(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140915
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20230928BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046983
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 将
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 信幸
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013EA01
4K013EA03
4K013EA04
4K013EA05
4K013EA09
(57)【要約】
【課題】鋳片の縦割れ発生の防止が十分であり、かつ凝固遅れBO発生を十分に防止できる、連続鋳造用モールドパウダーおよびそれを用いた連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】CaO’/SiO2質量比が1.1~1.8であり、Fを10質量%以上含み、K2Oが0.5質量%未満であり、Li2Oを1質量%以上20質量%以下含有し、凝固点が1100℃を超え1250℃以下である連続鋳造用モールドパウダー。
CaO’=T.CaO-CaF2×0.718 …(1)
CaF2=(F-Li2O×1.27-Na2O×0.613-K2O×0.403)×2.05 …(2)
F:モールドパウダー中Fの含有率(質量%)、
T.CaO、Li2O、Na2O、K2Oは、モールドパウダー中のCa、Li、Na、Kがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO’/SiO2質量比が1.1~1.8であり、Fを10質量%以上含み、アルカリ金属酸化物のうちK2Oが0.5質量%未満であり、Li2Oを1質量%以上10質量%以下含有し、凝固点が1100℃を超え1250℃以下であることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー。
ここで、
CaO’(質量%)=T.CaO-CaF2×0.718 …(1)
CaF2(質量%)=(F-Li2O×1.27-Na2O×0.613-K2O×0.403)×2.05 …(2)
(但し、(2)式右辺がマイナスの場合は(2)式左辺を0%とする。)
F:モールドパウダー中Fの含有率(質量%)、
モールドパウダーの成分含有量評価結果のうち、Cを除く成分の合計含有量を100質量%として、各成分の含有量を定める。T.CaO、Li2O、Na2O、K2Oは、モールドパウダー中のCa、Li、Na、Kがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
さらに、Na2Oを1質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項3】
さらに、Al2O3およびMgO含有量が合計で5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の連続鋳造用モールドパウダーを用いて、炭素濃度0.06~0.20質量%の中炭素鋼を鋳造する連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、鋳型内の溶鋼表面にモールドパウダーを添加して鋳造する。モールドパウダーは、主にCaO,SiO2、Al2O3などの酸化物、フッ素化合物、炭素などの粉体を混合したものが使用される。鋳型上部から溶鋼表面に添加されたモールドパウダーは、溶鋼から受ける熱によって溶融し、溶鋼表面にモールドパウダーの溶融層を形成する。この溶融層は、鋳型と凝固殻の間に流入し、モールドパウダーフィルム(以降、フィルムと略記)を形成する。このモールドパウダーの主な機能として、(1)溶鋼の再酸化防止と保温、(2)溶鋼から浮上する介在物の捕捉、(3)鋳型と凝固殻の潤滑、(4)凝固殻からの抜熱制御、がある。このフィルムは鋳型の冷却によって形成される結晶相部分と、液相の二相からなる。フィルムの結晶相は伝熱抵抗が大きく、凝固殻の冷却速度を低減する働きがある。
【0003】
