(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140842
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】絶縁通信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 25/49 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H04L25/49 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046881
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】古田 善一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓祐
(72)【発明者】
【氏名】羅 炯竣
(72)【発明者】
【氏名】根塚 智裕
【テーマコード(参考)】
5K029
【Fターム(参考)】
5K029AA13
5K029DD24
5K029FF02
(57)【要約】
【課題】一回の変調にて通信する通信シンボル当たりの電流消費を抑制しつつデータレートを上げることを可能とした絶縁通信システムを提供する。
【解決手段】通信制御部21、16は、整数で表される状態の絶対値が互いに同一となる正状態「1」及び負状態「-1」と正状態及び負状態の中間の電流消費を生じないゼロ状態「0」とを含む三値以上にて通信データを構成し、通信データをまとめた通信シンボルにより絶縁部9、10、25、26を通じて絶縁通信する。通信制御部21、16は、多ビットデータの最初を負状態「-1」又は正状態「1」により設定すると共に、その後は三状態のうち何れの状態も取り得るように設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整数で表される状態の絶対値が互いに同一となる一又は複数の正状態(「1」「2」)及び一又は複数の負状態(「-1」「-2」)と前記正状態及び前記負状態の中間の電流消費を生じないゼロ状態(「0」)とを含む三値以上にて通信データを構成し、前記通信データをまとめた通信シンボルにより絶縁部(9、10、25、26)を通じて絶縁通信する通信制御部(21、16)を備え、
前記通信制御部は、前記通信シンボルのうち最初の前記通信データを前記正状態又は前記負状態により設定すると共に、その後の前記通信シンボル内においては前記通信データの前記三値以上のうち何れの状態も取り得るように設定する絶縁通信システム。
【請求項2】
電池監視ECU(4)と、複数の電池セルを接続して構成される組電池についてそれぞれ、前記電池セルの電圧を取得して監視する複数の電池監視装置(5a、5b、5c)と、により構成される電池監視システム(3)に適用され、
前記電池監視ECU及び前記複数の電池監視装置はそれぞれ前記通信制御部を備え、
前記電池監視ECUの通信制御部(22)、及び、前記複数の電池監視装置の通信制御部(16)は前記絶縁部を通じて差動信号により絶縁通信する請求項1記載の絶縁通信システム。
【請求項3】
一回の変調にて通信する通信シンボルの長さを記憶する記憶部(14)を備え、
前記通信制御部(16)は、前記通信シンボルの通信データを最初に受信した時点から前記記憶部に記憶された通信シンボルの長さに基づき予め定められたカウント数をカウントするまでの間に前記通信シンボルを受信する請求項1記載の絶縁通信システム。
【請求項4】
前記通信制御部は、一回の変調にて通信する前記通信シンボルの中の前記通信データの正状態、負状態を表す値の総和をゼロとするように設定する請求項1記載の絶縁通信システム。
【請求項5】
前記通信制御部は、整数で表される状態の絶対値が互いに同一となる複数組の正状態(「1」「2」)及び負状態(「-1」「-2」)により前記通信データを設定する請求項1記載の絶縁通信システム。
【請求項6】
一回の変調にて通信する通信シンボルの長さを記憶する記憶部(14)を備え、
前記通信制御部は、電源投入後には前記記憶部から通信シンボルの長さを読出し、
前記電池監視ECUの通信制御部から指令値を送信し前記電池監視装置の通信制御部から肯定応答を受信することで前記通信シンボルの長さを変更可能とする請求項2記載の絶縁通信システム。
【請求項7】
前記通信制御部は、前記通信シンボルを構成する最初の前記通信データの2ビットとしてマンチェスター符号を用いて通信する請求項1又は2記載の絶縁通信システム。
【請求項8】
クロック信号を生成するクロック生成部(13)を備え、
前記マンチェスター符号により変調された信号の立上りエッジもしくは立下りエッジを2ビット分検出し、当該検出したエッジ間の再生クロックについて内蔵する前記クロック生成部のクロック信号と比較することで、前記クロック生成部の発振周波数、前記クロック生成部のクロックをカウントすることで計数するカウンタのカウント値、又は、前記クロック生成部のクロック信号に基づく動作タイミングを補正する請求項7記載の絶縁通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車内用の絶縁通信手法としては、CAN、所謂Controller Area Networkが提案されている。CANは、ISO11898に規定されるようにECUやその他のデバイスが相互通信する通信規格であり、通信回路は従来より用いられるCANの通信規格に準拠した回路を用いることができる。しかし、今後、車内通信速度の向上の要求に伴い、データレートが増加することが予想される。このため、1ビット通信周期を短くする傾向が顕著となれば、単位時間当たりの消費電流が増加する。すなわち、データレートの増加に伴い消費電流を増大させてしまう。
【0003】
