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特開2023-140989乳酸菌、スターター、増殖抑制能を付与する剤、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法、γ-アミノ酪酸含有組成物、及びγ-アミノ酪酸含有飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140989
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】乳酸菌、スターター、増殖抑制能を付与する剤、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法、γ-アミノ酪酸含有組成物、及びγ-アミノ酪酸含有飲食品
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230928BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P13/00
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047090
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀飛
(72)【発明者】
【氏名】柴田 栞里
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直人
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD80
4B018ME02
4B018MF13
4B064AE01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BD21
4B065CA02
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】小麦粉を原料としても発酵可能であり、GABA生産性や抗菌・防カビ性が良好である乳酸菌を提供する。
【解決手段】下記(1)~(3)の性質を有し、レビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する、乳酸菌に関する。
(1)小麦粉を原料として発酵可能である性質
(2)小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にγ-アミノ酪酸を蓄積する性質
(3)小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の性質を有し、レビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する、乳酸菌。
(1)小麦粉を原料として発酵可能である性質
(2)小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にγ-アミノ酪酸を蓄積する性質
(3)小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質
【請求項2】
レビラクトバチルス・ブレビス No.584株(Levilactobacillus brevis No.584)(受託番号:NITE P-03568)である乳酸菌。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乳酸菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物を製造するためのスターター。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の乳酸菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の乳酸菌により発酵させてγ-アミノ酪酸を生産させる発酵工程を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の乳酸菌及び/又はその死菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の乳酸菌及び/又はその死菌を含む、γ-アミノ酪酸含有飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌、γ-アミノ酪酸含有組成物を製造するためのスターター、γ-アミノ酪酸含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法、γ-アミノ酪酸含有組成物、並びにγ-アミノ酪酸含有飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界では、安全・安心な食品の流通が一層強く望まれるとともに、人の健康に資する、美味しく、食しやすい食品の出現が望まれている。
【0003】
機能性表示食品の市場では、「高めの血圧を下げる」、「精神的なストレスを緩和」、「ストレスや疲労感を軽減」、「睡眠の質を向上」、「すっきりとした目覚めをサポート」、「一時的な活気・活力感の低下を軽減する」等、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid)(以下、GABAともいう)の健康機能を謳う機能性表示食品を見かける機会が増えている。
【0004】
