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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141264
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】通信機能を備えた装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047490
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】北村 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA23
3C223BA02
3C223CC06
3C223DD06
3C223EA01
3C223EA07
3C223EB03
3C223FF02
3C223FF12
3C223FF13
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制でき、かつ、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる装置を提供する。
【解決手段】装置Aは、内部値Xを生成する内部値生成部31と、少なくとも1つの他の装置Aと通信を行う通信部34とを備えている。通信部34は、内部値生成部31が生成した内部値を、他の装置Aの少なくとも1つに送信する。内部値生成部31は、生成した内部値Xと、通信部34が他の装置Aの少なくとも1つより受信した内部値Xとに基づく演算結果を用いた第1の方法で、生成した内部値Xの更新を行う第1フェーズと、生成した内部値Xと受信した内部値Xとが第1フェーズより同期に近づいた状態であり、第1の方法とは異なる第2の方法で生成した内部値Xの更新を行う第2フェーズと、で切り替えられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部値を生成する内部値生成手段と、
少なくとも1つの他の装置と通信を行う通信手段と、
を備え、
前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の装置の少なくとも1つに送信し、
前記内部値生成手段は、
前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いた第1の方法で、前記生成した内部値の更新を行う第1フェーズと、
前記生成した内部値と前記受信した内部値とが前記第1フェーズより同期に近づいた状態であり、前記第1の方法とは異なる第2の方法で前記生成した内部値の更新を行う第2フェーズと、
で切り替えられる、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記内部値生成手段は、前記受信した内部値から前記生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した差分合計値に第1の係数を乗算することで、前記演算結果を演算し、
前記第1の方法は、前記生成した内部値に前記演算結果を加算することで更新を行う、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の方法は、前記差分合計値を第1範囲内の値に補正し、補正後の差分合計値に前記第1の係数を乗算した値を、前記生成した内部値に加算することで更新を行う、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第2の方法は、前記差分合計値に前記第1の係数より小さい第2の係数を乗算した値を、前記生成した内部値に加算することで更新を行う、
請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記第2の方法は、前記生成した内部値をそのままとする、
請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記内部値生成手段は、前記差分合計値に基づいて、前記第1フェーズと前記第2フェーズとを切り替える、
請求項2ないし5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記内部値生成手段は、前記差分合計値が第2範囲内の状態が所定回数継続した場合に、前記第1フェーズから前記第2フェーズに切り替える、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と前記受信した内部値とが前記第1フェーズより同期に近づき、かつ、前記第2フェーズより同期から離れた状態であり、前記第1の方法および前記第2の方法とは異なる第3の方法で、前記生成した内部値の更新を行う第3フェーズにさらに切り替えられる、
請求項1ないし7のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機能を備え、他の装置との間で内部値を送受信することで当該内部値を一致させることができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の装置の内部値を、これらの装置全体を管理する管理装置が一致させるのではなく、各装置同士が通信によって内部値を送受信することで一致させる方法が開発されている。当該方法は、各装置が内部値を少なくとも1つの他の装置に送受信して、生成した内部値と受信した内部値とに基づく演算結果を用いて内部値を更新するものである。この処理が各装置それぞれで行われることにより、各装置の内部値は同じ値に収束する。この方法を用いた例として、特許文献1にはインバータ装置の内部位相を同期することが記載され、特許文献2には各インバータ装置の補償値を一致させることで、出力有効電力の抑制量を調整することが記載され、特許文献3には各計測装置が計測値に基づく内部平均値を一致させることで、全体の平均値を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015‐027155号公報
