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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140870
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】副室式エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/18 20060101AFI20230928BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20230928BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F02B19/18 B
F02B19/12 D
F02F3/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046915
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】林 伸治
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA02
3G023AB01
3G023AD09
3G023AD23
3G023AD28
3G023AD29
(57)【要約】
【課題】本開示の少なくとも一つの実施形態は、ジェット点火システムを備えた副室式エンジンであって、副室から噴出される火炎をピストン頂面に設けられたガイド部に衝突させることによって、主室内において偏りなく分散させて主室内での混合気の燃焼を改善することを目的とする。
【解決手段】シリンダヘッドに設けられた隔壁により主室21と副室23に区画され、この副室23内に形成される火炎35を、隔壁に設けられた連通路31を介して副室内から主室内に噴出させて主室内の混合気に着火する副室式エンジン1であって、ピストン頂面9aに連通路から噴出された火炎が衝突するような凸形状のガイド部33を備え、ガイド部は、ピストン9の平面視において副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在し、ガイド部の高さは、副室から遠ざかるにつれて低くなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主室と、シリンダヘッドに設けられた隔壁により前記主室と区画された副室と、前記隔壁に設けられ前記主室と前記副室とを連通する複数の連通路と、を備え、前記副室内の混合気の着火により前記副室内に形成される火炎を、前記連通路を介して前記主室内に噴出させて前記主室内の混合気に着火する副室式エンジンであって、
ピストン頂面に前記連通路から噴出された火炎が衝突するような凸形状のガイド部を備え、
前記ガイド部は、ピストンの平面視において前記副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在し、前記ガイド部の高さは、前記副室から遠ざかるにつれて低くなること、を特徴とする副室式エンジン。
【請求項2】
前記ピストンの平面視において、前記連通路の中心軸の延長線と、前記延長線の前記ガイド部との交点における前記ガイド部の傾斜方向を示す接線であってシリンダ内周壁側へ向かう側の接線とのなす角度は鈍角であること、を特徴とする請求項1に記載の副室式エンジン。
【請求項3】
前記ピストンの平面視において、前記ガイド部は前記副室から離れるに従って周方向に湾曲していること、を特徴とする請求項1又は2に記載の副室式エンジン。
【請求項4】
前記ピストンの平面視において、前記ガイド部の先端部と前記副室の中心部とを結ぶ直線が、隣接する前記ガイド部と交差するように、前記ガイド部の先端部が位置されること、を特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の副室式エンジン。
【請求項5】
前記ガイド部は、前記ピストンの平面視において、シリンダ内周壁側の先端部に向かうにつれて細くなること、を特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の副室式エンジン。
【請求項6】
前記ピストンの平面視において、互いに隣接する前記ガイド部の間に、前記ガイド部と同方向に副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在するサブガイド部をさらに備えること、を特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の副室式エンジン。
【請求項7】
