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特開2023-141216ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子およびポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体
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  • 特開-ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子およびポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141216
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子およびポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20230928BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230928BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C08J9/16 CFD
C08L67/04 ZBP
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047423
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】南 徹也
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F074AA68
4F074AC31
4F074AC32
4F074AD04
4F074AD08
4F074AD13
4F074AD15
4F074AG11
4F074AG20
4F074BA32
4F074BA84
4F074BA95
4F074BB02
4F074BC12
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074CC10X
4F074CC22X
4F074CC26Y
4F074CC32X
4F074CC32Y
4F074CC32Z
4F074CC34X
4F074CC34Y
4F074CC34Z
4F074CC47Z
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA35
4F074DA59
4J002CF181
4J002CF182
4J002FD140
4J002FD170
4J002FD320
4J002GA00
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GL00
4J200AA06
4J200AA24
4J200BA12
4J200CA01
4J200DA01
4J200DA17
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できるP3HA系発泡粒子を提供する。
【解決手段】示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gであるP3HA系樹脂粒子、を発泡してなるP3HA系発泡粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子、を発泡してなるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子であり、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、構成単位の組成が異なる2種類以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む、請求項1に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項3】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、請求項1または2に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項4】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)を含み、
前記P3HB3HH(A)および前記P3HB3HH(B)の各々は、3-ヒドロキシブチレート単位(3HB単位)と3-ヒドロキシヘキサノエート単位(3HH単位)とを含み、
前記P3HB3HH(A)における全繰り返し単位100モル%中の前記3HB単位と前記3HH単位との比率(前記3HB単位/前記3HH単位)は、98.0/2.0(mol%/mol%)~94.0/6.0(mol%/mol%)であり、
前記P3HB3HH(B)における全繰り返し単位100モル%中の前記3HB単位と前記3HH単位との比率(前記3HB単位/前記3HH単位)は、93.9/6.1(mol%/mol%)~90.0/10.0(mol%/mol%)であって、
前記P3HB3HH(A)と前記P3HB3HH(B)との重量比(前記P3HB3HH(A)の重量/前記P3HB3HH(B)の重量)は、90/10(重量%)~10/90(重量%)である、請求項2に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項5】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピークを少なくとも2つ有する、請求項1~4の何れか1項に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項6】
前記示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において観察される、少なくとも2つの融解ピークにおいて、最も高温側の融解ピークの融解熱量が、0.1J/g~20.0J/gである、請求項5に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子を成形してなる、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子およびポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体
に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足および環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。このため、(a)海、土等の環境中、並びに(b)埋立て処分場およびコンポスト中で、微生物の作用によって分解される生分解性プラスチックが注目されている。生分解性プラスチックは、(a)環境中で利用される農林水産業用資材、並びに(b)使用後の回収および再利用が困難な食品容器、包装材料、衛生用品、ゴミ袋等、への幅広い応用を目指して、開発が進められている。更に生分解性プラスチックから成る発泡体は、包装用緩衝材、農産箱、魚箱、自動車部材、建築材料、土木材料等での使用が期待されている。
【0003】
前記生分解性プラスチックの中でも、優れた生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物原料由来の樹脂(プラスチック)としてポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(以下、「P3HA系樹脂」と称する場合がある)が注目されており、該P3HA系樹脂を成形体用途に展開することが検討されている。
【0004】
特許文献1には、特定の範囲の高温側の融解熱量を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子(以下、「P3HA系発泡粒子」と称する場合がある)、および、該P3HA系発泡粒子を型内発泡成形してポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体(以下、「P3HA系発泡成形体」と称する場合がある)を得る技術が開示されている。また、特許文献2には、特定の結晶状態の生分解性ポリエステル系樹脂を含む生分解性ポリエステル系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して発泡成形体を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/146555号
【特許文献2】国際公開第2020/201935号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術は優れた技術であるが、特定の範囲の高温側の融解熱量を有するP3HA系発泡粒子の製造の安定性の観点から、改善の余地がある。
【0007】
以上のような状況に鑑み、本発明の一実施形態の目的は、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できるP3HA系発泡粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子、を発泡してなるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子であり、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
