(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141278
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B62D25/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047511
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 源太郎
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB57
3D203BB77
3D203CA67
3D203CA86
3D203CB04
3D203CB39
3D203DA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ボディー部材とパネル部材とで囲まれる中空部に浸入した電着塗料を速やかに排出できる車両構造を提供する。
【解決手段】ボディー部材との間に中空部6を形成するパネル部材3を備え、前記パネル部材を構成するアッパパネル4とロアパネル5とが重複した重複部30を備える車両構造である。前記重複部において、前記アッパパネルと前記ロアパネルとの隙間によって構成され、前記上下方向に延びる前記中空部内の電着塗料を排出するための排出路7を備える。前記排出路は、前記中空部に開口する上方開口部71と、前記アッパパネルの下端において前記パネル部材の外部空間に開口する下方開口部72とを備え、前記上方開口部の幅は、前記下方開口部の幅よりも広く、前記上方開口部における板間距離t1は、前記下方開口部における板間距離t2よりも大きい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディー部材と、
前記ボディー部材との間に中空部を形成するように前記ボディー部材に取り付けられたパネル部材とを備え、
前記パネル部材は、車両の上下方向に並ぶアッパパネルとロアパネルとを備え、
前記アッパパネルと前記ロアパネルとは、前記ロアパネルの上端部を前記アッパパネルの下端部の前記中空部側に重ねた状態で接合した重複部を備える車両構造であって、
前記重複部において、前記アッパパネルと前記ロアパネルとの隙間によって構成され、前記上下方向に延びる前記中空部内の電着塗料を排出するための排出路を備え、
前記排出路は、前記中空部に開口する上方開口部と、前記アッパパネルの下端において前記パネル部材の外部空間に開口する下方開口部とを備え、
前記上方開口部の幅は、前記下方開口部の幅よりも広く、
前記上方開口部における板間距離は、前記下方開口部における板間距離よりも大きい、
車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディー部材との間に中空部を形成するようにボディー部材に取り付けられたパネル部材を備える車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両構造は、ボディー部材との間に中空部を形成するようにボディー部材に取り付けられたパネル部材を備える。パネル部材は、上下方向に並ぶアッパパネルとロアパネルとを備える場合がある。そのようなパネル部材として、例えば特許文献1は、リヤクォータパネルを開示する。リヤクォータパネルは、車両のバックドアの開口部における側方の枠部を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パネル部材を含む車両のフレームは、電着塗装される。電着塗装において、フレームは電着塗料の漕に浸漬される。このとき、ボディー部材とパネル部材との中空部にも電着塗料が浸入する。フレームが電着塗料の漕から上がったときに、中空部に電着塗料が残存する恐れがある。
【0005】
本発明の目的の一つは、ボディー部材とパネル部材とで囲まれる中空部に浸入した電着塗料を速やかに排出できる車両構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ボディー部材とパネル部材との間に形成される中空部から電着塗料を排出し易くするには、アッパパネルとロアパネルとが重ねられる重複部において、アッパパネルとロアパネルとの隙間によって構成される排出路を形成する。排出路は、中空部に開口する上方開口部と、アッパパネルの下端においてパネル部材の外部空間に開口する下方開口部とを備える。下方開口部を大きくすれば、中空部からの電着塗料の排出が促進される。しかし、電着塗装後に、パネルのつなぎ目を封止するシーラーを塗布する作業において、大きな下方開口部をシールすることが難しくなる。このような知見に鑑み、本発明者は以下に示す車両構造を完成させた。
