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2023-140933ガラス物品の製造方法、ガラス物品及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140933
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法、ガラス物品及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20230928BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
C03C21/00 101
C03C15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047011
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】野田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂嘉
(72)【発明者】
【氏名】三和 晋吉
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AC16
4G059BB11
4G059BB14
4G059BB16
4G059HB03
4G059HB14
4G059HB23
(57)【要約】
【課題】高いペンドロップ強度を有するガラス物品を提供する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法であって、ガラス組成としてアルカリ金属酸化物を含むアルカリアルミノシリケートガラスを処理用ガラスとして準備する準備工程S1と、処理用ガラスを処理水に0.5時間以上15時間未満接触させる水処理工程S3とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成としてアルカリ金属酸化物を含むアルカリアルミノシリケートガラスからなる処理用ガラスを準備する準備工程と、
前記処理用ガラスを処理水に0.5時間以上15時間未満接触させる水処理工程とを備えるガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記水処理工程において、前記処理用ガラスを46~100℃の前記処理水中に浸漬する請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記水処理工程において、前記処理用ガラスを加圧雰囲気下で100℃以上とした前記処理水中に浸漬する請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記水処理工程において、前記処理水の電気伝導率が3mS/m以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記処理用ガラスは、厚み0.005~0.1mmの板状又はシート状である請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記水処理工程前に、前記処理用ガラスをエッチングにより前記厚みの範囲内に薄肉化する薄肉化工程をさらに備える請求項5に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記処理用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により前記厚みの範囲内に予め成形されている請求項5に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記水処理工程前に、前記処理用ガラスをアルカリ金属硝酸塩と接触させて表面に100MPa以上の最大圧縮応力を有する圧縮応力層を形成する化学強化工程をさらに備える請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記水処理工程において、前記処理水の温度が50~95℃であり、かつ、前記処理用ガラスと前記処理水との接触時間が0.5~10時間である請求項8に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
前記処理用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含み、
前記化学強化工程において、前記アルカリ金属硝酸塩は硝酸カリウムを含む溶融塩である請求項8又は9に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項11】
前記化学強化工程後、前記水処理工程前に、前記圧縮応力層よりも浅い範囲で前記処理用ガラスをエッチングする表層エッチング工程をさらに備える請求項8~10のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項12】
厚み0.005~0.1mmの板状又はシート状のガラス物品であって、
直径0.7mmの球状先端を有する5.7gのボールペンを主表面に落下させるペンドロップ試験において、60%破壊高さが5cm以上であるガラス物品。
【請求項13】
表面に100MPa以上の最大圧縮応力を有する圧縮応力層を備える請求項12に記載のガラス物品。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のガラス物品と、
前記ガラス物品の少なくとも一方の主表面に積層された保護層または補強層とを備える積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法、ガラス物品、及びガラス物品を備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子端末やディスプレイデバイス等のデバイスのカバーガラスとして、化学強化ガラスが多く用いられている。この種のデバイスの中には、ディスプレイの表示面を折り畳み可能とする、いわゆるフォルダブルタイプのものも開発されており、このようなフォルダブルタイプのデバイスのカバーガラスにも、化学強化ガラスが用いられる場合がある。
【0003】
化学強化ガラスは、イオン交換処理によって形成された圧縮応力層を表面に有することにより、表面におけるクラックの形成及び進展を抑制し、高い強度を得られる。強化ガラスの強度は、このような圧縮応力層の形成態様を調整することにより向上できるものと考えられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/088856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カバーガラス等に用いられるガラス物品において、より高い耐衝撃性を得ることについては未だ改良の余地が残されている。特に、スタイラスペンを用いたペン入力に対応したデバイスの場合、ガラス物品に対して局所的な衝撃が加わり易い。そのため、このようなペン入力にも十分耐え得る、高いペンドロップ強度を有するガラス物品の開発が求められている。
【0006】
本発明は、高いペンドロップ強度を有するガラス物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス物品の製造方法は、ガラス組成としてアルカリ金属酸化物を含むアルカリアルミノシリケートガラスからなる処理用ガラスを準備する準備工程と、処理用ガラスを処理水に0.5時間以上15時間未満接触させる水処理工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明者等は、鋭意研究の結果、処理用ガラスがアルカリアルミノシリケートガラスである場合、処理用ガラスを処理水に上記の所定時間接触させる水処理工程を行うことにより、処理用ガラスのペンドロップ強度が大幅に向上することを見いだした。そして、このようなペンドロップ強度向上効果は、水処理工程の後、つまり処理用ガラスと処理水との接触を解除した後も持続する。したがって、高いペンドロップ強度を有するガラス物品を提供できる。
【0009】
(2) 上記(1)の構成において、水処理工程では、処理用ガラスを46~100℃の処理水中に浸漬することが好ましい。
【0010】
