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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140939
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】培養液のイオン濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20230928BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20230928BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20230928BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20230928BHJP
   G01N 27/06 20060101ALI20230928BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N33/18 C
A01G31/00 601Z
G01N21/3577
G01N21/359
G01N27/06 Z
G01N27/416 353
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047021
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000150567
【氏名又は名称】株式会社朝日工業社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】福山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
【テーマコード(参考)】
2B314
2G059
2G060
【Fターム(参考)】
2B314MA11
2B314PD70
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC02
2G059CC03
2G059EE01
2G059FF02
2G059FF07
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM12
2G060AA05
2G060AC05
2G060AC09
2G060AE18
2G060AF08
2G060HC13
2G060KA06
(57)【要約】
【課題】非破壊的かつ短時間で複数のイオンの各イオン濃度を測定する。
【解決手段】培養液51に含まれる複数のイオンの各イオン濃度を測定するための装置1は、培養液に浸漬され、培養液の電気伝導率、水素イオン濃度指数および温度を検出するための性状センサ2と、培養液に浸漬される透過プローブ3と、透過プローブの出力信号に基づいてスペクトルデータを生成する近赤外分光装置4と、近赤外分光装置から得られたスペクトルデータを処理すると共に、処理後のスペクトルデータと、性状センサから得られた電気伝導率データ、水素イオン濃度指数データおよび温度データとを、機械学習モデルにより構築された検量線モデルに適用して、各イオン濃度を計算する演算部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液に含まれる複数のイオンの各イオン濃度を測定するための装置であって、
培養液に浸漬され、培養液の電気伝導率、水素イオン濃度指数および温度を検出するための性状センサと、
培養液に浸漬される透過プローブと、
前記透過プローブの出力信号に基づいてスペクトルデータを生成する近赤外分光装置と、
前記近赤外分光装置から得られたスペクトルデータを処理すると共に、処理後のスペクトルデータと、前記性状センサから得られた電気伝導率データ、水素イオン濃度指数データおよび温度データとを、機械学習モデルにより構築された検量線モデルに適用して、各イオン濃度を計算する演算部と、を備えた
ことを特徴とする培養液のイオン濃度測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記近赤外分光装置から得られた前記スペクトルデータを吸光度化し、
吸光度化された前記スペクトルデータについて波長間隔を一定にするリサンプリングを行い、
リサンプリングされた前記スペクトルデータを平滑化および微分処理し、
平滑化および微分処理された前記スペクトルデータを、前記性状センサにより検出された温度に基づいて補正し、
補正された前記スペクトルデータのうち、測定対象イオン濃度と相関の高い所定波長のものを複数取得し、
取得した所定波長の複数の前記スペクトルデータを無相関変数に変換する
ことにより、前記スペクトルデータの処理を行い、
前記演算部は、処理後の前記スペクトルデータに、前記電気伝導率データおよび前記水素イオン濃度指数データを加えて入力データセットを作成し、作成した入力データセットを前記検量線モデルに適用して各イオン濃度を計算する