【0007】
本発明の一態様に係る車両構造は、
ボディー部材と、
前記ボディー部材との間に中空部を形成するように前記ボディー部材に取り付けられたパネル部材とを備え、
前記パネル部材は、車両の上下方向に並ぶアッパパネルとロアパネルとを備え、
前記アッパパネルと前記ロアパネルとは、前記ロアパネルの上端部を前記アッパパネルの下端部の前記中空部側に重ねた状態で接合した重複部を備える車両構造であって、
前記重複部において、前記アッパパネルと前記ロアパネルとの隙間によって構成され、前記上下方向に延びる前記中空部内の電着塗料を排出するための排出路を備え、
前記排出路は、前記中空部に開口する上方開口部と、前記アッパパネルの下端において前記パネル部材の外部空間に開口する下方開口部とを備え、
前記上方開口部の幅は、前記下方開口部の幅よりも広く、
前記上方開口部における板間距離は、前記下方開口部における板間距離よりも大きい。
ここで、板間距離とは、アッパパネルとロアパネルとの間の離隔距離である。
【発明の効果】
【0008】
実施形態に係る車両構造は、中空部の電着塗料を排出するための排出路を備える。その排出路の上方開口部は、下方開口部よりも大きな開口面積を有する上方開口部を有する。大きな上方開口部は、中空部に浸入した電着塗料を効果的に排出路に導く。そのため、電着塗装において中空部に浸入した電着塗料が排出路から排出され易い。しかも、下方開口部の近傍に液溜まりや液垂れが生じ難い。また、小さな下方開口部は、シーラーによる下方開口部の封止を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、バックドアを備える車両におけるバックドア開口部の側方のフレームを示す概略図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるパネル部材におけるアッパパネルとロアパネルとが重複する部分の拡大図である。
【
図3】
図3は、
図2に示される車両構造からアッパパネルを取り除いた状態を示す概略図である。
【
図4】
図4は、
図2に示される車両構造を斜め下方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両構造の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0011】
<実施形態1>
図1に示される車両構造1は、ボディー部材2とパネル部材3とを備える。
図1は、車両構造1のバックドアの開口部を車両の斜め後方から見た図である。本例のボディー部材2は、インナパネルとアウタパネル21とを備える。
図1に示されるアウタパネル21は、後部スライドドアの更に後方の部分に相当し、窓ガラスをはめ込む開口21wを備えている。
図1ではインナパネルの図示を省略している。ボディー部材2に取り付けられる本例のパネル部材3は、バックドアの開口部の側方の枠部を構成するリヤクォータパネルである。ボディー部材2とパネル部材3との間には中空部6が形成されている。
図1では、パネル部材3の紙面裏側に中空部6が形成される。
【0012】
パネル部材3は、車両の上下方向に並ぶアッパパネル4とロアパネル5とを備える。ロアパネル5の上端部は、アッパパネル4の下端部における中空部6側に重ねられた状態で接合されている。本例ではアッパパネル4とロアパネル5とが重ねられた部分を重複部30と呼ぶ。
【0013】
図2に示されるように、アッパパネル4は、車幅方向の内側から順に、UP内側接合部40、UP第一面部41,UP第二面部42、及びUP外側接合部43を備える。UP内側接合部40は、図示しないインナパネルに接合されている。UP外側接合部43はアウタパネル21に接合されている。アッパパネル4とインナパネルとアウタパネル21とで囲まれる空間は、中空部6の上方部分を構成する。
【0014】
UP第一面部41は、車両の後方を向く面を有する。UP第二面部42は、車幅方向の中央側を向く面を有する。UP第一面部41とUP第二面部42とをつなぐ曲面状のアッパコーナー部45は、車両の高さ方向に沿って延びている。
【0015】
図2及び
図3に示されるように、ロアパネル5は、車幅方向の内側から順に、LP内側接合部50、LP第一面部51,LP第二面部52、及びLP外側接合部53を備える。LP内側接合部50は、図示しないインナパネルに接合されている。LP外側接合部53はアウタパネル21に接合されている。ロアパネル5とインナパネルとアウタパネル21とで囲まれる空間は、中空部6の下方部分を構成する。
【0016】
LP第一面部51は、アッパパネル4のUP第一面部41に面接触している。LP第二面部52は、アッパパネル4のUP第二面部42に面接触している。LP第一面部51とUP第一面部41との間、及びLP第二面部52とUP第二面部42との間には微小な隙間が形成されている箇所もあるが、粘度が高い電着塗料の排出路となるほどの大きさはない。