他方、絶縁通信技術では、マンチェスター符号を用いる方法がある。マンチェスター符号は2値位相変調方式とも呼ばれる方式であり、負状態「-1」から正状態「+1」への遷移、もしくは正状態「+1」と負状態「-1」への遷移に対して、送信データの「1」と「0」のバイナリ状態を割り当てた符号化方式である。そのため、マンチェスター符号では送信データ1ビットあたり2ビットの信号を送信する必要があり、電力効率が悪い反面、信号に直流成分が無いため、基本的に直流成分を信号伝達できない絶縁通信に適した符号形式である。また、状態遷移のタイミングがシンボルレートに一致しており、クロック埋め込みされた信号の伝送を可能にしており、受信側でクロック同期を可能にする符号でもある。
【0004】
通信回路は、主にデータ送信時に電力を大きく消費する。そのため、通信の消費電力を低減するにはデータ送信を短パルスで送信することが有効である。消費電流を大きく増加させずに送信単位であるシンボル毎の送信ビットを増加させるため、特許文献1、2記載の技術が提案されている。従来では、データ未送信時にはゼロ状態「0」として有効な通信データとして意味を持たせていなかったが、これらの特許文献1、2においては、ゼロ状態「0」も含めて符号化している点が特徴とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0050734号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0050736号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通信回路は、ゼロ状態「0」としているときには信号電力を消費しないため、送信側では送信するシンボル当たりの消費電力を低減できる。また、マンチェスター符号などの符号方式を用いて正状態「+1」と負状態「-1」にて駆動する期間を極力短くし、ゼロ状態「0」となる期間を長くすることで、単位時間当たりの駆動期間を短縮できるようになり、消費電力の低減を図ることができる。
【0007】
特許文献1に提示されているように、データを短パルスで送信することにより更に低消費電力化できるが、特許文献2に記載の符号化では、各シンボル間にすべて通信情報をもたせているため、そのような手法を用いることができない。また、もし仮にシンボルをバースト的に送信し、シンボル間に送信データを送信しない期間を設けたとしても、シンボルの先頭ビットにゼロ状態「0」を許容している符号化であるため、受信側でゼロ状態「0」のタイミングを検出する部を必要とし、受信側で通信シンボルの先頭ビットを判定することが困難である。
【0008】
本発明の目的は、一回の変調にて通信する通信シンボル当たりの電流消費を抑制しつつ受信側で通信シンボルの先頭ビットを判定できるようにした絶縁通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、整数で表される状態の絶対値が互いに同一となる正状態及び負状態と正状態及び負状態の中間の電流消費を生じないゼロ状態とを含む三値以上にて通信データを構成し通信データをまとめた通信シンボルにより絶縁部を通じて絶縁通信する絶縁通信部を備える。絶縁通信部は、通信シンボルのうち最初の通信データを正状態又は負状態により設定すると共に、その後の通信シンボル内においては通信データの三値以上のうち何れの状態も取り得るように設定する。
【0010】
請求項1記載の発明によれば、通信シンボルのうち最初の通信データを正状態又は負状態に設定しているため、受信側で通信シンボルの先頭ビットを判定できる。また、その後は通信データの三値以上の組み合わせ方に制限がなくなり、構成できる通信シンボルの個数を理論上で上限を無くすことができる。これにより、一回の変調にて通信する通信シンボル当たりの電流消費を抑制しつつ受信側で通信シンボルの先頭ビットを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における電池監視システムの電気的構成図
【
図3】送信回路がデータ信号を送信するときのスイッチ状態と通信線のレベルを対応して示す図
【
図6】3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図7】2ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図8】4ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図11】第2実施形態において3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図12】4ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図13】3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定の変形例その1
【
図14】3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定の変形例その2
【
図15】第3実施形態において3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図16】4ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定例
【
図17】3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定の変形例その1
【
図18】3ビットデータを通信する際の通信シンボル内の通信データの状態設定の変形例その2
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、絶縁通信システムの幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。各実施形態で同一構成となる部分については、後述する実施形態では同一符号を付して説明を省略することがある。
【0013】
(第1実施形態)
電池監視システムSの第1実施形態について
図1から
図9を参照しながら説明する。