このように処理水の温度を高めれば、処理用ガラスのペンドロップ強度を短時間で効率よく向上させることができる。つまり、所望のペンドロップ強度を得るまでの処理時間(処理用ガラスと処理水との接触時間)を相対的に短くできる。したがって、高いペンドロップ強度を有するガラス物品を効率よく製造できる。
【0011】
(3) 上記(1)の構成において、水処理工程では、処理用ガラスを加圧雰囲気下で100℃以上とした処理水中に浸漬してもよい。
【0012】
このように処理水の温度を高めれば、処理用ガラスのペンドロップ強度を短時間で効率よく向上させることができる。つまり、所望のペンドロップ強度を得るまでの処理時間を相対的に短くできる。したがって、高いペンドロップ強度を有するガラス物品を効率よく製造できる。
【0013】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかの構成において、水処理工程では、処理水の電気伝導率が3mS/m以下であることが好ましい。
【0014】
このように電気伝導率の小さい処理水を用いれば、処理用ガラスのペンドロップ強度をさらに向上させることができる。したがって、当該処理用ガラスから製造されるガラス物品のペンドロップ強度もより向上する。
【0015】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、処理用ガラスは、厚み0.005~0.1mmの板状又はシート状であることが好ましい。
【0016】
このように処理用ガラスが薄くなれば、当該処理用ガラスから製造されるガラス物品をフォルダブルタイプのデバイスにも好適に用いることができる。その反面、ガラス物品の耐衝撃性が必然的に低下し易くなり、ペンドロップ強度の向上がより重要となる。したがって、本発明のペンドロップ強度向上効果がより有用となる。
【0017】
(6) 上記(5)の構成において、水処理工程前に、処理用ガラスをエッチングにより上記厚みの範囲(0.005~0.1mm)内に薄肉化する薄肉化工程をさらに備えていてもよい。
【0018】
(7) 上記(5)の構成において、処理用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により上記厚みの範囲(0.005~0.1mm)内に予め成形されていてもよい。
【0019】
(8) 上記(1)~(7)のいずれかの構成において、水処理工程前に、処理用ガラスをアルカリ金属硝酸塩と接触させて表面に100MPa以上の最大圧縮応力を有する圧縮応力層を形成する化学強化工程をさらに備えることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、処理用ガラス及びガラス物品が、表面に圧縮応力層を有する化学強化ガラスとなる。そのため、ガラス物品のペンドロップ強度を向上させつつ、曲げ強度も向上させることができる。このように曲げ強度が向上したガラス物品であれば、フォルダブルタイプのデバイスにも好適に用いることができる。
【0021】
(9) 上記(8)の構成において、水処理工程では、処理水の温度が50~95℃であり、かつ、処理用ガラスと処理水との接触時間が0.5~10時間であることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、処理用ガラスが化学強化ガラスである場合に特に適した水処理条件となり、化学強化ガラスからなるガラス物品のペンドロップ強度を効率よく向上させることができる。
【0023】
(10) 上記(8)又は(9)の構成において、処理用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含み、化学強化工程では、アルカリ金属硝酸塩は硝酸カリウムを含む溶融塩であることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、処理用ガラスが薄い場合でも、ガラス物品のペンドロップ強度及び曲げ強度を共に向上させ易くなる。
【0025】
(11) 上記(8)~(10)のいずれかの構成において、イオン交換工程後、水処理工程前に、圧縮応力層よりも浅い範囲で処理用ガラスをエッチングする表層エッチング工程をさらに備えることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、イオン交換工程等において、処理用ガラスに形成された表面欠陥を減少させることができるため、ガラス物品のペンドロップ強度及び/又は曲げ強度を向上させることができる。
【0027】
(12) 上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス物品は、厚み0.005~0.1mmの板状又はシート状のガラス物品であって、直径0.7mmの球状先端を有する5.7gのボールペンを主表面に落下させるペンドロップ試験において、60%破壊高さが5cm以上であることを特徴とする。
【0028】
このようにすれば、ペン入力にも十分耐え得る、高いペンドロップ強度を有するガラス物品となる。
【0029】
(13) 上記(12)の構成において、表面に100MPa以上の最大圧縮応力を有する圧縮応力層を備えることが好ましい。
【0030】
このようにすれば、ペンドロップ強度に加えて曲げ強度も向上するため、フォルダブルタイプのデバイスにも好適に用いることができる。
【0031】
(14) 上記の課題を解決するために創案された本発明に係る積層体は、上記(12)又は(13)の構成を備えるガラス物品と、ガラス物品の少なくとも一方の主表面に積層された保護層または補強層とを備えることを特徴とする。
【0032】
このようにすれば、保護層によりガラス物品を保護してより高いペンドロップ強度を実現したり、補強層によりガラス物品を補強してより高い曲げ強度を実現したりできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、高いペンドロップ強度を有するガラス物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の断面を示す概略図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の厚さ方向の応力分布のイメージ図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造方法のフロー図である。
図4】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造方法に含まれる水処理工程の実施態様を示す断面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る積層体の断面を示す概略図である。
図6】本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造方法のフロー図である。
図7】本発明の第四実施形態に係るガラス物品の製造方法のフロー図である。
図8】本発明の第五実施形態に係るガラス物品の製造方法のフロー図である。
図9】ペンドロップ試験の実施態様を示す側面図である。
図10】曲げ破壊試験の実施態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0036】
(第一実施形態)
<ガラス物品>
図1に示すように、第一実施形態に係るガラス物品1は、板状又はシート状である。ガラス物品1の厚みtは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005~0.1mmである。本発明は、このようは薄いガラスに対して特に有用である。
【0037】
ガラス物品1は、直径0.7mmの球状先端を有する5.7gのペンを主表面に落下させるペンドロップ試験において、60%破壊高さが5cm以上であることが好ましい。ガラス物品1の60%破壊高さは、より好ましくは7cm以上、10cm以上、15cm以上である。
【0038】
本実施形態では、ガラス物品1は、イオン交換により化学強化された化学強化ガラスであり、圧縮応力層2と、引張応力層3とを備える。これにより、ペンドロップ強度の向上に加えて、曲げ強度の向上を図ることができる。
【0039】
ガラス物品1が化学強化ガラスである場合、ガラス物品1の二点曲げ強度は、900MPa以上であることが好ましい。ガラス物品1の二点曲げ強度は、より好ましくは1000MPa以上、1100MPa以上、1200MPa以上である。
