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特開2023-140927地中構造物の構築方法および地中構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140927
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】地中構造物の構築方法および地中構造物
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/34 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047002
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛男
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA33
2D041BA44
2D041DA03
2D041EB10
(57)【要約】
【課題】簡易な設備で施工性および安全性、ならびに品質を向上させた鉄筋の建て込み工程を実施する。
【解決手段】地盤を掘削して立坑を形成する最初の掘削工程と、前記立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、前記土留部材に取り付けられた固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記立坑の内部に鉄筋を吊り降ろす最初の鉄筋建て込み工程と、前記地盤をさらに掘削して前記立坑を鉛直方向に掘り進める最後の掘削工程と、前記固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記最後の掘削工程で掘り進められた前記立坑の内部に前記鉄筋を吊り降ろす最後の鉄筋建て込み工程と、前記鉄筋を含む前記立坑の内部にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含む、地中構造物の構築方法が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削して立坑を形成する最初の掘削工程と、
前記立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、
前記土留部材に取り付けられた固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記立坑の内部に鉄筋を吊り降ろす最初の鉄筋建て込み工程と、
前記地盤をさらに掘削して前記立坑を鉛直方向に掘り進める最後の掘削工程と、
前記固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記最後の掘削工程で掘り進められた前記立坑の内部に前記鉄筋を吊り降ろす最後の鉄筋建て込み工程と、
前記鉄筋を含む前記立坑の内部にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と
を含む、地中構造物の構築方法。
【請求項2】
前記最初の掘削工程と前記最後の掘削工程との間で、前記地盤を掘削して前記立坑を鉛直方向に掘り進める少なくとも1回の中間掘削工程と、
前記固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記中間掘削工程で掘り進められた前記立坑の内部に前記鉄筋を吊り降ろす中間鉄筋建て込み工程と
をさらに含む、請求項1に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項3】
前記土留部材は、高さ方向について波形断面を有する、請求項1または請求項2に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項4】
前記立坑の壁面と前記土留部材との間に吹付けまたは充填のいずれかまたは両方によってグラウトを施工するグラウト施工工程をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項5】
前記鉄筋は、鉛直方向に配筋され、それぞれが複数の鉄筋を長さ方向に連結して構成される第1の主鉄筋および第2の主鉄筋を少なくとも含み、
前記最後の鉄筋建て込み工程で前記第1の主鉄筋および前記第2の主鉄筋について先端が前記立坑の掘削底面まで到達させられたときに、前記第1の主鉄筋の連結位置と前記第2の主鉄筋の連結位置とが異なる高さに位置する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項6】
