(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141203
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】セラミックス体、ハニカム構造体、セラミックス体の製造方法、及びヒーターエレメント
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20230928BHJP
B28B 3/20 20060101ALI20230928BHJP
B28B 3/26 20060101ALI20230928BHJP
H05B 3/14 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C04B35/468
B28B3/20 E
B28B3/20 K
B28B3/26 A
H05B3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047404
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
【テーマコード(参考)】
3K092
4G054
【Fターム(参考)】
3K092PP15
3K092QB05
3K092QB21
3K092QB74
3K092VV40
4G054AA06
4G054AB09
4G054AC00
4G054BD19
(57)【要約】
【課題】室温抵抗率が低く且つ200℃抵抗率が室温抵抗率の500倍以上であるセラミックス体を提供する。
【解決手段】Baの一部が希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするセラミックス体である。このセラミックス体は、Ba6Ti17O40結晶粒子を1.0~8.0質量%含む。また、BaTiO3系結晶粒子は、1モルのBaのうちのアルカリ土類金属元素の置換量が0.01~0.10モルである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Baの一部が希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするセラミックス体であって、
前記セラミックス体は、Ba6Ti17O40結晶粒子を1.0~8.0質量%含み、
前記BaTiO3系結晶粒子は、1モルの前記Baのうちの前記アルカリ土類金属元素の置換量が0.01~0.10モルであるセラミックス体。
【請求項2】
前記BaTiO3系結晶粒子は、1モルの前記Baのうちの前記希土類元素の置換量が0.001~0.010モルである、請求項1に記載のセラミックス体。
【請求項3】
前記BaTiO3系結晶粒子は、(Ba+希土類元素+アルカリ土類金属元素)/Tiのモル比が1.001~1.020である、請求項1又は2に記載のセラミックス体。
【請求項4】
前記希土類元素がLa、前記アルカリ土類金属元素がSr及びCaの少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項5】
前記BaTiO3系結晶粒子の格子体積が63.800~64.360Å3である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項6】
前記BaTiO3系結晶粒子の平均結晶粒径が10~100μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項7】
開気孔率が7.0%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項8】
嵩密度が5.30g/cm3以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項9】
前記セラミックス体は、BaCO3結晶粒子を1.0質量%以下含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項10】
前記セラミックス体は、Pb含有量が0.01質量%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項11】
前記セラミックス体は、アルカリ金属元素の含有量が0.01質量%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項12】
25℃で測定される体積抵抗率が20Ω・cm以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項13】
120℃で測定される体積抵抗率が30Ω・cm~500Ω・cmである、請求項1~12のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項14】
200℃で測定される体積抵抗率が、25℃で測定される体積抵抗率の500倍以上である、請求項1~13のいずれか一項に記載のセラミックス体。
【請求項15】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを含むハニカム構造体であって、
前記外周壁及び前記隔壁が、請求項1~14のいずれか一項に記載のセラミックス体で構成されている、ハニカム構造体。
【請求項16】
前記隔壁の平均厚みが50~130μm、セル密度が15~140セル/cm2である、請求項15に記載のハニカム構造体。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載のセラミックス体の製造方法であって、
BaCO3粉末と、TiO2粉末と、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩及び酢酸塩から選択される少なくとも1つの粉末と、希土類の硝酸塩及び/又は水酸化物の粉末とを含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のセラミックス成形体を作製する成形工程と、
前記セラミックス成形体を1150~1250℃で保持した後、20~500℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~5時間保持する焼成工程と
を含む、セラミックス体の製造方法。
【請求項18】
1150~1250℃での保持時間が0.5~5時間である、請求項17に記載のセラミックス体の製造方法。
【請求項19】
前記焼成工程は、前記1150~1250℃で保持する前に、900~950℃で0.5~5時間保持することを含む、請求項17又は18に記載のセラミックス体の製造方法。
【請求項20】
請求項15又は16に記載のハニカム構造体を備えるヒーターエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス体、ハニカム構造体、セラミックス体の製造方法、及びヒーターエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を示す材料として、BaTiO3で表される組成に様々な添加元素を加えたセラミックス体が提案されている。PTC特性とはキュリー点以上の高温になると急激に抵抗値が増大する特性である。PTC特性を有するセラミックス体はPTCヒーター、PTCスイッチ、過電流保護素子、温度検知器などに用いられており、用途に応じて種々の特性改善が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、BaTiO3に、Y、Ho、Er、Ybを用いること、及び、La、Dy、Eu、GdをY、Ho、Er、Ybと適量複合添加することで、経時変化が小さく、室温抵抗率、抵抗温度係数が共に実用的な値であるPTCサーミスタ用磁器組成物を得られることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、一般式AmBO3で表わされるペロブスカイト型構造を有するBamTiO3系組成物を主成分とし、100モル%のTiのうち、0.05モル%以上0.3モル%以下の範囲で、半導体化剤としてのWが置換されており、主にBaが占めるAサイトと主にTiが占めるBサイトの比であるmが0.99≦m≦1.002であり、Aサイトを構成する元素の総モル数を100モル%としたとき、Caを15モル%以下の範囲で含有しており、抵抗値が25℃での抵抗値の2倍になる温度を2倍点としたときに、2倍点が100℃以上であり、実測焼結密度が理論焼結密度の70%以上90%以下である半導体セラミックが記載されている。当該半導体セラミックは、安定したPTC特性を有し、2倍点が高く、使用温度範囲が広いとされている。
【0005】
特許文献3には、チタン酸バリウム系のPTCサーミスタにおいて、Baの一部を環境負荷の高いPbではなく、所定の範囲でBi及びアルカリ金属A(NaあるいはK)で置換し、なおかつBaサイト/Tiサイトのmol比及びCaの添加量を所定の範囲内にすることにより、大気中あるいは窒素雰囲気中のいずれかの焼成においても容易に半導体化し、常温比抵抗が低く、キュリー点が120℃より高温側にシフトしたPTCサーミスタを得ることができると記載されている。また、当該文献には、このPTCサーミスタは、ヒーター素子として使用しても、経時変化を小さくすることができると記載されている。
【0006】
特許文献4には、立方晶のチタン酸バリウム粉末に代えて、結晶性の高い正方晶のチタン酸バリウム粉末を原料に使用し、かつ、123ケルビンから163ケルビンにおいて、ケルビン温度の逆数に対する粒内抵抗の変化の傾きが、135以上、340以下となるように制御し、焼結後の平均磁器粒径を0.8μm以下とすることで、積層型PTCサーミスタの室温比抵抗を低く、耐電圧性を高くすることができると記載されている。