【特許文献2】特開2015‐084612号公報
【特許文献3】特開2015‐166901号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Reza Olfati-Saber, J. Alex Fax, and Richard M. Murray, “Consensus and Cooperation in Networked Multi-Agent Systems”, Proceedings of the IEEE, Vol.95, No.1, (2007)
【非特許文献2】Mehran Mesbahi and Magnus Egerstedt, “Graph Theoretic Methods in Multiagent Networks”, Princeton (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当該方法においては、通信の遅延、内部処理の遅延、またはノイズなどが、内部値の同期に大きな影響を与える。例えば、ある装置が送信した内部値が、突発的な遅延や通信経路でのノイズの重畳により、受信した装置において異常な値になる場合がある。また、装置内の内部処理の遅延により、生成した内部値が異常な値になる場合がある。各装置は、生成した内部値と受信した内部値とに基づく演算結果を用いて内部値を更新するので、演算に用いられる内部値に異常な値が混じると、内部値の同期が乱される。例えば、生成した内部値が異常な値になった場合、まず、当該装置において更新された内部値が、他の装置の内部値と大きく乖離してしまう。当該装置の内部値は他の装置に送信されるので、これを受信した装置においても、内部値が異常な値に更新される。その後、各装置の内部値は収束するが、この間、同期が乱れた状態になる。内部値が他の装置の内部値と大きく乖離した場合や、同期が乱れた状態がある程度継続した場合、装置によっては問題が生じることがある。例えば、特許文献1に記載のインバータ装置の場合、内部値である内部位相の同期が乱れることで、インバータ装置が停止してしまう場合がある。一方、遅延またはノイズの影響を受けにくい仕様にすると、同期するまでの時間が長くなるという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制でき、かつ、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される装置は、内部値を生成する内部値生成手段と、少なくとも1つの他の装置と通信を行う通信手段と、を備え、前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の装置の少なくとも1つに送信し、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いた第1の方法で、前記生成した内部値の更新を行う第1フェーズと、前記生成した内部値と前記受信した内部値とが前記第1フェーズより同期に近づいた状態であり、前記第1の方法とは異なる第2の方法で前記生成した内部値の更新を行う第2フェーズと、で切り替えられる、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記受信した内部値から前記生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した差分合計値に第1の係数を乗算することで、前記演算結果を演算し、前記第1の方法は、前記生成した内部値に前記演算結果を加算することで更新を行う。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2の方法は、前記差分合計値を第1範囲内の値に補正し、補正後の差分合計値に前記第1の係数を乗算した値を、前記生成した内部値に加算することで更新を行う。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2の方法は、前記差分合計値に前記第1の係数より小さい第2の係数を乗算した値を、前記生成した内部値に加算することで更新を行う。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2の方法は、前記生成した内部値をそのままとする。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記差分合計値に基づいて、前記第1フェーズと前記第2フェーズとを切り替える。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記差分合計値が第2範囲内の状態が所定回数継続した場合に、前記第1フェーズから前記第2フェーズに切り替える。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と前記受信した内部値とが前記第1フェーズより同期に近づき、かつ、前記第2フェーズより同期から離れた状態であり、前記第1の方法および前記第2の方法とは異なる第3の方法で、前記生成した内部値の更新を行う第3フェーズにさらに切り替えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、内部値生成手段は、第1フェーズより同期に近づいた第2フェーズにおいて、第2の方法で更新を行う。