IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-木造建築物の補強構造 図1
  • 特開-木造建築物の補強構造 図2
  • 特開-木造建築物の補強構造 図3
  • 特開-木造建築物の補強構造 図4
  • 特開-木造建築物の補強構造 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141161
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】木造建築物の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230928BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230928BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230928BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04B1/26 F
E04B1/58 B
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047333
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】川畑 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
(72)【発明者】
【氏名】小野 将臣
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AC13
2E125AC23
2E139AA01
2E139AC23
2E139BA14
2E139BD16
2E139BD22
3J048AA06
3J048AC05
3J048BD08
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】フレーム内での筋交いの有無にかかわらず、フレームの角部に配設でき、フレームの面外方向への変形も好適に防止して高い制震効果を得る。
【解決手段】木造建築物の補強構造は、柱4A,4Bと梁2及び土台3とで構成されるフレーム1内の4つの角部に、直線状の内筒11と、内筒11へ同軸で部分的に外装されて全周に亘って内筒11と重合する直線状の外筒12と、内筒11と外筒12との重合部分で内筒11の外周面及び外筒12の内周面へ全周に亘って略同じ厚みで接着される粘弾性体13とを含む制震ダンパー10が、角部における柱4A,4Bと梁2又は土台3との間へ傾斜状に架設されている。そして、内筒11と外筒12と粘弾性体13とにおける軸方向と直交する横断面の外形は、互いに略相似形で且つ同心であり、フレーム1の厚み方向での外筒12の直線状部分の厚みは、フレーム1の厚みの60%以下となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の柱と、当該柱の上側で水平に配設される上横架材と、前記柱の下側で水平に配設される下横架材とで構成される木造建築物のフレームを補強する構造であって、
前記フレーム内の少なくとも1つの角部に、直線状の芯部材と、前記芯部材へ同軸で部分的に外装されて全周に亘って前記芯部材と重合する直線状の外筒と、前記芯部材と前記外筒との重合部分で前記芯部材の外周面及び前記外筒の内周面へ全周に亘って略同じ厚みで接着される粘弾性体とを含む制震ダンパーが、前記角部における前記柱と前記上横架材又は前記下横架材との間へ傾斜状に架設され、
前記芯部材と前記外筒と前記粘弾性体とにおける軸方向と直交する横断面の外形は、互いに略相似形で且つ同心であり、
前記フレームの厚み方向での前記外筒の直線状部分の厚みは、前記フレームの厚みの60%以下となっていることを特徴とする木造建築物の補強構造。
【請求項2】
前記制震ダンパーは、正面視で前記フレーム内を縦横2等分した1/4の領域内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項3】
前記制震ダンパーの長手方向の両端部は、前記フレーム内の角から前記フレームの辺長さの1/4~1/2の範囲内にそれぞれ固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項4】
前記フレームの内形状は、正面視が縦長の矩形状であり、前記制震ダンパーと前記柱とがなす角度は、前記制震ダンパーと前記上横架材又は前記下横架材とがなす角度よりも小さくなっていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【請求項5】
