)では、
図6(b)と同じ冷却水噴射ノズル14aを適用した場合を図示している。なお、同じく円形断面を持つ中空素材Pmを、従来構造の冷却装置により冷却する場合の一例を
図6(f)に示す。同図に示すように、各噴射中心線cは、中空素材Pmの外周面に対して傾斜することなく直角に吹き付けられている。より具体的には、
図4において説明した噴射中心線ccと同様のノズル孔を中空素材Pmの周囲に等角度間隔で配置するものであるが、当然ながら、この構成では、噴射中心線cを傾斜させることにより得られる上述の作用効果が得られない。これは
図6(g)に示す矩形断面を持つ中空素材Pmに適用する場合も同様である。
図6(g)に示すこの従来例では、中空素材Pmをその長手方向に垂直な断面で見たときに、冷却水を中空素材Pmの外周面に対して垂直に吹き付けている。しかし、この構成も、噴射中心線cを傾斜させることにより得られる上述の作用効果が得られない。
これら従来例に対し、
図6(a)~(e)に示した形態では、
図4を用いて説明した作用効果を得ることが可能であり、冷却水噴射ノズル14aと中空素材Pm間の干渉を確実に回避可能としている。
【0052】
また、上記実施形態及び
図6の変形例では、冷却水噴射ノズル14aの中心線が、第3の位置Dにおける中空素材Pmの中心軸線CLと一致させて固定する場合について説明したが、この構成のみに限られない。例えば
図7に示すように、冷却水噴射ノズル14aの中心線を、第3の位置Dにおける中空素材Pmの中心軸線CLに対して平面視あるいは側面視で交差するように傾動させてもよい。この傾動角度は、上述したように制御装置16で制御してもよい。この場合、
図7(a)に示す直管焼き入れでは中心軸線CLに対して傾斜した被加熱部Hが形成される。同様に、
図7(b)に示すせん断曲げ加工時においても、屈曲部に応じて傾斜した被加熱部Hを形成することができる。
【0053】
[中空屈曲部材の製造方法]
続いて、上記製造装置10を用いて中空素材Pmより中空屈曲部材Ppを製造する方法について、再び
図1等を参照しながら以下に説明する。なお、本実施形態の冷却方法は、製造方法の一工程として含まれている。
【0054】
まず、金属製の真直な中空管である中空素材Pmを製造装置10にセットする。すなわち、第1の位置Aで中空素材Pmを支持装置12により支持し、中空素材Pmの後端側を送り装置11にセットし、そして中空素材Pmの先端側を把持手段15a,15bで把持する。
この時、第1の位置Aより下流の第2の位置Bに加熱装置13の加熱コイル13aを配置させ、第2の位置Bより下流の第3の位置Cに冷却装置14の冷却水噴射ノズル14aを配置させる。また、加熱コイル13a及び冷却水噴射ノズル14aは、それぞれ、側面視及び平面視の双方において中心軸線CLに直交した状態に配置される。
上記設定のもと、加熱装置13による中空素材Pmの加熱を開始する。
【0055】
すなわち、中空素材Pmを第1の位置Aで支持しながら中空素材Pmの長手方向である送り方向Fへ送りつつ(送り工程)、第2の位置Bで中空素材Pmを部分的に加熱して被加熱部Hを形成し(加熱工程)、第3の位置Cで被加熱部Hの下流側に位置する中空素材Pmの一部を冷却する(冷却工程)。この時、把持手段15a,15bは、中空素材Pmの送り速度に同調して送り方向Fに向かって移動する。そのため、中空素材Pmは、せん断曲げや通常曲げを受けることなく、送り方向Fに向かって送られながら直管のまま焼き入れされる。
【0056】
続いて、せん断曲げ加工を行う位置に中空素材Pmが至った時点で、把持手段15a,15bによる把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させてせん断曲げ加工を行い、中空素材Pmに屈曲部を形成する(曲げ工程)。具体的には、前記把持位置を、中空素材Pmの中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。この時のせん断曲げ加工箇所は、冷却水噴射ノズル14aからの冷却水で冷却されるため、焼き入れも同時に行われている。
