(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141029
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】パーティション及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G10K 13/00 20060101AFI20230928BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20230928BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20230928BHJP
E04B 1/99 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G10K13/00
E04B2/74 561H
E04B2/74 551E
E04B1/86 T
E04B1/99 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047144
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小林 斗彌
(72)【発明者】
【氏名】桜井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 徹
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF05
2E001DF12
2E001FA07
2E001GA17
2E001HD11
2E001HD13
(57)【要約】
【課題】音響特性が改善され、話し手の声が聞き手に伝わりやすいパーティション、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板10を有するパーティション1において、基板10の厚さ方向の第1面12に、開口形状が真円で、かつ開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面22とその内側に位置する平坦面24を有する凹部20を形成し、基板10の厚さ方向の第2面14に、開口形状が真円で、かつ開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面32とその内側に位置する平坦面34を有する凹部30を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の厚さ方向の少なくとも一方の表面に凹部が形成されたパーティション。
【請求項2】
前記凹部の表面が、前記凹部の開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面を有する、請求項1に記載のパーティション。
【請求項3】
前記凹部の表面が、前記凹部の中心部に平坦面を有する、請求項2に記載のパーティション。
【請求項4】
前記凹部の開口形状が真円である、請求項1~3のいずれか一項に記載のパーティション。
【請求項5】
前記基板の両方の表面に凹部が形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のパーティション。
【請求項6】
前記基板の同一の表面に複数の前記凹部が形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のパーティション。
【請求項7】
前記凹部が形成された前記基板が複数組み合わされている、請求項1~6のいずれか一項に記載のパーティション。
【請求項8】
前記基板を構成する材料が、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とのアロイ樹脂である、請求項1~7のいずれか一項に記載のパーティション。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のパーティションを製造する方法であって、
射出成形によってパーティションを得る、パーティションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティション及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフィス等の空間の間仕切りやデスクなどでのパーソナルな環境を設けるための仕切りは間仕切り(パーティション)が用いられている。空間の間仕切りという目的からパーティションに遮音性を持たせることが検討されている(例えば特許文献1~5)。一方、近年、ウィルス感染対策としてパーティションを設置することが多くなり、特に対面で会話する場所や場面において会話による飛沫感染を防止するため、例えば透明なアクリル板などのパーティションが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-199988号公報
【特許文献2】国際公開第2017/170315号
【特許文献3】国際公開第2017/170353号
【特許文献4】特表2019-512107号公報
【特許文献5】特開2021-055311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のパーティションでは、上記のとおり遮音性が重視されるため会話のしやすさは考慮されておらず、話し手の声が聞き手に伝わりにくい。また、パーティションに会話用の孔を設けると会話による飛沫感染を充分に防止できない。本発明者等は、パーティションの音響特性を改善して声を伝わりやすくするという新たな技術思想に基づき、パーティションを改善することを検討した。
【0005】
より具体的には、パーティションを介した声の伝達は、話し手の声による空気の振動によってパーティションが振動し、パーティションの振動が聞き手側の空気の振動となって伝播していくことにより行われる。従来はパーティションの振動を高める工夫がされておらずパーティションの周囲の空気が振動することで伝播する声に依存している。話し手の声を伝えやすくするためにはパーティションの厚さを薄くすることが考えられる。しかし、薄いパーティションは強度や設置の安定性が不十分であるなどの不都合がある。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みて、音響特性が改善され、話し手の声が聞き手に伝わりやすいパーティション、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]基板の厚さ方向の少なくとも一方の表面に凹部が形成されたパーティション。
