(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141277
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー
(51)【国際特許分類】
D06M 15/59 20060101AFI20230928BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
D06M15/59
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047508
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】白木 浩司
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033CA55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好なフィード性、及び良好な取扱い性を示し、かつ良好なコンポジット特性を示す、改善されたサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】炭素繊維ショートファイバー、及び炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤を有しており、サイジング剤がポリアミド及びポリイミドを含有する、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維ショートファイバー、及び前記炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤を有しており、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
【請求項2】
前記サイジング剤中の前記ポリアミドと前記ポリイミドとの合計に対して、前記ポリイミドが50質量%~90質量%である、請求項1に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
【請求項3】
前記サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対する、前記ポリアミド及び前記ポリイミドの合計の質量が、0.01質量%~3.0質量%である、請求項1又は2に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含む、粒状体。
【請求項5】
前記サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの平均長さが0.5mm~15mmである、請求項4に記載の粒状体。
【請求項6】
(a)炭素繊維ショートファイバーを提供すること、及び、
(b)前記炭素繊維ショートファイバーにサイジング剤を適用して、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを得ること、
を含み、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの製造方法。
【請求項7】
(a´)炭素繊維ショートファイバーを提供すること、
(b´)前記炭素繊維ショートファイバーとサイジング剤組成物とを混合して、混合体を得ること、ここで、前記サイジング剤組成物は、サイジング剤、及び、溶媒又は分散媒を含む、
(c´)前記混合体を造粒処理して、粒状体前駆体を得ること、並びに
(d´)前記粒状体前駆体を乾燥処理することによって前記溶媒又は分散媒を除去して、粒状体を得ること、
を含み、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有する粒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー(特にはサイジング剤付着チョップド炭素繊維)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れ、軽量であるため、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の強化繊維として、従来のスポーツ・一般産業用途だけでなく、航空・宇宙用途、自動車用途など、幅広い用途に利用されるようになっている。利用用途が拡大されるにつれ、炭素繊維強化樹脂複合材料(CFRP、以下コンポジットとも言う)には、さらに高い性能が求められている。
【0003】
従来、炭素繊維の製造過程では、炭素繊維の工程通過性の向上、及び、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性の向上などの目的のために、炭素繊維にサイジング剤が付与される。従来から、炭素繊維に付与されるサイジング剤に関して、種々の検討がなされてきた。
【0004】
特許文献1は、特定のカルボン酸成分と特定のアルコール成分とのエステルを含有する無機繊維用集束剤について記載している。
【0005】
特許文献2は、サイジング剤が付与された炭素繊維を移送するためのローラーについて記載しており、当該ローラーの表面がフッ素樹脂層を有することを記載している。
【0006】
特許文献3は、成分中に少なくともポリオキシアルキレン基とエポキシ基を含有するサイジング剤について記載している。
【0007】
特許文献4は、脂肪族系エポキシ樹脂を含む、炭素繊維束用のサイジング剤について記載している。
【0008】
特許文献5は、サイジング剤が付着している炭素繊維束について記載しており、サイジング剤が、軟化点80~200℃の範囲内の芳香族系熱可塑性樹脂と芳香族ジエステルとを含むことを記載している。
【0009】
特許文献6は、エポキシ化合物とアミン化合物の反応物であるアミンアダクトとポリウレタンとを含有するサイジング剤について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-339246号公報
【特許文献2】特開2002-309475号公報
【特許文献3】特開2003-3376号公報
【特許文献4】特開2005-264383号公報
【特許文献5】特開2005-281955号公報
【特許文献6】特開2016-3412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
炭素繊維強化樹脂複合材料(コンポジット)は、例えば、炭素繊維含有樹脂ペレット(以下、単に「ペレット」とも言う)を射出成形することによって製造することができる。射出成形は、生産性が高く、かつ成形の自由度が高いという利点を有する。
【0012】
このようなペレットは、例えば、炭素繊維のショートファイバー(特にはチョップド炭素繊維)と樹脂とを混練し押出成形することによって製造することができる。
【0013】
このような炭素繊維ショートファイバーに対しては、一般に、取扱い性、成形性及びコンポジット特性等を向上させるために、サイジング剤が付与される。
【0014】
しかしながら、従来のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーでは、付着されているサイジング剤に起因して、ペレットやコンポジットの製造過程におけるフィード性、成形性、及びアウトガスの低減が十分でない場合があり、また、コンポジット特性が十分でない場合があった。
【0015】
本発明は、良好なフィード性、及び良好な取扱性を示し、かつ良好なコンポジット特性を示す、改善されたサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及びその製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、比較的高温(例えば320℃以上)なペレット及び/又はコンポジットの製造条件下においても、良好なフィード性、及び良好な取扱性を示し、かつ良好なコンポジット特性を示す、改善されたサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
