(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141263
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】通信システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/493 20070101AFI20230928BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230928BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047489
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】北村 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770CA05
5H770DA03
5H770DA22
5H770EA01
5H770EA30
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Y
(57)【要約】
【課題】各装置の性能や通信環境にかかわらず、内部値を適切に収束させることができる通信システムを提供する。
【解決手段】それぞれが通信機能を有する複数の装置Aを備えた通信システムBであって、複数の装置Aは、それぞれ、内部値X
iを生成する内部値生成部31と、少なくとも1つの他の装置Aと通信を行う通信部34とを備えている。通信部34は、内部値生成部31が生成した内部値X
iを、他の装置Aの少なくとも1つに送信する。内部値生成部31は、生成した内部値X
iと、通信部34が他の装置Aの少なくとも1つより受信した内部値X
jとに基づく演算結果を用いて、生成した内部値X
iの更新を行う。通信部34が送信を行うタイミングは、他の装置Aの通信部34とは異なるタイミングである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが通信機能を有する複数の装置を備えた通信システムであって、
前記複数の装置は、それぞれ、
内部値を生成する内部値生成手段と、
少なくとも1つの他の装置と通信を行う通信手段と、
を備え、
前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の装置の少なくとも1つに送信し、
前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、前記生成した内部値の更新を行い、
前記通信手段が送信を行うタイミングは、前記他の装置の通信手段とは異なるタイミングである、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記内部値生成手段は、前記通信手段が前記他の装置のいずれかから内部値を受信した時に、当該受信した内部値と、この時に生成した内部値との差を演算して減算結果とする、
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記内部値生成手段は、各装置の前記通信手段が送信を行うタイミングとは異なる更新タイミングで、前回の更新タイミングから今回の更新タイミングまでの間で演算された減算結果を用いて、前記生成した内部値を更新する、
請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記複数の装置の数がnであり、前記更新タイミングの周期がΔtである場合、
前記複数の装置の各通信手段が送信を行うタイミングは、(Δt/(n+1))ずつずれている、
請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
前記内部値生成手段が生成する内部値は、常に変化している、
請求項1ないし4のいずれかに記載の通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれが通信機能を有して、他の装置との間で内部値を送受信することで当該内部値を一致させる複数の装置を備えた通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の装置の内部値を、これらの装置全体を管理する管理装置が一致させるのではなく、各装置同士が通信によって内部値を送受信することで一致させる方法が開発されている。当該方法は、各装置が内部値を少なくとも1つの他の装置に送受信して、生成した内部値と受信した内部値とに基づく演算結果を用いて内部値を更新するものである。この処理が各装置それぞれで行われることにより、各装置の内部値は同じ値に収束する。この方法を用いた例として、特許文献1にはインバータ装置の内部位相を同期することが記載され、特許文献2には各インバータ装置の補償値を一致させることで、出力有効電力の抑制量を調整することが記載され、特許文献3には各計測装置が計測値に基づく内部平均値を一致させることで、全体の平均値を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015‐027155号公報
【特許文献2】特開2015‐084612号公報
【特許文献3】特開2015‐166901号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Reza Olfati-Saber, J. Alex Fax, and Richard M. Murray, “Consensus and Cooperation in Networked Multi-Agent Systems”, Proceedings of the IEEE, Vol.95, No.1, (2007)
