(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140800
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】パイプライン管理システム及び及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
F17D 1/04 20060101AFI20230928BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20230928BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F17D1/04
C01B3/00 Z
C01B3/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046822
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 秀宏
(72)【発明者】
【氏名】水上 貴彰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晋士
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 良平
【テーマコード(参考)】
3J071
4G140
【Fターム(参考)】
3J071AA02
3J071CC02
3J071CC12
3J071EE02
3J071EE03
3J071EE06
3J071EE25
3J071FF01
4G140AB01
4G140FA04
4G140FB05
(57)【要約】
【課題】
ガス分離システムからのガスグリッドへの返送ガスの返送状態を適切に制御し、ガスグリッドとガス分離システムの劣化防止やガスグリッド内のガス濃度の偏在を低減すること。
【解決手段】
本発明のパイプライン管理システムは、上記課題を解決するために、ガスパイプラインに接続され、ガスが充填されている前記ガスパイプラインから前記ガスを抜き出し、前記ガスパイプラインへ前記ガスを返送するガス分離システムと、少なくとも前記ガスパイプラインの流体情報が入力されているパイプライン管理装置とを備え、前記パイプライン管理装置により、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは予め規定された範囲を超過する場合には返送不可とすることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが充填されているガスパイプラインから前記ガスを抜き出し、前記ガスパイプラインへ前記ガスを返送するガス分離システムが前記ガスパイプラインに接続されており、少なくとも前記ガスパイプラインの流体情報が入力されているパイプライン管理装置により、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは予め規定された範囲を超過する場合には返送不可とすることを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記パイプライン管理装置では、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内となるように前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記パイプライン管理装置では、前記ガスパイプライン内の流体情報と、需要家のガス利用拠点でのガス利用情報と、前記ガス分離システムの処理情報とを入力として、前記ガスパイプラインのガス流速と前記返送ガスのガス流速との比を算出することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガスパイプライン内の前記流体情報とは、前記ガスパイプライン内の任意の点の流速、流量、圧力、組成であり、
前記需要家の前記ガス利用拠点での前記ガス利用情報とは、前記ガス利用拠点のガス使用量であり、
前記ガス分離システムの前記処理情報とは、前記ガス分離システムの仕様に基づく処理性能であることを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガスパイプライン内の流体情報を、センサ、ソフトセンサ、ガスグリッドを対象としたシミュレーションのいずれか、又はそれらを組み合わせて取得することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項6】
請求項3に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記パイプライン管理装置では、
前記ガスパイプライン内の前記流体情報を取得する工程(S1)と、
前記ガスパイプライン内の流体情報から前記ガスパイプライン内のガスの流速を算出する工程(S2)と、
前記ガス分離システムの処理情報から前記ガスパイプライン内のガス組成及び前記需要家のガス利用拠点で要求されるガス組成と量(流量)を取得する工程(S3)と、