前記複数の鉄筋のうち、既に建て込まれた鉄筋の上端に新たな鉄筋を接続してから、前記既に建て込まれた鉄筋および前記新たな鉄筋を一緒に吊り降ろす工程を含む、請求項5に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項7】
前記鉄筋は、鉛直方向に配筋される主鉄筋を含み、
前記最初の鉄筋建て込み工程の後に、前記主鉄筋の突出部を前記固定治具に係止して前記主鉄筋の高さ位置を固定する固定工程をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項8】
地盤を掘削して形成された立坑の壁面に沿って設置された土留部材と、
前記土留部材に取り付けられた固定治具と、
前記固定治具に係合するように配置された鉄筋と、
前記鉄筋を含む前記立坑の内部に打設されたコンクリートと
を有する地中構造物。
【請求項9】
前記鉄筋は、鉛直方向に延びる主鉄筋を含み、
前記固定治具は、前記主鉄筋の突出部を係止可能な構造を有する、請求項8に記載の地中構造物。
【請求項10】
前記固定治具は、前記主鉄筋を挿入および離脱させることが可能な切り欠きを有する、請求項9に記載の地中構造物。
【請求項11】
前記固定治具は、水平面内で回動することによって前記主鉄筋に接近および離隔する湾曲部を有する、請求項9に記載の地中構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物の構築方法および地中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
深礎基礎は、一般に、地盤を掘削しながらライナープレートの左右ならびに上下の縁端を順次接続する手順を所定深度まで繰り返すことで、立坑の内側に土留壁を構築し、土留壁の内側に鉄筋を建て込み、さらにコンクリートを打設することによって施工される。一般に土留壁の内側に立て込まれる鉄筋は主鉄筋とフープ筋とを含むが、これらの鉄筋の建て込みに関する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、円柱状の杭穴の内部で、架台を所定間隔で設けた架台柱を壁面に沿って垂直方向に設置してフープ筋を仮保持するとともに、上下移動可能な吊り足場を用いてフープ筋を配筋結束し、浮足場を用いてコンクリートを打設し、さらに鉄筋を機械継手工法で連結して縦主筋とする技術が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、掘削した立坑内に鉄筋組み立て用の足場を形成し、立坑周囲の地上で組立装置を用いてフープ筋を複数段毎に分けて環状に仮組みし、仮組みした複数段のフープ筋を順次立坑内に搬入し、次いで立坑内に主筋を挿入して足場を用いて主筋とフープ筋とを接続する技術が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、深礎立坑の坑口地上部にやぐら形の仮設架台を構築するとともに、同期運転可能な複数のチェーンホイルウインチを配置して支持リングを吊り支持し、支持リングに鉄筋篭を構成する縦筋を1本ずつ取り付け、縦筋の周囲に帯筋を溶接し、鉄筋篭としての剛性を確保した部分をチェーンホイルウインチの操作で支持リングとともに順次、深礎立坑内に吊り降ろす技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-038475号公報
【特許文献2】特開2003-313860号公報
【特許文献3】特開平09-177070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来の鉄筋建て込み技術にはいくつかの課題がある。まず、特許文献1に記載されたように立坑内で鉄筋を組み立てる方法は、組み立てながら鉄筋外側のコンクリートかぶり厚を確認できるため施工の精度は高いが、組み立てに足場が必要であるため施工性は低く、また立坑内での作業が多くなるため安全性も高いとはいえない。特許文献2に記載されたように地上部である程度の組み立てを行ってから立坑内で接合する方法は、施工性や安全性は向上するが、大型の吊り下げ機械が必要になる。また、立坑内での作業は減るものの依然として存在する。特許文献3に記載されたように立坑口で組み立てを行いながら連続的に鉄筋を送り込む方法は、施工性や安全性はさらに向上するが、大掛かりな設備が必要になり、また立坑の外からの組み立て作業になるためコンクリートかぶり厚の確認が困難である。
【0008】