前記フレームの厚み方向で、前記フレームの一方の端面から、前記外筒の直線状部分における前記フレームの他方の端面側に位置する前記外筒の外面までの寸法は、60mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【請求項6】
前記フレーム内に、1本以上の筋交いが対角線上に架設されて、前記制震ダンパーは正面視で前記筋交いと交差していることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【請求項7】
前記外筒が正面視で前記筋交いと交差していることを特徴とする請求項6に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項8】
前記芯部材と前記外筒と前記粘弾性体とにおける軸方向と直交する横断面は、略矩形状であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、木造建築物に対して制震補強を施すための補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物において、柱と、梁又は土台である上下横架材とからなるフレーム内の角部に、制震ダンパーを組み込んで制震補強を図る構造が知られている。例えば特許文献1には、梁と柱との間に、直線状の筋交い(棒状部材)を固定部材を介して取り付け、フレームの厚み方向で重なる棒状部材と固定部材との間に粘弾性部材を介在させた制震構造の発明が開示されている。特許文献2には、柱に取り付けた中間プレートと、横架材に取り付けた一対のサイドプレートとの間に粘弾性体を介在させた制震装置の発明が記載されている。
特許文献3には、外管と、外管に同軸で遊挿される内管と、両管の重合部間に接着される粘弾性体とからなるダンパー部の両端を、延長木材を介してフレーム内へブレース状に架設した制震ダンパーの発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3215584号公報
【特許文献2】特開2018-21409号公報
【特許文献3】特開2009-203747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明は、フレーム面と平行な棒状部材と固定部材との対向面間に粘弾性体が接着される構造であるため、ダンパーがフレームの面外方向へ変形するおそれがある。特許文献2では、中間プレート及びサイドプレートの端部をL字状に折曲して座屈防止を図っているが、互いに相対移動するプレート間では十分な変形規制は難しい。
そこで、特許文献3のような管構造とすれば、フレームの面外方向への変形に強くなって耐久性が向上する。しかし、管構造とするとフレーム面の厚み方向での寸法が大きくなり、筋交いとの併用ができなくなってしまう。
【0005】
そこで、本開示は、フレーム内での筋交いの有無にかかわらず、制震ダンパーをフレームの角部に配設でき、フレームの面外方向への変形も好適に防止して高い制震効果を得ることができる木造建築物の補強構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、一対の柱と、当該柱の上側で水平に配設される上横架材と、前記柱の下側で水平に配設される下横架材とで構成される木造建築物のフレームを補強する構造であって、
前記フレーム内の少なくとも1つの角部に、直線状の芯部材と、前記芯部材へ同軸で部分的に外装されて全周に亘って前記芯部材と重合する直線状の外筒と、前記芯部材と前記外筒との重合部分で前記芯部材の外周面及び前記外筒の内周面へ全周に亘って略同じ厚みで接着される粘弾性体とを含む制震ダンパーが、前記角部における前記柱と前記上横架材又は前記下横架材との間へ傾斜状に架設され、
前記芯部材と前記外筒と前記粘弾性体とにおける軸方向と直交する横断面の外形は、互いに略相似形で且つ同心であり、
前記フレームの厚み方向での前記外筒の直線状部分の厚みは、前記フレームの厚みの60%以下となっていることを特徴とする。
なお、本開示において、「全周に亘って略同じ厚み」とは、全周に亘って厳密に厚みが同じ場合を含み、多少の誤差を許容する趣旨である。