なお、本開示において、「取扱性」とは、特に、ペレットを射出成形してコンポジットを製造する際の成形性、並びに、ペレット及び/又はコンポジットの製造過程におけるガス発生量(アウトガス)を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、下記の態様を有する本発明によって解決される。
【0018】
<態様1>
炭素繊維ショートファイバー、及び、前記炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤を有しており、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
<態様2>
前記サイジング剤中の前記ポリアミドと前記ポリイミドとの合計に対して、前記ポリイミドが50質量%~90質量%である、態様1に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
<態様3>
前記サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対する、前記ポリアミド及び前記ポリイミドの合計の質量が、0.01質量%~3.0質量%である、態様1又は2に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー。
<態様4>
態様1~3のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含む、粒状体。
<態様5>
前記サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの平均長さが0.5mm~15mmである、態様4に記載の粒状体。
<態様6>
(a)炭素繊維ショートファイバーを提供すること、及び、
(b)前記炭素繊維ショートファイバーにサイジング剤を適用して、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを得ること、
を含み、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの製造方法。
<態様7>
(a´)炭素繊維ショートファイバーを提供すること、
(b´)前記炭素繊維ショートファイバーとサイジング剤組成物とを混合して、混合体を得ること、ここで、前記サイジング剤組成物は、サイジング剤、及び、溶媒又は分散媒を含む、
(c´)前記混合体を造粒処理して、粒状体前駆体を得ること、並びに
(d´)前記粒状体前駆体を乾燥処理することによって前記溶媒又は分散媒を除去して、粒状体を得ること、
を含み、
前記サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有する粒状体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好なフィード性、及び良好な取扱性を示し、かつ良好なコンポジット特性を示す、改善されたサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及びその製造方法を提供することができる。特に、本発明によれば、比較的高温(例えば320℃以上)なペレット及び/又はコンポジットの製造条件下においても、良好なフィード性、及び良好な取扱性を示し、かつ良好なコンポジット特性を示す、改善されたサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られたチップ形状のチョップド炭素繊維の写真である。このチョップド炭素繊維には、本開示に係るサイジング剤は付着されていない。
【
図2】
図2は、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーから構成される粒状体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー≫
本発明の1つの態様は、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに関する。本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、炭素繊維ショートファイバー、及び、炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤を有し、サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する。
【0022】
上述のとおり、炭素繊維強化樹脂複合材料(コンポジット)は、例えば、ペレットを射出成形器で射出成形することによって製造することができる。ペレットは、例えば、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及び樹脂を混練し押出成形することによって製造することができる。
【0023】
従来のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーでは、ペレットやコンポジットの製造過程でフィード性、成形性、アウトガスの点で問題を生ずることがあり、また、得られるコンポジット製品の物性が十分でない場合があった。
【0024】
具体的には、特には320℃以上の高温(又は360℃以上の高温、さらには400℃近い高温)にもなりうるペレットの製造及び/又は射出成形の際に、サイジング剤に起因して、ガスが発生する場合があった。発生したガス(アウトガス)は、例えば、射出成形で用いられる金型を汚すおそれがある。
【0025】
また、従来のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーでは、サイジング剤の流動性が不十分であることなどに起因して、ペレットを射出成形する際の射出圧力が比較的高くなり、成形性が低下する場合があった。
【0026】
また、サイジング剤は炭素繊維同士の集束性に寄与するが、従来のサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーでは、炭素繊維同士が十分に集束されないことに起因して、ペレット製造の際のフィード性が低下する場合があった。
【0027】
これに対して、本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、サイジング剤がポリアミド及びポリイミドを含有することを特徴としており、これによって、上記の従来技術に係る問題を解決することができる。理論によって限定する意図はないが、本発明に係るサイジング剤では、ポリアミドの特性とポリイミドの特性との組み合わせ、特にはポリアミドが有する比較的高い流動性とポリイミドが有する比較的高い耐熱性との組み合わせによって、製造過程におけるアウトガスの低減、及び比較的良好な成形性が達成されていると考えられる。また、本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーによれば、ペレット製造過程における良好なフィード性及び良好なコンポジット特性を確保することができる。
【0028】
より具体的に説明すると、本発明に係るサイジング剤は、比較的耐熱性が高いポリイミドを含有しているため、ペレットを射出成形する際に、高温に起因するサイジング剤からのガスの発生を抑制することができると考えられる。アウトガスは、成形の際に用いられる金型の汚染につながりうるので、アウトガスの低減は、優れた外観の成形体をもたらしうる。また、高い耐熱性は、ペレットを製造する際にも、含有される炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤に由来する煙やガスの発生の低減を可能にしうる。
【0029】
また、ポリイミドは炭素繊維への接着性が比較的良好であるため、本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーでは炭素繊維同士の集束性が向上しており、その結果、ペレットを製造する際の炭素繊維ショートファイバーの良好なフィード性が確保されると考えられる。
【0030】
さらに、本発明に係るサイジング剤は、比較的流動性が高いポリアミドを含有しているため、ペレットを射出成形する際に、射出圧力が抑制され、その結果、良好な成形性を確保することができると考えられる。
【0031】