【0057】
この冷却工程を行う際、本実施形態の冷却方法では、第3の位置Cで前記長手方向に直交する断面(
図3(a))において、右内壁14a2にある各ノズル孔の噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面のうちの右側面に対し傾斜して交差するように、冷却水を噴射する。このように噴射中心線cが傾斜しているノズル孔から噴射された冷却水は、中空素材Pmの右側面に対して斜めに吹き付けられ、前記右側面を冷却した後、上流側への逆流や他のノズル孔から噴射された冷却水との干渉を生じることなく、そのまま下方に向けて排出される。このようにして、中空素材Pmの曲げ外側となる右側面が冷却される。同時に、中空素材Pmの曲げ内側となる左側面も右側面と同様に冷却される。加えて、中空素材Pmの各面うち、曲げ方向ではない上面及び下面については干渉の問題が生じにくいため、
図2(b)に示した通り、従来通りの冷却が行われる。
【0058】
せん断曲げ加工が終了した後、把持手段15a,15bを、中空素材Pmを把持したままその位置を送り装置11の送り動作と同期させながら送り方向Fに向かって移動させる。これにより、中空素材Pmのうちでせん断曲げ加工を加えた箇所よりも上流側の範囲に焼き入れを行う。
中空素材Pmの焼き入れが最後まで終了したら、加熱コイル13aによる加熱を停止させ、加工済みの中空屈曲部品Ppを製造装置10から外して払い下げる。
以上に説明のように、送り工程、加熱工程、冷却工程、及び曲げ工程を含む一連の工程により、中空屈曲部品Ppが製造される。
【0059】
[冷却装置及び冷却方法の技術的効果]
以上に、本実施形態の冷却装置14及びこの冷却装置14を用いた冷却方法を説明した。続いて以下に、より理解を深めるためにまず
図8,9を用いて従来の冷却装置の問題を説明し、その後に再び本実施形態の冷却装置14及び冷却方法の技術的効果について纏める。
【0060】
図8(a),(b)に示す従来技術では、冷却装置として一次冷却装置14A及び二次冷却装置14Bを備えた構成となっている。
図示されない送り装置により送られてきた中空素材Pmは、加熱装置13に備わる加熱コイル13aでまず急速加熱され、その直後に一次冷却装置14Aにより冷却され、さらにその後の二次冷却装置14Bにより冷却される。ここで、加熱コイル13aによる加熱と、一次冷却装置14Aによる冷却とによって形成される、中空素材Pmの長手方向に沿った温度分布により、被加熱部Hの加熱幅が決定される。なお、一次冷却は、中空素材Pmのうちの加熱された部分を加熱直後に冷却するものであり、中空素材Pmの外周面における冷却水の吹き付け位置により、変形域の終端位置が決定される。一方、二次冷却は、一次冷却で低下した材料温度をさらに低下させ、中空素材Pmの壁温の再上昇(復熱)を防ぐとともに、焼き入れなど熱処理のために必要な処理である。二次冷却装置14Bのノズルは、中空素材Pmのうち、一次冷却により既に冷却を受けた後の外周面に面するものであるため、外周面から受ける放射熱は小さい。一方、一次冷却装置14Aのノズルは、比較的高温の外周面に面する関係上、外周面から受ける放射熱は大きい。よって、一次冷却装置14Aでは、ノズルが受ける放射熱の影響を考慮した特段の配慮が必要である。なお、中空素材Pmの質量(熱容量)が小さい場合や生産速度(中空素材Pmの送り速度)が低い場合には、二次冷却装置14Bを省略する場合もある。
図8(b)に示すこの従来例では、中空素材Pmをその長手方向に垂直な断面で見たときに、冷却水を中空素材Pmの外周面に対して垂直に吹き付けている。しかし、この構成では、幅広い製品態様に対応出来てかつ生産速度を上げるためには、放射熱の考慮など、上述した課題を解決する必要があった。
【0061】
さらに、他の従来技術に係る冷却装置14Cを
図9に示す。