〔2〕前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、構成単位の組成が異なる2種類以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む、〔1〕に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
〔3〕前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、〔1〕または〔2〕に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
〔4〕前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)を含み、前記P3HB3HH(A)および前記P3HB3HH(B)の各々は、3-ヒドロキシブチレート単位(3HB単位)と3-ヒドロキシヘキサノエート単位(3HH単位)とを含み、前記P3HB3HH(A)における全繰り返し単位100モル%中の3HB単位と3HH単位との比率(3HB単位/3HH単位)は、98.0/2.0(mol%/mol%)~94.0/6.0(mol%/mol%)であり、前記P3HB3HH(B)における全繰り返し単位100モル%中の3HB単位と3HH単位との比率(3HB単位/3HH単位)は、93.9/6.1(mol%/mol%)~90.0/10.0(mol%/mol%)であって、P3HB3HH(A)とP3HB3HH(B)との重量比(P3HB3HH(A)の重量/P3HB3HH(B)の重量)は、90/10(wt%)~10/90(wt%)である、〔2〕に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
〔5〕前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピークを少なくとも2つ有する、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。
〔6〕前記示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において観察される、少なくとも2つの融解ピークにおいて、最も高温側の融解ピークの融解熱量が、0.1J/g~20.0J/gである、〔5〕に記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子。〔7〕〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子を成形してなる、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形によれば、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できるP3HA系発泡粒子を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】P3HA系樹脂粒子についての示差走査熱量測定で得られるDSC曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0013】
〔1.本発明の技術的思想〕
特許文献1には、P3HA系発泡粒子について、該P3HA系発泡粒子が、DSC曲線において融解ピークを少なくとも2つ有すること、および、その高温側の融解熱量(高温側の融解ピークの融解熱量)が、得られるP3HA系発泡粒子の型内発泡成形性および発泡成形体の特性(例えば、表面性、収縮抑制性等)に関わる重要なパラメーターであることが報告されている。
【0014】
P3HA系発泡粒子の高温側の融解熱量は、発泡工程での発泡温度および保持時間等の条件を調整することで制御できることが知られている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来のP3HA系発泡粒子においては、これら発泡温度および/または保持時間の条件が変化すると(例えば、発泡温度が1℃程度変化すると)、得られるP3HA系発泡粒子の高温側の融解熱量が大きく変化してしまい、所望の高温側の融解熱量を有するP3HA系発泡粒子を製造できないこと、を本発明者らは新たに見出した。換言すると、所望の高温側の融解熱量を有するP3HA系発泡粒子を製造するための、発泡工程での発泡温度および保持時間の許容範囲(プロセスウインド)が著しく狭いこと、を本発明者らは新たに見出した。特に、工業的な大規模な生産においては、個別の発泡粒子について、発泡温度および保持時間を一定に制御することは極めて困難である。すなわち、特許文献1に記載のような従来のP3HA系発泡粒子には、所望の高温側の融解熱量を有するP3HA系発泡粒子を安定して製造(特に、工業的に製造)することが困難であるという課題があった。
【0015】
以上のような状況に鑑み、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子を提供することを目的として、本発明者らは、鋭意検討を行った。
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の知見を独自に見出し、本発明を完成するに至った:示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が特定の範囲内であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が、特定の範囲内であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子(以下、「P3HA系樹脂粒子」と称する場合がある)は、発泡工程での発泡温度および保持時間のプロセスウインドが広い。それ故、当該P3HA系樹脂粒子を用いるP3HA系発泡粒子の製造において、発泡工程での発泡温度および保持時間等の変化に因る、得られるP3HA系発泡粒子の高温側の融解熱量の変化が抑制される。その結果、当該P3HA系樹脂粒子を発泡してなる当該P3HA系発泡粒子は、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できること。
【0017】
また、生分解性の樹脂であるP3HA系樹脂を含む、本発明の一実施形態に係るP3HA系発泡粒子および該P3HA系発泡粒子を成形してなるP3HA系発泡成形体は、廃棄による海洋汚染を抑制することができる。これにより、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0018】
〔2.ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子〕
本発明の一実施形に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子、を発泡してなるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子であり、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである。
【0019】
本明細書において、「ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系発泡粒子」を「発泡粒子」と称する場合があり、「ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系樹脂粒子」を「樹脂粒子」と称する場合があり、「ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系樹脂組成物」を「樹脂組成物」と称する場合があり、「ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体」を「発泡成形体」と称する場合がある。また、「本発明の一実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系発泡粒子」を「本発泡粒子」と称する場合がある。
【0020】
本発泡粒子は、上記の構成を有するため、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できるという利点を有する。
【0021】
なお、本明細書において、発泡粒子が「所望の高温側の融解熱量を有する」とは、具体的には、該発泡粒子の、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線における、最も高温側の融解ピークの融解熱量が、0.1J/g~20.0J/gであることを意図する。このような所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子は、表面性および収縮抑制性に優れる発泡成形体を提供することができる。
【0022】
本明細書において、X単量体に由来する繰り返し単位を「X単位」と称する場合がある。繰り返し単位は、構成単位ともいえる。
【0023】
まず、本発泡粒子の原料である樹脂粒子および樹脂組成物について説明する。
【0024】
<P3HA系樹脂粒子>
