(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140942
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】電池状態検出装置および電池状態検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20230928BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20230928BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20230928BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230928BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20230928BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230928BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/3842
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/387
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047026
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 耕平
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA03
2G216BA05
2G216BA07
2G216BA22
2G216BA23
2G216BA44
2G216BA45
2G216BA55
2G216BA57
2G216BA59
2G216BA63
2G216CB05
2G216CB12
2G216CB13
2G216CB14
2G216CB34
5G503BB02
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD02
5G503GD03
5G503GD04
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】少ないデータ量で高精度に二次電池の状態を検出する電池状態検出装置を提供する。
【解決手段】電池状態検出装置1は、二次電池の少なくとも電圧と電流とを含む電池情報を取得するデータ取得部2と、二次電池の種類ごとに予め用意される正極及び負極の抵抗関数と、正極及び負極の抵抗関数とを含む電池パラメータを記憶する記憶部4と、二次電池の複数回の充放電におけるそれぞれの回の充電開始時から充電終了時、もしくは放電開始時から放電終了時のデータ取得部で取得した電池情報に基づいて、OCVを同定するためのフィッティング係数を算出するパラメータ算出部3と、パラメータ算出部で算出したフィッティング係数と、記憶部に記憶されている正極及び負極の電位関数と、に基づいてSOC-OCV特性を同定するOCV同定部5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の少なくとも電圧と電流とを含む電池情報を取得するデータ取得部と、
前記二次電池の種類ごとに予め用意される正極及び負極の抵抗関数と、正極及び負極の抵抗関数とを含む電池パラメータを記憶する記憶部と、
前記二次電池の複数回の充放電におけるそれぞれの回の充電開始時から充電終了時、もしくは放電開始時から放電終了時の前記データ取得部で取得した前記電池情報に基づいて、OCVを同定するためのフィッティング係数を算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部で算出したフィッティング係数と、前記記憶部に記憶されている正極及び負極の電位関数と、に基づいてSOC-OCV特性を同定するOCV同定部と、
を備えることを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部は、
満充電でない電池の充電開始時もしくは放電開始時における前記電池の電池抵抗を前記電池情報から算出し、
充電開始から前記電池が満充電になるまでの充電電流、もしくは、放電開始から前記電池が放電終止になるまでの放電電流を積算して電荷量を求め、
前記電池抵抗と前記電荷量とで示されるデータに前記電池パラメータの電池抵抗関数をフィティングすることで、前記フィッティング係数を算出する
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部は、
前記電池が負極に黒鉛を使用し、正極に平坦な電位曲線を有する正極材活物質を使用する場合には、正極電位が一定であることをフィッティングの制約条件とし、
前記電池が負極に黒鉛を使用し、正極に電位が単調減少する正極材活物質を使用する場合には、正極電位が単調減少することをフィッティングの制約条件とする
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部は、
電池の充電開始時もしくは放電開始時における前記電池の電池抵抗を前記電池情報から算出し、
電池の充電終了時もしくは放電終了時における前記電池の電池抵抗を前記電池情報から算出し、
まず、充電開始時のSOCを未知数として、充電開始時もしくは放電開始時の電池抵抗と前記SOCとで示されるデータおよび充電終了時もしくは放電終了時の電池抵抗と前記SOCとで示されるデータに前記電池パラメータの電池抵抗関数をフィッティングして、前記SOCを求め、
つぎに、充電開始時もしくは放電開始時の電池抵抗と求めたSOCで示されるデータおよび充電終了時もしくは放電終了時の抵抗と求めたSOCとで示されるデータに前記電池パラメータの電池抵抗関数をフィッティングして、前記フィッティング係数を算出する
