(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140845
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】防護柵用支柱
(51)【国際特許分類】
E01F 15/02 20060101AFI20230928BHJP
E01D 19/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E01F15/02
E01D19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046885
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】日鉄神鋼建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義悟
(72)【発明者】
【氏名】小山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸裕
【テーマコード(参考)】
2D059
2D101
【Fターム(参考)】
2D059AA22
2D101CA06
2D101DA04
2D101EA02
2D101FA21
2D101FB11
2D101GA17
(57)【要約】
【課題】橋梁上の道路の床版取替え工事に用いても、仮設し直しの手間を要さず、中央分離帯が狭い道路等に用いても、両側に設ける防護柵の両方に対して、その優れた効果を発揮させることができる、防護柵用支柱を提供する。
【解決手段】基礎としての床版7に固定されるベースプレート11と、ベースプレート11から立設された管体21とを備え、管体21に負荷される衝撃荷重を管体21の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱1であって、管体21は、角形であり、この角形の管体21の下端部21aの四隅の角部21eに、その管軸方向に間隔33を空けて形成された一組の切欠孔31A,31Bをそれぞれ備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレートから立設された管体とを備え、前記管体に負荷される衝撃荷重を当該管体の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱であって、
前記管体は、角形であり、当該角形の管体の下端部の四隅の角部に、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔をそれぞれ備えていること
を特徴とする防護柵用支柱。
【請求項2】
前記一組の切欠孔は、前記管体を貫通する貫通孔であること
を特徴とする請求項1に記載の防護柵用支柱。
【請求項3】
前記一組の切欠孔は、下側の切欠孔の高さ位置、及び上側の切欠孔の高さ位置が、それぞれ略同一とされていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の防護柵用支柱。
【請求項4】
前記一組の切欠孔は、下側の切欠孔の径と上側の切欠孔の径とは、略同一又は上側の切欠孔の方がより大きくされていること
を特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の防護柵用支柱。
【請求項5】
前記一組の切欠孔は、その径が、25mm以上、48mm以下に設定されていること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の防護柵用支柱。
【請求項6】
前記一組の切欠孔は、その間隔が、10mm以上に設定され、下側の切欠孔の下端部の高さ位置が、前記ベースプレートの上面から10mm以上に設定されていること
を特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の防護柵用支柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用、橋梁用等の防護柵に用いられる防護柵用支柱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路用、橋梁用等の防護柵に関しては、車両等の衝突時における衝撃荷重を吸収して事故の被害を可能な限り小さく抑えつつ、乗員等の安全性を確保できるような構造とすることが要求されており、防護柵に用いられる防護柵用支柱に関しても、そのような要求に適うような構造とすることが求められている。
【0003】
例えば、近年の防護柵用の角形支柱に求められる性能としては、荷重負荷試験を行なった場合に、SB種(標準支柱間隔1.0m)では、その極限支持力が30kN以上であることと、その変位量が300mmとなるまで破断せずに衝撃荷重を吸収できることとが要求されている。
【0004】
このような要求性能を満足するうえで、単に防護柵用支柱の肉厚、材料等を調整して剛性を高めるのみでは、防護柵用支柱を構成するベースプレートと管体との溶接接合部の早期の破断を招いてしまい、要求性能を満足することが困難なものとなっている。このため、従来から、要求性能を満足できるよう、防護柵用支柱の構造について種々に工夫したものが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、エネルギー吸収が良好で支柱材がスチフナー付近で折れて破壊される心配を無くすために、センタースチフナー(割込みリブ)で支柱材の下端とベースプレートは溶接していない防護柵用支柱が開示されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に開示された従来の防護柵用支柱は、支柱変形の初期段階の荷重が低く衝突車両を安全な方向に早期に誘導できないことが問題である。さらに、この特許文献1に開示された従来の防護柵用支柱は、支柱材料に加えてセンタースチフナーの付加部材が必要となるため、材料費の増大、溶接作業の増大によるコストの増大、重量増による施工性の悪化の問題が生じる。