【0007】
特許文献5には、チタン酸バリウムを主成分とし、希土類元素が添加されることにより構成され、セラミック基体の平均磁器粒径は、0.3[μm]以上、0.5[μm]未満であり、セラミック基体の相対密度の下限値は70[%]であり、セラミック基体の相対密度の上限値は、平均磁器粒径をdとおくと、-6.43d+97.83[%]であるセラミック基体を使用した積層型PTCサーミスタ素子が記載されている。当該積層型PTCサーミスタ素子は、低室温比抵抗及び高耐電圧を両立することができるとされる。
【0008】
特許文献6には、一般式AmBO3で表されるペロブスカイト型構造を有するBaTiO3系組成物を主成分とし、Aサイトを構成するBaの一部が、アルカリ金属元素、Bi、Ca、Sr及び希土類元素で置換されると共に、Aサイトを構成する元素の総モル数を1モルとしたときのCa及びSrの含有量が、Caのモル比をx、Srのモル比をyとした場合に、0.05≦x≦0.20、0.02≦y≦0.12、及び2x+5y≦0.7を満足する、実質的に鉛を含まない非鉛系の半導体セラミックが記載されている。当該半導体セラミックは、長時間通電しても表面変色が生じず、所望のキュリー点を確保しつつ、抵抗値の変化が抑制されるため、信頼性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-79160号公報
【特許文献2】特許第5510455号公報
【特許文献3】特許第5930118号公報
【特許文献4】特開2017-27980号公報
【特許文献5】特許第5970717号公報
【特許文献6】特許第5327553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、PTC特性を有するセラミックス体について、種々の観点から改良がなされてきたものの、未だ開発の余地が残されている。
例えば、ハニカム形状のセラミックス体を暖房用のヒーターエレメントに適用することが検討されている。このヒーターエレメントを低電圧で機能させる場合、室温(25℃)における電気抵抗率(以下、「室温抵抗率」という)を低くすることが要求される。また、ヒーターエレメントでは、一般的にハニカム形状のセラミックス体の端面(セルが延びる方向に垂直な面)に一対の電極が設けられるが、ガスの流路に一対の電極が面しているため、一対の電極の腐食などが生じる恐れがある。そのため、ハニカム形状のセラミックス体の側面(セルが延びる方向に平行な面)に一対の電極を設けることが検討されている。
しかしながら、セラミックス体の側面に一対の電極を設ける場合、セラミックス体の端面に一対の電極を設ける場合に比べて電極間距離が大きくなるため、セラミックス体の室温抵抗率をより一層低くすることが要求される。特に、このような要求は、隔壁の厚さが小さいハニカム形状のセラミックス体の場合に大きい。また、室温抵抗率が低いセラミックス体が異常な温度になったときに電流を安定して遮断するには、200℃における電気抵抗率(以下、「200℃抵抗率」という)が室温抵抗率の500倍以上であることも要求される。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みて創作されたものであり、室温抵抗率が低く且つ200℃抵抗率が室温抵抗率の500倍以上であるセラミックス体、ハニカム構造体、及びセラミックス体の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、そのようなハニカム構造体を備えたヒーターエレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、BaTiO3系結晶粒子を主成分とするセラミックス体について鋭意研究を行った結果、Ba6Ti17O40結晶粒子の含有量、及びBaTiO3系結晶粒子のBaがアルカリ土類金属元素で置換される量が、室温抵抗率及び200℃抵抗率と密接に関係していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、Baの一部が希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするセラミックス体であって、
前記セラミックス体は、Ba6Ti17O40結晶粒子を1.0~8.0質量%含み、
前記BaTiO3系結晶粒子は、1モルの前記Baのうちの前記アルカリ土類金属元素の置換量が0.01~0.10モルであるセラミックス体である。
【0014】
また、本発明は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを含むハニカム構造体であって、
前記外周壁及び前記隔壁が、前記セラミックス体で構成されている、ハニカム構造体である。
【0015】
また、本発明は、前記セラミックス体の製造方法であって、
BaCO3粉末と、TiO2粉末と、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩及び酢酸塩から選択される少なくとも1つの粉末と、希土類の硝酸塩及び/又は水酸化物の粉末とを含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のセラミックス成形体を作製する成形工程と、
前記セラミックス成形体を1150~1250℃で保持した後、20~500℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~5時間保持する焼成工程と
を含む、セラミックス体の製造方法である。
【0016】
さらに、本発明は、前記ハニカム構造体を備えるヒーターエレメントである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、室温抵抗率が低く且つ200℃抵抗率が室温抵抗率の500倍以上であるセラミックス体、ハニカム構造体、及びセラミックス体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、そのようなハニカム構造体を備えたヒーターエレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るセラミックス体の模式的な斜視図である。
【
図2】5個のハニカムセグメントを有するハニカム接合体の中心軸に直交する模式的な断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るヒーターエレメントの模式的な斜視図である。
【
図4】ハニカム構造体のセルが延びる方向に直交する
図3のヒーターエレメントの模式的な断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る別のヒーターエレメントの模式的な端面図である。
【
図6】
図5のヒーターエレメントにおけるa-a’線の模式的な断面図である。
【
図7】ハニカム構造体の第1端面側からみた本発明の実施形態に係るヒーターユニットの模式的な正面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
【
図9】吸着材が設けられたハニカム構造体のセルが延びる方向に直交する模式的な拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る浄化システムの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
<セラミックス体>
(1-1)結晶構造及び組成
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、Baの一部が希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とする。BaTiO3系結晶粒子を主成分とすることにより、通電発熱が可能であり且つPTC特性を有するセラミックス体とすることができる。また、BaTiO3系結晶粒子のBaの一部を希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換することにより、室温抵抗率を低下させつつ、200℃抵抗率を室温抵抗率の500倍以上にすることができる。
ここで、本明細書において「主成分」とは、全成分に占める割合が50質量%以上であることを意味する。
【0021】
BaTiO3系結晶粒子は、1モルのBaのうちのアルカリ土類金属元素の置換量が0.01~0.10モルである。このような範囲にアルカリ土類金属元素の置換量を制御することにより、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に制御することができる。1モルのBaのうちのアルカリ土類金属元素の置換量は、室温抵抗率を安定して低下させる観点から、好ましくは0.08モル以下、より好ましくは0.06モル以下、特に好ましくは0.03モル以下である。
アルカリ土類金属元素としては、特に限定されず、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Baなどが挙げられる。これらの元素の中でもSr及びCaが好ましい。また、これらの元素は、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
BaTiO3系結晶粒子は、1モルのBaのうちの希土類元素の置換量については特に限定されないが、0.001~0.010モルであることが好ましい。このような範囲に希土類元素の置換量を制御することにより、室温抵抗率を所定の範囲に安定して制御することができる。1モルのBaのうちの希土類元素の置換量は、室温抵抗率が高くなり過ぎることを抑制する観点から、好ましくは0.0015以上、より好ましくは0.002以上である。また、1モルのBaのうちの希土類元素の置換量は、焼結不足となって室温抵抗率が高くなりすぎることを抑制する観点から、好ましくは0.009以下、より好ましくは0.008以下である。