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部と前記OCV同定部とは、
充電開始時もしくは放電開始時のSOCを未知数とし、電池の充電直前もしくは放電直前の電圧と、充電終了後もしくは放電終了後の十分に時間経過した時の電池の電圧とに基づいて、OCV関数曲線をフィッティングして、SOCに対するOCV特性を求める
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部と前記OCV同定部とは、充電開始時もしくは放電開始時のSOCを未知数とし、
電流が立ち上がった直後の電圧、およびその時刻からX秒経過した後の電圧と電流から求めた電池抵抗Rprと、充電終了後もしくは放電終了後の十分に時間経過した時の電圧と電荷量に基づいて、電池パラメータと、SOCに対するOCV特性を求めるか、
または、電池の充電直前もしくは放電直前の電圧と、充電終了時もしくは放電終了時の電池抵抗に基づいてフィッティングし、電池パラメータと、SOCに対するOCV特性を求める
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部は、充電開始時もしくは放電開始時のSOCを未知数とし、
電池の充電開始時もしくは放電開始時における前記電池の電池抵抗を前記電池情報から算出し、
電池の充電終了時もしくは放電終了時における前記電池の電池抵抗を前記電池情報から算出し、
電池の充電直前もしくは放電直前の電圧と、充電終了後の十分に時間経過した時の電池の電圧とに基づいてフィッティングし、電池パラメータと、SOCに対するOCV特性を求める
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項8】
請求項1からに請求項7のいずれか一項に記載の電池状態検出装置において、さらに、
前記OCV同定部により同定された前記SOCに対するOCV特性に基づいて、劣化状態を判定し、
電池の満充電時のAh容量に関する使用開始時からの低下量に応じて劣化状態を判定するか、
電池の稼働時間に対する電池の電池抵抗のトレンド曲線を求めと、
所定の値に増加するまでの日数を予測して、電池の余寿命と求めると、
または、電池の稼働時間に対する満充電時のAh容量のトレンド曲線を求め、所定の前記電荷量に至るまでの日数を予測して、電池の余寿命と求める、のいずれかを行う診断部
を備えることを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項9】
請求項2からに請求項7のいずれか一項に記載の電池状態検出装置において、
前記パラメータ算出部は、フィッティングを、再帰最小二乗法、非線形カルマンフィルタ、または準ニュートン法により行う
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項10】
二次電池の少なくとも電圧と電流とを含む電池情報を取得するステップと、
前記二次電池の複数回の充電もしくは放電におけるそれぞれの回の充電開始時から充電終了時、もしくは放電開始時から放電終了時に取得した前記電池情報から求めた充電開始時と充電開始における電池抵抗または電圧に基づいて、電池の電池抵抗関数または電圧関数をフィッティングして、OCVを同定するためのフィティング係数を算出するステップと、
を含むことを特徴とする電池状態検出方法。
【請求項11】
請求項10に記載の電池状態検出方法において、さらに、
求めた電池パラメータの変化率に応じて劣化状態を判定するステップと、
電池の満充電時のAh容量に関する使用開始時からの低下量に応じて劣化状態を判定するステップと、
電池の稼働時間に対する電池の電池抵抗のトレンド曲線を求め、所定の値に増加するまでの日数を予測して、電池の余寿命と求めるステップと、
または、電池の稼働時間に対する満充電時のAh容量のトレンド曲線を求め、所定の前記Ah容量に至るまでの日数を予測して、電池の余寿命と求めるステップのいずれかのステップ
を含むことを特徴とする電池状態検出方法。
【請求項12】
請求項10に記載の電池状態検出方法において、
分散共分散行列の逆行列に一般逆行列を用いた再帰最小二乗法により、電池の電池抵抗関数または電圧関数をフィッティングして、OCVを同定するためのフィティング係数を算出する
ことを特徴とする電池状態検出方法。
【請求項13】
請求項10に記載の電池状態検出方法において、
前記再帰最小二乗法では、再帰式により、一般逆行列を計算し、更に求めた分散共分散行列の逆行列の最大固有値と、最大固有値の固有ベクトル成分を減ずることを特徴とする電池状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電池状態検出装置および電池状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(以下、EVと記す)のみならず、系統連系安定化用蓄電装置、鉄道システム向けの蓄電装置、産業用電池システム等、二次電池の利用分野が拡大している。また、中古の二次電池のリユースも検討されている。
【0003】
このため、二次電池の定常的なOCV(Open Circuit Voltage:開放電圧)とSOC(State Of Charge:充電率)との関係と、充電側と放電側の電池抵抗とSOCの関係を同定する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、OCVとSOCの関係、および電池抵抗とSOCの関係を、二次電池のBMS(battery Management System)で連続した電圧データから推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1の技術では、連続電圧データを用いて、放電曲線解析、OCVと抵抗を同定するので、高い計算性能が要求される。
【0007】