請求項1に記載の培養液のイオン濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、培養液のイオン濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場においては一般的に、例えばレタス等の葉菜類の野菜が、人工光源と培養液を用いて、屋内施設で水耕栽培される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-196693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水耕栽培による植物生産では、培養液に含まれる複数のイオンの各イオン濃度の管理が重要である。一般的に、各イオン濃度の測定は、イオンクロマトグラフィーや高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)を用いた専用の測定器が必要である。しかし、こうした測定器による測定は、破壊的であったり、比較的長時間を要したりする。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、非破壊的かつ短時間で複数のイオンの各イオン濃度を測定することができる培養液のイオン濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
培養液に含まれる複数のイオンの各イオン濃度を測定するための装置であって、
培養液に浸漬され、培養液の電気伝導率、水素イオン濃度指数および温度を検出するための性状センサと、
培養液に浸漬される透過プローブと、
前記透過プローブの出力信号に基づいてスペクトルデータを生成する近赤外分光装置と、
前記近赤外分光装置から得られたスペクトルデータを処理すると共に、処理後のスペクトルデータと、前記性状センサから得られた電気伝導率データ、水素イオン濃度指数データおよび温度データとを、機械学習モデルにより構築された検量線モデルに適用して、各イオン濃度を計算する演算部と、を備えた
ことを特徴とする培養液のイオン濃度測定装置が提供される。
【0007】
好ましくは、前記演算部は、
前記近赤外分光装置から得られた前記スペクトルデータを吸光度化し、
吸光度化された前記スペクトルデータについて波長間隔を一定にするリサンプリングを行い、
リサンプリングされた前記スペクトルデータを平滑化および微分処理し、
平滑化および微分処理された前記スペクトルデータを、前記性状センサにより検出された温度に基づいて補正し、
補正された前記スペクトルデータのうち、測定対象イオン濃度と相関の高い所定波長のものを複数取得し、
取得した所定波長の複数の前記スペクトルデータを無相関変数に変換する
ことにより、前記スペクトルデータの処理を行い、
前記演算部は、処理後の前記スペクトルデータに、前記電気伝導率データおよび前記水素イオン濃度指数データを加えて入力データセットを作成し、作成した入力データセットを前記検量線モデルに適用して各イオン濃度を計算する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、非破壊的かつ短時間で複数のイオンの各イオン濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の植物工場とイオン濃度測定装置を概略的に示す。
図2】訓練データおよびテストデータを概念的に示す表である。
図3】訓練データを作製するときの手順を示すフローチャートである。
図4】吸光度化処理の様子を示す図である。
図5】リサンプリング処理の様子を示す図である。
図6】平滑化および微分処理の様子を示す図である。
図7】温度補正処理の様子を示す図である。
図8】波長選択の様子を示す図である。
図9】無相関化処理の様子を示す図である。
図10】訓練データおよびテストデータを示す図である。
図11】各イオン濃度の計算結果を示す図である。
図12】GBRTの学習イメージを示す図である。
図13】真値と測定値との間の精度を表すグラフである。
図14】測定値の精度指標の値を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0011】
[装置構成]
本実施形態は、植物工場において培養液に含まれる複数のイオンの各イオン濃度を測定するための装置に関する。栽培される植物(作物もしくは農産物)は、例えばレタス等の葉菜類の野菜であり、植物工場において水耕栽培される。植物工場は屋内施設に設置され、植物に光を照射するLED等の人工光源と、植物の根が浸漬される培養液槽と、工場内を空調する空調システムと、培養液の成分濃度を制御する培養液制御システムとを含む。培養液槽内の培養液を根が吸収することで植物は吸水する。
【0012】
図1に、本実施形態の植物工場とイオン濃度測定装置を概略的に示す。植物工場において、培養液51が貯留された複数(図示例では2つ)の培養液槽52が設置され、ここで野菜等の植物53が水耕栽培される。
【0013】
イオン濃度測定装置1は、性状センサ2と、透過プローブ3と、近赤外(NIR)分光装置4と、パソコン5とを備える。性状センサ2は、各培養液槽52に設けられ、培養液51に浸漬される。そして培養液51の電気伝導率EC、水素イオン濃度指数pHおよび温度Tを検出するように構成されている。複数(2つ)の性状センサ2は、パソコン5のパソコン本体8にそれぞれ接続されている。
【0014】