図1に示すように、組電池1は、直列接続された複数の電池セル2をさらに直列に接続した組電池ユニット3を備える。電池セル2は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池である。組電池1に接続される電池監視システムSは、メインノードとなる電池監視ECU4と、スレーブノードとなる電池監視装置5a、5b、5cとを互いに絶縁通信するように接続することで絶縁通信システムを構成している。
【0014】
電池監視ECU4は、送受信部21、通信制御部22、記憶部23、及び高精度のクロック生成部24を備える。送受信部21は、絶縁部25、26を通じて電池監視装置5a、5cとの間で絶縁通信する絶縁通信部として構成される。電池監視ECU4は、電池監視装置5a、5b、5cとの間で送受信部21を用いて、通信データをまとめた通信シンボルを送受信する。電池監視ECU4は、クロック生成部24により生成されたクロック信号に基づいて動作すると共に、記憶部23に記憶されたプログラムを実行することで動作する。クロック生成部24は、例えば水晶発振器を用いて構成されており、後述する電池監視装置5a、5b、5cで用いられるクロック生成部13よりも高精度のクロック信号を生成できる。また水晶発振器に代えてシリコンMEMS発振器を用いてもよいし、GNSS衛星からGNSS基準周波数を受信してクロック信号を生成しても良い。
【0015】
電池監視装置5a、5b、5cは、直列接続された電池セル2の一部の端子間電圧を測定する。各段の電池監視装置5a、5b、5cが監視する電池セル2の数は互いに同数であるが、各段の電池監視装置5a、5b、5cが監視する電池セル2の数は、異なっていてもよい。また、各段の電池監視装置5a、5b、5cが監視する電池セル2は、互いにオーバーラップして監視しても良い。
【0016】
各段の電池監視装置5a、5b、5cは、それぞれ同一の構成要素を備えるため、国政要素に同一の符号を付して説明する。各段の電池監視装置5a、5b、5cは、それぞれ電池セル2の異常の有無を監視する電池監視IC7と、フィルタ部8と、絶縁部9、10と、を備える。
【0017】
電池監視IC7は、2つの送受信部11、12と、クロック生成部13、記憶部14、電池監視部15、及び通信制御部16と、を備える。フィルタ部8は、電池セル2の電圧を入力するとフィルタして電池監視IC7に出力する。電池監視部15は、フィルタされた電圧をA/D変換する。電池監視装置5a、5b、5cは、それぞれクロック生成部13により生成されたクロック信号に基づいて動作すると共に、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することで動作する。
【0018】
クロック生成部13はRC発振器もしくはリング発振器により構成されており、前述した電池監視ECU4のクロック生成部24よりも低精度のクロック信号しか生成できない。しかし、クロック生成部13は、通信制御部16からの補正指示に基づいて、前記発振器を構成するコンデンサに可変容量を用いる等することで当該可変容量を変更したり、バイアス電流を可変にすることで発振周波数を容易に変更できる。電池監視装置5a、5b、5cの電池監視IC7は、電池監視部15によりフィルタ部8を通じてそれぞれ担当する電池セル2の電圧を取得する。電池監視部15は、クロック生成部13の出力信号をベースとした基準信号とした参照信号を用いた交流インピーダンス法により電池セル2の状態を検出することもできる。
【0019】
電池監視ECU4の絶縁部25と電池監視装置5aの絶縁部9との間には通信線31が接続されている。電池監視装置5aの絶縁部10と電池監視装置5bの絶縁部9との間には通信線32が接続されている。電池監視装置5bの絶縁部10と電池監視装置5cの絶縁部9との間には通信線33が接続されている。電池監視装置5cの絶縁部10と電池監視ECU4の絶縁部26との間には通信線34が接続されている。すなわち、電池監視ECU4と電池監視装置5a~5cとの間には通信線31~34がリング接続されている。電池監視ECU4及び電池監視装置5a、5b、5cは、絶縁部9、10、25、26により絶縁された通信経路を用いて差動信号により絶縁通信を行う。なお、絶縁部9、10、25、26は、絶縁素子としての例えば容量、又は、トランスとフィルタにより構成される。
【0020】
また、電池監視装置5a、5b、5cの通信制御部16は、電池監視ECU4からクロック生成部13のクロック信号の補正指示を受け付けると、電池監視ECU4の高精度のクロック信号の周波数に近づけるように絶縁通信を用いてクロック生成部13のクロック信号の周波数を補正する。
【0021】
各段の電池監視装置5a、5b、5cの2つの送受信部11、12は、それぞれ通信制御部16に接続されており、通信制御部16は、送受信部11、12によりそれぞれ隣の電池監視ECU4、又は、電池監視装置の送受信部11、12との間で通信できる。
【0022】
例えば、電池監視装置5aの2つの送受信部11、12は、それぞれ電池監視ECU4の送受信部21、電池監視装置5bの送受信部11との間で接続されている。電池監視装置5bの2つの送受信部11、12は、それぞれ電池監視装置5aの送受信部12、電池監視装置5cの送受信部11との間で接続されている。電池監視装置5cの2つの送受信部11、12は、それぞれ電池監視装置5bの送受信部12、電池監視ECU4の送受信部21との間で接続されている。
【0023】
電池監視ECU4は、電池監視装置5a、5b、5cとマスター・スレーブ方式の通信することで電池監視ECU4からの指令値を送信したり、各電池監視装置5a、5b、5cの状態、電池セル2の電圧値の測定結果を読み出すことができる。この際、各電池監視装置5a、5b、5cの構成回路は、監視を実施する電池セル2から基準となるグランド電圧を得るため、送受信部11、12の送受信両端子は絶縁部9、10にて絶縁されている。電池監視ECU4及び電池監視装置5a、5b、5cは差動信号により通信することで、通信周期を短くしてもS/N比を確保でき、低消費電流化できる。
【0024】
以下、通信シンボルの具体的な符号化方法を説明する。電池監視ECU4及び各電池監視装置5a、5b、5cは、電流消費を生じないゼロ状態「0」と、このゼロ状態「0」より高い電圧レベルの正状態「1」、ゼロ状態「0」より低い負状態「-1」の三値以上の整数で表される値によって通信データを構成し、当該通信データをまとめた通信シンボルにより絶縁部25、26、9、10を通じて絶縁通信する。