図9(a)は、この一次冷却装置14Cをその下流側から対向視したものであり、中空素材Pmの周囲に並ぶようにノズル孔が複数形成されている。そして、
図9(b),(c)に示すように、冷却水は、送り方向Fに対して入射角θで噴射される。
図9(b),(c)に示す様に、冷却装置14Cに備わるノズルの第一の噴射孔から噴射された冷却水は、中空素材Pmの送り方向に沿った下流側に向かって流れる。中空素材Pmの被加熱部Hの外周面に接した冷却水は、外周面の表面温度を低下させるが、核沸騰から膜沸騰に移行し、その冷却能力が急激に低下する。効率の良い冷却を行うためには、第一の噴射孔に隣接する第二の噴射孔から噴射された冷却水が、第一の噴射孔から噴射された冷却水により形成された沸騰膜を破り、中空素材Pmの外周面に直接接触しなければならない。
【0062】
したがって、第二の噴射孔から噴射される冷却水には、第一の噴射孔から噴射されて外周面上を下流方向に流れる冷却水の沸騰厚を突き破るだけの圧力が必要である。図示しないが、第三の噴射孔、第四の噴射孔、・・・のそれぞれから噴射される冷却水も同様な状況となる。したがって、下流に向かうほど、外周面に沿って下流側に流れる水膜が厚くなる。そして、各噴射孔から噴射された冷却水はこの厚い水膜を破って外周面に至ることで、中空素材Pmを冷却しなくてはならない。そのため、高圧で大量の冷却水が必要となる。この問題は、通常曲げ加工及びせん断曲げ加工の何れを行う場合においても同様である。
【0063】
従来の冷却方法においては、冷却水の入射角θを大きくすると、衝突圧力が高まって高い冷却能力を得ることができる。しかし、冷却水の入射角θを大きくすると、外周面に当たった冷却水が中空素材Pmの進行方向とは逆方向に流れやすくなる。このような逆流が発生すると、冷却水の着水位置付近の温度分布が、中空素材Pmの周方向あるいは長手方向において一定でなくなる。この場合、得られる中空屈曲部品Ppの機械的性質が均一でなくなったり、形状が不均一になったりするため、冷却水の逆流を避けることが必要である。
【0064】
一方、従来の冷却方法においては、皺のない中空屈曲部品Ppを得るためには、加熱幅を小さくすることが有効である。また、せん断曲げ加工においても、均一な成形を確保するためには、加熱幅を小さくすることが有効である。すなわち、従来法においては、
図9(b)の距離L1をできるだけ小さくすることが必要である。しかしながら、距離L1を小さくするためには、同図に示す距離L0及び距離L2を小さくする必要がある。しかし、冷却装置における冷却水の噴射孔の加工上及び構造上の制約から、距離L0を小さくすることは容易ではない。また、角度θを大きくすることは逆流抑制の観点から制約がある。一方、中空素材Pmの外周面とノズルとの距離L2を小さくすると、曲げ変形時における中空素材Pmの曲げ内周面がノズルに干渉する虞がある。
【0065】
以上説明のように、従来の冷却装置では、中空素材Pmとの干渉、中空素材Pmの被加熱部Hからの放射熱への熱対策、中空素材Pmを屈曲させる際の皺の発生防止等々、様々な課題が生じていた。これに対し、本実施形態の冷却装置14は以下の構成を採用することによって課題を解決可能としている。
(1)すなわち、本実施形態の冷却装置14は、金属製の中空素材Pmをその長手方向に沿って第1の位置Aで支持しながら送る送り装置(送り機構)11と、第1の位置Aよりも下流の第2の位置Bで中空素材Pmを加熱する加熱コイル13aと、第2の位置Bよりも下流の第3の位置Cで中空素材Pmに冷却水(冷却媒体)を噴射する複数のノズル孔を有する冷却水噴射ノズル14aを備えた冷却装置14と、中空素材Pmを、第3の位置Cよりも下流の第4の位置Dで把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて中空素材Pmに屈曲部を形成するせん断力付与装置(屈曲加工部)15と、を備える中空屈曲部品の製造装置10に用いられる。そして、この冷却装置14は、第3の位置Cで前記長手方向に直交する断面において、各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面に対して傾斜するように交差している。