【0007】
これに対して、特許文献2には、基礎に固定されるベースプレートから立設される管体の衝撃荷重を受ける側に対して反対側の下端部に、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔を備え、一組の切欠孔は、管体の管周方向に間隔を空けて二組形成された防護柵用支柱が開示されている。
【0008】
この特許文献2に開示された従来の防護柵用支柱は、補強板がなくとも補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を支柱変位量が小さい変形初期段階で得ることができるとともに、変形終期段階における耐荷重について更なる向上を図ることができ、更には使用部材数を抑えることを可能とする、という優れた衝撃吸収効果等を有する。
【0009】
しかしながら、この優れた衝撃吸収効果等を有する特許文献2に開示された防護柵用支柱でも、例えば、橋梁上の4車線道路の床版取替え工事において、床版撤去後の開口部からの車両の落下を防ぐために仮設用として設置する場合、その効果を発揮させるには、片側半断面の工事終了後、残り半断面の工事に、防護柵を反転して仮設し直さないとならないという手間が生じるという問題点がある。
【0010】
また、この優れた衝撃吸収効果等を有する特許文献2に開示された防護柵用支柱では、中央分離帯が狭い道路である場合等には、両側に設ける防護柵の一方に対してしか、その優れた衝撃吸収効果を発揮させることができないという問題点もある。
【0011】
なお、特許文献3には、衝撃エネルギーの吸収能力に優れ景観性を担保し製造コストを抑えるために、管体とベースプレートが溶接され柵材設置部に対抗する背面側でベースプレート近傍に管軸方向に長い切り欠き部が形成されている管状支柱が開示されているが、特許文献2に開示された防護柵用支柱と同様な問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-117245号公報
【特許文献2】特開2011-127408号公報
【特許文献3】特開2008-202393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、橋梁上の道路の床版取替え工事に用いても、仮設し直しの手間を要さず、中央分離帯が狭い道路等に用いても、両側に設ける防護柵の両方に対して、その優れた衝撃吸収効果を発揮させることができる、防護柵用支柱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る防護柵用支柱は、基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレートから立設された管体とを備え、前記管体に負荷される衝撃荷重を当該管体の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱であって、前記管体は、角形であり、当該角形の管体の下端部の四隅の角部に、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔をそれぞれ備えていることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係る防護柵用支柱は、第1発明において、前記一組の切欠孔は、前記管体を貫通する貫通孔であることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係る防護柵用支柱は、第1発明又は第2発明において、前記一組の切欠孔は、下側の切欠孔の高さ位置、及び上側の切欠孔の高さ位置が、それぞれ略同一とされていることを特徴とする。
【0017】
第4発明に係る防護柵用支柱は、第1発明~第3発明の何れかにおいて、前記一組の切欠孔は、下側の切欠孔の径と上側の切欠孔の径とは、略同一又は上側の切欠孔の方がより大きくされていることを特徴とする。
【0018】
第5発明に係る防護柵用支柱は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記一組の切欠孔は、その径が、25mm以上、48mm以下に設定されていることを特徴とする。
【0019】
第6発明に係る防護柵用支柱は、第1発明~第5発明の何れかにおいて、前記一組の切欠孔は、その間隔が、10mm以上に設定され、下側の切欠孔の下端部の高さ位置が、前記ベースプレートの上面から10mm以上に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
第1発明~第6発明に係る防護柵用支柱によれば、管体の前面側と背面側のいずれにも横架材を設置すれば、橋梁上の道路の床版取替え工事に用いても、仮設し直しの手間を要さず、中央分離帯が狭い道路等に用いても、管体の前面側と背面側の両側に横架材を設けた防護柵の両側に対して、補強板がなくとも補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を支柱変位量が小さい変形初期段階で得ることができるとともに、変形終期段階における耐荷重について更なる向上を図ることができ、更には使用部材数を抑えることを可能とする、という優れた衝撃吸収効果等を発揮させることができる。
【0021】
