(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141058
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20230928BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
B29C55/06
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047189
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】岩本 博之
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AG01
4F210AJ08
4F210AK02
4F210AK04
4F210AR04
4F210AR06
4F210AR09
4F210AR12
4F210AR13
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD36
4F210QD46
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM05
4F210QM11
4F210QM13
(57)【要約】
【課題】フィルムの幅方向の収縮を抑制することができるフィルム延伸装置を提供する。
【解決手段】フィルム延伸装置(100)は、一対のガイドローラ(R1、R2)と、加熱部(H)と、を備え、一対のガイドローラの少なくとも一方は、第1表面粗さである第1部分(R1a、R2a)と、第1部分の幅方向両側に配置された第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分(R1b,R2b)と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、
前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する加熱部と、を備え、
前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、第1表面粗さである第1部分と、前記第1部分の幅方向両側に配置された前記第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分と、を含む、フィルム延伸装置。
【請求項2】
前記第2部分は、前記フィルムが当接する領域の両端に位置する、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの前記幅方向の接触長さは、15mm以上65mm以下である、請求項1または2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分における前記幅方向の長さは、80mm以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項5】
前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの前記搬送方向の接触長さは、110mm以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項6】
前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの接触面積は、1760mm2以上15300mm2以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項7】
前記第2表面粗さは、最大高さが1.6S以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項8】
前記第1表面粗さは、最大高さが0.4S以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項9】
前記一対のガイドローラはそれぞれ、内部に冷媒を通すための冷媒用空間を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項10】
前記フィルムの延伸時に、前記搬送方向の下流側の前記ガイドローラは、上流側の前記ガイドローラに対して、0.1%以上170%以下速い回転速度で回転する、請求項1から9のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項11】
前記加熱部は遠赤外線ヒータである、請求項1から10のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項12】
前記加熱部は、前記搬送方向に対して複数設けられており、
前記搬送方向に対して下流側の前記加熱部の放射面の温度は、前記搬送方向に対して上流側の前記加熱部の放射面の温度に対して、(i)10℃以上20℃以下高い温度、または(ii)10℃以上20℃以下低い温度である請求項1から11のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項13】
