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特開2023-141044容器詰め飲料、および容器詰め飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141044
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】容器詰め飲料、および容器詰め飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20230928BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20230928BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20230928BHJP
   C12J 1/08 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
A23L2/38 R
A23L2/56
A23L2/00 D
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
C12G3/06
C12J1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047172
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】末元 雄介
(72)【発明者】
【氏名】武邑 哲彦
【テーマコード(参考)】
4B047
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LF07
4B047LF10
4B047LG05
4B047LP02
4B115MA03
4B117LC03
4B117LK06
4B117LK07
4B117LK08
4B117LL01
4B117LP20
4B128BL21
4B128BL23
(57)【要約】
【課題】酢酸を含む飲食品の酢酸に由来する異臭を低減できる技術を提供する。
【解決手段】本発明の容器詰め飲料は、酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有する、(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有する、容器詰め飲料;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
【請求項2】
さらに、(F)リナロール 0.1~50ppmを含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
コールド用である、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
ブリックス値が20~70である、請求項1乃至3いずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
非アルコール飲料である、請求項1乃至4いずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有する、容器詰め飲食品;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
【請求項7】
酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法であって、
次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有させる工程を含む、容器詰め飲料の酢酸臭低減方法;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
【請求項8】
酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法であって、
次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有させる工程を含む、飲食品の酢酸臭低減方法;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め飲料、および容器詰め飲食品に関する。より詳細には、容器詰め飲料、容器詰め飲食品、容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法、および容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酢酸は、米飯、煮物等のおかず類、調味料や加工食品等幅広く使用されている。一方で、酢酸由来の強い臭いや刺激的な酸臭を低減すべく研究・開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酢酸を含む飲料を飲んだときに感じられる、酢酸由来の刺激を低減する点から、10~1000ppmの酢酸と、1~6000ppbのリナロールを含有する飲料が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、風味に悪影響を及ぼすことなく酢酸含有飲食品の酸味および酸臭をともに抑制する点から、不飽和アルコール類が1-オクテン-3-オールであり、酢酸1部に対して1ppm部~5部となる範囲で含有する酢酸含有飲食品、モノテルペン類またはセスキテルペン類が、リモネン、テルピネン、p-シメン、ムロロールおよびカダレンから選ばれる少なくとも1種であり、酢酸1部に対して1ppm部~10部となる範囲で含有する酢酸含有飲食品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-182871号公報
【特許文献2】特開2019-129806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、酢酸を含む飲食品の酢酸に由来する異臭をより安定的に抑制するため、特許文献1,2には開示されていない新たな香気成分の組み合わせに着目し鋭意検討を行った。その結果、所定量の酢酸を含む飲食品において、特定の香気成分を所定量用いることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の容器詰め飲料、容器詰め飲食品、容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法、および容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法が提供される。