透過プローブ3も、各培養液槽52に設けられ、培養液51に浸漬される。透過プローブ3は、測定対象である培養液51の透過特性や吸光特性等を測定するように構成されている。透過プローブ3には光源であるハロゲン光源6から光が供給される。そして透過プローブ3は、光を培養液51に照射し、培養液51を透過した光を反射させて受光する機能を有する。
【0015】
本実施形態の場合、複数(2つ)の透過プローブ3は、プローブ切替装置7を介して近赤外分光装置4に接続されている。プローブ切替装置7は、パソコン5のパソコン本体8から切替信号を受け取り、この切替信号に対応した1つの透過プローブ3の出力信号のみを近赤外分光装置4に出力するようになっている。つまり、培養液51の透過特性等の測定は培養液槽52毎に行われる。
【0016】
近赤外分光装置4は、透過プローブ3の出力信号に基づいてスペクトルデータを生成するように構成されている。生成されたスペクトルデータはパソコン本体8に出力される。
【0017】
パソコン5は、CPUやメモリ等を搭載したパソコン本体8と、パソコン本体8にデータを入力するキーボード9およびマウス10と、パソコン本体8からのデータを出力するモニター11とを有する。パソコン本体8は演算部12を、キーボード9およびマウス10は入力部13を、モニター11は出力部14をそれぞれ構成する。
【0018】
パソコン本体8からなる演算部12は、近赤外分光装置4から得られたスペクトルデータを処理すると共に、処理後のスペクトルデータと、性状センサ2から得られた電気伝導率データ(以下、ECデータという)、水素イオン濃度指数データ(以下、pHデータという)および温度データとを、機械学習モデルにより構築された検量線モデルに適用して、培養液の各イオン濃度を計算するように構成されている。
【0019】
ここで、イオン濃度測定装置1の完成前の作製時における計算プロセスと、完成後の使用時における計算プロセスとの内容は、若干の違いを除いてほぼ同様である。よって便宜上、まず作製時の計算プロセスについて説明し、次いで使用時における計算プロセスについて説明する。
【0020】
[作製時の計算プロセス]
図2には、機械学習の訓練に使用する訓練データを概念的に示す。i(但しiは2以上の整数)個の訓練データをSample、Sample、・・・Sampleで表記する。λ、λ、・・・λ(但しmは2以上の整数)は後述する選択波長である。1つの温度データ、1つのECデータ、1つのpHデータ、およびm個の選択波長のデータが組となって1つの訓練データを構成している。なお、ここで示す訓練データはあくまで概念的なものである点に留意されたい。
【0021】
図3には、1つの訓練データを作製するときの手順を示す。演算部12はまず、ステップS101において、近赤外分光装置4から得られたスペクトルデータを吸光度化する。次に演算部12は、ステップS102において、吸光度化されたスペクトルデータについて波長間隔を一定にするリサンプリングを行う。次に演算部12は、ステップS103において、リサンプリングされたスペクトルデータを平滑化および微分処理する。次に演算部12は、ステップS104において、平滑化および微分処理されたスペクトルデータを、性状センサ2により検出された温度Tに基づいて補正する。
【0022】
次にステップS105において、補正されたスペクトルデータのうち、測定対象イオン濃度と相関の高い波長のものを複数選択し、取得する。ここで選択された波長が前述の選択波長λ、λ、・・・λである。作製時には、開発者が訓練データ毎に最適な波長を選択して決定する。複数の訓練データによる訓練を経て、選択波長が最終的に決定されると、選択波長が演算部12に記憶され、選択波長は所定値となる。使用時には、これら所定値の選択波長のデータを使用して計算が行われる。
【0023】
次に演算部12は、ステップS106において、選択波長の複数のスペクトルデータを無相関変数に変換する。但しこの無相関化処理は、特定条件下でのみ行ってもよい。例えば、詳しくは後述するが、検量線モデルが重回帰または線形サポートベクターマシン(SVM)で、かつ変数間相関が高い場合(イオン種による)に限って行ってもよい。言い換えれば、特定条件下以外では無相関化処理を省略してもよい。
【0024】
以上のステップS101~S106で、スペクトルデータの処理が終了する。なお作製時には、ステップS103の平滑化および微分処理、ステップS104の温度補正処理、およびステップS106の無相関化処理においても、選択波長と同様に、パラメータの調整ないし適合が行われる。そして最終的に決定されたパラメータの値が、演算部12に記憶され所定値となる。使用時には、これら所定値のパラメータを使用して計算が行われる。
【0025】
次に演算部12は、ステップS107において、処理後のスペクトルデータに、ECデータおよびpHデータを加えて、訓練データを作成する。この訓練データは、後のステップにおける検量線モデルの入力データとなる。
【0026】
以下、各ステップについて分説する。図4には、ステップS101の吸光度化処理の様子を示す。ここでは、サンプルスペクトルから光源の変動による影響を取り除く処理を行う。(A)は光源Iの強度、(B)はサンプルスペクトルIの強度、(C)は吸光度Absの、波長に対する値を示す。吸光度は次式(1)により計算される。
【0027】
【数1】