本発泡粒子は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子である。本明細書において、「本発明の一実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系樹脂組成物」を「本樹脂組成物」と称する場合があり、「本発明の一実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA)系樹脂粒子」を「本樹脂粒子」と称する場合がある。本樹脂組成物を後述の手法で造粒することにより、本樹脂粒子を提供することができる。したがって、本樹脂粒子の含むP3HA系樹脂およびその他の成分の種類および量(含有量)は、本樹脂組成物の含むP3HA系樹脂およびその他の成分の種類および量(含有量)である。
【0025】
(P3HA系樹脂組成物)
本樹脂組成物は、構成単位の組成が異なる2種類以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むことが好ましい。
【0026】
このような構成単位の組成が異なる2種類以上のP3HA系樹脂を含む樹脂組成物は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである樹脂粒子を好適に提供することができる。そのため、当該樹脂組成物は、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できる発泡粒子をより好適に提供することができる。
【0027】
本明細書において、P3HA系樹脂の「構成単位の組成が異なる」とは、「P3HA系樹脂を構成する構成単位の種類が異なる場合」、および、「P3HA系樹脂が、同じ種類の2種類以上の構成単位を含むが、当該構成単位の含有比率(モノマー比率)が異なる場合」、の両方の場合を含む。
【0028】
(P3HA系樹脂)
本発明の一実施形態に係るP3HA系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位を必須の構成単位(モノマー単位)として有する重合体である。本明細書において、「3-ヒドロキシアルカノエート」を「3HA」と称する場合もある。P3HA系樹脂としては、具体的には、下記一般式(1)で示される構成単位(繰り返し単位)を含む重合体が好ましい:
[-CHR-CH-CO-O-]・・・(1)。
【0029】
一般式(1)中、RはC2n+1で表されるアルキル基を示し、nは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、nとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0030】
P3HA系樹脂としては、特に微生物から産生されるP3HA系樹脂が好ましい。
【0031】
P3HA系樹脂は、3HA単位(特に一般式(1)の構成単位)を、P3HA系樹脂の全構成単位100モル%中、50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましい。また、構成単位(モノマー単位)としては、3HA単位のみであってもよいし、3HA単位に加えて、3HA以外の単量体に由来する構成単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含んでいてもよい。
【0032】
3HA単位の具体例としては、3-ヒドロキシブチレート単位、3-ヒドロキシバレレート単位および3-ヒドロキシヘキサノエート単位などが挙げられる。3-ヒドロキシブチレートは、融点および引張強度がプロピレンに近い。それ故、本発明の一実施形態に係るP3HA系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位を含むことが好ましい。本明細書において、「3-ヒドロキシブチレート」を「3HB」と称する場合もある。
【0033】
P3HA系樹脂が2種以上の構成単位を含む場合、含有量が最も多い構成単位(モノマー単位)以外の構成単位の由来となるモノマーをコモノマーと称する。本明細書において、「コモノマーに由来する構成単位」を「コモノマー単位」と称する場合もある。
【0034】
コモノマーとしては、特に限定されないが、3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、「3HH」と称する場合がある)または4-ヒドロキシブチレート(以下、「4HB」と称する場合がある)などが好ましい。
【0035】
P3HA系樹脂は、一種類の構成単位のみからなる重合体(ホモポリマー)であってもよい。
【0036】
P3HA系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(以下、「P3HB3HV」と称する場合がある。)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「P3HB3HH」と称する場合がある。)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(以下、「P3HB4HB」と称する場合がある。)等が挙げられる。特に、加工性および発泡成形体の物性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)またはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、得られる発泡成形体の耐熱性とその他の物性(例えば、強度)とのバランスが優れるという利点があることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。すなわち、本樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含むことが好ましい。なお、本明細書においては、同じ名称(化合物名)のP3HA系樹脂であっても、該P3HA系樹脂を構成する構成単位(モノマー単位およびコモノマー単位)の含有比率(モノマー比率)が異なる場合は、異なる種類のP3HA系樹脂であると見做す。したがって、本樹脂組成物の含む、構成単位の組成が異なる2種類以上のP3HA系樹脂としては、上述したP3HA系樹脂のうち、モノマー比率の異なる同じ名称(化合物名)のP3HA系樹脂のみを使用してもよく、異なる名称のP3HA系樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
P3HA系樹脂は、3HB単位を必須の構成単位として有し、かつコモノマー単位を有することが好ましい。すなわち、P3HA系樹脂は、3HB単位とコモノマー単位とを有する共重合体であることが好ましい。P3HA系樹脂が3HB単位とコモノマー単位とを有する場合(場合a)について説明する。場合aにおいて、P3HA系樹脂における全構成単位100モル%中の3HB単位とコモノマー単位との比率(3HB単位/コモノマー単位)としては、99.0/1.0(モル%/モル%)~80.0/20.0(モル%/モル%)が好ましく、98.5/1.5(モル%/モル%)~85.0/15.0(モル%/モル%)がより好ましく、98.0/2.0(モル%/モル%)~90.0/10.0(モル%/モル%)がさらに好ましい。P3HA系樹脂の全構成単位100モル%に対するコモノマー単位の比率が1.0モル%以上であれば、P3HA系樹脂の溶融混練可能な温度域と熱分解温度域とが十分に離れているため、好ましい成形加工範囲が広いという利点を有する。一方、P3HA系樹脂の全構成単位100モル%に対するコモノマー単位の比率が20.0モル%以下であれば、溶融混練時のP3HA系樹脂系組成物の結晶化が早く、生産性が高い。このような各モノマー単位の比率を有するP3HA系樹脂は、当業者に公知の方法、例えば国際公開WO2009/145164号に記載の方法に準拠して作製することができる。
【0038】
なお、P3HA系樹脂中の各モノマー単位の比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号に記載の方法により求めることができる。
【0039】
P3HA系樹脂が、3HB単位とコモノマー単位とを有する共重合体である場合、得られる発泡粒子の成形加工性に優れるという観点から、該コモノマー単位は、3-ヒドロキシヘキサノエート単位(3HH単位)であることが好ましい。すなわち、本樹脂組成物は、P3HA系樹脂として、P3HB3HHを含むことが好ましい。本樹脂組成物は、P3HB3HHと、P3HB3HH以外のP3HA系樹脂と、を含んでもよく、3HB単位と3HH単位とを含み、該3HB単位と3HH単位との比率(モノマー比率)がそれぞれ異なる、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)を含んでもよい。
【0040】
本樹脂組成物が、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)を含む場合(場合b)について説明する。場合bにおいて、前記P3HB3HH(A)における全繰り返し単位100モル%中の3HB単位と3HH単位との比率(3HB単位/3HH単位)は、98.0/2.0(mol%/mol%)~94.0/6.0(mol%/mol%)であることが好ましく、97.5/2.5(mol%/mol%)~94.5/5.5(mol%/mol%)であることがより好ましく、97.0/3.0(mol%/mol%)~95.0/5.0(mol%/mol%)であることがさらに好ましい。また、前記P3HB3HH(B)における全繰り返し単位100モル%中の3HB単位と3HH単位との比率(3HB単位/3HH単位)は、93.9/6.1(mol%/mol%)~90.0/10.0(mol%/mol%)であることが好ましく、93.7/6.3(mol%/mol%)~90.5/9.5(mol%/mol%)であることがより好ましく、93.5/6.5(mol%/mol%)~91.0/9.0(mol%/mol%)であることがさらに好ましい。