【0008】
[1] 酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有する、容器詰め飲料;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
[2] さらに、(F)リナロール 0.1~50ppmを含む、[1]に記載の飲料。
[3] コールド用である、[1]または[2]に記載の飲料。
[4] ブリックス値が20~70である、[1]乃至[3]いずれか一つに記載の飲料。
[5] 非アルコール飲料である、[1]乃至[4]いずれか一つに記載の飲料。
[6] 酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有する、容器詰め飲食品;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
[7] 酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法であって、
次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有させる工程を含む、容器詰め飲料の酢酸臭低減方法;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
[8] 酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法であって、
次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有させる工程を含む、飲食品の酢酸臭低減方法;
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸を含む飲食品の酢酸に由来する異臭を低減できる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。
【0011】
本実施形態において「酢酸に由来する異臭」とは、酢酸を含有する飲食品の香りを嗅いだ際に感じられる酢酸臭、刺激臭、腐敗臭を意図する。また、刺激臭とは鼻の奥で感じられる痛みに似た刺激的な臭いであり、腐敗臭とは硫黄様に似た不快な臭いである。
【0012】
<容器詰め飲料>
本実施形態の容器詰め飲料(以下、単に「飲料」とも称して説明する)は、酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有する。
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
【0013】
本実施形態の飲料によれば、上記(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上の香気成分を含有することにより、酢酸に由来する異臭を低減することができる。すなわち、(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上の香気成分が酢酸に由来する異臭をマスキングできるとともに、その濃度が制御されることで各香気成分が有する香りが強調されすぎることで生じ得る違和感を抑制できると推測される。
なかでも、飲料は、通常、口に含んだ際の戻り香(レトロネーザル)を感じやすい点、固形状やゲル状の食品等に比してフレーバーリリースが良い点、例えば、広口の容器を使用した場合に、立ち香(オルソネーザル)を嗅ぎ易くなり酢酸臭をより顕著に感じやすい点等の理由から、本実施形態の飲料によれば、酢酸に由来する異臭をより顕著に抑制できる。
【0014】
本実施形態の飲料は、さらに、(F)リナロール 0.1~50ppmを含むことが好ましい。すなわち、(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上と、(F)とを併用することで、より効果的に酢酸に由来する異臭を抑制できるという相乗効果が得られる。
【0015】
本実施形態において、酢酸の含有量は100~50000ppmであり、用途等に応じて適宜設定されるが、濃縮タイプの飲料とする場合等の点からは、好ましくは200ppm以上であり、より好ましくは300ppm以上である。一方、摂取しやすさを保持する点等から、酢酸の含有量は好ましくは40000ppm以下であり、より好ましくは30000ppm以下であり、さらに好ましくは20000ppm以下である。
【0016】
以下、(A)~(F)の詳細について説明する。
【0017】
[(A)γ-デカノラクトン]
γ-デカノラクトンは、CAS No.706-14-9の香気成分であり、一般に甘い芳香を呈することで知られる。
本実施形態の飲料は、γ-デカノラクトン濃度が0.1~50ppmである。
γ-デカノラクトン濃度の下限値は、好ましくは0.2ppm以上である。γ-デカノラクトン濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、γ-デカノラクトン濃度の上限値は、好ましくは30ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。γ-デカノラクトン濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、γ-デカノラクトン(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/A)は、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。
【0018】
[(B)δ-デカノラクトン]
δ-デカノラクトンは、CAS No.705-86-2の香気成分である。
本実施形態の飲料は、δ-デカノラクトン濃度が0.1~50ppmである。
δ-デカノラクトン濃度の下限値は、好ましくは0.2ppm以上である。δ-デカノラクトン濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、δ-デカノラクトン濃度の上限値は、好ましくは30ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。δ-デカノラクトン濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、δ-デカノラクトン(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/B)は、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。
【0019】
