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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140837
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】連結車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230928BHJP
   B62D 53/08 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D53/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046876
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC32
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA24
3D232DA33
3D232DA92
3D232DA94
3D232DB07
3D232DD03
3D232EA01
3D232EB02
3D232EB04
3D232GG05
(57)【要約】
【課題】連結車両に異常が発生したとき、異常に対して適切に対処することができる連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】連結車両の制御装置は、後退支援制御の制御モードとして、正常モード、不調モード、および異常モードを有している。正常モードは、車両状態量の異常が検出されないときに設定される制御モードである。不調モードは、車両状態量の異常が検出される場合であって、車両状態量の代替値が存在するときに設定される制御モードである。異常モードは、車両状態量の異常が検出される場合であって、車両状態量の代替値が存在しないときに設定される制御モードである。制御装置は、制御モードが不調モードに設定されるとき、車両状態量の代替値を使用して後退支援制御の実行を継続する。制御装置は、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両を停車させるための処理を実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向を変える車輪である操舵輪を有するトラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを有する連結車両を制御対象とし、
前記連結車両の後退操作を支援するための制御である後退支援制御と、前記後退支援制御に使用される車両状態量の異常を検出するための処理と、を実行するように構成される連結車両の制御装置であって、
前記後退支援制御の制御モードとして、
前記車両状態量の異常が検出されないときに設定される正常モードと、
前記車両状態量の異常が検出される場合であって、前記車両状態量の代替値が存在するときに設定される不調モードと、
前記車両状態量の異常が検出される場合であって、前記車両状態量の代替値が存在しないときに設定される異常モードと、を有し、
前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、前記車両状態量の代替値を使用して前記後退支援制御の実行を継続し、
前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される連結車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御モードが前記不調モードに設定される場合、前記連結車両の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される請求項1に記載の連結車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、
前記連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行するように構成される請求項1または請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、前記操舵輪の操舵角速度を前記正常モードの設定時に許容される操舵角速度よりも小さい値に減少させるための処理を実行するように構成される請求項1または請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御モードが前記不調モードに設定される場合、前記連結車両の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、前記操舵輪の操舵角速度を減少させた状態を維持しつつ、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される請求項4に記載の連結車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行したうえで、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される請求項1に記載の連結車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記操舵輪の操舵角を保持した状態で、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される請求項1または請求項6に記載の連結車両の制御装置。
【請求項8】
前記調停処理は、
前記車輪に作用させる制動力として、前記操作者による制動操作量に対応する制動力と、現在の制動力との最大値を選択する処理と、
前記連結車両を走行させるための駆動力として、前記操作者による加速操作量に対応する駆動力と、現在の駆動力との最小値を選択する処理と、
前記操作者の手動操作に応じた前記操舵輪の操舵角の制御を、前記後退支援制御の実行に伴う前記操舵輪の操舵角の制御に優先させる処理と、を実行するように構成される請求項3または請求項6に記載の連結車両の制御装置。
【請求項9】
前記制御モードが、前記不調モードまたは前記異常モードに設定される場合、前記連結車両を停車させるための処理の実行を通じて前記連結車両が停車した後、前記連結車両の操作者による前記後退支援制御の終了操作が検出されるとき、前記後退支援制御の実行を終了するように構成される請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項10】
前記制御モードが、前記不調モードまたは前記異常モードに設定される場合、前記連結車両を停車させるための処理の実行を通じて前記連結車両が停車した時点を基準として、定められた設定時間だけ経過しても前記連結車両の操作者による前記後退支援制御の終了操作が検出されないとき、前記連結車両を停車した状態に維持するための処理を実行するように構成される請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項11】
前記制御モードを、前記連結車両の操作者に報知するための処理を実行するように構成される請求項1に記載の連結車両の制御装置。
【請求項12】
前記車両状態量は、前記操舵輪の目標操舵角と、前記操舵輪の操舵角と、前記連結車両の車速と、前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角と、を含む請求項1または請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタとしての車両にトレーラが連結された連結車両が存在する。連結車両の操縦は、普通乗用車などの単体車両の操縦と比べて難しい。特に、連結車両の後退操作では、トレーラが連結されていない単体車両を後退させる場合のステアリング操作とは反対のステアリング操作が必要となる。
【0003】
そこで、従来、連結車両の後退操作を支援するシステムが提案されている。たとえば特許文献1のシステムは、運転者がアクセルペダルおよびブレーキペダルを使用して車両の後退速度を制御するとき、トレーラが運転者によって指定される基準経路に沿って移動するように車両を自動的に操舵する。システムの曲率コントローラは、トラクタの操舵角に基づきトレーラを基準経路に沿って後退させるための制御を実行する。曲率コントローラは、曲率レギュレータおよびヒッチ角レギュレータを有している。
【0004】
