(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141101
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ジャンクションバリアショットキーダイオード
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20230928BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230928BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/91 H
H01L29/91 F
H01L29/91 K
H01L29/48 D
H01L29/48 M
H01L29/91 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047239
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】有馬 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤田 実
(72)【発明者】
【氏名】川崎 克己
(72)【発明者】
【氏名】平林 潤
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104AA02
4M104AA03
4M104AA04
4M104AA05
4M104AA07
4M104BB02
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB06
4M104BB07
4M104BB09
4M104BB14
4M104BB16
4M104CC01
4M104CC03
4M104DD96
4M104FF03
4M104FF13
4M104GG02
4M104GG03
4M104HH15
4M104HH17
(57)【要約】
【課題】酸化ガリウムを用いたジャンクションバリアショットキーダイオードのオン抵抗を低減する。
【解決手段】ジャンクションバリアショットキーダイオード1は、酸化ガリウムからなる半導体基板20及びドリフト層30と、ドリフト層30と接するアノード電極40及びp型半導体層60と、アノード電極40及びドリフト層30と接するn型半導体層70と、n型半導体層70とp型半導体層60の間に設けられた金属層80と、半導体基板20と接するカソード電極50とを備える。これにより、n型半導体層70が電流パスとして機能することから、pn接合部分に順方向電流が流れるまでの間のオン抵抗が低減される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウムからなる半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた酸化ガリウムからなるドリフト層と、
前記ドリフト層と接するアノード電極及びp型半導体層と、
前記アノード電極及び前記ドリフト層と接するn型半導体層と、
前記n型半導体層と前記p型半導体層の間に設けられた金属層と、
前記半導体基板と接するカソード電極とを備えることを特徴とするジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項2】
前記金属層は、前記n型半導体層とオーミック接触する第1の金属層と、前記p型半導体層とオーミック接触する第2の金属層とを含むことを特徴とする請求項1に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項3】
前記p型半導体層と前記金属層は、前記ドリフト層の平坦な表面にこの順に積層されており、
前記n型半導体層は、前記p型半導体層及び金属層からなる積層体の表面を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項4】
前記ドリフト層はトレンチを有し、前記p型半導体層の少なくとも一部が前記トレンチに埋め込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項5】
前記n型半導体層の少なくとも一部が前記トレンチに埋め込まれていることを特徴とする請求項4に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【請求項6】
前記p型半導体層は、前記トレンチの内壁に沿って設けられ、
前記金属層は、前記p型半導体層の内壁と前記n型半導体層の外壁の間に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のジャンクションバリアショットキーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジャンクションバリアショットキーダイオードに関し、特に、酸化ガリウムを用いたジャンクションバリアショットキーダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
ショットキーバリアダイオードは、金属と半導体の接合によって生じるショットキー障壁を利用した整流素子であり、PN接合を有する通常のダイオードに比べて順方向電圧が低く、且つ、スイッチング速度が速いという特徴を有している。このため、ショットキーバリアダイオードはパワーデバイス用のスイッチング素子として利用されることがある。