前記サブガイド部の高さは、前記ガイド部への前記連通路からの火炎の衝突位置における高さより低く、且つ、主室の中心より同一半径における周方向においてサブガイド部の両側のガイド部の高さより低く形成されていること、を特徴とする請求項6に記載の副室式エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
副室式エンジンの一例として、特許文献1が知られている。特許文献1には、副燃焼室(副室)から主燃焼室(主室)への火炎等のガスをピストン頂面に形成した衝突ガイド面に沿って拡散させ、主燃焼室での燃焼スピードを短縮して熱効率を向上させる技術が示されている。
【0003】
この特許文献1に示されている衝突ガイド面の形状は、傾斜面と段部弧状曲面とから構成され、更に、段部弧状曲面に縦方向の旋回流を形成するように上方に湾曲した曲面を形成するものである。そして、主燃焼室へ噴出したガスは、縦方向の旋回流で噴出エネルギーのペネトレーションを強化し、吸気スワールに乗って主燃焼室での混合を促進して燃焼スピードをアップし、熱効率を向上できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-307244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
隔壁により主室から分離された副室を設け、これら主室と副室とを互いに連通する連通路を隔壁に形成し、副室内の混合気を発火させて、このとき副室内に形成される火炎が連通路を介して主室内に噴出するようにして主室内の混合気に点火するシステム(ジェット点火システム)を備えた副室式エンジンにおいては、副室内に形成され連通路を介して主室内に噴出する火炎(ジェット火炎)が、ピストンより温度の低いシリンダ内壁面やシリンダライナに衝突することで熱損失が増加する課題がある。
【0006】
また、ジェット火炎は、シリンダ内壁面やピストンの頂面等に衝突して拡散していくため、火炎が壁面に衝突しない主室中心側(副室付近)においては、副室の隣り合う連通路から噴出されるジェット火炎とジェット火炎との間では火炎の拡散が生じにくいため燃焼が緩慢になる課題がある。
【0007】
一方、前述の特許文献1においては、副室から主室への火炎等のガスをピストン頂面に形成した衝突ガイド面に沿って拡散させることが示されているが、この衝突ガイド面の形状は、主室中心部分(副室付近)においては、ピストン頂面からの高さは低く、主室周縁部分においては高くなるように傾斜している。このため、副室からの火炎は、主室中心部分より周縁部分に溜まりやすく、主室内における火炎の拡散が生じにくい。
【0008】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、ジェット点火システムを備えた副室式エンジンであって、副室から噴出される火炎をピストン頂面に設けられたガイド部に衝突させることによって、火炎を主室内において偏りなく拡散させて主室内での混合気の燃焼を改善する副室式エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一つの実施形態では、主室と、シリンダヘッドに設けられた隔壁により前記主室と区画された副室と、前記隔壁に設けられ前記主室と前記副室とを連通する複数の連通路と、を備え、前記副室内の混合気の着火により前記副室内に形成される火炎を、前記連通路を介して前記主室内に噴出させて前記主室内の混合気に着火する副室式エンジンであって、ピストン頂面に前記連通路から噴出された火炎が衝突するような凸形状のガイド部を備え、前記ガイド部は、ピストンの平面視において前記副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在し、前記ガイド部の高さは、前記副室から遠ざかるにつれて低くなること、を特徴とする。
【0010】
このような構成(1)によれば、火炎が衝突する凸形状のガイド部が副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在しているので、副室から噴出された火炎は、シリンダ内周壁やシリンダライナに直接衝突せずに、まずガイド部に衝突し、その後、主室内を周方向に旋回するように導かれる。従って、ピストンより温度の低いシリンダライナやシリンダ内周壁に直接衝突することで火炎の熱損失が増加することを抑制できる。
【0011】
さらに、ガイド部の高さが副室から遠ざかるにつれて、すなわち、シリンダ内周壁に近づくにつれて低くなることによって、火炎はシリンダ内周壁付近において、隣り合うガイド部間に滞留することなく周方向に拡散しやすくなる。これによって、シリンダ内周壁付近における燃焼が促進される。