また、「互いに略相似形」とは、厳密な相似形を含み、多少の相違を許容する趣旨である。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記制震ダンパーは、正面視で前記フレーム内を縦横2等分した1/4の領域内に配置されていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記制震ダンパーの長手方向の両端部は、前記フレーム内の角から前記フレームの辺長さの1/4~1/2の範囲内にそれぞれ固定されていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記フレームの内形状は、正面視が縦長の矩形状であり、前記制震ダンパーと前記柱とがなす角度は、前記制震ダンパーと前記上横架材又は前記下横架材とがなす角度よりも小さくなっていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記フレームの厚み方向で、前記フレームの一方の端面から、前記外筒の直線状部分における前記フレームの他方の端面側に位置する前記外筒の外面までの寸法は、60mm以下であることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記フレーム内に、1本以上の筋交いが対角線上に架設されて、前記制震ダンパーは正面視で前記筋交いと交差していることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記外筒が正面視で前記筋交いと交差していることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記芯部材と前記外筒と前記粘弾性体とにおける軸方向と直交する横断面は、略矩形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、制震ダンパーがフレームの厚み方向で薄くなると共に、粘弾性体が芯部材と外筒との間で全周に亘って接着されて軸方向で短くなる。このため、制震ダンパーが、フレームの厚み方向に加えて自身の軸方向にも短くなってコンパクトとなる。また、制震ダンパーが相似形の芯部材と外筒と粘弾性体との同心での重合によって形成されるため、軸方向以外の変形も効果的に抑制される。よって、フレーム内での筋交いの有無にかかわらず、制震ダンパーをフレームの角部に配設できると共に、制震ダンパーのフレームの面外方向への変形も好適に防止して高い制震効果を得ることができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、制震ダンパーは、正面視でフレーム内を縦横2等分した1/4の領域内に配置されているので、制震ダンパーをフレームの角部へ施工性よく設置可能となる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、制震ダンパーの長手方向の両端部は、フレーム内の角からフレームの辺長さの1/4~1/2の範囲内にそれぞれ固定されているので、制震ダンパーを、上下左右で隣接する制震ダンパーや筋交いと干渉することなく設置可能となる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、制震ダンパーと柱とがなす角度は、制震ダンパーと上下横架材とがなす角度よりも小さくなっているので、制震ダンパーがフレームの内形状に合わせた縦長傾斜姿勢となり、フレームの変位に伴う軸方向力が効率よく入力可能となる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、フレームの厚み方向で、フレームの一方の端面から、外筒の直線状部分におけるフレームの他方の端面側に位置する外筒の外面までの寸法は、60mm以下であるので、一般的に100~120mm程度であるフレームの厚み内で制震ダンパーを筋交いと干渉なく設置可能となる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、フレーム内に、筋交いが対角線上に架設されて、制震ダンパーは正面視で筋交いと非接触で交差しているので、筋交いと併用しても制震ダンパーによる高い制震効果を確保することができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、外筒が正面視で筋交いと交差しているので、フレームの変形時に筋交いが制震ダンパーの伸縮を阻害することがない。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、内筒と外筒と粘弾性体とにおける軸方向と直交する横断面は、略矩形状であるので、制震ダンパーの寸法をフレームの厚み方向で小さくできると共に、正面視の幅も小さくなり、コンパクト化が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】制震補強を施したフレームの正面図である。
図2】制震ダンパーの説明図で、(A)は正面、(B)は底面をそれぞれ示す。
図3図2のA-A線拡大断面図である。