本発明の目的は、少ないデータ量で高精度に二次電池の状態を検出する電池状態検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の電池状態検出装置は、二次電池の少なくとも電圧と電流とを含む電池情報を取得するデータ取得部と、前記二次電池の種類ごとに予め用意される正極及び負極の抵抗関数と、正極及び負極の抵抗関数とを含む電池パラメータを記憶する記憶部と、前記二次電池の複数回の充放電におけるそれぞれの回の充電開始時から充電終了時、もしくは放電開始時から放電終了時の前記データ取得部で取得した前記電池情報に基づいて、OCVを同定するためのフィッティング係数を算出するパラメータ算出部と、前記パラメータ算出部で算出したフィッティング係数と、前記記憶部に記憶されている正極及び負極の電位関数と、に基づいてSOC-OCV特性を同定するOCV同定部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数回の充電における充電開始時と充電終了の状態から電池状態を検出するので、少ないデータ量で高精度に二次電池の状態を検出する電池状態検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の二次電池の状態診断装置の構成を示す図である。
【
図3】電池に矩形波電流を印加した時の電池の電圧挙動の一例を示す図である。
【
図4A】黒鉛を負極活物質にした電池の負極電位の放電量に対する特性図である。
【
図4B】黒鉛を負極活物質にした電池の負極抵抗の放電量に対する特性図である。
【
図5A】三元系正極材(NMC)を正極材活物質にした電池の正極電位の放電量に対する特性図である。
【
図5B】三元系正極材(NMC)を正極材活物質にした電池の負極抵抗の放電量に対する特性図である。
【
図6A】リン酸鉄リチウム(LFP)を正極材活物質にした電池の正極電位の放電量に対する特性図である。
【
図6B】リン酸鉄リチウム(LFP)を正極材活物質にした電池の負極抵抗の放電量に対する特性図である。
【
図7】パラメータ算出部の処理の概要を説明する図である。
【
図8】電池のSOCに対するOCVの同定処理の概要を説明する図である。
【
図10A】抵抗感度と電圧感度の行列φ(k)の要素φ1(k)を示す図である。
【
図10B】抵抗感度と電圧感度の行列φ(k)の要素φ2(k)を示す図である。
【
図10C】抵抗感度と電圧感度の行列φ(k)の要素φ3(k)を示す図である。
【
図10D】抵抗感度と電圧感度の行列φ(k)の要素φ4(k)を示す図である。
【
図11】再帰最小二乗の場合のP(k)を示す数式の図である。
【
図12】非線形カルマンフィルタの場合のP(k)を示す数式の図である。
【
図13】再帰最小二乗により求める場合の数式を示す図である。
【
図14】再帰最小二乗により求める場合の数式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図面においては、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、図面は、本開示の原理に則った実施形態を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記載は、典型的な例示に過ぎず、本開示に係る発明の範囲を限定するものではない。
【0012】
また、実施形態においては、当業者が本開示の内容を実施することができるように詳細にその説明をしているが、他の実施形態も可能であり、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能である。
【0013】
図1は、実施形態の二次電池の状態診断装置の構成を示す図である。
以下、実施形態の二次電池の状態診断装置が、EV(Electric Vehicle:電気自動車)に搭載された二次電池の状態診断について説明するが、EVに限らず、系統連系安定化用蓄電装置、鉄道システム向けの蓄電装置、産業用電池システム等の、二次電池の状態診断にも適用できる。
【0014】
実施形態の状態検出装置1は、複数のEVが接続するネットワーク上のサーバとして設け、各EVのそれぞれの電池の状態を遠隔地から推定すると共に、推定した状態に基づいて、電池の遠隔診断を行う。
【0015】
実施形態の状態検出装置1は、データ取得部2とパラメータ算出部3と電池パラメータテーブル4とOCV同定部5と劣化診断・余寿命判定部6と電池パラメータBMS転送部8から構成し、電池パック7の電池パラメータの算出および劣化診断・余寿命判定を行う。
【0016】
電池パック7は、EVに搭載され、複数のLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)またはMNC電池(ニッケル・コバルト・マンガンの三元系正極材リチウムイオン電池)の電池セル(以下、電池と記す)が直並列に接続されて構成されている。LFP電池、MNC電池以外にも、正極材活物質がLCO(二酸化コバルトリチウム)、LMO(マンガン系)、NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウムの酸化物)、負極材活物質が黒鉛、ソフトカーボン、LTO(チタン酸リチウム)であっても良い。
【0017】
BMS71は、電池パック7に実装されているバッテリ・マネージメント・システム(battery Management System)である。BMS71は、複数の並列接続された電池の電圧、充放電流、および温度を計測し、電池残容量SOCの算出および電池異常の判定を行う。
【0018】
状態検出装置1のデータ取得部2は、EVの路車間通信または携帯電話等の移動体通信網を介して、各電池パック7のBMS71から車両または電池パックの識別情報、充電日時、電池の電圧、充放電流、および温度を電池情報として取得し、EVまたは電池パックの識別情報毎にEVデータ9に記憶する。
【0019】
詳しくは、データ取得部2は、充電時の電池の電圧、充電流、および温度を電池毎に取得する。データ取得部2は、少なくとも、以下(1)~(4)のいずれかのデータを取得する。