【0003】
ショットキーバリアダイオードをパワーデバイス用のスイッチング素子として用いる場合、十分な逆方向耐圧を確保する必要があることから、シリコン(Si)の代わりに、よりバンドギャップの大きい炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)などが用いられることがある。中でも、酸化ガリウムは、バンドギャップが4.8~4.9eVと非常に大きく、絶縁破壊電界も約8MV/cmと大きいことから、酸化ガリウムを用いたショットキーバリアダイオードは、パワーデバイス用のスイッチング素子として非常に有望である。酸化ガリウムを用いたショットキーバリアダイオードの例は、特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1には、酸化ガリウム層に設けられた複数のトレンチをp型の半導体材料で埋め込んだ構造を有するジャンクションバリアショットキーダイオードが開示されている。このように、酸化ガリウム層に複数のトレンチを設けるとともに、複数のトレンチをp型の半導体材料で埋め込めば、逆方向電圧が印加されるとトレンチ間に位置するメサ領域が空乏層となるため、ドリフト層のチャネル領域がピンチオフされる。これにより、逆方向電圧が印加された場合のリーク電流を大幅に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたジャンクションバリアショットキーダイオードは、ショットキーバリアダイオードとして機能する領域が少ないことから、ショットキーバリアダイオードがオンした後、pn接合部分に順方向電流が流れるまでの間のオン抵抗が高いという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、酸化ガリウムを用いたジャンクションバリアショットキーダイオードのオン抵抗を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるジャンクションバリアショットキーダイオードは、酸化ガリウムからなる半導体基板と、半導体基板上に設けられた酸化ガリウムからなるドリフト層と、ドリフト層と接するアノード電極及びp型半導体層と、アノード電極及びドリフト層と接するn型半導体層と、n型半導体層とp型半導体層の間に設けられた金属層と、半導体基板と接するカソード電極とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、アノード電極及びドリフト層と接するn型半導体層が設けられていることから、n型半導体層が電流パスとして機能する。これにより、pn接合部分に順方向電流が流れるまでの間のオン抵抗を低減することが可能となる。しかも、アノード電極とp型半導体層が直接接触するのではなく、両者間にn型半導体層と金属層が設けられていることから、p型半導体層を経由する電流パスの抵抗値も低減される。
【0010】
本発明において、金属層は、n型半導体層とオーミック接触する第1の金属層と、p型半導体層とオーミック接触する第2の金属層とを含んでいても構わない。これによれば、金属層とn型半導体層及びp型半導体層との間の抵抗を低減することが可能となる。
【0011】
本発明において、p型半導体層と金属層は、ドリフト層の平坦な表面にこの順に積層されており、n型半導体層は、p型半導体層及び金属層からなる積層体の表面を覆うように設けられていても構わない。これによれば、簡単な製造プロセスにて作製することが可能となる。
【0012】
本発明において、ドリフト層はトレンチを有し、p型半導体層の少なくとも一部がトレンチに埋め込まれていても構わない。これによれば、p型半導体層とドリフト層の接触面積を拡大することが可能となる。この場合、n型半導体層の少なくとも一部がトレンチに埋め込まれていても構わない。これによれば、n型半導体層とドリフト層の接触面積を拡大することが可能となる。さらにこの場合、p型半導体層は、トレンチの内壁に沿って設けられ、金属層は、p型半導体層の内壁とn型半導体層の外壁の間に設けられていても構わない。これによれば、金属層の表面積を拡大することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、酸化ガリウムを用いたジャンクションバリアショットキーダイオードのオン抵抗を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1の構成を示す模式的な平面図である。また、
図1(b)は、
図1(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【
図2】
図2は、ジャンクションバリアショットキーダイオード1のエネルギーバンド図であり、(a)は第1の電流パスP1におけるエネルギーバンドを示し、(b)は第2の電流パスP2におけるエネルギーバンドを示している。
【
図3】
図3は、順方向電圧VFと順方向電流IFの関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。
【
図5】
図5は、第2の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。
【
図6】
図6は、第3の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。
【
図7】