[2]前記凹部の表面が、前記凹部の開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面を有する、[1]に記載のパーティション。
[3]前記凹部の表面が、前記凹部の中心部に平坦面を有する、[2]に記載のパーティション。
[4]前記凹部の開口形状が真円である、[1]~[3]のいずれかに記載のパーティション。
[5]前記基板の両方の表面に凹部が形成されている、[1]~[4]のいずれかに記載のパーティション。
[6]前記基板の同一の表面に複数の前記凹部が形成されている、[1]~[5]のいずれかに記載のパーティション。
[7]前記凹部が形成された前記基板が複数組み合わされている、[1]~[6]のいずれかに記載のパーティション。
[8]前記基板を構成する材料が、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とのアロイ樹脂である、[1]~[7]のいずれかに記載のパーティション。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のパーティションを製造する方法であって、
射出成形によってパーティションを得る、パーティションの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、音響特性が改善され、話し手の声が聞き手に伝わりやすいパーティション、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例のパーティションの正面図である。
【
図2】
図1のパーティションのA-A断面図である。
【
図3】据置型のパーティションの一例を示した正面図である。
【
図4】凹部が形成された基板が複数組み合わされた据置型のパーティションの一例を示した正面図である。
【
図5】実施形態の他の例のパーティションの正面図である。
【
図6】実施形態の他の例のパーティションの正面図である。
【
図7】
図6のパーティションのB-B断面図である。
【
図8】実施形態の他の例のパーティションの正面図である。
【
図9】実施形態の他の例のパーティションの正面図である。
【
図10】
図9のパーティションのC-C断面図である。
【
図11】実施形態の他の例のパーティションの断面図である。
【
図12】例1~3のパーティションに対する音圧測定の結果を示したグラフである。
【
図13】例1~3のパーティションに対する振動測定の結果を示したグラフである。
【
図14】例3~6のパーティションに対する音圧測定の結果を示したグラフである。
【
図15】残響室及び完全無響室を利用して音圧測定を行う様子を示した模式図である。
【
図16】残響室及び完全無響室を利用した例1~3のパーティションに対する音圧測定の結果を示したグラフである。
【
図17】残響室及び完全無響室を利用した例3~6のパーティションに対する音圧測定の結果を示したグラフである。
【
図18】No.14のPMMA系樹脂及びNo.15のPC樹脂のアクセレランスを示したグラフである。
【
図19】No.2のPVC系樹脂とNo.15のPC樹脂のアクセレランスを示したグラフである。
【
図20】No.2のPVC系樹脂とNo.14のPMMA系樹脂のアクセレランスを示したグラフである。
【
図21】耐溶剤性試験の様子を模式的に示した斜視図である。
【
図22】加振実験の様子を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のパーティションは、仕切りのための板状部材であって、パーティションを介して会話する場所において特に有用である。また、本発明のパーティションは、会話用に孔開け構造を設ける場合に比べて飛沫感染を充分に防止できる点で有利である。
以下、本発明のパーティションについて、一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0011】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のパーティション1は、平板状の基板10を有する。基板10の厚さ方向の第1面12には凹部20が形成されており、第2面14にも凹部30が形成されている。このように、パーティション1では、基板10の両方の表面に凹部が形成されている。
なお、本発明では、基板の一方の表面のみに凹部が形成されていてもよい。
【0012】
一般に、会話における声の周波数は250Hz~4kHz程度であり、音圧は20dB~80dB程度である。凹部が形成されていない平板のパーティションに比べ、パーティション1は基板に凹部が形成されているため、その部分の厚さが薄く、また重量が軽くなっていることで、話し手の声でパーティション1自体が振動しやすい。そのため、パーティション1の話し手側から聞き手側への透過音圧が大きくなり、話し手の声が聞き手に伝わりやすい。このように、パーティション1は凹部によって音響特性が改善されているため、パーティション1を挟んだ人同士での会話がより快適になる。
【0013】
基板10は、透明であることが好ましい。「透明」とは、JIS K7361に従って測定した全光線透過率が50%以上であることを意味する。
基板10の正面視形状は、特に限定されず、例えば、正方形、長方形、多角形、真円、楕円を例示できる。なかでも、複数の基板10を互いの間に隙間を形成させずに上下左右に並べて組み合わせることができる点では、正方形、長方形及び多角形が好ましく、正方形がより好ましい。
【0014】
基板10の寸法は、特に限定されない。移動型では、基板10を第1面12側から正面視したときの縦方向の最大長さは、100mm以上が好ましく、300mm以上がより好ましく、400mm以上がさらに好ましい。固定型では、基板10の縦方向の最大長さは、1800mm以下が好ましく、1200mm以下がより好ましく、800mm以下がさらに好ましい。基板10の縦方向の最大長さの下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば400mm~800mmが好ましい。なお、「移動型」とは、デスクやテーブル上に固定具などにより置いて設置するタイプで、取り外しや場所の移動が可能なものをいう。また、「固定型」とはブースの間仕切りなど、床面に固定して設置される比較的大きな寸法のものをいう。