前記加熱部は、前記フィルムの幅方向に対して複数設けられている請求項1から12のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項14】
前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面に垂直な方向からの平面視において、前記加熱部の放射面の搬送方向における下流側端部は、前記搬送方向に対して下流側の前記ガイドローラの回転軸から、搬送方向における上流方向に20mm離れた第1位置よりも下流方向に位置する、請求項1から13のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項15】
前記第2部分は、前記ガイドローラの全周に亘って設けられる、請求項1から14のいずれか1項に記載のフィルム延伸装置。
【請求項16】
搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラにより前記フィルムをガイドしつつ、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する工程、を含み、
前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、第1表面粗さである第1部分と、前記第1部分の幅方向両側に配置された前記第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分と、を含む、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、フィルムを斜め延伸する製造方法において、ロールの幅方向に対する位置ごとに、ロール表面の表面粗さを異ならせる技術を開示している。また、特許文献2および3は、フィルムの製造方法において、良品を得るために原反と接触するロールの表面粗さを規定している。特許文献4は、フィルムの製造方法において、ロールに対する原反の接触距離を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-202979号公報
【特許文献2】特開平7-1575号公報
【特許文献3】特開2004-20636号公報
【特許文献4】特開2008-307888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原反として熱可塑性フィルムを用い、フィルムを加熱して、搬送方向に延伸する技術も知られている。このような技術において、フィルムが長さ方向に延伸されるため、フィルムが幅方向に収縮して、それに伴い不具合が発生する怖れがある。
【0005】
本発明の一態様は、フィルムの搬送方向に延伸するフィルム延伸装置において、フィルムの幅方向への収縮を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する加熱部と、を備え、前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、第1表面粗さである第1部分と、前記第1部分の幅方向両側に配置された前記第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分と、を含む。
【0007】
また、前記第2部分は、前記フィルムが当接する領域の両端に位置してもよい。
【0008】
また、前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの前記幅方向の接触長さは、15mm以上65mm以下であってもよい。
【0009】
また、前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分における前記幅方向の長さは、80mm以上であってもよい。
【0010】
また、前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの前記搬送方向の接触長さは、110mm以上であってもよい。
【0011】
また、前記第1部分の幅方向両側のそれぞれにおいて、前記第2部分と前記フィルムとの接触面積は、1760mm2以上15300mm2以下であってもよい。
【0012】
また、前記第2表面粗さは、最大高さが1.6S以上であってもよい。
【0013】
また、前記第1表面粗さは、最大高さが0.4S以下であってもよい。
【0014】
また、前記一対のガイドローラはそれぞれ、内部に冷媒を通すための冷媒用空間を有してもよい。
【0015】
また、前記フィルムの延伸時に、前記搬送方向の下流側の前記ガイドローラは、上流側の前記ガイドローラに対して、0.1%以上170%以下速い回転速度で回転してもよい。
【0016】
また、前記加熱部は遠赤外線ヒータであってもよい。
【0017】
また、前記加熱部は、前記搬送方向に対して複数設けられており、前記搬送方向に対して下流側の前記加熱部の放射面の温度は、前記搬送方向に対して上流側の前記加熱部の放射面の温度に対して、(i)10℃以上20℃以下高い温度、または(ii)10℃以上20℃以下低い温度であってもよい。
【0018】
また、前記加熱部は、前記フィルムの幅方向に対して複数設けられてもよい。
【0019】