前記ガスパイプライン内のガス組成、前記需要家のガス利用拠点で要求されるガス組成と量を基に、前記ガス分離システムから返送される返送ガス量を算出して返送ガス量を決める工程(S4)と、
前記返送ガス量と、前記ガスパイプラインへガスを返送する機構の構造とから前記返送ガスの流速を算出する工程(S5)と、
前記ガスパイプライン内の前記流体情報から算出したガス流速と返送ガス流速との比を算出する工程(S6)と、
予め定められた前記ガスの流速比の規定範囲を取得する工程(S7)と、
前記ガスパイプライン内のガス流速(Vpipe)と返送ガス流速(Vreturn)との比(Vpipe/Vreturn)が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは超過する場合には返送不可とする工程(S8)とを、実行することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項7】
請求項2に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガスパイプラインと前記ガス分離システムの両方に接続された貯留設備へのガスの貯留と排出を制御することで、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項8】
請求項2に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガス分離システムに接続された主接続管と、該主接続管に接続された複数の分岐管とから成る返送流速調整機構の前記分岐管の使用本数を変更することで、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項9】
請求項2に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガスパイプライン内のガスを抜き出す抜出管に、前記ガス分離システムの前記返送ガスと混和するためのバイパス管が接続されている返送流速調整機構により、前記バイパス管のガス流量を調整し、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載のパイプライン管理システムの制御方法であって、
前記ガスパイプラインに接続された2本の分岐抜出管と、2本の前記分岐抜出管が合流する抜出管と、前記返送ガスが流れてくる返送管とから成り、前記抜出管と前記返送管の位置関係を変更可能な返送位置切替機構により、前記ガスの流れ方向に対して上流側に前記抜出管、下流側に前記返送管が位置するよう切替制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項11】
ガスパイプラインに接続され、ガスが充填されている前記ガスパイプラインから前記ガスを抜き出し、前記ガスパイプラインへ前記ガスを返送するガス分離システムと、少なくとも前記ガスパイプラインの流体情報が入力されているパイプライン管理装置とを備え、
前記パイプライン管理装置により、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは予め規定された範囲を超過する場合には返送不可とすることを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項12】
請求項11に記載のパイプライン管理システムであって、
前記パイプライン管理装置は、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内となるように前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記パイプライン管理装置は、演算部と判断部及び判断結果表示部を備え、
前記演算部は、前記ガスパイプライン内のガス流速を算出するための流体情報取得部及びパイプライン流速算出部と、前記返送ガスの流速を算出するためのガス利用情報取得部と、ガス分離システム情報取得部及び返送ガス流速算出部と、前記ガスパイプライン内のガス流速と前記返送ガスの流速から流速比を算出する流速比算出部とから成り、
前記判断部は、流速比の規定範囲を取得する流速比規定範囲取得部と、流速比を基に返送可否を判断する返送可否判断部とから成り、
前記判断結果表示部は、前記返送可否判断部の判断結果を表示する表示部であることを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項14】
請求項13に記載のパイプライン管理システムであって、
前記返送可否判断部の表示部は、
ガスグリッド上の前記ガスパイプラインの位置を表示する第1の表示部と、
前記ガス分離システムの前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速比を表示する第2の表示部と、
前記パイプライン管理装置で得られたガスの前記ガスパイプラインへの返送可否の判断結果、調整後の前記返送ガスの流速、調整後の流速比、ガスの使用情報、前記ガスパイプラインのガス組成のうち少なくとも1つを表示する第3の表示部であることを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項15】