【0041】
場合bにおける、P3HB3HH(A)とP3HB3HH(B)との重量比(P3HB3HH(A)の重量/P3HB3HH(B)の重量)は、90/10(wt%/wt%)~10/90(重量%/重量%)であることが好ましく、85/15(重量%/重量%)~15/85(重量%/重量%)であることがより好ましく、80/20(重量%/重量%)~20/80(重量%/重量%)であることがさらに好ましい。
【0042】
場合bにおいて、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)のモノマー比率、および、P3HB3HH(A)とP3HB3HH(B)との重量比を上記の範囲とすることにより、P3HB3HH(A)とP3HB3HH(B)とが相溶し易いという利点がある。
【0043】
場合bにおいて、本樹脂組成物は、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)以外のP3HA系樹脂(その他のP3HA系樹脂)を含んでもよいが、その場合、P3HB3HH(A)およびP3HB3HH(B)とその他のP3HA系樹脂の重量比((P3HB3HH(A)の重量およびP3HB3HH(B)の重量の合計重量)/その他のP3HA系樹脂の重量)は、99/1(重量%/重量%)~50/50(重量%/重量%)であることが好ましく、97/3(重量%/重量%)~60/40(重量%/重量%)であることがより好ましく、95/5(重量%/重量%)~70/30(重量%/重量%)であることがさらに好ましい。当該構成によると、得られる発泡成形体の物性(例えば、強度、耐熱性等)を好適な範囲に調整できるという利点を有する。
【0044】
(P3HA系樹脂の製造方法)
本発明の一実施形態において、P3HA系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。P3HA系樹脂の微生物による製造方法については、公知の方法を適用できるが、培養工程、精製工程、乾燥工程を含むことが好ましい。
【0045】
培養工程でP3HAを生産する微生物を培養する方法は特に限定されず、例えば、国際公開第WO2019/142717号に記載の方法を使用することができる。
【0046】
精製工程で微生物培養により得られたP3HAを精製する方法は特に限定されず、公知の物理学的処理、及び/又は、化学的処理、及び/又は、生物学的処理を適用することができる。P3HAを精製する方法としては、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法を好ましく適用できる。
【0047】
乾燥工程で微生物培養、精製により得られたP3HAを乾燥する方法は特に限定されず、噴霧乾燥や流動層乾燥や気流乾燥や回転乾燥や振動乾燥やバンド乾燥を適用することができる。P3HAを乾燥する方法としては、例えば、国際公開2018/070492号に記載の乾燥方法を好ましく適用できる。
【0048】
本樹脂組成物におけるP3HA系樹脂の含有量は、特に限定されないが、得られる発泡粒子および発泡成形体が生分解性に優れることから、本樹脂組成物100重量%に対して、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0049】
本樹脂組成物は、更に、P3HA系樹脂以外の樹脂成分(「その他の樹脂成分」と称する場合がある)を含んでいてもよい。その他の樹脂成分としては、例えば、(a)ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル、または(b)脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。P3HA系樹脂と共に、これらその他の樹脂成分の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本樹脂組成物における、その他の樹脂成分の含有量は特に限定されないが、例えば、P3HA系樹脂100重量部に対して、10重量部~400重量部が好ましく、50重量部~150重量部がより好ましい。
【0051】
本樹脂組成物は、添加剤をさらに含んでもよい。
【0052】
(添加剤)
本樹脂組成物は、添加剤をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、結晶核剤、気泡調整剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。上述した添加剤としては、特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0053】
結晶核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。これら結晶核剤の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。また、2種類以上の結晶核剤を混合して使用する場合、目的に応じて、混合比率を適宜調整してもよい。
【0054】
本樹脂組成物における結晶核剤の含有量は、特に限定されない。結晶核剤の含有量は、本樹脂組成物100重量部に対して、例えば、5.0重量部以下が好ましく、3.0重量部以下がより好ましく、1.5重量部以下がさらに好ましい。本樹脂組成物における結晶核剤の含有量の下限は特に限定されないが、例えば、本樹脂組成物100重量部に対して、0.1重量部以上でありえる。
【0055】
気泡調整剤としては、例えば、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、珪藻土、クレイ、重曹、アルミナ、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、ベントナイト等が挙げられる。これら気泡調整剤の中でも、P3HAへの分散性に特に優れている点で、タルクが好ましい。また、これら気泡調整剤の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。また、2種類以上の気泡調整剤を混合して使用する場合、目的に応じて、混合比率を適宜調整してもよい。
【0056】
本樹脂組成物における気泡調整剤の含有量は、特に限定されないが、本樹脂組成物100重量部に対して、0.01重量部~1.00重量部が好ましく、0.03重量部~0.50重量部がより好ましく、0.05重量部~0.30重量部がさらに好ましい。
【0057】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、P3HAへの滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、本樹脂組成物100重量部に対して、0.01重量部~5.00重量部が好ましく、より好ましくは0.05重量部~3.00重量部、更に好ましくは0.10重量部~1.50重量部である。また、滑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0058】
<樹脂粒子の物性>
(樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差および融解ピーク温度以上の融解熱量)
本樹脂粒子は、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線における、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである。融解ピーク温度と融解終了温度との差および前記融解ピーク温度以上の融解熱量が上記の範囲内である樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子は、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造することができる。
【0059】
本樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差は、8℃~20℃であればよいが、9℃~19℃であることが好ましく、10℃~18℃であることがより好ましく、10℃~17℃であることがさらに好ましい。
【0060】
また、本樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量は、5J/g~15J/gであればよいが、5J/g~14J/gであることが好ましく、5J/g~13J/gであることがより好ましく、5J/g~12J/gであることがさらに好ましい。
【0061】
本樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差および融解ピーク温度以上の融解熱量は、樹脂粒子を試料として示差走査熱量計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて得られるDSC曲線に基づき算出することができる。
【0062】