曲率レギュレータは、計測モジュールから提供される現在の操舵角および入力デバイスを通じて入力されるトレーラ経路の目標曲率に基づき目標ヒッチ角を演算する。ヒッチ角レギュレータは、曲率レギュレータにより演算される目標ヒッチ角に現在のヒッチ角を追従させるべく、ヒッチ角のフィードバック制御の実行を通じて電動パワーステアリングシステムに対する操舵角コマンドを演算する。電動パワーステアリングシステムは操舵角コマンドに基づきステアリングホイールを回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9592851号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連結車両の制御装置は、連結車両の挙動を適切に制御するために、連結車両の状態を適切に把握する必要がある。また、連結車両の制御装置には、連結車両に異常が発生したとき、異常に対して適切に対処することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る連結車両の制御装置は、車両の進行方向を変える車輪である操舵輪を有するトラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを有する連結車両を制御対象としている。連結車両の制御装置は、前記連結車両の後退操作を支援するための制御である後退支援制御と、前記後退支援制御に使用される車両状態量の異常を検出するための処理と、を実行するように構成される。連結車両の制御装置は、前記後退支援制御の制御モードとして、
前記車両状態量の異常が検出されないときに設定される正常モードと、前記車両状態量の異常が検出される場合であって、前記車両状態量の代替値が存在するときに設定される不調モードと、前記車両状態量の異常が検出される場合であって、前記車両状態量の代替値が存在しないときに設定される異常モードと、を有している。連結車両の制御装置は、前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、前記車両状態量の代替値を使用して前記後退支援制御の実行を継続し、前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成される。
【0008】
この構成によれば、後退支援制御に使用される車両状態量の異常が検出されるとき、後退支援制御の制御モードが不調モードであるか異常モードであるかに応じて、連結車両の挙動が制御される。したがって、連結車両の状態に異常が発生したとき、異常に対して適切に対処することができる。
【0009】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記不調モードに設定される場合、前記連結車両の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0010】
この構成によれば、不調モードで後退支援制御が実行されている場合、連結車両を停車させる操作者の意思が確認されるとき、連結車両を停車させるための処理が実行される。操作者の停車しようとする意思に応じて連結車両が停車するため、操作者は違和感を覚えにくい。
【0011】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、前記連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行するように構成されてもよい。
【0012】
この構成によれば、連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とが調停される。このため、不調モードでの後退支援制御を、より適切に実行することができる。
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記不調モードに設定されるとき、前記操舵輪の操舵角速度を前記正常モードの設定時に許容される操舵角速度よりも小さい値に減少させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、制御モードが不調モードに設定されるとき、操舵輪の操舵角速度が正常モードの設定時よりも減少する。このため、不調モードでの後退支援制御を、より安全に実行することができる。
【0014】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記不調モードに設定される場合、前記連結車両の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、前記操舵輪の操舵角速度を減少させた状態を維持しつつ、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、操作者の停車しようとする意思に応じて連結車両が停車するため、操作者は違和感を覚えにくい。また、操舵輪の操舵角速度が正常モードの設定時よりも減少するため、不調モードでの後退支援制御を、より安全に実行することができる。
【0016】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行したうえで、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両の操作者による操作量と、現在の制御量とが調停される。このため、連結車両を停車させるための処理を、より適切に実行することができる。
【0018】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが前記異常モードに設定されるとき、前記操舵輪の操舵角を保持した状態で、前記連結車両を停車させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0019】
この構成によれば、制御モードが異常モードに設定されるとき、操舵輪の操舵角が保持されることにより、連結車両を停車させるための処理を、より安全に実行することができる。
【0020】
上記の連結車両の制御装置において、前記調停処理は、前記車輪に作用させる制動力として、前記操作者による制動操作量に対応する制動力と、現在の制動力との最大値を選択する処理と、前記連結車両を走行させるための駆動力として、前記操作者による加速操作量に対応する駆動力と、現在の駆動力との最小値を選択する処理と、前記操作者の手動操作に応じた前記操舵輪の操舵角の制御を、前記後退支援制御の実行に伴う前記操舵輪の操舵角の制御に優先させる処理と、を含んでいてもよい。
【0021】
この構成によれば、制動力はより大きい値に制御される一方、駆動力はより小さい値に制御される。また、操作者の手動操作に応じた操舵角の制御が、後退支援制御の実行に伴う操舵角の制御に優先される。このため、制御モードが不調モードに設定されるとき、後退支援制御を、より安全に実行することができる。また、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両を停車させるための処理を、より安全に実行することができる。
【0022】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが、前記不調モードまたは前記異常モードに設定される場合、前記連結車両を停車させるための処理の実行を通じて前記連結車両が停車した後、前記連結車両の操作者による前記後退支援制御の終了操作が検出されるとき、前記後退支援制御の実行を終了するように構成されてもよい。
【0023】
この構成によれば、後退支援制御の実行を終了しようとする操作者の意思に基づき、後退支援制御の実行を終了させることができる。
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードが、前記不調モードまたは前記異常モードに設定される場合、前記連結車両を停車させるための処理の実行を通じて前記連結車両が停車した時点を基準として、定められた設定時間だけ経過しても前記連結車両の操作者による前記後退支援制御の終了操作が検出されないとき、前記連結車両を停車した状態に維持するための処理を実行するように構成されてもよい。
【0024】
この構成によれば、連結車両を停車させるための処理の実行を通じて連結車両が停車した場合、停車した時点を基準として設定時間だけ経過しても後退支援制御の終了操作が検出されないとき、連結車両を停車した状態に維持するための処理が実行される。車両の走行が規制されることにより、安全性が向上する。
【0025】
上記の連結車両の制御装置において、前記制御モードを、前記連結車両の操作者に報知するための処理を実行するように構成されてもよい。
この構成によれば、操作者は、後退支援制御の制御モードを認識することができる。また、操作者に、制御モードに応じた行動を促すことができる。
【0026】