請求項12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガスパイプラインと前記ガス分離システムの両方に接続された貯留設備を備え、
前記貯留設備へのガス貯留と排出を制御することで、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項16】
請求項12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガス分離システムに接続された主接続管と、該主接続管に接続された複数の分岐管とからなる返送流速調整機構を備え、
前記返送流速調整機構の前記分岐管の使用本数を変更することで、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項17】
請求項12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガスパイプライン内のガスを抜き出す抜出管に、前記ガス分離システムの前記返送ガスと混和するためのバイパス管が接続されている返送流速調整機構を備え、
前記バイパス管のガス流量を調整し、前記ガスパイプラインへの前記返送ガスの流速を制御することを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項18】
請求項12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガスパイプラインに接続された2本の分岐抜出管と、2本の前記分岐抜出管が合流する抜出管と、前記返送ガスが流れてくる返送管とから成り、前記抜出管と前記返送管の位置関係を変更可能な返送位置切替機構を備え、
前記返送位置切替機構により、前記ガスの流れ方向に対して上流側に前記抜出管、下流側に前記返送管が位置するよう切替制御することを特徴とするパイプライン管理システム。
【請求項19】
請求項12に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガスパイプラインに接続された2本の分岐抜出管と、2本の前記分岐抜出管が合流する抜出管と、前記返送ガスが流れてくる返送管とから成り、前記抜出管と前記返送管の位置関係を変更可能な返送位置切替機構を備え、
前記返送位置切替機構により、前記ガスの流れ方向に対して上流側に前記抜出管、下流側に前記返送管が位置するよう切替制御することを特徴とするパイプライン管理システムの制御方法。
【請求項20】
請求項11乃至14のいずれか1項に記載のパイプライン管理システムであって、
前記ガス分離システムに接続された主接続管と、該主接続管に接続された複数の分岐管とからなる返送流速調整機構を備え、
前記返送流速調整機構は、複数のガス分離システムのそれぞれからの返送ガスを合流させて返送する集合管を備えていることを特徴とするパイプライン管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパイプライン管理システム及び及びその制御方法に係り、例えば、再生可能エネルギーなどを利用した水の電気分解や天然ガスの改質などにより製造された水素を、パイプラインを利用して水素利用者へ供給する際の水素の供給状況の管理及び制御に好適なパイプライン管理システム及び及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境省において、令和元年に「再エネ電解水素の製造及び水素混合ガスの供給利用実証事業」が開始された。
【0003】
本事業では、風力発電の電力を用いて、水の電気分解により水素を製造し、この水素と都市ガス相当の模擬ガスとを混合してガス配管によって利用場所に供給する。混合ガスは、給湯器やガスコンロなどでそのまま利用される。
【0004】
水素ガスを含む都市ガスをパイプラインを利用して需要者に供給する先行技術文献として、特許文献1を挙げることができる。
【0005】
この特許文献1に記載されているのは、既存の都市ガスパイプライン、導管ネットワークを利用して、水素燃料設備と既存の都市ガス燃焼機器が並存する場合に、両方の機器を支障なく利用することができる技術として、水素ガスと炭化水素系ガスとを含む混合ガスを、導管ネットワークを介して需要家群に供給する都市ガス供給方法であり、第一の需要家群においては、混合ガス中の水素ガスを分離し、分離された水素ガスを使用すると共に、分離後の水素ガスを導管ネットワークに戻入し、かつ、第二の需要家群においては、混合ガス中の水素ガスを分離し、分離後の水素ガスを使用すると共に、分離された水素ガスを導管ネットワークに戻入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、混合ガスをガスグリッド(導管ネットワーク)で供給する際には、従来の都市ガスなどの均一成分のガスの供給と異なり、ガス流量や圧力だけでなく、混合ガス中の各成分の濃度を監視し管理する必要があり、加えて、需要家が使用しない分離後のガスをガスグリッドに戻入する際、ガスグリッド内のガスの混合や拡散、流れが変化する。
【0008】
従って、ガスグリッドと分離システムの劣化を防ぐためには、ガスの逆流や偏流が生じないようガスの返送状態を制御する必要がある。また、ガスグリッド内の濃度の偏りを防ぐため、返送時の濃度不均一が小さくなるようガスの返送状態を制御することが望まれる。