図7(a)は、第4の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。また、
図7(b)は、
図7(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2の構成を示す略断面図である。
【
図9】
図9は、ジャンクションバリアショットキーダイオード2のエネルギーバンド図であり、第1の例における第2の電流パスP2のエネルギーバンドを示している。
【
図10】
図10は、ジャンクションバリアショットキーダイオード2のエネルギーバンド図であり、第2の例における第2の電流パスP2のエネルギーバンドを示している。
【
図11】
図11(a)は、本発明の第3の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード3の構成を示す模式的な平面図である。また、
図11(b)は、
図11(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【
図12】
図12は、第5の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。
【
図13】
図13は、第6の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。
【
図14】
図14(a)は、第7の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。また、
図14(b)は、
図14(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【
図15】
図15は、第8の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な断面図である。
【
図16】
図16は、第9の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な断面図である。
【
図17】
図17は、第10の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な断面図である。
【
図18】
図18は、第11の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な断面図である。
【
図19】
図19(a)は、第12の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な平面図である。また、
図19(b)は、
図19(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【
図20】
図20は、第13の変形例によるジャンクションバリアショットキーダイオードの構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1(a)は、本発明の第1の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1の構成を示す模式的な平面図である。また、
図1(b)は、
図1(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【0017】
図1に示すように、第1の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1は、いずれも酸化ガリウム(β-Ga
2O
3)からなる半導体基板20及びドリフト層30を備える。半導体基板20及びドリフト層30には、n型ドーパントとしてシリコン(Si)又はスズ(Sn)が導入されている。ドーパントの濃度は、ドリフト層30よりも半導体基板20の方が高く、これにより半導体基板20はn
+層、ドリフト層30はn
-層として機能する。半導体基板20の不純物濃度は例えば1×10
18cm
-3程度であり、ドリフト層30の不純物濃度は例えば3×10
16cm
-3程度である。
【0018】
半導体基板20は、融液成長法などを用いて形成されたバルク結晶を切断加工したものであり、その厚みは250μm程度である。半導体基板20の平面サイズについては特に限定されないが、一般的に素子に流す電流量に応じて選択することになり、順方向の最大電流量が20A程度であれば、平面視で2.4mm×2.4mm程度とすればよい。
【0019】
半導体基板20は、実装時において上面側に位置する上面21と、上面21の反対側であって、実装時において下面側に位置する裏面22を有する。上面21の全面にはドリフト層30が形成されている。ドリフト層30は、半導体基板20の上面21に反応性スパッタリング、PLD法、MBE法、MOCVD法、HVPE法などを用いて酸化ガリウムをエピタキシャル成長させた薄膜である。ドリフト層30の膜厚については特に限定されないが、一般的に素子の逆方向耐電圧に応じて選択することになり、600V程度の耐圧を確保するためには、例えば7μm程度とすればよい。
【0020】
ドリフト層30の上面31には、この順に積層されたp型半導体層60及び金属層80と、p型半導体層60と金属層80からなる積層体の表面を覆うn型半導体層70と、n型半導体層70を覆い、ドリフト層30とショットキー接触するアノード電極40とが形成されている。アノード電極40は、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)等の金属からなる。アノード電極40は、異なる金属膜を積層した多層構造、例えば、Pt/Au、Pt/Al、Pd/Au、Pd/Al、Pt/Ti/AuまたはPd/Ti/Auであっても構わない。