鋼の連続鋳造において、鋳片表面および内部に欠陥が生じることがあり、これらは鋼材品質に悪影響を及ぼすため、欠陥発生の低減が求められる。なかでも、C濃度が0.06~0.25質量%の中炭素鋼は凝固殻が不均一に成長し、縦割れと呼ばれる鋳片欠陥を生じやすい。縦割れの防止には、鋳型上部で凝固殻が形成されるごく初期において、凝固殻を緩冷却化し、凝固殻を均一に成長させることが有効である。鋳型内でのパウダーフィルムによる冷却を緩冷却化することにより、鋳片の冷却速度を低下させ、連続鋳造時に鋳片表面に発生する縦割れを防止することができる。
【0004】
鋳型内においてモールドパウダーフィルムの結晶化が促進されると、フィルム層中での輻射伝熱が抑制されて伝熱抵抗が増大し、フィルムを通した凝固シェルの冷却が緩冷却化され、凝固シェルが均一に生成、成長する結果、鋳片表面の縦割れを防止する効果が生じる。そのため、上記のような縦割れ感受性が高い品種を連続鋳造する際の縦割れ発生を防止することができる(非特許文献1参照)。
【0005】
一般的にモールドパウダーフィルムから析出する代表的な結晶としてカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO2・CaF2)が挙げられる。カスピダインの析出を促進させるためにはモールドパウダーの塩基度を上げ、カスピダインの純組成に近づけることが有効である。
【0006】
特許文献1には、CaO、SiO2およびフッ素化合物を基本成分とし、CaO’/SiO2が1.1~2.8であり、CaF2含有率が所定の条件を満足し、さらにNa2Oを0~25重量%、Cを0~10重量%含有する、鋼の連続鋳造用モールドパウダーが開示されている。パウダー中のFがすべてCaF2であるとしてCaF2含有率が算出され、T.CaOからCaF2分を除いてCaO’が算出される。これにより、カスピダインなどの結晶析出を促すとともに、パウダーの凝固点の低下と粘度の低下を図っている。凝固点は1100~1300℃程度となる、としている。
【0007】
特許文献2では、特許文献3、4を例示し、これら先行文献で提案された塩基度の高いモールドパウダーには、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性確保を目的に、Na2O、Li2O、F等が添加されて凝固点の低下が図られており、その際、凝固点は1000~1250℃の範囲に調整されている、としている。特許文献2には、CaO、SiO2およびフッ素化合物を基本成分とし、0~10質量%のZrO2を含み、かつ、CaO’/SiO2が0.9~1.9であり、CaF2、アルカリ金属フッ化物含有量が所定の条件を満足する連続鋳造用モールドパウダーが開示されている。パウダー中のFがパウダー中のLi、Na、Kと優先的にアルカリ金属フッ化物を形成し、残余のFがCaF2を形成するとしてCaF2含有率が算出され、WCaO(T.CaO)からCaF2分を除いてCaO’が算出される。
【0008】
これらの特許文献等では、カスピダインの晶出を促進させるべく、モールドパウダーの塩基度およびF量を調整しており、これにより、鋳型と凝固殻間に流入するフィルムの結晶相の晶出が促進される。結晶相が晶出したフィルムはガラス相のフィルムと比較して伝熱抵抗が大きいため、凝固殻の抜熱を低減させる働きがある。
【0009】
ところで、近年、生産性向上の観点から高速鋳造化が指向されている。鋳造を高速化すると、凝固殻が鋳型に接触する時間が短くなるため、鋳型下端における凝固殻の厚みを十分に確保できず、鋳型下端で凝固殻が破れ溶鋼が漏出する操業トラブル(凝固遅れブレークアウト(以下「凝固遅れBO」という。))が懸念される。そのため、高速鋳造においては、凝固殻を強冷却し、凝固殻の成長を促進して十分な厚みを持つ凝固殻を得る必要がある。
【0010】
従来の結晶化が促進されるモールドパウダーの使用は、縦割れの抑制に有効であるものの、フィルムを通した凝固シェルの冷却が緩冷却化されるので、鋳型内での凝固進行が遅くなり、凝固遅れBOの懸念を高める。鋳型下部にかけて凝固殻の表面温度はモールドパウダーの凝固点近くまで低下する。特に、凝固点が高いモールドパウダーを使用する場合、鋳型下部でもフィルムの結晶化が進行し続け、凝固殻の抜熱をより一層低減するため、凝固殻の成長が抑制される弊害を有する。したがって、このようなモールドパウダーの使用は、縦割れの防止には有効であるものの、高速鋳造において凝固遅れBOの発生率を高めることが懸念される。