【0028】
図5には、ステップS102のリサンプリング処理の様子を示す。(A)に示す処理前には、吸光度化されたスペクトルデータの各計測点の波長間隔が一定でない。従ってこれを、(B)に示す処理後のように、全波長域(本実施形態では900~1700nm)で一定(2.000)となるように揃える。リサンプリング処理は、3次スプライン補間により行われる。
【0029】
図6には、ステップS103の平滑化および微分処理の様子を示す。(A)は処理前、(B)は処理後を示す。ここでは、電源等に由来するノイズの影響を低減させ、平滑化させ、かつ、微分により変化部を抽出する処理を行う。この平滑化および微分処理にはSavitzky-Golayフィルタが用いられる。このフィルタのパラメータが、作製時には調整および適合され、使用時には固定された所定値となる。
【0030】
図7には、ステップS104の温度補正処理の様子を示す。(A)は処理前で、異なる温度(20℃、25℃、30℃)で取得された同一サンプルのスペクトルデータを示す。(B)は処理後で、これら温度の影響が取り除かれている。
【0031】
近赤外(NIR)スペクトルは温度の影響を強く受けるため、ここではその温度影響を取り除くべく補正が行われている。これにより測定精度の向上が図られる。補正後強度は次式(2)により計算される。
補正後強度=補正前強度-温度×補正係数 ・・・(2)
【0032】
補正係数には、温度と波長毎の強度の線形回帰分析の傾きが用いられている。この補正係数が、作製時には調整および適合され、使用時には固定された所定値となる。
【0033】
図8には、ステップS105の波長選択の様子を示す。ここでは、温度補正処理後のスペクトルデータのうち、測定対象イオン濃度と相関の高い波長を複数選択する。
【0034】
(A)は、スペクトルデータの波長と相関係数CCの関係を示す。相関係数CCの絶対値が大きい波長ほど、測定対象イオン濃度と相関が高いといえる。よってここでは相関係数CCの絶対値がしきい値以上となる波長が選択される。(A)に示される各プロットの波長が選択波長である。
【0035】
例えば(A)において円aで囲まれたプロット(波長=約1230nm、相関係数CC=約-0.6)に着目すると、このプロットの波長におけるイオン濃度と強度の関係は(B)に示す通りであり、概ね負の相関を持つことが分かる。
【0036】
作製時には、多くの訓練データを用いて試行錯誤が行われ、その結果、最適な複数の選択波長(λ、λ、・・・λ)が決定される。そしてこれら選択波長の値は演算部12に記憶され、その後の使用時には、記憶された選択波長の値に基づいて計算が行われる。
【0037】
図9には、ステップS106の無相関化処理の様子を示す。ここでは、学習モデルの過学習を防ぐため、波長間で相関の高い強度情報を無相関変数に変換する。(A)は、訓練データ(Sample、Sample、・・・Sample)ごとの各選択波長(λ、λ、・・・λ)の強度(波長強度)を示す。この(A)の波長強度を無相関変数(S、S、・・・S、但しn=m)に変換した結果が(B)に示される。波長強度を無相関変数に変換する変換する変換式は次式(3)で表される。
【0038】
【数2】
【0039】
左辺第2項は選択波長毎の補正係数であり、これは、訓練データを主成分分析することにより得られる。作製時には、この補正係数が調整および適合され、最終的に決定された補正係数の値が演算部12に記憶される。そしてその後の使用時には、記憶された補正係数の値に基づいて計算が行われる。
【0040】
図10は、ステップS107において作成された訓練データを示す。図9(B)の無相関化処理後のデータに、ECデータおよびpHデータを加えて、図10に示すような訓練データが作成される。この訓練データは、無相関化されている点で図2の訓練データと異なり、実際に使用されるのはこの図10の訓練データである。この訓練データは、後のステップにおける検量線モデルの入力データとなる。従って図10に示す訓練データを纏めて入力データセットという。スペクトルデータにECデータおよびpHデータを加えて訓練データおよび入力データセットを作成することにより測定精度を向上することができる。
【0041】
図11は、入力データセットを検量線モデルに適用(入力)して、各イオン濃度を計算したときの計算結果(出力)を示す。ここでは、イオンの例として、硝酸イオン(NO3)、カリウムイオン(K)、リン酸イオン(PO4)および鉄イオン(Fe)が示されている。
【0042】
検量線モデルは、機械学習モデルによって構築されている。機械学習モデルは、例えば、重回帰、Elastic net重回帰(または単にElastic net)、Partial least squares回帰(PLS)、勾配ブースティング回帰木(GBRT)、または線形サポートベクターマシン(線形SVM)である。本実施形態の場合、処理言語としてR(4.1.1)が用いられ、パッケージとしてMLmetrics(1.1.1)、xgboost(1.5.0.1)、data.table(1.14.2)、Matrix(1.3-4)、glmnet(4.3-3)、kernlab(0.9-29)、pls(2.8-0)が用いられている。
【0043】