第2の方法を、第1の方法より同期するまでの時間が長くなるが、遅延またはノイズの影響を受けにくい方法とすることで、内部値生成手段は、同期から離れた第1フェーズでは同期するまでの時間を短くできる更新を行い、同期に近づいた第2フェーズでは遅延またはノイズの影響を受けにくい更新を行う。これにより、本発明に係る装置は、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制でき、かつ、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る通信システムを説明するための図であり、(a)は通信システムを構成する複数の装置の通信状態を示す図であり、(b)は各装置の内部構成を示すブロック図である。
図2】フェーズの切り替えについて説明するための図である。
図3】(a)はフェーズ切替部が行うフェーズ切替処理を説明するためのフローチャートの一例であり、(b)は内部値生成部が行う内部値の更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。
図4図1の通信システムでのシミュレーション結果を示す図である。
図5】変形例における内部値生成部が行う内部値の更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。
図6】変形例における内部値生成部が行う内部値の更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態に係る装置Aを備えた通信システムBを説明するための図である。図1(a)は、通信システムBを構成する複数の装置Aの通信状態を示す図である。図1(b)は、各装置Aの内部構成を示すブロック図である。本実施形態では、各装置Aが分散形電源であり、通信システムBは、互いに並列接続された各装置A(分散形電源)のインバータ装置の内部位相を同期させる。
【0021】
図1(a)に示すように、各装置Aは他の装置Aと通信を行っており、通信を行っている装置A全体でネットワークを構成している。図1(a)においては、5つの装置A(A1~A5)がネットワークを構成している状態を示している。なお、実際のネットワークは、より多くの装置Aで構成されているが、説明の簡略化のために極端に少ないケースを示している。
【0022】
図1(a)に示す実線矢印は、相互通信を行っていることを示している。本実施形態では、装置A1~A5がそれぞれ、他のすべての装置Aと相互通信を行っている。なお、通信システムBにおいて、装置A1~A5がそれぞれ、他のすべての装置Aと相互通信を行う必要はない。各装置Aがネットワークを構成している装置Aのうち、少なくとも1つの装置A(例えば、近隣に位置するものや、通信が確立されたもの)と通信を行っており、ネットワークを構成している任意の2つの装置Aに対して通信経路が存在している状態(以下ではこの状態を「連結状態」という)であればよい。
【0023】
図1(b)に示すように、本実施形態において、装置Aは、分散形電源であり、直流電源1、インバータ回路2、および、制御回路3を備えている。装置Aは、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換して出力する。インバータ回路2および制御回路3をまとめたものがインバータ装置であり、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。なお、装置Aの構成は限定されない。
【0024】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路2は、制御回路3から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。なお、インバータ回路2の構成は限定されない。
【0025】
制御回路3は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路3は、装置Aに設けられた各センサが検出したインバータ回路2の入力電圧、出力電圧、出力電流などに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。制御回路3は、内部値生成部31、指令信号生成部32、PWM信号生成部33、および、通信部34を備えている。
【0026】
内部値生成部31は、指令信号を生成するために用いられる内部位相を内部値Xとして生成するものである。本明細書では、自装置(i番目の装置A)で生成された内部値をXと記載する。装置Aの数がn(図1(a)の例ではn=5)の場合、iは1~nの自然数である。内部値生成部31の詳細については、後述する。
【0027】
指令信号生成部32は、出力電圧制御を行うための指令信号を生成するものである。指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した三相の電圧信号に、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)および回転座標変換処理(dq変換処理)を行い、d軸成分とq軸成分の信号に変換する。三相/二相変換処理とは、三相の交流信号をそれと等価な二相の交流信号に変換する処理であり、三相の交流信号を静止した直交座標系(以下、「静止座標系」という)における直交するα軸とβ軸の成分にそれぞれ分解して各軸の成分を足し合わせることで、α軸成分の交流信号とβ軸成分の交流信号に変換するものである。また、回転座標変換処理とは、静止座標系の二相(α軸成分とβ軸成分)の信号を回転座標系の二相(d軸成分とq軸成分)の信号に変換する処理である。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、所定の角周波数ωで回転する直交座標系である。回転座標変換処理は、内部値生成部31より入力される内部値X(内部位相)に基づいて行われる。