【0040】
圧縮応力層2は、ガラス物品1の主表面1a及び端面1bを含む表層部に形成されている。引張応力層3は、ガラス物品1の内部、すなわち、圧縮応力層2よりも深い位置に形成されている。ここで、主表面とは、板状又はシート状のガラス表面全体のうち端面を除いた表裏の面を指す。
【0041】
ガラス物品1の応力分布の一例を図2に示す。図2において、縦軸は応力値を示し、横軸は表面からの深さを示す。なお、図2は応力分布を直線近似により模式的に示したイメージ図であるが、応力分布は他の関数(例えば、単一の曲線関数または複数の曲線関数の組み合わせ)により近似され得る。また、本明細書においては特に断りがない限り、各応力の大きさは絶対値で示される。ガラス物品1の応力分布は、図2に示す態様に限定されない。
【0042】
図2に示す応力分布は、ガラス物品1が一段階のイオン交換処理を施された強化ガラスである場合を例示したものである。ガラス物品1の応力分布では、表面において圧縮応力が最大(最大圧縮応力CS)となり、表面からの深さが深くなるほど応力が漸減し、深さDOCにおいて応力がゼロとなる。すなわち、DOCは圧縮応力の深さと同義である。深さDOCより深い領域には引張応力を有する引張応力層3が延在する。ガラス物品1の応力分布は、図2に示すように表裏対称的であることが好ましい。
【0043】
引張応力層3は、引張応力がガラス物品1の厚み方向に変動する第一領域A1と、引張応力が厚み方向に一定となる第二領域A2とを備える。より詳細には、第一領域A1は、圧縮応力層2の深さDOCから引張応力収束深さDCTまで延在し、深さが深くなるほど引張応力の絶対値が漸増する(図2に示す負数標記では漸減する)領域である。第二領域A2は、引張応力収束深さDCTより深い領域に延在し、引張応力が厚み方向に一定となる領域である。なお、「引張応力が一定」とは、深さ方向の応力の変化量が0.5MPa/μm以下であることを指し、当該変化量は例えば、深さ0.1μm間隔でサンプリングした応力の微分値により算出し得る。
【0044】
ガラス物品1の圧縮応力層2の深さDOCは、好ましくは20μm以下、1μm以上19μm以下、2μm以上18μm以下、3μm以上17.5μm以下、4μm以上17μm以下である。破壊時において危険な破壊様態とならない表面の圧縮応力値、圧縮応力層の深さの閾値について発明者らが種々検討の結果、例えば0.1mm以下の薄いガラスにおいては、圧縮応力層の深さを20μm以下とすることが効果的であることを見いだした。こうすることで曲げに対する十分な強度を持ちながら、安全性も確保できる。
【0045】
ガラス物品1の圧縮応力層2における最大圧縮応力CSは、好ましくは100MPa以上、200MPa以上1000MPa以下、300MPa以上900MPa以下、400MPa以上870MPa以下、430MPa以上850MPa以下、450MPa以上800MPa以下である。CSをこのような範囲とすることで、高い曲げ強度を得ることができる。
【0046】
圧縮応力層2の深さDOCは、ガラス物品1の厚みtと下式(2)を満たす。
DOC/t≦ 0.25 (2)
DOCとtの比率を上記範囲に制限することにより、曲げに対する十分な強度を持ちながら、安全性も確保できる。DOC/tの上限範囲は、好ましくは0.23以下である。DOC/tの下限範囲は、好ましくは0.03以上、0.10以上である。
【0047】
引張応力収束深さDCTは、引張応力が下式(3)により算出することができる。
DCT=(CS+CT)/(CS/DOC) (3)
【0048】
第二領域A2の最大引張応力CTの上限範囲は、好ましくは1000MPa以下、500MPa以下、400MPa以下、285MPa以下、250MPa以下、240MPa以下、230MPa以下、220MPa以下、210MPa以下、200MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、170MPa以下、160MPa以下、150MPa以下、145MPa以下、140MPa以下、130MPa以下、120MPa以下、110MPa以下、100MPa以下、95MPa以下、85MPa以下、70MPa以下である。最大引張応力CTの下限範囲は、好ましくは10MPa以上、20MPa以上、35MPa以上、50MPa以上、55MPa以上、60MPa以上である。CTを上記のように制限することにより、破壊時において危険な破壊様態とならない安全性を確保しながら、曲げに対する強度を確保できる。
【0049】
なお、CS、DOC、DCT、CT等の応力に関する数値は、例えば、折原製作所製FSM-6000やSLP-1000等の測定装置によりガラスの応力分布を測定することにより導出可能である。
【0050】
ガラス物品1のヤング率の下限範囲は、好ましくは55GPa以上、57GPa以上、60GPa以上、62GPa以上である。ガラス物品1のヤング率の上限範囲は、好ましくは90GPa以下である。
【0051】
ガラス物品1をシート状に成形する方法として、コストや生産量の観点からオーバーフローダウンドロー法が好適であるが、シートを薄くするほどガラスは急冷され、CSは低く、DOCは深くなる傾向がある。また、薄いガラスをイオン交換する場合、イオン交換部分の体積膨張を抑え込む内部のガラスが少ないため、厚いガラスに比べて高いCSが得られにくいことが知られている。したがって、薄いガラスにとって、高いCS、浅いDOCを高いレベルで両立することは単なる設計事項を超えて容易ではない。すなわち、ガラス組成、ガラスの成形方法、強化条件を適切に選定する必要がある。よって、ガラス物品1は、化学強化に適したアルカリアルミノシリケートガラスが適しており、アルカリアルミノシリケートガラスの中でも特に高い表面圧縮応力値を得られる組成が適しており、さらに、オーバーフローダウンドロー法による成形を可能にするために高い液相粘度を実現するような組成バランスが好ましい。
【0052】
ガラス物品1は、例えば、ガラス組成としてモル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含有することが好ましい。
【0053】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。よって、SiOの好適な下限範囲はモル%で、50%以上、55%以上、57%以上、59%以上、特に61%以上である。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。よって、SiOの好適な上限範囲は80%以下、70%以下、68%以下、66%以下、65%以下、特に64.5%以下である。
【0054】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点、ヤング率、破壊靱性、ビッカース硬度を高める成分である。よって、Alの好適な下限範囲はモル%で、5%以上、8%以上、10%以上、11%以上、11.2%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が低下し易くなる。また、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形し難くなる。特に、成形体耐火物としてアルミナ系耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形する場合、アルミナ系耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出し易くなる。更に耐酸性も低下し、酸処理工程に適用し難くなる。よって、Alの好適な上限範囲は25%以下、21%以下、20.5%以下、20%以下、19.9%以下、19.5%以下、19.0%以下、特に18.9%以下である。イオン交換性能への影響の大きいAlの含有量を好適な範囲にすれば、薄いガラスにおいてもCS/DOCを高い値に設計し易くなる。