【0025】
本実施形態では、符号化の特徴として、一シンボル当たりの送信電圧値の平均値、すなわちDC成分が0になるように例示されており、絶縁通信に都合が良いように工夫されている。整数で表される状態の正状態として「1」、負状態として「-1」とする形態を説明するが、正状態として「2」、負状態として「-2」など絶対値が同一となる正負状態を組み合わせて平均値がDC成分が0となるように構成しても良い。
【0026】
送受信部21、11、12は構成が同一であるため、送受信部11の構成を例示する。
図2に送受信部11のうち特に送信回路11aの構成を例示している。
図2に示すように、送信回路11aは、電源電圧VCCの印加ノードとグランドノードの間に、Pチャネル型のMOSトランジスタP1とダイオードD1、D2、及び、Nチャネル型のMOSトランジスタN1を接続すると共に、さらに、電源電圧VCCの印加ノードとグランドノードの間に、Pチャネル型のMOSトランジスタP2とダイオードD3、D4及びNチャネル型のMOSトランジスタN2を接続することで、Hブリッジ型に構成したHブリッジ回路を備えている。そして、送信回路11aは、ダイオードD1、D2の共通接続点NhとダイオードD3、D4の共通接続点Nlとの間の電圧を通信データとして通信線31へ出力する。
【0027】
図3に示したように、送信回路11aは、MOSトランジスタP1、N2をオンすると共に、MOSトランジスタP2、N1をオフする。すると、共通接続点Nlの電位よりも共通接続点Nhの電位を高くして通信線31に出力できる。以下の説明では、このとき通信線31のバス状態を正状態「+1」と称する。
【0028】
また送信回路11aが、負状態「-1」を出力する場合、MOSトランジスタP2、N1をオンすると共に、MOSトランジスタP1、N2をオフする。すると、共通接続点Nhの電位よりも共通接続点Nlの電位を高くして通信線31に出力できる。以下の説明では、このとき通信線31のバス状態を負状態「-1」と称する。
【0029】
また送信回路11aが、ゼロ状態「0」を出力する場合、MOSトランジスタP1、P2、N1、N2をオフすることで、共通接続点Nh、Nlをオープン状態に保持する。このとき、相手側の受信回路が通信線31に接続されており、電源電圧VCCとグランドの中間値に予め設定されたバイアス電位を通信線31に出力することでゼロ状態「0」を出力できる。このとき、送信回路11aは、MOSトランジスタP1、P2、N1、N2を共にオフしているため、電流消費することはない。
【0030】
また、一対の通信線31の間にスイッチ用にMOSトランジスタを接続して構成しても良い。もしくは、一対の通信線31の間にダイオードを介してスイッチ用にMOSトランジスタを接続して構成しても良い。このとき、当該MOSトランジスタがオンされることにより、一対の通信線31の間の電位を共通電位に設定できるようになり、ゼロ状態「0」を通信線31に出力できる。
【0031】
なお、相手側の受信回路、例えば電池監視ECU4の送受信部21は、通信線31の電位を所定のハイ閾値Vth及びロウ閾値Vtlと比較し、ハイ閾値Vthを上回っていればポジティブパルスPのデジタル信号を受信し正状態「1」として受付け、ロウ閾値Vtlを下回っていればネガティブパルスNのデジタル信号を受信し負状態「-1」として受付ける。
【0032】
送受信部21が、これらの正状態「1」と負状態「-1」を受け付ける間に、ハイ閾値Vth以下で且つロウ閾値Vtl以上となるサンプリングタイミングが存在すれば、このサンプリングタイミングにてゼロ状態「0」として受け付ける。通信線31の差電圧が、ゼロ状態「0」に維持されていれば原理的に消費電流を生じることはない。このため、本形態の技術を適用することで、消費電流を上昇させることなくデータレートを向上できる。
【0033】
以下、通信データの符号化方法と詳細な送受信方法について
図4及び
図5を参照しながら説明する。前述したように、絶縁通信は、通信データを負状態「-1」、正状態「1」、ゼロ状態「0」の三値データによって構成した通信シンボルを用いて通信を行う。
【0034】
通信線31~34は、電池監視装置5a、5b、5c間、又は、電池監視ECU4及び電池監視装置5a、5b、5c間に接続されているが、電源起動直後には、この通信線31~34は、通常のスタンバイ時にゼロ状態「0」と同電位に維持される。このため、電池監視ECU4又は電池監視装置5a、5b、5cが、通信データを送信する際にはゼロ状態「0」から開始させることはなく、通信シンボルを構成する最初の状態は、負状態「-1」もしくは正状態「1」に設定する。なぜなら、ゼロ状態「0」としてしまうと相手の受信側でゼロ状態「0」の通信データを認識できないためである。
【0035】
電源起動後に、電池監視ECU4又は電池監視装置5a、5b、5cが絶縁通信を用いて通信を行う場合には、まず初めに通信制御部22又は16が、それぞれの記憶部23又は14から通信フォーマット等の通信制御に必要な情報を読み込む。記憶部23、14に記憶されている情報は概ね同一であるため、以下では記憶部14に記憶されている情報を説明し、記憶部23に記憶されている情報の説明を省略する。
【0036】
電池監視IC7の記憶部14には、一回の変調にて通信する通信シンボル長Tsが記憶されている。具体的には、
図4に示すように、各記憶部14には、通信シンボル長Ts(=t4-t1)又は通信シンボル長Tsに基づいて予め定められた値DEMOD_TH1と、通信シンボル間隔Tp(=t6-t1)-通信シンボル長Tsに基づいて予め定められた値DEMOD_TH2と、が記憶されている。値DEMOD_TH1は、通信シンボルを1シンボルだけ送信する時間に対応して予め定められており、
図5に示す通信シンボル長Tsよりもマージン時間(=t5-t4)だけ長い時間をカウントするカウント時間の閾値を示している。また、値DEMOD_TH2は、1シンボルを受信した後から次の1シンボルを受信するまでの時間に対応して予め定められており、