GABAは生物界に微量ながら広く存在する非タンパク質構成アミノ酸であり、ヒトにおいては脳内で神経伝達物質として働くことが知られている。その上、GABAはヒトが多量に摂取しても副作用が無いので、安全性の面でも有利であり、食事療法が効果的な生活習慣病、特に高血圧症を予防する成分として食品において富化させる技術の開発が多くなされている。
【0005】
そのような技術として、米胚芽や米糠、小麦胚芽等の中に元来含まれる酵素の作用を利用してGABA富化穀物を製造する技術(例えば、特許文献1及び2参照)、トマトやカボチャ等の野菜等の中に含まれる酵素の作用を利用してGABA富化組成物を製造する技術(例えば、特許文献3~5参照)、茶葉を嫌気処理することによってGABA含量の高い茶葉を製造する技術(例えば、特許文献6参照)等が報告されている。
【0006】
また、一部の微生物がグルタミン酸からGABAを生産する能力に優れていることが知られており、GABAを乳酸菌で生産する技術(例えば、特許文献7~11参照)や麹菌で生産する技術(例えば、特許文献12参照)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-213252号公報
【特許文献2】特開2004-159617号公報
【特許文献3】特公平7-12296号公報
【特許文献4】特公平7-14333号公報
【特許文献5】特開2001-252091号公報
【特許文献6】特開平11-127781号公報
【特許文献7】特開2001-352940号公報
【特許文献8】特開2003-70462号公報
【特許文献9】特開平7-227245号公報
【特許文献10】特開2004-215529号公報
【特許文献11】特開2001-120179号公報
【特許文献12】特開平11-103825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
小麦を原料とする世界の主食には、パン、フォカッチャ、グリッシーニ、ピザ、ナン、パスタやうどん等の麺類等があるが、これらは栄養補給としての役割を果たすことが多く、生理機能を有することは少ない。多くの有益な生理機能を有するGABAは、主食となる食品から継続的に摂取できることが好ましい。
【0009】
例えば、パン等では、GABAを生産する乳酸菌を生地発酵のスターターとして作用させることでGABAを富化できると考えられるが、本発明者らが検討した結果、小麦粉を原料として増殖・発酵し、GABAを生産できる乳酸菌は非常に少ないことが分かった。
【0010】
また、小麦製品は細菌やカビ・酵母により腐敗しやすく、昨今のフードロスゼロの観点からも、小麦を原料とする食品の日持ちを向上させる技術が望まれている。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、小麦粉を原料としても発酵可能であり、GABA生産性や抗菌・防カビ性が良好である乳酸菌を提供することを目的とする。また、GABA含有組成物を製造するためのスターター、GABA含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤、GABA含有組成物の製造方法、GABA含有組成物、並びにGABA含有飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記した課題について鋭意検討した結果、特定の性質を有するレビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する乳酸菌を見いだし、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0013】
<1> 下記(1)~(3)の性質を有し、レビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する、乳酸菌。
(1)小麦粉を原料として発酵可能である性質
(2)小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にγ-アミノ酪酸を蓄積する性質
(3)小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質
【0014】
<2> レビラクトバチルス・ブレビス No.584株(Levilactobacillus brevis No.584)(受託番号:NITE P-03568)である乳酸菌。
【0015】
<3> <1>又は<2>に記載の乳酸菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物を製造するためのスターター。
【0016】
<4> <1>又は<2>に記載の乳酸菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤。
【0017】
<5> <1>又は<2>に記載の乳酸菌により発酵させてγ-アミノ酪酸を生産させる発酵工程を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法。
【0018】
<6> <1>又は<2>に記載の乳酸菌及び/又はその死菌を含む、γ-アミノ酪酸含有組成物。
【0019】
<7> <1>又は<2>に記載の乳酸菌及び/又はその死菌を含む、γ-アミノ酪酸含有飲食品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、小麦粉を原料としても発酵可能であり、GABA生産性や抗菌・防カビ性が良好である乳酸菌が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