(1)充電開始時の電圧、充電終了時の電圧、充電中の電荷量の3つのデータ、
(2)満充電まで至った充電したときの、充電開始時の抵抗(x秒目の電圧から充放電開始直後の電圧を引いた後、電流で割ることにより算出する)、充電中の電荷量、充電開始時の温度の3つのデータ
(3)充電開始時の抵抗、充電終了時の抵抗、充電中の電荷量、充電開始時及び充電終了時の温度の5つのデータ
(4)充電開始時及び充電終了時の抵抗、充電開始時及び充電終了時の電圧、充電中の電荷量、充電開始時及び充電終了時の温度の7つのデータ
【0020】
上記では、データ取得部2が、充電時の電池のデータを取得する場合について、説明したが、放電時の電池のデータを取得する場合には、以下の(5)から(8)のいずれかのデータを取得する。
(5)放電開始時の電圧、放電終了時の電圧、放電中の電荷量の3つのデータ、
(6)放電終止まで至った放電をしたときの、放電開始時の抵抗(放電開始から最初の放電電流が一定の場合、放電開始直後の電圧からx秒目の電圧を引いた後、電流で割ることにより算出する)、放電中の電荷量、放電開始時の温度の3つのデータ
(7)放電開始時の抵抗、放電終了時の抵抗、放電中の電荷量、放電開始時及び放電終了時の温度の5つのデータ
(8)放電開始時及び放電終了時の抵抗、放電開始時及び放電終了時の電圧、放電中の電荷量、放電開始時及び放電終了時の温度の7つのデータ
【0021】
データ取得部2は、例えば、車両が充電スタンドで充電する際、または夜間駐車中に充電する際に、上記のデータを取得する。または、車両が走行開始から終了直前まで、上記のデータを取得する。
【0022】
ここで、充電時の電池の分極抵抗の算出方法について説明する。
電池の分極抵抗値は、
図2の電池の等価回路モデルにより求める。
図2において、R
0は直流抵抗(以下、DCRと記すことがある)を示し、Rprは分極抵抗、Cpは分極容量をそれぞれ示している。また、電池の開放電圧を、OCVで示している。
【0023】
図3は、電池に矩形波電流Iを印加した時の電池の電圧挙動の一例を示す図である。横軸は経過時間である。
電流Iを印加すると、
図4に示すように、電池の電圧Vは変化する。この電圧Vの変化は、直流電圧成分I×R
0、分極電圧成分Vpr、OCV変動成分ΔOCVの3つの成分に大別される。
【0024】
直流電圧成分I×R0は、電流Iの変化に対して瞬間的に応答する。すなわち、電流Iの立ち上がりに応じて瞬間的に上昇し、一定のレベルで推移した後に、電流Iの立ち下がりと共に消滅する。
分極電圧成分Vprは、電流Iの変化に対して遅延して変動する。すなわち、電流Iの立ち上がり後に徐々に上昇し、電流Iの立ち下がり後に徐々に低下する。
OCV変動成分ΔOCVは、電池のOCVの変化を表しており、充電開始前のOCV値であるOCV1と充電開始後のOCV値であるOCV2との差に相当する。このOCV変動成分ΔOCVは、充電量に応じた電池の充電状態の変化量に対応する。
【0025】
図3が示すように、電流Iの立ち上がり時の電圧Vは、電流I×直流抵抗R
0で示される。そして、電流Iの立ち上がり後X秒目の電圧Vxは、OCV変動成分ΔOCVが微小のX時間であれば、直流電圧成分I×R
0と分極電圧成分Vprの和に略等しく、Vx = I×R
0+Vprが成立する。
【0026】
以上から、パラメータ算出部3は、電池が満充電になっていない状態から満充電までの周期的に取得した電池の電圧と充電電流の計測値のうち、電流が立ち上がった直後の電圧データVs、およびその時刻からX秒経過した後の電圧データVx、そのときの電流Ixとすると、Vs=Ix×R0であるので、分極抵抗Rprは、(1)式で求めることができる。
【0027】
【0028】
上記のX秒は、例えば、30秒目としても良いし、それ以上の値としても良いが固定値とする。また、抵抗には直流抵抗を用いても良いし、分極抵抗と直流抵抗の和を用いても良い。
放電時については、放電開始から最初の放電電流が一定の場合、放電開始直後の電圧からx秒目の電圧を引いた後、電流で割ることにより算出することができる。
以上がデータ取得部2において集計する計測値から求めた抵抗である。
【0029】
図1に戻り、EVデータ9は、データ取得部2で取得した識別情報で特定される電池パックに関して、満充電までの所定時間間隔の時系列の電池の電圧、充電流、および温度を電池毎に記憶する記憶部である。
【0030】
具体的には、EVデータ9は、電池の種類ごとに用意された負極電位関数、正極電位関数、負極抵抗関数、及び正極抵抗関数をあらかじめ記憶している。ここで、負極電位関数とは、充電状態、放電量又は充電量と、負極電位と、の関係を表すものであり、正極電位関数は、充電状態、放電量又は充電量と、正極電位と、の関係を表すものである。また、負極抵抗関数とは、充電状態、放電量又は充電量と、負極抵抗と、の関係を表すものであり、正極抵抗関数は、充電状態、放電量又は充電量と、正極抵抗と、の関係を表すものである。
【0031】
パラメータ算出部3は、データ取得部2が取得した(1)~(8)のデータのいずれかと、EVデータ9が記憶している負極電位関数及び正極電位関数、又は、負極抵抗関数及び正極抵抗関数と、から、OCVを同定するためのパラメータ(フィッティング係数ともいう。)を算出する。
【0032】
OCV同定部5は、詳細を後述する算出方法により、パラメータ算出部3で求めたフィティング係数に基づいて、OCVテーブルとSOCテーブルと抵抗テーブルを算出し、電池のSOCに対するOCVの関係(SOC-OCV特性)を特定すると共に、電池パラメータテーブル4に記憶する。
【0033】
電池パラメータテーブル4は、電池毎の負極電位関数、正極電位関数、負極抵抗関数、正極抵抗関数のパラメータ、およびOCVテーブル、SOCテーブル、抵抗テーブルを記憶する記憶部である。
【0034】
ここで、電池の正極抵抗、負極抵抗、および電池の負極電位、正極電位の放電量に対する特性の一例を
図4Aから
図6Bにより示す。