【0055】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、液相温度を低下させる成分である。またヤング率を抑制し、曲げ強度やクラックレジスタンスを高める成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換処理によって、ヤケと呼ばれる表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したりする傾向がある。よって、Bの好適な下限範囲はモル%で、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.3%以上であり、好適な上限範囲は、35%以下、30%以下、25%以下、22%以下、20%以下、特に15%以下である。なお、CSを高くする事を優先する観点では、Bの含有量は、さらに好ましくは0.2~5%、0.3~1%とすることできる。また、エッチング処理時における欠陥抑制等を目的に化学的耐久性を向上させる観点では、Bの含有量の上限範囲は好ましくは1%以上、1.5%以上、2%以上とすることができ、下限範囲は5%以下、4.5%以下、4%以下、3%以下とすることができる。一方、ヤング率を抑制する事を優先する観点では、Bの含有量は、さらに好ましくは10~25%、15~23%、18~22%とすることできる。
【0056】
LiOは、イオン交換成分であり、特にガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のKイオンをイオン交換して、高い表面圧縮応力値を得る成分である。また、LiOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。よって、LiOの好適な下限範囲はモル%で、0%以上、3%以上、4%以上、4.2%以上、5%以上、5.5%以上、6.5%以上、7%以上、7.3%以上、7.5%以上、7.8%以上、特に8%以上である。よって、LiOの好適な上限範囲は20%以下、15%以下、13%以下、12%以下、11.5%以下、11%以下、10.5%以下、10%未満、特に9.9%以下、9%以下、8.9%以下である。
【0057】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性、成形体耐火物、特にアルミナ耐火物との反応失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下し過ぎたり、イオン交換速度が低下し易くなる。よって、NaOの好適な下限範囲はモル%で、1%以上、5%以上、7%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に12.5%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、NaOの好適な上限範囲は20%以下、19.5%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下、16%以下、15.5%以下、特に15%以下である。
【0058】
Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更に耐失透性を改善したり、ビッカース硬度を高める成分でもある。しかし、KOの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な下限範囲はモル%で、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、特に3.5%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、5.5%以下、5%以下、特に4.5%未満である。
【0059】
LiOとNaOは、いずれも溶融塩中のKイオンとイオン交換して、高い表面圧縮応力値を得る成分であり、本発明にいずれかが必須となる成分である。よって、LiO+NaOの好適な下限範囲は、モル%で1%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、特に18.5%以上である。一方、LiO+NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。またガラス組成の成分バランスが崩れて、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、LiO+NaOの好適な上限範囲は、20%以下、特に19%以下である。
【0060】
上記成分以外にも、ガラス物品1は、ガラス組成として、例えば以下の成分を含有してもよい。
【0061】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる。よって、MgOの好適な上限範囲は、12%以下、10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを導入する場合、MgOの好適な下限範囲は、モル%で0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0062】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0~10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は、モル%で0~5%、0.01~4%、0.1~3%、特に1~2.5%である。
【0063】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有範囲は、モル%で0~5%、0~3%、0~1%、特に0~0.1%未満である。
【0064】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有範囲は、モル%で0~5%、0~3%、0~1%、特に0~0.1%未満である。
【0065】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を増大させる効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の応力深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は、モル%で0~6%、0~5%、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%未満が好ましい。
【0066】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は、モル%で10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrOを導入することが好ましく、その場合、ZrOの好適な下限範囲は、0.001%以上、0.01%以上、0.5%、特に1%以上である。
【0067】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の応力深さを大きくする成分である。また、ヤング率を低く抑制する成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる。よって、Pの好適な上限範囲は、モル%で10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%未満である。
【0068】
清澄剤として、As、Sb、SnO、F、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0~30000ppm(3%)導入してもよい。SnO+SO+Clの含有量は、清澄効果を的確に享受する観点から、好ましくは0~10000ppm、50~5000ppm、80~4000ppm、100~3000ppm、特に300~3000ppmである。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO及びClの合量を指す。
【0069】
SnOの好適な含有範囲は、0~10000ppm、0~7000ppm、特に50~6000ppmである。Clの好適な含有範囲は、0~1500ppm、0~1200ppm、0~800ppm、0~500ppm、特に50~300ppmである。SOの好適な含有範囲は、0~1000ppm、0~800ppm、特に10~500ppmである。
【0070】
Nd、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分であり、また補色となる色を加えると、消色して、ガラスの色味をコントロールし得る成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に導入すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は、好ましくは4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下である。
