(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140916
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】鋼矢板の連結構造、鋼矢板の連結方法および鋼矢板構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 5/08 20060101AFI20230928BHJP
E02D 5/16 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E02D5/08
E02D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046984
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】籾山 嵩
(72)【発明者】
【氏名】森安 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】亀山 彰久
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 直哉
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049FB12
2D049FC07
2D049FC15
(57)【要約】
【課題】鋼矢板の表面から部材が突出する高さを抑えつつ、連結される鋼矢板同士の間でより安定的に力を伝達する。
【解決手段】第1および第2の鋼矢板を長手方向端部で互いに連結する連結構造であって、上記第1の鋼矢板の長手方向端部で上記第1の鋼矢板の側面から突出し、上記第1の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第1の接触面を有する第1の突出部材と、上記第2の鋼矢板の長手方向端部で上記第2の鋼矢板の側面から突出し、上記第2の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第2の接触面を有する第2の突出部材と、上記第1の接触面に接触する第3の接触面、および上記第2の接触面に接触する第4の接触面を有し、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において上記第1の突出部材および上記第2の突出部材を少なくとも部分的に囲む形状を有する連結部材とを備える連結構造が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の鋼矢板を長手方向端部で互いに連結する連結構造であって、
前記第1の鋼矢板の長手方向端部で前記第1の鋼矢板の側面から突出し、前記第1の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第1の接触面を有する第1の突出部材と、
前記第2の鋼矢板の長手方向端部で前記第2の鋼矢板の側面から突出し、前記第2の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第2の接触面を有する第2の突出部材と、
前記第1の接触面に接触する第3の接触面、および前記第2の接触面に接触する第4の接触面を有し、前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において前記第1の突出部材および前記第2の突出部材を少なくとも部分的に囲む形状を有する連結部材と
を備える連結構造。
【請求項2】
前記連結部材は、前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において前記第1および第2の突出部材の全周を囲む閉形状を有する、請求項1に記載の連結構造。
【請求項3】
前記第1および第2の接触面には、前記第1および第2の鋼矢板の長手方向を含み前記第1および第2の鋼矢板の側面に直交する断面において、前記第1および第2の鋼矢板から遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される、請求項2に記載の連結構造。
【請求項4】
前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において前記第1および第2の突出部材が全体としてなす形状は、矩形、六角形、砂時計形または楕円形である、請求項2または請求項3に記載の連結構造。
【請求項5】
前記連結部材、または前記連結部材に接合された蓋部材と、前記第1および第2の突出部材とに挿通される固定用ボルトをさらに備える、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の連結構造。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の連結構造を用いた鋼矢板の連結方法であって、