図4Aは、黒鉛を負極活物質にした電池の、負極電位の放電量に対する特性を示す図であり、
図4Bは、負極抵抗の放電量に対する特性を示す図である。
図5Aは、三元系正極材(NMC)を正極材活物質にした電池の、正極電位の放電量に対する特性を示す図であり、
図5Bは、負極抵抗の放電量に対する特性を示す図である。
図6Aは、リン酸鉄リチウム(LFP)を正極材活物質にした電池の、正極電位の放電量に対する特性を示す図であり、
図6Bは、負極抵抗の放電量に対する特性を示す図である。
【0035】
図4A~
図6Bは、放電量に対する電位または抵抗の特性を示すものであるが、充電量に対する電位または抵抗の特性を示す曲線は、図の左右を反転した形になる。
【0036】
図4B、
図6B、
図6Bに示す負極抵抗と正極抵抗の抵抗曲線は、負極抵抗関数と正極抵抗関数として、電池パラメータテーブル4に記憶する。同様に、
図4A、
図5A、
図6Aに示す負極電位と正極電位の電位曲線は、負極電位関数と正極電位関数として、電池パラメータテーブル4に記憶する。
【0037】
図1に戻り、劣化診断・余寿命判定部6は、詳細は後述するが、電池パラメータの初期値からの変化に基づいて、電池の劣化診断、余寿命判定を行う。これにより、劣化診断・余寿命判定部6は、EVの電池交換を促す、または、電池の劣化履歴から寿命時期を判定して、電池の交換時期を予測し、EVに通知する。
【0038】
電池パラメータBMS転送部8は、電池パラメータテーブル4のOCVテーブルと抵抗テーブルが更新された場合に、各EVのBMS71にOCVテーブルと抵抗テーブルを転送する。
【0039】
実施形態の状態検出装置1は、具体的には、演算処理を行うCPUとメモリと通信部と操作部と表示部と不揮発性記憶媒体とから成るコンピュータにより構成する。CPUが、不揮発性記憶媒体に記憶するプログラムを実行することにより、パラメータ算出部3とOCV同定部5の機能を実現する。また、データ取得部2と電池パラメータBMS転送部8は、通信部により構成し、電池パラメータテーブル4とEVデータ9とは、不揮発性記憶媒体により構成する。
【0040】
以下、実施形態の状態検出装置1の処理の概要を説明する。まず、パラメータ算出部3について説明する。
【0041】
パラメータ算出処理3は、初めにデータ取得部2で取得した、k回目の充放電における最初の電池温度Ts(k)、最後の電池温度Te(k)、最初の抵抗Rs(k)、最後の抵抗Re(k)、充放電量Q(k) (充電を+とし単位はAh)、充放電開始直前の電圧Vs(k)、充放電終了後に十分時間が経過した後の電圧Ve(k)のいずれかを入力とする。以下では全ての情報がある場合を述べる。
【0042】
次に、未知のパラメータをan,bn,ap,bp,Qmaxとし(これをまとめてベクトルθとする)、θを入力値であるTs(k),Te(k),Rs(k),Re(k),Q(k)から求める(k=1,…)。bnとはSOC=0%時における負極関数Vpの位置、bpとはSOC=0%時における正極関数の位置、anとはSOC1%変化したときの負極関数の位置がどれだけずれるか、apとはSOC1%変化したとき正極関数の位置がどれだけずれるか、Qmaxとは電池のAh容量を示す。
【0043】
Vpの関数はVp(bp-SOC×ap)、Vnの関数はVn(bn-SOC×an)と表現する。Vp、Vnは、前述した電池パラメータテーブル4に記憶されている。k回目の充放電の開始におけるSOCをSOCi(k)とするならば、充放電開始前のOCVの理論式は、正極電位―負極電位より、OCV=Vp(bp-SOCi(k)×ap)-Vn(bn-SOCi(k)×bp)となり、充放電終了後のOCVは、OCV= Vp(bp-{SOCi(k)+100Q(k)/Qmax}×ap)-Vn(bn-{SOCi(k)+100Q(k)/Qmax}×bp)となる。即ちVs(k)= Vp(bp-SOCi(k)×ap)-Vn(bn-SOCi(k)×bp)、Ve(k)= Vp(bp-{SOCi(k)+100Q(k)/Qmax}×ap)-Vn(bn-{SOCi(k)+100Q(k)/Qmax}×bp)となる。
【0044】
次に抵抗推定関数Rの理論式について述べる。
この関数の詳細は実施例で述べるが、R(SOC,Temp; an,bn,ap,bp,Qmax,A,B,C)=A×Rp(SOC,Temp;ap,bp,Qmax)+B×Rn(SOC,Temp;an,bn,Qmax)+Cと表現する。Rpとは前述した電池パラメータテーブル4に記憶されている正極抵抗、Rnとは前述した電池パラメータテーブル4に記憶されている負極抵抗を示し、A、Bとはそれぞれの抵抗倍率、Cはバイアス分(バスバー抵抗)の抵抗を示す未知パラメータである。なお、Rに分極抵抗を用いる場合にはC=0となる。ここで抵抗を同定するにはθに加え、A、B、Cをも同定する必要がある。
【0045】
ここで、θ、A、B、Cを同定する処理の概要を述べる。
図7は、電池の分極抵抗(以下、電池抵抗と記す)と充電時の充電容量の関係を示す図である。電池抵抗は、電池の劣化により変化するため、使用中の電池の所定の充電容量における分極抵抗の計測値は、
図7に示すように電池の初期の電池抵抗曲線からズレが生じる。
【0046】
パラメータ算出部3が分極抵抗の計測値に電池抵抗曲線をフィッティングすることは、OCV同定のパラメータして、θ、A、B、Cを算出することに他ならない。
【0047】
パラメータ算出部3は、上記の手順により、1回の電池の充放電により1つの電池抵抗(分極抵抗Rpr)をプロットする。そして、複数回の電池の満充電までの充電処理による電池抵抗(分極抵抗Rpr)のプロットを行った後に、電池抵抗曲線をフィッティングして、OCV同定のためのパラメータθ、A、B、Cを算出する。即ち、電池抵抗と前記電荷量とで示されるデータに、記憶部があらかじめ記憶している電池抵抗関数をフィティングし、フィッティングするときの拡大縮小、平行移動した数値(θ、A、B、Cのパラメータ調整)を算出する。以下はCが0でない場合を想定しているが、計測した抵抗が分極抵抗ならば、C=0とする。