<乳酸菌>
本発明の乳酸菌は、下記(1)~(3)の性質を全て有し、レビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する。
(1)小麦粉を原料として発酵可能である性質
(2)小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にγ-アミノ酪酸を蓄積する性質
(3)小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質
【0023】
本発明の乳酸菌は、レビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)に属する。
レビラクトバチルス・ブレビスに属する乳酸菌の好ましい例としては、「レビラクトバチルス・ブレビス No.584」株が挙げられるが、これに限定されない。
この乳酸菌株は、本発明者らによって発見されたものであり、令和3年12月7日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託し、「受託番号NITE P-03568」として受託されたものである。
【0024】
(性質(1)について)
本発明の乳酸菌は、小麦粉を原料として発酵可能である性質を有する。この特徴的な性質は、本発明の乳酸菌が、酵母エキス等の豊富な栄養源を必要としない低栄養要求性を備えているためであると推察される。
本明細書において、上記性質を有することは、具体的には、後述の実施例の[小麦発酵性評価]において「小麦発酵性を有する(〇)」と判定されることを意味する。
本発明の乳酸菌は、小麦粉以外の飲食品原料(甘酒、野菜、乳等)及び培養培地の1以上を原料としても発酵可能である性質を有することが好ましい。
【0025】
(性質(2)について)
本発明の乳酸菌は、小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にγ-アミノ酪酸を蓄積する性質を有する。この特徴的な性質は、本発明の乳酸菌が、GABA合成酵素グルタミン酸デカルボキシラーゼを発現し、この酵素の反応によりグルタミン酸やグルタミン酸塩からGABAが生産されているためであると推察される。
本明細書において、上記の性質(2)を有することは、具体的には、後述の実施例の[GABA生産性評価]において「GABA生産性を有する(〇)」と判定されることを意味する。
本発明の乳酸菌は、小麦粉以外の飲食品原料(甘酒、野菜、乳等)及び培養培地の1以上とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料としても、GABAを生産する性質を有することが好ましい。
【0026】
(性質(3)について)
本発明の乳酸菌は、小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質を有する。これにより、食品の日持ちを向上させることができる。
本明細書において、上記の性質(3)を有することは、具体的には、後述の実施例の[抗菌・防カビ性評価]において「抗菌・防カビ性を有する(〇)」と判定されることを意味する。
本発明の乳酸菌は、培養後(GABA含有組成物に加工後)も増殖抑制能が持続する性質を有することが好ましい。
【0027】
本発明の乳酸菌は、例えば、生鮮食品や発酵食品等の食品から乳酸菌を分離し、得られた各菌株について、後述の実施例の試験例1に示す選抜を行うことで得ることができる。
【0028】
<乳酸菌の用途>
本発明の乳酸菌は、GABA生産性や抗菌・防カビ性が良好である。そのため、例えば、GABA含有組成物を製造するためのスターター、GABA含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤に使用できる。
【0029】
(スターター)
本発明の乳酸菌は、GABA含有組成物を製造するためのスターター(発酵スターター)として使用することができる。
具体的には、本発明の乳酸菌を原料(小麦粉、甘酒、野菜、乳等の飲食品原料や培養培地等)に添加し、発酵させることで、GABA含有組成物を製造することができる。
発酵条件は、本発明の乳酸菌が生育でき、GABA等の代謝物が生じる条件であれば特に限定されない。例えば、原料の種類等に応じて、発酵温度や発酵時間を適宜設定することができる。
スターターは、本発明の乳酸菌を生きた状態で含むものであればよく、例えば、本発明の乳酸菌の培養液を含む液体スターターや、培養液を適宜精製して乾燥させた粉末を含む粉末スターターが挙げられる。
スターター中の本発明の乳酸菌の菌数は特に限定されない。例えば、スターターの形態や原料の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0030】
(増殖抑制能を付与する剤)
本発明の乳酸菌は、GABA生産性や抗菌・防カビ性が良好である。このことから、本発明の乳酸菌を含む上記スターターは、GABA含有組成物に他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上に対する増殖抑制能を付与する剤として使用することもできる。
【0031】
<GABA含有組成物>
本発明のGABA含有組成物は、本発明の乳酸菌及び/又はその死菌を含む。後者は、本発明の乳酸菌を生菌状態で含む組成物が、物理的(例えば、加熱、加圧、紫外線処理等)又は化学的(例えば、薬物処理等)に処理されることで得られる。
【0032】