【0028】
指令信号生成部32は、電圧信号のd軸成分とq軸成分から直流成分だけを抽出し、それぞれ別に制御処理を行って、2つの補償信号に静止座標変換処理(逆dq変換処理)および二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行って3つの補償信号に変換する。静止座標変換処理は回転座標変換処理の逆の処理を行い、二相/三相変換処理は三相/二相変換処理の逆の処理を行う。静止座標変換処理は、内部値生成部31より入力される内部値X(内部位相)に基づいて行われる。指令信号生成部32は、内部値生成部31より入力される内部値Xに基づいて生成された正弦波信号と、3つの補償信号とから3つの指令信号を生成して、PWM信号生成部33に出力する。指令信号生成部32は、インバータ回路2の入力電圧の制御を行うが、これらの説明は省略する。なお、本実施形態では、装置Aが三相のシステムである場合について説明したが、単相のシステムであってもよい。単相のシステムの場合、指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した単相の電圧信号に対して制御を行えばよい。
【0029】
PWM信号生成部33は、PWM信号を生成するものである。PWM信号生成部33は、キャリア信号と指令信号生成部32より入力される指令信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。例えば、指令信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、指令信号がキャリア信号以下の場合にローレベルとなるパルス信号が、PWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。なお、PWM信号生成部33の構成は限定されない。
【0030】
通信部34は、他の装置Aとの間で通信を行うものである。通信部34は、内部値生成部31が生成した内部値Xを入力され、他の装置Aの通信部34に送信する。また、通信部34は、他の装置Aの通信部34から受信した内部値Xを、内部値生成部31に出力する。本明細書では、他の装置Aの中のj番目の装置Aから受信する内部値をXと記載している。jは1~nの自然数である。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0031】
内部値生成部31は、時間に応じて変化する内部値Xを生成して出力する。また、内部値生成部31は、生成した内部値Xと、通信部34より入力される、他の装置Aの内部値Xとを用いて、内部値Xを更新する。内部値Xと内部値Xとが異なっていても、内部値生成部31での更新処理が繰り返されることで、内部値Xと内部値Xとが同じ値に収束する。これにより、通信システムBは、各装置Aの内部値Xを同期させることができる。本実施形態では、内部値生成部31は、第1フェーズと第2フェーズとで切り替えられる。第2フェーズは、第1フェーズより、内部値Xが同期に近づいた状態である。内部値生成部31は、フェーズによって異なる方法で、内部値Xを更新する。図1(b)に示すように、内部値生成部31は、演算部311、フェーズ切替部315、乗算器312、加算器313、および積分器314を備えている。
【0032】
演算部311は、更新周期Δtごとに、下記(1)式に基づく演算を行う。なお、更新周期Δtは限定されないが、本実施形態では例えば1秒程度である。内部値Xおよび内部値Xは、時間に応じて変化しており、それぞれ時刻tのときの値を、X(t)、X(t)と記載している。演算部311は、通信部34から入力される各内部値Xから、内部値生成部31が生成した内部値Xをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した差分合計値Dを算出する。係数aijは、「1」か「0」が設定される。通信部34が受信した内部値Xに対して係数aijは「1」が設定され、受信しない内部値Xに対して係数aijは「0」が設定される。演算部311は、算出した差分合計値Dをフェーズ切替部315に出力する。
【0033】
【数1】
【0034】
フェーズ切替部315は、演算部311から入力される差分合計値Dに基づいて、第1フェーズと第2フェーズとを切り替える。内部値Xと各内部値Xとが同期に近づくほど、差分合計値Dは「0」に近づく。フェーズ切替部315は、差分合計値Dを同期状態を判断するための指標とし、差分合計値Dの絶対値が大きく、まだ同期に近づいていない状態を第1フェーズとし、差分合計値Dの絶対値が小さく、同期に近づいた状態を第2フェーズとする。フェーズ切替部315は、第1フェーズにおいて、第1条件を満たした場合に、第1フェーズから第2フェーズに切り替える。第1条件は、同期に近づいたと判断するための条件であり、本実施形態では、差分合計値Dの絶対値が閾値Dxより小さい状態、すなわち、差分合計値Dが(-Dx<D<Dx)の範囲内である状態が、所定回数N継続したことである。閾値Dxは、フェーズを切り替えるための目安が設定される。なお、閾値Dxは限定されず、目標とする同期の精度や装置Aの数nなどに応じて適宜設定される。また、所定回数Nは限定されないが、本実施形態では、瞬間的に閾値Dxを超えた場合を排除するために、「2」以上が設定されている(本実施形態では「2」とする)。
【0035】