希土類元素としては、特に限定されず、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Ybなどが挙げられる。これらの元素の中でもLaが好ましい。また、これらの元素は、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
BaTiO3系結晶粒子は、次の組成式:(Ba1-x-yA1
xA2
y)TiO3で一般的に表すことができる。この組成式中、A1は、一種以上の希土類元素を表し、A2は、一種以上のアルカリ土類金属元素を表し、xは0.001~0.010、yは0.01~0.10であることができる。
【0024】
BaTiO3系結晶粒子は、(Ba+希土類元素+アルカリ土類金属元素)/Tiのモル比が1.001~1.020である。このような範囲に当該モル比を制御することにより、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に安定して制御することができる。このモル比は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0025】
BaTiO3系結晶粒子は、格子体積が、好ましくは63.800~64.360Å3、より好ましくは63.800~64.340Å3、特に好ましくは64.000~64.340Å3である。このような範囲に格子体積を制御することにより、200℃抵抗率を所定の範囲に安定して制御することができる。
このBaTiO3系結晶粒子の格子体積は、X線回折装置を用いて測定することができる。具体的には、X線回折データをリートベルト法によって解析し、得られた格子定数から格子体積を測定することができる。
【0026】
BaTiO3系結晶粒子は、平均結晶粒径が、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~95μmである。このような範囲に平均結晶粒径を制御することにより、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に安定して制御することができる。
このBaTiO3系結晶粒子の平均結晶粒径は、次のようにして測定することができる。セラミックス体から、5mm×5mm×5mmの角状試料を切り出し、樹脂で包埋する。包埋した試料を機械研磨により鏡面研磨してSEM観察する。SEM観察は、例えば日立ハイテクノロジーズ社製の型式S-3400Nを使用し、加速電圧15kV、倍率3000で行う。SEM観察像(縦30μm×横45μm)において、視野の縦方向全体にまたがる太さ0.3μmの直線を10μmの間隔で4本引き、この直線が一部でも通過するBaTiO3系結晶粒子の数を数える。直線の長さをBaTiO3系結晶粒子の数で割ったものの4カ所以上のSEM観察像の平均を平均結晶粒径とする。
【0027】
セラミックス体におけるBaTiO3系結晶粒子の含有量は、主成分となる量であれば特に限定されないが、好ましくは92.0質量%以上、より好ましくは93.0質量%以上、更により好ましくは94.0質量%以上である。なお、BaTiO3系結晶粒子の含有量の上限値は、特に限定されないが、一般的に99.0質量%、好ましくは98.0質量%である。
このBaTiO3系結晶粒子の含有量は、例えば、蛍光X線分析、EDAX(エネルギー分散型X線)分析によって測定することができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0028】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、Ba6Ti17O40結晶粒子を含む。
セラミックス体におけるBa6Ti17O40結晶粒子の含有量は、1.0~8.0質量%、好ましくは1.2~7.5質量%であり、より好ましくは3.0~7.5質量%である。この範囲にBa6Ti17O40結晶粒子の含有量を制御することにより、室温抵抗率を所定の範囲に制御することができる。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、Ba6Ti17O40結晶粒子は、焼成過程で液相化してBaTiO3系結晶粒子の再配列、粒成長及び緻密化を促進させるため、室温抵抗率が低下するものと考えられる。
【0029】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、BaCO3結晶粒子を更に含むことができる。BaCO3結晶粒子は、セラミックス体の原料であるBaCO3粉末に由来する結晶粒子である。
BaCO3結晶粒子は、セラミックス体の室温における電気抵抗にはほとんど影響しないため、セラミックス体に含まれていなくてもよい。ただし、BaCO3結晶粒子のセラミックス体における含有量が多すぎると、室温抵抗率に影響する可能性がある上、他の結晶粒子が少なくなって所望の特性が得られない可能性がある。そのため、BaCO3結晶粒子のセラミックス体における含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。なお、BaCO3結晶粒子の含有量の下限値は、特に限定されず、0質量%となり得るが、例えば0.1質量%又は0.2質量%である。
【0030】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、上記の結晶粒子に加えて、PTC材料に慣用的に添加されている成分を更に含んでいてもよい。このような成分としては、シフター、特性改良剤、金属酸化物及び導電体粉末などの添加剤の他、不可避的不純物が挙げられる。
【0031】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、環境負荷を軽減するという観点から、鉛(Pb)を実質的に含まないことが望ましい。具体的には、本発明の実施形態に係るセラミックス体は、Pb含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。Pb含有量が少ないことで、例えば、セラミックス体をヒーターエレメントに用いたときに、セラミックス体に接触させることで加温した空気をヒトなどの生物に安全に当てることができる。なお、本発明の実施形態に係るセラミックス体において、Pb含有量は、PbOに換算すると、好ましくは0.03質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0質量%である。鉛の含有量は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0032】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、室温抵抗率に影響を与える可能性があるアルカリ金属元素を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、本発明の実施形態に係るセラミックス体は、アルカリ金属元素の含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。このような範囲にアルカリ金属元素の含有量を制御することにより、室温抵抗率を安定して低下させることができる。アルカリ金属元素の含有量は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0033】
(1-2)開気孔率
本発明の実施形態に係るセラミックス体の開気孔率は、室温抵抗率に影響を与える因子である。そのため、本発明の実施形態に係るセラミックス体の開気孔率は、好ましくは7.0%以下、より好ましくは6.5%以下に制御される。このような範囲に開気孔率を制御することにより、セラミックス体を緻密化することができるため、室温抵抗率を安定して低下させることができる。なお、開気孔率の下限値は、特に限定されないが、一般的に0.1%、好ましくは0.5%である。
セラミックス体の開気孔率は、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。開気孔率は、セラミックス体を製造する際に用いる造孔材や焼結助剤の量、焼成雰囲気などの条件を調整することによって制御することができる。
【0034】
(1-3)嵩密度
本発明の実施形態に係るセラミックス体の嵩密度は、室温抵抗率に影響を与える因子である。そのため、本発明の実施形態に係るセラミックス体の嵩密度は、好ましくは5.30g/cm3以上に制御される。このような範囲に嵩密度を制御することにより、室温抵抗率を安定して低下させることができる。なお、嵩密度の上限値は、特に限定されないが、一般的に7.00g/cm3、好ましくは6.00g/cm3である。
セラミックス体の嵩密度は、開気孔率と同様に、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。嵩密度は、セラミックス体を製造する際に用いる分散媒、バインダー、可塑剤、分散剤などの量、焼成雰囲気などの条件を調整することによって制御することができる。
【0035】
(1-4)体積抵抗率
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、25℃で測定される体積抵抗率が、好ましくは20Ω・cm以下、より好ましくは19Ω・cm以下、更に好ましくは18Ω・cm以下である。このような範囲の体積抵抗率であれば、室温抵抗率が低いということができる。そして、室温抵抗率を低くすることで、暖房に必要な発熱性能を確保することができるとともに、消費電力が大きくなるのを抑制することができる。なお、25℃で測定される体積抵抗率の下限値は、特に限定されないが、一般に0.1Ω・cm、好ましくは1.0Ω・cmである。