さらに、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーによれば、良好なコンポジット特性を確保することができる。理論によって限定する意図はないが、本開示に係るサイジング剤は、比較的流動性の高いポリアミドを有しているため、コンポジットにおいて、樹脂中での炭素繊維の分散性が向上し、その結果として良好なコンポジット特性が得られたと考えられる。
【0032】
<サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー>
本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、炭素繊維ショートファイバー、及び、炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤を有する。好ましくは、本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、炭素繊維ショートファイバー、及び、炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤から構成される。サイジング剤は、通常、炭素繊維ショートファイバーの表面に付着している。
【0033】
(炭素繊維ショートファイバー)
炭素繊維ショートファイバーとしては、チョップド炭素繊維、及びミルドファイバーが挙げられる。チョップド炭素繊維は、例えば、炭素繊維束(carbon fiber tow)を切断処理することによって得ることができる。ミルドファイバーは、例えば、チョップド炭素繊維を粉砕機ですり潰すことによって得ることができる。ミルドファイバーは、多くの場合、0.2mm以下の平均長さを有する。炭素繊維ショートファイバーは、特には、チョップド炭素繊維である。サイジング剤及び炭素繊維の詳細については後述する。
【0034】
(平均長さ)
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに含まれる炭素繊維ショートファイバー(特にはチョップド炭素繊維)は、好ましくは0.5mm~15mm、又は1mm~12mm、1mm~10mm、1mm~9mm若しくは1mm~7mm、より好ましくは1mm~6mm又は1mm~4mm、特に好ましくは1mm~3mmの平均長さの平均長さを有することができる。炭素繊維ショートファイバーの平均長さは、ノギス及び/又は光学顕微鏡を用いて30本以上の炭素繊維ショートファイバーの長さを計測し、この計測値から平均値を算出することによって決定することができる。
【0035】
(サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの集合体)
本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、互いに集まって集合体を形成することができる。集合体中で、炭素繊維ショートファイバーが、サイジング剤を介して互いに接着されていてよい。この集合体は、好ましくは、炭素繊維ショートファイバー及びサイジング剤から実質的に構成されている。
【0036】
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの集合体の形状は特に限定されない。好ましくは、本発明に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、集合して粒状体を形成している。粒状体は、例えば、炭素繊維ショートファイバーとサイジング剤とを含む混合体を造粒器で造粒処理する(ペレタイズする)ことによって、製造することができる。
【0037】
造粒処理によって得られるこのような「粒状体」は、炭素繊維の連続製品をカットすることによって直接的に得られる「チップ」(カットファイバー)とは、少なくともそれらの形状の点で、異なっている。
【0038】
図1は、炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られたチップ形状のチョップド炭素繊維集合体(チップ)の写真である。このチョップド炭素繊維には、本開示に係るサイジング剤は付着されていない。
【0039】
炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られるチップは、一般に、チョップド炭素繊維が一方向に引き揃えられてサイジング剤等を介して互いに接着している板状の形状を有する。
【0040】
図2は、本開示に係るサイジング剤付着チョップド炭素繊維から構成される粒状体の写真である。
図2の粒状体は、チョップド炭素繊維及びサイジング剤の混合体を造粒器で造粒処理することを含む方法によって、得られたものである。
【0041】
当業者であれば、炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られる「チップ」と、造粒処理によって得られる上記の「粒状体」とを、容易に判別することができる。具体的には、例えば、炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られる「チップ」の端部では、切りそろえられた炭素繊維末端が整列している一方で、造粒処理によって得られる「粒状体」の端部では、炭素繊維の末端が整列しておらず不揃いになっている。
【0042】
また、炭素繊維の連続製品をカットすることによって得られる「チップ」(カットファイバー)と、造粒処理によって得られる「粒状体」とは、集合体の長さと、集合体に含まれる炭素繊維ショートファイバーの長さとの比率の点で、異なっている。
【0043】
すなわち、上記「チップ」では、その製造方法に起因して、集合体の長さ(すなわちチップの長さ)と、集合体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さとが実質的に同じになっている。換言すると、チップの長さが、チップを構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対して、約1倍(特には0.9倍~1.1倍)である。
【0044】
これに対して、上記「粒状体」においては、粒状体の長さが、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さよりも、大きい。換言すると、粒状体の長さの、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対する倍率が、1倍よりも大きい。好ましくは、粒状体の長さの、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対する平均倍率が、1.2倍~3倍である。さらに好ましくは、粒状体の長さの、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対する平均倍率が、1.5倍~2.5倍、又は1.8倍~2.3倍である。
【0045】
粒状体の長さの、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対する倍率は、粒状体の長さと、粒状体に含まれる炭素繊維ショートファイバー30本以上の平均長さとから、決定することができる。そして、30以上の粒状体についてこのようにして決定した倍率を平均することによって、平均倍率を算出することができる。
【0046】
なお、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均長さは、既述のとおりにして計測することができる。また、粒状体の長さは、粒状体を構成する炭素繊維ショートファイバーの平均的な延在方向に沿って、炭素繊維ショートファイバーと同様にして、計測することができる。
【0047】
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの集合体(好ましくは粒状体)のサイズは、特に限定されないが、平均長さが、好ましくは1mm~30mm、又は2mm~24mm、2mm~20mm、2mm~18mm若しくは2mm~14mm、より好ましくは2mm~12mm又は2mm~8mm、特に好ましくは2mm~6mmの平均長さであることが好ましい。集合体の平均長さは、ノギス及び/又は光学顕微鏡を用いて30以上の集合体の長さを計測し、この計測値から平均値を算出することによって決定することができる。