【0048】
次に、OCV同定部5が、OCVを求める。
図8のグラフは、横軸がSOC(%)、縦軸がOCV(V)で、SOC-OCV特性を示す。なお、
図8の縦軸は、電池抵抗(mΩ)でもある。
【0049】
劣化診断・余寿命判定部6は、電池の満充電時のAh容量を示すQmaxを、使用開始時と現在とで比較し、容量低下が所定値に達した場合に、劣化状態と判定する。
【0050】
また、劣化診断・余寿命判定部6は、電池パラメータ算出部3で算出した分極抵抗が、使用開始時に対する増加率に応じて劣化状態を判定してもよい。
【0051】
また、劣化診断・余寿命判定部6は、電池の満充電時のAh容量を示すQmaxに関して、電池の稼働時間に対するトレンド曲線を求め、電池交換の目安のQmaxに至るまでの日数を予測して、電池の余寿命とする。
【0052】
劣化診断・余寿命判定部6は、Qmaxの代わりに、電池パラメータ算出部3で算出した分極抵抗のトレンド曲線を求め、電池交換の目安の抵抗値に達するまでの日数を予測して、電池の余寿命としてもよい。
【0053】
以下、実施形態の状態検出装置1の処理を、例えば、充放電の充電のみで、かつ最後が満充電であるといったケースごとの例を詳細に説明する。
実施形態の状態検出装置1が、放電時に電池の状態検出を行う場合には、充電を放電に読み替えればよい。詳しくは、充電開始を放電開始に、充電終了を放電終了に、満充電を放電終止に、読み替える。
【実施例0054】
本実施例では、パラメータ算出部の一般的な計算方法について説明する。その後、パラメータ算出部3が、上記したように、電池が満充電になっていない状態から満充電に至るまでの1回の充電における周期的な電池電圧、電流値、温度から(1)式で示す分極抵抗Rprを求め、これを複数回の充電について行い、分極抵抗Rpr(k)を求める(kは充電回数)。方法について説明する。
【0055】
始めに、未知パラメータ同定方法について述べる。
ここで、未知パラメータθ、A、B、Cを同定するのに、次の(2)式の計測値と理論値の誤差二乗E(k)とすると、次の(3)式を最小になるようなθ、A、B、Cを求める。ここでγとは電流の逆数の二乗となる予め定めた固定定数であり、抵抗と電圧の重みを示す。γ=0とするならば、抵抗の情報のみで、パラメータを同定することを意味する。γのバリエーションについては後述する。λは忘却係数であり、0<λ≦1となる定数で予め決めた値、例えば0.99という値を定めておいても良い。
【0056】
【0057】
【0058】
なお、(2)式中には、各充電のk回目ごとに未知変数SOCi(k)があり、この変数まで最適化するならば、計算量が増える。このため、SOCi(k)はk回目の充放電での誤差二乗E(k)が最小になるようなSOCi(k)を数値的に毎回計算する。これはE(k)をSOCi(k)で偏微分した式に現在のθ、A、B、Cを入れて数値的にSOCi(k)を求める。これには、ニュートン法や二分法を用いても良い。
【0059】
(3)式が最小になるような数値計算方法として、全ての充電データを使い、一括で準ニュートン法でθ、A、B、Cを求めても良いし、逐次的に非線形カルマンフィルタの拡張でθ、A、B、Cを求めても良い。逐次的に求める場合には、θ、A、B、Cは最初に初期値を設定しておく。
【0060】
次に、(3)式が最小になる数値計算の処理を逐次的に求める例を
図9により説明する。
【0061】
ステップS91で、θ(an,bn,ap,bp,Qmaxのベクトル)、A、B、Cの初期値を決める。初期値は、考えられうる値を設定する。
例えばbn,bpは関数の定義域の最大値かまたはそれより小さい値として良い。an,apは関数の定義域の範囲を100で割った値かまたはそれより小さい値として良い。Qmaxは電池のカタログAhを入れても良い。A、B、Cとしては、A:Bを1:1、C=0として、最初に計測した抵抗と正負極それぞれの抵抗関数の値より決めても良い。そして、忘却係数λは例えば0.99としても良いし、1に近い値としても良い。S(0)=0とし、P(0)は定数α(大きな値)を設定し、αIとする。Iは単位行列である。
【0062】
ステップS92で、データ取得部2から充放電k番目のデータであるTs(k)、Te(k)、Rs(k)、Re(k)、Q(k)、Vs(k)、Ve(k)を取得する。
【0063】
ステップS93で、充放電k番目の開始SOCSOCi(k)を数値的に求める。この求め方は前述した方法を用いる。
【0064】
ステップS94で、現在のパラメータθ(k-1)、A(k-1)、B(k-1)、C(k-1)に対する抵抗感度と電圧感度(数値微分)行列φ(k)を求める。φ(k)とは、(φ1(k),φ2(k),φ3(k),φ4(k))Tであり、φ1,φ2,φ3,φ4は、それぞれ
図10A、
図10B、
図10C、
図10Dで示される8次元縦ベクトルである。
図10Aから
図10Dの式は、偏微分であるが、ここでは数値的に偏微分を求める。
【0065】
ここでQmaxに関する偏微分を説明する。抵抗理論関数Rは、(4)式で示される。
【0066】
【0067】
(4)式で示される抵抗理論関数Rは、Qmax(k)を引数に持っていない。しかし、実際には、(2)式で示されるE(k)を最小にするSOCi(k)を数値的に求める際に、SOCi(k)はQmax(k)により値が変わることになるため、SOCi(k)がQmax(k)の関数となってる。このため、SOCi(k)をSOCi(Qmax)と表現しなおし、θ(k)=(an(k),bn(k),ap(k),bp(k),Qmax(k))、θ’(k)= (an(k),bn(k),ap(k),bp(k),Qmax(k)+δ)すると、抵抗理論関数RのQmaxに関する偏微分は、(5)式となる。
【0068】
【0069】
δは微小な値(Ah)である。同様に、抵抗理論関数RのQmaxに関する偏微分は、(6)式となる。
【数6】
【0070】
【0071】
したがって、OCVの理論関数のQmaxに関する偏微分は、(8)式、(9)式となる。
【数8】
【数9】
【0072】