上記の連結車両の制御装置において、前記車両状態量は、前記操舵輪の目標操舵角と、前記操舵輪の操舵角と、前記連結車両の車速と、前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角と、を含んでいてもよい。
【0027】
この構成によれば、後退支援制御に使用される複数種類の車両状態量の異常が検出される。このため、各車両状態量の異常に対して適切に対処することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の連結車両の制御装置によれば、連結車両に異常が発生したとき、異常に対して適切に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】連結車両の制御装置の一実施の形態が搭載される連結車両の斜視図である。
図2】一実施の形態にかかる後退支援装置のブロック図である。
図3】一実施の形態にかかる連結車両の運動モデルである。
図4】一実施の形態にかかるトレーラの運動モデルである。
図5】連結車両の制御装置の一実施の形態のブロック図である。
図6】連結車両の制御装置の一実施の形態による、不調モード時および異常モード時の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、連結車両の制御装置の第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ11およびトレーラ12を有している。トラクタ11には様々な種類が存在するところ、ここでは小型貨物自動車の一種であるピックアップトラックを例として挙げる。トラクタ11は、前輪11Fおよび後輪11Rを有している。前輪11Fは右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪11Rは右後輪および左後輪の2輪を含む。ただし、図1では左前輪および左後輪のみが図示されている。前輪11Fとステアリングホイールとの間は、図示しない操舵機構を介して動力伝達可能に連結されている。前輪11Fは操舵輪である。操舵輪とは、ステアリングホイールの操作に応じて動くことによってトラクタ11の進行方向を変える車輪をいう。
【0031】
トレーラ12には用途に応じて様々な形状およびサイズを有するものが存在するところ、ここでは箱型を例として挙げる。トレーラ12は、車輪12Rを有している。車輪12Rは、右車輪および左車輪の2輪を含む。ただし、図1では左車輪のみが図示されている。
【0032】
トレーラ12は、ボールジョイント13を介してトラクタ11の後部に連結されている。ボールジョイント13は、ヒッチボール14およびヒッチカプラ15を有している。ヒッチボール14は、ヒッチメンバを介してトラクタ11の後部に設けられている。ヒッチカプラ15は、トレーラ12の前部から突出するタング16の先端に設けられている。ヒッチカプラ15がヒッチボール14に装着されることにより、トレーラ12はトラクタ11に対して軸17を中心として回転可能に連結される。軸17は、トラクタ11の高さ方向に沿って延びる。
【0033】
図2に示すように、トラクタ11は、表示装置20、操舵装置30および後退支援装置40を有している。
表示装置20は、たとえば車室内のインストルメントパネルに設けられる。表示装置20は、たとえばタッチパネルであって、画面21上の表示をタッチ操作することによりデータを入力したり車載機器の動作を指示したりすることが可能である。画面21には、たとえば支援開始ボタン21Aおよび支援終了ボタン21Bが表示される。支援開始ボタン21Aは、連結車両10の後退支援機能をオンする際に操作される。支援終了ボタン21Bは、連結車両10の後退支援機能をオフする際に操作される。
【0034】
表示装置20は、支援開始ボタン21Aが操作されるとき、支援開始要求信号S2を生成する。支援開始要求信号S2は、操作者が、連結車両10の後退支援制御の実行開始を要求していることを示す電気信号である。表示装置20は、支援開始ボタン21Aが操作されるとき、支援終了要求信号S3を生成する。支援終了要求信号S3は、操作者が、連結車両10の後退支援制御の実行終了を要求していることを示す電気信号である。
【0035】
操舵装置30は、たとえば電動式のパワーステアリング装置である。操舵装置30は、操作者によるステアリングホイールの操舵を補助するためのシステムであって、モータ30A、トルクセンサ30B、操舵角センサ30Cおよび操舵制御装置30Dを有している。操作者は、トラクタ11の車室内で連結車両10を運転する運転者を含む。
【0036】
モータ30Aは、アシスト力を発生する。アシスト力は、ステアリングホイールの操舵を補助するための力である。モータ30Aのトルクは、減速機構を介して前輪11Fの操舵機構に付与される。トルクセンサ30Bは、ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵トルクτstrを検出する。操舵角センサ30Cは、たとえばモータ30Aの回転角に基づき、前輪11Fの切れ角である操舵角αを検出する。前輪11Fとモータ30Aとは操舵機構を介して互いに連動する。このため、モータ30Aの回転角と前輪11Fの操舵角αとの間には相関関係がある。したがって、モータ30Aの回転角に基づき前輪11Fの操舵角αを求めることができる。
【0037】
操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオフされているとき、アシスト制御を実行する。すなわち、操舵制御装置30Dは、トルクセンサ30Bを通じて検出される操舵トルクτstrに基づきモータ30Aに対する通電を制御することによって、操舵トルクτstrに応じたアシスト力をモータ30Aに発生させる。
【0038】
操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、前輪11Fの操舵制御を実行する。すなわち、操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、後退支援装置40により生成される目標操舵角α に基づきモータ30Aの回転角を制御することによって前輪11Fの操舵角αを制御する。目標操舵角α は、前輪11Fの操舵角αの目標値である。操舵制御装置30Dは、操舵角センサ30Cを通じて検出される前輪11Fの操舵角αを目標操舵角α に一致させるべく、操舵角αのフィードバック制御の実行を通じてモータ30Aの動作を制御する。
【0039】
後退支援装置40は、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、連結車両10の後退操作を支援する。後退支援装置40は、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路、ならびに操舵角センサ30Cを通じて検出される前輪11Fの操舵角αに基づき、前輪11Fの目標操舵角α を演算する。目標操舵角α は、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路に沿って連結車両10が移動するために必要とされる前輪11Fの操舵角αの目標値である。後退支援装置40は、連結車両10の後退支援機能がオフされているとき、目標操舵角α を演算しない。
【0040】
<後退支援装置>
つぎに、後退支援装置40について詳細に説明する。
図2に示すように、後退支援装置40は、入力装置41および制御装置42を有している。
【0041】
入力装置41は、操作部材としてのダイヤル41Aを有している。ダイヤル41Aは、たとえば車室内のセンターコンソールに設けられる。ダイヤル41Aは、操作者が連結車両10の後退方向あるいは後退経路を指定する際に操作される。後退方向あるいは後退経路は、たとえば後退左旋回、後退右旋回および直線後退を含む。連結車両10を後退左旋回させるとき、ダイヤル41Aは直線経路に対応する基準位置を基準として反時計方向へ操作される。連結車両10を後退右旋回させるとき、ダイヤル41Aは基準位置を基準として時計方向へ操作される。連結車両10を直線後退させるとき、ダイヤル41Aは基準位置に維持される。入力装置41は、ダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に応じた電気信号S1を生成する。
【0042】
制御装置42は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
【0043】