図2は、内部値Xと各内部値Xとが同期に近づいていくときの、フェーズの切り替えについて説明するための図である。図2においては、更新周期Δtごとの差分合計値Dが示されている。差分合計値Dが大きく第1フェーズであった状態から、差分合計値Dが徐々に減少し、差分合計値Dが閾値Dxより小さい状態が2回繰り返されたことで、第1条件を満たしたとして、第1フェーズから第2フェーズに切り替わっている。なお、図2は、差分合計値Dが大きい状態から減少した場合を示しているが、差分合計値Dは負の値の場合もある。この場合は、差分合計値Dが小さい第1フェーズであった状態から、差分合計値Dが(-Dx)より大きい状態が2回繰り返された場合に、第1条件を満たしたとして、第1フェーズから第2フェーズに切り替えられる。
【0036】
フェーズ切替部315は、フェーズによって異なる処理を行う。第1フェーズの場合、フェーズ切替部315は、差分合計値Dをそのまま、乗算器312に出力する。一方、第2フェーズの場合、フェーズ切替部315は、差分合計値Dを(T≦D≦T)の範囲に補正する。すなわち、演算部311から入力される差分合計値Dが下限値Tより小さい場合、差分合計値DをTに補正し、演算部311から入力される差分合計値Dが上限値Tより大きい場合、差分合計値DをTに補正する。そして、フェーズ切替部315は、補正後の差分合計値Dを乗算器312に出力する。上限値Tは、閾値Dxより小さい値が設定され、たとえば閾値Dxの半分程度の値が設定される。また、下限値Tは、(-Dx)より大きい値が設定され、たとえば(-Dx)の半分程度の値が設定される。なお、上限値Tおよび下限値Tは限定されない。補正後の差分合計値Dにより更新された内部値Xによって装置Aが影響を受けない(例えば停止しない)ように、上限値Tおよび下限値Tは、適宜設定される。
【0037】
また、フェーズ切替部315は、第2フェーズにおいて、第2条件を満たした場合に、第2フェーズから第1フェーズに切り替える。第2条件は、同期から離れたと判断するための条件であり、本実施形態では、フェーズ切替部315が出力する差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tである状態、すなわち、演算部311から入力される差分合計値Dが上限値T以上であるか、下限値T以下である状態が、所定回数N継続したことである。なお、所定回数Nは限定されないが、本実施形態では、例えば「2」である。
【0038】
図3(a)は、フェーズ切替部315が行うフェーズ切替処理を説明するためのフローチャートの一例である。当該フェーズ切替処理は、更新周期Δtごとに実行される。
【0039】
まず、差分合計値Dが、演算部311から取得される(S1)。次に、現在のフェーズが第1フェーズであるか否かが判別される(S2)。第1フェーズである場合(S2:YES)、差分合計値Dの絶対値が閾値Dxより小さいか否かが判別される(S3)。差分合計値Dの絶対値が閾値Dxより小さい場合(S3:YES)、当該判別がN回目であるか否かが判別される(S4)。当該判別がN回目である場合(S4:YES)、第1条件を満たしたとして、第1フェーズから第2フェーズに切り替えられて(S5)、フェーズ切替処理が終了する。差分合計値Dの絶対値が閾値Dx以上の場合(S3:NO)、または、差分合計値Dの絶対値が閾値Dxより小さいとの判別がN回目でない場合(S4:NO)、フェーズは切り替えられずに、フェーズ切替処理が終了する。
【0040】
一方、第1フェーズでない場合(S2:NO)、すなわち第2フェーズである場合、補正後の差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tであるか否かが判別される(S6)。補正後の差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tである場合(S6:YES)、当該判別がN回目であるか否かが判別される(S7)。当該判別がN回目である場合(S7:YES)、第2条件を満たしたとして、第2フェーズから第1フェーズに切り替えられて(S8)、フェーズ切替処理が終了する。差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tでない場合(S6:NO)、または、差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tであるとの判別がN回目でない場合(S7:NO)、フェーズは切り替えられずに、フェーズ切替処理が終了する。なお、フェーズ切替部315が行うフェーズ切替処理は、上述したものに限定されない。
【0041】
乗算器312は、フェーズ切替部315から入力される差分合計値Dに所定の係数εを乗算して加算器313に出力する。係数εは、0<ε<1/dmaxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。dmaxは、通信部34が通信を行う他の装置Aの数であるdのうち、通信システムBを構成するすべての装置Aの中で最大のものである。係数εは、積分器314への加算値が大きく(小さく)なりすぎて、内部値Xの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、乗算されるものである。
【0042】