図4】土台における制震ダンパーの取付位置を示す説明図である。
図5】変更例の制震補強を示すフレームの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、木造建築物の一部を構成するフレーム1の一例を示す正面図である。フレーム1は、上横架材である梁2と、下横架材である土台3と、梁2と土台3との間に鉛直方向に架設される左右一対の柱4A,4Bとを備えてなる。フレーム1の内形状は、正面視が縦長の矩形状となっている。フレーム1内には、一対の筋交い5A,5Bが対角線上に架設されている。筋交い5A,5Bは、フレーム1の厚み方向(図1の紙面直交方向)で前後(筋交い5Aが手前、筋交い5Bが奥)にずれて配置されて、フレーム1の中央で交差している。柱4A,4B間の左右中央で梁2と土台3との間には、間柱6が鉛直方向に架設されている。間柱6は、奥側の筋交い5Bよりもフレーム1の厚み方向で奥側に配置され、中央部には切欠7が形成されて、筋交い5Bとの干渉が回避されている。
【0010】
フレーム1内の4つの角部で梁2と柱4A,4Bとの間及び、土台3と柱4A,4Bとの間には、4つの制震ダンパー10(以下、区別する際は、フレーム1内の左上を10A、右上を10B、左下を10C、右下を10Dと表記する。)がそれぞれ架設されている。制震ダンパー10は、図2にも示すように、内筒11と、外筒12と、粘弾性体13(図2に点線で囲まれる斜線部分)とを備えている。
内筒11は、図3に示すように、軸方向と直交する横断面が矩形状となる金属製である。内筒11の軸方向の一端側は、外筒12の軸方向の一端側に挿入されている。内筒11の他端には、内筒11を横断面短手方向で両側から挟む一対の取付金具14,14が固着されている。取付金具14,14は、内筒11からその横断面長手方向に突出しており、突出端部には、内筒11に対して外側へ折曲される一対の内取付片15,15が張り出し形成されている。内取付片15,15は、内筒11の軸方向に対して傾斜している。
【0011】
外筒12は、横断面の外形が内筒11よりも一回り大きい略相似形の矩形状となる金属製で、軸方向の長さは内筒11よりも短くなっている。外筒12は、短辺方向で2分割される一対の割り金具16,16同士を組み合わせて、各割り金具16の長手端縁に設けた一対のフランジ17,17同士をボルト18及びナット19で固定することで形成されている。
外筒12の他端には、横断面の長辺から外側へ折曲される一対の外取付片20,20が張り出し形成されている。外取付片20,20は、外筒12の軸方向に対して傾斜している。この傾斜角度は、内取付片15の傾斜角度よりも大きくなっている。
粘弾性体13は、内筒11と外筒12との重合部分で略同じ厚みで筒状に介在され、内筒11の外周面及び外筒12の内周面へ全周に亘って接着されている。よって、粘弾性体13の横断面の外形も、内筒11及び外筒12と略相似形となっている。
【0012】
フレーム1内の上側左右の角部において、制震ダンパー10A,10Bは、外筒12が上、内筒11が下となる向きで配置されて、外筒12の外取付片20,20が梁2の下面に、内筒11の内取付片15,15が柱4A,4Bの内側側面にそれぞれ釘や木ネジ等の図示しない固定具で固定される。
一方、フレーム1内の下側左右の角部において、制震ダンパー10C,10Dは、外筒12が下、内筒11が上となる向きで配置されて、外筒12の外取付片20,20が土台3の上面に、内筒11の内取付片15,15が柱4A,4Bの内側側面にそれぞれ図示しない固定具で固定される。
【0013】
図4に示すように、各制震ダンパー10は、外筒12の横断面の短辺方向がフレーム1の厚み方向となる向きで配置されている。外筒12は、短辺方向の厚みD1が、土台3の厚み(フレーム1の厚み)Dの60%以下となるように形成されている。ここでは外筒12の一方の外取付片20の外側端縁を土台3の外側端縁に合わせて取り付けても、外筒12のフレーム1内側の外面は、フレーム1の厚み方向の中央付近に位置する。例えばフレーム1の厚みDが105mmであれば、土台3の端面から外筒12の内側の外面までの寸法D2は、60mm以下となる。
よって、フレーム1の厚みD内で外筒12と隣接するスペースSに、例えば厚みが45mmの筋交い5A,5Bを配置すれば、互いに干渉なくフレーム1の厚みD内に納めることができる。
【0014】
但し、フレーム1内の左上側の角部では、筋交い5Bがフレーム1内の奥側に配設されているため、制震ダンパー10Aは、フレーム1内の手前側に配置されて筋交い5Bと非接触で交差している。制震ダンパー10Aの外筒12の下端は、筋交い5Bの手前まで延びてフレーム1の厚み方向で筋交い5Bとオーバーラップしている。右上側の角部では、筋交い5Aがフレーム1内の手前側に配設されているため、制震ダンパー10Bは、フレーム1内の奥側に配置されて筋交い5Aと非接触で交差している。制震ダンパー10Bの外筒12の下端は、筋交い5Aの奥側まで延びてフレーム1の厚み方向で筋交い5Aとオーバーラップしている。