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0044】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータ(ここではCPU)で読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。プログラムは、連結車両10の後退支援制御を実行するためのプログラムを含む。後退支援制御とは、連結車両10の後退操作を支援するための制御をいう。
【0045】
制御装置42は、連結車両10の後退支援制御を実行する。制御装置42は、操作者による後退支援制御の開始操作を契機として後退支援制御の実行を開始する。制御装置42は、操作者による後退支援制御の終了操作を契機として後退支援制御の実行を停止する。操作者による後退支援制御の開始操作および終了操作は、表示装置20を通じて行われる。表示装置20の画面21に表示される支援開始ボタン21Aがタッチ操作されたとき、制御装置42は後退支援制御の実行を開始する。表示装置20の画面21に表示される支援終了ボタン21Bがタッチ操作されたとき、制御装置42は後退支援制御の実行を終了する。
【0046】
制御装置42は、後退支援制御の実行時、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路に沿って連結車両10が移動するように、操舵装置30を通じて連結車両10の後退経路を制御する。
【0047】
制御装置42は、設定部42Aおよび制御部42Bを有している。
設定部42Aは、入力装置41により生成される電気信号S1、すなわちダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に基づき、トレーラ12の目標仮想操舵角α を設定する。目標仮想操舵角α は、トレーラ12の仮想操舵角αの目標値である。仮想操舵角αとは、トレーラ12をトラクタ11から仮想的に分離して、仮想的な前輪を有する単体車両とみなしたときの見掛けの操舵角をいう。設定部42Aは、たとえばダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置とトレーラ12の目標仮想操舵角α との関係を規定するマップを使用して、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置に応じた目標仮想操舵角α を演算する。操作者は、ダイヤル41Aの操作を通じてトレーラ12を後退させる所望の後退経路に応じた目標仮想操舵角α を指定することが可能である。
【0048】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標仮想操舵角α 、車載のヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角β、車載の車速センサ52を通じて検出される車速V、および操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αを取り込む。ヒッチ角βは、トラクタ11の長さ方向に沿って延びる中心軸とトレーラ12の長さ方向に沿って延びる中心軸とのなす角度をいう。ヒッチ角βは、トレーラ12の折れ曲がり角ともいう。
【0049】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標仮想操舵角α ならびに各センサを通じて検出されるヒッチ角β、車速Vおよび操舵角αに基づき、トラクタ11の前輪11Fの目標操舵角α を演算する。制御部42Bは、トレーラ12の仮想操舵角αが目標仮想操舵角α に収束するように、前輪11Fの目標操舵角α を演算する。すなわち、制御部42Bは、トレーラ12の仮想操舵角αを目標仮想操舵角α に一致させるべく、仮想操舵角αのフィードバック制御の実行を通じて前輪11Fの目標操舵角α を演算する。制御部42Bは、たとえば、非線形モデル予測制御(NMPC:Nonlinear Model Predictive Control)を使用して、目標操舵角α を演算するようにしてもよい。
【0050】
<連結車両の運動モデル>
つぎに、平面運動する連結車両10の挙動を表す運動モデルについて説明する。
図3に示すように、連結車両10の運動モデルは、地上に固定された二次元のxy座標系において、左右の車輪を車体の中心軸に移動した等価モデルで考えることができる。図3の運動モデルは、連結車両10の前進時の運動モデルである。ただし、図3の運動モデルでは、運動学の範囲で連結車両10の挙動を明らかにするため、極低速時の連結車両10のタイヤには横滑りが発生せず、その進行方向にのみ速度ベクトルを有するものとする。また、車両は一定の速度で運転されるものとする。また、路面は平坦であって連結車両10の外部からの外乱はないものとする。
【0051】
図3の運動モデルにおいて、トラクタ11とトレーラ12との間の運動学的関係を説明するために使用される連結車両10のパラメータは、つぎの通りである。
:トラクタ11の前輪11F
:トラクタ11の後輪11R
:トラクタ11のヒッチ点(ヒッチボール14の位置を示す点)
:トレーラ12の車輪
c0:トラクタ11の前輪11Fの速度ベクトル
B1:トラクタ11の後輪11Rの速度ベクトル
c1:トラクタ11のヒッチ点Cの速度ベクトル
B2:トレーラ12の速度ベクトル
α:トラクタ11の前輪11Fの操舵角
α:トレーラ12の仮想操舵角
γ:中間変数(トラクタ11の中心軸とヒッチ点Cの速度ベクトルVc1とのなす角)
θ:トラクタ11の姿勢角(トラクタ11の中心軸とX軸とのなす角)
θ:トレーラ12の姿勢角(トレーラ12の中心軸とX軸とのなす角)
β :ヒッチ角(トラクタ11の中心軸とトレーラ12の中心軸とのなす角)
:トラクタ11のホイールベース
:トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離
:トレーラ12の仮想ホイールベース
ただし、各パラメータの符号は、つぎの通りである。すなわち、トラクタ姿勢角θは、X軸を基準とする反時計回りを正とする。トラクタ11の前輪11Fの操舵角αおよび中間変数γは、トラクタ11の中心軸を基準とする反時計回りを正とする。ヒッチ角βは、トラクタ11の中心軸あるいはその延長線を基準とする反時計回りを正とする。車速Vは、前進のとき正、後退のとき負とする。
【0052】
図3に示すように、トラクタ11は前輪11Fの速度ベクトルVc0に従い運動する。また、トレーラ12は、トラクタ11との連結点であるヒッチ点Cの速度ベクトルVc1に従って運動する。このことから、トレーラ12から見たヒッチ点Cの速度ベクトルVc1は、トレーラ12の仮想的な前輪の速度ベクトルとみなせる。図3の運動モデルにおいて、ヒッチ点Cの速度ベクトルVc1とトレーラ12の中心軸とのなす角は「β-γ」である。この場合、図4に示すように、トレーラ12をトラクタ11から仮想的に分離して仮想的な前輪を有する単体車両とみると、その仮想的な前輪は見掛けの操舵角である仮想操舵角α(=-(β-γ))で操舵されていると見なせる。このことから、トレーラ12を単体車両として検討できることが分かる。ちなみに、連結車両10の後退運動の運動モデルは、速度ベクトルが図3の前進時の運動モデルと逆向きになる。
【0053】
トレーラ12の仮想操舵角αは、つぎの数式1で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
ただし、「β」は、ヒッチ角である。「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。
【0056】
<制御装置42の補足説明>
つぎに、制御装置42の構成について補足説明する。
図2に示すように、トラクタ11には、第1のヨーレートセンサ53が設けられることがある。第1のヨーレートセンサ53は、トラクタ11のヨーレートYR1を検出する。また、トレーラ12には、第2のヨーレートセンサ54が設けられることがある。第2のヨーレートセンサ54は、トレーラ12のヨーレートYR2を検出する。この場合、制御装置42は、第1のヨーレートセンサ53を通じて検出されるトラクタ11のヨーレートYR1を取り込む。また、制御装置42は、第2のヨーレートセンサ54を通じて検出されるトレーラ12のヨーレートYR2を取り込む。
【0057】
トラクタ11には、車輪速センサ55が設けられることがある。車輪速センサ55は、トラクタ11の左右の前輪11Fおよび後輪11Rに設けられる。車輪速センサ55は、トラクタ11の進行方向に対して左側の前輪11Fおよび後輪11Rの回転速度である車輪速Vを検出する。また、車輪速センサ55は、トラクタ11の進行方向に対して右側の前輪11Fおよび後輪11Rの回転速度である車輪速Vを検出する。車輪速V,Vは、各種の車載システムで使用される。
【0058】