前記第1の鋼矢板の側面に前記第1の突出部材を接合する工程と、
前記第2の鋼矢板の側面に前記第2の突出部材を接合する工程と、
前記第1の鋼矢板と前記第2の鋼矢板とを長手方向の端面で突き合わせる工程と、
前記第1および第2の鋼矢板の側面とは反対側から前記連結部材を前記第1および第2の突出部材に嵌合させ、前記第3の接触面を前記第1の接触面に接触させるとともに前記第4の接触面を前記第2の接触面に接触させる工程と
を含む鋼矢板の連結方法。
【請求項7】
前記連結部材は、前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において前記第1および第2の突出部材の一方の側端面を囲まない開形状を有する、請求項1に記載の連結構造。
【請求項8】
前記第1および第2の接触面には、前記第1および第2の鋼矢板の長手方向を含み前記第1および第2の鋼矢板の側面に直交する断面において、前記第1および第2の鋼矢板に近づくにつれて幅狭になるテーパーが形成される、請求項7に記載の連結構造。
【請求項9】
前記第1および第2の接触面には、前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において、前記連結部材によって囲まれない方の側端面から遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される、請求項7または請求項8に記載の連結構造。
【請求項10】
前記第1および第2の突出部材と前記連結部材とに挿通される固定用ボルトをさらに備える、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の連結構造。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の連結構造を用いた鋼矢板の連結方法であって、
前記第1の鋼矢板の側面に前記第1の突出部材を接合する工程と、
前記第2の鋼矢板の側面に前記第2の突出部材を接合する工程と、
前記第1の鋼矢板と前記第2の鋼矢板とを長手方向の端面で突き合わせる工程と、
前記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な方向から前記連結部材を前記第1および第2の突出部材に嵌合させ、前記第3の接触面を前記第1の接触面に接触させるとともに前記第4の接触面と前記第2の接触面に接触させる工程と
を含む鋼矢板の連結方法。
【請求項12】
請求項1から請求項5、または請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の連結構造を含む鋼矢板構造体であって、
前記第1および第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、
前記連結構造が、前記ハット形鋼矢板のウェブ、アームまたはフランジの少なくともいずれかの側面に取り付けられる鋼矢板構造体。
【請求項13】
前記連結構造が、前記ウェブおよび前記アームで前記第1および第2の鋼矢板の両側面に取り付けられる、請求項12に記載の鋼矢板構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板の連結構造、鋼矢板の連結方法および鋼矢板構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、土木建築工事において、土留めや止水のための鋼矢板壁を構築するために広く利用されている。例えば橋桁の下などで、必要とされる鋼矢板の長さに対して施工空間の高さに制約がある場合には、複数の鋼矢板を長手方向に連結して地盤に打設する。しかしながら、従来のように現場溶接によって鋼矢板同士を接合する場合、溶接工程にかかる時間が長いために、工期全体が長くなってしまうという問題が生じていた。
【0003】
そこで、特許文献1では、鋼矢板の表面から突出する補強鋼板同士をボルトおよびナットを用いて固着することによって、鋼矢板を長手方向に機械的に連結する技術が提案されている。これによって、鋼矢板を連結するための現場溶接が不要になり、工期を短縮できる。また、特許文献1には、上記のような補強鋼板が鋼矢板壁の壁厚の範囲に収まるように配置することで、打設抵抗の増大を抑制することについても記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2では、鋼矢板の表面から部材が突出する高さを可能な限り抑えつつ、鋼矢板を長手方向に機械的に連結するために、第1の鋼矢板および第2の鋼矢板を長手方向に連結するための継手構造であって、第1の鋼矢板の側面に形成される第1の凹凸部と、第1の鋼矢板および第2の鋼矢板の側面に沿って延び、第1の凹凸部に係合する板状連結部材とを含む継手構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-38288号公報