【0021】
p型半導体層60と金属層80は、平面視で二重のリング状に形成されており、ドリフト層30の平坦な上面31にp型半導体層60と金属層80がこの順に積層されている。これにより、p型半導体層60はドリフト層30とpn接合する。p型半導体層60の材料としては、Si、GaAs、GaN、SiC、Ge、ZnSe、CdS、InP、SiGe、AlN、BN、AlGaN、NiO、Cu2O、Ir2O3、Ag2Oなどを用いることができる。一例として、p型半導体層60としては不純物濃度が1×1018cm-3程度、厚さが200nm程度であるp型のSiを選択することができる。
【0022】
n型半導体層70はアノード電極40に対してショットキー接触するとともに、アノード電極40とp型半導体層60が直接接する場合に生じる接触抵抗を低減する役割を果たす。また、n型半導体層70はドリフト層30とも直接接している。
図1に示す例では、n型半導体層70は、p型半導体層60の側面と金属層80の上面及び側面と接している。n型半導体層70の材料としては、バンドギャップが小さくpn両方の導電型が得られる半導体材料、例えば、p型半導体層60と同様の材料にn型ドーパントが導入された材料を用いることができる。一例として、n型半導体層70としては、n型のGeや、不純物濃度が1×10
15cm
-3程度、厚さが200nm程度であるn型のSiを選択することができる。
【0023】
金属層80は、p型半導体層60とn型半導体層70の間に設けられ、p型半導体層60とn型半導体層70が直接接触することによる空乏層の形成を防止する役割を果たす。金属層80の材料としては、Al、Pt、Pd等を用いることができる。一例として、n型半導体層70がn型のSiからなり、p型半導体層60がp型のSiからなる場合、金属層80としては、厚さが100nm程度のAlを選択することができる。
【0024】
半導体基板20の裏面22には、半導体基板20とオーミック接触するカソード電極50が設けられる。カソード電極50は、例えばチタン(Ti)等の金属からなる。カソード電極50は、異なる金属膜を積層した多層構造、例えば、Ti/AuまたはTi/Alであっても構わない。
【0025】
本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1に順方向電圧を印加すると、アノード電極40からドリフト層30へ向けて3つの電流パスが形成される。第1の電流パスは、
図1(b)において符号P1で示すように、p型半導体層60及びn型半導体層70を経由することなく、アノード電極40からドリフト層30へ電流が直接流れるパスである。第2の電流パスは、
図1(b)において符号P2で示すように、n型半導体層70、金属層80及びp型半導体層60を経由するパスである。第3の電流パスは、
図1(b)において符号P3で示すように、p型半導体層60を経由することなくn型半導体層70を経由するパスである。
【0026】
図2は、本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1のエネルギーバンド図であり、(a)は第1の電流パスP1におけるエネルギーバンドを示し、(b)は第2の電流パスP2におけるエネルギーバンドを示している。
【0027】
図2(a)に示すように、第1の電流パスP1においては、アノード電極40とドリフト層30がショットキー接触していることから、この部分はショットキーバリアダイオードとして機能する。このため、順方向電圧が低く、且つ、スイッチング速度が速いことから、順方向電圧を印加した場合に最初にオンする。アノード電極40とドリフト層30の間のショットキー障壁の高さはΦ
b1である。ここで、E
Fはフェルミレベル、E
Cは伝導帯下端準位、E
Vは価電子帯上端準位、E
gはエネルギーバンドギャップを意味する。
【0028】
これに対し、
図2(b)に示すように、第2の電流パスP2においては、アノード電極40とドリフト層30の間にn型半導体層70、金属層80及びp型半導体層60が介在する。このため、第1の電流パスP1に電流が流れた後、より高い順方向電圧が印加されると第2の電流パスP2がオンする。これにより、オン抵抗が大幅に低減される。ここで、E
Sは真空準位である。
【0029】
図3は、順方向電圧VFと順方向電流IFの関係を示すグラフであり、符号Aは本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1の特性を示し、符号Bは一般的なショットキーバリアダイオードの特性を示している。
図3に示すように、一般的なショットキーバリアダイオードにおいては、例えば100Aといった突発的な大電流(サージ電流)が流れた場合、約50Vの電圧が発生し、大量の発熱によって焼損する。これに対し、本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1では、100Aのサージ電流が流れた場合であっても、第2の電流パスP2がオンすることから、発生する電圧は約5V程度に抑えられる。
【0030】
しかも、本実施形態においては、アノード電極40とp型半導体層60の間に、n型半導体層70と金属層80がこの順に配置されている。
図2(b)に示すように、アノード電極40とn型半導体層70の真空準位のエネルギー差はΦ