ただし、製品仕様によっては、トラクタ11として、車速センサ52を割愛した構成が採用されることがある。この場合、制御装置42は、車輪速センサ55を通じて検出される左右の前輪11Fおよび後輪11Rの車輪速V,Vを使用して、車速Vを演算するようにしてもよい。
【0059】
図5に示すように、制御装置42は、先の設定部42Aおよび制御部42Bに加えて、さらに、異常検出部42C、代替信号生成部42D、およびステートマネージャ42Eを有している。
【0060】
<異常検出部42C>
異常検出部42Cは、連結車両10の異常を検出する。異常検出部42Cは、一例として、つぎの4つの検出対象(B1)~(B4)の状態を判定する。
【0061】
B1.目標操舵角α
B2.前輪11Fの操舵角α
B3.車速V
B4.ヒッチ角β
<目標操舵角α の状態判定方法>
目標操舵角α の状態判定方法は、つぎの通りである。すなわち、異常検出部42Cは、操舵角センサ30Cを通じて検出される前輪11Fの操舵角αを取り込む。また、トラクタ11が第1のヨーレートセンサ53を有する場合、異常検出部42Cは、第1のヨーレートセンサ53を通じて検出されるトラクタ11のヨーレートYR1を取り込む。
【0062】
異常検出部42Cは、つぎの数式2を使用して、前輪11Fの第1の推定操舵角α11^を演算する。「^」は推定値であることを示す。
【0063】
【数2】
【0064】
ただし、「V」は車速である。「l」はホイールベースであって、数式2ではトラクタ11のホイールベースlが代入される。「A」は、スタビリティファクタである。スタビリティファクタは、車両の旋回特性を表す適合値である。
【0065】
異常検出部42Cは、操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αと、第1の推定操舵角α11^と、目標操舵角α とを、互いに比較する。異常検出部42Cは、つぎの3つの条件(D1)~(D3)のすべてが成立するとき、目標操舵角α の値が異常であって、代替値が存在しない異常が発生したと判定する。異常検出部42Cは、目標操舵角α の代替値が存在しない異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0066】
D1.│α-α11^│<αth1
D2.│α -α│≧αth1
D3.│α -α11^│≧αth1
ただし、「αth1」は、第1の操舵角判定しきい値である。
【0067】
3つの条件(D1)~(D3)のすべてが成立するとき、操舵角センサ30Cは、通信を含めて正常であるにもかかわらず、何らかの原因により、目標操舵角α が異常値を示している状態であるといえる。
【0068】
異常検出部42Cは、条件(D1)が成立し、かつ、条件(D2),(D3)が成立しないとき、目標操舵角α の値が正常であると判定する。異常検出部42Cは、目標操舵角α の値が正常であることを示す検出信号S4を生成する。
【0069】
<操舵角αの状態判定方法>
操舵角αの状態判定方法は、つぎの通りである。すなわち、異常検出部42Cは、車輪速センサ55を通じて検出される左右の前輪11Fおよび後輪11Rの車輪速V,Vを取り込む。
【0070】
異常検出部42Cは、つぎの数式3を使用して、トラクタ11の推定ヨーレートYR1^を演算する。「^」は推定値であることを示す。
【0071】
【数3】
【0072】
ただし、「V」はトラクタ11の進行方向に対する左側の車輪の車輪速である。「V」はトラクタ11の進行方向に対する右側の車輪の車輪速である。「d」は、トラクタ11の左右の車輪間の距離である。
【0073】
なお、トレーラ12が各車輪12Rの車輪速センサ55を有する場合、数式3を使用して、トレーラ12の推定ヨーレートを演算することも可能である。
異常検出部42Cは、数式3に基づき得られるトラクタ11の推定ヨーレートYR1^を、先の数式2に代入することにより、前輪11Fの第2の推定操舵角α12^を演算する。
【0074】
異常検出部42Cは、操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αと、第1の推定操舵角α11^と、第2の推定操舵角α12^とを、互いに比較する。
異常検出部42Cは、つぎの3つの条件(E1)~(E3)のすべてが成立するとき、検出方法が異なる3つの操舵角(α,α11^,α12^)のうち、少なくとも2つが異常であると判定する。異常検出部42Cは、3つの操舵角のうち、どの操舵角が異常であるのかを特定することができない。このため、3つの操舵角は、いずれも後退支援制御に使用することができない。異常検出部42Cは、操舵角αの代替値が存在しない異常が発生したと判定する。異常は、各種センサのハードウェア異常を含む。異常検出部42Cは、操舵角αの代替値が存在しない異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0075】
E1.│α-α11^│≧αth2
E2.│α-α12^│≧αth2
E3.│α11^-α12^│≧αth2
ただし、「αth2」は、第2の操舵角判定しきい値である。
【0076】
異常検出部42Cは、先の条件(E1),(E2)が成立し、かつ条件(E3)が成立しない場合、第1の操舵角(α)のみが異常であって、第2の操舵角(α11^)および第3の操舵角(α12^)は正常であると判定する。すなわち、第1の操舵角に代えて、第2の操舵角または第3の操舵角を使用して、後退支援制御を実行することが可能である。異常検出部42Cは、第1の操舵角の代替値として、第2の操舵角または第3の操舵角を、連結車両10の後退支援制御に使用可能であると判定する。異常検出部42Cは、操舵角αの代替値が存在する異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0077】
異常検出部42Cは、3つの条件(E1)~(E3)のすべてが成立しないとき、第1~第3の操舵角は、すべて正常であると判定する。異常検出部42Cは、操舵角αの値が正常であることを示す検出信号S4を生成する。
【0078】
<車速Vの状態判定方法>
車速Vの状態判定方法は、つぎの通りである。ここでは、制御装置42として、各車輪の車輪速V,Vを使用して車速Vを演算する構成が採用される場合を一例として挙げる。トラクタ11は、車速センサ52を有していなくてもよい。
【0079】
異常検出部42Cは、つぎの3つの条件(F1)~(F3)のすべてが成立するとき、車速Vの値が異常であって、代替値が存在しないと判定する。異常検出部42Cは、車速Vの代替値が存在しない異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0080】
F1.操舵角センサ30Cを通じて操舵角αが検出できないこと。
F2.第1のヨーレートセンサ53を通じてトラクタ11のヨーレートYR1が検出できないこと。
【0081】
F3.トラクタ11の左右の車輪のそれぞれで、車輪速V,Vを検出できない2つ以上の車輪が存在すること。
異常検出部42Cは、つぎの条件(F4)が成立するとき、車輪速V,Vを検出できる車輪の車輪速V,Vのみを使用して、代替値としての車速Vを演算することが可能であると判定する。異常検出部42Cは、車速Vの代替値が存在する異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0082】
F4.トラクタ11の左右の車輪のそれぞれで、車輪速V,Vを検出できない2つ未満の車輪が存在すること。
異常検出部42Cは、先の4つの条件(F1)~(F4)のすべてが成立しないとき、車速Vは正常であると判定する。異常検出部42Cは、車速Vの値が正常であることを示す検出信号S4を生成する。
【0083】
<ヒッチ角βの状態判定方法>
ヒッチ角βの状態判定方法は、つぎの通りである。すなわち、異常検出部42Cは、つぎの4つの条件(G1)~(G4)のうち、いずれか一つが成立するとき、ヒッチ角βの値が異常であって、代替値が存在しないと判定する。異常検出部42Cは、ヒッチ角βの代替値が存在しない異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0084】
G1.車速Vの値が異常であること。
G2.操舵角αの値が異常であること。
G3.トラクタ11のヨーレートYR1の値が異常であること。
【0085】
G4.トレーラ12のヨーレートYR2の値が異常であること。
異常検出部42Cは、推定ヒッチ角β^を演算する。推定ヒッチ角β^は、車両状態量に基づき演算されるヒッチ角βの推定値である。「^」は推定値であることを示す。車両状態量は、車速Vおよび前輪11Fの操舵角α、を含む。連結車両10に、第1のヨーレートセンサ53および第2のヨーレートセンサ54が設けられる場合、車両状態量は、トラクタ11のヨーレートYR1およびトレーラ12のヨーレートYR2を含む。