【特許文献2】特開2019-31829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献2に記載された技術は、特許文献1に記載された技術に対する改良技術ではあるものの、凹凸部を円滑に係合させるためにはある程度の寸法の余裕が必要であり、そうすると今度はがたつきが生じて見かけの剛性が下がる可能性や、凹凸部の特定の部分に力が集中して変形や損傷を生じさせる可能性があるという点で、なおも改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、鋼矢板の表面から部材が突出する高さを抑えつつ、連結される鋼矢板同士の間でより安定的に力を伝達することが可能な鋼矢板の連結構造、鋼矢板の連結方法および鋼矢板構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]第1および第2の鋼矢板を長手方向端部で互いに連結する連結構造であって、上記第1の鋼矢板の長手方向端部で上記第1の鋼矢板の側面から突出し、上記第1の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第1の接触面を有する第1の突出部材と、上記第2の鋼矢板の長手方向端部で上記第2の鋼矢板の側面から突出し、上記第2の鋼矢板の長手方向中央側に向けられた第2の接触面を有する第2の突出部材と、上記第1の接触面に接触する第3の接触面、および上記第2の接触面に接触する第4の接触面を有し、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において上記第1の突出部材および上記第2の突出部材を少なくとも部分的に囲む形状を有する連結部材とを備える連結構造。
[2]上記連結部材は、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において上記第1および第2の突出部材の全周を囲む閉形状を有する、[1]に記載の連結構造。
[3]上記第1および第2の接触面には、上記第1および第2の鋼矢板の長手方向を含み上記第1および第2の鋼矢板の側面に直交する断面において、上記第1および第2の鋼矢板から遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される、[2]に記載の連結構造。
[4]上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において上記第1および第2の突出部材が全体としてなす形状は、矩形、六角形、砂時計形または楕円形である、[2]または[3]に記載の連結構造。
[5]上記連結部材、または上記連結部材に接合された蓋部材と、上記第1および第2の突出部材とに挿通される固定用ボルトをさらに備える、[2]から[4]のいずれか1項に記載の連結構造。
[6][2]から[5]のいずれか1項に記載の連結構造を用いた鋼矢板の連結方法であって、上記第1の鋼矢板の側面に上記第1の突出部材を接合する工程と、上記第2の鋼矢板の側面に上記第2の突出部材を接合する工程と、上記第1の鋼矢板と上記第2の鋼矢板とを長手方向の端面で突き合わせる工程と、上記第1および第2の鋼矢板の側面とは反対側から上記連結部材を上記第1および第2の突出部材に嵌合させ、上記第3の接触面を上記第1の接触面に接触させるとともに上記第4の接触面を上記第2の接触面に接触させる工程とを含む鋼矢板の連結方法。
[7]上記連結部材は、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において上記第1および第2の突出部材の一方の側端面を囲まない開形状を有する、[1]に記載の連結構造。
[8]上記第1および第2の接触面には、上記第1および第2の鋼矢板の長手方向を含み上記第1および第2の鋼矢板の側面に直交する断面において、上記第1および第2の鋼矢板に近づくにつれて幅狭になるテーパーが形成される、[7]に記載の連結構造。
[9]上記第1および第2の接触面には、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な断面において、上記連結部材によって囲まれない方の側端面から遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される、[7]または[8]に記載の連結構造。
[10]上記第1および第2の突出部材と上記連結部材とに挿通される固定用ボルトをさらに備える、[7]から[9]のいずれか1項に記載の連結構造。