同様に、フレーム1内の左下側の角部では、筋交い5Aがフレーム1内の手前側に配設されているため、制震ダンパー10Cは、フレーム1内の奥側に配置されて筋交い5Aと非接触で交差している。制震ダンパー10Cの外筒12の上端は、筋交い5Aの奥側まで延びてフレーム1の厚み方向で筋交い5Aとオーバーラップしている。右下側の角部では、筋交い5Bがフレーム1内の奥側に配設されているため、制震ダンパー10Dは、フレーム1内の手前側に配置されて筋交い5Bと非接触で交差している。制震ダンパー10Dの外筒12の上端は、筋交い5Bの手前まで延びてフレーム1の厚み方向で筋交い5Bとオーバーラップしている。
【0015】
こうして制震ダンパー10A~10Dは、正面視でフレーム1内を縦横2等分した1/4の領域(図1に一点鎖線で区切られる領域)E内にそれぞれ配設されることになる。このとき梁2の下面に取り付けられる左右の制震ダンパー10A,10Bの各外筒12の端部と、土台3の上面に取り付けられる左右の制震ダンパー10C,10Dの各外筒12の端部とは、それぞれフレーム1内の左右の角からフレーム1の短手方向の辺長さの1/4~1/2の範囲R1内にそれぞれ位置している。また、左右の柱4A,4Bの内側側面に取り付けられる制震ダンパー10A~10Dの各内筒11の端部は、それぞれフレーム1内の上下の角からフレーム1の長手方向の辺長さの1/4~1/2の範囲R2内にそれぞれ位置している。この取付位置の設定により、制震ダンパー10A~10Dは、端部同士が左右及び上下で干渉せず、筋交い5A,5Bとも干渉しないようになっている。
さらに、柱4A,4Bと各制震ダンパー10とのなす角度は、梁2又は土台3と制震ダンパー10とのなす角度よりも小さくなっている。
【0016】
以上の如く構成されたフレーム1において、地震等によって水平方向に加振されて左右へ変形すると、フレーム1内の各角部の制震ダンパー10へ軸方向に圧縮力と引張力とが交互に入力される。すると、内筒11と外筒12との間に接着される粘弾性体13が剪断変形して震動エネルギーを減衰させる。このとき各制震ダンパー10は、内筒11と外筒12とが重合した状態で軸方向に伸縮するため、フレーム1の面外方向への変形が規制される。よって、軸方向の入力に対して効率よく制震性能を発揮することができる。特に各外筒12は、筋交い5A,5Bとフレーム1の厚み方向でオーバーラップしているので、フレーム1の変形時に筋交い5A,5Bと干渉することなく内筒11に対して相対移動できる。また、各制震ダンパー10は、フレーム1の内形状に合わせて縦長傾斜姿勢で角部に配設されているので、変位入力が大きくなっても座屈しにくくなる。
【0017】
このように、上記形態の木造建築物の補強構造は、柱4A,4Bと梁2(上横架材の一例)及び土台3(下横架材の一例)とで構成されるフレーム1内の4つの角部に、直線状の内筒11(芯部材の一例)と、内筒11へ同軸で部分的に外装されて全周に亘って内筒11と重合する直線状の外筒12と、内筒11と外筒12との重合部分で内筒11の外周面及び外筒12の内周面へ全周に亘って略同じ厚みで接着される粘弾性体13とを含む制震ダンパー10が、角部における柱4A,4Bと梁2又は土台3との間へ傾斜状に架設されている。
そして、内筒11と外筒12と粘弾性体13とにおける軸方向と直交する横断面は、互いに略相似形で且つ同心であり、フレーム1の厚み方向での外筒12における外取付片20を除く直線状部分の厚みは、フレーム1の厚みの60%以下となっている。
【0018】
この構成によれば、制震ダンパー10がフレーム1の厚み方向で薄くなると共に、粘弾性体13が内筒11と外筒12との間で全周に亘って接着されて軸方向で短くなる。このため、制震ダンパー10が、フレーム1の厚み方向に加えて自身の軸方向にも短くなってコンパクトとなる。また、制震ダンパー10が略相似形の内筒11と外筒12と粘弾性体13との同心での重合によって形成されるため、軸方向以外の変形も効果的に抑制される。よって、フレーム1内での筋交いの有無にかかわらず、制震ダンパー10をフレーム1の角部に配設できると共に、制震ダンパー10のフレーム1の面外方向への変形も好適に防止して高い制震効果を得ることができる。
【0019】
制震ダンパー10は、正面視でフレーム1内を縦横2等分した1/4の領域E内に配置されている。
よって、制震ダンパー10をフレーム1の角部へ施工性よく設置可能となる。