【0086】
異常検出部42Cは、つぎの数式4を積分することにより得られる数式を使用して、推定ヒッチ角β^を演算する。
【0087】
【数4】
【0088】
ただし、「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「l2」は、トレーラ12の仮想ホイールベースである。「VB1」は、トラクタ11の後輪11Rの速度ベクトルである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。
【0089】
連結車両10が第1のヨーレートセンサ53および第2のヨーレートセンサ54を有している場合、異常検出部42Cは、つぎの数式3を使用して、推定ヒッチ角β^を演算するようにしてもよい。
【0090】
【数5】
【0091】
ただし、「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「l2」は、トレーラ12の仮想ホイールベースである。「VB1」は、トラクタ11の後輪11Rの速度ベクトルである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。「β(・)」は、ヒッチ角βの時間変化率、すなわちヒッチ角速度である。「・」は、時間微分を示す。数式5のヒッチ角速度(・)には、第1のヨーレートセンサ53を通じて検出されるトラクタ11のヨーレートYR1と、第2のヨーレートセンサ54を通じて検出されるトレーラ12のヨーレートYR2との差の値が代入される。
【0092】
異常検出部42Cは、つぎの条件(G5)または条件(G6)が成立するとき、ヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角βの代替値として、推定ヒッチ角β^を使用可能であると判定する。異常検出部42Cは、ヒッチ角βの代替値が存在する異常が発生したことを示す検出信号S4を生成する。
【0093】
G5.│β^-β│≧βth
G6.ヒッチ角センサ51を通じてヒッチ角βが検出できないこと。
ただし、「βth」は、ヒッチ角判定しきい値である。
【0094】
異常検出部42Cは、先の2つの条件(G5),(G6)のいずれも成立しないとき、ヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角βの値は正常であると判定する。異常検出部42Cは、ヒッチ角βの値が正常であることを示す検出信号S4を生成する。
【0095】
<代替信号生成部42D>
代替信号生成部42Dは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在する異常が発生したことを示すものであるとき、検出対象(B1)~(B4)に対する代替信号を生成する。具体的には、つぎの通りである。
【0096】
代替信号生成部42Dは、検出信号S4が、検出対象(B2)、すなわち操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αに、代替値が存在する異常が発生したことを示すものであるとき、第1の代替信号S5を生成する。第1の代替信号S5は、トラクタ11のヨーレートYR1に基づき演算される第1の推定操舵角α11^を示す電気信号である。代替信号生成部42Dは、異常検出部42Cと同様にして、前輪11Fの第1の推定操舵角α11^を演算する。
【0097】
代替信号生成部42Dは、検出信号S4が、検出対象(B3)、すなわち車輪速V,Vに基づき演算される車速Vに、代替値が存在する異常が発生したことを示すものであるとき、第2の代替信号S6を生成する。第2の代替信号S6は、車輪速V,Vを検出できる車輪の車輪速V,Vのみを使用して演算される車速Vを示す電気信号である。
【0098】
代替信号生成部42Dは、検出信号S4が、検出対象(B4)、すなわちヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角βに、代替値が存在する異常が発生したことを示すものであるとき、第3の代替信号S7を生成する。第3の代替信号S7は、推定ヒッチ角β^を示す電気信号である。代替信号生成部42Dは、異常検出部42Cと同様にして、推定ヒッチ角β^を演算する。
【0099】
代替信号生成部42Dは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在しない異常が発生したことを示すものであるとき、それら検出対象(B1)~(B4)に対する代替信号を生成しない。
【0100】
代替信号生成部42Dは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)がいずれも正常であることを示すものであるとき、それら検出対象(B1)~(B4)に対する代替信号を生成しない。
【0101】
<ステートマネージャ42E>
ステートマネージャ42Eは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4に基づき、連結車両10の後退支援制御の制御モードを判定する。ステートマネージャ42Eは、後退支援制御の制御モードを、つぎの3つの制御モード(C1)~(C3)のうち、いずれが1つの制御モードに設定する。
【0102】
C1.正常モード
C2.不調モード
C3.異常モード
ステートマネージャ42Eは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)がいずれも正常であることを示すものであるとき、後退支援制御の制御モードを正常モードに設定する。
【0103】
ステートマネージャ42Eは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在する異常が発生したことを示すものであるとき、後退支援制御の制御モードを不調モードに設定する。
【0104】
ステートマネージャ42Eは、異常検出部42Cにより生成される検出信号S4が、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在しない異常が発生したことを示すものであるとき、後退支援制御の制御モードを異常モードに設定する。
【0105】
ステートマネージャ42Eは、設定される制御モードを示す電気信号S10を生成する。表示装置20は、電気信号S10に基づき、後退支援制御の制御モードを認識する。表示装置20は、認識される制御モードを画面21に表示する。トラクタ11の操作者は、視覚を通じて、制御モードを認識することが可能である。制御部42Bは、電気信号S10に基づき、後退支援制御の制御モードを認識する。制御部42Bは、認識される制御モードに応じて、後退支援制御を実行する。
【0106】
ステートマネージャ42Eは、後退支援制御の制御モードに応じて、トラクタ11の駆動装置60に対する第1の要求信号S8、およびトラクタ11の制動装置70に対する第2の要求信号S9を生成する。ステートマネージャ42Eは、制御モードが不調モードおよび異常モードであるとき、第1の要求信号S8および第2の要求信号S9を生成する。
【0107】
駆動装置60は、トラクタ11の走行用の駆動源、および自動変速機を含む。駆動源は、アクセルペダルの踏み込み量に応じて、トラクタ11が走行するための駆動力を発生する。駆動源は、たとえば、エンジンなどの内燃機関、または走行用モータである。自動変速機は、パーキングロック機構を有する。パーキングロック機構は、トラクタ11のシフトレンジがパーキングレンジに切り替えられるとき、トラクタ11の車輪、たとえば前輪が回転しないように、自動変速機の内部で回転をロックする機構である。
【0108】
第1の要求信号S8は、駆動源に対して、制御モードに応じた駆動力を発生することを要求するための電気信号、および、パーキングロック機構に対して、アンロック状態からロック状態へ切り替えることを要求するための電気信号を含む。また、第1の要求信号S8は、駆動源に発生させるべき駆動力の目標値を示す電気信号を含む。駆動力の目標値は、制御モードに応じて予め設定される。駆動力は、制御量である。
【0109】
制動装置70は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、トラクタ11を減速あるいは停止させるための制動力を発生する。制動装置70は、電動パーキングブレーキ(EPB)を含む。電動パーキングブレーキは、駐停車時の車輪を固定するために使用される。電動パーキングブレーキは、内臓のモータが駆動することによって作動する。
【0110】