[(C)γ-ウンデカノラクトン]
γ-ウンデカノラクトンは、CAS No.104-67-6の香気成分であり、一般に甘い芳香を呈することで知られる。
本実施形態の飲料は、γ-ウンデカノラクトン濃度が0.01~10ppmである。
γ-ウンデカノラクトン濃度の下限値は、好ましくは0.02ppm以上である。γ-ウンデカノラクトン濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、γ-ウンデカノラクトン濃度の上限値は、好ましくは8ppm以下であり、より好ましくは5ppm以下である。γ-ウンデカノラクトン濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、γ-ウンデカノラクトン(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/C)は、5000~10000であることが好ましく、10000~50000であることがより好ましく、12000~35000であることがさらに好ましい。
【0020】
[(D)フルフリルアルコール]
フルフリルアルコールは、CAS No.98-00-0の香気成分である。
本実施形態の飲料は、フルフリルアルコール濃度が0.05~10ppmである。
フルフリルアルコール濃度の下限値は、好ましくは0.1ppm以上である。フルフリルアルコール濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、フルフリルアルコール濃度の上限値は、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは2ppm以下である。フルフリルアルコール濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、フルフリルアルコール(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/D)は、1000~60000であることが好ましく、2000~50000であることがより好ましく、3000~40000であることがさらに好ましい。
【0021】
[(E)ベンジルアルコール]
ベンジルアルコールは、CAS No.100-51-6の香気成分であり、一般にジャスミン等の芳香を呈することで知られる。
本実施形態の飲料は、ベンジルアルコール濃度が0.01~10ppmである。
ベンジルアルコール濃度の下限値は、好ましくは0.1ppm以上である。ベンジルアルコール濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、ベンジルアルコール濃度の上限値は、好ましくは8ppm以下であり、より好ましくは5ppm以下である。ベンジルアルコール濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、ベンジルアルコール(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/E)は、500~10000であることが好ましく、800~6000であることがより好ましく、1000~4000であることがさらに好ましい。
【0022】
[(F)リナロール]
リナロールは、CAS No.78-70-6の香気成分であり、花様の芳香を呈することで知られる。
本実施形態の飲料は、リナロール濃度が0.1~50ppmppmである。
リナロール濃度の下限値は、好ましくは0.2ppm以上である。リナロール濃度を上記下限値以上とすることにより、酢酸に由来する異臭を低減できる。
一方、リナロール濃度の上限値は、好ましくは30ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。リナロール濃度を上記上限値以下とすることにより、飲食品のおいしさを保持できる。
また、リナロール(ppm)に対する酢酸含有量(ppm)(酢酸/F)は、500~10000であることが好ましく、800~6000であることがより好ましく、1000~4000であることがさらに好ましい。
【0023】
以下、本実施形態の飲料に含まれるその他成分について説明する。
【0024】
本実施形態の飲料は、本発明の効果が得られる限りにおいて、上記以外の種々の成分を含んでもよい。例えば、甘味料、酸味料、果汁、香料、pH調整剤、各種栄養成分、着色料、希釈剤、酸化防止剤、および増粘安定剤等を含んでもよい。
【0025】
上記の甘味料としては、例えば、果糖、ショ糖、ブドウ糖、グラニュー糖、乳糖、および麦芽糖等の糖類、キシリトール、およびD-ソルビトール等の低甘味度甘味料、タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、およびサッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記の酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、フィチン酸、アスコルビン酸、リン酸またはそれらの塩類等が挙げられる。
【0027】
上記の果汁としては、例えば、オレンジ果汁、ミカン果汁、マンダリン果汁、グレープフルーツ果汁、レモン果汁、ライム果汁、ブドウ果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、イチゴ果汁、バナナ果汁、およびマンゴー果汁等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
なお、果汁とは、果物・果実を破砕して搾汁したり、あるいは裏ごししたりする等して得られる液体成分をいう。また、果汁には、当該液体成分を濃縮したものや、これらの希釈還元物も含まれてもよく、パルプ分を含むもの、または、ろ過や遠心分離等の処理によりパルプ分を除去したものあってもよい。
また、果汁は、ストレート果汁、濃縮果汁、濃縮還元果汁等いずれであってもよい。
【0028】
以下、本実施形態の飲料の各種物性について説明する。
【0029】
[酸度]
本実施形態の飲料は、クエン酸酸度が0.8~3.0g/100mlであることが好ましく、1.0~2.5g/100ml以下であることがより好ましい。
酸度を、上記数値範囲とすることにより、過度な酸味を抑制し、酢酸由来の異臭を抑制しつつ、飲料としての飲みやすさ、飲食品としてのおいしさを保持できる。
【0030】
クエン酸酸度は、100ml中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100ml)で表すことができる。酸度もまた、JAS規格の酸度測定法で定められた方法、具体的には0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