【0011】
特許文献5には、CaO/SiO2質量比を1.5~2.5とし、Na2Oを2質量%未満、Li2Oを1質量%以上に調整したモールドパウダーを用いて、鋳造速度1.6m/分以上で連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法が開示されている。モールドパウダーを結晶化しやすい組成とするとともにその結晶化速度を大きくすることにより、メニスカス部において緻密で均一な結晶を素早く形成して超緩冷却化を達成し、また、モールドパウダーの組成を結晶化温度が低く結晶成長を抑制することが可能な組成とすることにより、メニスカス部の下方部分において強冷却とすることが有効であるとしている。モールド内のメニスカス部で緩冷却になるようにCaO/SiO2質量比(塩基度)を1.5~2.5に規定した上で、さらにNa2Oを2質量%未満に低減することで結晶化速度を制御してメニスカス部において超緩冷却とし、かつLi2Oの含有量を1質量%以上に調整することで結晶化温度を1100℃未満に低下させてメニスカス部の下方部分において強冷却とする。実施例・表1のNo.1(メニスカス部で超緩冷却、下方部分で強冷却)は、モールドパウダー中のF濃度を9.0%とし、結晶化速度を高速としてメニスカス部で超緩冷却とし、結晶化温度を1055℃の低温として下方部分で強冷却としている。なお、結晶化温度は凝固点に等しい温度である。
【0012】
特許文献6、7には、SiO2とCaOを主成分として含み、質量比(CaO/SiO2)が1.1以上2.5以下であり、K2Oの含有量は1.0~10.0質量%であり、Na2OとLi2Oの含有量の合計は1.0~18.0質量%であり、F、MgO、Al2O3及びトータルカーボンの含有量はそれぞれ3.0~15.0質量%、0.5~3.0質量%、0.5~10.0質量%及び1.0~20.0質量%であり、1300℃における粘度が0.03~0.7Pa・sであり、結晶化温度が1080~1280℃であり、初晶種がカスピダインである、モールドパウダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許3463567号公報
【特許文献2】特開2001-179408号公報
【特許文献3】特開平8-141713号公報
【特許文献4】特開平10-216907号公報
【特許文献5】特開2006-247744号公報
【特許文献6】特開2020-146719号公報
【特許文献7】特開2021-74782号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】第5版鉄鋼便覧 第1巻製銑・製鋼 第417~419頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、連続鋳造において亜包晶鋼の高速鋳造化にある課題を解決するものである。
本発明は、縦割れが発生しやすい鋼の高速鋳造の実現に向けて、鋳型上部で凝固殻を緩冷却化し、鋳型下部で凝固殻を強冷却化できる鋳造方法を提供することを目的とする。その方策として、鋳型上部でフィルムの結晶相を速やかに晶出させ、メニスカスにおける凝固殻を緩冷却化して縦割れの起点となる凝固殻の不均一成長を抑制し、鋳型下部において、フィルムの結晶相の成長を抑制し、凝固殻を強冷却化して凝固殻の成長を促進させる。
【0016】
具体的には、モールドパウダーを結晶化しやすい組成に設計して結晶化速度を向上しつつ、凝固点を下げることが有効である。大きい結晶化速度によって、鋳型上部でフィルムの結晶相の晶出を促進する一方で、低凝固点化によって、鋳型下部でフィルムの結晶相の成長を抑制する効果がある。
【0017】
前述の特許文献5に記載の発明も、上記本発明と同様の技術思想によってなされている。ところが、特許文献5に記載の発明では、鋳片の縦割れ発生の防止が不十分であり、かつ凝固遅れBOの懸念が十分には払拭できないことが明らかとなった。
【0018】
本発明は、鋳型上部でフィルムの結晶相を速やかに晶出させ、メニスカスにおける凝固殻を緩冷却化して縦割れの起点となる凝固殻の不均一成長を抑制し、鋳型下部において、フィルムの結晶相の成長を抑制し、凝固殻を強冷却化して凝固殻の成長を促進させることにより、鋳片の縦割れ発生の防止が十分であり、かつ凝固遅れBO発生を十分に防止できる、連続鋳造用モールドパウダーおよびそれを用いた連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