第2の要求信号S9は、制動装置70に対して、制御モードに応じた制動力を発生することを要求するための電気信号、および、電動パーキングブレーキを作動させることを要求するための電気信号を含む。また、第2の要求信号S9は、制動装置70に発生させるべき制動力の目標値を示す電気信号を含む。制動力の目標値は、制御モードに応じて予め設定される。制動力は、制御量である。
【0111】
<制御装置42の処理手順>
つぎに、制御装置42が実行する処理の手順を図6のフローチャートに従って説明する。フローチャートにかかる処理は、操作者による後退支援制御の開始操作、すなわち表示装置20の画面21に表示される支援開始ボタン21Aがタッチ操作されることを契機として、実行開始される。フローチャートにかかる処理は、定められた制御周期で実行される。
【0112】
図6のフローチャートに示すように、制御装置42は、まず、後退支援制御の制御モードを判定する(ステップS101)。
制御装置42は、先の4つの検出対象(B1)~(B4)がいずれも正常であるとき、後退支援制御の制御モードが正常モードであると判定する。制御装置42は、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在する異常が発生するとき、後退支援制御の制御モードが不調モードであると判定する。制御装置42は、先の4つの検出対象(B1)~(B4)の少なくとも1つに、代替値が存在しない異常が発生するとき、後退支援制御の制御モードが異常モードであると判定する。制御装置42は、制御モードが正常モードであると判定されるとき、処理を終了する。制御装置42は、制御モードが不調モードであると判定されるとき、ステップS102へ処理を移行する。
【0113】
ステップS102において、制御装置42は、制御モードを不調モードから異常モードへ移行する必要があるかどうかを判定する。ステップS102の処理内容は、先のステップS101で実行される処理と同じである。制御装置42は、制御モードを異常モードに移行する必要があると判定されるとき(ステップS102でYES)、制御モードを異常モードに移行する。具体的には、制御装置42は、後述のステップS112へ処理を移行する。制御装置42は、制御モードを異常モードに移行する必要がないと判定されるとき(ステップS102でNO)、ステップS103へ処理を移行する。
【0114】
ステップS103において、制御装置42は、調停処理を実行する。調停処理は、操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための処理である。調停処理は、制御モードに応じて、より高い安全性を確保する観点に基づき行われる。
【0115】
制御装置42は、操作量であるアクセルペダルの踏み込み量を検出する。アクセルペダルの踏み込み量は、操作者による加速操作量である。制御装置42は、アクセルペダルの踏み込み量に基づき、駆動装置60が発生する駆動力を演算する。駆動力は、加速制御量である。制御装置42は、アクセルペダルの踏み込み量に応じた第1の駆動力と、現在の駆動力である第2の駆動力とを比較する。制御装置42は、第1の駆動力と第2の駆動力との最小値を選択する。制御装置42は、駆動力の目標値として選択された駆動力を含む第1の要求信号S8を生成する。
【0116】
制御装置42は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。ブレーキペダルの踏み込み量は、操作者による制動操作量である。制御装置42は、ブレーキペダルの踏み込み量に基づき、制動装置70が発生する制動力を演算する。制動力は、制動制御量である。制御装置42は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた第1の制動力と、現在の制動力である第2の制動力とを比較する。制御装置42は、第1の制動力と第2の制動力との最大値を選択する。制御装置42は、制動力の目標値として選択された制動力を含む第2の要求信号S9を生成する。
【0117】
制御装置42は、操作者の手動操作に応じた前輪11Fの操舵角αの制御を、後退支援制御の実行に伴う前輪11Fの操舵角αの制御に優先させる。すなわち、制御部42Bにより生成される目標操舵角α に応じた操舵角αではなく、操作者のステアリングホイールの操舵状態に応じた操舵角αが実現される。
【0118】
つぎに、制御装置42は、前輪11Fの操舵角速度を減少させるための処理を実行する(ステップS104)。操舵角速度は、操舵角αの時間変化率である。制御装置42は、操舵角速度を正常モードの設定時に許容される操舵角速度よりも小さい値に減少させるための処理を実行する。制御装置42は、操舵角速度が、定められた制限値未満の値まで減少するように、たとえば、前輪11Fの目標操舵角α の値を調節する。制限値は、安全性の向上という観点から、たとえば車両モデルを使用したシミュレーションを通じて設定される。制限値は、制御モードが正常モードであるときに許容される操舵角速度よりも小さい値である。
【0119】
つぎに、制御装置42は、停車要求があるかどうかを判定する(ステップS105)。停車要求は、たとえば、操作者によりブレーキペダルが踏み込み操作されることである。ブレーキペダルの操作は、たとえば、車載のペダルストロークセンサを通じて検出される。ペダルストロークセンサは、ブレーキペダルの操作量に応じた電気信号S11を生成する。制御装置42は、電気信号S11に基づき、ブレーキペダルが操作されたかどうかを認識する。制御装置42は、ブレーキペダルが操作されていないことが認識されるとき、操作者からの停車要求がないと判定し(ステップS105でNO)、ステップS102へ処理を移行する。制御装置42は、ブレーキペダルが操作されていると認識されるとき、操作者からの停車要求があると判定し(ステップS105でYES)、ステップS106へ処理を移行する。
【0120】
ステップS106において、制御装置42は、操舵角速度を制限値未満の値に減少させた状態を維持しつつ、連結車両10を停車させるための処理を実行する。連結車両10を停車させるための処理は、制動装置70を作動させるための処理である。
【0121】
制御装置42は、連結車両10の停車が確認されるとき(ステップS107)、ステップS108へ処理を移行する。制御装置42は、たとえば、車速Vに基づき、連結車両10が停車したがどうかを判定する。
【0122】
ステップS108において、制御装置42は、後退支援制御の終了操作が行われたかどうかを判定する。制御装置42は、表示装置20の画面21に表示される支援終了ボタン21Bがタッチ操作されたと認識されるとき、後退支援制御の終了操作が行われたと判定する。制御装置42は、表示装置20の画面21に表示される支援終了ボタン21Bがタッチ操作されたと認識されないとき、後退支援制御の終了操作が行われたと判定する。
【0123】
制御装置42は、後退支援制御の終了操作が行われたと判定されるとき(ステップS108でYES)、後退支援制御の実行を終了し(ステップS109)、処理を終了する。
制御装置42は、後退支援制御の終了操作が行われたと判定されないとき(ステップS108でNO)、設定時間だけ経過したかどうかを判定する(ステップS110)。設定時間が経過したかどうかの基準は、先のステップS107で停車が確認された時点である。
【0124】
制御装置42は、連結車両10が停車してから設定時間だけ経過したと判定されるとき、連結車両10を停車した状態に維持するための処理を実行し(ステップS111)、処理を終了する。制御装置42は、電動パーキングブレーキを作動させるための処理、および、パーキングロック機構をアンロック状態からロック状態へ切り替えるための処理を実行する。
【0125】
なお、先のステップS101において、制御装置42は、制御モードが異常モードであると判定されるとき、ステップS112の調停処理を経て、ステップS113へ処理を移行する。ステップS112の処理内容は、先のステップS103で実行される処理と同じである。
【0126】
ステップS113において、制御装置42は、前輪11Fの操舵角αを保持した状態で、制動装置70を作動させる。この後、ステップS107へ処理を移行する。
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0127】
(1)制御装置42は、後退支援制御の制御モードとして、正常モード、不調モード、および異常モードを有している。正常モードは、車両状態量の異常が検出されないときに設定される制御モードである。車両状態量は、先の4つの検出対象(B1)~(B4)を含む。不調モードは、車両状態量の異常が検出される場合であって、車両状態量の代替値が存在するときに設定される制御モードである。異常モードは、車両状態量の異常が検出される場合であって、車両状態量の代替値が存在しないときに設定される制御モードである。
【0128】