b2、n型半導体層70と金属層80の真空準位のエネルギー差はΦ
b3、金属層80とp型半導体層60の真空準位のエネルギー差はΦ
b4、p型半導体層60の価電子帯上端準位とドリフト層30の価電子帯上端準位のエネルギー差はΔE
Vである。そして、本実施形態においては、p型半導体層60がアノード電極40と直接接触するのではなく、両者間にn型半導体層70及び金属層80が設けられていることから、アノード電極40とp型半導体層60の間の抵抗値が低減される。これにより、n型半導体層70及び金属層80が存在しない場合と比べてサージ耐量が増加する。
【0031】
ここで、n型半導体層70の材料としてn型のSiを用い、金属層80の材料としてAlを用い、p型半導体層60の材料としてp型のSiを用いた場合、エネルギー差Φ
b2は0.9eV程度、エネルギー差Φ
b3は0.1eV程度、エネルギー差Φ
b4は0.8eV程度、エネルギー差ΔE
Vは4.3eV程度となる。したがって、n型半導体層70と金属層80の接触や、金属層80とp型半導体層60の接触は、オーミック接触となる。これに対し、n型半導体層70及び金属層80が設けられておらず、アノード電極40とp型半導体層60との間でオーミック接触を確保することができない場合には、
図3において特性Cで示すように、サージ電流によって比較的大きな電圧が発生するおそれがある。
【0032】
さらに、
図1(b)に示すように、本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1においては、第3の電流パスP3も存在する。第3の電流パスP3は、アノード電極40からn型半導体層70を経由してドリフト層30に流れるパスであり、アノード電極40とn型半導体層70がショットキー接触していることから、第1の電流パスP1とほぼ同時にオンする。第3の電流パスP3にはp型半導体層60が含まれていないため、その抵抗値は第1の電流パスP1と同等レベルである。
【0033】
このように、本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1は、アノード電極40とp型半導体層60の間にn型半導体層70及び金属層80が介在していることから、アノード電極40とp型半導体層60の間の抵抗値が低減され、これにより大きなサージ耐量を得ることが可能となる。しかも、本実施形態においては、p型半導体層60を経由しない第3の電流パスP3も形成されることから、オン抵抗をより低減することが可能となる。さらに、p型半導体層60、金属層80及びn型半導体層70をドリフト層30の平坦な上面31に形成していることから、簡単な製造プロセスにて作製することができる。
【0034】
ここで、p型半導体層60の平面的な形状については
図1(a)に示す形状に限定されず、
図4に示す第1の変形例のようにストライプ状であっても構わないし、
図5に示す第2の変形例のようにドット状であっても構わないし、
図6に示す第3の変形例のようにリングとストライプの組み合わせであっても構わない。また、
図7に示す第4の変形例のように、ドリフト層30の上面31にフィールド絶縁膜90を設け、アノード電極40の端部をフィールド絶縁膜90上に配置しても構わない。このようなフィールドプレート構造を採用すれば、ドリフト層30に印加される電界を緩和することが可能となる。
【0035】
<第2の実施形態>
図8は、本発明の第2の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2の構成を示す略断面図である。
【0036】
図8に示すように、第2の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2は、金属層80が第1の金属層81と第2の金属層82からなる点において、第1の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1と相違している。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード1と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
本実施形態においては、n型半導体層70の材料としてSi、SiC、GaN、C、Ge、GaAs、BN、AlNなどを用いることができる。第1の金属層81は、n型半導体層70とオーミック接触する仕事関数の低い材料が選択される。例えば、n型半導体層70がSi又はSiCからなる場合、第1の金属層81の材料としてAlを用いることができ、n型半導体層70がGaNからなる場合、第1の金属層81の材料としてTiを用いることができる。一方、第2の金属層82は、p型半導体層60とオーミック接触する仕事関数の高い材料が選択される。第1の例として、n型半導体層70がn型のSiからなり、p型半導体層60がp型のSiからなる場合、第1の金属層81としては厚さが100nm程度のAlを選択し、第2の金属層82としては厚さが100nm程度のPtを選択することができる。第2の例として、n型半導体層70がn型のSiからなり、p型半導体層60がp型のBNからなる場合、第1の金属層81としてはAlを選択し、第2の金属層82としてはPdを選択することができる。上述した第1及び第2の例ともに、n型半導体層70としては不純物濃度が1×1016cm-3程度、厚さが200nm程度のSiを選択することができる。
【0038】
図9及び