【0031】
[ブリックス値]
本実施形態の飲料のブリックス値(Bx)は、おいしさが得られる観点から、好ましくは20~70であり、より好ましくは33~65であり、さらに好ましくは50~60である。
特に、当該ブリックス値が比較的大きい濃縮タイプの飲料の場合、飲料中に含まれる酢酸量が多くなる傾向があるが、本実施形態の飲料によれば、酢酸由来の異臭を抑制しつつ、飲料としての飲みやすさ、飲食品としてのおいしさを向上できる。
【0032】
ブリックス値は、たとえば、デジタル屈折計Rx-5000α(アタゴ社製)を用いて、20℃における糖用屈折計の示度を測定することができる。
ブリックス値は、例えば、後述の甘味料の量、その他の各種成分の量等により調整することができる。
【0033】
[pH]
本実施形態の飲料の20℃におけるpHは、2.5~4.2であり、2.8~4.0であることが好ましく、3.0~3.6であることがより好ましい。
当該pHを上記数値範囲内とすることにより、飲料としての飲みやすさ、飲食品としてのおいしさを向上できる。
【0034】
なお、pHの測定は、市販のpH測定器を用いる等して行うことができる。pHの調整は、例えば、特定酸の量を変えることや、クエン酸三ナトリウム等のpH調整剤を用いること等により行うことができる。
【0035】
[飲料の種類]
本実施形態の飲料は、常温または常温以下に冷やした状態で飲用されるコールド用であることが好ましい。すなわち、加熱・加温されずに飲用されることが好ましい。これにより、酢酸由来の異臭をより効果的に低減できる。
【0036】
また、本実施形態の飲料は、濃縮タイプ、ストレートタイプのいずれであってもよいが、嗜好性・用途等に応じて希釈できる濃縮タイプであることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の飲料は、非アルコール飲料であることが好ましい。非アルコール飲料とは、アルコールを実質的に含有しない飲料をいい、具体的にはエタノール等のアルコールの含有量が1.0体積/体積%未満である飲料を意味する。
【0038】
本実施形態の飲料は、炭酸ガスを含有する炭酸飲料としてもよい。
炭酸飲料中の炭酸ガスの圧力は、嗜好性にあわせて適宜調整できるが、例えば、1.0~5.0ガスボリュームであることが好ましく、1.5~3.5ガスボリュームであることがより好ましい。
【0039】
炭酸ガス圧力(ガスボリューム)は、標準状態(1気圧、20℃)において、飲料全体の体積に対して溶けている炭酸ガスの体積の割合を表したものである。
炭酸ガスの圧入方法は、公知の方法を用いることができる。
【0040】
なお、本実施形態の飲料が炭酸ガスを含む場合、そのpH、クエン酸酸度、ブリックス等の諸物性は、炭酸ガスをガス抜きした状態の飲料の物性を表す。
【0041】
[容器]
本実施形態の飲料は、加熱殺菌され、容器に詰められ密閉された状態の容器詰め飲料である。これにより、飲料の製造後、流通し、広く飲用される。
容器としては、飲料を密閉できるものであれば、その材料、形状等は特に限定されないが、例えば、以下のものを用いることができる。
容器を構成する材料としては、ガラス、陶器、紙、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、アルミ、およびスチール等の単体もしくはこれらの複合材料または積層材料等が挙げられる。また、容器の形状としては、たとえば、ボトル、瓶、カップ、袋、ポーション等が挙げられる。また、容器は蓋つきであってもよく、着脱自在または使い切りタイプであってもよく、ねじ式、シール式であってもよく、キャップ状、栓状であってもよい。
具体的には、いわゆるペットボトル、アルミ缶、スチール缶、紙パック、チルドカップ等が挙げられる。
なかでも、飲料を外観から観察し、透明性、色等を確認できる観点から、容器は透明であることが好ましく、具体的にはペットボトルまたは無着色の瓶が好ましい。また、取扱性、流通性、携帯性等の観点から、容器はペットボトルであることが好ましい。
【0042】
飲料の容量としては、特に限定されないが、好ましくは20mL~2000mL、より好ましくは100mL~1500mLであり、さらに好ましくは200mL~1000mlである。また、希釈せずに飲用する場合において、飲み切りやすい点からは、20mL~500mLがより好ましい。
【0043】
容器詰めされた飲料の加熱滅菌処理の方法は、特に限定されないが、日本国内においては食品衛生法の規定に従って、加熱滅菌処理される。加熱殺菌は、例えば、65℃で10分間と同等以上の殺菌価を有する加熱殺菌により行うことができる。加熱殺菌の方法は特に限定されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌等の方法を採用することができる。具体的には、上記のレトルト殺菌法は、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行う方法である。
【0044】
<容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法>
本実施形態の容器詰め飲料の酢酸由来臭の低減方法は、酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲料において、次の(A)~(E)から選ばれる1種または2種以上を含有させる工程を含む。
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm。
これにより、酢酸の含有量が100~50000ppmである容器詰め飲料の酢酸由来の異臭を効果的に抑制できる。
混合方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。なお、飲料に含まれる各成分およびその含有量等は上記飲料と同様である。
【0045】
<容器詰め飲食品>
本実施形態の容器詰め飲食品は、酢酸の含有量が100~50000ppmであり、次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有する。
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
【0046】
本実施形態の飲食品によれば、上記(A)~(F)から選ばれる2種以上の香気成分を含有することにより、酢酸に由来する異臭を低減することができる。すなわち、(A)~(F)から選ばれる2種以上の香気成分を組み合わせることで、飲食品に含まれる酢酸に由来する異臭をマスキングできるとともに、その濃度が制御されることで各香気成分が有する香りが強調されすぎることで生じ得る違和感を抑制できると推測される。