また、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面に垂直な方向からの平面視において、前記加熱部の放射面の搬送方向における下流側端部は、前記搬送方向に対して下流側の前記ガイドローラの回転軸から、搬送方向における上流方向に20mm離れた第1位置よりも下流方向に位置してもよい。
【0020】
また、前記第2部分は、前記ガイドローラの全周に亘って設けてもよい。
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の別の態様に係るフィルムの製造方法は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラにより前記フィルムをガイドしつつ、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する工程、を含み、前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、第1表面粗さである第1部分と、前記第1部分の幅方向両側に配置された前記第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分と、を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、フィルムの幅方向の収縮を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す側面図である。
【
図5】本発明の変形例に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施形態1〕
(フィルム延伸装置100の概要)
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す斜視図である。
【0025】
フィルム延伸装置100は、第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2(合わせて、一対のガイドローラRと呼称する)と、加熱部Hと、を備える。フィルムFは、第1ガイドローラR1から第2ガイドローラR2の方向に搬送されている。フィルム延伸装置100は、さらに第1ガイドローラR1の上流側および第2ガイドローラR2の下流側にそれぞれ駆動ローラ(図示省略)を備える。このような離間された駆動ローラの周速差によりフィルムFを搬送方向に延伸する装置である。フィルムFは、例えば熱可塑性フィルムである。フィルムFの幅は、例えば約300mmである。
【0026】
(一対のガイドローラR)
第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムFの搬送方向に離間して配置され、それぞれフィルムFの幅方向に延在する一対のガイドローラRである。フィルムFに加えられる張力は約188N/mである。
【0027】
第1ガイドローラR1は、一対のガイドローラRのうち上流側のガイドローラである。第2ガイドローラR2は、一対のガイドローラRのうち下流側のガイドローラである。第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2はそれぞれ、異なる回転数にて駆動できてもよいし、フィルムFの搬送に合わせて回転してもよい。
【0028】
一対のガイドローラRは、フィルムFの幅方向において、異なる表面粗さを有する複数の区間が設けられている。この詳細は後述する。
【0029】
(加熱部H)
加熱部Hは、一対のガイドローラR間のフィルムFの表面を熱放射により加熱する遠赤外線ヒータである。加熱部Hは、加熱部H側のフィルム面(表面)から40mmの距離に設けることが好ましい。
【0030】
加熱部Hの熱放射によって一対のガイドローラR間のフィルムFは加熱され、フィルムFの表面温度をガラス転移温度より高い温度(例えば、約255~275℃)まで加熱する。これにより、フィルムFを一対のガイドローラRの張力により搬送方向に延伸可能とする。
【0031】
加熱部Hは、搬送方向に対して、複数の遠赤外線ヒータによって構成されている。搬送方向に対して上流側の遠赤外線ヒータを第1加熱部H1と呼称し、下流側の遠赤外線ヒータを第2加熱部H2と呼称する。第1加熱部H1と第2加熱部H2との放射面の温度は異なっていてもよく、第2加熱部H2の放射面の温度が第1加熱部H1の放射面の温度よりも10℃以上20℃以下高い温度が好ましい。この対応により、延伸ムラを抑制することができる。
【0032】
また、加熱部Hは2段構成とは限らず、3段以上の構成であっても構わない。多段階で加熱を行うことで、搬送速度を上げた場合の熱量不足を補うことができる。
【0033】
フィルムFによっては、急激な温度低下が加わると延伸ムラが発生することがある。このような場合、上流側の加熱部Hの温度よりも下流側の加熱部Hの温度を低く設定する(例えば、第2加熱部H2の放射面の温度が第1加熱部H1の放射面の温度よりも10℃以上20℃以下低い温度)ことで、急激な温度低下を抑制し、延伸ムラを抑えることができる。
【0034】
すなわち、加熱部Hを多段階にすることによって、高速での搬送、または延伸ムラの抑制などの効果が得られる。