本発明のGABA含有組成物には、GABAを含有する、飲食品(健康志向の飲食品を含む、例えば、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、化粧品組成物、医薬用組成物(医薬品、医薬部外品等)、及びこれらに配合するための発酵組成物(発酵液、発酵粉末等)が含まれる。
【0033】
飲食品としては、ヒト用食品、乳児用食品(乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード)、非ヒト動物又は養魚用飼料、ペットフード、ペット用ガム等が挙げられる。具体的には、以下が挙げられる:
発酵食品(乳酸菌飲料、発酵乳、甘酒、味噌、醤油等)、及びそのスターター、
飲料類(日本茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、ジュース、加工乳、スポーツドリンク等)、
ベーカリー類(パン、ピザ、パイ等)、
洋菓子類(クッキー、クラッカー、ビスケット、ケーキ、カステラ等)、
麺類(うどん、そば、ラーメン等)、
パスタ類(スパゲティー、マカロニ等)、
スナック菓子類(おかき、ポテトチップス、スナック等)、
菓子類(ハードキャンディー、ソフトキャンディー、キャラメル、ガム、チョコレート等)、
冷菓(アイスクリーム、シャーベット等)、
乳製品(クリーム、チーズ、ムース、粉乳、練乳、乳飲料等)、
洋生菓子類(ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルト、バタークリーム、カスタードクリーム等)、
和菓子類(求肥、ういろう、もち、おはぎ、どら焼き等)、
果実・野菜の加工食品類(ジャム、マーマレード、シロップ漬け、糖果等)、
ペースト類(フラワーペースト、フルーツペースト、ピーナッツペースト等)、
漬物類(らっきょ漬け、福神漬け、キムチ等)、複合調味料(醤油、ソース、たれ、麺つゆ、だしの素、スープの素等)、
調味料類(シチューの素、スープの素、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップ等)、
レトルト食品又は缶詰食品(カレー、シチュー、スープ等)、
冷凍食品又は冷蔵食品(ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎり等)、
水産加工食品(ちくわ、かまぼこ等)、
米飯類(リゾット、寿司等)。
【0034】
化粧品組成物としては、例えば、洗浄剤(石けん、ボディーシャンプー、クレンジングクリーム、洗顔料等)、化粧品(ローション、乳液、美容液等)、クリーム(洗顔フォーム、バニシングクリーム、コールドクリーム、エモリエントクリーム、マッサージクリーム等)、パック、浴用剤等が挙げられる。
【0035】
医薬用組成物としては、経口投与剤、血管内投与剤、経腸投与剤、経皮投与剤、腹腔内投与剤等が挙げられる。
医薬用組成物の剤形としては、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。
また、医薬用組成物には、得ようとする効果に応じた添加剤(賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等)を配合してもよい。
【0036】
本発明の乳酸菌は抗菌・防カビ性が良好であるので、本発明のGABA含有組成物は、静菌剤、静カビ剤、静酵母剤を含まなくてよい。また、性質(1)~(3)のいずれか1又は2の性質を有するが他の性質を有しない乳酸菌を含まなくてもよい。
【0037】
GABA含有飲食品1g当たりのGABAの含有量は特に限定されないが、例えば、0.1mg以上50mg以下である。
【0038】
なお、本明細書において、GABAの含有量は下記の液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS法)により測定する。
【0039】
[LC-MS/MS法]
サンプルの前処理は、有機溶媒(80%エタノール、アセトニトリル)や酸(トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸)等を用いて除タンパクを行う。検量線は、0.04から0.4μm/mlの間4点とし、以下の条件で分析を行う。
LC:Thermo DIONEX Ultimate 3000
MS:Q EXactive Focus
カラム:SeQuant(登録商標) ZIC-pHILIC 5μm polymeric sorbent、150×2.1mm
移動相(A):10mM酢酸アンモニウム水溶液(pH9.6)
(B):100%アセトニトリル
グラジェント:B85% 0-3min、B85%-60% 3-15min、B30% 15.1-20min、B85% 20.1-30min
流速:0.25mL/min
温度:25℃
モード:並列反応モニタリング(PRM)モード GABA[CNO+H]、グルタミン酸[CNO+H]
ターゲット:GABA[m/z=87.04 RT=12.9]、グルタミン酸[m/z=84.04 RT=14.2]
【0040】
GABA含有飲食品は、上述した成分のほかに、賦形剤、甘味料、増粘剤、タンパク質、ペプチド、脂質、多糖類、糖質、塩類等の通常、飲食品に用いられている成分を含んでいてもよい。
【0041】
<GABA含有組成物の製造方法>
本発明のGABA含有組成物の製造方法は、本発明の乳酸菌により発酵させてGABAを生産させる発酵工程を含む。
【0042】