示差走査熱量計を用いる樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差の測定方法について、図1を参照し、より具体的に説明する。図1は、P3HA系樹脂粒子についての示差走査熱量測定で得られるDSC曲線の一例を示す図である。樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差の測定方法は、以下の(1)~(3)の通りである;(1)樹脂粒子約5mgを量り取る;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、樹脂粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最も高温側の融解ピークの温度を、融解ピーク温度(Tmp)とする(図1参照);(3)さらに、融解終了時点の温度を融解終了温度(Tme)とし、計測されたTmpとTmeとの差(Tme-Tmp)を、樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差(ΔTrp)とする。なお、樹脂粒子の融解ピーク温度(Tmp)は、当該樹脂粒子の融点であるともいえる。
【0063】
示差走査熱量計を用いる樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量の測定方法について、再び図1を参照し、より具体的に説明する。樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量の測定方法は、以下の(1)~(5)の通りである:(1)樹脂粒子約5mgを量り取る;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、樹脂粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温して、樹脂粒子を融解する;(3)前記(2)の過程で得られるDSC曲線において、融解開始時点の温度を表す点と融解終了温度(Tme)を表す点とを直線で結びベースラインを作成する(図1参照);(4)最も高温側の融解ピークを通る直線を、X軸(温度の軸)に対して垂直方向に引く;(5)作成したベースラインと融解ピークを通る直線とDSC曲線とに囲まれる領域のうち、高温側の領域(図1の斜線部)から算出される熱量を、樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量とする。
【0064】
(樹脂粒子のMFR)
樹脂粒子のメルトフローレート(MFR)は、特に制限は無いが、1.0g/10分~20.0g/10分が好ましく、1.5g/10分~15.0g/10分がより好ましく、2.0g/10分~10.0g/10分がさらに好ましい。なお、MFRは「メルトインデックス(MI)」と称する場合もある。
【0065】
樹脂粒子のMFRが1.0g/10分以上である場合、得られる発泡粒子の見かけ密度が低くなり易いという利点を有し、樹脂粒子のMFRが20.0g/10分以下である場合、得られる発泡粒子のゲル分率が高くなり易いという利点を有する。
【0066】
なお、本明細書において、樹脂粒子のMFRは、メルトフローインデックステスター(安田精機製作所社製)を用いて、JIS K7210に準じて、荷重を5kg、測定温度を、示差走査熱量計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて得られる、樹脂粒子のDSC曲線から読み取れる、該樹脂粒子の融解終了温度+1℃~+10℃の温度、の条件で測定して得られる値である。
【0067】
<発泡粒子の物性>
(発泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量)
本発泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量は、0.1J/g~20.0J/gであることが好ましく、0.3J/g~18.0J/gであることがより好ましく、0.5J/g~16.0J/gであることがさらに好ましく、1.0J/g~14.0J/gであることがよりさらに好ましい。最も高温側の融解ピークの融解熱量が上記範囲内である発泡粒子は、表面性および収縮抑制性に優れる発泡成形体を提供することができる。
【0068】
なお、発泡粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量の測定方法は、以下の(1)~(5)の通りである:(1)発泡粒子約5mgを量り取る;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、発泡粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温して、発泡粒子を融解する;(3)前記(2)の過程で得られるDSC曲線において、融解開始時点の温度を表す点と融解終了温度を表す点とを直線で結びベースラインを作成する;(4)最も高温の融解ピークと、該最も高温の融解ピークの隣の融解ピークとの間の極大点を通る直線(極大点を通る直線)を、X軸(温度の軸)に対して垂直方向に引く;(5)作成したベースラインと、極大点を通る直線と、DSC曲線とに囲まれる領域のうち、最も高温側の領域から算出される熱量を融解ピーク温度以上の融解熱量(MEfp)とする。
【0069】
(発泡粒子の融解ピークの数)
本発泡粒子は、前記(2)の過程でで得られるDSC曲線において、融解ピークを少なくとも2つ有することが好ましい。発泡粒子が、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピークを少なくとも2つ有することは、該発泡粒子に含まれるP3HA系樹脂が、適度な結晶状態となっていること意味し、このような発泡粒子は型内発泡成形性に優れ、さらに、このような発泡粒子を成形してなる発泡成形体は、優れた物性(例えば、強度、耐熱性)を有するため好ましい。
【0070】
(発泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量の温度依存性)
発泡粒子が、「所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できる」か否かは、発泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量の温度依存性(以下、「発泡粒子の温度依存性」と称する場合がある)により評価することができる。発泡粒子の温度依存性は、測定対象である発泡粒子の原料となる樹脂粒子を、昇温-昇圧工程および保持工程における発泡温度を1℃低い温度に設定すること以外は、測定対象である発泡粒子を同様の条件で発泡して得られる発泡粒子(比較発泡粒子)の「最も高温側の融解ピークの融解熱量」と、評価対象である発泡粒子の「最も高温側の融解ピークの融解熱量」との差(1℃当たりの変化量)として算出することができる。発泡粒子の温度依存性が、3.0(J/g)/℃以下である発泡粒子は、「所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できる」発泡粒子、換言すると、安定生産性に優れる発泡粒子であると言える。
【0071】
より安定した品質の発泡粒子を提供する観点から、発泡粒子の温度依存性は、3.0(J/g)/℃以下であり、好ましくは2.8(J/g)/℃以下であり、より好ましくは2.5(J/g)/℃以下であり、さらに好ましくは2.2(J/g)/℃以下であり、よりさらに好ましくは1.8(J/g)/℃以下である。
【0072】
発泡粒子の温度依存性が上記の範囲内である、安定生産性に優れる発泡粒子は、精密な温度管理が困難である大規模な生産設備で生産した場合であっても、安定して、所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を生産することができる。すなわち、より効率的に、所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を提供することができる。したがって、安定生産性に優れる発泡粒子は、生産効率に優れる発泡粒子であるとも言える。
【0073】
(発泡粒子の見かけ密度)
発泡粒子の見かけ密度は、特に限定されないが、20g/L~150g/Lであることが好ましく、23g/L~140g/Lであることがより好ましく、25g/L~130g/Lであることがさらに好ましい。発泡粒子の見かけ密度が、20g/L~150g/Lである場合、軽量性と物性(例えば、強度、断熱性)のバランスに優れる発泡成形体を提供することができる。
【0074】
なお、本明細書において、発泡粒子の見かけ密度の測定方法は、以下の(1)~(3)の通りである:(1)質量Wd(g)の発泡粒子を、金網上に載せ、メスシリンダー内に収容されたエタノールに浸漬する;(2)メスシリンダーの液面位置の上昇分に基づき、該発泡粒子の容積Vd(L)を測定する;(3)下記式に基づき、発泡粒子の見かけ密度を算出する:
発泡粒子の見かけ密度(g/L)=Wd(g)/Vd(L)。
【0075】
(発泡粒子のゲル分率)
本明細書において、発泡粒子のゲル分率とは、該発泡粒子中のP3HA系樹脂の架橋度(架橋の度合い)を示す指標である。ゲル分率が0.1%以上である発泡粒子は、架橋構造を有する発泡粒子であると言える。また、発泡粒子のゲル分率が高いほど、該発泡粒子の架橋度がより高いことを、換言すると、より多くの架橋構造を有することを意味する。
【0076】