加算器313は、乗算器312からの入力と所定の角周波数ωとを加算して、修正角周波数ωiとして積分器314に出力する。積分器314は、加算器313から入力される修正角周波数ωiを積分することで内部値Xを生成して出力する。積分器314は、前回生成した内部値Xに修正角周波数ωiを加算することで内部値Xを生成する。つまり、積分器314は、常に、内部値Xに角周波数ωを加算することで、内部値Xを生成する。また、積分器314は、更新周期Δtごとの更新タイミングでは、角周波数ωに加えて乗算器312からの出力を内部値Xに加算することで、内部値Xを更新する。また、積分器314は、内部値Xを(-π<X≦π)の範囲の値として出力する。なお、内部値Xの範囲の設定の仕方はこれに限定されず、例えば、(0≦X<2π)としてもよい。積分器314は、内部値Xを、指令信号生成部32、通信部34、および演算部311に出力する。
【0043】
第1フェーズの場合、内部値生成部31が生成する内部値Xは、下記(2)式および下記(3)式で表される。下記(2)式は、更新タイミングでの演算を表している。下記(3)式は、更新タイミング間での演算を表している。一方、第2フェーズの場合、内部値生成部31が生成する内部値Xは、下記(4)式および下記(3)式で表される。下記(4)式は、更新タイミングでの演算を表している。更新タイミング間で生成される内部値Xは、第1フェーズの場合と共通し、下記(3)式で表される。
【0044】
【数2】
【0045】
内部値生成部31は、更新周期Δtごとに、内部値Xの更新を行う。この更新が各装置Aそれぞれで行われることにより、各装置Aの内部値Xは同じ値に収束する。内部値Xは時間とともに変化するものであり、角周波数ωに応じて変化する成分と、初期位相のずれを補償するように変化する成分とを合成したものと考えることができる。後者が同じ値Xαに収束することで、各装置Aの内部値Xも同じ値に収束する。後者が同じ値に収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値Xαが、下記(5)式に示すように、各装置Aの内部値Xの初期値の相加平均値になることも証明されている。下記(5)式は、装置A1~Anの内部値X~Xの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【0046】
【数3】
【0047】
図3(b)は、内部値生成部31が行う内部値Xの更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。当該更新処理は、更新周期Δtごとに実行される。
【0048】
まず、差分合計値Dが算出される(S11)。具体的には、演算部311が上記(1)式に基づいて、差分合計値Dを算出する。次に、第1フェーズであるか否かが判別される(S12)。具体的には、フェーズ切替部315が、現在のフェーズが第1フェーズであるか否かを判別する。第1フェーズである場合(S12:YES)、内部値Xの更新が行われて(S13)、更新処理は終了する。この場合、内部値Xの更新は、上記(2)式によって行われる。
【0049】
一方、第1フェーズでない場合(S12:NO)、すなわち第2フェーズである場合、差分合計値Dが下限値Tより小さいか否かが判別される(S14)。差分合計値Dが下限値Tより小さい場合(S14:YES)、差分合計値Dが下限値Tに補正され(S15)、ステップS13に進む。差分合計値Dが下限値T以上の場合(S14:NO)、差分合計値Dが上限値Tより大きいか否かが判別される(S16)。差分合計値Dが上限値Tより大きい場合(S16:YES)、差分合計値Dが上限値Tに補正され(S17)、ステップS13に進む。差分合計値Dが上限値T以下の場合(S16:NO)、差分合計値Dが下限値T以上で上限値T以下なので、差分合計値Dがそのままで、ステップS13に進む。つまり、第2フェーズである場合、内部値Xの更新は、上記(4)式によって行われる。なお、内部値生成部31が行う内部値Xの更新処理は、上述したものに限定されない。
【0050】
本実施形態では、制御回路3をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路3として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0051】
図4は、図1の通信システムBでのシミュレーション結果を示す図である。当該シミュレーションは、内部値X(i=1~5)が同期している状態で、時刻t0において、内部値Xにノイズを混入させた場合のシミュレーションであり、図4は、各内部値Xの変化を示している。図4(b)は、5台の装置Aでのシミュレーション結果を示している。各装置Aは、第1フェーズと第2フェーズとを切り替えるが、同期した状態なので、第2フェーズになっている。図4(a)は、比較のためのシミュレーション結果であり、5台の装置Aにおいて、第2フェーズへの切り替えがされず、第1フェーズのままで更新を行った場合(すなわち従来と同じ方法で更新を行った場合)のシミュレーション結果を示している。
【0052】
図4(a)に示すように、第1フェーズのままで更新を行った場合、時刻t0の後の更新で、まず、内部値Xが異常値になって、他の内部値Xから大きく乖離してしている。そして、内部値Xが他の装置Aに送信されることで、他の内部値Xも異常値になっている。その後、各内部値Xは収束して同期しているが、内部値Xが他の内部値Xから大きく乖離したことで収束に時間がかかり、長い時間、同期が乱れた状態が継続している。装置Aの場合、内部値Xがインバータ装置の内部位相として用いられている。したがって、内部値Xの同期が乱れることで、互いに並列接続されたインバータ回路2の間で循環電流が流れ、過電流によってインバータ装置が停止してしまう場合がある。
【0053】
一方、図4(b)に示すように、第2フェーズで更新を行った場合、時刻t0の後の更新で算出される差分合計値Dが補正されるので、内部値Xが他の内部値Xから大きく乖離しない。したがって、各内部値Xが収束して同期するまでの時間が短く、同期が乱れた状態が短い。以上のように、装置Aは、同期に近づいた第2フェーズにおいて、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制できることが理解できる。