セラミックス体の体積抵抗率は、次のようにして測定することができる。セラミックス体から、30mm×30mm×15mmの寸法の試験片をランダムに2個以上切削加工し採取する。そして、測定温度における電気抵抗を2端子法にて測定し、試験片の形状から体積抵抗率を算出する。すべての試験片の体積抵抗率の平均値を測定温度における測定値とする。なお、以下の各温度における体積抵抗率も同様にして測定することができる。
【0036】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、120℃で測定される体積抵抗率が、好ましくは30Ω・cm~500Ω・cm、より好ましくは32Ω・cm~400Ω・cmである。このような範囲の体積抵抗率であれば、下記で説明する用途に適したPTC特性を有するということができる。
【0037】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、200℃で測定される体積抵抗率が、25℃で測定される体積抵抗率の500倍以上であることが好ましく、1000倍以上であることがより好ましい。このような200℃で測定される体積抵抗率であれば、下記で説明する用途にセラミックス体を用いた場合に、セラミックス体が異常な温度になったときに電流を安定して遮断することができる。
【0038】
(1-5)用途
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、特に限定されるわけではないが、例えば、PTCヒーター、PTCスイッチ、過電流保護素子、温度検知器に利用可能である。これらの中でも、本発明の実施形態に係るセラミックス体は、暖房用のヒーターエレメントとして、とりわけ車両の車室暖房用のヒーターエレメントとして好適に使用可能である。車両としては、特に限定されるわけではないが、自動車及び電車が挙げられる。自動車としては、特に限定されるわけではないが、ガソリン車、ディーゼル車、燃料電池自動車、電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車が挙げられる。本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、とりわけ電気自動車及び電車のような内燃機関を持たない車両に好適に利用可能である。
【0039】
(1-6)形状
本発明の実施形態に係るセラミックス体の形状は、用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、セラミックス体をヒーターエレメントとして利用することを考える場合、ウォールフロー型又はフロースルー型のハニカム形状を有することができるが、フロースルー型のハニカム形状であることが好ましい。
【0040】
ここで、フロースルー型のハニカム形状を有する本発明の実施形態に係るセラミックス体(以下、「ハニカム構造体」という)の模式的な斜視図を
図1に示す。本発明の実施形態に係るハニカム構造体10は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで流路を形成する複数のセル14を区画形成する隔壁12とを含む。
【0041】
ハニカム構造体10の各端面(第1端面13a及び第2端面13b)の形状は、特に限定されないが、多角形(四角形(長方形、正方形)、五角形、六角形、七角形、八角形など)、円形、オーバル形状、L字状などの任意の形状とすることができる。各端面が多角形の場合、角部は面取りしてもよい。なお、各端面の形状と、セル14が延びる方向に直交する断面の形状とは同一であることが好ましい。
【0042】
セル14が延びる方向に直交する断面におけるセル14の形状に制限はないが、四角形(長方形、正方形)、六角形、八角形、又はこれらの二種以上の組み合わせであることが好ましい。これらの中でも、セル14の形状は正方形及び/又は六角形が好ましい。このような形状のセル14とすることにより、ハニカム構造体10にガスを流したときの圧力損失を小さくすることができる。なお、
図1のハニカム構造体10では、セル14が延びる方向に直交する断面におけるセル14の形状が正方形である場合を示している。
【0043】
隔壁12の平均厚みは、特に限定されないが、好ましくは50~130μm、より好ましくは55~120μm、更に好ましくは60~110μmである。隔壁12の平均厚みを50μm以上とすることにより、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に制御しつつ、ハニカム構造体10の強度を確保することができる。また、隔壁12の平均厚みを130μm以下とすることにより、コンパクトなハニカム構造体10を得ることができる。
ここで、隔壁12の厚みとは、セル14が延びる方向に直交する断面において、隣接するセル14の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁12を横切る長さを指す。隔壁12の平均厚みは、全ての隔壁12の厚みの平均値を指す。
【0044】
セル密度は、特に限定されないが、好ましくは15~140セル/cm2、より好ましくは46~94セル/cm2である。セル密度を15セル/cm2以上とすることにより、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に制御しつつ、加熱に適したハニカム構造体10とすることができる。また、セル密度を140セル/cm2以下とすることにより、通風抵抗を抑えて送風機の出力を抑制することができる。
ここで、セル密度は、ハニカム構造体10の各底面の面積でセル数を除することによって求めることができる。
【0045】
図1に示すハニカム構造体10はヒーターエレメントとして利用可能であり、通電によって発熱可能である。したがって、外気又は車室内空気のようなガスが、第1端面13aから流入してから、複数のセル14を通過し、第2端面13bから流出するまでに、当該ガスは発熱する隔壁12からの伝熱によって加熱することが可能である。
【0046】
本発明の実施形態に係るセラミックス体は、ハニカムセグメントと、複数のハニカムセグメントの間を接合する接合層とを有するハニカム接合体であってもよい。ハニカム接合体を用いることにより、クラックの発生を抑えながらガスの流量確保に重要なセル14の総断面積を増やすことが可能となる。
【0047】
ここで、一例として、5個のハニカムセグメントを有するハニカム接合体の中心軸に直交する模式的な断面図を
図2に示す。
図2に示されるように、ハニカム接合体17は、5個のハニカムセグメント18と、ハニカムセグメント18の間を接合する接合層19とを有する。各ハニカムセグメント18は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで流路を形成する複数のセル14を区画形成する隔壁12とを有する。
【0048】
接合層19は、接合材を用いて形成することができる。接合材としては、特に限定されないが、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いることができる。接合材は、PTC特性を有するセラミックスを含有してもよく、外周壁11及び隔壁12と同一のセラミックスを含有してもよい。接合材は、ハニカムセグメント18同士を接合する役割に加えて、ハニカムセグメント18を接合した後の外周コート材として用いることも可能である。
【0049】
(1-7)製造方法
本発明の実施形態に係るセラミックス体の製造方法は、成形工程及び焼成工程を含む。なお、以下では、ハニカム形状を有するセラミックス体(ハニカム構造体10)を製造する場合を例に挙げて説明する。
成形工程では、BaCO3粉末と、TiO2粉末と、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩及び酢酸塩から選択される少なくとも1つの粉末と、希土類の硝酸塩及び/又は水酸化物の粉末とを含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のセラミックス成形体(以下、「ハニカム成形体」ということもある)を作製する。特に、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩及び酢酸塩から選択される少なくとも1つの粉末及び希土類の硝酸塩及び/又は水酸化物の粉末をセラミックス原料に配合することにより、坏土中のBaCO3粉末の凝集を抑制することができるため、焼成工程において均一な液相形成及び粒成長を促進させることができる。その結果、室温抵抗率及び200℃抵抗率が所定の範囲に制御されたハニカム構造体10を得ることができる。
【0050】
アルカリ土類元素及び希土類元素としては、特に限定されず、上述したものを用いることができる。
セラミックス原料は、所望する組成となるように各粉末を乾式混合することによって得ることができる。
坏土は、セラミックス原料に、分散媒、バインダー、可塑剤及び分散剤を添加して混錬することによって得ることができる。坏土には、シフター、金属酸化物、特性改良剤、導電体粉末などの添加剤を必要に応じて含有させてもよい。
セラミックス原料以外の成分の配合量は、セラミックス成形体の相対密度が60%となるような量であれば特に限定されない。
【0051】