基板10を第1面12側から正面視したときの横方向の最大長さの好ましい下限及び上限は、基板10の縦方向の最大長さの好ましい下限及び上限と同じである。
【0015】
基板10の凹部が形成されていない部分の厚さは、凹部の厚さとの関係、十分な剛性と耐久性、及び上記寸法による重量の制約などを考慮して設定される。具体的には基板10の凹部が形成されていない部分の厚さは、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。その上限は特にないが、実用上及び成形性において20mm程度である。また複数の厚さの基板10を組み合わせて構成することでも構わない。
【0016】
図1に示す例の凹部20の開口形状、すなわち基板10を第1面12側から正面視したときの凹部20の形状は、真円である。なお、凹部20の開口形状は、真円には限定されず、楕円、正方形、長方形等の多角形であってもよい。基板10の凹部が形成されていない部分及び凹部形成部分に向かって発声されたときに基板10の振動が凹部の中心方向に向かって伝搬されるためには、
図2に示すように、凹部20の表面20aは凹部20の開口端から中心に向かうにつれて深くなり、厚さが薄くなるように湾曲面を有することが好ましい。
【0017】
図2に示すように、凹部20の表面20aは、凹部20の開口端から中心に向かうにつれて深くなる。すなわち基板10の厚さが薄くなるように湾曲面22を有することが好ましい。すなわち、基板10の厚さ方向に平行で、かつ凹部20の中心を通る平面で基板10を切断した断面において、凹部20の表面20aで構成される線形状は、底側に凸の円弧を含むことが好ましい。この場合の湾曲面の形状は後述する凹部20の平坦面24の大きさに対して凹の開口形状からの振動伝搬が同期するような形状とすることが好ましい。
【0018】
凹部20がこのような湾曲面22を有して薄い部分が形成された構造であると、話し手の発声によって基板10に励振された振動が、凹部20の薄い部分に伝わりやすくなり、この部分の振動が大きくなる。この振動が空気を励振して音として放射される。すなわち、話し手の発生音によって励振された基板10の振動が凹部20の薄い部分の振動を大きくし、それによって放射される音(これを透過音という)が大きくなる効果がある。いわゆるエラスティックエッジ効果により、基板10の振動は厚さの薄い凹部20の中心部に集まっていく。これにより、話し手の声を受けたときの基板10の振動が凹部20の中心部に集約され、このことから、集まった振動すなわち固体伝播音が空気伝播音となるときに、話し手の声が聞き手に伝播されるときの透過音が凹部を有さない平板よりも高くなる。
【0019】
また、凹部20の表面20aは、湾曲面22よりも内側の中心部に平坦面24を有していることがより好ましい。このように、凹部が湾曲面よりも内側の中心部に平坦面を有していると、凹部で集約された振動すなわち固体伝搬音が空気伝搬音となる面が大きくなるため聞き手側に伝播されやすくなる。そのため、話し手の声がパーティションを介して聞き手側にさらに伝わりやすくなる。
【0020】
この例では、凹部20の平坦面24の正面視形状は真円である。凹部の平坦面の平面視形状は、真円には限定されず、楕円、矩形等であってもよい。凹部の平坦面の形状は、基板10の形状、大きさ、湾曲構造及びパーティションとしてのデザイン性などを考慮したうえで、空気伝搬音としての音圧が高くなる設計とすることが好ましい。また、上記効果のために凹部20の湾曲面22は剛性を有していることが必要であり、湾曲構造は緩やかな傾斜もしくは曲率半径である方が好ましい。
【0021】
凹部20の寸法は、会話時の話し手の声の振動を拾いやすく、その振動が聞き手側に伝わりやすくなるように調節することができる。
本発明におけるパーティションでは基板10の厚さに対して凹部20の平坦面を設けてその厚さを薄くすることが好ましい。上記したように平坦面の振動を大きくするための厚さとしては、0.5mm~3.0mmが好ましく、1.0mm~2.5mmがより好ましく、1.0mm~2.0mmがさらに好ましい。この範囲であるとパーティションの強度を維持することもできる。
これに対して基板10の厚さは、パーティションとしての実用上の強度、重量および質感などを考慮すると、3.0mm~15.0mmが好ましく、3.0mm~10.0mmがより好ましく、3.0mm~7.0mmがさらに好ましい。
【0022】
基板10の大きさと厚さに対する凹部20の寸法及び平坦面の厚さとの関係は、基板10の厚さが3.0mm~7.0mmに対して凹部20の平坦面の厚さは1.0mm~2.0mmとすることが、上記した放射される音を大きくする効果を高めるために好ましい。また、凹部20の大きさは、基板10の大きさに関わらず、基板10の湾曲部開始の縁部を基準として、好ましくは150mm×150mmから600mm×600mmの範囲、より好ましくは250mm×250mmから350mm×350mmの範囲の寸法内において真円、楕円、矩形状に凹部を形成すればよい。凹部20の大きさが前記上限以下であれば、振動を集める効果が十分に得られやすく、また基板10における薄い部分が大きくなり過ぎないためパーティションとしての強度や質感を確保しやすい。
【0023】
基板10の凹部20は、双方向の振動の伝わり方を同じにするためにも基板10の両面から同じ形状で形成することが好ましい。
例えば、上記の各寸法の範囲において、基板10の凹部20が形成されていない部分の厚さを5.0mmとし、直径250mmの真円形で、かつ湾曲面の内側に厚さ1.0mmの平坦面を有する凹部20を、基板10の両面に、基板10の厚さ方向の断面において対称となるようにそれぞれ形成することができる。また、長軸直径600mm、短軸直径400mmの楕円形で、かつ湾曲面の内側に厚さ1.0mmの平坦面を有する凹部20を、同様に基板10の両面に形成することもできる。
【0024】