【0071】
ガラス物品1は、環境面の配慮から、実質的にAs、F、PbO、Biを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が500ppm未満であることを指す。
【0072】
一例として、ガラス物品1は、ガラス組成としてBを含まないか、或いはBの含有量がごく少量に制限されたものであってもよい。すなわち、ガラス物品1は、ガラス組成、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~1%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含有するものとしてもよい。
【0073】
別の例として、ガラス物品1はガラス組成としてBを必須成分として含むものとしてもよい。すなわち、ガラス物品1は、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 1~5%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含有するものとしてもよい。
【0074】
なお、ガラス物品1はガラス組成としてBを必須成分として含む場合、ガラスの成形性が下がる懸念があるため、バランスを取るために例えばAlの等の他の成分の含有量を制限してもよい。すなわち、ガラス物品1は、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~10%、B 1~5%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含有するものとしてもよい。
【0075】
<ガラス物品の製造方法>
図3に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法は、準備工程S1、化学強化工程S2と、水処理工程S3とを、この順に備える。
【0076】
準備工程S1では、上述のガラス物品1の元となるガラス(以下、処理用ガラスという)を準備する。処理用ガラスは、上述のガラス物品1と同様の形状寸法及びガラス組成により構成されたガラスである。
【0077】
処理用ガラスは、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、フロート法、リドロー法等の成形方法により得られた板状又はシート状のマザーガラスを小片ガラスに切断、加工して得られる。平滑な表面を得るためには成形方法としてオーバーフローダウンドロー法を用いることが好ましい。また、オーバーフローダウンドロー法であれば、成形後に研磨(機械研磨、エッチングを含む)しなくても、厚み0.005~0.1mmの処理用ガラスを成形し易い。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形された場合、処理用ガラスは、内部に成形合流面を有する。
【0078】
処理用ガラスの端面は、研磨、熱処理、エッチング等により面取りや強度向上のための処理が施されることが好ましい。処理用ガラスの主表面は研磨処理されてよいが、例えば、オーバーフローダウンドロー法により主表面が予め平滑に成形されている場合や、厚みが均一且つ精度良く成形されている場合には主表面には研磨処理を施さず、すなわち非研磨面のまま用いてよい。なお、オーバーフローダウンドロー法により成形され、研磨されていない場合、処理用ガラスの主表面は火造り面となる。
【0079】
化学強化工程S2では、処理用ガラスがイオン交換処理される。本実施形態では、処理用ガラスは、イオン交換処理用の溶融塩に浸漬される。このように処理用ガラスをイオン交換処理により化学強化ガラスとすることで、処理用ガラスの曲げ強度が向上する。
【0080】
溶融塩は、化学強化用ガラス中の成分とイオン交換可能な成分を含む塩であり、典型的にはアルカリ金属硝酸塩である。アルカリ金属硝酸塩としては、NaNO、KNO、LiNO等が挙げられ、これらを各々単独で(100質量%で)又は複数種を混合して用いることができる。複数種のアルカリ金属硝酸塩を混合する場合の混合比率は任意に定めてよいが、例えば、質量%でNaNO 5~95%、KNO 5~95%、好ましくはNaNO 30~80%、KNO 20~70%、より好ましくはNaNO 50~70%、KNO 30~50%とすることができる。
【0081】
溶融塩の温度は、例えば、350℃~500℃であり、好ましくは355℃~470℃、360℃~450℃、365℃~430℃、370℃~410℃である。また、浸漬時間は、例えば、3~300分間であり、好ましくは5~120分間、7~100分間である。もちろん、溶融塩の温度及び浸漬時間等の条件は、上記応力特性を得られる範囲で、ガラス組成等に応じて適宜変更できる。
【0082】
水処理工程S3では、処理用ガラスを処理水に0.5時間以上15時間未満接触させる。このように処理用ガラスを処理水と接触させることで、処理用ガラスのペンドロップ強度が向上する。また、水処理工程S3後も処理用ガラスのペンドロップ強度は維持されるため、処理用ガラスから製造されるガラス物品1のペンドロップ強度も向上する。なお、処理用ガラスと処理水との接触時間(以下、水処理時間という)が短すぎても長すぎても、ペンドロップ強度向上効果を十分に享受できない。したがって、水処理時間は、上記の数値範囲内とすることが重要である。
【0083】
水処理時間の下限範囲は、好ましくは0.75時間以上、1時間以上、1.25時間以上、1.5時間以上である。水処理時間の上限範囲は、好ましくは14時間以下、13時間以下、12時間以下、11時間以下である。
【0084】
処理水の温度は、例えば、10~100℃である。処理水の温度の下限範囲は、好ましくは、20℃以上、30℃以上、40℃以上、46℃以上である。処理水の温度の上限範囲は、好ましくは、95℃以下、90℃以下、85℃以下である。処理水の温度が高くなるに連れて、所望のペンドロップ強度を得るまでの処理時間が短くなる傾向がある。
【0085】
処理用ガラスが化学強化ガラスである場合、水処理工程S3では、処理水の温度が50~95℃であり、かつ、水処理時間が0.5~10時間であることが好ましい。
【0086】
処理水の電気伝導率は、3mS/m以下であることが好ましい。処理水の電気伝導率は、より好ましくは、1mS/m以下、0.1mS/m以下、0.01mS/m以下である。処理水の電気伝導率が低くなるに連れて、処理用ガラスのペンドロップ強度を向上させ易くなる。処理水は、洗剤、およびその材料(例えば、界面活性剤、水軟化剤、金属封鎖剤、pH調整剤、安定化剤)等を含まないことが好ましい。
【0087】
水処理工程S3の実施態様の一例を図4に示す。図4に示すように、容器4に貯留された処理水5中に処理用ガラス6を浸漬する。処理水5中では、例えば、複数枚の処理用ガラス6が、縦姿勢の状態で、厚み方向に所定の間隔を置いて支持台7によって支持される。そして、処理用ガラス6及び処理水5を含む容器4が、所定時間・所定温度に維持された恒温装置(温度調整装置)8内に収容され、処理用ガラス6に対して水処理がなされる。
【0088】
処理水を処理用ガラスと接触させる方法は、特に限定されるものではないが、上述のように、容器に貯留された処理水中に処理用ガラスを浸漬する方法を採用することが好ましい。この際、処理水には、超音波等の外的振動を付与せず、処理水中に処理用ガラスを静置することが好ましい。このように処理水に浸漬すれば、処理用ガラス全体を処理水と効率よく接触させることができ、ペンドロップ強度向上効果を享受し易くなる。なお、処理水は、処理用ガラスに対してノズル等から噴射するようにしてもよく、処理用ガラスの全表面に流水を流してもよい。
【0089】
処理用ガラスは、処理水に対して相対移動させてもよい。具体的には、例えば、処理水に浸漬された処理用ガラスを処理水中で移動させてもよいし、処理水がノズル等によって噴射供給されるエリア内で処理用ガラスを移動させてもよい。
【0090】
(第二実施形態)
<積層体>