特に、第2発明に係る防護柵用支柱によれば、一組の切欠孔は、管体を貫通する貫通孔であるので、打ち抜き加工等で容易に形成することができる。
【0022】
特に、第3発明に係る防護柵用支柱によれば、一組の切欠孔は、下側の切欠孔の高さ位置、及び上側の切欠孔の高さ位置が、それぞれ略同一とされているので、管体の前面側と背面側の性能を容易に略同一とすることができる。
【0023】
特に、第4発明に係る防護柵用支柱によれば、一組の切欠孔は、下側の切欠孔の径と上側の切欠孔の径とは、略同一又は上側の切欠孔の方がより大きくされているので、略同一の場合は、優れた衝撃吸収効果を発揮でき、上側の切欠孔の方がより大きい場合は、より優れた衝撃吸収効果を発揮できることが実証試験で確認された。
【0024】
特に、第5発明に係る防護柵用支柱によれば、一組の切欠孔は、その径が、25mm以上、48mm以下に設定され、例えば、SB種(標準支柱間隔1.5m)では、その極限支持力が30kN以上であることと、その変位量が300mmとなるまで破断せずに衝撃荷重を吸収できることが実証試験で確認された。
【0025】
特に、第6発明に係る防護柵用支柱によれば、一組の切欠孔は、その間隔が、10mm以上に設定され、下側の切欠孔の下端部の高さ位置が、ベースプレートの上面から10mm以上に設定され、加工が容易であることが実証試験で確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱を用いて組み立てた防護柵の概略構成を示す平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の側面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱の概略構成を示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)におけるA-A線矢視断面図であり、
図2(c)は、
図2(a)におけるB-B線矢視断面図である。
【
図3】
図3は、防護柵用支柱における極限支持力と、横架材の極限曲げモーメントとの関係を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)~
図4(c)は、防護柵用支柱における切欠孔の径をそれぞれ変えた場合の防護柵用支柱における変位と、荷重との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、防護柵用支柱における切欠孔の径と、破断時の変位との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱の変形初期段階において管体の下端部に負荷される応力分布を模式的に示した図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱の変形初期段階以降において管体の下端部の変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱の変形終期段階での変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を適用して例示した実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
[実施形態]
図1(a)は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱を用いて組み立てた防護柵の概略構成を示す平面図であり、
図1(b)は、
図2(a)の側面図である。
図2(a)は、本発明の実施形態に係る防護柵用支柱の概略構成を示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)におけるA-A線矢視断面図であり、
図2(c)は、
図2(a)におけるB-B線矢視断面図である。
【0029】
この実施形態に係る防護柵3は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、コンクリート等からなる基礎となる橋梁上の道路の床版7に対して間隔を空け、ベースプレート11の固定用ボルト孔17(後述)に固定用ボルト6を通し固定して立設された複数の防護柵用支柱1と、複数の防護柵用支柱1の上面に溶接等で固定された横架材51と、複数の防護柵用支柱1の前面側及び背面側に対してそれぞれ溶接等で固定して架設された横架材52,53とを備えている。なお、この実施形態に係る防護柵3は、一例として、橋梁上の道路の工事に用いられる仮設タイプのものであり、ベースプレート11の下側の床版7は、ボルト6を介して、受けプレート12でそれぞれ支持されている。また、この実施形態に係る防護柵3では、ブラケットを介さず、横架材51,52,53を取り付けるタイプのものとしたが、これに限定されず、ブラケットを介して横架材を取り付けるタイプのものとして実施してもよい。さらに、この実施形態に係る防護柵3は、道路の中央分離帯に設ける常設タイプのものであってもよい。
【0030】
この実施形態に係る防護柵用支柱1は、
図2(a)及び
図1(b)に示すように、基礎となる床版7に固定される固定用ボルト孔17を有するベースプレート11と、ベースプレート11から溶接接合部22で立設された管体21とを備え、管体21に負荷される衝撃荷重を管体21の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱である。
【0031】
そして、この実施形態に係る防護柵用支柱1は、
図2(a)~