発酵工程では、グルタミン酸やグルタミン酸塩を含有する原料(小麦粉、甘酒、野菜、乳等の飲食品原料や培養培地等)に本発明の乳酸菌を添加し、発酵させてGABAを生産させることで、GABA含有組成物を製造することができる。この場合、本発明の乳酸菌として、上述のスターターを使用することができる。
【0043】
また、発酵工程により得られたGABA含有発酵組成物(発酵液、発酵粉末等)を、上述の飲食品、化粧品組成物、医薬用組成物等に添加する工程により、GABA含有組成物を製造することもできる。
【0044】
グルタミン酸やグルタミン酸塩を含有する培養培地に本発明の乳酸菌を添加し、GABA含有発酵組成物を製造する場合、培養方法は特に限定されず、乳酸菌の培養に用いられる任意の条件を採用できる。
培養に用いる乳酸菌は、生菌であっても休止菌であってもよく、生菌及び休止菌の両方であってもよい。乳酸菌は継代培養されたものを使用してもよい。また、凍結乾燥菌体、凍結保存株及び液体培養液のうちのいずれを使用してもよいが、使用の前日から1%以上のグルタミン酸を含む発酵液又は液体培地で前培養したものを使用することが好ましい。
【0045】
ここでのグルタミン酸は、化学的にはアミノ酸の一種であるL-グルタミン酸を指す。
グルタミン酸やグルタミン酸塩としては、調味料としての用途を持つ食品添加物であるグルタミン酸やグルタミン酸ナトリウム、その他のグルタミン酸塩、さらに食品蛋白質を酸や酵素で加水分解して得られるグルタミン酸のいずれを用いてもよい。また、穀物、酵母エキスを含む調味料、水産加工品、トマト等、遊離グルタミン酸を含む食品をそのまま用いてもよい。ただし、より多量のGABAを含有するGABA含有組成物を得ようとする場合には、より多量のグルタミン酸やグルタミン酸塩を含有する原料を用いることが好ましい。
【0046】
培養培地中の炭素源としては、例えば、糖類(ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルボース、マンニトールマルトース、スクロース、トレハロース、澱粉加水分解物、廃糖蜜等)を資化性に応じて使用できる。
培養培地中の窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩類(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等)、硝酸塩類を使用できる。
培養培地中の無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄、有機成分(ペプトン、酒粕、乳清(ホエイ)、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等)等を使用することができる。
培養培地としては、調製済みの培地(MRS培地、及びその修正培地等)を使用することができる。
培養培地には、乳化剤や安定剤、pH調整剤等の食品添加物を用いてもよい。
【0047】
培養温度は、乳酸菌が生育する範囲であればよく、通常、20~40℃の範囲が好適である。
培養時のpHは、好ましくは4.0~8.0である。
培養時間は、好ましくは10~144時間程度である。
【0048】
乳酸菌を培養して得られたGABA含有発酵液は、そのまま各種の飲食品に添加する等して用いてもよい。また、濾過、濃縮、乾燥等の処理工程によってGABAの含有量をさらに高めてから利用してもよい。このようにして、クロマトグラフィー等の精製工程を経なくても、廃棄物や副産物が少なく比較的安価に実施することができる方法により、GABA濃度が高く、加工食品等の原材料等として広い用途を持つ液体又は粉末状のGABA高含有組成物を得ることができる。また、濾過、濃縮、乾燥等の処理工程を経たGABA高含有組成物により、多量のGABAを含有した各種の飲食品、例えばGABA濃度が15質量%以上である飲食品を得ることができる。
【0049】
上記した濾過工程は、濾紙、濾布等を用いた通常の食品加工用の濾過設備を使用して行うことができ、珪藻土やセルロース、活性炭等の濾過助剤を用いるようにしてもよい。濃縮工程は、真空濃縮機、減圧濃縮機、蒸留釜、凍結濃縮機等の設備を用いて行う以外にも、火にかけた鍋で発酵液中の水分を蒸発させるだけでもよい。また、乾燥工程は、噴霧乾燥や凍結乾燥等、効率的かつ衛生的な方法により行うことが好ましい。さらに、GABAの含有量をより高めた飲食品を得るために、上記した工程以外にも、液体クロマトグラフィー等の方法を用いることもできる。また、上記した発酵液を濃縮又は乾燥させることにより、GABAを含有した液状又は粉末状組成物が得られ、それらを食品に配合したり二次加工したりすることにより、GABAを含有した飲食品を得ることができる。
【0050】
レビラクトバチルス・ブレビス No.584株は、最適化した培養条件の場合、最大140g/Lの濃度のGABAを培養液中に発酵生産できる。
【0051】
グルタミン酸やグルタミン酸塩を含有する飲食品原料等の原料に本発明の乳酸菌を添加する場合、発酵条件は、本発明の乳酸菌が生育でき、GABA等の代謝物が生じる条件であれば特に限定されない。例えば、原料の種類等に応じて、発酵温度や発酵時間を適宜設定することができ、上述の培養条件を適宜採用することができる。
【0052】
発酵工程に使用される容器は、洗浄や加熱殺菌を行うことができて、食品の製造に使用可能である容器であれば、大きさや材質を問わないが、雑菌が混入しにくい構造をしたものが好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
<試験例1>