[11][7]から[10]のいずれか1項に記載の連結構造を用いた鋼矢板の連結方法であって、上記第1の鋼矢板の側面に上記第1の突出部材を接合する工程と、上記第2の鋼矢板の側面に上記第2の突出部材を接合する工程と、上記第1の鋼矢板と上記第2の鋼矢板とを長手方向の端面で突き合わせる工程と、上記第1および第2の鋼矢板の側面に対して平行な方向から上記連結部材を上記第1および第2の突出部材に嵌合させ、上記第3の接触面を上記第1の接触面に接触させるとともに上記第4の接触面と上記第2の接触面に接触させる工程とを含む鋼矢板の連結方法。
[12][1]から[5]、または[7]から[10]のいずれか1項に記載の連結構造を含む鋼矢板構造体であって、上記第1および第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、上記連結構造が、上記ハット形鋼矢板のウェブ、アームまたはフランジの少なくともいずれかの側面に取り付けられる鋼矢板構造体。
[13]上記連結構造が、上記ウェブおよび上記アームで上記第1および第2の鋼矢板の両側面に取り付けられる、[12]に記載の鋼矢板構造体。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、連結部材が鋼矢板の側面に対して平行な断面において突出部材を囲む形状を有することによって、連結構造の部材が鋼矢板の表面から突出する高さを抑えることができる。また、突出部材と連結部材との間の力の伝達を、連結される鋼矢板それぞれの側で1対の接触面の間で行うことによって、分散した接触面の特定の部分に力が集中することがなく、安定的に力を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る連結構造を含む鋼矢板壁の一部を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示された連結構造の形成過程を示す図であり、
図2のIII-III線断面図にあたる。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る連結構造の平面形状の例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る連結構造の鋼矢板壁への取り付け方の例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る連結構造における離脱防止構造の例を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る連結構造を含む鋼矢板壁の一部を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示された連結構造の形成過程を示す図であり、
図8のIX-IX線矢視図にあたる。
【
図10】
図8に示された連結構造の形成過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0012】
図1は本発明の第1の実施形態に係る連結構造を含む鋼矢板壁の一部を示す斜視図であり、
図2は
図1における連結構造の拡大図である。
図1および
図2に示されるように、鋼矢板壁1は、ハット形鋼矢板である複数の鋼矢板10を連結構造20によって長手方向(図中のz方向)に連結するとともに、両側部に形成される継手11の連結によって幅方向(図中のx方向)にも連結したものである。それぞれの鋼矢板10は、ウェブ12、フランジ13およびアーム14を含む。以下の説明では、これらの各部を構成する鋼矢板10の端面ではない表面を鋼矢板10の側面という。ウェブ12およびアーム14において、鋼矢板10の側面は鋼矢板壁の壁厚方向(図中のy方向)に向いた面になる。同様に、鋼矢板10の長手方向(z方向)に向いた面を、鋼矢板10の端面という。なお、以下で説明される図において、x,y,zの方向は共通である。また、図示される例において鋼矢板10はハット形鋼矢板であるが、他の例としてU形鋼矢板、Z形鋼矢板、直線形鋼矢板など各種の断面の鋼矢板に本発明の実施形態に係る連結構造を適用することが可能である。
【0013】
より具体的には、連結構造20は、鋼矢板10Aの長手方向端部でウェブ12の側面から突出する突出部材21A(第1の突出部材)と、鋼矢板10Bの長手方向端部で鋼矢板10Bのウェブ12の側面から突出する突出部材21B(第2の突出部材)と、突出部材21A,21Bに嵌合する連結部材22とを含む。突出部材21A,21Bおよび連結部材22は、以下で説明するような形状を有する鋼製の板状部材である。本実施形態において、連結部材22は鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において突出部材の全周を囲む閉形状を有する。
【0014】
図3は、