[1]CaO’/SiO2質量比が1.1~1.8であり、Fを10質量%以上含み、アルカリ金属酸化物のうちK2Oが0.5質量%未満であり、Li2Oを1質量%以上20質量%以下含有し、凝固点が1100℃を超え1250℃以下であることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー。
ここで、
CaO’(質量%)=T.CaO-CaF2×0.718 …(1)
CaF2(質量%)=(F-Li2O×1.27-Na2O×0.613-K2O×0.403)×2.05 …(2)
(但し、(2)式右辺がマイナスの場合は(2)式左辺を0%とする。)
F:モールドパウダー中Fの含有率(質量%)、
モールドパウダーの成分含有量評価結果のうち、Cを除く成分の合計含有量を100質量%として、各成分の含有量を定める。T.CaO、Li2O、Na2O、K2Oは、モールドパウダー中のCa、Li、Na、Kがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
[2]さらに、Na2Oを1質量%以上含むことを特徴とする[1]に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
[3]さらに、Al2O3およびMgO含有量が合計で5質量%以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
[4][1]から[3]までのいずれか1つに記載の連続鋳造用モールドパウダーを用いて、炭素濃度0.06~0.20質量%の中炭素鋼を鋳造する連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、CaO’/SiO2質量比が1.1~1.8であり、Fを10質量%以上含み、アルカリ金属酸化物のうちK2Oが0.5質量%未満であり、Li2Oを1質量%以上20質量%以下含有し、凝固点が1100℃を超え1250℃以下である連続鋳造用モールドパウダーを用いることにより、鋳型上部でフィルムの結晶相を速やかに晶出させ、メニスカスにおける凝固殻を緩冷却化して縦割れの起点となる凝固殻の不均一成長を抑制し、鋳型下部において、フィルムの結晶相の成長を抑制し、凝固殻を強冷却化して凝固殻の成長を促進させることができる。これにより、炭素濃度0.06~0.20質量%の中炭素鋼を高速の鋳造速度で連続鋳造する場合でも、鋳片の縦割れ発生の防止が十分であり、かつ凝固遅れBO発生を十分に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の連続鋳造用モールドパウダーの成分組成について説明する。連続鋳造用モールドパウダーがCを含有する場合、モールドパウダー中のC以外の成分の合計を100質量%とし、各成分の含有量を算出する。従って、C含有量については、外数(外挿)の扱いとなる。モールドパウダーの含有量についての%は質量%を意味する。
【0022】
[CaO’/SiO2]
モールドパウダーはT.CaOとSiO2およびFを主成分として含有する。このときの、T.CaOはモールドパウダー中のCa成分を全量CaOとしてみなした成分として扱われる。Fは粉体状態でCaF2として添加されるが、溶融状態においてFはCaよりもアルカリ金属に強い親和性を有する。そのため、溶融状態では、Fはアルカリ金属成分と反応し、アルカリ金属フッ化物として存在し、残りのF成分がCa成分と反応してCaF2として存在することが知られている(例えば特許文献2)。そこで、溶融状態でのパウダー中のCaF2濃度について、前記(2)式で定めることとする。(2)式右辺がマイナスの場合は、パウダー中のFがすべてアルカリ金属酸化物と反応しており、残余のFがゼロとなり、CaF2濃度もゼロであると考えられることから、(2)式左辺を0%とする。このようにして(2)式でCaF2濃度を定めた上で、前記(1)式でCaO’を算出する。(1)式で定義されるCaO’は、Fと未反応分のCa成分が酸化物(CaO)として存在するとみなした成分量を示す。
【0023】