発泡粒子のゲル分率は、発泡粒子100重量%に対して、30重量%~80重量%であることが好ましく、50重量%~80重量%であることがより好ましく、60重量%~75重量%であることがさらに好ましい。発泡粒子のゲル分率が、発泡粒子100重量%に対して、(a)30重量%以上である場合、発泡成形体を成形するとき、良質の発泡成形体を提供し得る発泡粒子の成形温度幅が広くなり、生産性が向上するという利点を有し、(b)80重量%以下である場合、1回の発泡で、十分に見かけ密度の低い発泡粒子を得られ易いという利点を有する。
【0077】
発泡粒子を架橋する(架橋構造を導入する)方法は特に限定されないが、例えば、発泡粒子の製造時に架橋剤を添加する方法が挙げられる。なお、発泡粒子のゲル分率は、架橋剤の種類、および/または、その使用量等により制御し得る。
【0078】
本明細書において、発泡粒子のゲル分率の測定方法は以下の(1)~(5)の通りである:(1)100mlのフラスコに、0.5gの発泡粒子と、50mlのクロロホルムとを入れる;(2)大気圧下、62℃で、フラスコ内の混合物を8時間加熱還流する;(3)得られる加熱処理物を100メッシュの金網を備える吸引濾過装置を用いて濾過処理する;(4)金網上の濾過処理物を、80℃のオーブン中で真空条件下にて8時間乾燥し、乾燥物の重量Wgw(g)を測定する;(5)以下の式により、ゲル分率を算出する:
ゲル分率(重量%)={Wgw/0.5}×100。
【0079】
〔3.P3HA系発泡粒子の製造方法〕
本発泡粒子の製造方法は、特に限定されないが、樹脂組成物を含み、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである樹脂粒子を調製する、樹脂粒子調製工程と、該樹脂粒子を発泡させる発泡工程とを順に含む製造方法が好ましい。以下、このような樹脂粒子調製工程と発泡工程とを順に含む製造方法を例に挙げて、本発泡粒子の製造方法について説明する。なお、本発泡粒子の製造方法は以下の製造方法に限定されるものではない。
【0080】
(樹脂粒子調製工程)
樹脂粒子調製工程は、樹脂組成物を含み、示差走査熱量測定で得られるDSC曲線において、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃であり、かつ、前記融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gである樹脂粒子を調製する工程である。樹脂粒子調製工程は、後述する発泡工程の前に実施され得る。樹脂粒子調製工程は、P3HA系樹脂を含む樹脂組成物を発泡に利用しやすい形状に造粒(成形)する工程ともいえる。樹脂粒子調製工程の態様としては、樹脂粒子を得ることができる限り特に限定されない。
【0081】
樹脂粒子調製工程は、
(a)P3HA系樹脂と、必要に応じてその他の樹脂および添加剤とを含む樹脂組成物を溶融混練する溶融混練工程と、
(b)溶融混練された樹脂組成物を発泡に利用しやすい形状に造粒する造粒工程と、を含むことが好ましい。
【0082】
なお、樹脂粒子調製工程において溶融混練されるP3HA系樹脂および造粒される樹脂組成物の種類、物性等については、適宜〔2.ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡粒子〕項の記載を援用することができる。
【0083】
溶融混練工程の態様としては、溶融混練された樹脂組成物を得ることができる限り、特に限定されない。溶融混練工程の具体例としては、例えば以下(a1)および(a2)の方法が挙げられる:
(a1)P3HA系樹脂と、必要に応じてその他の樹脂および添加剤とを混合装置などで混合またはブレンドし、樹脂組成物を調製する。その後、該樹脂組成物を溶融混練装置に供給し、溶融混練する方法;
(a2)P3HA系樹脂と、必要に応じてその他の樹脂および添加剤とを溶融混練装置に供給し、溶融混練装置内で樹脂組成物を調製する(完成させる)とともに、該樹脂組成物を溶融混練する方法。
【0084】
造粒工程の態様としては、溶融混練された樹脂組成物を所望の形状に成形できる限り、特に限定されない。前記溶融混練装置としてダイスおよび切断装置を備える溶融混練装置を使用することにより、造粒工程において、溶融混練された樹脂組成物を所望の形状に容易に成形できる。具体的には、溶融混練された樹脂組成物を、溶融混練装置に備えられたダイスのノズルから吐出し、吐出と同時に、または吐出後に樹脂組成物を切断装置により切断することにより、所望の形状に成形できる。得られる樹脂粒子の形状としては特に限定されないが、発泡に利用しやすいことから、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などが好ましい。
【0085】
(発泡工程)
本発泡粒子の製造方法における発泡工程の態様としては、樹脂粒子を発泡させることができる限り、特に限定されない。本発明の一実施形態において、発泡工程は、
(a)樹脂粒子と、水系分散媒(例えば、蒸留水および脱イオン水など)と、架橋剤(例えば、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネートなどの有機過酸化物)と、発泡剤(例えば、二酸化炭素などの無機ガス)と、必要に応じて分散剤(例えば、第三リン酸カルシウムおよびカオリンなどの無機物)、および/または分散助剤(例えば、アルカンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤)等を容器中に分散させる分散工程と、
(b)容器内温度を一定温度まで昇温し、かつ容器内圧力を一定圧力まで昇圧する昇温-昇圧工程と、
(c)容器内温度および圧力を一定温度かつ一定圧力で保持する保持工程と、
(d)容器の一端を解放し、容器内の分散液を、発泡圧力(すなわち、容器内圧力)よりも低圧の領域(空間)に放出する放出工程と、を含むことが好ましい。
【0086】
分散工程において、樹脂粒子に架橋剤を含浸および反応させるとき、P3HA系樹脂の架橋効率を上げるために、容器内の酸素濃度および分散液中の溶存酸素量を低くすることが好ましい。容器内の酸素濃度および分散液中の溶存酸素量を低くする方法としては、二酸化炭素および窒素等の無機ガスで容器内の気体および分散液中に溶解している気体を置換すること、並びに容器内の気体を真空引きすることが挙げられる。
【0087】
(昇温-昇圧工程および保持工程)
昇温-昇圧工程は、分散工程後に実施されることが好ましく、保持工程は、昇温-昇圧工程後に実施されることが好ましい。本明細書において、昇温-昇圧工程および保持工程における(a)一定温度を発泡温度と称する場合があり、(b)一定圧力を発泡圧力と称する場合がある。
【0088】
発泡温度は、P3HA系樹脂の種類、発泡剤の種類、P3HA系樹脂の可塑化の程度、所望の発泡粒子の見かけ密度等によって異なるので、一概には規定できないが、発泡前の樹脂粒子の融解ピーク温度(Tmp)よりも低い温度とすることが好ましい。発泡温度は、例えば、(Tmp-25)℃~(Tmp-10)℃が好ましく、(Tmp-20)℃~(Tmp-15)℃がより好ましく、(Tmp-19)℃~(Tmp-16)℃がさらに好ましい。発泡温度が上記範囲内にある場合、より安定して所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を提供することができる。また、発泡温度が(Tmp-25)℃以上である場合、密度の好適な発泡粒子が得られる傾向がある。一方、発泡温度が(Tmp-10)℃以下である場合、容器内で樹脂粒子の加水分解が起こり難い傾向がある。
【0089】
発泡圧力は、例えば、1.0MPa(ゲージ圧)~10.0MPa(ゲージ圧)が好ましく、2.0MPa(ゲージ圧)~5.0MPa(ゲージ圧)がより好ましく、2.5MPa(ゲージ圧)~4.0MPa(ゲージ圧)がさらに好ましい。発泡圧力が1.0MPa(ゲージ圧)以上であれば、密度の好適な発泡粒子を得ることができる。
【0090】
保持工程において、容器内の分散液を発泡温度および発泡圧力付近で保持する時間(保持時間)は、特に限定されないが、保持時間は、5分間~120分間が好ましく、10分間~120分間がより好ましく、15分間~90分間がさらに好ましく、15分間~70分間が特に好ましい。保持時間が上記範囲内にある場合、より安定して所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を提供することができる。また、保持時間が5分間以上である場合、未反応の架橋剤が残り難い傾向がある。一方、120分間以下である場合、樹脂粒子の含むP3HAの余分な加水分解が起こり難い傾向がある。
【0091】
(放出工程)
放出工程は、昇温-昇圧工程後、または保持工程後、に実施されることが好ましい。放出工程により、樹脂粒子を発泡させることができ、結果として発泡粒子が得られる。
【0092】
放出工程において、「発泡圧力よりも低圧の領域」は、「発泡圧力よりも低い圧力下の領域」または「発泡圧力よりも低い圧力下の空間」を意図し、「発泡圧力よりも低圧の雰囲気下」ともいえる。発泡圧力よりも低圧の領域は、発泡圧力よりも低圧であれば特に限定されず、例えば、大気圧下の領域であってもよい。
【0093】
(二段発泡工程)