図1および
図2に示された連結構造の形成過程を示す図であり、
図2のIII-III線断面図にあたる。図示されるように、連結構造20は、例えば、鋼矢板10A,10Bに予め突出部材21A,21Bを溶接などによってそれぞれ接合し、鋼矢板10A,10Bを長手方向の端面で突き合わせた上で、鋼矢板10A,10Bの側面とは反対側から連結部材22を突出部材21A,21Bに嵌合させることによって形成される。突出部材21Aは鋼矢板10Aの長手方向中央側(つまり長手方向端部とは反対側)に向けられた接触面211A(第1の接触面)を有し、突出部材21Bは鋼矢板10Bの長手方向中央側に向けられた接触面211B(第2の接触面)を有する。一方、連結部材22は、上記のように突出部材21A,21Bの全周を囲む閉形状の内側で互いに対向する接触面221A(第3の接触面)および接触面221B(第4の接触面)を有する。連結部材22の接触面221Aが突出部材21Aの接触面211Aに接触し、接触面221Bが突出部材21Bの接触面211Bに接触することによって、それぞれの接触面の間で支圧力が伝達され、連結構造20が鋼矢板10A,10Bの間で引張力を伝達できる連結部として機能する。なお、圧縮力については、連結構造20によって鋼矢板10A,10Bの水平位置が固定されていれば鋼矢板10A,10Bの端面同士の接触によって伝達されるため、必ずしも連結構造20によって伝達されなくてもよい。
【0015】
図示された例において、突出部材21A,21Bの接触面211A,211Bには、鋼矢板10A,10Bの長手方向を含み鋼矢板10A,10Bの側面に直交する断面(図中のy-z断面)において、鋼矢板10A,10Bから遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される。つまり、上記の断面において、接触面211A,211Bを含む突出部材21A,21Bは、全体として鋼矢板10A,10B側が底辺になる台形である。連結部材22の接触面221A,221Bは突出部材21A,21Bの接触面に接触するために、接触面211A,211Bに対応した形状を有する。つまり、上記の断面において、連結部材22の閉形状の内側の接触面221A,221Bによって挟まれる空間は、鋼矢板10A,10Bに向かって拡大している。
【0016】
上記のように突出部材21A,21Bおよび連結部材22の接触面を鋼矢板10A,10Bの側面に向かって開いたテーパー形状にすることによって、突出部材21A,21Bおよび連結部材22の寸法誤差や突出部材21A,21Bの鋼矢板10A,10Bへの取り付け位置の誤差を吸収して、突出部材21A,21Bの接触面211A,211Bと連結部材22の接触面221A,221Bとを隙間なく接触させることができる。
【0017】
図4は、
図3に示された例の変形例を示す図である。突出部材21A,21Bおよび連結部材22の縦断面において接触面は必ずしもテーパー形状でなくてもよく、
図4に示された例のように接触面が略平行であってもよい。この例において、突出部材21A,21Bの接触面211A,211Bは、鋼矢板10A,10Bの長手方向を含み鋼矢板10A,10Bの側面に直交する断面(図中のy-z断面)において、いずれも上側に向かって傾斜している。つまり、
図4の断面において、接触面211A,211Bを含む突出部材21A,21Bは略平行四辺形である。なお、接触面は厳密に平行ではなくてもよく、互いに接触する接触面、すなわち接触面211A,221Aおよび接触面211B,221Bがそれぞれ対応する傾きで形成されていればよい。
【0018】
突出部材21A,21Bおよび連結部材の接触面がテーパー形状ではない場合、施工時の上下矢板の位置のずれや、寸法誤差や取り付け位置の誤差を吸収するために突出部材21A,21Bの接触面211A,211Bと連結部材22の接触面221A,221Bとの間には若干の隙間が必要になる。これによって部材間にがたつきが生じるが、連結構造20が鋼矢板10A,10Bの間で引張力を伝達する場合には突出部材21A,21Bがそれぞれ反対方向に引っ張られることによって接触面間の隙間がなくなるため、上記のような隙間があっても連結構造20は機能する。なお、
図4の例のように接触面を上側に向かって傾斜させた場合には連結部材22にかかる重力を利用して連結部材22が突出部材21A,21Bから離脱するのを防止でき、後述する
図7(b)(c)のように、連結部材を突出部材に固定用ボルトを用いて固定する場合において、上側のボルトを不要とし、下側のボルトのみで連結することができ、加工費やボルト取付作業を軽減できる。接触面は鋼矢板10A,10Bの側面に対して垂直であってもよく、あるいは下側に向かって傾斜していてもよい。これらの場合にも、例えば後述する固定用ボルトなどの手段によって連結部材22の離脱を防止できる。