【0066】
上記(1)に記載の冷却装置14によれば、噴射中心線cが傾斜しているノズル孔から噴射された冷却水は、中空素材Pmの外周面に対して斜めに吹き付けられる。ここで、このノズル孔を第1噴射孔とし、第1噴射孔よりも外周面に対する吹き付け位置が下流側であるノズル孔を第2噴射孔とし、そして第3の位置Cで長手方向に直交する断面において見た場合を説明する。本構成では、第1噴射孔の噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面に対して傾斜するように交差している。すなわち、この傾斜の角度をφとした場合、角度φを90度よりも小さくして第1噴射孔の噴射中心線cを外周面に近付けて寝かせている。これにより、第1噴射孔から噴射される冷却水は、第2噴射孔から噴射される冷却水やさらにはその下流に対して他の噴射孔から吹き付けられる他の冷却水との干渉を回避できる。このように冷却水間の干渉を回避できるので、第1噴射孔から噴出された冷却水が送り方向の上流側へ逆流し難くなる。よって、今度は第3の位置Cにおいて中空素材Pmの中心軸線CLを含む断面で見た場合、中空素材Pmの外周面に対して第1噴射孔の噴射中心線がなす角度θを大きくとり、噴射中心線cを従来のように寝かせることなく立たせることができる。このように角度θを大きくとることで、第1噴射孔の位置を中空素材Pmの外周面から遠ざけて配置しても、第1噴射孔から噴射する冷却水の吹き付け位置を、送り方向において上流側に移動させて被加熱部Hに近付けられる。その結果、被加熱部Hの送り方向に沿った寸法を短くして屈曲部における皺の発生を防止できると共に、冷却装置14が中空素材Pmと干渉することも防止できる。
【0067】
(2)さらに、上記(1)に記載の冷却装置14において、前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、前記噴射中心線が傾斜するように交差していてもよい。
上記(2)に記載の冷却装置14の場合、曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却水は、中空素材Pmの略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、従来構造であれば、曲げ内側面は冷却装置との干渉を起こしやすい。しかし、本冷却装置14では、上述した理由により、曲げ内側面とノズル孔との間におけるクリアランスを従来構造のものよりも大きく確保出来るので、これらの間における干渉を確実に避けることができる。
【0068】
(3)上記(2)に記載の冷却装置14において、せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、噴射中心線cが傾斜するように交差していてもよい。
上記(3)に記載の冷却装置14の場合、せん断曲げ加工により形成された曲げ内側面に対して吹き付けられた冷却水は、中空素材Pmの略幅方向に向かいながら曲げ内側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して前記略幅方向に排出される。ここで、せん断曲げ加工の場合は通常曲げ加工の場合よりも急角度で中空素材Pmが屈曲されるため、ノズル孔との干渉が生じやすい。しかし、本冷却装置14では、上述した理由により、せん断曲げ加工であっても、曲げ内側面と冷却装置14との間における干渉を確実に避けることができる。
【0069】
(4)後述の
図10(a)に例示するように、上記(2)又は上記(3)に記載の冷却装置14において、前記曲げ内側面が、中空素材Pmの一対の外側面のうちの一方であり、中空素材Pmを第3の位置Cにおいて前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、噴射中心線cが斜め下方に向かって交差するように構成してもよい。