【0047】
なお、本実施形態の飲食品において、酢酸、各香気成分(A)~(F)およびその含有量等は上記飲料と同様である。また、上記飲料で挙げた以外の成分、食品添加物を含んでもよい。
【0048】
また本実施形態の飲食品の酢酸の含有量は100~50000ppmである。本実施形態の飲食品の酢酸の含有量は、飲食品の種類、用途に応じて適宜調整されるが、酢酸の含有量が100~50000ppmの範囲であれば、酢酸に由来する異臭の低減効果が得られる。
【0049】
なかでも、本実施形態の飲食品は、酢酸に由来する異臭を効果的にマスキングする点から、少なくとも(B)を含むことが好ましく、(A)~(F)から選ばれる3種以上の香気成分を用いることがより好ましく、4種以上の香気成分を用いることがさらに好ましく、5種以上の香気成分を用いることがことさらに好ましく、6種すべての香気成分を用いることが一層さらに好ましい。
また、(A)γ-デカノラクトンを含む場合、(A)γ-デカノラクトンの濃度は、(A)~(F)の合計濃度に対して、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がより好ましい。
【0050】
飲食品としては、上記飲料の他、酢酸を含有する米飯類や麺類等の穀類加工品、魚肉野菜を用いた各種惣菜等の加工食品、菓子・デザート類、各種調味料等が挙げられる。
【0051】
飲食品を詰める容器としては、上記飲料で挙げたものと同様である。
【0052】
<容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法>
本実施形態の容器詰め飲食品の酢酸由来臭の低減方法は、酢酸の含有量が100~50000ppmである飲食品において、
次の(A)~(F)から選ばれる2種以上を含有させる工程を含む。
(A)γ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(B)δ-デカノラクトン 0.1~50ppm;
(C)γ-ウンデカノラクトン 0.01~10ppm;
(D)フルフリルアルコール 0.05~10ppm;
(E)ベンジルアルコール 0.01~10ppm;
(F)リナロール 0.1~50ppm。
これにより、酢酸の含有量が100~50000ppmである飲食品の酢酸由来の異臭を効果的に抑制できる。
混合方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。なお、飲食品に含まれる各成分およびその含有量等は上記飲食品と同様である。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(1)飲料中の香気成分の定量
飲料中および香料中の各香気成分の濃度(ppm)について、ゲステル社製MPSを用いるMVM(Multi Volatile Method)法により、GC/MS測定に供し、以下に示す条件で測定を行った。
装置:GC:Agilent Technologies社製 7890B
MS:Agilent Technologies社製 5977B MSD
HS:Gerstel社製MPS
TUBE:Tenax TA、CarbopackB/X
カラム:DB-WAX UI 0.25mm×30m×0.25μm
定量イオン:γ-デカノラクトン m/z=85
δ-デカノラクトン m/z=99
γ-ウンデカノラクトン m/z=85
フルフリルアルコール m/z=98
ベンジルアルコール m/z=108
リナロール m/z=93
温度条件:40℃(2分)→8℃/分→240℃(10分)
キャリアガス流量:He 1ml/分
注入法:スプリットレス
イオン源温度:230℃
【0056】
(2)飲料の物性
・ブリックス:飲料(20℃)について糖用屈折計(ATAGO RX-5000α)を用いて測定した。
・酸度:飲料100ml中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100ml)をJAS規格の酸度測定法で定められた方法に基づき測定し、算出した。
・pH:飲料(20℃)について、pHメータ(HM-30R)を用いて測定した。
【0057】
(3)官能評価
各飲料について訓練した技術者による官能試験を実施した。
具体的には、6名の技術者が各飲料(20℃)の香りを嗅ぎ、酢酸に由来する異臭について「酢酸臭」「刺激臭」「腐敗臭」の観点から以下の評価基準に従い、各コントロール(対照)を4点とした5段階評価を行い、その平均値を算出した。
・評価基準
評点0:異臭を感じない
評点1:異臭を少し感じる
評点2:異臭を感じる
評点3:異臭をやや強く感じる
評点4:異臭をかなり強く感じる
【0058】
(4)ベース液の調製
以下の原料を用いてベース液を調製した。
・砂糖 30質量%
・果糖ブドウ糖液糖 25質量%
・クエン酸 1質量%
・クエン酸三ナトリウム (各表に記載のpHとなるように調整)
・酢酸 (各表に記載の通り)
【0059】
(5)実施例および比較例
[実験1]酢酸濃度500ppm
酢酸500ppmとなるように、上記(4)のベース液と、各香気成分(A)~(F)とを用いて、表1に示す組成および物性となるよう飲料を調製した。得られた飲料について、上記(1)~(3)の測定および官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[実験2]酢酸濃度5000ppm
酢酸5000ppmとなるように、上記(4)のベース液と、各香気成分(A)~(F)とを用いて、表2に示す組成および物性となるよう飲料を調製した。得られた飲料について、上記(1)~(3)の測定および官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
[実験3]酢酸濃度10000ppm
酢酸10000ppmとなるように、上記(4)のベース液と、各香気成分(A)~(F)とを用いて、表3に示す組成および物性となるよう飲料を調製した。得られた飲料について、上記(1)~(3)の測定および官能評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
[実験4]香気成分の相乗効果の検討
酢酸10000ppmとなるように、上記(4)のベース液と、各香気成分(A)~(F)とを用いて、表4に示す組成および物性となるよう飲料を調製した。得られた飲料について、上記(1)~(3)の測定および官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】