【0019】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る連結構造の平面形状の例を示す図である。連結構造の平面形状、すなわち鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において突出部材21A,21Bが全体としてなす形状は、上記で
図2に示されたように矩形であってもよいし、
図5(a)に示されるように六角形であってもよいし、
図5(b)および
図5(c)に示されるように砂時計形であってもよいし、
図5(d)に示されるように楕円形であってもよい。いずれの場合も、突出部材21A,21Bは、それぞれ鋼矢板10A,10Bの長手方向中央側に向けられた接触面を有する。なお、例えば
図5(a)や
図5(d)に示される例のように、接触面は必ずしも上記の断面において鋼矢板10A,10Bの長手方向に直交する面ではなくてもよく、接触面を介して伝達される支圧力が鋼矢板10A,10Bの長手方向の成分を含むような傾斜面や湾曲面であってもよい。
【0020】
上記のそれぞれの例において、連結部材22が内側に形成する閉形状は、突出部材21A,21Bが全体としてなす平面形状に対応する。具体的には、連結部材22が内側に形成する閉形状は、
図2の例では矩形であり、
図5(a)の例では六角形であり、
図5(b)および
図5(c)の例では砂時計形であり、
図5(d)の例では楕円形である。上述のように接触面が縦断面(図中のy-z断面)においてテーパー形状である場合、鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(x-z断面)において突出部材21A,21Bおよび連結部材22がなす形状は、断面が鋼矢板10A,10Bの側面に近づくにつれて鋼矢板10A,10Bの長手方向(z方向)に引き伸ばされるように変化する。
【0021】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る連結構造の鋼矢板壁への取り付け方の例を示す図である。
図6(a)に示された例では、連結構造20が、ハット形鋼矢板である鋼矢板10のウェブ12およびアーム14の外側の側面に取り付けられる。ここで、鋼矢板10の外側の側面は、鋼矢板10の壁厚方向(図中のy方向)の中立軸からより遠い側の側面である。鋼矢板壁の外側のウェブ12およびアーム14の外側の側面に連結構造20を取り付けることによって、鋼矢板壁に曲げモーメントが作用した場合により効果的に荷重を負担することができる。
【0022】
図6(b)に示された例では、連結構造20が、ウェブ12およびアーム14の両側面で鋼矢板10の両側面に取り付けられる。上述のように、鋼矢板壁の壁厚方向の中立軸から遠いウェブ12およびアーム14に連結構造20を取り付けることによって、鋼矢板10に曲げモーメントが作用した場合により効果的に荷重を負担することができる。連結構造20は鋼矢板10の長手方向(図中のz方向)の断面が要求引張耐力を満たすように設計する必要があるが、連結構造20を鋼矢板10の両側面に取り付けることによって、合計の断面を大きくしつつ、個々の連結構造20の鋼矢板10からの張り出しを小さくすることができる。
【0023】
図6(c)に示された例では、連結構造20が、ウェブ12およびアーム14の両側面に加えて、フランジ13でも鋼矢板10の両側面に取り付けられる。フランジに取り付けられる連結構造20は、ウェブ12およびアーム14に比べると鋼矢板壁に曲げモーメントが作用したときの荷重負担は小さいが、例えば施工時荷重(軸力)が作用した場合に鋼矢板10の断面全体に荷重を分散させ、鋼矢板10の局所的な降伏を抑制できるという点で利点がある。
【0024】
なお、上述のように連結構造20は鋼矢板10が要求される曲げ剛性・曲げ耐力を発揮できるよう、要求引張耐力を満たすように設計する必要があるが、鋼矢板10に要求される曲げ剛性・曲げ耐力は必ずしも鋼矢板10の断面形状と鋼材規格から決まる曲げ剛性・曲げ耐力と同等ではない。例えば鋼矢板壁が仮設構造物であるような場合、鋼矢板10に要求される曲げ耐力は鋼矢板10の断面形状と鋼材規格から決まる曲げ耐力の2/3程度であってもよい。従って、例えば
図6に示されたような断面において、連結構造20(連結部材22の最も断面が小さい部分)の断面積の合計が鋼矢板10の断面積と同等になる必要はない。
【0025】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る連結構造における離脱防止構造の例を示す図である。
図7(a)に示された例では、予め連結部材22に接合された蓋部材23が、突出部材21A,21Bのそれぞれにボルト接合される。
図7(a)には、蓋部材23に形成されたボルト孔231が示されている。突出部材21A,21Bのそれぞれにもボルト孔231に対応する位置にボルト孔が形成され、これらのボルト孔に固定用ボルト(図示せず)が挿通される。