食品から分離したラクトバチルス属・ラクトコッカス属の計134株について、(1)小麦粉を原料として発酵可能である性質(小麦発酵性)、(2)小麦粉とグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩とを原料として培養する際に、培養液中にGABAを蓄積する性質(GABA生産性)、(3)小麦粉を原料として培養する際に、他の細菌、カビ及び酵母からなる群より選択される少なくとも1以上の増殖を抑制する性質(抗菌・防カビ性)を有する菌株を選抜した。本発明における菌株の選抜は以下に示す通りに行った。
【0055】
[小麦発酵性評価]
各菌株を、白金耳を用いてMRS液体培地(BD Difco Lactobacilli MRS Broth)5mLに植菌し、33℃、24時間、静置条件にて前培養した。得られた前培養液を希釈小麦培地(強力粉:5質量%、グルタミン酸ナトリウム:0.2質量%、砂糖:0.05質量%、滅菌水:残部、初発pH:5.4)5mLに1%添加して、33℃、24時間、静置条件にて本培養を行った。発酵が行われる場合、乳酸産生により、pHは低下する。そこで、本培養前の初発pHから本培養後のpHの差(ΔpH)が0.8以上となった菌株は小麦発酵性を有する(〇)、0.8未満0.3以上はわずかな小麦発酵性を有する(△)、0.3未満は小麦発酵性を有しない(×)と判定した。
【0056】
[GABA生産性評価]
各菌株を、白金耳を用いてMRS液体培地(BD Difco Lactobacilli MRS Broth)5mLに植菌し、33℃、24時間、静置条件にて前培養した。得られた前培養液5mL分を20倍に濃縮後、サワードウ培地(強力粉:7.5g、滅菌水:7.5g、グルタミン酸:0.0675g、グルタミン酸ナトリウム:0.075g、砂糖:0.375g)に添加して、30℃、18時間、静置条件にて本培養を行った。得られた本培養液を80%エタノールで抽出した後、適宜水で希釈し、LC-MS/MS法でGABA生産性を評価した。GABAエリア面積値/(GABAエリア面積値+グルタミン酸エリア面積値)×100(%)が45%以上となった菌株はGABA生産性を有する(〇)、45%未満はGABA生産性を有しない(×)と判定した。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。
【0057】
[抗菌・防カビ性評価]
各菌株を、白金耳を用いてMRS液体培地(BD Difco Lactobacilli MRS Broth)5mLに植菌し、33℃、24時間、静置条件にて前培養した。得られた前培養液5mL分を20倍に濃縮後、希釈小麦培地(強力粉:5質量%、グルタミン酸ナトリウム:0.2質量%、砂糖:0.05質量%、滅菌水:残部、初発pH:5.4)5mLに添加して、33℃、24時間、静置条件にて本培養を行った。得られた本培養液の50倍希釈サンプル1mL分に含まれる一般生菌数を、標準寒天培地(日水製薬株式会社製)にて、混釈法により評価した。同様に、得られた本培養液の50倍希釈サンプル1mL分に含まれるカビ・酵母を、ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬株式会社製)を用いて評価した。ここでは、細菌及びカビ・酵母のコロニーが検出されなかった菌株を抗菌・防カビ性を有する(〇)、コロニーが検出された菌株を抗菌・防カビ性を有しない(×)と判定した。
【0058】
[選抜対象菌について]
選抜対象の乳酸菌は、本発明者らが生鮮食品や発酵食品等の食品から11菌種134株を単離した。得られた乳酸菌は、Lacticaseibacillus paracasei subsp. paracasei(8株)、Lacticaseibacillus paracasei subsp. tolerans(1株)、Latilactobacillus curvatus(3株)、Latilactobacillus graminis(11株)、Lactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum(29株)、Latilactobacillus sakei subsp. sakei(10株)、Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri(21株)、Lentilactobacillus diolivorans(2株)、Levilactobacillus brevis(8株)、Lactiplantibacillus pentosus(17株)、Companilactobacillus alimentarius(1株)、Lactobacillus johnsonii(1株)、Lactococcus lactis subsp. lactis(22株)である。
【0059】
[乳酸菌の選抜結果]
計134株の中で、小麦発酵性をわずかでも有し、GABA生産性を有する菌株は2株のみであった(レビラクトバチルス・ブレビス No.584株、レビラクトバチルス・ブレビス No.686株)。さらに、レビラクトバチルス・ブレビス No.584株のみが小麦発酵性、GABA生産性及び抗菌・防カビ性を有する菌株として選抜された。134株を代表して、主に、小麦発酵性をわずかでも有するレビラクトバチルス・ブレビスの選抜結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<試験例2>
[乳酸菌液体スターターの作製]