図5に示す通信シンボル間隔Tp-(シンボル長Ts+マージン時間)に相当する時間をカウントするカウント時間の閾値を示している。
【0037】
ここでは、電池監視ECU4から電池監視装置5aに通信シンボルを送信する例を示す。電池監視ECU4の通信制御部22は、コマンド及びデータから構成される送信データを生成する。このとき、通信制御部22は、送信データを負状態[-1」、正状態「1」、ゼロ状態「0」の三値の何れかで構成して所定ビットの通信シンボルに変換する変調を行い送受信部21に出力する。本実施形態では、3ビットの通信データにより1通信シンボルを構成する形態を示す。またこのとき、通信シンボルの最初の通信データは、受信側の通信データの先頭を判定可能にするように、負状態「-1」又は正状態「1」になるように構成する。送受信部21は、その通信データの系列を通信アナログ信号に変換した後に絶縁部25と通信線31を介して送信する。このとき、送信する1シンボルの長さであるシンボル長Tsは、通信シンボル間の間隔である通信シンボル間隔Tpより短い時間で行われる。
【0038】
受信側の電池監視装置5aでは、電源起動時より送受信部11、12が受信待機状態になっており、受信した通信信号を復調するか否かを制御する復調制御信号DEMOD_ENは復調有効な状態「H」で待機している。電池監視装置5aの電池監視IC7の通信制御部16は、電源投入後には記憶部14から通信シンボル長Tsを読出す処理を実行する。具体的には、通信制御部16は、電源投入後に記憶部14に予め記憶された値DEMOD_TH1、DEMOD_TH2を通信シンボル長Tsに対応してレジスタに読出して待機する。
【0039】
電池監視ECU4の送受信部21は、
図5のタイミングt1において通信アナログ信号を送信すると、電池監視IC7の送受信部11は、高いハイ閾値Vthを比較対象として設定される比較器と、低いロウ閾値Vtlを比較対象として設定される比較器により受信した通信アナログ信号を比較して受信デジタル信号に変換する。
【0040】
電池監視IC7の通信制御部16は、カウンタを内蔵しており、通信シンボルの通信データを最初に受信した時点から記憶部14に記憶された通信シンボルの長さに基づき予め定められたカウント数をカウントするまでの間に通信シンボルを受信するようになっている。
【0041】
具体的には、電池監視IC7の通信制御部16は、送受信部11が通信シンボルの最初の信号を検知すると、最初の通信データを受信したタイミングt1からカウントアップ動作を開始する。カウンタは、クロック生成部13によるクロックに基づいて順次カウントアップする。復調制御信号DEMOD_ENはアクティブ「H」とされているため、あらかじめ定められたタイミング毎に受信デジタル信号を復調する。
【0042】
通信制御部16は、カウンタがレジスタ値DEMOD_TH1に達するまで、すなわち復調制御信号DEMOD_ENがアクティブ「H」となっている間、送受信部11、12を通じて通信データを受信して復調する。すなわち、復調制御信号DEMOD_ENがアクティブとなっている間、通信制御部16は、受信した通信データの状態を、クロック生成部13によるクロックに基づいて生成されるサンプリングタイミングにて、その状態が正状態「1」であるか負状態「-1」であるかゼロ状態「0」であるかを判定する。
【0043】
本実施形態の場合、通信シンボルを構成する通信データは3ビットであることが予め定められている。このため、前述の値DEMOD_TH1、3ビットである情報、カウンタ値に基づいて、3ビットのサンプリングタイミングをカウンタ値により規定することができ、当該規定されたサンプリングタイミングにて、その状態が正状態「1」であるか負状態「-1」であるかゼロ状態「0」であるかを判定できる。ゼロ状態「0」では消費電力を消費しないため、通信速度と消費電力を両立させ、さらに通信線31~34に重畳される雑音に対して強い通信を実現できる。
【0044】
通信制御部16は、タイミングt5においてカウンタがレジスタ値DEMOD_TH1に達すると、復調制御信号を復調無効な状態「L」にするとともにカウント値をリセットしカウントを継続する。
【0045】
その後、カウンタがレジスタ値DEMOD_TH2に達すると復調制御信号を復調有効な状態「H」に変更する。復調制御信号が状態「L」となっている間、通信制御部16は復調動作を行わない。このため、この復調制御信号が状態「L」となっている期間t5~t6中に、雑音により送受信部11、12が誤動作したとしても復調動作を行うことはなく健全な通信状態を保つことができる。その後も
図5のt6からt11に示すように通信シンボルを通信することができる。このようにして、通信シンボル間隔Tp毎に通信シンボルの通信処理を繰り返し継続できる。
【0046】
なお、通信制御部16の内部に搭載された別のカウンタを用いて、内蔵するクロック生成部13のクロックをカウントし、クロック生成部13の発振周波数の誤差を見積もりクロック生成部13のクロック周波数を補正することもできる。
【0047】
一つの通信シンボルを構成する通信データが3ビットである場合の符号化手法を
図6に示している。3ビットの通信データを符号化する際には、
図6に示すように、通信データを時系列で「-1」「1」「0」、「-1」「1」「-1」、「1」「-1」「0」、「1」「-1」「1」、「-1」「0」「1」、「-1」「0」「-1」、「1」「0」「-1」、「1」「0」「1」の8種類に規定すると良い。すると、3ビットの通信データを3単位時間だけで表現できる。ここで、「-1」は負状態、「1」は正状態、「0」はゼロ状態を示している。
【0048】
一つの通信シンボルを構成する通信データが2ビットである場合の符号化手法を
図7に示している。2ビットの通信データを符号化するためには、
図7に示すように、通信データを時系列で「-1」「1」「0」、「1」「-1」「0」、「-1」「0」「1」、「1」「0」「-1」の4種類に規定すると良い。すると、2ビットの通信データを3単位時間だけで表現できる。
【0049】
一つの通信シンボルを構成する通信データが4ビットである場合の符号化手法を
図8に示している。