【0012】
さらに、副室から噴出された火炎は、凸形状のガイド部に衝突して衝突部付近に拡散することによって、副室に近い主室中心側における火炎の拡散が促進される。これによって、副室に近い主室中心側における燃焼が促進される。
【0013】
以上のように、副室から噴出される火炎をピストン頂面に設けられたガイド部によって、火炎の熱損失が増加することを抑制するとともに、火炎を主室内において偏りなく分散させて主室内での混合気の燃焼を改善できる。
【0014】
(2)幾つかの実施形態では、前記ピストンの平面視において、前記連通路の中心軸の延長線と、前記延長線の前記ガイド部との交点における前記ガイド部の傾斜方向を示す接線であってシリンダ内周壁側へ向かう側の接線とのなす角度は鈍角であること、を特徴とする。
【0015】
このような構成(2)によれば、副室から噴出してガイド部に衝突した火炎は、主室内をシリンダ内周壁側に向かうと共に主室内を周方向に旋回するように誘導される。
【0016】
(3)幾つかの実施形態では、前記ピストンの平面視において、前記ガイド部は前記副室から離れるに従って周方向に湾曲していること、を特徴とする。
【0017】
このような構成(3)によれば、ガイド部が周方向に湾曲しているので、ガイド部に衝突した火炎は、主室内の周方向への旋回が強められる。
【0018】
(4)幾つかの実施形態では、前記ピストンの平面視において、前記ガイド部の先端部と前記副室の中心部とを結ぶ直線が、隣接する前記ガイド部と交差するように、前記ガイド部の先端部が位置されること、を特徴とする。
【0019】
このような構成(4)によれば、ガイド部の先端部と副室の中心部とを結ぶ直線が、隣接するガイド部と交差するように、ガイド部の先端部がシリンダ内周壁側に延びて位置されるので、隣接するガイド部間に通路が形成され、ガイド部に衝突した火炎は、このガイド部間の通路を通ってシリンダ内周壁側へと誘導されやすくなる。
【0020】
(5)幾つかの実施形態では、前記ピストンの平面視において、前記ガイド部は、シリンダ内周壁側の先端部に向かうにつれて細くなること、を特徴とする。
【0021】
このような構成(5)によれば、ガイド部は、先端部に向かうにつれて細くなることによって、火炎はシリンダ内周壁付近において、隣り合うガイド部間に滞留することなく周方向に拡散しやすくなる。これによって、シリンダ内周壁付近における燃焼が促進される。また、ガイド部の高さが、ガイド部の先端に向かうにつれて低くなることと組み合わされることで、シリンダ内周壁付近における火炎の拡散が一層促進される。
【0022】
(6)幾つかの実施形態では、前記ピストンの平面視において、互いに隣接する前記ガイド部の間に、前記ガイド部と同方向に副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在するサブガイド部をさらに備えること、を特徴とする。
【0023】
このような構成(6)によれば、サブガイド部は、ガイド部と同方向に副室側からシリンダ内周壁側へ向かって傾斜して延在するので、サブガイド部によって、ガイド部への衝突後の火炎をシリンダ内周壁付近まで導くことができる。
【0024】
(7)幾つかの実施形態では、前記サブガイド部の高さは、前記ガイド部への前記連通路からの火炎の衝突位置における高さより低く、且つ、主室の中心より同一半径における周方向において前記サブガイド部の両側の前記ガイド部の高さより低く形成されていること、を特徴とする。
【0025】
このような構成(7)によれば、サブガイド部の高さが、連通路からの火炎の衝突位置における高さより低いので、連通路からの噴出火炎のガイド部への衝突に対してサブガイド部は妨げにならない。さらに、主室の中心より同一半径における周方向においてサブガイド部の両側のガイド部の高さより低く形成されているので、周方向に拡散しようとする火炎に対してもサブガイド部は妨げにならない。
【発明の効果】
【0026】
本開示の少なくとも一つの実施形態によれば、副室から噴出される火炎をピストン頂面に設けられたガイド部に衝突させることによって、火炎の熱損失が増加することを抑制するとともに、火炎を主室内において偏りなく分散させて主室内での混合気の燃焼を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示の一実施形態に係る副室式エンジンの燃焼室周りの構成を示す概略断面図である。
図2図1の副室式エンジンのピストン頂部の平面図である。
図3図1の副室式エンジンのピストン頂部の側面図である。
図4図2におけるA-A線の概略断面図である。
図5】他の実施形態を示し、ピストン頂部の平面図であり図2に対応する図である。