【0017】
LP第一面部51とLP第二面部52とをつなぐ曲面状のロアコーナー部55は、
図3に示されるように、上部55Uと下部55Dとを備える。上部55Uは、横溝59の位置から車両の上方に向かうに従って徐々に幅が広くなる部分を有する。幅は、ロアコーナー部55の延伸方向に直交する長さである。上部55Uと下部55Dとの間は、横溝59を介してつながっている。横溝59は、車幅方向に延びる凹みである。横溝59の一部は、ロアコーナー部55の一部を構成している。
【0018】
図2に示されるように、ロアコーナー部55には、アッパコーナー部45が重ねられている。ここで、ロアパネル5における重複部30に対応する上端部には、アッパパネル4に向かって突出するスポット溶接用の棚が形成されている。この棚の位置でロアパネル5とアッパパネル4とがスポット溶接されると、ロアコーナー部55とアッパコーナー部45とが重ねられる箇所において、ロアパネル5とアッパパネル4との間に隙間が形成される。
図4に示されるように、この隙間は、電着塗装において中空部6に浸入した電着塗料をパネル部材3の外部に排出する排出路7となる。
【0019】
図4は、アッパパネル4の下端4Dよりも若干下側の位置でロアパネル5を切断した状態が示されている。アッパパネル4とロアパネル5との隙間からなる排出路7は、上方開口部71と下方開口部72とを備える。上方開口部71は、中空部6に開口する。従って、上方開口部71は、中空部6に入り込んだ電着塗料の入口である。下方開口部72は、アッパパネル4の下端4Dにおいてパネル部材3の外部空間に開口する。従って、下方開口部72は、中空部6から排出路7に流れ込んだ電着塗料の出口である。
【0020】
上方開口部71の幅は、下方開口部72の幅よりも広い。本例における上方開口部71の幅は、
図3の上部55Uの上方側の縁部55Eに沿った長さである。縁部55Eは、点Xから点Yまでの部分である。下方開口部72の幅は、上部55Uの下端に沿った長さである。
【0021】
図4に示されるように、上方開口部71における板間距離t1は、下方開口部72における板間距離t2よりも大きい。板間距離t1,t2は、アッパパネル4とロアパネル5との間の距離である。板間距離t1は例えば、2.5mmから4.0mm程度である。板間距離t2は例えば、0.8mmから1.8mm程度である。板間距離t1は、上方開口部71の幅に沿って一様でも良いし、異なっていても良い。同様に、板間距離t2も、下方開口部72の幅に沿って一様でも良いし、異なっていても良い。
【0022】
以上説明した車両構造1では、上方開口部71の幅と上方開口部71における板間距離t1はそれぞれ、下方開口部72の幅と下方開口部72における板間距離t2よりも大きい。そのため、上方開口部71の開口面積は、下方開口部72の開口面積よりもかなり大きい。開口面積が大きい上方開口部71は、中空部6内の電着塗料を排出路7に導き易い。従って、電着塗装において中空部6に浸入した電着塗料が、短時間でパネル部材3外に排出され易い。また、開口面積が大きい上方開口部71によって排出路7に次々と電着塗料が送り込まれることで、下方開口部72の開口面積が小さくても、下方開口部72から速やかに電着塗料が排出される。従って、下方開口部72の近傍において液溜まりや液垂れなどが発生し難い。特に本例では、ロアコーナー部55の位置に下方開口部72が配置されているため、仮に下方開口部72の下方に液垂れが生じても、その液垂れが目立ち難い。
【0023】
開口面積が小さな下方開口部72は、電着塗装後のシーラー工程においてシーラーによって封止し易い。下方開口部72を封止するシーラーの量が多くなり過ぎることがない。下方開口部72の封止を確実にするために、シーラーを二度塗りする必要もない。
【0024】
なお、パネル部材3はクォーターパネルに限定されるわけではない。パネル部材3は例えば、AピラーやBピラーの内側に設けられるパネル部材であっても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 車両構造
2 ボディー部
21 アウタパネル、21w 開口
3 パネル部材
30 重複部
4 アッパパネル
4D 下端
40 UP内側接合部、41 UP第一面部、42 UP第二面部、43 UP外側接合部
45 アッパコーナー部
5 ロアパネル
50 LP内側接合部、51 LP第一面部、52 LP第二面部、53 LP外側接合部
55 ロアコーナー部、55E 縁部、55D 下部、55U 上部、59 横溝
6 中空部
7 排出路
71 上方開口部、72 下方開口部
t1,t2 板間距離