図7(b)および
図7(c)に示された例では、突出部材21A,21Bおよび連結部材22にそれぞれ形成されたボルト孔212A,212B,222に固定用ボルト24A,24Bが挿通される。孔開けに伴う止水性の低下や切削に伴う変形を防止するため、固定用ボルトの取り付けにあたって鋼矢板10A,10Bには加工が及ばないことが望ましい。このために、
図7(b)および
図7(c)の例では固定用ボルト24A,24Bが鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な平面(図中のx-z平面)内に配置される。
図7(a)の例でも、突出部材21A,21Bに形成されるボルト孔は突出部材21A,21Bを貫通せず、鋼矢板10A,10Bには達しないことが望ましい。
【0026】
以上で説明したような本発明の第1の実施形態では、連結部材22が鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において突出部材21A,21Bを囲む形状を有することによって、連結構造20の部材が鋼矢板10A,10Bの表面から突出する高さを抑えることができる。また、突出部材21A,21Bと連結部材22との間の力の伝達を鋼矢板10A,10Bそれぞれの側で1対の接触面、すなわち接触面211A,221Aの間および接触面211B,221Bの間で行うことによって、分散した接触面の特定の部分に力が集中することがなく、安定的に力を伝達することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態に係る連結構造を含む鋼矢板壁の一部を示す斜視図である。
図8には、鋼矢板10A,10Bの一部と、鋼矢板10A,10Bを長手方向(図中のz方向)に連結する連結構造30とが示されている。鋼矢板10A,10Bおよび鋼矢板壁の構成については、第1の実施形態と同様であるため図示および説明を省略している。連結構造30は、鋼矢板10A,10Bのウェブ、フランジまたはアームの少なくともいずれかの側面に取り付けられる。本実施形態において、連結構造30は、鋼矢板10Aの長手方向端部で鋼矢板10Aの側面から突出する突出部材31A(第1の突出部材)と、鋼矢板10Bの長手方向端部で鋼矢板10Bの側面から突出する突出部材31B(第2の突出部材)と、突出部材31A,31Bに嵌合する連結部材32とを含む。突出部材31A,31Bおよび連結部材32は、以下で説明するような形状を有する鋼製の板状部材である。本実施形態において、連結部材32は鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において突出部材31A,31Bの一方の側端面を囲まないC字形の開形状を有する。
【0028】
図9および
図10は、
図8に示された連結構造の形成過程を示す図であり、
図9は
図8のVIII-VIII線矢視図にあたる。図示されるように、連結構造30は、例えば、鋼矢板10A,10Bに予め突出部材31A,31Bを溶接などによってそれぞれ接合し、鋼矢板10A,10Bを長手方向の端面で突き合わせた上で、鋼矢板10A,10Bの長手方向に対して垂直、かつ鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な方向(ウェブまたはアームの場合は、鋼矢板壁の壁幅方向(図中のx方向))から連結部材32を突出部材31A,31Bに嵌合させることによって形成される。突出部材31Aは鋼矢板10Aの長手方向中央側に向けられた接触面311A(第1の接触面)を有し、突出部材31Bは鋼矢板10Bの長手方向中央側に向けられた接触面311Bを有する。一方、連結部材32は、上記のように突出部材31A,31Bを部分的に囲むC字形の開形状の内側で互いに対向する接触面321A(第3の接触面)および接触面321B(第4の接触面)を有する。連結部材32の接触面321Aが突出部材31Aの接触面311Aに接触し、接触面321Bが突出部材31Bの接触面311Bに接触することによって、それぞれの接触面の間で支圧力が伝達され、連結構造30が鋼矢板10A,10Bの間で引張力を伝達できる連結部として機能する。なお、上記の第1の実施形態と同様に、圧縮力については必ずしも連結構造30によって伝達されなくてもよい。
【0029】
図示された例において、突出部材31A,31Bの接触面311A,311Bには、鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において、連結部材32によって囲まれない方の側端面313A,313Bから遠ざかるにつれて幅狭になるテーパーが形成される。つまり、上記の断面において、接触面211A,211Bを含む突出部材31A,31Bは、全体として側端面313A,313B側が底辺になる台形である。連結部材32の接触面321A,321Bは突出部材31A,31Bの接触面に接触するために、接触面311A,311Bに対応した形状を有する。つまり、上記の断面において、連結部材32のC字形の開形状の内側の空間は、突出部材31A,31Bに向かって拡大している。