図2(c)に示すように、管体21は、角形であり、この角形の管体21の下端部21aの四隅の角部21eに、その管軸方向(管体21の下端部21aと上端部21bとの間の方向)に間隔33を空けて形成された一組の切欠孔31A,31Bをそれぞれ備えている。
【0032】
ここで、防護柵用支柱1の一組の切欠孔31A,31Bは、いずれも、管体21を貫通するように、打ち抜き加工等で形成された貫通孔である。
【0033】
また、これら一組の切欠孔31A,31Bは、
図2(a)~
図2(c)に示すように、下側の切欠孔31Aの高さ位置と径、及び上側の切欠孔31Bの高さ位置と径が、それぞれ略同一とされている。
【0034】
具体的には、これら一組の切欠孔31A,31Bは、その径が、25mm以上、48mm以下に設定されている。なお、一組の切欠孔31A,31Bにおいて、例えば、下側の切欠孔31Aの径を30mmとし、上側の切欠孔31Bの径を40mmとして、上側の切欠孔31Bの方をより大きくした場合が、略同一の場合に比して、より優れた衝撃吸収効果を発揮できることが実証試験で確認された。
【0035】
これら一組の切欠孔31A,31Bの径を上述したように設定する理由について以下に説明する。
【0036】
先ず、角形支柱に荷重負荷試験を行なった場合、例えば、SB種(標準支柱間隔1.0m)では、
図3のグラフから、その極限支持力が30kN以上必要なことが分かる。
【0037】
また、同じ条件の、防護柵用支柱1に、径が30mm(
図4(a))、20mm(
図4(b))、15mm(
図4(c))の切欠孔31A,31Bを設け、静荷重試験を行ったところ、
図4(a)に示した径が30mmの切欠孔31A,31Bを設けたもののみが、300mm変形するまで破断せず、必要な要求を満たしており、必要なエネルギー吸収が行われることが分かった。すなわち、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、切欠孔31A,31Bの径を20mm以下にすると、300mm変形する前に破断してしまい、必要な要求を満たしておらず、必要なエネルギー吸収が行われないことが分かった。
【0038】
また、防護柵用支柱1の断面係数Zと支柱支持力Pwの以下の関係式が求まる。
Pw=0.0007Z-4.7255
Z=(Pw+4.7255)/0.007
これより、Pw=30kN以上となるためのZ断面係数を求める。
Z≧(30+4.7255)/0.007=49608mm3であることから、Z=49608mm3を満足する孔の径を検討した結果、48mmとなった。
よって、切欠孔31A,31Bの径は、最大値48mmまでであればSB種強度及び変形性能の両方を満足すると考えられる。
【0039】
次に、実証試験を行い、破断時の変位量から切欠孔31A,31Bの径の最小値を推定する。
試験結果である
図5のグラフより防護柵用支柱1の径φ(mm)と破断時の変位δmmの間に以下の関係式が求まる。
δ=9.6φ+60
φ=25mm
これより、変位300mmまで破断しない切欠孔31A,31Bの径φは25mmとなる。
【0040】
なお、切欠孔31A,31Bの径を25mmとして、静荷重試験を行い、300mm変形するまで破断せず、必要な要求を満たしており、必要なエネルギー吸収が行われることも確認した。
【0041】
以上により、一組の切欠孔31A,31Bは、その径が、25mm以上、48mm以下に設定されるのが好ましいことが分かった。
【0042】
また、これら一組の切欠孔31A,31Bは、その間隔33が、10mmに設定され、下側の切欠孔31Aの下端部の高さ位置が、ベースプレート11の上面11aから10mmに設定されている。
【0043】
これは、実証試験を行った結果、一組の切欠孔31A,31Bは、その間隔33が、10mm以上に設定され、下側の切欠孔31Aの下端部の高さ位置が、ベースプレート11の上面11aから10mm以上に設定されていると、加工が容易であることが分かったからである。
【0044】
次に、
図6~
図8を用いて、防護柵3の横架材5や防護柵用支柱1に対して車両等が衝突して、防護柵用支柱1の管体21の前面側から背面側に向かう方向に衝突荷重が負荷された場合について説明する。
【0045】
先ず、管体21の下端部21aで塑性変形が始まるまでの変形初期段階においては、
図6に示すように、管体21の下端部21aの背面側では管軸方向の圧縮応力P1が負荷され、その前面側においては管軸方向の引張応力が負荷される。このとき、管体21の切欠孔31A,31Bは、
図6に示すように、これに負荷される管軸方向の圧縮応力により、その管周方向両側の側縁31aが互いに離れて広がるように変形しようとして、切欠孔31A,31Bの管周方向の両側に管周方向の引張応力P2が負荷されることになる。
【0046】
ここで、
図6に示すような管体21の二組の切欠孔31A,31Bにより囲まれた部位S1に対して負荷される応力について説明する。この部位S1に対しては、まず、上述のような管周方向の引張応力P2が負荷される。また、この部位S1に対しては、管周方向に亘って略均一な管軸方向の圧縮応力P1が負荷されることになる。また、この部位S1に対しては、管体21の内側に凹むように変形させる曲げ応力が負荷されることになる。これら管軸方向の圧縮応力P1、管周方向の引張応力P2、曲げ応力がある程度超えた時点で、この部位S1が内側に凹むように座屈する塑性変形が始まることになる。
【0047】
ちなみに、
図6に示すような管体21の二組の切欠孔31A,31Bにより囲まれた部位S1に対して管周方向の両側に位置する部位S2に対しても、切欠孔31A,31Bにより管周方向の引張応力P2が負荷されることになる。また、この部位S2に対しては、部位S1から管周方向に遠くなるにつれて小さくなるような管軸方向の圧縮応力P1が負荷されることになる。