そこで、本発明は、簡易な設備で施工性および安全性、ならびに品質を向上させた鉄筋の建て込み工程を実施することが可能な、地中構造物の構築方法および地中構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]地盤を掘削して立坑を形成する最初の掘削工程と、前記立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、前記土留部材に取り付けられた固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記立坑の内部に鉄筋を吊り降ろす最初の鉄筋建て込み工程と、前記地盤をさらに掘削して前記立坑を鉛直方向に掘り進める最後の掘削工程と、前記固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記最後の掘削工程で掘り進められた前記立坑の内部に前記鉄筋を吊り降ろす最後の鉄筋建て込み工程と、前記鉄筋を含む前記立坑の内部にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含む、地中構造物の構築方法。
[2]前記最初の掘削工程と前記最後の掘削工程との間で、前記地盤を掘削して前記立坑を鉛直方向に掘り進める少なくとも1回の中間掘削工程と、前記固定治具を用いて水平位置を固定しながら、前記中間掘削工程で掘り進められた前記立坑の内部に前記鉄筋を吊り降ろす中間鉄筋建て込み工程とをさらに含む、[1]に記載の地中構造物の構築方法。
[3]前記土留部材は、高さ方向について波形断面を有する、[1]または[2]に記載の地中構造物の構築方法。
[4]前記立坑の壁面と前記土留部材との間に吹付けまたは充填のいずれかまたは両方によってグラウトを施工するグラウト施工工程をさらに含む、[1]から[3]のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
[5]前記鉄筋は、鉛直方向に配筋され、それぞれが複数の鉄筋を長さ方向に連結して構成される第1の主鉄筋および第2の主鉄筋を少なくとも含み、前記最後の鉄筋建て込み工程で前記第1の主鉄筋および前記第2の主鉄筋について先端が前記立坑の掘削底面まで到達させられたときに、前記第1の主鉄筋の連結位置と前記第2の主鉄筋の連結位置とが異なる高さに位置する、[1]から[4]のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
[6]前記複数の鉄筋のうち、既に建て込まれた鉄筋の上端に新たな鉄筋を接続してから、前記既に建て込まれた鉄筋および前記新たな鉄筋を一緒に吊り降ろす工程を含む、[5]に記載の地中構造物の構築方法。
[7]前記鉄筋は、鉛直方向に配筋される主鉄筋を含み、前記最初の鉄筋建て込み工程の後に、前記主鉄筋の突出部を前記固定治具に係止して前記主鉄筋の高さ位置を固定する固定工程をさらに含む、[1]から[6]のいずれか1項に記載の地中構造物の構築方法。
[8]地盤を掘削して形成された立坑の壁面に沿って設置された土留部材と、前記土留部材に取り付けられた固定治具と、前記固定治具に係合するように配置された鉄筋と、前記鉄筋を含む前記立坑の内部に打設されたコンクリートとを有する地中構造物。
[9]前記鉄筋は、鉛直方向に延びる主鉄筋を含み、前記固定治具は、前記主鉄筋の突出部を係止可能な構造を有する、[8]に記載の地中構造物。
[10]前記固定治具は、前記主鉄筋を挿入および離脱させることが可能な切り欠きを有する、[9]に記載の地中構造物。
[11]前記固定治具は、水平面内で回動することによって前記主鉄筋に接近および離隔する湾曲部を有する、[9]に記載の地中構造物。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、立坑を段階的に掘削する工程と並行して鉄筋を順次吊り降ろすことによって鉄筋の建て込み工程が行われる。これによって立坑内で鉄筋建て込みのための足場が不要になるため、施工性および安全性が向上する。また、鉄筋の水平位置は土留部材に取り付けられる固定治具によって固定されるため、立坑内で作業をしなくても鉄筋の外側のコンクリートかぶり厚を確実に設定することができる。鉄筋は段階的に順次吊り降ろせばよいため、吊り降ろしのためのクレーンなどの機械は小型化することが可能である。このように、本発明によれば、簡易な設備で施工性および安全性、ならびに品質を向上させた鉄筋の建て込み工程を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法の工程を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る地中構造物の施工方法の変形例を示す図である。