図6図5の他の実施形態の副室式エンジンのピストン頂部の側面図であり、図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の実施形態に係る副室式エンジンについて、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示に限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0029】
図1図4を参照して本開示の一実施形態を説明する。図1は、一実施形態に係る副室式エンジン(以下、単にエンジンという)1の燃焼室3周りの構成を示す概略断面図である。エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを含み、少なくとも一つの気筒を有している。
【0030】
各気筒は、図1に示すように、シリンダブロック5に形成されたシリンダ7と、シリンダ7内を往復動するピストン9と、シリンダブロック5の上部に固定されたシリンダヘッド11とを備え、シリンダヘッド11には、吸気ポート13及び排気ポート15が形成され、吸気ポート13には吸気弁17、排気ポート15には排気弁19がそれぞれ設けられている。
【0031】
また、シリンダ7内のシリンダヘッド11側には、シリンダ内周壁7aとピストン頂面9aとシリンダヘッド11とによって、燃焼室3が区画形成されている。燃焼室3の頂部3aには、燃焼室3の内部空間を、主室(主燃焼室)21と、副室(副燃焼室)23とに区画する隔壁25が設けられている。この隔壁25は、燃焼室3の頂部3aにおいてシリンダ中心又は中心近傍に装備され燃焼室3内に火花放電をする点火プラグ27を覆うように配置されている。燃焼室3内の隔壁25で覆われる内部空間が副室23となっており、燃焼室3内の隔壁25の外側空間が主室21となっている。
【0032】
また、シリンダ7内の頂部のシリンダ内周壁7aには、燃料噴射弁29が設置され、シリンダ7内に直接燃料を噴射する筒内噴射エンジン(直噴エンジン)として構成されている。なお、筒内噴射の燃料噴射弁29に加えて吸気ポート13に燃料を噴射するポート噴射用の燃料噴射弁を追加してもよい。
【0033】
隔壁25には、図1、2に示すように、主室21と副室23とを連通する複数の連通路31が形成されている。複数の連通路31の一部又は全部を通じて主室21内から副室23内に、主室21内の燃料と空気の混合気が導入され、副室23内において所定のタイミングで混合気が点火プラグ27を用いて点火される。
【0034】
そして、副室23内で点火して形成された火炎を、複数の連通路31を介して主室21内にジェット噴出させて主室21内の混合気に点火し、主室21内の燃焼を促進する。このような点火システムは、ジェット点火システムと呼ばれ、希薄混合気への点火及び燃焼促進に効果があり、主室21内のリーンバーンや大量EGR時に適している。
【0035】
本実施形態は、点火プラグ27による火花点火式エンジンを示すが、圧縮着火による圧縮着火式エンジンの場合であってもよい。
【0036】
次に、ピストン頂面9aに設けられるガイド部33について説明する。図2は、ピストン頂部の上方からの平面図あり、図2に示すように、ピストン頂面9aには、副室23の連通路31から噴出される火炎35が衝突する衝突側面37を有する凸形状のガイド部33が、連通路31と同数設けられている。図2では、連通路31及びガイド部33の数はそれぞれ6個である。なお、連通路31及びガイド部33の数は必ずしも同数である必要はなく、連通路31に対して、ガイド部33の数が少なくても良い。
【0037】
図3は、ピストン頂部の側面図を示し、火炎35が衝突側面37に衝突する状態を示す(衝突点P)。従って、図3は、ピストン9が上死点近傍の位置であって、その位置において副室23内の点火プラグ27が点火して火炎35が連通路31を通って噴出され、その噴出された火炎35が、ガイド部33の衝突側面37と衝突する状態を示している。
【0038】
図2の衝突点Pにおけるガイド部33の傾斜方向を示す接線L2に対して直角方向のA-A線に沿うガイド部33の断面形状は、図4のように、なだらかな山形状に形成されている。すなわち、ガイド部33の頂部33aはエッジ状ではなく曲面形状に形成されており、衝突側面37に衝突した火炎35がガイド部33の頂部33aを超えて衝突側面37とは反対側の側面にスムーズに流れる(反対側の側面に剥離を生じることなく流れる)形状になっている。
【0039】
さらに、ガイド部33は、図2のピストン頂部の平面視において、副室23側からシリンダ内周壁7a側へ向かって傾斜して延在している。この傾斜形状は、直線状に傾斜していても、湾曲状に傾斜していてもよい。
【0040】