【0048】
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの集合体(好ましくは粒状体)に含有されるサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの平均長さは、好ましくは0.5mm~15mm、又は1mm~12mm、1mm~10mm、1mm~9mm若しくは1mm~7mm、より好ましくは1mm~6mm又は1mm~4mm、特に好ましくは1mm~3mmの平均長さであることが好ましい。
【0049】
<サイジング剤>
本開示において、「サイジング剤」は、サイジング剤組成物を炭素繊維に付与し、乾燥した後で、炭素繊維上に残留している成分を意味し、これらは、固体であっても液体であってもよい。
【0050】
本開示に係るサイジング剤は、ポリアミド(PA)及びポリイミド(PI)を含有する。
【0051】
炭素繊維ショートファイバーに付着しているサイジング剤中のポリイミドとポリアミドとの質量比(PI/PA)は、好ましくは5/5~9/1、より好ましくは6/4~9/1、特に好ましくは7/3~8/2である。また、サイジング剤中のポリアミドとポリイミドとの合計に対するポリイミドの質量割合は、好ましくは50質量%~90質量%、より好ましくは、60質量%~90質量%又は65質量%~90質量%、特に好ましくは、70質量%~85質量%又は70質量%~80質量%である。
【0052】
好ましくは、サイジング剤中のポリアミドの質量は、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.01質量%~1.0質量%、又は0.1質量%~1.0質量%である。より好ましくは、サイジング剤中のポリアミドは、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.15質量%以上、0.2質量%以上、若しくは0.25質量%以上であり、かつ/又は、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、若しくは0.4質量%以下である。
【0053】
サイジング剤中のポリアミドの含有量が上記の範囲内である場合には、ペレット及び/又はコンポジットの製造時におけるガスの発生、ペレットからコンポジットを製造する際の成形性及び/又は得られるコンポジットの物性が、特に良好となる。
【0054】
好ましくは、サイジング剤中のポリイミドの質量は、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.01質量%~3.0質量%、又は0.1質量%~3.0質量%である。より好ましくは、サイジング剤中のポリイミドは、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.6質量%以上、若しくは0.8質量%以上であり、かつ/又は、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、若しくは1.2質量%以下である。
【0055】
サイジング剤中のポリイミドの含有量が上記の範囲である場合には、ペレットからコンポジットを製造する際の成形性及び/又は得られるコンポジットの物性、ペレット製造時における炭素繊維ショートファイバーのフィード性が、特に良好となる。
【0056】
好ましくは、サイジング剤中のポリアミド及びポリイミドの合計の質量が、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.01質量%~3.0質量%である。より好ましくは、ポリアミド及びポリイミドの合計の質量が、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対して、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.6質量%以上、0.8質量%以上、若しくは1.0質量%以上であり、かつ/又は、2.8質量%以下、2.6質量%以下、2.4質量%以下、2.2質量%以下、2.0質量%以下、1.8質量%以下、若しくは1.6質量%以下である。
【0057】
炭素繊維ショートファイバーに付着したサイジング剤中におけるポリアミド及びポリイミドのそれぞれの質量は、下記のようにして計測することができる。
【0058】
まず、下記のとおりにして、サイジング剤付着量を測定する。
サイジング剤が付着した炭素繊維ショートファイバー2gを精秤した後、JIS R7604 B法に準拠して、サイジング剤を分解し、炭素繊維を単離する。そして、炭素繊維を水で十分に洗い乾燥した後、正確に質量を測定する。そして、サイジング剤付着量を、下記の式を用いて求める。
サイジング剤付着量(質量%)=(サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの質量-単離した炭素繊維の質量)/サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの質量×100
【0059】
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを製造するためのサイジング剤におけるポリアミド及びポリイミドの質量割合が明らかである場合、例えば、ポリアミド及びポリイミドの仕込み量の割合が明らかである場合には、上記で得られたサイジング剤付着量と、この仕込み量の割合とから、炭素繊維ショートファイバーに付着したサイジング剤中における、ポリアミド及びポリイミドのそれぞれの質量を算出することができる。
【0060】
サイジング剤におけるポリアミド及びポリイミドの仕込み量の割合などが不明である場合には、下記のようにして、炭素繊維ショートファイバーに付着したサイジング剤中における、ポリアミド及びポリイミドのそれぞれの質量を算出することができる。すなわち、対象ポリイミドがアルコールに対して難溶性である場合には、JIS R7604 A法に従って溶剤抽出によって決定したポリアミドの付着量と、JIS R7604 B法に従って上述のようにして求めたサイジング剤付着量(ポリアミド及びポリイミドの付着量)とに基づいて、ポリアミド及びポリイミドのそれぞれの質量を算出することができる。対象ポリイミドがアルコールに難溶性でない場合、又はサイジング剤がポリアミド及びポリイミド以外の成分を含む場合には、JIS R7604 C法に従ってサイジング剤を熱分解した結果から、ポリアミドとポリイミドの分解温度の違いに基づいて、ポリアミド及びポリイミドのそれぞれの質量を算出することができる。
【0061】
(ポリアミド)
本発明においてサイジング剤を構成するポリアミドは、公知のものであってよく、公知の方法により製造したものを用いることができる。ポリアミド(ポリアミド樹脂)としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸の重縮合又はアミノカルボン酸の重縮合、環状ラクタムの開環重合等の方法により製造したポリアミド樹脂が挙げられる。ここで重縮合または開環重合の際に重合調節剤として、ジカルボン酸又はモノカルボン酸を用いることができる。
【0062】
ポリアミド樹脂の製造に用いられるジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、等が挙げられる。
【0063】
ポリアミド樹脂の製造に用いられるジカルボン酸の具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0064】
ポリアミド樹脂の製造に用いられるアミノカルボン酸の具体例としては、6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸および12-アミノラウリン酸等が挙げられる。
【0065】
ポリアミド樹脂の製造に用いられる環状ラクタムの具体例としては、ε-カプロラクタム、ω-ヘプタラクタムおよびω-ラウリンラクタム等が挙げられる。
【0066】