【0009】
しかしながら、上記した特許文献1では、ガスグリッドを介して混合ガスを需要家群に供給する技術は記載されているが、ガスグリッド内へのガスの返送状態を制御する手段については、何も記載されていない。
【0010】
ガスグリッドから供給された水素を使用し、不要なガスをガスグリッドへ返送する際は、ガスグリッドと分離機構の劣化やガスグリッド内の濃度の偏りを防ぐため、ガスの返送状態を制御する必要がある。
【0011】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、ガス分離システムからのガスグリッドへの返送ガスの返送状態を適切に制御し、ガスグリッドとガス分離システムの劣化防止やガスグリッド内のガス濃度の偏在を低減することができるパイプライン管理システム及び及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のパイプライン管理システムは、上記目的を達成するために、ガスパイプラインに接続され、ガスが充填されている前記ガスパイプラインから前記ガスを抜き出し、前記ガスパイプラインへ前記ガスを返送するガス分離システムと、少なくとも前記ガスパイプラインの流体情報が入力されているパイプライン管理装置とを備え、前記パイプライン管理装置により、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは予め規定された範囲を超過する場合には返送不可とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のパイプライン管理システムの制御方法は、上記目的を達成するために、ガスが充填されているガスパイプラインから前記ガスを抜き出し、前記ガスパイプラインへ前記ガスを返送するガス分離システムが前記ガスパイプラインに接続されており、少なくとも前記ガスパイプラインの流体情報が入力されているパイプライン管理装置により、前記ガスパイプラインと返送ガスの流速比から前記ガスの前記ガスパイプラインへの返送可否を判断し、前記ガスの流速比が予め規定された範囲内であれば返送可とし、予め規定された範囲を下回るか、或いは予め規定された範囲を超過する場合には返送不可とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス分離システムからのガスグリッドへの返送ガスの返送状態を適切に制御し、ガスグリッドとガス分離システムの劣化防止やガスグリッド内のガス濃度の偏在を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のパイプライン管理システムの実施例1の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明のパイプライン管理システムの実施例1における処理フローを示す図である。
【
図3】本発明のパイプライン管理システムの実施例1を構成するパイプライン管理装置を示す概略構成図である。
【
図4】
図3に示したパイプライン管理装置の判断結果表示部の判断結果を表示する表示部の一例を示す図である。
【
図5】本発明のパイプライン管理システムの実施例2の概略構成を示す図である。
【
図6(a)】本発明のパイプライン管理システムの実施例3の概略構成を示す図である。
【
図6(b)】
図6(a)に示した返送流速調整機構の概略構成を示す図である。
【
図7】本発明のパイプライン管理システムの実施例4として、実施例3で説明した返送流速調整機構の他の例を示す図である。
【
図8(a)】本発明のパイプライン管理システムの実施例5の概略構成を示す図である。
【
図8(b)】
図8(a)に示した返送位置切替機構の概略構成を示す図である。。
【
図9】本発明のパイプライン管理システムの実施例6の概略構成を示す図である。
【
図10】本発明のパイプライン管理システムの実施例7の概略構成を示す図である。
【
図11】本発明のパイプライン管理システムの実施例7における処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示した実施例に基づいて本発明のパイプライン管理システム及び及びその制御方法を説明する。なお、以下に説明する各実施例において、同一の構成部品には同符号を使用し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。また、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【実施例0017】
図1に、本発明のパイプライン管理システムの実施例1の概略構成を示し、
図2に、本発明のパイプライン管理システムの実施例1における処理フローを示す。なお、本実施例では、
図1に示す構成の全部を使用しているが、必ずしも全部を使用する必要はなく、一部を使用しても良い。
【0018】