さらに、ガイド部33の高さHは、副室23側からシリンダ内周壁7a側へ向かって遠ざかるにつれて低くなるように形成され、ガイド部33の最高高さH1から最低高さH2(ゼロ含む)へと変化している(図3参照)。衝突点Pは、ガイド部33の副室23側に位置されているので、衝突点Pからシリンダ内周壁7a側へ向かってガイド部33の高さは低下していく。
【0041】
なお、ガイド部33の高さHとは、ピストン頂面9aからガイド部33の頂部33aまでの高さをいう(図4参照)。
【0042】
また、図2に示すように、連通路31の中心軸の延長線L1と、衝突点Pにおけるガイド部33の接線L2であって、シリンダ内周壁7aへ向かう側の接線とのなす角度θは、鈍角になるように設定されている。
【0043】
なお、ガイド部33の傾斜方向は、燃焼室3内に吸気ポート13から流入される吸気に吸気スワール流が形成される場合には、吸気スワール流方向に傾斜させて、吸気スワール流に乗せて燃焼室3内に火炎35を拡散させることが好ましい。
【0044】
以上の一実施形態によれば、火炎35が衝突する凸形状のガイド部33が副室23側からシリンダ内周壁7a側へ向かって傾斜しているので、副室23から噴出された火炎35は、シリンダ内周壁7aやシリンダライナに直接衝突せずに、まずガイド部33に衝突し、その後、主室21内を周方向に旋回するように導かれる。
【0045】
また、連通路31の中心軸の延長線L1と衝突点Pにおけるガイド部33の傾斜方向を示す接線L2であって、シリンダ内周壁7aへ向かう側の接線とのなす角度θが鈍角になるように設定されているので、ガイド部33の衝突側面37に衝突した火炎35は、主室21内をシリンダ内周壁7a側に向かうと共に主室21内を周方向に旋回するように誘導される。
【0046】
このように、ガイド部33によって、副室23から噴出された火炎35がピストン9より温度の低いシリンダライナやシリンダ内周壁7aに直接衝突することによる火炎35の熱損失が抑制される。
【0047】
また、本実施形態によれば、ガイド部33の高さが副室23から遠ざかるにつれて、すなわち、シリンダ内周壁7aに近づくにつれて低くなることによって、火炎35はシリンダ内周壁7a付近において、隣り合うガイド部33間に滞留することなく周方向に拡散しやすくなる。これによって、シリンダ内周壁7a付近における燃焼が促進される。
【0048】
また、副室23から噴出された火炎35は、凸形状のガイド部33の副室23側に位置する衝突側面37に衝突することで、火炎35は衝突部付近に拡散し、副室23に近い主室21の中心側における火炎35の拡散が促進される。これによって、主室21の中心側における燃焼が促進される。
【0049】
さらに、衝突点Pにおけるガイド部33の接線L2に対して直角方向のガイド部33の断面形状の頂部33aはエッジ状ではなく曲面形状を有するので、衝突側面37に衝突した火炎35は、ガイド部33の頂部33aを超えて衝突側面37と反対側の側面にスムーズに流れることができ。これによって、衝突点Pに衝突した火炎35は、主室21の中心側において一層拡散が促進される。
【0050】
以上のように、副室23から噴出された火炎35をピストン頂面9aに設けられたガイド部33に衝突させることで、火炎35の熱損失が増加することを抑制するとともに、火炎35を主室21内において、中心側及び周縁側へと偏りなく分散させて主室21内での混合気の燃焼を改善することができる。
【0051】
幾つかの実施形態では、図2に示すように、ピストン9の平面視において、ガイド部33は、副室23から離れるに従って周方向に湾曲している。
【0052】
このように、ガイド部33が周方向に湾曲しているので、ガイド部33に衝突した火炎35は、主室21内の周方向への旋回が強められる。
【0053】
なお、ガイド部33の湾曲形状の長さや湾曲の曲率は、複数のガイド部33全て同一でなくてもよく、吸気ポート13や排気ポート15の配置、さらにはポート開口面積等による主室21内の混合気の流れを考慮して設定してもよい。
【0054】
幾つかの実施形態では、図2に示すように、ピストン9の平面視において、ガイド部33の延在方向の先端部(ガイド部33の中心線の先端部)Dと副室23の中心部Cを結ぶ直線L3が、隣接するガイド部33と交差(交差点K)するように、ガイド部33の先端部Dが位置される。
【0055】
このように、ガイド部33の先端部Dと副室23の中心部Cとを結ぶ直線L3が、隣接する次のガイド部33と交差(交差点K)するように、ガイド部33の先端部Dがシリンダ内周壁7a側に延びて位置されるので、ガイド部33同士の間に通路39が形成され、ガイド部33の衝突側面37に衝突した火炎35は、ガイド部33間の通路39に沿ってシリンダ内周壁7a側へと流れるので、火炎35は、シリンダ内周壁7a側へと導かれやすくなる。