ポリアミド樹脂の製造に際しては、ジカルボン酸またはモノカルボン酸を重合調節剤として用いてもよく、重合調節剤として用いられるジカルボン酸の具体例としては、ポリアミド樹脂の製造に用いられる上記ジカルボン酸と同様に、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。また、モノカルボン酸の具体例としては、カプロン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸およびドデカン酸等が挙げられる
【0067】
ポリアミド樹脂の具体例としては、-[NH(CH2)5CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)4CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)8CO]-、-[NH(CH2)10CO]-、-[NH(CH2)11CO]-、および-[NH(CH2)2NHCO-D-CO]-(式中Dは炭素数3~4の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選ばれた少なくとも1種を構造単位とするポリアミド樹脂が挙げられる。それらの具体例としては6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロンおよびそれらの共重合体が挙げられる。これらは単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0068】
ところで、本発明におけるポリアミドは融点が50℃~320℃の範囲にあることが、本発明の効果の点から好ましく、さらに70℃~230℃の範囲、よりさらに90℃~160℃の範囲にあることが好ましい。そのような観点から、本発明におけるポリアミドとしては、共重合ナイロン、メトキシメチル化されたポリアミドが好ましい。特に好ましいポリアミドとしては、N-メトキシメチル化ポリアミド、6/6/10共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、6/66/10/11/12共重合ナイロンが挙げられる。これらの重合体または共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0069】
(ポリイミド)
ポリイミドは、イミド結合を有する繰り返し単位を含むポリマーである。ポリイミドは、特には芳香族ポリイミド樹脂である。ポリイミドは、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重縮合することを含む方法によって得ることができる。
【0070】
本開示に係るポリイミドは、好ましくは、融点を有さず、かつ400℃以上(特には450℃以上)の熱分解温度を有するポリイミド(特には芳香族ポリイミド)である。ポリイミドなどの樹脂の融点は、JIS K7121に従ってDSC(示差走査熱量測定)法によって窒素雰囲気中10℃/minで昇温したときの融解ピークの頂点の温度として計測することができる。また、熱分解温度は、JIS K7120に従って、TG(熱重量測定)法によって、窒素雰囲気中10℃/minの昇温条件で計測することができる。
【0071】
また、本開示に係る1つの好ましい実施態様では、ポリイミドは、ポリイミドの前駆体化合物(又はその混合体)を含有する水溶液を炭素繊維に付着させた後で、所定温度での乾燥処理によってイミド化することによって得られたものであってよい。
【0072】
<チョップド炭素繊維>
本発明に係る炭素繊維ショートファイバーとしてのチョップド炭素繊維は、例えば、連続的に製造される炭素繊維の束を一定の長さにカットすることによって得ることができる。カットは、公知の方法で行ってよい。
【0073】
(炭素繊維)
炭素繊維は、特に制限が無く、ピッチ系、レーヨン系、ポリアクリロニトリル(PAN)系など、いずれの炭素繊維であってもよいが、操作性、工程通過性、及び機械強度等を鑑みると、アクリロニトリル系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維の繊度、強度等の特性も特に制限が無く、公知のいずれの炭素繊維も制限無く使用できる。
【0074】
炭素繊維の形態は、特に制限されないが、複数の単糸(フィラメント)から構成される炭素繊維束の形態であってよい。炭素繊維束を構成するフィラメントの構成本数は、生産性の観点などから1,000本~80,000本であることが好ましく、さらには3,000本~50,000本の範囲であることが好ましい。単糸径は、4μm~20μmであってよく、好ましくは5μm~10μmである。好ましくは、JIS R 7608に従って計測したときに、炭素繊維の引張強度が4000~6000MPaであり、かつ/又は、炭素繊維の引張弾性率が200~400GPa又は220~300GPaである。
【0075】
PAN系炭素繊維は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0076】
(前駆体繊維)
アクリル系前駆体繊維は、好ましくは、アクリロニトリルを90質量%以上、より好ましくは95質量%以上含有し、その他の単量体を10質量%以下含有する単量体を単独又は共重合した紡糸溶液を紡糸して製造される。その他の単量体としてはイタコン酸、(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。紡糸後の原料繊維を、水洗、乾燥、延伸、オイリング処理することにより、前駆体繊維を得ることができる。前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1,000本以上が好ましく、3,000本以上がより好ましい。
【0077】
(耐炎化処理)
前駆体繊維を、加熱空気中200~300℃で10~100分間加熱し、耐炎化処理する。耐炎化処理では、延伸倍率0.90~1.20の範囲で繊維を延伸処理することが好ましい。
【0078】
(炭素化処理)
耐炎化処理した前駆体繊維を、不活性雰囲気下において300~2000℃で炭素化して、炭素繊維を得る。より引張強度の高い緻密な内部構造をもつ炭素繊維束を得るためには、300℃~1000℃で低温炭素化した後、1000~2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化工程を経て、炭素化処理を行うことが好ましい。より高い弾性率が求められる場合は、さらに、2000~3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
【0079】
(表面酸化処理)
上記で得られた炭素繊維は、サイジング剤及び/又はマトリックス樹脂との濡れ性を改善するために、表面酸化処理を行うことが好ましい。表面酸化処理は、従来公知のいずれの方法でも行うことができるが、装置が簡便であり工程での管理が容易であることから、工業的には電解酸化を用いることが一般的である。
【0080】
表面酸化処理の電気量は、炭素繊維1gに対して10~150クーロンになる範囲とすることが好ましい。電気量をこの範囲で調節すると、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との接着性の向上した炭素繊維を得ることができる。
【0081】
電解液としては、例えば、硝酸、硫酸、硫酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。電解液の電解質濃度は0.1規定以上が好ましく、0.1~1規定がより好ましい。
【0082】
≪ペレット≫
本開示は、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有するペレットを含む。本開示に係るペレットは、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー、及び樹脂を含み、好ましくはこれらから構成される。
【0083】
ペレットは、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー、及び樹脂から製造することができる。具体的には、例えば、二軸押出機に、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーと樹脂とを供給し、随意に加熱して混練・押出することによって、ペレットを製造することができる。