レビラクトバチルス・ブレビス No.584株の凍結ストックを、ブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料としてpH5に調整した培地に1%播種し、37℃、24時間の静置培養を行った。この前培養液を同様のブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料とした培地に1%播種し、37℃、17時間にて、pH5に制御しながら撹拌培養を行った。精製工程を経て凍結し、5×10cfu/gの液体スターターを得た。
【0062】
[GABA含有発酵液の作製]
得られた液体スターターを、ブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料としてpH5に調整した培地に、初発菌数が1×10cfu/gになるように植菌し、37℃、24時間にて前培養を行った。19質量%のグルタミン酸ナトリウムを含み、さらにブドウ糖及び酵母エキスを含む液体培地1.5Lに、得られた前培養液を15mL添加し、37℃にて、pH5に制御しながら本培養を行ってGABA含有発酵液を作製した。本培養開始から31時間後のGABAの生産量は発酵液全体の3質量%であった。75時間後のGABAの生産量は10質量%であった。145時間後のGABAの生産量は14質量%に達した。
【0063】
[GABA含有発酵粉末の作製]
得られた液体スターターを、ブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料としてpH5に調整した培地に、初発菌数が1×10cfu/gになるように植菌し、37℃、24時間にて前培養を行った。10質量%のグルタミン酸及び1.6質量%の炭酸カルシウムを含有し、さらにブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を含む液体培地1.5Lに、得られた前培養液を15mL添加し、37℃、100rpm、通気無しの条件で本培養を開始した。その後、4N塩酸を適時添加してpH5.0に維持しながら同条件で培養を続けた。本培養開始から25.5時間後の培養液を遠心し、上清に対して10容量%の合成吸着剤を添加し、攪拌しながら2時間処理した。その後、上清に対して10質量%のデキストリンを添加して凍結乾燥を行い、GABAを33質量%含有する淡黄色のGABA含有発酵粉末306gが得られた。
【0064】
<試験例3>
[乳酸菌粉末スターターの作製]
レビラクトバチルス・ブレビス No.584株の凍結ストックを、ブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料としてpH5に調整した培地に1%播種し、37℃、24時間の静置培養を行った。この前培養液を同様のブドウ糖、酵母エキス及びグルタミン酸塩を原料とした培地に1%播種し、37℃、17時間にて、pH5に制御しながら撹拌培養を行った。精製工程を経て凍結真空乾燥を行い、8×1010cfu/gの乳酸菌粉末スターターを得た。
【0065】
<試験例4 食パン>
[サワードウの作製]
サワードウ培地(強力粉:75g、滅菌水:75g、L-グルタミン酸:0.675g、グルタミン酸ナトリウム:0.75g、砂糖:3.75g)に、試験例3で作製したレビラクトバチルス・ブレビス No.584株の乳酸菌粉末スターターを、初発菌数が1×10cfu/gになるように植菌し、常温18時間にて培養を行い、実施例のサワードウを作製した。
また、GABA生産性を示したが抗菌・防カビ性を示さなかったレビラクトバチルス・ブレビス No.686株について、試験例3と同様の方法で乳酸菌粉末スターター(8×1010cfu/g)を作製した。そして、この乳酸菌粉末スターターを使用したこと以外は実施例と同様にして比較例のサワードウを作製した。
【0066】
[パンの作製]
各サワードウ155.6g(含まれる強力粉量はパン全体の強力粉量の30質量%)に、強力粉175g、砂糖8.75g、食塩5g、脱脂粉乳5g、ショートニング12.5g、ドライイースト((株)日清製粉ウェルナ製のスーパーカメリヤ)5g、滅菌水100gを混合し、ホームベーカリー(National SD-BT103-W)で良く捏ねた(練り20分、寝かし55分、練り10分)。この生地を食パンの型に入れ、30℃、60分で発酵後、コンベクションオーブン(tanico FD40040Z5)にてスチーム100%、190℃、30分の条件で焼成を行った。放冷後(60分程度)、下記分析に使用した。
【0067】
[GABAの定量]
作製したパンから80%エタノールを用いてGABAを抽出し、LC-MS/MS法にて、パン1g当たりに含まれるGABA量を測定した。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。
【0068】
[細菌及びカビ・酵母の分析]
作製したパンを半分にカットし、半分は当日の菌数分析に使用し、残りは保管5日後の分析に使用した。保管は密閉した袋に入れ、室温で行った。半分にカットしたパン(耳部分を除く)から10gをはかりとり、滅菌(121℃、15分)した生理食塩水にて10倍希釈したサンプルを作製した。このサンプルを適宜希釈し、含まれる一般生菌数を標準寒天培地(日水製薬株式会社製)にて、混釈法により評価した。同様に、含まれるカビ・酵母を、ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬株式会社製)を用いて評価した。食パン1g当たりに含まれる一般生菌数、カビ・酵母数を算出し、比較した。
【0069】
[試験結果]