上記(4)に記載の冷却装置14の場合、曲げ内側面である外側面に対して吹き付けられた冷却水は、外側面に当たってこれを冷却した後、直ちに離脱して下方に向かって排出される。このときの冷却水は、重力によって下向きの力を受けるので、より確実に排出される。
【0070】
(5)後述の
図10(c)に例示するように、上記(2)又は上記(3)に記載の冷却装置14において、前記曲げ内側面が、前記中空素材の上面であり、中空素材Pmを第3の位置Cにおいて前記断面で見て、前記上面に対し、噴射中心線cが斜めに交差するように構成してもよい。
上記(5)に記載の冷却装置14の場合、曲げ内側面である上面に対して吹き付けられた冷却水は、上面に当たってこれを冷却した後、直ちに上面の側方に離脱してから重力により下方に向かって排出される。よって、この形態においても、冷却水をより確実に排出できる。
【0071】
(6)本実施形態の冷却方法は、金属製の中空素材Pmをその長手方向に沿って第1の位置Aで支持しながら送る送り工程と、第1の位置Aよりも下流の第2の位置Bで中空素材Pmを加熱する加熱工程と、第2の位置Bよりも下流の第3の位置Cで中空素材Pmに向かって複数のノズル孔から冷却水を噴射する冷却工程と、第3の位置Cよりも下流の第4の位置Dで中空素材Pmを把持し、把持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させて中空素材Pmに屈曲部を形成する曲げ工程と、を有する中空屈曲部品の製造方法における前記冷却工程で用いられる。そして、この冷却方法では、第3の位置Cで前記長手方向に直交する断面において、各ノズル孔のうちの少なくとも一つの噴射中心線cが、中空素材Pmの外周面に対し傾斜して交差するように、冷却水を噴射する。
上記(6)に記載の冷却方法によれば、上記(1)に記載の冷却装置14と同じ作用効果を得ることが出来る。
【0072】
(7)上記(6)に記載の冷却方法において、前記外周面である前記屈曲部の曲げ内側面に対し、噴射中心線cが傾斜して交差するように、冷却水を噴射してもよい。
上記(7)に記載の冷却方法によれば、上記(2)に記載の冷却装置14と同じ作用効果を得ることが出来る。
【0073】
(8)上記(7)に記載の冷却方法において、せん断曲げ加工により形成された前記屈曲部の前記曲げ内側面に対し、噴射中心線cを傾斜して交差させるように、冷却媒体cを噴射してもよい。
上記(8)に記載の冷却方法によれば、上記(3)に記載の冷却装置14と同じ作用効果を得ることが出来る。
【0074】
(9)
図10(a)に例示したように、上記(7)又は上記(8)に記載の冷却方法において、前記曲げ内側面が、中空素材Pmの一対の外側面のうちの一方であり、中空素材Pmを第3の位置Cにおいて前記断面で見て、前記一方の外側面に対し、噴射中心線cを斜め下方に向かって交差させるように、冷却水を噴射してもよい。
上記(9)に記載の冷却方法によれば、上記(4)に記載の冷却装置14と同じ作用効果を得ることが出来る。
【0075】
(10)
図10(c)に例示したように、上記(7)又は上記(8)に記載の冷却方法において、前記曲げ内側面が、中空素材Pmの上面であり、中空素材Pmを第3の位置Cにおいて前記断面で見て、前記上面に対し、噴射中心線cを斜めに交差させるように、冷却水を噴射してもよい。
上記(10)に記載の冷却方法によれば、上記(5)に記載の冷却装置14と同じ作用効果を得ることが出来る。
【実施例0076】
[第1実施例]