図8に示すように、4ビットデータを符号化する際には、通信データを時系列順に「-1」「1」「0」「1」、「-1」「1」「0」「-1」、「-1」「1」「-1」「1」、「-1」「1」「-1」「-1」、「1」「-1」「0」「1」、「1」「-1」「0」「-1」、「1」「-1」「1」「-1」、「1」「-1」「1」「0」、「-1」「0」「1」「-1」、「-1」「0」「1」「0」、「-1」「0」「-1」「1」、「-1」「0」「-1」「0」、「1」「0」「-1」「1」、「1」「0」「-1」「0」、「1」「0」「1」「-1」、「1」「0」「1」「0」、の16種類に規定すると良い。すると、4ビットデータを4単位時間だけで表現できる。
【0050】
すなわち、多ビットデータの構成では、多ビットデータの最初を負状態「-1」又は正状態「1」により設定すると共に、その後は、負状態「-1」、正状態「1」に加えてゼロ状態「0」の三状態のうち何れの状態も取り得るように設定しても良い。具体的に言い換えると、通信データのルールは、正状態「1」の次を負状態「-1」、又は、ゼロ状態「0」、とし、負状態「-1」の次を正状態「1」、又は、ゼロ状態「0」とし、ゼロ状態「0」の次を正状態「1」、又は、負状態「-1」とする条件を満たすようにすることが望ましい。これにより、2~4ビットよりさらに多ビット化できる。
【0051】
<比較例との比較結果>
一般に、正状態「1」、負状態「-1」のみを用いて通信データを送信するときには、これらの正状態「1」、負状態「-1」の回数に応じてスイッチング素子のスイッチング回数も比例して増加し、
図9の従来技術の特性Bに示すように、消費電流がデータレートに正比例して増加することになる。
【0052】
図6~
図8に示す通信データの設定例において、これらの
図6~
図8の範囲で1ビット送信可能なデータレートを基準値の1とする。すると、そのデータレート相対値は、
図9の本実施形態の特性Aに示すように、(2ビットデータ):(3ビットデータ):(4ビットデータ)=4:6:8と表すことができる。
【0053】
また
図6~
図8を用いて説明したように、ゼロ状態「0」を用いて通信データを通信することで、正状態「1」、負状態「-1」の変更回数の増加を抑制できる。しかも、正状態「1」、負状態「-1」からゼロ状態「0」、また、ゼロ状態「0」から正状態「1」、負状態「-1」に変更するときには、当該レベルの変化度が正状態「1」から負状態「-1」に変化させるときよりも変化度が少なくなるため、スイッチング損失を低下させることができ、さらに消費電力を抑制できる。このため、データレートを大きくしたとしても、消費電流は従来技術のように上昇することなく、低消費電力化できる。なお本実施形態の場合、
図9の特性Aに示したように、(2ビットデータ):(3ビットデータ):(4ビットデータ)における消費電流相対値は4:4.5:5.8と換算できる。
【0054】
本実施形態によれば、多ビットデータの構成において、多ビットデータの最初を負状態「-1」、又は、正状態「1」により設定すると共に、その後は多ビットデータの三レベルのうち何れのレベルも取り得るように設定している。これにより、構成できる多ビットデータの個数を理論上で上限を無くすことができ、必要に応じて増やすことができる。これにより、一回の変調にて通信する通信シンボル当たりの電流消費を抑制しつつ受信側で通信シンボルの先頭ビットを判定できる。
図6~
図8は通信シンボル構成の一例を示したが他の組み合わせでも構成可能であることは言うまでもない。
【0055】
(第2実施形態)
第2実施形態について
図10及び
図11を参照しながら説明する。例えば、第1実施形態の通信符号化手法を用いるときに、一通信シンボル間隔Tp当たり正状態「1」又は負状態「-1」にて表現するビット数を増加させてしまうと、消費電流を発生しないゼロ状態「0」の比率が減少し、低消費電力化の効果が目減りすることになる。これに対し、通信シンボル間隔Tp当たり通信データを構成するゼロ状態「0」の個数を極力増加させることで、より低消費電力化できることがわかる。
【0056】
正常動作時には、通信線31~34を通信する通信アナログ信号がロウ閾値Vtl又はハイ閾値Vthに達することで、受信側では、正状態「1」又は負状態「-1」の通信データとして認識できる。しかし低消費電力化の恩恵を最大化するため、その間のゼロ状態「0」を大幅に増加するとゼロ状態「0」の期間が長くなる。するとスタンバイ時の電圧が低下して誤動作する虞がある。このとき、負状態「-1」と正状態「1」の数がバランスしていないと、スタンバイ時の電圧がゼロ状態「0」の標準値から大きく外れることになり、ある範囲を超えると通信信号がロウ閾値Vtlに達しないことがあり、誤動作する虞がある。
図10に誤動作を例示したように、送信側で正状態「1」、負状態「-1」で連続する通信データを送信したときに、受信側では、ハイ閾値Vth、ロウ閾値Vtlの何れかの閾値側、この
図10に示す例ではロウ閾値Vtlに達しないため誤動作の原因となる。
【0057】
このため、正状態「1」、ゼロ状態「0」、負状態「-1」からなる通信データを構成するときに、正状態「1」、負状態「-1」を同一個数含み、一回の変調にて通信する通信シンボルの中の通信データの正状態「1」、負状態「-1」を表す値の総和をゼロとするように設定することが望ましい。
【0058】
特に、負状態「-1」と正状態「1」とゼロ状態「0」の組合わせ方として、負状態「-1」及び正状態「1」は通信シンボル間隔Tp当たり一回とし、その他のゼロ状態「0」の個数を二回以上とすることが望ましい。
【0059】
一つの通信シンボルを構成する通信データが3ビットである場合の符号化手法を
図11に示している。3ビットの通信データに対し負状態「-1」、正状態「1」をそれぞれ一回ずつ設定する際には、
図11に示すように、負状態「-1」を先頭に設定すると共に、その後に設定する正状態「1」の位置を通信データ毎にずらして設定するか、正状態「1」を先頭に設定すると共に、その後に設定する負状態「-1」の位置を通信データ毎にずらして設定すると良い。すると、全ての3ビットの通信データを5単位時間で表現できる。
【0060】