【非特許文献2】Mehran Mesbahi and Magnus Egerstedt, “Graph Theoretic Methods in Multiagent Networks”, Princeton (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載の発明において、生成した内部値と受信した内部値とに基づく演算について、内部値の取得タイミングが一致していなければ、適切に収束しなかったり、内部値が想定される値に収束しなかったり等の問題が発生する場合がある。これらの問題を防ぐためには、各装置間の内部値の送受信、内部値に基づく演算、および、演算結果を用いた内部値の更新を、同じタイミングで一度に行う必要がある。特に、特許文献1に記載の発明のように、同期の精度を高くする必要があるシステムにおいては、各装置の性能や通信環境が大きな制約となり、システム実現の課題となっている。
【0006】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、各装置の性能や通信環境にかかわらず、内部値を適切に収束させることができる通信システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される通信システムは、それぞれが通信機能を有する複数の装置を備えた通信システムであって、前記複数の装置は、それぞれ、内部値を生成する内部値生成手段と、少なくとも1つの他の装置と通信を行う通信手段と、を備え、前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の装置の少なくとも1つに送信し、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、前記生成した内部値の更新を行い、前記通信手段が送信を行うタイミングは、前記他の装置の通信手段とは異なるタイミングである、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記通信手段が前記他の装置のいずれかから内部値を受信した時に、当該受信した内部値と、この時に生成した内部値との差を演算して減算結果とする。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、各装置の前記通信手段が送信を行うタイミングとは異なる更新タイミングで、前回の更新タイミングから今回の更新タイミングまでの間で演算された減算結果を用いて、前記生成した内部値を更新する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記複数の装置の数がnであり、前記更新タイミングの周期がΔtである場合、前記複数の装置の各通信手段が送信を行うタイミングは、(Δt/(n+1))ずつずれている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段が生成する内部値は、常に変化している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、内部値生成手段は、生成した内部値と、通信手段が受信した他の装置の内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値の更新を行う。各装置の内部値生成手段が、同様に更新を行うことで、すべての装置の内部値が同じ値に収束する。ある装置の通信手段は、他の装置の通信手段とは異なるタイミングで内部値の送信を行うので、他の装置に内部値を送信するタイミングと、他の装置から内部値を受信するタイミングとをずらすことができる。これにより、本発明に係る通信システムは、各装置の通信手段が他の装置の通信手段と同じタイミングで内部値の送信を行う場合と比較して、各装置の性能や通信環境の制約による影響を受けにくい。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る通信システムを説明するための図であり、(a)は通信システムを構成する複数の装置の通信状態を示す図であり、(b)は各装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図2】各装置間の通信の例について説明するための図である。
【
図3】装置の制御回路が行う内部値の更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。
【
図4】第2実施形態に係る通信システムを説明するための図であり、通信システムを構成する各装置の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
図1は、第1実施形態に係る通信システムBを説明するための図である。
図1(a)は、通信システムBを構成する複数の装置Aの通信状態を示す図である。
図1(b)は、各装置Aの内部構成を示すブロック図である。本実施形態では、各装置Aが分散形電源であり、通信システムBは、互いに並列接続された各装置A(分散形電源)のインバータ装置の内部位相を同期させる。
【0018】
図1(a)に示すように、各装置Aは他の装置Aと通信を行っており、通信を行っている装置A全体でネットワークを構成している。
図1(a)においては、5つの装置A(A1~A5)がネットワークを構成している状態を示している。なお、実際のネットワークは、より多くの装置Aで構成されているが、説明の簡略化のために極端に少ないケースを示している。