図11】本発明の一実施形態に係る地中構造物の施工方法の変形例を示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る地中構造物の施工方法の変形例を示す図である。
図13】本発明の一実施形態において鉄筋の高さ位置を固定する方法の例を示す図である。
図14図13に示された例で利用可能な固定治具の第1の例を示す図である。
図15図13に示された例で利用可能な固定治具の第2の例を示す図である。
図16図13に示された例で利用可能な固定治具の第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
(地中構造物の施工方法)
以下では、図1から図9を参照して、本発明の一実施形態に係る地中構造物である深礎基礎の構築方法について説明する。まず、図1は、地盤を掘削して立坑1を形成する掘削工程の第1段階(最初の掘削工程)、立坑1の壁面に沿って土留部材であるライナープレート2を設置する工程、および立坑1の壁面とライナープレート2との間にグラウト3を施工する工程の後で、立坑1の内部に主鉄筋4Aを建て込む工程(最初の鉄筋建て込み工程)を示す。主鉄筋4Aは鉛直方向に配筋され、立坑1の内周に沿って配列される鉄筋である。この建て込みの工程では、主鉄筋4Aの水平位置をライナープレート2に取り付けられた固定治具5を用いて固定しながら、立坑1の坑口1A側から主鉄筋4Aを立坑1の内部に吊り降ろす。図を簡単にするために省略されているが、図中の奥側に配置される主鉄筋4Aも、奥側のライナープレート2に取り付けられた固定治具を用いて水平位置が固定されている。
【0014】
ここで、本実施形態において、主鉄筋4Aは、図1に示された時点で先端が立坑1の掘削底面1Bまで到達する主鉄筋41A(第1の主鉄筋)と、この時点では先端が掘削底面1Bに到達しない状態で高さ位置が固定される主鉄筋42A(第2の主鉄筋)とを含む。なお、このように建て込みの過程で主鉄筋4Aの高さを互いに違いにすることの利点、および先端が掘削底面1Bに達しない状態で主鉄筋42Aの高さ位置を固定するための固定治具5の構造の例については後述する。
【0015】
次に、図2に示すように地盤を掘削して立坑1を鉛直方向に掘り進める掘削工程の第2段階(中間掘削工程)が行われ、図3に示すように掘り進められた立坑1の壁面に吹付けグラウト31が施工され、図4に示すように掘り進められた立坑1の壁面に沿ってライナープレート2が設置され、さらに図5に示すように吹付けグラウト31とライナープレート2との間に充填グラウト32が施工される。このようなライナープレート2およびグラウト3の施工方法については特開2020-105806号公報にも記載されており、このような施工方法を採用することによって経済的な設計と施工性の向上が可能である。ただし、本発明の実施形態に係るライナープレートおよびグラウトの施工方法はこの例には限られない。例えば吹付けグラウト31を省略して充填グラウト32のみを施工してもよいし、グラウト3自体を省略して、ライナープレート2に設けられた穴からコンクリートを流入させて立坑1の壁面とライナープレート2との間に充填してもよい。第2段階以外の掘削時についても同様であり、地盤条件などに応じて適切なグラウト3の施工方法を選択することができる。複数の段階の掘削工程でライナープレート2のみを設置した後に一括してグラウト3を施工してもよいし、各段階の掘削時でグラウト3の施工方法が異なっていてもよい。
【0016】
次に、図6および図7に示すように、掘り進められた立坑1の内部に主鉄筋を建て込む工程(中間鉄筋建て込み工程)が行われる。まず、図6に示すように主鉄筋4A(主鉄筋41A,42A)の上部にカプラー61,62で新たな主鉄筋4B(主鉄筋41B,42B)を接続し、図7に示すように接続された主鉄筋4A,4Bを吊り降ろす。ここでも、主鉄筋41Aの先端は立坑1の掘削底面1Bに到達させられるのに対して、主鉄筋42Aは先端が掘削底面1Bに到達しない状態で高さ位置を固定される。なお、本実施形態では主鉄に用いられる鉄筋の接続にカプラーを用いるが、他の実施形態ではカプラーと呼ばれるもの以外の機械式継手や、重ね継手、ガス圧接継手または溶接継手で鉄筋が接続されてもよく、接続方法は特に限定されない。
【0017】
上記で図6に示された例では、既に建て込まれた主鉄筋4Aの上端にカプラー61,62などを用いて主鉄筋4Aに新たな主鉄筋4Bを接続した上で、主鉄筋4A,4Bを一緒に吊り降ろしている。別の例として、先に主鉄筋4Aを吊り降ろしてから、主鉄筋4Aにカプラー61,62などを用いて新たな主鉄筋4Bを接続してもよい。この場合、カプラー61,62を予め地上で主鉄筋4Aの上端に取り付けてから主鉄筋4Aを吊り降ろしてもよいし、立坑1の内部で主鉄筋4Bを接続する時に主鉄筋4Aの上端にカプラー61,62を取り付けてもよい。別の例として、主鉄筋4Aの下端にカプラー61,62などを用いて新たな主鉄筋4Bを接続してもよい。この場合、主鉄筋4Aは、吊り降ろさずに、カプラー61,62を予め主鉄筋4Aの下端に取り付けてから主鉄筋4Bを吊り降ろして主鉄筋4Bを主鉄筋4Aの下端にカプラー61,62を介して接続してもよい。