【0030】
さらに、
図8に示された例において、突出部材31A,31Bの接触面311A,311Bには、鋼矢板10A,10Bの長手方向を含み鋼矢板10A,10Bの側面に直交する断面(図中のy-z断面)において、鋼矢板10A,10Bに近づくにつれて幅狭になるテーパーが形成される。つまり、上記の断面において、接触面311A,311Bを含む突出部材31A,31Bは、全体として鋼矢板10A,10Bとは反対側が底辺になる台形である。連結部材32の接触面321A,321Bは突出部材31A,31Bの接触面に接触するために、接触面311A,311Bに対応した形状を有する。つまり、上記の断面において、連結部材32の接触面321A,321Bによって挟まれる空間は、鋼矢板10A,10Bに向かって縮小している。これにより、連結部材が鋼矢板側面から遠ざかる方向(y方向)から離脱するのを防ぐことができる。
【0031】
上記のように突出部材31A,31Bおよび連結部材32の接触面をテーパー形状にすることによって、突出部材31A,31Bおよび連結部材32の寸法誤差や突出部材31A,31Bの鋼矢板10A,10Bへの取り付け位置の誤差を吸収して、突出部材31A,31Bの接触面311A,311Bと連結部材32の接触面321A,321Bとを隙間なく接触させることができる。また、本実施形態において連結部材32はC字形の開形状を有し、側方から突出部材31A,31Bに嵌合させられるため、上記のようなテーパーによって突出部材31A,31Bを縦断面において蟻ほぞ状の形状にし、次に説明する固定用ボルトとあわせて連結部材32の離脱を防止することができる。
【0032】
図10に示されるように、連結部材32を突出部材31A,31Bに嵌合させた状態で、突出部材31A,31Bおよび連結部材32にそれぞれ形成されたボルト孔312A,312B,322に固定用ボルト34A,34Bを挿通することによって、連結部材32の離脱を防止し、突出部材31A,31Bおよび連結部材32の接触面の間で支圧力が伝達される状態を維持することができる。なお、図示された例では固定用ボルト34A,34Bが水平方向(図中のx方向)に挿通されているが、第1の実施形態を参照して説明した例と同様に、固定用ボルトは鉛直方向(z方向)に挿通されてもよく、斜め方向に挿通されてもよい。ボルト孔などの加工が鋼矢板10A,10Bには及ばないことが望ましいのも、第1の実施形態と同様である。
【0033】
以上で説明したような本発明の第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に連結部材32が鋼矢板10A,10Bの側面に対して平行な断面(図中のx-z断面)において突出部材31A,31Bを囲む形状を有することによって、連結構造30の部材が鋼矢板10A,10Bの表面から突出する高さを抑えることができる。また、突出部材31A,31Bと連結部材32との間の力の伝達を鋼矢板10A,10Bそれぞれの側で1対の接触面、すなわち接触面311A,321Aの間および接触面311B,321Bの間で行うことによって、分散した接触面の特定の部分に力が集中することがなく、安定的に力を伝達することができる。第1の実施形態との比較として、本実施形態では連結部材32が側方から突出部材31A,31Bに嵌合させられるため、上述したようなテーパー形状によってがたつきの防止や連結部材32の離脱防止をすることが容易である。その一方で、本実施形態では連結部材32が突出部材31A,31Bの一方の側端面の側で開いた開形状であるのに対して、第1の実施形態では連結部材が突出部材の両方の側端面を含む全周を囲む閉形状であるため、要求引張耐力を満たす断面を確保しやすいという点では第1の実施形態が有利である。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0035】
10,10A,10B…鋼矢板、11…継手、12…ウェブ、13…フランジ、14…アーム、20…連結構造、21A,21B…突出部材、211A,211B…接触面、212A,212B…ボルト孔、22…連結部材、221A,221B…接触面、222…ボルト孔、23…蓋部材、231…ボルト孔、24A,24B…固定用ボルト、30…連結構造、31A,31B…突出部材、311A,311B…接触面、312A,312B…ボルト孔、313A,313B…側端面、32…連結部材、321A,321B…接触面、322…ボルト孔、34A,34B…固定用ボルト。