図1に示したせん断曲げ加工装置10に二次冷却装置を装備した上で、ψ=45度のせん断曲げ焼入れを実施した。0.2%炭素鋼からなる高さ30mm、幅50mm、板厚1.0mmの中空素材Pmを用意し、せん断曲げ加工後の全長が1200mmとなる中空屈曲部品Ppを製造した。この製造の際、冷却水ノズルとして本発明構造を有するものと従来構造を有するものとのそれぞれを使い分けて比較した。最高加熱温度を950℃とし、同等の硬度が得られる冷却水量を調査した。ここで、冷却水量は一次冷却と二次冷却を含めたトータルの水量であり、従来法に対する比率を表1に示す。また、熱電対を中空素材Pmの内面に貼り付けてその温度を測定し、時間-温度チャートと中空素材Pmの送り速度とから、800℃以上となる領域の長手方向長さを加熱幅として算出した。
【0077】
【0078】
表1における発明例1,2は、曲げ方向を右方向として、曲げ内周側に対応する右面の冷却水ノズルに本発明構造を適用し、他の上下面および左面は従来のノズル構造を適用した。
発明例3は、曲げ方向を上方向として、曲げ内周側に対応する上面の冷却水ノズルに本発明構造を適用し、左右面および下面は従来のノズル構造を適用した。
また、発明例4は、曲げ方向を下方向として、曲げ内周側に対応する下面に冷却水ノズルに本発明構造を適用し、左右面および上面は従来のノズル構造を適用した。
さらに、発明例5は、曲げ方向を左右方向として、曲げ内周側に対応する左右面に冷却水ノズルに本発明構造を適用し、上下面は従来のノズル構造を適用した。
比較例1については、上下左右面に従来のノズル構造を適用した。
上記構成の下、それぞれについてせん断曲げを実施した。
【0079】
比較例1では、全ての曲げ方向において中空素材Pmと冷却装置との間における接触が発生し、曲げ加工を中断した。一方、発明例1~5については、一次冷却装置の内周面と中空素材Pmの外周面との間におけるギャップ(
図9(b)に示した距離L2)を従来構造の2.5倍程度に設定できた。そのため、全ての製造条件で中空素材Pm及び冷却水ノズル間の接触が発生せず、良好な中空屈曲部品Ppが得られた。また、ギャップ(
図9(b)に示した距離L2)を大きくとることで、中空素材Pmからの放射熱の影響も大幅に低下でき、冷却水ノズルの耐久性も高まった。
さらに、発明例1~5においては、接触の危険がない曲げ方向以外にある従来ノズルにおいてはギャップ(
図9(b)に示した距離L2)を小さくすることが可能になり、加熱幅も比較例と比較して減少できた。
【0080】
発明例1,2間を比較すると、中空素材Pmの右側面に噴射された冷却水は、発明例1では下方に流れ排出されるため、冷却水の排出効率が高くなり、発明例2に比較して冷却水の水量の減少はやや大きかった。
同様に、発明例3,4間を比較すると、発明例3では冷却水が下方に流れて排出されるため、冷却水の排出効率が高くなり、発明例4に比較して冷却水の水量の減少はやや大きかった。
本発明例1~3は、全て冷却水量を大幅に減少することができた。さらに、左右曲げを実施する発明例5では、本発明構造を左右側面に配置するため、さらに、排出の効率が高くなり、冷却水量はさらに減少している。
【0081】
[第2実施例]
図11に示した熱間曲げ加工装置100を用いて焼入れを実施した。0.2%炭素鋼からなる高さ20mm、幅20mm、板厚1.2mmの中空素材Pmを用意し、曲げ加工後の全長が800mmとなる中空屈曲部品Ppを製造した。この製造の際、冷却水ノズルとして本発明構造を有するものと従来構造を有するものとのそれぞれを使い分けて比較した。評価方法は第1実施例と同様である。結果を下表2に示す。
【0082】
【0083】
発明例6,7では、上下左右4面の冷却水ノズルに本発明構造を適用した。曲げ方向は、上下方向および左右方向の4方向である。比較例2については、上下左右4面の冷却水ノズルに従来構造のノズルを適用し、発明例に対応する曲げ方向で曲げ加工を実施した。
発明例6,7では、一次冷却装置の内周面と中空素材Pmの外周面との間におけるギャップ(