これらの凹部20形成において、湾曲部の寸法及び平坦面の大きさなどは、振動伝搬の数値解析と湾曲面及び平坦面の成形加工の流動解析の面からシミュレーションを行うことで設計することができる。数値解析としては、構造と音響の連成解析が利用できる。本発明のパーティションでは話し手の発生する声の放射音響エネルギーから透過音響エネルギーを大きくすることを目的としており、入射音響エネルギーから透過音響エネルギーへの変換、すなわち入射した音響エネルギーと透過した音響エネルギーの差として表される透過損失[dB]を構造音響連成解析によって見積もることにより、凹部20の構造を設計することができる。一方、本発明のパーティションは後述する樹脂材料を用いて射出成形法により成形することができ、構造音響連成解析により設計された凹部20を含むパーティション構造の流動解析により、射出成形性を判断する。成形性が不十分な構造である場合は、構造設計との関係においてパーティション構造を最適化する。
【0025】
基板10を構成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC系樹脂」と記す。)、ポリメチルメタクリレート系樹脂(以下、「PMMA系樹脂」と記す。)、ポリカーボネート樹脂、PVC系樹脂とPMMA系樹脂のアロイ樹脂等の樹脂を例示できる。なかでも、本発明におけるパーティションでは、上記した構造により放射音響エネルギーを高めるために剛性を有している材料が好ましい。さらに難燃性、耐溶剤性の点ではPVC系樹脂、及びそのアロイ樹脂が好ましく、難燃性、耐溶剤性、耐擦傷性を兼ね備える点では、PVC系樹脂とPMMA系樹脂のアロイ樹脂がより好ましく、さらには硬質PVC系樹脂とPMMA系樹脂からなるアロイ樹脂が好ましい。このアロイ樹脂はPMMA単独では得られないエタノールなどのアルコールや塩素系消毒剤への耐性があることから、これらを用いたふき取りや洗浄が可能となり、特に好ましい。耐溶剤性に優れるパーティション1は、表面をアルコール等で消毒できることから、ウィルス感染対策の観点で好ましい。基板10を構成する材料としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
アロイ樹脂におけるPVC系樹脂とPMMA系樹脂との質量比は、PVC系樹脂100質量部に対してPMMA系樹脂が10質量部~70質量部であることが好ましく、20質量部~60質量部であることがより好ましく、30質量部~55質量部であることがさらに好ましい。PVC系樹脂の割合が高いほど、難燃性、耐溶剤性に優れる。PMMA系樹脂の割合が高いほど、表面硬度が高く、耐擦傷性に優れる。
【0027】
PVC系樹脂は、塩化ビニル由来の繰り返し単位(以下、「塩化ビニル単位」とも記す。)の割合が全繰り返し単位に対して50質量%超の重合体である。PVC系樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であってもよく、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体であってもよい。PVC系樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。アロイ樹脂に含まれるPVC系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0028】
PVC系樹脂中の塩化ビニル単位の割合は、全繰り返し単位に対して、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
【0029】
塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体としては、特に限定されず、例えば、脂肪酸ビニルエステル、アクリレート、メタクリレート、シアン化ビニル、ビニルエーテル、α-オレフィン、不飽和カルボン酸又はその酸無水物、塩化ビニリデン、臭化ビニル、各種ウレタンを例示できる。
【0030】
脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニルを例示できる。アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートを例示できる。メタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートを例示できる。シアン化ビニルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルを例示できる。ビニルエーテルとしては、ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテルを例示できる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレンを例示できる。不飽和カルボン酸又はその酸無水物類としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸を例示できる。塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
成形加工性の点では、PVC系樹脂の平均重合度は、400以上が好ましく、500以上がより好ましく、550以上がさらに好ましい。成形性が向上する点では、PVC系樹脂の平均重合度は、1200以下が好ましく、800以下がより好ましく、700以下がさらに好ましい。PVC系樹脂の平均重合度の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば400~1200が好ましい。
なお、平均重合度は、JIS K 6720-2によって測定される。
【0032】
PVC系樹脂としては、硬質塩化ビニル樹脂であってもよく、軟質塩化ビニル樹脂であってもよいが、成形品の表面硬度が高く、耐傷付き性に優れる点から、硬質塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0033】
PMMA系樹脂は、メチルメタクリレート(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」とも記す。)の割合が全繰り返し単位に対して80質量%以上の重合体である。MMA系樹脂は、MMAの単独重合体であってもよく、MMAと、MMA以外の(メタ)アクリレートとの共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレートとアクリレートの総称である。PMMA系樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。アロイ樹脂に含まれるPMMA系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0034】