【0019】
図1(a)に示す実線矢印は、相互通信を行っていることを示している。本実施形態では、装置A1~A5がそれぞれ、他のすべての装置Aと相互通信を行っている。なお、通信システムBにおいて、装置A1~A5がそれぞれ、他のすべての装置Aと相互通信を行う必要はない。各装置Aがネットワークを構成している装置Aのうち、少なくとも1つの装置A(例えば、近隣に位置するものや、通信が確立されたもの)と通信を行っており、ネットワークを構成している任意の2つの装置Aに対して通信経路が存在している状態(以下ではこの状態を「連結状態」という)であればよい。
【0020】
図1(b)に示すように、本実施形態において、装置Aは、分散形電源であり、直流電源1、インバータ回路2、および、制御回路3を備えている。装置Aは、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換して出力する。インバータ回路2および制御回路3をまとめたものがインバータ装置であり、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。なお、装置Aの構成は限定されない。
【0021】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路2は、制御回路3から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。なお、インバータ回路2の構成は限定されない。
【0022】
制御回路3は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路3は、装置Aに設けられた各センサが検出したインバータ回路2の入力電圧、出力電圧、出力電流などに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。制御回路3は、内部値生成部31、指令信号生成部32、PWM信号生成部33、および、通信部34を備えている。
【0023】
内部値生成部31は、指令信号を生成するために用いられる内部位相を内部値X
iとして生成するものである。本明細書では、自装置(i番目の装置A)で生成された内部値をX
iと記載する。装置Aの数がn(
図1(a)の例ではn=5)の場合、iは1~nの自然数である。内部値生成部31の詳細については、後述する。
【0024】
指令信号生成部32は、出力電圧制御を行うための指令信号を生成するものである。指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した三相の電圧信号に、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)および回転座標変換処理(dq変換処理)を行い、d軸成分とq軸成分の信号に変換する。三相/二相変換処理とは、三相の交流信号をそれと等価な二相の交流信号に変換する処理であり、三相の交流信号を静止した直交座標系(以下、「静止座標系」という)における直交するα軸とβ軸の成分にそれぞれ分解して各軸の成分を足し合わせることで、α軸成分の交流信号とβ軸成分の交流信号に変換するものである。また、回転座標変換処理とは、静止座標系の二相(α軸成分とβ軸成分)の信号を回転座標系の二相(d軸成分とq軸成分)の信号に変換する処理である。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、所定の角周波数ω0で回転する直交座標系である。回転座標変換処理は、内部値生成部31より入力される内部値Xi(内部位相)に基づいて行われる。
【0025】
指令信号生成部32は、電圧信号のd軸成分とq軸成分から直流成分だけを抽出し、それぞれ別に制御処理を行って、2つの補償信号に静止座標変換処理(逆dq変換処理)および二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行って3つの補償信号に変換する。静止座標変換処理は回転座標変換処理の逆の処理を行い、二相/三相変換処理は三相/二相変換処理の逆の処理を行う。静止座標変換処理は、内部値生成部31より入力される内部値Xi(内部位相)に基づいて行われる。指令信号生成部32は、内部値生成部31より入力される内部値Xiに基づいて生成された正弦波信号と、3つの補償信号とから3つの指令信号を生成して、PWM信号生成部33に出力する。指令信号生成部32は、インバータ回路2の入力電圧の制御を行うが、これらの説明は省略する。なお、本実施形態では、装置Aが三相のシステムである場合について説明したが、単相のシステムであってもよい。単相のシステムの場合、指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した単相の電圧信号に対して制御を行えばよい。
【0026】
PWM信号生成部33は、PWM信号を生成するものである。PWM信号生成部33は、キャリア信号と指令信号生成部32より入力される指令信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。例えば、指令信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、指令信号がキャリア信号以下の場合にローレベルとなるパルス信号が、PWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。なお、PWM信号生成部33の構成は限定されない。