【0084】
ペレットに含有される樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0085】
熱硬化性樹脂の具体例として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0086】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスルホン(PS)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリエステル(PE)樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアリーレンオキシド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂等が挙げられる。
【0087】
好ましくは、ペレットに含有される樹脂が、250℃以上、275℃以上、300℃以上、320℃以上、又はさらには340℃以上の融点を有する。樹脂の融点は、JIS K7121に従ってDSC(示差走査熱量測定)法によって計測することができる。ペレットに含有される樹脂の好ましい融点の上限は、特に限定されないが、例えば500℃以下、又は450℃以下であってよい。
【0088】
好ましくは、ペレットに含有される樹脂が、ポリエーテルケトン樹脂又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、特にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂である。この場合には、ペレットを成形することによって得られるコンポジットが、特に良好な物性を示すことがある。理論によって限定する意図はないが、本発明に係るサイジング剤に含有されるポリイミドはPEEKに対して特に良好な親和性を示すため、コンポジットにおいて、炭素繊維と樹脂との接着性がさらに向上すると考えられる。
【0089】
ペレット又はコンポジットにおける樹脂組成物の含有率は、炭素繊維の質量に対して、10~90質量%であってよく、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~50質量%である。
【0090】
≪製造方法≫
以下で、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの製造方法、及び、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有する粒状体の製造方法を説明する。なお、これらの製造方法における各構成要素、例えば炭素繊維ショートファイバー、並びにサイジング剤及びその構成成分については、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー及び粒状体に関する上記の記載を参照することができる。
【0091】
≪サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの製造方法≫
本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを製造するための方法は特に限定されず、例えば、下記の方法によって製造することができる:
(a)炭素繊維ショートファイバーを提供すること(繊維提供工程)、及び、
(b)炭素繊維ショートファイバーにサイジング剤を適用して、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを得ること(サイジング剤適用工程)、
を含み、
サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する、
方法。
【0092】
<繊維提供工程>
繊維提供工程では、炭素繊維ショートファイバー(特にはチョップド炭素繊維)を提供する。炭素繊維ショートファイバーは、好ましくは0.5mm~15mm、又は1mm~12mm、1mm~10mm、1mm~9mm若しくは1mm~7mm、より好ましくは1mm~6mm又は1mm~4mm、特に好ましくは1mm~3mmの平均長さ有することができる。
【0093】
この工程では、例えば、連続的に製造された炭素繊維束をカッター等で切断することによって、炭素繊維ショートファイバーとしてのチョップド炭素繊維を得ることができる。この工程で提供される炭素繊維ショートファイバーは、集合体を形成していてよく、例えばチップ状の集合体であってよい。
【0094】
(開繊)
炭素繊維ショートファイバーの集合体では、炭素繊維の製造過程で付与されるサイジング剤などを介して、炭素繊維ショートファイバー同士が互いに接着していることがある。この場合、炭素繊維ショートファイバーの集合体を随意に開繊して、炭素繊維ショートファイバーを互いに分離することができる。そして、このようにして開繊処理された炭素繊維ショートファイバーに対して、本開示に係るサイジング剤を適用することができる。開繊の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0095】
<サイジング剤適用工程>
サイジング剤適用工程では、例えば、サイジング剤を含有するサイジング剤組成物に炭素繊維ショートファイバーを接触させることによって、サイジング剤を適用することができる。具体的な例としては、炭素繊維を直接サイジング剤組成物に浸漬させる浸漬方式、及び、サイジング剤組成物を炭素繊維にスプレーで吹き付けるスプレー法などが挙げられる。
【0096】
サイジング剤組成物については、粒状体の製造方法に関する下記の記載を参照することができる。なお、サイジング剤適用工程の後に、サイジング剤組成物に含まれていた溶媒、分散媒を除去するための乾燥処理をさらに行うことができる。
【0097】
≪サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有する粒状体の製造方法≫
本開示は、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有する粒状体を製造する方法を含む。この方法は:
(a´)炭素繊維ショートファイバーを提供すること(繊維提供工程)、
(b´)炭素繊維ショートファイバーとサイジング剤組成物とを混合して、混合体を得ること、ここで、サイジング剤組成物は、サイジング剤、及び、溶媒又は分散媒を含む(混合工程)、
(c´)混合体を造粒処理して粒状体前駆体を得ること(造粒工程)、並びに
(d´)粒状体前駆体を乾燥処理することによって溶媒又は分散媒を除去して、粒状体を得ること(乾燥工程)、
を含み、
サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する。
【0098】
<繊維提供工程>
繊維提供工程については、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの製造方法に関する上記の記載を参照することができる。
【0099】
<混合工程>
混合工程では、サイジング剤及び溶媒又は分散媒を含むサイジング剤組成物と、炭素繊維ショートファイバーとを混合して、混合体を得る。
【0100】
なお、この混合工程を、下記で説明する造粒工程と同時に行うこともできる。例えば、造粒器にサイジング剤組成物と炭素繊維ショートファイバーとをそれぞれ別個に供給し、造粒器中において、混合及び造粒を同時に行うことができる。あるいは、サイジング剤組成物と炭素繊維ショートファイバーとを混合して得た混合体を、造粒器中に供給してもよい。
【0101】
(サイジング剤組成物)
サイジング剤組成物は、サイジング剤、及び分散媒又は溶媒を含む。サイジング剤組成物を調製する方法は特に限定されず、公知の調製方法を用いることができる。
【0102】
サイジング剤組成物の分散媒又は溶媒としては、水、及び有機溶剤(例えば、メタノールなどのアルコール類や、アセトンなど)が挙げられる。
【0103】
サイジング剤組成物は、界面活性剤を用いて乳化させることによって調製されるサイジング剤水分散液(エマルジョン)であってもよい。
【0104】