図10は、本実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2のエネルギーバンド図であり、それぞれ上述した第1及び第2の例における第2の電流パスP2のエネルギーバンドを示している。
【0039】
図9に示すように、第1の例においてはエネルギー差Φ
b4が0.3eV程度に低減する。さらに、
図10に示すように、第2の例においてはエネルギー差Φ
b4が0.1eV程度に低減する。第2の例においては、エネルギー差ΔE
Vは2.8eV程度である。このように、金属層80を2層構造とし、第1の金属層81の材料としてn型半導体層70とオーミック接触する材料を選択し、第2の金属層82の材料としてp型半導体層60とオーミック接触する材料を選択すれば、第2の電流パスP2におけるオン抵抗がより一層低減する。
【0040】
<第3の実施形態>
図11(a)は、本発明の第3の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード3の構成を示す模式的な平面図である。また、
図11(b)は、
図11(a)に示すA-A線に沿った略断面図である。
【0041】
図11に示すように、第3の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード3は、ドリフト層30にトレンチ32が設けられており、p型半導体層60及び金属層80がトレンチ32に埋め込まれている点において、第2の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2と相違している。その他の基本的な構成は、第2の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード2と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
トレンチ32は、ドリフト層30の上面31から半導体基板20に達しない深さを有しており、平面視で二重のリング状に形成されている。一例として、トレンチ32の深さは3μm程度、トレンチ32の幅は1.5μm程度とすることができる。トレンチ32の内部には、p型半導体層60及び金属層80が埋め込まれている。n型半導体層70は、トレンチ32の外部であって、第1の金属層81及びドリフト層30と接する位置に設けられている。
【0043】
このように、第3の実施形態によるジャンクションバリアショットキーダイオード3においては、p型半導体層60がドリフト層30に設けられたトレンチ32に埋め込まれていることから、p型半導体層60とドリフト層30の接触面積が増大する。これにより、第2の電流パスP2の抵抗値をより低減することが可能となる。
【0044】
ここで、トレンチ32の平面的な形状については
図11(a)に示す形状に限定されず、
図12に示す第5の変形例のようにストライプ状であっても構わないし、
図13に示す第6の変形例のようにリングとストライプの組み合わせであっても構わない。また、
図14に示す第7の変形例のように、ドリフト層30の上面31にフィールド絶縁膜90を設け、アノード電極40の端部をフィールド絶縁膜90上に配置しても構わない。このようなフィールドプレート構造を採用すれば、ドリフト層30に印加される電界を緩和することが可能となる。
【0045】
さらに、
図15に示す第8の変形例のようにn型半導体層70の一部をトレンチ32に埋め込んでも構わないし、
図16に示す第9の変形例のようにn型半導体層70の全部をトレンチ32に埋め込んでも構わない。このように、n型半導体層70の少なくとも一部をトレンチ32に埋め込めば、n型半導体層70とドリフト層30の接触面積が増大することから、第3の電流パスP3の抵抗値をより低減することが可能となる。また、
図17に示す第10の変形例のように金属層80とドリフト層30の間に絶縁膜91を設けても構わない。
【0046】
さらに、
図18に示す第11の変形例のように、トレンチ32の内壁に沿ってp型半導体層60を設けるとともに、トレンチ32に埋め込まれたn型半導体層70の外壁とp型半導体層60の内壁の間に金属層80を設けても構わない。これによれば、p型半導体層60とドリフト層30の接触面積が増大するとともに、金属層80の表面積が拡大されることから、第2の電流パスP2の抵抗値をよりいっそう低減することが可能となる。
【0047】
さらに、
図19に示す第12の変形例のように、トレンチ32を囲む外周トレンチ33をドリフト層30に設け、アノード電極40と接するp型半導体層60を外周トレンチ33に埋め込んでも構わない。或いは、
図20に示す第13の変形例のように、外周トレンチ33の内壁を絶縁膜92で覆うとともに、アノード電極40を外周トレンチ33に埋め込んでも構わない。このような外周トレンチ33を設ければ、トレンチ32の底部に集中する電界を緩和することが可能となる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1~3 ジャンクションバリアショットキーダイオード
20 半導体基板
21 半導体基板の上面
22 半導体基板の裏面
30 ドリフト層
31 半導体基板の上面
32 トレンチ
33 外周トレンチ
40 アノード電極
50 カソード電極
60 p型半導体層
70 n型半導体層
80 金属層
81 第1の金属層
82 第2の金属層
90 フィールド絶縁膜
91,92 絶縁膜
P1 第1の電流パス
P2 第2の電流パス
P3 第3の電流パス