【0027】
通信部34は、他の装置Aとの間で通信を行うものである。通信部34は、内部値生成部31が生成した内部値Xiを入力され、他の装置Aの通信部34に送信する。また、通信部34は、他の装置Aの通信部34から受信した内部値Xjを、内部値生成部31に出力する。本明細書では、他の装置Aの中のj番目の装置Aから受信する内部値をXjと記載している。jは1~nの自然数である。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。本実施形態では、通信部34が内部値Xiを他の装置Aに送信するタイミングが、他の装置Aの通信部34とは異なっている。別の言い方をすると、通信システムBを構成する複数の装置Aは、自身の内部値Xiを他の装置Aに送信するタイミングが互いに異なっている。
【0028】
内部値生成部31は、時間に応じて変化する内部値X
iを生成して出力する。また、内部値生成部31は、生成した内部値X
iと、通信部34より入力される、他の装置Aの内部値X
jとを用いて、内部値X
iを更新する。内部値X
iと内部値X
jとが異なっていても、内部値生成部31での更新処理が繰り返されることで、内部値X
iと内部値X
jとが同じ値に収束する。
図1(b)に示すように、内部値生成部31は、演算部311、加算器313、および積分器314を備えている。
【0029】
演算部311は、通信部34から入力される各内部値Xjから、内部値生成部31が生成した内部値Xiをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した演算結果Diに所定の係数εを乗算して加算器313に出力する。係数εは、0<ε<1/dmaxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。dmaxは、通信部34が通信を行う他の装置Aの数であるdiのうち、通信システムBを構成するすべての装置Aの中で最大のものである。係数εは、積分器314への加算値が大きく(小さく)なりすぎて、内部値Xiの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、乗算されるものである。
【0030】
加算器313は、演算部311からの入力と所定の角周波数ω0とを加算して、修正角周波数ωiとして積分器314に出力する。積分器314は、加算器313から入力される修正角周波数ωiを積分することで内部値Xiを生成して出力する。積分器314は、前回生成した内部値Xiに修正角周波数ωiを加算することで内部値Xiを生成する。また、積分器314は、内部値Xiを(-π<Xi≦π)の範囲の値として出力する。なお、内部値Xiの範囲の設定の仕方はこれに限定されず、例えば、(0≦Xi<2π)としてもよい。積分器314は、内部値Xiを、指令信号生成部32、通信部34、および演算部311に出力する。
【0031】
演算部311は、通信部34がいずれかの装置Aから内部値X
jを受信する毎に、当該内部値X
jとこの時(内部値X
jを受信した時)に内部値生成部31が生成した内部値X
iとの差を演算する。内部値X
iおよび内部値X
jは、時間に応じて変化しており、それぞれ時刻tのときの値を、X
i(t)、X
j(t)と記載する。演算部311は、他の装置Aの内部値X
jと自装置の内部値X
iとの差(減算結果)を順次算出して、更新周期Δtごとに、これらの減算結果をすべて加算し、係数εを乗算する。本実施形態では、更新周期Δtを装置Aの数n(
図1(a)の例ではn=5)に1を足した(n+1)の時限に分割し、各装置Aがそれぞれ時限をずらして他の装置Aに内部値X
iを送信し、最後の時限で各装置Aが内部値X
iの更新を行う。つまり、各装置Aの通信部34は、他の装置Aの通信部34とは異なるタイミングで、内部値X
iを他の装置Aに送信する。また、各装置Aの内部値生成部31は、各装置Aの通信部34が送信を行うタイミングとは異なる更新タイミングで、内部値X
iの更新を行う。なお、更新周期Δtは限定されないが、本実施形態では例えば1秒程度である。この場合、
図1(a)の例では、各時限は(1/6)秒程度になる。
【0032】
たとえば、装置A1は、時刻t=0のタイミングで内部値X
1(0)を他の装置Aに送信する(
図2(a)参照)。装置A2は、時刻t=(1/6)Δtのタイミングで内部値X
2((1/6)Δt)を他の装置Aに送信する(
図2(b)参照)。装置A3は、時刻t=(2/6)Δtのタイミングで内部値X
3((2/6)Δt)を他の装置Aに送信する(
図2(c)参照)。また、装置A4は時刻t=(3/6)Δtのタイミングで内部値X
4((3/6)Δt)を他の装置Aに送信し、装置A5は時刻t=(4/6)Δtのタイミングで内部値X
5((1/6)Δt)を他の装置Aに送信する。その後、時刻t=(5/6)Δtのタイミングで、各装置Aは、減算結果の加算および係数εの乗算を行い、その演算結果を加算することで、内部値X
iを更新する。したがって、各装置Aの内部値X
iは、更新周期Δtごとに、演算結果に応じて更新される。
【0033】
この更新周期Δtの間も、時間の経過と角周波数ω0に応じて、内部値Xiは変化している。つまり、装置Aの内部値生成部31が生成する内部値Xiは、下記(1)式および下記(2)式で表される。下記(1)式は、更新タイミングでの演算を表している。下記(2)式は、更新タイミング間での演算を表している。係数aijは、「1」か「0」が設定される。通信部34が受信した内部値Xjに対して係数aijは「1」が設定され、受信しない内部値Xjに対して係数aijは「0」が設定される。