本実施例では、パイプライン管理装置5を用いたパイプライン管理システム100Aについて説明する。また、本実施例では、ガスパイプライン1に、水素供給拠点2、需要家のガス利用拠点3が接続されたガスグリッドを対象に、天然ガス102と水素ガス101の混合ガスを供給する例について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施例のパイプライン管理システム100Aは、需要家のガス利用拠点3が、ガス分離システム4を介してガスパイプライン1に接続されている。なお、本実施例では、天然ガス102と水素ガス101との混合ガスを想定したが、混合するガスは、密度の異なるガスであれば水素ガスと天然ガスに限定しない。また、混合するガスは、2種類に限定されるものではなく、2種類以上としても良い。
【0020】
上述した水素供給拠点2は、ガスパイプライン1に水素ガス101を供給する機能を持つ施設及び設備を備えている。この水素供給拠点2の水素ガス101は、水素供給拠点2で製造されたものでも、他の場所で製造されたものでも良い。
【0021】
天然ガス102が充填されているガスパイプライン1に、水素供給拠点2から水素ガス101を注入し、混合ガス103としてガス分離システム4を介して需要家のガス利用拠点3に供給される。
【0022】
需要家のガス利用拠点3では、ガスパイプライン1から必要量の水素ガス101と天然ガス102或いは混合ガス103を取り出し、返送ガス104をガスパイプライン1に戻す。ここで、返送ガス104は、ガス利用拠点3で使用しないガスである。例えば、ガス利用拠点3が水素ガス101のみを使用する場合には、天然ガス102のみを返送ガス104としても良いし、天然ガス102と使用する分量以外の水素ガス101を混合して、混合ガス103と異なるガス組成のガスを返送ガス104としてガスパイプライン1に戻しても良い。
【0023】
本実施例のパイプライン管理装置5は、
図3に示すように、演算部5A、判断部5B及び判断結果表示部5Cにより構成されている。演算部5Aは、ガスパイプライン1内のガス流速を算出するための流体情報取得部5A1及びパイプライン流速算出部5A2と、返送ガス流速を算出するためのガス利用情報取得部5A3と、ガス分離システム情報取得部5A4及び返送ガス流速算出部5A5と、パイプライン流速と返送ガス流速から流速比を算出する流速比算出部5A6とから概略構成されている。
【0024】
判断部5Bは、流速比の規定範囲を取得する流速比規定範囲取得部5B1と、流速比を基に返送可否を判断する返送可否判断部5B2とを備えている。判断結果表示部5Cは、返送可否判断部5B2の判断結果を表示する表示部である。表示部の一例を
図4に示す。
【0025】
図4に示すパイプライン管理システムの例は、
図1に示すパイプライン管理システム100Aと略同様な構成だが、需要家のガス利用拠点(需要点)3として第1の需要家のガス利用拠点3aと第2の需要家のガス利用拠点3bを備えている。
【0026】
図4に示すように、表示部としては、ガスグリッド上のガスパイプライン1の位置を表示する第1の表示部301と、ガス分離システム4のガスパイプライン1への返送ガス104の流速比を表示する第2の表示部302と、パイプライン管理装置5で得られたガスのガスパイプライン1への返送可否の判断結果、調整後の返送ガス104の流速、調整後の流速比、ガスの使用情報、ガスパイプライン1のガス組成のうち少なくとも1つを表示する第3の表示部303がある。
【0027】
次に、本実施例のパイプライン管理システム100Aにおけるガス処理について、
図2の処理フローと共に説明する。
【0028】
パイプライン管理装置5では、ガスパイプライン1内の流体情報201と、需要家のガス利用拠点3でのガス利用情報202と、ガス分離システム4の処理情報203とを入力として、ガスパイプライン1のガス流速と返送ガス104のガス流速との比を算出する。
【0029】
先ず、パイプライン管理装置5では、初めにガスパイプライン1内の流体情報201を取得する(
図2のS1)。ここで、ガスパイプライン1内の流体情報201とは、ガスパイプライン1内の任意の点の流速、流量、圧力、組成である。任意の点は、1つでも良いし、複数でも良い。
【0030】
ガスパイプライン1内の流体情報201は、圧力計や流量計などのセンサにより直接計測しても良いし、ソフトセンサで算出しても良い。ソフトセンサとしては、例えば、ガスグリッド内の任意の2点での圧力の差分から流速や流量を算出すること、或いはガスグリッドに接続されているすべてのガス利用拠点でのガス使用量から流速や流量を算出すること、などが該当する。
【0031】
需要家のガス利用拠点3でのガス利用情報202とは、需要家のガス利用拠点3のガス使用量である。ガス使用量は、1時間毎など定期的に情報を取得しても良いし、今後の使用予定量を情報として取得しても良い。
【0032】
ガス分離システム4の処理情報203とは、ガス分離システム4の仕様に基づく処理性能であり、より具体的にはガスの分離に要する処理速度である。
【0033】
次に、ガスパイプライン1内の流体情報からガスパイプライン1内のガスの流速を算出する(
図2のS2)。
【0034】
次に、ガス分離システム4の処理情報203からガスパイプライン1内のガス組成及び需要家のガス利用拠点3で要求されるガス組成と量(流量)を取得する(
図2のS3)。ガスパイプライン1内のガス組成、需要家のガス利用拠点3で要求されるガス組成と量を基に、ガス分離システム4から返送される返送ガス量を算出して返送ガス量が定まる(