一つの通信シンボルを構成する通信データが4ビットである場合の符号化手法を
図12に示している。4ビットの通信データに対し負状態「-1」、正状態「1」をそれぞれ一回ずつ設定する際には、
図12に示すように、負状態「-1」を先頭に設定すると共に、その後に設定する正状態「1」の位置を通信データ毎にずらして設定するか、正状態「1」を先頭に設定すると共に、その後に設定する負状態「-1」の位置を通信データ毎にずらして設定すると良い。すると、全ての4ビットの通信データを9単位時間で表現できる。
【0061】
図13及び
図14に変形例を示している。
図13及び
図14には通信データが「000」の場合のみを例示しており、他の組合せを省略している。正状態「1」、負状態「-1」は通信シンボル内で同一個数であれば、正状態「1」を二つずつ設定すると共に、負状態「-1」を二つずつ設定するようにしても良い。なお、通信シンボルの先頭の通信データは負状態「-1」又は正状態「1」に設定する必要があるが、ゼロ状態「0」の位置は先頭以外であればどの位置に設定しても良く、
図13に示すように通信シンボルのうち中間のビットに設定しても良いし、
図14に示すように通信シンボルのうち最後のビットに設定しても良い。
【0062】
本実施形態では、通信シンボル間隔Tp当たりの各通信データを通信する際に、正状態「1」、負状態「-1」を同一回数としているため、第1実施形態と比較しても消費電流を抑制でき、各通信データを送信する際の消費電流をさらに低減でき、概ね理想値にできる。特に、負状態「-1」と正状態「1」を一回だけとし、その他は複数のゼロ状態「0」を構成している場合には、ゼロ状態「0」の数を増やすことができ消費電流を最大限低減できる。
【0063】
(第3実施形態)
第3実施形態について
図15から
図18を参照しながら説明する。本願に係る技術を用いると、通信シンボル間隔Tp当たりの通信データが多ビット構成になればなるほど、ゼロ状態「0」が長期間継続することになる。正状態「1」と負状態「-1」との間のゼロ状態「0」が長期間設定されると、受信側では、サンプリングタイミングを規定するクロック信号が同期をとれず、正常に通信できない虞がある。
【0064】
そこで、通信シンボルを構成する最初の通信データの2ビットはマンチェスター符号のデータ構成を用いることが望ましい。マンチェスター符号は2値位相変調方式とも呼ばれる方式であり、負状態「-1」から正状態「+1」への遷移、もしくは正状態「+1」と負状態「-1」への遷移に対して、それぞれ送信データの「1」と「0」のバイナリ状態を割り当てた符号化方式である。
【0065】
図15に3ビットの通信データ、
図16に4ビットの通信データを通信シンボルとして設定した場合の構成例を示している。これらの
図15、
図16中、太枠で囲われた最初の2ビットの通信データは、正状態「1」と負状態「-1」、又は、負状態「-1」と正状態「1」に設定されており、これらの最初の2ビットがマンチェスター符号として構成されている。このとき、最初の2ビットの状態遷移のタイミングがシンボルレートに一致しており、最初の2ビットの状態遷移の間隔の周期をもつクロックが埋め込みされた信号の伝送を可能にしている。
【0066】
図15の例において、送信側では、例えば最初の2ビットを正状態「1」と負状態「-1」に割り当てて通信信号を送信する。なお、
図15、
図16中の三ビット目以降については、正状態「1」がポジティブパルスP、負状態「-1」がネガティブパルスN、ゼロ状態「0」が所定の安定電位(ゼロ電位)の通常の送信デジタル信号(
図5参照)を送信する。
【0067】
最初の二ビットのマンチェスター符号を設定する際、例えば、三ビット目の通信データを正状態「1」として設定するときには、プリアンブルとなる最初の一ビット目の通信データを正状態「1」とすると共に二ビット目の通信データを負状態「-1」に設定すると良い。逆に、三ビット目の通信データを負状態「-1」として設定するときには、最初の一ビット目の通信データを負状態「-1」とすると共に二ビット目の通信データを正状態「1」に設定すると良い。
【0068】
また、ポストアンブルとなる最終の通信データには、最初の一ビット目の通信データと逆の極性となるように設定すると良い。これにより、通信シンボル間隔Tp当たりの正状態「1」のと負状態「-1」の回数を一致させることができ、通信線31~34の電位をバランスできる。
【0069】
電池監視ECU4が送受信部21を通じて最初の2ビットにマンチェスター符号化した通信シンボルを送信すると、受信側の電池監視IC7の送受信部11は、マンチェスター符号化された受信アナログ信号を最初の2ビット分検出し、その立上りエッジ又は立下りエッジの状態遷移を検知する。
【0070】
通信制御部16は、各通信シンボルにおいて検出した状態遷移間の時間間隔を計測して、通信シンボル間隔Tpを周期とする再生クロックとして取得する。通信制御部16は、計測された再生クロックのエッジが発生する時間間隔の間、内蔵するクロック生成部13のクロック信号を計数する。そして、通信制御部16は、計数されたクロック生成部13のクロック数と、予め見積もられて記憶部14に記憶された基準クロック数と比較することにより、クロック生成部13の発振周波数の誤差を見積もりクロック生成部13の発振周波数を補正する。
【0071】
これにより、電池監視ECU4が備えるクロック生成部24のクロック信号の発振周波数と、クロック生成部13のクロック信号の発振周波数とのずれを補正できる。また、通信制御部16は、カウンタのカウント値にオフセットを付加して補正したり、また、クロック生成部13のクロック信号に基づく各種の動作タイミングを補正したりすることもできる。
【0072】
ここでは、電池監視ECU4のクロック生成部24のクロック信号の発振周波数に、電池監視装置5a内のクロック生成部13のクロック信号の発振周波数ずれを合わせる形態を示したが、他の電池監視装置5b、5cの内部のクロック生成部13のクロック信号の発振周波数ずれを合わせる際にも同様に適用できる。
【0073】