CaO’/SiO2は、カスピダインを晶出させる成分指標である。CaO’/SiO2が質量濃度比で1.1以上1.8以下に存在することが好ましい。質量濃度比CaO’/SiO2が1.1未満の場合、結晶の晶出量が少なく、十分な緩冷却能を有するフィルムを得られない。一方で、質量濃度比CaO’/SiO2が1.8を超える場合、カスピダイン以外の結晶相が晶出するため、十分な緩冷却能を有するフィルムが得られない。
【0024】
[F]
Fの含有量は10質量%以上である。これは、F成分がモールドパウダーの凝固点を調整する効果があるとともにカスピダインの晶出に効果を有するためであり、Fの含有量が10質量%未満の場合、その効果が小さくなる。一方、Fを多量に添加するとモールドパウダーの粘度が大きく低下し、モールドパウダーの溶鋼への巻き込みが発生する。したがって、Fの含有量は好ましくは、24質量%以下とする。
【0025】
[アルカリ金属酸化物]
モールドパウダーに添加されるアルカリ金属酸化物として、K2O、Na2O、Li2Oがある。アルカリ金属酸化物は、モールドパウダーの結晶化速度向上の効果を得ること、凝固点および粘度を下げる調整することを目的に添加される。コストの観点から、Na2Oが使用されることが多い。以下、モールドパウダー中成分含有量としてのLi2O、Na2O、K2Oは、モールドパウダー中のLi、Na、Kがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
【0026】
アルカリ金属酸化物の添加が及ぼす結晶化速度向上の効果は、Li2O>Na2O>K2Oの順で大きいことが知られている。Li2Oがモールドパウダーの結晶化速度を高める効果が最も大きい。Li2Oの含有量は1質量%以上15質量%以下であり、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。Li2Oの含有量が1質量%未満であると、モールドパウダーの凝固点が高く、凝固遅れBOを防止することができない。一方で、Li2Oを過剰に含有すると、カスピダインの晶出量が低下し、十分な緩冷却能を得られることができない。
【0027】
K2Oの添加は、従来のモールドパウダーよりも粘度を上昇させるとともに結晶化速度を低下させることが知られている。鋳型と凝固殻間の流入が低下および結晶の晶出が低下するので、K2Oの含有は避けるべきであり、本発明はK2O含有量が0.5質量%未満であると規定する。
【0028】
さらに、本発明のモールドパウダーはNa2Oを1質量%以上含有してもよい。Na2Oは一般に使用される成分であり、含有によって従来以上に結晶化速度を向上させる働きはないが、凝固点を低下させる効果があるためである。一方で過剰に含有すると、カスピダインの晶出量が低下し、十分な緩冷却能を得られることができないので、好ましくはNa2Oを10質量%以下とする。
【0029】
[Al2O3とMgO]
Al2O3とMgOの含有量は好ましくは合計で5質量%以下とする。モールドパウダーの設計上、不可避混入物としてAl2O3とMgOが存在する。いずれも、カスピダインの晶出量を低減させ、その他の結晶が晶出するため、溶融特性の悪化や、抜熱不良が生じるため、その含有量は極力少ない方が望ましい。モールドパウダー中のAl2O3とMgOの含有量は、モールドパウダー中のAl、Mgがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
【0030】
[C]
さらに、本発明のモールドパウダーには、上記の成分に加えて、Cを添加するのが望ましく、モールドパウダーの外数の含有率として、1~10質量%含有させるのが望ましい。Cは、モールドパウダーの溶融速度を調整する作用を有し、C含有量が高くなると、その溶融速度が小さくなる。1質量%未満では溶融速度が過度に大きく、10質量%超では溶融速度が過度に小さく、鋳型と凝固殻へのパウダー流入性が悪化する。
【0031】
[凝固点](凝固温度(℃))(結晶化温度に等しい)
モールドパウダーの凝固点は1100℃超1250℃以下と規定する。凝固点が1250℃を超えると、鋳型下部でフィルムの結晶相が過剰に形成し、凝固殻の成長が不足する。一方、1100℃以下に凝固点を低下させたモールドパウダーは、カスピダインの晶出が不足し、十分な緩冷却能を得ることができず、凝固点を1100℃超にするのがより好ましい。モールドパウダーの凝固点を1100℃超1250℃以下の範囲内に調整するためには、モールドパウダーのCaO’/SiO2質量比、F含有量、アルカリ金属含有量を、前記記載内容を指標として本発明範囲内で調整することにより、実現することができる。