図5に示すように、第二実施形態に係る積層体9は、上述のガラス物品1と、ガラス物品1の一方の主表面1a(例えば表面)に積層された保護層10aと、ガラス物品の他方の主表面1a(例えば裏面)に積層された補強層10bとを備える。このようにすれば、保護層10aによってガラス物品1が保護されるため、より高いペンドロップ強度を実現できる。また、補強層10bによりガラス物品1の曲げ強度を向上し、折曲げ時の破損を抑制できる。保護層10aは、ペン等が接触するガラス物品1の表面側に設けられ、補強層10bは、ペン等が接触しないガラス物品1の裏面側に設けられることが好ましい。なお、保護層10aおよび補強層10bのうちの一方のみが、設けられていてもよい。
【0091】
保護層10a、補強層10bとしては、板状又はシート状の樹脂、金属、ガラスなどが挙げられ、これらを単層または複数層組み合わせて形成することができる。ただし、積層体9をフォルダブルタイプのデバイスに適用する場合には、保護層10a、補強層10bは、可撓性を付与し易い樹脂であることが好ましい。
【0092】
保護層10a、補強層10bに含まれる樹脂の厚さは、好ましくは0.5~200μm、1~150μm、2~100μmである。保護層10に含まれる樹脂の材質としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、エポキシ等が挙げられる。
【0093】
保護層10a、補強層10bは、例えば、ガラス物品1の主表面1aに接着層11を介して積層される。接着層11の厚さは、好ましくは0.1~100μm、0.2~90μm、0.3~80μmである。接着層11の材質としては、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤、紫外線硬化性アクリル系接着剤、紫外線硬化性エポキシ系接着剤、熱硬化性エポキシ系接着剤、熱硬化性メラミン系接着剤、熱硬化性フェノール系接着剤、エチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。なお、保護層10は、ガラス物品1の主表面1aに塗布等の任意の方法により、接着層11を介さずに直接形成してもよい。
【0094】
(第三実施形態)
<ガラス物品の製造方法>
図6に示すように、第三実施形態に係るガラス物品の製造方法は、準備工程S11と、化学強化工程S12と、表層エッチング工程S13と、水処理工程S14とを、この順に備える。このうち、表層エッチング工程S13以外の工程は、上述の実施形態の対応する工程と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0095】
表層エッチング工程S13は、化学強化工程S12後、水処理工程S14前に、圧縮応力層よりも浅い範囲で処理用ガラスをエッチングする工程である。このように表層エッチング工程S13を行うことにより、化学強化工程S12等で処理用ガラスに形成された表面欠陥を減少させることができる。そのため、処理用ガラスやガラス物品のペンドロップ強度及び/又は曲げ強度を向上させることができる。
【0096】
表層エッチング工程S13では、例えば、処理用ガラス全体を液状のエッチング媒質に浸漬し、処理用ガラスの全表面をウェットエッチングする。このような処理によれば、処理用ガラス全体を均一にエッチングできるため、エッチング処理に起因する厚みのバラツキの発生を抑制できる。このようなエッチング処理を施した場合、処理用ガラスの表面はエッチング面により構成されることとなる。
【0097】
エッチング媒質としては、ガラスをエッチング可能な酸性又はアルカリ性の水溶液を使用可能である。
【0098】
酸性のエッチング媒質としては、例えば、HFを含む酸性水溶液を用いることができる。HFを含む水溶液を用いた場合、ガラスに対するエッチングレートが高く、生産効率がよい。
【0099】
HFを含む水溶液は、例えば、HFのみ、或いはHFとHClとを、HFとHNOとを、HFとHSO、HFとNHFとを、各々組み合わせて含有した水溶液である。HF、HCl、HNO、HSO、NHF各々の化合物の濃度は、0.1~30mol/Lであることが好ましい。HFを含む水溶液を用いたエッチングにおいては、ガラス成分を含むフッ化物が副産物として生成され、エッチングレートの低下や欠陥の要因となり得るが、上述のようにHCl、HNO、又はHSO等の他の酸との混酸とすることにより、当該副産物を分解して生産性の低下を抑制できる。酸性水溶液を用いてエッチングを行う場合、酸性水溶液の温度は例えば10~30℃であり、処理用ガラスを浸漬する時間は例えば0.1~60分間であることが好ましい。
【0100】
アルカリ性のエッチング媒質としては、NaOH又はKOHを含有したアルカリ水溶液を用いることができる。アルカリ水溶液は、上述のHFを含むエッチング媒質に比べガラスに対するエッチングレートが比較的小さいため、エッチング量を精密にコントロールし易い利点がある。特に、数μm単位でガラスの厚みやDOC等を制御する必要がある場合には好適である。
【0101】
NaOH又はKOHを含む水溶液においてアルカリ成分の濃度は、1~20mol/Lであることが好ましい。アルカリ水溶液を用いてエッチングを行う場合、アルカリ水溶液の温度は例えば10~130℃であり、処理用ガラスを浸漬する時間は例えば0.5~120分間であることが好ましい。なお、エッチングレートを上げて生産性を上げる場合、アルカリ水溶液の温度を80℃以上に加温することが好ましい。逆に、より高い精度でエッチング量をコントロールしたい場合、アルカリ水溶液の温度を70℃以下に制限することが好ましい。また、エッチングレートの大きさをより重視する場合はNaOHの水溶液を用いることが好ましい。
【0102】
表層エッチング工程S13における処理用ガラスの表層部の除去厚みは、0.25μm以上3μm以下であることが好ましい。処理用ガラスの表層部の除去厚みは、さらに好ましくは0.4μm以上2.7μm以下、0.6μm以上2.5μm以下、0.8μm以上2.3μm以下である。エッチング量をこのような範囲とすることで、エッチング前後における最大圧縮応力や圧縮応力深さの変動量を小さくできる。
【0103】
表層エッチング工程S13を経て製造されるガラス物品は、全表面、すなわち、表裏の両主面及び端面は、全てエッチング面からなることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品の全表面にわたって欠陥が低減され、高い強度、特に高いペンドロップ強度を実現できる。
【0104】
(第四実施形態)
<ガラス物品の製造方法>
図7に示すように、第四実施形態に係るガラス物品の製造方法は、準備工程S21と、薄肉化工程S22と、化学強化工程S23と、表層エッチング工程S24と、水処理工程S25とを、この順に備える。このうち、薄肉化工程S22以外の工程は、上述の実施形態の対応する工程と同様であるため、詳しい説明を省略する。なお、表層エッチング工程S24は設けなくてもよい。
【0105】
薄肉化工程S22は、エッチングにより、処理用ガラスの厚みを0.005~0.1mmの範囲内まで薄肉化する工程である。このように薄肉化工程S22を行うことにより、準備工程S21で厚みの大きな処理用ガラスを準備しても、処理用ガラスの厚みを適正な範囲まで薄肉化することができる。
【0106】
薄肉化工程S22では、例えば、処理用ガラス全体を液状のエッチング媒質に浸漬し、処理用ガラスの全表面をウェットエッチングする。エッチング媒質としては、表層エッチング工程S24で用いるエッチング媒質を同様に用いることができる。
【0107】
薄肉化工程S22における処理用ガラスの表層部の除去厚みは、薄肉化工程S22前の処理用ガラスの元の厚み(初期厚み)に依存するため特に限定されないが、表層エッチング工程S24における処理用ガラスの表層部の除去厚みよりも大きくなる場合がある。
【0108】
(第五実施形態)
<ガラス物品の製造方法>
図8に示すように、第五実施形態に係るガラス物品の製造方法は、準備工程S31と、薄肉化工程S32と、水処理工程S33とを、この順に備える。各工程は上述の実施形態の対応する工程と同様であるが、本実施形態では化学強化工程を備えていない点で相違する。
【0109】