【0054】
次に、装置Aの作用効果について説明する。
【0055】
本実施形態によると、内部値生成部31は、生成した内部値Xと、通信部34が受信した他の装置Aの内部値Xとを用いて、内部値Xを更新する。各装置Aの内部値生成部31が、同様に更新を行うことで、すべての装置Aの内部値Xが同じ値に収束する。また、内部値生成部31は、同期状態に応じて切り替えられるフェーズによって、更新の方法が異なる。内部値生成部31は、第1フェーズより同期に近づいた第2フェーズにおいては、上記(4)式で表される演算により、内部値Xの更新を行う。差分合計値Dが(T≦D≦T)の範囲に補正されるので、各内部値Xまたは内部値Xに異常な値が含まれた場合でも、差分合計値Dが異常な値になることが抑制される。これにより、装置Aは、同期に近づいた第2フェーズにおいて、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制できる。また、内部値生成部31は、第2フェーズより同期から離れている第1フェーズにおいては、上記(2)式で表される演算により、内部値Xの更新を行う。差分合計値Dが補正されないので、第2フェーズと比較して、早く同期に近づけることができる。これにより、装置Aは、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる。なお、第1フェーズでは同期から離れているので、差分合計値Dが異常な値になったとしても、内部値の同期に与える影響は小さい。
【0056】
また、本実施形態によると、フェーズ切替部315は、第2フェーズの場合、差分合計値Dを(T≦D≦T)の範囲に補正する。したがって、装置Aは、第2フェーズにおいて、遅延またはノイズが発生した場合でも、更新された内部値Xが大きく変化してしまうことを抑制できる。
【0057】
また、本実施形態によると、フェーズ切替部315は、演算部311から入力される差分合計値Dに基づいて、第1フェーズと第2フェーズとを切り替える。差分合計値Dは、内部値Xと各内部値Xとが同期に近づくほど「0」に近づくので、同期状態を判断するための指標として適している。したがって、装置Aは、第1フェーズと第2フェーズとを適切に切り替えることができる。
【0058】
また、本実施形態によると、フェーズ切替部315は、第1フェーズにおいて、差分合計値Dが(-Dx<D<Dx)の範囲内である状態が、所定回数N継続した場合に、第1フェーズから第2フェーズに切り替える。したがって、装置Aは、同期に近づいた場合、適切に第2フェーズに切り替えることができる。また、本実施形態によると、フェーズ切替部315は、第2フェーズにおいて、差分合計値Dが上限値Tまたは下限値Tである状態が、所定回数N継続した場合に、第2フェーズから第1フェーズに切り替える。したがって、装置Aは、同期から離れた場合、適切に第1フェーズに切り替えることができる。
【0059】
なお、上記第1実施形態においては、装置Aの内部値Xの初期位相のずれを補償するように変化する成分を、各装置Aの内部値Xの初期値の相加平均値に収束させる場合について説明したが、これに限られない。演算部311に設定する演算式によって、収束値Xαは変わってくる。演算部311に設定する演算式は、限定されない。
【0060】
また、第1条件は、上述したものに限定されない。第1条件は、同期に近づいたと判断できる条件であればよい。第1条件は、例えば、差分合計値Dの絶対値が閾値Dxより小さくなったこと(すなわち、N=1)であってもよいし、差分合計値Dの移動平均値の絶対値が閾値Dxより小さくなったことであってもよい。
【0061】
また、第2条件は、上述したものに限定されない。第2条件は、同期から離れたと判断できる条件であればよい。
【0062】
また、上記第1実施形態においては、第2フェーズにおいて、フェーズ切替部315が差分合計値Dを所定範囲内の値に補正する場合について説明したが、これに限られない。
【0063】
例えば、第1フェーズと第2フェーズとで、乗算器312で差分合計値Dに乗算される係数εを異なる値にしてもよい。具体的には、フェーズ切替部315は、フェーズにかかわらず、演算部311から入力される差分合計値Dをそのまま、乗算器312に出力する。乗算器312は、第1フェーズにおいては、差分合計値Dに係数ε(例えば、係数εと同じ値)を乗算し、第2フェーズにおいては、差分合計値Dに係数εより小さい係数εを乗算する。この場合、第2フェーズにおいては、更新による内部値Xの変化が、第1フェーズより小さくなる。したがって、装置Aは、第2フェーズにおいて、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制できる。また、第1フェーズにおいては、更新による内部値Xの変化が、第2フェーズより大きくなる。したがって、第1フェーズにおいて、第2フェーズと比較して、早く同期に近づけることができる。これにより、装置Aは、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0064】
また、第2フェーズでは、更新を行わないようにしてもよい。具体的には、フェーズ切替部315は、第1フェーズにおいては、演算部311から入力される差分合計値Dをそのまま、乗算器312に出力し、第2フェーズにおいては、「0」を乗算器312に出力する。つまり、内部値生成部31は、第2フェーズにおいては、内部値Xの更新を行わず、生成した内部値Xをそのままとする。この場合、第2フェーズにおいては、内部値Xが更新されないので、更新による内部値Xの変化がない。したがって、装置Aは、第2フェーズにおいて、遅延またはノイズが内部値の同期に与える影響を抑制できる。また、第1フェーズにおいては、更新による内部値Xの変化が、第2フェーズより大きくなる。したがって、第1フェーズにおいて、第2フェーズと比較して、早く同期に近づけることができる。これにより、装置Aは、同期するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0065】