図9(b)に示した距離L2)を、上下左右4面の冷却水ノズル全てにおいて従来構造の2.5倍程度に設定できた。そのため、中空素材Pmにおける加熱幅も比較例2と比較して大幅に小さくできた。また、距離L2を大きくとることで、冷却水ノズルが受ける放射熱の影響も大幅に低下でき、冷却水ノズルの耐久性も高まった。さらに、発明例6,7においては、冷却水が送り方向である下流方向には流れず、上下方向及び左右方向に排出され、大幅に冷却水排出効率が高くなった。その結果、発明例6,7では、比較例2に比べて、冷却に必要となる冷却水の大幅な減少が認められた。
【0084】
[第3実施例]
図1に示したせん断曲げ加工装置10を用いて、ψ=35度のせん断曲げ焼入れを実施した。0.2%炭素鋼からなる外径25.4mm、板厚1.2mmの円管である中空素材Pmを用意し、せん断曲げ加工後の全長が1200mmとなる中空屈曲部品Ppを製造した。その際、下表3に示す冷却方法を行いながら左右曲げ試験を行なった。評価方法は第1実施例と同様である。結果を下表3に示す。
【0085】
【0086】
比較例3では、
図6(f)に示した従来構造の冷却水ノズルを用いた。すなわち、比較例3の冷却パターンは、周方向に軸対称であり、長手方向入射角度θを40度、幅方向入射角度φを90度とした。
発明例8では、
図6(e)に示した本発明構造の冷却水ノズルを用いた。すなわち、上下面及び左右面における長手方向入射角度θと幅方向入射角度φのそれぞれを表3に示すように付与した。冷却水は、左右面の冷却水ノズルでは上方から下方に流れ、そのまま製品から離脱させた。
比較例3では、中空素材Pmと冷却水ノズルとの間で接触が発生したため、加工を中断した。一方、発明例8では、一次冷却装置の内周面と中空素材Pmの外周面との間におけるギャップ(
図9(b)に示した距離L2)を、従来構造の2倍程度に設定できた。そのため、中空素材Pmと冷却水ノズルとの間における接触が発生せず、良好な製品が得られた。また、距離L2を大きくとることで、冷却水ノズルが受ける放射熱の影響も大幅に低下でき、冷却水ノズルの耐久性も高まった。加えて、発明例8では、比較例3に比べて、冷却に必要となる冷却水の減少が認められた。
【0087】
[第4実施例]
本発明者らは、金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍、あるいは、それ以下の曲げ半径の曲げ部を有する高強度の製品を実用化可能なせん断曲げ加工に適用する冷却装置を、国際公開第2021/172242号で提案した。その内容を本発明構造に実際に組み合わせた一次冷却装置が
図7に示したものである。この装置構成では、本発明構造を適用することによって、一次冷却装置を小型化し、製品との接触を避けることができた。具体的には、この一次冷却装置を
図1に示したせん断曲げ加工装置10を用いて、ψ=90度のせん断曲げ焼入れを実施した。
0.2%炭素鋼からなる外径25.4mm、板厚1.2mmの円管である中空素材Pmを用意し、せん断曲げ加工後の全長が700mmとなる中空屈曲部品Ppを製造した。その際、下表4に示す冷却方法を行いながら試験を行なった。評価方法は第1実施例と同様である。結果を下表4に示す。
【0088】
【0089】
比較例4では、全ての曲げ方向において中空素材Pmと冷却水ノズルとの間で干渉が発生したため、加工を中断した。
一方、発明例9,10ではそのような干渉が生じることなく、良好な結果を得た。
【0090】
本発明に係る製造方法により製造される中空屈曲部材Ppは、例えば以下に例示する用途(i)~(vii)に対して適用可能である。
(i)例えば、フロントサイドメンバー、クロスメンバー、サイドメンバー、サスペンションメンバー、ルーフメンバー、Aピラーのレインフォース、Bピラーのレインフォース、バンパーのレインフォース等といった自動車車体の構造部材
(ii)例えば、シートフレーム、シートクロスメンバー等といった自動車の強度部材や補強部材
(iii)自動車の排気管等の排気系部品
(iv)自転車や自動二輪車のフレームやクランク
(v)電車等の車輛の補強部材、台車部品(台車枠、各種梁等)
(vi)船体等のフレーム部品、補強部材
(vii)家電製品の強度部材、補強部材または構造部材