ここで、本明細書において「セラミックス成形体の相対密度」とは、セラミックス原料全体の真密度に対するセラミックス成形体の密度の割合のことを意味する。具体的には、以下の式によって求めることができる。
セラミックス成形体の相対密度(%)=セラミックス成形体の密度(g/cm3)/セラミックス原料全体の真密度(g/cm3)×100
セラミックス成形体の密度は、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。また、セラミックス原料全体の真密度は、各原料の質量を合計した値(g)を、各原料の実の体積を合計した値(cm3)で除することによって求めることができる。
【0052】
分散媒としては、水、又は水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0053】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの有機バインダーを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。バインダーは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよいが、アルカリ金属元素を含有していないことが好ましい。
【0054】
可塑剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリカルボン酸系高分子、アルキルリン酸エステルなどを例示することができる。
【0055】
分散剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどの界面活性剤を用いることができる。分散剤は、一種を単独で使用するものであっても、二種以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0056】
セラミックス成形体は、坏土を押出成形することによって作製することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度などを有する口金を用いることができる。
【0057】
押出成形によって得られるセラミックス成形体の相対密度は、60%以上、好ましくは61%以上である。このような範囲にセラミックス成形体の相対密度を制御することにより、セラミックス体を緻密化し、室温抵抗率及び200℃抵抗率を所定の範囲に制御することが可能となる。なお、セラミックス成形体の相対密度の上限値は、特に限定されないが、一般に80%、好ましくは75%である。
【0058】
セラミックス成形体は、焼成工程の前に乾燥させることができる。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0059】
焼成工程は、1150~1250℃で保持した後、20~500℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~5時間保持することを含む。
ハニカム成形体を1360~1430℃の最高温度で0.5~5時間保持することにより、Baの一部が希土類元素及びアルカリ土類金属元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするセラミックス体(ハニカム構造体10)を得ることができる。
また、1150~1250℃で保持することにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が除去され易くなるため、ハニカム構造体10を緻密化させることができる。
さらに、1150~1250℃から1360~1430℃の最高温度までの昇温速度を20~500℃/時とすることにより、1.0~8.0質量%のBa6Ti17O40結晶粒子をハニカム構造体10に生成させることができる。
【0060】
1150~1250℃での保持時間は、特に限定されないが、好ましくは0.5~5時間である。このような保持時間とすることにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が安定して除去され易くなる。
【0061】
焼成工程は、1150~1250℃で保持する前に、900~950℃で0.5~5時間保持することを含むことが好ましい。900~950℃で0.5~5時間保持することにより、BaCO3が効率良く分解し、所定の組成を有するハニカム構造体10が得られ易くなる。
【0062】
なお、焼成工程の前には、バインダーを除去するための脱脂工程を行ってもよい。脱脂工程の雰囲気は、有機成分を完全に分解するために大気雰囲気とすることが好ましい。
また、焼成工程の雰囲気も、電気特性の制御と製造コストの観点から大気雰囲気とすることが好ましい。
焼成工程や脱脂工程に用いられる焼成炉としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉などを用いることができる。
【0063】
<ヒーターエレメント>
本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、上記のセラミックス体(ハニカム構造体10)を備える。
図3は、本発明の実施形態に係るヒーターエレメントの模式的な斜視図である。また、
図4は、ハニカム構造体のセルが延びる方向に直交する
図3のヒーターエレメントの模式的な断面図である。
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、ハニカム構造体10と、ハニカム構造体10の外周壁11の表面に配設される一対の電極20とを備える。
【0064】
ヒーターエレメント100に用いられるハニカム構造体10は、セル14が延びる方向に直交する断面において、長軸及び短軸を有する形状であることが好ましい。また、一対の電極20は、セル14が延びる方向と平行に延びる帯状に形成されており、且つセル14が延びる方向に直交する断面において、ハニカム構造体10の重心を通る長軸を挟んで対向するように外周壁11の表面に配設されていることが好ましい。さらに、ヒーターエレメント100は、各電極20の端部側に配設され、各電極20と平面で接する板状の外部接続部材30を更に備えることが好ましい。このように電極20及び外部接続部材30を配設することにより、電極20と外部接続部材30とが面接触し、外部からの給電量を高め易くなるため、発熱性能を向上させることができる。
【0065】
図5は、本発明の実施形態に係る別のヒーターエレメントの模式的な端面図(すなわち、ハニカム構造体の第1端面側からみた本発明の実施形態に係る別のヒーターエレメントの模式的な正面図)である。また、
図6は、
図5のヒーターエレメントにおけるa-a’線の模式的な断面図(すなわち、ハニカム構造体のセルが延びる方向に平行な
図5のヒーターエレメントの模式的な断面図)である。
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント200は、ハニカム構造体10と、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bにおける外周壁11及び隔壁12の表面に配設される一対の電極20とを備える。
【0066】
ヒーターエレメント200に用いられるハニカム構造体10は、セル14が延びる方向の長さが短い方が好ましい。このような構造であれば、第1端面13a及び第2端面13bに一対の電極20が配設された構造を有するヒーターエレメント200でも、室温における電気抵抗が低いハニカム構造体10を適用することが可能となる。また、ヒーターエレメント200は、一対の電極20の少なくとも一部に、各電極20と平面で接する板状の外部接続部材30を更に備えることが好ましい。このような外部接続部材30を設けることにより、一対の電極20全体に効率的に通電することが可能となり、発熱性能を向上させることができる。
以下、ヒーターエレメント100,200の各構成部材について詳細に説明する。
【0067】
(2-1)ヒーターエレメント100における一対の電極20
一対の電極20は、ハニカム構造体10の外周壁11の表面に設けることができる。一対の電極20は、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向と平行に延びる帯状に形成される。また、一対の電極20は、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向に直交する断面において、ハニカム構造体10の重心を通る長軸を挟んで対向するように外周壁11の表面に配設される。このように配設される一対の電極20によって電圧を印加することにより、通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能となる。
【0068】
電極20としては、特に限定されないが、例えば、Zn、Cu、Ag、Al、Ni及びSiから選択される少なくとも一種を含有する金属又は合金を使用することができる。また、PTC特性を有する外周壁11及び/又は隔壁12とオーミック接触が可能なオーミック電極層を使用することもできる。オーミック電極層は、例えば、ベース金属としてAl、Au、Ag及びInから選択される少なくとも一種を含有し、ドーパントとしてn型半導体用のNi、Si、Ge、Sn、Se及びTeから選択される少なくとも一種を含有するオーミック電極層を使用することができる。また、電極20は、1層であっても、2層以上であってもよい。電極20が2層以上である場合、それぞれの層の材質は、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0069】