【0032】
[粘度]
モールドパウダーの粘度は、1300℃において1poise以下が望ましい。1poiseを超えると、鋳型と凝固殻間のモールドパウダーの流入が不足し、鋳片欠陥を発生しやすくなる。
【0033】
[原料]
本発明のモールドパウダーに使用される原料は、一般に使用される原料で問題ない。CaO原料としては生石灰、石灰石、セメントなど、SiO2原料としては、珪砂、珪藻土など、Li2Oの原料としては、炭酸リチウムなど、Na2Oの原料としては炭酸ナトリウムやソーダ灰など、Fの原料としては蛍石やフッ化ソーダなど、C原料としてはカーボンブラックやコークス粉などを用いることができる。
【0034】
また、モールドパウダーの原料の形状は限定されない。例えば、粉末、顆粒など、全ての形状で使用することができる。これらの原料には、Fe2O3やAl2O3およびMgOなどの酸化物が含有される。これらの不純物が混入していても、微量であり、とくに差し支えない。
【0035】
(連続鋳造方法)
上記本発明の連続鋳造用モールドパウダーを用いた連続鋳造方法において、亜包晶鋼である炭素濃度0.06~0.20質量%の中炭素鋼を鋳造するに際し、特に本発明の効果を発揮することができる。当該中炭素鋼の鋳造に際し、鋳造速度を1.8m/min以上とすることが可能となる。
【実施例0036】
本発明モールドパウダーについて、実施例を説明する。
表1に示す組成のモールドパウダーを作成した。モールドパウダーの成分元素含有量の評価は化学分析によって行った。モールドパウダーの成分含有量評価結果のうち、Cを除く成分の合計含有量を100質量%として、各成分の含有量を定める。T.CaO、Li2O、Na2O、K2Oは、モールドパウダー中のCa、Li、Na、Kがいずれもすべて酸化物であるとして算出した酸化物含有量(質量%)を意味する。
【0037】
(モールドパウダーの評価方法)
本発明品および従来品の凝固点ならびに粘度、結晶化速度指数を測定した。「粘度」は振動片粘度計を用いて、黒鉛坩堝内で1400℃で溶融したモールドフラックスを2℃/minで降温しながら粘度を測定し、1300℃における粘度を計測したものである。1300℃以降も降温し、粘度が急上昇する温度を「凝固点」とした。凝固点は結晶化温度と同一である。「結晶化速度指数」は、1350℃から150℃/minの速度で降温したとき、レーザー顕微鏡を用いて結晶が進行する挙動を光学的に観察し、4mm×4mmの視野内で結晶が進行する速度(液相から結晶相が広がる移動速度)を結晶化速度指数としたものである。得られた結果を表1内に併記した。
【0038】
表1において、本発明から外れる数値に下線を付している。表1のNo.1~No.8は本発明によるもので、表1のNo.9~No.13は比較品である。
比較例のNo.9,10、13の場合、凝固点が本発明範囲より高い。No.11の場合、凝固点が本発明範囲より低く、CaO’/SiO2が本発明範囲より大きい。No.12は本発明範囲外のK2Oが配合され、アルカリ金属酸化物中で最も多く配合されている。表中の比較例No.13は、特許文献4に記載のように、Li2Oを含有せずNa2Oを含有した高凝固点化モールドパウダーである。No.13はLi2O含有量が本発明範囲外で、Li2Oが全く配合されておらず、凝固点が高い。
【0039】
(連続鋳造実験)
表1のモールドパウダーを用いて連続鋳造試験を実施した。厚さ200mm、幅1600mmの鋳型で、C含有量0.11質量%の亜包晶鋼を1.8m/分の速度で鋳造し、その効果を評価した。
【0040】
(鋳造結果の評価方法)
《鋳片表面性状評価》
鋳片の4面の目視表面観察を行い、縦割れをその合計長さで評価し、その結果を表1に示した。縦割れの長さが鋳造長1mあたり合計長さが0.05m以下あるいは縦割れが全く確認されなかった場合を〇とし、鋳造長1mあたり合計長さが0.05mよりも長い縦割れが確認された場合×とした。
【0041】
《鋳型への抜熱挙動評価》