PMMA系樹脂中のMMA単位の割合は、全繰り返し単位に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。MMA単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、成形性が向上する。
【0035】
MMA以外の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートを例示できる。PMMA系樹脂に用いるMMA以外の(メタ)アクリレートは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0036】
表面硬度が向上する点では、PMMA系樹脂の重量平均分子量は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましい。強度が向上する点では、PMMA系樹脂の重量平均分子量は、600,000以下が好ましく、400,000以下がより好ましい。PMMA系樹脂の重量平均分子量の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば10,000~600,000が好ましい。
【0037】
表面硬度が向上する点では、PMMA系樹脂の数平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましい。強度が向上する点では、PMMA系樹脂の数平均分子量は、300,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましい。PMMA系樹脂の数平均分子量の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば5,000~300,000が好ましい。
重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。
【0038】
耐衝撃強度を高めるために、PMMA系樹脂にはゴム成分が含まれていてもよい。ゴム成分としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、ポリオレフィン系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴムを使用することができる。透明性を維持する場合にはアクリルゴムが好ましい。また低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂を混合したものでもよい。
【0039】
基板10を構成する材料には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、防汚剤、改質剤、着色剤、充填剤等の添加剤を添加することができる。基板10を構成する材料に含まれる添加剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0040】
基板10を構成する材料の具体例としては、例えば後述の実施例の表2及び表3に例示したものが挙げられる。これら材料については、後述する試験方法により評価した表面硬度、難燃性及び耐溶剤性の結果についても示している。
パーティションとして使用する場合において、表面硬度はF以上が好ましく、H以上がより好ましい。難燃性はV-0、V-1ないしV-2が好ましく、V-0又はV―1が好ましい。耐溶剤性は臨界歪の平均値で0.5%以上が好ましい。
【0041】
基板10の材料として好適に使用されるPVC系樹脂とPMMA系樹脂とからなるアロイ樹脂について説明する。PVC系樹脂とはポリ塩化ビニル樹脂(PVC)と、可塑剤、安定剤、滑剤、改質剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤などの添加剤とからなる組成物であり、後述の表2及び表3に示す組成物を例示できる。PMMA系樹脂とのアロイ樹脂において表面硬度を低下させない点、また上記したパーティションの凹部における振動の伝搬を高める点から、PVC系樹脂はいわゆる硬質PVC系樹脂が好ましい。PVC系樹脂は、液剤の添加剤を含まない、もしくは少量を含む組成物であることがさらに好ましい。液剤の添加剤の添加量は、PVC100質量部に対し、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0042】
アロイ樹脂はPVC系樹脂とPMMA系樹脂とを溶融混錬して製造される。この製造においては、先ず公知のミキサー、ブレンダー、ニーダーなどを用いてPVCに添加剤を混合してPVC系樹脂を製造する。次に、二軸混練装置を用いてこのPVC系樹脂とPMMA系樹脂とを混合、混錬しアロイ樹脂とすることが好ましい。この二軸混練装置での混合、混錬では、PMMA系樹脂を混練装置のホッパーから投入し、温度条件及びスクリュー回転数などの所定条件で溶融、ゲル化状態とさせたPMMA系樹脂に、サイドフィーダーにより混合比に合わせた所定量のPVC系樹脂を供給して混合、分散させる方法が好ましい。これは、PVC系樹脂の着色や熱分解を抑制しやすく、アロイ樹脂の相溶状態が良くなり透明性が向上するためである。
【0043】
パーティション1の用途は、特に限定されず、例えばウィルス感染対策を行いつつ会話を行うことが想定される場所に設置することができる。具体的には、例えば、飲食店、応接室等のテーブルや、レジ、窓口、タクシーの運転席と後部座席の間等が挙げられる。
【0044】
パーティション1の設置態様は、特に限定されない。
例えば、
図3に示すように、基板10の下部を2つの足部材100で支持してテーブル等の上に立てた状態で設置する据置型のパーティション1とすることができる。この場合、
図3の例のように基板10の下側に空間があってもよく、基板10の下部全体を支持できる長尺の足部材を用いて基板10の下側には空間ができないようにしてもよい。
基板10の凹部が形成されていない上部に穴を形成し、その穴に紐を通して吊り下げた状態で設置する吊り下げ型のパーティション1としてもよい。