図12には、GBRTの学習イメージを示す。入力データセットの各訓練データを使って学習を繰り返すことで、対象イオン濃度の真値と計算値(もしくは推定値)の誤差が徐々に縮小し、計算値が真値に近づいていく。よって十分な回数の学習を行うことで、真値に近い計算値を得られるような高精度の機械学習モデルすなわち検量線モデルを構築することができる。
【0044】
例えば、機械学習モデルがGBRTである場合、ハイパーパラメータである繰り返し学習回数と決定木深さの調整および適合が主に行われる。そしてハイパーパラメータの値が最終的に決定されると、その値は演算部12に記憶され、所定値となる。そして検量線モデルが実質的に完成する。以降、使用時には、その記憶された値に基づいて計算が行われる。
【0045】
最も単純な検量線は二次元グラフで表されるが、本実施形態の検量線は多数の値に対して多数の値を定めるという性質を持つため、図示するのが困難である。
【0046】
なお、以上のイオン濃度測定装置1の作製プロセスにおいては、イオンクロマトグラフィーやICPを用いて別途測定された真値を基準に各値の調整、適合もしくは開発が進められる。
【0047】
[使用時の計算プロセス]
次に、イオン濃度測定装置1の完成後の使用時における計算プロセスについて説明する。
【0048】
この使用時の計算プロセスは、前述した作製時の計算プロセスと若干の相違点を除いてほぼ同様である。大まかに言えば、前述の「訓練」を「テスト」に置き換えるだけである。ここでいう「テスト」とは、完成後のイオン濃度測定装置1を用いて実際に測定してみたときのテストという意味である。実用上は「テスト」を「測定」と解して差し支えない。
【0049】
図2に示した訓練データは、使用時にはテストデータを表す。つまり、各イオン濃度を測定する際にイオン濃度測定装置1によって実際に得られたテストデータとなる。
【0050】
図3も、1つのテストデータを作製するときの手順を示すこととなる。ここで、ステップS105では、既に波長が選択済みであり、かつ選択波長が演算部12に既に記憶済みなので、波長選択という作業は省略される。代わりに、ステップS105では、ステップS104で補正されたスペクトルデータのうち、所定波長すなわち選択波長のものだけが複数取得される。次のステップS106では、取得された選択波長の複数のスペクトルデータが無相関化処理される。
【0051】
そして最終的に、ステップS107において、図10に示すようなテストデータが作成される。このテストデータが纏めて入力データセットとなる。この入力データセットを検量線モデルに適用して、各イオン濃度を計算すると、図11に示すような計算結果が得られる。
【0052】
[精度検証]
次に、イオン濃度測定装置1によって測定された各イオン濃度の精度について検証を行ったので、その結果を説明する。
【0053】
図13は、硝酸イオン濃度について、真値(横軸)と、本装置1によって測定された測定値(縦軸)との間の精度を表すグラフである。
【0054】
線aは、両者が完全に一致する100%ラインである。白丸は訓練データを使ったときのサンプルを示し、黒四角はテストデータを使ったときのサンプルを示す。図示するように、各サンプルは概ね100%ラインa付近に集まっており、本実施形態の装置1が比較的高い精度を持つことが分かる。サンプル数については、訓練データのときが72、テストデータのときが14である。評価指標値については、それが決定係数(R2)の場合、訓練データのときは0.9963、テストデータのときは0.9652である。それが平均絶対値パーセント誤差(MAPE)の場合、訓練データのときは0.0193、テストデータのときは0.0753である。
【0055】
図14は、複数のテストデータにおける複数種のイオン濃度の測定値について、複数の精度指標の値を調べた結果を示す。ここでは、測定対象のイオンの例として、硝酸イオン、カリウムイオン、リン酸イオン、マグネシウムイオンおよび鉄イオンが示されている。また評価指標については、決定係数(R2)と平均絶対値パーセント誤差(MAPE)の場合が示されている。機械学習モデルについては、重回帰、Elastic net、PLS、GBRTおよび線形SVMの場合が示されている。図から分かるように精度は概ね良好である。
【0056】
以上述べたように、本実施形態のイオン濃度測定装置1によれば、性状センサ2と透過プローブ3の出力信号に基づいて、培養液51の各イオン濃度を、検量線モデルを通じて計算により求めるので、各イオン濃度を非破壊的かつ短時間で測定することができる。また、近赤外分光装置4から得られたスペクトルデータを、図3のステップS101~S106の手順によりデータ処理した後に検量線モデルに適用するので、測定精度を向上することができる。
【0057】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。例えば、測定対象のイオンは他のイオン、例えばアンモニアイオン、カルシウムイオンまたはマンガンイオン等であってもよい。
【0058】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 イオン濃度測定装置
2 性状センサ
3 透過プローブ
4 近赤外分光装置
12 演算部
51 培養液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14