サイジング剤組成物がサイジング剤溶液又はサイジング剤分散液である場合、溶液又は分散液中におけるサイジング剤の濃度は、0.5~20%質量%であってよく、好ましくは1~5質量%である。
【0105】
界面活性剤は、特に制限されず、アニオン系、カチオン系、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。中でもノニオン系界面活性剤が、乳化性能および分散液の安定性の観点から好ましい。
【0106】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型(高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等)、多価アルコール型(グリセリンの脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等)等の界面活性剤が挙げられるが、炭素繊維表面と金属との間の摩擦抵抗を低減することができる、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを用いることが特に好ましい。
【0107】
乳化方法としては、撹拌翼を具備したバッチを用いる方法、ボールミルを用いる方法、振とう器を用いる方法、ガウリンホモジナイザ等の高せん断乳化機を用いる方法等が挙げられる。
【0108】
界面活性剤は、サイジング剤を乳化できれば特に制限はないが、通常0.1~30質量%程度添加すればよい。
【0109】
本開示に係る方法によれば、サイジング剤が、ポリアミド及びポリイミドを含有する。このようなサイジング剤のためのサイジング剤組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、溶媒としてのメタノールにポリアミドを溶解させた溶液と、分散媒としての水にポリイミドを分散させた分散体とを、それぞれ別個に、炭素繊維ショートファイバーに混合することができ、又は、これらを混合して得た混合液を、炭素繊維ショートファイバーに混合することができる。特には、サイジング剤組成物は、ポリアミド及びポリイミド、並びに、これらのための溶媒及び/又は分散媒から構成される。
【0110】
<造粒工程(ペレタイズ工程)>
造粒工程では、上記の混合体を造粒処理して、粒状体前駆体を得る。
【0111】
造粒の方法は、特に限定されないが、公知の造粒器を用いて行うことができる。
【0112】
例えば、随意に開繊された炭素繊維ショートファイバーとサイジング剤組成物との混合体を、造粒器を用いて造粒することによって、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの粒状体前駆体を得ることができる。
【0113】
<乾燥工程>
乾燥工程では、上記の粒状体前駆体を乾燥処理して、溶媒又は分散媒を除去し、それによって、粒状体を得る。
【0114】
乾燥条件は特に限定されず、公知の方法によって乾燥を行うことができる。
【0115】
本方法によって得られる粒状体は、好ましくは、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーから構成され、特に好ましくは、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる。
【0116】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における各特性評価は、以下の方法によって実施した。
【実施例0117】
≪実施例1~7及び比較例1~5≫
実施例1~7及び比較例1~5において、それぞれ、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを製造し、その特性を評価した。評価方法は下記のとおりである。
【0118】
<ポリアミド及びポリイミドの量>
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーにおけるポリアミド及びポリイミドの含有量(付着量)は、それぞれ、下記のとおりにして決定した。
【0119】
まず、下記のとおりにして、サイジング剤付着量を測定した:
サイジング剤が付着した炭素繊維ショートファイバー2gを精秤した後、JIS R7604 B法に準拠して、サイジング剤を分解し、炭素繊維を単離した。そして、炭素繊維を水で十分に洗い乾燥した後、正確に質量を測定した。そして、サイジング剤付着量を、下記の式を用いて求めた。
サイジング剤付着量(質量%)=(サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの質量-単離した炭素繊維の質量)/サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの質量×100
【0120】
そして、上記のとおりにして得られたサイジング剤付着量と、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを製造する際に用いたサイジング剤におけるポリアミド及びポリイミドの仕込み量の割合とから、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーにおけるポリアミド及びポリイミドのそれぞれの含有量を、算出した。
【0121】
<炭素繊維の強度、弾性率>
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを製造するために用いた炭素繊維(CF)のCF引張強度(MPa)及び引張弾性率(GPa)は、JIS R 7608規格に従って、計測した。
【0122】
<フィード性>
実施例又は比較例に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体と、樹脂(PEEK樹脂、ビクトレックス社製、製品名VICTREX PEEK 150P)とを、繊維重量比率40%(Wf=40%)で、二軸押出機(日本製鋼所社製、製品名TEX30X)を用いて混練・押出成形することによって、ペレットを製造した。
【0123】
上記ペレットの製造過程において、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーの粒状体を二軸押出機に供給する際のフィード性を、下記のとおりにして評価した:
定量フィーダー(Coperion K-Tron社製、製品名K2-ML-D5-T35)を用いて、供給量を2.4kg毎時に設定し、1秒間ずつ20分間にわたって供給量を測定し、下記の基準に従ってフィード性を評価した。
「○」:供給量のばらつき(CV)が4%未満であった。
「△」:供給量のばらつき(CV)が4%以上6%以下であった。
「×」:供給量のばらつき(CV)が6%超であった。
【0124】
(ガスの発生)
本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを用いてペレットを製造する際のガス発生、及び、本開示に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーを含有するペレットを射出成形する際のガス発生を評価するために、下記の指標を用いた:
サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバー1gを400℃に設定したマッフル炉で20分間処理したときの分解量(質量%)を計測し、これをガス発生の指標とした。
分解量(質量%)=(処理前の質量-処理後の質量)/処理前の質量×100
【0125】
(成形性)
射出成形機(日本製鋼所社製、製品名J-110AD-180H)を用いて上記ペレットを射出成形して、コンポジット(炭素繊維強化樹脂複合材料)を製造した。射出成形する際の射出圧力(単位:MPa)を計測し、これを成形性の指標とした。
【0126】
(引張強度、曲げ弾性率、曲げ強度)
得られたコンポジットの引張強度、曲げ弾性率、及び曲げ強度を、JIS K7161、JIS K7171に従って計測した。
【0127】
<実施例1>
(炭素繊維ショートファイバーとしてのチョップド炭素繊維の提供)
炭素繊維(引張強度:4300MPa、引張弾性率:240GPa、単糸径:7μm、フィラメント数:24000本)を、3mmの平均長さに切断して、チョップド炭素繊維を得た。