本発泡粒子の製造方法において、発泡工程だけでは、所望の見かけ密度の発泡粒子が得られない場合がある。その場合、発泡工程で得られた発泡粒子をさらに膨張させる二段発泡工程をさらに実施してもよい。二段発泡工程の具体的な態様としては、発泡工程で得られた発泡粒子をさらに膨張させることにより、発泡工程で得られた発泡粒子の見かけ密度よりもさらに小さい見かけ密度の発泡粒子を得られる限り特に限定されない。二段発泡工程としては、例えば、以下のような態様が挙げられる:(s1)発泡工程で得られた発泡粒子を容器内に供給する;(s2)容器内に空気または二酸化炭素などの無機ガスを供給して容器内圧力を昇圧する;(s3)前記(s2)により、発泡粒子に該無機ガスを含浸させ、発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くする;(s4)その後、該発泡粒子を水蒸気等で加熱して更に膨張させ、所望の見かけ密度の発泡粒子を得る。二段発泡工程にて得られる発泡粒子を二段発泡粒子と称する場合がある。また、二段発泡工程を行う場合、前記発泡工程を一段発泡工程と称し、一段発泡工程で得られる発泡粒子を一段発泡粒子と称する場合がある。
【0094】
〔4.P3HA系発泡成形体〕
本発明の一実施形態において、本発泡粒子を成形してなる発泡成形体を提供する。本発泡成形体は、本発泡粒子を含む発泡成形体であると言え、本樹脂組成物を含む発泡成形体であるとも言える。
【0095】
(発泡成形体の密度)
本発泡成形体の密度(見かけ密度)は特に限定されないが、20g/L~300g/Lであることが好ましく、23g/L~250g/Lであることがより好ましく、25g/L~200g/Lであることがさらに好ましい。発泡成形体の密度が、(a)20g/L以上である場合、発泡成形体は、緩衝特性および/または機械的強度に優れるという利点を有し、(b)300g/L以下である場合、発泡成形体は、軽量性に優れるという利点を有する。
【0096】
本明細書において、発泡成形体の密度(見かけ密度)の測定方法は以下の(1)~(3)の通りである;(1)得られた発泡成形体の縦方向の長さ(mm)、横方向の長さ(mm)、および厚さ方向(移動型の駆動方向)の長さ(mm)をノギスで測定し、発泡成形体の体積V(L)を算出する;(2)該発泡成形体(体積Vの発泡成形体)の重量W(g)を測定する;(3)下記の式に基づき、発泡成形体の密度を算出する;
発泡成形体の密度(g/L)=W/V。
【0097】
<ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系発泡成形体の製造方法>
本発泡成形体の製造方法(すなわち発泡粒子の成形方法)は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、次の(A)~(D)の型内発泡成形の方法等が挙げられるが、特に限定されない:
(A)本発泡粒子を容器内で無機ガスで加圧処理して、該発泡粒子内に無機ガスを含浸させ、所定の発泡粒子内圧を付与した後、該発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱する方法;
(B)本発泡粒子を金型に充填した後、該金型内の体積を10%~75%減ずるように圧縮し、水蒸気で加熱する方法;
(C)本発泡粒子をガス圧力で圧縮して金型に充填し、該発泡粒子の回復力を利用して、水蒸気で加熱する方法;
(D)特に前処理することなく、本発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱する方法。
【実施例0098】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0099】
〔材料〕
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
【0100】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))
P3HA-1:P3HB3HH(P3HB3HH中のモノマー比率は3HB/3HH=95.5/4.5(モル%/モル%))
P3HA-2:P3HB3HH(P3HB3HH中のモノマー比率は3HB/3HH=93.0/7.0(モル%/モル%))
P3HA-3:P3HB3HH(P3HB3HH中のモノマー比率は3HB/3HH=95.0/5.0(モル%/モル%))
P3HA-4:P3HBのホモポリマー
なお、これらのP3HAは、国際公開番号2018/070492号に記載の方法にて作製した。
【0101】
(気泡調整剤)
タルク(林化成社製タルカンパウダーPK-S)
(結晶核剤)
ペンタエリスリトール(三菱ケミカル社製ノイライザーP)
(滑剤)
滑剤-1:ベヘン酸アミド(CRODA社製Crodamide(登録商標) BR)
滑剤-2:エルカ酸アミド(CRODA社製Crodamide(登録商標) ER)
(分散剤)
第三リン酸カルシウム(太平化学産業社製)
(分散助剤)
アルカンスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製ラテムル(登録商標)PS)
(架橋剤)
t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(日油株式会社製パーブチル(登録商標)E、純度(含有量)97%)
(発泡剤)
二酸化炭素(エア・ウォーター株式会社製)
〔測定方法〕
実施例および比較例において実施した評価方法に関して、以下に説明する。
【0102】
(樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差)
樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差の測定方法は、以下の(1)~(3)の通りであった;(1)樹脂粒子約5mgを量り取った;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、樹脂粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最も高温側の融解ピークの温度を、融解ピーク温度(Tmp)とした;(3)さらに、融解終了時点の温度を融解終了温度(Tme)とし、計測されたTmpとTmeとの差(Tme-Tmp)を、樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差(ΔTrp)とした。
【0103】
(樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量)
樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量の測定方法は、以下の(1)~(5)の通りであった:(1)樹脂粒子約5mgを量り取った;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、樹脂粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温して、樹脂粒子を融解した;(3)前記(2)の過程で得られるDSC曲線において、融解開始時点の温度を表す点と融解終了温度(Tme)を表す点とを直線で結びベースラインを作成した;(4)最も高温側の融解ピークを通る直線を、X軸(温度の軸)に対して垂直方向に引いた;(5)作成したベースラインと融解ピーク温度を通る直線とDSC曲線とに囲まれる領域のうち、高温側の領域から算出される熱量を、樹脂粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量(MErp)とした。
【0104】
(樹脂粒子のMFR)
メルトフローインデックステスター(安田精機製作所社製)を用いて、JIS K7210に準じて、荷重を5kgで測定した値を樹脂粒子のMFRとした。なお、測定温度としては、前記「樹脂粒子の融解ピーク温度と融解終了温度との差」で得られるDSC曲線から読み取った融解終了温度+1℃~10℃の条件で測定して得られた値を設定した。
【0105】
(発泡粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量)
発泡粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量の測定方法は、以下の(1)~(5)の通りであった:(1)発泡粒子約5mgを量り取った;(2)示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC7020)を用いて、発泡粒子の温度を10℃/分の昇温速度にて10℃から190℃まで昇温して、発泡粒子を融解した;(3)前記(2)の過程で得られるDSC曲線において、融解開始時点の温度を表す点と融解終了温度を表す点とを直線で結びベースラインを作成した;(4)最も高温の融解ピークと、該最も高温の融解ピークの隣の融解ピークとの間の極大点を通る直線(極大点を通る直線)を、X軸(温度の軸)に対して垂直方向に引いた;(5)作成したベースラインと、極大点を通る直線と、DSC曲線とに囲まれる領域のうち、最も高温側の領域から算出される熱量を、発泡粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量とした。
【0106】
(発泡粒子の温度依存性)
発泡粒子の温度依存性の測定方法は、以下の(1)~(2)の通りであった:(1)測定対象である発泡粒子の原料とした樹脂粒子を、昇温-昇圧工程および保持工程における発泡温度を1℃低い温度に設定すること以外は、評価対象である発泡粒子と同様の条件で発泡して、比較発泡粒子を得た;(2)得られた比較発泡粒子の「最も高温側の融解ピークの融解熱量」と、評価対象である発泡粒子の「最も高温側の融解ピークの融解熱量」との差(1℃当たりの変化量)を、発泡粒子の温度依存性とした。なお、評価対象である発泡粒子および比較発泡粒子の「最も高温側の融解ピークの融解熱量」の測定方法は、(発泡粒子の融解ピーク温度以上の融解熱量)項の通りであった。