電極20の厚みは、特に限定されず、電極20の形成方法に応じて適宜設定することができる。電極20の形成方法としては、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法が挙げられる。また、電極ペーストを塗布した後、焼き付けることによって電極20を形成することもできる。さらに、電極20は、溶射によって形成することもできる。
電極20の厚みは、電極ペーストの焼付けでは5~30μm程度、スパッタリング及び蒸着のような乾式めっきでは100~1000nm程度、溶射では10~100μm程度、電解析出及び化学析出のような湿式めっきでは5~30μm程度とすることが好ましい。
【0070】
(2-2)ヒーターエレメント200における一対の電極20
一対の電極20は、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bにおける外周壁11及び隔壁12の表面に設けることができる。
一対の電極20は、セル14を塞ぐことなく第1端面13a及び第2端面13bに設けることが好ましく、セル14を塞ぐことなく第1端面13a及び第2端面13bの全体に設けることがより好ましい。
電極20のその他の特徴は、(2-1)と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
(2-3)ヒーターエレメント100における外部接続部材30
外部接続部材30は、板状であり、各電極20の端部側に、各電極20と平面で接するように設けることができる。外部接続部材30は、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向に直交する断面において、ハニカム構造体10の重心を通る長軸と平行に延伸していることが好ましい。このような板状の外部接続部材30を設けることにより、外部から電極20への給電量を高め易くなるため、発熱性能を向上させることができる。
ここで、本明細書において「各電極20の端部側」とは、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向に直交する断面において、ハニカム構造体10の重心を通る長軸方向において、各電極20の端部から各電極20の全体長さの30%までの領域を意味する。
外部接続部材30は、各電極20の端部側に配設されていればよく、各電極20の端部に必ずしも接触していなくてもよい。例えば、外部接続部材30に屈曲部を形成し、屈曲部を各電極20と接続してもよい。
【0072】
外部接続部材30は、外部接続部材30が配設される側の電極20の端部の幅と略同一の幅を有することが好ましい。このような構成とすることにより、電極20と外部接続部材30との接触面積が大きくなるため、発熱性能を向上させる効果が高くなる。
ここで、本明細書において「電極20の端部の幅と略同一の幅」とは、電極20の端部の幅の±20%以内のことを意味する。
【0073】
外部接続部材30のそれぞれは、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向と平行な電極20の一方の端部側に配設されることが好ましい。外部接続部材30が配設される一方の端部側は、ハニカム構造体10のセル14が延びる方向に直交する断面において、同じ側であってもよいし、異なっていてもよい。一方の端部側は、より好ましくは同じ側である。そして、外部接続部材30のそれぞれは、その端部側から外部にむかって同一方向に延伸していることが好ましい。このような構成とすることにより、ハニカム構造体10をヒーターエレメント100に適用した場合に、コンパクト化が可能となる。
【0074】
外部接続部材30の材質としては、特に限定されないが、例えば、金属とすることができる。金属としては、単体金属及び合金などを採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から、例えば、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金、リン青銅がより好ましい。
外部接続部材30の形状及び大きさは、特に限定されず、作製するヒーターユニットの構造に応じて適宜調整すればよい。
【0075】
外部接続部材30と電極20との接続方法は、電気的に接続されていれば特に限定されず、例えば、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などによって接続することができる。
【0076】
(2-4)ヒーターエレメント200における外部接続部材30
外部接続部材30は、板状であり、各電極20と平面で接するように設けることができる。
外部接続部材30は、第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11に設けられた電極20上に配置されていることが好ましい。このような構成とすることにより、電極20全体に効率的に通電させることができる。
外部接続部材30のその他の特徴は、(2-3)と同様であるため、説明を省略する。
【0077】
(2-5)使用方法
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100,200は、車両の車室暖房用のヒーターエレメントとして好適に利用可能である。
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100,200は、外部電源から外部接続部材30及び電極20を介してハニカム構造体10に電圧を印加することで発熱させることができる。印加電圧としては、12~800Vであることが好ましい。具体的には、ヒーターエレメント100では、印加電圧が100~800Vであることが好ましい。また、ヒーターエレメント200では、印加電圧が12~60Vであることが好ましい。この範囲に印加電圧を調整することにより、急速加熱を行いつつ消費電力を抑えることができる。また、低電圧であるため、安全性が高い。さらに、安全仕様が重くならないため、ヒーター周りの機器を低コストで製造可能である。
【0078】
ハニカム構造体10が、電圧の印加によって発熱しているときに、セル14にガスを流すことで、ガスを加熱することができる。セル14に流入するガスの温度としては、例えば-60℃~20℃とすることができ、典型的には-10℃~20℃とすることができる。
【0079】
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、室温における電気抵抗が低い、PTC特性を有するハニカム構造体10を用いているため、低電圧で駆動させることができる。
また、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、PTC素子とアルミニウムフィンとを、絶縁セラミックス板を介して一体化した既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、ヒーターユニットが大型化することを抑制可能である。また、既存のヒーターエレメントは、PTC素子がガスと直接接しないため、ガスの昇温速度(昇温時間)が十分でないが、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、外周壁11及び隔壁12がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体10がガスと直接接するため、ガスの昇温速度を高めることができる。
さらに、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、上記のような電極20及び外部接続部材30を配設することにより、外部から電極20への給電量を高め易くなるため、発熱性能を向上させることができる。
【0080】
<ヒーターユニット>
本発明の実施形態に係るヒーターユニットは、車両の車室暖房用のヒーターユニットとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態に係るヒーターユニットは、室温における電気抵抗が低い、PTC特性を有するセラミックス体(ハニカム構造体10)をヒーターエレメント100,200に用いているため、低電圧で駆動させることができる。特に、ヒーターエレメント100,200を並列に複数配列することにより、低電圧で使用可能な実用的なヒーターユニットとすることができる。また、本発明の実施形態に係るヒーターユニットは、発熱性能が高いヒーターエレメント100,200を用いているため、ヒーターユニットの発熱性能を向上させることができる。さらに、ヒーターエレメント100,200はコンパクト化が可能であるため、ヒーターユニットが大型化することも抑制可能である。
【0081】
図7は、ハニカム構造体の第1端面側からみた本発明の実施形態に係るヒーターユニットの模式的な正面図である。
図7に示されるように、本発明の実施形態に係るヒーターユニット600は、ヒーターエレメント100を2個以上含む。また、このヒーターユニット600では、第1端面13a及び第2端面13bの長辺を含む、ハニカム構造体10の外周壁11の表面同士が対向するようにヒーターエレメント100が積層配列されている。このような構成とすることにより、コンパクトなヒーターユニット600を作製することができる。
【0082】
本発明の実施形態に係るヒーターユニット600は、筐体(ハウジング部材)610を更に備えることができる。
筐体610の材質としては、特に限定されず、金属、樹脂などが挙げられる。その中でも筐体610の材質は樹脂であることが好ましい。樹脂製の筐体610とすることにより、接地しなくても感電を抑制することができる。
筐体610の形状及びサイズとしては、特に限定されず、既存のヒーターユニットと同様にすることができる。
【0083】