【0128】
(混合・造粒・乾燥)
上記平均長さ3mmのチョップド炭素繊維と、下記に示す成分を含有するサイジング剤組成物とを、造粒器を用いて混合・造粒することによって粒状体前駆体を得、これを乾燥して溶媒又は分散媒を除去することによって、実施例1に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造した。この粒状体の平均長さは6mmであった。また、粒状体の長さの、粒状体に含まれる炭素繊維ショートファイバーの平均長さに対する平均倍率は、2.0であった。
【0129】
サイジング剤組成物の成分は、下記のとおりであった:
・ポリイミド(PI)(MICHELMAN社製、HP-1632);
・ポリアミド(PA1)(N-メトキシメチル化PA6、DIC社製、LUCKAMIDE5003、融点150℃);
・溶媒又は分散媒としての水及びメタノール。
【0130】
実施例1で用いたポリイミド(PI)及びポリアミド(PA1)の量は、下記の表1のとおりであった。値は、サイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーに対する量(質量%)で示されている。
【0131】
実施例1に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーについて、上述した評価方法に従って評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0132】
<実施例2~4>
PI及びPA1の量を下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体をそれぞれ製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0133】
<実施例5>
PA1の代わりにポリアミド(PA2)(共重合PA、住友精化社製、セポルジョンPA150、融点90℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0134】
<実施例6~7>
炭素繊維ショートファイバー(チョップド炭素繊維)の長さを下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6及び7に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体をそれぞれ製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0135】
<比較例1>
PI及びPA1の代わりにPIのみを表1で示される量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0136】
<比較例2>
PI及びPA1の代わりにPA1のみを表1で示される量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0137】
<比較例3>
PI及びPA1の代わりにPA1のみを表1で示される量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0138】
<比較例4>
PI及びPA1の代わりにPA2のみを表1で示される量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0139】
<比較例5>
PI及びPA1の代わりにPES(ポリエーテルスルホン)のみを表1で示される量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0140】
【0141】
表1で見られるとおり、ポリアミド及びポリイミドを含有するサイジング剤が付着した実施例1~4に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、ポリイミドのみを含有するサイジング剤を用いた場合(比較例1)と比較して、良好な成形性(射出圧力)を示すとともに、良好なコンポジット物性を示した。また、表1で見られるとおり、実施例1に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、ポリアミドのみを含有するサイジング剤を用いた場合(比較例2)と比較して、ガスの発生が低減されており、かつ、比較例2と同程度のコンポジット物性及び成形性を示した。
【0142】
理論によって限定する意図はないが、実施例1~4に係るサイジング剤は、比較的高い流動性を有するポリアミドを含有していたため、射出成形における成形性が比較的高く、かつ、コンポジット中における炭素繊維の比較的良好な分散に起因して、比較的良好なコンポジット物性を示したと考えられる。また、理論によって限定する意図はないが、実施例1~4に係るサイジング剤は、比較的高い耐熱性を有するポリイミドを用いたことに起因して、ガスの発生が抑制されていたと考えられる。
【0143】
また、表1で見られるとおり、実施例1~4に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、比較的少ない量のポリアミドのみを含有するサイジング剤を用いた場合(比較例3)と比較して、優れたフィード性を示した。なお、比較例3は、比較的多い量のポリアミドを含有する比較例2と比較して、アウトガスが低減されていた。これらの結果は、ポリアミドのみを用いた場合に、ポリアミドの量を低減することによってアウトガスの発生を抑制することができるものの、チョップド炭素繊維同士の集束性が低下する結果として、フィード性が低下することを示す。これに対して、本発明によれば、ポリアミドの含有量を比較的少なくしても、ポリイミドによってチョップド炭素繊維同士を集束させることができ、その結果として良好なフィード性を示すと考えられる。
【0144】
また、ポリアミドの種類(実施例5)又はショートファイバー長(実施例6及び7)を変更した場合にも、実施例1~4と同様の結果が得られた。なお、比較的長いショートファイバーを用いた実施例6のフィード性は、実施例1等と比較して若干低下していた。
【0145】
なお、表1で見られるとおり、ポリアミド及びポリイミドを含有するサイジング剤が付着した実施例1~7に係る炭素繊維ショートファイバーは、ポリエーテルスルホンを含有するサイジング剤を用いた場合(比較例5)と比較した場合にも、高いコンポジット物性を示し、また、良好又は同程度の成形性(射出圧力)を示した。
【0146】
以上のとおり、ポリアミド及びポリイミドを含有するサイジング剤を用いた実施例1~7に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーは、フィード性、ガス発生の抑制、及び成形性、並びにコンポジット物性の点で、優れた特性を示した。
【0147】
≪実施例8及び比較例6~7≫
(実施例8)
炭素繊維(引張強度:5800MPa、引張弾性率:280GPa、単糸径:5.7μm、フィラメント数:36000本)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0148】
<比較例6>
PI及びPA1の代わりにPIのみを表2で示される量で用いたこと以外は、実施例8と同様にして、比較例6に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0149】
<比較例7>
PI及びPA1の代わりにPA1のみを表2で示される量で用いたこと以外は、実施例8と同様にして、比較例7に係るサイジング剤付着炭素繊維ショートファイバーからなる粒状体を製造し、評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0150】
【0151】
表2で見られるとおり、用いるチョップド炭素繊維の物性を変更した場合にも、表1と同様の結果が確認された。すなわち、ポリアミド及びポリイミドを含有するサイジング剤が付着した実施例8に係る炭素繊維ショートファイバーは、ポリアミド及びポリイミドのうちのいずれか一方のみを有するサイジング剤を用いた場合(比較例6及び7)と比較して、フィード性、ガス発生の抑制、及び成形性、並びにコンポジット物性の点で優れた特性を示した。