【0056】
幾つかの実施形態では、ピストン9の平面視において、ガイド部33は、シリンダ内周壁7a側の先端部に向かうにつれて細くなっている。
【0057】
ガイド部33は、先端部に向かうにつれて細くなることによって、火炎35はシリンダ内周壁7a付近において、隣り合うガイド部33間に滞留することなく周方向に拡散しやすくなる。これによって、シリンダ内周壁7a付近における燃焼がさらに促進される。ガイド部33の先端部に向かうにつれて細くなる形状は、既に説明したガイド部33の先端部に向かうにつれて高さが低くなる形状と相まってシリンダ内周壁7a付近における火炎35の拡散が一層促進される。
【0058】
次に、他の実施形態を、図5、6を参照して説明する。他の実施形態は、一実施形態に対して互いに隣接するガイド部33の間に、ガイド部33と同方向に傾斜して延在するサブガイド部41をさらに備えている。他の実施形態において、一実施形態の構成要件と同じものは同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0059】
図5、6に示すように、ピストン頂面9a上には互いに隣接するガイド部33の間にガイド部33と同方向に副室23側からシリンダ内周壁7a側へ向かって傾斜して延在するサブガイド部41が設けられている。
【0060】
このサブガイド部41の高さHS(ピストン頂面9aからサブガイド部41の頂部までの高さ)は、ガイド部33の衝突側面37への火炎35の衝突点Pの高さHP(ピストン頂面9aから衝突点Pまでの高さ)より低く、且つ、主室21の中心より同一半径における周方向においてサブガイド部41の両側のガイド部33の高さHより低く形成されている。
【0061】
互いに隣接するガイド部33の間とは、ピストン9の平面視において、主室21内の周方向において隣り合うガイド部33の間であって、且つ、ガイド部33の延在方向の先端部(ガイド部33の中心線の先端部)Dと副室23の中心部Cを結ぶ直線L3と、隣接する次のガイド部33の延在方向の基端部(ガイド部33の中心線の基端部)Bと副室23の中心部Cとを結ぶ直線L4とで挟まれる範囲をいう。そして、この隣接するガイド部33の間に、サブガイド部41の少なくとも一部が設けられている。
【0062】
なお、サブガイド部41の高さHSは、図6では基端部から先端部に亘って一定の高さの例を示すが、先端部に向かうにつれて低くなってもよい。また、サブガイド部41のピストン9の平面視における幅は、基端部から先端部に亘って同一であっても、先端部に向かうにつれて細くなってもよい。
【0063】
以上の他の実施形態によれば、サブガイド部41は、ガイド部33と同方向に副室23側からシリンダ内周壁7a側へ向かって傾斜して延在するので、サブガイド部41によって、ガイド部33の衝突側面37への衝突後の火炎35をシリンダ内周壁7a付近まで導くことができる。
【0064】
しかも、サブガイド部41の高さHSは、火炎35の衝突点Pにおける高さHPより低いので、副室23から噴出される火炎35の衝突側面37への衝突の妨げにならない。
【0065】
さらに、サブガイド部41の高さHSは、主室21の中心より同一半径における周方向においてサブガイド部41の両側のガイド部33の高さHより低いので、ガイド部33の衝突側面37への衝突後に主室21内を周方向に拡散しようとする火炎35の拡散に対して妨げにならない。このように、サブガイド部41の設置によって、衝突側面37への衝突後の火炎35を、周方向への拡散を妨げることなくシリンダ内周壁7a付近まで効率よく導くことができる。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン(副室式エンジン)
3 燃焼室
3a 燃焼室の頂部
5 シリンダブロック
7 シリンダ
7a シリンダ内周壁
9 ピストン
9a ピストン頂面
11 シリンダヘッド
21 主室
23 副室
25 隔壁
27 点火プラグ
31 連通路
33 ガイド部
33a ガイド部の頂部
35 火炎
37 衝突側面
41 サブガイド部
B ガイド部の基端部
C 副室の中心部
D ガイド部の先端部
θ 連通路の中心軸の延長線と衝突点Pにおける接線とのなす角度
H ガイド部の高さ
H1 ガイド部の最高高さ
H2 ガイド部の最低高さ
L1 連通路の中心軸の延長線
L2 衝突点Pにおける接線
L3 ガイド部の先端部と副室中心部とを結ぶ直線
L4 隣接するガイド部の基端部と副室中心部とを結ぶ直線
HS サブガイド部の高さ
HP 衝突点Pの高さ
K 直線L3と隣接する次のガイドとの交差点
P 火炎の衝突点

図1
図2
図3
図4
図5
図6