【0018】
以下、同様にして中間掘削工程および中間鉄筋建て込み工程を繰り返し、地盤をさらに掘削して立坑1を鉛直方向に掘り進めながら、掘り進められた立坑1の内部に主鉄筋を立て込む。図8は、掘削工程の最終段階(最後の掘削工程)で立坑1が所定の設計深さに到達し、最終段階で掘り進められた立坑1の内部への主鉄筋の建て込み工程(最後の鉄筋建て込み工程)が行われた状態を示す。なお、図8および図9は、図7までとは別個の例であるため、各鉄筋のカプラーの位置は必ずしも一致しない。図示されているように、最後の鉄筋建て込み工程では、主鉄筋41,42のすべてについて先端が立坑1の掘削底面1Bに到達させられる。
【0019】
上述のように、本実施形態において、主鉄筋41,42は、それぞれ複数の鉄筋をカプラー61,62で長さ方向に連結して構成される。図6および図7の例で示されたように、掘削の途中では主鉄筋41(第1の主鉄筋)を構成する主鉄筋41A,41Bと主鉄筋42(第2の主鉄筋)を構成する主鉄筋42A,42Bとの間でカプラー61,62の高さ位置を揃える一方で、主鉄筋の先端高さ位置を互いに違いにしていたため、図8に示すように主鉄筋41,42の先端を掘削底面1Bまで到達させると、主鉄筋41のカプラー61による連結位置と、主鉄筋42のカプラー62による連結位置とが、異なる高さに位置する。これによって、構造上の弱点になる連結位置の高さがすべての主鉄筋について揃ってしまうことがなくなり、主鉄筋を含む深礎基礎全体の強度を向上させることができる。なお、図示された例では連結位置が異なる高さに位置する2種類の主鉄筋が配置されるが、連結位置がそれぞれ異なる高さに位置する3種類以上の主鉄筋が配置されてもよい。
【0020】
最後に、図9に示すように主鉄筋41,42を含めた立坑1の内部にコンクリート7を打設して、深礎基礎が完成する。なお、図示された例の深礎基礎はコンクリート7が立坑1の内部全体に打設される中実構造であるが、他の例ではコンクリートが内部に空間を空けて打設される中空構造であってもよい。中空構造の地中構造物は、深礎基礎以外にも(構造物としての)立坑、または集水井などとして利用することができる。中空構造の内部の空間に地山掘削時の残土などの土砂を投入した上で、深礎基礎として利用してもよい。また、掘削工程の段階を繰り返す回数は特に限定されない。例えば、掘削工程は第2段階までであってもよく、あるいはより多くの段階が繰り返されてもよい。
【0021】
なお、本実施形態では、高さ方向について波形断面を有するライナープレート2を土留部材として配置している。ライナープレート2が波形断面を有することによって、外側に施工されるグラウト3および内側に打設されるコンクリート7との間で例えば異形鉄筋のようなずれ止め効果が得られる。また、ライナープレート2は高さ方向および幅方向についてボルトなどを用いて互いに連結されているため、コンクリート7の高さ方向の補強材(主鉄筋代替)および幅方向の補強材(フープ筋代替)としても機能する。従って、本実施形態では深礎基礎の鉄筋が鉛直方向に配筋される主鉄筋4A,4B,4Cのみを含み、図示された例のように立坑1の周方向に配筋されるフープ筋を含まないか、または通常の設計よりもフープ筋の数は削減されている。このような深礎基礎の設計については、例えば特開2021-080628号公報にも記載されている。本発明の他の実施形態ではフープ筋を配筋することも可能であり、その場合はフープ筋を接合した主鉄筋が先端を揃えた状態で吊り降ろされる。この場合、主鉄筋のカプラー部分の補強については別途考慮される。なお、ライナープレートと呼ばれるものの他にも、同様の機能を有する各種の部材を土留部材として使用することができる。
【0022】
上記で説明したような本実施形態に係る地中構造物の施工方法によれば、立坑1を段階的に掘削する工程と並行して、立坑1の坑口1A側から主鉄筋4A,4B,4Cを順次吊り降ろすことによって鉄筋の建て込み工程が行われる。これによって立坑1内で鉄筋建て込みのための足場が不要になるため、施工性および安全性が向上する。また、主鉄筋4A,4B,4Cの水平位置はライナープレート2に取り付けられた固定治具5によって固定されるため、立坑1内で作業をしなくても主鉄筋4A,4B,4Cの外側のコンクリートかぶり厚を確実に設定することができる。また、フープ筋を省略する場合は主鉄筋4A、4B,4Cを1本(1組)ずつ吊り降ろすことが可能であるため、吊り降ろしのために大型のクレーンなどの機械は必要とされない。フープ筋を配置する場合も、従来よりもフープ筋の数が削減されていれば、吊り降ろしのためのクレーンなどの機械は小型化することが可能である。