【0048】
ここで、一組の切欠孔31A,31B間に間隔33が設けられている。このため、上述のような管体21の二組の切欠孔31A,31Bにより囲まれた部位S1や部位S2に対して負荷される管周方向の引張応力P2に対して、この間隔33により抵抗することが可能となる。これにより、管周方向の引張応力P2に対する座屈強度の向上が図られて、変形初期段階における最大耐荷重を向上させることが可能となる。
【0049】
続いて、変形初期段階以降においては、
図7に示すように、管体21の各部位S1,S2に対して引き続き管軸方向の圧縮応力P1、管周方向の引張応力P2、曲げ応力が負荷される。この結果、
図7、
図8に示すように、二組の切欠孔31A,31Bにより囲まれた部位S1は内側に凹むように、この部位S1に対して管周方向の両側に位置する部位S2は外側に凸となるような塑性変形が進行することになる。
【0050】
ここで、一組の切欠孔31A,31Bに間隔33が設けられている。この間隔33は、管体21の内側に凹むように変形する部位S1と、管体21の外側に凸となるように変形する部位S2とをつなげるように設けられている。このため、この間隔33に対しては、管体21の内側に凹むように変形させる方向の荷重と、管体21の外側に凸となるように変形させる方向の荷重とが負荷され、その結果、部位S1や部位S2の変形量に対して間隔33の変形量が小さくなることになる。これは、二組の切欠孔31A,31Bにより囲まれた部位S1の内側に凹むような変形と、その部位S1に対して管周方向両側に位置する部位S2の外側に凸となるような変形とに対して、間隔33が抵抗することを意味しており、その結果、塑性変形が始まった以降の変形終期段階での耐荷重が向上することになる。
【0051】
なお、防護柵用支柱1の管体21の背面側から前面側に向かう方向に衝突荷重が負荷された場合についても同様であるので、説明を省略する。
【0052】
以上説明した本発明の実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、管体21の前面側と背面側のいずれにも横架材5を設置すれば、橋梁上の道路の床版取替え工事に用いても、仮設し直しの手間を要しない。よって、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、橋梁上の道路の床版取替え工事の工期を短縮でき、コストの低減も図ることができる。
【0053】
また、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、中央分離帯が狭い道路等(道路幅を広げるために中央分離帯を狭める場合等も含む。)に用いても、
図6~
図8を用いて説明したように、管体21の前面側と背面側の両側に横架材5を設けた防護柵3の両側に対して、補強板がなくとも補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を支柱変位量が小さい変形初期段階で得ることができるとともに、変形終期段階における耐荷重について更なる向上を図ることができ、更には使用部材数を抑えることを可能とする、という優れた衝撃吸収効果等を発揮させることができる。よって、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、この防護柵用支柱1の重量低減により、防護柵用支柱1を道路の中央分離帯に設置する工事の施工性も向上し、工期を短縮でき、コストの低減も図ることができる。
【0054】
また、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、一組の切欠孔31A,31Bは、管体21を貫通する貫通孔であるので、打ち抜き加工等で容易に形成することができる。
【0055】
また、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、一組の切欠孔31A,31Bは、下側の切欠孔31Aの高さ位置と径、及び上側の切欠孔31Bの高さ位置と径が、それぞれ略同一とされているので、管体21の前面側と背面側の性能を容易に略同一とすることができる。
【0056】
また、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、一組の切欠孔31A,31Bは、その径が、25mm以上、48mm以下に設定されている。そのため、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、例えば、SB種(標準支柱間隔1.0m)では、その極限支持力が30kN以上であることと、その変位量が300mmとなるまで破断せずに衝撃荷重を吸収できることが上述したように実証試験で確認された。
【0057】
さらに、この実施形態に係る防護柵用支柱1によれば、一組の切欠孔31A,31Bは、その間隔33が、10mm以上に設定され、下側の切欠孔31Aの下端部の高さ位置が、ベースプレート11の上面11aから10mm以上に設定され、加工が容易であることが上述したように実証試験で確認された。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 防護柵用支柱
11 ベースプレート
11a ベースプレートの上面
12 受けプレート
17 固定用ボルト孔
21 管体
21a 管体の下端部
21b 管体の上端部
21e 管体の角部
22 溶接接合部
3 防護柵
31A 切欠孔
31B 切欠孔
31a 切欠孔の側縁
33 切欠孔の間隔
51 横架材
52 横架材
53 横架材
6 固定用ボルト
7 床版(基礎)
P1 圧縮応力
P2 引張応力
S1 部位
S2 部位