本発明の実施形態に係るヒーターユニット600は、積層配列されるヒーターエレメント100の間に配置される絶縁材620を更に備えることができる。このような構成とすることにより、複数のヒーターエレメント100の間の電気的なショートを抑制することができる。
絶縁材620としては、アルミナやセラミックスなどの絶縁材料から形成された板材、マットやクロスなどを用いることができる。
【0084】
本発明の実施形態に係るヒーターユニット600は、ヒーターエレメント100を制御可能な配線構造を有することができる。具体的には、本発明の実施形態に係るヒーターユニット600は、ヒーターエレメント100の外部接続部材30に接続される配線630を更に備えることができる。
配線構造としては、特に限定されないが、
図7に示されるように、ヒーターエレメント100のそれぞれを独立して制御可能な配線構造とすることができる。具体的には、ヒーターエレメント100の外部接続部材30のそれぞれに配線630を接続することができる。なお、配線630は外部電源(図示していない)に接続される。このような配線構造とすることにより、ヒーターエレメント100のそれぞれを独立して制御できるため、細かな温度調整が可能となる。
【0085】
<ヒーターシステム>
本発明の実施形態に係るヒーターシステムは、車両の車室暖房用のヒーターシステムとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態に係るヒーターシステムでは、低電圧で駆動可能なヒーターユニット600を用いているため、消費電力を抑えることができる。また、本発明の実施形態に係るヒーターシステムでは、発熱性能が高いヒーターユニット600を用いているため、ヒーターシステムの発熱性能を向上させることができる。さらに、ヒーターユニット600はコンパクト化が可能であるため、ヒーターシステムが大型化することも抑制可能である。
【0086】
図8は、本発明の実施形態に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
図8に示されるように、本発明の実施形態に係るヒーターシステム900は、本発明の実施形態に係るヒーターユニット600、外気導入部又は車室910とヒーターユニット600の流入口650とを連通する流入配管920a,920b、ヒーターユニット600に電圧を印加するためのバッテリー940、及びヒーターユニット600の流出口660と車室910とを連通する流出配管930を備える。
【0087】
ヒーターユニット600は、例えば、バッテリー940と電線950で接続し、その途中の電源スイッチをONにすることでヒーターユニット600を通電発熱するように構成することが可能である。
【0088】
ヒーターユニット600の上流側には蒸気圧縮ヒートポンプ960を設置することができる。ヒーターシステム900において、蒸気圧縮ヒートポンプ960が主暖房装置として構成されており、ヒーターユニット600が補助ヒーターとして構成されている。蒸気圧縮ヒートポンプ960は、冷房時に外部から熱を吸収して冷媒を蒸発させる働きをする蒸発器961、及び暖房時に冷媒ガスを液化させて熱を外部へ放出する働きをする凝縮器962を含む熱交換器を備えることができる。なお、蒸気圧縮ヒートポンプ960としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0089】
ヒーターユニット600の上流側及び/又は下流側には送風機970を設置することができる。高電圧の部品をできるだけ車室910から離して配置して安全を確保する観点から、送風機970はヒーターユニット600の上流側に設置することが好ましい。送風機970を駆動すると、車室910内又は車室910外から空気が流入配管920a,920bを通ってヒーターユニット600に流入する。発熱中のヒーターユニット600を通過する間に空気は加熱される。加熱された空気は、ヒーターユニット600から流出し、流出配管930を通って車室910内に送られる。流出配管930の出口は車室910内でも特に暖房効果が高くなるよう乗員の足元近傍に配置してもよいし、座席シート内へ配管出口を配置して座席シートを内側から温めるようにしてもよいし、ウィンドウ近傍に配置してウィンドウの曇りを抑制する効果を合わせ持たせてもよい。
【0090】
流入配管920aと流入配管920bとは途中で合流する。流入配管920a及び流入配管920bには、合流地点よりも上流側において、バルブ921a,921bをそれぞれ設置することができる。バルブ921a,921bの開閉を制御することで、外気をヒーターユニット600に導入するモードと、車室910内の空気をヒーターユニット600に導入するモードの間で切り替えることができる。例えば、バルブ921aを開き、バルブ921bを閉じると、外気をヒーターユニット600に導入するモードとなる。バルブ921a及びバルブ921bの両者を開いて、外気及び車室910内の空気を同時にヒーターユニット600に導入することも可能である。
【0091】
<浄化システム>
本発明の実施形態に係る浄化システムは、車両の車室内の有害成分を除去する浄化システムとしても好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態に係る浄化システムは、室温における電気抵抗が低いセラミックス体を用いたヒーターエレメント、又はヒーターエレメントを2個以上含むヒーターユニットを用いるため、消費電力を抑えつつ、浄化性能を得ることができる。
本発明の実施形態に係る浄化システムに用いられるヒーターエレメントは、上記のセラミックス体(ハニカム構造体10)と、ハニカム構造体10の隔壁12の表面に設けられた吸着材と、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bに設けられた一対の電極20とを有する。
【0092】
ここで、吸着材が設けられたハニカム構造体10のセル14が延びる方向に直交する模式的な拡大断面図を
図9に示す。
図9に示されるように、ハニカム構造体10の隔壁12の表面には吸着材50が設けられている。このように吸着材50を設けることにより、セル14内を流通する空気から有害な揮発成分を吸着させることができる。有害な揮発成分は、例えば、揮発性有機化合物(VOC)や臭い成分などである。有害な揮発成分の具体例としては、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド、N-メチルカルバミン酸-2-(1-メチルプロピル)フェニルが挙げられる。
吸着材50としては、吸着対象の揮発成分に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。吸着材50の例としては、ゼオライトなどが挙げられる。また、室温でCO
2を吸着し、高温でCO
2を脱離することが可能な吸着材50を選択すれば、車室内のCO
2を車外へ排出することもできる。さらに、吸着材50とともに、Ptなどの貴金属や金属酸化物の酸化触媒などを組み合わせて用いることにより、セル14内を流通する空気から有害な揮発成分を除去し易くなる。
【0093】
本発明の実施形態に係る浄化システムに用いられるヒーターエレメントは、第1端面13a及び第2端面13bに設けられた一対の電極20上(例えば、ハニカム構造体10の外周壁11に設けられた電極20の外周部など)に、外部接続部材30を設けてもよい。
【0094】
本発明の実施形態に係る浄化システムに用いられるヒーターエレメントは、上記の方法に準じて作製することができる。例えば、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bに電極ペーストを塗布して焼き付けて電極20を形成した後、隔壁12の表面に吸着材50をコーティングすることによってヒーターエレメントを作製することができる。吸着材50のコーティング方法としては、特に限定されないが、例えば、吸着材50と有機バインダーと水を含むスラリーにハニカム構造体10を浸漬し、ハニカム構造体10の端面及び外周の余分なスラリーをブロー及びふき取りによって除去する。その後、550℃程度の温度で乾燥させることによって吸着材50を隔壁12の表面に設けることができる。この工程は1回であってもよいが、複数回繰り返すことによって所望の量の吸着材50を隔壁12の表面に設けることができる。
また、外部接続部材30を設ける場合は、外部接続部材30を電極20の所定の位置に配置して接合すればよい。
【0095】
図10は、本発明の実施形態に係る浄化システムの構成例を示す模式図である。
図10に示されるように、本発明の実施形態に係る浄化システム1000は、上記のヒーターエレメント又はヒーターユニット1100と、ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100の一対の電極20に電圧を印加するためのバッテリー(電源)1200、車室とヒーターエレメント又はヒーターユニット1100の流入口1110とを連通する流入配管1300と、ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100の流出口1120と車室及び車外と連通する流出配管1400と、流出配管1400に設けられ、流出配管1400を流通する空気の流れを車室又は車外に切替え可能な切替バルブ1500とを備える。
【0096】
ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100は、例えば、バッテリー1200と電線1210で接続し、その途中の電源スイッチをONにすることでヒーターエレメント又はヒーターユニット1100を通電発熱するように構成することが可能である。