【0035】
第1加熱部H1および第2加熱部H2は、それぞれフィルムFの幅方向に対して、複数の遠赤外線ヒータで構成されていてもよい。これは、遠赤外線ヒータ一つでは、フィルムFの幅方向全域を加熱することができないためである。また、フィルムFの幅方向における遠赤外性ヒータの温度設定に勾配をつけること(例えば、フィルムFの中央の温度設定を低めにする等)によって、延伸ムラを抑制することができる。
【0036】
(反射板)
フィルム延伸装置100は、さらにフィルムFを挟んで、加熱部Hに対して反対側に反射板(図示省略)を備えていてもよい。反射板は、フィルムFが透過した加熱部Hによる熱放射を反射し、加熱部H側のフィルム面(表面)に加え、加熱部Hの反対側のフィルム面(裏面)を加熱するための反射板である。反射板はアルミの平板であってもよく、フィルムの裏面から20mmの距離に設けることが好ましい。
【0037】
(フィルム延伸装置100の幾何配置)
図2は、本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す平面図である。
図2は、フィルムFの表面に対し垂直に平面視した図である。
【0038】
図2に示すように、フィルムFの幅はW1である。また、一対のガイドローラRのそれぞれの長さはW2であり、直径はD1である。例えば、W1が300mm、W2が400mm、D1がφ150mmである。
【0039】
一対のガイドローラRの中央にフィルムFは抱かれており、フィルムFとガイドローラRとの接触に伴う摩擦力によって、フィルムFは搬送されていく。
【0040】
第1ガイドローラR1は、フィルムFの幅方向の中央に、第1表面粗さである第1部分R1aと、第1表面粗さよりも大きい第2表面粗さである第2部分R1bと、を含んでいる。また、第1ガイドローラR1は、第2部分R1bの両端のうち、第1部分R1aではない部分として第3部分R1cをさらに含んでいる。
【0041】
同様に、第2ガイドローラR2は、第1表面粗さを有する第1部分R2aと、第1部分の両端に位置する第2表面粗さを有する第2部分R2bと、第2部分R2bの両端に位置する第3部分R2cと、を含んでいる。
【0042】
第1部分R1a、R2aおよび第2部分R1b、R2bは、それぞれガイドローラRの全周に亘って設けられる。また、第1部分R1a、R2aおよび第2部分R1b、R2bは、一対のガイドローラRの少なくとも一方に設けられればよい。
【0043】
第2部分R1b、R2bは、フィルムFが当接する領域の両端に位置する。また、第2表面粗さは、最大高さ(JIS B 0601 1994)1.6S以上である。これにより、第2部分R1b、R2bにおいて、フィルムFの裏面との間に大きな摩擦力を生じることができ、フィルムFの両端を十分な摩擦力でもってグリップすることができ、フィルムFの幅方向の収縮を防ぐことができる。
【0044】
また、第1表面粗さは、最大高さ0.4S以下である。これにより、第1部分R1a、R2aと接するフィルムFの裏面における傷を防ぎ、良品を得ることができ、歩留まりが向上する。
【0045】
第2部分R1b、R2bのフィルムFに対する幅方向の長さはW3である。例えば、W3は80mmである。また、第1部分R1a、R2aの幅方向両側のそれぞれにおいて、第2部分R1b、R2bのうち、フィルムFと接触する幅方向の長さをW4とすると、W4は15mm以上65mm以下、特に40mmであることが好ましい。W4の値が許容する範囲を有するのは、搬送中に蛇行することがあるためである。
【0046】
これにより、第2部分R1b、R2bとフィルムFとが当接する領域の必要な大きさが明確になり、ガイドローラR1、R2は、十分な摩擦力を生じることができるようになる。そのため、ガイドローラR1、R2はフィルムFを安定してグリップすることができる。
【0047】
次にフィルムFの搬送方向に関する幾何配置に関して説明する。一対のガイドローラRのピッチはL1である。例えば、L1は260mmである。また、加熱部Hの遠赤外線ヒータの照射領域は、120mm×120mm(搬送方向の長さL2)の矩形である。
【0048】
フィルムFの表面に垂直な方向からの平面視において、第1加熱部H1の遠赤外線ヒータの搬送方向に対する上流側端部は、第1ガイドローラR1の回転軸からL3の距離に収まっている。例えば、L3は20mmである。また、同様に、フィルムFの表面に垂直な方向からの平面視において、第2加熱部H2の遠赤外線ヒータの搬送方向に対する下流側端部は、第2ガイドローラR2の回転軸からL4の距離に収まっている。例えば、L4は20mmである。これにより、第2ガイドローラR2のグリップ力がフィルムFに働き始める位置までの、フィルムFが加熱部Hに加熱されない領域を短くすることができる。したがって、フィルムFの幅方向の収縮を抑制することができる。ここで、第1加熱部H1の上流側端部は、第1ガイドローラR1の回転軸から上流側にも下流側にもあってもよい。同様に、第2加熱部H2の下流側端部は、第2ガイドローラR2の回転軸から上流側にも下流側にもあってもよい。
【0049】