壁やドアに形成した開口に嵌め込む密閉型のパーティション1としてもよい。
【0045】
パーティション1の製造方法としては、表面平滑性と透明性に優れたパーティションが得られやすい点から、射出成形により、凹部が形成された基板を成形することが好ましい。なお、パーティション1の製造方法は、射出成形には限定されず、例えば、押出成形やカレンダー成形で得た平板に切削加工や研削加工を施して凹部を形成する方法を採用してもよい。
【0046】
以上説明したように、パーティション1は、凹部が中心に向かって深くなる湾曲面を有していると、エラスティックエッジ効果によって凹部で振動が集約されるため、話し手の声をさらに効率良く聞き手に伝えることができる。このようにパーティション1は、凹部が形成されていることによって音響特性が改善されているため、話し手の声がパーティション1の振動を介して聞き手に伝わりやすい。そのため、パーティション1を挟んだ人同士で快適に会話することができる。
【0047】
なお、本発明のパーティションは、前記したパーティション1には限定されない。
パーティションの設置スペースが大きい場合には、サイズの大きい凹部が1つだけ存在するよりは、適切なサイズの凹部が複数存在する方が話し手の声が聞き手に伝わりやすくなる。例えば、
図4に例示したパーティション2としてもよい。パーティション2では、1つの基板10の同一の表面に2つの凹部20が形成されている。
1つの基板10の同一の表面に形成する凹部20の数は、パーティションの設置スペースに応じて適宜設定すればよい。
【0048】
図5に例示したパーティション3としてもよい。パーティション3では、複数の基板10を嵌め込むことが可能な枠体210と、枠体210の下部を支持する足部材220とを備える支持部材200を用い、凹部20が形成された基板10が上下左右に複数並べて組み合わされている。パーティション2のような同一の表面に複数の凹部20が形成された基板10を複数組み合わせたパーティションとしてもよい。複数の凹部20のサイズは一定でなくてもよく、複数の形状の凹部20を配置することも可能である。
【0049】
組み合わせる基板の数は、パーティションの設置スペースに応じて適宜設定すればよい。
複数の基板を組み合わせたパーティションにおける同一表面の凹部の数は、パーティションの設置スペースに応じて適宜設定すればよい。
【0050】
図6及び
図7に例示したパーティション4であってもよい。
図6及び
図7における
図1及び
図2と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
パーティション4は、基板10の第1面12に凹部20の代わりに凹部20Aが形成され、基板10の第2面14に凹部30の代わりに凹部30Aが形成されている以外は、パーティション1と同様の構成である。
パーティション4の凹部は、その表面の全体が、凹部の開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面になっている。すなわち、基板10の厚さ方向に平行で、かつ凹部の中心を通る平面で基板10を切断した断面において、凹部の表面で構成される線形状は、全体が底側に凸の円弧状になっていることが好ましい。
【0051】
基板に形成する凹部の開口形状は真円には限定されない。
例えば
図8に例示したパーティション5であってもよい。パーティション5では、基板10Aの正面視形状が長方形であり、基板10Aの第1面12に形成された凹部20Bの開口形状が楕円である。
【0052】
開口形状が楕円の凹部20Bの表面20aは、凹部20Bの開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面22を有していることが好ましい。これにより、凹部20Bで振動が集約されるため、話し手の声をさらに効率良く聞き手に伝わる。
【0053】
開口形状が楕円の凹部20Bの表面20aは、開口端から中心に向かうにつれて深くなる湾曲面の内側の中心部に平坦面をさらに有していてもよい。これにより、凹部20Bで振動が集約されるため、話し手の声がさらに効率良く聞き手に伝わる。
凹部20Bが湾曲面の内側に平坦面を有する場合、平坦面の形状は楕円が好ましい。
基板10Aの厚さ、凹部20Bが有し得る平坦面の厚さの好ましい範囲は凹部20の場合の好ましい範囲と同様である。楕円の凹部20Bの寸法は、凹部20で説明した好ましい寸法範囲内に収まる寸法であることが好ましい。
開口形状が楕円の凹部20Bについて説明したことは、基板10Aの第2面に開口形状が楕円の凹部を形成する場合にも該当する。
【0054】
図9及び
図10に例示したパーティション6であってもよい。
図9及び
図10における
図1及び
図2と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
パーティション6は、基板10の第1面12に開口形状が正方形で深さが均一な凹部20Cが形成され、基板10の第2面14に開口形状が正方形で深さが均一な凹部30Cが形成されている以外は、パーティション1と同様の構成である。
【0055】
本発明のパーティションにおいては、基板の厚さ方向の一方の表面のみに凹部が形成されていてもよい。例えば、
図11に例示したパーティション7であってもよい。
図11における
図2と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
パーティション7は、基板10の第1面12のみに凹部20が形成されている。
【0056】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0058】
[材料]
表1及び表2に示す組成となるように各成分を混合し、No.1及びNo.2のPVC系樹脂、No.3~No.13のアロイ樹脂を調製した。また、No.14のPMMA系樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA、商品名「VH-001」、三菱ケミカル社製、重量平均分子量:90,000、数平均分子量:50,000、MFR:2.0g/10min.)、No.15のポリカーボネート(PC)樹脂として商品名「SDポリカ 301-10」(住化スタイロン社製、MFR=10g/min.)を用意した。また、No.16の樹脂No.14のPMMA系樹脂とNo.15のPC樹脂を質量比1:1で混合した混合樹脂を調製した。