制震ダンパー10の長手方向の両端部は、フレーム1内の角からフレーム1の辺長さの1/4~1/2の範囲R1,R2内にそれぞれ固定されている。
よって、制震ダンパー10を、上下左右で隣接する制震ダンパー10や筋交い5A,5Bと干渉することなく設置可能となる。
制震ダンパー10と柱4A,4Bとがなす角度は、制震ダンパー10と梁2又土台3とがなす角度よりも小さくなっている。
よって、制震ダンパー10がフレーム1の内形状に合わせた縦長傾斜姿勢となり、フレーム1の変位に伴う軸方向力が効率よく入力可能となる。
【0020】
フレーム1の厚み方向で、フレーム1の一方の端面から、外筒12の直線状部分におけるフレーム1の他方の端面側に位置する外筒12の外面までの寸法D2は、60mm以下である。
よって、一般的に100~120mm程度であるフレーム1の厚みD内で制震ダンパー10を筋交い5A,5Bと干渉なく設置可能となる。
フレーム1内に、筋交い5A,5Bが対角線上に架設されて、制震ダンパー10は正面視で筋交い5A,5Bと非接触で交差している。
よって、筋交い5A,5Bと併用しても制震ダンパー10による高い制震効果を確保することができる。特に、外筒12が正面視で筋交い5A,5Bと交差しているので、フレーム1の変形時に筋交い5A,5Bが制震ダンパー10の伸縮を阻害することがない。
内筒11と外筒12と粘弾性体13とにおける軸方向と直交する横断面は、略矩形状である。
よって、制震ダンパー10の寸法をフレーム1の厚み方向で小さくできると共に、正面視の幅も小さくなり、コンパクト化が容易となる。
【0021】
以下、本開示の変更例を説明する。
上記形態では、柱に内筒を、梁又は土台に外筒を取り付けているが、上下を逆にして、柱に外筒を、梁又は土台に内筒を取り付けてもよい。フレームの厚み方向での筋交いとの前後位置も上記形態と逆であってもよい。
制震ダンパーは、フレーム内の4つの角部全てに設置しなくてもよい。例えば図5に示すように、フレーム1の左側(右側でもよい)のみに上下に制震ダンパー10A及び10Cを設置してもよい。また、制震ダンパーは、フレームの上側又は下側に左右一対のみ設けてもよいし、何れか1つの角部にのみ設けてもよい。このように制震ダンパーをフレーム内の一部の角部に設ける場合は、制震ダンパーは、正面視でフレーム内を縦横2等分した1/4の領域内に設けなくてもよい。
制震ダンパーの長手方向の両端部は、フレーム内の角からフレームの辺長さの1/4~1/2の範囲内になくてもよい。
制震ダンパーは、筋交いとの干渉がなければ外筒が正面視で筋交いと交差しなくてもよい。
制震ダンパーと柱とがなす角度は、制震ダンパーと上下横架材とがなす角度より大きくなっていてもよいし、同じであってもよい。フレームの正面視の内形状に合わせて適宜変更できる。
筋交いも、図5のように一方の対角線上にのみ設けてもよいし、筋交いを省略してもよい。間柱も省略できる。
【0022】
芯部材は、上記形態の内筒のような筒形状に限らない。芯部材は、中実の部材であってもよい。芯部材は、上記形態の外筒のように複数の部材から形成してもよい。
外筒は、上記形態のように一対の割り金具からなる形状に限らない。外筒は、3つ以上の部材から形成してもよいし、単一の筒部材であってもよい。
制震ダンパーの軸方向と交差する横断面形状は、上記形態の矩形状に限らず、楕円形や長円形、多角形等も採用できる。芯部材と外筒と粘弾性体との互いの外形の相似は、厳密な相似形であってもよい。粘弾性体も全周に亘って厳密に厚みが同じであってもよい。
芯部材(上記形態では内筒)の端部に設ける取付金具は、一対の板体に限らず、芯部材を囲む箱形の金具であってもよく、適宜変更可能である。但し、別体の金具を用いず、芯部材にフレームへの取付片を一体に形成してもよい。
外筒においても、上記形態のように一体に取付片を設ける構造に限らず、別体の金具を用いてもよい。
【0023】
フレームの厚み方向で、フレームの一方の端面から制震ダンパーの外筒の外面までの寸法(上記形態のD2)は、60mm以下に限らない。フレームの厚みや筋交いの厚み等によって適宜増減可能である。
フレームは、上下の横架材が共に梁であってもよい。正面視の内形状も縦長の矩形状に限らない。
【符号の説明】
【0024】
1・・フレーム、2・・梁、3・・土台、4A,4B・・柱、5A,5B・・筋交い、、6・・間柱、10(10A~10D)・・制震ダンパー、11・・内筒、12・・外筒、13・・粘弾性体、14・・取付金具、15・・内取付片、20・・外取付片、D・・フレームの厚み、D1・・外筒の短辺方向の厚み、D2・・柱の端面から外筒の内側の外面までの寸法、R1,R2・・制震ダンパーの端部の取付範囲、S・・フレームの厚み内で外筒と隣接するスペース、E・・フレーム内の1/4領域。
図1
図2
図3
図4
図5