緩冷却能についても評価を行い、メニスカス直下100mmまでの最大局所熱流束(MW/m2)を調査した。鋳型内の高さ方向で、メニスカスからメニスカス下100mmまでの範囲の3箇所に、鋳型銅板の表面近くに熱電対を埋め込んだ。熱電対の測温結果と鋳型冷却水温度との差異に基づいて熱流束を評価し、評価結果のうちの最大値を「最大局所熱流束」として表1に記載した。凝固点が本発明範囲である比較例No.12よりも最大局所熱流束が小さく、かつ、凝固点が本発明範囲の上限を外れる比較例No.13の最大局所熱流束よりも小さいか少し大きい程度であれば、凝固殻は緩冷却化され、モールドパウダーによる緩冷却化が実現できたと評価できる。
【0042】
凝固殻の成長促進の評価について、鋳型下端までの総抜熱量を調査した。鋳型下端における凝固殻の厚みの大小は、メニスカスから鋳型下部にかけて鋳片から奪われた総抜熱量で評価できる。総抜熱量が大きければ、鋳型下部で凝固殻は強冷却され、鋳型内での凝固殻の成長が促進されたことを示す。具体的には、下記のようにして評価を行った。鋳型内の高さ方向で、メニスカスからメニスカス下600mmまでの範囲の合計8箇所に、鋳型銅板の表面近くに熱電対を埋め込んだ。熱電対の測温結果と鋳型冷却水温度との差異に基づいて高さ方向各位置における熱流束を評価した。鋳片の鋳造速度で下方に移動する鋳片が、メニスカスから鋳型下端まで移動する間に、前記評価された高さ方向各位置における熱流束で抜熱されるとして、総抜熱量(MJ/m2)を算出した。
【0043】
《ブレークアウト予知装置による評価》
連続鋳造用鋳型には、ブレークアウト予知を目的として熱電対が埋め込まれている。主な目的は拘束性ブレークアウト発生の予知であり、メニスカス部で鋳型と凝固シェルが拘束したことに起因して疑似メニスカスが下降する挙動を早期に発見する。熱電対の温度履歴を解析することにより、本発明が対象とする異常の挙動を評価することもできる。不均一凝固(縦割れの原因)が生成すると、メニスカス部付近に設置した熱電対の測温結果がハンチングするので、不均一凝固が検出されたとしてBO予知信号を「誤検知△」とした。また、鋳型下部でパウダーの過剰な結晶化が生じ、結晶層の剥離離脱によって鋳型と凝固殻が接触すると、鋳型下部に設置した熱電対の測温結果がハンチングするので、鋳型下部での凝固シェル形成不十分が検出されたとしてBO予知信号を「誤検知×」とした。いずれの誤検知も検出されなかった場合はBO予知信号を「○」とした。
【0044】
以上のとおりであるから、「課題1:鋳型上部で凝固殻を緩冷却化」の評価は、最大局所熱流束と縦割れ有無、BO誤検知(誤検知△)有無によって評価できる。また、「課題2:鋳型下部で凝固殻を強冷却化」の評価は、総抜熱量とBO誤検知(誤検知×)有無によって評価できる。総合評価について、課題1、2がそれぞれ解決した場合「〇」、どちらか一方でも解決できていない場合を「×」と表現する。
【0045】
【0046】
以上の結果を表1の下部に示す。表1の本発明品No.1~No.8は、本発明に規定するモールドパウダーを用いて連続鋳造を行った結果とし、C含有量0.11質量%の亜包晶鋼を1.8m/分の速度で鋳造しているにもかかわらず、すべての指標で良好な結果を得ることができた。
【0047】
比較例のNo.9、10については、凝固点が本発明範囲より高く、結果として総抜熱量が低く、BO誤検知×が発生した。No.11は、凝固点が本発明範囲より低く、CaO’/SiO2が本発明範囲より大きく、結果として、最大局所熱流束が高く、BO誤検知△が発生するとともに、鋳片に縦割れが発生した。No.12はK2O含有量が本発明の上限を外れ、アルカリ金属酸化物中で最も多く配合されている。この結果、No.12は最大局所熱流束が高く、BO誤検知△が発生するとともに、鋳片に縦割れが発生した。表中の比較例No.13はLi2O含有量が本発明範囲外でLi2Oが全く配合されておらず、凝固点が高いため、総抜熱量が低く、BO誤検知×が発生した。
【0048】
ブレークアウト予知装置からの情報では、以上のように、No.9、10、13についしはフィルムの過剰な結晶化によって鋳型下部で剥離が発生し、熱電対温度がハンチングしてBO誤検知×が検出された。一方、No.11、12については不均一凝固による熱電対ハンチングによってBO誤検知△が検出された。
【0049】
以上の結果から、比較例No.13に対してLi2Oを添加し、結晶化速度の向上および凝固点の最適化により、メニスカス直下における凝固殻の緩冷却化および、鋳型下部における凝固殻の成長の促進の効果が得られた。