このような製造方法によれば、水処理工程S33において、未強化の処理用ガラスが処理水と接触することになる。この場合、処理用ガラスのペンドロップ強度は、化学強化された処理用ガラスを処理水と接触させる場合よりも高くなる傾向がある。そのため、未強化の処理用ガラスを処理水と接触させる水処理工程S33を経て製造されたガラス物品においても、高いペンドロップ強度を得ることができる。つまり、本発明において、ガラス物品は、化学強化ガラスに限定されない。ただし、曲げ強度に関しては、化学強化されたガラス物品の方が高くなる傾向がある。したがって、ペンドロップ強度と曲げ強度を両立させる観点からは、ガラス物品は化学強化ガラスであることが好ましい。
【0110】
本実施形態では、薄肉化工程S32を設ける場合を例示したが、準備工程S31において、オーバーフローダウンドロー法等により厚み0.005~0.1mmに予め成形された処理用ガラスを準備できる場合には、薄肉化工程S32を設けなくてもよい。
【0111】
(第六実施形態)
<ガラス物品の製造方法>
第六実施形態に係るガラス物品の製造方法では、上述の実施形態における水処理工程の変形例を示す。上述の実施形態では、水処理工程における処理水の温度は100℃以下であるが、本実施形態では、処理水の温度が100℃以上とされる。
【0112】
本実施形態の水処理工程の一例としては、加圧雰囲気下で100℃以上となった処理水中に処理用ガラスを浸漬することが挙げられる。詳細には、容器に貯留された処理水に処理用ガラスを浸漬する。その後、この容器を加圧装置内に収容した状態で、加圧装置内を加圧し、処理水を100℃以上に加熱する。このように処理水を100℃以上とすることで、所望のペンドロップ強度を得るまでの水処理時間を短くできる効果が期待できる。
【0113】
処理水の温度は、100℃超200℃以下であることが好ましい。処理水の温度の下限範囲は、さらに好ましくは105℃以上、110以上、120℃以上である。処理水の温度の上限範囲は、さらに好ましくは、190℃以下、180℃以下、170℃以下である。
【0114】
加圧雰囲気の圧力は、0.15~2.0MPaであることが好ましい。加圧雰囲気の圧力の下限範囲は、さらに好ましくは0.17MPa以上、0.2MPa以上、0.25MPa以上である。加圧雰囲気の圧力の上限範囲は、さらに好ましくは1.9MPa以下、1.8MPa以下、1.7MPa以下である。
【0115】
水処理時間の下限範囲は、好ましくは0.6時間以上、0.75時間以上、1時間以上である。水処理時間の上限範囲は、好ましくは12時間以下、11時間以下、10時間以下である。
【0116】
処理用ガラスを100℃以上の処理水に浸漬する代わりに、処理水を100℃以上の過熱水蒸気として、処理用ガラスに噴射してもよい。
【0117】
なお、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0118】
上記の実施形態において、ガラス物品の形状は特に限定されない。ガラス物品の形状は、平面視で、例えば、正方形、長方形、円形、楕円形等とすることができる。
【0119】
上記の実施形態において、ガラス物品には、必要に応じて三次元的な曲げ加工を行ってもよい。具体的には、予め処理用ガラスに三次元的な曲げ加工を全体又は部分的に施しておくことにより、最終的に製造されるガラス物品に三次元的な曲げ形状を付与できる。
【0120】
上記の実施形態において、1回の化学強化工程(イオン交換処理)を行う場合を例示したが、2回又は3回以上の化学強化工程を行うようにしてもよい。また、イオン交換の前後において加熱処理を行ってもよい。加熱処理により、応力の緩和や、イオン拡散を促進して圧縮応力層深さ等を制御し得る。化学強化工程を行う場合、化学強化工程の後、水処理工程の前に、処理用ガラスは、洗浄及び乾燥されることが好ましい。なお、上記のような複数回の化学強化を施した場合、強化後のガラス物品の応力分布は、圧縮応力層2の領域において屈曲点、極大値、極小値、または変曲点の少なくともいずれかを1つ以上有し得る。
【0121】
上記の実施形態において、引張応力層3における引張応力は厚み方向に一定とならない態様であってもよい。例えば、ガラス物品の厚みtに対するDOCを比較的大きく設定する場合(例えば、DOC≧0.20tの場合)、引張応力層3における応力分布は、ガラス物品の厚みの中心において極小値を有する下に凸の二次曲線に沿った分布形状とすることができる。
【0122】
上記の実施形態において、ガラス物品の応力分布は、表裏非対称的であっても良い。表裏非対称的な応力分布は強化後のガラス物品の一方主面側を他方面より多く研磨したり、一方主面側にイオン交換を阻害する膜を付与した状態で化学強化したりすることにより得られる。
【実施例0123】
以下、本発明に係るガラス物品について実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示であって、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0124】
次のようにして試料を作製した。まず、表1に記載のガラス組成を有する処理用ガラスを準備した。なお、表1に示すヤング率は、共振法により測定した値である。
【0125】
【表1】
【0126】
具体的には、表1に記載の組成となるようにガラス原料を調合し、試験溶融炉で溶融した。その後、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板状又はシート状に成形し、所定サイズに切断して処理用ガラスを得た。
【0127】
次いで、板状又はシート状の処理用ガラスを表2~8に記載の条件で処理することにより、板状又はシート状のガラス物品を製造した。薄肉化工程及び表層エッチング工程は、処理用ガラスをHF水溶液に浸漬して行った。化学強化工程は、処理用ガラスをKNO100%の溶融塩に浸漬して行った。水処理工程は、処理用ガラスを処理水に浸漬して行った。表2~8において、No.1~29は本発明の実施例であり、No.30~45は比較例である。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
【表7】
【0134】
【表8】
【0135】
<ガラス物品又は積層体の製造方法>
(1)表2のNo.1~6では、処理用ガラスに水処理工程を行って、ガラス物品を製造した。表2のNo.7~8では、処理用ガラスに薄肉化工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。つまり、表2のNo.1~8では、処理用ガラスに対して化学強化工程は行っていない。なお、No.1~6では、処理用ガラスの初期厚さがガラス物品の厚さと一致し、No.7~8では、処理用ガラスの薄肉化工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0136】
(2)表3のNo.9~14では、処理用ガラスに化学強化工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。表3のNo.15~16では、処理用ガラスに薄肉化工程、化学強化工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。なお、No.9~14では、処理用ガラスの初期厚さがガラス物品の厚さと一致し、No.15~16では、処理用ガラスの薄肉化工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0137】
(3)表4のNo.17~24では、処理用ガラスに化学強化工程、表層エッチング工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。なお、No.17~24では、処理用ガラスの表層エッチング工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0138】
(4)表5のNo.25~26では、処理用ガラスに薄肉化工程、化学強化工程、表層エッチング工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。表5のNo.27~29では、処理用ガラスに化学強化工程、表層エッチング工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。さらに、表5のNo.27~29では、ガラス物品の一方の主表面に保護層(PETフィルム、PAフィルム、PIコート)を積層し、積層体を製造した。PETフィルム及びPAフィルムは、厚さ5μmの感圧接着(PSA)シートを介してガラス物品に接合した。PIコートは、ガラス物品の主表面にPIを塗布することにより形成した。なお、No.25~29では、処理用ガラスの表層エッチング工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0139】