この場合、電池監視ECU4が、送受信部21を通じて最初の2ビットにマンチェスター符号を用いた通信シンボルを、電池監視装置5b、5cに対し通信線31~33を通じてリング接続順に送信すると、到達した信号の2ビットのエッジ間の時間間隔の情報を伝達できる。
【0074】
電池監視ECU4、電池監視装置5a、5b及び5cは、通信線31~34によりリング接続されている。このため、通常の一般的な信号であれば後段に伝達されるほど到達時間誤差が蓄積される。しかし、本形態のように2ビットの状態遷移間の時間間隔の情報を伝達することで、電池監視ECU4から電池監視装置5a、電池監視装置5aから5b、電池監視装置5bから5cに至るまで、これらの2ビットの状態遷移間の時間間隔を概ね同一とすることができる。
【0075】
このため、電池監視装置5b、5c内では、同様にそれぞれ内蔵したクロック生成部13のクロック信号によりカウントして2ビットのエッジ間の時間間隔と照合し、予め見積もられて記憶部14に記憶された基準クロック数と比較することにより、クロック信号の発振周波数ずれを電池監視装置5aと同様に補正できる。
【0076】
この結果、比較的高精度のクロック生成部24のクロック信号の周波数に、各電池監視装置5a、5b、5cに内蔵されるクロック生成部13のクロック信号の発振周波数を容易に合わせることができる。
【0077】
前述では、マンチェスター符号化した立下り/立上りエッジ間の時間間隔を測定してクロック生成部13のクロック信号の発振周波数を補正した形態を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、電池監視ECU4の通信制御部22が送受信部11を通じて2つの連続したパルスを送信し、電池監視装置5a、5b、5cの側では当該パルス間の立上りエッジ間又は立下りエッジ間の時間間隔をクロック信号によりカウントして基準クロック数と比較し、クロック生成部13の発振周波数を補正するようにしても良い。もしくは、各通信シンボルにおける最初の1ビットの間隔、例えば立上りエッジと立下りエッジ間の時間間隔、又は、立下りエッジと立上りエッジ間の時間間隔、を利用して発振周波数を補正しても良い。最初の1ビットの間隔に限らず、特定の位置のビットの間隔を利用して発振周波数を補正しても良い。
【0078】
図17及び
図18に変形例を示している。
図17及び
図18には通信データが「001」の場合のみを例示しており、他の組合せを省略している。正状態「1」、負状態「-1」は通信シンボル内で同一個数であれば、正状態「1」を三つずつ設定すると共に、負状態「-1」を三つずつ設定するようにしても良い。
【0079】
なお、通信シンボルの先頭から2ビットの通信データは負状態「-1」又は正状態「1」に設定する必要があるが、ゼロ状態「0」の位置は先頭から二ビットまで以外であればどの位置に設定しても良く、
図17に示すように通信シンボルのうち中間の通信データに設定しても良いし、
図18に示すように通信シンボルのうち最後のビットに設定しても良い。つまり、先頭と最後は極性が逆でなくても良く、先頭を正状態「1」としながら最後をゼロ状態「0」と設定しても良い。
【0080】
(他の実施形態)
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば以下に示す変形又は拡張が可能である。
【0081】
前述実施形態では通信シンボルを負状態「-1」、正状態「1」、ゼロ状態「0」の三値で構成した形態を説明したが、これに限定されるものではない。負状態は「-1」に限られず、負状態「-2」、負状態「-3」などと符号化し、これらの複数組の負状態「-1」「-2」「-3」の絶対値に合わせて通信アナログ信号を振幅変調するように構成しても良い。
【0082】
同様に、正状態は「1」に限られず、正状態「2」、正状態「3」などと符号化しても良い。これらの複数組の正状態「1」「2」「3」の絶対値に合わせてアナログ信号を振幅変調するように構成しても良い。この際、通信データの数値の総和をゼロとするように通信シンボルを構成することで、ゼロ状態「0」に対応したゼロ電位を基準として通信線31~34の電位を正負にバランス良く保つことができ、前述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0083】
電池監視IC7の通信制御部16は、電源投入後に記憶部14から通信シンボル長Tsとして値DEMOD_TH1、DEVOD_TH2を読み出してレジスタに設定する形態を示したが、この値DEMOD_TH1、DEMOD_TH2は電池監視ECU4の側から電池監視装置5a、5b、5cに対して変更指令可能となっていても良い。
【0084】
例えば、電池監視ECU4の通信制御部22は、値DEMOD_TH1、DEVOD_TH2の指令値を送信することで通信シンボルを構成する通信データのビット数を変更指令することができる。これは、値DEMOD_TH1を変更することで、復調制御信号DEMOD_ENがアクティブとなる期間を変更できるためであり、受信側で受信できる通信シンボル長Tsを変更できるためである。この際、電池監視装置5a、5b、5cの通信制御部は、この変更指令を受け入れるときに肯定応答(ACK)を送信する。これにより、通信シンボルを構成する通信データのビット数を変更可能に構成できる。
【0085】
本開示に記載の電池監視ECU4、電池監視装置5a、5b、5cによる手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の電池監視ECU4、電池監視装置5a、5b、5c及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。
【0086】
若しくは、本開示に記載の電池監視ECU4、電池監視装置5a、5b、5c及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【0087】
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0088】
図面中、3は電池監視システム(絶縁通信システム)、4は電池監視ECU、9、10、25、26は絶縁部、14、23は記憶部、16、22は通信制御部、を示す。