【0034】
【0035】
なお、各装置Aが他の装置Aに内部値Xiを送信するタイミングは、等間隔でなくてもよい。また、最後の装置Aが内部値Xiの送信を行った時点で、各装置Aが演算および内部値Xiの更新をしてもよく、この場合は、更新周期Δtを装置Aの数nの時限に分割すればよい。
【0036】
内部値生成部31は、更新周期Δtごとに、上記(1)式により内部値Xiの更新を行う。この更新が各装置Aそれぞれで行われることにより、各装置Aの内部値Xiは同じ値に収束する。内部値Xiは時間とともに変化するものであり、角周波数ω0に応じて変化する成分と、初期位相のずれを補償するように変化する成分とを合成したものと考えることができる。後者が同じ値Xαに収束することで、各装置Aの内部値Xiも同じ値に収束する。後者が同じ値に収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値Xαが、下記(3)式に示すように、各装置Aの内部値Xiの初期値の相加平均値になることも証明されている。下記(3)式は、装置A1~Anの内部値X1~Xnの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【0037】
【0038】
図3は、装置A1の制御回路3が行う内部値X
i(X
1)の更新処理を説明するためのフローチャートである。当該更新処理は、更新周期Δtごとに実行される。
【0039】
まず、内部値X1が、他の装置Aに送信される(S1)。次に、他の装置A(A2)の内部値X2が受信されたか否かが判別される(S2)。内部値X2が受信されていない場合(S2:NO)、ステップS2に戻って、ステップS2の判別を繰り返す。内部値X2が受信された場合(S2:YES)、(X2-X1)が演算される(S3)。当該演算では、内部値X2が受信された時の内部値X1が用いられる。次に、他の装置A(A3)の内部値X3が受信されたか否かが判別される(S4)。内部値X3が受信されていない場合(S4:NO)、ステップS4に戻って、ステップS4の判別を繰り返す。内部値X3が受信された場合(S4:YES)、(X3-X1)が演算される(S5)。当該演算では、内部値X3が受信された時の内部値X1が用いられる。
【0040】
次に、他の装置A(A4)の内部値X4が受信されたか否かが判別される(S6)。内部値X4が受信されていない場合(S6:NO)、ステップS6に戻って、ステップS6の判別を繰り返す。内部値X4が受信された場合(S6:YES)、(X4-X1)が演算される(S7)。当該演算では、内部値X4が受信された時の内部値X1が用いられる。次に、他の装置A(A5)の内部値X5が受信されたか否かが判別される(S8)。内部値X5が受信されていない場合(S8:NO)、ステップS8に戻って、ステップS8の判別を繰り返す。内部値X5が受信された場合(S8:YES)、(X5-X1)が演算される(S9)。当該演算では、内部値X5が受信された時の内部値X1が用いられる。
【0041】
次に、所定の更新タイミングになるのを待つ(S10)。本実施形態では、更新周期Δtを装置Aの数nに1を足した(n+1)の時限に分割し、最後の時限を更新タイミングとしているので、ステップS1(内部値X1の送信)から(n/(n+1))Δt経過時が更新タイミングである。更新タイミングになったとき(S10:YES)に、内部値X1が更新される(S11)。具体的には、内部値生成部31が、上記(1)式に示すように、ステップS3,S5,S7,S9での演算値(減算結果)をすべて加算したDiに係数εを乗算した演算結果と、前回の更新からの経過時間である更新周期Δtに角周波数ω0を乗算した値とを、前回の更新時の内部値X1に加算することで、内部値X1を更新する。なお、装置A1の制御回路3が行う内部値Xi(X1)の更新処理は、上述したものに限定されない。
【0042】
本実施形態では、制御回路3をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路3として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0043】
次に、通信システムBの作用効果について説明する。
【0044】
本実施形態によると、内部値生成部31は、生成した内部値Xiと、通信部34が受信した他の装置Aの内部値Xjとを用いて、内部値Xiを更新する。各装置Aの内部値生成部31が、同様に更新を行うことで、すべての装置Aの内部値Xiが同じ値に収束する。ある装置Aの通信部34は、他の装置Aの通信部34とは異なるタイミングで内部値Xiの送信を行うので、他の装置Aに内部値Xiを送信するタイミングと、他の装置Aから内部値Xjを受信するタイミングとをずらすことができる。これにより、通信システムBは、各装置Aの通信部34が他の装置Aの通信部34と同じタイミングで内部値Xiの送信を行う場合と比較して、各装置Aの性能や通信環境の制約による影響を受けにくい。
【0045】
また、本実施形態によると、演算部311は、通信部34がいずれかの装置Aから内部値Xjを受信した時に、当該内部値Xjとこの時(内部値Xjを受信した時)に内部値生成部31が生成した内部値Xiとの差を演算する。したがって、通信システムBは、各装置Aの演算部311が他のすべての装置Aから一度に受信した各内部値Xjと内部値Xiとの差を一度に演算する場合と比較して、各装置Aの演算性能の制約による影響を受けにくい。
【0046】