電源スイッチのON及びOFFの切替えは、電源スイッチに電気的に接続された制御部1600によって行うことができる。また、切替バルブ1500の切替えも、切替バルブに電気的に接続された制御部1600によって行うことができる。
【0097】
上記のような構造を有する浄化システム1000では、車室からの空気が、流入配管1300を通って流入口1110からヒーターエレメント又はヒーターユニット1100に供給される。空気はヒーターエレメント又はヒーターユニット1100で所定の処理が行われた後、流出口1120から排出され、流出配管1400を通って車室に戻されるか又は車外に排出される。
空気が車室に戻るように流出配管1400の車外への流路を切替バルブ1500で閉じる場合、電源スイッチをOFFにしてヒーターエレメント又はヒーターユニット1100を室温に保つ。このように制御することにより、車室からの空気に含まれる有害な揮発成分をヒーターエレメント又はヒーターユニット1100の吸着材50に吸着することで除去することができる。
一方、空気が車外に排出されるように流出配管1400の車室への流路を切替バルブ1500で閉じる場合、電源スイッチをONにしてヒーターエレメント又はヒーターユニット1100を加熱する。このように制御することにより、ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100の吸着材50に吸着された有害な揮発成分を脱離させ、吸着材50の機能を再生するとともに有害な揮発成分を車外に排出することができる。
上記のような電源スイッチ及び切替バルブ1500の切替えを一定サイクルで繰り返すことにより、車室内の有害な揮発成分を安定的に車外に排出することが可能となる。
【0098】
浄化システム1000は、上記の機能を安定して確保する観点から、ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100が車室に近い位置に配置されることが望ましい。したがって、感電防止などの観点から、駆動電圧が60V以下であることが好ましい。ヒーターエレメント又はヒーターユニット1100に用いられているハニカム構造体10は、室温における電気抵抗が低いため、この低い駆動電圧でのハニカム構造体10の加熱が可能である。なお、駆動電圧の下限値は、特に限定されないが、10Vであることが好ましい。駆動電圧が10V未満であると、ハニカム構造体10の加熱時の電流が大きくなるため、電線1210を太くしなければならない。
【0099】
セル14が延びる方向に直交する断面における短軸の径(ハニカム構造体10の厚さ)が小さいと、吸着材50の量が不足する恐れがあるため、吸着機能を十分に確保する観点から、ヒーターユニットを浄化システム1000に用いることが好ましい。ヒーターユニットは、上記したように、ヒーターエレメントを並列に複数配列することによって作製することができる。ヒーターユニットを用いることにより、吸着材50の量を高めることができる上、電源スイッチのON及びOFFの切替え時にハニカム構造体10の加熱速度及び冷却速度を速めることができる。したがって、浄化システム1000の実用性を高めることができる。
【0100】
吸着材50の吸着機能を効率的に高める観点からは、隔壁12の表面に設けられる吸着材50の厚さは、大きすぎない方がよい。これは、吸着材50が厚すぎると、セル14内を流れる空気と接触し難く、吸着機能の効率が低下するためである。そのため、吸着材50の厚さは、好ましくは0.01~0.5mmである。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0102】
(1)セラミックス体の作製
<実施例1~6、比較例1及び2>
セラミックス原料としてBaCO3粉末、TiO2粉末、La(NO3)3・6H2O粉末、及びSrCO3を準備した。これらの粉末を、焼成後に表1に示す組成となるように秤量して、乾式混合して混合粉末を得た。乾式混合は、30分間実施した。次いで、得られた混合粉末100質量部に対して、押出成形後に表1に示す相対密度のセラミックス成形体が得られるように、水、バインダー、可塑剤及び分散剤を合計で3~30重量部の範囲で適量ずつ添加して混練し、坏土を得た。バインダーとしてはメチルセルロースを使用した。可塑剤及び分散剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用した。
この坏土を押出成形機に投入し、所定の口金を用いて押出成形することにより、直方体状のハニカム成形体を得た。そして、ハニカム成形体の密度を上記の方法に従って測定した。
次に、得られたハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断してハニカム乾燥体を得た。
【0103】
ハニカム乾燥体の形状は以下である。
全体形状:45mm×45mm×高さ(セルが延びる方向)200mmの直方体状
セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状:正方形
セル密度:62セル/cm2
隔壁厚み:4mil(101.6μm)
【0104】
次に、ハニカム乾燥体の高さが35mmとなるように切断した後、焼成炉内にて、大気雰囲気下で脱脂(450℃×4時間)し、次いで大気雰囲気下で焼成することにより、セラミックス体を得た。焼成工程の条件は、表1に示す通りとした。具体的には、焼成工程は、保持工程A、保持工程B及び保持工程Cを順次行った。なお、保持工程Cは、最高温度での保持工程である。
得られたセラミックス体について以下の評価を行った。
【0105】
<比較例3及び4>
SrCO3を用いなかったこと以外は実施例1などと同様にしてセラミックス体を作製し、以下の評価を行った。
【0106】
(2)化学分析
セラミックス体の化学組成をICP発光分光法により分析し、La、Ba、Ti、Srなどの元素の量を求めた。この分析で得られた各元素の量から、BaTiO3系結晶粒子の、1モルのBaのうちのLaの置換量(x値)、1モルのBaのうちのSrの置換量(y値)、及び(Ba+La+Sr)/Tiのモル比を表1に示す。また、この分析結果より、実施例及び比較例で作製したセラミックス体にはPb及びアルカリ金属が含まれていないことを確認した。
【0107】
(3)結晶粒子の同定、及びBaTiO3系結晶粒子の格子体積
セラミックス体の結晶粒子を、X線回折装置を用いて同定した。X線回折装置としては、多機能粉末X線回折装置(Bruker社製、D8Advance)を用いた。X線回折測定の条件は、CuKα線源、10kV、20mA、2θ=5~100°とした。そして、解析ソフトTOPAS(BrukerAXS社製)を用いてリートベルト法により、得られたX線回折データを解析して結晶粒子を同定した。
BaTiO3系結晶粒子の格子体積は、X線回折データの解析で得られた格子定数から算出することによって求めた。
これらの結果を表1に示す。
【0108】
(4)各結晶粒子の含有量
各結晶粒子の含有量を、X線回折装置を用いて測定した。X線回折装置としては、上記と同様の装置及び解析ソフトを用い、リートベルト法によって各結晶粒子の含有量を求めた。
【0109】
(5)平均結晶粒径の測定
セラミックス体の平均結晶粒径を、上記の方法に従って測定した。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製の型式S-3400Nを使用し、加速電圧15kV、倍率3000で行った。その結果を表1に示す。
【0110】
(6)開気孔率
セラミックス体の開気孔率を上記の方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0111】
(7)嵩密度
セラミックス体の嵩密度を上記の方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0112】
(8)キュリー温度
上記のセラミックス体のセルが延びる方向と平行な外周壁の表面に一対の電極を帯状に形成した後、一対の電極に対して室温にて1Vの電圧を印加して抵抗値を測定した。同様に、一対の電極に対して温度を高めながら抵抗値を測定し、抵抗値の温度依存性を求めた。得られた抵抗値の温度依存性において、室温抵抗値の3倍の抵抗値の温度をキュリー温度とした。その結果を表1に示す。
【0113】
(9)体積抵抗率
セラミックス体の室温(25℃)、120℃及び200℃における体積抵抗率を、上記の方法に従って測定した。なお、体積抵抗率の測定値は、測定した体積抵抗率の平均値とした。その結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示されるように、実施例1~6のセラミックス体は室温における体積抵抗率が20Ω・cm以下と非常に低く、且つ200℃における体積抵抗率も室温における体積抵抗率の500倍以上と高かった。
これに対して比較例1のセラミックス体は、Srの置換量が多すぎたため、室温における体積抵抗率が高くなった。
比較例2のセラミックス体は、Ba6Ti17O40結晶粒子の含有量が多すぎたため、室温における体積抵抗率が高くなった。
比較例3及び4のセラミックス体は、Baの一部をSrで置換しなかったため、200℃における体積抵抗率を十分に高めることができなかった。
【0116】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、室温抵抗率が低く且つ200℃抵抗率が室温抵抗率の500倍以上であるセラミックス体、ハニカム構造体、及びセラミックス体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、そのようなハニカム構造体を備えたヒーターエレメントを提供することができる。