表2にGABA量と抗菌・防カビ効果に関する結果を示した。686株を用いた比較例に比べて584株を用いた実施例の方がGABA量は多く、パン1gから1.8mgのGABAが検出された。食パン1枚(60g)に換算すると、108mgのGABAが摂取可能であった。また、抗菌効果として評価した一般生菌数は、584株を用いた実施例では製造当日に検出されず、保管5日後も686株を用いた比較例に比べて5%以下であった。防カビ効果として評価したカビ・酵母は、保管5日後も584株を用いた実施例では検出されなかった。これらの結果から、GABA含有による健康機能をもたせつつ、腐敗抑制による日持ちの向上効果が期待できるパン等の食品の製造が可能であることが確認された。
【0070】
【表2】
【0071】
<試験例5 ライ麦ミックスパン>
[サワードウの作製]
サワードウ培地(強力粉:22.5g、全粒粉強力粉:22.5g、全粒粉ライ麦粉:5g、滅菌水:50g、L-グルタミン酸:0.5g、グルタミン酸ナトリウム:0.4g、砂糖:2.5g)に、試験例3で作製した乳酸菌粉末スターターを初発菌数が1×10cfu/gになるように植菌し、常温24時間にて培養を行った。
【0072】
[ライ麦ミックスパンの作製]
作製したサワードウ103.5g(含まれる穀物粉量はパン全体の穀物粉量の20質量%)に、強力粉90g、全粒粉強力粉90g、全粒粉ライ麦粉20g、砂糖10g、食塩5g、脱脂粉乳5g、ショートニング12.5g、ドライイースト((株)日清製粉ウェルナ製のスーパーカメリヤ)5g、滅菌水125gを混合し、ホームベーカリー(National SD-BT103-W)にてパンを作製した(練り20分、寝かし55分、練り10分、発酵115分、焼成40分)。
また、対照として、強力粉112.5g、全粒粉強力粉112.5g、全粒粉ライ麦粉25g、砂糖12.5g、食塩5g、脱脂粉乳5g、ショートニング12.5g、ドライイースト5g、滅菌水175gを混合し、上記と同様にホームベーカリーにてコントロール区(サワードウの配合無し)のパンを作製した。
これらのパンは、放冷後(60分程度)に2cm厚にスライスした。
【0073】
[GABAの定量]
作製したライ麦ミックスパンを粉砕したサンプルを80%エタノールで抽出し、LC-MS/MS法にて、パン1g当たりに含まれるGABA量を測定した。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。
【0074】
[カビ・酵母の分析]
2cm厚の食パンを6等分(5cm×5cm)の一口大にカットした食パン24個を密閉した袋に入れ、室温にて5日放置した。放置後、24個のパンの表面に現れたカビのコロニー数を数えた。
【0075】
[試験結果]
ライ麦ミックスパン1gから1.3mgのGABAが検出された。
コントロール区のパンでは24個のパンに36個のカビのコロニーが確認され、一口大のパン一個当たり1.5個のカビが確認された。一方、レビラクトバチルス・ブレビス No.584株を用いたサワードウを添加したパンでは、24個のパンに12個のコロニーしか確認されず、一口大のパン一個当たりでは0.5個であり、コントロール区のパンと比較してカビのコロニー発生が1/3に抑制された。このように、レビラクトバチルス・ブレビス No.584株で発酵させたサワードウを用いることで、強力粉以外の穀物粉を用いた場合においても、カビの発生を抑制する効果が確認された。
【0076】
<試験例6>
[GABA含有甘酒の作製]
米麹100g、パックご飯100g、水200gにて、60℃10時間発酵させ、甘酒を作製した。得られた甘酒300gにグルタミン酸ナトリウムを200mg添加した。85℃10分で殺菌後、室温まで冷却し、試験例3で作製した乳酸菌粉末スターターを初発菌数が1×10cfu/gになるように植菌し、30℃で24時間発酵させた。固形分を除く上清を水で希釈し、LC-MS/MS法を用いてGABA量を測定したところ、1.2mg/gのGABAが検出された。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。
【0077】
<試験例7>
[GABA含有浅漬けの作製]
「浅漬けの素 昆布だし」(エバラ食品工業(株)製)を使用し、大根の漬物を作製した。大根103gに質量当たり1/2量である52gの「浅漬けの素 昆布だし」を添加し、4℃で1時間にてあらかじめ漬け込んだ。ここに、0.87mg/g(大根及び漬物液の合計質量1g当たり)のグルタミン酸ナトリウムを添加し、試験例3で作製した乳酸菌粉末スターターを初発菌数が1×10cfu/g(大根及び漬物液の合計質量1g当たり)になるように植菌した。20℃の空調下にて、48時間漬け込んだ大根5gに水45gを加えてミキサーで粉砕し、LC-MS/MS法を用いてGABA量を測定した。実食部から4.1mg/gのGABAが検出された。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。
【0078】
<試験例8>
[GABA含有キムチの作製]
「キムチ漬けの素」(エバラ食品工業(株)製)を使用し、大根の漬物を作製した。
大根106gに32gの「キムチ漬けの素」を添加し、4℃で1時間にてあらかじめ漬け込んだ。ここに、0.87mg/g(大根及び漬物液の合計質量1g当たり)のグルタミン酸ナトリウムを添加し、試験例3で作製した乳酸菌粉末スターターを初発菌数が1×10cfu/g(大根及び漬物液の合計質量1g当たり)になるように植菌した。20℃の空調下にて、48時間漬け込んだ大根及び漬物液の合計138gに水138gを加えてミキサーで粉砕し、LC-MS/MS法を用いてGABA量を測定した。大根及び漬物液から6.2mg/gのGABAが検出された。LC-MS/MS法は上述した条件にて実施した。