【0059】
[表面硬度]
各々の樹脂材料を用い、射出成形法によって、厚さ1.5mm、幅30mm、長さ125mmの矩形の板状の試験片を作製し、JIS K5600-5-4に準拠して鉛筆硬度を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0060】
[燃焼試験]
ASTM D3801に準拠したUL94V 20mm垂直燃焼試験によって燃焼性を判定した。具体的には、各々の樹脂材料で縦125mm×横13mm×厚さ3mmの試験片を成形し、当該試験片をその縦方向が鉛直方向となるようにバーナーの上方に設置し、20mm炎による10秒間の接炎を2回行い、その燃焼挙動によって燃焼性を判定した。結果を表2及び表3に示す。
【0061】
[耐溶剤性]
各々の樹脂材料を用い、射出成形法によって、厚さ1.5mm、幅30mm、長さ125mmの矩形の板状の試験片700を成形して、デシケーター内に1日保存した。
図21に示すように、長径2aが254mm、短径2bが76.2mmの楕円柱が短軸を通る面と長軸を通る面で1/4に切断された形状の治具600を、短軸(b=38.1mm)が鉛直方向、長軸(a=127mm)が水平方向、湾曲面610が上になるように水平面に設置した。
保存後の試験片700の上面における幅方向の中央部に、消毒用エタノール(15℃で76.9~81.4体積%)を含んだ帯状のガーゼ710を試験片700の長さ方向に延びるように設置し、試験片700上のガーゼ710をフィルム720で覆った。この状態の試験片700の長さ方向の第1の縁700aを治具600の湾曲面610の短軸側の縁610aに合わせ、試験片700の下面が治具600の湾曲面610に密着するように試験片700を湾曲させた状態で、23℃、50%RHの条件下で24時間静置する。静置後の試験片700を治具600から取り外し、試験片700に生じたクラックの最も第1の縁700aに近い側の端と第1の縁700aとの長さ方向の距離をd(mm)とし、下記式(1)から臨界歪みε(%)を算出した。成形した試験片3本に対し、上記測定を行い、臨界歪みεの平均値(%)を求めた。なお、厚さ1.5mmでのクラック発生距離dが111mm以上の場合の臨界歪みεは「1.00(%)以上」とした。
【0062】
【0063】
ただし、式(1)中、tは試験片10の厚さ(mm)である。算出した臨界歪みεを基に以下の評価基準に従って耐溶剤性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
<評価基準>
○:εが0.75以上
△:εが0.5以上0.75以下
×:εが0.5以下
【0064】
[全光線透過率]
各々の樹脂材料を用い、射出成形法によって、厚さ1.5mm、幅30mm、長さ125mmの矩形の板状の試験片を作製し、JIS K7361に従って全光線透過率を測定した。
【0065】
【0066】
【0067】
表1及び表2に示すように、No.1、No.2のPVC系樹脂は、難燃性及び耐溶剤性に優れていた。また、表面硬度は、No.14のPMMA系樹脂よりも低かったものの、No.15のPC樹脂よりは高かった。
No.3~No.13のPVC系樹脂とPMMA系樹脂のアロイ樹脂では、PVC系樹脂の比率が高いほど難燃性及び耐溶剤性に優れ、PMMA系樹脂の比率が高いほど表面硬度が高かった。特に、No.5~No.8のアロイ樹脂は優れた難燃性、耐溶剤性及び表面硬度を兼ね備えていた。
【0068】
[例1]
表1におけるNo.7のアロイ樹脂を用い、射出成形により、
図1及び
図2に例示したパーティション1と同様の構成のパーティションを製造した。
基板は縦300mm×横300mm×厚さ4.0mmの正方形の平板とし、両方の表面に開口形状が真円で直径260mmの凹部を形成した。凹部の湾曲面の曲率半径Rは2757.25mm、湾曲面の内側の平坦面の直径は50mm、基板の最薄部(凹部の中心)の厚さは1.0mmとした。
【0069】
[例2]
パーティションの形状を、
図9及び
図10に例示したパーティション6と同様の形状に変更した以外は、例1と同様の方法でパーティションを製造した。
基板は縦300mm×横300mm×厚さ4.0mmの正方形の平板とし、両方の表面に開口形状が縦260mm×横260mmの正方形の凹部を形成した。凹部の深さは2.0mmとした。
【0070】
[例3]
基板の両方の表面に凹部を形成せず、平板のパーティションとした以外は、例1と同様の方法でパーティションを製造した。
【0071】
[評価試験]
1.音圧測定
簡易無響室内において、グラスウール製の50mm厚の板材で作成した箱の上面に、縦300mm×横300mmの正方形の開口を形成し、前記開口に各例で得たパーティションを設置した。箱に設置したパーティションの中央から箱内下方に100mmの位置に、音源として体積流量源を配置した。箱に設置したパーティションの中央から上方に150mmの位置にマイクを配置し、音源からランダム音を発生させて音圧を測定した。また、箱にパーティションを設置しなかった場合についても同様に音圧を測定した。
測定結果を、音源から発生させたランダム音の周波数を横軸、測定された音圧レベルを縦軸として示したグラフを
図12に示す。
【0072】
2.振動測定
「1.音圧測定」と同様にして箱に設置したパーティションの外面の中央に加速度計を配置して振動を測定した。
測定結果を、音源から発生させたランダム音の周波数を横軸、加速度計で測定された振動を縦軸として示したグラフを
図13に示す。
【0073】
図12に示すように、基板の両面に凹部が形成された例1、2のパーティションは、会話の一般的な周波数である250Hz~4kHz程度の音に対し、凹部が形成されていない例3のパーティションに比べて透過音圧が高かった。特に凹部の開口形状が真円である例1のパーティションは透過音圧がより高かった。また、
図13に示すように、基板の両面に凹部が形成された例1、2のパーティションは、凹部が形成されていない例3のパーティションに比べ、パーティションの振動が大きかった。
【0074】
[例4]
パーティションの形状を、
図8に例示したパーティション5と同様の形状に変更した以外は、例1と同様の方法でパーティションを製造した。