図3は、本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す側面図である。フィルム延伸装置100では、第1ガイドローラR1に対して下側からフィルムFを搬入し、加熱部Hでもって加熱しつつ延伸した後、第2ガイドローラR2によって、下側にフィルムFを搬出する。第1ガイドローラR1へ搬入する区間のフィルムFと、加熱部Hで加熱する区間のフィルムFと、は互いに直交し、また加熱部Hで加熱する区間のフィルムFと、第2ガイドローラR2から搬出する区間のフィルムFと、は互いに直交している。これは、加熱部Hの熱放射される領域から出たフィルムFが少しでも早く加熱部Hから距離をとることで、フィルムFに対する加熱部Hによる影響を加熱部Hで加熱する区間のみに限定するためである。そのため、他の区間では、加熱延伸されることが防げ、意図しない箇所における幅方向の収縮を抑えることができる。
【0050】
第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2はそれぞれ、90度の区間において、フィルムFを抱いている。そのため、この接触長さである区間L5は、L5=D1*π/4≒118mmである。ここで、第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2のそれぞれの抱き角を90度としたが、これに限定されず、任意の角度であってもよい。ただし、十分な摩擦力を確保するために、第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2が搬送方向におけるフィルムFとの接触長さを110mm以上とすることが好ましい。
【0051】
(ガイドローラRの内部構造)
図4は、ガイドローラRの内部構造を示す図である。上述の構成により、ガイドローラRは加熱部Hの熱放射に晒されてしまう可能性がある。そのため、ガイドローラRの表面温度に分布ができてしまい、フィルムFが均一に延伸されなくなる可能性がある。そのため、ガイドローラRのフィルムFとの接触面の表面温度を均一にするため、ガイドローラRは以下のような内部構造を有してもよい。
【0052】
ガイドローラRは、ローラ表層部11およびローラ軸部12を備える。ガイドローラRの内部には軸方向に延びた冷媒用空間13が形成されている。ガイドローラRの軸方向の両端部には、それぞれ冷媒(または熱媒)の入口14および出口15が形成されている。また、冷媒用空間13には、軸方向に沿ったらせん状の経路を規定する仕切り部材が設けられている。これにより、入口14から流入される冷媒(または熱媒)は、(
図4の矢印で示すように)冷媒用空間13を軸周りに旋回して通過し、出口15へ流出する。そのため、冷媒用空間13に冷媒を通すことにより、ガイドローラRの表面温度を均一に保つことができる。したがって、ガイドローラRがヒータ4の熱放射に晒されてしまう場合であっても、上述のジャケット構造によりガイドローラRのフィルムFとの接触面の表面温度を均一に保つことで、フィルムFを均一に延伸することができる。
【0053】
なお、冷媒(または熱媒)としては例えば冷却水、あるいは油等が挙げられるが、これに限定されない。冷媒は、少なくともガイドローラRの表面温度を、ガラス転移温度より低く制御できればよい。また、
図4では、冷媒をワンパスで流す構造を示しているが、これに限定されない。
【0054】
(ガイドローラRの回転速度)
駆動ローラによってフィルムFは搬送されるが、フィルムFと一対のガイドローラRとが摩擦接触していることから、一対のガイドローラRもそれぞれ回転することになる。第2ガイドローラR2の外周における回転した長さは、フィルムFが延伸して伸びた長さ分だけ、第1ガイドローラR1の外周における回転した長さより長くなる。つまり、第2ガイドローラR2の回転速度は、第1ガイドローラR1の回転速度よりも早くなる。例えば、第2ガイドローラR2の回転速度は、第1ガイドローラR1の回転速度に対して0.1%以上170%以下速い回転速度であってもよい。
【0055】
(変形例1)
なお、一対のガイドローラRは、第3部分R1c、R2cを有さなくてもよい。具体的には、
図5に示す、第3ガイドローラR3および第4ガイドローラR4のように、第2部分R1b、R2bがガイドローラ端部まで形成されていてもよい。この場合、ガイドローラの加工が容易になる利点がある。
【0056】
(変形例2)
第2部分R1b、R2bがフィルムFと接触するフィルムFの幅方向の長さW4を15mm以上65mm以下、または搬送方向の接触長さを110mm以上とすることが好ましいが、これに限定されない。例えば、第1部分R1a、R2aの幅方向両側のそれぞれにおいて、第2部分R1b、R2bとフィルムFとの接触面積を1760mm2以上15300mm2以下としてもよい。これにより。第2表面粗さを有する接触面積を十分確保することによって、グリップ力を担保することができる。
【0057】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
100、101 フィルム延伸装置
F フィルム
H 加熱部
H1 第1加熱部
H2 第2加熱部
R ガイドローラ
R1 第1ガイドローラ
R2 第2ガイドローラ
R3 第3ガイドローラ
R4 第4ガイドローラ
R1a、R2a 第1部分
R1b、R2b 第2部分
R1c、R2c 第3部分