【0107】
(発泡粒子の安定生産性)
発泡粒子の安定生産性を、以下の基準にて評価した:
〇(良好):発泡粒子の温度依存性が3.0(J/g)/℃以下である
×(不良):発泡粒子の温度依存性が3.0(J/g)/℃超である。
【0108】
発泡粒子の安定生産性が〇(良好)評価である発泡粒子は、発泡温度が変化した場合であっても、安定した品質の(所望の融解ピーク温度以上の融解熱量を有する)発泡粒子を生産することができる。一方で、発泡粒子の安定生産性×(不良)評価である発泡粒子は、発泡温度が変化した場合の、融解ピーク温度以上の融解熱量の変化が大きく、安定した品質の発泡粒子の生産が困難である。
【0109】
(発泡粒子の見かけ密度)
発泡粒子の見かけ密度の測定方法は、以下の(1)~(3)の通りであった:(1)質量Wd(g)の発泡粒子を、金網上に載せ、メスシリンダー内に収容されたエタノールに浸漬した;(2)メスシリンダーの液面位置の上昇分に基づき、該発泡粒子の容積Vd(L)を測定した;(3)下記式に基づき、発泡粒子の見かけ密度を算出した:
発泡粒子の見かけ密度(g/L)=Wd(g)/Vd(L)。
【0110】
(発泡粒子のゲル分率)
発泡粒子のゲル分率の測定方法は以下の(1)~(5)の通りであった:(1)100mlのフラスコに、0.5gの発泡粒子と、50mlのクロロホルムとを入れた;(2)大気圧下、62℃で、フラスコ内の混合物を8時間加熱還流した;(3)得られる加熱処理物を100メッシュの金網を備える吸引濾過装置を用いて濾過処理した;(4)金網上の濾過処理物を、80℃のオーブン中で真空条件下にて8時間乾燥し、乾燥物の重量Wgw(g)を測定した;(5)以下の式により、ゲル分率を算出した:
ゲル分率(重量%)={Wgw/0.5}×100。
【0111】
(発泡成形体の密度)
発泡成形体の密度(発泡成形体密度)の測定方法は以下の(1)~(3)の通りであった;(1)得られた発泡成形体の縦方向(mm)、横方向(mm)、および厚さ方向(移動型の駆動方向)の長さ(mm)をデジタルノギス(ミツトヨ社製ABSデジマチックキャリパCD-45C)で測定し、発泡成形体の体積V(L)を算出した;(2)該発泡成形体の重量W(g)を測定した;(3)下記の式に基づき、発泡成形体の密度を算出した;
発泡成形体の密度(g/L)=W/V。
【0112】
〔実施例1〕
(樹脂粒子調製工程)
P3HA系樹脂としてP3HA-1とP3HA-2との混合物(P3HA-1が80重量%、P3HA-2が20重量%)100重量部と、気泡調整剤0.1重量部と、結晶核剤1.0重量部と、滑剤-1を0.10重量部と、滑剤-2を0.10重量部とを計量し、ドライブレンドして樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、二軸押出機(東芝機械社製TEM-26SX)を用いて、シリンダー設定温度140℃~165℃で溶融混練し、溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を43℃で水冷後、切断して、1粒当たりの重量が1.6mgの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子について、融解ピーク温度、融解終了温度、融解ピーク温度と融解終了温度の差、融解ピーク温度以上の融解熱量、および、MFRを測定した。結果を表1に示す。
【0113】
(発泡工程)
樹脂粒子調製工程で得られた樹脂粒子100重量部、純水200重量部、分散剤1.0重量部、分散助剤0.1重量部、および架橋剤2重量部を、攪拌下で耐圧容器内に仕込んだ後、炭酸ガスで十分に通気を行い耐圧容器内の酸素を除去した。次に、耐圧容器内に発泡剤として二酸化炭素を導入した。その後、耐圧容器内容物を樹脂組成物の融解ピーク温度-25℃~融解ピーク温度-10℃(実施例1においては、129.5℃)の発泡温度まで昇温した。さらに、耐圧容器内に二酸化炭素を追加導入して、耐圧容器内の圧力を3.3MPa(ゲージ圧)の発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度付近、該発泡圧力付近で60分間保持した。その後、耐圧容器下部のバルブを開き、直径3.6mmの開口オリフィスを通して、耐圧容器の内容物を大気圧下に放出し、発泡粒子を得た。該発泡粒子の表面に付着した分散剤を洗浄した後、90℃で乾燥した。得られた発泡粒子(乾燥後の発泡粒子)について、最も高温側の融解ピークの融解熱量、融解ピークの数、見かけ密度、および、ゲル分率を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
次いで、発泡粒子の温度依存性を確認するために、発泡温度を1℃低い温度(実施例1においては、128.5℃)に変更したこと以外は上記の方法と同様の方法で発泡粒子(比較発泡粒子)を得、得られた比較発泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量を測定した。得られた最も高温側の融解ピークの融解熱量と、比較泡粒子の最も高温側の融解ピークの融解熱量と、に基づき、発泡粒子の温度依存性を算出した。さらに、算出した発泡粒子の温度依存性に基づき、発泡粒子の安定生産性を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
(発泡成形体の製造)
発泡工程で得られた発泡粒子(発泡温度が129.5℃の発泡粒子)を、80℃に加温した耐圧容器に仕込み、空気で加圧処理することで発泡粒子内圧を0.15MPa(絶対圧)とした。該発泡粒子を成形機(DAISEN社製EP-900L-M5)の縦370mm×横320mm×厚み60mmの金型内に充填した。次に、圧力0.15MPa(ゲージ圧)の加熱水蒸気で加熱して発泡成形体を得、得られた発泡成形体を75℃で乾燥した。得られた発泡成形体の密度を表1に示す。また、得られた発泡成形体の表面を目視にて確認したところ、当該発泡成形体は、表面の発泡粒子間にほぼ隙間が無く、かつ、ヒケの無い発泡成形体であった。
【0116】
〔実施例2~3、比較例1~2〕
P3HA系樹脂の種類および量を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂粒子および発泡粒子を作製し、実施例1と同様に、各物性を測定、評価した。結果を表1に示す。なお、実施例2~3で得られた発泡成形体の表面を目視にて確認したところ、これらの発泡成形体は、何れも、表面の発泡粒子間にほぼ隙間が無く、かつ、ヒケの無い発泡成形体であった。
【0117】
【表1】
【0118】
〔まとめ〕
表1より、以下のことが明らかにわかる:
(1)融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃の範囲内であり、かつ、融解ピーク温度以上の融解熱量が5J/g~15J/gの範囲内である樹脂粒子を発泡してなる実施例1~3の発泡粒子は、何れも、発泡粒子の温度依存性が3.0(J/g)/℃以下であり、安定生産性に優れる発泡粒子であること、すなわち、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できる発泡粒子であることが分かる。さらに、実施例1~3の発泡粒子を成形してなる発泡成形体は、表面の発泡粒子間にほぼ隙間が無く、かつ、ヒケの無い、表面性および収縮抑制性に優れる発泡成形体となることも分かる。
【0119】
(2)実施例1~3と、比較例1との比較より、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃の範囲外である樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子は、発泡粒子の温度依存性が3.0(J/g)/℃超であり、所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を安定して製造できないことが分かる。
【0120】
(3)実施例1~3と、比較例2との比較より、融解ピーク温度と融解終了温度との差が8℃~20℃の範囲外である樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子は、発泡粒子の温度依存性が3.0(J/g)/℃超であり、所望の高温側の融解熱量を有する発泡粒子を安定して製造できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の一実施形態によれば、所望の高温側の融解熱量を有し、かつ、安定して製造できる発泡粒子を提供できる。本発泡粒子を成形してなる発泡成形体は、包装用緩衝材(例えば、冷蔵庫、冷凍庫、エアコンディショナー本体やその室外機、洗濯機、空気清浄器、加湿器、炊飯器、電子レンジ、オーブン、トースター、扇風機、蓄電池用ユニット等の家電包装用緩衝材、トランスミッション、ルーフ、フード、ドア、電池、エンジン等の自動車物品包装用緩衝材等)、自動車部材(例えば、バンパー芯材、ヘッドレスト、ラゲージボックス、ツールボックス、フロアスペーサー、シート芯材、チャイルドシート芯材、サンバイザー芯材、二―パッド等)、断熱材(例えば、定温保管用容器、定温輸送用容器等)、鋳造模型用途、農産箱、魚箱、建築材料および土木材料等の分野で好適に利用することができる。
図1