【0023】
図10から図12は、本発明の一実施形態に係る地中構造物の施工方法の変形例を示す図である。最終的に第1の主鉄筋の連結位置と第2の主鉄筋の連結位置とを異なる高さに位置させる方法として、図1から図7に示した例では掘削の途中の連結位置の高さを揃えつつ、主鉄筋の先端高さ位置を互いに違いにし、かつ先端位置が深い方の主鉄筋の先端を掘削底面に到達させる方法を説明したが、以下で説明するように他の方法も適用可能である。なお、以下の図10から図12は、上記の例における図1の段階に相当する。
【0024】
例えば、図10に示された例のように、主鉄筋41A,42Aの先端高さ位置を互い違いにしつつ、先端位置が深い方の主鉄筋41Aも掘削底面1Bには到達しない状態で高さ位置を固定してもよい。あるいは、図11に示された例のように、掘削の途中の時点で、主鉄筋41A,42Aの先端高さ位置を揃えていずれも掘削底面1Bに到達させてもよい。この場合、掘削の途中の時点で、主鉄筋41,42の連結位置は異なる高さになる。また、図12に示された例のように、主鉄筋41A,42Aの先端高さ位置を揃えつつ、主鉄筋41A,42Aのいずれの先端も掘削底面1Bには到達しない状態で高さ位置を固定してもよい。
【0025】
(鉄筋の固定方法)
図13は、本発明の一実施形態において鉄筋の高さ位置を固定する方法の例を示す図である。なお、図を簡単にするために、立坑1の径方向の断面内に位置する1対の鉄筋、およびこれらの鉄筋を固定する固定治具以外は図示を省略している。図示された例では、上記で図1に示した例と同様に立坑1の掘削工程の第1段階が終わり、主鉄筋が建て込まれている。この例において、主鉄筋4Aは図1の例よりも短尺であり、既に上部にカプラー6Aを介して主鉄筋4Bが接続されている。さらに、主鉄筋4Bの上端にはまだ他の鉄筋は接続されていないが、カプラー6Bが先行して取り付けられている。ここで、カプラー6A,6Bは、例えば主鉄筋4A,4Bのそれぞれの端部に形成されたねじ切り部分(おねじ)を螺合させるねじ孔(めねじ)が貫通した筒状の部材である。主鉄筋4A,4Bに取り付けられたカプラー6A,6Bは、主鉄筋4A,4Bよりも外径が大きい突出部を形成する。図示された例では、主鉄筋4A,4Bの長さに合わせて固定治具5を配置し、突出部であるカプラー6A,6Bを固定治具5に係止させることで、主鉄筋4A,4Bの高さ位置が固定される。従って、この後、立坑1の第2段階の掘削をする間は主鉄筋4A,4Bの高さ位置を保持し、掘削が終わってから主鉄筋4A,4Bを吊り降ろすことができる。
【0026】
図14は、図13に示された例で利用可能な固定治具の第1の例を示す図である。図示された例において、固定治具5Aは全体として一方が二又になった板状であり、二又の根元部分にはライナープレート2への取り付け孔51が形成され、二股の部分には向かい合う辺が平行な切り欠き52が形成される。図14(a)に示されるように、主鉄筋4Aの上端にカプラー6Aを取り付けた状態で、主鉄筋4Aを固定治具5Aの切り欠き52に挿入し、カプラー6Aを切り欠き52の両側で固定治具5Aの上面に載置することによってカプラー6Aを係止し、主鉄筋4Aの高さ位置を固定することができる。主鉄筋4A(および主鉄筋4B)の挿入、ならびにカプラー6A(およびカプラー6B)の係止を可能にするために、切り欠き52の内寸は、主鉄筋4A(および主鉄筋4B)の外径よりも大きく、カプラー6A(およびカプラー6B)の外径よりも小さい。
【0027】
図14(b)に示されるようにカプラー6Aに上方から主鉄筋4Bを取り付けて主鉄筋4A,4Bを接続し、さらに主鉄筋4Bの上端にカプラー6Bを取り付けてから、図14(c)に示すように主鉄筋4A,4Bの水平位置を固定治具5Aから離れるように、すなわち立坑1(図示せず)の中心に向かってずらす。これによって、カプラー6Aが切り欠き52から離脱し、固定治具5Aによるカプラー6Aの係止が解除される。この状態で、図14(d)に示すように主鉄筋4A,4Bを吊り降ろし、今度は主鉄筋4Bを切り欠き52に挿入する。これによって、吊り降ろし後の主鉄筋4A,4Bの高さ位置を、カプラー6Bを固定治具5Aに係止することによって固定することができる。
【0028】