図2のS4)。
【0035】
返送ガス量と、ガスパイプライン1へガスを返送する機構の構造(口径)とから返送ガスの流速を算出する(
図2のS5)。ガスパイプライン1内の流体情報201から算出したガス流速と、返送ガス流速との比を算出する(
図2のS6)。
【0036】
また、パイプライン管理装置5では、ガスパイプライン1内のガス流速(Vpipe)と返送ガス流速(Vreturn)との比(Vpipe/Vreturn)から返送可否を判定し、返送可否判断結果204として出力する。
【0037】
予め定められた流速比の規定範囲を取得し(
図2のS7)、流速の比(Vpipe/Vreturn)が予め定められた流速比の規定範囲内であれば返送可とし、ガスをガスパイプライン1に返送し、予め定められた規定の範囲を下回るか、或いは超過する場合には返送不可とし(
図2のS8)、後述する返送流速調整機構8でガス流速を調整してパイプライン1に返送する。
【0038】
また、パイプライン管理装置5では、流速の比(Vpipe/Vreturn)を使用するが、比の分母と分子を逆転させ、ガスパイプライン1のガス流速に対する返送ガス104の流速(Vpipe/Vreturn)としても良い。また、流速比に準ずる指標として、運動量比、圧力比を指標としても良い。流速の比又は運動量比、圧力比の規定範囲は、予め流体シミュレーション又は実験により定めておく。
【0039】
流速比が上限閾値よりも大きい場合、つまり、ガスパイプライン1の流速に対して返送ガス104の流速(Vpipe/Vreturn)が小さい場合には、ガスパイプライン1とガス分離システム4をつなぐ接続管内に、ガスパイプライン1内のガスが逆流する可能性がある。これにより、接続管内に渦流が発生し、劣化が早まる懸念がある。
【0040】
また、接続管内に返送ガスが滞留してガスパイプライン1内のガス組成と差異が生じ、ガスパイプライン1内にガス濃度の不均一が発生する。そのため、流速比が上限閾値よりも大きい場合には、返送不可と判断する。
【0041】
流速比が下限閾値よりも小さい場合、つまり、ガスパイプライン1の流速に対して返送ガス104の流速(Vpipe/Vreturn)が大きい場合には、ガスパイプライン1中に旋回流が発生する可能性がある。これにより、ガスパイプライン1に力学的な負荷が生じる。そのため、流速比が下限閾値よりも小さい場合には、返送不可と判断する。
【0042】
また、パイプライン管理装置5では、返送可否判断結果204を出力してガス分離システム4に入力し、ガス分離システム4では、返送可否判断結果204が「可」の場合には、ガスパイプライン1にガスを返送し、一方、返送可否判断結果204が「不可」の場合には、バルブを閉めたり装置の運転を止めることにより、ガス返送を中止或いは返送ガスの流速を調整して返送するようにしている。
【0043】
このような本実施例によれば、ガス分離システム4からのガスグリッドへの返送ガスの返送状態を適切に制御でき、ガスグリッドとガス分離システム4の劣化防止、ガスグリッド内のガス濃度の偏在を低減することができる。
本実施例のパイプライン管理システム100Bは、貯留タンク6の圧力情報に基づいてパイプライン管理装置5のパイプライン流速算出部5A2で、ガスパイプライン1へ返送ガス104を返送する際の流速を算出し、流速の比(Vpipe/Vreturn)が予め規定された範囲内に保たれる場合は、ガスパイプライン1へのガス返送を行う。
具体的には、流速の比(Vpipe/Vreturn)が予め規定された範囲内に保たれる場合にはガスパイプライン1に設置されている弁7を開とし、貯留タンク6からガスパイプライン1へのガス返送を行い、流速の比(Vpipe/Vreturn)が規定範囲の上限値を超過する場合には弁7を閉とし、貯留タンク6からガスパイプライン1へのガス返送は行わない。
また、流速の比(Vpipe/Vreturn)が規定範囲の下限値を下回る場合には弁7を開とし、貯留タンク6からガスパイプライン1へのガス返送を行うが、その際、弁7の開度を調整して貯留タンク6からガスパイプライン1への返送ガス104の流速を調整している。
また、流速の比(Vpipe/Vreturn)が規定範囲の上限値を超過する場合には、ガス分離システム4からの返送ガス104と貯留タンク6内の返送ガスを混合してガスパイプライン1へ返送しても良い。
その場合、本実施例のパイプライン管理システム100Bでは、流速の比が規定範囲となるよう、ガス分離システム4からの返送ガス104の流量を基に、貯留タンク6の弁7の開度を算出し設定する。
具体的には、流速の比の目標値(規定範囲の上限値)となる返送ガス104の目標流速を算出し、返送ガス104の目標流速を得るために必要なガス流量を接続管の口径から算出する。必要なガス流量からの、ガス分離システム4からの返送ガスの流量を差し引いた値を、補填ガス流量として算出する。補填ガス流量を満たすように、弁7の開度を調整して貯留タンク6から相当分の流量でガスを返送する。
このような本実施例によれば、ガス分離システム4からのガスグリッドへの返送ガス104の返送状態を適切に制御でき、ガスグリッドとガス分離システム4の劣化防止、ガスグリッド内のガス濃度の偏在を低減することができる。