基板は縦400mm×横600mm×厚さ4.0mmの長方形の平板とし、両方の表面に開口形状が長径560mm×短径360mmの楕円の凹部を形成した。凹部の短径側の湾曲面の曲率半径Rは8417.65mm、基板の最薄部(凹部の中心)の厚さは1.0mmとし長径側の湾曲面の曲率半径Rはこの形状に合わせた。
【0075】
[例5]
パーティションの形状を、
図4に例示したパーティション2と同様の形状に変更した以外は、例1と同様の方法でパーティションを製造した。
基板は縦400mm×横600mm×厚さ4.0mmの長方形の平板とし、両方の表面に開口形状が直径180mmの真円の凹部を2つずつ形成した。凹部の湾曲面の曲率半径Rは2659.85mm、湾曲面の内側の平坦面の直径は50mm、基板の最薄部(凹部の中心)の厚さは1.0mmとした。
【0076】
[例6]
基板の両方の表面に凹部を形成せず、厚さ3mmの平板のパーティションとした以外は、例1と同様の方法でパーティションを製造した。
【0077】
[評価試験]
3.音圧測定
通常部屋においてパーティションをその下部中央を足部材で一点支持した状態でテーブル上に設置した。テーブル上のパーティションの一方の表面側における、パーティションの横方向の中央から一方の表面側に350mm離れた位置に、テーブルの上面からの高さが150mmとなるようにスピーカを配置した。テーブル上のパーティションの他方の表面側における、パーティションの横方向の中央から他方の表面側に350mm離れた位置に、テーブルの上面からの高さが250mmとなるようにマイクを配置した。
予め録音しておいた「おはようございます」という音源をスピーカから再生し、音圧を測定した。
測定結果を、スピーカからの再生音の周波数を横軸、測定された音圧レベルを縦軸として示したグラフを
図14に示す。
【0078】
4.聴感試験
「3.音圧測定」において設置したマイクから300mm後方に被験者を着座させた状態で、パーティションがある場合とない場合でそれぞれ「おはようございます」という音源をスピーカから3回ずつ再生した。被験者に、パーティションがない場合の聞こえやすさを3点(最高点)とし、1~3点の3段階で聞こえやすさを評価してもらった。被験者は20代男性2名、40代女性1名、50代男性1名、60代男性2名の計6名とした。
各例のパーティションでの評価点とその平均を表3に示す。
【0079】
【0080】
図14に示すように、基板の両面に凹部が形成された例4、5のパーティションは、凹部が形成されていない例3、6のパーティションに比べて透過音圧が高かった。
また、表3に示すように、聴感試験では、開口形状が真円の凹部を2つ形成した例5のパーティションは、開口形状が楕円の凹部を1つ形成した例4のパーティションよりも声が聞こえやすい傾向があった。
【0081】
[評価試験]
5.音圧測定
図15に示すように、隣接した残響室と完全無響室において、残響室と完全無響室とを繋ぐ開口部(縦900mm×横900mmの正方形)の残響室側に試験体500を設置し、完全無響室側の試験体500の中央の高さで試験体500とマイク300の間隔が150mmとなるようにマイク300を設置し、残響室内の試験体500から1.5mm離れた位置にスピーカ400を設置し、ランダムノイズ信号をスピーカ400から発音して音圧を測定した。収録条件は有効周波数20kHz、データライン数16,384、10秒スペクトル加算平均とした。
試験体500として例1~3のパーティションを用いた測定結果を、スピーカからの再生音の周波数を横軸、それぞれの試料のパーティションが無いときに測定された音圧P
0とパーティションがあるときに測定された音圧P
1からその比P
1/P
0を透過音圧比として求め、縦軸として示したグラフを
図16に示す。同様に、試験体500として例3~6のパーティションを用いた測定結果を
図17に示す。
【0082】
図16に示すように、基板の両面に凹部が形成された例1、2のパーティションは、会話の一般的な周波数である250Hz~4kHz程度の音に対し、凹部が形成されていない例3のパーティションに比べて透過音圧比が高かった。
図17に示すように、基板の両面に凹部が形成された例4、5のパーティションは、会話の一般的な周波数である250Hz~4kHz程度の音に対し、凹部が形成されていない例3、6のパーティションに比べて透過音圧比が高かった。また、開口形状が真円の凹部を2つ形成した例5のパーティションは、開口形状が楕円の凹部を1つ形成した例4のパーティションよりも透過音圧比が高かった。
【0083】
[周波数応答特性]
表1のNo.2のPVC系樹脂と、表2のNo.14のPMMA系樹脂及びNo.15のPC樹脂を用い、厚さ3mmの100mm×100mmの矩形平板をそれぞれ射出成形で成形して測定試料800を作製した。
図22に示すように、測定試料800を2本の糸810で吊るして固定しない状態とし、マイクを測定試料800の1辺の中央付近から約30mmの位置に設置した。インパルスハンマーで約20Nの強さで加振し、周波数応答特性(アクセレランス)を評価した。
No.14のPMMA系樹脂及びNo.15のPC樹脂のアクセレランスを
図18、No.2のPVC系樹脂とNo.15のPC樹脂のアクセレランスを
図19、No.2のPVC系樹脂とNo.14のPMMA系樹脂のアクセレランスを
図20に示す。
【0084】
図18に示すように、PC樹脂はアクセレランスが大きいが500~1000Hz、2000~2500Hzの範囲は振動が少なかった。しかし、PCとPMMA系樹脂であるPMMAを併用すると、500~1000Hzの応答特性は補えないものの、2000Hz~2500Hzの応答特性は補えることが分かる。また、
図19に示すように、PCとPVC系樹脂を併用すると、2000Hz~2500Hzの応答特性は補えないものの、500~1000Hzの応答特性は補えることが分かる。
また、
図20に示すように、PVC系樹脂とPMMA系樹脂であるPMMAを併用すると、互いの周波数応答特性を補い合うことで、3000Hzまでのほぼ全域で振動が得られると考えられる。そのため、PVC系樹脂とPMMA系樹脂のアロイ樹脂は、周波数応答特性の観点で特に好ましいと言える。
1~7…パーティション、10,10A…基板、12…第1面、14…第2面、20,20A~20C…凹部、20a…表面、22…湾曲面、24…平坦面、30,30A,30C…凹部、30a…表面、32…湾曲面、34…平坦面、100…足部材、200…支持部材、210…枠体、220…足部材。