制御装置42は、制御モードが不調モードに設定されるとき、車両状態量の代替値を使用して後退支援制御の実行を継続する。また、制御装置42は、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両10を停車させるための処理を実行する。このように、後退支援制御に使用される車両状態量の異常が検出されるとき、後退支援制御の制御モードが不調モードであるか異常モードであるかに応じて、連結車両10の挙動が制御される。したがって、車両状態量の異常に対して適切に対処することができる。
【0129】
(2)制御装置42は、制御モードが不調モードに設定される場合、連結車両10の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、連結車両10を停車させるための処理を実行する。すなわち、不調モードで後退支援制御が実行されている場合、連結車両10を停車させる操作者の意思が確認されるとき、連結車両10を停車させるための処理が実行される。このため、操作者の停車しようとする意思に応じて連結車両10が停車するため、操作者は違和感を覚えにくい。
【0130】
(3)制御装置42は、制御モードが不調モードに設定されるとき、連結車両10の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行する。連結車両10の操作者による操作量と、現在の制御量とが調停されることにより、不調モードでの後退支援制御を、より適切に実行することができる。
【0131】
(4)制御装置42は、制御モードが不調モードに設定されるとき、前輪11Fの操舵角速度を正常モードの設定時に許容される操舵角速度よりも小さい値に減少させるための処理を実行する。このため、制御モードが不調モードに設定されるとき、前輪11Fの操舵角速度が正常モードの設定時よりも減少することにより、不調モードでの後退支援制御を、より安全に実行することができる。
【0132】
(5)制御装置42は、制御モードが不調モードに設定される場合、連結車両10の操作者による特定の操作を通じて停車要求があったとき、前輪11Fの操舵角速度を減少させた状態を維持しつつ、連結車両10を停車させるための処理を実行する。操作者の停車しようとする意思に応じて連結車両10が停車するため、操作者は違和感を覚えにくい。また、前輪11Fの操舵角速度が正常モードの設定時よりも減少するため、不調モードでの後退支援制御を、より安全に実行することができる。
【0133】
(6)制御装置42は、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両10の操作者による操作量と、現在の制御量とを調停するための調停処理を実行したうえで、連結車両10を停車させるための処理を実行する。制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両10の操作者による操作量と、現在の制御量とが調停されることにより、連結車両を停車させるための処理を、より適切に実行することができる。
【0134】
(7)制御装置42は、制御モードが異常モードに設定されるとき、前輪11Fの操舵角αを保持した状態で、連結車両10を停車させるための処理を実行する。制御モードが異常モードに設定されるとき、前輪11Fの操舵角αが保持されることにより、連結車両10を停車させるための処理を、より安全に実行することができる。
【0135】
(8)調停処理は、連結車両10の車輪に作用させる制動力として、操作者による制動操作量に対応する制動力と、現在の制動力との最大値を選択する処理を含む。また、調停処理は、連結車両10を走行させるための駆動力として、操作者による加速操作量に対応する駆動力と、現在の駆動力との最小値を選択する処理を含む。また、調停処理は、操作者の手動操作に応じた前輪11Fの操舵角αの制御を、後退支援制御の実行に伴う前輪11Fの操舵角αの制御に優先させる処理と、を含む。
【0136】
この構成によれば、制動力はより大きい値に制御される一方、駆動力はより小さい値に制御される。また、操作者の手動操作に応じた操舵角αの制御が、後退支援制御の実行に伴う操舵角αの制御に優先される。このため、制御モードが不調モードに設定されるとき、後退支援制御を、より安全に実行することができる。また、制御モードが異常モードに設定されるとき、連結車両を停車させるための処理を、より安全に実行することができる。
【0137】
(9)制御装置42は、制御モードが不調モードまたは異常モードに設定される場合、連結車両10を停車させるための処理の実行を通じて連結車両10が停車した後、連結車両10の操作者による後退支援制御の終了操作が検出されるとき、後退支援制御の実行を終了する。この構成によれば、後退支援制御の実行を終了しようとする操作者の意思に基づき、後退支援制御の実行を終了させることができる。
【0138】
(10)制御装置42は、制御モードが不調モードまたは異常モードに設定される場合、連結車両10を停車させるための処理の実行を通じて連結車両10が停車したとき、つぎの処理を実行する。すなわち、制御装置42は、停車した時点を基準として、定められた設定時間だけ経過しても連結車両10の操作者による後退支援制御の終了操作が検出されないとき、連結車両10を停車した状態に維持するための処理を実行する。したがって、車両の走行が規制されることにより、安全性が向上する。
【0139】
(11)制御装置42は、制御モードを、連結車両10の操作者に報知するための処理を実行する。制御装置42は、たとえば表示装置20を介して、制御モードを操作者の視覚に訴えて報知する。このため、操作者は後退支援制御の制御モードを認識することができる。また、操作者に、制御モードに応じた行動を促すことができる。
【0140】
(12)制御装置42は、前輪11Fの目標操舵角α 、前輪11Fの操舵角α、車速V、およびヒッチ角βの異常を検出する。これら異常の検出対象は、いずれも後退支援制御に使用される複数種類の車両状態量である。したがって、複数種類の車両状態量の異常に対して適切に対処することができる。
【0141】
(13)普通乗用車でステアリングホイールの操舵を通じて前輪11Fの操舵角を指定するのと同様に、操作者が入力装置41の操作を通じてトレーラ12の目標仮想操舵角α を指定することができる。操作者が入力装置41の操作を通じてトレーラ12の目標仮想操舵角α を指定することによって、非線形かつ不安定系のトレーラ12の後退運動をトラクタ11のみの単体車両、すなわち前輪操舵の普通乗用車とみなして制御することができる。このため、連結車両10の後退操作をより適切に支援することができる。操作者は、連結車両10の後退操作を普通乗用車と同じような感覚で行うことができる。
【0142】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
図6のフローチャートのステップS104において、制御装置42は、操舵角速度を減少させるための処理に加えて、車速Vを減少させるための処理を実行するようにしてもよい。また、制御装置42は、ステップS104において、操舵角速度を減少させるための処理に代えて、車速Vを減少させるための処理を実行するようにしてもよい。
【0143】
図6のフローチャートにおいて、ステップS102~ステップ104の処理を割愛してもよい。ステップS102~ステップ104の各処理は、製品仕様などによって、適宜組み合わせて実行するようにしてもよい。ステップS106の処理を割愛する場合、ステップS106の処理において、操舵角速度を減少させた状態を維持する処理を実行しなくてもよい。
【0144】
図6のフローチャートにおいて、ステップS112の処理を割愛してもよい。この場合、ステップS101において、制御装置42は、制御モードが異常モードであると判定されるとき、ステップS113へ処理を移行する。また、ステップS113の処理において、前輪11Fの操舵角αを保持する処理を実行しなくてもよい。
【0145】
・異常検出部42Cと、ステートマネージャ42Eとを、一つの処理部として統合してもよい。一つの処理部は、異常検出部42Cの機能と、ステートマネージャの機能とを有する。たとえば、異常検出部42Cにステートマネージャ42Eとしての機能をもたせてもよい。この場合、ステートマネージャ42Eを割愛することができる。また、ステートマネージャ42Eに異常検出部42Cとしての機能をもたせてもよい。この場合、異常検出部42Cを割愛することができる。
【符号の説明】
【0146】
10…連結車両
11…トラクタ
11F…前輪(操舵輪)
12…トレーラ
42…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6