また、本実施形態によると、演算部311は、各装置Aの通信部34が送信を行うタイミング(各減算処理を行うタイミング)とは異なる更新タイミングで、減算結果をすべて加算し、係数εを乗算する。また、内部値生成部31は、当該更新タイミングで、演算部311での演算結果に基づいて、内部値Xiの更新を行う。したがって、通信システムBは、各装置Aの演算性能の制約による影響をさらに受けにくい。
【0047】
また、本実施形態によると、各装置Aの内部値生成部31が生成する内部値Xiは、常に変化している。したがって、内部値Xjと内部値Xiとの差を演算する際に、内部値Xjと内部値Xiの取得タイミングが一致していなければ、適切に収束しない場合がある。演算部311は、通信部34がいずれかの装置Aから内部値Xjを受信した時に、当該内部値Xjとこの時(内部値Xjを受信した時)に内部値生成部31が生成した内部値Xiとの差を演算する。演算部311が同じ時の内部値Xiおよび内部値Xjに基づいて減算を行うので、通信システムBは、内部値Xiを適切に収束させることができる。
【0048】
なお、上記第1実施形態においては、装置Aの内部値Xiの初期位相のずれを補償するように変化する成分を、各装置Aの内部値Xiの初期値の相加平均値に収束させる場合について説明したが、これに限られない。演算部311に設定する演算式によって、収束値Xαは変わってくる。演算部311に設定する演算式は、限定されない。
【0049】
上記第1実施形態においては、各装置Aが分散形電源であり、通信システムBが互いに並列接続された各装置A(分散形電源)のインバータ装置の内部位相を同期させる場合について説明したが、本発明に係る通信システムは、これに限られない。通信機能を有して、ネットワークを構成する他の装置との間で内部値を送受信することで内部値を一致させる装置を備えたあらゆる通信システムにおいて、本発明を適用することができる。本発明は、例えば、各種タイミングを一致させたり、一致しないようにずらしたりする場合、電力システムを構成する各インバータ装置の内部補償値を一致させることで、出力有効電力や出力無効電力の抑制量を調整する場合、各計測装置が計測値に基づく内部平均値や最大値、最小値を一致させる場合などにも適用することができる。
【0050】
図4は、第2実施形態に係る通信システムB’を説明するための図であり、通信システムB’を構成する各装置A’の内部構成を示すブロック図である。同図において、第1実施形態に係る装置A(
図1(b)参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第2実施形態に係る通信システムB’では、各装置A’の内部値生成部31が生成する内部値X
iが更新時にのみ変化する点で、第1実施形態に係る通信システムBと異なる。なお、通信システムB’を構成する複数の装置A’の通信状態を示す図は、第1実施形態の場合(
図1(a)参照)と同様なので、記載および説明を省略する。
【0051】
第2実施形態に係る装置A’は、内部値生成部31が生成した内部値Xiに基づいて制御を行ったり、内部値Xiを用いた演算を行ったりするものである。なお、実際には、装置A’は、用途に応じて、内部値Xiを入力されて制御を行う制御手段や、演算を行う演算手段、内部値Xiを表示するための表示手段などを備えているが、本実施形態では、これらの手段の記載および説明を省略している。
【0052】
装置A’の内部値生成部31は、生成した内部値X
iと、通信部34より入力される、他の装置A’の内部値X
jとを用いて、内部値X
iを更新する。当該内部値生成部31は、内部値X
iを時間に応じて変化させず、更新時にのみ変化させる。つまり、装置A’の内部値生成部31が生成する内部値X
iは、下記(4)式および下記(5)式で表される。下記(4)式は、更新タイミングでの演算を表している。下記(5)式は、更新タイミング間での演算を表している。u(kΔt)は、時系列的な変化要素であり、t=kΔtからt=(k+1)Δtまでの間の内部値X
iの変化量を、更新時に加算するための要素である。例えば、特許文献3に係る発明は、各計測装置が計測値に基づく内部値を一致させることで全体の平均値を算出するが、前回の更新時の計測値と今回の更新時の計測値との差分をu(kΔt)として、今回の更新時に内部値に加算する。なお、第1実施形態の場合は、上記(1)式に示すように、u(kΔt)=ω
0*Δtであり、また、上記(2)式に示すように、更新タイミング間でも内部値X
iが変化する。
【数3】
【0053】
本実施形態においても、内部値生成部31は、生成した内部値Xiと、通信部34が受信した他の装置A’の内部値Xjとを用いて、内部値Xiを更新する。各装置A’の内部値生成部31が、同様に更新を行うことで、すべての装置A’の内部値Xiが同じ値に収束する。ある装置A’の通信部34は、他の装置A’の通信部34とは異なるタイミングで内部値Xiの送信を行うので、他の装置A’に内部値Xiを送信するタイミングと、他の装置A’から内部値Xjを受信するタイミングとをずらすことができる。これにより、通信システムB’は、各装置A’の通信部34が他の装置A’の通信部34と同じタイミングで内部値Xiの送信を行う場合と比較して、各装置A’の性能や通信環境の制約による影響を受けにくい。また、通信システムB’は、通信システムBと共通する構成により、通信システムBと同等の効果を奏する。
【0054】
本発明に係る通信システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る通信システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0055】
A,A1~A5,A’:装置、31:内部値生成部、34:通信部、B,B’:通信システム