なお、さらなる変形例として、フェーズ切替部315は、第2フェーズにおいて、差分合計値Dが所定範囲内の場合には、入力される差分合計値Dをそのまま乗算器312に出力し、所定範囲外の場合にのみ「0」を乗算器312に出力(内部値Xの更新をスキップ)してもよい。図5は、当該変形例における内部値生成部31が行う内部値Xの更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。図5のフローチャートは、図3(b)のフローチャートにおいて、ステップS15およびS17をステップS15’およびS17’に変更したものである。ステップS15’ およびS17’では、差分合計値Dが「0」に補正されて、ステップS13に進む。当該変形例では、第2フェーズにおいて、差分合計値Dが所定範囲外の場合、差分合計値Dが「0」に補正されるので、内部値Xの更新がスキップされる。
【0066】
また、上記第1実施形態においては、フェーズ切替部315が第1フェーズと第2フェーズとを切り替える場合について説明したが、これに限られない。フェーズ切替部315は、さらに第3フェーズにも切り替えてもよい。第3フェーズは、内部値Xが第1フェーズより同期に近づき、かつ、第2フェーズより同期から離れた状態である。フェーズ切替部315は、演算部311から入力される差分合計値Dに基づいて、第1フェーズ、第3フェーズ、および第2フェーズを切り替える。各フェーズを切り替えるための条件は、限定されない。第3フェーズの場合、フェーズ切替部315は、第1フェーズおよび第2フェーズとは異なる処理を行う。例えば、フェーズ切替部315は、差分合計値Dを、下限値Tおよび上限値Tによる(T≦D≦T)の範囲より広い、第2下限値TL2(<T)および第2上限値TH2(>T)による(TL2≦D≦TH2)の範囲に補正する。
【0067】
図6は、当該変形例における内部値生成部31が行う内部値Xの更新処理を説明するためのフローチャートの一例である。図6のフローチャートは、図3(b)のフローチャートにおいて、ステップS21~S25を追加したものである。当該変形例のフローチャートでは、第1フェーズでない場合(S12:NO)、第2フェーズであるか否かが判別される(S21)。第2フェーズである場合(S21:YES)、ステップS12に進む。一方、第2フェーズでない場合(S21:NO)、すなわち第3フェーズである場合、差分合計値Dが第2下限値TL2より小さいか否かが判別される(S22)。差分合計値Dが第2下限値TL2より小さい場合(S22:YES)、差分合計値Dが第2下限値TL2に補正され(S23)、ステップS13に進む。差分合計値Dが第2下限値TL2以上の場合(S22:NO)、差分合計値Dが第2上限値TH2より大きいか否かが判別される(S24)。差分合計値Dが第2上限値TH2より大きい場合(S24:YES)、差分合計値Dが第2上限値TH2に補正され(S25)、ステップS13に進む。差分合計値Dが第2上限値TH2以下の場合(S24:NO)、差分合計値Dが第2下限値TL2以上で第2上限値TH2以下なので、差分合計値Dがそのままで、ステップS13に進む。
【0068】
本変形例の場合、第3フェーズが含まれるので、更新方法の変更を段階的にできる。なお、フェーズ切替部315が切り替えるフェーズの数は限定されず、第1フェーズと第2フェーズとの間に複数のフェーズが設定されてもよい。各フェーズを切り替えるための条件は限定されないし、各フェーズでの更新方法は限定されない。例えば、フェーズ切替部315は、差分合計値Dを補正するための上限値Tおよび下限値Tを、フェーズ毎に変更してもよい。また、フェーズ切替部315は、フェーズの切り替えを無段階として、差分合計値D(または移動平均値)に応じて、上限値Tおよび下限値Tを変更してもよい。
【0069】
また、上記第1実施形態においては、各装置Aが分散形電源であり、通信システムBが互いに並列接続された各装置A(分散形電源)のインバータ装置の内部位相を同期させる場合について説明したが、本発明に係る装置は、これに限られない。通信機能を有して、ネットワークを構成する他の装置との間で内部値を送受信することで内部値を一致させるあらゆる装置において、本発明を適用することができる。本発明は、例えば、各種タイミングを一致させたり、一致しないようにずらしたりする場合、電力システムを構成する各インバータ装置の内部補償値を一致させることで、出力有効電力や出力無効電力の抑制量を調整する場合、各計測装置が計測値に基づく内部平均値や最大値、最小値を一致させる場合などにも適用することができる。これらの装置は、内部値生成部31および通信部34が、装置Aと共通し、内部値生成部31が生成した内部値Xに基づいて制御を行う制御手段、演算を行う演算手段、または表示するための表示手段などをさらに備えている。また、これらの装置は、内部値生成部31が生成する内部値Xが更新時にのみ変化してもよい。
【0070】
本発明に係る装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0071】
A,A1~A5:装置、31:内部値生成部、34:通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6