ステップS95で、分散共分散行列SをUPDATEする。そして、Sの一般逆行列としてPを求める。ここで一般逆行列について説明する。
【0073】
今、正方行列Dが与えられた時、Dがフルランクならば、D-1は定義できる。しかし、Dがフルランクで無い場合、D-1は定義できない。この場合には、D+DD+=D+、DD+D=Dを満たす行列D+を一般逆行列とする。一般逆行列は複数存在するが、ここではMoore-Penroseタイプの一般逆行列D+D=DD+を採用するものとする。
【0074】
Moore-Penroseタイプの一般逆行列は一意に定まる。|Dx-b|2が最小となるxは、Dがフルランクでない場合にはxが無数にあるが、原点からの距離が最小となるxは一意に定まりx=D+bとなる。Dがフルランクの場合には一般逆行列は、逆行列と一致する。即ち、一般逆行列とはDが縮退した場合でも、あたかも逆行列のように計算する手法である。
【0075】
このMoore-Penroseタイプの一般逆行列は行列DのQR分解で求めることができる。即ち、D=Qdiag(λ1,…,λn)Q-1として固有値分解し、D+=Qdiag(1/λ1,…,1/λn)Q-1とするが、もしλ1=0ならば、D+=Qdiag(0,1/λ2,…,1/λn)Q-1とする。このQR分解による操作でS(k)よりP(k)を求めても良い。
【0076】
なお、一般逆行列ではなく、逆行列というならば、P(k)は逆行列の補題により求めることができる。これは普通の再帰最小二乗となり、
図11に示す数式となる。非線形カルマンフィルタの場合には、λ=1でかつ、Pの更新が
図12に示す数式に変わる。
図15の数式ではUが4×4の観測誤差行列であり、U=diag(u1,u2,u3,u4)となる予め設定した行列とする。uj(j=1,2,3,4)は正の微小な定数を設定する。
【0077】
ステップS96で、観測誤差と理論誤差εを求め、そのεでφ、A、B、Cを更新する。更新されたパラメータをOCV同定部5に渡し、OCV関数を同定する。そしてステップS92に戻る。
【0078】
以上がパラメータ算出部3の概要となる。しかしながら、ap,bpは、NMCの場合で、かつ、SOC0%時のOCV(0)、SOC100%時のOCV(100)が指定されている場合には、an,bnの関数となる。この場合の処理について述べる。
SOC0%時の条件より(10)式が成立する。
【0079】
【0080】
(10)式より、bp=Vp-1(OCV(0)+Vn(bn))となる。ここでVpはNMCの場合には、正極電位が単調減少する特性より、Vpの逆関数Vp-1は値が一意に定まる。これにより、bpはbnの関数となる。
SOC100%時の条件より、(11)式が成立する。
【0081】
【0082】
(11)式より、bp-100ap=Vp
-1(OCV(0)+Vn(bn-100an))となる。bpはbnの関数より、ap={bp- Vp
-1(OCV(0)+Vn(bn-100an))}/100と、an,bnの関数となる。このため、θは (an,bn,Qmax)の3つの要素のベクトルとなり、
図10A~
図10Dの式のap,bpで偏微分する要素の項はなくなる。
【0083】
ここで、もしγ=0、即ち、電圧情報を見ずに、抵抗情報のみで規定する場合には、φ1,φ2のみ計算し、ステップ94ではφ(k)=(φ1(k) φ2(k))Tとする。ステップ96のεは1項目と2項目の2つの要素とする。また、抵抗情報がなく、電圧情報のみの場合はφ(k)=(φ3(k) φ4(k))Tとして、γ=1として計算する。
【0084】
もし、φがφ2のみ、即ち抵抗でかつ終了時の値のみとする場合の処理について述べる。この場合には、γ=1とし、一般逆行列でも再帰式を用いPを計算することができる。このときの再帰式を
図13、
図14に示す式とする。もしφをφ1のみとしても同様である。
【0085】
図14における最大固有値λMとそれに対応する固有ベクトルqはべき乗法により求めても良い(|q|=1)。λM>閾値の場合には、P(k)=P(k)-λMqTqとする。べき乗法とは、行列Aの最大固有値を求めるに、x(k+1)=Ax(k)/|Ax(k)|、λ(k+1)= |Ax(k)|/|x(k)|(k=0,1,…)とし、初期値x(0)≠0を与えて、逐次的にx(k),λ(k)を求める。λ(∞)がλMとなり、x(∞)がqとなる。繰り返し計算であるが、高速に計算できる。
【0086】
電池のOCVは、電池の正極電位から負極電位を減じることにより求まるため、OCV同定部5では、an,bn,ap,bpが求められれば、OCVの関数は(12)式で表されることになる。
【0087】
【0088】
続いて、理論抵抗Rの理論的導出について述べる。
電池の電流Iは、バトラーボルマーより(13)式で示される。Qは放電量であり、I0(Q)は、放電量Qにより変わる関数となる。Tは絶対温度である。
【0089】
【数13】
ここで、リチウムイオン電池の場合α=1/2、Tは絶対温度[K]、Rgは気体定数8.314 J/K・mol、Fはファラデー定数9.648×10^4 C/mol、nは電子反応数、Eaは活性化エネルギーである。
【0090】
これにより、(14)式が成立し、抵抗Rは、(15)式となる。
【数14】
【数15】
【0091】
(15)式は正極負極毎に違うため、以下正極抵抗をRp、負極抵抗をRnと表記する。正極抵抗Rpと負極抵抗Rnは、同じQであっても、電流I、温度Tにより、値が変わる。このため何らかの電流、温度の補正が必要となる。例えば、電流Iがほぼ0で25℃時の抵抗の値に換算する。また、電流Iが例えば90A付近のデータのみを対象にしてもよい。なお、電流Iがほぼ0の時には、電圧Vが殆ど上がらないので測定誤差が大きく計測データとしては使えないことに留意する。
【0092】
続いて、正極抵抗Rpと負極抵抗Rnを25℃時の抵抗の値に換算する。
(15)式のRは、I=0の極限では、(16)式となる。
【数16】
【0093】