(5)表6のNo.30、31では、処理用ガラスを未処理のままガラス物品とした。表6のNo.32、33では、処理用ガラスに薄肉化工程を行って、ガラス物品を製造した。表6のNo.34、35では、処理用ガラスに化学強化工程を行って、ガラス物品を製造した。表6のNo.36、37では、薄肉化工程、化学強化工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。つまり、表6のNo.30~33では、処理用ガラスに対して化学強化工程及び水処理工程は行っていない。表6のNo.34~37では、処理用ガラスに対して水処理工程は行っていない。なお、No.30、31、34、35では、処理用ガラスの初期厚さがガラス物品の厚さと一致する。No.32、33、36、37では、処理用ガラスの薄肉化工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0140】
(6)表7のNo.38~39では、処理用ガラスに化学強化工程、表層エッチング工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。表7のNo.40~41では、処理用ガラスに薄肉化工程、化学強化工程、表層エッチング工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。つまり、表7のNo.38~41では、処理用ガラスに対して水処理工程は行っていない。なお、No.38~41では、処理用ガラスの表層エッチング工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。
【0141】
(7)表8のNo.42~45では、処理用ガラスに化学強化工程、表層エッチング工程、水処理工程をこの順に行って、ガラス物品を製造した。なお、No.42~45では、処理用ガラスの表層エッチング工程後の厚さがガラス物品の厚さと一致する。なお、No.42~45では、処理用ガラスに対して水処理工程を行っているが、水処理時間が0.5時間未満或いは15時間以上とされている。
【0142】
化学強化工程を行った一部の実施例及び比較例において、ガラス物品のCS、DOC、CTを測定した。表1~8におけるCS、DOC、CTは、折原製作所製の表面応力計FSM-6000LEを用いて各ガラス物品(試料)を測定した値である。
【0143】
<ペンドロップ試験>
図9に示すように、ペンドロップ試験では、測定試料12にボールペン18のペン先を落下させることにより、測定試料12に含まれるガラス物品13の強度(ペンドロップ強度)を評価した。
【0144】
No.1~26、30~45に係るペンドロップ試験では、測定試料12として、ガラス物品13、PSAシート14、PET板15、PSAシート16、SUS板17をこの順に積層したものを作製した。一方、No.27~29に係るペンドロップ試験では、上記の測定試料12におけるガラス物品13の上面に、保護層(PETフィルム、PAフィルム、PIコート)をさらに設けた。つまり、No.1~26、30~45に係るペンドロップ試験では、ボールペン18のペン先がガラス物品13と直接接触し、No.27~29に係るペンドロップ試験では、ボールペン18のペン先が保護層と直接接触する。
【0145】
ガラス物品13、PSAシート14,16、PET板15及び保護層の平面視寸法は、それぞれ50mm×50mmとした。SUS板17の平面視寸法は55mm×55mmとした。ガラス物品13及び保護層の厚さは、表2~8に記載の通りとした。PSAシート14,16の厚さは50μmとした。PET板15の厚さは125μmとした。SUS板17の厚さは3mmとした。
【0146】
ペンドロップ試験では、No.1~45に係る測定試料12をそれぞれ5つずつ準備し、各測定試料12の中央にボールペン18のペン先を落下させる。この際、ボールペン18のペン先が測定試料12に対して垂直に落下するように、ボールペン18を垂直に保持された案内筒19の内孔を通して測定試料12まで落下させる。ボールペン18は、BIC社製のオレンジEG0.7であり、ボール径が0.7mm、質量が5.7gである。測定試料12の上面を基準とした落下前のペン先端の高さを落下高さHとし、その初期値を1cmに設定して落下させた。ボールペン18の落下により測定試料12に含まれるガラス物品13が破損しなかった場合は1cm高さを上昇させて、再度落下させた。このようにして、測定試料12に含まれるガラス物品13が破損するまで落下高さHの上昇及び落下の試行を繰り返す。そして、ペンドロップ強度として、60%破損高さ及び最大破損高さを求めた。60%破損高さは、5つの測定試料12のうち、3つの測定試料12に含まれるガラス物品13が破損した際の落下高さHである。最大破損高さは、5つの測定試料12に含まれるガラス物品13全てが破損した際の落下高さHである。
【0147】
上記のペンドロップ試験の結果によれば、適正な水処理工程を行った実施例(No.1~29)が、水処理工程を全く行っていないか、或いは適正な水処理工程を行っていない比較例(No.30~45)に比べて、60%破損高さが向上することが確認された。
【0148】
<曲げ破壊試験>
図10に示すように、曲げ破壊試験では、ガラス物品からなる測定試料20を二枚の板状体21で挟み、U字状に曲げが生じるように押し曲げていく所謂二点曲げにより強度(二点曲げ強度)を評価した。二点曲げ強度は、No.2、10、18、30、34、38のみで評価し、これらのガラス物品に対応する測定試料20をそれぞれ30個ずつ準備した。測定試料20の平面視寸法は、140mm×70mmとした。測定試料20の厚さは、表2~8に記載の通り、No.2、10、30、34では50μmとし、No.18、38では47μmとした。そして、長辺(140mmの辺)に沿ってU字状に曲がるように測定試料20を板状体21の間に配置した。
【0149】
二点曲げ強度は、押し曲げによりガラス物品20が破壊したときの二枚の板状体21の間隔Dを用いて、下式(4)から算出した。そして、二点曲げ強度として、中央値、最大値、最小値を求めた。二点曲げ強度の中央値は、30個の測定試料の二点曲げ強度データを大きい順に並べた時の中央の値である。二点曲げ強度の最大値は、30個の測定試料の二点曲げ強度のうちの最大値である。二点曲げ強度の最小値は、30個の測定試料の二点曲げ強度のうちの最小値である。
σ=1.198[E×t/(D-t)] (4)
ただし、式中において、σは二点曲げ強度[MPa]、Eはガラス物品のヤング率[MPa]、tはガラス物品の厚さ[mm]を示す。
【0150】
上記の曲げ破壊試験の結果によれば、化学強化されたガラス物品(No.10、18、34、38)において、化学強化されていないガラス物品(No.2、30)よりも二点曲げ強度が向上することが確認された。特に、化学強化後に表層エッチング工程を行ったガラス物品(No.18、38)において、二点曲げ強度が大幅に向上することが確認された。したがって、ガラス物品のペンドロップ強度及び二点曲げ強度を共に向上させる観点からは、化学強化工程を行いつつ、その後に適正な水処理工程を行うことが好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のガラス物品は、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレットコンピュータ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、タッチパネルディスプレイ、その他ディスプレイデバイスのカバーガラス、車載用表示デバイス、車載用パネル等に利用可能である。
【符号の説明】
【0152】
1 ガラス物品
2 圧縮応力層
3 引張応力層
4 容器
5 処理水
6 処理用ガラス
7 支持台
8 恒温装置
9 積層体
10a 保護層
10b 補強層
11 接着層
12 測定試料
13 ガラス物品
14 PSAシート
15 PET板
16 PSAシート
17 SUS板
18 ボールペン
19 案内筒
20 測定試料(ガラス物品)
21 板状体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10