図15は、図13に示された例で利用可能な固定治具の第2の例を示す図である。図示された例において、固定治具5Bは取り付け部と湾曲部とを有する板状であり、取り付け部にはライナープレート2への取り付け孔51が形成され、湾曲部の内側にはC字形の内縁53が形成される。図15(a)に示されるように、主鉄筋4Aの上端にカプラー6Aを取り付けた状態で、固定治具5Bの内縁53を主鉄筋4Aに沿わせ、カプラー6Aを内縁53の外側で固定治具5Bの上面に載置することによってカプラー6Aを係止し、主鉄筋4Aの高さ位置を固定することができる。カプラー6Aを安定的に係止するために、内縁53は、部分的に平面形状の曲率半径が主鉄筋4A(および主鉄筋4B)の外周面の曲率半径よりも大きく、カプラー6A(およびカプラー6B)の外周面の曲率半径よりも小さい部分を有することが好ましい。
【0029】
図15(b)に示されるようにカプラー6Aに上方から主鉄筋4Bを取り付けて主鉄筋4A,4Bを接続し、さらに主鉄筋4Bの上端にカプラー6Bを取り付けてから、図15(c)に示すように取り付け孔51を中心にして固定治具5Bを水平面内で回動させ、主鉄筋4Aから離隔させる。これによって、カプラー6Aが固定治具5Bの内縁53から離れ、固定治具5Bによるカプラー6Aの係止が解除される。この状態で、図15(d)に示すように主鉄筋4A,4Bを吊り降ろし、再び取り付け孔51を中心にして固定治具5Bを水平面内で回動させて主鉄筋4Bに接近させ、今度は内縁53を主鉄筋4Bに沿わせる。これによって、吊り降ろし後の主鉄筋4A,4Bの高さ位置を、カプラー6Bを固定治具5Bに係止することによって固定することができる。このような固定治具5Bは、主鉄筋4A,4Bの水平位置を移動させることなく高さ位置の固定および解除を切り替えることができるため、例えば主鉄筋4A,4Bに加えてフープ筋が配置され、主鉄筋4A,4Bとフープ筋とを接合した状態で吊り降ろす場合でも利用可能である。
【0030】
図16は、図13に示された例で利用可能な固定治具の第3の例を示す図である。図示された例では、固定治具5Cが立坑1の坑口1A(図示せず)にフラットバーやアングルを用いて固定される環状部材である。固定治具5Cの内周には複数の切り欠き54が形成される。切り欠き54は、上記で図14を参照して説明した例における切り欠きと同様に、主鉄筋を挿入することが可能な部分である。固定治具5Cの内周には、立坑1の周方向における主鉄筋の配筋間隔に対応する間隔で切り欠き54が形成される。それぞれの切り欠き54に主鉄筋を挿入し、カプラーを係止することによって、上記の図14および図15の例と同様に主鉄筋の高さ位置を固定することができる。また、切り欠き54から主鉄筋を離脱させ、カプラーの係止を解除することによって、主鉄筋をさらに吊り降ろすことができる。このような固定治具5Cは、例えば固定治具のライナープレートへの取り付けが困難な場合でも利用可能である。
【0031】
上記で説明した例ではカプラー6A,6Bを固定治具5A,5B,5Cに係止することによって主鉄筋4A,4Bの高さ位置が固定されるが、他の例では、主鉄筋4A,4Bの中間部にスリーブ状の部材を圧接したり、その他の部材を溶接したりして突出部を形成し、固定治具5A,5B,5Cに係止してもよい。固定治具5A,5Bについては、図13に示された例のように取り付け孔51を用いてライナープレート2の最上段を含む複数の段に取り付けられてもよいし、最上段だけに取り付けられてもよい。
【0032】
なお、本発明の実施形態は上記で説明したように固定治具に主鉄筋の突出部を係止することによって高さ位置を固定する例には限定されず、主鉄筋の高さ位置の固定には別途設けられるクランプなどの手段が用いられてもよい。また、上記の固定治具5A,5B,5Cのように主鉄筋の水平位置および高さ位置を固定することが可能な固定治具と、主鉄筋の水平位置だけを固定する固定治具とが併用されてもよい。主鉄筋の高さ位置を固定する固定治具は、例えば各主鉄筋の最上段に1か所だけ配置されてもよい。なお、上記で説明された例では高さ方向について複数の固定治具が配置されているが、少なくとも1か所の固定治具で水平位置を固定すれば、例えば掘削終了時点で主鉄筋の先端を掘削底面に当接させることによって2点支持を構成し、主鉄筋の水平位置を安定させることができる。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0034】
1…立坑、1A…坑口、1B…掘削底面、2…ライナープレート、3…グラウト、31…吹付けグラウト、32…充填グラウト、4A,4B,4C,41,41A,41B,42,42A,42B…主鉄筋、5,5A,5B,5C…固定治具、51…取り付け孔、52,54…切り欠き、53…内縁、61,62,6A,6B…カプラー、7…コンクリート。
図1
図2
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