ここで、T25=273.15+25とし、正極、負極のEa/RgをそれぞれBp、Bn、I0をIp、Inとすると、電流I=0の極限における正極の25℃標準抵抗関数R25(Q)、負極の25℃標準抵抗関数Rn25とすると、(17)式となる。
【数17】
【0094】
(17)式により、正極抵抗Rpと負極抵抗Rnは、Rn25,Rp25を用いて(18)式となる。
【数18】
【0095】
正極抵抗Rpと負極抵抗Rnのフィッティング係数をA、B、Cとすると、抵抗関数Rは、(15)式と(18)式から(19)式となる。なお、Rに分極抵抗を用いる場合にはC=0である。
【数19】
【0096】
ここで、Iは計測時の電池電流である。Rp25、Rn25はQ軸に対し拡大縮小、並行移動の変換を受ける。Rp25(Q)、Rn25(Q)はQの関数であるため、前述したan,bn,ap,bpを用いた関数にする。即ちRp25(SOC)=Rp(bp-SOC×ap)、Rn25(SOC)=Rn(bn-SOC×an)とする。
なお、Iが小さいときには、(19)式は(20)式に近似できる。
【0097】
【0098】
さらに、Bp≒Bn時には、(21)式と近似してもよい。
【数21】
【0099】
もし、C=0(抵抗に分極抵抗を使用する場合)には、Cの部分の要素を削って対応する。
【0100】
次に、本実施例の電池が満充電になっていない状態から満充電に至るまでの1回の充電における具体的な数値計算方法について述べる。
【0101】
正極抵抗関数と負極抵抗関数の和で示される抵抗曲線を分極抵抗Rpr(k)にフィッティングして、フィッティング係数を求める。最後が満充電であるため、SOCi(k)+100Q(k)/Qmax(k)=100となる。このため、SOCi(k)=100-100Q(k)/Qmax(k)となり、最初と最後のデータよりSOCi(k)を数値計算で求める必要はなくなる。そして、φにはφ1のみ、もしくはφ1とφ2を用いる。
【0102】
パラメータ算出部3は、(18)式に示したOCVの電圧関数に、正極にLFPを使用する場合(制約1)と、正極にNMCを使用する場合(制約2)とで、異なる制約を設ける。
【0103】
《制約1》
負極に黒鉛を使用し、正極にLFPを使用した場合、パラメータ算出部3が、上記のOCV(0)とOCV(100)の制約のみでは、(16)式のbp,bn,ap,anが同定し難い。このため、
図8Aに示すように、OCV(0)でVpが例えば3.4185Vに一定の制約を付加する。すなわち、正極電位が一定であることをフィッティングの制約条件とする。なお、本実施例では、LFPを例に説明したが、LFPのように平坦な電位曲線を有する正極に対しも、この制約条件を適用できる。
【0104】
これにより、bnが決まり(bn=Vn-1(3.4185-OCV(0))放電末期の電圧立ち上がり部)、bpは範囲のみ(最小と最大の間)が決まる(Vn-1とは関数Vnの逆関数を示す)。
【0105】
そして、OCV(100)においては、OCVの電圧が正極の放電の最初の値によるものか(制約1-1)、または負極電位が放電の最初の値によるものか(Vp=3.4185として運用)(制約1-2)の制約を付加する。
【0106】
制約1-1の場合には、bp-100ap = Vp
-1(OCV(100)+0.09V)を制約とする。ここで、0.09Vは、
図6Aに示す黒鉛の負極電位が平らになる部分の電圧であり、数値的な固定値ではなく、範囲を示すことになる。
これにより、an、apが未知変数となり、bnは固定、bpはapから決まり、bp=100ap+Vp
-1(OCV(100)+0.09V)となる。
【0107】
制約1-2の場合には、bn-100anが、Vn(bn-100an)=3.4185-OCV(100)を満たすことを制約とする。また、3.4185>OCV(100)>OCV(0)である。
これにより、bnはOCV(0)の条件より値が決まるため、anが決まる。即ち、ap、bpが未知変数となる。
【0108】
(制約1-1)と(制約1-2)のどちらの制約を採用するかは、それぞれをテストして、誤差の小さい方を採用すればよい。
制約1によれは、LFP等の正極抵抗が殆ど一定なLFP等の正極材活物質においても電極抵抗を用いてフィッティングを行うことができる。
【0109】
《制約2》
負極に黒鉛を使用し、正極にMNCを使用した場合、パラメータ算出部3は、
図7Aに示すように、正極電位Vpが単調減少することから、前述したように、bp=Vp
-1(OCV(0)+Vn(bn))と、bp-100ap=Vp
-1 (OCV(100)+Vn(bn-100an))とを、制約として付加する。すなわち、正極電位が単調減少することをフィッティングの制約条件とする。なお、本実施例では、NMCを例に説明したが、NMCのように単調減少する電位曲線を有する正極にもこの制約条件を適用できる。例えば、LCO、LMO、NCAなどである。
【0110】
これにより、(16)式の未知数から、ap、bpを除くことができ、未知数の同定が容易になる。Ap、bpは、an、bnより求めることができる。
【0111】
本実施例によれば、LFPのようにSOCに対してOCVが一定の活物質を用いた電池であっても、電池状態の推定が可能となる。さらに、少量のデータで充電状態の推定が可能であるため、通信量の制限がある場合でも電池の診断が可能となる。
上記では、複数回の充電が満充電に至る場合の電圧、電流、温度の測定データに基づいて、フィッティング係数とOCVを算出する例を説明したが、本実施例では、複数回の充電が満充電に至らない場合について説明する。なお、本実施例は、満充電に至る場合にも実施できる。この場合には、φにφ1とφ2を用いるか、φ1のみ、φ2のみを用いる。
本実施例のパラメータ算出部3は、充電開始時の電池のSOCをSOC0(k)とし、充電開始時の電池抵抗(分極抵抗Rpr)をRpr_b(k)、満充電に至らずに充電終了する時の電池抵抗をRpr_a(k)とする。そして、パラメータ算出部3は、電池抵抗Rpr_b(k)と電池抵抗Rpr_a(k)とに電池抵抗曲線をフィッティングして、フィッティング係数を算出する。